IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ アプライド マテリアルズ インコーポレイテッドの特許一覧

特開2024-170437イオン注入システム及び新規な加速器段構成を有する線形加速器
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170437
(43)【公開日】2024-12-10
(54)【発明の名称】イオン注入システム及び新規な加速器段構成を有する線形加速器
(51)【国際特許分類】
   H05H 9/00 20060101AFI20241203BHJP
   H01J 37/317 20060101ALI20241203BHJP
   H05H 9/04 20060101ALI20241203BHJP
   H05H 5/06 20060101ALI20241203BHJP
   H01J 37/248 20060101ALI20241203BHJP
【FI】
H05H9/00 B
H01J37/317 Z
H05H9/04
H05H5/06
H01J37/248 B
【審査請求】有
【請求項の数】1
【出願形態】OL
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2024135888
(22)【出願日】2024-08-16
(62)【分割の表示】P 2023507225の分割
【原出願日】2021-07-06
(31)【優先権主張番号】16/984,053
(32)【優先日】2020-08-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(71)【出願人】
【識別番号】390040660
【氏名又は名称】アプライド マテリアルズ インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】APPLIED MATERIALS,INCORPORATED
【住所又は居所原語表記】3050 Bowers Avenue Santa Clara CA 95054 U.S.A.
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】シンクレア, フランク
(57)【要約】      (修正有)
【課題】イオンビームの適切な加速及び集束を、四重極要素が存在しないドリフトチューブアセンブリを用いて達成する。
【解決手段】イオン注入システムは、第1のエネルギーでイオンビームを生成するように構成された、イオン源及び抽出システムと、イオン源の下流に配置された線形加速器とを含み、イオンビームを束状にされたイオンビームとして受け入れるように構成された線形加速器は、イオンビームを第1のエネルギーより大きい第2のエネルギーへ加速させる。線形加速器は、複数の加速段を含み得る。複数の加速段のうちの所与の加速段は、イオンビームを伝導するように構成されたドリフトチューブアセンブリと、ドリフトチューブアセンブリに電気的に連結された共振器と、共振器に連結され、共振器へRF信号を出力するように構成されたRF電力アセンブリとを含み得る。したがって、所与の加速段は、四重極要素を含まない。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のエネルギーでイオンビームを生成するように構成された、イオン源及び抽出システム、並びに
前記イオン源の下流に配置された線形加速器であって、前記イオンビームを束状にされたイオンビームとして受け入れるように構成された当該線形加速器が、前記イオンビームを前記第1のエネルギーよりも大きい第2のエネルギーへ加速させ、当該線形加速器が、複数の加速段を備え、前記複数の加速段のうちの所与の加速段が、
前記イオンビームを伝導するように構成されたドリフトチューブアセンブリと、
前記ドリフトチューブアセンブリに電気的に連結された共振器と、
前記共振器に連結され、前記共振器へRF信号を出力するように構成されたRF電力アセンブリと
を備え、前記所与の加速段が四重極要素を含まない、線形加速器
を備えているイオン注入システム。
【請求項2】
前記線形加速器が、少なくとも3つの加速段を備えている、請求項1に記載のイオン注入システム。
【請求項3】
前記複数の加速段が、四重極要素を含まない、請求項1に記載のイオン注入システム。
【請求項4】
前記ドリフトチューブアセンブリが、第1の接地ドリフトチューブ、前記第1の接地ドリフトチューブの下流に配置されたACドリフトチューブアセンブリ、及び前記ACドリフトチューブアセンブリの下流に配置された第2の接地ドリフトチューブを備えている、請求項1に記載のイオン注入システム。
