IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 東京応化工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017054
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】硬化性組成物
(51)【国際特許分類】
   C08F 2/50 20060101AFI20240201BHJP
   C08G 75/045 20160101ALI20240201BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20240201BHJP
   C09D 7/63 20180101ALI20240201BHJP
   C09D 4/00 20060101ALI20240201BHJP
   B41M 5/00 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
C08F2/50
C08G75/045
C09D5/00 Z
C09D7/63
C09D4/00
B41M5/00 120
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119432
(22)【出願日】2022-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000220239
【氏名又は名称】東京応化工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【弁理士】
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【弁理士】
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】平野 勲
(72)【発明者】
【氏名】青山 洋平
【テーマコード(参考)】
2H186
4J011
4J030
4J038
【Fターム(参考)】
2H186AB11
2H186AB12
2H186AB23
2H186BA08
2H186DA18
2H186FB04
2H186FB34
2H186FB37
2H186FB38
2H186FB44
2H186FB46
4J011QA19
4J011QA39
4J011SA02
4J011SA03
4J011SA14
4J011SA15
4J011SA16
4J011SA20
4J011SA78
4J011SA79
4J011SA83
4J011SA84
4J011SA87
4J011UA01
4J011VA01
4J011WA02
4J030BA04
4J030BA42
4J030BA47
4J030BA48
4J030BB07
4J030BC43
4J030BG09
4J038FA021
4J038JC02
4J038KA03
4J038KA06
4J038PA17
(57)【要約】
【課題】良好に硬化し、且つインクジェット塗布による成膜性も良好である硬化性組成物と、当該硬化性組成物の硬化物と、前述の硬化性組成物を用いる硬化膜の形成方法とを提供すること。
【解決手段】硬化性組成物に、多官能ビニルエーテル化合物(A)と、多官能チオール化合物(B)と、硬化剤(C)と、光増感剤(D)と、安定剤(E)とを含有させ、硬化剤(C)として、光ラジカル重合開始剤(C1)と、光酸発生剤(C2)とを用い、光増感剤(D)として、カルバゾール化合物を用い、安定剤(E)として、イミダゾール化合物を用いる。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
多官能ビニルエーテル化合物(A)と、多官能チオール化合物(B)と、硬化剤(C)と、光増感剤(D)と、安定剤(E)とを含み、
前記硬化剤(C)が、光ラジカル重合開始剤(C1)と、光酸発生剤(C2)とを含み、
光増感剤(D)が、カルバゾール化合物を含み、
安定剤(E)が、イミダゾール化合物を含む、硬化性組成物。
【請求項2】
前記光酸発生剤(C2)が、ジアゾメタン化合物を含む、請求項1に記載の硬化性組成物。
【請求項3】
前記硬化性組成物が、溶媒(S)を含むか、又は含まず、
前記硬化性組成物の質量に対する、前記溶媒(S)の質量の比率が、0質量%以上5質量%以下である、請求項1又は2に記載の硬化性組成物。
【請求項4】
前記カルバゾール化合物が、カルバゾール、又はN-アルキルカルバゾールである、請求項1又は2に記載の硬化性組成物。
【請求項5】
前記イミダゾール化合物が、1以上のラジカル重合性基を有する、請求項1又は2に記載の硬化性組成物。
【請求項6】
調製後の前記硬化性組成物の20℃においてE型粘度計で測定される初期粘度と、前記硬化性組成物の調製後に、20℃で2週間保管された前記硬化性組成物の、20℃においてE型粘度計で測定された保管後粘度との差の絶対値が、5cP以下である、請求項1又は2に記載の硬化性組成物。
【請求項7】
請求項1又は2に記載の硬化性組成物の硬化物。
【請求項8】
請求項1又は2に記載の硬化性組成物を基板上に塗布して塗布膜を形成することと、
前記塗布膜を露光することと、
露光された塗布膜を加熱することと、を含む硬化膜の形成方法。
【請求項9】
前記硬化性組成物を、インクジェット法により、前記基板上に塗布する、請求項8に記載の硬化膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性組成物と、当該硬化性組成物の硬化物と、前述の硬化性組成物を用いる硬化膜の形成方法とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、樹脂板、ガラス板、金属板等の表面保護の目的で、これらの材料の表面にコーティング層が設けられている。このようなコーティング層を形成するための、硬化性組成物について種々の検討がなされている。
【0003】
例えば、光ディスクの記録膜を保護するためのコーティング層を形成するために、インクジェット印刷法に適用可能な、カチオン重合性物質と光カチオン重合開始剤とを含有する紫外線硬化性樹脂組成物が提案されている(特許文献1を参照)。特許文献1に記載の紫外線硬化性樹脂組成物用いると、インクジェット法で形成した塗膜を紫外線で露光することにより、少量の紫外線硬化性樹脂組成物を用いて良好に硬化したコーティング層を形成できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平09-183928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、カチオン重合性物質と光カチオン重合開始剤とを含有する硬化性組成物は、長期間保管した場合に増粘する場合がある。つまり、カチオン重合性物質と光カチオン重合開始剤とを含有する硬化性組成物の保存安定性は必ずしも良好ではない。
