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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170245
(43)【公開日】2024-12-06
(54)【発明の名称】硫酸ニッケル水溶液の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/10 20060101AFI20241129BHJP
   C22B 23/00 20060101ALI20241129BHJP
   C22B 3/08 20060101ALI20241129BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20241129BHJP
【FI】
C01G53/10
C22B23/00 102
C22B3/08
C22B3/44 101A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087303
(22)【出願日】2023-05-26
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100136825
【弁理士】
【氏名又は名称】辻川 典範
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 菜央
(72)【発明者】
【氏名】居藤 恭吾
(72)【発明者】
【氏名】秋山 尚輝
(72)【発明者】
【氏名】永井 啓明
(72)【発明者】
【氏名】杉之原 真
(72)【発明者】
【氏名】天野 道
【テーマコード(参考)】
4G048
4K001
【Fターム(参考)】
4G048AA07
4G048AB02
4G048AB08
4K001AA19
4K001BA03
4K001DB03
4K001DB14
4K001JA01
(57)【要約】
【課題】 多大なコストをかけることなく高い回収率でニッケルを回収することが可能な硫酸ニッケル水溶液の製造方法を提供する。
【解決手段】 ニッケル硫化物を含む原料スラリーをオートクレーブに装入して高温高圧下で酸化浸出処理を施すことで硫酸ニッケル水溶液からなる浸出液を生成する加圧酸化浸出工程と、該浸出液及び浸出残渣からなる浸出スラリーに酸化中和処理を施すことで水酸化鉄を含む中和澱物を生成させる脱鉄工程と、該脱鉄工程で得た脱鉄スラリーを固液分離して該中和澱物と該浸出残渣からなる脱鉄1次澱物を除去することで粗硫酸ニッケル水溶液を得る第1固液分離工程と、該脱鉄1次澱物に硫酸を添加して該中和澱物に含まれる水酸化ニッケルを溶解する溶解工程とから構成され、該溶解工程において液相のpHを2.3~3.0の範囲内に調整する。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ニッケル硫化物を含む原料スラリーをオートクレーブに装入して高温高圧下で酸化浸出処理を施すことで硫酸ニッケル水溶液からなる浸出液を生成する加圧酸化浸出工程と、前記浸出液及び浸出残渣からなる浸出スラリーに酸化中和処理を施すことで水酸化鉄を含む中和澱物を生成させる脱鉄工程と、前記脱鉄工程で得た脱鉄スラリーを固液分離して前記中和澱物と前記浸出残渣からなる脱鉄1次澱物を除去することで粗硫酸ニッケル水溶液を得る第1固液分離工程と、前記脱鉄1次澱物に硫酸を添加して前記中和澱物に含まれる水酸化ニッケルを溶解する溶解工程とから構成され、前記溶解工程において液相のpHを2.3~3.0の範囲内に調整することを特徴とする硫酸ニッケル水溶液の製造方法。
【請求項2】
前記加圧浸出工程は、前記原料スラリーに高圧空気を吹き込んで圧力1~2MPaG、温度140~200℃の条件下で前記酸化浸出処理を行なうことを特徴とする、請求項1に記載の硫酸ニッケル水溶液の製造方法。
【請求項3】
前記脱鉄工程は、前記浸出スラリーに空気を吹き込んで酸化処理すると共に、中和剤を添加して中和処理することを特徴とする、請求項1に記載の硫酸ニッケル水溶液の製造方法。
【請求項4】
前記脱鉄工程において液相のpHを2.6~5.9の範囲内に調整することを特徴とする、請求項1に記載の硫酸ニッケル水溶液の製造方法。
【請求項5】
