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特開2024-171188回折光学素子、撮像装置、及びプログラム
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171188
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】回折光学素子、撮像装置、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
   G03H 1/06 20060101AFI20241204BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20241204BHJP
   G02B 5/18 20060101ALI20241204BHJP
   G11B 7/0065 20060101ALI20241204BHJP
【FI】
G03H1/06
G02B5/30
G02B5/18
G11B7/0065
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088134
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】000004352
【氏名又は名称】日本放送協会
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100164471
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 大和
(74)【代理人】
【識別番号】100185225
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 恭一
(72)【発明者】
【氏名】信川 輝吉
(72)【発明者】
【氏名】片野 祐太郎
(72)【発明者】
【氏名】後藤 正英
(72)【発明者】
【氏名】室井 哲彦
(72)【発明者】
【氏名】萩原 啓
【テーマコード(参考)】
2H149
2H249
2K008
5D090
【Fターム(参考)】
2H149AA25
2H149AB03
2H149BA00
2H149BA02
2H149FC09
2H249AA02
2H249AA52
2H249AA64
2K008AA08
2K008BB04
2K008CC03
2K008DD27
2K008FF07
2K008FF27
2K008HH12
5D090BB16
5D090LL03
(57)【要約】
【課題】光利用効率を向上した回折光学素子及び撮像装置を提供する。
【解決手段】インコヒーレント光を第1分割光と第2分割光に分割し、前記第1分割光と前記第2分割光に互いに異なる位相分布を付与し、その後、前記第1分割光と前記第2分割光を互いに干渉させてホログラムを形成し、撮像する撮像装置において、1次元周期又は2次元周期のn階調(n>2)の位相分布を付与する回折光学素子により、前記第1分割光と前記第2分割光をそれぞれ3又は4方向に均一な光強度で分割し、分割したそれぞれの光を、透過軸の角度が異なる直線偏光子を通過させることで、互いに異なる位相シフト量の複数枚のホログラムを形成させ、複数枚の前記ホログラムを同時に撮像することを特徴とする。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インコヒーレント光を第1分割光と第2分割光に分割し、前記第1分割光と前記第2分割光に互いに異なる位相分布を付与し、その後、前記第1分割光と前記第2分割光を互いに干渉させてホログラムを形成し、撮像する撮像装置において、
1次元周期又は2次元周期のn階調(n>2)の位相分布を付与する回折光学素子により、前記第1分割光と前記第2分割光をそれぞれ3又は4方向に均一な光強度で分割し、分割したそれぞれの光を、透過軸の角度が異なる直線偏光子を通過させることで、互いに異なる位相シフト量の複数枚のホログラムを形成させ、複数枚の前記ホログラムを同時に撮像する、撮像装置。
【請求項2】
請求項1記載の撮像装置において、
さらに、複数枚の前記ホログラムから位相シフト法により複素振幅分布を取得し、伝播計算により再構成像を生成する情報処理装置を備える、撮像装置。
【請求項3】
1×2N個(Nは自然数)のピクセルからなり、各ピクセルがn階調(n>2)の位相値を有する位相の基本配列を繰り返し単位とし、前記繰り返し単位を縦・横方向に複数配置してなる、1次元周期の位相分布を有する回折光学素子であって、透過又は反射する光波を強度が均一の3つの光に分割する、回折光学素子。
【請求項4】
M×2N個(M>1,Nは自然数)のピクセルからなり、各ピクセルがn階調(n>2)の位相値を有する位相の基本配列を、該基本配列を上下左右反転して複製したものと上下方向に組み合わせてなる2M×2N個のピクセルを繰り返し単位とし、前記繰り返し単位を縦・横方向に複数配置してなる、2次元周期の位相分布を有する回折光学素子であって、透過又は反射する光波を強度が均一の4つの光に分割する、回折光学素子。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の回折光学素子であって、
前記位相分布を、n段階(n>2)の高さを有する光学材料の凹凸構造により実現することを特徴とする、回折光学素子。
【請求項6】
請求項3又は4に記載の回折光学素子であって、
前記位相分布を、光源の波長以下の大きさで、面内の形状又は分布が互いに異なる柱状突起を有するメタサーフェスで実現することを特徴とする、回折光学素子。
【請求項7】
コンピュータに、少なくとも以下の各手順
手順A.複数のピクセルからなる位相の初期配列を作成し、前記初期配列を周期的に拡張して初期位相格子を作成するステップ、
手順B.前記初期位相格子と所定の振幅分布とを組み合わせて、フーリエ変換をするステップ、
手順C.前記フーリエ変換で得られた位相分布と目標の振幅分布とを組み合わせて、逆フーリエ変換するステップ、
手順D.前記逆フーリエ変換で得られた位相分布から、複数のピクセルからなる基本配列を切り出すステップ、
