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特開2024-170074飛行体、誘雷システム、及び誘雷方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170074
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】飛行体、誘雷システム、及び誘雷方法
(51)【国際特許分類】
   B64U 20/80 20230101AFI20241129BHJP
   B64U 80/30 20230101ALI20241129BHJP
   B64U 101/69 20230101ALN20241129BHJP
【FI】
B64U20/80
B64U80/30
B64U101:69
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087034
(22)【出願日】2023-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000004226
【氏名又は名称】日本電信電話株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504139662
【氏名又は名称】国立大学法人東海国立大学機構
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100129230
【弁理士】
【氏名又は名称】工藤 理恵
(72)【発明者】
【氏名】丸山 雅人
(72)【発明者】
【氏名】池田 高志
(72)【発明者】
【氏名】長尾 篤
(72)【発明者】
【氏名】枡田 俊久
(72)【発明者】
【氏名】上田 稔
(72)【発明者】
【氏名】王 道洪
(72)【発明者】
【氏名】高木 伸之
(57)【要約】
【課題】効率よく落雷を誘発することが可能な飛行体、誘雷システム、及び誘雷方法を提供する。
【解決手段】飛行体1と、飛行体1の飛行を制御する制御装置2を備え、人工的に落雷を誘発する誘雷システムSであって、飛行体1は、制御装置2と通信する通信部11と、導電性のワイヤーW1と、ワイヤーW1を下方に向けて投下する投下装置13と、ワイヤーW1を投下したタイミングに応じて、上方に向けて導電路を形成する形成装置14を備える。制御装置2は、通信部11との間で無線通信する通信部23と、飛行体1の飛行操作、ワイヤーW1の投下を操作する操作信号を出力する制御部22を備える。
【選択図】 図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
遠隔操作により上空を飛行する飛行体であって、
導電性のワイヤーと、
前記ワイヤーを下方に向けて投下する投下装置と、
前記ワイヤーを投下したタイミングに応じて、上方に向けて導電路を形成する形成装置と、
を備えた飛行体。
【請求項2】
前記ワイヤーに流れる電流を測定する電流計を更に備え、
前記形成装置は、前記ワイヤーが投下された後、該ワイヤーに流れる電流が所定の閾値に達したときに、前記導電路を形成する
請求項1に記載の飛行体。
【請求項3】
前記形成装置は、
圧縮空気を充填するタンクと、
空気が導入される長尺状の空気導入部と、
前記空気導入部の長手方向に沿って取り付けられた第1の電線と、を備え、
前記空気導入部に圧縮空気を導入し、前記電線を上方に突起させて前記導電路を形成する
請求項1または2に記載の飛行体。
【請求項4】
前記形成装置は、
導電性の射出体と、前記射出体を飛行体に連結する第2の電線と、前記射出体を上方に射出する射出機構と、を備え、
前記射出体を上方に射出して前記導電路を形成する
請求項1または2に記載の飛行体。
【請求項5】
前記射出機構は、スプリング、圧縮空気、空気爆発、火薬、少なくとも一つを用いて、前記射出体を上方に射出する
請求項4に記載の飛行体。
【請求項6】
前記形成装置は、
レーザ装置を備え、レーザプラズマを上方に発生させて前記導電路を形成する
請求項1または2に記載の飛行体。
【請求項7】
飛行体と、前記飛行体の飛行を制御する制御装置を備え、人工的に落雷を誘発する誘雷システムであって、
