(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024016930
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】亜硝酸イオン含有量の測定方法
(51)【国際特許分類】
G01N 33/38 20060101AFI20240201BHJP
G01N 31/00 20060101ALI20240201BHJP
G01N 31/22 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
G01N33/38
G01N31/00 J
G01N31/22 122
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119213
(22)【出願日】2022-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】596045155
【氏名又は名称】福徳技研株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】595115592
【氏名又は名称】学校法人鶴学園
(74)【代理人】
【識別番号】100132964
【弁理士】
【氏名又は名称】信末 孝之
(74)【代理人】
【識別番号】100074055
【弁理士】
【氏名又は名称】三原 靖雄
(72)【発明者】
【氏名】徳納 剛
(72)【発明者】
【氏名】大森 健太郎
(72)【発明者】
【氏名】須藤 裕司
(72)【発明者】
【氏名】竹田 宣典
【テーマコード(参考)】
2G042
【Fターム(参考)】
2G042AA01
2G042AA05
2G042BB08
2G042CA04
2G042CB06
2G042DA08
2G042EA03
2G042FA11
2G042FB02
(57)【要約】
【課題】コンクリート中の亜硝酸イオン含有量を簡便、安全、迅速に測定することの可能な亜硝酸イオン含有量の測定方法を提供する。
【解決手段】亜硝酸塩を含むコンクリート補修液を含浸させたコンクリート中の亜硝酸イオン含有量の測定方法であって、コンクリート中からコンクリート粉末を採取する工程と、採取したコンクリート粉末を純水抽出しグリース法呈色試薬により呈色させて吸光度を測定する工程と、予め作成した吸光度と亜硝酸イオン含有量との対比表に基づいて測定した吸光度から亜硝酸イオン含有量を算出する工程と、を有する。コンクリート粉末を採取する工程において、表面からの深さが異なる部位毎にコンクリート粉末を採取することが好ましい。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜硝酸塩を含むコンクリート補修液を含浸させたコンクリート中の亜硝酸イオン含有量の測定方法であって、
コンクリート中からコンクリート粉末を採取する工程と、
採取したコンクリート粉末を純水抽出しグリース法呈色試薬により呈色させて吸光度を測定する工程と、
予め作成した吸光度と亜硝酸イオン含有量との対比表に基づいて前記測定した吸光度から亜硝酸イオン含有量を算出する工程と、
を有することを特徴とする亜硝酸イオン含有量の測定方法。
【請求項2】
前記コンクリート粉末を採取する工程において、表面からの深さが異なる部位毎にコンクリート粉末を採取することを特徴とする請求項1に記載の亜硝酸イオン含有量の測定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート中の亜硝酸イオン含有量の測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
コンクリートによって形成された壁、橋脚、防波堤等のコンクリート構造物においては、コンクリート中に含まれる塩分や、空気中の炭酸ガスの影響によるコンクリートpHの低下(中性化、炭酸化)により、コンクリート中の鉄筋に腐食が発生し、その結果、コンクリート構造物にひび割れ等が生じる原因となっている。また、コンクリート中に含まれるナトリウムやカリウム等のアルカリ金属成分が骨材と反応してアルカリ骨材反応(ASR)が生じ、その結果、コンクリート構造物が内部で異常膨張してひび割れ等が生じる原因となっている。
【0003】
従来、このような鉄筋腐食やアルカリ骨材反応を抑制する方法としては、亜硝酸リチウム水溶液等をコンクリート構造物に浸透させる方法が提案されており、例えば特許文献1には、コンクリート構造物に設けられた注入孔から亜硝酸リチウム水溶液等の抑制剤を加圧注入して、コンクリート構造物のより内奥部にまで亜硝酸リチウム等を浸透させるようにした発明が記載されている。