手順E.前記基本配列の1か所のピクセルの位相を変化させ、変化させた基本配列を周期的に拡張して位相格子を作成するステップ、
手順F.前記位相格子と所定の振幅分布とを組み合わせて、フーリエ変換をするステップ、
手順G.前記位相格子に基づくフーリエ変換で得られた振幅分布と目標の振幅分布との差分を求めるステップ、
手順H.前記差分を評価し、前記基本配列と、変化させた基本配列の一方を選択するステップ、
手順I.最終的に得られた基本配列を周期的に拡張して、回折光学素子のn階調(n>2)の位相分布を決定するステップ、
を実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は回折光学素子、撮像装置、及びプログラムに関し、特にインコヒーレントホログラフィによる撮像に用いる回折光学素子、これを用いた撮像装置、及び回折光学素子を設計するためのプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ホログラフィは物体の3次元情報を取得・再構成する技術である。特に、インコヒーレントホログラフィの技術では、太陽光や一般的な屋内の照明光、蛍光などの空間的なコヒーレンスが低い光源で物体のホログラムを撮像でき、自然光環境下での立体撮像を実現可能という特徴がある(非特許文献1)。このことから、インコヒーレトホログラフィでは、レーザー光源を用いる立体撮像手法を導入する際に検討するべきアイセーフの問題を考慮する必要がなく、複数のレーザー光源の混信の問題もなく、受動的な立体撮像手法を実現できる。さらに、従来のカメラよりも優れた空間周波数特性を有しており、高精細な映像を撮影できる有力な候補である。
【0003】
一般に、ホログラフィで3次元情報を取得するためには、位相情報あるいは複素振幅情報(位相情報と振幅情報を合わせたもの)の検出が必要である。その情報の検出に、位相シフト法がよく用いられる(例えば、特許文献1)。位相シフト法とは、光の位相シフト量(つまり縞の明暗の位置)が異なる、複数枚のホログラムを撮像し、これらを解析することで、位相情報あるいは複素振幅情報を検出する技術である。位相シフト法に必要な複数枚のホログラムを撮像する際に、ピエゾ素子や液晶などの空間光変調器等を用いて、逐次的に光の位相をシフトさせて、その都度、ホログラムを撮像する時分割の位相シフト法(例えば、特許文献1、非特許文献2)がよく利用されている。しかし、この方法では、位相情報あるいは複素振幅情報を検出するために複数回(最低3回)の撮像が必要で、撮像の間、被写体は静止している必要があり、動画撮像への適用が困難である。
【0004】
そこで、動画撮像にも適用するために、位相シフト法に必要な複数枚のホログラムを一括に撮像する空間分割の位相シフト法が提案されている(特許文献2~5)。特許文献2~5では、撮像対象物体から反射、透過、散乱してきた光を、2階調の回折光学素子により変調する。各文献で光学素子の形態、光学系の配置や構成が異なるが、すべてに共通している点は、2段の凹凸構造が周期的に配置された2値の回折光学素子により、2階調の位相分布を光に付与している点である。2値の周期的な位相分布を付与された光は、回折の現象により、その周期性に応じて複数の方向に分割され、それぞれ異なる位相シフト量が付与され、伝搬する。これにより、位相シフト法に必要な複数枚のホログラムを撮像素子面上に同時に形成させることができ、一度の撮像で複数枚のホログラムを一括に撮像できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特許第6416270号公報
【特許文献2】特許第7122153号公報
【特許文献3】特開2021-131457号公報
【特許文献4】特開2021-184033号公報
【特許文献5】特開2022- 97130号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Joseph Rosen, et al., “Roadmap on Recent Progress in FINCH Technology”, Journal of Imaging, (2021), vol. 7, 197.
【非特許文献2】Myung K. Kim, “Full color natural light holographic camera,” Optics Express, (2013) vol. 21, pp. 9636-9642,
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、2階調の位相分布の回折光学素子を用いる場合、高次の回折光が発生してしまい、光利用効率が低下してしまう。特許文献2、3、4の市松模様状の周期的な2階調の回折光学素子を用いて4方向に光を分割する場合、各ホログラムにおける入射光の光利用効率は、理論的には16%であり、全体での光利用効率は16%×4=64%である。また、特許文献5のライン状の周期的な2階調の回折光学素子を用いる場合には、光は3方向に分割され、各ホログラムにおける入射光の光利用効率は29%であり、全体での光利用効率は29%×3=87%である。すなわち、4分割の場合100-64=36%が、3分割の場合100-87=13%が,高次回折光成分のエネルギーであり、損失となる。
【0008】
光利用効率が低下すると、次の2つの問題が生じる。一つは、撮像素子で撮像する際の撮像素子のノイズの影響が顕著になり、立体映像の画質の低下につながる。もう一つは、ホログラム撮像時に光量を補うために、露光時間を長く設定する必要があり、フレームレートが低下する。そして、長い露光時間に対して動きが速い撮像対象・動的な現象を撮像する際には、ホログラムがぼやけてしまい、再生像の品質が劣化する。
【0009】
したがって、上記のような問題点に鑑みてなされた本発明の目的は、光利用効率を向上した回折光学素子及びその設計プログラムを提供するとともに、この回折光学素子を用いて、ホログラム撮像時のノイズを抑制し、高品質の立体画像を生成することが可能な撮像装置を提供することことにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために本発明に係る撮像装置は、