前記飛行体は、
前記制御装置と通信する飛行体側通信部と、
導電性のワイヤーと、
前記ワイヤーを下方に向けて投下する投下装置と、
前記ワイヤーを投下したタイミングに応じて、上方に向けて導電路を形成する形成装置と、を備え、
前記制御装置は、
前記飛行体側通信部との間で無線通信する制御側通信部と、
前記飛行体の飛行操作、前記ワイヤーの投下を操作する操作信号を出力する制御部と、
を備えた誘雷システム。
【請求項8】
落雷を誘発する誘雷方法であって、
飛行体を上空に飛行させ、
前記飛行体から導電性のワイヤーを投下し、
前記ワイヤーを投下したタイミングに応じて、上方に向けて導電路を形成する
誘雷方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、飛行体、誘雷システム、及び誘雷方法に関する。
【背景技術】
【0002】
落雷による被害を防止或いは軽減するため、雷雲が発生した地域の上空に無人の飛行体(以下、「ドローン」という)を飛行させ、落雷を誘発させることが行われている。
【0003】
非特許文献1、2には、ドローンを上空に飛行させることにより、ドローンを雷雲付近の電位とほぼ等しい電位とし、ドローンから導電性を有するワイヤーを地上に投下することが開示されている。この方法によれば、ドローンの上部において、雷雲に帯電している電荷による電界を集中させることができ、ドローン上部から雷雲に向かうリーダ放電を発生・進展しやすくすることにより、効率よく落雷を誘発することができる。詳細には、ドローン先端により電界を集中させることにより、ドローン先端から雷雲に向かうリーダ放電(プラズマ電路)が発生する。リーダ放電が雷雲に到達すると、落雷となる。即ち、リーダにより大地と雷雲が短絡されることとなり、プラズマ電路に大電流(帰還雷撃)が流れ、雷雲の電荷が瞬時に中和される。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】ドローンを用いた人工誘雷技術開発の基礎的研究、手嶋 健,波多野陽,ウ ティン, 王道洪, 高木 伸之(岐阜大学).
【非特許文献2】ドローンを利用した人工誘雷実験、丸山 雅人,上田 稔,黄 海涛,ウ ティン,王 道洪,高木 伸之(岐阜大学),枡田 俊久,長尾 篤,池田 高志(NTT).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、ドローンから金属性のワイヤーを投下すると、ドローンの上部において上向きのリーダ放電が発生すると、これに起因してドローン上部にコロナ放電が発生する。ドローン上部にコロナ放電が発生すると、コロナ電荷層によりドローン上部における電界の集中が緩和される。電界の集中が緩和されることにより、落雷の誘発が妨げられるという問題があった。
【0006】
本開示は、このような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、効率よく落雷を誘発することが可能な飛行体、誘雷システム、及び誘雷方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様の飛行体は、遠隔操作により上空を飛行する飛行体であって、導電性のワイヤーと、前記ワイヤーを下方に向けて投下する投下装置と、前記ワイヤーを投下したタイミングに応じて、上方に向けて導電路を形成する形成装置と、を備える。
【0008】
本開示の一態様の誘雷システムは、飛行体と、前記飛行体の飛行を制御する制御装置を備え、人工的に落雷を誘発する誘雷システムであって、前記飛行体は、前記制御装置と通信する飛行体側通信部と、導電性のワイヤーと、前記ワイヤーを下方に向けて投下する投下装置と、前記ワイヤーを投下したタイミングに応じて、上方に向けて導電路を形成する形成装置と、を備え、前記制御装置は、前記飛行体側通信部との間で無線通信する制御側通信部と、前記飛行体の飛行操作、前記ワイヤーの投下を操作する操作信号を出力する制御部と、を備える。
【0009】
