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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169898
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】材料設計装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   G16C 60/00 20190101AFI20241129BHJP
【FI】
G16C60/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086748
(22)【出願日】2023-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】110002583
【氏名又は名称】弁理士法人平田国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】古澤 大介
(57)【要約】
【課題】実施可能な材料設計が可能な材料設計装置及び方法を提供する。
【解決手段】材料設計装置1は、複数の物質を組み合わせて材料を設計するための装置であって、複数の物質のそれぞれは、予め設定されたベース物質と、ベース物質の一部を置換する複数の置換物質とを組み合わせて構成されており、複数の物質のそれぞれについて、ベース物質と複数の置換物質の組み合わせ及び配合割合を決定すると共に、複数の物質の配合割合を決定した材料候補を複数生成する材料候補生成処理部22を備え、材料候補生成処理部22は、複数の物質のそれぞれについて、ベース物質と置換する置換物質の数の上限を設定可能に構成されている。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の物質を組み合わせて材料を設計するための装置であって、
前記複数の物質のそれぞれは、予め設定されたベース物質と、前記ベース物質の一部を置換する複数の置換物質とを組み合わせて構成されており、
前記複数の物質のそれぞれについて、前記ベース物質と前記複数の置換物質の組み合わせ及び配合割合を決定すると共に、前記複数の物質の配合割合を決定した材料候補を複数生成する材料候補生成処理部を備え、
前記材料候補生成処理部は、前記複数の物質のそれぞれについて、前記ベース物質と置換する前記置換物質の数の上限を設定可能に構成されている、
材料設計装置。
【請求項2】
前記ベース物質及び前記置換物質が元素である、
請求項1に記載の材料設計装置。
【請求項3】
前記材料候補生成処理部が生成した複数の前記材料候補から、所定数の前記材料候補を抽出し、抽出した所定数の前記材料候補の相関性の度合を求めることを繰り返し、相関性の低い所定数の前記材料候補を抽出する抽出処理部を備えた、
請求項1に記載の材料設計装置。
【請求項4】
前記抽出処理部は、抽出した複数の前記材料候補を構成する前記複数の物質それぞれの前記ベース物質と前記置換物質の配合割合、及び前記複数の物質の配合割合を行列Aとし、前記行列Aの転置行列Aと前記行列Aとの積を演算して正方行列を求めると共に、前記正方行列の行列式を演算して求めた相関性指標値を、前記相関性の度合として用いる、
請求項3に記載の材料設計装置。
【請求項5】
前記材料は、
R(T1-x
ただし、R:第1物質
T:第2物質
M:第3物質
x,y:配合割合
の組成式で表され、
前記第1物質Rは、前記ベース物質がサマリウムであり、前記置換物質がイットリウム、ジルコニウム、ランタン、セリウムのうち1つ以上を含み、
前記第2物質Tは、前記ベース物質が鉄であり、前記置換物質がコバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、錫、マグネシウム、ビスマスのうち1つ以上を含み、
前記第3物質Mは、前記ベース物質がバナジウムであり、前記置換物質がチタン、クロム、マンガン、モリブデン、タングステン、アルミニウム、ケイ素のうち1つ以上を含む、
請求項1に記載の材料設計装置。
【請求項6】
複数の物質を組み合わせて材料を設計するための方法であって、
前記複数の物質のそれぞれは、予め設定されたベース物質と、前記ベース物質の一部を置換する複数の置換物質とを組み合わせて構成されており、
前記複数の物質のそれぞれについて、前記ベース物質と前記複数の置換物質の組み合わせ及び配合割合を決定すると共に、前記複数の物質の配合割合を決定した材料候補を複数生成する材料候補生成工程を備え、
前記材料候補生成工程では、前記複数の物質のそれぞれについて、前記ベース物質と置換する前記置換物質の数の上限を設定可能とされる、
