(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024170964
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】電磁石システム、電磁石システム演算方法、電磁石システム製造方法および電磁石システム演算装置
(51)【国際特許分類】
H01F 7/20 20060101AFI20241204BHJP
H01F 6/00 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
H01F7/20 Z
H01F6/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】13
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023087761
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110001807
【氏名又は名称】弁理士法人磯野国際特許商標事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮副 照久
(72)【発明者】
【氏名】市村 拓也
(72)【発明者】
【氏名】冨樫 央
(72)【発明者】
【氏名】今村 寿郎
(57)【要約】
【課題】電磁石システムのレンタルサービスの効率を高める。
【解決手段】電磁石システム101は、第1の電磁石となる超伝導電磁石110,114と、第1の電磁石が発生する磁場の磁場分布を計測する磁場分布計測センサ103と、第1の電磁石の磁極形状に関するデータを記憶している記憶装置と、第1の電磁石と組み合わせて用いることで前記磁場分布とは異なる磁場分布である要求磁場分布を発生させる第2の電磁石321の磁極形状を示す電流分布を、第1の電磁石の磁極形状に関するデータを用いて演算する演算部と、を備えている。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の電磁石と、
前記第1の電磁石が発生する磁場の磁場分布を計測するセンサと、
前記第1の電磁石の磁極形状に関するデータを用いて、前記第1の電磁石と組み合わせて用いることで前記磁場分布とは異なる磁場分布である要求磁場分布を発生させる第2の電磁石の磁極形状を示す電流分布を演算する演算部と、を備えていることを特徴とする電磁石システム。
【請求項2】
前記演算部で演算した前記第2の電磁石の磁極形状を示す電流分布を出力する出力部を備えていることを特徴とする請求項1に記載の電磁石システム。
【請求項3】
前記第1の電磁石の磁極形状に関するデータを記憶している記憶装置を備え、
前記記憶装置は、前記第1の電磁石の磁極形状に関するデータとして前記第1の電磁石の磁極形状を示す電流分布のデータを記憶している請求項1に記載の電磁石システム。
【請求項4】
前記要求磁場分布の入力を受け付ける入力部を備えている請求項1に記載の電磁石システム。
【請求項5】
記憶装置を備え、
前記記憶装置は、前記第1および第2の電磁石の励磁電流に関するデータと、前記第1および第2の電磁石の温度データを記憶し、
前記演算部は、前記励磁電流に関するデータと前記温度データとに基づいて、前記第1および前記第2の電磁石の冷却装置の運転推奨時間を求め、
前記出力部は、前記運転推奨時間を出力する、ことを特徴とする請求項2に記載の電磁石システム。
【請求項6】
前記記憶装置は、前記第1および第2の電磁石の温度データを記憶し、
前記第1および第2の電磁石に配置するヒータの出力を制御する制御部を備えることを特徴とする請求項5に記載の電磁石システム。
【請求項7】
前記センサの位置を可変する駆動機構を、備えていることを特徴とする請求項1に記載の電磁石システム。
【請求項8】
前記第2の電磁石を備え、
前記第2の電磁石は、前記第1の電磁石とは異なる励磁電源で励磁する、ことを特徴とする請求項1に記載の電磁石システム。
【請求項9】
前記第2の電磁石を備え、
前記第2の電磁石は、励磁電源を要せず、前記第1の電磁石が発生する磁場を遮蔽することで磁場の増幅をする、ことを特徴とする請求項1に記載の電磁石システム。
【請求項10】
前記第2の電磁石は、超電導薄膜を積層している、ことを特徴とする請求項9に記載の電磁石システム。
【請求項11】
第1の電磁石と、
前記第1の電磁石が発生する磁場の磁場分布を計測するセンサと、
前記第1の電磁石の磁極形状に関するデータを用いて、前記第1の電磁石と組み合わせて用いることで前記磁場分布とは異なる磁場分布である要求磁場分布を発生させる第2の電磁石の磁極形状を示す電流分布を演算する演算部と、を備えている電磁石システムを用い、
前記第2の電磁石の磁極形状を示す電流分布を演算する第1工程と、
前記第1工程で演算した前記第2の電磁石の磁極形状を示す電流分布を出力する第2工程と、を備えていることを特徴とする電磁石システム演算方法。
【請求項12】
請求項11に記載の電磁石システム演算方法で演算した前記第2の電磁石の磁極形状を示す電流分布に基づいて前記第2の電磁石を製造する第3工程と、
前記第3工程で製造した前記第2の電磁石を前記電磁石システムに設置する第4工程と、を備えていることを特徴とする電磁石システム製造方法。
【請求項13】
電磁石システムの第1の電磁石の磁極形状に関するデータを用い、前記第1の電磁石と組み合わせて用いることで当該第1の電磁石に当初の磁場分布とは異なる磁場分布である要求磁場分布を発生させる第2の電磁石の磁極形状を示す電流分布を演算する演算部と、
