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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171201
(43)【公開日】2024-12-11
(54)【発明の名称】リチウム金属複合酸化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 53/00 20060101AFI20241204BHJP
   H01M 4/525 20100101ALI20241204BHJP
   H01M 4/505 20100101ALI20241204BHJP
【FI】
C01G53/00 A
H01M4/525
H01M4/505
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088157
(22)【出願日】2023-05-29
(71)【出願人】
【識別番号】508020155
【氏名又は名称】ビーエーエスエフ ソシエタス・ヨーロピア
【氏名又は名称原語表記】BASF SE
【住所又は居所原語表記】Carl-Bosch-Strasse 38, 67056 Ludwigshafen am Rhein, Germany
(74)【代理人】
【識別番号】100209624
【弁理士】
【氏名又は名称】制野 友樹
(72)【発明者】
【氏名】木村 倫康
(72)【発明者】
【氏名】田添 充
(72)【発明者】
【氏名】脇山 剛
【テーマコード(参考)】
4G048
5H050
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB02
4G048AB05
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE05
5H050AA19
5H050BA16
5H050BA17
5H050CA08
5H050CA09
5H050CB05
5H050CB07
5H050CB08
5H050CB11
5H050CB12
5H050GA02
5H050GA10
5H050GA27
5H050HA01
5H050HA14
(57)【要約】
【課題】品質の低下がなく、非水電解質二次電池の正極活物質として、優れた電池特性を付与することができるリチウム金属複合酸化物の製造方法を提供すること。
【解決手段】本開示のリチウム金属複合酸化物の製造方法は、少なくとも前駆体化合物とリチウム化合物と捕集粉とが混合してなる粉状混合物を、連続的に流動させながら焼成する焼成工程と、焼成工程において粉状混合物の流動によって生じる飛散粉を含む排気ガスを冷却し、排気ガスに含まれる飛散粉を捕集して捕集粉を得る捕集工程と、少なくとも前駆体化合物と、リチウム化合物と、捕集粉との混合物としての粉状混合物を得る混合工程と、を備える。
【選択図】図3
【特許請求の範囲】
【請求項1】
リチウム金属複合酸化物の製造方法であって、
少なくとも前駆体化合物とリチウム化合物と捕集粉とが混合してなる粉状混合物を、連続的に流動させながら焼成する焼成工程と、
前記焼成工程において前記粉状混合物の流動によって生じる飛散粉を含む排気ガスを冷却し、該排気ガスに含まれる飛散粉を捕集して前記捕集粉を得る捕集工程と、
少なくとも前記前駆体化合物と、前記リチウム化合物と、前記捕集粉との混合物としての前記粉状混合物を得る混合工程と、を備える
リチウム金属複合酸化物の製造方法。
【請求項2】
前記粉状混合物は、さらにドープ源化合物及び/又は被覆源化合物との混合物である請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
以下の(a)又は(b)に示されるいずれかの質量比が、2:98~40:60となるように制御して前記粉状混合物を調製する、請求項1又は2に記載の製造方法。
(a)前記捕集粉の量と前記前駆体化合物及び前記リチウム化合物の合計量との質量比
(b)前記捕集粉の量と前記粉状混合物の量との質量比
【請求項4】
前記焼成工程において、炉芯管内の表面部にかき揚げ羽を備えたロータリーキルンを用い、炉芯管内の焼成に供される材料をかき揚げながら攪拌するかき揚げ攪拌を行う、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項5】
予め調製した前記粉状混合物を前記ロータリーキルンに投入し、前記かき揚げ攪拌を行う
リチウム金属複合酸化物の請求項4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記リチウム化合物が、水酸化リチウムであり、
前記排気ガスを含む系の露点温度を超える温度を維持しながら、前記排気ガスを脱炭酸雰囲気で冷却する、請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項7】
前記リチウム化合物が、炭酸リチウムであり、
前記前駆体化合物が、水酸化物であり、
前記排気ガスを含む系の露点温度を超える温度を維持しながら、前記排気ガスを冷却する
リチウム金属複合酸化物の請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項8】
前記焼成工程における焼成温度が、400℃以上700℃未満であり、
前記焼成工程の後に、前記焼成工程において得られた焼成物を、さらに700℃以上1000℃以下で焼成する第2の焼成工程をさらに備える
請求項1又は2に記載のリチウム金属複合酸化物の製造方法。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、リチウム金属複合酸化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話、ノートパソコン等の駆動用電源として、小型、軽量で高エネルギー密度を有する非水電解質二次電池がある。その中でも、正極にニッケル酸リチウムといった材料を用いた、充放電容量が大きいリチウムイオン二次電池が多用されている。
【0003】
リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、例えば、一般式Li(NiM)O(Mは、例えば遷移金属を含む元素)を有するリチウム金属複合酸化物が用いられている。このようなリチウム金属複合酸化物は一般に、遷移金属を含む前駆体化合物とリチウム化合物との原料粉を焼成することによって製造することができる。
【0004】
原料粉の焼成は、例えば、原料粉を匣鉢、坩堝等の焼成容器に充填し、電気炉、ローラーハースキルン等の焼成炉にて温度、時間等の条件を適切に調整し、必要に応じて複数回行う。しかしながら、このような焼成炉よりも、被処理物である混合粉への熱伝導が高く、効率的であるため、例えば外熱式のロータリーキルンのように原料粉を流動させながら焼成する装置の利用が試みられている。
【0005】
ロータリーキルンを用いて原料粉を焼成する際には、通常、炉内に徐々に供給した混合粉をかき揚げ攪拌しながら流動させ、炉壁を通じてヒーターにより加熱する。