前記ニッケル硫化物が、ニッケル酸化鉱石を原料とする湿式製錬プロセスで製造されたニッケル及びコバルトを含有する混合硫化物である、請求項1ないし4のいずれか1項に記載の硫酸ニッケル水溶液の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硫酸ニッケル水溶液の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫酸ニッケルは、ニッケルめっきの用途のほか、アルミ発色、触媒、二次電池用正極材料等の幅広い用途に利用されている。この硫酸ニッケルの製造方法としては、例えば、ニッケル硫化物原料をオートクレーブと称する圧力容器に装入し、高温高圧下で浸出処理を行なう加圧酸化浸出法が用いられている。ニッケル硫化物原料としては、例えば、乾式製錬で製造されるニッケルマット、低Ni品位のニッケル酸化鉱石のスラリーに硫酸及び高圧蒸気を加えて高温高圧下で浸出処理して有価金属のニッケル及びコバルトを硫酸塩として浸出させる高圧酸浸出(High Pressure Acid Leaching)により生成したニッケル及びコバルトの硫酸塩に硫化剤を添加することにより生成されるニッケルコバルト混合硫化物(MS)などが挙げられる。上記の浸出処理では、製造目的金属であるニッケル以外に鉄などの不純物も浸出されるため、浸出処理により得た浸出液に対して、脱鉄工程において酸化中和法により鉄分を中和澱物として除去した後、該脱鉄工程で除去しきれない不純物を溶媒抽出工程等で除去して高純度の硫酸ニッケル水溶液を製造している。
【0003】
例えば特許文献1には、ニッケル精錬工程においてニッケル原料を硫酸溶液で溶解処理することで得た粗硫酸ニッケル水溶液は、硫酸ニッケル結晶の製造時に問題となる鉄、アルミニウム、クロム、亜鉛、ヒ素、リンを含んでいるので、反応槽に装入した粗硫酸ニッケル水溶液に空気を吹き込みながらpH調整剤として水酸化ナトリウムや消石灰を添加することで、主として鉄からなる不純物を中和澱物として分離除去した後、得られた脱鉄液を溶媒抽出工程で精製処理する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006-225217号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記の脱鉄処理では、粗硫酸ニッケル水溶液に含まれる鉄分をより確実に除去するため、一般的に処理時のpHは高めに設定される。このため、中和澱物は、鉄の水酸化物と共に沈殿した製造目的金属であるニッケルの水酸化物を含んでいる。そこで、分離除去した中和澱物に硫酸を添加してニッケルを溶解した後、固液分離することでこのニッケルを回収している。
【0006】
上記のように、脱鉄工程で分離除去された中和澱物を硫酸で溶解した後に固液分離することで、鉄分と共に沈殿したニッケルをある程度回収することができるが、上記の硫酸で溶解した後の溶解残渣には依然としてニッケルが含まれており、ニッケル回収率をより一層高めることが求められていた。なお、溶解残渣は硫酸ニッケル製造プロセスの系外に払出される。本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、脱鉄工程で生成される中和澱物からコストをあまりかけることなくニッケルをより多く回収することが可能な硫酸ニッケル水溶液の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明に係る硫酸ニッケル水溶液の製造方法は、ニッケル硫化物を含む原料スラリーをオートクレーブに装入して高温高圧下で酸化浸出処理を施すことで硫酸ニッケル水溶液からなる浸出液を生成する加圧酸化浸出工程と、前記浸出液及び浸出残渣からなる浸出スラリーに酸化中和処理を施すことで水酸化鉄を含む中和澱物を生成させる脱鉄工程と、前記脱鉄工程で得た脱鉄スラリーを固液分離して前記中和澱物と前記浸出残渣からなる脱鉄1次澱物を除去することで粗硫酸ニッケル水溶液を得る第1固液分離工程と、前記脱鉄1次澱物に硫酸を添加して前記中和澱物に含まれる水酸化ニッケルを溶解する溶解工程とから構成され、前記溶解工程において液相のpHを2.3~3.0の範囲内に調整することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、硫酸ニッケル水溶液の製造に際して生成される中和澱物からコストをあまりかけることなくより多くのニッケルを回収することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明に係る硫酸ニッケル水溶液の製造方法の実施形態のブロックフロー図である。