【0004】
また特許文献2には、亜硝酸リチウム水溶液等に界面活性剤を加えることにより、コンクリート構造物への含浸速度を速めるようにした発明が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2011-38347号公報
【特許文献2】特開2021-161018号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記のように、亜硝酸リチウム水溶液等をコンクリート構造物に含浸させて鉄筋腐食やアルカリ骨材反応を抑制する場合には、できるだけ内奥部にまで亜硝酸リチウム等を浸透させることが望まれるが、その浸透深さを測定する方法としては、TDI法やイオンクロマトグラフ法がある。
【0007】
TDI法は、コンクリート構造物を亜硝酸リチウム水溶液等の塗布面に対して垂直方向に割裂して測定面とし、測定面に亜硝酸イオン呈色液であるTDI(2,4-トルエンジイソシアネート)を塗布し、変色した部分の塗布面からの深さを測定するものである。TDI法によれば、浸透深さの測定は可能であるが、コンクリート中の亜硝酸イオン含有量を測定することはできない。また、健康有害性に関する問題もある。
【0008】
これに対して、イオンクロマトグラフ法によれば、コンクリート構造物から深さ毎に試料を採取して分析することにより、深さ毎の亜硝酸イオンの含有量を測定することができるが、現場で採取した試料の分析を検査機関に依頼する必要があるため、費用面や時間面の問題がある。
【0009】
本発明は、上記従来の課題を解決するものであり、コンクリート中の亜硝酸イオン含有量を簡便、安全、迅速に測定することの可能な、簡易的な亜硝酸イオン含有量の測定方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するため、本発明の亜硝酸イオン含有量の測定方法は、亜硝酸塩を含むコンクリート補修液を含浸させたコンクリート中の亜硝酸イオン含有量の測定方法であって、コンクリート中からコンクリート粉末を採取する工程と、採取したコンクリート粉末を純水抽出しグリース法呈色試薬により呈色させて吸光度を測定する工程と、予め作成した吸光度と亜硝酸イオン含有量との対比表に基づいて前記測定した吸光度から亜硝酸イオン含有量を算出する工程と、を有することを特徴とする。
【0011】
また、前記コンクリート粉末を採取する工程において、表面からの深さが異なる部位毎にコンクリート粉末を採取することが好ましい。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、コンクリート中からコンクリート粉末を採取する工程と、採取したコンクリート粉末を純水抽出しグリース法呈色試薬により呈色させて吸光度を測定する工程と、予め作成した吸光度と亜硝酸イオン含有量との対比表に基づいて測定した吸光度から亜硝酸イオン含有量を算出する工程とにより、亜硝酸塩を含むコンクリート補修液を含浸させたコンクリート中の亜硝酸イオン含有量を簡易的に測定することができる。従って、複雑な分析機器が不要であり、採取した試料の分析を検査機関に依頼する必要がなく、その場で測定することができるため、イオンクロマトグラフ法と比較して費用面や時間面で有利である。また、TDI法のような安全性の問題もない。
【0013】
また、コンクリート粉末を採取する工程において、表面からの深さが異なる部位毎にコンクリート粉末を採取することにより、コンクリート補修液の浸透深さを測定することができる。
【0014】
このように、本発明によれば、コンクリート中の亜硝酸イオン含有量を簡便、安全、迅速に測定することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明者らは、亜硝酸塩を含むコンクリート補修液を含浸させたコンクリート中の亜硝酸イオン含有量を簡便、安全、迅速に測定するための方法を検討した結果、グリース法呈色試薬を用いた簡易的な測定方法に想到した。
【0016】
すなわち、本実施形態に係る亜硝酸イオン含有量の測定方法は、コンクリート中からコンクリート粉末を採取する工程と、採取したコンクリート粉末を純水抽出しグリース法呈色試薬により呈色させて吸光度を測定する工程と、予め作成した吸光度と亜硝酸イオン含有量との対比表に基づいて測定した吸光度から亜硝酸イオン含有量を算出する工程と、を有するものである。