本開示の一態様の誘雷方法は、落雷を誘発する誘雷方法であって、飛行体を上空に飛行させ、前記飛行体から導電性のワイヤーを投下し、前記ワイヤーを投下したタイミングに応じて、上方に向けて導電路を形成する。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、効率よく落雷を誘発することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施形態に係る誘雷システムの構成を模式的に示す説明図である。
図2図2は、実施形態に係る誘雷システムの詳細な構成を示すブロック図である。
図3A図3Aは、投下装置の構成を模式的に示す説明図である。
図3B図3Bは、図3Aに示した解放部の詳細な構成を示すブロック図である。
図4A図4Aは、形成装置の構成を模式的に示す説明図である。
図4B図4Bは、図4Aに示した突出体が伸長したときの様子を示す説明図である。
図5A図5Aは、ドローンからワイヤーを投下したときの等電位面の変化を示す説明図である。
図5B図5Bは、ドローンからワイヤーを投下したときの等電位面の変化を示す説明図である。
図5C図5Cは、ドローンからワイヤーを投下したときの等電位面の変化を示す説明図である。
図6図6は、実施形態に係る誘雷システムの処理手順を示すフローチャートである。
図7図7は、ドローンの上方にコロナ電界層が発生する様子を示す説明図である。
図8図8は、形成装置の第1の変形例を示す説明図である。
図9図9は、形成装置の第2の変形例を示す説明図である。
図10図10は、形成装置の第3の変形例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本開示の実施形態について図面を参照して説明する。図1は、実施形態に係る誘雷システムSを模式的に示す説明図である。図2は、実施形態に係る誘雷システムSの詳細な構成を示すブロック図である。図1図2に示すように、誘雷システムSは、遠隔操作により上空を飛行する飛行体1(以下、「ドローン1」という)と、制御装置2を備えている。制御装置2は、例えば地上のユーザが所持し、ドローン1を無線で操作する。ドローン1は、制御装置2との間で無線通信が可能であり、制御装置2から送信される操作指令に基づいて飛行が制御される。更に、後述するようにワイヤーの投下、ドローン1上方への導電路の形成が制御される。
【0013】
図1図2に示すようにドローン1は、本体10と、通信部11(飛行体側通信部)と、飛行制御部12と、投下装置13と、形成装置14と、モータ15と、プロペラ16を備えている。
【0014】
プロペラ16は4個設けられており(図1では、2個のみ記載)、それぞれのプロペラ16に対してモータ15の回転軸に連結されている。モータ15により、各プロペラ16を回転させてドローン1を上空に向けて飛行させることができる。
【0015】
図2に示すように制御装置2は、操作部21と、制御部22と、通信部23(制御側通信部)を備えている。
【0016】
操作部21は、押しボタン、ノッチスイッチ、ジョイスティック、タッチパネルなどの入力機器を備えており、ユーザによる各種の操作情報を入力する。
【0017】
制御部22は、操作部21で入力された操作情報に基づき、ドローン1の操作信号を生成する。制御部22は、ドローン1(飛行体)の飛行操作、及びワイヤーW1の投下を操作する操作信号を、通信部23に出力する。
【0018】
通信部23は、制御部22より出力された操作信号を、無線によりドローン1に送信する。
【0019】
図2に示す通信部11(飛行体側通信部)は、制御装置2の通信部23との間で無線通信を行う。通信部11は、制御装置2から送信された操作信号を受信し、飛行制御部12、投下装置13、及び形成装置14に出力する。
【0020】
飛行制御部12は、制御装置2から送信される操作信号に基づいて、各モータ15の駆動を制御し、ドローン1の飛行位置、高度を制御する。
【0021】
投下装置13は、制御装置2から送信される操作信号に基づいて、錘が連結されたワイヤーを地上に向けて投下する。図3Aは、投下装置13の構成を示す説明図、図3B図3Aに示す解放部19の詳細を示す説明図である。図3Aに示すように投下装置13は、ボビン131と、ボビン131に巻回された金属製のワイヤーW1と、ワイヤーW1の先端部に連結された金属性の錘D1を備えている。
【0022】
