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特開2024-1708流動試料用試料セル及びこれを用いた蛍光X線分析装置並びに蛍光X線分析方法
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  • 特開-流動試料用試料セル及びこれを用いた蛍光X線分析装置並びに蛍光X線分析方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001708
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】流動試料用試料セル及びこれを用いた蛍光X線分析装置並びに蛍光X線分析方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 23/223 20060101AFI20231227BHJP
【FI】
G01N23/223
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100544
(22)【出願日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】503460323
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテクサイエンス
(74)【代理人】
【識別番号】100120396
【弁理士】
【氏名又は名称】杉浦 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】金澤 雄輝
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 恒郎
(72)【発明者】
【氏名】巽 正樹
【テーマコード(参考)】
2G001
【Fターム(参考)】
2G001AA01
2G001BA04
2G001CA01
2G001GA01
2G001JA09
2G001KA01
2G001MA02
2G001PA18
2G001QA01
(57)【要約】
【課題】 石油などの流動試料の蛍光X線分析に用いる流動試料用試料セルにおいて、流動試料の厚みを一定に制御できる流動試料用試料セルを実現する。
【解決手段】 両端に開口部を有する試料セル外枠107と、試料セル外枠の一方の開口部を閉塞する下部窓材104と、両端に試料セル外枠の開口部より狭い開口部を有する試料セル内枠106と、試料セル内枠の一方の開口部を閉塞する上部窓材105と、を備え、下部窓材と上部窓材とが、少なくとも一方がX線を透過する物質からなり、試料セル内枠が試料セル外枠に挿入され、下部窓材と上部窓材との間に流動試料110が充填される。
【選択図】 図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
両端に開口部を有する試料セル外枠と、
前記試料セル外枠の一方の開口部を閉塞する下部窓材と、
両端に前記試料セル外枠の開口部より狭い開口部を有する試料セル内枠と、
前記試料セル内枠の一方の開口部を閉塞する上部窓材と、を備え、
前記下部窓材と前記上部窓材とが、少なくとも一方がX線を透過する物質からなり、
前記試料セル内枠が前記試料セル外枠に挿入され、前記下部窓材と前記上部窓材との間に流動試料が充填されることを特徴とする流動試料用試料セル。
【請求項2】
請求項1に記載の流動試料用試料セルにおいて、
前記試料セル外枠の下端位置より前記試料セル内枠の下端位置が高く、前記試料セル外枠の下端位置と前記試料セル内枠の下端位置との差により前記下部窓材と前記上部窓材との間隔を定めることを特徴とする流動試料用試料セル。
【請求項3】
請求項2に記載の流動試料用試料セルにおいて、
前記試料セル内枠の外周と前記試料セル外枠の内周の間に、前記下部窓材と前記上部窓材との間からつながる空間が設けられていることを特徴とする流動試料用試料セル。
【請求項4】
請求項3に記載の流動試料用試料セルにおいて、
前記試料セル内枠にガス抜き穴を設けたことを特徴とする流動試料用試料セル。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか一項に記載の流動試料用試料セルにおいて、
前記下部窓材と前記上部窓材との一方が金属で形成されていることを特徴とする流動試料用試料セル。
【請求項6】
一次X線を照射するX線管と、
蛍光X線を検出するX線検出器と、
請求項1から5のいずれか一項の流動試料用試料セルと、を備え、
