(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169303
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】耐アルカリ性の向上したアデノ随伴ウイルス結合性タンパク質
(51)【国際特許分類】
C12N 15/12 20060101AFI20241128BHJP
C07K 14/705 20060101ALI20241128BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20241128BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20241128BHJP
C12P 21/02 20060101ALI20241128BHJP
C07K 17/00 20060101ALI20241128BHJP
C12N 7/02 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
C12N15/12
C07K14/705 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/21
C12P21/02
C07K17/00
C12N7/02
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024026427
(22)【出願日】2024-02-26
(31)【優先権主張番号】P 2023084423
(32)【優先日】2023-05-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】竹村 俊晃
(72)【発明者】
【氏名】栗原 健人
(72)【発明者】
【氏名】眞鍋(牧野) 友理子
(72)【発明者】
【氏名】岩渕 圭篤
(72)【発明者】
【氏名】田中 亨
【テーマコード(参考)】
4B064
4B065
4H045
【Fターム(参考)】
4B064AG20
4B064CA02
4B064CA19
4B064CC24
4B064CE12
4B064DA13
4B065AA26X
4B065AA90Y
4B065AB01
4B065AC14
4B065BA02
4B065BC01
4B065BD14
4B065CA24
4B065CA46
4H045AA10
4H045AA20
4H045AA30
4H045BA10
4H045BA60
4H045CA40
4H045EA50
4H045FA74
4H045GA26
(57)【要約】
【課題】 耐アルカリ性が向上した、改良アデノ随伴ウイルス(AAV)結合性タンパク
質を提供すること。
【解決の手段】 KIAA0319L(UniProt No.Q8IZA0)の細胞外
領域ドメイン1(PKD1)およびドメイン2(PKD2)に相当する領域中の特定位置
にあるアミノ酸残基を他の特定のアミノ酸残基に置換することで、前記課題を解決する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(i)から(iii)のいずれかから選択されるAAV結合性タンパク質:
(i)配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち25番目のセリンから213番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該25番目から213番目
までのアミノ酸残基において以下の(1)から(2)のうち少なくともいずれか1つの
アミノ酸置換が生じ、かつAAV結合活性を有するAAV結合性タンパク質;
(1)配列番号2の102番目のヒスチジンがチロシンに置換
(2)配列番号2の193番目のバリンがスレオニンに置換
(ii)配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち25番目のセリンから213番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該25番目から213番目までのアミノ酸残基において前記(1)から(2)のうち少なくともいずれか1つのアミノ酸置換が生じており、さらに前記(1)から(2)に示すアミノ酸置換以外に1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上さらに生じ、かつAAV結合活性を有するAAV結合性タンパク質;
(iii)配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち25番目のセリンから213番目のアスパラギン酸までのアミノ酸配列において、前記(1)から(2)のうち少なくともいずれか1つのアミノ酸置換が生じたアミノ酸配列全体に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列であって、前記少なくともいずれか1つのアミノ酸置換が残存したアミノ酸配列を含み、かつAAV結合活性を有するAAV結合性タンパク質。
【請求項2】
さらに以下の(3)に示すアミノ酸置換が少なくとも生じた、請求項1に記載のAAV結合性タンパク質;
(3)配列番号2の180番目のグルタミンがアスパラギンに置換
【請求項3】
配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち25番目のセリンから213番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該25番目から213番目までのアミノ酸残基において、以下の(A)から(D)に示すいずれかのアミノ酸置換が少なくとも生じ、かつAAV結合活性を有する、請求項2に記載のAAV結合性タンパク質;
(A)配列番号2の42番目のアスパラギンがリジンに置換し、配列番号2の102番目のヒスチジンがチロシンに置換し、配列番号2の114番目のグルタミン酸がグリシンに置換し、配列番号2の139番目のスレオニンがアラニンに置換し、配列番号2の174番目のアラニンがプロリンに置換し、配列番号2の180番目のグルタミンがアスパラギンに置換し、かつ配列番号2の193番目のバリンがスレオニンに置換
(B)配列番号2の42番目のアスパラギンがリジンに置換し、配列番号2の79番目のイソロイシンがフェニルアラニンに置換し、配列番号2の107番目のバリンがアラニンに置換し、配列番号2の114番目のグルタミン酸がグリシンに置換し、配列番号2の139番目のスレオニンがアラニンに置換し、配列番号2の168番目のリジンがアルギニンに置換し、配列番号2の174番目のアラニンがプロリンに置換し、配列番号2の180番目のグルタミンがアスパラギンに置換し、配列番号2の193番目のバリンがスレオニンに置換し、かつ配列番号2の210番目のリジンがグルタミン酸に置換
(C)配列番号2の42番目のアスパラギンがリジンに置換し、配列番号2の79番目のイソロイシンがフェニルアラニンに置換し、配列番号2の102番目のヒスチジンがチロシンに置換し、配列番号2の107番目のバリンがアラニンに置換し、配列番号2の114番目のグルタミン酸がグリシンに置換し、配列番号2の139番目のスレオニンがアラニンに置換し、配列番号2の168番目のリジンがアルギニンに置換し、配列番号2の174番目のアラニンがプロリンに置換し、配列番号2の180番目のグルタミンがアスパラギンに置換し、かつ配列番号2の210番目のリジンがグルタミン酸に置換
(D)配列番号2の42番目のアスパラギンがリジンに置換し、配列番号2の79番目のイソロイシンがフェニルアラニンに置換し、配列番号2の102番目のヒスチジンがチロシンに置換し、配列番号2の107番目のバリンがアラニンに置換し、配列番号2の114番目のグルタミン酸がグリシンに置換し、配列番号2の139番目のスレオニンがアラニンに置換し、配列番号2の168番目のリジンがアルギニンに置換し、配列番号2の174番目のアラニンがプロリンに置換し、配列番号2の180番目のグルタミンがアスパラギンに置換し、配列番号2の193番目のバリンがスレオニンに置換し、かつ配列番号2の210番目のリジンがグルタミン酸に置換。
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載のAAV結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【請求項5】
請求項4に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【請求項6】
請求項5に記載の発現ベクターで大腸菌を形質転換して得られる形質転換体。
【請求項7】
請求項6に記載の形質転換体を培養することによりAAV結合性タンパク質を発現させる工程と、得られた培養物から発現されたAAV結合性タンパク質を回収する工程とを含む、AAV結合性タンパク質の製造方法。
【請求項8】
不溶性担体と、当該担体に固定化した請求項1から3のいずれかに記載のAAV結合性タンパク質とを含む、AAV吸着剤。
【請求項9】
請求項8に記載のAAV吸着剤を含むカラム。
【請求項10】
請求項9に記載のカラムにAAVを含む溶液を添加して当該AAVを前記吸着剤に吸着させる工程と、前記吸着剤に吸着したAAVを溶出液を用いて溶出させる工程とを含む、AAVの精製または分析方法。
【請求項11】
AAVを溶出させる工程後のAAV吸着剤をアルカリ溶液により洗浄する工程をさらに含む、請求項10に記載のAAVの精製または分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アデノ随伴ウイルス(Adeno-Associated Virus:AAV)に結合性を有するタンパク質に関する。より詳しくは、本発明は、耐アルカリ性の向上した、改良AAV結合性タンパク質に関する。
【背景技術】
【0002】
アデノ随伴ウイルス(AAV)はパルボウイルス科(Parvoviridae)、ディペンドウイルス属(Dependovirus)に分類される非エンベロープウイルスである。AAV外殻粒子は3種類のタンパク質(VP1、VP2およびVP3)で構成されており、約60のタンパク質分子がおよそVP1:VP2:VP3=1:1:10の比率で混在し集合することで、直径20nmから30nmの正二十面体の形状をしている。
【0003】
自然界でのAAVは自立性の増殖能を欠き、複製はアデノウイルスやヘルペスウイルスなどのヘルパーウイルスに依存する。前記ヘルパーウイルスが存在すると、AAVゲノムは宿主細胞内で複製され、AAVゲノムを含む完全なAAV粒子が形成され、宿主細胞からAAV粒子が放出される。一方、前記ヘルパーウイルスが存在しない場合、AAVゲノムはエピソームに維持された状態または宿主染色体に組込まれた状態(潜伏状態)となる。
【0004】
AAVはヒトを含む広範な種の細胞に感染可能で、血球、筋、神経細胞などの分化を終えた非分裂細胞にも感染すること、ヒトに対する病原性がないため副作用の心配が低いこと、ウイルス粒子が物理化学的に安定であること、などから、先天性遺伝子疾患の治療を目的とした遺伝子導入用のベクターとしての利用価値が注目されている。
【0005】
遺伝子組換えAAVベクター(以下、単に「AAVベクター」とも表記)の製造は、通常、AAV粒子形成に必須な要素をコードする核酸を細胞に導入することで、AAVを産生する能力を有する細胞(以下、AAV産生細胞とも表記)を作製し、当該細胞を培養してAAV粒子形成に必須な要素を発現させることで行なう。製造したAAVベクターはAAV産生細胞から回収精製し、治療用AAVベクター製剤を得る。
【0006】
AAV産生細胞からAAVベクターを回収精製する方法として、不溶性担体と当該担体に固定化したAAV結合性タンパク質とを含む吸着剤を用いた、AAVとの結合親和性に基づくアフィニティークロマトグラフィによる方法があり、夾雑物質が共存したAAVベクターを含む溶液から当該ベクターを回収精製できる。具体例として、特許文献1には、KIAA0319L(UniProt No.Q8IZA0)の細胞外領域ドメイン1(PKD1)およびドメイン2(PKD2)を含み、ただしこれらドメイン中の特定位置にあるアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換することで、熱、酸およびアルカリに対する安定性が向上したポリペプチドを、不溶性担体に固定化するAAV結合性タンパク質(以下、単に「リガンドタンパク質」とも表記)として用いることで、AAVベクターの高純度な精製を実現している。
【0007】
一方で、上記吸着剤を精製用途として用いる場合、AAV精製後は通常、残存したAAVや夾雑物質を高濃度(例えば0.1M以上0.5M以下)の水酸化ナトリウム水溶液を使用してアルカリ洗浄する。したがって、当該アルカリ洗浄に耐えうるリガンドタンパク質の創製が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述した通り、WO2021/106882号でリガンドタンパク質として用いたアデノ随伴ウイルス(AAV)結合性タンパク質は、天然型(アミノ酸置換がないAAV結合性タンパク質)よりも熱、酸およびアルカリに対する安定性が向上している。一方で、前記公報で開示のAAV結合性タンパク質よりもアルカリ洗浄に耐えうるリガンドタンパク質が求められた。
【0010】
つまり本発明の課題は、前記公報で開示のAAV結合性タンパク質よりも耐アルカリ性の向上したAAV結合性タンパク質を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、アデノ随伴ウイルス(AAV)結合性タンパク質を構成するアミノ酸残基のうち特定の残基を他のアミノ酸残基に置換することにより、耐アルカリ性が著しく向上することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本願発明は以下の[1]から[11]の態様を包含する。
【0013】
[1]以下の(i)から(iii)のいずれかから選択されるAAV結合性タンパク質:
(i)配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち25番目のセリンから213番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該25番目から213番目
までのアミノ酸残基において以下の(1)から(2)のうち少なくともいずれか1つの
アミノ酸置換が生じ、かつAAV結合活性を有するAAV結合性タンパク質;
(1)配列番号2の102番目のヒスチジンがチロシンに置換
(2)配列番号2の193番目のバリンがスレオニンに置換
(ii)配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち25番目のセリンから213番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該25番目から213番目までのアミノ酸残基において前記(1)から(2)のうち少なくともいずれか1つのアミノ酸置換が生じており、さらに前記(1)から(2)に示すアミノ酸置換以外に1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上さらに生じ、かつAAV結合活性を有するAAV結合性タンパク質;
