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特開2024-169593二酸化炭素を含む混合気体の分離又は濃縮方法
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  • 特開-二酸化炭素を含む混合気体の分離又は濃縮方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169593
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】二酸化炭素を含む混合気体の分離又は濃縮方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/22 20060101AFI20241128BHJP
   B01D 69/10 20060101ALI20241128BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20241128BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20241128BHJP
【FI】
B01D53/22
B01D69/10
B01D69/12
B01D71/02 500
【審査請求】有
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024162081
(22)【出願日】2024-09-19
(62)【分割の表示】P 2020094555の分割
【原出願日】2020-05-29
(31)【優先権主張番号】P 2019100403
(32)【優先日】2019-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100129838
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 典輝
(74)【代理人】
【識別番号】100101203
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100104499
【弁理士】
【氏名又は名称】岸本 達人
(72)【発明者】
【氏名】林 幹夫
(72)【発明者】
【氏名】菊地 智久
(72)【発明者】
【氏名】岸本 友貴
(72)【発明者】
【氏名】武脇 隆彦
(72)【発明者】
【氏名】高谷 公平
(57)【要約】
【課題】二酸化炭素と炭化水素とを含む混合気体を分離又は濃縮する場合に、ゼオライト膜複合体が高いパーミエンスを維持することができない。
【解決手段】所定のプロパン接触処理を行う前の二酸化炭素透過試験(1)における二酸化炭素のパーミエンスをPとし、所定のプロパン接触処理を行った後の二酸化炭素透過試験(2)における二酸化炭素パーミエンスをPとした場合、P/Pが0.7以上であるゼオライト膜複合体を用いて、混合気体の分離又は濃縮を行う。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜を有し、前記ゼオライト膜の表面に金属種を付与あるいはシリル化処理をしたゼオライト膜複合体に、少なくとも二酸化炭素と炭化水素とを含む、常用の温度又は35℃で圧力が1MPa以上の混合気体を接触させ、該混合気体から透過性の高い気体成分を透過させる混合気体の分離又は濃縮方法であって、
前記ゼオライト膜複合体は、
下記のプロパン接触処理を行う前の二酸化炭素透過試験(1)における二酸化炭素のパーミエンスをPとし、下記のプロパン接触処理を行った後の二酸化炭素透過試験(2)における二酸化炭素パーミエンスをPとした場合、
/Pが0.70以上であることを特徴とする、
混合気体の分離又は濃縮方法。
二酸化炭素透過試験(1):供給ガス圧0.2MPa、透過ガス圧0.1MPa、温度90℃の条件で、前記ゼオライト膜の表面に二酸化炭素100%の単成分ガスを供給した場合に前記ゼオライト膜を透過する二酸化炭素のパーミエンスをPとする。
プロパン接触処理:二酸化炭素透過試験(1)の後、供給ガスを二酸化炭素100%の単成分ガスからプロパンに変更し、供給ガス圧0.1MPa、透過ガス圧0.1MPa、温度90℃の条件で、前記ゼオライト膜の表面にプロパンを供給して前記二酸化炭素を前記プロパンに置換したうえで、供給ガス圧0.4MPa、透過ガス圧0.1MPa、温度90℃の条件で、前記ゼオライト膜の表面にプロパンを30分間供給する。
二酸化炭素透過試験(2):前記プロパン接触処理の後で、供給ガスをプロパンから二酸化炭素100%の単成分ガスに変更し、供給ガス圧0.2MPa、透過ガス圧0.1MPa、温度90℃の条件で、前記ゼオライト膜の表面に二酸化炭素100%の単成分ガスを供給した場合に前記ゼオライト膜を透過する二酸化炭素のパーミエンスをPとする。
【請求項2】
前記ゼオライト膜複合体は、
供給ガス圧0.2MPa、透過ガス圧0.1MPa、温度40℃の条件におけるメタン
のパーミエンスをPCH4、六フッ化硫黄のパーミエンスをPSF6とした場合、
CH4≦3.02×PSF6+8.19×10-9を満たす、
請求項1に記載の混合気体の分離又は濃縮方法。
【請求項3】
前記ゼオライト膜を構成するゼオライトが酸素8員環以下の細孔構造を有する、
請求項1又は2に記載の混合気体の分離又は濃縮方法。
【請求項4】
前記ゼオライト膜を構成するゼオライトがCHA型ゼオライトである、
請求項1又は2に記載の混合気体の分離又は濃縮方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は二酸化炭素を含む混合気体の分離又は濃縮方法を開示する。
【背景技術】
【0002】
従来、有機化合物や無機化合物を含有する混合気体の分離、濃縮は、対象となる物質の性質に応じて、吸着分離法、吸収分離法、蒸留分離法、深冷分離法などにより行われている。しかしながら、これらの方法は、多くのエネルギーを必要とする、あるいは分離、濃縮対象の適用範囲が限定的であるといった欠点がある。
【0003】
近年、これらの方法に代わる分離方法として、膜を用いた分離方法が提案されている。膜分離法は分離の途中での相変化を殆ど伴わず、圧力差を駆動エネルギーとして、膜を透過するガスの速度差によって分離する手法である。膜分離法は、他のガス分離・精製法に比べて取り扱いも容易で設備規模も比較的小さいため低コスト・省エネルギーで目的とするガスの分離や濃縮を行うことができる。
【0004】
膜によるガス分離の方法としては、1970年代から高分子膜を用いた方法が提案されている。しかし、高分子膜は加工性に優れる特徴をもつ一方で、熱や化学物質、圧力により劣化して性能が低下するものが多く、分離、濃縮対象の適用範囲が限定的である。
【0005】
近年、これらの問題を解決すべく耐薬品性、耐酸化性、耐熱安定性、耐圧性が良好な種々の無機膜が提案されてきている。その中でもゼオライトは、サブナノメートルの規則的な細孔を有しており、分子ふるいとしての働きをもつため、選択的に特定の分子を透過でき、高分離性能を示すことができる。
【0006】
ゼオライト膜は、通常、支持体上に膜状にゼオライトを形成させたゼオライト膜複合体として分離、濃縮に用いられている。ゼオライト膜は無機材料であるため高分子膜よりも通常広い温度範囲で分離、濃縮を実施でき、更に有機化合物を含む混合物の分離にも適用できる。
【0007】
ゼオライト膜複合体を用いた分離対象としては、水素、酸素、二酸化炭素、窒素、炭化水素等が挙げられる。中でも二酸化炭素は温暖化ガスであるため、大気放散せずに分離・回収して貯蔵やあるいは化学原料等として利用することが求められている。例えば、天然ガスの精製プラントや、生ごみなどをメタン発酵させてバイオガスを発生させるプラントにおいて、二酸化炭素とメタンの分離が望まれている。また、火力発電所等から排出される二酸化炭素と窒素の分離に代表される燃焼排ガスからの二酸化炭素の分離への適用も検討されている。特に石炭を用いた火力発電では、石炭が安価であるため低コストに発電ができる一方、排ガス中に含まれる二酸化炭素が多く、低エネルギーな膜を用いた二酸化炭素の分離が望まれていた。これらを良好に分離するゼオライト膜としてはDDR(特許文献1)、SAPO-34(非特許文献1)、SSZ-13(非特許文献2)が知られている。また、二酸化炭素を良好に分離するゼオライト膜としてFAU膜(非特許文献3)も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2004-105942号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Shiguang Li et al., "Improved SAPO-34 Membranes for CO2/CH4 Separation", AIChE Journal. 2004, Vol. 50, No. 1 , 127-135
【非特許文献2】Halil Kalipcilar et al., "Synthesis and Separation Performance of SSZ-13 Zeolite Membranes on Tubular Supports", Chem. Mater. 2002, 14, 3458-3464
【非特許文献3】Xuehong Gu et al., " Synthesis of Defect-Free FAU-Type Zeolite Membranes and Separation for Dry and Moist CO2/N2 Mixtures", Ind. Eng. Chem. Res. 2005, 44, 937-944
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述した天然ガスは数MPaから数十MPaと圧力が高い。このような高圧の混合気体に対してもゼオライト膜複合体を用いて気体の分離・濃縮を行うことが期待されている。しかしながら、天然ガスのような高圧の混合気体の分離試験は、通常、実験室で行うことができず、特殊な大型の高圧ガス処理施設を使用しなければならない。ゼオライト膜複合体の良し悪しを判断するにもこの高圧ガス処理施設を使用しなければならないが、高い安全性の確認が求められる等、高圧ガス処理施設での評価が困難な場合もある。一方で、本発明者らの新たな知見によると、実験室で行う低圧の試験で高いパーミエンスを示すゼオライト膜複合体であっても、実ガスの分離・濃縮に適用した場合にはパーミエンスが維持できない場合がある。
【0011】
以上の通り、従来技術においては、実ガスの分離・濃縮工程において高いパーミエンスを維持できるゼオライト膜複合体の判別や選定が難しいという課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本願は上記課題を解決するための手段の一つとして、以下を開示する。
第1の本発明は、多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜を有するゼオライト膜複合体に、少なくとも二酸化炭素と炭化水素とを含む、常用の温度又は35℃で圧力が1MPa以上の混合気体を接触させ、該混合気体から透過性の高い気体成分を透過させる混合気体の分離又は濃縮方法であって、前記ゼオライト膜複合体は、下記のプロパン接触処理を行う前の二酸化炭素透過試験(1)における二酸化炭素のパーミエンスをPとし、下記のプロパン接触処理を行った後の二酸化炭素透過試験(2)における二酸化炭素パーミエンスをPとした場合、P/Pが0.7以上であることを特徴とする、混合気体の分離又は濃縮方法である。
【0013】
二酸化炭素透過試験(1):供給ガス圧0.2MPa、透過ガス圧0.1MPa、温度90℃の条件で、前記ゼオライト膜の表面に二酸化炭素100%の単成分ガスを供給した場合に前記ゼオライト膜を透過する二酸化炭素のパーミエンスをPとする。
【0014】
プロパン接触処理:二酸化炭素透過試験(1)の後、供給ガスを二酸化炭素100%の単成分ガスからプロパンに変更し、供給ガス圧0.1MPa、透過ガス圧0.1MPa、温度90℃の条件で、前記ゼオライト膜の表面にプロパンを供給して前記二酸化炭素を前記プロパンに置換したうえで、供給ガス圧0.4MPa、透過ガス圧0.1MPa、温度90℃の条件で、前記ゼオライト膜の表面にプロパンを30分間供給する。
【0015】
二酸化炭素透過試験(2):前記プロパン接触処理の後で、供給ガスをプロパンから二酸化炭素100%の単成分ガスに変更し、供給ガス圧0.2MPa、透過ガス圧0.1MPa、温度90℃の条件で、前記ゼオライト膜の表面に二酸化炭素100%の単成分ガスを供給した場合に前記ゼオライト膜を透過する二酸化炭素のパーミエンスをPとする。
【0016】
第2の本発明は、多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜を有するゼオライト膜複合体に、少なくとも二酸化炭素と炭化水素とを含む、常用の温度又は35℃で圧力が1MPa以上の混合気体を接触させ、該混合気体から透過性の高い気体成分を透過させる混合気体の分離又は濃縮方法であって、前記ゼオライト膜複合体は、供給ガス圧0.2MPa、透過ガス圧0.1MPa、温度40℃の条件におけるメタンのパーミエンスをPCH4、六フッ化硫黄のパーミエンスをPSF6とした場合、PCH4≦3.02×PSF6+8.19×10-9を満たす、混合気体の分離又は濃縮方法である。
なお、第2の本発明は第1の本発明に従属していても良い。
【0017】
第1の本発明および第2の本発明において、前記ゼオライト膜を構成するゼオライトが酸素8員環以下の細孔構造を有することが好ましい。
