(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169980
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】蒸気回収機構
(51)【国際特許分類】
B01D 45/08 20060101AFI20241129BHJP
C22B 3/02 20060101ALI20241129BHJP
C22B 3/08 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
B01D45/08 Z
C22B3/02
C22B3/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086881
(22)【出願日】2023-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】京田 洋治
(72)【発明者】
【氏名】守田 晋介
【テーマコード(参考)】
4D031
4K001
【Fターム(参考)】
4D031AB02
4D031BA01
4D031BA03
4D031BA07
4D031BA10
4D031EA01
4D031EA03
4K001AA19
4K001BA02
4K001DB03
4K001DB14
(57)【要約】
【課題】 ニッケル酸化鉱石からニッケルを回収する高温加圧硫酸浸出に基づく湿式製錬プロセスにおける、浸出工程のフラッシュベッセルから回収される蒸気配管に配置し、その蒸気配管において発生している腐食摩耗による穴あきリスクを低減させる効果を有するミストセパレータを提供する。
【解決手段】 高温加圧硫酸浸出に基づく湿式製錬プロセスの浸出工程におけるフラッシュベッセルからの蒸気回収機構であって、前記フラッシュベッセルで発生した蒸気を前記ベッセル外部に送出する回収蒸気配管と、前記回収蒸気配管の中途に設けられたミストセパレータから構成され、前記ミストセパレータが、前記蒸気に含まれるミストを前記蒸気から分離し、前記ミストを分離した蒸気を、前記回収蒸気配管を通じて前記ミストセパレータの外部に送出することを特徴とする蒸気回収機構。
【選択図】
図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高温加圧硫酸浸出に基づく湿式製錬プロセスの浸出工程におけるフラッシュベッセルからの蒸気回収機構であって、
前記フラッシュベッセルで発生した蒸気を前記ベッセル外部に送出する回収蒸気配管と、前記回収蒸気配管の中途に設けられたミストセパレータから構成され、
前記ミストセパレータが、前記蒸気に含まれるミストを前記蒸気から分離し、前記ミストを分離した蒸気を、前記回収蒸気配管を通じて前記ミストセパレータの外部に送出することを特徴とする蒸気回収機構。
【請求項2】
前記ミストセパレータが、
中空筐体と、
前記中空筐体の底部に設けられたミスト分離前の蒸気の装入口と、
前記中空筐体の頂部に設けられたミスト分離後の蒸気の排出口と、
前記中空筐体の内部の少なくとも2箇所に配置されたバッフルから構成され、
前記バッフルが、前記中空筐体の頂部から前記中空筐体内部を俯瞰した際に、前記バッフルが重なることにより前記中空筐体の底部を遮蔽する形態を有し、
前記底部より上方に向かって装入された前記ミスト分離前の蒸気が、前記バッフルに衝突することで、含まれるミストを分離し、頂部の排出口からミスト分離後の蒸気を得るとともに、分離されたミストを集めて前記中空筐体の下部から得る機構であることを特徴とする請求項1に記載の蒸気回収機構。
【請求項3】
前記ミストが、固体成分、液滴のいずれか、若しくは両者からなることを特徴とする請求項1又は2に記載の蒸気回収機構。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ニッケル酸化鉱石からニッケルを回収する高温加圧硫酸浸出に基づく湿式製錬プロセスにおける、浸出工程のフラッシュベッセルから回収される蒸気の配管に設置するミストセパレータを備える蒸気回収機構に関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケル酸化鉱石の湿式製錬においては、高温高圧条件下で硫酸により浸出処理を施すHPAL(High Pressure Acid Leaching)法とも称される高圧酸浸出法が知られている。この高圧酸浸出法は、原料のニッケル酸化鉱石に対して還元処理や乾燥処理を施す乾式製錬法とは異なり、ほぼ全工程に亘って湿式で処理を行なうのでエネルギー的及びコスト的に有利な処理法である。また、比較的低品位のニッケル酸化鉱石原料からニッケル品位が50~60質量%程度まで高められたニッケル及びコバルトを含む混合硫化物(ニッケルコバルト混合硫化物とも称する)を生成できるという利点も有している。