(iii)配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち25番目のセリンから213番目のアスパラギン酸までのアミノ酸配列において、前記(1)から(2)のうち少なくともいずれか1つのアミノ酸置換が生じたアミノ酸配列全体に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列であって、前記少なくともいずれか1つのアミノ酸置換が残存したアミノ酸配列を含み、かつAAV結合活性を有するAAV結合性タンパク質。
【0014】
[2]さらに以下の(3)に示すアミノ酸置換が少なくとも生じた、[1]に記載のAAV結合性タンパク質;
(3)配列番号2の180番目のグルタミンがアスパラギンに置換
[3]配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち25番目のセリンから213番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該25番目から213番目までのアミノ酸残基において、以下の(A)から(D)に示すいずれかのアミノ酸置換が少なくとも生じ、かつAAV結合活性を有する、[1]または[2]に記載のAAV結合性タンパク質;
(A)配列番号2の42番目のアスパラギンがリジンに置換し、配列番号2の102番目のヒスチジンがチロシンに置換し、配列番号2の114番目のグルタミン酸がグリシンに置換し、配列番号2の139番目のスレオニンがアラニンに置換し、配列番号2の174番目のアラニンがプロリンに置換し、配列番号2の180番目のグルタミンがアスパラギンに置換し、かつ配列番号2の193番目のバリンがスレオニンに置換
(B)配列番号2の42番目のアスパラギンがリジンに置換し、配列番号2の79番目のイソロイシンがフェニルアラニンに置換し、配列番号2の107番目のバリンがアラニンに置換し、配列番号2の114番目のグルタミン酸がグリシンに置換し、配列番号2の139番目のスレオニンがアラニンに置換し、配列番号2の168番目のリジンがアルギニンに置換し、配列番号2の174番目のアラニンがプロリンに置換し、配列番号2の180番目のグルタミンがアスパラギンに置換し、配列番号2の193番目のバリンがスレオニンに置換し、かつ配列番号2の210番目のリジンがグルタミン酸に置換
(C)配列番号2の42番目のアスパラギンがリジンに置換し、配列番号2の79番目のイソロイシンがフェニルアラニンに置換し、配列番号2の102番目のヒスチジンがチロシンに置換し、配列番号2の107番目のバリンがアラニンに置換し、配列番号2の114番目のグルタミン酸がグリシンに置換し、配列番号2の139番目のスレオニンがアラニンに置換し、配列番号2の168番目のリジンがアルギニンに置換し、配列番号2の174番目のアラニンがプロリンに置換し、配列番号2の180番目のグルタミンがアスパラギンに置換し、かつ配列番号2の210番目のリジンがグルタミン酸に置換
(D)配列番号2の42番目のアスパラギンがリジンに置換し、配列番号2の79番目のイソロイシンがフェニルアラニンに置換し、配列番号2の102番目のヒスチジンがチロシンに置換し、配列番号2の107番目のバリンがアラニンに置換し、配列番号2の114番目のグルタミン酸がグリシンに置換し、配列番号2の139番目のスレオニンがアラニンに置換し、配列番号2の168番目のリジンがアルギニンに置換し、配列番号2の174番目のアラニンがプロリンに置換し、配列番号2の180番目のグルタミンがアスパラギンに置換し、配列番号2の193番目のバリンがスレオニンに置換し、かつ配列番号2の210番目のリジンがグルタミン酸に置換。
【0015】
[4][1]から[3]のいずれかに記載のAAV結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド。
【0016】
[5][4]に記載のポリヌクレオチドを含む発現ベクター。
【0017】
[6][5]に記載の発現ベクターで大腸菌を形質転換して得られる形質転換体。
【0018】
[7][6]に記載の形質転換体を培養することによりAAV結合性タンパク質を発現させる工程と、得られた培養物から発現されたAAV結合性タンパク質を回収する工程とを含む、AAV結合性タンパク質の製造方法。
【0019】
[8]不溶性担体と、当該担体に固定化した[1]から[3]のいずれかに記載のAAV結合性タンパク質とを含む、AAV吸着剤。
【0020】
[9][8]に記載のAAV吸着剤を含むカラム。
【0021】
[10][9]に記載のカラムにAAVを含む溶液を添加して当該AAVを前記吸着剤に吸着させる工程と、前記吸着剤に吸着したAAVを溶出液を用いて溶出させる工程とを含む、AAVの精製または分析方法。
【0022】
[11]AAVを溶出させる工程後のAAV吸着剤をアルカリ溶液により洗浄する工程をさらに含む、[10]に記載のAAVの精製または分析方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明のアデノ随伴ウイルス(AAV)結合性タンパク質は、KIAA0319L(UniProt No.Q8IZA0)の細胞外領域ドメイン1(PKD1)およびドメイン2(PKD2)に相当する領域中の特定位置におけるアミノ酸残基を他のアミノ酸残基に置換したタンパク質である。本発明のAAV結合性タンパク質は、従来のAAV結合性タンパク質よりも耐アルカリ性が著しく向上している。したがって、AAV結合性タンパク質をリガンドとしたAAVの吸着剤は、アルカリ洗浄が可能であり、AAVの精製に繰返し利用可能であるため、AAVの工業的製造に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】AVR27a固定化ゲルおよびPOROS AAVX(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を24時間アルカリ溶液に浸漬した後、AAV8を補捉し、酸性下で溶出した結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下に、本発明について詳細に説明する。
【0026】
本明細書においてAAV結合性タンパク質とは、天然型AAV結合性タンパク質である配列番号1に記載のKIAA0319L(UniProt No.Q8IZA0)のアミノ酸配列のうち、細胞外領域ドメイン1(PKD1)およびドメイン2(PKD2)に相当する領域である312番目のセリン(S)から500番目のアスパラギン酸(D)までのアミノ酸残基を少なくとも含むタンパク質であり、ただし当該312番目から500番目までのアミノ酸残基において特定位置にあるアミノ酸置換が生じたタンパク質である。
【0027】
詳細には、以下の(i)から(iii)のいずれかから選択されるAAV結合性タンパク質であってよい。
(i)配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち25番目のセリンから213番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該25番目から213番目
までのアミノ酸残基において以下の(1)から(2)のうち少なくともいずれか1つの
アミノ酸置換が生じ、かつAAV結合活性を有するAAV結合性タンパク質;
(1)配列番号2の102番目のヒスチジンがチロシンに置換
(2)配列番号2の193番目のバリンがスレオニンに置換
(ii)配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち25番目のセリンから213番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該25番目から213番目までのアミノ酸残基において前記(1)から(2)のうち少なくともいずれか1つのアミノ酸置換が生じており、さらに前記(1)から(2)に示すアミノ酸置換以外に1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上さらに生じ、かつAAV結合活性を有するAAV結合性タンパク質;
(iii)配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち25番目のセリンから213番目のアスパラギン酸までのアミノ酸配列において、前記(1)から(2)のうち少なくともいずれか1つのアミノ酸置換が生じたアミノ酸配列全体に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列であって、前記少なくともいずれか1つのアミノ酸置換が残存したアミノ酸配列を含み、かつAAV結合活性を有するAAV結合性タンパク質。
【0028】
前記(ii)において、「1もしくは数個」とは、AAV結合性タンパク質の立体構造におけるアミノ酸置換の位置やアミノ酸残基の種類によっても異なるが、一例として、1から50個、1から40個、1から30個、1から25個、1から20個、1から15個、1から10個、1から9個、1から8個、1から7個、1から6個、1から5個、1から4個、1から3個、1から2個、1個のいずれかを意味する。
【0029】
前記(ii)に記載の置換、欠失、挿入、または付加の例として、WO2021/106882号およびWO2023/140197号で開示しているアミノ酸残基の置換があげられる。
【0030】
なお前記(ii)における「1もしくは数個のアミノ酸残基の置換」には、前述した特定位置におけるアミノ酸置換の他に、物理的性質および/または化学的性質が類似したアミノ酸間で置換が生じる保守的置換が生じてもよい。保守的置換の場合、一般に、置換が生じているものと置換が生じていないものとの間でタンパク質の機能が維持されることが当業者において知られている。保守的置換の一例としては、グリシンとアラニン間、セリンとスレオニン間、またはグルタミン酸とアスパラギン酸間での置換があげられる(タンパク質の構造と機能,メディカル・サイエンス・インターナショナル社,9,2005)。また前記アミノ酸置換の別の例としては、本発明のAAV結合性タンパク質を単量体化させるための置換があげられる。具体的には、高次構造を構成しやすいシステイン残基をセリン残基またはメチオニン残基とするアミノ酸置換があげられる。
【0031】
また前記(ii)における「1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入、または付加」には、AAV結合性タンパク質の由来の違いや、種の違いなどに基づく、天然にも存在する変異(mutantまたはvariant)も含まれる。
【0032】
前記(iii)におけるアミノ酸配列の同一性(identity)は70%以上あればよく、それ以上の同一性(例えば、80%以上、85%以上、90%以上または95%以上)を有してもよい。「アミノ酸配列の同一性」とは、アミノ酸配列全体に対する同一性を意味する。アミノ酸配列間の「同一性」とは、それらアミノ酸配列におけるアミノ酸の種類が同一であるアミノ酸残基の比率を意味する(実験医学,31(3),羊土社)。アミノ酸配列の同一性は、BLAST(Basic Local Alignment Search Tool)やFASTA等のアラインメントプログラム(alignment program)を利用して決定できる。
【0033】
本発明のAAV結合性タンパク質は、前記タンパク質のC末端側にある他の細胞外領域ドメイン(ドメイン3(PKD3)、ドメイン4(PKD4)およびドメイン5(PKD5))の全てまたは一部を含んでもよいし、PKD1のN末端側にあるMANSC(Motif At N terminus with Seven Cysteines)ドメインなどのシグナル配列やシステインリッチな領域の全てまたは一部を含んでもよいし、細胞外領域のN端側および/またはC末端側にある膜貫通領域ならびに細胞内領域の全てまたは一部を含んでもよい。
【0034】
前記特定位置におけるアミノ酸置換は、具体的には、配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち、312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を少なくとも含み、ただし当該312番目から500番目までのアミノ酸残基において、
V317D(この表記は、配列番号1の317番目のバリンがアスパラギン酸に置換されていることを表す、以下同様)、N324H、V326A、A330V、Q334L、E335V、T341A、Y342S、K362E、K371N、F379Y、K380R、V381A、I382V、G390S、K399E、S476R、S482T、N487D、およびN492Dのアミノ酸置換を少なくとも含み、かつH389YおよびV480Tのいずれかのアミノ酸置換が少なくとも1つ生じていると、アルカリに対する安定性が向上するため好ましい。さらにH389Yおよび/またはV480Tのアミノ酸置換に、K(Q)467N(この表記は、配列番号1の467番目のリジンが配列番号2で一旦グルタミンに置換された後、さらにアスパラギンに置換されていることを表す、以下同様)のアミノ酸置換が生じていると、熱およびアルカリに対する安定性がさらに向上するためより好ましい。
【0035】
なお配列番号1に記載のアミノ酸配列のうち312番目のセリンから500番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基からなり、ただし当該312番目から500番目までのアミノ酸残基において、V317D、N324H、V326A、A330V、Q334L、E335V、T341A、Y342S、K362E、K371N、F379Y、K380R、V381A、I382V、G390S、K399E、K467Q、S476R、S482T、N487D、およびN492Dのアミノ酸置換が生じたAAV結合性タンパク質は、配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち25番目のセリンから213番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基からなるAAV結合性タンパク質と同義である。また配列番号2におけるアミノ酸残基の位置は、配列番号1におけるアミノ酸残基の位置から287差し引いた位置に相当する。具体的にはH389Yのアミノ酸置換は配列番号2では102番目に位置するアミノ酸残基の置換に相当し、V480Tのアミノ酸置換は配列番号2では193番目に位置するアミノ酸残基の置換に相当する。
【0036】
本発明のAAV結合性タンパク質において、置換するアミノ酸の数に特に制限はない。一例として、以下の(A)から(D)に示すAAV結合性タンパク質があげられる。これらのAAV結合性タンパク質はアルカリに対する安定性が向上する点でより好ましい。
【0037】
(A)配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち25番目のセリンから213番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を含み、かつ当該25番目から213番目までのアミノ酸残基において、N329K(この表記は、配列番号1の329番目(配列番号2では42番目)のアスパラギンがリジンに置換されていることを示す、以下同様)、H389Y、E401G、T426A、A461P、K(Q)467NおよびV480Tのアミノ酸置換が少なくとも生じたAAV結合性タンパク質。
【0038】