【発明の効果】
【0018】
本発明者らの新たな知見によると、ゼオライト膜表面に所定の条件でプロパンを供給した場合に、プロパン供給前の二酸化炭素のパーミエンスに対し、プロパン供給後の二酸化炭素のパーミエンスが70%以上であるゼオライト膜複合体は、実ガス試験においても二酸化炭素のパーミエンスの維持率が高い。また、所定の条件下におけるメタンのパーミエンスと六フッ化硫黄のパーミエンスとが所定の関係を満たすゼオライト膜複合体は、実ガス試験においても二酸化炭素のパーミエンスの維持率が高い。
すなわち、本開示の混合気体の分離又は濃縮方法によれば、実ガス試験においても高いパーミエンスを維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】気体分離に用いた測定装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の実施の形態について更に詳細に説明するが、以下に開示する構成要件の説明は実施態様の一例であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0021】
以下の説明において、パーミエンス(Permeance、「透過度」ともいう)とは透過する物質量を、膜面積と時間と透過する物質の供給側と透過側の分圧差の積で割ったものであり、単位は、[mol・(m・s・Pa)-1]である。
【0022】
1.混合気体の分離又は濃縮方法
本開示の混合気体の分離又は濃縮方法は、多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜を有するゼオライト膜複合体に、少なくとも二酸化炭素と炭化水素とを含む、常用の温度又は35℃で圧力が1MPa以上の混合気体を接触させ、該混合気体から透過性の高い気体成分を透過させる混合気体の分離又は濃縮方法である。常用の温度又は35℃で圧力が1MPa以上の混合気体は、高圧ガス保安法に定められた高圧ガスの定義であり、常用の温度とは、容器、装置等において通常使用される状態での温度をいう。本開示の方法においては、特定のゼオライト膜複合体を用いる点に一つの特徴がある。すなわち、本開示の方法において、ゼオライト膜複合体は、下記のプロパン接触処理を行う前の二酸化炭素透過試験(1)における二酸化炭素のパーミエンスをPとし、下記のプロパン接触処理を行った後の二酸化炭素透過試験(2)における二酸化炭素パーミエンスをPとした場合、P/Pが0.7以上である。0.74以上がより好ましく、0.75以上がさらに好ましく、0.78以上がさらに好ましく、0.8以上であることが特に好ましい。
【0023】
二酸化炭素透過試験(1):供給ガス圧0.2MPa、透過ガス圧0.1MPa、温度90℃の条件で、前記ゼオライト膜の表面に二酸化炭素100%の単成分ガスを供給した場合に前記ゼオライト膜を透過する二酸化炭素のパーミエンスをPとする。
【0024】
プロパン接触処理:二酸化炭素透過試験(1)の後、供給ガスを二酸化炭素100%の単成分ガスからプロパンに変更し、供給ガス圧0.1MPa、透過ガス圧0.1MPa、温度90℃の条件で、前記ゼオライト膜の表面にプロパンを供給して前記二酸化炭素を前記プロパンに置換したうえで、供給ガス圧0.4MPa、透過ガス圧0.1MPa、温度90℃の条件で、前記ゼオライト膜の表面にプロパンを30分間供給する。
【0025】
二酸化炭素透過試験(2):前記プロパン接触処理の後で、供給ガスをプロパンから二酸化炭素100%の単成分ガスに変更し、供給ガス圧0.2MPa、透過ガス圧0.1MPa、温度90℃の条件で、前記ゼオライト膜の表面に二酸化炭素100%の単成分ガスを供給した場合に前記ゼオライト膜を透過する二酸化炭素のパーミエンスをPとする。
【0026】
1.1.ゼオライト膜複合体
本開示の方法に用いられるゼオライト膜複合体は、多孔質支持体上に形成されたゼオライト膜を有する。以下、多孔質支持体やゼオライト膜の好ましい形態について説明する。
【0027】
1.1.1.多孔質支持体
多孔質支持体としては、その表面などにゼオライトを膜状に結晶化できるような化学的安定性があり、無機の多孔質よりなる支持体(無機多孔質支持体)であれば如何なるものであってもよい。例えば、シリカ、α-アルミナ、γ-アルミナ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化珪素、炭化珪素などのセラミックス焼結体(セラッミクス支持体)、鉄、ブロンズ、ステンレス等の焼結金属や、ガラス、カーボン成型体などが挙げられる。
【0028】
これら多孔質支持体の中で、基本的成分あるいはその大部分が無機の非金属物質から構成されている固体材料であるセラミックスを焼結したものを含む無機多孔質支持体(セラミックス支持体)が好ましい。この支持体を用いれば、ゼオライトとの結合による密着性を高める効果が期待される。
【0029】
具体的には、例えば、シリカ、α-アルミナ、γ-アルミナなどのアルミナ、ムライト、ジルコニア、チタニア、イットリア、窒化珪素、炭化珪素などを含むセラミックス焼結体(セラミックス支持体)が挙げられる。それらの中で、アルミナ、シリカ、ムライトのうち少なくとも1種を含む無機多孔質支持体が好ましい。これらの支持体を用いれば、部分的なゼオライト化が容易であるため、支持体とゼオライトの結合が強固になり緻密で分離性能の高い膜が形成されやすくなる。
【0030】
多孔質支持体の形状は、ゼオライト膜を有することで混合気体を有効に分離、濃縮できるものであれば特に制限されず、具体的には、例えば、平板状、管状のもの、または円筒状、円柱状や角柱状の孔が多数存在するハニカム状のものやモノリスなどが挙げられる。
【0031】
本開示のゼオライト膜複合体においては、かかる多孔質支持体上、すなわち支持体の表面などにゼオライトを膜状に形成させる。多孔質支持体の表面は、必要に応じて表面をやすり等で研磨してもよい。なお、多孔質支持体の表面とはゼオライトを結晶化させる表面部分を意味し、支持体の形状に応じて、どの表面であってもよく、複数の面であってもよい。例えば、円筒管の支持体の場合には外側の表面でも内側の表面でもよく、場合によっては外側と内側の両方の表面であってよい。
【0032】
多孔質支持体表面の平均細孔径は特に制限されないが、細孔径が制御されているものが好ましい。支持体表面の平均細孔径は、通常0.02μm以上、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上であり、通常20μm以下、好ましくは10μm以下、より好ましくは5μm以下である。平均細孔径が下限以上であることにより、透過量が大きくなる傾向があり、上限以下であることにより支持体自体の強度の問題が少なく、支持体表面の細孔の割合が少なく緻密なゼオライト膜が形成されやすい傾向がある。尚、多孔質支持体は、気体に対する吸着性能を実質的に有さない。すなわち、気体は多孔質支持体内の細孔を素通りする。
【0033】
多孔質支持体の平均厚さ(肉厚)は、通常0.1mm以上、好ましくは0.3mm以上、より好ましくは0.5mm以上であり、通常7mm以下、好ましくは5mm以下、より好ましくは4mm以下、更に好ましくは3mm以下である。支持体はゼオライト膜に機械的強度を与える目的で使用しているが、支持体の平均厚さが下限以上であることによりゼオライト膜複合体が十分な強度を持ちゼオライト膜複合体が衝撃や振動等に強くなる傾向がある。支持体の平均厚さが上限以下であることにより、透過した物質の拡散が良好で透過度が高くなる傾向がある。
【0034】
多孔質支持体の気孔率は、通常20%以上、好ましくは25%以上、より好ましくは30%以上であり、通常70%以下、好ましくは60%以下、より好ましくは50%以下である。支持体の気孔率は、気体を分離する際の透過流量を左右し、下限以上では透過物の拡散を阻害しにくい傾向があり、上限以下であることにより支持体の強度が向上する傾向がある。
【0035】
1.1.2.ゼオライト膜
ゼオライト膜を構成する成分としては、ゼオライト以外にシリカ、アルミナなどの無機バインダー、ポリマーなどの有機化合物、あるいは下記詳述するようなゼオライト表面を修飾するSi原子を含む材料(シリル化剤)またはその反応物などを必要に応じ含んでいてもよい。また、本発明におけるゼオライト膜は、一部アモルファス成分などを含んでいてもよい。さらに、下記詳述するようなゼオライト表面に付与される金属を含んでいてもよい。
【0036】
尚、ゼオライトとしては、アルミノ珪酸塩(アルミノシリケート)であるものが、合成可能な範囲が広く、分離に望ましい組成で製膜できる傾向がある観点で好ましい。
【0037】
ゼオライト膜の厚さは特に制限されないが、通常0.1μm以上、好ましくは0.6μm以上、より好ましくは1.0μm以上であり、通常100μm以下、好ましくは60μm以下、より好ましくは20μm以下の範囲である。膜厚が大きすぎると透過量が低下する傾向があり、小さすぎると選択性が低下したり、膜強度が低下したりする傾向がある。
ゼオライトの粒子径は特に限定されないが、小さすぎると粒界が増えるなどして透過選択性などを低下させる傾向がある。通常30nm以上、好ましくは50nm以上、より好ましくは100nm以上であり、上限は膜の厚さ以下である。さらに、ゼオライトの粒子径が膜の厚さと同じである場合が特に好ましい。
【0038】
粒子径の測定方法については特に限定されないが、一例をあげれば、SEMによるゼオライト膜表面の観察やSEMによるゼオライト膜断面の観察、TEMによるゼオライト膜の観察などによって測定することができる。
【0039】
ゼオライト膜自体のSiO/Alモル比は、通常2以上、好ましくは5以上、より好ましくは8以上、さらに好ましくは10以上、さらに好ましくは15以上、特に好ましくは20以上であり、とりわけ好ましくは25以上であり、特に好ましくは30以上であり、好ましくは2000以下、より好ましくは1000以下、さらに好ましくは500以下、特に好ましくは100以下、とりわけ好ましくは70以下である。ゼオライト膜のSiO/Alモル比がこの範囲にあるとき、親疎水性の点から上記混合気体の分離に優れた膜となる。
【0040】
ゼオライト膜自体のSiO/Alモル比は、走査型電子顕微鏡-エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)により得られた数値である。SEM-EDXにおいて、電子線の加速電圧を10kV程度として測定することにより、数ミクロンの膜のみの情報を得ることができる。ゼオライト膜は均一に形成されているので、この測定により、膜自体のSiO/Alモル比を求めることができる。
【0041】
ゼオライト膜を構成するゼオライトは、酸素12員環以下の細孔構造を有するゼオライトを含むものが好ましく、酸素10員環以下の細孔構造を有するゼオライトを含むものがより好ましく、酸素8員環以下の細孔構造を有するゼオライトを含むものがさらに好ましく、酸素6~8員環の細孔構造を有するゼオライトを含むゼオライトを含むものが特に好ましい。ここでいう酸素n員環を有するゼオライトのnの値は、ゼオライト骨格を形成する酸素とT元素(骨格を構成する酸素以外の元素)で構成される細孔の中で最も酸素の数が大きいものを示す。例えば、MOR型ゼオライトのように酸素12員環と8員環の細孔が存在する場合は、酸素12員環のゼオライトとみなす。
【0042】
酸素12員環以下の細孔構造を有するゼオライトとしては、例えば、AEI、AEL、AFI、AFG、ANA、ATO、BEA、BRE、CAS、CDO、CHA、CON、DDR、DOH、EAB、EPI、ERI、ESV、EUO、FAR、FAU、FER、FRA、HEU、GIS、GIU、GME、GOO、ITE、KFI、LEV、LIO、LOS、LTA、LTL、LTN、MAR、MEP、MER、MEL、MON、MOR、MSO、MTF、MTN、MTW、MWF、MWW、NON、NES、OFF、PAU、PHI、RHO、RTE、RTH、RUT、SGT、SOD、STI、STT、TOL、TON、TSC、UFI、VNI、WEI、YUGなどが挙げられる。
【0043】
これらのうち、酸素10員環以下の細孔構造を有するゼオライトとしては、例えば、AEI、AEL、AFG、ANA、BRE、CAS、CDO、CHA、DDR、DOH、EAB、EPI、ERI、ESV、EUO、FAR、FER、FRA、HEU、GIS、GIU、GOO、ITE、KFI、LEV、LIO、LOS、LTA、LTN、MAR、MEP、MER、MEL、MON、MSO、MTF、MTN、MWF、MWW、NON、NES、PAU、PHI、RHO、RTE、RTH、RUT、SGT、SOD、STI、STT、TOL、TON、TSC、UFI、VNI、WEI、YUGなどが挙げられる。
【0044】
さらに、酸素8員環以下の細孔構造を有するゼオライトとしては、例えば、AEI、AFG、ANA、BRE、CAS、CDO、CHA、DDR、DOH、EAB、EPI、ERI、ESV、FAR、FRA、GIS、GIU、GOO、ITE、KFI、LEV、LIO、LOS、LTA、LTN、MAR、MEP、MER、MON、MSO、MTF、MTN、MWF、NON、PAU、PHI、RHO、RTE、RTH、RUT、SGT、SOD、TOL、TSC、UFI、VNI、YUGなどが挙げられる。
【0045】
このうち、酸素6~8員環構造を有するゼオライトとしては、例えば、AEI、AFG、ANA、CHA、EAB、ERI、ESV、FAR、FRA、GIS、ITE、KFI、LEV、LIO、LOS、LTA、LTN、MAR、MWF、PAU、RHO、RTH、SOD、TOL、UFIなどが挙げられる。
【0046】
