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特開2024-169684レーザ溶接方法およびレーザ溶接装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169684
(43)【公開日】2024-12-05
(54)【発明の名称】レーザ溶接方法およびレーザ溶接装置
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/21 20140101AFI20241128BHJP
   B23K 26/00 20140101ALI20241128BHJP
   B23K 26/28 20140101ALI20241128BHJP
   B23K 26/082 20140101ALI20241128BHJP
【FI】
B23K26/21 L
B23K26/00 N
B23K26/28
B23K26/082
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2024166716
(22)【出願日】2024-09-25
(62)【分割の表示】P 2023511766の分割
【原出願日】2022-04-04
(31)【優先権主張番号】P 2021063779
(32)【優先日】2021-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】安岡 知道
(72)【発明者】
【氏名】菅 紗世
(72)【発明者】
【氏名】松本 暢康
(72)【発明者】
【氏名】寺田 淳
(72)【発明者】
【氏名】酒井 俊明
(72)【発明者】
【氏名】金子 昌充
(72)【発明者】
【氏名】繁松 孝
(57)【要約】
【課題】例えば、スパッタの発生を抑制することを可能とするような、改善された新規なレーザ溶接方法およびレーザ溶接装置を提供する。
【解決手段】金属材料で作られた第一部材の第一方向の第一端部と、金属材料で作られた第二部材の第一方向の第二端部と、をレーザ溶接するレーザ溶接方法であって、第一端部および第二端部を第一方向と交差した第二方向に隣り合うように配置する工程と、第一端部および第二端部のうち少なくとも一方に、第一方向と交差した方向に掃引しながらレーザ光を照射する工程と、レーザ光を照射する工程において第一端部と第二端部との間で掛け渡された状態で形成された溶融池を固化する工程と、を備え、レーザ光を照射する工程では、第一端部または第二端部のレーザ光を照射する領域において、レーザ光の照射位置に応じて照射するレーザ光のパワーを変更する。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料で作られた第一部材の第一方向の第一端部と、金属材料で作られた第二部材の前記第一方向の第二端部と、をレーザ溶接するレーザ溶接方法であって、
前記第一端部および前記第二端部を前記第一方向と交差した第二方向に隣り合うように配置する工程と、
前記第一端部および前記第二端部のうち少なくとも一方に、前記第一方向と交差した所定の方向に走査しながらレーザ光を照射する工程と、
前記レーザ光を照射する工程において前記第一端部と前記第二端部との間で掛け渡された状態で形成された溶融池を固化する工程と、
を備え、
前記レーザ光を照射する工程において、
前記第一端部または前記第二端部のレーザ光を照射する領域で、レーザ光の照射位置に応じて照射するレーザ光のパワーを変更し、
前記第一端部または前記第二端部におけるレーザ光の照射位置の走査経路が、直線状に走査される第一区間と、当該第一区間の端に位置した折曲部で折れ曲がり前記第一区間の走査方向とは異なる方向に直線状に走査される第二区間と、を含み、
前記第一区間および前記第二区間のうち少なくとも一方が、前記照射位置が前記折曲部に近いほどより低いパワーでレーザ光を照射する第三区間を含む、レーザ溶接方法。
【請求項2】
金属材料で作られた第一部材の第一方向の第一端部と、金属材料で作られた第二部材の前記第一方向の第二端部と、をレーザ溶接するレーザ溶接方法であって、
前記第一端部および前記第二端部を前記第一方向と交差した第二方向に隣り合うように配置する工程と、
前記第一端部および前記第二端部のうち少なくとも一方に、前記第一方向と交差した所定の方向に走査しながらレーザ光を照射する工程と、
前記レーザ光を照射する工程において前記第一端部と前記第二端部との間で掛け渡された状態で形成された溶融池を固化する工程と、
を備え、
前記レーザ光を照射する工程において、前記第一端部または前記第二端部のレーザ光を照射する領域で、場所によるレーザ光の照射エネルギ密度の差が小さくなるよう、レーザ光の照射位置に応じてレーザ光の照射状態を変更する、レーザ溶接方法。
【請求項3】
金属材料で作られた第一部材の第一方向の第一端部および金属材料で作られた第二部材の前記第一方向の第二端部であって、前記第一方向と交差した第二方向に隣り合うように配置された前記第一端部および前記第二端部をレーザ溶接するレーザ溶接装置であって、
レーザ光を出力する光源と、
前記第一端部および前記第二端部のうち少なくとも一方に前記光源からの前記レーザ光を走査しながら照射する光学ヘッドと、
を備え、
前記第一端部または前記第二端部のレーザ光を照射する領域で、レーザ光の照射位置に応じて照射するレーザ光のパワーを変更し、
前記第一端部または前記第二端部におけるレーザ光の照射位置の走査経路が、直線状に走査される第一区間と、当該第一区間の端に位置した折曲部で折れ曲がり前記第一区間の走査方向とは異なる方向に直線状に走査される第二区間と、を含み、
前記第一区間および前記第二区間のうち少なくとも一方が、前記照射位置が前記折曲部に近いほどより低いパワーでレーザ光を照射する第三区間を含む、レーザ溶接装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ溶接方法およびレーザ溶接装置に関する。
【背景技術】
【0002】
平角線のような複数の金属部材をレーザ溶接する方法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-030155号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
この種の溶接においてスパッタが生じると、例えば、溶接金属内にボイドが発生したり、周囲に残渣が付着したり、当該残渣によって周囲に不要な電気回路が形成されたりといった問題が生じる虞がある。
【0005】
そこで、本発明の課題の一つは、例えば、スパッタの発生を抑制することを可能とするような、改善された新規なレーザ溶接方法およびレーザ溶接装置を得ること、である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のレーザ溶接方法は、例えば、金属材料で作られた第一部材の第一方向の第一端部と、金属材料で作られた第二部材の前記第一方向の第二端部と、をレーザ溶接するレーザ溶接方法であって、前記第一端部および前記第二端部を前記第一方向と交差した第二方向に隣り合うように配置する工程と、前記第一端部および前記第二端部のうち少なくとも一方に、前記第一方向と交差した所定の方向に走査しながらレーザ光を照射する工程と、前記レーザ光を照射する工程において前記第一端部と前記第二端部との間で掛け渡された状態で形成された溶融池を固化する工程と、を備え、前記レーザ光を照射する工程では、前記第一端部または前記第二端部のレーザ光を照射する領域において、レーザ光の照射位置に応じてレーザ光の照射状態を変更する。
【0007】
前記レーザ溶接方法では、前記レーザ光を照射する工程において、レーザ光の照射位置に応じて照射するレーザ光のパワーを変更してもよい。
【0008】
前記レーザ溶接方法では、前記レーザ光を照射する工程において、前記第一端部または前記第二端部におけるレーザ光の照射位置の走査経路が、直線状に走査される線状走査区間と、湾曲または屈曲して走査される非線状走査区間と、を含み、前記非線状走査区間において、前記線状走査区間の少なくとも一部に対して照射するレーザ光のパワーより低いパワーでレーザ光を照射してもよい。
【0009】
前記レーザ溶接方法では、前記線状走査区間は、第一区間と、当該第一区間とは逆方向に走査される第二区間と、を含み、前記第一区間において照射されるレーザ光のパワーの最大値と、前記第二区間において照射されるレーザ光のパワーの最大値と、が同じであってもよい。
【0010】
前記レーザ溶接方法では、前記線状走査区間は、第一区間と、当該第一区間とは逆方向に走査される第二区間と、を含み、前記第一区間において照射されるレーザ光のパワーの最大値と、前記第二区間において照射されるレーザ光のパワーの最大値と、が互いに異なってもよい。
【0011】
