(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170888
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】スペースデブリの生成を抑制するコーティング材被覆軽金属
(51)【国際特許分類】
B32B 7/022 20190101AFI20241204BHJP
B64G 1/22 20060101ALI20241204BHJP
B64G 1/56 20060101ALI20241204BHJP
B64G 1/10 20060101ALI20241204BHJP
B32B 15/08 20060101ALI20241204BHJP
B32B 15/01 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
B32B7/022
B64G1/22 300
B64G1/56
B64G1/10 500
B32B15/08 G
B32B15/01 G
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087640
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】304021277
【氏名又は名称】国立大学法人 名古屋工業大学
(72)【発明者】
【氏名】西田 政弘
(72)【発明者】
【氏名】ス ズイ
【テーマコード(参考)】
4F100
【Fターム(参考)】
4F100AA01
4F100AA01B
4F100AB01
4F100AB01A
4F100AB10
4F100AB10A
4F100AB12
4F100AB12A
4F100AB31
4F100AB31A
4F100AH06
4F100AH06B
4F100AR00
4F100AR00B
4F100BA02
4F100BA07
4F100CC00
4F100CC00B
4F100EH46
4F100EH46B
4F100GB31
4F100JK10
(57)【要約】
【課題】
軽金属とヤング率、密度が大きく異なるコーティング材であっても、優れた機能を有するコーティング材を使用することによって、コーティングによって機能が向上したコーティング材被覆軽金属を提供すること。
【解決手段】
コーティング材3と、コーティング材3が有するヤング率に対して40 倍以上のヤング率を有する、密度が5 g/cm
3以下の軽金属2と、を備え、軽金属2の少なくても一部分がコーティング材(層)3によって被覆されたコーティング材被覆軽金属1であって、好ましくはコーティング材3が有する音響インピーダンスに対して軽金属2が有する音響インピーダンスが8 倍以上である。
【選択図】
図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
コーティング材と、前記コーティング材が有するヤング率に対して40 倍以上のヤング率を有する、密度が5 g/cm3以下の軽金属と、を備え、前記軽金属の少なくても一部分が前記コーティング材によって被覆されたことを特徴とするコーティング材被覆軽金属。
【請求項2】
前記コーティング材が有する音響インピーダンスに対して前記軽金属が有する音響インピーダンスが8 倍以上であることを特徴とする請求項1に記載のコーティング材被覆軽金属。
【請求項3】
前記コーティング材は無機―有機複合体であることを特徴とする請求項1又は2に記載のコーティング材被覆軽金属。
【請求項4】
前記無機―有機複合体はシロキサン系の化合物である請求項3に記載のコーティング材被覆軽金属。
【請求項5】
前記軽金属はアルミニウム、マグネシウム又はチタンであること特徴とする請求項3に記載のコーティング材被覆軽金属。
【請求項6】
前記軽金属はアルミニウム、マグネシウム又はチタンであること特徴とする請求項4に記載のコーティング材被覆軽金属。
【請求項7】
前記コーティング材被覆軽金属によって飛翔体を捕獲するために、及び/又は前記コーティング材被覆軽金属が飛翔体の衝突を受けたときに発生する噴出物を低減・抑制するために、及び/又は前記飛翔体による衝撃を緩和するために使用されることを特徴とする請求項1又は2に記載のコーティング材被覆軽金属。
【請求項8】
前記飛翔体及び/又は前記噴出物はスペースデブリであって、スペースデブリバンパーとして用いられることを特徴とする請求項1又は2に記載のコーティング材被覆軽金属。
