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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170917
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】固相接合装置および固相接合方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 20/00 20060101AFI20241204BHJP
【FI】
B23K20/00 350
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087684
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】504176911
【氏名又は名称】国立大学法人大阪大学
(71)【出願人】
【識別番号】000000262
【氏名又は名称】株式会社ダイヘン
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】藤井 英俊
(72)【発明者】
【氏名】森貞 好昭
(72)【発明者】
【氏名】相原 巧
(72)【発明者】
【氏名】宮内 貴章
【テーマコード(参考)】
4E167
【Fターム(参考)】
4E167AA02
4E167AA06
4E167BB02
(57)【要約】
【課題】ワークに加える荷重を低減することが可能な固相接合装置および固相接合装置を用いた固相接合方法を提供する。
【解決手段】金属からなる第1ワークW10および第2ワークW20を厚み方向における両側から押圧する一対の加圧軸11,12と、一対の加圧軸11,12の周囲にそれぞれ配置された一対の電極21,22と、制御装置30とを備える。制御装置30は、一対の加圧軸11,12を制御することによって第1ワークW10および第2ワークW20の各々に第1荷重F1を作用させ互いに接触させながら、一対の電極21,22に第1電流X1を通電し、次に一対の加圧軸11,12を制御することによって第1ワークW10および第2ワークW20の各々に第2荷重F2を作用させながら、一対の電極21,22に第1電流X1よりも大きい第2電流X2を通電する。
【選択図】図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属からなる第1ワークおよび第2ワークを厚み方向における両側から押圧する一対の加圧軸と、
前記一対の加圧軸の周囲にそれぞれ配置された一対の電極と、
制御装置とを備え、
前記制御装置は、
前記一対の加圧軸を制御することによって前記第1ワークおよび前記第2ワークの各々に第1荷重を作用させ互いに接触させながら、前記一対の電極に第1電流を通電し、
次に前記一対の加圧軸を制御することによって前記第1ワークおよび前記第2ワークの各々に第2荷重を作用させながら、前記一対の電極に前記第1電流よりも大きい第2電流を通電する、固相接合装置。
【請求項2】
前記制御装置は、前記一対の電極に前記第1電流を第1期間通電した後に一旦通電を停止し、次に前記第2電流を第2期間通電する、請求項1に記載の固相接合装置。
【請求項3】
前記制御装置は、前記一対の電極に前記第1電流を第1期間通電し、引き続き前記第2電流を第2期間通電する、請求項1に記載の固相接合装置。
【請求項4】
前記一対の加圧軸から前記第1ワークおよび前記第2ワークに作用する荷重を検知可能なセンサをさらに備え、
前記制御装置は、前記センサの検出値が第1閾値となったことに応答して前記一対の電極への前記第1電流の通電を停止し、前記センサの検出値が第2閾値となったことに応答して前記一対の電極への前記第2電流の通電を停止する、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の固相接合装置。
【請求項5】
金属からなる第1ワークおよび第2ワークを厚み方向における両側から押圧する一対の加圧軸と、
前記一対の加圧軸の周囲にそれぞれ配置された一対の電極と、
制御装置とを備えた固相接合装置を用いた固相接合方法であって、
前記制御装置は、
前記一対の加圧軸を制御することによって前記第1ワークおよび前記第2ワークの各々に第1荷重を作用させ互いに接触させながら、前記一対の電極に第1電流を通電するステップと、