【0017】
また、コンクリート粉末を採取する工程において、表面からの深さが異なる部位毎にコンクリート粉末を採取するものである。
【0018】
以下、吸光度と亜硝酸イオン含有量との対比表の作成について、実施例に基づいて説明する。
【実施例0019】
(供試体の作成)
本試験で使用した材料を表1に示す。セメントは、普通ポルトランドセメントを使用し、細骨材は加工砂(70%)と砕砂(30%)の混合とし、表2にならって配合した。
【0020】
【0021】
【0022】
表3に参考データとして、フレッシュコンクリートの各種分析結果を示す。
【0023】
【0024】
(コンクリートの練り混ぜ)
(1)細骨材、粗骨材、セメントを二軸強制式ミキサーに投入し15分間空練りをした。
(2)AE減水剤、細骨材、粗骨材を投入し60秒間本練りをした。
【0025】
(打設)
縦200×横200×長さ400mmの木製の型枠を用いて、コンクリートを打設した。コンクリート表面をコテでならし、フラットな表面を得た。
【0026】
(養生)
水で濡らしたタオルを被せる湿潤養生から始め、脱型後28日間水中養生を行い、供試体を室温で乾燥させた。
【0027】
(亜硝酸リチウム水溶液の塗布)
コンクリート打設後1年8ケ月において、コンクリートの表面含水率が6.0%以下であることを確認し、40重量%亜硝酸リチウム水溶液を、はけを用いて供試体に塗布した。塗布量を0.3kg/m2、0.6kg/m2と変え、コンクリート中の亜硝酸濃度の異なる供試体を多数準備した。
【0028】
(亜硝酸イオン含有量とグリース法による吸光度の相関評価)
(1)分析用のコンクリート粉末試料は、直径15mmのドリルを用いて、コンクリート供試体の表面からの深さが0~1cm、1~2cm、2~3cmの3層の深さから、それぞれ約3gのコンクリート粉末を採取した。3か所から採取した同一深さのドリル粉末を混合し、1試料(約9g)とした。
(2)亜硝酸イオン含有量はイオンクロマトグラフ法によって、分析した。対象となる供試体を粉末化し、純水抽出した。その後No.5Cのろ紙でろ過、続けて0.45μmのメンブレンフィルターでろ過を行い、測定検体とした。炭酸ナトリウムと炭酸水素ナトリウムの混和水溶液を溶離液とし、イオンクロマトグラフ分析を行った。事前に亜硝酸イオン標準液を用いて検量線を作成し、定量に用いた。
(3)採取した試料から5mgの分析用試料を取り、30mlの純水を加え、純水抽出ならびにろ過したサンプルを、グリース法呈色試薬(共立理化学研究所社製パックテスト)に添加し振とうすることで、呈色させた。波長525nmにおける吸光度を吸光度計(共立理化学研究所社製DPM2-NO)にて測定した。
【0029】
(結果)
表4に、吸光度と亜硝酸イオン含有量との対比を示す。表4に示す通り、吸光度と亜硝酸イオン含有量とは正の相関を示し、比色法による亜硝酸定量法の有効性が明らかとなった。
【0030】
【0031】
このように、吸光度と亜硝酸イオン含有量との対比表を予め作成しておくことにより、コンクリート中からコンクリート粉末を採取し、採取したコンクリート粉末を純水抽出しグリース法呈色試薬により呈色させて吸光度を測定して、対比表に基づいて測定した吸光度から亜硝酸イオン含有量を算出すれば、亜硝酸塩を含むコンクリート補修液を含浸させたコンクリート中の亜硝酸イオン含有量を簡易的に測定することができる。従って、複雑な分析機器が不要であり、採取した試料の分析を検査機関に依頼する必要がなく、その場で測定することができるため、イオンクロマトグラフ法と比較して費用面や時間面で有利である。また、TDI法のような安全性の問題もない。
【0032】
また、コンクリート粉末を採取する工程において、表面からの深さが異なる部位毎にコンクリート粉末を採取することにより、コンクリート補修液の浸透深さを測定することができる。
【0033】
【0034】
表5のように40%亜硝酸リチウム水溶液塗布量、水セメント比に応じて深さ方向の亜硝酸量が異なることがわかる。また、イオンクロマトグラフ法で検出限界以下であっても、本方法によれば検出することができる。
【0035】
このように、本実施形態に係る亜硝酸イオン含有量の測定方法によれば、コンクリート中の亜硝酸イオン含有量を簡便、安全、迅速、そして正確に測定することができる。
【0036】
以上、本発明の実施形態に係る亜硝酸イオン含有量の測定方法について説明したが、本発明は上述した実施の形態に限定されるわけではなく、その他種々の変更が可能である。