本開示のゼオライト膜複合体において、ゼオライト細孔内を二酸化炭素が容易に拡散でき、かつ細孔内に炭化水素が入りにくいように、ゼオライト細孔径を調整する観点において、酸素6~8員環構造を有し、細孔が三次元的に連結されている構造が好ましい。つまり、ゼオライト膜を構成する主たるゼオライトの好ましい構造は、AEI、AFG、CHA、EAB、ERI、ESV、FAR、FRA、GIS、ITE、KFI、LEV、LIO、LOS、LTN、MAR、PAU、RHO、RTH、SOD、TOL、UFIであり、より好ましい構造は、AEI、CHA、ERI、KFI、LEV、PAU、RHO、RTH、UFIであり、さらに好ましい構造は、CHA、RHO、MWFであり、特に好ましい構造はCHA又はMWFであり、最も好ましい構造はCHAである。
【0047】
なお、本明細書において、ゼオライトの構造は、上記のとおり、International Zeolite Association(IZA)が定めるゼオライトの構造を規定するコードで示す。
【0048】
また、ゼオライト膜を構成する主たるゼオライトのフレームワーク密度(T/1000Å)は特に制限されないが、通常17以下、好ましくは16以下、より好ましくは15.5以下、特に好ましくは15以下であり、通常10以上、好ましくは11以上、より好ましくは12以上である。
【0049】
フレームワーク密度とは、ゼオライトの1000Åあたりの、骨格を構成する酸素以外の元素(T元素)の数を意味し、この値はゼオライトの構造により決まる。なおフレームワーク密度とゼオライトとの構造の関係はATLAS OF ZEOLITE FRAMEWORK TYPES Sixth Revised Edition 2007 ELSEVIERに示されている。
【0050】
フレームワーク密度が、上記下限以上であることにより、ゼオライトの構造が脆弱となることを避け、ゼオライト膜の耐久性が高くなり、種々の用途に適用しやすくなる。また、フレームワーク密度が上記上限以下であることにより、ゼオライト中の物質の拡散が妨げられることなく、ゼオライト膜の透過流束が高くなる傾向にあり、経済的に有利である。
【0051】
ゼオライト膜の多孔質支持体への入り込みの程度は、支持体表面からの距離の加重平均値として、通常4μm以下、好ましくは3.5μm以下、より好ましくは3.0μm以下、さらに好ましくは2.7μm以下、特に好ましくは2.5μm以下、とりわけ好ましくは2.2μm以下であり、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.02μm以上、さらに好ましくは0.03μm以上である。
【0052】
表面から支持体内部へ連続体として入り込んでいるゼオライト膜の末端と支持体表面との距離は、クロスセクションポリッシャで平滑化した断面のSEM像を用いて算出する。支持体表面は以下のいずれかの方法によってゼオライトと支持体を区別し、その境界をもって支持体表面と判断する。
1)SEM像のコントラスト差異
2)EDSマッピングにおけるSi、Al信号強度比の差異
3)エッチングレートによる形状変化の差異
【0053】
連続体として入り込んでいるゼオライト膜の末端は、支持体表面から膜内部への垂線上の初めて支持体空隙が現れる部位とする。可能であれば、支持体表面に対して、最大限の画素単位毎に当該距離を算出することが望ましい。簡易的には支持体表面に対して1μmピッチで当該距離を算出することも可能である。
【0054】
このような多孔質支持体-ゼオライト膜複合体が得られればいずれの方法により製造されてもよいが、以下の様な方法を適用することが好ましい。
【0055】
入り込みを抑制した複合体は、多孔質支持体上に無機粒子を付着させた後でゼオライト膜を合成する方法で得ることができる。付着させる無機粒子を構成する元素としては特に限定されないが、SiまたはAlが含まれるものが好ましい。Si、Alはゼオライトの構成元素であり、得られるゼオライト膜の組成への影響は小さく、また膜成長への阻害も生じないと思われる。付着物は製膜過程中にゼオライト膜の原料として機能しゼオライト膜の一部となることがある。付着させる無機粒子の種類として好ましいものは、フュームドシリカ、コロイダルシリカ、無定形アルミのシリケートゲル、アルミナゾル、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、酸化アルミニウム、無定形アルミノシリケートゲル等があり、より好ましいのはフュームドシリカ、コロイダルシリカ、アルミナゾルであり、最も好ましいのはフュームドシリカである。
【0056】
ゼオライト膜は従来公知の方法で製造することができるが、特に水熱合成によって製造されることが均一な膜を製造する上で好ましい。
【0057】
例えば、ゼオライト膜は、組成を調整して均一化した水熱合成用の反応混合物(以下これを「水性反応混合物」ということがある。)を、多孔質支持体を内部に緩やかに固定した、オートクレーブなどの耐熱耐圧容器に入れて密閉して、一定時間加熱することにより調製できる。
【0058】
水性反応混合物としては、Si元素源、Al元素源、アルカリ源、および水を含み、さらに必要に応じて有機テンプレートを含んでいてもよい。
【0059】
水性反応混合物に用いるSi元素源としては、例えば、無定形シリカ、コロイダルシリカ、シリカゲル、ケイ酸ナトリウム、無定形アルミのシリケートゲル、テトラエトキシシラン(TEOS)、トリメチルエトキシシラン等を用いることができる。
【0060】
Al元素源としては、例えば、アルミン酸ナトリウム、水酸化アルミニウム、硫酸アルミニウム、硝酸アルミニウム、酸化アルミニウム、無定形アルミノシリケートゲル等を用いることができる。なお、Al元素源以外に他の元素源、例えばGa、Fe、B、Ti、Zr、Sn、Znなどの元素源を含んでいてもよい。
【0061】
ゼオライトの結晶化において、必要に応じて有機テンプレート(構造規定剤)を用いることができる。有機テンプレートを用いて合成することにより、結晶化したゼオライトのアルミニウム原子に対するケイ素原子の割合が高くなり、耐酸性、耐水蒸気性が向上する。
【0062】
有機テンプレートとしては、所望のゼオライト膜を形成し得るものであれば種類は問わず、如何なるものであってもよい。また、有機テンプレートは1種類でも、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0063】
ゼオライトがCHA型の場合、有機テンプレートとしては、通常、アミン類、4級アンモニウム塩が用いられる。例えば、米国特許第4544538号明細書、米国特許公開第2008/0075656号明細書に記載の有機テンプレートが好ましいものとして挙げられる。
【0064】
水性反応混合物に用いるアルカリ源としては、有機テンプレートのカウンターアニオンの水酸化物イオン、NaOH、KOHなどのアルカリ金属水酸化物、Ca(OH)などのアルカリ土類金属水酸化物などを用いることができる。アルカリのカウンターカチオンの種類は特に限定されず、通常、Na、K、Li、Rb、Cs、Ca、Mg、Sr、Baなどが用いられる。これらの中で、Li、Na、Kが好ましく、少なくともKを含むことがより好ましい。また、アルカリは2種類以上を併用してもよく、具体的には、NaとK、LiとKを併用するのが好ましい。ここで添加されるカウンターカチオンは、ゼオライト結晶の成長に寄与し、ゼオライト膜の成長に伴い、ゼオライト膜全体に取り込まれる。
【0065】
水性反応混合物中のSi元素源とAl元素源の比は、通常、それぞれの元素の酸化物のモル比、すなわちSiO/Alモル比として表わす。SiO/Alモル比は特に限定されないが、通常5以上、好ましくは8以上、より好ましくは10以上、更に好ましくは15以上である。また、通常10000以下、好ましくは1000以下、より好ましくは300以下、更に好ましくは100以下である。
【0066】
SiO/Alモル比がこの範囲内にあるときゼオライト膜が緻密に生成し、分離性能が高い膜となる。更に生成したゼオライトに適度にAl原子が存在するため、Alに対して吸着性を示す気体成分や液体成分では分離能が向上する。またAlがこの範囲にある場合には耐酸性、耐水蒸気が高いゼオライト膜が得られる。
【0067】
水性反応混合物中のシリカ源と有機テンプレートの比は、SiOに対する有機テンプレートのモル比(有機テンプレート/SiOモル比)で、通常0.005以上、好ましくは0.01以上、より好ましくは0.02以上であり、通常1以下、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.2以下である。
【0068】
有機テンプレート/SiOモル比が上記範囲にあるとき、緻密なゼオライト膜が生成し得ることに加えて、生成したゼオライトが耐酸性、耐水蒸気性に強くなる。なお、本発明において、「緻密」とは「欠陥が少ない」ことを意味し、高結晶性でも結晶粒子間に隙間があるもの、特にゼオライトの細孔径よりも大きい粒子間隙があることにより、ゼオライト膜における分離対象の気体の主な透過経路が間隙部分となることで、気体混合物の分離において分子ふるい作用による分離効果を十分に得ることができないものは、本発明に係る「緻密膜」には該当しない。
一方、結晶性が多少低くても、結晶粒子同士が密に集まっていれば「緻密膜」に該当する。
【0069】
Si元素源とアルカリ源の比は、M(2/n)O/SiO(ここで、Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属を示し、nはその価数1または2を示す。)モル比で、通常0.02以上、好ましくは0.04以上、より好ましくは0.05以上であり、通常0.5以下、好ましくは0.4以下、より好ましくは0.3以下である。M(2/n)O/SiOの好ましい範囲は水性混合物中のSiO/Alモル比によって、適宜調整することが望ましく、SiO/Alモル比が30より大きい場合の上限としては、0.20以下、より好ましくは0.12以下、さらに好ましくは0.09以下、さらに好ましくは0.08以下、さらに好ましくは0.07以下である。なお、M/Siモル比(Mはアルカリ金属またはアルカリ土類金属)として記載した場合、1価であるアルカリ金属は上記の値の2倍の値となり、2価であるアルカリ土類金属は上記と同じ値となる。
【0070】
Si元素源と水の比は、SiOに対する水のモル比(HO/SiOモル比)で、通常10以上、好ましくは30以上、より好ましくは40以上、特に好ましくは50以上であり、通常1000以下、好ましくは500以下、より好ましくは200以下、特に好ましくは150以下である。
【0071】
水性反応混合物中の物質のモル比がこれらの範囲にあるとき、緻密なゼオライト膜が生成し得る。水の量は緻密なゼオライト膜の生成においてとくに重要であり、粉末合成法の一般的な条件よりも水がシリカに対して多い条件のほうが緻密な膜ができやすい傾向にある。
【0072】
さらに、水熱合成に際して、必ずしも反応系内に種結晶を存在させる必要は無いが、種結晶を加えることで、支持体上にゼオライトの結晶化を促進できる。種結晶を加える方法としては特に限定されず、粉末のゼオライトの合成時のように、水性反応混合物中に種結晶を加える方法や、支持体上に種結晶を付着させておく方法などを用いることができる。
【0073】
ゼオライト膜複合体を製造する場合は、支持体上に種結晶を付着させておくことが好ましい。支持体上に予め種結晶を付着させておくことで緻密で分離性能良好なゼオライト膜が生成しやすくなる。
【0074】
支持体上に種結晶を付着させる方法は特に限定されず、例えば、種結晶を水などの溶媒に分散させてその分散液に支持体を浸けて種結晶を付着させるディップ法や、種結晶を水などの溶媒と混合してスラリー状にしたものや種結晶そのものを支持体上に塗りこむ方法などを用いることができる。種結晶の付着量を制御し、再現性よく膜複合体を製造するにはディップ法が望ましい。
【0075】
種結晶を分散させる溶媒は特に限定されず、水、種々の有機溶媒が使用できる。水に酸やアルカリを添加しpHを調整してもよい。水性反応混合物中のSi元素源とAl元素源の比が比較的低い場合、すなわちSiO/Alが30以下の場合には、ガス透過性が良好なゼオライト膜を得る観点からはアルカリを添加した種結晶を用いることが好ましい。SiO/Alが30より大きい場合には特に限定されないが、簡易に取り扱いができる点で、特に水が好ましい
【0076】
分散させる種結晶の量は特に限定されず、分散液の全質量に対して、通常0.01質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは0.3質量%以上であり、通常20質量%以下、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、さらに好ましくは4質量%以下、とくに好ましくは3質量%以下である。
【0077】
分散させる種結晶の量が少なすぎると、支持体上に付着する種結晶の量が少ないため、水熱合成時に支持体上に部分的にゼオライトが生成しない箇所ができ、欠陥のある膜となる可能性がある。ディップ法によって支持体上に付着する種結晶の量は分散液中の種結晶の量がある程度以上でほぼ一定となるため、分散液中の種結晶の量が多すぎると、種結晶の無駄が多くなりコスト面で不利である。
【0078】
支持体にディップ法あるいはスラリーの塗りこみによって種結晶を付着させ、乾燥した後にゼオライト膜の形成を行うことが望ましい。
【0079】
支持体上に予め付着させておく種結晶の量は特に限定されず、基材1mあたりの質量で、通常0.01g以上、好ましくは0.05g以上、より好ましくは0.1g以上であり、通常100g以下、好ましくは50g以下、より好ましくは10g以下、更に好ましくは8g以下である。