ボビン131は、円筒形状をなし中心軸が鉛直方向を向いて設置されている。ワイヤーW1は、投下装置13を構成する筐体の内面に設置された解放部19に係止されて、下方への落下が阻止されている。
【0023】
図3Bに示すように、解放部19は、棒状のスライド部材L1と、このスライド部材L1の伸長、収縮を切り替えるモータM1と、電流計I1と、指示部191を備えている。
【0024】
スライド部材L1は水平方向(図中、左右方向)に延在しており、ワイヤーW1が係止されている。ワイヤーW1は、例えば雷雲の高度から地上に達する程度の長さを有している。従って、ドローン1が雷雲の近傍となる高さまで飛行し、この高さからワイヤーW1を投下すると、ワイヤーW1の先端に接続された錘D1は地面、或いは地面よりも若干高い位置まで落下する。
【0025】
モータM1は、天板r1に固定されており、指示部191から出力される駆動信号に基づいて、スライド部材L1を図中の矢印Y1の方向にスライド移動させる。即ち、駆動信号が与えられていないときにはスライド部材L1が伸長しており、ワイヤーW1がスライド部材L1に係止されている。従って、錘D1が連結されたワイヤーW1は下方に投下されない。
【0026】
一方、指示部191から駆動信号が与えられると、スライド部材L1が矢印Y1の方向にスライドして収縮する。スライド部材L1が収縮すると、ワイヤーW1とスライド部材L1との係止が外れるので、錘D1が連結されたワイヤーW1は下方に投下される。
【0027】
指示部191は、制御装置2から送信される操作信号に基づいて、スライド部材L1を収縮させるように、モータM1に駆動信号を出力する。
【0028】
即ち、制御装置2の操作部21にてユーザがワイヤーW1の投下操作を入力することにより、スライド部材L1を収縮させてワイヤーW1を投下させることができる。
【0029】
形成装置14は、ユーザの操作入力に基づいて、本体10の上方に導電路を形成する。図4Aは、形成装置14の構成を示す説明図、図4Bは、突出体144(空気導入部)が上方に向けて射出したときの様子を示す説明図である。
【0030】
図4Aに示すように形成装置14は、タンク141と、電磁弁142と、指示部143と、突出体144を備えている。
【0031】
タンク141には、圧縮空気が充填されている。
【0032】
突出体144は、ビニル、紙などで形成されている。突出体144は、長尺の袋形状を有しており通常時には、図4Aに示すように渦巻き状に巻回して収納されている。突出体144は、空気が導入されると内部に空気が充填することにより、図4Bに示すように上方(図中の矢印Y2の方向)に向けて伸長する。突出体144は、空気が導入される長尺状の空気導入部の一例である。
【0033】
突出体144には導電性を有するエナメル線W2(第1の電線)が長手方向に沿って取り付けられている。エナメル線W2は、例えば直径0.01mmである。エナメル線W2は、例えばジャンパ線により、投下装置13に設置されているワイヤーW1と電気的に導通している。突出体144が上方に向けて伸長すると、これに伴ってエナメル線W2が上方に向けて伸長する。突出体144は内部の空気が放出されると、図4Aに示す通常時の状態に戻る。
【0034】
なお、突出体144の代わりに、電動で金属性のポールが上下方向に伸縮する電動伸縮ポールを用いてもよい。
【0035】
電磁弁142は、指示部143から出力される駆動指令に基づき、タンク141内の圧縮空気を突出体144内に供給する。即ち、タンク141の空気流路を突出体144に連結して、圧縮空気を突出体144内に導入する。電磁弁142は、指示部143の制御により、突出体144内に充填している空気を外部に放出する。即ち、突出体144の導入口を外部に開放し、内部に充填している空気を外部に放出する。
【0036】
指示部143は、図3Bに示した解放部19の電流計I1にて測定される電流値が、所定の閾値に達したときに、電磁弁142に駆動指令を出力する。具体的に指示部143は、上記電流値が閾値に達した場合には、タンク141の出力流路が突出体144に連結するように電磁弁142を制御して、圧縮空気を突出体144内に導入し、突出体144を伸長させる。即ち、形成装置14は、投下装置13がワイヤーW1を投下したタイミングに応じて、ドローン1の上方に向けて導電路を形成する。
