(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170898
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】水素の製造方法
(51)【国際特許分類】
C01B 3/06 20060101AFI20241204BHJP
【FI】
C01B3/06
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087655
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 健一
(72)【発明者】
【氏名】水谷 友哉
(57)【要約】
【課題】水素の製造効率を向上させることができる水素の製造方法を提供する。
【解決手段】水素の製造方法は、粉砕媒体が収容された容器を有する粉砕装置を用いて、砕料と溶媒とを粉砕混合して、メカノケミカル反応により水素を製造する。溶媒は水を含み、砕料は、メカノケミカル反応により酸化しかつ酸化された後の物質が、粉砕媒体及び容器の少なくとも一方を構成する無機物質に対する酸化剤となる無機酸化物である。
【選択図】
図7
【特許請求の範囲】
【請求項1】
粉砕媒体が収容された容器を有する粉砕装置を用いて、砕料と溶媒とを粉砕混合して、メカノケミカル反応により水素を製造する水素の製造方法であって、
前記溶媒は水を含み、
前記砕料は、前記メカノケミカル反応により酸化した後の物質が、前記粉砕媒体及び前記容器の少なくとも一方を構成する無機物質に対する酸化剤となる無機酸化物であることを特徴とする水素の製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の水素の製造方法において、
前記砕料は、酸化クロム(Cr2O3)、酸化鉄(III)(Fe2O3)、又は酸化ニッケル(II)(NiO)であることを特徴とする水素の製造方法。
【請求項3】
請求項2に記載の水素の製造方法において、
前記粉砕媒体及び前記容器の少なくとも一方は、ステンレス鋼であることを特徴とする水素の製造方法。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1つに記載の水素の製造方法において、
前記粉砕装置は、粉砕媒体としてボールを用いた遊星ボールミル装置であり、
前記遊星ボールミル装置の回転数は、200rpm~700rpmであることを特徴とする水素の製造方法。
【請求項5】
粉砕媒体が収容された容器を有する粉砕装置を用いて、砕料と、溶媒と、反応促進材とを粉砕混合して、メカノケミカル反応により水素を製造する水素の製造方法であって、
前記溶媒は水を含み、
前記砕料は、前記メカノケミカル反応により酸化しかつ酸化された後の物質が、前記反応促進材を構成する無機物質に対する酸化剤となる無機酸化物であることを特徴とする水素の製造方法。
【請求項6】
請求項5に記載の水素の製造方法において、
前記砕料は、酸化クロム(Cr2O3)であることを特徴とする水素の製造方法。
【請求項7】
請求項6に記載の水素の製造方法において、
前記反応促進材は、鉄粒子であることを特徴とする水素の製造方法。
【請求項8】
請求項7に記載の水素の製造方法において、
前記粉砕媒体及び前記容器は、ジルコニア(ZrO2)であることを特徴とする水素の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
ここに開示された技術は、水素の製造方法に関する技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
近年、自然エネルギーの利用推進が世界中で求められている。その1つとして、水素をエネルギー源として用いることが提案されている。例えば、自動車用の燃料電池においては、水素が燃料として使用されている。また、水素自体を気体燃料として用いることもある。これらの自動車の排ガスには、二酸化炭素が含まれないため、水素エネルギーは、地球温暖化や環境汚染を抑制することができるエネルギー源として注目されている。
【0003】
従来、水素の製造方法としては、天然ガスなどの化石燃料を水蒸気改質させる方法が知られている。しかしながらこの方法では、水素を製造する過程で二酸化炭素が発生してしまう。
【0004】
そこで、例えば、特許文献1に記載の製造方法のように、粉砕媒体が収容された容器を有する遊星ボールミルを用いて、ケイ素(Si)やアルミニウム(Al)等の無機物質と溶媒とを粉砕混合して、メカノケミカル反応により水素を製造する、ことが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、一般に、無機物質の表面、特に金属の表面には、空気中の酸素と反応して生成された酸化膜が形成されている。無機物質の一部が酸化膜となっているため、実際の無機物質単体の量は理論上の量よりも小さい。特に、無機物質が粉末状のときには、表面積が広くなるため、酸化膜の割合もその分増加してしまう。酸化膜の割合が増加すると、砕料の物質量に対する水素の製造効率が低下してしまう。一方で、メカノケミカル反応を効率的に進行させるには、砕料の表面積が広い方が好ましい。