この際、炉内にて不純物となる水蒸気や二酸化炭素を含有するガスを炉外に排出し、かつ炉内で所望の酸化性雰囲気を維持するために、ロータリーキルンの外部よりガスの気流を導入することがある。しかしながら、このロータリーキルンに導入されるガスの気流によって原料粉がロータリーキルン内に舞ってしまい、さらにはその一部が炉内ガスの気流に流されロータリーキルンの系外に排出されてしまう。このような現象により、最終的な焼成物(リチウム金属複合酸化物)の収量や品質の低下が懸念される。
【0006】
以上のようにしてロータリーキルンから排出される飛散粉は、捕集設備を用いて捕集することができる。例えば、特許文献1に記載のリチウム金属複合酸化物の製造方法では、原料粉の焼成にロータリーキルンが用いられている。このロータリーキルンは、原料粉の供給口と焼成炉である回転筒との間に集塵機が配置されたものである。そして、上述のようにして飛散した飛散粉は、ロータリーキルンの排出側から導入されるガスの流れ及び集塵機が発生する気流によって集塵機で捕集された後、例えば供給口へと排出され、再度回転筒に投入される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第7118187号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1に示されるように、飛散粉を集塵機で捕集し、再度回転筒に投入して回転筒内の原料粉とともに焼成した場合には、得られるリチウム金属複合酸化物の収量の低下をある程度抑制することができる。
【0009】
しかしながら、飛散粉においては、その組成が、目的とするリチウム金属複合酸化物、すなわち原料組成から変化する。具体的には、上述の一般式Li(NiM)O(Mは、例えば遷移金属を含む元素)で示されるリチウム金属複合酸化物の場合、Ni及びMの合計量に対するLiの量(Li/(Ni+M)比)が原料粉に対して少なくなる傾向がある。したがって、このような飛散粉をそのまま炉内に投入すると、炉内の系でLi/(Ni+M)が大きい部分と小さい部分とができて、得られる正極活物質の組成にムラが生じる。
【0010】
また、ロータリーキルンでの焼成をより効率的に行い、かつ正極活物質を良好な品質とするためには、炉内温度を上昇させる必要がある。しかしながら、それに伴って排気ガス温度も上昇し、400℃程度の高温になることもある。したがって、飛散粉を捕集する際には、高温にも耐え得る材料を排気配管に使用して配管長を延ばしたり、冷却水等により熱交換させることで排気配管を冷却したり、排気ガスに冷却ガスを吹きかけたりして排気ガスを冷却しなければ、捕集設備を用いて飛散粉を捕集することが困難である。また、原料の種類によっては飛散粉が強アルカリになり、設備に腐食等の劣化が生じてしまうこともある。
【0011】
上述した冷却ガスを用いた冷却方法は、経済的で制御が簡易であり、生産性に優れるため、他の冷却方法よりも適している。しかしながら、この冷却ガスに二酸化炭素が含まれており、かつ混合粉を構成するリチウム化合物が水酸化リチウムである場合等には、冷却過程でLi分が炭酸化することで反応性の低い炭酸リチウム化が生成し、リチウムの反応が抑制される。そして、その結果、目的とするリチウム金属複合酸化物に応じた原料の組成から変化してしまう。また、焼成におけるリチウム化反応が充分に進行せずに、得られるリチウム金属複合酸化物における炭酸リチウムの残存量が増加し、これを正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池では、電池性能が悪化してしまう。
【0012】
以上のように、単に集塵機で捕集した飛散粉を再度回転筒に投入して焼成を継続しただけでは、得られるリチウム金属複合酸化物の品質が低下してしまったり、捕集設備が劣化してしまったりするという問題がある。
【0013】
本開示は、以上の実情に鑑みてなされたものであり、品質の低下がなく、非水電解質二次電池の正極活物質として、優れた電池特性を付与することができるリチウム金属複合酸化物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、少なくとも前駆体化合物とリチウム化合物と捕集粉とが混合してなる粉状混合物を、連続的に流動させながら焼成する焼成工程と、焼成工程において粉状混合物の流動によって生じる飛散粉を含む排気ガスを冷却し、排気ガスに含まれる飛散粉を捕集して捕集粉を得る捕集工程と、少なくとも前駆体化合物と、リチウム化合物と、捕集粉との混合物としての粉状混合物を得る混合工程と、を備えるリチウム金属複合酸化物の製造方法によれば、品質の低下がなく、非水電解質二次電池の正極活物質として優れた電池特性を付与することができるリチウム金属複合酸化物の製造方法を提供することができることを見出した。具体的に、本開示は以下のものを提供する。
【0015】
(1)リチウム金属複合酸化物の製造方法であって、
少なくとも前駆体化合物とリチウム化合物と捕集粉とが混合してなる粉状混合物を、連続的に流動させながら焼成する焼成工程と、
前記焼成工程において前記粉状混合物の流動によって生じる飛散粉を含む排気ガスを冷却し、該排気ガスに含まれる飛散粉を捕集して前記捕集粉を得る捕集工程と、
少なくとも前記前駆体化合物と、前記リチウム化合物と、前記捕集粉との混合物としての前記粉状混合物を得る混合工程と、を備える
リチウム金属複合酸化物の製造方法。
【0016】
(2)前記粉状混合物は、さらにドープ源化合物及び/又は被覆源化合物との混合物である、
(1)に記載のリチウム金属複合酸化物の製造方法。
【0017】
(3)以下の(a)又は(b)に示されるいずれかの質量比が、2:98~40:60となるように制御して前記粉状混合物を調製する
(1)又は(2)に記載のリチウム金属複合酸化物の製造方法。
(a)前記捕集粉の量と前記前駆体化合物及び前記リチウム化合物の合計量との質量比
(b)前記捕集粉の量と前記粉状混合物の量との質量比
【0018】
(4)前記焼成工程において、炉芯管内の表面部にかき揚げ羽を備えたロータリーキルンを用い、炉芯管内の焼成に供される材料をかき揚げながら攪拌するかき揚げ攪拌を行う、
(1)又は(2)に記載のリチウム金属複合酸化物の製造方法。
【0019】
(5)予め調製した前記粉状混合物を前記ロータリーキルンに投入し、前記かき揚げ攪拌を行う、
(4)に記載のリチウム金属複合酸化物の製造方法。
【0020】
(6)前記リチウム化合物が、水酸化リチウムであり、前記排気ガスを含む系の露点温度を超える温度を維持しながら、前記排気ガスを脱炭酸雰囲気で冷却する
(1)又は(2)に記載リチウム金属複合酸化物の製造方法。
【0021】
(7)前記リチウム化合物が、炭酸リチウムであり、
前記前駆体化合物が、水酸化物であり、
前記排気ガスを含む系の露点温度を超える温度を維持しながら、前記排気ガスを冷却する
(1)又は(2)に記載のリチウム金属複合酸化物の製造方法。
【0022】
(8)前記焼成工程における焼成温度が、400℃以上700℃未満であり、
前記焼成工程の後に、前記焼成工程において得られた焼成物を、さらに700℃以上1000℃以下で焼成する第2の焼成工程をさらに備える