【0006】
本発明は、上記の課題に鑑みなされたものであって、良好に硬化し、且つインクジェット塗布による成膜性も良好である硬化性組成物と、当該硬化性組成物の硬化物と、前述の硬化性組成物を用いる硬化膜の形成方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、硬化性組成物に、多官能ビニルエーテル化合物(A)と、多官能チオール化合物(B)と、硬化剤(C)と、光増感剤(D)と、安定剤(E)とを含有させ、硬化剤(C)として、光ラジカル重合開始剤(C1)と、光酸発生剤(C2)とを用い、光増感剤(D)として、カルバゾール化合物を用い、安定剤(E)として、イミダゾール化合物を用いることにより上記の課題を解決できることを見出し、本発明を完成するに至った。より具体的には、本発明は以下のものを提供する。
【0008】
本発明の第1の態様は、多官能ビニルエーテル化合物(A)と、多官能チオール化合物(B)と、硬化剤(C)と、光増感剤(D)と、安定剤(E)とを含み、
硬化剤(C)が、光ラジカル重合開始剤(C1)と、光酸発生剤(C2)とを含み、
光増感剤(D)が、カルバゾール化合物を含み、
安定剤(E)が、イミダゾール化合物を含む、硬化性組成物である。
【0009】
本発明の第2の態様は、第1の態様にかかる硬化性組成物の硬化物である。
【0010】
本発明の第3の態様は、第1の態様にかかる硬化性組成物を基板上に塗布して塗布膜を形成することと、
塗布膜を露光することと、
露光された塗布膜を加熱することと、を含む硬化膜の形成方法である。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、良好に硬化し、且つインクジェット塗布による成膜性も良好である硬化性組成物と、当該硬化性組成物の硬化物と、前述の硬化性組成物を用いる硬化膜の形成方法とを提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
≪硬化性組成物≫
硬化性組成物は、多官能ビニルエーテル化合物(A)と、多官能チオール化合物(B)と、硬化剤(C)と、光増感剤(D)と、安定剤(E)とを含む。
硬化剤(C)は、光ラジカル重合開始剤(C1)と、光酸発生剤(C2)とを含む。
光増感剤(D)は、カルバゾール化合物を含む。
安定剤(E)は、イミダゾール化合物を含む。
上記の硬化性組成物は、良好に硬化し、且つインクジェット塗布による成膜性も良好である。
以下、硬化性組成物が含む、必須、又は任意の成分について説明する。
【0013】
<多官能ビニルエーテル化合物(A)>
硬化性組成物は、硬化性化合物として、多官能ビニルエーテル化合物(A)を含む。
感光性組成物が露光された際に、光ラジカル重合開始剤(C1)がラジカルを発生させることで、多官能ビニルエーテル化合物(A)との、多官能チオール化合物(B)との間のチオールエン反応が生じる。
また、感光性組成物が露光された場合、光酸発生剤(C2)が発生させる酸の作用で、多官能ビニルエーテル(A)のカチオン重合が進行する。
上記の反応により、硬化性組成物が良好に硬化する。
【0014】
多官能ビニルエーテル化合物(A)は、2以上のビニルオキシ基を有する化合物である。
ビニルオキシ基が結合する母核である2価以上の有機基は、炭化水素基であってもよく、ヘテロ原子を含む有機基であってもよい。ヘテロ原子としては、O、S、N、P、ハロゲン原子等が挙げられる。
【0015】
多官能ビニルエーテル化合物(A)においてビニルオキシ基が結合する母核としての2価以上の有機基は、化学的に安定であることや、硬化性組成物中での溶解性が良好であることから、炭化水素基であるのが好ましい。当該炭化水素基は、脂肪族炭化水素基であっても、芳香族炭化水素基であっても、脂肪族炭化水素基と芳香族炭化水素基との組み合わせであってもよく、脂肪族炭化水素基が好ましい。
【0016】
多官能ビニルエーテル化合物(A)においてビニルオキシ基が結合する母核としての2価以上の有機基が炭化水素基である場合、当該炭化水素基の炭素原子数は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。
当該炭化水素基の炭素原子数は、例えば、1以上40以下が好ましく、2以上20以下がより好ましく、2以上10以下がさらに好ましい。
【0017】
多官能ビニルエーテル化合物(A)が有するビニルオキシ基の数は特に限定されない。ビニルオキシ基の数は、1分子中に、2以上6以下が好ましく、2以上4以下がより好ましく、2又は3が特に好ましい。
【0018】
多官能ビニルエーテル化合物(A)の具体例としては、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、ポリエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、トリプロピレングリコールジビニルエーテル、ポリプロピレングリコールジビニルエーテル、1,3-プロパンジオールジビニルエーテル、1,4-ブタンジオールジビニルエーテル1,5-ペンタンジオールジビニルエーテル、1,6-ヘキサンジオールジビニルエーテル、1,8-オクタンジオールジビニルエーテル、1,10-デカンジオールジビニルエーテル、ネオペンチルグリコールジビニルエーテル、トリメチロールプロパンジビニルエーテル、ペンタエリスリトールジビニルエーテル等の鎖状脂肪族ジビニルエーテル;1,4-シクロヘキサンジオールジビニルエーテル、1,4-シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル(CHDVE)、及び2-ビニルオキシ-5-(ビニルオキシメチル)-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプタン等の環状脂肪族ジビニルエーテル;1,4-ジビニロキシベンゼン、1,3-ジビニロキシベンゼン、1,2-ジビニロキシベンゼン、1,4-ジビニロキシナフタレン、1,3-ジビニロキシナフタレン、1,2-ジビニロキシナフタレン、1,5-ジビニロキシナフタレン、1,6-ジビニロキシナフタレン、1,7-ジビニロキシナフタレン、1,8-ジビニロキシナフタレン、2,3-ジビニロキシナフタレン、2,6-ジビニロキシナフタレン、2,7-ジビニロキシナフタレン、4,4’-ジビニロキシビフェニル、3,3’-ジビニロキシビフェニル、2,2’-ジビニロキシビフェニル、3,4’-ジビニロキシビフェニル、2,3’-ジビニロキシビフェニル、2,4’-ジビニロキシビフェニル、ビスフェノールAジビニルエーテル、1,4-ベンゼンジメタノールジビニルエーテル、1,3-ベンゼンジメタノールジビニルエーテル、1,2-ベンゼンジメタノールジビニルエーテル、及びナフタレン-1,4-ビスメタノールジビニルエーテル等の芳香族ジビニルエーテル;トリメチロールプロパントリビニルエーテル、ペンタエリスリトールテトラビニルエーテル、ソルビトールテトラビニルエーテル、ソルビトールペンタビニルエーテル、ジペンタエリスリトールペンタビニルエーテル、及びジペンタエリスリトールヘキサビニルエーテル等の3価以上の多価ビニルエーテルが挙げられる。