【0007】
特許文献1に記載のように、無機物質を用いる場合には前記のようなトレードオフの関係が生じる。したがって、水素の製造効率を向上させるには改良の余地がある。
【0008】
ここに開示された技術は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、水素の製造効率を向上させることができる水素の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、ここに開示された技術の第1の態様では、粉砕媒体が収容された容器を有する粉砕装置を用いて、砕料と溶媒とを粉砕混合して、メカノケミカル反応により水素を製造する水素の製造方法を対象として、前記溶媒は水を含み、前記砕料は、前記メカノケミカル反応により酸化した後の物質が、前記粉砕媒体及び前記容器の少なくとも一方を構成する無機物質に対する酸化剤となる無機酸化物である、という構成とした。
【0010】
すなわち、無機酸化物と水との間でメカノケミカル反応が進行すると、無機酸化物が酸化されて、より酸化数の大きい酸化物が生成される。このとき、水が還元されて、水素が発生する。生成された酸化物(より酸化数の大きい酸化物)が、粉砕媒体及び容器の少なくとも一方を構成する無機物質に対する酸化剤となれば、メカノケミカル反応により、該無機物質は酸化する。一方で、酸化された無機酸化物は還元されて、元の無機酸化物が生成される。その後、還元された無機酸化物がメカノケミカル反応により酸化されると、再び水素が発生する。これが繰り返されることで、水素が製造され続ける。
【0011】
また、この構成では、砕料は無機酸化物であるため、空気中に晒されたとしても表面が別の酸化膜になり難い。このため、粉末状にして表面積を増大させたとしても、無機酸化物自体の割合を高くすることができる。
【0012】
したがって、水素の製造効率を向上させることができる。
【0013】
ここに開示された技術の第2の態様では、前記第1の態様において、前記砕料は、酸化クロム(Cr2O3)、酸化鉄(III)(Fe2O3)、又は酸化ニッケル(II)(NiO)である。
【0014】
例えば酸化クロム(Cr2O3)は、メカノケミカル反応により以下の様に酸化される。
Cr2O3+ 5H2O → 2CrO4
2- + 4H+ + 3H2
このクロム酸イオン(CrO4
2-)は、酸化数が6であって強い酸化剤として機能するため、粉砕媒体や容器を構成する無機物質を酸化させる。これにより、CrO4
2-自身は還元されてCr2O3になる。これが繰り返されることで、水素が製造され続ける。したがって、前述の構成により、水素の製造効率をより向上させることができる。
【0015】
ここに開示された技術の第3の態様では、前記第2の態様において、前記粉砕媒体及び前記容器の少なくとも一方は、ステンレス鋼である。
【0016】
すなわち、ステンレス鋼は、無機物質として鉄を含んでいる。鉄は酸化しやすいため、砕料が酸化して生成された酸化剤により、比較的容易に酸化される。これにより、砕料は容易に元の無機酸化物に戻るため、水素の製造効率をより向上させることができる。
【0017】
ここに開示された技術の第4の態様では、前記第1~第3の態様のいずれか1つにおいて、前記粉砕装置は、粉砕媒体としてボールを用いた遊星ボールミル装置であり、前記遊星ボールミル装置の回転数は、200rpm~700rpmである。
【0018】
本願発明者らが鋭意検討したところ、遊星ボールミル装置において回転数を200rmp以上にすると、粉砕媒体と容器壁面、又は粉砕媒体同士が衝突する際に、局所的に超臨界水が生成されることが分かった。超臨界水が生成されると、無機酸化物の酸化が促進されて、水素を製造しやすくなる。これにより、水素の製造効率をより向上させることができる。
【0019】
ここに開示された技術の第5の態様では、粉砕媒体が収容された容器を有する粉砕装置を用いて、砕料と、溶媒と、反応促進材とを粉砕混合して、メカノケミカル反応により水素を製造する水素の製造方法を対象として、前記溶媒は水を含み、前記砕料は、前記メカノケミカル反応により酸化しかつ酸化した後の物質が、前記反応促進材を構成する無機物質に対する酸化剤となる無機酸化物である、という構成とした。
【0020】
この構成によると、粉砕媒体や容器が酸化しにくい材料で構成されていたとしても、反応促進材が酸化することで粉砕を還元することができる。このため、水素の製造効率を向上させることができる。
【0021】
ここに開示された技術の第6の態様では、前記第5の態様において、前記砕料は、酸化クロム(Cr2O3)である。
【0022】