次に前記一対の加圧軸を制御することによって前記第1ワークおよび前記第2ワークの各々に第2荷重を作用させながら、前記一対の電極に前記第1電流よりも大きい第2電流を通電するステップとを実行する、固相接合方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、固相接合装置および固相接合装置を用いた固相接合方法に関する。
【背景技術】
【0002】
特開2020-11253号公報(特許文献1)には、複数枚の金属板を厚さ方向に積み重ねて接合する抵抗スポット溶接について開示されている。抵抗スポット溶接は、金属板を電極で挟み込み加圧状態で大電流を流すことによって金属を溶融させる溶接方法である。特開2020-11253号公報(特許文献1)の技術は、金属めっき層のめっき金属を合金化する予備通電工程と、複数枚の金属板を接合する本通電工程とを有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2020-11253号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特開2020-11253号公報(特許文献1)は、抵抗スポット溶接に関する技術であり、固相接合に関するものではなかった。本明細書においては、金属を溶融させずに低温域の固相状態で接合することによって、大電流による金属の溶融による強度低下等を防ぐ接合方法を「固相接合」と呼ぶ。特開2020-11253号公報(特許文献1)は、固相接合のような低温域による接合を想定していない。
【0005】
ここで、固相接合は、低温域による接合であるため金属からなるワークの硬度が高くなればなるほどワークに加える荷重が増加してしまう。これによって、耐久性を向上させるため装置が大型化してしまう。
【0006】
本開示の目的は、ワークに加える荷重を低減することが可能な固相接合装置および固相接合装置を用いた固相接合方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一局面の固相接合装置は、金属からなる第1ワークおよび第2ワークを厚み方向における両側から押圧する一対の加圧軸と、一対の加圧軸の周囲にそれぞれ配置された一対の電極と、制御装置とを備える。制御装置は、一対の加圧軸を制御することによって第1ワークおよび第2ワークの各々に第1荷重を作用させ互いに接触させながら、一対の電極に第1電流を通電し、次に一対の加圧軸を制御することによって第1ワークおよび第2ワークの各々に第2荷重を作用させながら、一対の電極に第1電流よりも大きい第2電流を通電する。
【0008】
本開示の一局面の固相接合方法は、金属からなる第1ワークおよび第2ワークを厚み方向における両側から押圧する一対の加圧軸と、一対の加圧軸の周囲にそれぞれ配置された一対の電極と、制御装置とを備えた固相接合装置を用いた固相接合方法に関する。制御装置は、一対の加圧軸を制御することによって第1ワークおよび第2ワークの各々に第1荷重を作用させ互いに接触させながら、一対の電極に第1電流を通電するステップと、次に一対の加圧軸を制御することによって第1ワークおよび第2ワークの各々に第2荷重を作用させながら、一対の電極に第1電流よりも大きい第2電流を通電するステップとを実行する。
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、第1電流の通電によってワークに加える荷重を低減することが可能な固相接合装置および固相接合装置を用いた固相接合方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本開示の一実施形態の固相接合装置において第1電流の通電工程を概略的に示す図である。
図2】本開示の一実施形態の固相接合装置において第2電流の通電工程を概略的に示す図である。
図3】時間に対する電流の変化および時間に対する荷重の変化を示す図である。
図4】時間に対する電流の変化および時間に対する荷重の変化を示す図である。
図5】制御装置が実行する制御内容を示すフローチャートである。
図6】常時通電する際の時間に対する電流の変化および時間に対する荷重の変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本開示の実施の形態について、図面を参照しながら詳細に説明する。なお、図中同一又は相当部分には同一符号を付してその説明は繰り返さない。
【0012】