【請求項5】
前記第1の接地ドリフトチューブ及び前記第2の接地ドリフトチューブのうちの少なくとも1つが、L/Dが2未満であるドリフトチューブ長(L)とドリフトチューブ径(D)とを有するコンパクトな構成を有する、請求項4に記載のイオン注入システム。
【請求項6】
前記ACドリフトチューブアセンブリが、第1のACドリフトチューブ、及び前記第1のACドリフトチューブの下流の第2のACドリフトチューブを備え、前記共振器が、第1の端部で前記第1のACドリフトチューブに連結され、前記共振器が、第2の端部で前記第2のACドリフトチューブに連結されている、請求項4に記載のイオン注入システム。
【請求項7】
前記RF信号が、13.56MHzと27.12MHzとの間の周波数を含む、請求項1に記載のイオン注入システム。
【請求項8】
前記線形加速器が、回転共振器設計を含み、第1の加速段に連結された第1の共振器が、前記第1の加速段に隣接する第2の加速段に連結された第2の共振器に対して回転させられる、請求項1記載のイオン注入システム。
【請求項9】
イオン注入装置を動作させる方法であって、
イオンビームを生成することと、
前記イオンビームを束状にすることであって、前記イオンビームが、複数の束ねられたイオンパケットに変換させられる、前記イオンビームを束状にすることと、
前記束ねられたイオンパケットを、線形加速器の複数の加速段を通して高イオンエネルギーへ加速させることと
を含み、前記加速させることが、
前記複数の加速段のうちの少なくとも1つの段において、前記イオンビームに四重極電場を印加することなく、RF信号をドリフトチューブアセンブリに印加して、前記イオンビームを初期イオンエネルギーからより高いイオンエネルギーへ加速させることであって、前記イオンビームが、前記ドリフトチューブアセンブリによって集束される、前記イオンビームをより高いイオンエネルギーへ加速させること、及び
前記線形加速器を通過した後の前記イオンビームを基板内に注入すること
を含む、方法。
【請求項10】
前記イオンビームに四重極電場を印加することなく、複数の前記RF信号がそれぞれ前記複数の加速段に印加される、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記複数の加速段が、第1の接地ドリフトチューブ、前記第1の接地ドリフトチューブの下流に配置されたACドリフトチューブアセンブリ、前記ACドリフトチューブアセンブリの下流に配置された第2のACドリフトチューブ、及び前記第2のACドリフトチューブの下流に配置された第2の接地ドリフトチューブを含む、ドリフトチューブアセンブリを個々に備えている、請求項9に記載の方法。
【請求項12】
前記第1の接地ドリフトチューブ及び前記第2の接地ドリフトチューブのうちの少なくとも1つが、L/Dが2未満であるドリフトチューブ長(L)とドリフトチューブ径(D)とを有するコンパクトな構成を有する、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記RF信号が、13.56MHzと27.12MHzとの間の周波数を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項14】
イオン注入システム内に配置された線形加速器であって、当該線形加速器が、
複数の加速段を備え、前記複数の加速段のうちの少なくとも1つの加速段が、
イオンビームを束状にされたイオンビームとして受け取り、移送するように構成されたドリフトチューブアセンブリであって、トリプル間隙構成又はダブル間隙構成を含むドリフトチューブアセンブリと、
前記ドリフトチューブアセンブリに電気的に連結された共振器と、
を備え、前記少なくとも1つの加速段が、四重極要素を含まない、線形加速器。
【請求項15】
前記線形加速器が、少なくとも3つの加速段を備えている、請求項14に記載の線形加速器。
【請求項16】
前記複数の加速段が、四重極要素を含まない、請求項14に記載の線形加速器。
【請求項17】
前記複数の加速段のうちの1つ又は複数の加速段が、四重極要素を含む、請求項14に記載の線形加速器。
【請求項18】
前記ドリフトチューブアセンブリが、第1の接地ドリフトチューブ、前記第1の接地ドリフトチューブの下流に配置されたACドリフトチューブアセンブリ、及び前記ACドリフトチューブアセンブリの下流に配置された第2の接地ドリフトチューブを備えている、請求項14に記載の線形加速器。
【請求項19】