【請求項9】
請求項1又は2に記載の前記コーティング材被覆軽金属による飛翔体を捕獲するために、及び/又は前記コーティング材被覆軽金属が飛翔体の衝突を受けたときに発生する噴出物を低減・抑制するために、及び/又は前記飛翔体による衝撃を緩和するために使用されることを特徴とするコーティング材被覆軽金属の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スペースデブリの生成を抑制する、特に板形状のコーティング材被被覆軽金属に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば食品製造工程においては、発生した微小な噴出物が問題になることがあるが、視点を宇宙に向けたとき、スペースデブリ(宇宙ゴミ)の高速衝突の際の噴出物であるイジェクタが問題となる。宇宙の持続的発展のため、せめて、噴出物を低減する必要があるが、大きなスペースデブリ(宇宙ゴミ)を捕獲する研究、発明はあっても、微小のスペースデブリ(宇宙ゴミ)捕獲することは難しい。
噴出物を低減・抑制することができる例えばクラッド材(材料)は、マイクロ(微小)スペースデブリによる環境汚染から宇宙環境を保全し、持続可能な宇宙にするための材料として有用である。
【0003】
特許文献1には、宇宙機の構体の外面を覆う多層断熱材が互いに積層された複数の層を備え、その複数の層は、最外層フィルムと、検出層と、中間層フィルムと、最内層フィルム21と、を有し、最外層フィルムは、例えば、ポリイミドフィルムの少なくとも一方の面に、アルミニウム蒸着を施すことにより形成されていることが記載されている。
非特許文献1には、宇宙機の外部表面に使用される多層断熱材の最外層のポリイミドフィルムに、耐原子状酸素等としてシルセスキオキサン(RSi01.5)nをコーティングすることが記載されている。
【0004】
軽金属例えばアルミニウム合金は、スペースデブリによる噴出物を低減・抑制することができる材料として有望であるが、その機能を高めるため、コーティング材を使用することが有効な場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】東亞合成グループ研究年報 第16号(TREND 2013)10-15 吉田尚正ら
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、そのコーティング材と軽金属のヤング率、音響インピーダンスが大きく異なると、一般には、界面から剥離が生じやすいと考えられるという問題があった。そこで、本発明では、軽金属とヤング率、音響インピーダンスが大きく異なるコーティング材であっても、優れた機能を有するコーティング材を使用することによって、コーティングによって機能が向上した軽金属(以下、「コーティング材被覆軽金属」と言う場合がある)を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明は、以下の通りである。
[1]コーティング材と、前記コーティング材が有するヤング率に対して40 倍以上のヤング率を有する、密度が5 g/cm3以下の軽金属と、備え、前記軽金属の少なくても一部分が前記コーティング材によって被覆されたことを特徴とするコーティング材被覆軽金属である。
[2]前記コーティング材が有する音響インピーダンスに対して前記軽金属が有する音響インピーダンスが8 倍以上であることを特徴とする[1]に記載のコーティング材被覆軽金属である。
[3]前記コーティング材は無機―有機複合体であることを特徴とする[1]又は[2]に記載のコーティング材被覆軽金属である。
[4]前記無機―有機複合体はシロキサン系の化合物である[3]に記載のコーティング材被覆軽金属である。
[5]前記軽金属はアルミニウム、マグネシウム又はチタンであること特徴とする[3]に記載のコーティング材被覆軽金属である。
[6]前記軽金属はアルミニウム、マグネシウム又はチタンであること特徴とする[4]に記載のコーティング材被覆軽金属である。
[7]前記コーティング材被覆軽金属によって飛翔体を捕獲するために、及び/又は前記コーティング材被覆軽金属が飛翔体の衝突を受けたときに発生する噴出物を低減・抑制するために、及び/又は前記飛翔体による衝撃を緩和するために使用されることを特徴とする[1]又は[2]に記載のコーティング材被覆軽金属である。