前記レーザ溶接方法では、前記第二区間は、前記第一区間の後に走査される区間であり、前記第二区間において照射されるレーザ光のパワーの最大値が、前記第一区間において照射されるレーザ光のパワーの最大値より大きくてもよい。
【0012】
前記レーザ溶接方法では、前記第二区間は、前記第一区間の後に走査される区間であり、前記第一区間と前記第二区間との間に、前記非線状走査区間を含み、前記第一区間と前記第二区間とが互いに離れてもよい。
【0013】
前記レーザ溶接方法では、前記レーザ光を照射する工程において、前記第一端部または前記第二端部におけるレーザ光の照射位置の走査経路が、レーザ光の移動に伴って照射するレーザ光のパワーを経時的に変更するパワー変更区間を含んでもよい。
【0014】
前記レーザ溶接方法では、前記レーザ光を照射する工程において、前記第一端部または前記第二端部におけるレーザ光の照射位置の走査経路が、照射するレーザ光のパワーが一定の状態で照射位置が移動するパワー一定区間を含んでもよい。
【0015】
前記レーザ溶接方法では、前記走査経路が、前記パワー変更区間として、レーザ光の走査開始直後においてレーザ光の照射位置の移動に伴って照射するレーザ光のパワーを経時的に増大するパワー増加区間を含んでもよい。
【0016】
前記レーザ溶接方法では、前記走査経路が、前記パワー変更区間として、レーザ光の走査終了直前においてレーザ光の照射位置の移動に伴って照射するレーザ光のパワーを経時的に減少するパワー減少区間を含んでもよい。
【0017】
前記レーザ溶接方法では、前記レーザ光を照射する工程において、前記第一端部または前記第二端部におけるレーザ光の照射位置の走査経路が、直線状に走査される第一区間と、当該第一区間の端に位置した折曲部で折れ曲がり前記第一区間の走査方向とは異なる方向に直線状に走査される第二区間と、を含み、前記第一区間および前記第二区間のうち少なくとも一方が、前記照射位置が前記折曲部に近いほどより低いパワーでレーザ光を照射する第三区間を含んでもよい。
【0018】
前記レーザ溶接方法では、前記レーザ光を照射する工程では、前記第一端部または前記第二端部のレーザ光を照射する領域において、場所によるレーザ光の照射エネルギ密度の差が小さくなるよう、レーザ光の照射位置に応じてレーザ光の照射状態を変更してもよい。
【0019】
前記レーザ溶接方法では、前記レーザ光は、第一レーザ光と、前記第一端部または前記第二端部の金属材料に対する吸収率が前記第一レーザ光より高い波長の第二レーザ光と、を含んでもよい。
【0020】
前記レーザ溶接方法では、前記レーザ光を照射する工程において、前記第一レーザ光のパワーを経時的に変更し、前記第二レーザ光のパワーを経時的に略一定としてもよい。
【0021】
前記レーザ溶接方法では、前記レーザ光を照射する工程において、前記第一端部または前記第二端部におけるレーザ光の照射位置の走査経路が、前記第一レーザ光の照射を開始する前に、前記第二レーザ光のみを照射しながら走査する区間を含んでもよい。
【0022】
また、本発明のレーザ溶接方法は、例えば、金属材料で作られた第一部材と金属材料で作られた第二部材とをレーザ溶接するレーザ溶接方法であって、前記第一部材および前記第二部材のうち少なくとも一方に、レーザ光を走査しながら照射する工程と、前記レーザ光を照射する工程において前記第一部材と前記第二部材とに渡って形成された溶融池を固化する工程と、を備え、前記レーザ光を照射する工程では、レーザ光の照射位置に応じてレーザ光の照射状態を変更する。
【0023】
また、本発明のレーザ溶接装置は、金属材料で作られた第一部材の第一方向の第一端部と、金属材料で作られた第二部材の前記第一方向の第二端部と、をレーザ溶接するレーザ溶接装置であって、レーザ光を出力する光源と、前記第一端部および前記第二端部のうち少なくとも一方に前記光源からの前記レーザ光を走査しながら照射する光学ヘッドと、を備え、前記第一端部または前記第二端部のレーザ光を照射する領域において、レーザ光の照射位置に応じてレーザ光の照射状態を変更する。
【0024】
前記レーザ溶接装置では、前記光源によるレーザ光の出力および前記光学ヘッドによるレーザ光の走査速度のうち少なくとも一方を変更可能に制御する制御部と、溶融池の温度を検出する温度センサと、を備え、前記制御部は、前記温度センサによって検出された温度が高いほど、前記光源によるレーザ光の出力を下げる制御、および前記走査速度を高くする制御のうち、少なくとも一方を実行してもよい。
【0025】
前記レーザ溶接装置では、前記光源によるレーザ光の出力および前記光学ヘッドによるレーザ光の走査速度のうち少なくとも一方を変更可能に制御する制御部と、溶融池の表面の動きを検出する動きセンサと、を備え、前記制御部は、前記動きセンサによって検出された前記表面の動きが大きいほど、前記光源によるレーザ光の出力を下げる制御、および前記走査速度を高くする制御のうち、少なくとも一方を実行してもよい。
【発明の効果】
【0026】
本発明によれば、例えば、スパッタの発生を抑制することを可能とするような、改善された新規なレーザ溶接方法およびレーザ溶接装置を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1図1は、実施形態のレーザ溶接装置の例示的な概略構成図である。
図2図2は、実施形態のレーザ溶接装置から対象物に照射されたレーザ光のスポットの形状の一例を示す例示的かつ模式的な平面図である。
図3図3は、実施形態のレーザ溶接方法の対象物の溶接前における例示的かつ模式的な側面図である。
図4図4は、実施形態のレーザ溶接方法の対象物の溶接後における例示的かつ模式的な側面図である。
図5図5は、実施形態のレーザ溶接方法の対象物としての部材を含む平角線の例示的かつ模式的な斜視図である。
図6図6は、実施形態のレーザ溶接方法における端部における走査経路の一例を示す例示的かつ模式的な平面図である。
図7図7は、実施形態のレーザ溶接方法における走査経路中の照射位置に応じた光源出力の変化の一例を示すグラフである。
図8図8は、実施形態のレーザ溶接方法において端縁の近傍に設定された光源出力を相対的に低くする範囲の設定の一例を示す例示的かつ模式的な平面図である。
図9図9は、実施形態のレーザ溶接方法において折曲部の近傍に設定された光源出力を相対的に低くする範囲の設定の一例を示す例示的かつ模式的な平面図である。
図10図10は、実施形態のレーザ溶接方法における端部における走査経路の別の一例を示す例示的かつ模式的な平面図である。
図11図11は、実施形態のレーザ溶接方法における端部における走査経路の別の一例を示す例示的かつ模式的な平面図である。
図12図12は、図11の走査経路に含まれる複数の区間を示す例示的かつ模式的な平面図である。
図13図13は、図11の走査経路および図12の区間で走査される場合の光源出力の経時変化の一例を示すグラフである。
図14図14は、図11の走査経路および図12の区間で走査される場合の光源出力の経時変化の別の一例を示すグラフである。
図15図15は、実施形態のレーザ溶接方法における端部における走査経路のさらに別の一例を示す例示的かつ模式的な平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の例示的な実施形態および変形例が開示される。以下に示される実施形態および変形例の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、一例である。本発明は、以下の実施形態および変形例に開示される構成以外によっても実現可能である。また、本発明によれば、構成によって得られる種々の効果(派生的な効果も含む)のうち少なくとも一つを得ることが可能である。
【0029】
以下の実施形態および変形例は、同様の構成要素を有している。以下では、それら同様の構成要素については、共通の符号を付与するとともに、重複する説明を省略する場合がある。
【0030】
また、各図において、方向Xを矢印Xで表し、方向Yを矢印Yで表し、方向Zを矢印Zで表している。方向X、方向Y、および方向Zは、互いに交差するとともに直交している。Z方向は、対象物Wとなる複数の部材が延びる方向である。なお、Z方向は、略鉛直上方であるが、鉛直上方に対して傾いていてもよい。
【0031】
また、本明細書において、序数は、部品や、部材、部位、方向、区間、位置等を区別するために便宜上付与されており、優先度や順番を示すものではない。
【0032】
[レーザ溶接装置およびレーザ溶接の概要]
図1は、実施形態のレーザ溶接装置100の概略構成を示す図である。図1に示されるように、レーザ溶接装置100は、レーザ装置110(111,112)と、光学ヘッド120と、光ファイバ130と、駆動機構140と、センサ150と、制御装置200と、を備えている。
【0033】