前記ACドリフトチューブアセンブリが、第1のACドリフトチューブ、及び前記第1のACドリフトチューブの下流の第2のACドリフトチューブを備え、前記共振器が、第1の端部で前記第1のACドリフトチューブに連結され、前記共振器が、第2の端部で前記第2のACドリフトチューブに連結されている、請求項18に記載の線形加速器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、概して、イオン注入装置に関し、より具体的には、高エネルギービームラインイオン注入装置に関する。
【背景技術】
【0002】
イオン注入は、衝突を介してドーパント又は不純物を基板に導入するプロセスである。イオン注入システムは、イオン源、及び一連のビームライン構成要素を備え得る。イオン源は、イオンが生成されるチャンバを備え得る。イオン源は、チャンバの近くに配置された電源及び抽出電極アセンブリをさらに備え得る。ビームライン構成要素は、例えば、質量分析器、第1の加速段又は減速段、コリメータ、及び第2の加速段又は減速段を含み得る。
【0003】
約1MeV以上のイオンエネルギーを生成可能な注入装置は、高エネルギーイオン注入装置、又は高エネルギーイオン注入システムと呼ばれることが多い。あるタイプの高エネルギーイオン注入装置は、線形加速器又はLINACと呼ばれるものを採用しており、LINACでは、一連の電極が、一連の「加速段」に沿ってイオンビームをますます高いエネルギーへと伝導かつ加速させる。RF-LINAC(別途明記されない限り、ここで使用するLINACという用語は、RF-LINACのことを指す)は、イオンビームが所定の加速段を伝導される際にイオンビームを加速させる数十メガヘルツの領域の高周波でAC電圧信号を受信する電極を使用する。既知の(RF)LINACは、LINACの様々な加速段に印加される13.56MHzから120MHzのRF電圧によって駆動される。加速段の数は、最大で12段に及ぶ場合がある。
【0004】
既知のイオン注入システムは、各加速段が共振器を含むRF-LINACを採用しており、当該共振器は、イオンビームのエネルギーの目標加速を達成するために、所定の電圧振幅でRF信号を駆動させるように加速電極に連結されている。このように、LINACを通過するイオンビームのイオンエネルギーは、最終的なターゲットエネルギーに達するまで、段階的に各加速段で増加する。所与の加速段は、加速電極及び接地電極を含み、加速電極及び接地電極は、中空の導電性「ドリフトチューブ」として配置され、ドリフトチューブ間の間隙によって分離されており、この間隙にわたってイオンビームの加速が行われる。
【0005】
不要なビーム拡散を避けるため、RF-LINACを使用する高エネルギーイオン注入装置は、LINACの各加速段と一体化された部分としてDC四重極構成要素(DC quadrupole component)を採用する。これらの四重極構成要素は、静電四重極(electrostatic quadrupole)又は磁性四重極(magnetic quadrupole)として配置されてもよい。
【0006】
高エネルギー注入システムのためにLINACに使用されるこれらの四重極構成要素では、高エネルギー物理学研究に使用される加速器の設計が利用されている。四重極を利用することにより、「電荷の静電的相互作用だけでは、点電荷の集合を安定した定常均衡構成に維持できない」というアーンショーの定理が部分的に取り組んでいた問題が対処される。四重極は、イオンビームが加速段を伝導される際にイオンビームが位相合わせした結果として径方向の脱集束(defocusing)を発生させる加速段のRF電極の傾向を、有利に弱める。
【0007】
周知の設計では、四重極構成要素は、所与の加速段の接地されたドリフトチューブの周囲に便宜的に配置され得る。ある設計では、2つの別々の四重極を加速段の両端に沿って配置することができ、他の設計では、段ごとに1つの四重極を使用することができる。しかしながら、既知のイオン注入装置のRF-LINACの加速段の設計は比較的複雑である。
【0008】
上記の観点から、イオン注入装置のRF-LINACの現在の構成をさらに改善することが有用である。
【0009】
本開示は、これらの検討事項及びその他の検討事項に関連して提供される。
【発明の概要】
【0010】
様々な実施形態は、新規なイオン注入装置に関する。
【0011】