(1)インコヒーレント光を第1分割光と第2分割光に分割し、前記第1分割光と前記第2分割光に互いに異なる位相分布を付与し、その後、前記第1分割光と前記第2分割光を互いに干渉させてホログラムを形成し、撮像する撮像装置において、1次元周期又は2次元周期のn階調(n>2)の位相分布を付与する回折光学素子により、前記第1分割光と前記第2分割光をそれぞれ3又は4方向に均一な光強度で分割し、分割したそれぞれの光を、透過軸の角度が異なる直線偏光子を通過させることで、互いに異なる位相シフト量の複数枚のホログラムを形成させ、複数枚の前記ホログラムを同時に撮像する、撮像装置である。
【0011】
(2)上記(1)の撮像装置は、更に、複数枚の前記ホログラムから位相シフト法により複素振幅分布を取得し、伝播計算により再構成像を生成する情報処理装置を備えることが好ましい。
【0012】
上記課題を解決するために本発明に係る回折光学素子は、
(3)1×2N個(Nは自然数)のピクセルからなり、各ピクセルがn階調(n>2)の位相値を有する位相の基本配列を繰り返し単位とし、前記繰り返し単位を縦・横方向に複数配置してなる、1次元周期の位相分布を有する回折光学素子であって、透過又は反射する光波を強度が均一の3つの光に分割する、回折光学素子である。
【0013】
また、上記課題を解決するために本発明に係る回折光学素子は、
(4)M×2N個(M>1,Nは自然数)のピクセルからなり、各ピクセルがn階調(n>2)の位相値を有する位相の基本配列を、該基本配列を上下左右反転して複製したものと上下方向に組み合わせてなる2M×2N個のピクセルを繰り返し単位とし、前記繰り返し単位を縦・横方向に複数配置してなる、2次元周期の位相分布を有する回折光学素子であって、透過又は反射する光波を強度が均一の4つの光に分割する、回折光学素子である。
【0014】
(5)上記(3)または(4)の回折光学素子は、更に、前記位相分布を、n段階(n>2)の高さを有する光学材料の凹凸構造により実現することが好ましい。
【0015】
(6)上記(3)または(4)の回折光学素子は、更に、前記位相分布を、光源の波長以下の大きさで、面内の形状又は分布が互いに異なる柱状突起を有するメタサーフェスで実現することが好ましい。
【0016】
上記課題を解決するために本発明に係るプログラムは、
(7)コンピュータに、少なくとも以下の各手順
手順A.複数のピクセルからなる位相の初期配列を作成し、前記初期配列を周期的に拡張して初期位相格子を作成するステップ、
手順B.前記初期位相格子と所定の振幅分布とを組み合わせて、フーリエ変換をするステップ、
手順C.前記フーリエ変換で得られた位相分布と目標の振幅分布とを組み合わせて、逆フーリエ変換するステップ、
手順D.前記逆フーリエ変換で得られた位相分布から、複数のピクセルからなる基本配列を切り出すステップ、
手順E.前記基本配列の1か所のピクセルの位相を変化させ、変化させた基本配列を周期的に拡張して位相格子を作成するステップ、
手順F.前記位相格子と所定の振幅分布とを組み合わせて、フーリエ変換をするステップ、
手順G.前記位相格子に基づくフーリエ変換で得られた振幅分布と目標の振幅分布との差分を求めるステップ、
手順H.前記差分を評価し、前記基本配列と、変化させた基本配列の一方を選択するステップ、
手順I.最終的に得られた基本配列を周期的に拡張して、回折光学素子のn階調(n>2)の位相分布を決定するステップ、
を実行させるためのプログラムである。
【発明の効果】
【0017】
本発明により設計された回折光学素子は、高次の回折光を抑制できるため、光利用効率を改善できる。また、本発明の撮像装置は、ホログラム撮像時のノイズを抑制し、高品質の立体画像を生成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の回折光学素子を用いた第1の実施形態の撮像装置を示す図である。
図2A】1次元周期の回折光学素子で付与する位相分布の例である。
図2B】2次元周期の回折光学素子で付与する位相分布の例である。
図3A】領域分割偏光子の例である。
図3B】領域分割偏光子の別の例である。
図4】回折光学素子の位相分布の設計方法の例を示す、フローチャートである。
図5図2Aの回折光学素子の設計例である。
図6図2Aの回折光学素子の設計例である。
図7図2Bの回折光学素子の設計例である。
図8図2Bの回折光学素子の設計例である。
図9図2Bの回折光学素子の設計例である。
図10】メタサーフェスの例を示す図である。
図11A】メタサーフェスの柱状突起の例を示す図である。
図11B】メタサーフェスの柱状突起の例を示す図である。
図11C】メタサーフェスの柱状突起の例を示す図である。
図12】本発明の回折光学素子を用いた第2の実施形態の撮像装置を示す図である。
図13】本発明の回折光学素子を用いた第3の実施形態の撮像装置を示す図である。
図14】検証実験で撮影された被写体である。
図15】検証実験で取得されたホログラムである。
図16】検証実験で得られた再構成像である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて説明する。
【0020】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の回折光学素子を用いた第1の実施形態の撮像装置を示す図である。本実施形態は、階調数3以上の多階調の位相分布を付与する透過型の回折光学素子4を用いたホログラム撮影装置の例である。図1の実施形態の装置構成は、バンドパスフィルター1、偏光子2、円偏光2重焦点レンズ3、回折光学素子4、領域分割偏光子5、撮像素子20、及び、情報処理装置30を備える。
【0021】
バンドパスフィルター1は、撮影対象の物体から、反射・透過した、あるいは発せられた空間的かつ時間的にインコヒーレントな光波について、特定の波長帯域の光のみを透過させ、時間的コヒーレンスを向上させる。バンドパスフィルター1を透過する光の波長幅は、例えば、1nm~100nmであり、透過波長幅が狭い方が望ましい。なお、光源の時間的コヒーレンスが十分に高い場合には、バンドパスフィルター1は、省略することもできる。バンドパスフィルター1を適用後、光は偏光子2に入射する。
【0022】