本開示の一実施形態の固相接合装置1は、最初に第1電流X1を流し、次に第2電流X2を流す。図1は、本開示の一実施形態の固相接合装置1において第1電流X1の通電工程を概略的に示す図である。固相接合装置1は、互いに重ね合わされた複数のワークW10,W20に通電することによって複数のワークW10,W20の界面に軟質化領域を形成しつつ、当該軟質化領域を塑性変形させることによって複数のワークW10,W20同士を溶融させずに固相状態のまま接合する装置である。
【0013】
複数のワークW10,W20は、第1ワークW10と、第2ワークW20とを含む。各ワークW10,W20は、鉄やアルミニウム等の金属からなる。各ワークW10,W20は、例えば平板状に形成されている。
【0014】
図1に示されるように、固相接合装置1は、一対の加圧軸11,12と、一対の電極21,22と、制御装置30と、センサ40とを備えている。
【0015】
一対の加圧軸11,12は、第1ワークW10と第2ワークW20とを板状のワークを重ねた厚み方向における両側から加圧することが可能である。一対の加圧軸11,12は、図示略の駆動源(サーボプレス機等)によって駆動される。一対の加圧軸11,12は、第1加圧軸11と、第2加圧軸12とを有している。
【0016】
第1加圧軸11は、一方向(図1における矢印F1の方向)に長く延びる形状を有している。第1加圧軸11は、第1ワークW10が塑性変形するように第1ワークW10を押圧可能である。具体的に、第1加圧軸11は、第1ワークW10に突起W11が形成されるように第1ワークW10を押圧可能である。第1加圧軸11は、例えばタングステンカーバイドからなる。本実施形態では、第1加圧軸11は、円柱状に形成されている。第1加圧軸11は、第1ワークW10を押圧する押圧面11aを有している。押圧面11aは、第1加圧軸11の端面である。押圧面11aは、円形に形成されている。
【0017】
第2加圧軸12は、第1加圧軸11の構成と同じ構成を有している。第2加圧軸12は、当該第2加圧軸12の中心軸が第1加圧軸11の中心軸の延長線上に位置し、かつ、第2加圧軸12の押圧面12aが第1加圧軸11の押圧面11aと対向する姿勢で配置されている。なお、第1加圧軸11および第2加圧軸12は、円柱状以外の形状であってもよい。
【0018】
センサ40は、例えば第1加圧軸11に設けられている。本実施形態では、センサ40として、ロードセルが用いられている。なお、センサ40の設置場所は、第1加圧軸11に限られない。
【0019】
一対の電極21,22は、第1ワークW10および第2ワークW20に接触した状態で第1ワークW10および第2ワークW20に通電させることが可能である。一対の電極21,22は、図示略の電源部から電圧および電流が供給されている。一対の電極21,22は、第1電極21と、第2電極22とを有している。
【0020】
第1電極21は、第1ワークW10のうち第1加圧軸11により加圧される部位の周囲の部位に接触することが可能である。本実施形態では、第1電極21は、第1加圧軸11を包囲する円筒状に形成されている。第1電極21の内周面と第1加圧軸11の外周面との間には、隙間が設けられている。第1電極21は、例えば銅からなる。第1電極21は、第1ワークW10に接触する接触面21aを有している。接触面21aは、円環状に形成されている。なお、接触面21aの形状は、円環状に限られない。
【0021】
第2電極22は、第1電極21の構成と同じ構成を有している。第2電極22は、第2ワークW20のうち第2加圧軸12により加圧される部位の周囲の部位に接触することが可能である。第2電極22は、当該第2電極22の中心軸が第1電極21の中心軸の延長線上に位置し、かつ、第2電極22の接触面22aが第1電極21の接触面21aと対向する姿勢で配置されている。
【0022】
制御装置30は、CPU31(Central Processing Unit)と、メモリ32(ROM(Read Only Memory)およびRAM(Random Access Memory))と、各種信号を入出力するための図示しない入出力装置等を含んで構成される。CPU31は、ROMに格納されているプログラムをRAM等に展開して実行する処理回路(processing circuitry)として機能する。ROMに格納されるプログラムは、制御装置30の処理手順が記されたプログラムである。制御装置30は、これらのプログラムに従って、各機器の制御を実行する。この制御については、ソフトウェアによる処理に限られず、専用のハードウェア(電子回路)で処理することも可能である。
【0023】
