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  • 特開-ニッケル形態の評価方法 図1
  • 特開-ニッケル形態の評価方法 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024169983
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】ニッケル形態の評価方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/2206 20180101AFI20241129BHJP
   G01N 23/2252 20180101ALI20241129BHJP
   G01N 33/24 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
G01N23/2206
G01N23/2252
G01N33/24 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023086887
(22)【出願日】2023-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123869
【弁理士】
【氏名又は名称】押田 良隆
(72)【発明者】
【氏名】渡部 庸介
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA03
2G001BA05
2G001BA15
2G001CA01
2G001CA03
2G001EA03
2G001HA07
2G001HA13
2G001JA17
2G001LA03
2G001RA01
(57)【要約】
【課題】従来、試料に含まれるニッケルの存在形態について、迅速・簡便に評価出来る方法は、未だ未開発であり、そこで、従来技術が有する問題に鑑み、迅速、かつ、簡便なニッケル形態の評価方法を、新たに開発、提供するものである。
【解決手段】ニッケル含有試料中のニッケル形態の評価方法であって、走査型電子顕微鏡(SEM)、及びエネルギー分散型X線分析装置(「EDS装置」)を有する鉱物粒子解析装置(「MLA装置」)装置を用いて試料中のニッケル形態を評価することを特徴とするニッケル形態の評価方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル含有試料中のニッケル形態の評価方法であって、
鉱物粒子解析装置(MLA装置)を用いて試料中のニッケル形態を評価することを特徴とするニッケル形態の評価方法。
【請求項2】
前記MLA装置が、走査型電子顕微鏡(SEM)、及び、エネルギー分散型X線分析装置(EDS装置)を有することを特徴とする請求項1に記載のニッケル形態の評価方法。
【請求項3】
試料を樹脂に包埋して作製した樹脂形成体の表面を研磨し、平滑な測定面を得る前処理工程と、
前記SEMを用いて前記測定面の反射電子像(BSE像)を得る画像取得工程と、
前記BSE像を画像解析し、少なくとも試料粒子の位置、大きさ、及び、形状の情報を得る画像解析工程と、
前記EDS装置を用いて前記試料粒子のEDSスペクトルを得るスペクトル取得工程と、
前記MLA装置のデータベースに登録されたEDSスペクトル群と、前記試料粒子のEDSスペクトルとのスペクトルマッチングを行い、前記試料中のニッケル形態に関するニッケル種の分析結果を得る分析工程と、
を有することを特徴とする請求項2に記載のニッケル形態の評価方法。
【請求項4】
前記試料が、酸化鉱、硫化鉱、ニッケルマット(Matte)、ミックスサルファイド(MS)、及び、ニッケル・コバルト水酸化物(MHP)から選択される1種以上を含むことを特徴とする請求項1又は3に記載のニッケル形態の評価方法。
【請求項5】
