(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170244
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】オートクレーブ
(51)【国際特許分類】
C22B 3/02 20060101AFI20241129BHJP
C22B 3/04 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
C22B3/02
C22B3/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】3
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087302
(22)【出願日】2023-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】杉之原 真
(72)【発明者】
【氏名】横川 友彦
(72)【発明者】
【氏名】天野 道
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA06
4K001AA07
4K001AA19
4K001AA30
4K001BA06
4K001BA10
4K001DB03
4K001DB14
4K001DB16
4K001DB22
4K001DB23
4K001DB26
4K001DB31
(57)【要約】
【課題】 ショートパスを抑えることで各反応室の滞留時間を確保し、結果的に効率よく浸出処理を行なうことが可能なオートクレーブを提供する。
【解決手段】 円筒状の圧力容器1をその中心軸が水平方向を向くように横置きにし、上部が開口する複数の隔壁2によって圧力容器1の内部を該中心軸方向に並ぶ複数の反応室3a~3eに区画して各々に撹拌機4を備えた構造のオートクレーブ1であって、これら複数の隔壁2のうち少なくとも上流側半分の各々をその上流側の反応室から見たとき、該上流側の反応室に設けた撹拌機4の回転により生ずる接線方向の流れが、隣接する下流側の反応室を区画する隔壁2において略垂直に当たる側の上端部高さが部分的に高くなっており、好適には上記複数の隔壁2の各々の上端部は、中央部分が略矩形に切り欠かれることで部分的に低くなっている。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
円筒状の圧力容器をその中心軸が水平方向を向くように横置きにし、上部が開口する複数の隔壁によって該圧力容器の内部を該中心軸方向に並ぶ複数の反応室に区画して各々に撹拌機を備えた構造のオートクレーブであって、前記複数の反応室のうち一方の末端に位置する最上流側の反応室に連続的に原料スラリーが供給されると共に他方の末端に位置する最下流側の反応室から浸出スラリーが抜出される構成であり、前記複数の隔壁のうち少なくとも上流側半分の各々をその上流側の反応室から見たとき、該上流側の反応室に設けた前記撹拌機の回転により生ずる接線方向の流れが、隣接する下流側の反応室を区画する隔壁において略垂直に当たる側の上端部高さが部分的に高くなっていることを特徴とするオートクレーブ。
【請求項2】
前記複数の隔壁の各々の上端部は、中央部分が略矩形に切り欠かれることで部分的に低くなっていることを特徴とする、請求項1に記載のオートクレーブ。
【請求項3】
前記最上流側の反応室にニッケル硫化物、コバルト硫化物、亜鉛硫化物、及びカドミウム硫化物のうちの少なくともいずれかを含む金属硫化物に水を加えて調製した前記原料スラリーが導入され、該原料スラリーは前記複数の隔壁の上端部をオーバーフローして順次下流側の反応室に移送されることで段階的に加圧酸化浸出処理が施されることを特徴とする、請求項2に記載のオートクレーブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、オートクレーブに関し、特に高温高圧下において金属化合物の浸出処理を行なうオートクレーブに関する。