(B)配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち25番目のセリンから213番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を含み、かつ当該25番目から213番目までのアミノ酸残基において、N329K、I366F、V394A、E401G、T426A、K455R、A461P、K(Q)467N、V480TおよびK497Eのアミノ酸置換が少なくとも生じたAAV結合性タンパク質。
【0039】
(C)配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち25番目のセリンから213番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を含み、かつ当該25番目から213番目までのアミノ酸残基において、N329K、I366F、H389Y、V394A、E401G、T426A、K455R、A461P、K(Q)467NおよびK497Eのアミノ酸置換が少なくとも生じたAAV結合性タンパク質。
【0040】
(D)配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち25番目のセリンから213番目のアスパラギン酸までのアミノ酸残基を含み、かつ当該25番目から213番目までのアミノ酸残基において、N329K、I366F、H389Y、V394A、E401G、T426A、K455R、A461P、K(Q)467N、V480TおよびK497Eのアミノ酸置換が少なくとも生じたAAV結合性タンパク質。
【0041】
また、本発明のタンパク質は、以下の(iv)から(vi)のいずれかから選択されるAAV結合性タンパク質であってもよい。
(iv)配列番号29、32、33、38、43、44または45に記載のアミノ酸配列を少なくとも含む、AAV結合性タンパク質。
(v)配列番号29、32、33、38、43、44または45に記載のアミノ酸配列であって、1もしくは数個の位置での1もしくは数個のアミノ酸残基の置換、欠失、挿入および付加のうち、いずれか1つ以上を含むアミノ酸配列であり、ただし、特定の変異が維持された、アミノ酸配列を有し、かつAAV結合活性を有するAAV結合性タンパク質;
(vi)配列番号29、32、33、38、43、44または45に記載のアミノ酸配列に対して70%以上の同一性を有するアミノ酸配列であって、ただし、特定の変異が維持された、アミノ酸配列を有し、かつAAV結合活性を有するAAV結合性タンパク質。
【0042】
本発明のAAV結合性タンパク質は、そのN末端側またはC末端側に、夾雑物質存在下の溶液から分離する際に有用なオリゴペプチドをさらに付加してもよい。前記オリゴペプチドとしては、ポリヒスチジン、ポリリジン、ポリアルギニン、ポリグルタミン酸、ポリアスパラギン酸等があげられる。また本発明のAAV結合性タンパク質をクロマトグラフィ用の支持体等の固相に固定化する際に有用な、システインを含むオリゴペプチドを、本発明のAAV結合性タンパク質のN末端側またはC末端側にさらに付加してもよい。
【0043】
AAV結合性タンパク質のN末端側またはC末端側に付加するオリゴペプチドの長さは、本発明のAAV結合性タンパク質のAAV結合性や安定性を損なわない限り特に制限はない。前記オリゴペプチドを本発明のAAV結合性タンパク質に付加させる際は、前記オリゴペプチドをコードするポリヌクレオチドを作製後、当業者に周知の方法を用いて遺伝子工学的にAAV結合性タンパク質のN末端側またはC末端側に付加させてもよいし、化学的に合成した前記オリゴペプチドを本発明のAAV結合性タンパク質のN末端側またはC末端側に化学的に結合させて付加させてもよい。
【0044】
さらに本発明のAAV結合性タンパク質のN末端側には、宿主として用いる大腸菌(Escherichia coli)での効率的な発現を促すためのシグナルペプチドを付加してもよい。前記シグナルペプチドとしては、PelB、OmpA,DsbA、DsbC、MalE、TorTなどといったペリプラズムにタンパク質を分泌させるシグナルペプチドを例示できる(特開2011-097898号公報)。なおN末端側へのシグナルペプチドの付加は行なわなくても良い。このことにより、タンパク質調製の際、タンパク質の均質性が向上する点で好ましい。
【0045】
本発明のAAV結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド(以下、「本発明のポリヌクレオチド」とも表記)の作製方法の一例として、
(I)本発明のAAV結合性タンパク質のアミノ酸配列からヌクレオチド配列に変換し、当該ヌクレオチド配列を含むポリヌクレオチドを人工的に合成する方法や、
(II)AAV結合性タンパク質の全体または部分配列を含むポリヌクレオチドを直接人工的に、またはAAV結合性タンパク質のcDNA等からPCR法といったDNA増幅法を用いて調製し、調製した当該ポリヌクレオチドを適当な方法で連結する方法、が例示できる。
【0046】
前記(I)の方法において、アミノ酸配列からヌクレオチド配列に変換する際、形質転換させる宿主である大腸菌におけるコドンの使用頻度を考慮して変換するのが好ましい。具体的には、アルギニン(R)ではAGA/AGG/CGG/CGAが、イソロイシン(I)ではATAが、ロイシン(L)ではCTAが、グリシン(G)ではGGAが、プロリン(P)ではCCCが、それぞれ使用頻度が少ないため(いわゆるレアコドンであるため)、それらのコドンを避けるように変換すればよい。コドンの使用頻度の解析は公的データベース(例えば、かずさDNA研究所のウェブサイトにあるCodon Usage Databaseなど)を利用することによっても可能である。
【0047】
本発明のポリヌクレオチドへ変異を導入する場合、エラープローンPCR法が利用できる。エラープローンPCR法における反応条件は、AAV結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドに所望の変異を導入できる条件であれば特に限定はなく、例えば、基質である4種類のデオキシヌクレオチド(dATP/dTTP/dCTP/dGTP)の濃度を不均一にし、MnCl2を0.01mM以上10mM以下(好ましくは0.1mM以上1mM以下)の濃度でPCR反応液に添加してPCRを行なうことで、ポリヌクレオチドに変異を導入できる。またエラープローンPCR法以外の変異導入方法としては、AAV結合性タンパク質の全体または部分配列を含むポリヌクレオチドに、変異原となる薬剤を接触・作用させたり、紫外線を照射したりして、ポリヌクレオチドに変異を導入して作製する方法があげられる。当該方法において変異原として使用する薬剤としては、ヒドロキシルアミン、N-メチル-N’-ニトロ-N-ニトロソグアニジン、亜硝酸、亜硫酸、ヒドラジン等、当業者が通常用いる変異原性薬剤を用いればよい。
【0048】
本発明のポリヌクレオチドを用いて宿主である大腸菌を形質転換する場合、本発明のポリヌクレオチドそのものを用いてもよいが、発現ベクター(例えば、原核細胞や真核細胞の形質転換に通常用いるバクテリオファージ、コスミドやプラスミド等)の適切な位置に本発明のポリヌクレオチドを挿入したものを用いると、より好ましい。なお当該発現ベクターは、形質転換する宿主(大腸菌)内で安定に存在し複製できるものであれば特に制限はなく、pETプラスミドベクター、pUCプラスミドベクター、pTrcプラスミドベクター、pCDFプラスミドベクターを例示できる。
【0049】
また前記適切な位置とは、発現ベクターの複製機能、所望の抗生物質マーカー、伝達性に関わる領域を破壊しない位置を意味する。前記発現ベクターに本発明のポリヌクレオチドを挿入する際は、発現に必要なプロモータといった機能性ポリヌクレオチドに連結される状態で挿入すると好ましい。当該プロモータの例として、trpプロモータ、tacプロモータ、trcプロモータ、lacプロモータ、T7プロモータ、recAプロモータ、lppプロモータがあげられる。
【0050】
前記方法により作製した、本発明のポリヌクレオチドを挿入した発現ベクター(以下、単に「本発明の発現ベクター」とも表記)を用いて宿主である大腸菌を形質転換するには、当業者が通常用いる方法で行なえばよい。具体的には、Molecular Cloning(Cold Spring Harbor Laboratory),256,1992等の公知の文献に記載の方法により形質転換すればよい。前述した方法で形質転換して得られた形質転換体は、適切な方法でスクリーニングすることにより、本発明のAAV結合性タンパク質を発現可能な形質転換体(以下、単に「本発明の形質転換体」とも表記)を取得できる。
【0051】
本発明の形質転換体から、本発明の発現ベクターを調製するには、本発明の形質転換体を培養して得られる培養物からアルカリ抽出法またはQIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン社製)等の市販の抽出キットを用いて調製すればよい。
【0052】
本発明の形質転換体を培養し、得られた培養物から本発明のAAV結合性タンパク質を回収することで、本発明のAAV結合性タンパク質を製造できる。なお本明細書において培養物とは、培養された本発明の形質転換体の細胞そのもののほか、培養に用いた培地も含まれる。
【0053】
本発明のタンパク質製造方法で用いる形質転換体は、対象宿主(大腸菌)の培養に適した培地で培養すればよく、好ましい培地の一例として、必要な栄養源を補ったLB(Luria-Bertani)培地があげられる。なお、本発明のベクターの導入の有無により本発明の形質転換体を選択的に増殖させるために、培地に当該ベクターに含まれる薬剤耐性遺伝子に対応した薬剤を添加して培養すると好ましい。例えば、当該ベクターがカナマイシン耐性遺伝子を含んでいる場合は、培地にカナマイシンを添加すればよい。
【0054】
また培地には、炭素、窒素および無機塩供給源の他に、適当な栄養源を添加してもよく、所望により、グルタチオン、システイン、シスタミン、チオグリコレートおよびジチオスレイトールからなる群から選択される一種類以上の還元剤を含んでもよい。培養温度は一般に10℃以上40℃以下、好ましくは20℃以上37℃以下、より好ましくは25℃前後であるが、発現させるタンパク質の特性により選択すればよい。培地のpHは、pH6.8以上pH7.4以下、好ましくはpH7.0前後である。また本発明のベクターに誘導性のプロモータが含まれている場合は、本発明のAAV結合性タンパク質が良好に発現できるような条件下で誘導をかけると好ましい。
【0055】
誘導剤としてはIPTG(Isopropyl-β-D-thiogalactopyranoside)を例示できる。培養液の濁度(600nmにおける吸光度)を測定し、概ね0.5以上1.0以下となったときに適当量のIPTGを添加後、引き続き培養することで、AAV結合性タンパク質の発現を誘導できる。IPTGの添加濃度は0.005mM以上1.0mM以下の範囲から適宜選択すればよいが、0.01mM以上0.5mM以下の範囲が好ましい。IPTG誘導に関する種々の条件は当該技術分野において周知の条件で行なえばよい。
【0056】
本発明の形質転換体を培養して得られた培養物から本発明のAAV結合性タンパク質を回収するには、本発明の形質転換体における本発明のAAV結合性タンパク質の発現形態に適した方法で、当該培養物から分離/精製して本発明のAAV結合性タンパク質を回収すればよい。例えば、培養上清に発現する場合は菌体を遠心分離操作によって分離し、得られる培養上清から本発明のAAV結合性タンパク質を精製すればよい。また、細胞内(ペリプラズムを含む)に発現する場合には、遠心分離操作により菌体を集めた後、酵素処理剤や界面活性剤等を添加することにより菌体を破砕して本発明のAAV結合性タンパク質を抽出した後、精製すればよい。
【0057】
本発明のAAV結合性タンパク質を精製するには、当該技術分野において公知の方法を用いればよく、一例として液体クロマトグラフィを用いた分離/精製があげられる。液体クロマトグラフィには、イオン交換クロマトグラフィ、疎水性相互作用クロマトグラフィ、ゲルろ過クロマトグラフィ、アフィニティークロマトグラフィ等があり、これらのクロマトグラフィを組み合わせて精製操作を行なうことで、本発明のAAV結合性タンパク質を高純度に調製できる。
【0058】
得られた本発明のAAV結合性タンパク質のAAVに対する結合活性を測定する方法としては、例えばAAVに対する結合活性をEnzyme-Linked ImmunoSorbent Assay法(以下、ELISA法と表記)や表面プラズモン共鳴法などを用いて測定すればよい。結合活性の測定に使用するAAVとしてはAAVベクターでもVLP(ウイルス様粒子)でもよい。また、本発明のAAV結合性タンパク質に対し結合活性を示せば、どのセロタイプ(血清型)のAAVベクターおよびVLPを使用してもよい。
【0059】
本発明のAAV結合性タンパク質は、例えば、AAVの精製または分析に使用できる。当該目的で使用した場合、結合するAAVの限定は特になく、自然界に存在するAAVであってもよいし、人工的に作製されたAAVでもよい。自然界に存在するAAVの例として、血清型1(AAV1)、血清型2(AAV2)、血清型3(AAV3)、血清型4(AAV4)、血清型5(AAV5)、血清型6(AAV6)、血清型7(AAV7)、血清型8(AAV8)、血清型9(AAV9)、血清型10(AAV10)、血清型11(AAV11)、血清型12(AAV12)、血清型13(AAV13)があげられる。また人工的に作製されたAAVとしては、AAVrh8、AAVrh10や、これら血清型のうち二以上の特徴(細胞指向性や感染能)を有したキメラAAVがあげられる。
【0060】
本発明のAAV結合性タンパク質は、例えば、不溶性担体に固定化して使用できる。すなわち、AAVの精製または分析は、具体的には、例えば、不溶性担体と、当該不溶性担体に固定化された本発明のAAV結合性タンパク質とを含む、AAV吸着剤を用いて実施できる。本明細書では、不溶性担体と、当該不溶性担体に固定化された本発明のAAV結合性タンパク質とを含むAAV吸着剤を、本発明のAAV吸着剤ともいう。なおAAVの精製とは、夾雑物質共存化の溶液からAAVの精製に限らず、構造、性質または活性等に基づくAAVの精製も含まれる。不溶性担体の素材、形状等に限定はなく、一例としてWO2021/106882号で開示の不溶性担体があげられる。また不溶性担体は多孔性であってもよく、非多孔性であってもよい。
【0061】
本発明のAAV結合性タンパク質は、例えば、共有結合を介して不溶性担体に固定化できる。本発明のAAV結合性タンパク質は、具体的には、例えば、不溶性担体が有する活性基を介して本発明のAAV結合性タンパク質と不溶性担体とを共有結合させることで、不溶性担体に固定化できる。本発明のAAV結合性タンパク質の不溶性担体への固定化は、例えば、WO2021/106882号での開示内容に基づき実施すればよい。
【0062】
本発明のAAV吸着剤は、例えば、カラムに充填してAAVの精製や分析に使用できる。具体的には、例えば、本発明のAAV吸着剤を充填したカラム(以下、単に「本発明のカラム」とも表記)にAAVを含む溶液を添加して当該AAVを前記吸着剤に吸着させ、前記吸着剤に吸着したAAVを溶出させることで、AAVの精製や分析ができる。すなわち、本発明は、例えば、本発明のカラムにAAVを含む溶液を添加して当該AAVを前記吸着剤に吸着させる工程と、前記吸着剤に吸着したAAVを溶出させる工程とを含む、AAVの精製または分析方法を提供する。本発明のカラムを用いたAAVの精製は、例えば、WO2021/106882号での開示内容に基づき実施すればよい。
【0063】