請求項1又は2に記載のリチウム金属複合酸化物の製造方法。
【発明の効果】
【0023】
本開示によれば、品質の低下がなく、非水電解質二次電池の正極活物質として、優れた電池特性を付与することができるリチウム金属複合酸化物の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】リチウム金属複合酸化物の製造方法に用いることができるロータリーキルンの炉芯管の径方向の模式断面図である。
図2】実施例、比較例及び参考例で用いたロータリーキルンの炉芯管の径方向模式断面図である。
図3】実施例1-1の正極活物質の製造方法を示すフローチャート図(フローα)である。
図4】実施例1-2の正極活物質の製造方法を示すフローチャート図(フローβ)である。
図5】参考例1-1の正極活物質の製造方法を示すフローチャート図(フローγ)である。
図6】比較例1-1の正極活物質の製造方法を示すフローチャート図(フローδ)である。
図7】比較例1-2の正極活物質の製造方法を示すフローチャート図(フローε)である。
図8】実施例2-1の正極活物質の製造方法を示すフローチャート図(フローζ)である。
図9】比較例2-1の正極活物質の製造方法を示すフローチャート図(フローη)である。
図10】比較例2-2の正極活物質の製造方法を示すフローチャート図(フローι)である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本開示の実施形態について説明するが、本開示は実施形態の記載によって何ら限定されるものではなく、適宜変更を加えて実施することができる。
【0026】
≪リチウム金属複合酸化物の製造方法≫
本開示の実施形態に係るリチウム金属複合酸化物の製造方法は、少なくとも前駆体化合物とリチウム化合物と捕集粉とが混合してなる粉状混合物を、連続的に流動させながら焼成する焼成工程と、焼成工程において粉状混合物の流動によって生じる飛散粉を含む排気ガスを冷却し、排気ガスに含まれる飛散粉を捕集して捕集粉を得る捕集工程と、少なくとも前駆体化合物と、リチウム化合物と、捕集粉との混合物としての粉状混合物を得る混合工程と、を備える。
【0027】
非水電解質二次電池用正極活物質としてのリチウム金属複合酸化物を効率的に製造するためには、焼成装置からの熱伝導性を高めるべく、少なくとも前駆体化合物とリチウム化合物との原料粉を、静置するよりも流動させて焼成することが好ましい。しかしながら、原料粉を流動させると、外部から導入されるガスの気流によって原料粉が舞いやすくなり、原料粉の一部が飛散粉として炉内ガスの気流に流され、飛散しながら系外へと排出されてしまう。そして、その結果として、得られるリチウム金属複合酸化物の収量や品質が低下する。
【0028】
リチウム金属複合酸化物の収量の低下をある程度抑制するには、系外へと排出された飛散粉を回収し、その飛散粉を再び流動させて焼成すればよい。しかしながら、上述したとおり、飛散粉の組成は流動させている混合粉の組成に比べてリチウムの量が少なくなる傾向がある。したがって、回収した飛散粉をそのまま原料粉とともに流動させても、系での組成のばらつきを抑制することができない。また、飛散粉を含む排気ガス温度が高温であることから、そのままの温度で飛散粉を回収しようとすると、捕集設備が腐食されてしまう。したがって、捕集した飛散粉と流動中の混合粉との間での組成のばらつきを抑制して目的とするリチウム金属複合酸化物の品質が低下しないよう、かつ回収設備の機材が腐食されないよう保護することが重要である。
【0029】
以下、本開示のリチウム金属複合酸化物の製造方法について、工程ごとに説明する。
【0030】
〔焼成工程〕
焼成工程は、少なくとも前駆体化合物とリチウム化合物と捕集粉とが混合してなる粉状混合物を、連続的に流動させながら焼成する工程である。
【0031】
焼成工程で用いる粉状混合物は、少なくともリチウム金属複合酸化物の前駆体化合物とリチウム化合物と捕集粉とを混合して調製したものである。
【0032】
このうち、前駆体化合物は、例えば少なくとも1種の元素(M)と酸素(O)とからなる化合物である。化合物としては、具体的には、元素Mを含む水酸化物、水酸化物を仮焼した酸化物、炭酸化合物等(元素Mが金属である場合、金属水酸化物、金属酸化物、炭酸塩等)を用いることができる。なお、元素Mは2種以上の選択し得るため、このような場合には、それぞれの元素Mの水酸化物、酸化物、炭酸化合物を混合して用いることもできるし、複合水酸化物、複合酸化物、複合炭酸化合物(元素Mが金属である場合、金属水複合酸化物、金属複合酸化物、複合炭酸塩等)を用いることもできる。
【0033】
元素Mとしては、Li以外の元素で、かつリチウム複合金属化合物を構成し得る元素であれば特に限定されるものではない。具体的に、元素Mとしては、目的とするリチウム金属複合酸化物の組成に応じて選択することができ、例えばニッケル(Ni)、コバルト(Co)、マンガン(Mn)、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、チタン(Ti)、亜鉛(Zn)、ニオブ(Nb)、タングステン(W)、モリブデン(Mo)、バナジウム(V)、クロム(Cr)、カルシウム(Ca)、鉄(Fe)、ガリウム(Ga)、ストロンチウム(Sr)、イットリウム(Y)、ルテニウム(Ru)、インジウム(In)、錫(Sn)、タンタル(Ta)、ビスマス(Bi)、ジルコニウム(Zr)、ホウ素(B)、リン(P)等を用いることができる。前駆体化合物としては、少なくともNiを含有した複合水酸化物、複合酸化物、複合炭酸塩等を用いることが好ましく、例えば少なくともNi、Co、並びにAl及び/又はMnを含有した複合水酸化物、複合酸化物、複合炭酸塩等を用いることがより好ましい。
【0034】
前駆体化合物の合成方法としては、特に限定されるものではないが、例えば、次のような合成方法が挙げられる。まず、少なくとも1種の元素M又はその化合物の水溶液を、目的とするリチウム金属複合酸化物の組成に応じて少なくとも1種準備し、必要に応じて配合割合を調整する。次に、これを、例えば水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア溶液等のアルカリ水溶液の1種以上を母液として攪拌させている反応槽内に滴下し、pHが例えば10.5~13の範囲となるようにし、晶析反応によって共沈させて水酸化物、酸化物、炭酸塩等を得る方法等を用いることができる。なお、水酸化物、酸化物、炭酸塩等の形状としては、特に限定されないが、複数の一次粒子が凝集してなる二次粒子の形状であることが好ましい。
【0035】
元素Mの化合物としては、特に限定されないが、例えばニッケル化合物、コバルト化合物、マンガン化合物、マグネシウム化合物、アルミニウム化合物、チタン化合物、亜鉛化合物、ニオブ化合物及びタングステン化合物等からなる群から選択される1種以上を用いることができる。
【0036】
ニッケル化合物としては、特に限定されないが、例えば硫酸ニッケル、酸化ニッケル、水酸化ニッケル、硝酸ニッケル、炭酸ニッケル、塩化ニッケル、ヨウ化ニッケル及び金属ニッケル等からなる群から選択される1種以上を用いることができる。