【背景技術】
【0002】
ニッケルに代表される非鉄金属の製錬では、粉粒状の金属化合物原料に水を加えて調製したスラリーを高温高圧下で処理して該金属化合物原料に含まれるニッケルなどの有価金属を回収する加圧浸出処理が行われており、この処理には円筒状の圧力容器をその中心軸が水平方向を向くように横置きにして複数の隔壁によって内部を複数の反応室に区画した構造のオートクレーブが用いられている。例えば、ニッケル製錬においては、原料としての硫化ニッケルを主成分とする微粉末状のニッケルマット及び微粉末状の硫黄を含む混合スラリーをオートクレーブに装入し、高圧空気を吹き込んで高温高圧下で加圧酸化浸出処理を行なうことにより、硫酸ニッケルを生成している。
【0003】
また、低Ni品位のニッケル酸化鉱石のスラリーに硫酸及び高圧蒸気を加えて高温高圧下で浸出処理して有価金属のニッケル及びコバルトを硫酸塩として浸出させる高圧酸浸出法(High Pressure Acid Leaching)や、この高圧酸浸出処理により生成したニッケル及びコバルトの硫酸塩に硫化剤を添加することにより生成されるニッケルコバルト混合硫化物(MS)のスラリーに高圧空気を吹き込んで高温高圧下で浸出処理して硫酸ニッケル及び硫酸コバルトを生成する加圧酸化浸出法においてもオートクレーブが用いられている。
【0004】
上記のオートクレーブにおいては、隔壁の上部が開口しており、この隔壁の上端部をスラリーがオーバーフローすることで、最上流側の反応室に導入した原料スラリーを順次下流側の反応室に移送できるようになっている。なお、隔壁には下部に通液口が設けられることがあり、この場合はスラリーに含まれる固形分が反応室の底部に堆積しても下流側の反応室に移送することが可能になる。このように、オートクレーブに装入された原料スラリーは、複数の反応室に順次移送されることで浸出処理が段階的に進行していくことになる。このため、オートクレーブにおいて効率よく浸出処理を行なうには、互いに隣接する上流側の反応室から下流側の反応室へのスラリーの移送に際して、該スラリーができるだけショートパスしないようにして各反応室における滞留時間を確保することが望ましい。そこで、上記の互いに隣接する反応室同士の間でショートパスが生じるのを抑制する様々な構造のオートクレーブが提案されている。
【0005】
例えば特許文献1には、隔壁の下部に設けた通液口の開口面積を規定することで常時オーバーフローが生じるようにし、これにより各反応室において所定の液保有量を確保する技術が開示されている。また、特許文献2には、隔壁の下部に設けた通液口に遮蔽部材を設けることで、撹拌機によって生じるスラリーの流れがそのまま通液口を通過してショートパスするのを防ぐ技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2020-049420号公報
【特許文献2】特開2018-040047号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記特許文献1及び2の技術を採用することで、オートクレーブの隔壁の下部に設けた通液口においてスラリーがショートパスするのを効果的に抑制できると考えられるが、オートクレーブの各反応室には撹拌機が設けられており、浸出処理を行なう場合は更にスラリー中に空気や蒸気が吹き込まれるため、各反応室の液面は大きく波立っている。このため、隔壁の上端部をオーバーフローする際に一部のスラリーがショートパスして所望の滞留時間が確保されない問題が生ずることがあった。
【0008】