偏光子2は、入射した光を直線偏光にする。また、円偏光2重焦点レンズ3は、直線偏光(例えば45度傾いた偏光)を入射させることによって、右回りの円偏光と左回りの円偏光を生成すると共に、右回り円偏光と、左回り円偏光のそれぞれに異なる焦点距離のレンズの位相を付与する。偏光子2と円偏光2重焦点レンズ3により、右回り円偏光の第1分割光と左回り円偏光の第2分割光が得られる(どちらの偏光を第1分割光、第2分割光としてもよい。)。なお、本実施形態では、偏光子2と円偏光2重焦点レンズ3を用いたが、位相状態の異なる2つの円偏光は、例えば、偏光回折レンズ、又はメタサーフェスを用いると単一の素子で実現でき、また、複屈折レンズ・液晶レンズなどの線複屈折を有する素子と、1/4波長板との組み合わせでも実現できる。第1分割光と第2分割光は、回折光学素子4に入射する。
【0023】
回折光学素子4により、第1分割光と第2分割光は複数の方向に分割される。本実施形態では、ホログラムを形成するための第1分割光と第2分割光の両方に対して、n階調(n>2)の位相分布を回折光学素子4で付与する。
【0024】
回折光学素子4の具体例を図2A,Bに示す。図2Aは、1次元周期の回折光学素子(x方向のみ周期性、y方向は一定)で付与する位相分布の例であり、図2Bは、2次元周期の回折光学素子(x方向、y方向に周期性)で付与する位相分布の例である。各図において、上側は位相分布の平面図を示しており、下側は、平面図のy方向のある位置におけるx方向の位相値の変化を示している。両回折光学素子は、ともに、位相の階調数が3以上で、1次元方向あるいは2次元方向に周期的な位相分布を有し、1次元の場合は0次光と±1次光の強度が、2次元の場合は4つの1次光の強度が均一となるように、位相分布が選択されている。したがって、1次元周期の回折光学素子4を用いる場合には、第1分割光と第2分割光はそれぞれ3分割され、2次元周期の回折光学素子4を用いる場合には、第1分割光と第2分割光はそれぞれ4分割される。分割された光波は、領域分割偏光子5に入射する。
【0025】
領域分割偏光子5は、透過軸の角度が異なる直線偏光子で構成されており、それぞれの角度が異なっていれば任意の値に設定してよい。領域分割偏光子5の具体例を図3A,Bに示す。回折光学素子4として1次元回折光学素子(図2A)を用いる場合には、領域分割偏光子5を図3Aに示すように透過軸が60度ずつずれた3つの領域で構成することが望ましい。回折光学素子4で3分割された第1分割光及び第2分割光が、3つの領域それぞれに入射する。また、2次元回折光学素子(図2B)を用いる場合には、領域分割偏光子5を図3Bに示すように透過軸が45度ずつずれた4つの領域で構成することで、高精度に被写体の3次元情報を得ることができる。互いに直交した円偏光を有する第1分割光と第2分割光は、領域分割偏光子5を透過することで、互いに平行な直線偏光となり、干渉し、ホログラムを形成する。このとき、領域分割偏光子5の偏光子の透過軸の角度に応じて、干渉縞には異なる位相シフト量が付与される。偏光子の透過軸の角度をθとすると、ホログラムに付与される位相シフト量は2θである。したがって、図3Bの領域分割偏光子5を用いることにより、位相シフト量が0,π/2,π,3π/2[rad]の4つのホログラムを同時に取得できる。
【0026】
撮像素子20により、形成された複数枚のホログラムを撮影する。撮影したホログラムのディジタルデータは、情報処理装置30に転送され、後述する信号処理を適用することで、像を再構成できる。なお、以上の光学系の説明では、円偏光2重焦点レンズ3以外に追加のレンズを記載していないが、光利用効率を高める場合、或いは像倍率を任意に制御するために、回折光学素子4より前段であれば、どこにレンズを配置してもよく、本発明の機能を損なうものではない。
【0027】
次に、回折光学素子4の設計方法について説明する。図2A図2Bの位相分布は、解析的に求めることはできず、非凸最適化計算により設計する。図4は、本発明に係る回折光学素子4の位相分布の設計方法の例を示す、フローチャートである。図4のフローチャート及び図5図6の設計例に基づいて、図2Aの回折光学素子4の設計方法を説明する。
【0028】
ステップS1:位相領域の最小単位をピクセルと呼ぶこととする。まず、縦方向に1ピクセル、横方向に2N(Nは自然数)ピクセルの位相の基本配列(初期配列)を作成する。位相の基本配列(初期配列)の各ピクセルθ1~θ2Nには、任意の位相値を設定してよいが、θ1~θNには、位相値0ラジアンを、θN+1~θ2Nには、位相値0.6391πラジアンを設定することで、後述の最適化計算の計算時間が短く済む。なお、上述の位相値は、1次元の周期的な位相分布の0次光と±1次光成分の回折効率が、理論的に同じになる場合の2階調の値である。
【0029】
ステップS2:ステップS1で作成された位相の基本配列(初期配列)を元に、同一の位相の基本配列を周期的に拡張して、位相格子(初期位相格子)を作成する。つまり、位相の基本配列(初期配列)を繰り返し単位とし、これと同じ配列を、縦・横方向に複製・配置することにより、2次元(平面)の位相分布が形成される。なお、位相値は、x方向に周期性を有し、y方向は一定の一次元周期である。複製する個数は、設計をおこなうコンピュータのメモリ・計算時間の許す限り、多い方が望ましく、周期的な拡張後のピクセルサイズは、正方形で2の累乗の値になっていることが望ましい。
【0030】
ステップS3:作成された位相分布(初期位相格子)に、同じ画素数の振幅分布を掛け合わせ、2次元の複素振幅分布を構成する。振幅分布は、値が一様な振幅分布であってよい。この複素振幅分布をフーリエ変換して、フーリエスペクトルを得る。
【0031】
ステップS4:得られたフーリエスペクトルの内、振幅分布を目標値(目標の振幅分布)に置換する。本設計例では、目標値は、0次光と±1次光成分の光強度が1で、その他の回折光成分の光強度が0となる振幅分布である。フーリエスペクトルの位相分布は保持したままで、置換した振幅分布と組み合わせることにより、新たなフーリエスペクトルが生成される。
【0032】
ステップS5:生成された新たなフーリエスペクトルを、逆フーリエ変換する。
【0033】