制御装置30は、一対の加圧軸11,12および一対の電極21,22を制御する。具体的に、制御装置30は、一対の加圧軸11,12から第1ワークW10および第2ワークW20に作用する荷重と、一対の電極21,22から第1ワークW10および第2ワークW20に作用する荷重と、一対の電極21,22へ印可する電圧と、一対の加圧軸11,12および一対の電極21,22の押し込み量とを制御する。制御装置30は、一対の電極21,22へ印可する電圧を制御することによって一対の電極21,22に供給する電流を制御する。
【0024】
制御装置30は、第1ワークW10および第2ワークW20の各々に互いに接触する突起W11,W21が形成されるように一対の加圧軸11,12から第1ワークW10および第2ワークW20に第1荷重F1(図1を参照)を作用させる操作を行う。このとき、制御装置30は、一対の電極21,22から第1ワークW10および第2ワークW20に対して第1荷重F1よりも小さな調整荷重(例えば、1kN以下の荷重)を作用させる操作も行う。
【0025】
次に、制御装置30は、第1ワークW10および第2ワークW20に通電する操作を行う。具体的には、制御装置30が、一対の加圧軸11,12から第1ワークW10および第2ワークW20に対して第1荷重F1を作用させ、かつ、第1ワークW10のうち第1加圧軸11により加圧される部位の周囲の部位に第1電極21の接触面21aを接触させ、第2ワークW20のうち第2加圧軸12により加圧される部位の周囲の部位に第2電極22の接触面22aを接触させた状態で、第1ワークW10および第2ワークW20に通電する操作を行う。制御装置30は、一対の電極21,22の間を突起W11,W21を介して破線で示す第1電流X1が流れるように制御する。
【0026】
各突起W11,W21は、第1電流X1が流れることによって軟質化する。本実施形態では、制御装置30は、第1電流X1を流し各突起W11,W21を軟質化させつつ第1ワークW10および第2ワークW20に対して第1荷重F1を作用させる。これによって、本実施形態では、第1電流X1を流さずに突起を形成する場合に比べ各突起W11,W21を形成する際の荷重を低減させることができる。
【0027】
図2は、本開示の一実施形態の固相接合装置1において第2電流X2の通電工程を概略的に示す図である。制御装置30は、第1ワークW10および第2ワークW20に形成される各突起W11,W21に対して第1荷重F1よりも大きな第2荷重F2を作用させる操作を行う。このとき、制御装置30は、一対の電極21,22から第1ワークW10および第2ワークW20に対して第2荷重F2よりも小さな調整荷重(例えば、1kN以下の荷重)を作用させる操作も行う。
【0028】
次に、制御装置30は、第1ワークW10および第2ワークW20に通電する操作を行う。具体的には、制御装置30が、一対の加圧軸11,12から第1ワークW10および第2ワークW20に対して第2荷重F2を作用させ、かつ、第1ワークW10のうち第1加圧軸11により加圧される部位の周囲の部位に第1電極21の接触面21aを接触させ、第2ワークW20のうち第2加圧軸12により加圧される部位の周囲の部位に第2電極22の接触面22aを接触させた状態で、第1ワークW10および第2ワークW20に通電する操作を行う。制御装置30は、一対の電極21,22の間を突起W11,W21を介して破線で示す第2電流X2が流れるように制御する。
【0029】
第2電流X2は、第1電流X1よりも大きい電流である。各突起W11,W21は、第2電流X2が流れることによって図1の状態よりもさらに軟質化する。本実施形態では、制御装置30は、第2電流X2を流し各突起W11,W21を軟質化させつつ第1ワークW10および第2ワークW20に対して第2荷重F2を作用させる。これによって、本実施形態では、第1ワークW10と第2ワークW20とを各突起W11,W21の位置において接合することができる。
【0030】
図3は、時間に対する電流の変化および時間に対する荷重の変化を示す図である。図3(A)は、突起の形成時に第1電流X1を流さなかった場合の時間に対する荷重の変化を示す図である。図3(B)は、突起の形成時に第1電流X1を流さなかった場合の時間に対する電流の変化を示す図である。図3(C)は、突起の形成時に第1電流X1を流した場合の時間に対する荷重の変化を示す図である。図3(D)は、突起の形成時に第1電流X1を流した場合の時間に対する電流の変化を示す図である。
【0031】