【0019】
硬化性に優れることや、種々の機械的特性、透明性等の光学特性、耐薬品性ならびに耐熱性に優れる硬化物を形成しやすいことから、上記の多官能ビニルエーテル化合物(A)の中では、1,4-シクロヘキサンジオールジビニルエーテル、1,4-シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル(CHDVE)、及び2-ビニルオキシ-5-(ビニルオキシメチル)-7-オキサビシクロ[2.2.1]ヘプタン等の環状脂肪族ジビニルエーテルが好ましく、1,4-シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル(CHDVE)がより好ましい。
環状脂肪族ジビニルエーテルは、脂環式を有し、芳香族基を有さない脂肪族ジビニルエーテル化合物である。
【0020】
硬化性組成物における、多官能ジビニルエーテル化合物(A)の使用量は、所望する効果が損なわれない範囲で特に限定されない。
硬化性組成物の硬化性の点で、多官能ジビニルエーテル化合物(A)の使用量は、多官能ジビニルエーテル化合物(A)の質量と、多官能チオール化合物(B)の質量との合計に対して、50質量%以上99質量%以下が好ましく、70質量%以上98質量%以下がより好ましく、80質量%以上95質量%以下がさらに好ましい。
硬化性組成物の質量に対する、多官能ジビニルエーテル化合物(A)の質量と、多官能チオール化合物(B)の質量との合計の比率は、50質量%以上99質量%以下が好ましく、70質量%以上98質量%以下がより好ましく、80質量%以上95質量%以下がさらに好ましい。
【0021】
<多官能チオール化合物(B)>
硬化性樹脂組成物は、多官能チオール化合物(B)を含む。
多官能チオール化合物(B)が有するメルカプト基の数は、2以上であり、2以上10以下が好ましく、2以上6以下がより好ましい。
【0022】
多官能チオール化合物(B)の具体例としては、1,2-ベンゼンジチオール、1,3-ベンゼンジチオール、1,4-ベンゼンジチオール、1,2-ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,3-ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,4-ビス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,2-ビス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,3-ビス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,4-ビス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,2,3-トリメルカプトベンゼン、1,2,4-トリメルカプトベンゼン、1,3,5-トリメルカプトベンゼン、1,2,3-トリス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,2,4-トリス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,3,5-トリス(メルカプトメチル)ベンゼン、1,2,3-トリス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,2,4-トリス(メルカプトエチル)ベンゼン、1,3,5-トリス(メルカプトエチル)ベンゼン、2,5-トルエンジチオール、3,4-トルエンジチオール、1,3-ジ(p-メトキシフェニル)プロパン-2,2-ジチオール、1,3-ジフェニルプロパン-2,2-ジチオール、フェニルメタン-1,1-ジチオール、2,4-ジ(p-メルカプトフェニル)ペンタン、1,2-ビス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,3-ビス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,4-ビス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,2,3-トリス(メルカプトメチルチオ)ベンゼン、1,2,4-トリス(メルカプトメチルチオ)ベンゼン、1,3,5-トリス(メルカプトメチルチオ)ベンゼン、1,2,3-トリス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、1,2,4-トリス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン、及び1,3,5-トリス(メルカプトエチルチオ)ベンゼン等が挙げられる。
【0023】
また、多官能チオール化合物(B)としては、入手又は合成が容易である点や、硬化性組成物中での溶解安定性の点等から、2以上の水酸基を有するポリオールのメルカプトアルカノエートが好ましい。
2以上の水酸基を有するポリオールのメルカプトアルカノエートは、水酸基を有していてもよいが、水酸基を有していないのが好ましい。
【0024】
メルカプトアルカノエートを与えるメルカプトアルカン酸の炭素原子数は特に限定されないが、2以上6以下が好ましく、3又は4が好ましい。メルカプトアルカノエートを与えるメルカプトアルカン酸の具体例としては、チオグリコール酸、2-メルカプトプロピオン酸、3-メルカプトプロピオン酸、2-メルカプトブタン酸、3-メルカプトブタン酸、4-メルカプトブタン酸、2-メルカプトペンタン酸、3-メルカプトペンタン酸、4-メルカプトペンタン酸、5-メルカプトペンタン酸、2-メルカプトヘキサン酸、3-メルカプトヘキサン酸、4-メルカプトヘキサン酸、及び5-メルカプトヘキサン酸が挙げられる。
これらの中では、2-メルカプトプロピオン酸、及び3-メルカプトブタン酸が好ましい。
【0025】
メルカプトアルカノエートを与えるポリオールは、芳香族基を含んでいてもよい。