一実施形態では、イオン注入システムは、第1のエネルギーでイオンビームを生成するように構成された、イオン源及び抽出システムと、イオン源の下流に配置された線形加速器とを備え、イオンビームを束状にされたイオンビームとして受け入れるように構成された線形加速器は、イオンビームを第1のエネルギーよりも大きい第2のエネルギーへ加速させ、線形加速器は、複数の加速段を備えている。このように、複数の加速段のうちの所与の加速段は、イオンビームを伝導するように構成されたドリフトチューブアセンブリと、ドリフトチューブアセンブリに電気的に連結された共振器と、共振器に連結され、共振器へRF信号を出力するように構成されたRF電力アセンブリをと含み得、所与の加速段は四重極要素を含まない。
【0012】
別の実施形態では、イオン注入装置を動作させる方法は、イオンビームを生成することと、イオンビームを束状にすることであって、イオンビームが、複数の束ねられたイオンパケットに変換させられる、イオンビームを束状にすることと、束ねられたイオンパケットを、線形加速器の複数の加速段を通して高イオンエネルギーへ加速させることとを含み得る。このように、加速させることは、複数の加速段のうちの少なくとも1つの段において、イオンビームに四重極電場を印加することなく、RF信号をドリフトチューブアセンブリに印加して、イオンビームを初期イオンエネルギーからより高いイオンエネルギーへ加速させることであって、イオンビームが、ドリフトチューブアセンブリによって集束される、イオンビームをより高いイオンエネルギーへ加速させることと、イオンエネルギーにおけるイオンビームを基板内に注入することとを含み得る。
【0013】
さらなる実施形態では、イオン注入システム内に設けられた線形加速器が提供される。線形加速器は、複数の加速段を含み得、複数の加速段のうちの少なくとも1つの加速段は、イオンビームを束状にされたイオンビームとして伝導するように構成されたドリフトチューブアセンブリを備えている。ドリフトチューブアセンブリは、トリプル間隙構成又はダブル間隙構成を含み得る。少なくとも1つの加速段は、ドリフトチューブアセンブリに電気的に連結された共振器をさらに含み得る。このように、線形加速器の少なくとも1つの加速段は、四重極要素を含まない。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1A】本開示の実施形態に係る、例示的な装置を示す。
図1B】基準装置を示す。
図1C】本開示の実施形態に係る、例示的なイオン注入システムを示す。
図1D】本開示の実施形態に係る、例示的な装置を示す。
図2A-2C】本開示の実施形態に係る、例示的な線形加速器の動作中の電気的挙動のシミュレーションを示す。
図3】線形加速器の例示的な加速段における集束機構を示す。
図4】例示的なプロセスのフローを示す。
【0015】
図面は、必ずしも縮尺どおりではない。図面は、単なる表現であり、本開示の特定のパラメータを表すことが意図されているわけではない。図面は、本開示の例示的な実施形態を示すことが意図されており、したがって、範囲を限定するものと見なすべきではない。図面では、同様の番号が同様の要素を表す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
ここで、本開示に係る装置、システム、及び方法を、システム及び方法の実施形態が示された添付の図面を参照しながら、以下により十分に説明する。システム及び方法は、多くの異なる形態で具現化されてよく、ここで提示された実施形態に限定されると解釈されるべきではない。その代わりに、これらの実施形態は、本開示が詳細かつ完全であり、システム及び方法の範囲を当業者に十分に伝えるように提供されている。
【0017】
図面に見られるような半導体製造デバイスの構成要素の形状寸法及び配向に対する、これらの構成要素及びその構成部品の相対的な配置及び配向を説明するために、ここでは、「上部」、「底部」、「上方」、「下方」、「垂直」、「水平」、「横方向」、及び「長手方向」などの用語が使用され得る。用語には、具体的に言及された単語、その派生語、及び同様の趣旨の単語が含まれ得る。
【0018】
ここでは、単数形で記載された、「1つ」又は「ある」(a、an)という文言に続く要素又は動作は、複数の要素又は動作も潜在的に含むものとして理解される。さらに、本開示の「一実施形態(one embodiment)」への言及は、記載された特徴も組み込む追加的な実施形態の存在を除外するものと解釈されることを意図しない。
【0019】
ここでは、改善された、ビームラインアーキテクチャに基づく高エネルギーイオン注入システム及び構成要素、具体的には、線形加速器に基づくイオン注入装置のためのアプローチを提供する。簡潔にするために、ここでは、イオン注入システムを「イオン注入装置」とも呼ぶこともある。様々な実施形態には、線形加速器の加速段の中で有効ドリフト長を柔軟に調整する能力を付与する新規なアプローチが伴っている。
