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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024001711
(43)【公開日】2024-01-10
(54)【発明の名称】受光素子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01L 31/10 20060101AFI20231227BHJP
   H01L 21/306 20060101ALI20231227BHJP
【FI】
H01L31/10 A
H01L21/306 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022100554
(22)【出願日】2022-06-22
(71)【出願人】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】石崎 順也
(72)【発明者】
【氏名】古屋 翔吾
【テーマコード(参考)】
5F043
5F149
5F849
【Fターム(参考)】
5F043AA40
5F043BB30
5F043DD10
5F043DD30
5F043GG10
5F149AA04
5F149AB07
5F149AB17
5F149BA14
5F149BA28
5F149CB09
5F149CB14
5F149DA28
5F149GA06
5F149XB18
5F149XB37
5F149XB51
5F849AA04
5F849AB07
5F849AB17
5F849BA14
5F849BA28
5F849CB09
5F849CB14
5F849DA28
5F849GA06
5F849XB18
5F849XB37
5F849XB51
(57)【要約】
【課題】
ウェーハ表面に析出した燐析出物のみを選択エッチングできる受光素子の製造方法を提供する。
【解決手段】
InP基板上に、InPバッファ層、InGaAs光吸収層、InPキャップ層を成長させたエピタキシャルウェーハを用い、InPキャップ層上にInGaAsコンタクト層を形成する工程と、InGaAsコンタクト層の一部をフォトリソグラフィー法により除去してInGaAsコンタクト部を形成する工程と、InPキャップ層とInGaAsコンタクト部を覆うように保護膜を形成する工程と、保護膜の一部に開口パターン部を形成する工程と、開口パターン部に燐含有雰囲気で不純物を拡散させる工程と、強塩基性水溶液を用いて前記不純物を拡散させる工程で表面に付着した燐析出物を選択的に除去する工程と、InGaAsコンタクト部及びInP基板裏面に電極を形成する工程とを含む受光素子の製造方法。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
InP基板上に、InPバッファ層、InGaAs光吸収層、InPキャップ層を順次エピタキシャル成長させたエピタキシャルウェーハを用いて受光素子を製造する受光素子の製造方法であって、
前記InPキャップ層上にInGaAsコンタクト層を形成する工程と、
前記InGaAsコンタクト層の一部をフォトリソグラフィー法により除去してInGaAsコンタクト部を形成する工程と、
前記InPキャップ層と前記InGaAsコンタクト部を覆うように保護膜を形成する工程と、
前記保護膜の一部に、前記InGaAsコンタクト部を含むように開口パターン部を形成する工程と、
前記開口パターン部に燐含有雰囲気で不純物を拡散させる工程と、
強塩基性水溶液を用いて、前記不純物を拡散させる工程で表面に付着した燐析出物を選択的に除去する工程と、
前記InGaAsコンタクト部及び前記InP基板裏面に電極を形成する工程とを含むことを特徴とする受光素子の製造方法。
【請求項2】
前記不純物を亜鉛(Zn)とし、前記保護膜をSiOとすることを特徴とする請求項1に記載の受光素子の製造方法。
【請求項3】
前記強塩基性水溶液として、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAH)、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)、KOH、NaOH及びCa(OH)から選択される一種類以上の塩基を水に溶解させたものを用いることを特徴とする請求項1に記載の受光素子の製造方法。
【請求項4】
前記強塩基性水溶液として、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAH)、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)、KOH、NaOH及びCa(OH)から選択される一種類以上の塩基を水に溶解させたものを用いることを特徴とする請求項2に記載の受光素子の製造方法。
【請求項5】