図2図1の加圧酸化浸出工程で好適に用いられるオートクレーブの縦断面図である。
図3】本発明に係る硫酸ニッケルの製造方法を好適に実施可能な製造設備の模式的フロー図である。
図4】本発明の実施例の硫酸ニッケルの製造方法の溶解工程において、様々なpHで脱鉄1次澱物をレパルプしたときの該脱鉄1次澱物からの鉄に対する不溶性ニッケルの溶解量の比(不溶性Ni/Fe溶解量)を、横軸をpHとしてプロットしたグラフである。
図5】本発明の実施例の硫酸ニッケルの製造方法の溶解工程において、様々なpHで脱鉄1次澱物をレパルプして得たスラリーをフィルタープレスで濾過したときに要した時間及びその濾液(ニッケル回収液)のFe濃度を、横軸をpHとしてプロットしたグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明に係る硫酸ニッケル水溶液の製造方法の実施形態について詳細に説明する。この本発明の実施形態の硫酸ニッケル水溶液の製造方法は、ニッケル硫化物を含有する原料としてニッケル硫化物(NiS)とコバルト硫化物(CoS)との混合物からなるニッケルコバルト混合硫化物(MS:ミックスサルファイド)を使用する。このニッケルコバルト混合硫化物の乾物基準の一般的な組成は、ニッケルが50~60質量%、コバルトが4~6質量%、硫黄が30~34質量%程度であり、不純物としてマグネシウム、鉄、銅、亜鉛などを含んでいる。
【0011】
ニッケルコバルト混合硫化物は、低品位リモナイト鉱などのニッケル酸化鉱石を湿式製錬法で処理することで生成することができる。具体的には、この湿式製錬法は、ニッケル酸化鉱石に水を添加して調製した鉱石スラリーに対して、加圧酸浸出処理(HPAL:High Pressure Acid Leaching)を施してニッケル及びコバルトを含む浸出液を生成する工程と、該浸出液に中和剤を添加して鉄などの不純物を中和澱物の形態で分離除去する工程と、該中和澱物の分離除去後の中和終液に硫化水素ガス等の硫化剤を吹き込むことでニッケルコバルト混合硫化物を生成する工程とから主に構成される。本発明の実施形態の硫酸ニッケルの製造方法は、上記の湿式製錬法で得たニッケルコバルト混合硫化物に対して、例えば図1のブロックフローに示す、原料調製工程、加圧酸化浸出工程、脱鉄工程、第1固液分離工程、溶媒抽出工程、晶析工程、溶解工程、及び第2固液分離工程で処理を行なうものである。以下、これら一連の工程の各々について具体的に説明する。
【0012】
1.硫酸ニッケル水溶液の製造方法
(1)原料調製工程
原料調製工程では、原料のニッケルコバルト混合硫化物に所定の割合で水を添加して混合することで、固形分濃度(スラリー濃度とも称する)が好適には200~300g/L程度の原料スラリーの調製を行なう。この添加用の水には、後述する第2固液分離工程で分離されるニッケル回収液を繰り返し利用するのが好ましい。なお、上記のニッケルコバルト混合硫化物は鉄分を0.1~1質量%含んでいる。
【0013】
(2)加圧酸化浸出工程
加圧酸化浸出工程では、図2に示すような円筒状の圧力容器1をその中心軸が水平方向を向くように横置きにし、上部が開口する複数の隔壁2(図2には4枚の隔壁2が例示されている)によって複数の反応室3a~3eに区画した構造のオートクレーブを使用する。このオートクレーブの最上流側の反応室3aに上記の原料調製工程で調製した原料スラリーを装入し、上記の複数の隔壁2の上端部をオーバーフローさせて順次下流側の反応室に移送させながら、これら反応室3a~3eの各々に設けた撹拌機4の撹拌翼の下方に吹出口を有するガス放出管5を介して高圧空気を吹き込むことで、例えば圧力1.0~2.0MPaG程度、温度140~200℃程度の高温高圧下で酸化反応を生じさせて浸出処理を行なう。
【0014】
上記の浸出処理により、ニッケルコバルト混合硫化物に含まれるニッケル及びコバルトが不純物の一部と共に浸出され、pH1~2程度の硫酸ニッケル水溶液からなる浸出液と浸出残渣とで構成される浸出スラリーが生成される。なお、上記の酸化反応は発熱を伴うため、オートクレーブには冷却水により浸出スラリーを冷却する装置が設けられている。生成された浸出スラリーは、オートクレーブから抜き出されてフラッシュタンクでほぼ大気圧まで降圧された後、次工程の脱鉄工程で脱鉄処理される。