ステップS6:逆フーリエ変換の結果得られた位相分布の内、中心部分の1×2Nピクセルの位相分布を切り出し、更新された位相の基本配列φ1~φ2Nを得る。なお、逆フーリエ変換の結果得られた位相分布のうち、中心部分は歪み及びノイズが小さい。
【0034】
次に、位相の基本配列φ1~φ2Nを初期値として、最適化計算を使って、目的の位相分布を設計する。なお、最適化計算の方法としては、特定のものに限定されない。ここでは、汎用性が高い、焼きなまし法を使った場合の設計方法を示す。
【0035】
ステップS7:位相の基本配列の内、無作為に1か所のピクセルの位相を変化させる(例えば、φ2をφ'2に置換える)。
【0036】
ステップS8:変化させた位相の基本配列を周期的に拡張して、位相格子を作成する。すなわち、変化させた位相の基本配列を繰り返し単位とし、これと同じ配列を、縦・横方向に複数(複製)配置することにより、2次元(平面)の位相分布が形成される。なお、本実施形態では、位相値はx方向に周期性を有し、y方向は一定であり、一次元周期を有する。
【0037】
ステップS9:この2次元の位相分布(位相格子)に、同じ画素数の振幅分布を掛け合わせ、2次元の複素振幅分布を構成する。振幅分布は、値が一様な振幅分布であってよい。この複素振幅分布をフーリエ変換して、フーリエスペクトルを得る。
【0038】
ステップS10:得られたフーリエスペクトルの振幅分布と、目標の振幅分布の差分Eを求める。差分Eは、任意の手法で評価することができるが、例えば、全要素の平均二乗誤差(MSE:Mean Squared Error)とする。この差分Eが小さいほど、目標(目的)の振幅分布に近いフーリエスペクトルを生成できる位相分布が得られていることがわかる。なお、計算領域や最適化手法に応じて、フーリエ変換により得られた振幅分布の±1次光が0次光よりも小さくなる傾向がある場合には、目的の振幅分布の±1次成分を0次光よりも強めに設定しておくと効率的に解を探索できる。
【0039】
ステップS11:次に、差分Eの評価を行う。差分Eの値に応じて、位相の基本配列を更新するかどうか、すなわちφ2からφ'2の変化を受け入れるかを判断する。変化前の位相の基本配列φ1~φ2Nに基づいて構成する複素振幅分布のフーリエスペクトルと、目標値との差分をE0とし、EとE0を比較する。EがE0より小さい場合(Yes)は、ステップS14に進み、EがE0以上の場合(No)は、ステップS12に進む。
【0040】
ステップS12:今回の計算処理(1か所の位相を変化させる処理)が、所定の確率S%に該当するか否かを判断する。Sは、反復計算の回数に伴って減少するような値が望ましく、例えば、exp(-(E-E0)/kI)とする。kはボルツマン定数、Iは反復回数である。今回の処理計算の実行がS%の確率に該当する場合(Yes)はステップS14に進み、該当しない場合(No)はステップS13に進む。
【0041】
ステップS13:基本配列の更新をせず、ステップS7に戻る。すなわち、変化させる前の位相の基本配列を採用する(φ2からφ'2の変化を受け入れない)。
【0042】
ステップS14:基本配列を、変化を反映した位相の基本配列に更新する。すなわち、ステップ7で無作為に1か所の位相を変化させた位相の基本配列を採用する(φ2からφ'2の変化を受け入れる)。その後、ステップS15に進む。
【0043】
ステップS15:位相格子の設計処理の終了条件を満たすか否かを判断する。終了条件は、例えば、差分Eの値が収束すること、あるいは規定の値以下になることを条件とする。条件を満たす場合(Yes)は、設計処理を終了する。また、条件を満たさない場合(No)は、ステップS7に戻り、更新された位相を基本配列φ1~φ2Nとして、目標の位相格子に近づける同様の処理を繰り返す。
【0044】
そして、最終的に得られた基本配列を周期的に拡張して回折光学素子の位相格子(位相分布)を決定する。
【0045】
なお、ステップS12について補足すると、一般に、最適化計算では、EがE0より小さい場合に基本配列を更新し、一方、EがE0より大きい場合は、変化させる前の位相の基本配列を採用する。しかし、局所解での滞留を防ぐために、EがE0より大きい場合でも、ある確率S%で、無作為に1か所の位相を変化させた位相の基本配列を採用する。この手法(いわゆる、焼きなまし法)により、大域的最適解を得ることができる。
【0046】
このような非凸最適化計算の処理により、図2Aの位相分布が得られる。図2Aの3方向に回折させる1次元周期の回折光学素子は、4方向に回折させる2次元周期の回折光学素子と比較して光の分割数が少ないことから、各ホログラムの光量を向上させることができる。
【0047】
同様の設計方法により、図2Bの位相分布を求めることができる。図4のフローチャート及び図7図8図9の設計例に基づいて、図2Bの回折光学素子4の設計方法を説明する。
【0048】
ステップS1:まず、縦方向にM(M>1)ピクセル、横方向に2N(Nは自然数)ピクセルの位相の基本配列(初期配列)を作成する。位相の基本配列(初期配列)の各ピクセルθ1,1~θM,2Nには、任意の位相値を設定してよいが、基本配列の左半分のM×Nピクセルには、位相値0ラジアンを、右半分のM×Nピクセルには、位相値πラジアンを設定することで、後述の最適化計算の計算時間が短く済む。なお、上述の位相値は、2次元の周期的な位相分布の4つの1次光成分の回折効率が、理論的に同じになる場合の2階調の値である。
【0049】
ステップS2:ステップS1で作成された位相の基本配列(初期配列)を元に、同一の位相の基本配列を周期的に拡張して、位相格子(初期位相格子)を作成する。ここでは、位相の基本配列(初期配列)に対し、同様の基本配列を上下左右方向に反転して複製したものを上下方向に結合して2M×2Nピクセルの位相分布を形成する。この2M×2Nピクセルを繰り返し単位として、これと同じ位相分布を縦・横方向に複製・配置することにより、2次元(平面)の位相分布が形成される。なお、位相値は、x方向及びy方向に周期性を有する二次元周期である。複製する個数は、設計をおこなうコンピュータのメモリ・計算時間の許す限り、多い方が望ましく、周期的な拡張後のピクセルサイズは、正方形で、2の累乗の値になっていることが望ましい。
【0050】