前記強塩基性水溶液として、pHが12を超えたものを用いることを特徴とする請求項1から4のいずれか一項に記載の受光素子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は受光素子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
n型半導体層と、光吸収層と、p型半導体層とを順に備えた半導体光素子が一般に用いられている。光吸収層は、意図的に不純物を添加(ドープ)しない真性層(intrinsic層。i層、アンドープ層などともいう。)である。このような半導体光素子は、光吸収層をp型半導体層とn型半導体層とで鋏む、いわゆるPIN構造を有しているのが一般的である(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009-105105号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、InGaAs/InP系材料を用いてフォトダイオード(PD)構造を有するエピタキシャルウェーハを作製し、不純物を拡散してPIN構造を有するPD(以下、単に「PIN-PD」ということもある)とする製造方法において、不純物拡散処理後、PIN-PD構造表面に拡散処理の雰囲気に起因する燐が析出する場合がある。燐析出は降温速度が高かった場合に発生しやすい。燐析出物は、PDの受光を阻害し感度を低下させると共に、コンタクト電極形成時にオーミック阻害要因となることから、電極形成前に除去する必要がある。
【0005】
不純物拡散前には、例えばSiO等の保護膜を形成しパターン化することで、開口部から半導体部を露出させ、露出領域から不純物を拡散しエピタキシャルウェーハ内部にP/N接合を形成する。不純物拡散時には燐乖離圧以上の圧力または温度で保持するため、雰囲気は燐含有雰囲気を維持しつつ不純物拡散処理を行う。拡散処理後は過剰拡散を防ぐため、速い降温が望ましい。
【0006】
しかし、降温速度が高いとウェーハ表面が速く冷えるため、雰囲気中の燐がウェーハ表面に析出しやすくなる。析出した燐により光の透過率が落ちるため、受光素子の受光特性を悪化させる。また、析出した燐はウェーハ上に電極を形成した際のオーミック抵抗を増加させる要因ともなる。
【0007】
このように、ウェーハ表面に存在する燐析出物は受光素子特性を悪化させる要因となり、除去すべきものである。そのために、ウェーハ側の構造を変化させずに、燐析出物のみを選択的に除去する方法が必要である。しかし、燐析出物のみを除去し、ウェーハを構成するInGaAs及びInPをエッチングしない選択エッチングに関する技術開示は知られていない。
【0008】
InPのみをエッチングする場合は塩酸系エッチャントが、InGaAsのみをエッチングする場合は過酸化水素水と酸の混合液を使用することが好適であることが知られている。燐析出物は易エッチング材料であり、酸であればどのような種類でもエッチングが可能である。しかし、燐析出物のみをエッチングし、InP及びInGaAsに対し選択性を有するエッチャントの技術開示はこれまで知られていなかった。
【0009】
本発明は上記課題を解決するためになされたもので、InGaAs/InP系材料(エピタキシャルウェーハ)を用いたPIN-PD製造工程において、不純物拡散処理後にウェーハ表面に析出した燐析出物のみをエッチングし、かつ、InP及びInGaAsへのエッチングが極小となる選択エッチングにより、燐析出物を選択的に除去できる受光素子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、InP基板上に、InPバッファ層、InGaAs光吸収層、InPキャップ層を順次エピタキシャル成長させたエピタキシャルウェーハを用いて受光素子を製造する受光素子の製造方法であって、前記InPキャップ層上にInGaAsコンタクト層を形成する工程と、前記InGaAsコンタクト層の一部をフォトリソグラフィー法により除去してInGaAsコンタクト部を形成する工程と、前記InPキャップ層と前記InGaAsコンタクト部を覆うように保護膜を形成する工程と、前記保護膜の一部に、前記InGaAsコンタクト部を含むように開口パターン部を形成する工程と、前記開口パターン部に燐含有雰囲気で不純物を拡散させる工程と、強塩基性水溶液を用いて、前記不純物を拡散させる工程で表面に付着した燐析出物を選択的に除去する工程と、前記InGaAsコンタクト部及び前記InP基板裏面に電極を形成する工程とを含む受光素子の製造方法を提供する。
【0011】
このような受光素子の製造方法によれば、InGaAs/InP系材料(エピタキシャルウェーハ)を用いたPIN-PD製造工程において、InP及びInGaAsのエッチングを抑制しつつ、不純物拡散処理後にウェーハ表面に析出した燐析出物を選択的に除去できる。
【0012】
このとき、前記不純物を亜鉛(Zn)とし、前記保護膜をSiOとすることができる。
【0013】
これらであれば、容易にp型の導電型にできるとともに、容易に保護膜を形成できる。
【0014】