【0015】
(3)脱鉄工程
脱鉄工程では、浸出スラリーに酸化剤として空気を吹き込むことで、浸出液に含まれるFe2+をFe3+に酸化すると共に、消石灰、炭酸カルシウム、水酸化ナトリウムなどの中和剤を添加することで、下記化学式1に示す酸化中和反応を生じさせる。これにより、該浸出スラリーを構成する浸出液に含まれる主として鉄からなる不純物からFe(OH)からなる中和澱物が生成される。なお、上記の中和剤の中では、石膏を生成することで澱物の濾過性を改善できるので消石灰が好ましい。
[化学式1]
4FeSO+4Ca(OH)+O+2HO→4Fe(OH)+4CaSO
【0016】
この脱鉄工程では、酸化中和反応時の液相のpHが低すぎると鉄の水酸化物があまり生成されず、粗硫酸ニッケル水溶液中に鉄が残留してしまう。逆に、酸化中和反応時の液相のpHが高すぎると、下記化学式2に示す中和反応により製造目的金属であるニッケルの水酸化物が生成され、粗硫酸ニッケル水溶液へのニッケル分配率が低下する。従って、この脱鉄工程においては、液相のpHを好ましくは2.6~5.9に、より好ましくは4.0~5.5に調整する。これにより、浸出液に含まれる不純物の鉄を十分に除去しつつ、該粗硫酸ニッケル水溶液へのニッケル分配率の低下を抑制できる。
[化学式2]
NiSO+Ca(OH)→Ni(OH)+CaSO
【0017】
(4)第1固液分離工程
第1固液分離工程では、前工程の脱鉄工程で浸出スラリーを酸化中和処理することで得た脱鉄スラリーを例えばフィルタープレスなどの固液分離手段に導入して固液分離を行なう。これにより、浸出残渣と中和澱物との混合物からなる脱鉄1次澱物が分離除去され、粗硫酸ニッケル水溶液が得られる。
【0018】
(5)溶媒抽出工程
溶媒抽出工程では、前工程の第1固液分離工程での固形分の分離除去により得た粗硫酸ニッケル水溶液を溶媒抽出処理することで、コバルトなどの不純物を除去する。これにより、高純度硫酸ニッケル水溶液が得られる。この溶媒抽出に用いる有機溶媒には特に限定はないが、大八化学工業株式会社製のPC-88Aなどの有機リン酸系の酸性有機抽出剤を用いるのが好ましい。
【0019】
(6)晶析工程
晶析工程では、前工程の溶媒抽出工程で得た高純度硫酸ニッケル水溶液を晶析処理することで硫酸ニッケル結晶を生成する。晶析処理の方法については特に限定はなく、例えば、高純度硫酸ニッケル水溶液を晶析缶に導入して減圧下で加熱することで、水分を蒸発させて硫酸ニッケルを晶析する方法を好適に採用することができる。なお、二次電池の正極材料の製造に硫酸ニッケルを用いる場合は、この晶析工程を経ることなく高純度硫酸ニッケル水溶液をそのまま利用することもできる。
【0020】
(7)溶解工程
上記の脱鉄工程で生成される中和澱物には、共沈したニッケルの水酸化物が含まれるため、上記の第1固液分離工程で固液分離された固形分としての脱鉄1次澱物にはこのニッケルの水酸化物が含まれている。そこで、溶解工程では、この第1固液分離工程で分離された脱鉄1次澱物に硫酸水溶液を添加してレパルプすることで、この脱鉄1次澱物に含まれるニッケルの水酸化物を溶解する。これにより、中和澱物に含まれるニッケルを回収することができる。この溶解工程では、脱鉄1次澱物に硫酸水溶液を添加してレパルプしたときの液相のpHを2.3~3.0の範囲内に調整する。この液相のpHが3.0よりも高いとニッケルの回収が不十分になり、逆に、この液相のpHが2.3よりも低いと鉄の水酸化物も溶解すると共に中和澱物を構成する粒子が小径化して固液分離性が悪くなる。
【0021】
(8)第2固液分離工程
第2固液分離工程では、前工程の溶解工程で処理した後に得られる主として浸出残渣と水酸化鉄からなる脱鉄2次澱物スラリーを例えばフィルタープレスなどの固液分離手段に導入することにより、該脱鉄2次澱物を固液分離してニッケル回収液を得る。この固液分離された脱鉄2次澱物は系外に排出され、他方、ニッケル回収液は硫酸ニッケル製造プロセス系内における各工程のレパルプ水や洗浄水として用いられるが、好適には上記した原料調製工程において原料スラリーの調製用の水溶液として繰り返される。