前記ニッケル形態に関するニッケル種が、ニッケルメタル、酸化ニッケル、水酸化ニッケル、硫化ニッケル、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、硝酸ニッケル、炭酸ニッケル、ニッケル・コバルト化合物、ニッケル・鉄化合物、ニッケル・ヒ素化合物、ニッケル・アンチモン化合物、ニッケル・マグネシウム化合物、ニッケル・ケイ素化合物、ニッケル・ヒ素・硫黄化合物、及び、ニッケル・アンチモン・硫黄化合物から選択される1種以上であることを特徴とする請求項3に記載のニッケル形態の評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ニッケル形態の評価方法に関する。より詳しくは、ニッケル原料となる、酸化鉱、硫化鉱などの主要鉱石や、ニッケルマット(Matte)、ミックスサルファイド(MS)、及び、ニッケル・コバルト水酸化物(MHP)などの中間原料を評価対象とした、ニッケル形態の評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気自動車(EV)などのクリーンビークルや、太陽光発電設備・風力発電設備などのクリーンエネルギーシステムの世界的な普及に伴い、今後もリチウムイオン電池(LIB)の更なる需要拡大が予想され、このニーズに対応する上で、LIBに組み込まれる正極材料の主原料である、ニッケルの増産が鍵となっている。
【0003】
ところで、ニッケル資源である主要鉱石としては、リモナイト、サプロライトなどの酸化鉱をはじめ、硫鉄ニッケル鉱(ペントランダイト)、含ニッケル磁硫鉄鉱、及び、珪ニッケル鉱(ガーニエライト鉱)などの硫化鉱が挙げられる。
また、中間原料としては、上記の酸化鉱、硫化鉱を、熔錬炉などを用いて乾式製錬することで得られるニッケルマット(Matte)のほか、近年では、従来、低品位鉱であるが故に、主要鉱石と見做されずに廃棄されていたラテライト鉱を、オートクレーブ硫酸浸出法を用いて湿式製錬することで得られる、濃縮硫化物のミックスサルファイド(MS)が多用されている。
【0004】
そして、これらのニッケル原料からニッケルを回収するためのプロセス設計や、実操業において高いニッケル回収率を得るためには、ニッケル原料に含まれるニッケルの存在形態、即ち、ニッケル形態を、迅速・簡便に評価することが重要となる。
【0005】
これに対し、現在知られているニッケル形態の評価方法として、非特許文献1には、(a)エチレンジアミン四酢酸・二ナトリウム(EDTA)溶液、(b)クエン酸溶液、(c)臭素メタノール溶液、及び、(d)硝酸-過塩素酸溶液の順に、試料の抽出操作を行い、(a)の抽出液に回収されたニッケルを水溶性ニッケル(Wa-Ni:塩化物、硫酸塩などの水に易溶の化合物)、(b)の抽出液に回収されたニッケルをニッケル硫化物(Su-Ni)、(c)の抽出液に回収されたニッケルを金属ニッケル(Me-Ni)、及び、(d)の抽出液に回収されたニッケルをニッケル酸化物(Ox-Ni)とし、それぞれの抽出液をメンブランフィルターで濾過後、適宜、硝酸、過酸化水素などを加えて加熱分解することによって得られた検液を、ICP発光分光分析(ICP)装置、又は、ICP質量分析(ICP-MS)装置で測定する技術が開示されている。
【0006】
その他、試料の前処理、測定操作が比較的容易であり、結晶構造の解析のほか、化合物の同定などに広く用いられている手段として、X線回折(XRD)法が挙げられ、非特許文献2には、酸化ニッケルに含まれる金属ニッケルの定量に関して、従来の臭素メタノール法よりも、更なる迅速・簡便な操作を行うため、分離・滴定操作が不要な、X線回折計による定量方法を検討した結果、有効な簡便法となり得ることが記載されている。
【0007】
しかしながら、非特許文献1の技術では、分析作業に多大な時間と労力を要するため、ニッケル形態を、迅速・簡便に評価出来る方法とは言い難い。また、工程が増えて分析作業に費やす時間が長くなると、試料の飛散などの操作ロス(損失)のほか、室内環境、器具などからのコンタミネーション(汚染)が発生し易くなり、評価結果の信頼性を低下させることにも繋がりかねない。
【0008】