レーザ溶接装置100は、レーザ溶接の対象物Wの表面にレーザ光Lを照射する。レーザ光Lのエネルギによって、対象物Wが部分的に溶融し、冷却されて固化することにより、当該対象物Wが溶接される。対象物Wは、複数の部材を有しており、レーザ溶接によって、当該複数の部材に渡る溶融池が形成され、当該溶融池が固化されることにより、複数の部材が接合される。
【0034】
対象物Wとなる複数の部材は、それぞれ、例えば、銅や銅合金のような銅系の金属材料や、アルミニウムやアルミニウム合金のようなアルミニウム系の金属材料等で、作られうる。複数の部材は、同じ金属材料で作られてもよいし、互いに異なる金属材料で作られてもよい。なお、対象物Wとなる複数の部材は、導体であってもよいし、導体で無くてもよい。
【0035】
レーザ装置111,112は、それぞれ、レーザ発振器を備えており、一例としては、数kWのパワーのシングルモードのレーザ光を出力できるよう構成されている。なお、レーザ装置110は、例えば、内部に複数の半導体レーザ素子を備え、当該複数の半導体レーザ素子の合計の出力として数kWのパワーのマルチモードのレーザ光を出力できるよう構成されてもよい。また、レーザ装置110は、ファイバレーザ、YAGレーザ、ディスクレーザ等、様々なレーザ光源を備えてもよい。また、レーザ装置110は、例えば、400[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長のレーザ光を出力する。
【0036】
レーザ装置111は、例えば、800[nm]以上かつ1200[nm]以下の波長の第一レーザ光を出力する。レーザ装置111は、第一レーザ装置とも称されうる。レーザ装置111が有するレーザ発振器は、光源であり、第一レーザ発振器とも称されうる。
【0037】
他方、レーザ装置112は、例えば、300[nm]以上かつ600[nm]以下の波長の第二レーザ光を出力する。レーザ装置112は、第二レーザ装置とも称されうる。レーザ装置112が有するレーザ発振器は、光源であり、第二レーザ発振器とも称されうる。
【0038】
銅系材料やアルミニウム系材料については、第二レーザ光の方が第一レーザ光よりも吸収率が高く、かつ反射率が低い。
【0039】
また、レーザ装置111,112は、それぞれ、レーザ光の連続波を出力してもよいし、レーザ光のパルスを出力してもよい。
【0040】
制御装置200は、レーザ装置111,112の作動を制御することができる。例えば、制御装置200は、レーザ光を出力したり、レーザ光の出力を停止したり、出力強度を変更したりするよう、レーザ装置111,112を、それぞれ、制御することができる。
【0041】
光ファイバ130は、レーザ装置110と光学ヘッド120とを光学的に接続している。言い換えると、光ファイバ130は、レーザ装置110から出力されたレーザ光を光学ヘッド120に導く。レーザ装置110が、シングルモードレーザ光を出力する場合、光ファイバ130は、シングルモードレーザ光を伝播するよう構成される。この場合、シングルモードレーザ光のMビーム品質は、1.3以下に設定される。Mビーム品質は、M2ファクタとも称されうる。
【0042】
光学ヘッド120は、レーザ装置110から入力されたレーザ光を、対象物Wに向かって照射するための光学装置である。光学ヘッド120は、コリメートレンズ121と、集光レンズ122と、フィルタ123と、ミラー124と、DOE125と、ガルバノスキャナ126と、を有している。コリメートレンズ121、集光レンズ122、フィルタ123、ミラー124、DOE125、およびガルバノスキャナ126は、光学部品とも称されうる。
【0043】
コリメートレンズ121は、それぞれ、光ファイバ130を介して入力されたレーザ光をコリメートする。コリメートされたレーザ光は、平行光になる。
【0044】
ミラー124は、コリメートレンズ121で平行光となった第一レーザ光を反射し、ガルバノスキャナ126へ向かわせる。
【0045】
フィルタ123は、第一レーザ光を透過し、かつ第二レーザ光を透過せずに反射するハイパスフィルタである。ミラー124からの第一レーザ光は、フィルタ123を透過し、ガルバノスキャナ126へ向かう。他方、コリメートレンズ121からの第二レーザ光は、フィルタ123で反射され、ガルバノスキャナ126へ向かう。
【0046】
ガルバノスキャナ126は、複数のミラー126a,126bを有している。複数のミラー126a,126bの角度を変更することで、光学ヘッド120からのレーザ光Lの出射方向を切り替え、これにより、対象物Wの表面上でレーザ光Lの照射位置を変更することができる。ミラー126a,126bの角度は、それぞれ、例えば制御装置200によって制御された不図示のモータによって変更される。レーザ光Lを照射しながら、レーザ光Lの出射方向を変更することにより、対象物Wの表面上で、レーザ光Lを走査することができる。
【0047】
集光レンズ122は、ガルバノスキャナ126から到来した平行光としてのレーザ光を集光し、レーザ光L(出力光)として、対象物Wへ照射する。
【0048】
DOE125(DOE:diffractive optical element、回折光学素子)は、コリメートレンズ121で平行光となった第一レーザ光のビームを成形する。DOE125は、ビームシェイパの一例である。
【0049】
駆動機構140は、対象物Wに対する光学ヘッド120の相対的な位置を変更する。駆動機構140は、例えば、モータのような回転機構や、当該回転機構の回転出力を減速する減速機構、減速機構によって減速された回転を直動に変換する運動変換機構等を、有する。制御装置200は、対象物Wに対する光学ヘッド120のX方向、Y方向、およびZ方向における相対位置が変化するよう、駆動機構140を制御することができる。駆動機構140は、支持機構(不図示)に支持されている複数の対象物Wのうち、レーザ溶接を行う対象物Wを変更する(切り替える)ことができる。また、駆動機構140は、対象物Wにおけるレーザ光Lの照射位置を変更することができる。また、駆動機構140は、対象物Wに対するレーザ光の照射方向を変更するのに伴って照射点を変更するのに利用されうる。さらに、駆動機構140は、レーザ光Lが対象物Wの表面上に照射されている状態で、当該照射位置を変更することができる。すなわち、駆動機構140は、対象物Wの表面上で、レーザ光Lを走査することができる。
【0050】
図2は、対象物Wの端部20aへのレーザ光Lの照射により当該端部20a上に形成されたスポットSの平面図である。図2に示されるように、スポットSには、レーザ装置111から出力された第一レーザ光のビームB1による略円形の照射領域IA1と、レーザ装置112から出力された第二レーザ光のビームB2による略円形の照射領域IA2と、が含まれている。図2の例では、照射領域IA1が照射領域IA2内に位置し、照射領域IA1の中心と照射領域IA2の中心とが略一致している。しかしながら、スポットSの形状は、図2の例には限定されず、照射領域IA1,IA2の形状は円形には限定されない。また、DOE125により、照射領域IA1が、例えば、環状やマトリクス状に配置された複数の小領域を含むよう、ビームを成形してもよい。DOE125によってレーザ装置111から出力された第一レーザ光のビーム形状を適宜に設定できた場合にあっては、レーザ装置112からの第二レーザ光の出力が不要となる場合もある。また、スポットSでは、照射領域IA1の走査方向の前方に、照射領域IA2の少なくとも一部が位置していればよく、照射領域IA1の中心と、照射領域IA2の中心とは、互いにずれていてもよい。
【0051】
図3は、対象物Wの溶接する前の状態を示す側面図である。図3に示されるように、対象物Wは、二つの部材20(21,22)を有している。二つの部材20は、いずれも金属材料で作られている。図3に示す対象物Wの例として、例えば、車両等のモータに用いられる電磁コイルの巻き線を互いに溶接して接続する例等が挙げられる。
【0052】
二つの部材20は、いずれもZ方向に延びており、Z方向の端部20a(21a,22a)を有している。端部20aは、Z方向と交差して広がっている。すなわち、端部20aは、X方向に延びるとともにY方向に延びている。Z方向は、第一方向の一例である。端部21aは、第一端部の一例であり、端部22aは、第二端部の一例である。
【0053】
溶接に先立ち、二つの部材20は、Z方向と交差したX方向に互いに隣り合い、かつX方向に並ぶように配置される。X方向において互いに面する側面の間には、隙間gが形成されている。隙間gの大きさは、0以上である。すなわち、二つの部材20は、少なくとも部分的に接触していてもよい。X方向は、第二方向の一例である。
【0054】
なお、図3の例では、端部21aと端部22aとは、X方向に並び、Z方向における位置が同じであるが、これには限定されず、端部21aと端部22aとは、Z方向にずれていてもよい。