ステップS3:作成された2次元の位相分布(初期位相格子)に、同じ画素数の振幅分布を掛け合わせ、2次元の複素振幅分布を構成する。振幅分布は、値が一様な振幅分布であってよい。この複素振幅分布をフーリエ変換して、フーリエスペクトルを得る。
【0051】
ステップS4:得られたフーリエスペクトルの内、振幅分布を目標値(目標の振幅分布)に置換する。本設計例では、目標値は、4つの1次光成分の光強度が1で、その他の回折光成分の光強度が0となる振幅分布のことである。フーリエスペクトルの位相分布は保持したままで、置換した振幅分布とあわせることにより、新たなフーリエスペクトルが生成される。
【0052】
ステップS5:生成された新たなフーリエスペクトルを、逆フーリエ変換する。
【0053】
ステップS6:逆フーリエ変換の結果得られた位相分布の内、位相の基本配列に対応した中心部分のM×2Nピクセルの位相分布を切り出し、更新された位相の基本配列φ1,1~φM,2Nを得る。
【0054】
次に、位相の基本配列φ1,1~φM,2Nを初期値として、最適化計算を使って、目的の位相分布を設計する。なお、前述の図2Aの位相分布の設計と同様に、最適化計算としては、特定のものに限定されない。ここでは、汎用性が高い、焼きなまし法を使った場合の設計方法を示す。
【0055】
ステップS7:位相の基本配列の内、無作為に1か所のピクセルの位相を変化させる(例えば、φ2,2をφ'2,2に置換える)。
【0056】
ステップS8:変化させた位相の基本配列を周期的に拡張して、2次元の位相分布を形成する。すなわち、変化させた位相の基本配列について、上下左右反転して複製したパターンと上下方向に結合して2M×2Nピクセルの位相分布を形成する。これを繰り返し単位として同じ位相分布を縦・横方向に複数(複製)配置することにより、2次元周期を有する位相分布が形成される。
【0057】
ステップS9:この2次元の位相分布(位相格子)に、同じ画素数の振幅分布を掛け合わせ、2次元の複素振幅分布を構成する。振幅分布は、値が一様な振幅分布であってよい。この複素振幅分布をフーリエ変換して、フーリエスペクトルを得る。
【0058】
ステップS10:得られたフーリエスペクトルの振幅分布と、目標の振幅分布の差分Eを求める。差分Eは、任意の手法で評価することができる。この差分Eが小さいほど、目標(目的)の振幅分布に近いフーリエスペクトルを生成できる位相分布が得られていることがわかる。
【0059】
ステップS11:次に、差分Eの評価を行う。差分Eの値に応じて、位相の基本配列を更新するかどうか、すなわちφ2,2からφ'2,2の変化を受け入れるかを判断する。変化前の位相の基本配列φ1,1~φM,2Nに基づいて構成する複素振幅分布のフーリエスペクトルと、目標値との差分をE0とし、EとE0を比較する。EがE0より小さい場合(Yes)は、ステップS14に進み、EがE0以上の場合(No)は、ステップS12に進む。
【0060】
ステップS12:今回の計算処理(1か所の位相を変化させる処理)が、所定の確率S%に該当するか否かを判断する。局所解での滞留を防ぐために、EがE0以上の場合でも、ある確率S%で、無作為に1か所の位相を変化させた位相の基本配列を採用する。したがって、今回の処理計算の実行がS%の確率に該当する場合(Yes)はステップS14に進み、該当しない場合(No)はステップS13に進む。なお、Sは、反復計算の回数に伴って減少するような値が望ましく、例えば、exp(-(E-E0)/kI)とする。なお、本実施形態では、最適化計算として、焼きなまし法を用いることを前提にしているが、他に、反復フーリエ変換法、遺伝的アルゴリズム、確率的勾配降下法、量子アニーリング等の最適化計算手法を用いてもよい。
【0061】
ステップS13:基本配列の更新をせず、ステップS7に戻る。すなわち、変化させる前の位相の基本配列を採用する(φ2,2からφ'2,2の変化を受け入れない)。
【0062】
ステップS14:基本配列を、変化を反映した位相の基本配列に更新する。すなわち、ステップ7で無作為に1か所の位相を変化させた位相の基本配列を採用する(φ2,2からφ'2,2の変化を受け入れる)。その後、ステップS15に進む。
【0063】
ステップS15:位相格子の設計処理の終了条件を満たすか否かを判断する。条件を満たす場合(Yes)は、設計処理を終了する。また、条件を満たさない場合(No)は、ステップS7に戻り、更新された位相を基本配列φ1,1~φM,2Nとして、目標の位相格子に近づける同様の処理を繰り返す。
【0064】
そして、最終的に得られた基本配列を周期的に拡張して回折光学素子の位相格子(位相分布)を決定する。
【0065】
このような非凸最適化計算の処理により、図2Bの位相分布が得られる。図2Bの位相分布を有する回折光学素子の方が、図2Aよりも加工誤差にロバストである。
【0066】
図2A図2Bの回折光学素子の位相分布は、図4のフローチャートの各ステップを行うコンピュータにより、設計することができる。すなわち、本実施形態に係る位相分布の設計は、フローチャートの各ステップ(手順)を行うプログラムを、コンピュータのプロセッサで実行することにより実現される。プログラムは、各ステップの動作をコンピュータに実行させることで、コンピュータを位相分布の設計装置として機能させる。すなわち、コンピュータは、プログラムに従って回折光学素子の位相分布の設計装置として機能する。
【0067】
プログラムは、非一時的なコンピュータ読取り可能な媒体に記憶しておくことができる。非一時的なコンピュータ読取り可能な媒体は、例えば、フラッシュメモリ、磁気記録装置、光ディスク、光磁気記録媒体、又はROM(read only memory)である。プログラムの流通は、例えば、プログラムを記憶したSD(Secure Digital)カード、DVD(digital versatile disc)、又はCD-ROM(compact disc read only memory)などの可搬型媒体を販売、譲渡、又は貸与することによって行う。プログラムをサーバのストレージに格納しておき、サーバから他のコンピュータにプログラムを転送することにより、プログラムを流通させてもよい。プログラムをプログラムプロダクトとして提供してもよい。
【0068】