【0020】
図1Aは、本開示の実施形態に係る線形加速器の概略図を示している。線形加速器10は、加速段20-A、及びRF電力アセンブリ40-Aを含む関連電気回路、並びに共振器22を含む。図1Aに示すように、線形加速器10は、加速段20-B...20-Nとして示される複数の加速段を含み得る。様々な実施形態では、線形加速器10の段のうちの1つ又は複数は、ここで詳述するように、加速段20-Aの構成要素を含み得る。
【0021】
線形加速器10の動作を説明するために、図1Cは、イオン注入装置100を示す。この注入器は、ビームラインイオン注入装置を表し得るが、説明を明確にするために、幾つかの要素が示されていない。イオン注入装置100は、当技術分野で知られているように、イオン源102、及びターミナル104内に配置されたガスボックス107を含み得る。イオン源102は、第1のエネルギーでイオンビーム106を生成するために、抽出構成要素及びフィルタ(図示せず)を含む抽出システムを含み得る。第1のイオンエネルギーの適切なイオンエネルギーの範囲は、例えば、5keVから100keVであるが、実施形態はこれに限定されない。高エネルギーイオンビームを形成するために、イオン注入装置100は、イオンビーム106を加速させるための様々な追加の構成要素を含む。
【0022】
図示のように、イオン注入装置100は、イオンビーム106の軌道を変化させることによって、既知の装置と同様にイオンビーム106を分析するよう機能する分析器110を含み得る。イオン注入装置100は、バンチャ112、及びバンチャ112の下流に配置された線形加速器10(破線ラインで示す)をさらに含み得る。ここで、線形加速器10は、イオンビーム106を加速させ、線形加速器10に入る前にイオンビーム106のイオンエネルギーよりも大きい高エネルギーイオンビーム115を形成するよう構成されている。なお、異なる構成では、バンチャ112は、線形加速器の一部とみなされることもあれば、線形加速器とは別の要素とみなされることもある。周知のように、バンチャ112のようなバンチャは、イオンビームを連続的なイオンビームとして受け取り、イオンビームを束状にされたイオンビーム(つまり、空間と時間において分離された複数の又は一連の離散的なイオンパケット)として出力するように機能する。加速段と同様に、バンチャは、イオンビームに高周波信号を印加することができ、その結果、最初は連続的だったイオンビームが束状にされる。別途明記されない限り、本明細書に記載された線形加速器の「加速段」は、既に束状にされたイオンビームを処理し、加速させる。
【0023】
図1Aに関しても述べたように、線形加速器10は、図示のように、直列に配置された複数の加速段(20-Aから20-N)を含み得る。様々な実施形態では、高エネルギーイオンビーム115のイオンエネルギーは、イオンビーム106の最終イオンエネルギー、又はほぼ最終のイオンエネルギーを表し得る。様々な実施形態では、イオン注入装置100は、フィルタ磁石116、スキャナ118、コリメータ120などの追加的な構成要素を含み得る。スキャナ118やコリメータ120の一般的な機能は周知であり、ここではさらに詳細に説明しない。このようにして、高エネルギーイオンビーム115によって表される高エネルギーイオンビームは、基板124を処理するための最終ステーション122に供給され得る。高エネルギーイオンビーム115の非限定的なエネルギー範囲は、500keV-10MeVを含み、イオンビーム106のイオンエネルギーは、線形加速器10の種々の加速段階を通して段階的に増加する。
【0024】
図1Aに戻ると、2つの加速段の詳細が示されており、加速段20-A及び加速段20-Bは、トリプル間隙電極アセンブリとして構成されている。ここで使用する「トリプル間隙」という用語は、所与の加速段階内の電極間に3つの間隙が存在することを意味し得る。例えば、加速段20-A及び加速段20-Bでは、電極アセンブリは、第1の接地ドリフトチューブ34、ACドリフトチューブアセンブリ(第1のACドリフトチューブ電極30及び第2のACドリフトチューブ電極32を含む)、及び第2の接地ドリフトチューブ36を含む。この電極のアセンブリは、すべて中空の導電性シリンダとして構成され、そこをイオンビーム106が伝導される。本開示の様々な実施形態によれば、イオンビーム106は、束状にされたイオンビームとして所与の加速段で受け取られ得る。つまり、これは、イオンビーム106が、互いに分離した複数のパケットとして受け取られることを意味する。したがって、イオンビーム106の種々のイオンパケットは、種々の時間で加速段20-Aに到達し、それに応じて加速され、順に加速段20-Aを通して伝導される。