前記流動試料用試料セルの前記下部窓材または前記上部窓材に一次X線を前記X線管が照射して、前記流動試料から発生した蛍光X線を前記X線検出器で検出することを特徴とする蛍光X線分析装置。
【請求項7】
請求項1から5のいずれか一項の流動試料用試料セルにおける前記試料セル外枠の内部に前記流動試料を収納し、
前記試料セル内枠を前記試料セル外枠に挿入して前記下部窓材と前記上部窓材とで前記流動試料を挟み込むことで前記流動試料用試料セルを組み立て、
前記X線管から一次X線を前記下部窓材または前記上部窓材のいずれかに照射し、前記X線検出器で前記流動試料から発生した蛍光X線を検出することを特徴とする蛍光X線分析方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、X線分析する際に用いられる流動試料用試料セル及びこれを用いた蛍光X線分析装置並びに蛍光X線分析方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一次X線を試料に照射した際に生じる蛍光X線(二次X線)を検出器にて検出し、検出した蛍光X線のスペクトル分布などから、試料に含まれる元素の特定及びこの元素の濃度の算出等を行う蛍光X線分析装置が知られている。測定対象は、固形状の試料に限られず、粉体や流動性を有する流動試料も知られている。
【0003】
例えば、図4に示す蛍光X線分析装置用の試料容器3は、試料セルケース137の下部に下部窓材枠138を用いて下部窓材134を固定し、その中に流動試料110を収容し、上部窓材枠139を用いて上部窓材136を固定する構造が用いられていた。
この試料容器3において、分析対象が液体又は粉体のような流動試料110の場合、X線を透過する膜(窓材134)を底面とした試料容器3内に流動試料110を収容し、試料容器3を蛍光X線分析装置の測定部位に載置した状態で、(図示しない)X線管から一次X線を試料容器3の窓材134側の下方から照射して、流動試料110から出射される蛍光X線(二次X線)を(図示しない)検出器で検出して分析することが知られている。
【0004】
また、軽元素や微量の粉体試料であっても蛍光X線を用いて精度良く定量分析するための粉体試料セルが知られている。(特許文献1を参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2021―71308号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
前記従来の技術には、以下の課題が残されている。
蛍光X線分析する場合に、試料の厚さ(特許文献1の図4の図面上方向)が厚い場合、分析対象元素以外のX線が検出されやすくなり、分析対象元素の感度が低下やバックグラウンドの上昇に伴い、分析精度が低下する。一方、試料の厚さが薄い場合には、分析対象元素の感度が不足してしまう、という問題があった。そのために、高感度にX線を検出するためには試料に応じて適切な厚みにする必要が求められていた。そのために、試料を計量器で適切な量を量って試料の厚みを制御したりしていた。
【0007】
しかし、液体試料の厚みが1mm以下ほどに十分に薄い場合、表面張力による影響のため厚みにムラが生じたり、液体試料が揮発性を有する場合には測定中に液体試料が揮発したりする場合がある。そのために、図4に示す蛍光X線分析装置用の試料容器3において、試料110が流動試料の場合に、揮発ガスにより試料容器3内が膨張して下部窓材104が撓んだり、試料110の表面張力により試料110の厚みを制御できないという問題があった。計量器にて分取しても前記問題のため適切な厚みに制御することができず分析精度の低下してしまうという問題が生じていた。
【0008】
本発明は、前述の課題に鑑みてなされたもので、流動試料の厚みを一定に制御できる流動試料用試料セル及びこれを用いた蛍光X線分析装置並びに蛍光X線分析方法を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前記課題を解決するために以下の構成を採用した。すなわち、第1の発明に係る流動試料用試料セルは、両端に開口部を有する試料セル外枠と、前記試料セル外枠の一方の開口部を閉塞する下部窓材と、両端に前記試料セル外枠の開口部より狭い開口部を有する試料セル内枠と、前記試料セル内枠の一方の開口部を閉塞する上部窓材と、を備え、前記下部窓材と前記上部窓材とが、少なくとも一方がX線を透過する物質からなり、前記試料セル内枠が前記試料セル外枠に挿入され、前記下部窓材と前記上部窓材との間に流動試料が充填されることを特徴とする。
【0010】