【0080】
種結晶の量が下限未満の場合には、結晶ができにくくなり、膜の成長が不十分になる場合や、膜の成長が不均一になったりする傾向がある。また、種結晶の量が上限を超える場合には、表面の凹凸が種結晶によって増長されたり、支持体から落ちた種結晶によって自発核が成長しやすくなって支持体上の膜成長が阻害されたりする場合がある。何れの場合も、緻密なゼオライト膜が生成しにくくなる傾向となる。
【0081】
水熱合成により支持体上にゼオライト膜を形成する場合、支持体の固定化方法に特に制限はなく、縦置き、横置きなどあらゆる形態をとることができる。この場合、静置法でゼオライト膜を形成させてもよいし、水性反応混合物を攪拌させてゼオライト膜を形成させてもよい。
【0082】
ゼオライト膜を形成させる際の温度は特に限定されないが、通常100℃以上、好ましくは120℃以上、更に好ましくは150℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは190℃以下、さらに好ましくは180℃以下である。反応温度が低すぎると、ゼオライトが結晶化し難くなることがある。また、反応温度が高すぎると、本発明におけるゼオライトとは異なるタイプのゼオライトが生成し易くなることがある。
【0083】
加熱時間は特に限定されないが、通常1時間以上、好ましくは5時間以上、更に好ましくは10時間以上であり、通常10日間以下、好ましくは5日以下、より好ましくは3日以下、さらに好ましくは2日以下である。反応時間が短すぎるとゼオライトが結晶化し難くなることがある。反応時間が長すぎると、求めるゼオライトとは異なるタイプのゼオライトが生成し易くなることがある。
【0084】
ゼオライト膜形成時の圧力は特に限定されず、密閉容器中に入れた水性反応混合物を、この温度範囲に加熱したときに生じる自生圧力で十分である。さらに必要に応じて、窒素などの不活性気体を加えても差し支えない。
【0085】
水熱合成により得られたゼオライト膜複合体は、水洗した後に、加熱処理して、乾燥させる。ここで、加熱処理とは、熱をかけてゼオライト膜複合体を乾燥又は有機テンプレートを使用した場合に有機テンプレートを焼成することを意味する。
【0086】
加熱処理の温度は、乾燥を目的とする場合、通常50℃以上、好ましくは80℃以上、より好ましくは100℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは150℃以下である。また、有機テンプレートの焼成を目的とする場合、通常350℃以上、好ましくは400℃以上、より好ましくは430℃以上、さらに好ましくは480℃以上であり、通常900℃以下、好ましくは850℃以下、より好ましくは800℃以下、さらに好ましくは750℃以下である。
【0087】
有機テンプレートの焼成を目的とする場合には、加熱処理の温度が低すぎると有機テンプレートが残っている割合が多くなる傾向があり、ゼオライトの細孔が少なく、そのために分離・濃縮の際の透過度が減少する可能性がある。加熱処理温度が高すぎると支持体とゼオライトの熱膨張率の差が大きくなるためゼオライト膜に亀裂が生じやすくなる可能性があり、ゼオライト膜の緻密性が失われ分離性能が低くなることがある。
【0088】
加熱時間は、ゼオライト膜が十分に乾燥、または有機テンプレートが焼成する時間であれば特に限定されず、好ましくは0.5時間以上、より好ましくは1時間以上である。上限は特に限定されず、通常200時間以内、好ましくは150時間以内、より好ましくは100時間以内である。有機テンプレートの焼成を目的とする場合の加熱処理は空気雰囲気で行えばよいが、Nなどの不活性気体や酸素を付加した雰囲気で行ってもよい。
【0089】
水熱合成を有機テンプレートの存在下で行った場合、得られたゼオライト膜複合体を、水洗した後に、例えば、加熱処理や抽出などにより、好ましくは加熱処理、すなわち焼成により有機テンプレートを取り除くことが適当である。
【0090】
有機テンプレートの焼成を目的とする加熱処理の際の昇温速度は、支持体とゼオライトの熱膨張率の差がゼオライト膜に亀裂を生じさせることを少なくするために、なるべく遅くすることが望ましい。昇温速度は、通常5℃/分以下、好ましくは2℃/分以下、さらに好ましくは1℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下である。通常、作業性を考慮し0.1℃/分以上である。
【0091】
また、焼成後の降温速度もゼオライト膜に亀裂が生じることを避けるためにコントロールする必要がある。昇温速度と同様、遅ければ遅いほど望ましい。降温速度は、通常5℃/分以下、好ましくは2℃/分以下、より好ましくは1℃/分以下、特に好ましくは0.5℃/分以下である。通常、作業性を考慮し0.1℃/分以上である。
【0092】
ゼオライト膜は、必要に応じてイオン交換してもよい。イオン交換は、有機テンプレートを用いて合成した場合は、通常、有機テンプレートを除去した後に行う。イオン交換することにより、用いるイオンのサイズに応じて、有効細孔径、有効容積、また吸着特性を調整することができる。イオン交換するイオンとしては、ゼオライトの細孔径、イオン交換サイト量、及び対象の分離ガスのサイズに応じて選択することができるが、プロトン、Na、K、Liなどのアルカリ金属イオン、Ca2+、Mg2+、Sr2+、Ba2+などの第2族元素イオン、Fe、Cuなどの遷移金属のイオン、Al、Ga、Znなどのその他の金属のイオンなどが挙げられる。好ましくは第2族元素イオンであり、より好ましくはCa2+である。尚、イオン交換により導入される金属イオンと、後述の二酸化炭素吸着性能を高めるためにゼオライト膜表面に付着される金属とでは、その作用効果が異なる。ゼオライト骨格を形成するAlはSi4+がAl3+で同型置換されたもので、Alが低原子価であるため、負の電荷が生じるが、イオン交換により導入された金属イオンは、電荷を中性に保つためゼオライト骨格中に導入されたAl原子近傍のゼオライト細孔内に存在する。イオン交換処理後、ゼオライト膜表面に残存した処理溶液は洗浄され、ゼオライト骨格との静電相互作用を持たない金属イオンは除去される。そのため、ゼオライト膜内部をガス分子が拡散する際に、ゼオライト細孔径の大小や、ガス分子の吸着性に影響し、ゼオライト膜の分子篩能や透過係数には影響するが、ゼオライト膜表面におけるガス分子の吸脱着性に対する影響は小さい。一方、後述のゼオライト膜表面に付着される金属は、ゼオライト膜表面に塗布等によって付着され、ゼオライト骨格の電荷補償をするか否かに関わらず、ゼオライト膜表面に一様に保持される。ゼオライト内部におけるガス分子の挙動には影響しないが、ゼオライト膜表面において特定のガス分子を吸脱着することにより、複数のガス種を含む混合ガスの分離において、特定のガス分子へのゼオライト膜表面への吸着に寄与することで、そのガス種の透過性能を向上する効果が期待される。
【0093】
イオン交換は、焼成後(有機テンプレートを使用した場合など)のゼオライト膜を、NHNO、NaNOなどアンモニウム塩あるいは交換するイオンを含む水溶液、場合によっては塩酸などの酸で、通常、室温から100℃の温度で処理後、水洗する方法などにより行えばよい。水溶液のイオン濃度、処理温度および、処理時間を適宜選定することで、イオン交換の度合いを制御することができる。イオン交換はイオンが接触した箇所から起こるため、短時間の処理では膜の表面付近がイオン交換され、時間を長くするにつれて、膜の内部、すなわち膜厚方向のイオン交換が進行すると考えられる。イオン交換の度合いは、目的とする膜性能によって適宜調整することができる。イオン交換するゼオライト膜のSiO/Alモル比は特に限定されないが、SiO/Alモル比が低い方が、交換されるイオン数が多いという観点から、イオン交換の効果が得られやすい。イオン交換後は通常乾燥するが、さらに、必要に応じて200℃~500℃で焼成してもよい。焼成を行うことで、洗浄によって除去しきれなかったアニオン由来の化学種、例えばNO -由来の化学種を除去することができる。残存するアニオン由来の化学種は透過抵抗になっている場合、焼成によって除去されることで、透過性能を向上させることができる。また、NHNOでイオン交換した場合にはNH イオンをHイオンに変更することができる。Hイオンに変更することにより細孔内部のイオンが小さくなり有効細孔容積が大きくなることで透過性能が向上することがある。残存アニオンを除去する場合は、酸化除去できるという観点から酸素を含んだガスが望ましく、取り扱いやすさの観点から空気が望ましい。
【0094】
かくして得られる多孔質支持体-ゼオライト膜複合体(加熱処理後のゼオライト膜複合体)の空気透過量[L/(m・h)]は、通常1400L/(m・h)以下、好ましくは1000L/(m・h)以下、より好ましくは700L/(m・h)以下、より好ましくは600L/(m・h)以下、さらに好ましくは500L/(m・h)以下、特に好ましくは300L/(m・h)以下、もっとも好ましくは200L/(m・h)以下である。透過量の下限は特に限定されないが、通常0.01L/(m・h)以上、好ましくは0.1L/(m・h)以上、より好ましくは1L/(m・h)以上である。
【0095】
ここで、空気透過量とは、後述するとおり、ゼオライト膜複合体を絶対圧5kPaの真空ラインに接続した時の空気の透過量[L/(m・h)]である。
【0096】
本発明においてゼオライト膜複合体は、膜表面にX線を照射して得たX線回折のパターンにおいて、2θ=17.9°付近のピークの強度が、2θ=20.8°付近のピークの 強度の0.5倍未満であることがガス透過性能が高い観点から好ましい。
【0097】
ここで、ピークの強度とは、測定値からバックグラウンドの値を引いたものをさす。(2θ=17.9°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)で表されるピーク強度比(以下これを「ピーク強度比A」ということがある。)でいえば、通 常0.5未満、好ましくは0.45以下である。下限は特に限定されないが、通常0.001以上である。
【0098】
また、本発明においてゼオライト膜複合体は、X線回折のパターンにおいて、2θ=9.6°付近のピークの強度が、2θ=20.8°付近のピークの強度の2.0倍以上4.0倍未満の大きさであることがガス透過性能が高い観点から好ましい。
【0099】
(2θ=9.6°付近のピークの強度)/(2θ=20.8°付近のピークの強度)で表されるピーク強度比(以下これを「ピーク強度比B」ということがある。)でいえば、通常2.0以上、好ましくは2.1以上、より好ましくは2.3以上、特に好ましくは2.5以上である。上限は、通常4.0未満、好ましくは3.9以下、より好ましくは3.7以下、特に好ましくは3.5以下である。
【0100】
ここでいうX線回折パターンとは、ゼオライトが主として付着している側の表面にCuKαを線源とするX線を照射して、走査軸をθ/2θとして得るものである。測定するサンプルの形状としては、膜複合体のゼオライトが主として付着している側の表面にX線が照射できるような形状なら何でもよく、膜複合体の特徴をよく表すものとして、作製した 膜複合体そのままのもの、あるいは装置によって制約される適切な大きさに切断したものが好ましい。
【0101】
ここでいうX線回折パターンは、ゼオライト膜複合体の表面が曲面である場合には自動可変スリットを用いて照射幅を固定して測定してもかまわない。自動可変スリットを用いた場合のX線回折パターンとは、可変→固定スリット補正を実施したパターンを指す。
【0102】
ここで、2θ=17.9°付近のピークとは、基材に由来しないピークのうち17.9°±0.6°の範囲に存在するピークのうち最大のものを指す。
【0103】
2θ=20.8°付近のピークとは、基材に由来しないピークのうち20.8°±0.6°の範囲に存在するピークで最大のものを指す。
【0104】
2θ=9.6°付近のピークとは、基材に由来しないピークのうち9.6°±0.6°の範囲に存在するピークのうち最大のものを指す。
【0105】
なおX線回折パターンで2θ=9.6°付近のピークは、CHA構造において指数が(1,0,0)の面に由来するピークである。また、X線回折パターンで2θ=17.9°付近のピークは、CHA構造において指数が(1,1,1)の面に由来するピークである。
【0106】
1.1.3.二酸化炭素の透過維持性能
本開示のゼオライト膜複合体は、上記のプロパン接触処理の前の二酸化炭素透過試験(1)においてゼオライト膜を透過する二酸化炭素のパーミエンスをPとし、上記のプロパン接触処理の後の二酸化炭素透過試験(2)においてゼオライト膜を透過する二酸化炭素のパーミエンスをPとした場合、P/Pが0.7以上であることが重要である。0.74以上がより好ましく、0.75以上がさらに好ましく、0.78以上がさらに好ましく、0.8以上が特に好ましい。本発明者らの新たな知見によれば、プロパン接触処理後において、処理前と比較して0.7以上、すなわち70%以上の二酸化炭素のパーミエンスの維持率を確保できるゼオライト膜複合体は、不純物を含む実ガスの分離又は濃縮に適用した場合においてもパーミエンスの低下が小さい。0.74以上、すなわち74%以上であればよりその効果が発現され、0.75以上、すなわち75%であればさらにその効果が発現され、0.78以上、すなわち78%以上であればさらにその効果が発現され、0.8以上、すなわち80%以上であれば特にその効果を顕著に発揮する。このことから、本開示の方法は、例えば、高圧の天然ガスに対して、当該天然ガスに含まれる炭化水素と二酸化炭素とを分離・濃縮する方法として好適である。
【0107】