前記演算の結果を出力する出力部と、を備えていることを特徴とする電磁石システム演算装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電磁石システム、電磁石システム演算方法、電磁石システム製造方法および電磁石システム演算装置に関する。
【背景技術】
【0002】
本技術分野の背景技術として、国際公開2016/133204公報(特許文献1)がある。この公報には、「磁場計測値から、仮想的に配置し、計測位置を囲む電流面を想定し、計測磁場が再現される電流分布(または磁気モーメント分布)を電流ポテンシャルを通して再現し、その再現した磁場分布を含むシミング手法を提供する。磁場計測装置によって取得された磁場分布を再現するような磁気モーメントもしくは電流分布を、予め定められた閉曲面上で推定し、前記推定された磁気モーメントもしくは電流分布から前記閉曲面内に存在する任意点の磁場分布を推定する。そして、前記推定された磁場分布に基づき、前記任意点の磁場分布を修正する補正磁場を生じさせるシム磁性体の分布を出力する。」と記載されている(要約参照)。
【0003】
別の背景技術として、特開2021-26695号公報(特許文献2)がある。この公報には、「レンタル機材管理システムの管理サーバは、プロセッサとメモリを有し、レンタルされる機材を管理する。プロセッサは、機材のそれぞれの稼働情報を収集して、稼働情報が所定の稼働条件を満たしていない機材を融通可能な機材として抽出し、抽出された機材を利用している地理情報を含めて融通機材情報を生成する。プロセッサは、機材を利用する需要情報を受け付けて、需要情報に含まれる地理情報と、融通機材情報に含まれる地理情報を比較して、所定の地理条件を満たす融通機材情報の機材を融通可能性情報として生成する。」と記載されている(要約参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開2016/133204公報
【特許文献2】特開2021-26695号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1,2に開示の技術は、電磁石システムのレンタルシステムの効率を高めるという観点からは改善の余地があった。
そこで、本発明は、電磁石システムのレンタルサービスの効率を高めることができる電磁石システム、電磁石システム演算方法、電磁石システム製造方法および電磁石システム演算装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため、本発明は、第1の電磁石と、前記第1の電磁石が発生する磁場の磁場分布を計測するセンサと、前記第1の電磁石の磁極形状に関するデータを用いて、前記第1の電磁石と組み合わせて用いることで前記磁場分布とは異なる磁場分布である要求磁場分布を発生させる第2の電磁石の磁極形状を示す電流分布を演算する演算部と、を備えている。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、電磁石システムのレンタルサービスの効率を高めることができる。
上記した以外の課題、構成及び効果は、以下の実施形態の説明により明らかにされる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施形態1に係る電磁石システムのレンタルサービスの流れを説明するブロック図である。
【
図2】本発明の実施形態1に係る電磁石システムの一構成例を示すシステム構成図である。
【
図3】本発明の実施形態1に係る電磁石システムの制御装置等の電気的な接続を模式的に示すブロック図である。
【
図4】本発明の実施形態1に係る電磁石システムの制御装置等における演算部が実行する処理を説明するフローチャートである。
【
図5】第2の電磁石を設置した本発明の実施形態1に係る電磁石システムの一構成例を示すシステム構成図である。
【
図6】本発明の実施形態2に係る電磁石システムのレンタルサービスの流れを説明するブロック図である。
【
図7】第2の電磁石を設置した本発明の実施形態2に係る電磁石システムの一構成例を示すシステム構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について図面を用いて説明する。
まず、本実施形態の課題について説明する。
本実施形態では、電磁石を備え、この電磁石で発生させる磁場によって所定の目的を達成するためのシステムを「電磁石システム」と呼ぶことにする。電磁石システムでは、コイル状に巻線を巻いた電磁石に通電することで磁場を発生させる。
近年、電磁石システムは、医療分野、核融合分野、電動化分野等の様々な分野での研究開発等に使用されている。この研究開発等に使用される電磁石システムは、これまでは、用途に合わせて、要求される磁場を発生させることができるように1台1台設計され、製造されてきた。また、電磁石システムは、研究用途によっては高精度の磁場が要求され、製造誤差等のシステムごとのばらつきを考慮に入れた磁場の調整が必要となる。
【0010】
ここで、前記特許文献1には、電磁石システムについて製造誤差による磁場のばらつきの調整を行うことを目指した技術について開示されている。このように、電磁石システムを製作するに際しては、製造誤差等の装置ごとのばらつきを考慮に入れた磁場の調整が必要となる。
一方で、電磁石システムは特定の研究用途等に合わせて製造されるため、その研究用途等が達成されると、今まで使用されていた電磁石システムは、遊休状態となって該当の研究機関等で保有される状態となることがあった。
【0011】
これに対して、一般機材では、そういった遊休状態を回避するために、レンタルサービス等による機材の遊休状態の回避の工夫が考えられている。前記特許文献2の技術では、建設機材のレンタルサービスにおいて、建設機材の稼働情報や位置情報まで管理して、レンタルサービスにおける建設機材の稼働率の向上を図ることを目指している。