【0025】
図1Aに示すように、RF電力アセンブリ40-Aは、共振器22に電気的に連結され、共振器22内でRF電圧信号を駆動させる。例えば、共振器22を高周波昇圧変圧器として構成し、10kVから100kV又は他の高電圧などの高電圧振幅を有するRF電圧信号を出力することができる。線形加速器10の他の加速段に類似の共振器が含まれることがあり、幾つかの実施形態では、専用のRF電力アセンブリに個々に連結されてもよい。ここでは、加速段20-Bに対してRF電力アセンブリ40-Bが示されている。共振器22は、第1のACドリフトチューブ電極30に連結された第1の出力端、及び第2のACドリフトチューブ電極32に連結された第2の出力端を有する。共振器22にRF信号を送信すると、共振器22は、RF電圧の周波数及び共振器22の構成に応じて、共振し得る。より詳細には、共振器22は、第1の固有モード(Eigenmode)周波数に対応する基本(共振)周波数を示し、第2の交流ドリフトチューブ電極32への電圧信号出力から概ね180度シフトした電圧信号を第1のACドリフトチューブ電極30へ出力する。このようにして、イオンビーム106は、加速段20-Aの様々な電極間の間隙にわたって加速させられる。
【0026】
ここで図1Bに戻ると、基準線形加速器50が示されており、この加速器は、線形加速器50のように複数の加速段を有し得る。これらの加速段は、2つの加速段、加速段60-A及び加速段60-Bによって表される。加速段60-Aは、幾らか詳細に示され、図1Aに関して上述したトリプル間隙電極アセンブリとして構成されている。加速段20-Aとの相違点としては、第1の接地ドリフトチューブ54及び第2の接地ドリフトチューブ56が、加速段20-Aにおいて対応する接地ドリフトチューブよりも長い場合があることである。
【0027】
基準線形加速器50は、イオン注入装置の既知の線形加速器の幾つかの構成要素を示している。周知のように、イオン注入装置は、幾つかの種を挙げると、水素、ヘリウム、酸素、ホウ素、炭素、リン、ヒ素などの元素又は分子に基づくイオン種を処理する。
【0028】
イオンビーム106を適切に加速かつ伝導するために、基準線形加速器50は、共振器22の他に、四重極要素62及び四重極要素64を含む。これらの四重極要素は、静電四重極又は磁性四重極であってもよい。四重極要素62及び四重極要素64は、イオンビーム166を集束させるように作用し、したがって、イオンビームが加速段60-Aを通して加速するときに、電流及びエネルギーの過度の損失を防止し得る。基準線形加速器50の加速段60-B及び他の加速段も同様の四重極要素を含む。ビームの良好な伝送を維持するためには、集束が必要である。なぜなら、束の中の正イオンの相互反発により、力(「空間電荷力」)が発せられることになり、この力は、監査されないまま放置されると、ビームを横方向かつ縦方向に広げ、最終的にはイオンが、側壁に衝突したり、加速に適した位相関係から外れたりする。
【0029】
図1Bに示す加速段の一般的な構成は、線形加速器に基づくイオン注入装置において普遍的に使用されるが、本発明者は、イオンビームの適切な加速及び集束を、図1Aの加速段20-Aに概して示される四重極要素が存在しないドリフトチューブアセンブリを用いて達成できることを見出した。線形加速器のACドリフトチューブのようなRF加速構造では、位相集束の結果として径方向の脱集束が発生するため、所定の加速段には四重極要素のような集束構造が必要であるという考えが一般に受け入れられている。しかし、本発明者によるモデリングでは、四重極が存在しないRF線形加速器でも適切な集束を依然として達成できることが示された。
【0030】
図2Aから2Cでは、本開示の実施形態に係る、例示的な線形加速器の動作中の電気的挙動のシミュレーションが示される。特に、これらの図は、実行された様々な計算の結果として出力された、二重荷電リン酸イオンを用いたイオン軌道追跡プログラムを表す。イオンは、540keVの初期エネルギーで図の左側に入射するようにモデリングされ、最大電圧振幅80kVのトリプル間隙加速器(加速電極の位置をX軸の中央に示す)で加速させられ、イオンが加速するにつれて、900keVのエネルギーに到達する。図2Aは、電極上の電位の大きさ(左軸)及びイオンのエネルギー(右軸)を示している。図2Bは、軸に対するイオンのX及びYの位置を示すが、図2Cは、シミュレーションでのイオンの位置におけるRF電圧の位相を示す。この結果によると、二重電荷リン酸イオンは平均的にビームラインの中央に向かって集束しているが、図2Cでは、特にイオンの位相が入口よりも出口でより収束していることが示されている。なお、簡素化のために、これらのシミュレーションでは空間電荷力が含まれておらず、実際のプラクティスでは、イオンビームがx、y、又はφにおける点に収束することはない。しかし、電圧の位相を注意深く調整することで、集束力が空間電荷力に対して平衡し、各加速段で小さな平行ビーム入出力が達成され、ビームラインに沿った良好なビーム伝送が可能になる。