コンピュータは、例えば、可搬型媒体に記憶されたプログラム又はサーバから転送されたプログラムを、一旦、主記憶装置に格納する。そして、コンピュータは、主記憶装置に格納されたプログラムをプロセッサで読み取り、読み取ったプログラムに従った処理をプロセッサで実行する。コンピュータは、可搬型媒体から直接プログラムを読み取り、プログラムに従った処理を実行してもよい。コンピュータは、コンピュータにサーバからプログラムが転送される度に、逐次、受け取ったプログラムに従った処理を実行してもよい。プログラムは、電子計算機による処理の用に供する情報であってプログラムに準ずるものを含む。例えば、コンピュータに対する直接の指令ではないがコンピュータの処理を規定する性質を有するデータは、「プログラムに準ずるもの」に該当する。
【0069】
なお、本発明で用いる位相分布のステップ数又は位相値は、図2A図2Bに示すものに限定されるものではない。最適化計算の結果によっては、異なる位相分布が得られる場合があるが、本発明の利点を損なうものではない。
【0070】
以上のように設計した位相分布は、例えば、リソグラフィーのグレイスケール露光、ナノインプリント、2光子吸収による3次元光造形等の製法により、ガラスや透明樹脂等の光学材料からなるn段階(n>2)の高さを有する凹凸構造の回折光学素子(ピクセルごとに厚さの異なる光学素子)として実現できる。
【0071】
また、設計した位相分布は、波長以下の微細構造の大きさ・形状・分布で多階調の位相を制御するメタサーフェスでも実現できる。例えば、図10は、微細な円柱状突起の太さを異ならせて、異なる位相(φ1、φ2)の領域を実現したメタサーフェスの例である。さらに円柱状突起の太さを多段階に制御したり、又は円柱状突起の密度を制御することで、n階調(n>2)の位相領域を実現できる。また、柱状突起の形状(上面形状)を異ならせることで、位相を制御してもよい。図11Aは、上面が長方形の柱状突起を示しており、図11Bは、上面が楕円形の柱状突起を示している。また、図11Cは、上面がL字形の柱状突起を示している。このように、微細な柱状突起の面内の形状又は分布を様々に異ならせて、n階調(n>2)の位相領域を実現することができる。
【0072】
そして、設計した位相分布を実現する回折光学素子を用いてホログラム撮像装置(例えば、図1)を構成することができる。本発明の回折光学素子は、様々なホログラム撮像装置に適用できる。なお、以下では代表的な光学系を図示するが、これらに限定されるものでなく、あらゆる自己干渉計に応用可能である。
【0073】
(第2の実施の形態)
図12は、本発明の回折光学素子を用いた第2の実施形態の撮像装置を示す図である。本実施形態は、階調数3以上の多階調の位相分布を付与する反射型の回折光学素子4を用いたホログラム撮影装置の例である。図12の実施形態の装置構成は、バンドパスフィルター1、偏光子2、円偏光2重焦点レンズ3、ビームスプリッター(BS)6、回折光学素子4、領域分割偏光子5、撮像素子20、及び、情報処理装置30を備える。第1の実施形態と共通する構成については、説明を省略又は簡略化する。
【0074】
撮影対象の物体から発せられたインコヒーレント光は、バンドパスフィルター1を透過して特定波長帯域の光となり、さらに偏光子2により直線偏光となる。円偏光2重焦点レンズ3は、直線偏光を入射させることによって、第1分割光と第2分割光(異なる焦点距離の右回りの円偏光と左回りの円偏光)を生成する。
【0075】
第1分割光と第2分割光は、その一部がビームスプリッター6を透過し、回折光学素子4に入射する。回折光学素子4は、第1分割光と第2分割光のそれぞれに対し、n階調(n>2)の位相分布を付与するとともに、両者を反射する。この結果、反射した第1分割光と第2分割光は回折により複数の方向に分割される。ビームスプリッター6は、回折光学素子4で反射され、分割された第1分割光と第2分割光の方向を変え、領域分割偏光子5に向かわせる。
【0076】
円偏光の第1分割光と第2分割光は、領域分割偏光子5を透過することで、互いに平行な直線偏光となり、干渉する。領域分割偏光子5の各領域の透過軸の角度に応じて、干渉縞には異なる位相シフト量が付与される。撮像素子20は、複数枚のホログラムを同時に撮影し、撮影したホログラムのディジタルデータを、情報処理装置30に転送する。
【0077】
本実施形態によれば、ビームスプリッター6を導入することで、小型な光学系を構築することができる。
【0078】
(第3の実施の形態)
図13は、本発明の回折光学素子を用いた第3の実施形態の撮像装置を示す図である。本実施形態は、偏光干渉計の構成に、階調数3以上の多階調の位相分布を付与する回折光学素子4を適用したホログラム撮影装置の例である。図13の実施形態の装置構成は、バンドパスフィルター1、偏光子2、偏光ビームスプリッター(PBS)7,1/4波長板8~10、平面鏡11、凹面鏡12、回折光学素子4、領域分割偏光子5、撮像素子20、及び、情報処理装置30を備える。第1、第2の実施形態と共通する構成については、説明を省略又は簡略化する。
【0079】
撮影対象の物体から発せられたインコヒーレント光は、バンドパスフィルター1を透過して特定波長帯域の光となり、さらに偏光子2により直線偏光となる。
【0080】
偏光ビームスプリッター7は、偏光子2を透過した光のうちp偏光成分(第1分割光とする。)を透過させ、また、s偏光成分(第2分割光とする。)を反射して進行方向を(図面下方向に)変える。なお、後述するように、ミラーで反射後に、第1分割光はs偏光として偏光ビームスプリッター7に入射し、第2分割光はp偏光として偏光ビームスプリッター7に入射するため、偏光ビームスプリッター7は、ミラー反射後の第1分割光を反射して進行方向を(図面上方向に)変え、第2分割光を透過させて、第1分割光及び第2分割を合成する。
【0081】
1/4波長板8は、偏光ビームスプリッター7を透過したp偏光成分の光(第1分割光)を透過させ、円偏光にする。さらに、平面鏡11で反射されて入射する円偏光を透過させてs偏光にし、偏光ビームスプリッター7に導く。
【0082】