【0037】
コバルト化合物としては、特に限定されるものではなく、例えば硫酸コバルト、酸化コバルト、水酸化コバルト、硝酸コバルト、炭酸コバルト、塩化コバルト、ヨウ化コバルト及び金属コバルト等からなる群から選択される1種以上を用いることができる。
【0038】
マンガン化合物としては、特に限定されるものではなく、例えば硫酸マンガン、酸化マンガン、水酸化マンガン、硝酸マンガン、炭酸マンガン、塩化マンガン、ヨウ化マンガン及び金属マンガン等からなる群から選択される1種以上を用いることができる。
【0039】
マグネシウム化合物としては、特に限定されるものではなく、例えば硫酸マグネシウム、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、硝酸マグネシウム、炭酸マグネシウム、塩化マグネシウム、ヨウ化マグネシウム及び金属マグネシウム等からなる群から選択される1種以上を用いることができる。
【0040】
アルミニウム化合物としては、特に限定されるものではなく、例えば硫酸アルミニウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、硝酸アルミニウム、炭酸アルミニウム、塩化アルミニウム、ヨウ化アルミニウム、アルミン酸ナトリウム及び金属アルミニウム等からなる群から選択される1種以上を用いることができる。
【0041】
チタン化合物としては、特に限定されるものではなく、例えば硫酸チタニル、酸化チタン、水酸化チタン、硝酸チタン、炭酸チタン、塩化チタン、ヨウ化チタン及び金属チタン等からなる群から選択される1種以上を用いることができる。
【0042】
亜鉛化合物としては、特に限定されるものではなく、例えば硫酸亜鉛、酸化亜鉛、水酸化亜鉛、硝酸亜鉛、炭酸亜鉛、塩化亜鉛、ヨウ化亜鉛及び金属亜鉛等からなる群から選択される1種以上を用いることができる。
【0043】
ニオブ化合物としては、特に限定されるものではなく、例えば酸化ニオブ、塩化ニオブ、ニオブ酸リチウム、ヨウ化ニオブ等からなる群から選択される1種以上を用いることができる。
【0044】
タングステン化合物としては、特に限定されるものではなく、例えば酸化タングステン、タングステン酸ナトリウム、パラタングステン酸アンモニウム、ヘキサカルボニルタングステン及び硫化タングステン等からなる群から選択される1種以上を用いることができる。
【0045】
元素Mの化合物の種類及び配合割合としては、目的とするリチウム金属複合酸化物の組成を考慮して、各元素が二次粒子内に均一に分散して存在するように、調整することができる。
【0046】
なお、湿式反応により得られた前駆体化合物については、洗浄処理を行い、脱水後に乾燥処理を行うことができる。洗浄処理を行うことで、反応の際に凝集粒子中に取り込まれたり、表層に付着したりしている硫酸根や炭酸根、Na分等の不純物を洗い流すことができる。また、乾燥処理は、酸化性雰囲気等にて、例えば50℃~250℃で行うことができる。
【0047】
また、酸化性雰囲気下にて、例えば300℃~800℃で、前駆体化合物に酸化処理を施すこともできる。酸化処理を行うことにより、前駆体化合物を酸化させるとともに、硫酸根や炭酸根、ナトリウム分等の不純物を前駆体化合物から除去し前駆体化合物の純度を向上させることもできる。また、得られるリチウム金属複合酸化物の嵩密度を増加させることもでき、生産効率を向上させることができる。
【0048】
次に、このように合成した前駆体化合物とリチウム化合物とを所定の割合で混合して、粉状混合物を調製する。前駆体化合物とリチウム化合物との混合方法としては、特に限定されないが、例えば、前駆体化合物の粉末とリチウム化合物の粉末とを所定の割合となるように秤量し、混合攪拌機等を用いてこれらを乾式にて混合する方法を用いることができる。また、前駆体化合物とリチウム化合物との配合割合としては、目的とするリチウム金属複合酸化物の組成を考慮して、Liの量と元素Mの合計量とが所望の割合となるように調整することができる。
【0049】
リチウム化合物としては、特に限定されるものではなく、各種のリチウム塩等を用いることができる。リチウム化合物としては、例えば炭酸リチウム、水酸化リチウム・水和物、無水水酸化リチウム等の水酸化リチウム、硝酸リチウム、酢酸リチウム、臭化リチウム、塩化リチウム、クエン酸リチウム、フッ化リチウム、ヨウ化リチウム、乳酸リチウム、シュウ酸リチウム、リン酸リチウム、ピルビン酸リチウム、硫酸リチウム、及び酸化リチウム等からなる群から選択される1種以上を用いることができる。リチウム化合物として、好ましくは、炭酸リチウムや、水酸化リチウム・水和物、無水水酸化リチウム等の水酸化リチウムからなる群から選択される1種以上を用いることができる。
【0050】
また、必要に応じて、ドープ源化合物や被覆源化合物を添加することもできる。これらの化合物は、前駆体化合物とリチウム化合物との混合時に添加することができる。これらの化合物の添加方法としては、特に限定されるものではないが、例えば粉末による添加や、溶液による噴霧添加等を用いることができる。なお、添加剤となる元素の化合物としては特に限定されず、例えば元素Mの化合物を選択して用いることができる。
【0051】
〔焼成工程〕
焼成工程は、少なくとも前駆体化合物とリチウム化合物と捕集粉とが混合してなる粉状混合物を、連続的に流動させながら焼成する工程である。
【0052】
この焼成工程では、上述した方法で得られた粉状混合物を焼成して焼成物を製造するに際し、粉状混合物の全体にわたって均一に熱を伝導させるために、粉状混合物を連続的に流動させながら焼成を行う。
【0053】
焼成工程において、粉状混合物を焼成する方法としては特に限定されず、例えば、粉状混合物を、単に旋回させてもよいが、粉状混合物をかき揚げながら攪拌する方法(以下、「かき揚げ攪拌」ということもある)を用いことが好ましい。また、かき揚げ攪拌において、炉芯管内の表面部にかき揚げ羽を備えたロータリーキルンを用いることが好ましい。このようなロータリーキルンを用いることにより、連続的かつ容易に焼成物を製造することができる。
【0054】
かき揚げ攪拌の意義は、以下のとおりである。粉状混合物を単に流動させながら焼成すると、粉状混合物が炉壁近傍では流動し難いため、炉壁から熱を受けやすい部分と熱を受けにくい部分とが発生してしまい、これにより品質が低下するおそれがある。一方で、粉状混合物をかき揚げ攪拌しながら焼成すると、炉壁近傍でも粉状混合物が流動しやすくなり、焼成を均一に進めることができる。
【0055】
落下によって粉状混合物の分離が発生しやすいか否かにもよるが、より効率的に高熱伝導の状態で焼成材料を焼成し、かつ焼成物の組成のばらつきを抑制するためには、かき揚げ攪拌によって粉状混合物を流動させる際に、かき揚げ攪拌されない状態の焼成材料の最上部の高さに対して高くかき揚げすぎないことが好ましい。
【0056】
なお、かき揚げ攪拌による粉状混合物の最上部の高さについては、前駆体化合物の粒径及びリチウム化合物の粒径、両成分の粒径比、任意の添加化合物の粒径、粉状混合物の安息角等が関係すると考えられ、これらを考慮してかき揚げる高さを設定することができる。