材料設計方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、材料設計装置及び方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、材料設計技術として、例えば、成分組成や製造条件と、材料の特性値とを関連づけた数理モデルを作成し、所望の特性値に対応する成分組成と製造条件を導く技術がある(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-115258号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、新規材料を探索する場合、なんらかの方法で新規材料の候補とする物質の組み合わせを決定し、決定した新規材料の候補(材料候補という)を実際に試作(実験)する。材料候補を決定するにあたっては、可能な限り多種多様な物質の組み合わせを適用することが望ましいといえる。
【0005】
しかしながら、ベースとなる物質(元素など)の一部が他の物質(元素など)に置換可能である場合には、置換する物質の種類が多くなり過ぎると、試作に非常に時間と手間がかかってしまい、現実的に実施が困難となる場合がある。
【0006】
そこで、本発明は、実施可能な材料設計が可能な材料設計装置及び方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決することを目的として、複数の物質を組み合わせて材料を設計するための装置であって、前記複数の物質のそれぞれは、予め設定されたベース物質と、前記ベース物質の一部を置換する複数の置換物質とを組み合わせて構成されており、前記複数の物質のそれぞれについて、前記ベース物質と前記複数の置換物質の組み合わせ及び配合割合を決定すると共に、前記複数の物質の配合割合を決定した材料候補を複数生成する材料候補生成処理部を備え、前記材料候補生成処理部は、前記複数の物質のそれぞれについて、前記ベース物質と置換する前記置換物質の数の上限を設定可能に構成されている、材料設計装置を提供する。
【0008】
また、本発明は、上記課題を解決することを目的として、複数の物質を組み合わせて材料を設計するための方法であって、前記複数の物質のそれぞれは、予め設定されたベース物質と、前記ベース物質の一部を置換する複数の置換物質とを組み合わせて構成されており、前記複数の物質のそれぞれについて、前記ベース物質と前記複数の置換物質の組み合わせ及び配合割合を決定すると共に、前記複数の物質の配合割合を決定した材料候補を複数生成する材料候補生成工程を備え、前記材料候補生成工程では、前記複数の物質のそれぞれについて、前記ベース物質と置換する前記置換物質の数の上限を設定可能とされる、材料設計方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、実施可能な材料設計が可能な材料設計装置及び方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の一実施の形態に係る材料設計装置の概略構成図である。
図2】(a),(b)は生成条件データの一例を示す図であり、(c)は抽出条件データの一例を示す図である。
図3】(a)は、置換数の上限を2とした場合における物質Rの置換物質の組み合わせパターンであり、(b)は材料候補の生成を説明する図である。
図4】(a)は置換数の上限を2とした場合における第1物質Rの置換物質の組み合わせパターンを示す図、(b)は第1物質Rの決定を説明する図である。
図5】生成材料候補データ33の一例を示す図である。
図6】相関性指標値Cの求め方を説明する図である。
図7】本発明の一実施の形態に係る材料設計方法のフロー図である。
図8】材料候補生成処理のフロー図である。
図9】抽出処理のフロー図である。
図10】実施例および比較例で抽出した材料候補の置換数の分布を示すグラフ図である。
図11】(a)は条件設定画面の一例、(b)は詳細設定画面の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
[実施の形態]
以下、本発明の実施の形態を添付図面にしたがって説明する。
【0012】
図1は、本実施の形態に係る材料設計装置1の概略構成図である。材料設計装置1は、複数の物質を組み合わせて材料を設計するための装置である。
【0013】
(設計する材料について)