図3(A),(B)に示すように突起形成時に第1電流X1を流さなかった場合には、突起形成時の荷重としてF1’[kN]の荷重が必要となる。それに対し、図3(C),(D)に示すように、突起形成時に第1電流X1を流した場合には、突起形成時の荷重としてF1’[kN]よりも小さいF1[kN]の荷重により突起を形成することができる。このように、本実施の形態の固相接合装置1は、突起形成時に第1電流X1を流すことによって突起形成時の荷重を低減することができる。
【0032】
図3(A),(B)に示すように突起形成時に第1電流X1を流さなかった場合には、接合時の荷重としてF2’[kN]の荷重が必要となる。それに対し、図3(C),(D)に示すように、突起形成時に第1電流X1を流した場合には、接合時の荷重としてF2’[kN]よりも小さいF2[kN]の荷重により第1ワークW10と第2ワークW20とを接合することができる。このように、本実施の形態の固相接合装置1は、突起形成時に第1電流X1を流すことによって接合時の荷重を低減することができる。
【0033】
図4は、時間に対する電流の変化および時間に対する荷重の変化を示す図である。図4は、図3と異なり接合時の荷重が突起形成時の荷重よりも小さい場合について示す図である。図4(A)は、突起の形成時に第1電流X1を流さなかった場合の時間に対する荷重の変化を示す図である。図4(B)は、突起の形成時に第1電流X1を流さなかった場合の時間に対する電流の変化を示す図である。図4(C)は、突起の形成時に第1電流X1を流した場合の時間に対する荷重の変化を示す図である。図4(D)は、突起の形成時に第1電流X1を流した場合の時間に対する電流の変化を示す図である。
【0034】
図4(A),(B)に示すように突起形成時に第1電流X1を流さなかった場合には、突起形成時の荷重としてF3’[kN]の荷重が必要となる。それに対し、図4(C),(D)に示すように、突起形成時に第1電流X1を流した場合には、突起形成時の荷重としてF3’[kN]よりも小さいF3[kN]の荷重により突起を形成することができる。このように、本実施の形態の固相接合装置1は、突起形成時に第1電流X1を流すことによって突起形成時の荷重を低減することができる。
【0035】
図4(A),(B)に示すように突起形成時に第1電流X1を流さなかった場合には、接合時の荷重としてF4’[kN]の荷重が必要となる。それに対し、図4(C),(D)に示すように、突起形成時に第1電流X1を流した場合には、接合時の荷重としてF4’[kN]よりも小さいF4[kN]の荷重により第1ワークW10と第2ワークW20とを接合することができる。このように、本実施の形態の固相接合装置1は、突起形成時に第1電流X1を流すことによって接合時の荷重を低減することができる。
【0036】
図3,4に示すように、本実施の形態の固相接合装置1は、突起形成時に第1電流X1を流すことによって接合時の荷重が突起形成時の荷重よりも大きい場合も小さい場合も同様に接合時の荷重を低下させることができる。なお、図3,4に示すように、本実施の形態の固相接合装置1は、荷重低減のための通電である第1電流X1と接合のための通電である第2電流X2との間において通電を一旦停止している。これは、通電し続けることによって各突起W11,W21が溶融し性質が変化することを防止するためである。
【0037】
次に、制御装置30が実行する処理について説明する。図5は、制御装置30が実行する制御内容を示すフローチャートである。図5のフローチャートの処理は、制御装置30の制御におけるメインルーチンから、サブルーチンとして繰返し呼び出されて実行される。制御装置30は、まずステップS(以下、単に「S」と示す)1において、一対の加圧軸11,12をそれぞれ第1ワークW10および第2ワークW20に向けて移動する。
【0038】
次いで、制御装置30は、一対の加圧軸11,12がそれぞれ第1ワークW10および第2ワークW20に接触したか否かを判定する(S2)。例えば、制御装置30は、センサ40の検出値を取得し、検出値が増加したことに基づいて一対の加圧軸11,12が第1ワークW10および第2ワークW20に接触したと判定する。制御装置30は、S2において接触位置を基準位置として記憶する。制御装置30は、一対の加圧軸11,12がそれぞれ第1ワークW10および第2ワークW20に接触してないと判定した場合(S2のNO)、S1の処理へ戻る。制御装置30は、一対の加圧軸11,12がそれぞれ第1ワークW10および第2ワークW20に接触していると判定した場合(S2のYES)、S3の処理へ移行する。
【0039】