[8]前記飛翔体及び/又は前記噴出物はスペースデブリであって、スペースデブリバンパーとして用いられることを特徴とする[1]又は[2]に記載のコーティング材被覆軽金属である。
[9][1]又は[2]に記載の前記コーティング材被覆軽金属による飛翔体を捕獲するために、及び/又は前記コーティング材被覆軽金属が飛翔体の衝突を受けたときに発生する噴出物を低減・抑制するために、及び/又は前記飛翔体による衝撃を緩和するために使用されることを特徴とするコーティング材被覆軽金属の使用方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明によるコーティングされた軽金属によれば、必要なコーティング厚さは1~150 μmで、非常に薄く、全体の質量には、ほとんど影響を与えないが、イジェクタの個数を半分程度とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】MASTER2009・ORDEM3.0のフラックスモデルの信頼度評価方法によるスペースデブリの状態を示す図である。
【
図2】本発明の一つの実施形態であるコーティング材被覆軽金属と、そのコーティング材被覆軽金属に飛翔体が衝突したときの様子を模式的に示す図である。
【
図3】(a)板形状のコーティング材被覆軽金属に対する飛翔体による高速衝突試験方法と、前方へのイジェクタ、後方へのイジェクタへの様子、(b)イジェクタ例、(c)イジェクタの寸法(長さa、幅b)投影面積(Ae)を、それぞれ示す図である。
【
図4】試験片に対する飛翔体衝突試験の観察結果であって、試験片が(a)Al5 μmコーティング、(b)Al25 μmコーティング(c)Al(コーティング無し)を、それぞれ示す図である。
【
図5】
図4(a)~(c)の貫通穴の近くの観察結果をそれぞれ示す図である。
【
図6】試験片に対するイジェクタサイズ分布を示す図である。
【
図7】ISOに準拠した検証板(銅板)の観察結果であって、試験片が(a)Al5 μmコーティング、(b)Al25 μmコーティング(c)Al (コーティング無し)を、それぞれ示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ本発明の実施の形態について説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、発明の範囲を逸脱しない限りにおいて、変更、修正、改良を加え得るものである。
【0012】
図1から、スペースデブリが年々増加し、その個数は例えば1 mmと100 μmの大きさのスペースデブリを対比すると、スペースデブリのサイズが小さいほど多いことがわかる。さらに具体的に説明すると、以下のようである。横軸、縦軸ともに対数で、横軸が一桁変わると、縦軸で2桁変化し、つまり、100 倍増えることを意味している。
【0013】
図2に示すように、本発明の一つの実施形態であるコーティング材被覆軽金属1は、軽金属2に20 μm程度のコーティング材によるコーティング層3を有する。飛翔体4がコーティング材被覆軽金属1の表面に衝突すると、衝突中はその表面は凹んでクレータ5ができると共に、クレーターリップ6とクレーターリップからのイジェクタ7が生成される。コーティング材被覆軽金属1が薄い場合には,貫通穴が開くことになる.
コーティング材被覆軽金属1に使用する軽金属は密度が5以下であって、例えばアルミニウム(密度2.7 g/cm
3)、マグネシウム(密度1.7 g/cm
3)又はチタン(密度4.5 g/cm
3)が好ましい。
【0014】
コーティング層3を形成する材料は、耐宇宙環境性が高い材料として、無機―有機複合体が好ましく、シロキサン系の化合物がより好ましい。シロキサン系の化合物としては例えばシルセキスオキサン誘導体やシロキサン変性ポリイミドがさらに好ましい。なお、シルセスキオキサン(RSi01.5)nは無機シリカ(Si0)と有機シリコーン(R2Si0)の中間的な存在の化合物である。
【0015】
軽金属2はアルミニウム、マグネシウム、チタンが好ましく、コーティング材はシルセスキオキサンとしてヤング率の観点から対比してみると次のようである。アルミウムのヤング率は70 GPa、マグネシウムのヤング率は45 GPa、チタンのヤング率は116 GPaであり、一方、シルセスキオキサン誘導体(密度:1 g/cm3程度)のヤング率は1 GPa程度である。そうすると、アルミウムのヤング率/シルセスキオキサン誘導のヤング率-=70/1=70であり、マグネシウムのヤング率/シルセスキオキサン誘導のヤング率-=45/1=45、チタンのヤング率/シルセスキオキサン誘導のヤング率-=116/1=116である。そのため、軽金属のヤング率/コーティング材のヤング率は40以上である。