しかしながら、電磁石システムにおいては、その用途に応じて要求される磁場が異なることが多く、同じ機器構成の機材を提供する既存のレンタルサービスでは、ある用途での使用が終了した電磁石システムを次の用途に使用しようとすることは困難な場合がほとんどである。このような問題に対処するために、これまでは、用途ごとに電磁石システムを1台1台製造するしかなかった。
【0012】
しかし、電磁石システムにおいても、レンタルサービスを行うようにして、ある用途でのレンタルを終了した電磁石システムを次の用途のためにレンタルでの提供を可能とすることを、短時間で低コストによる電磁石システムの調整を行うだけで実現できるようにしたい。
以下では、短時間で低コストによる調整を行うだけで電磁石システムをレンタルサービスに提供できるようにして、電磁石システムのレンタルサービスの効率を高めることができるようにした技術について説明する。
【実施形態1】
【0013】
図1は、本実施形態1に係る電磁石システムのレンタルサービスの流れを説明するブロック図である。
図1に示すように、当該サービスは、電磁石システム101(
図2)の製造、調整を行う製造事業者11、製造事業者11が製造、調整(保守点検を含む)する電磁石システム101の所有者12(電磁石システム101のリース会社、レンタル会社等)が使用する。また、前記サービスは、電磁石システム101を所有者12からレンタル(リース等の様々な貸し出し形態も含めて、以下では「レンタル」という)されて使用する使用者A、使用者Bも使用する。ここで使用者は使用者A,Bの2者だけを記載しているが、使用者はより多数存在していてもよい。以下では、所有者21がレンタルで使用者Aに提供した電磁石システム101の使用者Aでの使用が終了し、次に同じ電磁石システム101を所有者21が使用者Bにレンタルする局面を考える。ここで、使用者Bが電磁石システム101に求める磁場(要求磁場)は、使用者Aの要求磁場とは異なっているのが通例である。そのため、所有者21は、使用者Aが使用していた電磁石システム101をそのまま使用者Bにレンタルするのでは、使用者Bのニーズには答えられない。
【0014】
まず、製造事業者11は、所有者21に電磁石システム101を「装置提供」し、また、電磁石システム101の「保守点検」のサービスを提供する(ステップS11)。電磁石システム101の所有者21は、電磁石システム101の「稼働情報」等の電磁石システム101の保守に必要な情報(電磁石システム101の動作時の磁場の情報や、超伝導システムの冷却装置による冷却時間等)を製造事業者11に提供する(ステップS12)。これは、製造事業者11は、電磁石システム101の製品情報は知っているが、どのように電磁石システム101が使用されているかは知らず、それは電磁石システム101のユーザ側でしか知りえない情報だからである。
【0015】
所有者21は、電磁石システム101を使用者Aに貸し出す(装置貸出)(ステップS13)。電磁石システム101の使用者Aが、電磁石システム101を使用したときに電磁石システム101の磁場分布計測センサ(センサ)103(
図2)によって計測される磁場のデータ、および電磁石システム101の運転のデータ(磁場・運転データ)は電磁石システム101の制御装置104(
図2)に記憶される(S15)。使用者Aが電磁石システム101に要求する磁場と異なる磁場(要求磁場)を同じ電磁石システム101に要求する使用者Bに対して、製造事業者11は、電磁石システム101に最初から設置されている第1の電磁石(超伝導電磁石110,114(
図2))に追加で設置される第2の電磁石321(
図5)の磁極形状の「提案」を行う(ステップS14)。すなわち、使用者Bは電磁石システム101への要求磁場が使用者Aとは異なる。そこで、製造事業者11は、電磁石システム101に付加的に設置することで使用者Bの要求磁場を実現することができる第2の電磁石321の磁極形状を提案し、当該第2の電磁石321を製造して、当該電磁石システム101に付加的に「設置」する(ステップS14)。
【0016】
また、製造事業者11は、電磁石システム演算装置311を備えていてもよい。後記するように製造事業者11は、所定の演算処理を行うが、この演算は、後記する電磁石システム101の制御装置104(
図2)で行ってもよいし、電磁石システム演算装置311で行ってもよい。
【0017】
図2は、本実施形態1に係る電磁石システムの一構成例を示すシステム構成図である。電磁石システム101は、例えば、磁場環境下で所定の物の検証をしたい、均一な磁場空間であって所定の装置が入る大型の空間が欲しい等という需要に応えるものである。
図2に示す例は、第1の電磁石として超伝導電磁石110,114を設置した場合の例である。本例では、超伝導電磁石110と超伝導電磁石114とは上下に配置されている。超伝導電磁石110と超伝導電磁石114とは基本的に同じ構成であり、それぞれの共通の部材には同じ符号を付している。超伝導電磁石110は、上下に配置されたクライオスタット160の内部に荷重支持体161を介して配置される。超伝導電磁石110は巻き芯112、超伝導コイル巻き線111、冷却部材113を備えている。超伝導電磁石114も同様の構成である。
【0018】
クライオスタット160は、公知の極低温用真空容器等を適用することが可能であり、例えば、ステンレスやアルミ合金等の金属、強化繊維プラスチック(FRP:Fiber-Reinforced Plastics)等で形成される。
荷重支持体161は、その構成が限定されるものではないが、熱侵入量の低減と強大な電磁力の支持という機能が必要となることから熱伝導率が小さく、比較的強度を有する材料を使うのが望ましい。例えば、FRP等が好ましい。