前述したように、これらの無機酸化物を砕料として用いることで、水素の製造効率をより向上させることができる。
【0023】
ここに開示された技術の第7の態様では、前記第6の態様において、前記反応促進材は、鉄粒子である。
【0024】
前述したように、鉄は酸化しやすいため、砕料が酸化して生成された酸化剤により、比較的容易に酸化される。これにより、元の無機酸化物が生成されるため、水素の製造効率をより向上させることができる。
【0025】
ここに開示された技術の第8の態様では、前記第5~7の態様のいずれか1つにおいて、前記粉砕媒体及び前記容器は、ジルコニア(ZrO2)である。
【0026】
この構成によると、ジルコニアは、既に酸化されているため、砕料が酸化して酸化剤となっても酸化反応しにくい。これにより、容器の寿命を長くすることができ、水素の製造を長時間安定して行うことができる。
【発明の効果】
【0027】
以上説明したように、ここに開示された技術によると、水素の製造効率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】
図1は、実施形態1に係る水素の製造方法において使用する遊星ボールミル装置の構成を示す断面図である。
【
図2】
図2は、
図1の遊星ボールミル装置が備える容器の内部における材料と粉砕媒体の動作を説明するための図である。
【
図3】
図3は、水素が製造される過程を概略的に示す模式図である。
【
図4】
図4は、実施形態2における遊星ボールミル装置が備える容器の内部における材料と粉砕媒体の動作を説明するための図である。
【
図5】
図5は、砕料が酸化クロムである場合において、発生した気体のガスクロマトグラフィーの結果を示す図である。
【
図6】
図6は、砕料がクロムである場合において、発生した気体のガスクロマトグラフィーの結果を示す図である。
【
図7】
図7は、砕料を酸化クロム及びクロムとした場合の水素の製造量をそれぞれ示すグラフである。
【
図8】
図8は、遊星ボールミルの粉砕媒体及び容器の材質と水素の製造量との関係を示すグラフである。
【
図9】
図9は、砕料を投入しなかった場合の水素の製造量の関係を示すグラフである。
【
図10】
図10は、遊星ボールミルの回転数と水素の製造量との関係を示すグラフである。
【
図11】
図11は、砕料が酸化クロムである場合において、容器内の雰囲気と水素の製造量との関係を示すグラフである。
【
図12】
図12は、砕料がチタンである場合において、容器内の雰囲気と水素の製造量との関係を示すグラフである。
【
図13】
図13は、反応促進材の有無と水素の製造量との関係を示すグラフである。
【
図14】
図14は、砕料を酸化鉄(III)、酸化鉄(II,III)、酸化鉄(II)、及び鉄とした場合の水素の製造量をそれぞれ示すグラフである。
【
図15】
図15は、砕料を酸化ニッケル(II)及びニッケルとした場合の水素の製造量をそれぞれ示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の実施形態は単なる例示に過ぎず、本発明の範囲を限定的に解釈してはならない。本発明の範囲は請求の範囲によって定義され、請求の範囲の均等範囲に属する変形や変更は、全て本発明の範囲内のものである。
【0030】
(実施形態1)
図1は、本実施形態1に係る水素の製造方法において使用する粉砕装置としての遊星ボールミル装置1の構成を示す断面図である。
【0031】
本実施形態1は、遊星ボールミル1を用いて、砕料3としての無機酸化物と溶媒4としての水とを粉砕混合し、摩擦や衝撃等により機械的なエネルギーを付与して、砕料3と溶媒4の活性を高めるメカノケミカル反応により、常温で水素を製造する方法である。このメカノケミカル反応を行うための装置としては、反応用の容器5を備え、当該容器5内に、機械的なエネルギーを付与するための粉砕媒体2が収容された装置であれば、遊星ボールミル1に限らず、どのような装置でも使用できる。攪拌効率、及びエネルギー付与効率の観点からは、粉砕媒体2が収容された容器5を有する遊星ボールミル1が好ましい。装置としては、遊星ボールミル以外では、ボールミル、ビーズミル、ロッドミル、ジェットミル、SAGミル、ROMミル、回転式石臼などから選択される。
【0032】
遊星ボールミル装置1は、中心軸まわりに回転駆動される回転軸11と、回転軸11と一体回転するテーブル6と、テーブル6にケーシング13を介して回転自在に支持された2つの容器5(ミルポット)と、2つの容器5内にそれぞれ収容される複数個の粉砕媒体2(ボール)とにより構成されている。このテーブル6は、2つの容器5を回転自在に支持した状態で回転可能な支持部材として機能する。
【0033】
容器5は、ケーシング13に上方から挿入して固定される筒状の本体に上蓋を設けたものである。容器5は、上蓋を開けて粉砕媒体2及び材料(特に、無機酸化物と水)が投入される構成となっている。容器5の材質は、酸化されやすい無機物質を含むものが好ましく、例えば、ステンレス鋼(SUS)製である。容器5の大きさは特に限定されず、例えば、40cm3の容積を有する容器が使用できる。