本発明のAAV吸着剤を用いてAAVの精製を実施することで、例えば、精製されたAAVが得られる。すなわち、AAVの精製方法は、一態様において、AAVの製造方法であってよく、具体的には、精製されたAAVの製造方法であってよい。AAVは、例えば、AAVを含む溶出画分として得られる。すなわち、溶出されたAAVを含む画分を分取できる。AAV画分の分取は、例えば、常法で行なえる。AAV画分を分取する方法としては、一定の時間ごとや、一定の容量ごとに回収容器を交換する方法や、溶出液のクロマトグラムの形状に合わせて回収容器を換える方法や、オートサンプラー等の自動フラクションコレクター等画分の分取をする方法が挙げられる。さらに、AAVを含む画分からAAVを回収することもできる。AAVを含む画分からのAAVの回収は、例えば、タンパク質の精製に用いられる公知の方法で行なえる。
【0064】
本発明のAAV吸着剤を用いてアルカリ洗浄を実施することで、例えば残存していたAAVや夾雑物の混入を防ぐことができる。すなわち、AAVの洗浄方法は、一態様において、AAVの洗浄方法であってよく、具体的には、精製後のアルカリ洗浄方法であってよい。また本発明のAAV結合性タンパク質は耐酸性も有しているため、pHの低い溶液で洗浄したのち、アルカリ洗浄する方法であってもよい。使用される洗浄用のアルカリ溶液の例としては、0.1M以上0.5M以下の水酸化ナトリウム水溶液があげられる。
【実施例0065】
以下、実施例および参考例を用いて本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれら例に限定されるものでない。なお参考例は本発明を構成しない。
【0066】
実施例1 VLP2の調製
(1)AAV血清型2(AAV2)のカプシドをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドpRC2-mi342 Vector(タカラバイオ社製)およびpHelper Vector(タカラバイオ社製)を用いて大腸菌JM109株を形質転換した。得られた形質転換体を、100μg/mLのカルベニシリンを含む2×YT培地(1.6%(w/v)のTryptone、1%(w/v)のYeast Extract、0.5%(w/v)の塩化ナトリウム)1Lが入った、5Lバッフルフラスコにて、37℃で一晩振とう培養した。
【0067】
(2)(1)の培養液を遠心することで菌体を回収後、当該回収菌体からPlasmid Mega Kit(キアゲン社製)を用いて、pRC2-mi342 VectorおよびpHelper Vectorを大量に調製した。
【0068】
(3)10%(v/v)のウシ血清を含んだD-MEM培地(富士フイルム和光純薬社製)40mLが入ったT-225フラスコ(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)5枚でHEK293T細胞を培養した。
【0069】
(4)TransIT-ViruGEN Transfection Reagent(タカラバイオ社製)を用いて、(2)で調製したpRC2-mi342 VectorおよびpHelper Vectorを、(3)で培養したHEK293T細胞に遺伝子導入し、5%の二酸化炭素、37℃の条件で3日間静置培養した。
【0070】
(5)(4)で培養した細胞を回収し、AAVpro Purification Kit(タカラバイオ社製)で抽出、精製することでVLP2(ウイルス様粒子、AAVセロタイプ2型の外殻タンパク粒子)を得た。5枚のT-225フラスコから約1mLのVLP2精製溶液を調製した。
【0071】
参考例1 AAV結合性タンパク質AVR21への変異ライブラリー作製とスクリーニング
AAV結合性タンパク質AVR21を含むポリペプチド(配列番号2)を発現可能なベクターpET-AVR21を鋳型とし、当該タンパク質をコードするポリヌクレオチド部分に、エラープローンPCRを用いてランダムに変異導入を施した。なお配列番号2に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドのうち、1番目のメチオニン(M)から22番目のアラニン(A)までがPelBシグナルペプチド(UniProt No.P0C1C1のN末端側22アミノ酸残基)であり、25番目のセリン(S)から213番目のアスパラギン酸(D)までがAAV結合性タンパク質AVR21であり、214番目から219番目のヒスチジン(H)がタグ配列である。またAVR21は、天然型AAV結合性タンパク質であるKIAA0319L(UniProt No.Q8IZA0)のうち、細胞外領域ドメイン1(PKD1)およびドメイン2(PKD2)に相当する、配列番号1の312番目から500番までのアミノ酸残基において、以下の21箇所のアミノ酸置換が生じたポリペプチドである(WO2023/140197号)。
配列番号1の317番目(配列番号2では30番目)のバリン(V)がアスパラギン酸(D)に置換
配列番号1の324番目(配列番号2では37番目)のアスパラギン(N)がヒスチジン(H)に置換
配列番号1の326番目(配列番号2では39番目)のバリン(V)がアラニン(A)に置換
配列番号1の330番目(配列番号2では43番目)のアラニン(A)がバリン(V)に置換
配列番号1の334番目(配列番号2では47番目)のグルタミン(Q)がロイシン(L)に置換
配列番号1の335番目(配列番号2では48番目)のグルタミン酸(E)がバリン(V)に置換
配列番号1の341番目(配列番号2では54番目)のスレオニン(T)がアラニン(A)に置換
配列番号1の342番目(配列番号2では55番目)のチロシン(Y)がセリン(S)に置換
配列番号1の362番目(配列番号2では75番目)のリジン(K)がグルタミン酸(E)に置換
配列番号1の371番目(配列番号2では84番目)のリジン(K)がアスパラギン(N)に置換
配列番号1の379番目(配列番号2では92番目)のフェニルアラニン(F)がチロシン(Y)に置換
配列番号1の380番目(配列番号2では93番目)のリジン(K)がアルギニン(R)に置換
配列番号1の381番目(配列番号2では94番目)のバリン(V)がアラニン(A)に置換
配列番号1の382番目(配列番号2では95番目)のイソロイシン(I)がバリン(V)に置換
配列番号1の390番目(配列番号2では103番目)のグリシン(G)がセリン(S)に置換
配列番号1の399番目(配列番号2では112番目)のリジン(K)がグルタミン酸(E)に置換
配列番号1の467番目(配列番号2では180番目)のリジン(K)がグルタミン(Q)に置換
配列番号1の476番目(配列番号2では189番目)のセリン(S)がアルギニン(R)に置換
配列番号1の482番目(配列番号2では195番目)のセリン(S)がスレオニン(T)に置換
配列番号1の487番目(配列番号2では200番目)のアスパラギン(N)がアスパラギン酸(D)に置換
配列番号1の492番目(配列番号2では205番目)のアスパラギン(N)がアスパラギン酸(D)に置換。
【0072】
(1)鋳型としてAVR21を含むポリペプチド(配列番号2)を発現可能なベクターpET-AVR21を用いてエラープローンPCRを行なった。エラープローンPCRは、表1に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で2分間熱処理し、98℃で30秒間の第1ステップ、55℃で20秒間の第2ステップ、72℃で90秒間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することで行なった。前記エラープローンPCRによりAAV結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドに良好に変異が導入され、その平均変異導入率は1分子当たり1.4アミノ酸変異であった。
【0073】
【0074】
(2)(1)で得られたPCR産物を精製後、制限酵素NcoIとXhoIで消化し、あらかじめ同じ制限酵素で消化した発現ベクターpET26b(Merck millipore社製)にライゲーションした。
【0075】
(3)ライゲーション反応終了後、反応液により大腸菌BL21(DE3)を形質転換し、50μg/mLのカナマイシンを含むLB(Luria-Bertani)プレート培地で培養(37℃で18時間)後、プレート上に形成したコロニーをランダム変異体ライブラリーとした。
【0076】
(4)(3)で作製したランダム変異体ライブラリー(形質転換体)を、50μg/mLのカナマイシンを含む2×YT液体培地200μLに接種し、96穴ディープウェルプレートを用いて、37℃で一晩振とう培養した。
【0077】
(5)(4)の培養液を遠心分離し、得られた培養上清を超純水で2倍に希釈した。希釈した培養液60μLと0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液60μLとを混合し30℃で30分間アルカリ処理を行なった。
【0078】
(6)(5)の処理を行なったときのAAV結合性タンパク質とVLP2との結合活性と、(5)の処理を行なわなかったときのAAV結合性タンパク質とVLP2との結合活性を、以下に示すELISA(Enzyme-Linked Immuno Sorbent Assay)法で評価した。
【0079】
(6-1)実施例1で調製したVLP2を150mMの塩化ナトリウムを含む20mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.4)で200倍に希釈し、96穴マイクロプレート(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)に100μL/wellで加え、固定化した(4℃で18時間)。固定化終了後、2%(w/v)のSKIM MILK(Becton Dickinson社製)および150mMの塩化ナトリウムを含む20mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.4)でブロッキングした。
【0080】
(6-2)洗浄緩衝液(0.05%(w/v)のTween 20(Sigma-Aldrich社製)、150mMの塩化ナトリウムを含む20mMのTris塩酸緩衝液(pH7.4))でwellを洗浄後、(3)で調製した培養上清を添加し、AAV結合性タンパク質とVLP2とを反応させた(30℃で1時間)。
【0081】
(6-3)反応終了後、前記洗浄緩衝液で洗浄し、100ng/mLに希釈したAnti-6His抗体(Bethyl Laboratories社製)を100μL/wellで添加した。
【0082】
(6-4)30℃で1時間反応させ、前記洗浄緩衝液で洗浄した後、TMB Peroxidase Substrate(KPL社製)を50μL/wellで添加した。1Mのリン酸を50μL/wellで添加することで発色を止め、マイクロプレートリーダー(テカン社製)にて450nmの吸光度を測定した。
【0083】
アルカリ処理を行なった時のAAV結合性タンパク質とVLP2との結合活性を、アルカリ処理を行なわなかったときのAAV結合性タンパク質とVLP2との結合活性で除することで、残存活性を算出した。
【0084】
(7)(6)の方法で約1800株のランダム変異体ライブラリーを評価し、その中から親分子であるAVR21と比較して残存活性が向上したAAV結合性タンパク質を発現する形質転換体を選択した。前記選択した形質転換体を培養し、QIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン社製)を用いて発現ベクターを調製した。
【0085】
(8)得られた発現ベクターに挿入されたAAV結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド領域の配列を、全自動DNAシークエンサーGenetic Analyzer 3500(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)にてヌクレオチド配列を解析し、アミノ酸置換箇所を特定した。なお当該解析の際、配列番号3(5’-TAATACgACTCACTATAggg-3’)または配列番号4(5’-ATgCTAgTTATTgCTCAgCgg-3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをシークエンス用プライマーとして使用した。
【0086】
前記(7)で選択した形質転換体が発現するAAV結合性タンパク質の、AVR21に対するアミノ酸置換位置ならびにアルカリ処理後の残存活性[%]をまとめたものを表2に示す。
【0087】
配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち25番目のセリン(S)から213番目のアスパラギン酸(D)までのアミノ酸残基において、I319N(この表記は、配列番号1の319番目(配列番号2では32番目)のイソロイシンがアスパラギンに置換されていることを示す、以下同様)、L321Q、L328P、N329K、N329S、V332A、E(V)335A(この表記は、配列番号1の335番目(配列番号2では48番目)のグルタミン酸が配列番号2で一旦バリンに置換された後、さらにアラニンに置換されていることを表す、以下同様)、K338R、E340G、T343A、T343S、Y344F、D345G、Q347K、T350A、E360D、Q365R、I366F、L367P、K368R、L369S、K(N)371D、K(N)371S、L376P、Y377F、Y377N、E378G、F(Y)379S、V(A)381T、I(V)382I、E384D、H389R、V394A、V394I、V396E、T397A、T397S、E401G、P402S、V412A、T426A、D435A、E453D、E454D、A461P、S466T、N472K、K497EおよびD500Nのいずれかのアミノ酸置換が少なくとも1つ生じているAAV結合性タンパク質は、AVR21と比較しアルカリへの安定性が向上しているといえる。
【0088】
【0089】
参考例2 AAV結合性タンパク質AVR8gへの変異ライブラリー作製とスクリーニング
AAV結合性タンパク質AVR8gを含むポリペプチド(配列番号23)を発現可能なベクターpET-AVR8gを鋳型とし、当該タンパク質をコードするポリヌクレオチド部分に、エラープローンPCRを用いてランダムに変異導入を施した。なお配列番号23に記載のアミノ酸配列からなるポリペプチドのうち、1番目のメチオニン(M)から22番目のアラニン(A)までがPelBシグナルペプチドであり、25番目のセリン(S)から213番目のアスパラギン酸(D)までがAAV結合性タンパク質AVR8gであり、214番目から219番目のヒスチジン(H)がタグ配列である。またAVR8gは、KIAA0319L(UniProt No.Q8IZA0)の細胞外領域ドメイン1(PKD1)およびドメイン2(PKD2)に相当する、配列番号1の312番目から500番までアミノ酸残基において、V317D、Y342C、K362E、K371N、G390S、K399E、S476RおよびN487Dのアミノ酸置換が生じたポリペプチドである(WO2021/106882号)。
【0090】
(1)AVR8g(配列番号23)をコードするポリヌクレオチド(配列番号24)を挿入したプラスミドpET-AVR8gを鋳型とし、当該鋳型の濃度を10ng/μLとした他は、参考例1(1)と同様な方法でエラープローンPCRを行なった。前記エラープローンPCRによりAVR8gをコードするポリヌクレオチドに変異が導入され、その平均変異導入率は1分子当たり2.3アミノ酸変異であった。
【0091】