芳香族基を含まないポリオールとしては、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,7-ヘプタンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラプロピレングリコール、1,4-シクロヘキサンジオール、1,3-シクロヘキサンジオール、1,2-シクロヘキサンジオール、1,4-シクロヘキサンジメタノール、水素化ビスフェノールA、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、ソルビトール、マンニトール、ソルビタン、ショ糖、グルコース、マンノース、メチルグルコシド、及びトリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸等が挙げられる。
芳香族ポリオールとしては、ハイドロキノン、レゾルシノール、及びカテコール等のベンゼンジオール;フロログルシノール、ピロガロール、及び1,2,4-ベンゼントリオール等のベンゼントリオール;1,2-ナフタレンジオール、1,3-ナフタレンジオール、1,4-ナフタレンジオール、1,5-ナフタレンジオール、1,6-ナフタレンジオール、1,7-ナフタレンジオール、1,5-ナフタレンジオール、2,3-ナフタレンジオール、2,6-ナフタレンジオール、及び2,7-ナフタレンジオール等のナフタレンジオール;1,4,5-ナフタレントリオール、1,2,4-ナフタレントリオール、1,3,8-ナフタレントリオール、及び1,2,7-ナフタレントリオール等のナフタレントリオール;ビスフェノールA、ビスフェノールAP、ビスフェノールAF、ビスフェノールB、ビスフェノールBP、ビスフェノールC、ビスフェノールE、ビスフェノールF、ビスフェノールS、及びビスフェノールZ等のビスフェノール類;3,3’,4,4’-テトラヒドロキシビフェニル、及び3,3’,5,5’-テトラヒドロキシビフェニル等のテトラヒドロキシビフェニル;カリックスアレーン;フェノールノボラック、クレゾールノボラック、及びナフトールノボラック等のノボラック樹脂が挙げられる。
【0026】
上記のポリオールの中では、エチレングリコール、1,3-プロパンジオール、プロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、及びトリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸が好ましく、1,4-ブタンジオール、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、及びトリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸がより好ましい。
【0027】
以上説明したポリオールのメルカプトアルカノエートとしては、1,4-ブタンジオールジ(2-メルカプトプロピオネート)、1,4-ブタンジオールジ(3-メルカプトブタノエート)、トリメチロールエタントリ(2-メルカプトプロピオネート)、トリメチロールエタントリ(3-メルカプトブタノエート)、トリメチロールプロパントリ(2-メルカプトプロピオネート)、トリメチロールプロパントリ(3-メルカプトブタノエート)、ペンタエリスリトールテトラ(2-メルカプトプロピオネート)、ペンタエリスリトールテトラ(3-メルカプトブタノエート)、トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸トリ(2-メルカプトプロピオネート)、及びトリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸トリ(3-メルカプトブタノエート)が好ましく、1,4-ブタンジオールジ(3-メルカプトブタノエート)、トリメチロールエタントリ(3-メルカプトブタノエート)、トリメチロールプロパントリ(3-メルカプトブタノエート)、ペンタエリスリトールテトラ(3-メルカプトブタノエート)及びトリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌル酸トリ(3-メルカプトブタノエート)がより好ましい。
【0028】
多官能チオール化合物(B)の使用量は、硬化性組成物の硬化性の点で、多官能ジビニルエーテル化合物(A)の質量と、多官能チオール化合物(B)の質量との合計に対して、1質量%以上50質量%以下が好ましく、2質量%以上30質量%以下がより好ましく、5質量%以上20質量%以下がさらに好ましい。
【0029】
<硬化剤(C)>
硬化剤(C)は、露光により、多官能ビニルエーテル化合物(A)と、多官能チオール化合物(B)と反応させて、硬化性組成物を硬化させる成分である。
硬化剤(C)は、光ラジカル重合開始剤(C1)と、光酸発生剤(C2)とを含む。
以下、光ラジカル重合開始剤(C1)と、光酸発生剤(C2)とについて説明する。
【0030】
〔光ラジカル重合開始剤(C1)〕
光ラジカル重合開始剤(C1)は、従来より、ラジカル重合性化合物の光ラジカル重要の開始剤として用いられている種々の化合物を特に限定なく用いることができる。
【0031】
光ラジカル重合開始剤(C1)の具体例としては、Omnirad 651、Omnirad 184、Omnirad 1173、Omnirad 2959、Omnirad 127、Omnirad 907、Omnirad 369、Omnirad 369E、Omnirad 379EG(いずれもIGM Resins B.V.製)等のアルキルフェノン系光重合開始剤、Omnirad TPO H、Omnirad 819(いずれもIGM Resins B.V.製)等のアシルフォスフィンオキサイド系光重合開始剤や、Irgacure OXE01、Irgacure OXE02(いずれもBASF社製)等のオキシムエステル系光重合開始剤が挙げられる。
これらの中では、多官能ビニルエーテル化合物(A)や、多官能チオール化合物との相溶性の点で、アルキルフェノン系光重合開始剤が好ましく、Omnirad 651(2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン)がより好ましい。
【0032】