【0055】
対象物W、すなわち二つの部材20の溶接に際し、光学ヘッド120は、レーザ光Lを、端部20aに向けて照射する。レーザ光Lの照射方向は、Z方向の反対方向か、あるいはZ方向の反対方向に対して傾斜した方向である。なお、レーザ光Lは、端部21aおよび端部22aの双方に照射してもよいし、端部21aおよび端部22aのうちいずれか一方のみに照射してもよい。
【0056】
図4は、対象物Wに溶接部23(溶融池)が形成された状態を示す側面図である。図4に示されるように、端部20aに対するレーザ光Lの照射により、端部20aにおいて二つの部材20は溶融し、二つの端部20a上で掛け渡された状態に溶接部23が形成される。溶接部23は、二つの端部20a間で掛け渡された状態に形成された溶融池が、冷却され、固化したものである。流動性を有した金属材料である溶融池は、表面張力によってZ方向に膨らんだ形状を有している。これに伴って、当該溶融池が固化した溶接部23もZ方向に膨らんだ形状を有している。溶接部23は、二つの部材21,22を機械的に接続する。また、二つの部材21,22が導電性を有する金属である場合、溶接部23は、当該二つの部材21,22を電気的に接続する。
【0057】
センサ150(図1参照)は、例えば、対象物Wに形成される溶融池を撮影するカメラである。この場合、センサ150は、動きセンサの一例である。制御装置200は、センサ150によって取得される画像から、溶融池の表面の動き(経時変化)を取得することができる。
【0058】
また、センサ150は、溶融池の温度を検出することが可能なサーマルカメラであってもよい。この場合、センサ150は、温度センサの一例である。制御装置200は、センサ150によって取得される温度画像から、溶融池の温度を取得することができる。
【0059】
図5は、部材20を含む平角線10の斜視図である。部材20は、一例として、図5に示されるような平角線10の芯線(内部導体)である。平角線10は、部材20と、部材20の被覆30と、を有している。部材20は、導電性を有した金属材料で作られている。部材20の、延び方向に対して直交する断面の形状は、略四角形状である。被覆30は、絶縁性を有しており、例えば、エナメルや、合成樹脂材料等で作られる。被覆30は、エナメル層と、当該エナメル層を取り囲む押出樹脂層と、を有してもよい。レーザ溶接装置100は、このような平角線10の芯線としての部材20の、端部20a同士の溶接に適用される。この場合、二つの平角線10の延び方向の端部の近傍において、被覆30が除去される。そして、図3に示されるように、同じ方向(延び方向)を向く姿勢で隣り合うように配置された二つの部材20の端部20aが、レーザ溶接装置100によって溶接される。
【0060】
平角線10は、回転電気に設けられるセグメントコイルを構成してもよい。本実施形態のレーザ溶接装置100によるレーザ溶接方法は、ステータコアにセットされた互いに隣り合うセグメントコイルの端部の溶接に適用することができる。
【0061】
ただし、対象物Wとなる部材20は、平角線10の芯線には限定されず、図3に示されるように、互いにZ方向に延び、X方向に隣り合った部材であればよい。また、部材20は、板状の部材であってもよいし、線材であってもよい。
【0062】
[走査経路]
図6は、端部21a,22aにおけるレーザ光Lの走査経路R1の一例を示す平面図である。図6に示されるように、本実施形態では、レーザ光Lは、Z方向と交差する方向に、走査経路R1に沿って走査される。
【0063】
図6に示されるように、端部21aおよび端部22aは、いずれも四角形状の形状を有しており、本実施形態では、一例として、X方向に延びた辺とY方向に延びた辺とを有するとともに、X方向に相対的に短くかつY方向に相対的に長い、長方形状の形状を有している。この場合、Y方向は長手方向と称することができ、X方向は短手方向と称することができる。なお、図6の例では、一例として、端部21aおよび端部22aは同一の形状を有しているが、これには限定されない。
【0064】
また、図6の例では、レーザ光Lは、例えば、端部21aのX方向の中心C1よりも端部22aに近い領域A1と、端部22aのX方向の中心C2よりも端部21aに近い領域A2と、において走査されている。
【0065】
走査経路R1は、区間R11、区間R12、区間R13、区間R14、および区間R15を有している。ここで、走査経路R1は、照射開始点(照射位置P1)から照射終了点(照射位置P6)まで繋がった、連続した線状の経路である。発明者らの研究により、照射開始点から照射終了点まで連続した走査経路である場合の方が、互いに離間した複数の走査経路が分散して設けられた場合に比べて、端部21a,22a(溶融池)の場所による温度差(温度ばらつき)をより小さくすることができ、より安定的な溶融池を形成できることが判明している。照射開始点は、走査開始位置とも称され、照射終了点は、走査終了位置とも称されうる。
【0066】
区間R11は、照射位置P1から照射位置P2までの区間であり、区間R12は、照射位置P2から照射位置P3までの区間である。なお、図6では、わかりやすくするため、区間R11と区間R12とがX方向にずらして描かれているが、実際には、区間R11と区間R12とは重なっており、照射位置P1と照射位置P3とは同じ位置である。
【0067】
照射位置P1は、照射開始点である。照射位置P1は、端部21aのY方向の反対方向の端縁21a1の近くに位置している。また、照射位置P2は、端部21aのY方向の端縁21a2の近くに位置している。
【0068】
レーザ光Lは、照射位置P1から照射位置P2まで、Y方向、すなわち端部21aの長手方向に直線状に延びた区間R11において、走査される。区間R11において走査されたレーザ光Lは、区間R11の終端に位置した照射位置P2において反対方向に折れ曲がり、すなわち折り返し、照射位置P2から照射位置P3まで、Y方向の反対方向に直線状に延びた区間R12において、走査される。区間R11から区間R12にかけて、区間R11は、第一区間の一例であり、区間R12は、第二区間の一例であり、照射位置P2は、折曲部の一例である。また、区間R11から区間R12にかけての区間は、折曲走査区間の一例である。当該折曲走査区間の折曲部としての照射位置P2における角度変化量は、180°である。なお、本明細書において、角度変化量は、180°以下の値とする。
【0069】
区間R13は、照射位置P3から照射位置P4までの区間である。照射位置P4は、端部22aのY方向の反対方向の端縁22a2の近くに位置している。
【0070】
区間R12において走査されたレーザ光Lは、区間R12の終端に位置した照射位置P3において90°折れ曲がり、照射位置P3から照射位置P4まで、X方向の反対方向、すなわち端部21a,22aの短手方向に直線状に延びた区間R13において、走査される。区間R12から区間R13にかけて、区間R12は、第一区間の一例であり、区間R13は、第二区間の一例であり、照射位置P3は、折曲部の一例である。また、区間R12から区間R13にかけての区間は、折曲走査区間の一例である。当該折曲走査区間の折曲部としての照射位置P3における角度変化量は、90°である。
【0071】
区間R14は、照射位置P4から照射位置P5までの区間であり、区間R15は、照射位置P5から照射位置P6までの区間である。なお、図6では、わかりやすくするため、区間R14と区間R15とがX方向にずらして描かれているが、実際には、区間R14と区間R15とは重なっており、照射位置P4と照射位置P6とは同じ位置である。
【0072】
照射位置P5は、端部22aのY方向の端縁22a2の近くに位置している。また、照射位置P6は、照射終了点である。
【0073】
区間R13において走査されたレーザ光Lは、区間R13の終端に位置した照射位置P4において90°折れ曲がり、照射位置P4から照射位置P5まで、Y方向、すなわち端部22aの長手方向に直線状に延びた区間R14において、走査される。区間R13から区間R14にかけて、区間R13は、第一区間の一例であり、区間R14は、第二区間の一例であり、照射位置P4は、折曲部の一例である。また、区間R13から区間R14にかけての区間は、折曲走査区間の一例である。当該折曲走査区間の折曲部としての照射位置P4における角度変化量は、90°である。
【0074】
区間R14において走査されたレーザ光Lは、区間R14の終端に位置した照射位置P5において反対方向に折れ曲がり、すなわち折り返し、照射位置P5から照射位置P6まで、Y方向の反対方向に直線状に延びた区間R15において、走査される。区間R14から区間R15にかけて、区間R14は、第一区間の一例であり、区間R15は、第二区間の一例であり、照射位置P5は、折曲部の一例である。また、区間R14から区間R15にかけての区間は、折曲走査区間の一例である。当該折曲走査区間の折曲部としての照射位置P5における角度変化量は、180°である。