【0037】
指示部143は、圧縮空気の導入後、所定時間が経過した場合には、突出体144の導入口が外部に開放するように電磁弁142を制御して、突出体144内に充填している空気を外部に放出する。
【0038】
次に、本実施形態に係る誘雷システムSの動作について説明する。初めに、図1に示したドローン1において、形成装置14を作動させないときにおける、ドローン1周辺の電界の変化を、図5A図5Cを参照して説明する。
【0039】
図5A図5Cは、上空に発生している雷雲51の下方にドローン1を飛行させ、投下装置13を作動させてワイヤーW1の先端に連結された錘D1を地上に向けて投下したときの、等電位面の変化を示す説明図である。図5A図5B図5Cの順に、錘D1が下降した位置ごとの等電位面を示している。
【0040】
図5Aに示すように、錘D1の投下直後において、錘D1の周辺に電界が集中し、電界強度が上昇し始める。即ち、図中点線で示す等電位面の間隔が狭くなっている。その後、錘D1が下降すると錘D1の周囲の電界強度が上昇するため、図5Bに示すように錘D1の周辺においてコロナ放電C1が発生する。このため、ドローン1及びワイヤーW1の電位が低下する。
【0041】
図5Cに示すように、錘D1が更に下降し、ドローン1及びワイヤーW1の電位が低下すると、ドローン1の上空における電界強度が上昇する。この電界強度が所定の閾値を超えると、ドローン1の上空においてコロナ放電C2が発生する。これに伴い、ドローン1の上部にコロナ電荷層が形成され、錘D1~大地間の放電によりドローン1上部に電界が集中しても、残存するコロナ電荷層による電界緩和効果が発生し、落雷の誘発を妨げてしまう。
【0042】
本実施形態では、ドローン1から錘D1を投下したタイミングに応じて、形成装置14を作動させ、エナメル線W2を上方に伸長してコロナ電荷層を通過させる。具体的には、ワイヤーW1に流れる電流値、即ち図3Bに示した電流計I1で検出される電流値が所定の閾値に達した際に形成装置14を作動させる。これにより、エナメル線W2よりも上部に存在するコロナ電荷層を減少させ、エナメル線W2の先端において、より理想に近い電界集中を実現する。
【0043】
以下、実施形態に係る誘雷システムSの動作を、図6図7を参照して説明する。図6は、誘雷システムSの操作手順を示すフローチャート、図7は、ドローン1の周辺における等電位面を示す説明図である。
【0044】
初めに図6のステップS11においてユーザは、制御装置2を操作してドローン1を雷雲が発生している地域の上空に飛行させる。具体的には、ユーザが図2に示す操作部21にて操作を行うと、この操作に基づく操作信号がドローン1に送信される。ドローン1の通信部11は、この操作信号を受信する。飛行制御部12は、この操作信号に基づいてモータ15を制御し、プロペラ16を駆動することにより、ドローン1が上空に飛行させる。
【0045】
ドローン1が所望の高度に達すると、ステップS12においてユーザは、投下装置13を駆動させるための操作を入力する。ドローン1の投下装置13は、この操作信号により図3Bに示したモータM1を駆動させ、スライド部材L1を収縮させて錘D1を投下する。その結果、図7に示すように、ドローン1からワイヤーW1が連結された錘D1が投下され、地面GL付近に達する。ワイヤーW1に流れる電流は、図3Bに示した電流計I1により測定される。投下装置13は、電流計I1で測定された電流値を形成装置14に出力する。
【0046】
ステップS13において形成装置14は、電流計I1で測定された電流値が所定の閾値に達したか否かを判定する。電流値が閾値に達した場合には、ステップS14において、形成装置14の指示部143は、電磁弁142を制御してタンク141内に充填されている圧縮空気を突出体144内に供給する。その結果、図4Bに示したように、突出体144が上方に射出され、該突出体144に取り付けられているエナメル線W2が上方に突起する。
【0047】
即ち、図7に示すように、エナメル線W2をドローン1の上方に伸長させることができる。このため、エナメル線W2がコロナ電荷層を通過する。その結果、エナメル線W2よりも上部に存在するコロナ電荷層を減少させ、エナメル線W2の先端において、より理想に近い電界集中を実現することができ、ドローン1の上部から雷雲に向かうリーダ放電を発生・進展しやすくすることにより、効率よく落雷を誘発することができる。