本開示のゼオライト膜複合体は、上記の二酸化炭素透過試験(1)におけるパーミエンスPが、例えば、1.0×10-8mol・(m・s・Pa)-1以上1.0×10-4mol・(m・s・Pa)-1以下であることが好ましい。下限がより好ましくは1.0×10-7mol・(m・s・Pa)-1以上であり、上限がより好ましくは1.0×10-5mol・(m・s・Pa)-1以下である。ゼオライト膜複合体における二酸化炭素の透過性がこのような範囲の場合、実ガス試験において混合気体から少なくとも二酸化炭素をより適切に分離又は濃縮することができる。
【0108】
尚、上記の二酸化炭素透過試験(1)及び(2)において、二酸化炭素の流速(ゼオライト膜表面における線速)は特に限定されるものではない。ゼオライト膜複合体に対して単成分ガスを透過させる場合、「供給ガス及び透過ガスの差圧(又は、供給ガス圧及び透過ガス圧のそれぞれ)」と「温度」との2つが明確であれば、ガスのパーミエンスは一定となるためである。
【0109】
また、上記のプロパン接触処理において、プロパン置換時間については特に限定されるものではない。プロパン置換時は、供給側圧力と透過側圧力とが0.1MPaと等しいためプロパンによるゼオライト膜の劣化は実質的に生じない(生じたとしても無視できる程度である)ためである。また、プロパン接触処理において、プロパンの流速(ゼオライト膜表面における線速)は特に限定されるものではない。供給ガス及び透過ガスの差圧(又は、供給ガス圧及び透過ガス圧のそれぞれ)と温度との2つの条件が同一であれば、プロパン接触処理によるゼオライト膜複合体の変化は実質的に同一となる。
上記のプロパン接触処理を行うことによって、プロパンがどの程度ゼオライト細孔内に一部、また全部が侵入し、二酸化炭素の透過を阻害するかを確認することができる。この試験で二酸化炭素のパーミエンスの低下が小さいことは、ゼオライト細孔がプロパンが入らない程度の大きさに制御されていることを意味し、不純物が存在する実ガス試験において、高いパーミエンスを維持できるゼオライト膜複合体であることが分かる。
【0110】
1.1.4.メタン透過性能及び六フッ化硫黄透過性能
本開示のゼオライト膜複合体は、供給ガス圧0.2MPa、透過ガス圧0.1MPa、温度40℃の条件におけるメタンのパーミエンスをPCH4、六フッ化硫黄のパーミエンスをPSF6とした場合、PCH4≦3.02×PSF6+8.19×10-9を満たすことが好ましい。より好ましくはPCH4≦3.02×PSF6+7.19×10-9、さらに好ましくはPCH4≦3.02×PSF6+6.19×10-9を満たすことが好ましい。より具体的には、本開示のゼオライト膜複合体は、例えば、供給ガス圧0.2MPa、透過ガス圧0.1MPa、温度40℃の条件で、ゼオライト膜の表面に二酸化炭素100%の単成分ガスを供給し、二酸化炭素の透過量が安定するまで乾燥した後、供給ガスをメタンに変更し、供給ガス圧0.2MPa、透過ガス圧0.1MPa、温度40℃の条件で、前記ゼオライト膜の表面にメタンを供給し、メタンの透過量が安定したときの前記ゼオライト膜を透過するメタンのパーミエンスをPCH4とし、供給ガスをメタンから六フッ化硫黄に変更し、供給ガス圧0.2MPa、透過ガス圧0.1MPa、温度40℃の条件で、ゼオライト膜の表面に六フッ化硫黄を供給し、六フッ化硫黄の透過量が安定したときの前記ゼオライト膜を透過する六フッ化硫黄のパーミエンスをPSF6とした場合、PCH4≦3.02×PSF6+8.19×10-9を満たすことが好ましい。より好ましくはPCH4≦3.02×PSF6+7.19×10-9、さらに好ましくはPCH4≦3.02×PSF6+6.19×10-9を満たすことが好ましい。ここで、3.02はKnudsen拡散領域におけるメタンと六フッ化硫黄とのパーミエンス比である。ゼオライト膜の欠陥の幅が小さいとき、欠陥を透過するガス分子はKnudsen拡散することが知られており、六フッ化硫黄はゼオライト膜の欠陥のみを透過することから、欠陥を透過するメタンのパーミエンスは3.02×PSF6で算出される。ここで欠陥はゼオライト粒子間の間隙を意味し、そのため、欠陥が小さいとはゼオライト粒子間隙の幅が小さいこと、欠陥が大きいとはゼオライト粒子間隙の幅が大きいことを意味する。そのため、PCH4から3.02×PSF6を引いた値、つまり上の式の切片はゼオライト細孔を透過するメタンのパーミエンスと見なすことができる。ゼオライト細孔径が大きいほどメタンが細孔内を透過しやすいためこの値は大きくなり、ゼオライト細孔径が小さいほどメタンが細孔内を透過しにくいためこの値は小さくなると考えられる。以上から、PCH4とPSF6とがこのような関係を満たすゼオライト膜複合体は、ゼオライト細孔を透過するメタンのパーミエンスが十分に小さく、ゼオライト膜の細孔径が、メタンに代表される炭化水素が入らない程度の大きさに制御されており、実ガス試験において高いパーミエンスを維持し易い。
【0111】
本発明者らの推測では、天然ガス等の実ガスを分離・濃縮対象とする高圧試験においてパーミエンスを低下させる要因として、(i)ゼオライト膜の表面近傍への気体(例えば、炭化水素、特に炭素数2以上の炭化水素、例えばプロパン)の吸着による細孔の閉塞、及び、(ii)ゼオライト膜の細孔内部への気体(例えば、炭化水素、特に炭素数2以上の炭化水素、例えばプロパン)の吸着による細孔の閉塞の2つの要因がある。本発明者らの知見では、プロパン接触処理前後において二酸化炭素のパーミエンスが70%以上を維持できるゼオライト膜複合体は、天然ガス等の実ガスを分離・濃縮対象とする高圧試験においてゼオライト膜の表面近傍における炭化水素による細孔の閉塞を回避できる。74%以上であればよりその効果が発現され、75%であればさらにその効果が発現され、78%以上であればさらにその効果が発現され、80%以上であれば特にその効果を顕著に発揮する。また、上記のメタン透過性能及び六フッ化硫黄透過性能を有するゼオライト膜複合体は細孔径が最も好ましい範囲に制御されたものといえ、ゼオライト膜の細孔内部へのプロパン等の侵入を一層適切に抑制できる。
【0112】
1.1.5.二酸化炭素吸着性能
本開示のゼオライト膜複合体は、所定条件下におけるゼオライト膜の単位面積あたりの二酸化炭素の脱離量が0.085μmol/cm以上であり、ゼオライト膜の二酸化炭素吸着性が高く、かつ、吸着した二酸化炭素の脱着性も高いことに一つの特徴がある。
【0113】
ゼオライト膜の二酸化炭素吸着性能は、ゼオライト膜に吸着した二酸化炭素を、膜複合体を加熱することで脱離させ、膜面積当たりに脱離した二酸化炭素の量を測定することで評価する。具体的には以下の方法で測定する。
【0114】
まず測定に用いるゼオライト膜複合体のゼオライト膜の面積を算出する。膜面積は、例えばゼオライト膜複合体が真円のチューブ状であり、チューブの外側に膜が形成されている場合は、ゼオライト膜複合体の外径と長さから算出する。チューブを縦に割って測定に用いる場合等では、ノギスを用いて各長さを測定し、膜面積を算出することができる。モノリス型では膜が形成されている孔の内径と長さからから算出する。
【0115】
測定するゼオライト膜複合体は大気に接触した状態で室温(20℃)において5時間以上放置した後に、ゼオライト膜複合体をチャンバーの中に入れて、ボンベからHeを大気圧、室温にて40cc/minでフローする。Heを40cc/minでフローしながら、チャンバーを加熱し、40℃/minの速度で室温から昇温する。昇温時に膜から脱離する成分をMS測定し、100℃から300℃までの間に検出したM/z44(μmol/g)の量を算出する。算出は所定量のCOガスを測定経路にパルス導入して求めたガス体積と面積の検量線を各測定後に作成し、これに本測定で得られたM/z44の面積を導入することで実施する。なお、MS検出値は1回/s以上出力するものとする。
【0116】
ここで、チャンバーは直径12mm×長さ250mm以下、且つ肉厚1.2mm以下の円筒形とし、材質は石英とする。加熱は赤外線加熱方式で行う。なお、温度計は石英チャンバーの赤外線照射部中央部に接続されており試料外部の温度を測定するものとする。
【0117】
本開示のゼオライト膜複合体においては、上記のようにして得られたゼオライト膜の単位面積あたりの二酸化炭素脱離量が0.085μmol/cm以上であり、好ましくは0.10μmol/cm以上、より好ましくは0.115μmol/cm以上、さらに好ましくは0.130μmol/cm以上、特に好ましくは0.145μmol/cm以上、とりわけ好ましくは0.160μmol/cm以上である。上限は特に設定されないが、好ましくは0.3μmol/cm以下、より好ましくは0.2μmol/cm以下である。
【0118】
1.1.6.二酸化炭素透過性能
本開示のゼオライト膜複合体は、二酸化炭素100%の単成分ガスを供給ガス圧0.2MPa、透過ガス圧0.1MPa、前記ゼオライト膜及び前記単成分ガスの温度を30℃とし、二酸化炭素の透過量が安定したときの前記ゼオライト膜を透過する二酸化炭素のパーミエンスをPとし、その後、供給ガスを二酸化炭素と窒素とのモル比が50:50の混合ガスに変更し、該混合ガスを0.4MPaの圧力で前記ゼオライト膜表面における線速が60cm/sとなるように供給し、透過ガス圧を0.1MPaとし、前記ゼオライト膜及び前記混合ガスの温度を30℃としたときの前記ゼオライト膜を透過する二酸化炭素のパーミエンスをPとした場合に、P/Pが0.75以上であることが好ましい。
二酸化炭素100%の単成分ガスと比較して、二酸化炭素と窒素の混合ガスでは、窒素も細孔内に入る一方で、窒素の透過が二酸化炭素と比較して遅いため、二酸化炭素のパーミエンスが低下すると考えられる。細孔内に入りやすいガスを用いる方が、細孔内に入りにくいガスを用いるよりも、二酸化炭素吸着の効果が見えやすいため、二酸化炭素が吸脱着する強さに関して、より効果を確実に確かめられる。
本開示のゼオライト膜複合体は、上述の通り、二酸化炭素吸着性能が高められていることで、二酸化炭素を含む混合気体の分離又は濃縮を行う場合にゼオライト膜の二酸化炭素透過性能を高く維持することができる。
【0119】
このように、本開示のゼオライト分離膜は、ゼオライト膜の二酸化炭素の吸着性と脱着性に優れるため、二酸化炭素を含む混合気体の分離又は濃縮を行う場合に、実用上十分な処理量と分離性能とを両立することができる。
【0120】
本開示のゼオライト分離膜を、二酸化炭素を含む混合気体の分離又は濃縮に用いると、効率的に二酸化炭素を分離または濃縮することができ、所望の成分を富化したガスを製造することができる。この場合、分離または濃縮の対象となる混合物としては、例えば、酸素、窒素、メタン、エタン、エチレン、プロパン、プロピレン、ノルマルブタン、イソブタン、1-ブテン、2-ブテン、イソブテン、六フッ化硫黄、ヘリウム、一酸化炭素、一酸化窒素、水などから選ばれる少なくとも1種の成分と二酸化炭素とを含むものが挙げられる。特に、二酸化炭素に加えて、メタン及びヘリウムを含有する混合気体、二酸化窒素を含有する混合気体などが挙げられ、空気、天然ガス、燃焼気体やコークスオーブンガス、ごみ埋め立て場から発生するランドフィルガスなどのバイオガス、石油化学工業で生成、排出されるメタンの水蒸気改質ガスなどの分離または濃縮に使用することができる。これら混合気体の分離や濃縮の条件は、対象とする気体種や組成等に応じて、それ自体既知の条件を採用すればよい。
【0121】
1.1.7.ゼオライト膜の表面処理
本発明者らの新たな知見によると、実ガスを分離又は濃縮する場合に二酸化炭素透過性能を維持できるゼオライト膜複合体は、ゼオライト膜の細孔径を適切に制御することで実現できる。例えば、ゼオライト膜表面に金属種を付与する方法や、シリル化処理などの表面処理などに例示されるその他の方法で容易に得ることができる。すなわち、本開示のゼオライト膜複合体の製造方法は、多孔質支持体上にゼオライト膜を形成する工程と、ゼオライト膜の表面に金属種を付与またはシリル化処理等の表面処理を行う工程と、を備えることが好ましい。更に、本開示のゼオライト膜複合体の製造方法においては、上記の二酸化炭素透過性能やメタン透過性能を満たすように、ゼオライト膜表面に付与する金属種の量を制御することが好ましい。上述の通り、ゼオライト膜表面近傍に金属種を付与してゼオライト膜の細孔径を狭小化することで、細孔内部へ炭化水素等の侵入を抑制でき、炭化水素による細孔の閉塞を一層抑制可能と考えられる。なお、通常、ゼオライトの細孔径を狭小化することにより、ガス分子がゼオライト細孔内を拡散しにくくなることから、ゼオライト膜の膜厚方向全体に上記のような処理を行うと、ゼオライト膜の透過性能が低下することが予想される。本処理においては、分離対象となるガスがゼオライト膜に最初に接するゼオライト膜最表面において細孔径を適切に制御することにより、ゼオライト膜全体の透過性能は高く維持したまま、細孔内部への炭化水素等の侵入を抑制できる利点がある。ここで、最表面とはゼオライト膜の外表面から内部に数十nm程度のことを意味する。処理は数十nm以上となってもよいが、透過性能が低下する傾向にある。
【0122】
金属種をゼオライト膜表面に付与する方法としては特に限定されないが、蒸着により金属を付着させる方法、スパッタにより金属を付着させる方法、金属塩を溶解させた液を付着させる方法がある。金属塩を溶解させた液を付着させる方法としては、ディップする方法、塗布する方法、スプレーする方法等がある。安価に均一に付着させるという観点からは金属塩水溶液にディップする方法が好ましい。分離性能を高めながら、透過性能を低下させないようにするため、金属種をゼオライト膜表面に付与する際には、ゼオライト膜の、分離対象のガスに面する側のみを処理することが好ましい。ゼオライト膜がチューブ状の支持体に生成されている場合には、例えば膜複合体の上下端にキャップをして支持体内部にイオンを含む水溶液が入らないようにしてディップ処理することで、分離対象ガスに面する側のみを処理することができる。