(2)(1)で得られたPCR産物を精製後、参考例1(2)および(3)に記載の方法によりランダム変異体ライブラリーを作製した。
【0092】
(3)(2)で作製したランダム変異体ライブラリー(形質転換体)を、50μg/mLのカナマイシンを含む2×YT液体培地200μLに接種し、96穴ディープウェルプレートを用いて、37℃で一晩振とう培養した。
【0093】
(4)(3)で作製した培養液10μLを0.1mMのIPTG(IsoPropyl-β-D-ThioGalactopyranoside)および50μg/mLのカナマイシンを含む500μLの2×YT液体培地に植え継ぎ、96穴ディープウェルプレートを用いて、さらに25℃で一晩振とう培養した。
【0094】
(5)(4)の培養液を遠心分離して得られた培養上清を、超純水で16倍に希釈した。当該希釈培養上清60μLと0.1Mのグリシン水酸化ナトリウム緩衝液(pH10.0)60μLとを混合し51.3℃で15分間熱およびアルカリ処理を行なった。
【0095】
(6)(5)の処理を行なったときのAAV結合性タンパク質とVLP2との結合活
性と、(5)の処理を行なわなかったときのAAV結合性タンパク質とVLP2との結合活性を、参考例1(6)に記載のELISA法にて測定した。
【0096】
熱処理を行なったときのAAV結合性タンパク質とVLP2との結合活性を、熱処理を行なわなかったときのAAV結合性タンパク質とVLP2との結合活性で除することで、残存活性を算出した。
【0097】
(7)(6)に記載の方法で約1800株のランダム変異体ライブラリーを評価し、その中から親分子であるAVR8gと比較して残存活性が向上したAAV結合性タンパク質を発現する形質転換体を選択した。前記選択した形質転換体を培養し、QIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン社製)を用いて発現ベクターを調製した。
【0098】
(8)得られた発現ベクターに挿入されたAAV結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド領域の配列を、参考例1(8)に記載の方法で解析し、アミノ酸置換箇所を特定した。
【0099】
前記(7)で選択した形質転換体が発現するAAV結合性タンパク質の、AVR8gに対するアミノ酸置換位置ならびに熱およびアルカリ処理後の残存活性[%]をまとめたものを表3に示す。表3からわかるように、Y331H、F379S、K467NおよびA491Tの4つのアミノ酸置換が生じることで、熱およびアルカリ処理後の残存活性がAVR8gよりも向上していた。
【0100】
【0101】
参考例3 AVR8gアミノ酸置換体のアルカリ安定性評価
参考例2で明らかになった、AAV結合性タンパク質の熱およびアルカリ安定性向上に関与するアミノ酸置換(Y331H、F379S、K467NおよびA491T)のうち、任意の1つをAVR8g(配列番号23)に対し導入しても熱およびアルカリ安定性が向上するか確認した。具体的には、以下の(a)から(d)に示す4種類のAAV結合性タンパク質の熱およびアルカリ安定性を確認した。
(a)AVR8gに対し、Y331Hのアミノ酸置換を導入したタンパク質(配列番号25、AVR9aと命名)
(b)AVR8gに対し、F379Sのアミノ酸置換を導入したタンパク質(配列番号26、AVR9bと命名)
(c)AVR8gに対し、K467Nのアミノ酸置換を導入したタンパク質(配列番号27、AVR9cと命名)
(d)AVR8gに対し、A491Tのアミノ酸置換を導入したタンパク質(配列番号28、AVR9dと命名)
(1)AVR9a(配列番号25)、AVR9b(配列番号26)、AVR9c(配列番号27)およびAVR9d(配列番号28)のいずれかを発現可能な形質転換体(宿主:大腸菌BL21株(DE3))を、それぞれ50μg/mLのカナマイシンを含む3mLの2×YT液体培地に接種し、37℃で一晩、好気的に振とう培養することで前培養を行なった。
【0102】
(2)500mLのバッフルフラスコに50μg/mLのカナマイシンを添加した200mLの2×YT液体培地に(1)の前培養液をそれぞれ2mL接種し、37℃で好気的に振とう培養を行なった。
【0103】
(3)培養開始2.0時間後、氷上にて冷却し、終濃度0.1mMとなるようIPTGをそれぞれ添加後、引き続き25℃で20時間、好気的に振とう培養した。
【0104】
(4)培養終了後、培養液を4℃、8000rpmで20分間遠心分離することで各菌体を回収した。
【0105】
(5)(4)で回収した菌体を150mMの塩化ナトリウムおよび20mMのイミダゾールを含む20mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.4)(以下、「平衡化液A」とも表記)に5mL/1g(菌体)となるように懸濁後、超音波発生装置(インソネーター201M[久保田商事社製])を用いて、4℃で約10分間、約150Wの出力で菌体を破砕した。菌体破砕液は4℃で20分間、8000rpmの遠心分離を2回行ない、各上清を回収した。
【0106】
(6)(5)で得られた上清を、あらかじめ平衡化液Aで平衡化した、Ni Sepharose 6 Fast Flow(サイティバ社製)1.5mLを充填したオープンカラムにアプライした。平衡化液Aで洗浄後、0.5Mのイミダゾールおよび150mMの塩化ナトリウムを含む20mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.4)で溶出した。
【0107】
(7)(6)で得た各溶出液を、150mMの塩化ナトリウムを含む20mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.4)で透析することで、AAV結合性タンパク質を調製した。
【0108】
(8)(7)で調製したAAV結合性タンパク質と、実施例1で調製したVLP2との結合活性を、参考例1(6)に記載のELISA法を用いて測定した。前記測定結果である450nmにおける吸光度に基づき、当該測定値が同様になるよう(7)で得たAAV結合性タンパク質を純水で希釈した。
【0109】
(9)希釈したAAV結合性タンパク質溶液60μLと0.1Mグリシン水酸化ナトリウム緩衝液(pH10.0)60μLとを混合し、55.7℃、60.1℃、66.1℃または70℃で15分間熱およびアルカリ処理を行なった。
【0110】
(10)(9)の処理を行なったときのAAV結合性タンパク質とVLP2との結合活
性と、(9)の処理を行なわなかったときのAAV結合性タンパク質とVLP2との結
合活性を、参考例1(6)に記載のELISA法にて測定した。(9)の処理を行なった時のAAV結合性タンパク質とVLP2との結合活性を、(9)の熱処理を行なわなかったときのAAV結合性タンパク質とVLP2との結合活性で除することで、残存活性を算出した。
【0111】
結果を表4に示す。AVR8g(配列番号29)のアミノ酸配列のうち25番目のセリン(S)から213番目のアスパラギン酸(D)までのアミノ酸残基において、Y331H、F379S、K467NおよびA491Tのいずれかのアミノ酸置換が少なくとも1つ生じたAAV結合性タンパク質は、AVR8gと比較し熱およびアルカリへの安定性が向上しているといえる。
【0112】
【0113】
実施例2 AVR21アミノ酸置換集積体の作製
参考例1で明らかになったAAV結合性タンパク質のアルカリ安定性向上に関与するアミノ酸置換の中からN329K、E401G、T426AおよびA461Pを、参考例2および3で明らかとなったAAV結合性タンパク質の熱およびアルカリ安定性向上に関与するアミノ酸置換の中からK467Nを、さらに、H389YおよびV480Tを、それぞれ選択し、これらアミノ酸置換をAVR21(配列番号2)に対し集積することで、さらなるアルカリ安定性の向上を図った。具体的には、以下(a)および(b)に示す2種類のAAV結合性タンパク質を設計し、作製した。
(a)AVR21に対し、N329K、E401G、T426AおよびA461Pのアミノ酸置換を導入したAAV結合性タンパク質(配列番号5、AVR25aと命名)
(b)AVR21に対し、N329K、H389Y、E401G、T426A、A461P、K(Q)467NおよびV480Tのアミノ酸置換を導入したAAV結合性タンパク質(配列番号6、AVR27aと命名)
以下、前記(a)および(b)に示す2種類のAAV結合性タンパク質の作製方法について説明する。
【0114】
変異集積体を作成するためのPCRプライマーセットを設計した。具体的には、
N329Kのアミノ酸置換を導入するためのPCRプライマーとして、配列番号7(Forward)および8(Reverse)を、
E401Gのアミノ酸置換を導入するためのPCRプライマーとして、配列番号9(Forward)および10(Reverse)を、
T426Aのアミノ酸置換を導入するためのPCRプライマーとして、配列番号11(Forward)および12(Reverse)を、
A461Pのアミノ酸置換を導入するためのPCRプライマーとして、配列番号13(Forward)および14(Reverse)を、
H389Yのアミノ酸置換を導入するためのPCRプライマーとして、配列番号15(Forward)および16(Reverse)を、
K(Q)467Nのアミノ酸置換を導入するためのPCRプライマーとして、配列番号17(Forward)および18(Reverse)を、
V480Tのアミノ酸置換を導入するためのPCRプライマーとして、配列番号19(Forward)および20(Reverse)を、
それぞれ設計した。
【0115】
(a)AVR25a
本タンパク質は、参考例1で明らかになったアルカリ安定性に関与するアミノ酸置換の中から、N329K、E401G、T426A、およびA461Pを選択し、当該アミノ酸置換をAVR21(配列番号2)に導入することで作製した。
【0116】
(a-1)AVR21を含むポリペプチド(配列番号2)を発現可能なベクターpET-AVR21を鋳型とし、配列番号7(5’-AGCTGAAAGTCTACGTACTGCTGGT-3’)および配列番号8(5’-TAGACTTTCAGCTGGGCTTCATGTT-3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとし、表5に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップを55℃で5秒間の第2ステップを72℃で6分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することでPCRを行なった。
【0117】
【0118】
(a-2)(a-1)で得られたPCR産物を鋳型とし、配列番号9(5’-AGCCTGGCCCGCGCAAGAATCGTCC-3’)および配列番号10(5’-CGCGGGCCAGGCTCAACCGTTACGT-3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとし、表5に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップを55℃で5秒間の第2ステップを72℃で6分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することでPCRを行なった。
【0119】
(a-3)(a-2)で得られたPCR産物を鋳型とし、配列番号11(5’-CAAGTGCGGTGATCGACGGATCGCA-3’)および配列番号12(5’-ATCACCGCACTTGTAGTCGGGAGTG-3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとし、表5に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップを55℃で5秒間の第2ステップを72℃で6分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することでPCRを行なった。
【0120】
(a-4)(a-3)で得られたPCR産物を鋳型とし、配列番号13(5’-ATACCCCGATTCTTAAGCTCTCGCA-3’)および配列番号14(5’-AGAATCGGGGTATCCTCGCTGATCT-3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとし、表5に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップを55℃で5秒間の第2ステップを72℃で6分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することでPCRを行なった。
【0121】
(a-5)(a-4)で得られたPCR産物を用いて大腸菌BL21株(DE3)を形質転換した。得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養後、遠心分離で回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、天然型AAV結合性タンパク質に対して25箇所アミノ酸置換したAVR25aをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミド(発現ベクター)pET-AVR25aを得た。
【0122】
(a-6)pET-AVR25aのヌクレオチド配列を参考例1(8)と同様な方法で解析し、確認した。
【0123】
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したAVR25aのアミノ酸配列を配列番号5に示す。なお配列番号5において、1番目のメチオニン(M)から22番目のアラニン(A)までがPelBシグナルペプチドであり、25番目のセリン(S)から213番目のアスパラギン酸(D)がAAV結合性タンパク質AVR25a(配列番号2の25番目から213番目までの領域に相当)であり、214番目から219番目のヒスチジン(H)がタグ配列である。また配列番号5において、V317Dのアスパラギン酸は30番目に、N324Hのヒスチジンは37番目に、V326Aのアラニンは39番目に、N329Kのリジンは42番目に、A330Vのバリンは43番目に、Q334Lのロイシンは47番目に、E335Vのバリンは48番目に、T341Aのアラニンは54番目に、Y342Sのセリンは55番目に、K362Eのグルタミン酸は75番目に、K371Nのアスパラギンは84番目に、F379Yのチロシンは92番目に、K380Rのアルギニンは93番目に、V381Aのアラニンは94番目に、I382Vのバリンは95番目に、G390Sのセリンは103番目に、K399Eのグルタミン酸は112番目に、E401Gのグリシンは114番目に、T426Aのアラニンは139番目に、A461Pのプロリンは174番目に、K467Qのグルタミンは180番目に、S476Rのアルギニンは189番目に、S482Tのスレオニンは195番目に、N487Dのアスパラギン酸は200番目に、N492Dのアスパラギン酸は205番目に、それぞれ存在する。
【0124】
(b)AVR27a
本タンパク質は、前述したアミノ酸置換全て(N329K、E401G、T426A、A461P、H389Y、K(Q)467NおよびV480T)をAVR21(配列番号2)に導入することで作製した。
【0125】