【0075】
また、図6から明らかとなるように、区間R11,R12,R14,R15は、各区間の端部としての照射位置P1~P6よりも端縁21a1,21a2,22a1,22a2から遠い照射位置を含んでいる。照射位置P1~P6は、照射端部の一例である。
【0076】
[走査経路の照射位置による光源出力の変更]
発明者らは、図6の走査経路R1でレーザ光Lを走査して溶接を行った。当該実験では、X方向の長さが約2[mm]およびY方向の長さが約3[mm]の端部21a,22aに対して、波長が1070[nm]である第一レーザ光と、波長が450[nm]である第二レーザ光とを含むレーザ光を照射した。端部21a,22aのZ方向と交差した平面において、第一レーザ光の円形のスポット(ビーム)と、第二レーザ光の円形のスポット(ビーム)とを、同心円状に配置し、端部21a,22aにおける第一レーザ光のスポットの直径を約15[μm]とし、第二レーザ光のスポットの直径を約230[μm]とした。なお、スポットの直径は、ビームのピークを含み、ピーク強度の1/e以上の強度の領域の径として定義することができる。なお、円形でないビームの場合は、走査方向と垂直な方向における、ピーク強度の1/e以上の強度となる領域の長さをビーム径と定義することができる。また、スポットにおけるパワー分布はガウシアン形状に限定されない。レーザ光Lの走査速度は、80[mm/s]で一定とした。
【0077】
発明者らは、上述した条件において実験を行ったところ、照射位置P1~P6のような長手方向の端縁21a1,21a2,22a1,22a2に近い照射位置では、これら端縁21a1,21a2,22a1,22a2からより遠い照射位置と比べて、スパッタの発生頻度が高いことを見出した。これは、長手方向の端縁21a1,21a2,22a1,22a2に近い場所においては、長手方向の中間位置と比較して、周辺の金属材料が少ない分、熱がこもりやすく、溶融池の温度が上昇しやすくなり、ひいてはスパッタの発生頻度が増大しているものと推察される。
【0078】
また、溶融池の温度が上昇すると、溶融池がより大きく成長し、ひいては、当該溶融池が端部21a,22aからこぼれ落ちてしまう虞もある。
【0079】
そこで、発明者らは、実験を重ね、レーザ光の出力の照射位置に応じた適宜な変更によって、溶融池の温度の過度な上昇を抑制し、例えば、スパッタをより少なくできたり、溶融池がこぼれ落ち難くなったりするような、好適な溶接を実行可能であることを見出した。
【0080】
図7は、照射位置P1から照射位置P6に至る走査経路R1における第一レーザ光の光源出力(パワー)、すなわちレーザ装置111からのレーザ光の出力の、走査経路R1内の照射位置に応じた変化の一例を示すグラフである。なお、第二レーザ光の出力は、150[W]で一定とした。
【0081】
図7に示されるように、区間R11,R12,R14,R15においては、端縁21a1,21a2,22a1,22a2からより遠い中間位置Pm1,Pm2,Pm4,Pm5における光源出力が、各区間R11,R12,R14,R15のピークに設定され、端縁21a1,21a2,22a1,22a2により近い照射位置P1,P2,P4,P5,P6における光源出力よりも高く設定されている。
【0082】
このため、図7の設定においては、区間R11のうち照射位置P1と中間位置Pm1との間では、照射位置P1に近いほど光源出力がより低く設定され、区間R11のうち中間位置Pm1と照射位置P2との間では、照射位置P2に近いほど光源出力がより低く設定されている。これと同様に、区間R12のうち照射位置P2と中間位置Pm2との間、区間R12のうち中間位置Pm2と照射位置P3との間、区間R14のうち照射位置P4と中間位置Pm4との間、区間R14のうち中間位置Pm4と照射位置P5との間、区間R15のうち照射位置P5と中間位置Pm5との間、および区間R15のうち中間位置Pm5と照射位置P6との間でも、各区間の照射端部としての照射位置P1~P6に近いほど、光源出力がより低くなるよう設定されている。中間位置Pm1,Pm2,Pm4,Pm5と、当該中間位置Pm1,Pm2,Pm4,Pm5と隣接した照射位置P1~P6との間の区間は、第四区間の一例である。
【0083】
また、図6に示されるように、照射位置P2~P5では、走査経路R1が折れ曲がるかあるいは折り返している。発明者らの鋭意検討により、このような折曲部の近傍では、レーザ光のスポットが比較的近い範囲にとどまる時間が長くなり、端縁21a1,21a2,22a1,22a2からの距離によらず、レーザ光のスポットが折れ曲がったり折り返したりすることなく線状に移動する区間に比べて、溶融池の温度が上昇しやすくなり、ひいてはスパッタの発生頻度が増大する虞があることが判明した。
【0084】
このため、図7のように、走査経路R1における折曲部としての照射位置P2~P5に近いほど、光源出力がより低くなる設定は、照射位置P2~P5が端縁21a1,21a2,22a1,22a2から遠い場合においてもスパッタを抑制できる効果が得られる。中間位置Pm1,Pm2,Pm4,Pm5と、当該中間位置Pm1,Pm2,Pm4,Pm5と隣接した折曲部としての照射位置P2~P5との間の区間は、第三区間の一例である。
【0085】
すなわち、平面視における走査経路R1の照射位置における曲率半径が小さいほど当該照射位置における光源出力を低くすることにより、溶融池の温度上昇を抑制することができる。
【0086】
また、上述した折曲走査区間の折曲部における角度変化量が大きいほど、レーザ光のスポットはより近い位置にとどまりやすくなるため、溶融池の温度が上昇しやすくなる。このため、角度変化量が大きいほど折曲部における光源出力を低くすることにより、溶融池の温度上昇を抑制することができる。図7の例では、区間R11から区間R12にかけての、角度変化量が180°の折曲走査区間において折曲部としての照射位置P2を通過する際の一時的な光源出力の低下量D1は、区間R12から区間R13にかけての、角度変化量が90°の折曲走査区間において折曲部としての照射位置P3を通過する際の一時的な光源出力の低下量D2よりも大きい。
【0087】
また、図7の設定では、各区間R11,R12,R14,R15において、光源出力が徐々に線形的に変化したが、これには限定されず、走査経路R1のうち、溶融池の温度が上昇しやすくなる範囲において、光源出力を低くするような設定であってもよい。
【0088】
図8は、端縁21a2および照射位置P2の近傍に設定された光源出力を相対的に低くする範囲S3(ハッチングを施した領域)、および当該範囲S3から外れて光源出力を相対的に高くする範囲S4の一例を示す平面図である。範囲S3は、第三範囲および所定領域の一例であり、端縁領域とも称されうる。範囲S4は、第四範囲および他の所定領域の一例である。このように、端縁21a1,21a2,22a1,22a2または当該端縁21a1,21a2,22a1,22a2に近い照射位置P1~P6から所定距離以内となる範囲(第三範囲)に含まれる照射位置における光源出力(パワー)を、当該範囲から外れた範囲(第四範囲)に含まれる照射位置、または、照射位置が部材21,22のY方向中央となる場合における光源出力よりも低く、例えば、80[%]以下となるように設定することにより、例えば、範囲S3におけるスパッタの発生を抑制できたり、溶融池のこぼれ落ちを抑制できたり、といった利点が得られる。範囲S3のY方向の幅としては、2.4[mm]以下である場合が好ましく、1.8[mm]以下である場合がさらに好ましい。また、部材21のY方向の寸法に対する、範囲S3のY方向の幅の比((範囲S3のY方向の幅[mm])/(部材21のY方向の寸法[mm]))が0.8以下である場合が好ましく、0.6以下である場合がさらに好ましい。
【0089】
また、図9は、折曲部としての照射位置P3を中心として所定距離以内となる光源出力を相対的に低くする範囲S1(ハッチングを施した領域)、および当該範囲S1から外れて光源出力を相対的に高くする範囲S2の一例を示す平面図である。範囲S1は、第一範囲および所定領域の一例であり、範囲S2は、第二範囲および他の所定領域の一例である。このように、折曲部としての照射位置P2~P5から所定距離以内となる範囲(第一範囲)に含まれる照射位置における光源出力(パワー)を、当該範囲から外れた範囲(第二範囲)に含まれる照射位置における光源出力よりも低く設定することにより、例えば、範囲S1におけるスパッタの発生を抑制できるという利点が得られる。なお、折曲部は、レーザ光の走査方向が所定の角度(例えば、45度)以上変化する場合であって、レーザ光の走査軌跡の曲率半径が所定の値(例えば、1.0mm)以下となる領域と定義することができる。