この場合の対策としては、オートクレーブの容量を大きくして各反応室の滞留時間を長くすることが考えられるが、オートクレーブは高圧容器であるため、法令上の制約により容器本体の改造は非常に困難であり、また設備の改造には多くのコストと手間がかかる。本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、複数の隔壁によって内部が複数の反応室に区画された構造のオートクレーブにおいて、その最上流側の反応室に装入した金属化合物スラリーがこれら隔壁をオーバーフローすることにより順次下流側の反応室に移送される際に生じ得るショートパスの問題を多大なコストや手間をかけることなく抑え、これにより各反応室の滞留時間を確保して該金属化合物の浸出処理の効率を高めることが可能なオートクレーブを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明が提供するオートクレーブは、円筒状の圧力容器をその中心軸が水平方向を向くように横置きにし、上部が開口する複数の隔壁によって該圧力容器の内部を該中心軸方向に並ぶ複数の反応室に区画して各々に撹拌機を備えた構造のオートクレーブであって、前記複数の反応室のうち一方の末端に位置する最上流側の反応室に連続的に原料スラリーが供給されると共に他方の末端に位置する最下流側の反応室から反応後スラリーが抜出される構成であり、前記複数の隔壁のうち少なくとも上流側半分の各々をその上流側の反応室から見たとき、該上流側の反応室に設けた前記撹拌機の回転により生ずる接線方向の流れが、隣接する下流側の反応室を区画する隔壁において略垂直に当たる側の上端部高さが部分的に高くなっていることを特徴としている。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、オートクレーブ内におけるスラリーのショートパスを抑えることができるので、浸出処理の効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の実施形態のオートクレーブが好適に使用される硫酸ニッケルの製造プロセスのブロックフロー図である。
【
図2】本発明の実施形態のオートクレーブをその中心軸を含む平面で鉛直方向に切断した縦断面図である。
【
図3】本発明の実施形態のオートクレーブをその中心軸を含む平面で水平方向に切断した横断面図である。
【
図4】本発明の実施形態のオートクレーブが有する隔壁の正面図である。
【
図5】
図4に示す隔壁の変形例を示す正面図である。
【
図6】
図5の隔壁がオートクレーブ内に複数枚設置されている様子を示す斜視図である。
【
図7】本発明の実施例又は比較例のオートクレーブを用いて様々な条件で加圧酸化浸出処理を行なって得た運転結果のうち、MS原料の浸出率が99.7%以上99.8%以下の条件を満たすものにおけるMS原料スラリー供給量と高圧空気供給量との関係を示すグラフである。
【
図8】本発明の実施例又は比較例のオートクレーブを用いて様々な条件で加圧酸化浸出処理を行なって得た運転結果のうち、高圧空気流量が6000Nm
3/h以上6200Nm
3/h以下の条件を満たすものにおけるMS原料スラリー供給量と原料の浸出率との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係るオートクレーブについて、原料としてのニッケルコバルト混合硫化物(MS:ミックスサルファイド)を該オートクレーブに装入して加圧酸化浸出処理する場合を例に挙げて詳細に説明する。ニッケル硫化物(NiS)とコバルト硫化物(CoS)との混合物からなるニッケルコバルト混合硫化物の乾物基準の一般的な組成は、ニッケルが50~60質量%、コバルトが4~6質量%、硫黄が30~34質量%程度であり、不純物としてマグネシウム、鉄、銅、亜鉛などを含んでいる。このニッケルコバルト混合硫化物は、低品位リモナイト鉱などのニッケル酸化鉱石を湿式製錬法で処理することで生成することができる。具体的には、この湿式製錬法は、ニッケル酸化鉱石に水を添加して調製した鉱石スラリーに対して、加圧酸浸出処理(HPAL:High Pressure Acid Leaching)を施してニッケル及びコバルトを含む浸出液を生成する工程と、該浸出液に中和剤を添加して鉄などの不純物を中和澱物の形態で分離除去する工程と、該中和澱物の分離除去後の中和終液に硫化水素ガス等の硫化剤を吹き込むことでニッケルコバルト混合硫化物を生成する工程とから主に構成される。