【0034】
粉砕媒体2は、略球形状のものを使用することができる。粉砕媒体2の大きさは特に限定されず、例えば1.6mm、5mm、及び10mmなどの直径を有する粉砕媒体2を使用することができ、種々のサイズの粉砕媒体2を組み合わせてもよい。また、粉砕媒体2の材質も、酸化されやすい無機物質を含むものが好ましく、例えば、ステンレス鋼(SUS)製である。粉砕媒体2は、種々の材質の粉砕媒体2を組み合わせてもよい。
【0035】
尚、容器の材質と粉砕媒体2の材質とのうち少なくとも一方が酸化されやすい無機物質を含んでさえいれば、前述した容器5の材質と粉砕媒体2の材質とは異なっていてもよい。例えば、容器5の材質をステンレス鋼(SUS)にして、粉砕媒体2の材質をタングステンカーバイト(WC)にしてもよい。
【0036】
遊星ボールミル装置1は、回転軸11の回転速度及び容器5の回転速度を調整することが可能なボールミル装置である。前記各回転速度は、水素が効率的に製造される値に設定される。
【0037】
本実施形態1では、砕料3として、メカノケミカル反応により酸化しかつ酸化した後の物質が、粉砕媒体2及び容器5の少なくとも一方を構成する無機物質に対する酸化剤となる無機酸化物が採用される。より具体的には、砕料3は、酸化クロム(Cr2O3)、酸化鉄(III)(Fe2O3)、及び酸化ニッケル(NiO)から選択された1つ以上の無機酸化物である。
【0038】
次に、砕料3として酸化クロム(Cr2O3)を用い、粉砕媒体2及び容器5としてステンレス鋼(SUS)を用いて水素を製造する場合について説明する。以下の説明では、「酸化クロム」はCr2O3を意味し、「ステンレス鋼」はSUSを意味する。
【0039】
まず、
図2に示すように、粉砕媒体2が収容された各容器5内に、酸化クロムからなる粉末と水とを投入する。次に、この容器5を、
図1に示すテーブル6に設けられたケーシング13に挿入して固定する。
【0040】
次に、遊星ボールミル装置1を駆動させる。これにより、回転軸11に取り付けられた歯車(図示省略)と各ケーシング13に取り付けられた歯車(図示省略)との噛み合いによって、各容器5が回転軸11の周りを公転しながら、各容器5自身も回転軸11とは別の回転軸(図示省略)周りを自転する。
【0041】
図3には、砕料3として酸化クロムを用いた場合の水素の製造メカニズムを模式的に示す。この
図3に示す反応が容器5内で発生している。
【0042】
図3に示すように、遊星ボールミル装置1によって、粉砕媒体2と容器5、又は粉砕媒体2同士が衝突することで、メカノケミカル反応が進行すると、以下のように、酸化クロムが酸化するとともに、水素が生成される。
Cr
2O
3+ 5H
2O → 2CrO
4
2- + 4H
+ + 3H
2
特に、粉砕媒体2と容器5、又は粉砕媒体2同士が衝突することで、水が高温及び高圧の状態になって、局所的に超臨界水が生成される。この超臨界水と酸化クロムとが酸化還元反応して、クロム酸イオン(CrO
4
2-)が生成される。また、酸化クロムが粉砕されることで、酸化クロムのサイズが小さくなって、酸化クロムの表面積が増大するため、容器5内の酸化クロムに対してメカノケミカル反応を進行させることができる。
【0043】
ここで、粉砕媒体2と容器5、又は粉砕媒体2同士が衝突すると、粉砕媒体2及び容器5の一部が削られる。これにより、水中には、ステンレス鋼を構成する無機物質である鉄、クロム、ニッケル等が存在するようになる。
【0044】
鉄が水中に存在すると、
図3に示すように、メカノケミカル反応により、クロム酸イオンと鉄との酸化還元反応が発生する。特にクロム酸イオンは、酸化数が6であって強い酸化剤として機能するため、以下のように反応が進行する。
8CrO
4
2-+ 9Fe + 16H
+ → 4Cr
2O
3 + 3Fe
3O
4+ 8H
2O
つまり、酸化クロムが酸化された酸化物が鉄を酸化することで還元されて、元の酸化クロムが生成される。
【0045】
そして、
図3に示すように、酸化還元反応により酸化クロムが生成されると、メカノケミカル反応により、生成された酸化クロムが再度酸化されて、再度水素が発生する。これが繰り替えされることで、水素が発生し続ける。
【0046】
したがって、本実施形態1では、遊星ボールミル1を用いて、砕料3と溶媒4とを粉砕混合して、メカノケミカル反応により水素を製造する製造方法において、溶媒4は水を含み、砕料3は、メカノケミカル反応により酸化しかつ酸化した後の物質が、粉砕媒体2及び容器5の少なくとも一方を構成する無機物質に対する酸化剤となる無機酸化物である。砕料3は無機酸化物であるため、空気中に晒されたとしても表面が別の酸化膜になり難い。このため、粉末状にして表面積を増大させたとしても、無機酸化物自体の割合を高い状態にすることができる。また、水との酸化還元反応により酸化した後に、粉砕媒体2及び容器5の少なくとも一方を構成する無機物質との酸化還元反応により、元の無機酸化物が生成されるため、水素を製造し続けることができる。また、水が少なくなったときには、水を追加すれば再び水素を製造することができる。したがって、水素の製造効率を向上させることができる。