光ラジカル重合開始剤(C1)の具体例としては、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、1-〔4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル〕-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、1-(4-ドデシルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、ビス(4-ジメチルアミノフェニル)ケトン、2-メチル-1-〔4-(メチルチオ)フェニル〕-2-モルフォリノプロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-ブタン-1-オン、1,2-オクタンジオン,1-[4-(フェニルチオ)フェニル]-,2-(O-ベンゾイルオキシム)(Irgacure OXE01)、エタノン-1-[9-エチル-6-(2-メチルベンゾイル)-9H-カルバゾル-3-イル]-1-(O-アセチルオキシム)(Irgacure OXE02)、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド(Omnirad TPO H)、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキシド(Omnirad 819)、4-ベンゾイル-4’-メチルジメチルスルフィド、4-ジメチルアミノ安息香酸、4-ジメチルアミノ安息香酸メチル、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸ブチル、4-ジメチルアミノ-2-エチルヘキシル安息香酸、4-ジメチルアミノ-2-イソアミル安息香酸、ベンジル-β-メトキシエチルアセタール、ベンジルジメチルケタール、1-フェニル-1,2-プロパンジオン-2-(O-エトキシカルボニル)オキシム、O-ベンゾイル安息香酸メチル、2,4-ジエチルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、1-クロロ-4-プロポキシチオキサントン、チオキサンテン、2-クロロチオキサンテン、2,4-ジエチルチオキサンテン、2-メチルチオキサンテン、2-イソプロピルチオキサンテン、2-エチルアントラキノン、オクタメチルアントラキノン、1,2-ベンズアントラキノン、2,3-ジフェニルアントラキノン、アゾビスイソブチロニトリル、ベンゾイルパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、2-メルカプトベンゾイミダール、2-メルカプトベンゾオキサゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール、2-(O-クロロフェニル)-4,5-ジ(m-メトキシフェニル)-イミダゾリル二量体、ベンゾフェノン、2-クロロベンゾフェノン、p,p’-ビスジメチルアミノベンゾフェノン、4,4’-ビスジエチルアミノベンゾフェノン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン、3,3-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン、ベンジル、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン-n-ブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、ベンゾインブチルエーテル、アセトフェノン、2,2-ジエトキシアセトフェノン、p-ジメチルアセトフェノン、p-ジメチルアミノプロピオフェノン、ジクロロアセトフェノン、トリクロロアセトフェノン、p-tert-ブチルアセトフェノン、p-ジメチルアミノアセトフェノン、p-tert-ブチルトリクロロアセトフェノン、p-tert-ブチルジクロロアセトフェノン、α,α-ジクロロ-4-フェノキシアセトフェノン、チオキサントン、2-メチルチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン、ジベンゾスベロン、ペンチル-4-ジメチルアミノベンゾエート、9-フェニルアクリジン、1,7-ビス-(9-アクリジニル)ヘプタン、1,5-ビス-(9-アクリジニル)ペンタン、1,3-ビス-(9-アクリジニル)プロパン、p-メトキシトリアジン、2,4,6-トリス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-メチル-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-(5-メチルフラン-2-イル)エテニル]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-(フラン-2-イル)エテニル]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-(4-ジエチルアミノ-2-メチルフェニル)エテニル]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-[2-(3,4-ジメトキシフェニル)エテニル]-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(4-メトキシフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(4-エトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(4-n-ブトキシフェニル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2,4-ビス-トリクロロメチル-6-(3-ブロモ-4-メトキシ)フェニル-s-トリアジン、2,4-ビス-トリクロロメチル-6-(2-ブロモ-4-メトキシ)フェニル-s-トリアジン、2,4-ビス-トリクロロメチル-6-(3-ブロモ-4-メトキシ)スチリルフェニル-s-トリアジン、2,4-ビス-トリクロロメチル-6-(2-ブロモ-4-メトキシ)スチリルフェニル-s-トリアジン等が挙げられる。これらの光ラジカル重合開始剤(C1)は、単独又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
硬化性組成物における光ラジカル重合開始剤(C1)の含有量は、多官能ビニルエーテル化合物(A)の質量と、多官能チオール化合物(B)の質量との合計に対して、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.2質量%以上7質量%以下がより好ましく、0.5質量%以上5質量%以下がさらに好ましい。
【0034】
〔光酸発生剤(C2)〕
光酸発生剤(C2)としては、前述の多官能ビニルエーテル化合物(A)をカチオン重合させ得る化合物であれば特に限定されない。
光酸発生剤(C2)としては、ヨードニウム塩やスルホニウム塩等のオニウム塩、オキシムスルホネート化合物、ジアゾメタン化合物、ニトロベンジルスルホネート化合物、イミノスルホネート化合物、及びジスルホン化合物等の、種々の公知の光酸発生剤が挙げられる。
これらの光酸発生剤の中では、硬化性組成物中への均一な混合が容易である点で、ジアゾメタン化合物が好ましい。
【0035】