【0057】
かき揚げ攪拌によって粉状混合物への熱伝導を向上させる場合、粉状混合物全体がどの程度熱を得ることができるかを考慮することが好ましい。例えば、炉芯管内の表面部にかき揚げ羽を備えたロータリーキルンを用いる場合、粉状混合物全体をどの程度まで炉芯管内の表面(以下、炉壁ともいう)に接触させることができるかがを考慮することが好ましい。例えばロータリーキルンの回転数や、粉状混合物へのロータリーキルンへの充填率を適切に調整することによって粉状混合物への熱伝導を向上させることができる。
【0058】
一方で、かき揚げ攪拌によって粉状混合物を流動させる際には、粉状混合物が分離しないように留意することが好ましい。例えば炉芯管内の表面部にかき揚げ羽を備えたロータリーキルンを用いる場合、炉内での粉状混合物のかき揚げ度合とかき揚げ羽によるデッドスペースとの関係を考慮して、かき揚げ羽の設置角度を適切に調整するとともに、粉状混合物の安息角も適切に調整することが好ましい。
【0059】
炉芯管内の表面部にかき揚げ羽を備えたロータリーキルンによってかき揚げ攪拌を行う場合、かき揚げ羽を炉芯管の軸心方向と平行な方向に設置することが好ましい。これにより、かき揚げ攪拌をより効率よく炉壁に接触させることができる。しかしながら、上述したとおり、粉状混合物の分離を抑制しながら焼成材料の熱伝導を向上させることを考慮すると、焼成材料を炉壁に効率よく接触させることのみに着目してかき揚げ羽の設置角度を決定するのは好ましくない。
【0060】
かき揚げ羽の設置角度が大きすぎると、かき揚げ羽が炉芯管の軸心方向と平行な方向に近づくことになる。このような場合、粉状混合物がかき揚げられて落下する際に飛散紛の量が増加する。そして、その結果として、投入する粉状混合物の量に対して得られるリチウム金属複合酸化物の量が低減して、生産性の低下につながったり、得られるリチウム金属複合酸化物のLi/Mのばらつきが大きくなったりするおそれもある。一方で、かき揚げ羽の設置角度が小さすぎると、かき揚げ羽が炉芯管の軸心方向と垂直な方向に近づくことになる。このような場合、かき揚げ羽と炉壁との間にデッドスペースができて粉状混合物と炉壁との接触頻度が低減し、熱伝導の効率が低下する可能性がある。また、さらに粉状混合粉の安息角を考慮すると大きなかき揚げができず、かき揚げ攪拌による熱伝導の向上効果が得られない可能性もある。
【0061】
したがって、炉芯管内の表面部にかき揚げ羽を備えたロータリーキルンを用い粉状混合粉のかき揚げ攪拌を行う場合には、かき揚げ羽の設置角度(図1におけるθ)としては、炉芯管の軸心方向と垂直な方向に対して、例えば15度以上、20度以上であることが好ましい。一方、かき揚げ羽の設置角度としては、85度以下、80度以下であることが好ましい。
【0062】
図1は、リチウム金属複合酸化物の製造方法に用いることができるロータリーキルンの炉芯管の径方向の模式断面図である。図1において、ロータリーキルンの炉芯管1は、その表面部2に、複数枚のかき揚げ羽3を備えており、矢印Aの方向に回転する。かき揚げ羽3の設置角度θは、炉芯管1の軸心4の方向と垂直な方向に対する角度である。
【0063】
なお、炉芯管内の表面部に設置するかき揚げ羽の枚数としては、特に限定されず、レトルト直径等に応じて、充分なかき揚げ攪拌が行われるようにすることが好ましい。例えばレトルト直径が200~700mmの場合には、かき揚げ羽を3枚~6枚設置することが好ましい。一方、例えばレトルト直径が1000~2000mmの場合には、かき揚げ羽を4枚~10枚設置することが好ましい。
【0064】
粉状混合物の安息角としては、かき揚げ羽によって想定される高さにまでかき揚げられる大きさであり、かつ粉状混合物が、かき揚げられて落下する際に分離しない大きさであることが好ましい。
【0065】
粉状混合物の安息角が大きすぎると、かき揚げられて落下する際に、粉状混合物の流動性が低く、かき揚げ攪拌に供される粉状混合物の熱伝導効率が低くなるおそれがある。粉状混合物や混合物の安息角が小さすぎると、粉状混合物がかき揚げられる途中で流動し、落下し、かき揚げ攪拌による効果が小さくなるおそれがある。したがって、粉状混合物の安息角は、20°以上80°以下であることが好ましい。なお、粉状混合物の安息角は、注入法にて測定する。
【0066】
粉状混合物の安息角は、少なくとも、これに含まれる前駆体化合物の粒径、リチウム化合物の粒径及び捕集粉の粒径により決定することができる。
【0067】
かき揚げ攪拌の条件としては、特に限定されないが、例えば、以下の各条件を考慮することが好ましい。
【0068】
(レトルト回転数)
粉状混合物の熱伝導を向上させるには、ロータリーキルンの炉芯管内における滞留時間を維持しつつ、レトルト回転数を大きくすればよい。しかしながら、レトルト回転数が大きすぎると、短時間でロータリーキルンから排出されるため、焼成によるリチウム化が充分に進行せず、得られるリチウム金属複合酸化物の品質が低下するおそれがある。一方で、レトルト回転数が小さすぎると、炉壁にリチウムが付着することがあり、得られる粉状混合物の組成にばらつきが生じるおそれがある。したがって、レトルト回転数は、例えば炉の直径(レトルト直径)等に応じて適切に調整することが好ましい。例えばレトルト直径が200~1500mmの場合には、レトルト回転数が0.3~6.0rpmとなるように調整することが好ましい。
【0069】
(焼成材料の充填率)
ロータリーキルンの炉内での粉状混合物の充填率(焼成材料の容積/ロータリーキルン内容積で表される百分率)は、ロータリーキルンの種類に応じて、粉状混合物のガスインプット速度及び滞留時間を変化させることによって調整することができる。このうち滞留時間は、レトルト傾動角及びレトルト回転数を変化させることによって調整することができる。しかしながら、充填率を高くし過ぎると、レトルト断面積が小さくなって風速が上がることで、飛散紛の量が増大することから、生産性の低下につながるとともに、得られるリチウム金属複合酸化物の品質が低下するおそれがある。一方で、充填率が低すぎると、充分な生産性が得られない可能性がある。したがって、粉状混合物の充填率としては、2~30%であることが好ましく、3~20%であることがより好ましい。
【0070】
(炉内風速及び露点)
炉内風速及び露点はいずれも、ガスインプット速度を変化させることによって調整することができる。ガスインプット速度が低く、露点が高すぎると、粉状混合物を投入するレトルト投入口付近において結露が起こる。これにより、粉状混合物中のリチウム化合物からリチウムが発生した水に溶解し、一次粒子や二次粒子の不規則な凝集/焼結等が発生し、得られるリチウム金属複合酸化物の品質が低下するおそれがある。一方で、ガスインプット速度が高く、炉内風速が高すぎると、粉状混合物の選択的飛散(分離)を生じるおそれがある。なお、炉内へのガスの流入については、炉内の入口から異なる位置に別々の排気口を用いることができる。
【0071】
(昇温速度)