更に、非特許文献2の技術では、定量分析を行う上で、標準物質を用いた検量線作成が必須となり、併せて形態分析も行う場合、化学種同士がそれぞれ正確に分別され、信頼性の高い評価結果を得るには、互いに不純物を含まない、高純度の標準物質が入手出来なければならない。また、文献中の「本法は、金属ニッケルの含有率が1%以下の試料への応用は困難であった。」との記載の通り、この方法でも、十分なニッケル形態の評価は行えず、主要なニッケル種の同定・定量は出来るものの、それ以外の微量のニッケル種まで同定・定量することは、極めて困難である。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】BUNSEKI_KAGAKU_Vol.58,No.3,pp159-165(2009)_『大気粉塵中ニッケル化合物の化学種別分析』
【非特許文献2】BUNSEKI_KAGAKU_Vol.22,No.13,pp171-175(1973)_『X線回折計による酸化ニッケル中の金属ニッケルの定量』
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
この様に、これまでは、試料に含まれるニッケルの存在形態について、迅速・簡便に評価出来る方法は、残念ながら未開発のままであった。
そこで、上記の従来技術が有する問題に鑑み、迅速、かつ、簡便なニッケル形態の評価方法を、新たに開発、提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
そこで、本発明者は、上記の従来技術が有する問題に鑑み、迅速、かつ、簡便なニッケル形態の評価方法について、鋭意研究を積み重ねた。その結果、鉱物資源の分野で主に用いられている、鉱物粒子解析装置(「MLA装置」とも称す)に着目し、この装置がニッケル形態を評価する上で、迅速化・簡便化を図るのに有効であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0012】
即ち、上記の課題を解決するための本発明の一側面によれば、本発明の第1の態様は、ニッケル含有試料中のニッケル形態の評価方法であって、鉱物粒子解析装置(MLA装置)を用いて前記試料中のニッケル形態を評価することを特徴とするニッケル形態の評価方法である。
【0013】
本発明の第2の態様は、第1の態様に記載の発明におけるMLA装置が、走査型電子顕微鏡(SEMとも称す)、及びエネルギー分散型X線分析装置(「EDS装置」とも称す)を有することを特徴とするニッケル形態の評価方法である。
【0014】
本発明の第3の態様は、第2の態様に記載の発明において、試料を樹脂に包埋して作製した樹脂形成体の表面を研磨し、平滑な測定面を得る前処理工程と、前記SEMを用いて前記測定面の反射電子像(BSE像とも称す)を得る画像取得工程と、前記BSE像を画像解析し、少なくとも試料粒子の位置、大きさ、及び、形状の情報を得る画像解析工程と、前記EDS装置を用いて前記試料粒子のEDSスペクトルを得るスペクトル取得工程と、前記MLA装置のデータベースに登録されたEDSスペクトル群と、前記試料粒子のEDSスペクトルとのスペクトルマッチングを行い、前記試料中のニッケル形態に関するニッケル種の分析結果を得る分析工程とを有することを特徴とするニッケル形態の評価方法である。
【0015】
本発明の第4の態様は、第1及び第3の態様に記載の発明における試料が、酸化鉱、硫化鉱、ニッケルマット(「Matte」とも称す)、ミックスサルファイド(「MS」とも称す)、及び、ニッケル・コバルト水酸化物(「MHP」とも称す)から選択される1種以上を含むことを特徴とするニッケル形態の評価方法である。
【0016】
本発明の第5の態様は、第3の態様に記載の発明におけるニッケル形態に関するニッケル種が、ニッケルメタル、酸化ニッケル、水酸化ニッケル、硫化ニッケル、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、硝酸ニッケル、炭酸ニッケル、ニッケル・コバルト化合物、ニッケル・鉄化合物、ニッケル・ヒ素化合物、ニッケル・アンチモン化合物、ニッケル・マグネシウム化合物、ニッケル・ケイ素化合物、ニッケル・ヒ素・硫黄化合物、及び、ニッケル・アンチモン・硫黄化合物から選択される1種以上であることを特徴とするニッケル形態の評価方法である。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、試料に含まれるニッケルの存在形態を、迅速・簡便に評価出来る。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明に係る、ニッケル形態の評価方法について、その全体像を示す操作フロー図である。