【0016】
次に音響インピーダンスの観点から対比してみると次のようである。波の伝播の反射、透過と考えると、音響インピーダンスが影響するからである。音響インピーダンス=密度×音速で、音速は√(ヤング率/密度)なので、音響インピーダンス=√(ヤング率×密度)である。そうすると、シルセスキオキサン誘導体の音響インピーダンス=√(1×1=1であり、アルミニウムの音響インピーダンス=√(70×2.7)=13.7、マグネシウムの音響インピーダンス=√(45×1.7)=8.75、チタンの音響インピーダンス=√(116×4.5)=22.8である。そのため、軽金属の音響インピーダンス/コーティング材の音響インピーダンスは8 倍以上が好ましく、10 倍以上がより好ましい。
【0017】
そうすると、ヤング率、音響インピーダンスが大きく異なる密度が5 g/cm3以下の軽金属にコーティング材をコーティングすると、一般的には、その両者の剥離が生じやすいと考えられる。ところが、意外にも、その剥離は生じにくく、軽金属のコーティング材として、無機―有機複合体が好ましく、シロキサン系の化合物がより好ましく、特にシルセスキオキサン誘導体(シルセスキオキサン系)が優れていることが分かったのである。
【0018】
その理由についてはまだ十分には明らかではないが、次のような推定が可能である。コーティング材被覆軽金属からコーティング材が剥がれるには、1)伸びに関係するヤング率、2)波の反射についての音響インピーダンスが関係する。1) ならば、変形が少なくて、そんなに伸びないので、ヤング率の違いが関係しない。2)ならば、コーティング材の層が薄いので、理想的な波の反射・透過にならず、波が複雑に干渉して、打ち消し合っていることが考えられる。
【0019】
コーティング層3の膜厚は、耐原子状酸素、高透明性、耐UV性、低アウトガスのバランスが取れ、かつ軽量にすべき観点から、1~150 μmが好ましく、5~25 μmがより好ましく、10~20 μmが最も好ましい。コーティング材被覆軽金属1が板状(板形状)であることは、スペースデブリ(宇宙ゴミ)もしくは模擬した飛翔体を捕獲するために効率的である。
また、軽金属2がアルミニウム合金である場合、その材質は、作製のし易さおよび現在多く使われているアルミニウム合金の早急な代替の観点から、JIS6061、JIS2219、JIS2024又はJIS1100が好ましい。
【0020】
コーティング材被覆軽金属1によって飛翔体4を捕獲するために、及び/又はコーティング材被覆軽金属1が飛翔体4の衝突を受けたときに発生する噴出物を低減するために、及び/又は飛翔体4による衝撃を緩和するためにコーティング材被覆軽金属1を使用することは、コーティング材被覆軽金属1の有用な使用方法であり、したがって、そのために使用されるコーティング材被覆軽金属1は有用である。さらに、スペースデブリがその他の飛翔体4となっても、その飛翔体を捕獲する必要があれば、同様である。
【0021】
そこで、コーティング材被覆軽金属1を備えた構造物を宇宙に存在させた場合について、
図2に基づき、スペースデブリ(宇宙ゴミ)もしくは模擬した飛翔体(以下「飛翔体等」を言う場合がある)4が、コーティング材被覆軽金属1に高速衝突する場合について記載する。
【0022】
飛翔体等4がコーティング材被覆軽金属1に高速衝突すると、衝突を受けたコーティング材被覆軽金属1の表面には、貫通孔(図示せず)もしくはクレータ5とクレーターリップ6が形成され、一般に、その高速の衝突速度が大きくなれば、貫通孔径もしくは、クレータ5のサイズは大きくなり、クレーターリップ6の形成は促進されるが、貫通孔径もしくはクレータ5およびクレーターリップ6のサイズ、形状は材料特性(降伏応力、破断伸びなど)により変化し、さらに、材料の組み合わせにより、その傾向は変化する。衝突を受けたコーティング材被覆軽金属1の表面からは、コーティング材被覆軽金属1の破片であるイジェクタ(噴出物)8が噴出する。イジェクタ(噴出物)7、8が、そのまま宇宙空間に存在してスペースデブリとなる。クレータ5のサイズが大きいほど、多くの体積がイジェクタ(噴出物)となり、スペースデブリとなる。クレーターリップ6が大きいほど、イジェクタ(噴出物)7、8が減る。