昇温速度は、ロータリーキルンの温度設定により調整することができる。昇温速度が低すぎると、充分な生産性が得られない可能性がある。一方、昇温速度が高すぎると、局所的なリチウム化反応が起き、得られるリチウム金属複合酸化物の均一性が低くなり、品質が低下するおそれがある。
【0072】
(炉芯管の表面温度)
粉状混合物に対しかき揚げ攪拌を行いながら焼成する際に、粉状混合物の最高温度が低すぎると、焼成物の品質が低下するおそれがある。一方で、粉状混合物の最高温度が高すぎると、リチウム化反応と並行して結晶成長が進行してしまい、得られるリチウム金属複合酸化物の品質が低下するおそれがある。この場合、粉状混合物を構成するリチウム化合物の種類によって融点が異なるので、これに合わせて炉芯管の表面温度を決定すればよく、具体的に、焼成温度としては400℃以上、410℃以上、420℃以上、430℃以上、440℃以上、450℃以上、460℃以上、470℃以上、480℃以上、490℃以上、500℃以上であることが好ましい。一方で、焼成温度としては、700℃未満、690℃以下、680℃以下、670℃以下、660℃以下、650℃以下、640℃以下、630℃以下、620℃以下、610℃以下、600℃以下であっても良い。例えば、リチウム化合物として水酸化リチウムを用いる場合、粉状混合物の最高温度が、500~650℃、530~630℃とすることが好ましい。また、リチウム化合物が炭酸リチウムである場合、粉状混合物の最高温度が、600~770℃、630~770℃、690~760℃とすることが好ましい。焼成に際しては、粉状混合物の充填率も考慮しながら、ロータリーキルンの温度設定を調整することが好ましい。具体的には、ヒーターにより熱せられた炉芯管の表面温度が400℃以上、450℃以上、500℃以上となるようにして、また1000℃以下、950℃以下、900℃以下、850℃以下となるようにして、粉状混合物を焼成することが好ましい。
【0073】
焼成工程において、焼成雰囲気としては、特に限定されず、リチウム化反応及び結晶成長が確実かつ均一に進行するような雰囲気であればよい。例えば、炭酸ガス濃度が30ppm以下である脱炭酸の酸化性ガス雰囲気や、酸素濃度80vol%以上、好ましくは90vol%以上の酸素雰囲気を用いることが好ましい。
【0074】
焼成の時間としては、リチウム化反応及び結晶成長が確実かつ均一に進行するような時間であれば特に限定されず、例えば、1~12時間、2~10時間であることが好ましい。
【0075】
〔第2の焼成工程〕
以上で述べてきた焼成工程(以下、「第1の焼成工程」ということもある)により、目的とする組成のリチウム金属複合酸化物を製造することできるが、第1の焼成工程で得られたリチウム金属複合酸化物をさらに焼成する、第2の焼成工程を設けることもできる。このような第2の焼成工程をはじめとして、複数回の焼成を行うことによって結晶成長がより確実かつ均一になり、得られるリチウム金属複合酸化物の品質がさらに向上し得る。
【0076】
第2の焼成を行う際には、例えば、匣鉢、坩堝等の焼成容器に得られたリチウム金属複合酸化物を充填し、電気炉等の静置炉、ローラーハースキルン等の設備を用いて焼成することができる。また、焼成工程における焼成と同様にロータリーキルンを用いることもできる。さらなる焼成には、結晶化に適した条件を微調整できる設備を選択して用いることが好ましい。
【0077】
第2の焼成工程における雰囲気としては、特に限定されず、結晶成長がより確実かつ均一に進行するような雰囲気であればよい。具体的に、雰囲気としては、例えば、炭酸ガス濃度が30ppm以下である脱炭酸の酸化性ガス雰囲気や、酸素濃度が80vol%以上、好ましくは90vol%以上の酸素雰囲気を用いることが好ましい。
【0078】
第2の焼成工程における加熱温度としては、第1の焼成工程における粉状混合物の最高温度や目的とするリチウム金属複合酸化物の組成を考慮して調整すればよいが、例えば、加熱温度が700℃以上1050℃以下となるように調整することが好ましい。
【0079】
焼成の時間としては、所望の結晶構造を有するリチウム金属複合酸化物を得るのに充分な時間であれば特に限定されず、例えば、1~12時間、2~10時間であることが好ましい。
【0080】
なお、第1の焼成工程で得られたリチウム金属複合酸化物に、ドープ源化合物及び/又は被覆源化合物等を添加し、第2の焼成工程を行うこともできる。このようにして、焼成工程で得られたリチウム金属複合酸化物にドープ源化合物及び/又は被覆源化合物を添加することにより、その化合物自体や化合物に含まれる元素由来の機能が発現し得る。このようにドープ源化合物及び/又は被覆源化合物を添加する場合には、粉末で添加したり、溶液状で噴霧添加したりすることができる。
【0081】
具体的に、ドープ源化合物としては、酸化コバルト、水酸化コバルト、酸化マンガン、水酸化マンガン、炭酸マンガン、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化アルミニウム、水酸化アルミニウム、塩化アルミニウム、フッ化アルミニウム、酸化チタン、水酸化チタン、塩化チタン、酸化亜鉛、酸化ニオブ、水酸化ニオブ、塩化ニオブ、酸化タングステン、塩化タングステン、酸化モリブデン、酸化バナジウム、酸化クロム、酸化鉄、水酸化鉄、酸化ジルコニウムからなる群から選択される1種以上を用いることができる。
【0082】
また、被覆源化合物としては、酸化ガリウム、酸化カリウム、水酸化カリウム、酸化バリウム、水酸化バリウム、塩化バリウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、酸化水酸化ガリウム、酸化ストロンチウム、水酸化ストロンチウム、酸化イットリウム、酸化ルテニウム、酸化インジウム、酸化錫、酸化タンタル、酸化ビスマス、ホウ酸、酸化ホウ素、炭化ホウ素、リン酸、リン酸水素アンモニウムからなる群から選択される1種以上を用いることができる。
【0083】
第1の焼成工程や、第2の工程焼成を経て得られるリチウム金属複合酸化物が、元素Mとしてニッケルを含み、かつニッケルの含有量が例えば80モル%以上の高ニッケルのリチウム金属複合酸化物は、低ニッケルのリチウム金属複合酸化物と比較して、未反応であるリチウム化合物や、焼成の過程で結晶構造から粒子表層に出てしまうリチウム化合物分(以下、「残存リチウム化合物」ということもある)の量が多くなる可能性がある。なお、残存リチウム化合物の量は、例えば、リチウム金属複合酸化物に水洗処理を施したり、リチウム金属複合酸化物の一次粒子及び/又は二次粒子の表面に表面処理を施したりすることにより低減させることができる。
【0084】
また、第1の焼成工程や、第2の焼成工程を経て得られるリチウム金属複合酸化物について、ニッケルの含有量が低いリチウム金属複合酸化物であっても、例えば一般的に一次粒子が小さい形状からなる二次粒子である場合は、比表面積が大きいために、正極活物質として用いる場合に非水電解質として接触し得るフッ化水素により金属が溶出するおそれがある。したがって、このようなリチウム金属複合酸化物に対し、表面処理を施してもよい。
【0085】