【0123】
シリル化の方法も特に限定されないが、金属処理と同様にシリル化を含む液にディップする方法、塗布する方法、スプレーする方法等がある。またシリル化剤の沸点によっては気相でシリル化することもできる。二酸化炭素が吸着しやすいという観点からはアミノ基を有するシリル化剤を用いることが好ましい。例えばアミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシラン等が用いられる。
【0124】
ゼオライトの細孔のサイズとイオンサイズの組み合わせにより金属の種類は適宜選択できるが、細孔サイズを大きく変化させたい場合はサイズの大きな金属が好ましく、第6周期、第5周期、第4周期のアルカリ金属、アルカリ土類金属が好ましい。また細孔をわずかに調整したい場合には、第2周期、第3周期アルカリ金属、アルカリ土類金属や、遷移金属が好ましい。例えば、Li、Na、K、Rb、Cs、Mg、Ca、Ba、Sr、La、Ti、Zr、Hr、V、Nb、Ta、Cr、Mo、W、Fe、Ni、Pd、Pt、Cu、Ga等が用いられる。ゼオライトの細孔のサイズとイオンサイズの組み合わせにより金属の種類は適宜選択できるが、細孔サイズを大きく変化させたい場合はサイズの大きな金属が好ましく、第6周期、第5周期、第4周期のアルカリ金属、アルカリ土類金属が好ましい。また細孔をわずかに調整したい場合には、第2周期、第3周期のアルカリ金属、アルカリ土類金属や、遷移金属が好ましい。
【0125】
付着させる金属種としては金属あるいはその金属化合物自体に二酸化炭素の吸着性があるもの、ゼオライトのイオン交換サイトにイオンとして入り二酸化炭素吸着性を示すもの、ゼオライトのシラノールと作用して二酸化炭素吸着性を示すものが好ましい。この観点からはLi、Cs、Mg、Ca、Ba、Sr、La、Cuである。さらに酸化物として塩基性を示し、二酸化炭素を吸着する機能が加わる観点から、より好ましくは第2族元素でありCO脱着温度が低い点で、更に好ましくはMg、Caであり、特に好ましくはCaである。これらの金属は2種類以上を併用してもよい。2種類以上を併用する際には、ゼオライト膜に当該2種類以上の金属種を同時に付与してもよいし、逐次的に順に付与してもよい。
使用するゼオライトの種類、及び金属種の種類により、金属種の存在する位置や、ゼオライト細孔中の架橋有無が異なるため、上記のPCH4≦3.02×PSF6+8.19×10-9を満たすようにこれらを適切に組み合わせて用いることが好ましい。
【0126】
ゼオライト膜に金属塩溶液を付着させる場合、塩の種類としては特に限定されないが、硝酸塩、亜硝酸塩、硫酸塩、亜硫酸塩、塩酸塩、炭酸塩、酢酸塩、リン酸塩、カルボン酸塩等が使用できる。必要な溶解度が得られるものを考慮して選定すればよいが、これらの中ではpHが中性に近くなるという観点から硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩が好ましい。
【0127】
金属塩を溶解させる溶媒としては、金属塩を溶解させることができれば特に限定されないが通常、水やメタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール類、ジメチルケトン、メチルエチルケトン、ジエチルケトン等のケトン類を使用することができる。これらの溶媒は単独で用いてもよいし、任意の割合で混合して用いてもよい。
【0128】
金属塩溶液を付着させる場合、溶液の金属塩濃度は特に限定されないが、通常0.001M以上、好ましくは0.005以上、より好ましくは0.01以上、さらに好ましくは0.02M以上、特に好ましくは0.03M以上、とりわけ好ましくは0.05M以上である。濃度が低すぎると金属付着量が不足し、二酸化炭素の吸着性が十分に得られない場合がある。また上限は特に限定されないが、金属量付着量が過剰になり透過性能が低下する場合や、付着ムラが生じる場合があるため通常20M以下、好ましくは15M以下、より好ましくは10M以下、さらに好ましくは5M以下である。
【0129】
通常、金属塩溶液を付着させた後は溶液を蒸発させるための乾燥処理を行う。乾燥させる温度は限定されないが、通常20℃以上、好ましくは30℃以上であり、通常200℃以下、好ましくは150℃以下である。温度が低すぎると乾燥に時間がかかり、また十分に乾燥されない場合がある。温度が高すぎると吸着性能が変化する場合がある。
乾燥時間は特に限定されないが、溶媒を十分に蒸発させ、かつ、吸着性能の変化を防止する観点から、30分以上5時間以下とすることが好ましく、3時間以下とすることがより好ましい。
【0130】
乾燥後は必要に応じて加熱処理することができる。加熱処理によって、金属の状態の変化やゼオライト膜との相互作用が変化し、吸着性能を好ましい状態に変化させることができることがある。洗浄せずに金属化学種を残している場合には、加熱によって、金属化学種に結晶水がある場合は結晶水の除去、アニオン種の除去、またさらに酸化物への変化を起こすことができる。酸化反応を目的とする場合には酸素を含むガスで行うが、取り扱い易さの観点から空気が好ましい。また酸化を起こさない場合には不活性ガスを用いて加熱処理することができる。不活性ガスとしてはNやHe等が使用できる。酸化反応の速度を調整するために、空気と不活性ガスを混合してもよい。
【0131】
加熱処理における温度は通常120℃以上、好ましくは150℃以上、より好ましくは180℃以上であり、通常900℃以下、好ましくは850℃以下、より好ましくは800℃以下、さらに好ましくは750℃以下である。加熱温度が低すぎると吸着性能を十分に変化させることができない場合があり、加熱処理温度が高すぎると支持体とゼオライトの熱膨張率の差が大きくなるためゼオライト膜に亀裂が生じやすくなる可能性があり、ゼオライト膜の緻密性が失われ分離性能が低くなることがある。また、加熱処理温度が高すぎると吸着性能が意図しない方向に変化する場合がある。金属化学種によって、例えば酸化物になる温度等、物性は異なるので、上記の範囲内でゼオライトと金属の組み合わせによって、適切な温度を設定することができる。
【0132】
加熱時間は、金属化学種や存在する位置によって適宜調整すればよいが、通常30分以上、好ましくは1時間以上より好ましくは2時間以上である。上限も特に制限はないが通常72時間以下、好ましくは60時間以下、さらに好ましくは48時間以下である。酸化処理を目的とする場合、酸素との接触が必要であるが、有効細孔径が小さく、酸素の透過が遅くなるような場合では長時間の加熱処理が必要になる場合がある。
【0133】
1.2.混合気体
本開示の分離又は濃縮方法において、分離又は濃縮の対象となる混合気体には少なくとも二酸化炭素と炭化水素とが含まれる。本開示の分離または濃縮方法を用いて、所望の成分を富化したガスを製造することができる。二酸化炭素及び炭化水素以外の成分としては、例えば、酸素、窒素、六フッ化硫黄、ヘリウム、一酸化炭素、一酸化窒素、水などから選ばれる少なくとも1種の成分が挙げられる。これらの気体成分のうち、パーミエンスの高い気体成分は、ゼオライト膜複合体を透過し分離され、パーミエンスの低い気体成分は供給気体側に濃縮される。
【0134】
ここで、パーミエンス(Permeance、「透過度」ともいう)とは透過する物質量を、膜面積と時間と透過する物質の供給側と透過側の分圧差の積で割ったものであり、単位は、[mol・(m・s・Pa)-1]である。
【0135】
混合気体は、少なくとも二酸化炭素と炭素数2以上の炭化水素とメタンとを含むことが好ましく、少なくとも二酸化炭素とプロパンとメタンとを含むことがより好ましい。混合気体の具体例としては、天然ガス、空気、燃焼気体やコークスオーブンガス、ごみ埋め立て場から発生するランドフィルガスなどのバイオガス、石油化学工業で生成、排出されるメタンの水蒸気改質ガスなどが挙げられる。特に、天然ガスの分離または濃縮に使用することが好ましい。
【0136】
1.3.ゼオライト膜複合体を用いた混合気体の分離又は濃縮操作の一例
上述の通り、本開示の混合気体の分離又は濃縮方法においては、上記のゼオライト膜複合体に、上記の混合気体を接触させ、該混合気体から透過性の高い気体成分を透過させる。例えば、上記のゼオライト膜複合体の支持体側又はゼオライト膜側の一方の側に二酸化炭素等を含む混合気体を接触させ、その逆側を混合気体が接触している側よりも低い圧力とすることによって、当該混合気体から、ゼオライト膜に透過性が高い物質(透過性が相対的に高い混合気体中の物質)を選択的に、すなわち透過物質の主成分として透過させる。これにより、混合気体から透過性の高い物質を分離することができる。その結果、混合気体中の特定の成分(透過性が相対的に低い混合気体中の物質)の濃度を高めることができ、特定の成分を分離回収、あるいは濃縮することができる。
【0137】
本開示のゼオライト膜複合体は、上述の通り、実ガス試験においても高いパーミエンスを維持できる。すなわち、天然ガスのような不純物を含むとともに圧力の高い混合気体に対しても適切に分離・濃縮性能を発揮できる。
【0138】
本開示のゼオライト膜複合体に係るゼオライト膜は、例えば、二酸化炭素の透過性が高い。そのため、このゼオライト膜に二酸化炭素等を含有する高圧の混合気体を接触させ分離させることにより、二酸化炭素等を含有する混合気体の二酸化炭素の濃度を低減することができ、二酸化炭素以外の成分を濃縮することができるものと考えられる。
【0139】
これら混合気体の分離や濃縮の条件は、対象とする気体種や組成等に応じて、それ自体既知の条件を採用すればよい。
【0140】
混合気体の分離に用いるゼオライト膜複合体を有する分離膜モジュールの形態としては、平膜型、スパイラル型、ホロウファイバー型、円筒型、ハニカム型等が考えられ、適用対象に合わせて最適な形態が選ばれる。以下、好ましい形態の一つである円筒型分離膜モジュールを用いて混合気体の分離又は濃縮を行う形態について説明する。
【0141】
図1において、円筒型のゼオライト膜複合体1は、ステンレス製の耐圧容器2に格納された状態で恒温槽(図示せず)に設置されている。恒温槽には、試料気体の温度調整が可能なように、温度制御装置が付設されている。
【0142】
円筒型のゼオライト膜複合体1の一端は、円形のエンドピン3で密封されている。他端は、接続部4に接続され、接続部4の他端は耐圧容器2と接続されている。円筒型のゼオライト膜複合体1の内側と透過ガス8を排出する配管10とが接続部4を介して接続されており、配管10は耐圧容器2の外側に伸びている。また、耐圧容器2に通ずるいずれかの箇所には、ガス供給側の圧力を測る圧力計5が接続されている。各接続部は気密性よく接続されている。
【0143】
混合気体の分離又は濃縮を行う際は、当該混合気体7を一定の流量で耐圧容器2とゼオライト膜複合体1の間に供給し、背圧弁6により供給側の圧力を一定とする。混合気体7のうち、一部の成分はゼオライト膜複合体1の内外の分圧差に応じてゼオライト膜複合体1を透過し、排出ガス8として配管10を通じて耐圧容器2の外部へと排出される。一方、混合気体のうち、ゼオライト膜複合体1を透過しなかった成分は、そのまま濃縮混合気体として耐圧容器2の外部へと回収される。
【0144】
混合気体からの気体分離温度としては、0から500℃の範囲内で行なわれる。膜の分離特性から考えると室温から150℃の範囲内が望ましい。
【0145】
2.補足
上記の説明では、本開示の技術の「混合気体の分離又は濃縮方法」としての側面について説明した。一方、本開示の技術は、ゼオライト膜複合体の物としての構成・構造に一つの特徴があるともいえる。すなわち、本開示のゼオライト膜複合体は、上記のプロパン接触処理を行う前の二酸化炭素透過試験(1)における二酸化炭素のパーミエンスをPとし、上記のプロパン接触処理を行った後の二酸化炭素透過試験(2)における二酸化炭素パーミエンスをPとした場合、P/Pが0.7以上であることを特徴とする。また、本開示のゼオライト膜複合体は、供給ガス圧0.2MPa、透過ガス圧0.1MPa、温度40℃の条件におけるメタンのパーミエンスをPCH4、六フッ化硫黄のパーミエンスをPSF6とした場合、PCH4≦3.02×PSF6+8.19×10-9を満たすことを特徴とする。ゼオライト膜複合体の好ましい形態については上述した通りであり、ここでは詳細な説明を省略する。
【実施例0146】
以下、実施例に基づいてゼオライト膜複合体を用いた混合気体の分離又は濃縮方法、及びゼオライト膜複合体を更に具体的に説明するが、本開示の方法はその要旨を越えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本開示の方法の実施態様における上限または下限の好ましい値としての意味をもつものとも言え、好ましい範囲は、前記上限または下限の値と下記実施例の値または実施例同士の値との組合せで規定される範囲であってもよい。
【0147】
1.ゼオライト膜複合体の作製
[実施例1]
1mol/L-NaOH水溶液、1mol/L-KOH水溶液に水酸化アルミニウム(Al 53.5質量%含有、アルドリッチ社製)を加えて撹拌し溶解させ、さらに脱塩水を加えて撹拌し透明溶液とした。これに有機テンプレートとして、N,N,N-トリメチル-1-アダマンタンアンモニウムヒドロキシド(以下これを「TMADAOH」と称する。)水溶液(TMADAOH25質量%含有、セイケム社製)を加え、さらにコロイダルシリカ(日産化学社製 スノーテック-40)を加えて30分間以上撹拌し、水性反応混合物とした。