図2】本発明に係る、鉱物粒子解析装置(MLA装置)の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の具体的な実施態様について、下記1~5の記載順、即ち、図1に示す工程の順序で、詳細に説明する。
1.前処理工程
2.画像取得工程
3.画像解析工程
4.スペクトル取得工程
5.分析工程
【0020】
また、本発明は、以下に記載する実施態様のみに限定されるわけではなく、本発明の趣旨を逸脱しない限り、当業者の知識に基づいて、適宜、変更することが出来る。なお、以下の説明において、「A~B」との記載は、「A以上B以下」を意味する。
【0021】
ここで、まず、本発明で着目した、鉱物粒子解析(以降、単に「MLA」とも称する)を行う鉱物粒子解析装置(「MLA装置」とも称す)について、その概要を説明する。
MLA(Mineral_Liberation_Analyzer)は、鉱物粒子をはじめとする、無機物質粒子の分析を行う評価手法である。図2に示す様に、鉱物粒子解析を行うMLA装置1は、エネルギー分散型X線分析(以降、単に「EDS」とも称する)を行うエネルギー分散型X線分析装置11(「EDS装置」とも称す)を備えた走査型電子顕微鏡(以降、単に「SEM」とも称する)10、即ち、SEM-EDS装置がプラットフォームとなっており、その他、このSEM-EDS装置を自動制御し、画像解析、及び、スペクトルマッチングなどの分析操作を行うだけでなく、100万個~10億個という、膨大な数の粒子を対象とした粒子解析(鉱物同定、粒径計測、位置情報、及び、共生粒子の有無など)を、EDSスペクトルに基づいて行うことが可能なデータベースを有する、制御パソコン(PC)20によって構成されている。
【0022】
このMLAでは、評価対象の試料と樹脂を混合し、固結させ、得られた前処理試料の表面を研磨した後、研磨された測定面に存在する試料粒子に対して分析を行う。
MLAによる分析では、まず、測定面に電子線を照射して反射電子像(以降、単に「BSE像」とも称する)を取得し、画像解析を行うことにより、測定面に現れた試料粒子、即ち、無機物質粒子の位置、大きさ、及び、形状などの情報を得る。次に、測定面の各粒子に対するEDSスペクトルを、自動制御で順番に取得後、各種の無機物質粒子の元素情報が網羅されたデータベースを活用し、スペクトルマッチングを行うことにより、迅速・簡便に各粒子の分析結果が得られる。
【0023】
更に、MLAでは、評価対象の試料における元素情報を取得し、分析を行うことから、予め、評価対象元素を絞り、特性X線強度によって評価対象粒子を抽出する、フィルタリング機能を用いてもよく、この機能により、評価対象として微量に存在する粒子を、効率良く抽出しながら分析することが出来る。
以下、上記のMLAによってニッケル形態の評価を行う、本発明について詳細に説明する。
【0024】
1.前処理工程
図2に示す様な測定面Sを作製する工程である。
まず、評価対象となる試料を準備し、液状の樹脂と混合して混合物を得る。試料は、粉末状、塊状のどちらでもよく、液状の樹脂としては、エポキシ樹脂、アクリル樹脂などを用いるのが好ましい。
次に、得られた混合物の樹脂を固化し、試料が樹脂に包埋された前処理試料を作製する。その後、この前処理試料の表面を直接研磨するか、又は、必要に応じて、前処理試料を適切な位置で切断し、切断面を研磨する。更に、形成させた研磨面にカーボンなどを蒸着させ、導電性を付与することにより、図2に示す様な測定面Sが得られる。
【0025】
2.画像取得工程
試料のBSE(Back_Scattered_Electron)像を取得する工程である。