ジアゾメタン化合物としては、例えば、ビス(アルキルスルホニル)ジアゾメタン、ビス(シクロアルキルスルホニル)ジアゾメタン、及びビス(アリールスルホニル)ジアゾメタン等が挙げられる。
ジアゾメタン化合物の具体例としては、ビス(イソプロピルスルホニル)ジアゾメタン、ビス(tert-ブチルスルホニル)ジアゾメタン、ビス(p-トルエンスルホニル)ジアゾメタン、ビス(1,1-ジメチルエチルスルホニル)ジアゾメタン、ビス(シクロヘキシルスルホニル)ジアゾメタン、ビス(2,4-ジメチルフェニルスルホニル)ジアゾメタン等が挙げられる。
【0036】
ポリ(ビススルホニル)ジアゾメタンを、ジアゾメタン化合物として用いることもできる。ポリ(ビススルホニル)ジアゾメタンとしては、例えば、1,3-ビス(フェニルスルホニルジアゾメチルスルホニル)プロパン、1,4-ビス(フェニルスルホニルジアゾメチルスルホニル)ブタン、1,6-ビス(フェニルスルホニルジアゾメチルスルホニル)ヘキサン、1,10-ビス(フェニルスルホニルジアゾメチルスルホニル)デカン、1,2-ビス(シクロヘキシルスルホニルジアゾメチルスルホニル)エタン、1,3-ビス(シクロヘキシルスルホニルジアゾメチルスルホニル)プロパン、1,6-ビス(シクロヘキシルスルホニルジアゾメチルスルホニル)ヘキサン、及び1,10-ビス(シクロヘキシルスルホニルジアゾメチルスルホニル)デカン等が挙げられる。
【0037】
光酸発生剤(C2)における、ジアゾメタン化合物の量は、所望する効果が損なわれない限り特に限定されない。
光酸発生剤(C2)における、ジアゾメタン化合物の量は、光酸発生剤(C2)の質量に対して、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%がさらにより好ましく、100質量%が特に好ましい。
【0038】
硬化性組成物における光酸発生剤(C2)の含有量は、多官能ビニルエーテル化合物(A)の質量と、多官能チオール化合物(B)の質量との合計に対して、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.2質量%以上7質量%以下がより好ましく、0.5質量%以上5質量%以下がさらに好ましい。
【0039】
<光増感剤(D)>
硬化性組成物は、光増感剤(D)を含む。光増感剤(D)は、光酸発生剤(C2)、特にジアゾメタン化合物を増刊させる成分である。
光増感剤(D)は、カルバゾール化合物を含む。硬化性組成物が、光増感剤(D)を含むことにより、硬化性組成物が良好に硬化し、且つ硬化性組成物の保管時の安定性も良好である。
【0040】
カルバゾール化合物は、所望する効果が損なわれない限り特に限定されない。カルバゾール化合物としては、カルバゾール、又はN-アルキルカルバゾールが好ましい。N-アルキルカルバゾールが有するアルキル基の炭素原子数は、1以上8以下が好ましく、1以上6以下がより好ましい。
N-アルキルカルバゾールの具体例としては、N-メチルカルバゾール、N-エチルカルバゾール、N-n-プロピルカルバゾール、N-イソプロピルカルバゾール、N-n-ブチルカルバゾール、N-イソブチルカルバゾール、N-sec-ブチルカルバゾール、N-tert-ブチルカルバゾール、及びN-n-ヘキシルカルバゾールが挙げられる。
【0041】
光増感剤(D)は、カルバゾール化合物とともに、従来から種々の光酸発生剤とともに使用されているその他の増感剤を含んでいてもよい。
その他の増感剤の具体例としては、アントラセン、9,10-ジブトキシアントラセン、9,10-ジメトキシアントラセン、9,10-ジエトキシアントラセン、2-エチル-9,10-ジメトキシアントラセン、及び9,10-ジプロポキシアントラセン等のアントラセン化合物;ピレン;1,2-ベンズアントラセン;ペリレン;テトラセン;コロネン;チオキサントン、2-メチルチオキサントン、2-エチルチオキサントン、2-クロロチオキサントン、2-イソプロピルチオキサントン及び2,4-ジエチルチオキサントン等のチオキサントン化合物;フェノチアジン、N-メチルフェノチアジン、N-エチルフェノチアジン、及びN-フェニルフェノチアジン等のフェノチアジン化合物;キサントン;1-ナフトール、2-ナフトール、1-メトキシナフタレン、2-メトキシナフタレン、1,4-ジヒドロキシナフタレン、及び4-メトキシ-1-ナフトール等のナフタレン化合物;ジメトキシアセトフェノン、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、4’-イソプロピル-2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、及び4-ベンゾイル-4’-メチルジフェニルスルフィド等のケトン;1,4-ジメトキシクリセン及び1,4-ジ-α-メチルベンジルオキシクリセン等のクリセン化合物;9-ヒドロキシフェナントレン、9-メトキシフェナントレン、9-ヒドロキシ-10-メトキシフェナントレン、及び9-ヒドロキシ-10-エトキシフェナントレン等のフェナントレン化合物が挙げられる。
【0042】
光増感剤(D)の質量に対する、カルバゾール化合物の質量の比率は、50質量%以上が好ましく、70質量%以上がより好ましく、80質量%以上がさらに好ましく、90質量%がさらにより好ましく、100質量%が特に好ましい。
【0043】
硬化性組成物における光増感剤(D)の含有量は、多官能ビニルエーテル化合物(A)の質量と、多官能チオール化合物(B)の質量との合計に対して、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.2質量%以上5質量%以下がより好ましく、0.5質量%以上3質量%以下がさらに好ましい。
【0044】
<安定剤(E)>
硬化性組成物は、安定剤(E)としてイミダゾール化合物を含む。硬化性組成物が、安定剤(E)としてイミダゾール化合物を含むことにより、硬化性組成物の保存安定性が良好である。
【0045】
イミダゾール化合物としては、イミダゾール骨格を有する化合物であれば特に限定されない。イミダゾール骨格を有する化合物としては、イミダゾール、置換基を有するイミダゾール、及びイミダゾール環と他の環とが縮合した構造を有する縮合環化合物が挙げられる。
【0046】
イミダゾール化合物の具体例としては、イミダゾール、1-メチルイミダゾール、2-メチルイミダゾール、4-メチルイミダゾール、1,2-ジメチルピラゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-イソプロピルイミダゾール、ベンゾイミダゾール、5,6-ジメチルベンゾイミダゾール、2-アミノベンゾイミダゾール、2-クロロベンゾイミダゾール、2-メチルベンゾイミダゾール、2-(1-ヒドロキシエチル)ベンズイミダゾール、2-ヒドロキシベンズイミダゾール、2-フェニルベンズイミダゾール、2,5-ジメチルベンズイミダゾール、5-メチルベンゾイミダゾール、5-ニトロベンズイミダゾール、及び1H-プリン等が挙げられる。