【0013】
上記のニッケルコバルト混合硫化物に対して、例えば
図1のブロックフローに示す原料調製工程、加圧酸化浸出工程、脱鉄工程、第1固液分離工程、溶媒抽出工程、晶析工程、溶解工程、及び第2固液分離工程からなる製造プロセスで処理することで、めっき、触媒、電池材料等の用途に適した硫酸ニッケル結晶を製造することができる。以下、これら一連の工程の各々について具体的に説明する。
【0014】
1.硫酸ニッケル製造プロセス
(1)原料調製工程
原料調製工程では、原料のニッケルコバルト混合硫化物に所定の割合で水を添加して混合することで、固形分濃度(スラリー濃度とも称する)が好適には200~300g/L程度の原料スラリーの調製を行なう。この添加用の水には、後述する第2固液分離工程で分離されるニッケル回収液を繰り返し利用するのが好ましい。なお、上記のニッケルコバルト混合硫化物は鉄分を0.1~1質量%含んでいる。
【0015】
(2)加圧酸化浸出工程
加圧酸化浸出工程では、前工程の原料調製工程で調製した原料スラリーを後述するオートクレーブと称する圧力容器に装入し、更に高圧空気を吹き込むことで、例えば圧力1.0~2.0MPaG程度、温度140~200℃程度の高温高圧下で酸化反応を生じさせて浸出処理を行なう。これにより、ニッケルコバルト混合硫化物に含まれるニッケル及びコバルトが不純物の一部と共に浸出され、pH1~2程度の硫酸ニッケル水溶液からなる浸出液と浸出残渣とで構成される浸出スラリーが生成される。なお、上記の酸化反応は発熱を伴うため、オートクレーブには冷却水により浸出スラリーを冷却する装置が設けられている。生成された浸出スラリーは、オートクレーブから抜き出されてフラッシュタンクでほぼ大気圧まで降圧された後、次工程の脱鉄工程で脱鉄処理される。
【0016】
(3)脱鉄工程
脱鉄工程では、浸出スラリーに酸化剤として空気を吹き込むことで、浸出液に含まれるFe2+をFe3+に酸化すると共に、消石灰、炭酸カルシウム、水酸化ナトリウムなどの中和剤を添加することで、下記化学式1に示す酸化中和反応を生じさせる。これにより、該浸出スラリーを構成する浸出液に含まれる主として鉄からなる不純物からFe(OH)3からなる中和澱物が生成される。なお、上記の中和剤の中では、石膏を生成することで澱物の濾過性を改善できるので消石灰が好ましい。
[化学式1]
4FeSO4+4Ca(OH)2+O2+2H2O→4Fe(OH)3+4CaSO4
【0017】
この脱鉄工程では、酸化中和反応時の液相のpHが低すぎると鉄の水酸化物があまり生成されず、粗硫酸ニッケル水溶液中に鉄が残留してしまう。逆に、酸化中和反応時の液相のpHが高すぎると、下記化学式2に示す中和反応により製造目的金属であるニッケルの水酸化物が生成され、粗硫酸ニッケル水溶液へのニッケル分配率が低下する。従って、この脱鉄工程においては、液相のpHを2.6~5.9に調整する。これにより、浸出液に含まれる不純物の鉄を十分に除去しつつ、該粗硫酸ニッケル水溶液へのニッケル分配率の低下を抑制できる。
[化学式2]
NiSO4+Ca(OH)2→Ni(OH)2+CaSO4
【0018】
(4)第1固液分離工程
第1固液分離工程では、前工程の脱鉄工程で浸出スラリーを酸化中和処理することで得た脱鉄スラリーを例えばフィルタープレスなどの固液分離手段に導入して固液分離を行なう。これにより、浸出残渣と中和澱物との混合物からなる脱鉄1次澱物が分離除去され、粗硫酸ニッケル水溶液が得られる。
【0019】
(5)溶媒抽出工程