表面処理の方法としては、特に限定されず、例えば、微粒子の酸化アルミニウムを、剪断力をかけながら乾式にてリチウム金属複合酸化物の粒子表層に被着させ、その後、300~700℃程度で熱処理を行う方法を用いることができる。また、表面処理の方法としては、硫酸アルミニウムを所定量溶解させた水溶液中に、リチウム金属複合酸化物を所定量混合して5分間~10分間程度攪拌し、脱水、乾燥した後、250℃~700℃程度で熱処理を施すことで粒子表層にアルミニウム化合物を被覆させる方法を用いることができる。また、アルミニウム化合物以外にも、例えばホウ素化合物やタングステン化合物を表面処理から選択される1種以上の化合物を用いることができる。
【0086】
また、リチウム金属複合酸化物が大きな形状の一次粒子からなる二次粒子である場合でも、その一次粒子形状を得るために、焼成前に水酸化カリウム等の焼結促進剤を用いる場合もある。このような焼結促進剤を洗浄するために、リチウム金属複合酸化物に対し、水洗処理を施してもよい。
【0087】
〔捕集工程〕
捕集工程は、焼成工程において粉状混合物の流動によって生じる飛散粉を含む排気ガスを冷却し、排気ガスに含まれる飛散粉を捕集して捕集粉を得る工程である。
【0088】
上述したとおり、粉状混合物を連続的に流動させながら焼成する場合、系内に導入されるガスの気流によって粉状混合粉が舞ってしまい、その一部が飛散粉としてガス気流に同伴され、排気ガスに含まれた状態で系外へと排出されてしまう。捕集工程においては、このようにして排気ガスに含まれた状態で系外へと排出される飛散粉を捕集して捕集粉を得る。
【0089】
一方で、飛散粉を含む排気ガスは、少なくともリチウム化合物中のリチウムに由来して、アルカリ性を示す。また、飛散粉を含む排気ガスは、粉状混合物を焼成する際に発生するものであるため、焼成温度が400℃~600℃である場合、この温度で加熱されるため200℃~400℃の高温である。したがって、捕集に関係する設備の金属材料等が腐食により破損するおそれがある。そこで、飛散粉を含む排気ガスを冷却して、捕集に関係する設備の腐食を防止する。
【0090】
冷却後の排気ガスの温度としては、特に限定されず、捕集に関係する設備の金属材料の種類等に応じて設定すればよく、例えば200℃以下、195℃以下、190℃以下、185℃以下、180℃以下、175℃以下、170℃以下、165℃以下m160℃以下、155℃以下、150℃以下、145℃以下、140℃以下、135℃以下、130℃以下、125℃以下、120℃以下、115℃以下、110℃以下であることが好ましい。
【0091】
排気ガスの冷却方法としては、例えば、高温にも耐え得る材料を排気ガスが通る排気配管に使用し、配管長を延ばすことによって冷却する方法が考えられるが、配管長を延ばすことにより排気配管内に飛散粉が堆積して収率が低減するおそれがある。また、熱交換器を用い、冷却水等で熱交換させることで排気配管を冷却する方法も考えられるが、熱交換器にて局所的な結露が発生し、飛散粉の堆積による閉塞につながるおそれがある。そこで、飛散粉を含む排気ガスに対して空気等の冷却ガスを吹きかける等して接触させる方法を用いることが好ましい。このような方法によれば、比較的短時間で排気ガスを冷却することができるため、経済的で生産性に優れる。また、このような方法は、制御も簡易である。
【0092】
また、排気ガスの冷却方法としては、自然冷却させてもよい。また、排気ガスの温度が低下しすぎる場合には、排気ガスや冷却ガスを加温してもよい。
【0093】
ここで、前駆体化合物として水酸化物を用いるか、及び/又はリチウム化合物として水酸化リチウムを用いる場合には、焼成によって水が発生するため、排気ガスは水蒸気を含有する。このような場合には、排気ガスを含む系の露点温度を超える温度を維持しながら、排気ガスを冷却することが好ましい。
【0094】
排気ガスの温度を、大気圧の場合、100℃超、102℃以上、105℃以上、107℃以上、110℃以上に維持しながら排気ガスを冷却することが好ましい。
【0095】
また、リチウム化合物として水酸化リチウムを用いる場合や、前駆体化合物として水酸化物を用いる場合においてさらに、冷媒ガス(冷却機構の雰囲気)に二酸化炭素が含まれていると、水酸化リチウムの炭酸塩化が進行して炭酸リチウムが生成しやすくなる。ここで、炭酸リチウムは水酸化リチウム等他のリチウム化合物と比較して反応性が低いことから、炭酸リチウムが含まれる飛散粉を焼成しても、炭酸リチウムとなったリチウム分については前駆体化合物と反応しにくくなる。したがって、加熱温度によっては、前駆体化合物のリチウム化反応が充分に進行せずに、得られる焼成物に、炭酸リチウムが残存してしまうおそれがある。そこで、このような場合には、排気ガスの冷却を脱炭酸雰囲気で行うことが好ましい。このようにして、炭酸リチウムの生成を抑制することにより、目的とするリチウム金属複合酸化物における炭酸リチウムの残存量を低減することができ、リチウム金属複合酸化物の品質の低下を抑制し得る。
【0096】
なお、リチウム化合物として炭酸リチウム、前駆体化合物として水酸化物を用いる場合や、リチウム化合物として炭酸リチウムと水酸化リチウムを用いる場合には、既に炭酸リチウムが存在しているため、系内の雰囲気は脱炭酸雰囲気でなくてよく、排気ガスを含む系の露点温度を超える温度を維持しながら、排気ガスを冷却すればよい。リチウム金属複合酸化物を調製した後、炭酸リチウムを除去すればよい。
【0097】
脱炭酸雰囲気での排気ガスの冷却は、排気ガスに脱炭酸冷却ガスを接触させることによって行うことができる。脱炭酸冷却ガスとしては、炭酸ガス濃度が、200ppm以下、170ppm以下、150ppm以下、120ppm以下、100ppm以下、70ppm以下、50ppm以下、30ppm以下、20ppm以下、15ppm以下、10ppm以下であることが好ましい。例えば、低露点脱炭酸エアー、酸素濃度が90vol%以上のガス、窒素ガス、アルゴンガス等からなる群から選択される1種以上の冷却ガスを用いることができる。
【0098】
リチウム化合物として水酸化リチウムを用いる場合、このように、露点温度を超える温度を維持しながら脱炭酸雰囲気で冷却を行うことにより、炭酸リチウムの生成を抑制することができる。また、脱炭酸ガスを接触させる際の配管内において、水蒸気の結露を抑制できる。さらに、飛散粉におけるリチウム分が析出して配管内壁へ固着することも抑制できる。ひいては、飛散粉の流動性を維持し、その捕集を効率的に行うことができる他、リチウム分による配管内壁の腐食も抑制することができる。
【0099】
なお、リチウム化合物として炭酸リチウムを用いる場合、露点温度を超える温度を維持しながら冷却を行うことにより、炭酸リチウムが水蒸気の結露によりその一部が溶解し固着の要因を排除することができる。
【0100】
また、上述したとおり、排気ガスを冷却する際に炭酸リチウム化を抑制することにより、製造するリチウム金属複合酸化物において、炭酸リチウムの残存量を低減させることができるが、これ以外の方法でも炭酸リチウムの残存量を低減させることができる。具体的には、焼成工程で焼成する際や、その後さらに焼成する場合において、炭酸リチウムの融点よりも例えば100℃程度高い温度で焼成する。これにより、製造するリチウム金属複合酸化物中の炭酸リチウムの残存量を低減することができる。