【0019】
超伝導コイル巻き線111は、超伝導パワーリード122a,122bを介して、導入端子121a,121b、ひいては導線174に接続されている。導線174は励磁電源120と超伝導電磁石114,110とを接続しており、励磁電源120を運転するための制御信号が、信号線172を介して制御装置104から励磁電源120に送られる。その一方で、励磁電源120の運転時の電流値、電圧値等は信号線172を介して制御装置104に送信され、記憶される。
【0020】
超伝導コイル巻き線111に使われる線材は、その構成が特に限定されるものではないが、例えば、銅酸化物系の高温超電導物質(YBa2Cu3O7-δ,Bi2Sr2Ca2Cu3O10等)からなる線材、ニオブチタン(NbTi)材、ニオブ三スズ(Nb3Sn)材、ニホウ化マグネシウム(MgB2)材等によって形成されることが好ましい。なお、超伝導コイル巻き線111に使われる線材は、その表面が、例えば、ガラス等の耐熱性材料、絶縁性材料で被覆されていてもよい。
【0021】
冷却部材113は、熱良導体170を介して冷却装置130と接続される。冷却装置130は、制御装置104と信号線173を介して接続され、制御装置104により運転が制御され、その運転データが制御装置104に送信されて、記憶される。
冷気を伝える部材である熱良導体170は、例えば、銅、銀、アルミニウム等で形成されることが好ましい。熱良導体170は、単一の熱良導体で形成されていてもよいし、複数の熱良導体を組み合わせて形成されていてもよく、必要に応じて任意の態様をとることが可能である。
【0022】
冷却装置130は、公知の構成のものを適用することが可能であり、例えば、ギンツブルグ-マクマホン冷凍機、スターリング冷凍機、パルス管冷凍機、等の冷凍機を適用することができる。なお、冷却装置130、熱良導体170、あるいは冷却部材113には、温度調節をするためのヒータや温度計測素子が設けられていてもよい。その場合、ヒータ331や温度計測素子332によって計測された計測結果は、制御装置104へと送信され、冷却装置130の冷却やヒータの加熱が制御装置104によりフィードバック制御される。
【0023】
また、超伝導コイル巻き線111等、第1の電磁石の表面に温度計測素子50を配置し、信号線171によって送信される検出温度を記憶装置142に記憶し、この検出温度に基づいて、制御装置104より超伝導コイル巻き線111の電流をフィードバック制御している。
温度計測素子50は、測定対象となる超伝導コイル巻き線111等に樹脂等で接着することが熱抵抗を小さくするため好ましいが、接着方法は特に限定されるものではなく、ばね等で押し当てられる圧着でもよい。温度計測素子50は、公知の構成のものを適用することが可能であり、例えば、クロメル・コンスタンタン、金鉄熱電対、抵抗測定型温度センサ等を用いることができる。
【0024】
電磁石システム101においては、励磁電源120によって、超伝導電磁石110,114に通電することで超伝導電磁石110,114から磁場を発生させることができる。この発生する磁場は、要求磁場空間(使用者が所望の磁場を発生させたい空間)115内で磁場分布計測センサ(センサ)103を使って計測する。磁場分布計測センサ103は、間隔を空けて配置された複数のホール素子、NMRセンサ等により実現することができる。測定した磁場計測データは信号線116を介して制御装置104に送信して、記憶する。
【0025】
磁場分布計測センサ103は、駆動機構106、シャフト109と締結することで、駆動機構106により移動可能で、要求磁場空間115内を移動して、その磁場分布を計測することができる。駆動機構106は、例えば、超伝導電磁石110のクライオスタット160下部等に支持体107を介して支持されている。この駆動機構106も信号線175を介して制御装置104によって制御が可能である。駆動機構106は、磁場中での動作が必要なため、磁場の影響を受けにくい公知の超音波モータなどを利用することが好ましい。シャフト109も磁場中での使用となるので、非磁性体の一般的な金属材料製やFRP製のシャフトを用いることが好ましい。
【0026】
次に、電磁石システム101を制御する制御装置104の構成を説明する。
図3は、制御装置の電気的な接続を模式的に示すブロック図である。前記したように制御装置104は、電磁石システム101の励磁電源120、冷却装置130、温度計測素子50、磁場分布計測センサ103等と前記した各信号線を介して通信することができる。
図3に示すように、制御装置104内に中枢として組みこまれているCPU(Central Processing Unit)141は、記憶装置142に記憶されるプログラム301を読み出して、ワークエリアに展開し、当該プログラム301を実行することで、各構成要素を制御する(制御部302)。また、後記するように、CPU141は、当該プログラム301を実行することで、各種演算を行う(演算部303)。
【0027】
CPU141は、制御信号を生成し、通信インターフェイスである通信部145を介して対象機器(励磁電源120、冷却装置130、温度計測素子50、磁場分布計測センサ103等)を制御する。制御情報は、例えば、目標電流と計測電流値との差分に基づいた制御対象機器に対する動作指令の関係式、フィードバック制御の際に使用するゲインの情報等が挙げられる。また、計測素子(温度計測素子50や磁場分布計測センサ103等)からセンシングされたデータは、通信部145を介して記憶装置142に格納される。センシングされたデータや各制御機器との通信で生じる運転データは、表示装置144によって表示される。
【0028】