このとき、前記強塩基性水溶液として、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAH)、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)、KOH、NaOH及びCa(OH)から選択される一種類以上の塩基を水に溶解させたものを用いることができる。
【0015】
これにより、より確実に安定して燐析出物のみをエッチング除去することができる。
【0016】
このとき、前記強塩基性水溶液として、pHが12を超えたものを用いることができる。
【0017】
これにより、より確実に安定して燐析出物のみをエッチング除去することができる。
【発明の効果】
【0018】
以上のように、本発明の受光素子の製造方法によれば、InGaAs/InP系材料(エピタキシャルウェーハ)を用いたPIN-PD製造工程において、InP及びInGaAsのエッチングを抑制しつつ、不純物拡散処理後にウェーハ表面に析出した燐析出物を選択的に除去することが可能となる。したがって、高品質のPIN-PDを高歩留まりで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】受光素子の製造工程を説明する図面である。
図2図1に続く受光素子の製造工程を示す。
図3図2に続く受光素子の製造工程を示す。
図4図3に続く受光素子の製造工程を示す。
図5】不純物拡散後の燐析出物を有するPIN-PDに対し強塩基性水溶液を使用してエッチングした場合の、エッチング時間に対する燐析出物の厚さ及びInGaAsコンタクト部の厚さを評価した結果を示す。
図6】エッチング処理がオーミックコンタクト形成に及ぼす影響を調査として、比較例と実施例の抵抗率を比較した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0021】
上述のように、InGaAs/InP系材料(エピタキシャルウェーハ)を用いたPIN-PD製造工程において、不純物拡散処理後にウェーハ表面に析出した燐析出物のみをエッチングし、かつ、InP及びInGaAsへのエッチングが極小となる選択エッチングにより、燐析出物を選択的に除去できる受光素子の製造方法が求められていた。
【0022】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、InP基板上に、InPバッファ層、InGaAs光吸収層、InPキャップ層を順次エピタキシャル成長させたエピタキシャルウェーハを用いて受光素子を製造する受光素子の製造方法であって、前記InPキャップ層上にInGaAsコンタクト層を形成する工程と、前記InGaAsコンタクト層の一部をフォトリソグラフィー法により除去してInGaAsコンタクト部を形成する工程と、前記InPキャップ層と前記InGaAsコンタクト部を覆うように保護膜を形成する工程と、前記保護膜の一部に、前記InGaAsコンタクト部を含むように開口パターン部を形成する工程と、前記開口パターン部に燐含有雰囲気で不純物を拡散させる工程と、強塩基性水溶液を用いて、前記不純物を拡散させる工程で表面に付着した燐析出物を選択的に除去する工程と、前記InGaAsコンタクト部及び前記InP基板裏面に電極を形成する工程とを含む受光素子の製造方法により、InGaAs/InP系材料(エピタキシャルウェーハ)を用いたPIN-PD製造工程において、InP及びInGaAsのエッチングを抑制しつつ、不純物拡散処理後にウェーハ表面に析出した燐析出物を選択的に除去できることを見出し、本発明を完成した。
【0023】
以下、図面を参照して説明する。
【0024】
図1に示すように第一導電型のInP基板1を出発基板とし、例えば1μm厚のノンドープInPバッファ層2を積層した後、例えば3μm厚のノンドープInGa1-xAs(0.4≦x≦0.6)などのInGaAs光吸収層3、例えば1μm厚のノンドープInPキャップ層4を順次エピタキシャル成長して、エピタキシャルウェーハ10を準備する。
【0025】
さらに、InPキャップ層4上に、例えば0.15μm厚のノンドープInGa1-xAs(0.4≦x≦0.6)などのInGaAsコンタクト層5Aをエピタキシャル成長することで、エピタキシャル機能層として受光素子構造を有するエピタキシャルウェーハとする(InGaAsコンタクト層を形成する工程)。
【0026】
次に図2に示すように、InGaAsコンタクト層5Aの一部をフォトリソグラフィー法により除去し、InGaAsコンタクト部5Bを形成する(InGaAsコンタクト部を形成する工程)。パターン形成には、InGaAsを速く選択的にエッチングし、InP層のエッチング速度が極めて遅い硫酸過水液を用いることができる。
【0027】
次に図3に示すように、InGaAsコンタクト部5B形成後、表面にSiO等からなる保護膜6を形成する。形成した保護膜の一部に開口パターン7を形成し、開口パターン7部に第二導電型を付与するための不純物を燐含有雰囲気で拡散させる(不純物を拡散させる工程)。保護膜としては、SiOが比較的容易に形成できるため好ましい。
【0028】