【0148】
この水性反応混合物の組成(モル比)は、SiO/Al/NaOH/KOH/HO/TMADAOH=1/0.014/0.02/0.08/100/0.04、SiO/Al=70である。
【0149】
無機多孔質支持体として、多孔質アルミナチューブ(外径12mm、内径8mm)を脱塩水で洗浄したのち乾燥させたものを用いた。
【0150】
種結晶として、SiO/Al/NaOH/KOH/HO/TMADAOH=1/0.033/0.1/0.06/20/0.07のゲル組成(モル比)で160℃、2日間水熱合成して結晶化させたCHA型ゼオライトを用いた。この種結晶を1質量%水中に分散させた分散液に、上記支持体を所定時間浸漬してディップ法で種結晶を付着させ、支持体表面をこすった。
【0151】
種結晶を付着させた支持体を、上記水性反応混合物の入った反応缶に垂直方向に浸漬して、反応缶を密閉し、180℃で15時間、静置状態で、自生圧力下で加熱した。その際、上記水性反応混合物と上記支持体の比率は、支持体1mあたり水性反応混合物約600gとし、上記支持体全体が上記水性反応混合物に触れる状態とした。所定時間経過後、放冷した後にゼオライト膜複合体を水性反応混合物から取り出し、洗浄後、120℃で1時間以上乾燥させた。
【0152】
得られたCHA型ゼオライト膜複合体の膜表面にCaを付着させる処理を行った。硝酸カルシウム四水和物を脱塩水に溶解させて、0.1Mの硝酸カルシウム水溶液を調製した。調整した0.1Mの硝酸カルシウム水溶液に、膜の上下端に栓をして、支持体の内側に硝酸カルシウム水溶液が入らないようにした状態のゼオライト膜複合体を入れて、1分間浸漬した後に引き上げた。その後、風乾した後に、100℃で1時間乾燥した。さらに空気中で、400℃で2時間の加熱を行った。
【0153】
[実施例2]
CHA型ゼオライト膜複合体の膜表面にCaを付着させる処理を行う際に、前記硝酸カルシウム水溶液の濃度を1Mとし、空気中での加熱を250℃で48時間行ったこと以外は、実施例1と同様にしてゼオライト膜複合体を製造した。
【0154】
[実施例3]
CHA型ゼオライト膜複合体の膜表面にCaを付着させる処理を行う際に、空気中での加熱を250℃で48時間行ったこと以外は、実施例1と同様にしてゼオライト膜複合体を製造した。
【0155】
[実施例4]
種結晶を付着させた支持体を浸漬する水性反応混合物の組成を、SiO/Al/NaOH/KOH/HO/TMADAOH=1/0.025/0.024/0.097/100/0.04、SiO/Al=40とし、得られたCHA型ゼオライト膜複合体の膜表面にCaを付着させる処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にしてゼオライト膜複合体を製造した。
【0156】
[実施例5]
実施例1と同様にして得られたCHA型ゼオライト膜複合体の膜表面にNaを付着させる処理を行った。硝酸Caの代わりに硝酸Naを用い、硝酸Na水溶液の濃度を1Mとしたこと以外は、実施例1と同様にしてゼオライト膜複合体を製造した。
【0157】
[実施例6]
硝酸Caの代わりに酢酸Caを用い、酢酸Ca水溶液の濃度を1Mとしたこと以外は、実施例1と同様にしてゼオライト膜複合体を製造した。
【0158】
[実施例7]
実施例1と同様にして得られたCHA型ゼオライト膜複合体のゼオライト膜に、CHA型ゼオライト膜複合体の膜表面にCaを付着させる処理を行う代わりに、Kイオン交換を行った。硝酸Caの代わりに硝酸Kを用い、硝酸K水溶液の濃度を0.1Mとし、浸漬操作の際にゼオライト膜複合体に栓をつけず、複合体全体を90℃の硝酸K水溶液全体に1時間浸漬したことおよび、風乾前に浸漬後の複合体に流水をかけて洗浄したこと以外は、実施例1と同様にしてゼオライト膜複合体を製造した。
【0159】
[実施例8]
実施例1と同様にして得られたCHA型ゼオライト膜複合体の膜表面を、CHA型ゼオライト膜複合体の膜表面にCaを付着させる処理を行う代わりに、N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランで修飾した。N-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランをエタノールに溶解させて、0.1重量%のN-(2-アミノエチル)-3-アミノプロピルトリメトキシシランエタノール溶液を調整した。調整した溶液を、ゼオライト膜複合体の膜表面に塗布し、風乾した後に、100℃で1時間乾燥した。さらに空気中で、360℃で1時間15分の加熱を行った。
【0160】
[比較例1]
CHA型ゼオライト膜複合体の膜表面にCaを付着させる処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様にしてゼオライト膜複合体を製造した。
【0161】
[比較例2]
実施例1で種結晶を合成した条件において、実施例1で種結晶として用いたCHA型ゼオライトを水性反応混合物に添加することで、実施例1で用いた種結晶に対して、粒径が約2倍のCHA型ゼオライトの種結晶を得た。これを種結晶に用いてCHA型ゼオライト膜複合体を得たこと、また、Caを付着させる処理を行わなかった以外は、実施例1と同様にしてゼオライト膜複合体を製造した。
【0162】
2.ゼオライト膜複合体の性能評価
実施例1~8及び比較例1、2に係るCHA型ゼオライト膜複合体に対して、図1に模式的に示す装置を用いて、種々のガス透過試験を行った。用いた試料ガスは、CO(液化炭酸ガス、東邦酸素工業社製)、C(液化プロパンガス、住友精化株式会社製)、CH(圧縮純メタンガスG1グレード、ジャパンファインプロダクツ株式会社製)、SF(液化六フッ化硫黄ガス、関東電化工業株式会社製)である。
【0163】
図1の装置において、円筒形のゼオライト膜複合体1は、ステンレス製の耐圧容器2に格納された状態で恒温槽(図示せず)に設置されている。恒温槽には、試料ガスの温度調整が可能なように、温度制御装置が付設されている。円筒型のゼオライト膜複合体1の一端は、円形のエンドピン3で密封されている。他端は、接続部4に接続され、接続部4の他端は耐圧容器2と接続されている。円筒型のゼオライト膜複合体1の内側と透過ガスを排出する配管10とが接続部4を介して接続されており、配管10は耐圧容器2の外側に伸びている。また、耐圧容器2に通ずるいずれかの箇所には、混合気体の供給側の圧力を測る圧力計5、供給側の圧力を調整する背圧弁6が接続されている。各接続部は気密性よく接続されている。混合気体の分離又は濃縮を行う際は、混合気体7を、一定の圧力で耐圧容器2とゼオライト膜複合体1の間に供給し、ゼオライト膜複合体1を透過した透過ガス8を、配管に接続されている流量計(図示せず)にて測定する。水分や空気などの成分を除去するため、測定温度以上での乾燥、及び、排気若しくは使用する供給ガスによるパージ処理をする。試料温度及びゼオライト膜複合体1の供給ガス7側と透過ガス8側の差圧を一定として、透過ガス流量が安定したのちに、ゼオライト膜複合体1を透過した試料ガス(透過ガス8)の流量を測定することで、ガスのパーミエンス[mol・(m・s・Pa)-1]を算出する。パーミエンスを計算する際の圧力は、供給ガスの供給側と透過側の圧力差(差圧)を用いる。
【0164】
2.1.CH透過試験及びSF透過試験
以下の試験においては、ゼオライトの細孔よりも分子径の小さいガス種と大きいガス種とを利用して、ゼオライト細孔内のみを透過したガスのパーミエンスを求めた。ゼオライトの細孔よりも分子径の小さいガス種は、ゼオライト細孔内およびゼオライト粒子間隙を透過するため、測定により得られるガスパーミエンスは、ゼオライト細孔内を透過するガスのパーミエンスとゼオライト粒子間隙を透過するガスのパーミエンスとの合計となる。一方、ゼオライトの細孔よりも分子径の大きいガス種は、ゼオライト細孔内を透過するガス量が0であるため、測定により得られるガス透過量は、ゼオライト粒子間隙を透過したガスのみの透過量とみなせる。ここでは、ゼオライトの細孔よりも分子径の大きいSFのパーミエンスを用いて、ゼオライトの細孔よりも分子径の小さいCHについて、ゼオライト細孔内を透過したガスのパーミエンスを算出する。
【0165】
算出に先立ち、ゼオライト粒子間隙が十分に小さいかどうかを確認する目的で、二酸化炭素(CO)のパーミエンスとメタン(CH)のパーミエンスの比(CO/CHパーミエンス比)を測定する。COとCHはともにゼオライト細孔よりも分子径の小さいガス種であり、ゼオライト膜が十分に緻密であれば、ゼオライト膜の細孔による分離が行われ、分子篩能によりCOの方がCHに比べて2桁程度高いパーミエンスを示す。COとCHのKnudsen拡散領域におけるCO/CHパーミエンス比は0.36であり、分子量の小さいCHの方が高いパーミエンスとなる。膜分離によるパーミエンス比が0.36より大きければ、ゼオライト細孔による分離が行われていると考えることができる。
【0166】
一方、ゼオライト膜の粒子間隙が大きい場合、通常の分子拡散の領域となり、そのパーミエンス比はその拡散係数の比になると考えられる。20℃、1気圧の拡散係数はそれぞれCOが1.6、CHが1.06であるため、1.5となる。理想気体の拡散係数は温度の3/2乗および圧力の-1乗に比例することから、温度および圧力が同条件下であればCOとCHの拡散係数の比は同様に1.5程度となることが推測される。そのため、ゼオライト膜複合体が1.5を超えるCO/CHパーミエンス比を示す場合、ゼオライト細孔による分離が起こっていると考えられ、上記ゼオライト粒子間隙は十分に小さいと想定できることから、この間隙における各ガス分子の透過機構はKnudsen拡散が支配的であると仮定できる。
【0167】
またこの場合、ゼオライトの細孔よりも分子径の大きいSFは粒子界面のみを透過するためKnudsen拡散支配、CHは粒子界面とともにゼオライト細孔を透過する可能性があるため、Knudsen拡散とゼオライトの細孔内拡散の両者の拡散となる。なお、ゼオライト細孔がSFの分子径である5.5Åより大きい場合には、CH、SFともに細孔、粒子間隙を透過することになるが、その場合は細孔内でCH/SFパーミエンス比はKnudsen拡散支配よりも大きくなると考えられることから、CHパーミエンスは3.02×PSF6+8.19×10-9よりも大きくなり、好ましい範囲から外れると想定される。
【0168】
Knudsen拡散領域におけるガス分子の拡散係数は、一般にd/3×(8RT/πMW)1/2であらわされる。ここで、dは透過経路の径、Rは気体定数、Tは絶対温度、πは円周率、MWは拡散するガス分子の分子量である。2種類のガス分子について、前記拡散係数の比をとり整理すると、その値は2種類のガス分子の分子量の平方根の逆数となる。よって、CH分子とSF分子の透過速度比は、下記式(1)から算出される。Knudsen拡散支配では透過速度は分子量の平方根の逆数となることから、下記式(1)は粒子間隙のSFパーミエンスはCHのパーミエンスの3.02倍であることを示している。
MWSF6 1/2/MWCH4 1/2=3.02 (1)
ここで、式(1)中のMWSF6およびMWCH4は、それぞれ、SFの分子量146.06とCHの分子量16.042である。式(1)から得られた透過速度比を用いて、ゼオライト粒子間隙をKnudsen拡散により透過するメタンのパーミエンスは、3.02PSF6と算出できる。よって、ゼオライト細孔内を透過したCHのパーミエンスPは、下記式(2)により算出できる。
=PCH4-3.02PSF6 (2)
ここで、式(2)中のPCH4およびPSF6は、それぞれ、上記単成分ガス透過試験結果から算出されたCHおよびSFのパーミエンスを示す。
【0169】
以上のことを考慮しつつ、供給ガス圧0.2MPa、透過ガス圧0.1MPa、温度40℃の条件で、ゼオライト膜の表面に二酸化炭素100%の単成分ガスを供給し、二酸化炭素の透過量が安定(このとき、二酸化炭素のパーミエンス(PCO2)を算出した)するまで乾燥した後、供給ガスをメタンに変更し、供給ガス圧0.2MPa、透過ガス圧0.1MPa、温度40℃の条件で、ゼオライト膜の表面にメタンを供給し、メタンの透過量、供給ガスの差圧及び膜面積からゼオライト膜を透過するメタンのパーミエンス(PCH4)を算出した。その後、供給ガスをメタンから六フッ化硫黄に変更し、供給ガス圧0.2MPa、透過ガス圧0.1MPa、温度40℃の条件で、ゼオライト膜の表面に六フッ化硫黄を供給し、六フッ化硫黄の透過量が安定したときのゼオライト膜を透過する六フッ化硫黄のパーミエンス(PSF6)を算出した。また、式(2)を用いて、PCH4及びPSF6の算出結果から、ゼオライト膜の細孔内を透過したメタンのパーミエンスPを求めた。結果を表1に示す。
【0170】
【表1】
【0171】
表1に示すように、比較例1、2に係るゼオライト膜複合体よりも実施例1、2、5、6に係るゼオライト膜複合体の方が、ゼオライト細孔内を透過したメタンのパーミエンスが小さかった。上記表1から、実施例1、2、5はPCH4≦3.02×PSF6+6.19×10-9なる関係を満たし、実施例6はPCH4≦3.02×PSF6+7.19×10-9なる関係を満たすが、比較例はこれを満たさないと共に、PCH4≦3.02×PSF6+8.19×10-9を満たさないことが分かる。これは、金属種の表面処理により、ゼオライト細孔が狭小化されていることを示していると推測される。
【0172】