制御装置30は、S3において一対の加圧軸11,12をそれぞれ突起形成位置まで押し込むとともに荷重低減のための第1電流X1を通電する処理を実行する。次いで、制御装置30は、一対の加圧軸11,12がそれぞれ突起形成位置まで到達したか否かを判定する(S4)。制御装置30は、例えば、S2において記憶された接触位置から第1ワークW10および第2ワークW20に突起W11,W21が形成される突起形成位置まで一対の加圧軸11,12がそれぞれ移動したか否かを判定すればよい。制御装置30は、S4において突起形成位置を基準位置として記憶する。制御装置30は、一対の加圧軸11,12が突起形成位置まで到達していないと判定した場合(S4のNO)、S3の処理へ戻る。
【0040】
制御装置30は、一対の加圧軸11,12がそれぞれ突起形成位置まで到達したと判定した場合(S4のYES)、S5の処理へ移行する。一対の加圧軸11,12がそれぞれ突起形成位置に到達した場合、第1ワークW10および第2ワークW20には、第1荷重F1が作用している。制御装置30は、S5において予め設定した時間通電を停止するとともに一対の加圧軸11,12の加圧を維持する。
【0041】
次いで、制御装置30は、一対の加圧軸11,12をそれぞれ接合位置まで押し込むとともに接合のための第2電流X2を通電する処理を実行する(S6)。次いで、制御装置30は、センサ40の検出値に基づいて第1ワークW10および第2ワークW20における各突起W11,W21が軟質化したか否かを判定する(S7)。制御装置30は、例えば、センサ40の検出値が予め定めた閾値以下であるか否かによって各突起W11,W21が軟質化したか否を判定する。制御装置30は、各突起W11,W21が軟質化していないと判定した場合(センサ40の検出値が閾値より大きい場合)、S6に戻る。制御装置30は、各突起W11,W21が軟質化していると判定した場合(センサ40の検出値が閾値以下の場合)、S8の処理へ移行する。
【0042】
制御装置30は、S8において一対の加圧軸11,12がそれぞれ接合位置まで到達したか否かを判定する。制御装置30は、例えば、S4おいて記憶された突起形成位置から第1ワークW10および第2ワークW20が接合される接合位置まで一対の加圧軸11,12がそれぞれ移動したか否かを判定すればよい。
【0043】
制御装置30は、一対の加圧軸11,12がそれぞれ接合位置まで到達していないと判定した場合(S8のNO)、S6の処理へ戻る。制御装置30は、一対の加圧軸11,12がそれぞれ接合位置まで到達したと判定した場合(S8のYES)、処理をサブルーチンからメインルーチンに戻す。一対の加圧軸11,12がそれぞれ接合位置に到達した場合、第1ワークW10および第2ワークW20には、第2荷重F2が作用している。
【0044】
図5に示すように、本実施の形態の固相接合装置1は、S3において突起形成時に第1電流X1を流すことによって突起形成時の荷重を低減することができるとともに、第1電流X1によって第1ワークW10および第2ワークW20の接合部が軟質化するため接合時の荷重を低減することができる。これによって、本実施の形態の固相接合装置1は、通電して軟質化させる工程を追加することにより、一対の加圧軸11,12の耐久性が向上するとともに、駆動源(サーボプレス機等)の大型化を避けることができる。
【0045】
次に、突起形成時と接合時との間で通電を停止しない場合について説明する。図6は、常時通電する際の時間に対する電流の変化および時間に対する荷重の変化を示す図である。図6(A)は、突起の形成時に第1電流X1を流さなかった場合の時間に対する荷重の変化を示す図である。図6(B)は、突起の形成時に第1電流X1を流さなかった場合の時間に対する電流の変化を示す図である。図6(C)は、突起の形成時に第1電流X1を流した場合の時間に対する荷重の変化を示す図である。図6(D)は、突起の形成時に第1電流X1を流した場合の時間に対する電流の変化を示す図である。
【0046】
図6では、突起形成時から接合時まで連続して荷重が増加するグラフとなる。図6(A),(B)に示すように突起形成時に第1電流X1を流さなかった場合には、接合時の荷重としてF5’[kN]の荷重が必要となる。それに対し、図6(C),(D)に示すように、突起形成時に第1電流X1を流した場合には、接合時の荷重としてF5’[kN]よりも小さいF5[kN]の荷重により第1ワークW10と第2ワークW20とを接合することができる。このように、本実施の形態の固相接合装置1は、突起形成時に第1電流X1を流すことによって突起形成時と接合時との間で通電を停止しない場合であっても接合時の荷重を低減することができ、全体の処理期間を短くすることができる。