【0090】
[走査経路の照射位置による走査速度の変更]
図7のような照射位置に応じた光源出力の変化により、端部21a,22aの単位面積あたりのレーザ光の照射エネルギ、すなわち端部21a,22aに対する照射エネルギ密度の、場所による差(ばらつき)が小さくなっていると考えることができる。
【0091】
照射エネルギ密度は、端部21a,22aにおけるレーザ光Lの走査速度が低いほど高くなり、走査速度が高いほど低くなる。したがって、例えば、中間位置Pm1,Pm2,Pm4,Pm5のような、端縁21a1,21a2,22a1,22a2や、折曲部としての照射位置P2~P5から比較的遠い照射位置においては、相対的に走査速度を遅くし、端縁21a1,21a2,22a1,22a2あるいは照射位置P2~P5に近づくほど、走査速度を高くしてもよい。この場合、折曲部としての照射位置P2~P5あるいはその近傍において、走査速度を高くするのが難しい場合には、光源出力を低くしてもよい。
【0092】
すなわち、走査速度が低いほど、光源出力を低くしてもよい。このような設定によれば、走査速度が低くなることによる照射エネルギ密度の上昇を、光源出力を低下することによって抑制することができる。逆に、光源出力が高いほど、走査速度を高くしてもよい。また、レーザ光の走査速度が所定の値以下となる場合に光源出力を低くする、より好ましくは50[%]以上低くするようにしてもよい。一例として、走査速度が当初の走査速度100[mm/sec]に対してその半分の50[mm/sec]以下になった場合に光源出力をより低くすればよい。この場合、所定の値は、当初の走査速度の半分の値であり、閾値速度とも称されうる。このような設定によれば、光源出力が高くなることによる照射エネルギ密度の上昇を、走査速度を高くすることによって抑制することができる。走査速度は、レーザ光の照射状態の一例である。
【0093】
また、対象物Wのレーザ光の照射方向に垂直な断面の面積が30[mm]以下、より好ましくは20[mm]以下、さらに好ましくは10[mm]以下である場合には、スパッタの発生頻度が増大、および溶融池が端部21a,22aからこぼれ落ちてしまうことを好適に抑制することができるため好ましい。
【0094】
[他の制御例]
走査開始時においては、走査開始後に比べて、端部21a,22aの温度の上昇速度が遅い。かと言って、第一レーザ光の光源出力を高くすると、キーホールが生じて局所的には温度が高くなり、溶融池が不安定になり、スパッタが発生してしまう虞がある。そこで、照射位置P1における第二レーザ光の光源出力を、走査開始後の第二レーザ光の光源出力よりも高くしてもよい。このような設定によれば、吸収率がより高い第二レーザ光の照射によって、端部21a,22aの温度をより緩やかに高めることができ、より安定的に溶融池を形成し、ひいてはスパッタの発生を抑制することができる。
【0095】
また、制御装置200は、センサ150によって取得された画像から溶融池の表面の移動量(振幅)を取得し、当該移動量が大きくなった場合に、照射エネルギ密度が低くなるよう、レーザ光Lの光源出力を低くしたり、レーザ光Lの走査速度を高くしたりしてもよい。具体的には、例えば、制御装置200は、レーザ装置110を制御することにより、移動量が閾値を超えた場合に光源出力を低くしたり、あるいは移動量が大きくなるほど光源出力を低くしたりすることができる。また、制御装置は、ガルバノスキャナ126や駆動機構140を制御することにより、移動量が閾値を超えた場合に走査速度を高くしたり、移動量が大きくなるほど走査速度を高くしたりすることができる。このような制御によれば、溶融池をより安定化することができ、ひいてはスパッタの発生を抑制することができる。
【0096】
さらに、制御装置200は、センサ150によって取得された画像から溶融池の温度を取得し、当該溶融池の温度に基づいて、例えば、溶融池の温度が所定範囲内に収まるよう、照射位置に応じたレーザ光の照射状態、すなわち光源出力や走査速度を制御することができる。具体的には、例えば、制御装置200は、レーザ装置110を制御することにより、温度が閾値を超えた場合に光源出力を低くしたり、あるいは温度が高くなるほど光源出力を低くしたりすることができる。また、制御装置は、ガルバノスキャナ126や駆動機構140を制御することにより、温度が閾値を超えた場合に走査速度を高くしたり、温度が高くなるほど走査速度を高くしたりすることができる。このような制御によれば、溶融池をより安定化することができ、ひいてはスパッタの発生を抑制することができる。センサ150は、溶融池から出力される放射光の状態を検出するものであってもよい。この場合、センサ150によって検出可能な、溶融池の温度に応じて変化する放射光の状態としては、例えば、強度や、波長等がある。制御装置200は、センサ150の検出値から、当該検出値と温度との相関関係に基づいて、溶融池の温度を取得し、例えば、溶融池の温度が所定範囲内に収まるよう、照射位置に応じたレーザ光の照射状態、すなわち光源出力や走査速度を制御することができる。
【0097】
[走査経路の別の例]
図10は、端部21a,22aにおけるレーザ光Lの走査経路R2の一例を示す平面図である。図10の例では、レーザ光Lは、Z方向と交差する方向に、走査経路R2に沿って走査される。走査経路R2は、端部21a上の端縁21a1に近い照射位置P1から端縁21a2に近い照射位置P2までY方向に向かう区間R21、照射位置P2から端部22a上の端縁22a2に近い照射位置P3までX方向の反対方向に向かう区間R22、照射位置P3から端縁22a1に近い照射位置P4までY方向の反対方向に向かう区間R23、および照射位置P4から照射位置P1と同じ位置である照射位置P4までのX方向へ向かう区間R24を含んでいる。この例では、照射位置P2,P3,P4は、角度変化量が90°の折曲部となる。この場合も、照射位置P1~P4に近いほど光源出力を低くしたり走査速度を高くしたりすることにより、端部21a,22aの場所による照射エネルギ密度の差(ばらつき)を減らし、これにより、溶融池の過度な温度上昇によるスパッタの発生や、溶融池のこぼれ落ちを抑制することができる。
【0098】
[走査経路の照射位置による光源出力の変更の別の例]
図11は、端部21a,22aにおけるレーザ光Lの走査経路R100の一例を示す平面図である。図11の例では、レーザ光LのスポットS(図2参照)は、Z方向と交差する方向に、走査経路R100に沿って移動する(走査される)。走査経路R100は、スポットSの中心の移動軌跡を示している。レーザ光Lは、端部21a上で略U字状に走査された後、端部22a上で略U字状に走査される。端部21a,22aの双方において、走査経路R100は、領域A1,A2内に設定されている。端部21a上での走査経路R100の形状と、端部22a上での走査経路R100の形状とは、略同一である。また、端部21a,22a間での移動経路Tにおいては、光学ヘッド120からレーザ光Lは照射されない。
【0099】
図12は、各端部21a,22aにおけるレーザ光Lの走査経路R100の平面図である。なお、図12では、わかりやすさのため、走査経路R100は幅を持たせて描かれているが、図12中の走査経路R100の幅は、スポットSのサイズとは無関係である。
【0100】
図12に示されるように、走査経路R100は、区間R101~R109をこの順に含んでいる。スポットSは、区間R101~R105において、Y方向に直線状に移動する。次に、スポットSは、区間R106において、スポットSは、Y方向の反対方向に開放された略U字状に曲がりながら移動する。次に、スポットSは、区間R107~R109において、Y方向の反対方向に直線状に移動する。図12の例では、区間R101~R105、および区間R107~R109は、線状走査区間の一例であり、区間R106は、非線状走査区間の一例である。また、区間R101~R105は、第一区間の一例であり、区間R107~R109は、第二区間の一例である。
【0101】
図12の例では、区間R101~R105と区間R107~R109とが、X方向に互いに離間し、区間R106が、これら区間R101~R105および区間R107~R109と円滑に接続されるとともに、所定の半径で湾曲している。区間R106の湾曲半径は、区間R101~R105および区間R107~R109のX方向における距離の半分である。このような走査経路R100の設定により、区間R106で直線状に逆方向に(180°)折り返した場合に比べて、区間R106における照射エネルギ密度をより低くすることができ、ひいては溶融池の過度な温度上昇によるスパッタの発生や、溶融池のこぼれ落ちをより一層抑制できる場合がある。
【0102】