(b-1)AVR21を含むポリペプチド(配列番号2)を発現可能なベクターpET-AVR21を鋳型とし、配列番号7(5’-AGCTGAAAGTCTACGTACTGCTGGT-3’)および配列番号8(5’-TAGACTTTCAGCTGGGCTTCATGTT-3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとし、表5に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップを55℃で5秒間の第2ステップを72℃で6分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することでPCRを行なった。
【0126】
(b-2)(b-1)で得られたPCR産物を鋳型とし、配列番号9(5’-AGCCTGGCCCGCGCAAGAATCGTCC-3’)および配列番号10(5’-CGCGGGCCAGGCTCAACCGTTACGT-3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとし、表5に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップを55℃で5秒間の第2ステップを72℃で6分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することでPCRを行なった。
【0127】
(b-3)(b-2)で得られたPCR産物を鋳型とし、配列番号11(5’-CAAGTGCGGTGATCGACGGATCGCA-3’)および配列番号12(5’-ATCACCGCACTTGTAGTCGGGAGTG-3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとし、表5に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップを55℃で5秒間の第2ステップを72℃で6分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することでPCRを行なった。
【0128】
(b-4)(b-3)で得られたPCR産物を鋳型とし、配列番号13(5’-ATACCCCGATTCTTAAGCTCTCGCA-3’)および配列番号14(5’-AGAATCGGGGTATCCTCGCTGATCT-3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとし、表5に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップを55℃で5秒間の第2ステップを72℃で6分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することでPCRを行なった。
【0129】
(b-5)(b-4)で得られたPCR産物を鋳型とし、配列番号15(5’-ACGCGTATTCCGAGGGGTATGTTAA-3’)および配列番号16(5’-TCGGAATACGCGTTCTGGCCTTCCA-3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとし、表5に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップを55℃で5秒間の第2ステップを72℃で6分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することでPCRを行なった。
【0130】
(b-6)(b-5)で得られたPCR産物を鋳型とし、配列番号17(5’-TCTCGAATCTGGTACCAGGTAACTA-3’)および配列番号18(5’-ACCAGATTCGAGAGCTTAAGAATGG-3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとし、表5に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップを55℃で5秒間の第2ステップを72℃で6分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することでPCRを行なった。
【0131】
(b-7)(b-6)で得られたPCR産物を鋳型とし、配列番号19(5’-CCGTGACCGATACAGATGGTGCGAC-3’)および配列番号20(5’-GTATCGGTCACGGTCAGGCGAAACG-3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとし、表5に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップを55℃で5秒間の第2ステップを72℃で6分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することでPCRを行なった。
【0132】
(b-8)(b-7)で得られたPCR産物を用いて大腸菌BL21株(DE3)を形質転換した。得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養後、遠心分離で回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、天然型AAV結合性タンパク質に対して27箇所アミノ酸置換したAVR27aをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミド(発現ベクター)pET-AVR27aを得た。
【0133】
(b-9)pET-AVR27aのヌクレオチド配列を参考例1(8)と同様な方法で解析し、確認した。
【0134】
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したAVR27aのアミノ酸配列を配列番号6に示す。なお配列番号6において、1番目のメチオニン(M)から22番目のアラニン(A)までがPelBシグナルペプチドであり、25番目のセリン(S)から213番目のアスパラギン酸(D)がAAV結合性タンパク質AVR27a(配列番号2の25番目から213番目までの領域に相当)であり、214番目から219番目のヒスチジン(H)がタグ配列である。また配列番号6において、V317Dのアスパラギン酸は30番目に、N324Hのヒスチジンは37番目に、V326Aのアラニンは39番目に、N329Kのリジンは42番目に、A330Vのバリンは43番目に、Q334Lのロイシンは47番目に、E335Vのバリンは48番目に、T341Aのアラニンは54番目に、Y342Sのセリンは55番目に、K362Eのグルタミン酸は75番目に、K371Nのアスパラギンは84番目に、F379Yのチロシンは92番目に、K380Rのアルギニンは93番目に、V381Aのアラニンは94番目に、I382Vのバリンは95番目に、H389Yのチロシンは102番目に、G390Sのセリンは103番目に、K399Eのグルタミン酸は112番目に、E401Gのグリシンは114番目に、T426Aのアラニンは139番目に、A461Pのプロリンは174番目に、K(Q)467Nのアスパラギンは180番目に、S476Rのアルギニンは189番目に、V480Tのスレオニンは193番目に、S482Tのスレオニンは195番目に、N487Dのアスパラギン酸は200番目に、N492Dのアスパラギン酸は205番目に、それぞれ存在する。
【0135】
実施例3 AVR21アミノ酸置換集積体のアルカリ安定性評価
(1)AAV結合性タンパク質を発現可能な形質転換体として、実施例2で取得した2種類のAAV結合性タンパク質(AVR25a[配列番号5]およびAVR27a[配列番号6])、ならびにAVR21(配列番号2)のいずれかをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドで大腸菌株BL21(DE3)を形質転換し得られた形質転換体を、それぞれ50μg/mLのカナマイシンを含む3mLの2×YT液体培地に接種し、37℃で一晩、好気的に振とう培養することで前培養を行なった。
【0136】
(2)1Lのバッフルフラスコに50μg/mLのカナマイシンを添加した200mLの2×YT液体培地に(1)の前培養液をそれぞれ2mL接種し、37℃で好気的に振とう培養を行なった。
【0137】
(3)培養開始2.0時間後、氷上にて冷却し、終濃度0.1mMとなるようIPTGをそれぞれ添加後、引き続き25℃で20時間、好気的に振とう培養した。
【0138】
(4)培養終了後、培養液を4℃、8000rpmで20分間遠心分離することで各培養菌体(形質転換体)を回収した。
【0139】
(5)(4)で回収した菌体を平衡化液Aに5mL/1g(菌体)となるように懸濁後、超音波発生装置(インソネーター201M(久保田商事社製))を用いて、8℃で約10分間、約150Wの出力で菌体を破砕した。菌体破砕液は4℃で20分間、8000rpmの遠心分離を2回行ない、各上清を回収した。
【0140】
(6)(5)で得られた上清を、あらかじめ平衡化液Aで平衡化した、Ni Sepharose 6 Fast Flow(サイティバ社製)1.5mLを充填したオープンカラムにアプライした。平衡化液Aで洗浄後、0.5Mのイミダゾールおよび150mMの塩化ナトリウムを含む20mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.4)で溶出した。
【0141】
(7)(6)で得た各溶出液を、150mMの塩化ナトリウムを含む20mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.4)で透析することで、AAV結合性タンパク質を調製した。
【0142】
(8)参考例1(6)に記載のELISA法を用いて、(7)で調製したAAV結合性タンパク質と、実施例1で調製したVLP2との結合活性を測定した。前記測定結果である450nmにおける吸光度に基づき、当該測定値が同様になるよう(7)で得たAAV結合性タンパク質を純水で希釈した。
【0143】
(9)(8)で希釈した各AAV結合性タンパク質溶液を2つの画分に分けた。そのうち一方の画分には、0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を等量混合し、一定温度/一定時間静置するアルカリ処理を行ない(処理温度:30℃、処理時間:0、30、60分)、もう一方の画分は前記アルカリ処理を行なわなかった(アルカリ処理「開始時」に相当)。
【0144】
(10)(9)の処理後の画分に、0.5MのMES(2-(N-Morpholino)EthaneSulfonic acid)緩衝液(pH6.0)を、8:2の割合で混合することでpHを6付近にした後、参考例1(6)に記載のELISA法にてVLP2との結合活性を測定した。
【0145】
(11)(10)のアルカリ処理を行なったときの450nmの吸光度を、処理時間0時間のときの450nmの吸光度で除することで、残存活性を算出した。
【0146】
結果を表6に示す。実施例2で取得したAVR21アミノ酸置換集積体は、AVR21(配列番号2)と比較して残存活性が高く、アルカリに対する安定性が向上していることがわかる。
【0147】
【0148】
実施例4 AAVベクターの作製
以降の実施例でAAVとして使用するAAVベクターを以下の方法で調製した。
【0149】
(1)配列番号21に記載のアミノ酸配列からなるEGFP(Enhanced Green Fluorescent Protein)をコードするポリヌクレオチドの5’末端側に制限酵素EcoRI認識配列(GAATTC)を、3’末端側に終止コドン(TAG)およびBamHI認識配列(GGATTC)を、それぞれ付加したヌクレオチド配列(配列番号22)を設計した。
【0150】
(2)配列番号22に記載の配列からなるポリヌクレオチドを全合成しプラスミドにクローニングした(FASMAC社に委託、pUC-EGFPと命名)。pUC-EGFPで大腸菌JM109株を形質転換し、得られた形質転換体を培養した。培養液からQIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン社製)を用いてpUC-EGFPを抽出した。
【0151】
(3)(2)で得られたpUC-EGFPを制限酵素EcoRIとBamHIで消化後、あらかじめ制限酵素EcoRIとBamHIで消化した発現ベクターpAAV-CMV(タカラバイオ社製)にライゲーションし、当該ライゲーション産物を用いて大腸菌JM109株を形質転換した。
【0152】
(4)(3)で得られた形質転換体を、100μg/mLのカルベニシリンを含む2×YT培地(1.6%(w/v)のTryptone、1%(w/v)のYeast Extract、0.5%(w/v)の塩化ナトリウム)1Lが入った、5Lバッフルフラスコにて、37℃で一晩振とう培養した。培養終了後、遠心分離することで菌体を回収し、Plasmid Mega Kit(キアゲン社製)を用いて、当該回収した菌体からpAAV-EGFPを大量に調製した。
【0153】
(5)血清型8(AAV8)のカプシドをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミド(以下、「pRC8 Vector」とも表記)およびpHelper Vector(タカラバイオ社製)を用いて大腸菌JM109株を形質転換した。得られた形質転換体を用いて(4)と同様の操作を行なうことで、pRCX VectorおよびpHelperを大量に調製した。
【0154】
(6)10%(v/v)のウシ血清を含むD-MEM培地(富士フイルム和光純薬社製)45mLが入ったT-225フラスコ(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)10枚でHEK293T細胞を培養した。そこへ(4)で調製したpAAV-EGFP、(5)で調製したpRC8 VectorおよびpHelperならびにポリエチレンイミン(Polysciences社製)の複合体を添加することで遺伝子導入し、5%(v/v)の二酸化炭素、37℃の条件で3日間静置培養した。培養後、遠心分離により剥離した細胞を回収し、T-225フラスコ5枚分から得られた細胞ごとに-80℃で冷凍保存した。
【0155】
(7)(6)で得られた冷凍細胞を解凍し、0.5Mの塩化ナトリウム、4mMの塩化マグネシウムおよび0.01%(w/v)のTween 20(Sigma-Aldrich社製)を含む20mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.4)10mLに懸濁した。Benzonase(メルクミリポア社製)を1/2000量加えて37℃で1時間静置後、13000×g、4℃で10分間遠心分離し上清を得た。得られた上清に15%飽和となるよう硫安(硫酸アンモニウム)を添加し、再度同条件で遠心分離した。得られた上清を孔径0.45μmのフィルターに供し、浮遊物を除去した。
【0156】
(8)浮遊物を除去した上清を、あらかじめ0.5Mの塩化ナトリウムを含む20mMのトリス塩酸緩衝液(pH8.0)(以下、「平衡化液B」とも表記)で平衡化した、7mLのPOROS AAVXカラム(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)にアプライした。
【0157】
(9)平衡化液Bで洗浄後、0.5Mの塩化ナトリウムを含む0.1Mの酢酸緩衝液(pH2.5)で溶出した。得られた溶出液に、20mMの塩化マグネシウムを含む1Mのトリス塩酸緩衝液(pH8.5)を1/4量加えることで中和し、AAVベクターであるAAV8-EGFP溶液を得た。