溶媒抽出工程では、前工程の第1固液分離工程での固形分の分離除去により得た粗硫酸ニッケル水溶液を溶媒抽出処理することで、コバルトなどの不純物を除去する。これにより、高純度硫酸ニッケル水溶液が得られる。この溶媒抽出に用いる有機溶媒には特に限定はないが、大八化学工業株式会社製のPC-88Aなどの有機リン酸系の酸性有機抽出剤を用いるのが好ましい。
【0020】
(6)晶析工程
晶析工程では、前工程の溶媒抽出工程で得た高純度硫酸ニッケル水溶液を晶析処理することで硫酸ニッケル結晶を生成する。晶析処理の方法については特に限定はなく、例えば、高純度硫酸ニッケル水溶液を晶析缶に導入して減圧下で加熱することで、水分を蒸発させて硫酸ニッケルを晶析する方法を好適に採用することができる。なお、二次電池の正極材料の製造に硫酸ニッケルを用いる場合は、この晶析工程を経ることなく高純度硫酸ニッケル水溶液をそのまま利用することもできる。
【0021】
(7)溶解工程
上記の脱鉄工程で生成される中和澱物には共沈したニッケルの水酸化物が含まれるため、上記の第1固液分離工程で固液分離された固形分としての脱鉄1次澱物にはこのニッケルの水酸化物が含まれている。そこで、溶解工程では、この第1固液分離工程で分離された脱鉄1次澱物に例えば硫酸水溶液を添加してレパルプすることで、この脱鉄1次澱物に含まれるニッケルの水酸化物を溶解する。これにより、中和澱物に含まれるニッケルを回収することができる。この溶解工程では、脱鉄1次澱物に硫酸水溶液を添加してレパルプしたときの液相のpHが高すぎるとニッケルの回収が不十分になり、逆に、この液相のpHが低すぎると鉄の水酸化物も溶解すると共に中和澱物を構成する粒子が小径化して固液分離性が悪くなるので、これらを考慮して適宜pHが調整される。
【0022】
(8)第2固液分離工程
第2固液分離工程では、前工程の溶解工程で処理した後に得られる脱鉄2次澱物スラリーを例えばフィルタープレスなどの固液分離手段に導入することにより、脱鉄2次澱物を固液分離してニッケル回収液を得る。この固液分離された脱鉄2次澱物は系外に排出され、他方、ニッケル回収液は硫酸ニッケル製造プロセス系内における各工程のレパルプ水や洗浄水として用いられるが、好適には上記原料調製工程において原料スラリーの調製用水溶液として繰り返される。
【0023】
2.オートクレーブ
本発明の実施形態のオートクレーブは、上記の加圧酸化浸出工程において原料スラリーの高温高圧下での浸出処理を行なう圧力容器として好適に用いられる。この本発明の実施形態のオートクレーブは、例えば
図2に示すように、円筒状の圧力容器1をその中心軸が水平方向を向くように横置きに据付けられており、その内部は、隔壁2によって該中心軸方向に並ぶ複数の反応室3a~3eに区画されており、各隔壁2は上部が開口することで、その上端部においてオーバーフローを生じさせる堰部になっている。なお、
図2にはオートクレーブの内部が4枚の隔壁2で5つの反応室3a~3eに区画された例が示されているが、隔壁及び反応室の数はこれらに限定されるものではない。
【0024】
各反応室内には例えば傾斜タービンからなる撹拌翼を有する撹拌機4が設けられており、更に各撹拌機4の撹拌翼の下方において圧縮空気を吹き出すようにガス吹出管5が設けられている。これら複数の反応室3a~3eのうち、最上流側に位置する紙面左端の反応室3aに原料スラリー供給管6が設けられており、最下流側に位置する紙面右端の反応室3eに浸出処理後の浸出スラリーを抜き出す抜出管7が設けられている。なお、オートクレーブでは、一般的に高温高圧の条件下で腐食性の高いスラリーを取り扱うので、圧力容器用鋼材の内面側に、チタンまたはチタン合金、ニッケル基モリブデン、クロム合金等の耐蝕、耐磨耗金属を貼り合せたクラッド鋼板が本体の材質に用いられる。更に、このクラッド鋼板の内面に耐酸レンガ等の耐熱、耐蝕材を内張りすることがある。
【0025】