この流動試料用試料セルでは、試料セル内枠が試料セル外枠に挿入され、下部窓材と上部窓材との間に流動試料が充填されるので、試料セル内枠の試料セル外枠内への挿入度合いに応じて、下部窓材と上部窓材との間隔が調整でき、充填される流動試料の厚みを一定に制御することができる。特に、下部窓材と上部窓材との間に流動試料が充填され下部窓材と上部窓材との間に空洞が形成されないことで、表面張力によって流動試料の厚みが変化することを抑制可能となる。
【0011】
第2の発明に係る流動試料用試料セルは、第1の発明において、前記試料セル外枠の下端位置より前記試料セル内枠の下端位置が高く、前記試料セル外枠の下端位置と前記試料セル内枠の下端位置との差により前記下部窓材と前記上部窓材との間隔を定めることを特徴とする。
すなわち、この流動試料用試料セルでは、試料セル外枠の下端位置と試料セル内枠の下端位置との差により下部窓材と上部窓材との間隔を定めるので、試料セル外枠の下端位置と試料セル内枠の下端位置との高さの差に応じて流動試料の厚みを制御することができる。
【0012】
第3の発明に係る流動試料用試料セルは、第2の発明において、前記試料セル内枠の外周と前記試料セル外枠の内周の間に、前記下部窓材と前記上部窓材との間からつながる空間が設けられていることを特徴とする。
すなわち、この流動試料用試料セルでは、試料セル内枠の外周と試料セル外枠の内周の間に、下部窓材と上部窓材との間からつながる空間が設けられているので、下部窓材と上部窓材との間に充填された流動試料から揮発ガスが発生しても、上記空間へ揮発ガスが排出されることで、下部窓材と上部窓材との間に揮発ガスが残ってしまうことを抑制可能である。また、流動試料が多めに充填されても、下部窓材と上部窓材との間から上記空間へ流れ出ることで、下部窓材と上部窓材との間への流動試料の充填量(厚み)を一定に保持することができる。
【0013】
第4の発明に係る流動試料用試料セルは、第3の発明において、前記試料セル内枠にガス抜き穴を設けたことを特徴とする。
すなわち、この流動試料用試料セルでは、試料セル内枠の上部にガス抜き穴を設けたので、上記空間に排出された揮発ガスをさらにガス抜き穴から外部へ排出することができる。
【0014】
第5の発明に係る流動試料用試料セルは、第1から4のいずれかの発明において、前記下部窓材と前記上部窓材との一方が金属で形成されていることを特徴とする。
すなわち、この流動試料用試料セルでは、下部窓材と上部窓材との一方が金属で形成されているので、この金属からのX線を検出し、検出した金属のX線を分析対象元素のX線の強度の補正に用いることで対象試料の組成に依存するX線強度の変化を補正することができる。
【0015】
第6の発明に係る蛍光X線分析装置は、一次X線を照射するX線管と、蛍光X線を検出するX線検出器と、第1から第5の発明のいずれかの流動試料用試料セルと、を備え、前記流動試料用試料セルの前記下部窓材または前記上部窓材に一次X線を前記X線管が照射して、前記流動試料から発生した蛍光X線を前記X線検出器で検出することを特徴とする。
【0016】
第7の発明に係る蛍光X線分析方法は、第1から第5の発明のいずれかの流動試料用試料セルにおける前記試料セル外枠の内部に前記流動試料を収納し、前記試料セル内枠を前記試料セル外枠に挿入して前記下部窓材と前記上部窓材とで前記流動試料を挟み込むことで前記流動試料用試料セルを組み立て、前記X線管から一次X線を前記下部窓材または前記上部窓材のいずれかに照射し、前記X線検出器で前記流動試料から発生した蛍光X線を検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、以下の効果を奏する。
すなわち、本発明に係る流動試料用試料セルによれば、試料セル内枠が試料セル外枠に挿入され、下部窓材と上部窓材との間に流動試料が充填されるので、試料セル内枠の試料セル外枠内への挿入度合いに応じて、下部窓材と上部窓材との間隔が調整でき、充填される流動試料の厚みを一定に制御することができる。
したがって、本発明によれば、流動試料の厚みを精度よく制御できる試料セルを提供することで、高感度かつ高精度にX線を検出する蛍光X線分析装置及び蛍光X線分析方法を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の第1実施形態における試料セルを載置した下面照射型の蛍光X線分析装置を示す断面図である。
図2】本発明の第1実施形態における試料セルを示す分解斜視図である。
図3】本発明の第2実施形態における試料セルを載置した上面照射型の蛍光X線分析装置を示す断面図である。