【0048】
このように、本実施形態に係る誘雷システムSは、飛行体1と、飛行体1の飛行を制御する制御装置2を備え、人工的に落雷を誘発する誘雷システムであって、飛行体1は、制御装置2と通信する通信部11(飛行体側通信部)と、導電性のワイヤーW1と、ワイヤーW1を下方に向けて投下する投下装置13と、ワイヤーW1を投下したタイミングに応じて、上方に向けて導電路を形成する形成装置14と、を備え、制御装置2は、通信部11との間で無線通信する通信部23(制御側通信部)と、飛行体1の飛行操作、ワイヤーW1の投下を操作する操作信号を出力する制御部22を備える。
【0049】
本実施形態では、上空を飛行中のドローン1から地上に向けて導電性を有するワイヤーW1を投下することにより、ドローン1に電界を集中させることができる。また、ワイヤーW1に流れる電流が所定の閾値に達した際に、ドローン1の上方にエナメル線W2(第1の電線)を射出するので、ドローン1の上方に存在するコロナ電荷層を減少させることができ、ドローン1の上部から雷雲に向かうリーダ放電を発生・進展しやすくすることにより、効率よく落雷を誘発することができる。
【0050】
また、エナメル線W2を長尺の袋状をなす突出体144に取り付け、この突出体144内に圧縮空気を挿入して突出体144を膨張させて、エナメル線W2を上方に伸長させる。このため、極めて簡単な方法でコロナ電界層の上方に導電路を形成することができる。
【0051】
なお、上述した実施形態では、電流計I1で測定される電流値が所定の閾値に達したときに、突出体144を伸長させる例について示したが、例えば、投下装置13からワイヤーW1を投下してから所定時間の経過後に、突出体144を伸長させてドローン1の上方に導電路を形成してもよい。
【0052】
[変形例の説明]
次に、上述した形成装置14の変形例について説明する。
【0053】
(第1の変形例)
図8は第1の変形例に係る形成装置14Aの構成を示す説明図である。図8に示すように形成装置14Aは、先端が尖った棒状を有する導電性の尖鋭部材R1(射出体)と、射出部145と、指示部146を備えている。尖鋭部材R1は、射出体の一例である。
【0054】
尖鋭部材R1は、通常時において射出部145(射出機構)に装填されている。射出部145は、指示部146から駆動指令が出力された際に尖鋭部材R1を上方に向けて発射する。尖鋭部材R1は電線W3(第2の電線)により射出部145に連結されている。従って、尖鋭部材R1が発射されると、電線W3の長さだけ上昇し、ドローン1の上方に導電路が形成される。電線W3は、ジャンパ線などにより投下装置13との間で電気的に導通している。
【0055】
射出部145は、スプリング、圧縮空気、空気爆発、電磁力などを用いて尖鋭部材R1を射出することができる。射出部145は、指示部146からの駆動指令に応じて尖鋭部材R1を上方に射出させる。
【0056】
ドローン1の投下装置13からワイヤーW1が投下され、ワイヤーW1に流れる電流値が所定の閾値に達した際に、射出部145により尖鋭部材R1を上方に向けて射出する。その結果、前述した実施形態と同様に、尖鋭部材R1が、図7に示したようにドローン1上方のコロナ電荷層を通過する。その結果、尖鋭部材R1よりも上部に存在するコロナ電荷層を減少させ、尖鋭部材R1の先端において、より理想に近い電界集中を実現することができ、ドローン1の上部から雷雲に向かうリーダ放電を発生・進展しやすくすることにより、効率よく落雷を誘発することができる。
【0057】
(第2の変形例)
図9は第2の変形例に係る形成装置14Bの構成を示す説明図である。図14Bに示すように、形成装置14Bは、尖鋭部材R2と、点火装置147(射出機構)と、指示部148を備えている。
【0058】
尖鋭部材R2は火薬を備えている。点火装置147が尖鋭部材R2の火薬に点火すると、尖鋭部材R2は上方に向けて発射する。即ち、点火装置147(射出機構)は、火薬を爆発させて尖鋭部材R2を上方に射出する。
【0059】