【0023】
高速衝突について記載すると次のようである。1957年10月のスプートニク1号の打ち上げ以降、地球の低軌道には、宇宙ゴミ(スペースデブリ)が増加している。地上から追跡できている100 mm以上の物体は2 万個、10 mm以上は50~70 万個、1 mm以上は1 億個を超えるとされており、宇宙活動の妨げになる。また、衝突速度は、平均10 km/sの高速である。今後は、月および月の周回軌道上の開発が計画されており、地球の低軌道以外でも、宇宙ゴミ(スペースデブリ)が増える可能性がある。衝突速度10 km/sという、地球上ではほとんど見られない高速衝突では、衝突時に飛翔体は破砕し、衝突された材料が厚い場合には、その表面にはクレータが形成され、薄い場合には貫通し、貫通孔が形成される。どちらの場合においても、その境界面には、クレーターリップが形成する。
【0024】
また、貫通孔、クレータとクレーターリップについて記載すると次のようである。貫通孔は、衝突された材料を貫通した孔であり、クレータは衝突された材料の表面に形成される凹みである。クレーターリップは、貫通孔もしくはクレータの境界部の近くに形成される凸部である。その高速の衝突速度が大きくなれば、その貫通孔およびクレータのサイズは大きくなり、クレーターリップの形成は促進されるが、貫通孔、クレータおよびクレーターリップのサイズ、形状は材料特性(降伏応力、破断伸びなど)により変化し、さらに、材料の組み合わせにより、その傾向は変化する。一般に、均一の材料の場合、降伏応力もしくは、硬さが大きいほど、貫通孔もしくはクレータは小さくなり、破断伸びが大きいほどクレーターリップ(以下、単に「リップ」と言う場合がある)は大きく形成されることが知られているが、降伏応力もしくは、硬さが大きく、かつ破断伸びが大きい材料は殆どなく、さらに、宇宙で利用するためには、軽量である方がよい。スペースステーションのデブリバンパーには、JIS6061からなる板(約1 mm)が用いられているため、実施例、比較例で使用したアルミニウム合金として、JIS6061で厚み1.0 mmとしたものを用いた。
【実施例0025】
(試験片の製作)
板状(板形状)のアルミニウム合金JIS6061で、大きさ5 cm×15 cm、厚み1.0 mmのものを4 枚と、コーティング材としてシルセスキオキサン誘導体を用意した。4 枚のうち1 枚に膜厚5 μmでコーティングし(コーティング材被覆アルミ二ウム合金11、実施例1)、もう1 枚に膜厚25 μmでコーティングし(コーティング材被覆アルミ二ウム合金12、実施例2)、残りの2枚にはコーティングしなかった(アルミ二ウム合金13、比較例1)。すなわち4枚の試験片を作成した。
【0026】
(飛翔体による高速衝突試験)
図3に示すようにして飛翔体による高速衝突試験を行った。コーティング材被覆アルミ二ウム合金11(実施例1)、コーティング材被覆アルミ二ウム合金12(実施例2)、アルミ二ウム合金13(比較例1)をターゲットとし、検証板が有する貫通孔を通過した、所定の衝突速度(高速)の飛翔体を、ターゲットに衝突させ、ターゲットより検証板方向に噴出したイジェクタ(前方へのイジェクタ14)を検証板で受け、ターゲットより与圧壁方向に噴出したイジェクタ(後方へのイジェクタ14´)を与圧壁で受けた(後方へのイジェクタ14´は測定しなかった)。検証板とターゲットの間隔はISO 11227の指定範囲内になるように、50 mmとし、与圧壁とターゲットの間隔はISO 11227の指定範囲内になるように、100 mmとした。
【0027】
検証板については次のようである。例えば材質は、ISO 11227に準拠し、銅板を用いて、さらにその型番および硬さは、C1100P-1/4Hであり、推奨されている厚さ2 mmを用いた。
【0028】
与圧壁については次のようである。実際の宇宙ステーションの与圧壁を模擬した材料として、アルミニウム合金2024もしくは、2017が多く使われている(本当の与圧壁は2219材を使っていると言われている)。
【0029】
飛翔体については次のようである。例えば材質は、ISO 11227の規定では、アルミニウム合金の2017もしくは2024を用いることが望まれている。飛翔体は球で、その直径は、ISO 11227では1 mmで衝突速度は5 km/sであるが、ほぼ運動エネルギーは合わせて、直径3.2 mmのものを使用した。
また、飛翔体が有する所定の速度は、超高速衝突の観点から、2 km/s以上であることが好ましい。