まず、本実施の形態において設計の対象となる材料について説明する。本実施の形態では、設計の対象となる材料は、複数の物質を組み合わせて構成されたものであるとする。そして、材料を構成する複数の物質のそれぞれは、予め設定されたベース物質と、ベース物質の一部を置換する複数の置換物質とを組み合わせて構成されている。なお、材料を構成する複数の物質には、置換しない物質(すなわち必須の物質)が含まれていてもよい。
【0014】
ここでは、一例として、設計する材料が希土類磁石である場合を説明する。ThMn12型結晶構造を有する化合物を主相とする希土類磁石を、下式(1)
R(T1-x ・・・(1)
ただし、R:第1物質
T:第2物質
M:第3物質
x,y:配合割合
の組成式で表すとする。この場合、ベース物質及び置換物質は元素となる。ただし、これに限らず、例えば、ベース物質及び置換物質は、高分子化合物や金属酸化物などの化合物であってもよいし、単体や化合物のような純物質ではなく混合物であってもよい。
【0015】
上式(1)の組成式中の第1物質Rは、主相の結晶構造中の希土類サイト(2aサイト)を占有する元素であり、ベース物質がサマリウム(Sm)であり、置換物質がイットリウム(Y)、ジルコニウム(Zr)、ランタン(La)、セリウム(Ce)のうち2つ以上を含むとする。また、上式(1)の組成式中の第2物質Tは、鉄族遷移金属などの元素であり、ベース物質が鉄(Fe)であり、置換物質がコバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)、ガリウム(Ga)、錫(Sn)、マグネシウム(Mg)、ビスマス(Bi)のうち2つ以上を含むとする。また、上式(1)の組成式中の第3物質Mは、構造安定化元素であり、ベース物質がバナジウム(V)であり、置換物質がチタン(Ti)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)のうち2つ以上を含むとする。ただし、各物質のベース物質や置換物質の設定はあくまで一例であり、適宜に変更可能である。
【0016】
(材料設計装置1)
材料設計装置1は、少なくとも、制御部2と、記憶部3と、図示しない通信部とを有している。制御部2は、材料設計装置1の全体を統括的に制御しており、記憶部3は、制御部2による後述する各種処理に必要な情報等を記憶する。材料設計装置1は、例えば、サーバ装置等のコンピュータであり、CPU等の演算素子、RAMやROM等のメモリ、ハードディスク等の記憶装置、LANカード等の通信デバイスである通信インターフェースを備えている。
【0017】
制御部2は、設定処理部21、材料候補生成処理部22、抽出処理部23、及び抽出結果提示処理部24を有している。各部の詳細については後述する。記憶部3は、メモリや記憶装置の所定の記憶領域により実現されている。
【0018】
また、材料設計装置1は、表示器4と、入力装置5と、を有している。表示器4は、例えば液晶ディスプレイ等であり、入力装置5は、例えばキーボードやマウス等である。なお、表示器4をタッチパネルで構成し、表示器4が入力装置5を兼ねる構成としてもよい。また、表示器4や入力装置5は、材料設計装置1と別体に構成され、無線通信等により材料設計装置1と相互に通信可能に構成されていてもよい。この場合、表示器4または入力装置5は、タブレットやスマートフォン等の携帯端末で構成されていてもよい。
【0019】
(設定処理部21)
設定処理部21は、材料設計装置1の各種設定を行うための設定処理を行うものである。本実施の形態では、設定処理部21は、材料候補の生成条件や抽出条件の設定を行うように構成されている。材料候補の生成条件や抽出条件の入力は、例えば入力装置5により行われる。入力された材料候補の生成条件は、生成条件データ31として記憶部3に記憶される。同様に、入力された材料候補の抽出条件は、抽出条件データ32として記憶部3に記憶される。
【0020】
(生成条件データ31及び抽出条件データ32)
ここで、生成条件データ31及び抽出条件データ32について説明する。生成条件データ31は、後述する材料候補生成処理において材料候補を生成するための条件を設定したデータであり、図2(a)に示す水準設定データ31aと、図2(b)に示す拘束条件データ31bと、を有している。
【0021】
水準設定データ31aは、ベース物質や置換物質の配合割合の上限、下限、刻み幅、及び、各物質R,T,Mの配合割合を決定する変数x,yの上限、下限、刻み幅の設定値を含む。図2(a)の例では、例えばイットリウム(Y)は、上限が0.5、下限が0、刻み幅が0.1となっていることから、6段階の水準(レベル)が設定されることになる。本実施の形態では、演算負荷を抑えるために、演算には整数で表された水準を用いる。ここでは、単純に配合割合を10倍した値を水準として用いたが、各水準に相当する配合割合の数値は、適宜に設定可能である。
【0022】