記憶装置142は、超伝導電磁石110,114(第1の電磁石)の線電流の配置に関するデータ(すなわち、第1の電磁石の磁極形状に関するデータ)を電磁石システム101の製造時から記憶している。ここで超伝導電磁石110,114の磁場は電流から計算される。磁場を計算するとき電流は線として計算する。すなわち、線電流とは、この場合の線と見立てた電流であって、超伝導電磁石110,114磁場を計算する基礎となる。この超伝導電磁石110,114(第1の電磁石)の線電流の配置から、CPU141によって計算される磁場分布も、記憶装置142は、記憶している。制御装置104は、表示装置144に、超伝導電磁石110,114(第1の電磁石)の線電流の配置を表示する機能を持っていないが、後記するように計算される磁場分布を表示する機能を有している。
なお、超伝導電磁石110,114(第1の電磁石)の線電流の配置に関するデータなどは、記憶装置142に記憶されていてもよいし、記憶装置142ではなく、外部の記憶装置(サーバ等)に記憶されていてもよい。
【0029】
記憶装置142は、CPU141がプログラム301を実行するための前記のワークエリアとなるRAM(Random Access Memory)を備えている。記憶装置142は、例えば、ROM(Read Only Memory)、RAM、SSD(Solid State Drive)、HDD(Hard Disk Drive)等の主記憶装置および補助記憶装置を備えている。
通信部145は、例えば、イーサネットポート、USBポート、GPIBポート、D-subポート等で構成される。
【0030】
制御装置104は、さらにそれぞれ入力装置143と、出力装置146と、表示装置144とを備えている。
入力装置143は、入力部となるもので、操作者による入力操作を受け付ける機能を備えており、例えば、キーボード、カメラ、マウス、タッチパネル、音声入力を受け付けるマイク等で構成される。制御装置104の操作者は、入力装置143を操作することで、表示装置144に所望の画像を表示させて超伝導電磁石110,114(第1の電磁石)の線電流から計算される磁場分布や計測した磁場分布、その他の温度等の計測データや制御機器の運転データ等を表示することができる。
【0031】
表示装置144は、例えば、液晶ディスプレイ、有機ELディスプレイ等である。出力装置146は、例えば、イーサネットポート、USB(Universal Serial Bus)ポート等から構成される。表示装置144、出力装置146は、それぞれが出力部となるものであり、第2の電磁石321(
図5)の磁極形状に関するデータを出力して、第2の電磁石321の磁極形状の提案を使用者Bに行うことを可能とする。
また、前記した電磁石システム演算装置311も、電磁石システム101の本体と前記した信号線で結ばれていない他は、ハードウェア構成は制御装置104と同様である。しかし、電磁石システム演算装置311は、前記の制御部302の機能を備えておらず、演算部303の機能のみを備える。
【0032】
次に、製造事業者11が行う作業について説明する。製造事業者11は、電磁石システム演算方法および電磁石システム製造方法を実行する。電磁石システム演算方法は、次の第1工程および第2工程を備え、電磁石システム製造方法は、次の第1工程~第4工程を備える。
【0033】
(1)第1工程
製造事業者11は、制御装置104または電磁石システム演算装置311を用いて、第2の電磁石321(
図5)の磁極形状を示す電流分布を演算する(後記)。
【0034】
(2)第2工程
第1工程で演算した前記第2の電磁石321の磁極形状を示す電流分布を表示装置144、出力装置146で出力する。
【0035】
(3)第3工程
第2工程で出力した、第1工程で演算した第2の電磁石321の磁極形状を示す電流分布のデータに基づいて第2の電磁石321を製造する。
【0036】
(4)第4工程
第3工程で製造した第2の電磁石321やその周辺機器を電磁石システム101に適切に設置する。
【0037】
次に、前記第1工程における演算の内容を詳細に説明する。制御装置104または電磁石システム演算装置311は、記憶装置142において、第1の電磁石(超伝導電磁石110,114)の磁極形状に関するデータを記憶している。演算部303によって、第1の電磁石(超伝導電磁石110,114)と組み合わせて用いることで当該第1の電磁石に当初の磁場分布(使用者Aで使用していた磁場分布)とは異なる磁場分布である要求磁場分布(使用者Bが要求する磁場分布)を発生させる第2の電磁石321の磁極形状を示す電流分布を、記憶装置142に記憶されている第1の電磁石(超伝導電磁石110,114)の磁極形状に関するデータを用いて演算する。
【0038】
かかる演算の例についてより詳細に説明する。
図4は、演算部が実行する処理を説明するフローチャートである。まず、演算部303は、入力装置143により、使用者B32の第2の要求磁場空間117(使用者Bが電磁石システム101において求める磁場空間。
図5)の要求磁場(使用者Bが求める目標磁場)の入力を受け付ける(ステップS201)。この「目標磁場」は第2の要求磁場空間117における当該空間の各箇所のそれぞれではこのような磁場であるという値である。ここで第2の要求磁場空間117は、超伝導電磁石110,114(第1の磁石)の要求磁場空間115と異なる空間であってもよい。例えば使用者Aと使用者Bとで要求磁場空間の大きさが違ってもよい。
【0039】