【0158】
(10)(9)で得られた溶液中のAAV8-EGFP濃度を、AAVpro Titration Kit(タカラバイオ社製)を用いてqPCRで定量した。また前記溶液をSDS-PAGEに供し、Pierce Silver Stain Kit(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて銀染色することで前記溶液中に含まれるAAVベクターの純度を確認した。
【0159】
実施例5 AAV結合性タンパク質固定化ゲルの作製
(1)分離剤用親水性ビニルポリマー(東ソー社製:トヨパール)の表面のヒドロキシ基に化学修飾を施すことでヨードアセトアミド基を導入したゲルを調製した。前記調製したゲル1.0gに、実施例4で調製したAVR27aタンパク質16mgおよび還元剤として終濃度0.1mMのTCEP(Tris(2-CarboxyEthyl)Phosphine)を加え、pH7.4、25℃の条件で3時間振盪することで反応させた。これによりAVR27aを固定化したゲル(AVR27a固定化ゲルと命名)を調製した。
【0160】
(2)(1)で調製したAVR27a固定化ゲルおよび市販品POROS AAVX(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を、それぞれ約10μLコスモスピンフィルターG(ナカライテスク社製)に充填し、ミニカラム(それぞれAVR27aミニカラム、POROS AAVXミニカラムと命名)を2つずつ作製した。
【0161】
(3)片方のミニカラムには、0.1Mの水酸化ナトリウムおよび1mMの塩化カルシウムを含む水溶液を90μL添加し、24時間静置(浸漬)した。その後、0.5MのMES緩衝液(pH6.0)を210μL添加することで中和した。
【0162】
(4)各ミニカラムに対し、150mMの塩化ナトリウムを含む50mMの酢酸緩衝液
(pH6.0)(以下、「平衡化液C」とも表記する)で平衡化後、実施例4で得られたAAV8-EGFP精製品をFlow Through画分に、AAV8-EGFPが十分に漏れ出すのが確認できる量アプライした。最終的にアプライしたAAV8-EGFPのそれぞれのカラム当たりの量は、6.9×1011VG(ベクターゲノム)となった。
【0163】
(5)ゲルに結合したAAVを溶出回収するため、平衡化液Cで200μL×2回カラムを洗浄し、各ろ液を(4)のFlow Through画分とともに回収した。
【0164】
(6)200μLの500mMの塩化ナトリウムを含む50mMの酢酸緩衝液(pH2.0)(以下、「溶出液A」とも表記する)を各ミニカラムに添加し、5分振盪後、遠心分離して溶出液を回収した。再度溶出液Aをミニカラムに200μL加えて同様に1分振盪後、遠心分離し、先の溶出液と合わせて400μL回収した。さらに、溶出液Aを400μL加えて、遠心分離し、溶出液を回収した(以下、「Elute 1」とも表記する)。Elute 1には、20mMの塩化マグネシウムを含む1Mのトリス塩酸緩衝液(pH8.5)を200μL加えることで中和した。
【0165】
(7)(6)で得られたElute 1に含まれるAAV8-EGFPベクターゲノム数を、AAVpro Titration Kit(タカラバイオ社製)を用いてqPCR(定量PCR)で定量した。それぞれのElute 1について、水酸化ナトリウムで24時間浸漬した後のAAV結合量を、浸漬しなかった場合のAAV結合量で割ることで、残存活性[%]を算出した。
【0166】
結果を
図1に示す。POROS AAVXでは、ほとんどAAVを補捉できなかったのに対し、AVR27a固定化ゲルの場合には、24時間アルカリ溶液で浸漬しても、浸漬前と同様のAAV結合量を有していた。
【0167】
参考例4 AAV結合性タンパク質AVR25aへのアミノ酸置換導入
実施例2でアルカリ安定性を評価したAVR21アミノ酸置換集積体の中からAVR25a(配列番号5)を選択し、当該AVR25aに対し、参考例1および2で熱およびアルカリ安定性が向上するアミノ酸置換であると判明したK467Nのアミノ酸置換を導入したAVR21アミノ酸置換集積体(AVR25cと命名)を作製した。なおK467Nのアミノ酸置換を導入するためのPCRプライマーとして、配列番号30(Forward)および31(Reverse)を、それぞれ設計した。
【0168】
(1)AVR25aを含むポリペプチド(配列番号7)を発現可能なベクターpET-AVR25aを鋳型とし、配列番号30(5’-GAGAGCTTAAGAATGGGGGTATCCTC-3’)および配列番号31(5’-TTCTTAAGCTCTCGAATCTGGTACC-3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、実施例2(a-1)と同様な方法でPCRを行なった。
【0169】
(2)(1)で得られたPCR産物から、実施例2(a-5)と同様な方法で、天然型AAV結合性タンパク質に対して25箇所アミノ酸置換したAVR25cをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミド(発現ベクター)pET-AVR25cを得た。
【0170】
(3)pET-AVR25cのヌクレオチド配列を参考例1(8)と同様な方法で解析し、確認した。
【0171】
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したAVR25cのアミノ酸配列を配列番号29に示す。なお配列番号29において、1番目のメチオニン(M)から22番目のアラニン(A)までがPelBシグナルペプチドであり、25番目のセリン(S)から213番目のアスパラギン酸(D)がAAV結合性タンパク質AVR25c(配列番号2の25番目から213番目までの領域に相当)であり、214番目から219番目のヒスチジン(H)がタグ配列である。また配列番号29において、V317Dのアスパラギン酸は30番目に、N324Hのヒスチジンは37番目に、V326Aのアラニンは39番目に、N329Kのリジンは42番目に、A330Vのバリンは43番目に、Q334Lのロイシンは47番目に、E335Vのバリンは48番目に、T341Aのアラニンは54番目に、Y342Sのセリンは55番目に、K362Eのグルタミン酸は75番目に、K371Nのアスパラギンは84番目に、F379Yのチロシンは92番目に、K380Rのアルギニンは93番目に、V381Aのアラニンは94番目に、I382Vのバリンは95番目に、G390Sのセリンは103番目に、K399Eのグルタミン酸は112番目に、E401Gのグリシンは114番目に、T426Aのアラニンは139番目に、A461Pのプロリンは174番目に、K467Nのアスパラギンは180番目に、S476Rのアルギニンは189番目に、S482Tのスレオニンは195番目に、N487Dのアスパラギン酸は200番目に、N492Dのアスパラギン酸は205番目に、それぞれ存在する。
【0172】
参考例5 AAV結合性タンパク質AVR25cへの変異ライブラリー作製とスクリーニング
参考例4で作製したAAV結合性タンパク質AVR25cを含むポリペプチド(配列番号29)を発現可能なベクターpET-AVR25cを鋳型とし、当該タンパク質をコードするポリヌクレオチド部分に、エラープローンPCRを用いてランダムに変異導入を施した。
【0173】
(1)鋳型としてAVR25cを含むポリペプチド(配列番号29)を発現可能なベクターpET-AVR25cを用いた他は、参考例1(1)の記載と同様な方法でエラープローンPCRを行なった。前記エラープローンPCRによりAAV結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチドに良好に変異が導入され、その平均変異導入率は1分子当たり1.8アミノ酸変異であった。
【0174】
(2)(1)で得られたPCR産物から、参考例1(2)および(3)に記載の方法でランダム変異体ライブラリーを作製した。
【0175】
(3)(2)で作製したランダム変異体ライブラリー(形質転換体)を、50μg/mLのカナマイシンを含む2×YT液体培地200μLに接種し、96穴ディープウェルプレートを用いて、37℃で一晩振とう培養した。
【0176】
(4)(3)の培養液を遠心分離し、得られた培養上清を超純水で2倍に希釈した。希釈した培養上清50μLと1Mの水酸化ナトリウム水溶液50μLとを混合後、30℃で15分間アルカリ処理を行なった。
【0177】
(5)(4)の処理を行なったときのAAV結合性タンパク質とVLP2との結合活性と、(4)の処理を行なわなかったときのAAV結合性タンパク質とVLP2との結合活性を、参考例1(6)に記載のELISA法で評価した。アルカリ処理を行なった時のAAV結合性タンパク質とVLP2との結合活性を、アルカリ処理を行なわなかったときのAAV結合性タンパク質とVLP2との結合活性で除することで、残存活性を算出した。
【0178】
(6)(5)の方法で約1800株のランダム変異体ライブラリーを評価し、その中から親分子であるAVR25cと比較して残存活性が向上したAAV結合性タンパク質を発現する形質転換体を選択した。
【0179】
(7)(6)で選択した形質転換体を培養し、QIAprep Spin Miniprep kit(キアゲン社製)を用いて発現ベクターを調製後、当該ベクターに挿入されたAAV結合性タンパク質をコードするポリヌクレオチド領域の配列を参考例1(8)に記載の方法で解析し(FASMAC社に委託)、アミノ酸置換箇所を特定した。
【0180】
前記(7)で選択した形質転換体が発現するAAV結合性タンパク質の、AVR25cに対するアミノ酸置換位置ならびにアルカリ処理後の残存活性[%]をまとめたものを表7に示す。
【0181】
配列番号2に記載のアミノ酸配列のうち25番目のセリン(S)から500番目のアスパラギン酸(D)までのアミノ酸残基において、G314D、V(D)317G、Q318R、P322A、E325V、Q347R、T350A、E362D、H363P、I366F、E378G、F(Y)379N、G392E、V394A、V398A、E399K、R406H、Q415R、F416L、L421P、S433G、T434S、D437V、E445K、K455R、S457R、T474R、T478I、A485V、T486A、L493M、N496D、K497E、V499IおよびD500Gのいずれかのアミノ酸置換が少なくとも1つ生じているAAV結合性タンパク質は、AVR25c(配列番号29)と比較しアルカリへの安定性が向上しているといえる。
【0182】
【0183】
参考例6 AVR25cアミノ酸置換集積体の調製
参考例5で明らかになった、AAV結合性タンパク質のアルカリ安定性向上に関与するアミノ酸置換の中からI366F、V394A、K455RおよびK497Eを選択し、これらアミノ酸置換をAVR25c(配列番号29)に対し集積することで、さらなるアルカリ安定性の向上を図った。具体的には、以下の(a)および(b)に示す2種類のAAV結合性タンパク質を設計し、作製した。
(a)AVR25cに対し、I366F、V394AおよびK455Rのアミノ酸置換を導入したAAV結合性タンパク質(配列番号32、AVR28と命名)
(b)AVR25cに対し、I366F、V394A、K455RおよびK497Eのアミノ酸置換を導入したAAV結合性タンパク質(配列番号33、AVR29cと命名)
以下、前記(a)および(b)に示す2種類のAAV結合性タンパク質の作製方法について説明する。
【0184】
変異集積体を作成するためのPCRプライマーセットを設計した。具体的には、
K497Eのアミノ酸置換を導入するためのPCRプライマーとして、配列番号34(Forward)および35(Reverse)を、
設計した。
【0185】
(a)AVR28
本タンパク質は、参考例5で明らかになったアルカリ安定性に関与するアミノ酸置換の中から、I366F、V394A、およびK455Rを選択した。なお本タンパク質は参考例5で取得済(表7参照)のため、それを流用した。
【0186】
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したAVR28のアミノ酸配列を配列番号32に示す。なお配列番号32において、1番目のメチオニン(M)から22番目のアラニン(A)までがPelBシグナルペプチドであり、25番目のセリン(S)から213番目のアスパラギン酸(D)がAAV結合性タンパク質AVR28(配列番号2の25番目から213番目までの領域に相当)であり、214番目から219番目のヒスチジン(H)がタグ配列である。また配列番号32において、V317Dのアスパラギン酸は30番目に、N324Hのヒスチジンは37番目に、V326Aのアラニンは39番目に、N329Kのリジンは42番目に、A330Vのバリンは43番目に、Q334Lのロイシンは47番目に、E335Vのバリンは48番目に、T341Aのアラニンは54番目に、Y342Sのセリンは55番目に、K362Eのグルタミン酸は75番目に、I366Fのフェニルアラニンは79番目に、K371Nのアスパラギンは84番目に、F379Yのチロシンは92番目に、K380Rのアルギニンは93番目に、V381Aのアラニンは94番目に、I382Vのバリンは95番目に、G390Sのセリンは103番目に、V394Aのアラニンは107番目に、K399Eのグルタミン酸は112番目に、E401Gのグリシンは114番目に、T426Aのアラニンは139番目に、K455Rのアルギニンは168番目に、A461Pのプロリンは174番目に、K467Nのアスパラギンは180番目に、S476Rのアルギニンは189番目に、S482Tのスレオニンは195番目に、N487Dのアスパラギン酸は200番目に、N492Dのアスパラギン酸は205番目に、それぞれ存在する。
【0187】
(b)AVR29c
本タンパク質は、参考例5で明らかになったアルカリ安定性に関与するアミノ酸置換の中から、K497Eを選択し、当該アミノ酸置換をAVR28(配列番号32)に導入することで作製した。
【0188】
(b-1)AVR28を含むポリペプチド(配列番号32)を発現可能なベクターを鋳型とし、配列番号34(5’-TTAACGAAGCCGTCGACCATCATCA-3’)および配列番号35(5’-ACGGCTTCGTTAACGGTCAAGTCTG-3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとして、表8に示す組成の反応液を調製後、当該反応液を98℃で5分間熱処理し、98℃で10秒間の第1ステップを55℃で5秒間の第2ステップを72℃で6分間の第3ステップを1サイクルとする反応を30サイクル行ない、最後に72℃で5分間熱処理することでPCRを行なった。
【0189】
【0190】
(b-2)(b-1)で得られたPCR産物をDpnI(ニューイングランドバイオラボ社製)で処理することで鋳型鎖を消化後、PCR産物を用いて大腸菌BL21株(DE3)を形質転換した。得られた形質転換体を50μg/mLのカナマイシンを添加したLB培地で培養後、遠心分離で回収した菌体(形質転換体)からプラスミドを抽出することで、天然型AAV結合性タンパク質に対して29箇所アミノ酸置換したAVR29cをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミド(発現ベクター)pET-AVR29cを得た。
【0191】
(b-3)pET-AVR29cのヌクレオチド配列を参考例1(8)と同様な方法で解析し、確認した。