【0047】
また、イミダゾール化合物としては、1以上のラジカル重合性基を有するイミダゾール化合物も好ましい。ラジカル重合性基としては、エチレン性不飽和二重結合を有する基が好ましい。ラジカル重合性基は、典型的には、アルケニル基、アクリロイル基含有基、及びメタクリロイル基含有基から選択される基である。
ラジカル重合性基を有するイミダゾール化合物の具体例としては、1-ビニルイミダゾール、1-アリルイミダゾール、1-(3-ブテニル)イミダゾール、1-(4-ペンテニル)イミダゾール、及び1-(5-ヘキセニル)イミダゾール等の1-アルケニルイミダゾールが挙げられる。
【0048】
硬化性組成物におけるイミダゾール化合物の含有量は、多官能ビニルエーテル化合物(A)の質量と、多官能チオール化合物(B)の質量との合計に対して、0.1質量%以上10質量%以下が好ましく、0.2質量%以上8質量%以下がより好ましく、0.5質量%以上6質量%以下がさらに好ましい。
【0049】
<溶媒(S)>
硬化性組成物は、必要に応じて、溶媒(S)を含んでいてもよい。ただし、硬化性組成物の経時的な粘度変化の抑制の観点からは、硬化性組成物が、溶媒(S)を含まないか、少量しか含まないのが好ましい。
具体的には、硬化性組成物の質量に対する溶媒(S)の質量の比率が、0質量%以上5質量%以下であるのが好ましく、0質量%以上3質量%以下であるのがより好ましく、0質量%以上1質量%以下がさらに好ましい。
溶媒(S)としては、従来より、硬化性組成物に配合されている種々の溶媒を用いることができる。溶媒(S)としては、有機溶媒が好ましい。
【0050】
<その他の成分>
硬化性組成物は、必要に応じて、以上説明した成分以外の種々の添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、着色剤、分散剤、密着促進剤、重合禁止剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、凝集防止剤、消泡剤、界面活性剤、及びシランカップリング剤等が挙げられる。また、硬化性組成物は、必要に応じて、種々の充填材、又は強化材を含んでいてもよい。
各種添加剤の使用量は、本発明の目的を阻害しない範囲で特に限定されない。
【0051】
以上説明した硬化性組成物は、保管安定性に優れる。具体的には、調製後の硬化性組成物の20℃においてE型粘度計で測定される初期粘度と、硬化性組成物の調製後に、20℃で2週間保管された硬化性組成物の、20℃においてE型粘度計で測定された保管後粘度との差の絶対値が、5cP以下である。初期粘度と、保管後粘度との差の絶対値は3cP以下が好ましく、2cP以下がより好ましく、1cP以下が特に好ましい。
このように、上記の硬化性組成物は、長期間安定した粘度を示す。このため、上記の硬化性組成物は、インクジェット印刷装置のヘッド内で増粘したり固化したりしにくい。従って、上記の硬化性組成物は、インクジェット印刷法に好適に使用される。
【0052】
<硬化性組成物の製造方法>
硬化性組成物は、それぞれ所望する量の上記の各成分を、均一に混合、撹拌して調製される。上記の各成分を、混合、撹拌する際に使用できる装置としては、ディゾルバー、ホモジナイザー、3本ロールミル等が挙げられる。上記の各成分を均一に混合した後に、得られた混合物を、さらにメッシュ、メンブランフィルタ等を用いて濾過してもよい。
【0053】
≪硬化膜の形成方法≫
以上説明した、硬化性組成物を用いて硬化膜を形成することができる。
具体的には、
前述の硬化性組成物を基板上に塗布して塗布膜を形成することと、
塗布膜を露光することと、
露光された塗布膜を加熱することと、を含む方法により硬化膜が形成される。
【0054】
まず、硬化性組成物を、所望する基板上に塗布して塗布膜を形成した後に、必要に応じて、塗布膜から溶媒(S)の少なくとも一部を除去して塗布膜を形成する。
【0055】
基板上に硬化性組成物を塗布する方法は、特に限定されない。例えば、ロールコーター、リバースコーター、バーコーター、スリットコーター等の接触転写型塗布装置や、スピンナー(回転式塗布装置)、カーテンフローコーター等の非接触型塗布装置を用いて、硬化性組成物を基板上に所望の膜厚となるよう塗布して塗布膜を形成できる。
また、塗布膜の形成方法として、スクリーン印刷法やインクジェット印刷法等の印刷法を適用することもできる。
前述の通り、硬化性組成物は、インクジェット印刷法に好適に用いることができる。
【0056】
上記の方法により塗布膜を形成した後、塗布膜に対して露光を行うことにより、塗布膜の硬化が進行する。
【0057】
塗布膜を露光する条件は、硬化が良好に進行する限り特に限定されない。露光は、例えば、紫外線、エキシマレーザー光等の活性エネルギー線を照射することにより行われる。照射するエネルギー線量は特に制限はないが、例えば30mJ/cm以上5000mJ/cm以下が挙げられる。露光後には塗布後の加熱と同様の方法により、露光された塗布膜をベークしてもよい。
【0058】
以上のようにして露光された塗布膜は、次いで加熱される。加熱条件は、塗布膜を完全に硬化させることができる限り特に限定されない。塗布膜の完全な硬化は、加熱後の膜を、指で触り、タックの有無を確認することにより確認できる。
加熱温度は特に限定されない。加熱温度は、例えば、80℃以上250℃が好ましく、100℃以上200℃以下がより好ましく、110℃以上180℃以下がさらに好ましい。加熱時間は、例えば、10秒以上1時間以下が好ましく、20秒以上30分以下がより好ましく、30秒以上30分以下がさらに好ましい。
【0059】
以上説明した方法により、良好に硬化した硬化膜を形成できる。
【0060】
以上の通り、本発明者により、以下の(1)~(9)が提供される。
(1)多官能ビニルエーテル化合物(A)と、多官能チオール化合物(B)と、硬化剤(C)と、光増感剤(D)と、安定剤(E)とを含み、
前記硬化剤(C)が、光ラジカル重合開始剤(C1)と、光酸発生剤(C2)とを含み、
光増感剤(D)が、カルバゾール化合物を含み、
安定剤(E)が、イミダゾール化合物を含む、硬化性組成物。
(2)光酸発生剤(C2)が、ジアゾメタン化合物を含む、(1)に記載の硬化性組成物。
(3)硬化性組成物が、溶媒(S)を含むか、又は含まず、
硬化性組成物の質量に対する、溶媒(S)の質量の比率が、0質量%以上5質量%以下である、(1)又は(2)に記載の硬化性組成物。
(4)カルバゾール化合物が、カルバゾール、又はN-アルキルカルバゾールである、(1)~(3)のいずれか1つに記載の硬化性組成物。