図13は、各端部21a,22aでの図12に示された走査経路R100における光源出力(パワー)の経時変化の一例を示すグラフである。図13では、ビームB1を形成する第一レーザ光を出力するレーザ装置111の出力の合計値が実線で示され、ビームB2を形成する第二レーザ光を出力するレーザ装置112の出力の合計値が実線で示されている。
【0103】
図13に示されるように、ビームB2に対応した光源出力は、区間R101~R109の間で一定である。また、ビームB1に対応した光源出力は、区間R101では0であり、区間R104,R108では一定であり、区間R102,R103,R105,R107,R109では経時的に変化している。この場合、区間R101,R104,R108は、光学ヘッド120から照射されるレーザ光Lのパワーが一定の状態で照射位置(スポットS)が移動するパワー一定区間の一例である。また、区間R102,R103,R107は、光学ヘッド120から照射されるレーザ光Lのパワーが経時的に増加する状態で照射位置(スポットS)が移動するパワー増加区間の一例であり、パワー変更区間の一例である。また、区間R105,R109は、光学ヘッド120から照射されるレーザ光Lのパワーが経時的に減少する状態で照射位置(スポットS)が移動するパワー減少区間の一例である。
【0104】
図13から明らかとなるように、図12の区間R101~R105におけるY方向へのレーザ光Lの走査から、区間R107~R109におけるY方向の反対方向へのレーザ光Lの走査への折り返し区間となる区間R106における光源出力は、その前後の区間R104,R108での光源出力よりも低く、例えば80[%]以下となるように、設定されている。区間R106のような湾曲した区間や、屈曲した(折れ曲がった)区間(不図示)のような、非線状走査区間での移動中においては、レーザ光LのスポットSは比較的近くに留まるため、照射エネルギ密度が高くなりやすい。そこで、図13の例のように、非線状走査区間としての区間R106では、線状走査区間としての区間R104,R108よりも低いパワーで照射することにより、区間R106において、他の区間R101~R105,R107~R109よりも照射エネルギ密度が高くなるのを抑制し、端部21a,22aの場所による照射エネルギ密度の差(ばらつき)を減らし、ひいては溶融池の過度な温度上昇によるスパッタの発生や、溶融池のこぼれ落ちを抑制することができる。
【0105】
また、区間R102,R103,R107のように、光源出力が経時的に増加する区間が設けられることにより、溶融池の過度な温度上昇によるスパッタの発生や、溶融池のこぼれ落ちを抑制することができる。なお、経時的な増加は、漸増であってもよいし、段階的な増加であってもよい。
【0106】
さらに、区間R105,R109のように、光源出力が経時的に減少する区間が設けられることにより、溶融池の急激な温度下降によるキーホールの消滅のような溶融池の動きの増加に伴うボイドの発生やスパッタの発生を抑制することができる。なお、経時的な減少は、漸減であってもよいし、段階的な減少であってもよい。
【0107】
また、溶融池の状態が穏やかになるよう、区間R102,R103,R105,R107,R109におけるパワーの増加率あるいは減少率(変化率)の値は、適宜に設定することができるし、増加率あるいは減少率(変化率)は、経時的に変化させてもよい。
【0108】
また、図13の例では、区間R104における光源出力、すなわち、スポットSがY方向に移動している区間R101~R105における光源出力の最大値と、区間R108における光源出力、すなわち、スポットSがY方向の反対方向に移動している区間R107~R109における光源出力の最大値とが、同じである。この場合、例えば、より多くのエネルギをより短時間で投入することができる分、処理時間をより短くできたり、あるいはレーザ装置111,112の作動の管理をより容易に行うことができたり、といった利点が得られる。
【0109】
また、第二レーザ光は、材料における吸収率が比較的高いものの、波長が短く収束性が比較的低いため、エネルギを効率良く与えにくい。他方、第一レーザ光は、材料における吸収率が比較的低い反面、波長が長く収束性が比較的高いため、対象物Wにエネルギをより効率良く与えやすい。したがって、第二レーザ光の照射によって、第一レーザ光を照射する前の段階で対象物Wを予備的に加熱し、第一レーザ光の照射によって、対象物Wを溶融するエネルギを投入することで、対象物Wの急激な温度変化を抑制しながら、より効率良く対象物Wを溶融することができる。
【0110】
このような観点から、図13に示されるように、第一レーザ光のビームB1を照射する前の段階から照射しておく、すなわち区間R101において、第一レーザ光のビームB1を照射せず第二レーザ光のビームB2のみを照射しておくのが好ましい。この場合、図12に示されるように、第二レーザ光の照射開始位置Ps0と、第一レーザ光の照射開始位置Ps1とが互いに異なることになる。なお、図12の例では、Y方向における第一レーザ光および第二レーザ光の照射終了位置Peは、Y方向における第二レーザ光の照射開始位置Ps0、およびY方向における第一レーザ光の照射開始位置Ps1の双方と相違しているが、これには限定されず、これらの相対的な位置関係は、溶融池の状態が穏やかになるよう、適宜に設定されうる。
【0111】
また、第二レーザ光は、照射開始時点においては、一定時間、走査することなく定点照射してもよい。これにより、対象物Wの温度を、より速やかに適宜な温度まで上昇させ、対象物Wの加工をより効率良く行うことができる場合がある。
【0112】
また、対象物Wの急激な温度変化を抑制しながら、より効率良く対象物Wを溶融する観点から、図13の例のように、第二レーザ光の光源出力は経時的に略一定とし、第一レーザ光の光源出力は経時的に変化させるのが好ましい。
【0113】
[走査経路の照射位置による光源出力の変更のさらに別の例]
図14は、各端部21a,22aでの図12に示された走査経路R100における光源出力(パワー)の経時変化の別の一例を示すグラフである。図14でも、ビームB1を形成する第一レーザ光を出力するレーザ装置111の出力の合計値が実線で示され、ビームB2を形成する第二レーザ光を出力するレーザ装置112の出力の合計値が実線で示されている。
【0114】
図13図14とを比較すれば明らかとなるように、図14の例では、区間R104における光源出力を、区間R108における光源出力よりも低く設定している。発明者の実験的な研究により、区間R102,R103において、レーザ装置111の光源出力が低い状態から急激に上昇すると、溶融池の動きが激しくなり、スパッタが生じやすい場合があることが判明した。そこで、図14の例では、区間R104における光源出力を、区間R108における光源出力よりも低く設定している。言い換えると、区間R101~R105における光源出力の最大値を、区間R107~区間R109における光源出力の最大値よりも低く設定している。これにより、溶融池の状態をより穏やかにし、スパッタを抑制することができる。なお、区間R104における光源出力の値は、図14の例では、区間R106における光源出力と同じ値に設定されているが、これには限定されず、例えば、区間R106における光源出力より大きく、かつ区間R108の光源出力より低く設定するなど、適宜に変更して設定することができる。
【0115】
また、図11~14に示す例においては、光源出力の増大を、適宜走査速度の減少に置き換えてもよいし、光源出力の減少を、適宜走査速度の増加に置き換えてもよい。
【0116】
[走査経路のさらに別の例]
図15は、端部21a,22aにおけるレーザ光Lの走査経路R100の一例を示す平面図である。図15の例でも、レーザ光Lは、端部21a,22a上で略U字状に走査されている。ただし、図15の例では、レーザ光Lは、少なくとも部分的に、領域A1,A2とは外れた領域、すなわち、端部21a,22aのうち一方の端部のX方向の中心C1,C2よりも他方の端部から遠い領域において、走査されている。このような走査経路R100においてレーザ光Lを走査した場合にあっても、所要の溶接部23を形成できるとともに、溶融池の過度な温度上昇によるスパッタの発生や、溶融池のこぼれ落ちを抑制できる場合がある。
【0117】
以上、説明したように、本実施形態によれば、端部21a,22aのレーザ光を照射する領域において場所によるレーザ光の照射エネルギ密度の差が小さくなるよう、レーザ光の照射位置に応じてレーザ光の照射状態を変更することができる。これにより、溶融池の温度の過度な上昇を抑制することができ、ひいては、スパッタの発生を抑制できたり、溶融池の過度な成長によるこぼれ落ちを抑制できたり、といった種々の効果が得られる。
【0118】