拘束条件データ31bは、材料候補を生成する際の拘束条件を規定するデータである。図2(b)の例では、各物質R,T,Mの配合割合の合計(ベース物質と置換物質の配合割合の合計)が1となるように拘束条件が設定されている。また、本実施の形態では、ベース物質と置換する置換物質の数(置換数という)の上限を拘束条件として設定可能となっている。図2(b)の例では、各物質R,T,Mそれぞれにおいて、置換数の上限を2に設定している。また、拘束条件データ31bでは、生成する材料候補の数である生成数のデータを含んでいる。
【0023】
図2(c)に示すように、抽出条件データ32は、後述する抽出処理において材料候補を抽出するための条件を設定したデータであり、抽出数とループ回数のデータを含んでいる。抽出数とは、抽出処理で抽出する材料候補の数である。ループ回数は、抽出処理において、生成材料候補データ33から材料候補を抽出し相関性指標値Cを演算する回数(抽出及び評価の試行回数)である。この点の詳細については後述する。
【0024】
(材料候補生成処理部22)
材料候補生成処理部22は、複数の物質R,T,Mのそれぞれについて、ベース物質と複数の置換物質の組み合わせ及び配合割合を決定すると共に、複数の物質R,T,Mの配合割合(すなわち変数x,y)を決定した材料候補を複数生成する材料候補生成処理を行う。材料候補生成処理では、図3(a)に示すように、材料候補生成処理部22は、生成条件データ31に設定された生成条件にしたがって、材料候補の生成を行う。
【0025】
本実施の形態に係る材料設計装置1では、材料候補生成処理部22は、複数の物質R,T,Mのそれぞれについて、ベース物質と置換する置換物質の数(置換数)の上限を設定可能に構成されている。より具体的には、材料候補生成処理部22は、まず、拘束条件データ31bに設定された置換数の上限を満足する置換物質の組み合わせパターンを作成する。一例として、置換数の上限を2とした場合における第1物質Rの置換物質の組み合わせパターンは、図4(a)に示す11パターンとなる。図4(a)では、使用する置換物質を1、使用しない置換物質を0で表しており、各パターンにはパターン番号(R_No.)が付されている。
【0026】
そして、材料候補生成処理部22は、図4(b)に示すように、パターン番号と、各置換物質の水準(配合割合)をランダムに選択する。そして、ランダムに選択したパターン番号と各置換物質の水準とから、第1物質Rを決定する。例えば、図4(b)左表の一番上の行では、4番のパターン番号では置換物質がZrのみ(図4(a)参照)なので、第1物質Rは、Zrの水準のみを残して他の置換物質の水準を0とする。そして、第1物質R全体の配合割合が1となるように(図2(b)の拘束条件データ31bで規定された拘束条件に従うように)、ベース物質(ここではサマリウム)の水準を決定する。図4(b)右表の一番上の行では、置換物質全体(Y,Zr,La,及びCe)の水準の合計は1であり、配合割合でいうと0.1であるから、第1物質R全体の配合割合が1となるように(この場合、全体で合計の水準が10となるように)、ベース物質であるサマリウム(Sm)の配合割合を9に決定する。同様にして、第2物質Tと第3物質Mとを決定し、さらに変数x,yをランダムに決定することで、材料候補が生成される。
【0027】
材料候補生成処理部22は、拘束条件データ31bに含まれる生成数と同数の材料候補を生成する。生成数は、例えば数千~数万程度に設定される。生成された材料候補は、生成材料候補データ33として記憶部3に記憶される。
【0028】
(生成材料候補データ33)
図5は、生成材料候補データ33の一例を示す図である。図5に示すように、生成材料候補データ33は、各物質R,T,Mのベース物質及び各置換物質の配合割合を水準として示したものである。図5の例では、変数x,yを実際の数値で表しているが、変数x、yについても水準で示すように構成してもよい。
【0029】
(抽出処理部23)
抽出処理部23は、材料候補生成処理部22が生成した複数の材料候補(すなわち、生成材料候補データ33)から、所定数の材料候補を抽出し、抽出した所定数の材料候補の相関性の度合を求めることを繰り返し、相関性の低い所定数の材料候補を抽出する抽出処理を行う。図3(b)に示すように、抽出処理では、抽出処理部23は、抽出条件データ32と生成材料候補データ33とに基づき、なるべく相関性の低い材料候補を所定数抽出する。抽出された所定数の材料候補は、抽出材料候補データ34として記憶部3に記憶される。
【0030】