【0031】
上述の実施形態では、トリプル間隙構成を有する加速段に焦点が当てられたが、さらなる実施形態では、四重極要素を有さないダブル間隙加速段が設けられる。図1Dを参照すると、線形加速器70が示されており、2つの加速段の詳細が示されている。加速段80-A及び加速段80-Bは、ダブル間隙電極アセンブリとして構成されている。ここで使用する「ダブル間隙」という用語は、所与の加速段内の電極間に2つの間隙が存在することを意味し得る。例えば、加速段80-A及び加速段80-Bでは、電極アセンブリは、第1の接地ドリフトチューブ74、たった1つのACドリフトチューブ電極72、及び第2の接地ドリフトチューブ76を含む。トリプル間隙構成を有する加速段と同様に、線形加速器70の1つ又は複数の加速段は、四重極要素がないように構成されてもよく、それでもイオンビームを加速かつ集束させることができる。
【0032】
上記の結果を考慮すると、加速器内の各加速段間に四重極を使用しないイオン注入装置のための線形加速器は、イオンビームの加速及び集束を効果的に行い得る。上記の結果はリンについて説明したものであるが、これらの結果を、イオン注入装置で一般的に使用されるイオンを含め、広範囲の質量/電荷比に容易に適用することが可能である。
【0033】
特定の理論に限定されることなく、四重極要素を使用せずにRF LINAC加速電極アセンブリを通して伝導されるイオンの適切な収束を達成する能力は、イオン注入装置で使用される粒子が、比較的重く、わずか数MeVまで加速されるという事実に由来し得る。このため、イオン注入装置で一般的に使用される、質量が比較的高くかつエネルギーが比較的低いイオンは、光速の何分の1かの速度(例えば、0.1c未満)しか達成できない。イオン注入装置LINACにおける四重極の一般的な採用は、高エネルギー物理研究に使用される加速器に採用された、先に開発された線形加速器技術に基づいて予測されている。これらのシステムは、ほとんどの場合、光速に極めて近い速度で移動する粒子(陽子や電子)を扱っている。こうした高エネルギーでは、すべての粒子は、実質的に光速
で移動するため、ビームラインのどの所与の長さでも経過する時間が等しい。このため、結果的に加速間隙において正味の集束(focusing)や脱集束(defocusing)が発生せず、常に存在する空間電荷力を弱めるために四重極が必要となる。図3を参照すれば理解できるように、半導体製造に使用される比較的遅いイオンビームの状況は異なっている。この図は、加速段300における単一の加速間隙の詳細を示す。ここに示されるように、電源302が、断面で示される一対の円筒形電極(304、306)間に電圧差を発生させる。ここでは、加速電場の等電位曲線308の形状が示されており、等電位曲線308がどのように管状電極(第1電極404及び第2電極306)の内側に向かって膨張するかが示されている。この膨張は、ラプラス方程式
の直接的な結果であり、この方程式により、真空中の一組の導体によって確立される等電位の形状が付与される。図示されているように、間隙の前半分の膨張は、軸から外れたイオンビーム310の粒子に対して軸に向かわせる力(集束力)を発し、間隙の後半分の対称的な膨張は、軸から離なす力(脱集束力)を発する。等速(β≧0.9)を仮定すると、各半分部分での経過時間は同じであり、正味の集束又は脱集束は発生しない。しかし、半導体工具の条件下では、β≦0.5の場合、速度の増加が著しく、イオンは、間隙の後半分の脱集束場に滞在する時間が短くなり、正味の集束が発生する。したがって、こうした場合、加速構造の各段に関連する四重極がない状態でビームラインを発生させ、加速構造の構成要素(つまり、所与の加速段の加速電極)から発生する集束で空間電荷力を弱めることが可能である。
【0034】