(5)イミダゾール化合物が、1以上のラジカル重合性基を有する、(1)~(4)のいずれか1つに記載の硬化性組成物。
(6)調製後の硬化性組成物の20℃においてE型粘度計で測定される初期粘度と、硬化性組成物の調製後に、20℃で2週間保管された硬化性組成物の、20℃においてE型粘度計で測定された保管後粘度との差の絶対値が、5cP以下である、(1)~(5)のいずれか1つに記載の硬化性組成物。
(7)(1)~(6)のいずれか1つに記載の硬化性組成物の硬化物。
(8)(1)~(6)のいずれか1つに記載の硬化性組成物を基板上に塗布して塗布膜を形成することと、
塗布膜を露光することと、
露光された塗布膜を加熱することと、を含む硬化膜の形成方法。
(9)硬化性組成物を、インクジェット法により、前記基板上に塗布する、(8)に記載の硬化膜の形成方法。
【実施例0061】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。本発明の範囲はこれらの実施例に限定されない。
【0062】
〔実施例1~4、及び比較例1~6〕
実施例、及び比較例において、多官能ビニルエーテル化合物(A)として、下記A1を用いた。
A1:1,4-シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル
【0063】
比較例において、多官能ビニルエーテル化合物(A)以外のその他の重合性化合物(A’)として、下記A’1~A’3を用いた。
A’1:エチレングリコールジグリシジルエーテル(ナガセケムテックス社製、デナコールEX810)
A’2:2-エチルヘキシルグリシジルエーテル
A’3:アクリル酸2-(2-ビニロキシエトキシ)エチル(VEEA、日本触媒社製)
【0064】
実施例、及び比較例において、光ラジカル重合開始剤(C1)として、下記C1-1、及びC1-2を用いた。
C1-1:2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(Omnirad 651、IGM Resins社製)
C1-2:2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノプロパン-1-オン(Omnirad 907、IGM Resins社製)
【0065】
実施例、及び比較例において、光酸発生剤(C2)として、下記C2-1~C2-4を用いた。
C2-1:ビス(シクロヘキシルスルホニル)ジアゾメタン(WPAG-145、富士フイルム和光純薬社製)
C2-2:ビス(tert-ブチルスルホニル)ジアゾメタン(WPAG-170、富士フイルム和光純薬社製)
C2-3:ジフェニル4-チオフェノキシフェニルスルホニウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート(CPI-210S、CPI-200Kサンアプロ社製)
C2-4:商品名SP-606(ADEKA社製)
【0066】
比較例において、光塩基発生剤(C3)として、下記C3-1を用いた。
C3-1:1,2-ジシクロヘキシル-4,4,5,5-テトラメチルビグアニジウム=n-ブチルトリフェニルボラート
【0067】
実施例、及び比較例において、光増感剤(D)として、下記D1~D3を用いた。
D1:カルバゾール
D2:N-エチルカルバゾール
D3:イソプロピルチオキサントン
【0068】
実施例、及び比較例において、安定剤(E)として、下記E1を用いた。
E1:1-ビニルイミダゾール
【0069】
比較例において、その他の添加剤として、下記F1をもちいた。下記F1は、酸拡散抑制剤である。
F1:2,6-ジ-tert-ブチルピリジン
【0070】
それぞれ、表1、又は表2に記載される種類、及び量の各成分を均一に混合した。得られた混合液を、開口1.0μmのポリエチレン製のフィルターでろ過して、各実施例、及び各比較例の硬化性組成物を得た。得られた硬化性組成物を用いて、以下の評価を行った。下記の評価の結果を、表1、及び表2に記す。
【0071】
<硬化剤(C)溶解性>
得られた硬化性組成物を目視で観察した。以下の基準に従い、硬化剤(C)としての、光ラジカル重合開始剤(C1)、光酸発生剤(C2)、又は光塩基発生剤(C3)の溶け残りがあるか否かにより、硬化剤(C)の溶解性を判定した。
○:硬化剤(C)の溶け残りがなかった。
×:硬化剤(C)の溶け残りがあった。
【0072】
<インクジェット塗布性>
硬化性組成物を、インクジェット装置(MIB-500、武蔵エンジニアリング社製)を用いてインクジェット塗布を行った。塗布後のシリコン基板の表面を観察し、以下の基準に従いインクジェット塗布性を判定した。
○:シリコン基板上に塗布膜が形成された。
×:シリコン基板上に塗布膜が形成されなかった。
【0073】
<UV硬化性>
インクジェット装置により塗布膜を形成できた、実施例1~4、及び比較例3~6の硬化性組成物についてUV硬化性を評価した。
まず、インクジェット塗布性の評価と同様の方法により、シリコン基板上に硬化性組成物からなる塗布膜を形成した。形成された塗布膜を、大気圧下、空気雰囲気中で、平行露光機により露光量1000mJ/cmで露光した。ただし、実施例1の硬化性組成物からなる塗布膜に対しては、露光量500mJ/cmで露光した。露光後の塗布膜を、表1、又は表2に記載のベーク条件でベークして、硬化膜を得た。得られた硬化膜の膜厚を、表1、及び表2に記す。なお、比較例6で得た硬化膜が十分に硬化していなかったため、比較例6で得た硬化膜の膜を測定しなかった。
形成された硬化膜を、指で触れ、以下の基準に従いUV硬化性を判定した。
○:硬化膜を指で触れた際に、タックがなかった。
×:硬化膜を指で触れた際に、タックがあった。
【0074】
<保存安定性>
調製直後の硬化性組成物の20℃においてE型粘度計で測定される初期粘度と、硬化性組成物の調製後に、20℃で2週間保管された硬化性組成物の、20℃においてE型粘度計で測定された保管後粘度とを測定した。
初期粘度と、保管後粘度との差の絶対値を算出し、以下の基準に従い、保存安定性を評価した。
○:初期粘度と、保管後粘度との差の絶対値が5cP以下であった。
×:初期粘度と、保管後粘度との差の絶対値が5cP超であった。
【0075】
【表1】
【0076】
【表2】
【0077】
表1、及び表2によれば、多官能ビニルエーテル化合物(A)と、多官能チオール化合物(B)と、硬化剤(C)としての光ラジカル重合開始剤(C1)及び光酸発生剤(C2)と、光増感剤(D)としてのカルバゾール化合物と、安定剤(E)としてのイミダゾール化合物とを含む、実施例の硬化性組成物は、インクジェット塗布性、UV硬化性、及び保存安定性に優れることが分かる。
他方で、上記の必須成分の少なくとも1つを欠く比較例の硬化性組成物は、インクジェット塗布性、UV硬化性、及び保存安定性の少なくとも1つが不良であった。