より詳細には、抽出処理部23は、まず、生成材料候補データ33から、抽出条件データ32に設定された抽出数と同数(図2(c)の例では40個)の材料候補をランダムに抽出する。そして、図6に示すように、抽出処理部23は、抽出した材料候補を構成する各物質R,T,Mそれぞれのベース物質と置換物質の配合割合(ここでは水準を用いている)、及び複数の物質の配合割合(変数x、y)を行列Aとする。行列Aでは、1つの行で1つの材料候補を表し、各列が各元素の水準等を表すようにされる。そして、行列Aの転置行列Aを生成し、これらの積A×Aより、正方行列を求める。その後、抽出処理部23は、正方行列の行列式を演算して相関性指標値Cを求める。本実施の形態では、この相関性指標値Cを相関性の度合を表す指標として用いる。相関性指標値Cは、抽出した複数(ここでは40個)の材料候補同士の相関性が低いほど絶対値が大きくなる値である。なお、ここでは各物質R,T,Mそれぞれの配合割合の水準と変数x、yを用いた場合を説明したが、例えば、熱処理温度や熱処理時間等のプロセス条件を適用することも可能である。
【0031】
その後、抽出処理部23は、再び抽出数と同数(ここでは40個)の材料候補をランダムに抽出して相関性指標値Cを求め、前回求めた相関性指標値Cと比較する。そして、比較の結果、相関性指標値Cの絶対値が大きい(すなわち相関性が低い)材料候補の抽出結果のみを保持し、相関性指標値Cの絶対値が小さい材料候補の抽出結果を破棄する。これをループ回数と同じ回数繰り返すことで、相関性指標値Cの絶対値が大きく、相関性が低い材料候補の組み合わせを抽出する。
【0032】
なお、第1物質Rと、第2物質Tの変動幅が大きく異なる場合など、各物質R,T,Mの変動幅が大きく異なる場合には、各物質R,T,Mの相関性指標値Cへの寄与の度合が異なってしまう場合が考えられる。このような場合は、各物質R,T,Mの相関性指標値Cへの寄与が同等になるように、各物質R,T,Mの水準の値のスケール調整を行うようにしてもよい。例えば、各物質R,T,Mで水準の平均値が0となり、標準偏差が1となるように水準の値のスケール調整を行うことができる。なお、材料候補の抽出結果を提示する際には、スケール調整前の水準に戻す必要があるため、スケール調整の履歴は記憶部3に記憶しておくとよい。
【0033】
(抽出結果提示処理部24)
抽出結果提示処理部24は、抽出処理部23の抽出結果、すなわち、抽出材料候補データ34で規定された抽出数と同数(ここでは40個)の材料候補を、表示器4に表示するなどして使用者に提示する抽出結果提示処理を行う。なお、抽出結果提示処理部24は、材料候補の抽出結果と併せて、抽出結果以外の項目、例えば、生成条件や抽出条件などを共に提示するようにしてもよい。
【0034】
(材料設計方法)
次に、本実施の形態に係る材料設計方法を説明する。図7は、本実施の形態に係る材料設計方法のフロー図である。図7に示すように、まず、ステップS1にて、入力装置5を用いるなどして、生成条件及び抽出条件の入力を行う。入力された生成条件及び抽出条件は、設定処理部21により、生成条件データ31及び抽出条件データ32として記憶部3に記憶される(図2(a)~(c)参照)。
【0035】
その後、ステップS2にて、材料候補生成処理を行う。なお、材料候補生成処理は、本発明の材料候補生成工程に相当する。ステップS2の材料候補生成処理では、図8に示すように、まず、ステップS21にて、ループ制御用の変数nに初期値1を代入した後、ステップS22にて、材料候補生成処理部22が、生成条件データ31に設定された置換数の上限値に従って、置換物質のパターン作成を行う(図4(a)参照)。その後、ステップS23にて、材料候補生成処理部22が、パターン番号と、各置換物質の水準と、各物質R,T,Mの配合割合を表す変数x,yをランダムに決定し、材料候補を生成する(図4(b)参照)。
【0036】
その後、ステップS24にて、材料候補生成処理部22が、変数nが生成条件データ31で規定された生成数と等しいかを判定する。ステップS24でNO(N)と判定された場合、ステップS25にて、材料候補生成処理部22が、変数nをインクリメントし、ステップS22に戻り、材料候補の生成を繰り返す。ステップS24でYES(Y)と判定された場合、ステップS26にて、材料候補生成処理部22が、生成した材料候補を生成材料候補データ33として記憶部3に記憶する。その後、リターンし、図7のステップS3に進む。
【0037】