図4】従来の蛍光X線分析で用いられる流動試料用試料セルを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明に係る流動試料用試料セル及びこれを用いた蛍光X線分析装置並びに蛍光X線分析方法の第1実施形態を、図1及び図2を参照しながら説明する。
【0020】
図1は、本発明の第1実施形態に係る流動試料用試料セルを用いた下面照射型の蛍光X線分析装置の概略構成を示す模式図である。この蛍光X線分析装置1に設けられた試料ステージ103は平面であり、開口部120が設けられている。この試料ステージ103の開口部120の上面に分析対象の流体試料110が収容された流動試料用試料セル2が設置される。
【0021】
蛍光X線分析装置1には、試料セル2が設置される開口部120に対して斜め下45°の位置にX線管(X線照射手段)101とX線検出器102とが設置されている。X線管101は、内部で発生させたX線を所定の照射範囲へ導くものであり、開口部120を通って試料ステージ103に載置された流動試料110を収容した試料セル2の底部に一次X線を照射する。X線検出器103は、X線管101からの一次X線により試料セル2内の流動試料110から発生する蛍光X線を検出するものであり、検出結果をPC(Personal Computer)(図示略)などの処理装置へ出力して分析する。そのため、開口部120は、試料セル2の底部への一次X線の入射や発生する蛍光X線を検出するために十分な大きさにしてある。
【0022】
図2は、図1で用いた本発明の流動試料用試料セル2の構成を示す分解斜視図である。流動試料用試料セル2は、下部窓材104、上部窓材105、試料セル内枠106、試料セル外枠107、下部窓材用固定部材108、上部窓材用固定部材109にて構成されている。
【0023】
すなわち、第1実施形態の流動試料用試料セル2は、両端に開口部を有する試料セル外枠107と、試料セル外枠107の一方の開口部を閉塞する下部窓材104と、両端に試料セル外枠107の開口部より狭い開口部を有する試料セル内枠106と、試料セル内枠106の一方の開口部を閉塞する上部窓材105と、を備え、下部窓材104と上部窓材105とが、少なくとも一方がX線を透過する物質からなり、試料セル内枠106が試料セル外枠107に挿入され、下部窓材104と上部窓材105との間に流動試料110が充填される。
【0024】
試料セル内枠106は、両端に開口部を有する鍵型の構造の断面かつ円筒状の形状で、ポリエチレンなどのプラスチック又は金属等にて成形されている。試料セル内枠106の内径は一次X線の照射領域よりも十分に大きいことが望ましい。また、流体試料107の揮発によりガスが発生した場合に、下部窓材104と上部窓材105の膨らみを防ぐために気体が逃げられるガス抜き穴111が試料セル内枠106の上部に設けられている。また、試料セル内枠106の内径はX線管101から照射されるX線の照射範囲と検出器102の検出視野の試料面での直径に比べて大きい必要があり、試料セル内枠106の壁面からのX線が検出されることを防止する必要がある。なお、壁面に金属を設置し、壁面からのX線の検出を防止することもできる。
【0025】
試料セル外枠107は、両端に開口部を有する円筒状をなしており、ポリエチレンなどのプラスチック又は金属等にて成形され、試料セル外枠107の内径は開口部120よりも大きくなるように設けられている。
【0026】
この試料セル外枠107内に試料セル内枠106を挿入して嵌合させることができる。嵌合させた際に試料セル内枠106と試料セル外枠107に間に十分な溝(空間)が設けられている。
【0027】
上部窓材105は、試料セル内枠106の外径より十分に大きな面積の薄いシート状であり、下部窓材104は、試料セル外枠110の外径より十分に大きな面積の薄いシート状である。さらに、上部窓材105と下部窓材104は、液体又は粉体等の流動試料110は通さないが、X線を透過する物質で形成されている。下部窓材104は、流動試料110が収容される試料セル2の底面をなしている。
【0028】
なお、この場合の上部窓材105は、必ずしもX線がほとんど透過する材質である必要はなく、金属を用いることができる。この金属からのX線をX線検出器102にて検出し、検出した金属のX線を分析対象元素のX線の強度の補正に用いることで、対象試料の組成に依存するX線強度の変化を補正することができる。なお、金属は上部窓材105の上に設置したり、上部窓材105に蒸着しても構わない。
【0029】
下部窓材用固定部材108は、円筒状のリング形状であり、ポリエチレンなどのプラスチック又は金属等にて成形されている。下部窓材用固定部材108の内径部分と試料セル外枠110の外形部分とで、下部窓材104を挟み込み固定する。