1/4波長板9は、偏光ビームスプリッター7で反射したs偏光成分の光(第2分割光)を透過させ、円偏光にする。さらに、凹面鏡12で反射されて入射する円偏光を透過させてp偏光にし、偏光ビームスプリッター7に導く。
【0083】
なお、本実施形態では、平面鏡11により第1分割光に平面(無限大の焦点距離)の位相分布を与え、凹面鏡12により第2分割光に所定の焦点距離の位相分布を与えているが、平面鏡11と凹面鏡12は、互いに異なる焦点距離(曲率)を有する任意のミラーであってよい。
【0084】
1/4波長板10は、偏光ビームスプリッター7を透過/反射した第1分割光と第2分割光を透過させ、それぞれを右回り、左回りの円偏光にする。
【0085】
回折光学素子4は、第1分割光と第2分割光に対して、n階調(n>2)の位相分布を付与し、これにより、第1分割光と第2分割光は複数の方向に分割される。分割された第1分割光と第2分割光は、領域分割偏光子5に入射する。
【0086】
円偏光の第1分割光と第2分割光は、領域分割偏光子5を透過することで、互いに平行な直線偏光となり、干渉する。領域分割偏光子5の各領域の透過軸の角度に応じて、干渉縞には異なる位相シフト量が付与される。撮像素子20は、複数枚のホログラムを同時に撮影し、撮影したホログラムのディジタルデータを、情報処理装置30に転送する。
【0087】
本実施形態によれば、偏光ビームスプリッター7を導入することで、ビームスプリッターを通過する際の光のロスがなく、光の利用効率を高めることができる。
【0088】
以上のいずれかの光学系で撮影したホログラムに対して、情報処理装置30で以下の演算を適用して像を再構成する。初めに、撮影画像内に含まれる複数枚のホログラムを切り出し、位相シフト法を適用して、被写体の3次元情報を含んだ複素振幅分布O(x,y)を取得する。1次元周期の回折格子を用いる場合、撮影画像内に含まれるホログラムの枚数は3枚で、次の式(1)の3ステップ位相シフト法を適用する。
【0089】
【数1】
【0090】
ここで、I,I,Iはそれぞれ、撮像素子面上で形成される中央部、左側、右側に形成されるホログラムの強度分布であり、φ,φ,φはそれぞれのホログラムに付与されている位相シフト量をあらわす。αとβはそれぞれ、光変調素子の-1次光と0次光の回折効率の比、+1次光と0次光の回折効率の比である。αとβの値は、予め回折効率を測定することにより、容易に測定することができる。光学系の作製誤差が十分に小さい、あるいは、その影響を無視できる場合には、α=β=1とすれば、通常の3ステップの位相シフト法と同等である。
【0091】
2次元周期の回折格子を用いる場合、撮影画像内に含まれるホログラムの枚数は4枚で、次の式(2)の4ステップ位相シフト法を適用する。
【0092】
【数2】
【0093】
ここで、I,I.I,Iはそれぞれホログラムの強度分布で、φ,φ,φ,φは各ホログラムの位相シフト量である。
【0094】
位相シフト法により得られた複素振幅分布O(x,y)に対して、以下の式(3)の伝搬計算を行うことで、被写体の像が得られる。
【0095】
【数3】
【0096】
ここでFT[…],FT-1[…]は、フーリエ変換、逆フーリエ変換演算子である。λは光源の波長である。Zは伝搬距離である。
【0097】
(検証)
本発明の多階調(n階調、n>2)の位相分布の回折光学素子により、2階調の回折光学素子と比べて、光量がどの程度改善するかを検証した。従来の2階調の1次元、2次元の回折光学素子の回折効率は、それぞれ87%、64%であるのに対して、本発明の多階調の1次元、2次元の回折光学素子を用いると回折効率は、それぞれ93%、86%であった。この結果から、本発明の回折光学素子により、光利用効率が向上することから、本発明の回折光学素子を用いた撮像装置は、ノイズ量の低減、フレームレートの向上が可能となる。
【0098】
次に、多階調の回折光学素子でホログラムを撮影できるかを、シミュレーションによる検証実験で確認した。撮像装置の光学系は、図1の構成を採用し、回折光学素子は、図2Bの2次元の回折光学素子を用いた。また、像倍率を制御するために、バンドパスフィルターの前側に、焦点距離250mmのレンズを追加した。
【0099】
光学系の詳細は以下のとおりである。
・光源の波長:633nm
・円偏光2重焦点レンズの焦点距離:350mm、300mm
・円偏光2重焦点レンズと撮像素子間の距離:330mm
・各光学素子の開口直径:12mm
・回折光学素子の周期:78μm
【0100】
また、撮像素子の仕様は、次のとおりである。
・撮像素子の幅:15mm
・画素ピッチ:6.5μm
・画素数:2048×2048画素
・階調数:16bit
【0101】
以上の光学系を用いて、図14に示す被写体を撮影した。図15は、上述の光学系により取得されたホログラムである。この画像から、4枚のホログラムを切り出し、式(2)により複素振幅分布を求めて像を再構成した。図16は、式(3)の伝播計算の結果得られた再構成像である。本発明により、被写体を撮影できていることがわかる。
【0102】
上述の実施形態は代表的な例として説明したが、本発明の趣旨及び範囲内で、多くの変更及び置換ができることは当業者に明らかである。したがって、本発明は、上述の実施形態によって制限するものと解するべきではなく、特許請求の範囲から逸脱することなく、種々の変形又は変更が可能である。例えば、実施形態に記載の各ブロック、各ステップ等に含まれる機能等は論理的に矛盾しないように再配置可能であり、複数の構成ブロック、ステップ等を1つに組み合わせたり、或いは分割したりすることが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明の撮像装置は、立体映像のカメラとして用いることができ、蛍光3次元顕微鏡など、干渉計測・分析装置等に応用可能である。
【符号の説明】
【0104】
1 バンドパスフィルター
2 偏光子
3 円偏光2重焦点レンズ
4 回折光学素子
5 領域分割偏光子
6 ビームスプリッター
7 偏光ビームスプリッター
8~10 1/4波長板
11 平面鏡
12 凹面鏡
20 撮像素子
30 情報処理装置
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11A
図11B
図11C
図12
図13
図14
図15
図16