【0047】
(実施形態2)
以下、実施形態2について詳細に説明する。尚、以下の説明において前記実施形態1と共通の部分については、同じ符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0048】
本実施形態2は、砕料3及び水に加えて、反応促進材としての鉄を一緒に粉砕混合する点で、前記実施形態1とは異なる。また、粉砕媒体2の材質及び容器5の材質が、ジルコニア(ZrO2)である点で、前記実施形態1とは異なる。
【0049】
具体的には、本実施形態2では、
図4に示すように、砕料3、鉄粒子200、及び水を容器5に投入して、遊星ボールミル装置1により粉砕混合する。砕料3は、前記実施形態1と同様の無機酸化物が用いられる。
【0050】
粉砕媒体2の材質及び容器5の材質が、ジルコニアであるため、砕料3が酸化されたとしても、粉砕媒体2及び容器5を構成する無機物質とは酸化還元反応しない。代わりに、砕料3の酸化物は、鉄粒子200と酸化還元反応する。砕料3の酸化物が鉄粒子200と酸化還元反応することで、元の無機酸化物が生成される。これにより、無機酸化物により再度水素を製造することができる。
【0051】
したがって、本実施形態2によると、砕料3として、メカノケミカル反応により酸化しかつ酸化した後の物質が、反応促進材を構成する無機物質に対する酸化剤となる無機酸化物を用いることで、水素の製造効率を向上させることができる。
【0052】
(その他の実施形態)
ここに開示された技術は、前述の実施形態に限られるものではなく、請求の範囲の主旨を逸脱しない範囲で代用が可能である。
【0053】
例えば、前述の実施形態1及び2では、溶媒として水を用いていた。これに限らず、溶媒としては水(H2O)を含んでいればよく、例えば、海水やアルカリ溶液であってもよい。
【実施例0054】
以下に、本発明を実施例に基づいて説明する。尚、本発明は、これらの実施例に限定されるものではなく、これらの実施例を本発明の趣旨に基づいて変形、変更することが可能であり、それらを本発明の範囲から除外するものではない。
【0055】
尚、以下の説明において、「酸化クロム」はCr2O3を意味し、「クロム酸イオン」はCrO4
2-を意味し、「酸化鉄(III)」はFe2O3を意味し、「酸化鉄(II,III)」はFe3O4を意味し、「酸化鉄(II)」はFeOを意味し、「鉄酸イオン」はFeO4
2-を意味し、「酸化ニッケル(II)」はNiOを意味し、「酸化ニッケル(III)」は、Ni2O3を意味し、「オキシ水酸化ニッケル」はNiO(OH)を意味し、「ステンレス鋼」はSUSを意味する。
【0056】
(実施例1)
遊星ボールミル(ドイツ・フリッチュ社製、商品名:プレミアムラインP-7)を使用して、酸化クロムと水との粉砕混合を行い、水素を製造した。より具体的には、ステンレス鋼により形成された粉砕媒体が収容された容器(ステンレス鋼製)内に、砕料として酸化クロム2mmolを投入するとともに、溶媒として水560mmolを投入した。そして、400rpmの回転速度で、600分間、遊星ボールミルを回転させて、酸化クロムと水の粉砕混合を行い、水素を生成させた。尚、容器内の雰囲気はアルゴンとした。
【0057】
(比較例1)
砕料がクロム2mmolであること以外は、前述の実施例1と同じ条件にして、水素を製造した。
【0058】
〈ガスクロマトグラフィーによる定性分析〉
容器をサンプリングバッグと真空ポンプに接続するとともに、接続ラインを真空にし、容器内の気体を、サンプリングバッグへ移動させた。なお、容器を、アルゴンガスが充填されたボンベに接続するとともに、サンプリングバッグの内圧が1気圧になるまで、容器内にアルゴンガスを充填した。
【0059】
そして、サンプリングバッグ内の気体を、シリンジを用いて採集し、ガスクロマトグラフ質量分析装置(株式会社島津製作所製)を使用して、気体の定性分析を行った。
【0060】
図5及び
図6に示すように、実施例1及び比較例1共に、強度が極めて強い水素のピーク(保持時間:1分)が確認できることが分かる。また、水素以外には顕著なピークがないことが分かる。以上より、実施例1及び比較例1共に、水素の生成が確認できた。
【0061】
次に、実施例1及び比較例1において、水素の製造量を算出した結果を
図7に示す。
【0062】
図7に示すように、砕料が酸化クロムであるときには、砕料がクロムであるときと比較して、水素の製造量がかなり多いことが分かる。具体的に、ミリング時間が600分の時点では、水素の製造量が約5倍であった。特に、理論上では2mmolの酸化クロムからは6mmolの水素が製造されるが、6mmolを超える量の水素が製造された。