まず、前処理工程で得られた前処理試料を、その測定面Sが測定位置になるように、MLA装置1内に導入する。次に、SEM(Scannin_Electron_Microscope)10を用いて、測定面Sに電子線を照射し、試料のBSE像を取得する。この際、試料の粒度に合わせて、観察倍率と解像度を調整し、測定面Sに存在する試料面の多くが測定される様に、測定視野数を制御する。
【0026】
更に、コントラスト・輝度の調整用標準物質として、純金と樹脂を用いて、BSE像のグレイレベル(輝度値)における0~255の256段階の光の強さのうち、純金が255(白色)、樹脂が0(黒色)となる様にコントラスト・輝度を調整する。即ち、一般的には、BSE像のコントラスト・輝度は、純金を255、樹脂を0とした相対値によって表される。
【0027】
3.画像解析工程
BSE像の画像解析を行う工程である。
取得された試料のBSE像に対し、グレイレベルの範囲を調整する操作により、評価対象元素を含む試料粒子を抽出するための画像解析を行い、例えば、評価対象元素がニッケルならば、ニッケルを含む試料粒子を抽出する。この画像解析で抽出される試料粒子は、粒子のグレイレベルによって決定され、粒子のグレイレベルの範囲を適切に調整することにより、評価対象元素を含む試料粒子の位置、大きさ、及び、形状などの情報が迅速・簡便に得られる。
【0028】
4.スペクトル取得工程
「試料粒子のEDSスペクトル」を取得する工程である。
画像解析工程で抽出した試料粒子に対し、EDS(Energy_Dispersive_X-ray_Spectrometry)装置11を用いて、「試料粒子のEDSスペクトル」を取得する。
なお、この「EDSスペクトル」とは、SEM10による電子線照射で発生する特性X線について、そのエネルギーをEDS装置11によって分光したスペクトルである。
【0029】
5.分析工程
MLA装置1に付随する「データベース」に登録された種々の物質のEDSスペクトル群と、「試料粒子のEDSスペクトル」とのスペクトルマッチングを行い、試料中のニッケル形態に関するニッケル種の分析結果を得る工程である。
まず、MLA装置のデータベースに登録されたEDSスペクトル群により、リファレンスデータを作成する。例えば、試料中のニッケル形態を評価する場合には、純物質であるニッケルメタル(Ni)、酸化ニッケル(II)(NiO)、及び、水酸化ニッケル(II)(Ni(OH))など、それぞれのニッケル種のEDSスペクトルを用いて、リファレンスデータを作成する。
【0030】
次に、作成したリファレンスデータと、「試料粒子のEDSスペクトル」との照合(スペクトルマッチング)を行うことにより、物質種の同定や、物質の含有量などの分析結果が制御パソコン(PC)20によって得られる。
そして、MLA装置においては、上記の「2.画像取得工程」から「4.スペクトル取得工程」までを、所定の条件(所定の視野、所定の粒子数、及び、所定の測定時間など)に達するまで、視野を変更しつつ自動で繰り返す操作が行われる。
【0031】
なお、本発明の評価方法において、評価される試料は、酸化鉱、硫化鉱、ニッケルマット(「Matte」とも称す)、ミックスサルファイド(「MS」とも称す)、及び、ニッケル・コバルト水酸化物(「MHP」とも称す)から選択される1種以上を含むことを特徴とするものである。
又、評価するニッケル形態は、ニッケルメタル、酸化ニッケル、水酸化ニッケル、硫化ニッケル、硫酸ニッケル、塩化ニッケル、硝酸ニッケル、炭酸ニッケル、ニッケル・コバルト化合物、ニッケル・鉄化合物、ニッケル・ヒ素化合物、ニッケル・アンチモン化合物、ニッケル・マグネシウム化合物、ニッケル・ケイ素化合物、ニッケル・ヒ素・硫黄化合物、及び、ニッケル・アンチモン・硫黄化合物から選択される1種以上のニッケル種で構成されるものであることを特徴としている。
【実施例0032】
以下、本発明の一実施態様に係る、ニッケル形態の評価方法を、実施例によって詳しく説明するが、本発明は、これらの実施例に限定されるものではない。
【実施例0033】