【0022】
2.固液分離工程での固液分離性
前述したように、第1固液分離工程や第2固液分離工程では、脱鉄工程で生成される主として水酸化鉄からなる中和澱物と、加圧酸化浸出工程で生成される浸出残渣とを含むスラリーに対して、好適にはフィルタープレスに代表される濾過機を用いて固液分離を行なうことで固形分が分離除去される。このように、フィルタープレスなどの濾過機を用いてスラリーの固液分離を行なう場合、珪藻土、パーライトなどの濾過助剤を用いて濾布の表面にケーキ層を形成する操作を行なうことがある。
【0023】
具体的には、濾過対象となるスラリーを濾過機に導入する前に、濾過助剤を分散させた清澄液を濾過機に導入して、濾布の表面に予め濾過助剤の層を形成するプリコート法と、濾過対象となるスラリーに濾過助剤を分散させた状態で濾過機に導入することで、濾布の表面に濾過助剤と濾過対象の固体分とからなるケーキ層を形成していくボディフィード法とがある。
【0024】
上記のプリコート法及び/又はボディフィード法を採用することで、濾過抵抗を低減させたり、濾材の目詰まりを抑えたり、濾液の清澄度を高めたりすることができる。一方、本発明の実施形態の硫酸ニッケルの製造方法では、濾過対象のスラリーに含まれる固形分が上記したように水酸化鉄からなる中和澱物のほか、浸出残渣を含むため、濾過性が良好になると推定される。水酸化鉄からなる中和澱物は一般的に3次元網目状に絡み合った形態を有しているのに対して、浸出残渣はNiSとCoSの混合物の溶け残りであるため、多孔質状の形態を有する微細な粒子であると推定される。このため、多孔質素材からなる珪藻土やパーライトと同様の濾過助剤的な役割をこの浸出残渣が担っているとも考えられる。
【0025】
なお、加圧酸化浸出工程において酸化反応が促進されると、金属の浸出反応に加えて、浸出した鉄が3価に酸化されやすくなり、結果的に下記化学式3に示す加水分解反応が生じてヘマタイト(Fe)の生成量が増加する。加圧酸化浸出工程において高温高圧下で生成されるヘマタイトは、脱鉄工程において50℃程度で生成される水酸化鉄に比べて一般的に微細であるため、加圧酸化浸出工程において酸化反応が促進されると、脱鉄1次澱物に占めるヘマタイトの割合が相対的に高くなり、第1固液分離工程や第2固液分離工程における濾過性が悪くなるおそれがある。
[化学式3]
2Fe3++3HO→Fe+6H
【0026】
そこで、加圧酸化浸出工程では、酸化還元電位を比較的低く抑えるのが好ましい。具体的には、加圧酸化浸出工程における液相の酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)を500mV以下に調整するのが好ましい。これにより加圧酸化浸出工程における酸化反応の過度な進行を抑えることができるので、ヘマタイトの過度析出を抑制することができる。なお、加圧酸化浸出工程における酸化還元電位が低すぎると、金属の浸出反応が不十分になるので、加圧酸化浸出工程における液相の酸化還元電位(銀/塩化銀電極基準)を410mV以上に調整するのが好ましく、溶媒抽出工程による除去が困難なチオ硫酸イオン(S 2-)の生成を抑える観点から480mVを超える値に調整することがより好ましい。
【実施例0027】
図3に示すような製造設備を用いて原料のニッケルコバルト混合硫化物(MS)から高純度硫酸ニッケル水溶液を製造した。具体的には、先ずMSに水を添加して調製した原料スラリーを図2に示すような円筒状の圧力容器1を横置きにして上部が開口する4枚の隔壁2で内部を5つの反応室3a~3eに区画した構造のオートクレーブの最上流側の反応室3aに原料スラリー供給配管6を介して装入し、隔壁2の上端部をオーバーフローさせることで順次下流側の反応室に移送させながら、各反応室において撹拌機4で撹拌すると共にガス吹出管5を介して高圧空気を吹き込むことで、圧力1.8~1.9MPaG、温度140~180℃の高温高圧下で加圧酸化浸出処理を行なって浸出液及び浸出残渣からなる浸出スラリーを生成した(加圧酸化浸出工程)。
【0028】
上記オートクレーブで生成した浸出スラリーを、反応室3eに設けた抜出管7を介して抜き出してフラッシュタンク8でほぼ大気圧まで減圧した後、第1中継槽9Aを経由して脱鉄反応槽10に装入して酸化剤として空気を吹き込むと共に、中和剤として消石灰を添加した。なお、図1では脱鉄反応槽10として1基のみ図示しているが、実際は連続する複数段の反応槽を用いて段階的にpHを上げた。これにより、最後段反応槽のpH4.7~5.3の条件下で中和澱物を生成した(脱鉄工程)。