不純物を拡散させる工程では、例えばp型の導電型を付与するZnを拡散する場合、常圧の燐含有雰囲気中にて400℃以上の温度を保持し、ジメチル亜鉛(DMZn)などのZn源ガスを混合させることで拡散処理を行う。具体的には、水素(H)をキャリアガスとする雰囲気中にフォスフィン(PH)ガスを流して燐含有雰囲気とし、分圧は1×10-6[atm]以上を維持する。昇温中は燐含有雰囲気を維持し、降温中は400℃まで燐含有雰囲気を維持する。
【0029】
拡散処理後、取り出したウェーハを強塩基性水溶液(強塩基材料を含む水溶液)中に浸して、燐析出物をエッチングすることにより除去する(燐析出物を選択的に除去する工程)。このように強塩基性水溶液を用いてウェーハ表面に付着した燐析出物の除去を行うことで、InP及びInGaAsへのエッチングが極小となり、不純物拡散処理後にウェーハ表面に析出する燐析出物のみを選択的にエッチング除去することができる。
【0030】
強塩基材料は水溶液にした際、pH>12になるものが好ましい。また、このような強塩基材料は、例えばテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAH)、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)、KOH、NaOH、Ca(OH)などが選択可能であり、これらの材料から選択される一種類以上の塩基を水に溶解させた水溶液を用いることができる。このような強塩基性水溶液であれば、より確実に安定して燐析出物のみをエッチング除去することができる。
【0031】
表1に酸性水溶液をエッチャントとして、表2に強塩基性水溶液をエッチャントとしてウェーハを浸漬した場合の、燐析出物へのエッチング性とInGaAs及びInP両者へのエッチング性の、選択性の有無を調査した結果を示す。これは、以下の方法によりエッチング選択性と燐析出物エッチング性を確認した。
【0032】
InP/InGaAs構造を有する基板を用い選択的にInPをエッチングしてInPパターンを形成した基板と、InGaAs/InP構造有する基板を用い選択的にInGaAsをエッチングしてInGaAsパターンを形成した基板を準備し、拡散処理を行い、基板表面に燐析出物を形成させる。これらの基板を各種エッチャントに浸漬させる。燐析出物の選択的なエッチング性がある場合、パターン化されたInP層部又はInGaAs層部の厚さ、サイズが変わらず、燐析出物のみが消失する。この場合、「エッチング選択性あり」と判断した。その一方、InP層部又はInGaAs層部の厚さ、サイズが変わった場合、「エッチング選択性無し」と判断した。なお、InGaAsに対してエッチング選択性があって、InPに対してエッチング選択性が無い場合も「エッチング選択性無し」としている。この逆の場合であっても同様である。また、パターン化されたInP部又はInGaAs層部がエッチングされた場合、エッチング選択性はないが、燐析出物は下地層(InP層部又はInGaAs層部)と共に除去されており、燐析出物自体はなくなっているため、「除去された」と定義した。
【0033】
表1に示すように、酸性エッチャントは燐析出物に対するエッチング性はあるものの、燐析出物のエッチング速度に対して、InGaAsやInPへのエッチング速度が遅くはなく、エッチング選択性はほぼ無いことが判った。
【0034】
【表1】
【0035】
表2に示すように、強塩基性エッチャントを用いた場合、燐析出物に対してエッチングは進むものの、InGaAsやInPに対するエッチング速度は遅く、エッチング選択性が高いことが判った。
【0036】
【表2】
【0037】
また、図5に、不純物拡散後のPIN-PDに対し、2.38%のTMAH水溶液を燐析出物除去用エッチャントとして使用した場合の、エッチング時間に対する燐析出物の厚さ、及び、InGaAsコンタクト部の厚さをプロットしたものを示す。燐析出物の厚さは処理後に断面形状加工し、SEM観察を行うことで測定した。また、薄膜の場合はTEMサンプルを作成して観察を行った。燐析出物厚が単調減少しているのに対し、InGaAs部の厚さはほぼ一定である。図中には示していないが、InP層単独のエッチング評価においても、InP層へのエッチングはInGaAsと同等かそれ以下と、極めて少ない。TMAHなどの強塩基性水溶液を用いることで、燐析出物が選択的にエッチングされ、InGaAsやInPはほぼエッチングされないことが判る。なお、TMAHの濃度は0.5%以上が好ましい。他の強塩基材料含有水溶液はpH>12を維持できるものが好ましく、どのような濃度でも選択可能である。
【0038】
燐析出物を選択的に除去する工程の後、図4に示すように開口パターン7部のInGaAsコンタクト部に電極8を形成する。InP基板1の裏面にも電極9を形成し、受光素子を製造する(電極を形成する工程)。
【実施例0039】
以下、実施例を挙げて本発明について具体的に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【0040】
(実施例)