上記の構成により、オートクレーブの最上流の反応室3aに装入された上記原料スラリーは、この最上流の反応室3aにおいて撹拌機4で撹拌されながらガス吹出管5から高圧空気が吹き込まれることで加圧酸化浸出処理が施される。その後、隔壁2の上端部をオーバーフローして隣接する下流側の反応室3bに移送され、同様に加圧酸化浸出処理が施される。以降、同様にして隣接する下流側の反応室に順次オーバーフローにより移送されることで段階的に加圧酸化浸出処理が施され、最終的に最下流の反応室3eに設けられた抜出管7から浸出スラリーとして抜き出される。
【0026】
ところで、上記したように、オートクレーブの各反応室内では、真上から鉛直方向に差し込まれる撹拌機4のシャフト先端部に設けた撹拌翼によってスラリーが撹拌されるので、
図3の白矢印で示すように、各反応室を真上から見たときに撹拌機4のシャフトを中心とする撹拌機4の回転方向と同じ方向の回転流れが生じる。その際、スラリーには撹拌翼の下方から高圧空気が吹き込まれることも影響して各反応室内のスラリーの液面は局所的に大きく盛り上がり易く、結果的に隔壁2の上端部をショートパスすることがあった。
【0027】
特に、
図2に示すように、隔壁2によって内部が中心軸方向に並ぶ複数の反応室3a~3eに区画されたオートクレーブでは、互いに隣接する下流側の反応室から上流側の反応室に逆流することがないように、隔壁2の上端部の高さを上流側から下流側に向かうに従って徐々に低くすることがあり、この場合は、上記のショートパスの問題が生じることがあった。特に、オートクレーブ内に設けた複数の隔壁2のうち、上流側の1~2枚程度の隔壁2において上記のショートパスの問題が生じると、上流側の2~3の反応室において加圧酸化浸出反応の大部分が行なわれることから、全体の反応効率(浸出率)に大きな影響を及ぼす。
【0028】
そこで、本発明の実施形態のオートクレーブは、複数の隔壁2のうち少なくとも上流側半分の隔壁、すなわち、少なくとも反応室3a及び反応室3bを区画する隔壁2と、反応室3bと反応室3cを区画する隔壁2とに対して、いずれも上記のショートパスが容易に生じないように上端部を部分的に嵩上げしている。具体的には、
図4に示すように、隣接する下流側の反応室3bを区画する隔壁2をその上流側の反応室3aから見たとき、該上流側の反応室3aに設けた撹拌機4の回転により生ずるスラリーの接線方向の流れが、該隣接する下流側の反応室3bを区画する隔壁2において略垂直に当たる紙面左側の上端部2aの高さが部分的に高くなっている。同様に、隣接する下流側の反応室3cを区画する隔壁2を上流側の反応室3bから見たとき、該上流側の反応室に3bに設けた撹拌機4の回転により生ずるスラリーの接線方向の流れが、該隣接する下流側の反応室3cを区画する隔壁2において略垂直に当たる紙面左側の上端部2aの高さが部分的に高くなっている。これにより、上記のショートパスの問題が発生するのを抑えることができる。なお、
図4に示すように、紙面右側の上端部2bを基準とすると、上記の部分的に高くする上端部2aの高さHは100~200mm程度が好ましい。
【0029】
隔壁2の形状を上記の
図4に示す形状にすることで、該隔壁2のオーバーフローは紙面右側の低い方の上端部2bのみで生じることになる。この場合、オーバーフローするスラリーの液面は、隔壁2の低い方の上端部2bのうち、オートクレーブの内壁面に近い紙面右端の方が遠心力やオーバーハングしている内壁面でのはね返り等により若干高くなりやすく、この部分でショートパスが僅かながら生じるおそれがある。そこで、
図5に示す変形例の隔壁12のように、中央部に略矩形の切り込み部12cを設けてこの部分を堰としてオーバーフローさせることが好ましい。これにより、隔壁12の上端部のうち、切り込み部12c以外の部分においてオーバーフローが生ずるのをほぼ防ぐことができる。これにより、反応時間が短いため浸出反応が不十分になってニッケル等の製造目的金属の回収率(浸出率)が低下する問題をより確実に抑えることができる。