ステップS3では、抽出処理を行う。ステップS3の抽出処理では、図9に示すように、まず、ステップS31にて、ループ制御用の変数mに初期値1を代入した後、ステップS32にて、抽出処理部23が、生成材料候補データ33から、抽出条件データ32で規定された抽出数と同数の材料候補をランダムに選択する。その後、ステップS33にて、抽出処理部23が、選択した材料候補の相関性指標値Cを求める(図6参照)。その後、ステップS34にて、変数mが1かを判定する。ステップS34でYES(Y)と判定された場合、ステップS36に進む。ステップS34でNO(N)と判定された場合、ステップS35にて、ステップS33で求めた相関性指標値Cの絶対値が、Cbestの絶対値より大きいかを判定する。なお、Cbestには、繰り返し処理を行う中で最も絶対値が大きい相関性指標値Cの値が代入されている。ステップS35でNO(N)と判定された場合、ステップS38に進む。ステップS35でYES(Y)と判定された場合、ステップS36にてCbestにCを代入し、ステップS37にて、ステップS32で選択した材料候補を抽出材料候補データ34として記憶部3に記憶する。これにより、最も相関性指標値Cの値が大きい、すなわち相関性が低く最もばらつきが大きい材料候補の組み合わせが、抽出材料候補データ34として記憶部3に記憶される。その後、ステップS38に進む。
【0038】
ステップS38では、変数mが、抽出条件データ32に規定されたループ回数と等しいかを判定する。ステップS38でNO(N)と判定された場合、ステップS39にて変数mをインクリメントした後、ステップS32に戻る。ステップS38でYES(Y)と判定された場合、リターンし、図7のステップS4に進む。
【0039】
ステップS4では、抽出結果提示処理を行う。抽出結果提示処理では、抽出結果提示処理部24が、記憶部3に記憶されている抽出材料候補データ34の内容、すなわち、相関性が低く最もばらつきが大きい材料候補の組み合わせを、表示器4に表示する等して使用者に提示する。その後処理を終了する。
【0040】
(実験結果の説明)
本実施の形態の効果を調べるために、各物質R,T,Mの置換数の上限を2とした実施例と、置換数の上限を設定しなかった比較例について、抽出数を40個として材料候補の抽出を行った。そして、実施例及び比較例で抽出した材料候補それぞれの置換数をカウントした。結果を図10に示す。図10に示すように、実施例では、3つの物質R,T,Mで置換数の上限が2に設定されているため、最大の置換数は6となる。これに対して、置換数の上限を設定しなかった比較例では、置換数がいずれも8以上となっており、実際の試作が現実的ではない置換数が非常に多い材料候補が抽出されてしまっていた。このように、置換数の上限を設定しない場合には、実施が困難な材料候補が抽出されてしまう場合があるが、実施例のように置換数の上限を設定することで、このような不具合が抑制され、実施可能な材料候補を抽出可能になる。
【0041】
(生成条件及び抽出条件の設定画面について)
図7のステップS1における生成条件や抽出条件の入力は、例えば、図11(a)に示すような条件設定画面6で行われるとよい。図示例では、条件設定画面6は、組成式や各物質R,T,Mの置換数の上限、及び生成数(生成する材料候補の数)を設定するための生成条件設定エリア61と、抽出数(抽出する材料候補の数)やループ数を設定するための抽出条件設定エリア62とを有しており、各エリア61,62で条件を入力した後に実行ボタン63をクリックすることで、図7のステップS2以降の処理が行われることになる。
【0042】
また、生成条件設定エリア61にて各物質R,T,Mや変数x、yに対応する詳細ボタン61aをクリックすることで、図11(b)に示すような詳細設定画面7が表示され、詳細な設定が行われるように構成されてもよい。図示例では、詳細設定画面7は、ベース物質や置換物質の上限、下限、刻み幅といった水準の設定を行うための水準設定エリア71を有し、チェックボックス72のチェックの有無により、どの元素をベース物質とするか、あるいは、置換物質として使用するか否かを設定可能となっている。また、水準設定エリア71では、拘束条件として、物質全体での配合割合の合計値の設定も行えるようになっている。さらに、元素を追加ボタン73や削除ボタン74を用いることで、元素の追加や削除を行えるように構成されている。各種の設定後に登録ボタン75をクリックすることで、設定内容が生成条件データ31に登録(更新)され、図11(a)の条件設定画面6に戻る。戻るボタン76をクリックした場合、生成条件データ31への登録(更新)は行われず、図11(a)の条件設定画面6に戻る。
【0043】
なお、図11(a),(b)に示した条件設定画面6や詳細設定画面7はあくまで一例であり、画面レイアウトや入力項目等は適宜に変更可能である。
【0044】
(実施の形態の作用及び効果)
以上説明したように、本実施の形態に係る材料設計装置1では、材料候補生成処理部22は、複数の物質R,T,Mのそれぞれについて、ベース物質と置換する置換物質の数、すなわち置換数の上限を設定可能に構成されている。これにより、置換数が多くなりすぎることを抑制して、現実的に試作が可能な材料候補を得ることが可能になる。