【0063】
また、砕料が酸化クロムであるときには、ミリング時間に対して水素の製造量がほぼ直線的に増加している一方で、砕料がクロムであるときには、ミリング時間が200分を超えた辺りで水素が製造されにくくなっている(水素の製造速度が低くなっている)ことが分かる。前述したように、砕料が酸化クロムであるときには、粉砕媒体や容器を構成する無機材料と酸化クロムとが酸化還元を繰り返すことで水素が製造され続ける。一方で、砕料がクロムであるときには、投入したクロムの大半が酸化した時点で、水素が発生しにくくなる。実際、理論上では2mmolのクロムからは3mmolの水素が製造されるが、
図7を参照すると、水素の製造量が3mmol付近に収束していることが分かる。このため、砕料が酸化クロムであるときと、砕料がクロムであるときとで、水素の製造量が大きく異なる結果となる。
【0064】
また、水素の製造速度の違いは、粉砕媒体2と容器5、又は粉砕媒体2同士が衝突する際の局所温度の違いが要因であると考えられる。実際に、クロムと酸化クロムとで局所温度を計算すると、砕料がクロムであるときには400℃程度であり、砕料が酸化クロムであるときは1000℃程度になる。局所温度が上昇しにくくなると、メカノケミカル反応が進行しにくくなるため、水素が製造されにくくなる。この結果、砕料が酸化クロムであるときに比べて、砕料がクロムであるときは、水素の製造速度が遅くなる。
【0065】
尚、砕料がクロムであるときには、水素の製造過程で酸化クロムが製造されていると考えられる。しかしながら、
図5に示すように、砕料がクロムであるときと、砕料が酸化クロムであるときとで異なる結果となっている。この結果は、クロムの粉砕混合の過程で、クロムが粉砕媒体や容器の壁面に沿って広がって膜を形成するためと考えられる。この膜となったクロム自身が衝撃吸収材となるため、膜の表面付近はメカノケミカル反応により酸化クロムとなったとしても、膜の中央部分は酸化クロムにならずクロムのまま残る。そして、残ったクロムが衝撃吸収材となって、酸化クロムからクロム酸イオンへの酸化反応及びクロム酸イオンから酸化クロムへの還元反応が進行しにくくなると考えられる。
【0066】
(比較例2)
粉砕媒体及び容器がタングステンカーバイト(WC)であること以外は、前述の実施例1と同じ条件にして、水素を製造した。
【0067】
(比較例3)
粉砕媒体及び容器がジルコニア(ZrO2)であること以外は、前述の実施例1と同じ条件にして、水素を製造した。
【0068】
(比較例4)
砕料を投入しなかったこと以外は、前述の実施例1と同じ条件にして、水素を製造した。
【0069】
(比較例5)
砕料を投入しなかったこと以外は、前述の比較例2と同じ条件にして、水素を製造した。
【0070】
(比較例6)
砕料を投入しなかったこと以外は、前述の比較例3と同じ条件にして、水素を製造した。
【0071】
〈粉砕媒体及び容器の材質と水素の製造量との関係〉
図8は、実施例1、比較例2、及び比較例3の水素の製造量を算出した結果である。
図9は、比較例4~6の水素の製造量を算出した結果である。
【0072】
図8に示すように、粉砕媒体及び容器がステンレス鋼であるときには、粉砕媒体及び容器がタングステンカーバイトやジルコニアであるときと比較して、水素の製造量が著しく多いことが分かる。
図9に示すように、砕料を投入しないときには、粉砕媒体等の材質がいずれのものであっても、水素がほとんど製造されないことが分かる。このことから、粉砕媒体等がステンレス鋼であるときに水素の製造量が多くなるのは、粉砕媒体や容器自体が原料となって水素が発生することが原因ではなく、砕料の材質と粉砕媒体等の材質との組み合わせによるものであるといえる。
【0073】
前述したように、ステンレス鋼には鉄が含まれている。鉄は特に酸化されやすいため、粉砕媒体等の材質がステンレス鋼であるときには、クロム酸イオンが還元されやすい。一方で、タングステンカーバイトやジルコニアを構成する無機物質は酸化されにくい。特に、ジルコニアは既に酸化されているため、基本的にこれ以上酸化されない。このため、砕料が酸化クロムでありかつ粉砕媒体等がステンレス鋼であるときに、水素の製造量が著しく高くなったと考えられる。尚、粉砕媒体等がタングステンカーバイトであるときには、粉砕媒体等がジルコニアであるときと比べると水素の製造量が多い。これは、タングステンは、鉄ほどには酸化されやすくないが、ジルコニアよりは酸化されやすいためである。
【0074】
(実施例2)
遊星ボールミルの回転数を100rpmとしたこと以外は、前述の実施例1と同じ条件にして、水素を製造した。
【0075】
(実施例3)
遊星ボールミルの回転数を200rpmとしたこと以外は、前述の実施例1と同じ条件にして、水素を製造した。
【0076】