尖鋭部材R2は、通常時において点火装置147に設置されている。点火装置147は、指示部148から点火指令が出力された際に尖鋭部材R2を上方に向けて発射する。尖鋭部材R2は、電線W4(第2の電線)により形成装置14の筐体に連結されている。電線W4は、ジャンパ線などにより、投下装置13のワイヤーW1と電気的に接続されている。尖鋭部材R2が発射されると、この尖鋭部材R2は電線W4の長さだけ上昇し、ドローン1の上方に導電路が形成される。
【0060】
ドローン1の投下装置13からワイヤーW1が投下され、ワイヤーW1に流れる電流値が所定の閾値に達した際には、点火装置147により尖鋭部材R2の火薬に点火して、尖鋭部材R2を上方に向けて発射する。その結果、前述した実施形態と同様に、尖鋭部材R2が、図7に示したようにドローン1上方のコロナ電荷層を通過する。その結果、尖鋭部材R2よりも上部に存在するコロナ電荷層を減少させ、尖鋭部材R2の先端において、より理想に近い電界集中を実現することができ、ドローン1の上部から雷雲に向かうリーダ放電を発生・進展しやすくすることにより、効率よく落雷を誘発することができる。
【0061】
(第3の変形例)
図10は第3変形例に係る形成装置14Cの構成を示す説明図である。図10に示すように、形成装置14Cは、レーザ装置149と、指示部150を備えている。
【0062】
レーザ装置149は、例えば炭酸ガスレーザを照射する。レーザ装置149を覆う筐体は金属製であり、投下装置13によって投下されるワイヤーW1と電気的に接続されている。レーザ装置149は、指示部150から駆動指令が出力されると、上方に向けてレーザP1を照射し、ドローン1の上方にレーザプラズマ(導電路)を発生させる。レーザプラズマは、高い導電性を有し且つ細いため、前述した尖鋭部材R1、R2と同様の効果を発揮する。即ち、ドローン1の上方に導電路が形成される。
【0063】
ドローン1の投下装置13からワイヤーW1が投下され、ワイヤーW1に流れる電流が所定の閾値に達した際には、レーザ装置149を駆動させてドローン1の上方に向けてレーザP1を照射する。即ち、投下装置13からワイヤーW1が投下され、ワイヤーW1の下端と大地間で放電したタイミングで、レーザ装置149の金属製の筐体に設けられた小さな穴からレーザが照射され、ドローン1の上方にレーザプラズマが形成される。
【0064】
レーザプラズマは金属製の筐体とは絶縁状態であるが、ワイヤーW1の下端~大地間の放電に伴い筐体上部の電界は非常に強くなり、筐体とレーザプラズマ間で放電が発生し、電気的に接続される。この瞬間に、筐体上部に集中していた電界がレーザプラズマの上端での集中に変化する。これにより、金属性の筐体上部付近のコロナ電荷層を通過したレーザプラズマ上端からの絶縁破壊を発生させる。
【0065】
レーザP1よりも上部に存在するコロナ電荷層を減少させ、レーザP1の先端において、より理想に近い電界集中を実現することができ、ドローン1の上部から雷雲に向かうリーダ放電を発生・進展しやすくすることにより、効率よく落雷を誘発することができる。
【0066】
なお、本開示は上記実施形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で数々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0067】
1 ドローン(飛行体)
2 制御装置
11 通信部(飛行体側通信部)
12 飛行制御部
13 投下装置
14、14A、14B、14C 形成装置
15 モータ
16 プロペラ
19 解放部
21 操作部
22 制御部
23 通信部(制御側通信部)
131 ボビン
141 タンク
142 電磁弁
143、146、148、150、191 指示部
144 突出体(空気導入部)
145 射出部(射出機構)
147 点火装置(射出機構)
149 レーザ装置
D1 錘
I1 電流計
L1 スライド部材
M1 モータ
R1、R2 尖鋭部材
S 誘雷システム
W1 ワイヤー
W2 エナメル線(第1の電線)
W3、W4 電線(第2の電線)
図1
図2
図3A
図3B
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8
図9
図10