線形加速器段から四重極要素を取り外した結果、ドリフトチューブアセンブリが再構成されることがある。特に、既知のイオン注入装置線形加速器では、四重極要素は、接地されたドリフトチューブの位置に(例えば、接地されたドリフトチューブを囲むように)配置される。接地したドリフトチューブは、四重極要素を支持するように、この位置で伸長する傾向がある。四重極要素を取り外したことにより、接地されたドリフトチューブを他の考慮事項に応じてサイズ決定してもよく、特に、接地されたドリフトチューブの長さをよりコンパクトな構成に短縮してもよい。ここで、ドリフトチューブ長(L)の値は、ドリフトチューブ径(D)に基づいており、L/Dは2未満であり、場合によっては、1.5であってもよい。図1A図1Bを比較することによって、結果として比較的短くなったドリフトチューブアセンブリの長さが示される。
【0035】
このように、このよりコンパクトな構成には、回転共振器設計が伴う場合があり、第1の加速段に連結された第1の共振器は、第1の加速段に隣接する第2の加速段に連結された第2の共振器に対して回転させられる。加速段の長さを短縮する能力を制限しないように、ビームラインに沿った共振器をよりコンパクトな配置を達成するために、この回転共振器設計を使用することができる。
【0036】
イオン注入装置の幾つかの実施形態では、線形加速器のあらゆる加速段を、いかなる四重極要素なしに構成することができる。イオン注入装置の他の実施形態では、1つ又は複数の加速段(例えば、2つの加速段、3つの加速段、5つの加速段、10個の加速段等)が、四重極要素を含み得るが、1つ又は複数の加速段は四重極要素を含まない。加速段の集束効果は、相対的な速度変化に応じて変動するため、この集束効果は、相対的な速度変化が最も大きいLINACの初期(上流)段で最も強くなる。一方、定常的な集束を必要とさせる空間電荷力は、比較的低い速度で最も強いので、種々の集束構造の潜在的な利点と、1つ又は複数の段における四重極の選択的配置とは、本開示の種々の実施形態に従って、ケースバイケースで実現し得る。
【0037】
図3は、例示的なプロセスフロー300を示す。ブロック302では、イオンビームが生成される。イオンビームは、任意の適切なイオンを含み得、ビームラインイオン注入装置で生成され得る。ブロック304では、イオンビームは、連続イオンビームから束状にされたイオンビームへ変換され、イオンビームは、一連の離散的なイオンパケットで伝搬される。ブロック306では、束状にされたイオンビームは、線形加速器の複数の加速段を通して伝導される。ブロック308では、四重極電場を印加することなく、RF電圧が、複数の加速段のうちの少なくとも1つの加速段に印加され、イオンビームが加速段によって集束される。
【0038】
上記に鑑みて、ここに開示される実施形態によって、少なくとも以下の利点が達成される。四重極要素を用いずに、RF加速電圧を用いて、束状にされたイオンビームを加速するアプローチを提供することにより、本実施形態は、四重極要素に関連する複雑さとコストを回避するという利点をもたらす。本実施形態によって提供されるさらなる利点は、必要以上に長くなるようにドリフトチューブを制約し得る四重極要素を除去することによって、全体的に加速段及び線形加速器の長さを短縮することができることである。
【0039】
本開示の特定の実施形態がここに記載されてきたが、本開示は、当該技術分野が許容する限り範囲が広く、明細書も同様に読解できるため、本開示はこれらに限定されない。したがって、上記の説明は、限定として解釈されるべきではない。当業者は、本明細書に添付された特許請求の範囲及び思想の範囲内での他の変更を想定するであろう。
図1A
図1B
図1C
図1D
図2A-2C】
図3
図4
【手続補正書】
【提出日】2024-09-12
【手続補正1】
【補正対象書類名】特許請求の範囲
【補正対象項目名】全文
【補正方法】変更
【補正の内容】
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のエネルギーでイオンビームを生成するように構成された、イオン源及び抽出システム、並びに
前記イオン源の下流に配置された線形加速器であって、前記イオンビームを束状にされたイオンビームとして受け入れるように構成された当該線形加速器が、前記イオンビームを前記第1のエネルギーよりも大きい第2のエネルギーへ加速させ、当該線形加速器が、複数の加速段を備え、前記複数の加速段のうちの所与の加速段が、
前記イオンビームを伝導するように構成されたドリフトチューブアセンブリと、
前記ドリフトチューブアセンブリに電気的に連結された共振器と、
前記共振器に連結され、前記共振器へRF信号を出力するように構成されたRF電力アセンブリと
を備え、前記所与の加速段が四重極要素を含まない、線形加速器
を備えているイオン注入システム。
【外国語明細書】