表1に示すように、比較例1、2に係るゼオライト膜複合体よりも実施例4、7に係るゼオライト膜複合体の方が、ゼオライト細孔内を透過したメタンのパーミエンスが小さかった。上記表1から、実施例7はPCH4≦3.02×PSF6+6.19×10-9なる関係を満たし、実施例4はPCH4≦3.02×PSF6+8.19×10-9なる関係を満たすが、比較例はこれらを満たさないことが分かる。これは、ゼオライト膜を製造する際の水性反応混合物の組成の適切な調整や、イオン交換処理によって、ゼオライト細孔内に導入された金属カチオンにより、ゼオライト細孔径が狭小化されていることを示していると推測される。
【0173】
表1に示すように、比較例1、2に係るゼオライト膜複合体よりも実施例8に係るゼオライト膜複合体の方が、ゼオライト細孔内を透過したメタンのパーミエンスが小さかった。上記表1から、実施例8はPCH4≦3.02×PSF6+6.19×10-9なる関係を満たすが、比較例はこれを満たさないことが分かる。これは、ゼオライト膜の表面をシリル化処理することにより、ゼオライト細孔が狭小化されていることを示していると推測される。
【0174】
2.2.プロパン接触処理前後における二酸化炭素透過試験
2.2.1.二酸化炭素透過試験(1)
前処理として、ゼオライト膜複合体を、90℃で、供給ガス7として二酸化炭素を耐圧容器2とゼオライト膜複合体1との円筒の間に導入して、圧力を約0.2MPaに保ち、ゼオライト膜複合体1の円筒の内側を0.1MPaとして、二酸化炭素の透過量が安定するまで乾燥した。このときのゼオライト膜を透過する二酸化炭素の透過量から、二酸化炭素のパーミエンス(P)を測定した。結果を下記表2に示す。
【0175】
2.2.2.プロパン接触処理
単成分ガス透過試験(1)の後で、供給ガスを二酸化炭素からプロパンに変更し、供給ガス圧0.1MPa、透過ガス圧0.1MPa、温度90℃の条件で、ゼオライト膜の内外表面にプロパンを供給して供給側および透過側の雰囲気をプロパンに置換した。引き続き、供給ガス圧0.4MPa、透過ガス圧0.1MPa、温度90℃の条件で、ゼオライト膜の内外表面にプロパンを30分間供給した。
【0176】
2.2.3.二酸化炭素透過試験(2)
プロパン接触処理の後で、供給ガスをプロパンから二酸化炭素100%の単成分ガスに変更し、供給ガス圧0.1MPa、透過ガス圧0.1MPa、温度90℃の条件で、ゼオライト膜の内外表面それぞれに二酸化炭素を5分間供給して、供給側および透過側の雰囲気を二酸化炭素に置換した。その後、供給ガス圧0.2MPa、透過ガス圧0.1MPa、温度90℃の条件でゼオライト膜の表面に二酸化炭素を供給し、ゼオライト膜を透過する二酸化炭素のパーミエンス(P)を測定した。結果を下記表2に示す。
【0177】
【表2】
【0178】
表2に示すように、比較例1、2に係るゼオライト膜複合体は、プロパン接触処理の後において、二酸化炭素のパーミエンスがプロパン接触処理前の80%未満に低下した。一方、PCH4≦3.02×PSF6+6.19×10-9なる関係を満たしている実施例1、2に係るゼオライト膜複合体は、プロパン接触処理の後においても、二酸化炭素のパーミエンスがプロパン接触処理前の80%以上に維持されていた。PCH4≦3.02×PSF6+7.19×10-9なる関係を満たしている実施例4に係るゼオライト膜複合体も、プロパン接触処理の後において、二酸化炭素のパーミエンスがプロパン接触処理前の70%以上であった。また、比較例1、2に比べて高い維持率を示した。このことから、実施例1、2よりは効果が弱いものの、同様に高いパーミエンスを維持しやすい傾向が確認された。
【0179】
また、実施例3に係るゼオライト膜複合体も、プロパン接触処理の後において、二酸化炭素のパーミエンスがプロパン接触処理前の75%以上であり、比較例1、2に比べて高い維持率を示した。このことから、実施例1、2よりは効果が弱いものの、同様にパーミエンスを維持しやすい傾向は有することが確認された。
【0180】
2.3.混合ガス分離試験
ゼオライト膜の表面処理において、その主目的はゼオライト細孔径の制御であるが、表面処理に用いる物質や処理方法の選択によっては、ゼオライト膜表面に二酸化炭素の吸脱着性を好適に付与し、二酸化炭素の透過性能を向上することが可能である。二酸化炭素の吸脱着性の付与および、それによる二酸化炭素の透過性能向上を確認する目的で、以下の試験を行った。混合ガス分離試験は、図1に模式的に示す装置を用いて、以下のとおり行った。用いた試料ガスは、流量調整器を用いてCO/N=35/65、CO/N=50/50のモル比率で混合した2種類のガスである。
【0181】
図1の装置において、試料ガス(供給ガス7)を耐圧容器2とゼオライト膜複合体1の間に供給し、背圧弁6を用いて試料ガスの圧力を調整し、ゼオライト膜複合体を透過した透過ガス8を、配管10に接続されている流量計(図示せず)にて流量を測定する。さらに透過ガス8の一部をサンプリングし、ガスクロマトグラフィーにて分析し、ガス組成を求める。
【0182】
さらに具体的には、水分や空気などの成分を除去するため、測定温度以上での乾燥、及び、排気若しくは使用する供給ガスによるパージ処理をした後、試料温度及びゼオライト膜複合体1の供給ガス7側と透過ガス8側の差圧を一定として、透過ガス流量が安定したのちに、ゼオライト膜複合体1を透過した試料ガス(透過ガス8)の流量とガス組成を測定し、ガスのパーミエンス[mol・(m・s・Pa)-1]を算出する。パーミエンスを計算する際の各ガス圧力は、供給ガス7と非透過ガス9の分圧の平均値と透過ガス8の分圧との差を用いる。
【0183】
上記測定結果に基づき算出したCO、Nそれぞれの各ガスのパーミエンスの比率を計算し、パーミエンス比を求めることができる。
【0184】
[実施例9]
実施例3と同条件で調製したCHA型ゼオライト膜複合体を用いて、上記の単成分ガス透過試験を行った。具体的には、前処理として、ゼオライト膜複合体を、40℃で、供給ガス7として二酸化炭素を耐圧容器2とゼオライト膜複合体1との円筒の間に導入して、圧力を約0.2MPaに保ち、ゼオライト膜複合体1の円筒の内側を0.1MPa(大気圧)として、二酸化炭素の透過量が安定するまで乾燥した。その後、恒温槽の温度を30℃とし、二酸化炭素の透過量が安定した状態で、透過量を測定しパーミエンス(P)を算出した。結果を下記表3に示す。
【0185】
その後、温度は30℃のままで上記の混合ガス分離試験を行った。具体的には、単成分ガス透過試験の後で供給ガスをCO/Nの混合ガスに変更し、耐圧容器2とゼオライト膜複合体1との円筒の間に導入した。供給側の圧力を0.4MPaに保ち、測定温度、圧力において耐圧容器2とゼオライト膜複合体1との円筒の間のガスの平均線速が60cm/sとなるように供給ガス量を5.2NL/minに設定した。透過するガス量とガス組成を測定し、パーミエンス(P)を算出した。結果を下記表3に示す。
【0186】
・二酸化炭素吸着性能
ゼオライト膜複合体の二酸化炭素吸着性能は以下のようにして測定する。すなわち、ゼオライト膜複合体を大気に接触した状態で室温(20℃)において5時間以上放置した後に、ゼオライト膜複合体をチャンバーの中に入れて、ボンベからHeを大気圧、室温にて40cc/minでフローする。Heを40cc/minでフローしながら、チャンバーを加熱し、40℃/minの速度で室温から昇温する。昇温時に膜から脱離する成分をMS測定し、100℃から300℃までの間に検出したM/z44の量を算出する。算出は所定量のCOガスを測定経路にパルス導入して求めたガス体積と面積の検量線を各測定後に作成し、これに本測定で得られたM/z44の面積を導入することで実施する。なお、MS検出値は1回/s以上出力するものとする。ゼオライト膜複合体の由来のM/z44は、ブランク測定としてゼオライト膜複合体をチャンバー内に入れずに同様の測定をして得られるM/z44の量を差し引いて算出した値とする。
【0187】
ここで、チャンバーは直径12mm×長さ250mm以下、且つ肉厚1.2mm以下の円筒形とし、材質は石英とする。加熱は赤外線加熱方式で行う。なお、温度計は石英チャンバーの赤外線照射部中央部に接続されており試料外部の温度を測定するものとする。
上記の単成分ガス透過試験及び混合ガス分離試験の後で、ゼオライト膜複合体を加熱して吸着した成分を除去したうえで、上記の二酸化炭素吸着性能を評価した。結果を下記表3に示す。
【0188】
[比較例3]
CHA型ゼオライト膜複合体にCaを付着させる処理を行っていない、比較例1と同条件で調製したゼオライト膜複合体を用い、上記と同様に単成分ガス透過試験、混合ガス分離試験及び二酸化炭素吸着性能の評価を行った。結果を下記表3に示す。
【0189】
【表3】
【0190】
表3に示す結果から明らかなように、比較例3に係るゼオライト膜複合体を用いて二酸化炭素を含む混合気体の分離又は濃縮を行う場合、実施例9に係るゼオライト膜複合体と比べて、ゼオライト膜に二酸化炭素が吸着しにくく、二酸化炭素と窒素がともにゼオライト細孔内に入りやすいため、窒素の影響によりゼオライト膜のガス分離性能やガス透過性能が低下する。これに対し、実施例9に係るゼオライト膜複合体は、高い二酸化炭素吸着性能を有することにより、二酸化炭素を含む混合気体の分離又は濃縮を行う場合にゼオライト膜のガス分離性能やガス透過性能を維持することができる。
【0191】
尚、上記実施例では、ゼオライト膜の二酸化炭素吸収性能を高めるための具体的な手段として、ゼロライト膜の表面にCaを付着させる形態を示したが、本開示のゼオライト膜複合体はこの形態に限定されるものではない。Caを付着させる形態以外であっても、ゼオライト膜の二酸化炭素吸収性能を高めることができさえすれば、所望の効果が発揮できるものと考えられる。
【0192】
3.実ガス試験
実施例1、2及び比較例1、2に係るCHA型ゼオライト膜複合体に対して、二酸化炭素及び炭化水素を含む高圧ガスの透過試験および分離試験を行った。
【0193】
試料ガスは、CO(液化炭酸ガス、日本液炭株式会社製)及びLNG(液化天然ガス、北九州LNG株式会社製、モル組成例CH/C/C/C10=91.2/5.2/2.6/1.0)を用いた。CO及びLNGは、任意の割合で混合した。
【0194】
ゼオライト膜複合体は上記低圧試験と同様の耐圧容器に格納し、試料ガスは耐圧容器とゼオライト膜複合体の間に供給した。温度40℃、供給ガス圧力4.0MPa、透過側圧力0.1MPaにおける、CO単ガス供給時のパーミエンスをPとし、CO/LNG=20/80混合気体供給時のCOパーミエンスをPとして、混合気体供給時のCOパーミエンス維持率P/Pの経時変化を記録した。CO/LNG混合気体供給開始から所定時間後のP/Pの値から、パーミエンス維持率の評価を行った。比較例1のパーミエンス維持率P/P[%]を基準とし、この維持率の差が比較例1よりも5[パーセントポイント]より高い試料を「〇」、比較例1よりも高いが維持率の差が5[パーセントポイント]以下のものを「△」、比較例と同等以下の試料を「×」として、結果を下記表4に示す。
【0195】
【表4】
【0196】
また、より簡便に実ガスの影響を確認可能な、以下の試験も行った。同様の条件でCO/LNG混合気体を所定時間供給した後、前記CH透過試験及びSF透過試験と同様の条件でCO透過試験を行い、実ガス試験後の低圧評価における二酸化炭素のパーミエンスPを測定した。この時、実ガス試験を経た前後における、低圧評価における二酸化炭素のパーミエンスの維持率P/PCO2の値を算出した。比較例1のパーミエンス維持率P/PCO2[%]を基準とし、この維持率の差が比較例1よりも10[パーセントポイント]より高い試料を「〇」、比較例1よりも高いが維持率の差が10[パーセントポイント]以下のものを「△」、比較例と同等以下の試料を「×」として、結果を下記表5に示す。
【0197】
【表5】
【0198】
また、実ガス中に含まれる二酸化炭素や炭化水素の組成によって、ゼオライト膜複合体の実ガス中における性能維持率が異なることが想像される。そのため、より炭化水素の組成が多く性能低下しやすい条件においても、実ガス試験を行った。その際、より簡便に実ガスの影響を確認可能な、以下の方法にて、評価を行った。供給ガス圧力3.5MPa、供給する混合気体の組成CO/LNG=10/90としたことおよび、実ガス試験後の低圧評価における二酸化炭素のパーミエンスをPをしたこと以外は同様にして、実ガス試験を経た前後における、低圧評価における二酸化炭素のパーミエンスの維持率P/PCO2の値を算出した。比較例1のパーミエンス維持率P/PCO2[%]を基準とし、この維持率の差が比較例1よりも10[パーセントポイント]より高い試料を「〇」、比較例1よりも高いが維持率の差が10[パーセントポイント]以下のものを「△」、比較例と同等以下の試料を「×」として、結果を下記表6に示す。
【0199】
【表6】
【0200】
表4から表6に示すように、実施例1から4に係るゼオライト膜複合体は、実ガス試験においても高いパーミエンスを維持できた。また、実施例3、4に比べて、実施例1、2に係るゼオライト膜複合体は、パーミエンスの維持率がより高いことがわかった。以上の通り、細孔を透過するメタンのパーミエンスが低くPCH4≦3.02×PSF6+8.19×10-9なる関係を満たすゼオライト膜複合体や、ゼオライト膜表面に所定条件でプロパンを供給した場合に、プロパン供給前の二酸化炭素のパーミエンスに対し、プロパン供給後の二酸化炭素のパーミエンスが70%以上であるゼオライト膜複合体は、実ガス試験においても二酸化炭素のパーミエンスの維持率が高いことが分かった。80%以上であれば、更にその効果が高いことが分かった。これは、最も小さい炭化水素であるメタン分子の動的分子径と同程度に細孔径が制御されているためであると推測される。
【符号の説明】
【0201】
1 ゼオライト膜複合体
2 耐圧容器
3 エンドピン
4 接続部
5 圧力計
6 背圧弁
7 供給ガス(混合気体)
8 透過ガス
9 排出ガス
10 配管
図1