(実施例4)
遊星ボールミルの回転数を500rpmとしたこと以外は、前述の実施例1と同じ条件にして、水素を製造した。
【0077】
(実施例5)
遊星ボールミルの回転数を600rpmとしたこと以外は、前述の実施例1と同じ条件にして、水素を製造した。
【0078】
(実施例6)
遊星ボールミルの回転数を700rpmとしたこと以外は、前述の実施例1と同じ条件にして、水素を製造した。
【0079】
〈回転数と水素の製造量との関係〉
図10は、実施例1~6の水素の製造量を示す。
図10に示すように、回転数が高くなるほど水素の製造速度が高くなることが分かる。特に回転数が200rpm以上になると、効率的に水素が製造されていることが分かる。これは、回転数が200rpm以上のときには、容器と粉砕媒体又は粉砕媒体同士が衝突した際に、水が高温及び高圧の状態になって、局所的に超臨界水が生成されるためである。回転数を700rpmから更に高くしたとしても水素の製造速度は増加すると考えられるが、装置そのものへのダメージを考慮すると、回転数の上限を700rpm程度にすることが好ましい。したがって、遊星ボールミルの回転数を200rpm~700rpmにすると、水素を効率的に製造することができる。
【0080】
(実施例7)
容器内の雰囲気を空気にしたこと以外は、前述の実施例1と同じ条件にして、水素を製造した。
【0081】
(比較例7)
砕料をチタン2mmolにしたこと以外は、前述の実施例1と同じ条件にして、水素を製造した。
【0082】
(比較例8)
容器内の雰囲気を空気にしたこと以外は、前述の比較例7と同じ条件にして、水素を製造した。
【0083】
〈容器の雰囲気と水素の製造量との関係〉
図11は、実施例1及び7の水素の製造量を示す。
図12は、比較例7及び8の水素の製造量を示す。
【0084】
図11に示すように、砕料が酸化クロムであるときには、アルゴン雰囲気の方が若干水素の製造量が多いものの、容器内の雰囲気が空気であってもアルゴンであっても、類似の傾向を示すことが分かる。ミリング時間が600分の時点で、空気雰囲気とアルゴン雰囲気との水素の製造量の違いは6%程度であった。
【0085】
図12に示すように、砕料がチタンであるときには、ミリング時間が100分程度までは、容器内の雰囲気が空気であってもアルゴンであっても同様の傾向を示すことが分かる。空気雰囲気のものは、ミリング時間が100分を超えた辺りから製造速度が低下する。アルゴン雰囲気のものは、ミリング時間が200分を越えた辺りから製造速度が低下する。ミリング時間が600分の時点における水素の製造量の違いは21%程度であった。
【0086】
この結果から、砕料が酸化クロムであるときには、水素の製造効率が容器内の雰囲気にほとんど影響されないことが分かる。これは、チタンのような金属材料は、表面が空気中で酸化されて、実際に水素の製造に利用される金属の量が理論上の量よりも少なくなる一方で、酸化クロムのような無機酸化物は、空気中で酸化されることがないためである。
【0087】
したがって、砕料としては、無機酸化物を用いる方が、砕料として金属を用いるよりも、水素の製造効率を安定させることができるといえる。
【0088】
(実施例8)
遊星ボールミル(ドイツ・フリッチュ社製、商品名:プレミアムラインP-7)を使用して、酸化クロムと水との粉砕混合を行い、水素を製造した。より具体的には、ジルコニアにより形成された粉砕媒体が収容された容器(ジルコニア製)内に、砕料として酸化クロム1mmolを投入するとともに、溶媒として水560mmolを投入し、更に反応促進材として鉄粒子を投入した。そして、400rpmの回転速度で、600分間、遊星ボールミルを回転させて、酸化クロム、水、及び鉄の粉砕混合を行い、水素を生成させた。尚、容器内の雰囲気はアルゴンとした。
【0089】
(比較例9)
砕料を鉄粒子のみにしたこと以外は、前述の実施例8と同じ条件にして、水素を製造した。
【0090】
〈酸化物の粉砕媒体及び容器での水素の製造〉
図13は、実施例8の水素の製造量と、比較例3及び比較例9の水素の製造量の合算値とを示す。
【0091】
図13に示すように、酸化クロムと鉄粒子とが投入された場合の水素の製造量は、単純に酸化クロムのみ及び鉄粒子のみを投入したものの水素の製造量の合算値よりも多くなることが分かる。これは、水と鉄粒子との反応により製造された水素の分だけ水素の製造量が増加したのではなく、酸化クロム及び鉄粒子の両方を共通の容器に投入することで相乗効果が発揮されたことを意味する。具体的には、反応促進材としての鉄粒子が、メカノケミカル反応により、クロン酸イオンを還元して酸化クロムを生成する反応が発生したことを意味する。したがって、容器自体が酸化物であっても、反応促進材として鉄粒子を投入すれば、水素の製造効率を向上させることができる。これにより、粉砕媒体や容器を一定の状態に維持することができるため、水素を長期間製造し続けるときに有利である。
【0092】