また、上部窓材用固定部材109は、円筒状のリング形状であり、ポリエチレンなどのプラスチック又は金属等にて成形されている。上部窓材用固定部材109の外形部分と試料セル内枠106の外形部分とで、上部窓材105を挟み込み固定する。
【0030】
上部窓材用固定部材109と下部窓材用固定部材108とは、それぞれ試料セル内枠106と試料セル外枠107の下部にはめ込むことができる。下部窓材104を試料セル外枠107と下部窓材用固定部材108との間に、また上部窓材105を試料セル内枠106と下部窓材固定部材108との間に挟み込むことで、下部窓材104及び上部窓材105を固定する。
【0031】
流動試料110が液体の場合、試料セル2を組み立てた際に気泡が入り、下部窓材104と上部窓材105との間に気泡が溜まらないように、試料セル内枠106と試料セル外枠107との間に設ける溝(空間)は十分に大きいことが望ましい。
【0032】
次に、本発明に係る流動試料用試料セル2を用いた蛍光X線分析方法について図1図2を用いて説明する。
まず、流動試料用試料セル2の組み立て及び流動試料110の収容を行う際の手順を以下に説明する。
下部窓材用固定部材108、試料セル外枠107、下部窓材104を用いて試料セル下部22を組み立てる。
【0033】
下部窓材用固定部材108を図示しない平面に載置し、下部窓材用固定部材108の上面に下部窓材104を載せた状態で試料セル外枠107を下部窓材用固定部材108の内径に差し込み下部窓材104を固定する。その際に、下部窓材104は試料セル外枠107の内径部分の下部窓材104が弛まないようにする。
同様に、上部窓材用固定部材109、試料セル内枠106、上部窓材105を用いて試料セル上部21を組み立てる。
【0034】
試料セル外枠106を図示しない平面に載置し、試料セル内枠106の円筒の内側に上部窓材105を挿入した状態で上部窓材用固定部材109を差し込み、上部窓材105を固定する。その際に、上部窓材105は試料セル内枠106の内径部分の下部窓材104が弛まないようにする。
次に、試料セル上部21の下部窓材104が固定された試料セル外枠107の内側に液体や粉末からなる流動試料110を収容する。
【0035】
さらに、組み立てた試料セル下部22を試料セル上部21に差し込むことで流動試料用試料セル2を組み立てる。
組み立てた流動試料用試料セル2を試料ステージ102に設置し、X線管1から一次X線を流動試料用試料セル2の下部窓材104側から照射し、発生した蛍光X線をX線検出器で検出し、検出結果を図示しないPC(Personal Computer)などの処理装置へ出力して検出した蛍光X線を分析する。
その際に、下部窓材104と上部窓材105の間に収まらない流動試料110は、試料セル内枠106と試料セル外枠107との間に設ける溝(空間)に溜まるようになっている。
【0036】
なお、試料の適切な厚みL1は、試料セル外枠107の高さL2(上端から下端までの距離)と試料セル内枠106の高さL3(試料セル外枠107の上端から試料セル内枠106の下端までの距離)との交差で決定される。
すなわち、試料セル外枠107の下端位置より試料セル内枠106の下端位置が高く、試料セル外枠107の下端位置と試料セル内枠106の下端位置との差により下部窓材104と上部窓材105との間隔を定める。
例えば、流動試料110が石油であり、その石油中に含まれる軽元素を分析する場合、厚みL1は300μmから1mmになるように設定する。その場合には、測定誤差を低減させるために、内枠セルと外枠セルの高さの交差は100μm以下とするのが好ましい。
【0037】
なお、前記の流動試料用試料セル2の試料セル下部22を組み立てる手順において、図示しない平面で行ったが試料ステージ103上でもかまわない。
【0038】
また、上部窓材105と下部窓材104とは、それぞれ上部窓材用固定部材109及び下部窓材用固定部材108による固定ではなく、接着剤や熱溶着により直接試料セル内枠106と試料セル外枠107の底面に固定しても構わない。接着剤にて固定する場合、X線照射部には接着剤が塗布されないように、固定部の試料セル内枠106と試料セル外枠107の底面にのみ塗布する。また、熱溶着にて固定する場合、試料セル内枠106と試料セル外枠107とは、下部窓材104及び上部窓材105と同じ材質で成形しなければならない。
【0039】
さらに、上部窓材105はX線を透過する物質が好ましいが、金属やプラスチック等を用いてもよい。この場合、測定条件に応じて上部窓材105からの蛍光X線を検出しないように材質は流動試料110の厚みL1に応じて選定する。