【0029】
上記脱鉄反応槽10で生成した中和澱物を含む脱鉄スラリーを第2中継槽9Bに移送した後、第1スラリーポンプ11を介して第1フィルタープレス12に導入して上記中和澱物と浸出残渣からなる脱鉄1次澱物を分離して粗硫酸ニッケル水溶液を得た(第1固液分離工程)。得られた粗硫酸ニッケル水溶液は、ミキサーセトラー13に導入して溶媒抽出処理を行なうことで、高純度硫酸ニッケル水溶液を得た(溶媒抽出工程)。
【0030】
一方、脱鉄1次澱物はレパルプ槽14で回収した後、硫酸水溶液を添加してレパルプすると共に、蒸気を吹き込んで約60℃に加温することで上記中和澱物に含まれる不溶性ニッケルを溶解させた(溶解工程)。得られた脱鉄2次澱物スラリーを、第2スラリーポンプ15を介して第2フィルタープレス16に導入して主として浸出残渣と水酸化鉄からなる脱鉄2次澱物を分離してニッケル回収液を得た(第2固液分離工程)。
【0031】
上記の溶解工程において、硫酸水溶液でレパルプしたときに液相のpHを様々に変えた。そして、液相のpHをそれぞれ変えたときの脱鉄1次澱物からの鉄及び不溶性ニッケルの溶解量を蛍光X線分析法により分析し、鉄に対する不溶性ニッケルの比(不溶性Ni/Fe溶解量比)を求めた。その結果を、横軸を液相のpHとしてプロットしたグラフを図4に示す。この図4のグラフから、液相のpHが約2.1~3.2の範囲ではpHが低いほど不溶性Ni/Fe溶解量比が増大しているので、不溶性ニッケルをより多く回収できることが分かる。より具体的には、鉄に対する不溶性ニッケルの比(不溶性Ni/Fe溶解量比)については、以下の計算式により求めた。
【0032】
[計算式]
不溶性Ni/Fe溶解量比=(脱鉄1次澱物の不溶性ニッケル含有率(重量%)/脱鉄1次澱物の鉄含有率(重量%))-(脱鉄2次澱物の不溶性ニッケル含有率(重量%)/脱鉄2次澱物の鉄含有率(重量%))
【0033】
なお、不溶性ニッケル含有率は、合計ニッケル含有率から水溶性ニッケル含有率を減ずることで求めた。水溶性ニッケル含有率は、試料1gを100mLの水で30分間煮沸した後、濾過して濾液のニッケル濃度をICP発光分光分析法で測定し、該ニッケル濃度に液量を乗じて水溶性ニッケル重量を求め、それを水溶性ニッケル含有率に換算することにより求めた。
【0034】
他方、上記のように液相のpHをそれぞれ変えたときに、第2フィルタープレスでの濾過に要した時間を計測すると共に、この濾過で得たニッケル回収液(脱Fe2次濾液)のFe濃度を蛍光X線分析法により分析した。それらの結果を、横軸を液相のpHとしてプロットしたグラフを図5に示す。この図5のグラフから、pHが下がると不溶性ニッケルと共に鉄分も溶解することが分かる。また、pH2.3を境としてpH2.3未満では第2フィルタープレスでの濾過に要した時間が臨界的に長くなっていることが分かる。これは鉄分の溶解により非溶解澱物の粒子径が小さくなり、第2フィルタープレスにおける濾過性が低下したことによるものと考えられる。上記の図4及び図5の結果から、溶解工程において脱鉄1次澱物を硫酸水溶液でレパルプするときは、液相のpHを2.3以上にするのが好ましいことが分かる。
【符号の説明】
【0035】
1 圧力容器
2 隔壁
3a、3b、3c、3d、3e 反応室
4 撹拌機
5 ガス放出管
6 原料スラリー供給配管
7 抜出管
8 フラッシュタンク
9A 第1中継槽
9B 第2中継槽
10 脱鉄反応槽
11 第1スラリーポンプ
12 第1フィルタープレス
13 ミキサーセトラー
14 レパルプ槽
15 第2スラリーポンプ
16 第2フィルタープレス
図1
図2
図3
図4
図5
【手続補正書】
【提出日】2023-05-31
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】請求項2
【補正方法】変更
【補正の内容】
【請求項2】
前記加圧酸化浸出工程は、前記原料スラリーに高圧空気を吹き込んで圧力1~2MPaG、温度140~200℃の条件下で前記酸化浸出処理を行なうことを特徴とする、請求項1に記載の硫酸ニッケル水溶液の製造方法。