【0192】
シグナル配列およびポリヒスチジンタグを付加したAVR29cのアミノ酸配列を配列番号33に示す。なお配列番号33において、1番目のメチオニン(M)から22番目のアラニン(A)までがPelBシグナルペプチドであり、25番目のセリン(S)から213番目のアスパラギン酸(D)がAAV結合性タンパク質AVR29c(配列番号2の25番目から213番目までの領域に相当)であり、214番目から219番目のヒスチジン(H)がタグ配列である。また配列番号33において、V317Dのアスパラギン酸は30番目に、N324Hのヒスチジンは37番目に、V326Aのアラニンは39番目に、N329Kのリジンは42番目に、A330Vのバリンは43番目に、Q334Lのロイシンは47番目に、E335Vのバリンは48番目に、T341Aのアラニンは54番目に、Y342Sのセリンは55番目に、K362Eのグルタミン酸は75番目に、I366Fのフェニルアラニンは79番目に、K371Nのアスパラギンは84番目に、F379Yのチロシンは92番目に、K380Rのアルギニンは93番目に、V381Aのアラニンは94番目に、I382Vのバリンは95番目に、G390Sのセリンは103番目に、V394Aのアラニンは107番目に、K399Eのグルタミン酸は112番目に、E401Gのグリシンは114番目に、T426Aのアラニンは139番目に、K455Rのアルギニンは168番目に、A461Pのプロリンは174番目に、K467Nのアスパラギンは180番目に、S476Rのアルギニンは189番目に、S482Tのスレオニンは195番目に、N487Dのアスパラギン酸は200番目に、N492Dのアスパラギン酸は205番目に、K497Eのグルタミン酸は210番目に、それぞれ存在する。
【0193】
参考例7 シグナルペプチド配列を除去したAAV結合性タンパク質の調製
(1)参考例6(b)で作製したpET-AVR29cを鋳型とし、配列番号36(5’-ACATATGTCTGCAGGCGAAAGCGAC-3’)および配列番号37(5’-CCTGCAGACATATGTATATCTCCTTC-3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は参考例6(b-1)と同様な方法でPCRを行なった。
【0194】
(2)(1)で得られたPCR産物から参考例6(b-2)と同様な方法で、天然型AAV結合性タンパク質に対して29箇所アミノ酸置換したAVR29cをコードし、かつそのN末端側にシグナル配列を有さないポリヌクレオチドを含むプラスミド(発現ベクター)pET-AVR29c(-)を得た。
【0195】
(3)pET-AVR29c(-)のヌクレオチド配列を参考例1(8)と同様な方法で解析し、確認した。
【0196】
ポリヒスチジンタグを付加したAVR29c(-)のアミノ酸配列を配列番号38に示す。なお配列番号38において、2番目のセリン(S)から190番目のアスパラギン酸(D)がAAV結合性タンパク質AVR29c(配列番号2の25番目から213番目までの領域に相当)であり、191番目から196番目のヒスチジン(H)がタグ配列である。また配列番号38において、V317Dのアスパラギン酸は7番目に、N324Hのヒスチジンは14番目に、V326Aのアラニンは16番目に、N329Kのリジンは19番目に、A330Vのバリンは20番目に、Q334Lのロイシンは24番目に、E335Vのバリンは25番目に、T341Aのアラニンは31番目に、Y342Sのセリンは32番目に、K362Eのグルタミン酸は52番目に、I366Fのフェニルアラニンは56番目に、K371Nのアスパラギンは61番目に、F379Yのチロシンは69番目に、K380Rのアルギニンは70番目に、V381Aのアラニンは71番目に、I382Vのバリンは72番目に、G390Sのセリンは80番目に、V394Aのアラニンは84番目に、K399Eのグルタミン酸は89番目に、E401Gのグリシンは91番目に、T426Aのアラニンは116番目に、K455Rのアルギニンは145番目に、A461Pのプロリンは151番目に、K467Nのアスパラギンは157番目に、S476Rのアルギニンは166番目に、S482Tのスレオニンは172番目に、N487Dのアスパラギン酸は177番目に、N492Dのアスパラギン酸は182番目に、K497Eのグルタミン酸187番目に、それぞれ存在する。
【0197】
実施例6 AVR29c(-)アミノ酸置換集積体の調製
前述した安定性向上に関与するアミノ酸置換であるH389Yおよび/またはV480Tを、参考例7で作製したAAV結合性タンパク質AVR29c(-)(配列番号38の2番目から190番目までの領域に相当)に導入した、AAV結合性タンパク質を作製した。具体的には、以下の(a)、(b)および(c)に示す3種類のAAV結合性タンパク質を設計し、作製した。
(a)AVR29c(-)に対し、V480Tのアミノ酸置換を導入したAAV結合性タンパク質(配列番号43、AVR30a(-)と命名)
(b)AVR29c(-)に対し、H389Yのアミノ酸置換を導入したAAV結合性タンパク質(配列番号44、AVR30b(-)と命名)
(c)AVR29c(-)に対し、H389YおよびV480Tのアミノ酸置換を導入したAAV結合性タンパク質(配列番号45、AVR31b(-)と命名)
以下、前記(a)、(b)および(c)に示す3種類のAAV結合性タンパク質の作製方法について説明する。
【0198】
変異集積体を作成するためのPCRプライマーセットを設計した。具体的には、
H389Yのアミノ酸置換を導入するためのPCRプライマーとして、配列番号39(Forward)および40(Reverse)を、
V480Tのアミノ酸置換を導入するためのPCRプライマーとして、配列番号41(Forward)および42(Reverse)を、
それぞれ設計した。
【0199】
(a)AVR30a(-)
(a-1)参考例7で作製したpET-AVR29c(-)を鋳型とし、配列番号41(5’-CGGTGACCGACACCGACGGGGCAAC-3’)および配列番号42(5’-GTGTCGGTCACCGTTAAGCGAAAAG-3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、参考例6(b-1)と同様な方法でPCRを行なった。
【0200】
(a-2)(a-1)で得られたPCR産物から参考例6(b-2)と同様な方法で、天然型AAV結合性タンパク質に対して30箇所アミノ酸置換したAVR30a(-)をコードするポリヌクレオチドを含むプラスミド(発現ベクター)pET-AVR30a(-)を得た。
【0201】
(a-3)pET-AVR30a(-)のヌクレオチド配列を参考例1(8)と同様な方法で解析し、確認した。
【0202】
ポリヒスチジンタグを付加したAVR30a(-)のアミノ酸配列を配列番号43に示す。なお配列番号43において、2番目のセリン(S)から190番目のアスパラギン酸(D)までがAAV結合性タンパク質AVR30a(配列番号2の25番目から213番目までの領域に相当)であり、191番目から196番目のヒスチジン(H)がタグ配列である。また配列番号43において、V317Dのアスパラギン酸は7番目に、N324Hのヒスチジンは14番目に、V326Aのアラニンは16番目に、N329Kのリジンは19番目に、A330Vのバリンは20番目に、Q334Lのロイシンは24番目に、E335Vのバリンは25番目に、T341Aのアラニンは31番目に、Y342Sのセリンは32番目に、K362Eのグルタミン酸は52番目に、I366Fのフェニルアラニンは56番目に、K371Nのアスパラギンは61番目に、F379Yのチロシンは69番目に、K380Rのアルギニンは70番目に、V381Aのアラニンは71番目に、I382Vのバリンは72番目に、G390Sのセリンは80番目に、V394Aのアラニンは84番目に、K399Eのグルタミン酸は89番目に、E401Gのグリシンは91番目に、T426Aのアラニンは116番目に、K455Rのアルギニンは145番目に、A461Pのプロリンは151番目に、K467Nのアスパラギンは157番目に、S476Rのアルギニンは166番目に、V480Tのスレオニンは170番目に、S482Tのスレオニンは172番目に、N487Dのアスパラギン酸は177番目に、N492Dのアスパラギン酸は182番目に、K497Eのグルタミン酸は187番目に、それぞれ存在する。
【0203】
(b)AVR30b(-)
(b-1)配列番号39(5’-ATGCTTATTCAGAGGGCTATGCCAAC-3’)および配列番号40(5’-TCTGAATAAGCATTTTGGCCCTCCAC-3’)に記載の配列からなるオリゴヌクレオチドをPCRプライマーとした他は、(a-1)と同様な方法でPCRを行なった。
【0204】
(b-2)(b-1)で得られたPCR産物から参考例6(b-2)と同様な方法で、天然型AAV結合性タンパク質に対して30箇所アミノ酸置換したAVR30b(-)をコードするポリヌクレオチドを含むプラスミド(発現ベクター)pET-AVR30b(-)を得た。
【0205】
(b-3)pET-AVR30b(-)のヌクレオチド配列を参考例1(8)と同様な方法で解析し、確認した。
【0206】
ポリヒスチジンタグを付加したAVR30b(-)のアミノ酸配列を配列番号44に示す。なお配列番号44において、2番目のセリン(S)から190番目のアスパラギン酸(D)までがAAV結合性タンパク質AVR30b(配列番号2の25番目から213番目までの領域に相当)であり、191番目から196番目のヒスチジン(H)がタグ配列である。また配列番号44において、V317Dのアスパラギン酸は7番目に、N324Hのヒスチジンは14番目に、V326Aのアラニンは16番目に、N329Kのリジンは19番目に、A330Vのバリンは20番目に、Q334Lのロイシンは24番目に、E335Vのバリンは25番目に、T341Aのアラニンは31番目に、Y342Sのセリンは32番目に、K362Eのグルタミン酸は52番目に、I366Fのフェニルアラニンは56番目に、K371Nのアスパラギンは61番目に、F379Yのチロシンは69番目に、K380Rのアルギニンは70番目に、V381Aのアラニンは71番目に、I382Vのバリンは72番目に、H389Yのチロシンは79番目に、G390Sのセリンは80番目に、V394Aのアラニンは84番目に、K399Eのグルタミン酸は89番目に、E401Gのグリシンは91番目に、T426Aのアラニンは116番目に、K455Rのアルギニンは145番目に、A461Pのプロリンは151番目に、K467Nのアスパラギンは157番目に、S476Rのアルギニンは166番目に、S482Tのスレオニンは172番目に、N487Dのアスパラギン酸は177番目に、N492Dのアスパラギン酸は182番目に、K497Eのグルタミン酸は187番目に、それぞれ存在する。
【0207】
(c)AVR31b(-)
本タンパク質は、V480Tのアミノ酸置換をAVR30b(-)(配列番号44)に導入することで作製した。
【0208】
(c-1)(b)で作製したpET-AVR30b(-)を鋳型とした他は、(a-1)と同様な方法でPCRを行なった。
【0209】
(c-2)(c-1)で得られたPCR産物から参考例6(b-2)と同様な方法で、天然型AAV結合性タンパク質に対して31箇所アミノ酸置換したAVR31b(-)をコードするポリヌクレオチドを含むプラスミド(発現ベクター)pET-AVR31b(-)を得た。
【0210】
(c-3)pET-AVR31b(-)のヌクレオチド配列を参考例1(8)と同様な方法で解析し、確認した。
【0211】
ポリヒスチジンタグを付加したAVR31b(-)のアミノ酸配列を配列番号45に示す。なお配列番号45において、2番目のセリン(S)から190番目のアスパラギン酸(D)がAAV結合性タンパク質AVR31b(配列番号2の25番目から213番目までの領域に相当)であり、191番目から196番目のヒスチジン(H)がタグ配列である。また配列番号45において、V317Dのアスパラギン酸は7番目に、N324Hのヒスチジンは14番目に、V326Aのアラニンは16番目に、N329Kのリジンは19番目に、A330Vのバリンは20番目に、Q334Lのロイシンは24番目に、E335Vのバリンは25番目に、T341Aのアラニンは31番目に、Y342Sのセリンは32番目に、K362Eのグルタミン酸は52番目に、I366Fのフェニルアラニンは56番目に、K371Nのアスパラギンは61番目に、F379Yのチロシンは69番目に、K380Rのアルギニンは70番目に、V381Aのアラニンは71番目に、I382Vのバリンは72番目に、H389Yのチロシンは79番目に、G390Sのセリンは80番目に、V394Aのアラニンは84番目に、K399Eのグルタミン酸は89番目に、E401Gのグリシンは91番目に、T426Aのアラニンは116番目に、K455Rのアルギニンは145番目に、A461Pのプロリンは151番目に、K467Nのアスパラギンは157番目に、S476Rのアルギニンは166番目に、V480Tのスレオニンは170番目に、S482Tのスレオニンは172番目に、N487Dのアスパラギン酸は177番目に、N492Dのアスパラギン酸は182番目に、K497Eのグルタミン酸は187番目に、それぞれ存在する。
【0212】
実施例7 アミノ酸置換集積体のアルカリ安定性評価
(1)AAV結合性タンパク質を発現可能な形質転換体として、参考例7で取得したAVR29c(-)(配列番号38)、ならびに実施例6で取得した3種類のAAV結合性タンパク質(AVR29c(-)アミノ酸置換集積体、具体的にはAVR30a(-)(配列番号43)、AVR30b(-)(配列番号44)ならびにAVR31b(-)(配列番号45))のいずれかをコードするポリヌクレオチドを含むプラスミドで大腸菌株BL21(DE3)を形質転換し得られた形質転換体を用いた他は、実施例3(1)から(4)と同様な方法で形質転換体を培養し、菌体(形質転換体)を回収した。
【0213】
(2)(1)で回収した菌体から実施例3(5)に記載の方法で菌体破砕し、上清を回収後、実施例3(6)から(7)に記載の方法でAAV結合性タンパク質を調製した。
【0214】
(3)参考例1(6)に記載のELISA法を用いて、(2)で調製したAAV結合性タンパク質と、実施例1で調製したVLP2との結合活性を測定した。(2)で調製したAAV結合性タンパク質溶液の濃度をNanoDrop OneC(サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)で測定後、タンパク質濃度として5μg/mLになるように20mMのトリス塩酸緩衝液(pH7.4)で希釈した。
【0215】
(4)(3)で希釈した各AAV結合性タンパク質溶液を、1mMの塩化カルシウムを含む1Mの水酸化ナトリウム水溶液と等量混合し、一定温度/一定時間静置するアルカリ処理を行なった(処理温度:30℃、処理時間:0、20、30分)。
【0216】
(5)(4)の処理後の画分に、0.5MのMES緩衝液(pH6.0)を、8:2の割合で混合することでpHを6付近にした後、参考例1(6)に記載のELISA法にてVLP2との結合活性を測定した。
【0217】
(6)(5)のアルカリ処理を行なったときの450nmの吸光度を、処理時間0分のときの450nmの吸光度で除することで、残存活性を算出した。
【0218】
結果を表9に示す。実施例6で取得したAVR29c(-)アミノ酸置換集積体は、AVR29c(-)(配列番号38)と比較して残存活性が高く、アルカリに対する安定性が向上していることがわかる。
【0219】