例えば、流動試料110の厚さL1が500umの石油を分析する場合、上部窓材105はアルミニウムにすることで、ノイズとなるアルミニウムで生じた蛍光X線は流動試料110にて吸収され検出器に検出されない。
【0040】
このように本実施形態の流動試料用試料セル2では、試料セル内枠106が試料セル外枠107に挿入され、下部窓材104と上部窓材105との間に流動試料110が充填されるので、試料セル内枠106の試料セル外枠107内への挿入度合いに応じて、下部窓材104と上部窓材105との間隔が調整でき、充填される流動試料110の厚みを一定に制御することができる。特に、下部窓材104と上部窓材105との間に流動試料110が充填され下部窓材104と上部窓材105との間に空洞が形成されないことで、表面張力によって流動試料110の厚みが変化することを抑制可能となる。
【0041】
また、試料セル外枠107の下端位置と試料セル内枠106の下端位置との差により下部窓材104と上部窓材105との間隔を定めるので、試料セル外枠107の下端位置と試料セル内枠106の下端位置との高さの差に応じて流動試料110の厚みを制御することができる。
また、試料セル内枠106の外周と試料セル外枠107の内周の間に、下部窓材104と上部窓材105との間からつながる空間が設けられているので、下部窓材104と上部窓材105との間に充填された流動試料110から揮発ガスが発生しても、上記空間へ揮発ガスが排出されることで、下部窓材104と上部窓材105との間に揮発ガスが残ってしまうことを抑制可能である。また、流動試料110が多めに充填されても、下部窓材104と上部窓材105との間から上記空間へ流れ出ることで、下部窓材104と上部窓材105との間への流動試料110の充填量(厚み)を一定に保持することができる。
【0042】
さらに、試料セル内枠106の上部にガス抜き穴111を設けたので、上記空間に排出された揮発ガスをさらにガス抜き穴111から外部へ排出することができる。
また、下部窓材104と上部窓材105との一方を金属で形成することで、この金属からのX線を検出し、検出した金属のX線を分析対象元素のX線の強度の補正に用いることで対象試料の組成に依存するX線強度の変化を補正することができる。
【0043】
次に、本発明に係る流動試料用試料セル及びこれを用いた蛍光X線分析装置並びに蛍光X線分析方法の第2実施形態について、図3を参照して以下に説明する。なお、以下の各実施形態の説明において、上記実施形態において説明した同一の構成要素には同一の符号を付し、その説明は省略する。
【0044】
第1実施形態で示した図1は、下面照射型の蛍光X線分析装置であるが、第2実施形態では、図3に示すように、X線管101とX線検出器102を試料セル2の上部窓材側の上面に設置した上面照射型の蛍光X線分析装置である。第2実施形態の場合、少なくとも上部窓材105は、X線を透過する物質で形成されている。
図3は、第2実施形態における上面照射型の蛍光X線分析装置の概略構成を示す模式図である。第1実施形態で示した流動試料用試料セル2は共通であるので、説明を省く。
【0045】
本実施形態における試料ステージ103は開口部120を設けていないので、流動試料用試料セル2の下部窓材104を透過した一次X線が試料ステージ103に照射されたことで生じる蛍光X線がX線検出器102で検出されないように、試料ステージ103の上面に円筒形の支持台113を設けて、支持台113の円筒形の上面に流動試料用試料セル2を載置する。支持台113は試料ステージ103で生じる蛍光X線が検出されない十分な高さにする。
【0046】
なお、試料ステージ103は開口部120を設けた場合には、支持台113を設けなくてもよい。
また、下部窓材104や上部窓材105を、X線を透過する物質で形成する場合には、ポリプロピレンやポリエチレンテレフタレート, ポリイミドなど有機化合物やベリリウム(Be)、 シリコン(Si)系化合物、炭素(C)系化合物などを用いる。
【0047】
なお、本発明の技術範囲は上記各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
【符号の説明】
【0048】
1 蛍光X線分析装置
2 流動試料用試料セル
21 試料セル上部
22 試料セル下部
101 X線管
102 X線検出器
103 試料ステージ
104 下部窓材
105 上部窓材
106 試料セル内枠
107 試料セル外枠
108 下部窓材固定部材
109 上部窓材固定部材
110 流動試料
111 ガス抜き穴
120 開口部
図1
図2
図3
図4