【0030】
図3(b)に示すイジェクタ24の寸法は、同(c)に示すイジェクタ24´のように投影図を測定して、その長さa、幅bを定めた。
【0031】
以下の実験例では、検証板は、銅板C1100P-1/4H(厚さは2 mm)を、与圧壁は、模擬材として、アルミニウム合金2024を、飛翔体はアルミニウム合金2017(φ3.2 mm)を、それぞれ使用して飛翔体衝突試験を行った。
【0032】
コーティング材被覆アルミ二ウム合金11を使用し、衝突速度3.15 km/s、コーティング側からの衝突(実験例1)では、コーティング側(衝突面側)の状態は、
図4(a)、
図5(a)に示すような貫通孔h11、リップh11Aが観察された。コーティング材被覆アルミ二ウム合金12を使用し、衝突速度3.29 km/s、コーティング側からの衝突(実験例2)では、コーティング側(衝突面側)の状態は、
図4(b)、
図5(b)に示すような貫通孔h12、リップh12Aが観察された。アルミ二ウム合金13を使用し、衝突速度3.12 km/s、コーティング側からの衝突(比較実験例1)では、コーティング側(衝突面側)の状態は、
図4(c)、
図5(c)に示すような貫通孔h13、リップh13Aが観察された。
図5(a)~(c)に示すように、貫通孔の近くのコーティングの有無しにより、リップの大きさ、形状に、大きな変化はなかった。
【0033】
表1には、コーティング材被覆アルミ二ウム合金11、12(実施例1、2)、アルミ二ウム合金13(比較例1)、及びそれらを使用した実験例1、2、比較実験例1、2についてまとめた。貫通穴の面積について比較すると、例えば、実施例1/実施例2=11.2/11.7=0.957、実施例1/比較実験例1=11.2/11.5=0.974、実施例1/比較実験例2=11.2/11.3=0.991、実施例2/比較実験例1=11.7/11.5=1.02であった。すなわち、コーティングの有無しにより、貫通孔の面積はほとんど変わらなかった。なお、衝突速度は3.15 km/s~3.29 km/sであって、ほとんど同じであった。
(表1)
【0034】
図6に示すように、前方イジェクタの長さaと、イジェクタの個数(縦軸は累積個数分布)の関係は次のようである。それぞれの前方イジェクタの長さに対する、前方イジェクタの長さaより大きいイジェクタの個数(累積個数)は、前方イジェクタの長さaが、例えば約1 mmの時に、イジェクタサイズ分布は以下のようであった。
コーティング材被覆アルミ二ウム合金12(アルミ二ウムコーティング25 μm、実施例2)で衝突速度3.29 km/s(実験例2)<コーティング材被覆アルミ二ウム合金11(アルミ二ウムコーティング5 μm、実施例1)で衝突速度3.15 km/s(実験例1)<アルミ二ウム合金13(アルミ二ウムコーティングなし、比較例1)で衝突速度3.12 km/s(比較実験例1)<アルミ二ウム合金13(アルミ二ウムコーティングなし、比較例1)で衝突速度3.15 km/s(比較実験例2)
以上により、アルミ二ウム合金をコーティングすることにより、イジェクタの個数は低下していることが分かった。そして膜厚5 μmのコーティングでも効果はみられた。
【0035】
ISO 11227に準拠した検証板(銅板)を使用して、前方へのイジェクタの評価方法(間接法)により、前方へのイジェクタを調べた。ターゲットの前方へ検証板を配置し、前方へ飛散するイジェクタが衝突することで、圧痕(クレータ)が表面にできることで、イジェクタを評価する。なお、中心には、飛翔体が通過するための穴(h21、h22、h23)が開いている。
【0036】
図7において銅板21(同図(a)Al5 μmコーティング)、銅板22(同図(b)Al25 μmコーティング)、銅板23(同図(c)Alコーティング無し)は、実験後の検証板の写真であるが、どの場合においても、飛翔体が通過するための穴の周りに、円環状の圧痕の領域が観察できる。どの場合も、内径は80 mm程度で、外径は100 mm程度であった。コーティングすることにより、わずかに内径、外径が大きくなっているが、大きな違いはなかった。また、その圧痕の個数、大きさ、密度にも大きな違いはなかった。
本発明のコーティング材被覆軽金属の用途としては、今後、月や火星への探査が進むにつれて、現在問題になっている地球の周りのスペースデブリ(宇宙ゴミ)だけでなく、月、火星でのスペースデブリ(宇宙ゴミ)対策が考えられる。