【0030】
以上説明したように、本発明のオートクレーブは、互いに隣接する反応室同士を区画する隔壁において、その上流側の反応室の撹拌機によって生じる液面の局所的な盛り上がりに対応した箇所の上端部が部分的に嵩上げされているため、この上流側の反応室から下流側の反応室に向って流体が隔壁のオーバーフローによりショートパスする問題を抑えることができる。これにより、例えば、ニッケル硫化物、コバルト硫化物、亜鉛硫化物、及びカドミウム硫化物のうち少なくともいずれかを含む金属硫化物に水を加えて調製したスラリーが導入されるオートクレーブにおいて効率のよい加圧酸化浸出処理が可能になり、結果的に製造目的金属の回収率(浸出率)を高めることができるうえ、浸出反応に必要な酸化剤(高圧空気)等の使用量を低減することも可能になる。次に、実施例及び比較例により、本発明をより具体的に説明する。
【実施例0031】
原料のニッケルコバルト混合硫化物MSを
図1に示す工程に沿って処理する硫酸ニッケル製造プラントにおいて、加圧酸化浸出工程に用いるオートクレーブに本発明の要件を満たしたものを採用した。具体的には、
図2に示すように、横置きにした円筒容器の内側を4枚の隔壁2で5つの反応室3a~3eに区画し、これら4枚の隔壁2のうち、反応室3aと3bとを区画するものと、反応室3bと3cとを区画するものに、
図5に示すような上端の中央部分が略矩形に切り欠かれていて且つ紙面左側の高さを紙面右側よりも150mm嵩上げした形状のものを採用した。これら以外は中央部分に略矩形の切欠きを設けただけで左右の高さを同じにした。撹拌機4の回転方向は、
図3に示すように時計回りとしたので、上流側の2枚の隔壁2は撹拌機4によって生じるスラリーの接線方向の流れが隔壁2に略垂直に衝突する側を嵩上げしたことになる。
【0032】
上記構造のオートクレーブの反応室3aにニッケルコバルト混合硫化物(MS)に水を加えて調製した原料スラリーを連続的に供給すると共に、各反応室において撹拌機4で撹拌しながら撹拌翼の下方からガス吹出管5を介して高圧空気を吹き込んだ。その際、オートクレーブに供給する原料スラリーの供給量と高圧空気の供給量を様々に変えながら高圧空気中の酸素によってニッケルコバルト混合硫化物(MS)を加圧酸化浸出処理し、硫酸ニッケルと硫酸コバルトとの混合浸出液を生成した。その際の運転条件を下記表1に示す。なお、表中、原料スラリー濃度のMS重量は湿分重量であり10重量%程度の水も含んだものである。また、加圧酸化浸出圧力はゲージ圧(大気圧をゼロとした圧力)である。
【0033】
【0034】
比較例として、4枚の隔壁2の全てにおいて中央部分の略矩形に切り欠かれている部分の右側及び左側の高さを同じにした以外は上記実施例と同様にして原料スラリーを加圧酸化浸出処理した。上記の実施例及び比較例の結果のうち、原料の浸出率が99.7%以上99.8%以下の条件を満たすものについて原料スラリー供給量と高圧空気供給量の関係を下記表2及び
図7に示す。この
図7から、隔壁高さを片側のみ嵩上げした実施例では、嵩上げしていない比較例に比べて少ない高圧空気供給量でニッケルコバルト混合硫化物を浸出できることが分かる。
【0035】
【0036】
一方、上記の実施例及び比較例の結果のうち、高圧空気供給量が6000Nm
3/h以上6200Nm
3/h以下の条件を満たすものについて原料スラリー供給量と原料の浸出率の関係を下記表3及び
図8に示す。この
図8から、隔壁高さを片側のみ嵩上げした実施例では、嵩上げしていない比較例に比べて浸出率が高いことが分かる。
【0037】
【0038】
上記の結果より、撹拌機の回転により生ずる該撹拌機の回転中心に対して接線方向の流れが略垂直に当たる部分を嵩上げした隔壁で内部を区画したオートクレーブを用いることにより、該隔壁をオーバーフローする流体がショートパスするのを抑えることができ、結果的に原料スラリーを効率よく加圧酸化浸出できることが分かる。