【0003】
一般的に、この高圧酸浸出法は、原料のニッケル酸化鉱石に水を加えて調製した鉱石スラリーに硫酸を添加して高温高圧下で浸出処理を行なう浸出工程と、該浸出工程で生成される浸出スラリーから浸出残渣を分離除去してニッケル及びコバルトを含む浸出液を得る固液分離工程と、該浸出液に中和剤を添加して該浸出液に含まれる不純物を中和澱物として分離除去して中和終液を得る中和工程と、該中和終液に硫化剤を添加してニッケル及びコバルトをそれらの混合硫化物として回収するニッケル回収工程とを含む構成となっている。
【0004】
その浸出工程においては、例えば特許文献1に示すようにオートクレーブに鉱石スラリーを送入し、更に硫酸及び高圧蒸気を供給して温度220~250℃、圧力3,000~4,500kPaGの高温高圧下でニッケルやコバルトの浸出処理を行い、両成分を含む浸出スラリーを得る。
次いで、この浸出工程の次工程の固液分離工程では、一般的にシックナー等を用いて重力沈降法により浸出残渣の分離を行うので、上記のオートクレーブから排出される浸出スラリーは、該シックナーに供給する前に該オートクレーブよりも低圧のフラッシュベッセルに送入され、ここで降圧することで蒸気を回収しながら該蒸気発生時の潜熱により浸出スラリーを降温している。フラッシュベッセルで浸出スラリーを降圧する際に発生する蒸気は回収され、向流接触型熱交換器へ供給して鉱石スラリーと向流接触することで、オートクレーブへ送入する前の予備加熱を行っている。
【0005】
上記の通り、フラッシュベッセルでスラリー降圧時に発生する蒸気は、鉱石スラリー予備加熱用の向流接触型熱交換器に送入されるため、一般に、フラッシュベッセルと向流接触型熱交換器とは配管で接続されている。
その使用されている配管は、フラッシュベッセルにてフラッシュした蒸気のみが流れることを想定しているものの、実際には凝縮した液滴やその液滴に同伴した固体分や酸が混入している。そのため一般に、配管の腐食摩耗の速度が速く、配管の穴あきが発生するリスクが高い(
図1に示す従来の浸出工程の概略フロー図を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ニッケル酸化鉱石からニッケルを回収する高温加圧硫酸浸出に基づく湿式製錬プロセスにおける、浸出工程のフラッシュベッセルから回収される蒸気配管に配置し、その蒸気配管への腐食摩耗による穴あきを抑制する効果を有するミストセパレータを備える蒸気回収機構を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、当該配管の中途に簡易な構造で効果を示すミストセパレータを設けることで、上記課題を解決可能であることを見出し、本発明の完成に至った。
【0009】
本発明の第1の態様は、高温加圧硫酸浸出に基づく湿式製錬プロセスの浸出工程におけるフラッシュベッセルからの蒸気回収機構であって、前記フラッシュベッセルで発生した蒸気を前記ベッセル外部に送出する回収蒸気配管と、前記回収蒸気配管の中途に設けられたミストセパレータから構成され、前記ミストセパレータが、前記蒸気に含まれるミストを前記蒸気から分離し、前記ミストを分離した蒸気を、前記回収蒸気配管を通じて前記ミストセパレータの外部に送出することを特徴とする蒸気回収機構である。
【0010】
本発明の第2の態様は、第1の態様におけるミストセパレータが、中空筐体と、前記中空筐体の底部に設けられたミスト分離前の蒸気の装入口と、前記中空筐体の頂部に設けられたミスト分離後の蒸気の排出口と、前記中空筐体の内部の少なくとも2箇所に配置されたバッフルから構成され、前記バッフルが、前記中空筐体の頂部から前記中空筐体内部を俯瞰した際に、前記バッフルが重なることにより前記中空筐体の底部を遮蔽する形態を有し、前記底部より上方に向かって装入された前記ミスト分離前の蒸気が、前記バッフルに衝突することで、含まれるミストを分離し、頂部の排出口から排出されるミスト分離後の蒸気と、分離されたミストを集めて前記中空筐体の下部から得る機構であることを特徴とする蒸気回収機構である。
【0011】