以上、本発明の実施形態および変形例が例示されたが、上記実施形態および変形例は一例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態および変形例は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、等のスペック(構造や、種類、方向、型式、大きさ、長さ、幅、厚さ、高さ、数、配置、位置、材質等)は、適宜に変更して実施することができる。
【0119】
例えば、上記実施形態では、対象物は、平角線であったが、対象物はこれには限定されず、他の導線や、他の金属部材であってもよい。また、対象物は、三つ以上の部材を含んでもよい。また、対象物に含まれる複数の部材は、同一の部材でなくてもよい。また、対象物は、並べられたり突き合わせられたりした複数の部材には限定されず、重ね合わせられた複数の部材であってもよい。
【0120】
例えば、レーザ光の照射に際し、公知のウォブリングや、ウィービング、出力変調等が行われ、溶融池の表面積が調節されてもよい。
【0121】
また、走査される位置、すなわち照射領域や、走査経路は、上述した例には限定されず、種々に設定することができる。
【0122】
また、本発明は、以下のような形態によって実施することができる。
(21)
本発明のレーザ溶接方法では、前記パワー変更区間の少なくとも一部において、レーザ光の照射位置の移動に応じた照射するレーザ光のパワーの増加率またはパワーの減少率が経時的に変化してもよい。
(22)
前記レーザ溶接方法では、前記レーザ光を照射する工程において、前記第一端部または前記第二端部のうち所定領域に前記レーザ光を照射する場合、他の所定領域に前記レーザ光を照射する場合よりも低い出力で前記レーザ光を照射してもよい。
(23)
前記レーザ溶接方法では、前記所定領域は、前記レーザ光の走査経路における折曲部を含み、前記他の所定領域は、前記所定領域以外の領域であってもよい。
(24)
前記レーザ溶接方法では、前記所定領域は、前記第一端部の端縁領域であり、前記他の所定領域は、前記第一端部の当該端縁領域以外の領域であってもよい。
(25)
前記レーザ溶接方法では、前記所定領域は、前記第一端部の端縁領域であり、前記他の所定領域は、前記第一端部の前記所定の方向における中央を含んでもよい。
(26)
前記レーザ溶接方法では、前記レーザ光を照射する工程において、レーザ光の照射位置に応じて前記第一端部または前記第二端部におけるレーザ光の走査速度を変更してもよい。
(27)
前記レーザ溶接方法では、前記レーザ光を照射する工程において、前記第一端部または前記第二端部におけるレーザ光の走査速度が低いほど、照射するレーザ光のパワーを低くしてもよい。
(28)
前記レーザ溶接方法では、前記レーザ光を照射する工程において、前記第一端部または前記第二端部におけるレーザ光の走査経路の曲率半径が大きいほど、照射するレーザ光のパワーを高くするかあるいは走査速度を低くしてもよい。
(29)
前記レーザ溶接方法では、前記レーザ光を照射する工程において、前記第一端部または前記第二端部におけるレーザ光の照射位置の走査経路が、直線状に走査される第一区間と、当該第一区間の端に位置した折曲部で折れ曲がり前記第一区間の走査方向とは異なる方向に直線状に走査される第二区間と、前記第一区間、前記第二区間、または前記折曲部において、前記折曲部から所定距離以内の第一範囲と、前記第一区間または前記第二区間において、前記第一範囲から外れ、当該第一範囲よりも高いパワーでレーザ光を照射するレーザ光を照射する第二範囲と、を含んでもよい。
(30)
前記レーザ溶接方法では、前記レーザ光を照射する工程において、前記第一端部または前記第二端部におけるレーザ光の照射位置の走査経路が、直線状に走査される第一区間と、当該第一区間の端に位置した折曲部で折れ曲がり前記第一区間の走査方向とは異なる方向に直線状に走査される第二区間と、を含み、前記第一区間から前記第二区間に向けて前記折曲部を通過する際に一時的に照射するレーザ光のパワーを低下させる折曲走査区間であって、前記第一区間における走査方向から前記第二区間における走査方向への角度変化量が異なる複数の折曲走査区間を有し、前記複数の折曲走査区間において、前記角度変化量が大きいほど、一時的なパワーの低下量が大きくてもよい。
(31)
前記レーザ溶接方法では、前記レーザ光を照射する工程において、前記第一端部または前記第二端部におけるレーザ光の照射位置の走査経路が、前記第一端部または前記第二端部の端縁に近い照射端部と、当該照射端部よりも前記端縁から遠い照射位置と、を含む第四区間を含み、前記第四区間では、前記照射位置が前記照射端部に近いほどより低いパワーでレーザ光を照射してもよい。
(32)
前記レーザ溶接方法では、前記レーザ光を照射する工程において、前記第一端部または前記第二端部におけるレーザ光の照射位置の走査経路が、前記第一端部または前記第二端部の端縁に近い照射端部と、当該照射端部よりも前記端縁から遠い照射位置と、を含む第四区間と、前記第四区間または前記照射端部において、前記端縁または前記照射端部から所定距離以内の第三範囲と、前記第四区間において、前記第三範囲から外れ、前記第三範囲よりも高いパワーでレーザ光を照射する第四範囲と、を含んでもよい。
(33)
前記レーザ溶接方法では、前記レーザ光を照射する工程において、走査開始位置において、走査開始後の照射位置よりも高いパワーで第二レーザ光を照射してもよい。
(34)
前記レーザ溶接方法では、前記レーザ光を照射する工程において、溶融池の温度を検出し、当該溶融池の温度が高いほど照射エネルギ密度が低くなるよう、レーザ光の照射位置に応じてレーザ光の照射状態を変更してもよい。
(35)
前記レーザ溶接方法では、前記レーザ光を照射する工程において、溶融池の動きを検出し、当該溶融池の動きが大きいほど照射エネルギ密度が低くなるよう、レーザ光の照射位置に応じてレーザ光の照射状態を変更してもよい。
(36)
前記レーザ溶接方法では、前記第一部材および前記第二部材の金属材料は、それぞれ銅系金属およびアルミニウム系金属のうちのいずれかであってもよい。
(37)
前記レーザ溶接方法では、前記第一部材および前記第二部材の金属材料は、導電材料であってもよい。
(38)
本発明のレーザ溶接方法は、金属材料で作られた第一部材と金属材料で作られた第二部材とをレーザ溶接するレーザ溶接方法であって、前記第一部材および前記第二部材のうち少なくとも一方に、走査しながらレーザ光を照射する工程と、前記レーザ光を照射する工程において前記第一部材と前記第二部材とに渡って形成された溶融池を固化する工程と、を備え、前記レーザ光を照射する工程では、溶融池の温度または溶融池から出力された放射光の状態に基づいて、レーザ光の照射位置に応じたレーザ光の照射状態を変更してもよい。
【符号の説明】
【0123】
10…平角線
20…部材
20a…端部
21…部材(第一部材)
21a…端部(第一端部)
21a1,21a2…端縁
22…部材(第二部材)
22a…端部(第二端部)
22a1,22a2…端縁
23…溶接部(溶融池)
30…被覆
100…レーザ溶接装置
110,111,112…レーザ装置(光源)
120…光学ヘッド
121…コリメートレンズ
122…集光レンズ
123…フィルタ
124…ミラー
125…DOE
126…ガルバノスキャナ
126a,126b…ミラー
130…光ファイバ
140…駆動機構
150…センサ
200…制御装置
g…隙間
A1…領域
A2…領域
B1,B2…ビーム
C1…中心
C2…中心
D1,D2…低下量
IA1,IA2…照射領域
L…レーザ光
P1,P6…照射位置
P2~P5…照射位置(折曲部)
Pe…照射終了位置
Pm1,Pm2,Pm4,Pm5…中間位置
Ps0,Ps1…照射開始位置
R1,R2,R100…走査経路
R11~R15…区間(第一区間、第二区間)
R21~R24…区間(第一区間、第二区間)
R101…区間(第一区間、線状走査区間、パワー一定区間)
R102…区間(第一区間、線状走査区間、パワー変更区間、パワー増加区間)
R103…区間(第一区間、線状走査区間、パワー変更区間、パワー増加区間)
R104…区間(第一区間、線状走査区間、パワー一定区間)
R105…区間(第一区間、線状走査区間、パワー変更区間、パワー減少区間、パワー一定区間)
R106…区間(非線状走査区間、パワー一定区間)
R107…区間(第二区間、線状走査区間、パワー変更区間、パワー増加区間)
R108…区間(第二区間、線状走査区間、パワー一定区間)
R109…区間(第二区間、線状走査区間、パワー変更区間、パワー増加区間)
S…スポット
S1…範囲(第一範囲)
S2…範囲(第二範囲)
S3…範囲(第三範囲)
S4…範囲(第四範囲)
T…移動経路
W…対象物
X…方向(第二方向)
Y…方向(第三方向)
Z…方向(第一方向)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15