尚、実施例8は、粉砕媒体等がステンレス鋼であるときとは異なり、ミリング時間が100分を越えた辺りから水素の製造速度が低下している。これは、粉砕媒体等がステンレス鋼である場合と比較して、クロム酸イオンを還元できる鉄の量が少ないためである。このため、水素を長期間製造し続けるときには、水に加えて、鉄粒子も補充する必要がある。
【0093】
(実施例9)
砕料を酸化鉄(III)2mmolにしたこと以外は、前述の実施例1と同じ条件にして、水素を製造した。
【0094】
(実施例10)
砕料を酸化ニッケル(II)2mmolにしたこと以外は、前述の実施例1と同じ条件にして、水素を製造した。
【0095】
(比較例10)
砕料を酸化鉄(II,III)2mmolにしたこと以外は、前述の実施例1と同じ条件にして、水素を製造した。
【0096】
(比較例11)
砕料を酸化鉄(II)2mmolにしたこと以外は、前述の実施例1と同じ条件にして、水素を製造した。
【0097】
(比較例12)
砕料を鉄2mmolにしたこと以外は、前述の実施例1と同じ条件にして、水素を製造した。
【0098】
(比較例13)
砕料をニッケル2mmolにしたこと以外は、前述の実施例1と同じ条件にして、水素を製造した。
【0099】
〈他の無機酸化物を用いた水素の製造〉
図14は、実施例9及び比較例10~12の水素の製造量を示す。
図15は、実施例10及び比較例12の水素の製造量を示す。
【0100】
図14に示すように、砕料が酸化鉄(III)であるときには、砕料が酸化鉄(II,III)、酸化鉄(II)、及び鉄単体のときと比較して、水素の製造量が多いことが分かる。これは、砕料が酸化クロムであるときと同様に、酸化鉄(III)がメカノケミカル反応により酸化されて生成された生成物が、粉砕媒体等を構成する鉄を酸化して、元の酸化鉄(III)が再度生成されるためと考えられる。
【0101】
具体的には、酸化鉄(III)と水とを遊星ボールミルで粉砕混合したときには、以下のように、酸化鉄(III)が酸化して鉄酸イオンが生成されるとともに、水素が生成される。
Fe2O3+ 5H2O → 2FeO4
2- + 4H+ + 3H2
鉄酸イオンは、酸化数が6であって強い酸化剤として機能する。水中には粉砕媒体の構成材料である鉄が存在しているため、メカノケミカル反応により、鉄酸イオンと鉄との酸化還元反応が発生する。このとき、以下のように反応が進行する。
8FeO4
2-+9Fe+16H+ → 4Fe2O3+3Fe3O4+8H2O
つまり、酸化鉄(III)が酸化された酸化物(鉄酸イオン)が鉄を酸化することで還元されて、元の酸化鉄(III)が生成される。
【0102】
そして、酸化還元反応により酸化鉄(III)が生成されると、メカノケミカル反応により、生成された酸化鉄(III)が再度酸化されて、再度水素が発生する。これが繰り替えされることで水素が発生し続ける。したがって、砕料が酸化鉄(III)であるときにも、水素の製造効率を向上させることができる。
【0103】
図15に示すように、砕料がニッケル単体であるときには、水素はほとんど製造されない一方で、砕料が酸化ニッケル(II)であるときには、水素が製造されることが分かる。これは、砕料が酸化クロムであるときと同様に、酸化ニッケル(II)がメカノケミカル反応により酸化されて生成された生成物が、粉砕媒体等を構成する鉄を酸化して、元の酸化ニッケル(II)が再度生成されるためと考えられる。
【0104】
具体的には、酸化ニッケル(II)と水とを遊星ボールミルで粉砕混合したときには、以下のように、酸化ニッケル(II)が酸化して酸化ニッケル(III)やオキシ水酸化ニッケルが生成されるとともに、水素が生成される。
2NiO + H2O → Ni2O3 + H2
2NiO + 2H2O → 2NiO(OH) + H2
一方で、水中には粉砕媒体を構成する鉄が存在しているため、メカノケミカル反応により、酸化ニッケル(III)及びオキシ水酸化ニッケルと鉄との酸化還元反応が発生する。このとき、以下のように反応が進行する。
4Ni2O3 + 3Fe → 8NiO + Fe3O4
8NiO(OH) + 3Fe→ 8NiO + Fe3O4+ 4H2O
つまり、酸化ニッケル(II)が酸化された酸化物(酸化ニッケル(III)やオキシ水酸化ニッケル)が鉄を酸化することで還元されて、元の酸化ニッケル(II)が生成される。
【0105】
そして、酸化還元反応により酸化ニッケル(II)が生成されると、メカノケミカル反応により、生成された酸化ニッケル(II)が再度酸化されて、再度水素が発生する。これが繰り替えされることで、水素が発生し続ける。したがって、砕料が酸化ニッケル(II)であるときにも、水素の製造効率を向上させることができる。
ここに開示された技術は、粉砕媒体が収容された容器を有する粉砕装置を用いて、砕料と溶媒とを粉砕混合して、メカノケミカル反応により水素を製造する水素の製造方法として有用である。