演算部303は、第2の要求磁場空間117における第1の電磁石(超伝導電磁石110,114)が発生する磁場分布を磁場分布計測センサ103で計測する(ステップS202)。なお、電磁石システム演算装置311を本演算に用いる場合は、このような計測ができないので、電磁石システム101で計測したデータをステップS202で入力するようにすればよい。磁場分布の計測位置は、目標磁場の分布と同じ位置であることが望ましいが、記憶装置142が格納している第1の磁極の線電流の配置(第1の電磁石の超伝導電磁石110,114の磁極形状に関するデータ)により、計測磁場の分布は補間することができるので、目標磁場の分布の計測位置の数より少なくてもよい。
【0040】
ここで、計測磁場の分布の補間方法を次に示す。以下の説明で斜体の太字で示すI,B,A等の記号は、位置情報と電流値、磁場値等の値とを対応付けて表化したマトリックスである。第1の磁極の線電流を
【数1】
(励磁電源による電流値)とすると、任意の位置の磁場
【数2】
は、
【数3】
で求めることができる。ここで、
【数4】
は、線電流の配置と、要求磁場空間の距離によって決まる係数である。任意位置での計測磁場を
【数5】
とすると計測できない箇所の磁場は、
【数6】
で計算値から補正して求めることができる。
【0041】
次に、演算部303は、第2の要求磁場空間117における第1の磁石(超伝導電磁石110,114)が発生する計測磁場の分布と、目標磁場の分布との差分(同じ位置での計測磁場と要求磁場との差)を各位置で計算する(ステップS203)。
次に、演算部303は、超伝導電磁石110,114(第1の電磁石)の形状を考慮に入れ、第2の電磁石321(
図5)の磁極形状(以下、「第2の磁極形状」ということがある)の線電流の配置可能な場所を入力装置143から入力し、第2の電磁石321の磁極形状の線電流の配置可能な場所を限定する(ステップS204)。
【0042】
次に、演算部303は、S204で限定した第2の磁極形状の線電流の配置可能な場所を限定条件とし、S203で計算した差分磁場の逆問題を解く(要求磁場から第2の磁極形状の線電流分布を計算する)(ステップS205)。逆問題の解法は、ティホノフの正則化等、磁場のマトリクス分布から線電流のマトリクス分布を求める公知の解法を用いることができる。逆問題から求められる線電流のマトリクス分布は解法によっては一意に求めることができないが、超伝導電磁石110,114(第1の電磁石)の磁極の線電流の配置(第1の電磁石(超伝導電磁石110,114)の磁極形状に関するデータ)を記憶装置142が記憶していることで、より高精度な第2の磁極形状の線電流の分布の解を求めることができる。
【0043】
次に、演算部303は、第1の電磁石(超伝導電磁石110,114)の磁極形状の線電流の分布とS205で求めた第2の磁極形状の線電流の分布とが作り出す磁場分布(変更磁場)を計算する(ステップS206)。
次に、演算部303は、変更磁場と目標磁場の差分の2乗を計算し、その値が予め設定された許容値未満であれば(ステップS207のYes)、一連の処理を終了する。演算部303は、許容値を超過していれば(ステップS207のNo)、第2の磁極形状の配置を検討するS204に戻り、以下の処理を繰り返す。すなわち、許容値未満になるまで磁場の位置をずらしてS204以下の処理をトライする。
【0044】
このようにして、ステップS207のYesにより前記第1工程が完了し、第2の磁極形状の線電流分布が作る磁場分布(変更磁場)が求められる。その後は、この第2の磁極形状を前記第2工程で電子データや印刷物として出力し、その第2の磁極形状の結果を使用者Bに提案する。そして提案結果に使用者Bの了承を得られたら、前記第3工程、第4工程を実行する。
【0045】
次に、このような工程を経て製造した第2の電磁石204を付加的に設置した状態の
図2に示す電磁石システム101について説明する。
図5は、第2の電磁石を設置した本実施形態1に係る電磁石システムの一構成例を示すシステム構成図である。
第2の電磁石204は、S205で求めた第2の磁極形状の線電流の配置を構成する巻き線151を荷重支持体152で支持している。第2の磁極形状の線電流配置を構成する巻き線151は導線から成り、励磁電源120とは異なる励磁電源150に接続されて給電される。巻き線151を構成する線材は、その構成が特に限定されるものではないが、例えば、銅線や超伝導線材を用いることができる。ただし、超伝導線材を用いる場合には、冷却する必要があるため、クライオスタット160のような容器内に、巻き線151を収納する必要がある。
【0046】
超伝導電磁石110,114(第1の電磁石)によって発生する磁場は一般には数テスラの強磁場であることを想定しているため、その空間内に配置する第2の電磁石204の第2の磁極形状の線電流の配置を構成する巻き線151に通電すると、強大な電磁力が作用する。そのため、荷重支持体152は、磁場の強度と電流値の積から成る電磁力に対して支持できる強度のあるものが望ましい。荷重支持体152の構成は特に限定されるものではないが、巻き線151と荷重支持体152の間を樹脂等電気絶縁体によって絶縁していれば、ステンレスやアルミ合金等の非磁性体の金属を用いることができる。
【0047】
記憶装置142は、第1および第2の電磁石の励磁電流に関するデータと、第1および第2の電磁石の温度データを記憶(前記の例では、第2の電磁石321に温度検出素子が設けられていないが、設けてもよい)し、演算部303は、これらの励磁電流に関するデータと温度データとに基づいて、第1および第2の電磁石の冷却装置130(前記の例では第2の電磁石321には冷却装置が設けられていないが、設けられていてもよい)の運転推奨時間を求め、出力部となる出力装置146、表示装置144は、その運転推奨時間を出力する。
【0048】