n型InP基板を出発基板とし、1μm厚のノンドープInPバッファ層を積層した後、3μm厚のノンドープIn0.5Ga0.5As光吸収層、1μm厚のノンドープInPキャップ層を順次成長したエピタキシャルウェーハを準備し、InPキャップ層上に0.15μm厚のノンドープIn0.5Ga0.5Asコンタクト層を形成し、エピタキシャル機能層として受光素子構造を有するエピタキシャルウェーハを準備した(図1)。
【0041】
In0.5Ga0.5Asコンタクト層の一部をフォトリソグラフィー法により除去し、InGaAsコンタクト部を形成した。パターン形成には硫酸過水液を用いた(図2)。
【0042】
In0.5Ga0.5Asコンタクト部形成後、表面に保護膜としてSiO膜を形成した。形成したSiO膜の一部に開口パターンを形成し、開口パターン部にZnを拡散させた(図3)。Znの拡散は常圧の燐含有雰囲気中にて400℃以上の温度を保持し、水素(H)をキャリアガスとし、フォスフィン(PH)ガスを流して燐含有雰囲気とし、PHガスの分圧は1×10-6[atm]以上を維持した。そこにジメチル亜鉛(DMZn)ガスを混合させることで拡散処理を行った。昇温中は燐含有雰囲気を維持し、降温中は400℃まで燐含有雰囲気を維持するようにした。
【0043】
拡散処理後、取り出したウェーハを濃度2.38%でpH13のテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液中に190分間浸して燐析出物をエッチングした。その後、開口パターン部の、InGaAsコンタクト部に電極を形成し、さらにn型InP基板の裏面にも電極を形成することで、受光素子を製造した(図4)。
【0044】
(比較例)
テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)水溶液中に浸して燐析出物をエッチングする工程を行わないことを除き、実施例と同様な条件で受光素子を製造した。
【0045】
図6に、未処理ウェーハ上へ電極を形成した場合(比較例)の抵抗率と、TMAHにて190分エッチング処理した後のウェーハ上に電極を形成した場合(実施例)の抵抗率とを比較したデータを示す。比較例(未処理品)の抵抗が高いのに対し、実施例(エッチング処理品)の方が二桁程度、抵抗が低いことが分かる。これはエッチングにより燐析出物が除去されたため、オーミック接触形成時に障害となる燐析出物が除去されたことを示すと共に、コンタクト層の厚さを含む形状が燐析出物の選択的除去処理によってもほとんど変化せず、エッチング処理がオーミックコンタクト形成に悪影響を与えないことを示す。
【0046】
以上のとおり、本発明の実施例によれば、強塩基性水溶液の処理により、燐析出物を選択的に除去することが可能であり、かつ、除去に際し、下地のエピタキシャル層に悪影響を与えることが無いことが判った。
【0047】
本明細書は、以下の態様を包含する。
[1]: InP基板上に、InPバッファ層、InGaAs光吸収層、InPキャップ層を順次エピタキシャル成長させたエピタキシャルウェーハを用いて受光素子を製造する受光素子の製造方法であって、
前記InPキャップ層上にInGaAsコンタクト層を形成する工程と、
前記InGaAsコンタクト層の一部をフォトリソグラフィー法により除去してInGaAsコンタクト部を形成する工程と、
前記InPキャップ層と前記InGaAsコンタクト部を覆うように保護膜を形成する工程と、
前記保護膜の一部に、前記InGaAsコンタクト部を含むように開口パターン部を形成する工程と、
前記開口パターン部に燐含有雰囲気で不純物を拡散させる工程と、
強塩基性水溶液を用いて、前記不純物を拡散させる工程で表面に付着した燐析出物を選択的に除去する工程と、
前記InGaAsコンタクト部及び前記InP基板裏面に電極を形成する工程とを含む受光素子の製造方法。
[2]:前記不純物を亜鉛(Zn)とし、前記保護膜をSiOとする上記[1]の受光素子の製造方法。
[3]:前記強塩基性水溶液として、テトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(TEAH)、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド(TBAH)、KOH、NaOH及びCa(OH)から選択される一種類以上の塩基を水に溶解させたものを用いる上記[1]又は上記[2]の受光素子の製造方法。
[4]:前記強塩基性水溶液として、pHが12を超えたものを用いる上記[1]、上記[2]又は上記[3]の受光素子の製造方法。
【0048】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。
【符号の説明】
【0049】
1…InP基板、 2…InPバッファ層、 3…InGaAs光吸収層、
4…InPキャップ層、 5A…InGaAsコンタクト層、
5B…InGaAsコンタクト部、 6…保護膜、 7…開口パターン、
8、9…電極、 10…エピタキシャルウェーハ。
図1
図2
図3
図4
図5
図6