【0047】
上記実施形態では、センサ40としてロードセルの検出値を用いたが、ロードセルとは異なるセンサにより各ワークW10,W20の軟質化が検知されてもよい。このようなセンサとして、突起W11,W21同士の接触部を撮影可能なカメラが用いられてもよい。この場合、制御装置30は、接触部の輝度に基づいて各ワークW10,W20が軟質化したか否かを判定する。このようなセンサとして、接触式または非接触式の温度計を用いてもよい。制御装置30は、接触部の温度に基づいて各ワークW10,W20が軟質化したか否かを判定してもよい。あるいは、制御装置30は、予め取得された各ワークW10,W20の熱量計算の結果と、電源のタイマと、に基づいて各ワークW10,W20が軟質化したか否を判定してもよい。
【0048】
<まとめ>
(1) 本開示の固相接合装置1は、金属からなる第1ワークW10および第2ワークW20を厚み方向における両側から押圧する一対の加圧軸11,12と、一対の加圧軸11,12の周囲にそれぞれ配置された一対の電極21,22と、制御装置30とを備える。制御装置30は、一対の加圧軸11,12を制御することによって第1ワークW10および第2ワークW20の各々に第1荷重F1を作用させ互いに接触させながら、一対の電極21,22に第1電流X1を通電し、次に一対の加圧軸11,12を制御することによって第1ワークW10および第2ワークW20の各々に第2荷重F2を作用させながら、一対の電極21,22に第1電流X1よりも大きい第2電流X2を通電する。
【0049】
(2) (1)の固相接合装置1において、図3に示すように、制御装置30は、一対の電極21,22に第1電流X1を第1期間通電した後に一旦通電を停止し、次に第2電流X2を第2期間通電する。
【0050】
(3) (1)の固相接合装置1において、図6に示すように、制御装置30は、一対の電極21,22に第1電流X1を第1期間通電し、引き続き第2電流X2を第2期間通電する。
【0051】
(4) (1)から(3)のいずれかの固相接合装置1において、一対の加圧軸11,12から第1ワークW10および第2ワークW20に作用する荷重を検知可能なセンサ40をさらに備える。制御装置30は、センサ40の検出値が第1閾値となったことに応答して一対の電極への第1電流X1の通電を停止し、センサ40の検出値が第2閾値となったことに応答して一対の電極21,22への第2電流X2の通電を停止する。
【0052】
(5) 本開示の固相接合方法は、金属からなる第1ワークW10および第2ワークW20を厚み方向における両側から押圧する一対の加圧軸11,12と、一対の加圧軸11,12の周囲にそれぞれ配置された一対の電極21,22と、制御装置30とを備えた固相接合装置1を用いた固相接合方法に関する。制御装置30は、一対の加圧軸11,12を制御することによって第1ワークW10および第2ワークW20の各々に第1荷重F1を作用させ互いに接触させながら、一対の電極21,22に第1電流X1を通電するステップと、次に一対の加圧軸11,12を制御することによって第1ワークW10および第2ワーW20クの各々に第2荷重F2を作用させながら、一対の電極21,22に第1電流X1よりも大きい第2電流X2を通電するステップとを実行する。
【0053】
本開示の固相接合装置1および固相接合装置1を用いた固相接合方法によれば、第1ワークW10および第2ワークW20の各々に第1荷重F1を作用させ互いに接触させながら、一対の電極21,22に第1電流X1を通電することによって、突起形成時の荷重および接合時の荷重を低減することができる。これによって、本実施の形態の固相接合装置1および固相接合方法によれば、一対の加圧軸11,12の耐久性が向上するとともに、駆動源(サーボプレス機等)の大型化を避けることができる。
【0054】
今回開示された実施の形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した実施の形態の説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0055】
1 固相接合装置、11,12 加圧軸、11a,12a 押圧面、21,22 電極、21a,22a 接触面、30 制御装置、31 CPU、32 メモリ、40 センサ、F1 第1荷重、F2 第2荷重、X1 第1電流、X2 第2電流、W10,W20 ワーク、W11,W21 突起。
図1
図2
図3
図4
図5
図6