以上説明した本実施形態の電磁石システム101、電磁石システム演算装置311によれば、演算部303は、第1の電磁石(超伝導電磁石110,114)と組み合わせて用いることで、使用者Aの要求していた磁場分布とは異なる磁場分布である要求磁場分布を発生させる第2の電磁石321の磁極形状を示す電流分布を、第1の電磁石の磁極形状に関するデータを用いて演算する。そのため、この第2の電磁石321を使用者Bに提案し、製造し、付加的に電磁石システム101に設置することで、使用者Bのニーズに合った電磁石システム101を提供することができる。そのため、電磁石システム101についてもレンタルサービス業務を可能とすることができる。
【0049】
この場合に電磁石システム101の使用を使用者Aから使用者Bに変更するに際し、超伝導電磁石110,114を新たな電磁石に全取り換えする必要はない。第2の電磁石321を製造し、付加的に電磁石システム101に取り付けるだけで使用者Cの要求に応えている。そのため、超伝導電磁石110,114を全取り換えしないでよいので、新仕様の電磁石システム101を用意するのに大きな製造コストや長い準備工程を必要としない。
【0050】
そのため、短時間で低コストによる調整を行うだけで電磁石システム101をレンタルサービスに提供できるようにして、電磁石システム101のレンタルサービスの効率を高めることができる。
また、第1の電磁石の磁極形状に関するデータは、予め記憶装置142に記憶されているので、高精度かつ迅速に第2の電磁石321を提案し、製造し、電磁石システム101に設置することができる。
【0051】
電磁石システム101、電磁石システム演算装置311は、演算部303で演算した第2の電磁石321の磁極形状を出力する出力部となる出力装置146、表示装置144を備えている。そのため、高精度かつ迅速に第2の電磁石321を提案し、製造し、電磁石システム101に設置することができる。
【0052】
電磁石システム101、電磁石システム演算装置311は、使用者Bの要求磁場分布の入力を受け付ける入力部となる入力装置143を備えている。そのため、電磁石システム101、電磁石システム演算装置311で使用者Bの要求磁場分布の入力を行って、電磁石321を提案し、製造し、電磁石システム101に設置することができる。
【0053】
また、演算部303は、前記第1および第2の電磁石の冷却装置(冷却装置130等)の運転推奨時間を求めることができるので、その運転推奨時間を使用者A,Bにも提案することができる。
【0054】
また、第1の電磁石(超伝導電磁石110,114)の表面に温度計測素子50を配置し、信号線171によって送信される検出温度を記憶装置142に記憶し、この検出温度に基づいて、制御装置104によって超伝導コイル巻き線111の電流をフィードバック制御している(前記の例では、第2の電磁石321には温度計測素子を設けておらず、このような制御を行っていないが、同様の制御を第2の電磁石321についても行ってよい)。したがって、第1、第2の電磁石の動作を適切に制御することができる。
【0055】
また、磁場分布計測センサ103は、駆動機構106により位置を可変して、磁場空間の様々な位置の磁場を測定できるので、第2の電磁石321を適切に設計したり、第1、第2の磁石を適切に制御したりすることができる。
また、第2の電磁石321は、第1の電磁石の励磁電源120とは異なる励磁電源150で励磁する。そのため、第1の電磁石、第2の電磁石321それぞれに適切な電力を供給することができる。
【実施形態2】
【0056】
図6は、本実施形態2に係る電磁石システムのレンタルサービスの流れを説明するブロック図である。なお、第2実施形態において、第1実施形態と共通する部材等については、共通の符号を用い、詳細な説明は省略する。
【0057】
図6に示すように、本サービスにかかわるのは、電磁石システム201(
図7)の製造事業者11、所有者12、使用者C等である。実施形態1では、使用者Aが使用しなくなった電磁石システム101に第2の電磁石321を付加的に設置して、新たに電磁石システム101を新たな使用者Bにレンタルする例であった。本実施形態2では、電磁石システム201を使用者Cが使用していたが、電磁石システム201の使用方法が変更となり、その変更に合わせて電磁石システム201に第2の電磁石322を付加的に設置して、引き続き使用者Cにレンタル使用させ続ける例である。
【0058】
まず、電磁石システム201の所有者21は、使用者Cに電磁石システム201をレンタルする(装置貸出)(S13)。使用者Cは当初の電磁石システム201の用途を達成した後に、製造事業者11もしくは所有者21に電磁石システム201で実現する磁場の変更を要求する(磁場変更要求)(S21)。その要求に対して製造事業者11は、第2の電磁石322の磁極形状(第2の磁極形状)の「提案」を行い、既存の電磁石システム201に、第2の電磁石322を付加的に「設置」する(S24)。
【0059】
また、電磁石システム201の制御装置244内に格納されている使用者Cの磁場・運転データは製造事業者11に提供され(S15)、電磁石システム201のより効率的な運転方法を製造事業者11が使用者Cに提案する(S25)。
例えば、電磁石システム201が超伝導電磁石を使用する電磁石としている場合、磁場を発生させるタイミングにあわせて冷却装置を稼働させることが運転の効率化につながる。超伝導電磁石の場合、その冷却時の電力消費は一般に数kW(キロワット)~数10kWであるのに対して、超伝導電磁石は定常電流通電時、電気抵抗が0Ωであるので、電磁石の電力消費は0Wである。つまり、磁場を発生させるための通電時の電力消費と比べて冷却時の電力消費は、圧倒的に大きく、冷却装置を運転する時間と、磁場を発生させるタイミングとをあわせて実施することが高効率の運転につながる。
【0060】