【0045】
また、本実施の形態に係る材料設計装置1では、材料候補生成処理部22が生成した複数の材料候補から、所定数の材料候補を抽出し、抽出した所定数の材料候補の相関性の度合を求めることを繰り返し、相関性の低い所定数の材料候補を抽出する抽出処理部23を備えている。これにより、相関性が低く、満遍なくばらけた材料候補を抽出することが可能になる。
【0046】
(実施の形態のまとめ)
次に、以上説明した実施の形態から把握される技術思想について、実施の形態における符号等を援用して記載する。ただし、以下の記載における各符号等は、特許請求の範囲における構成要素を実施の形態に具体的に示した部材等に限定するものではない。
【0047】
[1]複数の物質を組み合わせて材料を設計するための装置であって、前記複数の物質のそれぞれは、予め設定されたベース物質と、前記ベース物質の一部を置換する複数の置換物質とを組み合わせて構成されており、前記複数の物質のそれぞれについて、前記ベース物質と前記複数の置換物質の組み合わせ及び配合割合を決定すると共に、前記複数の物質の配合割合を決定した材料候補を複数生成する材料候補生成処理部(22)を備え、前記材料候補生成処理部(22)は、前記複数の物質のそれぞれについて、前記ベース物質と置換する前記置換物質の数の上限を設定可能に構成されている、材料設計装置(1)。
【0048】
[2]前記ベース物質及び前記置換物質が元素である、[1]に記載の材料設計装置(1)。
【0049】
[3]前記材料候補生成処理部(22)が生成した複数の前記材料候補から、所定数の前記材料候補を抽出し、抽出した所定数の前記材料候補の相関性の度合を求めることを繰り返し、相関性の低い所定数の前記材料候補を抽出する抽出処理部(23)を備えた、[1]または[2]に記載の材料設計装置(1)。
【0050】
[4]前記抽出処理部(23)は、抽出した複数の前記材料候補を構成する前記複数の物質それぞれの前記ベース物質と前記置換物質の配合割合、及び前記複数の物質の配合割合を行列Aとし、前記行列Aの転置行列Aと前記行列Aとの積を演算して正方行列を求めると共に、前記正方行列の行列式を演算して求めた相関性指標値を、前記相関性の度合として用いる、[3]に記載の材料設計装置(1)。
【0051】
[5]前記材料は、
R(T1-x
ただし、R:第1物質
T:第2物質
M:第3物質
x,y:配合割合
の組成式で表され、前記第1物質Rは、前記ベース物質がサマリウムであり、前記置換物質がイットリウム、ジルコニウム、ランタン、セリウムのうち1つ以上を含み、前記第2物質Tは、前記ベース物質が鉄であり、前記置換物質がコバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、錫、マグネシウム、ビスマスのうち1つ以上を含み、前記第3物質Mは、前記ベース物質がバナジウムであり、前記置換物質がチタン、クロム、マンガン、モリブデン、タングステン、アルミニウム、ケイ素のうち1つ以上を含む、[1]乃至[4]の何れか1項に記載の材料設計装置(1)。
【0052】
[6]複数の物質を組み合わせて材料を設計するための方法であって、前記複数の物質のそれぞれは、予め設定されたベース物質と、前記ベース物質の一部を置換する複数の置換物質とを組み合わせて構成されており、前記複数の物質のそれぞれについて、前記ベース物質と前記複数の置換物質の組み合わせ及び配合割合を決定すると共に、前記複数の物質の配合割合を決定した材料候補を複数生成する材料候補生成工程を備え、前記材料候補生成工程では、前記複数の物質のそれぞれについて、前記ベース物質と置換する前記置換物質の数の上限を設定可能とされる、材料設計方法。
【0053】
(付記)
以上、本発明の実施の形態を説明したが、上記に記載した実施の形態は特許請求の範囲に係る発明を限定するものではない。また、実施の形態の中で説明した特徴の組合せの全てが発明の課題を解決するための手段に必須であるとは限らない点に留意すべきである。また、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲で適宜変形して実施することが可能である。
【符号の説明】
【0054】
1…材料設計装置
2…制御部
21…設定処理部
22…材料候補生成処理部
23…抽出処理部
24…抽出結果提示処理部
3…記憶部
31…生成条件データ
32…抽出条件データ
33…生成材料候補データ
34…抽出材料候補データ
4…表示器
5…入力装置
図1
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