本発明の第3の態様は、第1及び第2の態様におけるミストが、固体成分、液滴のいずれか、若しくは両者を含む蒸気からなることを特徴とする蒸気回収機構である。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、フラッシュベッセルから向流接触型熱交換器への回収蒸気配管で発生していた腐食摩耗による穴あきリスクを低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】高圧酸浸出法を用いたニッケル湿式製錬プロセスにおける従来の浸出工程の概略フロー図である。
【
図2】本発明に係る回収蒸気配管保護用のミストセパレータを含めた浸出工程概略フロー図である。
【
図3】本発明に係る回収蒸気配管保護用のミストセパレータの概略説明図で、(a)は部分切り欠き斜視模式図、(b)は排出口側から視認した各バッフルの形態、配置を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
図2は本発明に係る蒸気回収機構を備えた浸出工程の概略フロー図である。本発明の実施態様では、フラッシュベッセルからの回収蒸気配管の中途に、蒸気回収機構の主構成要素である「ミストセパレータ」を、その底部にある装入口を高圧側(フラッシュベッセル側)の回収蒸気配管と結合し、その頂部にある排出口を低圧側(熱交換器側)の回収蒸気配管と結合し、ミストセパレータ外に蒸気を送出する形態となっている。
【0015】
図3は、本発明に係る蒸気回収機構の主構成要素である「ミストセパレータ」の一実施態様を示す概略の説明図で、(a)は部分切り欠き斜視模式図、(b)は排出口側から視認した各バッフルの形態、配置を示す説明図である。
ミストセパレータMSは、円筒形や多角筒形の中空筐体10の片端側(通常底部側)に、フラッシュベッセル(図示せず)から送られてくる「ミスト分離前の蒸気」(フラッシュ蒸気v
0と称し、液滴や固体成分を含む蒸気である)を、中空筐体10内部に入れるための装入口11を備えるとともに、中空筐体内には、フラッシュ蒸気v
0から、ミスト分離後の蒸気を生成する少なくとも2箇所に配置されたバッフル1、2、3(
図3では3枚のバッフルを使用)を備え、そのバッフルでは含まれているミストを分離した「ミスト分離後の蒸気」と、分離されたミストおよび蒸気が冷却されて生成した水からなるドレン水が形成される。更に、生成したミスト分離後の蒸気を送出する排出口12を、中空筐体の頂部に備えた構成となっている。
【0016】
本発明に係る「ミストセパレータ」の役割を担う機構を構成する少なくとも2枚のバッフルは、
図3に示すように、中空筐体の内部に内壁部から底部方向に傾斜した形態(
図3(a)参照)で、排出口から視認して配置した複数のバッフルが重なり、底部を遮蔽する形態と配置(
図3(b)参照)で設けられている。なお、配置されるバッフルの数量(枚数)は、蒸気の通過路を形成している中空筐体10と例えばバッフル1とで形成される開空間部Opの大きさを考慮すると、2乃至4枚が適している。好適には、半円形のバッフルを3枚用い、1枚につき120°回転させてずらした配置を採用することで、フラッシュ蒸気v
0を、装入口11から直線的に排出口12へ移動させずに、中途のバッフル(例えば、符号1、2、3)に衝突させることができ、かつバッフルへ衝突するフラッシュ蒸気からの力を適度に受け流すことができるので、「ミスト」を効率良く、高い分離率で、分離可能である。
【0017】
本実施態様の一つを示す
図3では、バッフルが3枚の場合を示し、個々のバッフル1、2、3は、いずれも半円板形状のバッフルで、中空筐体内部に、その壁面に内周部から底部方向に傾斜面となるような配置で、個々のバッフルが120°ずつ回転した位置に設けられている。このような形態と配置においては、排出口12から底部方向を視認した際に、底部は重なり合うバッフルにより遮蔽されて視認できないことが判る。
【0018】
又、装入口11から装入されたフラッシュ蒸気v0は、その一部がバッフル1と衝突し、衝突して形成された「ミストを分離した蒸気」は、未衝突のフラッシュ蒸気v0と混合され、次いでバッフル2に衝突し、「ミストを分離した蒸気」を形成し、その蒸気は未衝突のフラッシュ蒸気v0と混合し、3番目のバッフル3と衝突し、フラッシュ蒸気の殆どを「ミストを分離した蒸気」化し、排出口12を通じて回収蒸気配管に送出されて熱交換器(図示せず)に送られる。
【実施例0019】
図3に示す構成の「ミストセパレータMS」を含む蒸気回収機構を浸出工程に組み入れた設備を用いて実操業を模した実験を行った。
ニッケル酸化鉱石からニッケルを回収する高温加圧硫酸浸出に基づく湿式製錬プロセスにおける浸出工程に設置されるフラッシュベッセルと向流接触型熱交換器とをつなぐ回収蒸気配管において、本発明に係るミストセパレータを含む蒸気回収機構を設置することで、回収蒸気配管での配管穴あきが発生しなくなった。