図7は、第2の電磁石を付加的に追加後の電磁石システムの一構成例を示すシステム構成図である。超伝導電磁石110,114(第1の電磁石)が発生する磁場に対して使用者Cからの磁場の変更要求があった場合、新たに電磁石システム201に要求される磁場分布に応じて、第2の電磁石(磁場遮蔽体)204を提案し、これを電磁石システム201に設置する。磁場遮蔽体は、磁場を遮蔽する装置であり、磁束を収束させる。磁場遮蔽体は、より狭い範囲により強い磁場をもってくることができる。第2実施形態では第2の電磁石204を採用しているが、磁石システム201要求される磁場分布によっては第1実施形態と同じく、巻き線形状の第2の電磁石を配置してもよい。
【0061】
本例の第2の電磁石204は、例えば超伝導バルク体や、超伝導薄膜を積層した反磁性の性質を持つ材料を使用することができ、材料は限定されものではないが、例えば、高温超電導物質(YBa2Cu3O7-δ,Bi2Sr2Ca2Cu3O10等)、ニオブチタン(NbTi)材、ニオブ3スズ(Nb3Sn)材、2ホウ化マグネシウム(MgB2)材などを使用することができる。
第2の電磁石204が超伝導体である場合、超伝導転移温度以下に冷却して超伝導状態となることで磁場を遮蔽する特性が発現する。そのため、第2の電磁石204は、クライオスタット260内に収納され、冷却装置230で冷却される。第2の電磁石204は、超伝導電磁石110,114(第1の電磁石)が発生する磁場中では電磁力をうけるため、荷重支持体261でクライオスタット260内に支持される。
【0062】
図7中では超伝導電磁石110,114のクライオスタット160と第2の電磁石204のクライオスタット260は独立したものとなっているが、使用温度の条件次第では超伝導電磁石110,114と、第2の電磁石204とを同じクライオスタット160内に収納してもよい。
【0063】
第2の電磁石204は、超伝導電磁石110,114(第1の電磁石)が発生する磁場を収束して、第2の要求磁場空間217の磁場を増幅する。第2の電磁石204は、侵入する磁束に対して垂直な面内に磁束を遮蔽するように電流を発生させる特性を持っている。その第2の電磁石204の電流分布を制御装置244によって第1実施形態と同様の手順で算出し、第2の電磁石204の磁極形状の配置を提案することができる。なお、
図7中では、第2の要求磁場空間217は、クライオスタット260内に配置されているが、その構成に特に限定されるものではなく、クライオスタット260の中央に貫通穴を空けることができ、第2の要求磁場空間217も室温環境下に配置することができる。
【0064】
冷却装置230と第2の電磁石204との間を接続する熱良導体270には温度計やヒータを取り付けることができ、第2の電磁石204の温度を制御することができる。第2の電磁石204に流れる遮蔽電流の電流密度は超伝導臨界電流密度の値をとり、その超伝導臨界電流密度は温度に依存して大きさが変わる。すなわち、熱良導体270に取り付けるヒータの出力を、温度計測データから制御装置244を使ってフィードバック制御することで、遮蔽電流の大きさを制御することができ、第2の要求磁場空間217の磁場を制御することできる。この場合のヒータの出力制御方法は公知の制御方法を適用することができ、例えば、PID(Proportional-Integral-Differential)制御などを用いることができる。
【0065】
本実施形態2のように、励磁電源を要せず、第1の電磁石が発生する磁場を遮蔽することで磁場の増幅をする第2の電磁石204も、第2の電磁石として利用することができる。
本実施形態2によれば、実施形態1の同様に、短時間で低コストによる調整を行うだけで電磁石システム201をレンタルサービスに提供できるようにして、電磁石システム201のレンタルサービスの効率を高めることができる。
また、第2の電磁石204が、超伝導薄膜を積層した構造を備える場合は、第2の電磁石204の製造コストを低減することができる。
その他、本実施形態2において実施形態1と共通の部材によって、実施形態1の同様の作用効果を奏することができる。
【0066】
なお、本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施形態の構成の一部を他の実施形態の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施形態の構成に他の実施形態の構成を加えることも可能である。また、各実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることも可能である。
【0067】
また、上記の各構成、機能、処理部、処理手段等は、それらの一部又は全部を、例えば集積回路で設計する等によりハードウェアで実現してもよい。各機能を実現するプログラム、テーブル、ファイル等の情報は、メモリや、ハードディスク、SSD(Solid State Drive)等の記録装置、又はICカード、SDカード、DVD等の記録媒体、インターネット上のサーバ等に置くことができる。
また、制御線や情報線は説明上必要と考えられるものを示しており、製品上必ずしも全ての制御線や情報線を示しているとは限らない。実際には殆ど全ての構成が相互に接続されていると考えてよい。
【符号の説明】
【0068】
101,201 電磁石システム
103 磁場分布計測センサ(センサ)
106 駆動機構
110,114 超伝導電磁石(第1の電磁石)
120,150 励磁電源
142 記憶装置
143 入力装置(入力部)
144 表示装置(出力部)
146 出力装置(出力部)
301 プログラム
302 制御部
303 演算部
311 電磁石システム演算装置
321,204 第2の電磁石