まず、試料であるニッケルマット(Matte)と、樹脂であるフェノール樹脂(ベークライト)を、体積比=1:3.5で混合し、得られた混合物を万力によって圧縮成型して、直径20mm、高さ3mmのコイン状の成形体を作製した。次に、この成形体を、フェノール樹脂2gと共に熱間固結装置に封入し、180℃、75bar、5分間の条件で熱間固結して、直径25mm、高さ6mmのコイン状の前処理試料を作製した。更に、この前処理試料の表面をバフ研磨機によって研磨した後、研磨面にカーボンを蒸着させて測定面Sを得た。
【0034】
得られた測定面Sを、MLA装置である「MLA650FEG(米:FEI社製)」内に導入し、SEMを用いてBSE像を取得した。そのBSE像の取得条件は、倍率400倍、解像度1μm/Pixel、測定範囲15mm×15mm、及び、視野数を約400とした。
このBSE像について画像解析を行い、グレイレベルの範囲を20~230に調整し、この範囲にある粒子を試料粒子として抽出した。この際、BSE像のグレイレベルは、純金が255(白色)、樹脂が0(黒色)となる様にコントラスト・輝度を調整し、評価対象元素を含む試料粒子の位置、大きさ、及び、形状などの情報を得た。
【0035】
次に、MLA装置に付随する「データベース」により、ニッケル形態に関するニッケル種の「EDSスペクトル群」、即ち、ニッケルメタル(Ni)、酸化ニッケル(II)(NiO)、及び、水酸化ニッケル(II)(Ni(OH))などのEDSスペクトルを用いて、リファレンスデータを作成した。また、EDS装置を用いて、抽出した「試料粒子のEDSスペクトル」を取得した。
そして、リファレンスデータと、「試料粒子のEDSスペクトル」との照合(スペクトルマッチング)を行い、最終的に試料に含まれるニッケル種、及び、その含有量の分析結果を得た。
得られた分析結果は、表1に示す通りであった。
【実施例0036】
ミックスサルファイド(MS)を試料としたこと以外は、実施例1と同様の操作を行った。
【0037】
(比較例1)
実施例1のニッケルマット(Matte)を、X線回折(XRD)法によって分析した。なお、分析には、X線回折(XRD)装置であるX’PertPRO(スペクトリス株式会社製)を用いた。詳しくは、XRD法を用いて、ニッケル種の同定のほか、定量分析・形態分析を試みた。
【0038】
(比較例2)
実施例2のミックスサルファイド(MS)を試料としたこと以外は、比較例1と同様の操作を行った。
【0039】
【表1】
【0040】
3.結論
表1におけるニッケル形態の評価結果が示す通り、本発明を用いた実施例1、2では、メタルであるNiのほか、硫化物であるNi、NiS、Ni、及び、NiSが検出され、かつ、1質量%以下の微量のニッケル種をはじめ、それぞれの含有量が得られた。また、元々、ニッケルマットには、Niが多く存在し、ミックスサルファイドには、NiSが多く存在していることが知られており、評価対象とした各試料の特徴が反映された結果にもなった。
【0041】
これに対し、従来技術を用いた比較例1、2では、微量のニッケル種を検出することが出来ず、更に、定量用の標準物質として適用可能な、高純度の標準物質が入手出来たのは、Niのみであったため、含有量が得られたのも、比較例1でのNiのみとなった。また、比較例1のNi含有量が、実施例1の値と良く一致していることから、本発明で得られる評価結果の正しさが示された形にもなった。
【0042】
即ち、本発明によれば、試料に含まれるニッケルの存在形態を、迅速・簡便に評価出来る方法を提供することが可能となり、上記の評価結果は、その裏付けとするのに申し分無いものであると言える。
また、本発明の技術範囲は、上記の一実施態様などで説明した態様に限定されるものではない。上記の一実施態様などで説明した要件の1つ以上は、省略されることが有り得る。なお、上記の一実施態様などで説明した要件は、適宜、組み合わせることが出来る。更に、法令で許容される限り、本明細書で引用した全ての文献の内容を援用し、本文の記載の一部とするものである。
【符号の説明】
【0043】
1 鉱物粒子解析装置(MLA装置)
10 走査型電子顕微鏡(SEM)
11 エネルギー分散型X線分析装置(EDS装置)
20 制御パソコン(PC)
S 測定面
図1
図2