【0101】
炭酸リチウムの残存量としては、例えば、0.60重量%以下、0.55重量%以下であることが好ましい。
【0102】
炭酸リチウムの残存量は、ワルダー法を用いて求める値である。具体的には、水100mLに対してリチウム金属複合酸化物試料20gを添加し、20分間室温下で攪拌した後、固形分を濾別、除去して得られた上澄み液について、0.2Nの塩酸を用いて滴定して求める。横軸に滴定量(mL)、縦軸に上澄み液のpHをプロットして描いたpH曲線上で、傾の最も大きくなる2つの点を、滴定量の少ない方から第一滴定点及び第二滴定点とする。これらの点での滴定量から、それぞれの量を以下の式を用いて計算し、炭酸リチウムの残存量とする。なお、計算式中の略号は、以下のとおりである。
:第一滴定点までの滴定量(mL)
:第二滴定点までの滴定量(mL)
HCl:滴定に使用した塩酸の濃度(mol/L)
HCl:滴定に使用した塩酸のファクター
M:炭酸リチウムの分子量
W:リチウム金属複合酸化物試料の重量(g)
炭酸リチウムの残存量(重量%)
=(T-T)×CHCl×FHCl×M×2×100/(W×1000)
【0103】
以上のようにして排気ガスを冷却した後、その排気ガスに含まれる飛散粉を、捕集設備等を用いて捕集する。
【0104】
具体的に、飛散粉を捕集する捕集設備としては、特に限定されず、例えばバグフィルター、サイクロン等を用いることができる。
【0105】
〔混合工程〕
混合工程では、飛散粉を捕集して得た捕集粉を、再度焼成工程に供するため、少なくとも、前駆体化合物と、リチウム化合物と、捕集粉との混合物としての粉状混合物を得る。
【0106】
粉状混合物の流動によって生じた飛散粉及び捕集粉の組成は、前駆体化合物とリチウム化合物との金属組成と異なるものになり得る。具体的には、飛散粉及び捕集粉における元素Mの合計量に対するLiの量との比(以下、Li/Mと表記する)は、粉状混合物(意図しているリチウム金属複合酸化物とも等しい)におけるLi/Mと比較して小さくなり得る。したがって、捕集粉を用いてリチウム金属複合酸化物を製造するには、捕集粉のLi/Mと系内の粉状混合物のLi/Mとの兼ね合いを考慮して、組成のばらつきを抑制することが好ましい。なお、時間当たりに排出される飛散粉が一定で、かつ系外に排出される飛散粉の量と添加・混合される捕集粉の量とが略同一となる場合、このような系で定常的な運転をする場合には、大きなばらつきは発生しない。
【0107】
前駆体化合物、リチウム化合物及び捕集粉について、添加や混合の順序や場所、添加や混合に用いる装置等は特に限定されるものではない。例えば、それぞれの添加を1箇所とする場合には、以下に示す混合方法1~4のいずれかを用いることができる。ただし、前駆体化合物、リチウム化合物及び捕集粉の添加は1箇所に限定されるものではない。
【0108】
・混合方法1:捕集粉を、前駆体化合物及びリチウム化合物とともに混合して粉状混合物を調製する。
・混合方法2:捕集粉を、先に混合調製された前駆体化合物及びリチウム化合物の混合物と混合して粉状混合物を調製する。
・混合方法3:捕集された飛散粉を前駆体化合物と混合した後、さらにリチウム化合物と混合して粉状混合物を調製する。
・混合方法4:捕集された飛散粉をリチウム化合物と混合した後、さらに前駆体化合物と混合して粉状混合物を調製する。
【0109】
(混合方法1)
混合方法1のより具体的な例として、以下に示す混合方法1-1又は混合方法1-2が挙げられる。
・混合方法1-1:前駆体化合物、リチウム化合物及び捕集粉を、ムラなく均一に混合(以下、精密混合という)することが可能な混合機等にて精密混合する。
・混合方法1-2:前駆体化合物及びリチウム化合物を精密混合した後に、
得られた精密混合物を、スクリュー等の回転手段で回転させながら、スクリュー、リボンブレンダー等の回転手段を備えた混合物貯槽等へと搬送する搬送路に、捕集粉を添加して混合する、及び/又は、
混合物貯槽等にて、搬送された精密混合物に捕集粉を添加して混合する。
【0110】
(混合方法2)
混合方法2のより具体的な例として、以下に示す混合方法2-1又は混合方法2-2が挙げられる。
・混合方法2-1:粉状混合物及び飛散粉を、例えば精密混合することが可能な混合機等にて精密混合する。
・混合方法2-2:粉状混合物を、スクリュー等の回転手段で回転させながら、スクリュー、リボンブレンダー等の回転手段を備えた混合物貯槽等へと搬送する搬送路に、捕集粉を添加して混合する、及び/又は、
混合物貯槽等にて、搬送された粉状混合物に捕集粉を添加して混合する。
【0111】
混合方法3及び4においても、混合方法1及び2と同様に、それぞれの混合操作は、精密混合が可能な混合機、混合物貯槽等へと搬送する搬送路及び混合物貯槽等で行えばよい。
【0112】
以上のように、前駆体化合物、リチウム化合物及び捕集粉を焼成工程に供する前に混合し、焼成に供する混合物の均一化を図ることにより、捕集粉中の未反応の元素Mのリチウム化が促進されやすくなる。そしてその結果として、捕集粉におけるLi/Mが、目的とするリチウム金属複合酸化物におけるLi/Mに近づいて焼成工程に供する混合物のLi/Mが安定し、より均一な結晶成長及び粒子成長が実現され得る。
【0113】
また、前駆体化合物、リチウム化合物及び捕集された飛散粉の他に、さらにドープ源化合物及び/又は被覆源化合物も併せて混合し、粉状混合物を調製してもよい。この場合において、粉状混合物は、さらにドープ源化合物及び/又は被覆源化合物との混合物である。ドープ源化合物及び/又は被覆源化合物について、添加や混合の順序や場所、添加や混合に用いる装置としては特に限定されるものではない。
【0114】
なお、ドープ源化合物及び被覆源化合物としては、上述したものと同様のものを用いることができる。
【0115】
混合方法1~4に例示したとおり、焼成する前に、捕集粉を、前駆体化合物と、リチウム化合物とともに粉状混合物を予め調製すればよい。例えば上述したロータリーキルンを用いたかき揚げ攪拌によって混合物を流動させながら焼成する場合には、ロータリーキルンにおける焼成が始まるまでに予め粉状混合物を調製し、これをロータリーキルンに投入して、かき揚げ攪拌する。なお、混合物の調製時期としては、特に限定されない。
【0116】
混合工程において、捕集粉の全量が粉状混合物に混合されるようにすることが好ましい。この場合において、前駆体化合物と、リチウム化合物と、捕集粉との混合割合としては、前駆体化合物の粒径、リチウム化合物の粒径、両者の差異等に基づいて一定となるように決定されればよく、粉状混合物のLi/Mを考慮して混合することが好ましい。
【0117】
具体的には、以下の(a)又は(b)に示されるいずれかの質量比が、2:98~40:60、5:95~40:60、7:93~37:63となるように制御して粉状混合物を調製することが好ましい。
(a)捕集粉の量と前駆体化合物及びリチウム化合物の合計量との質量比
(b)捕集粉の量と粉状混合物の量との質量比
この範囲内で、時間当たりの飛散粉の飛散量と混合工程に再度添加混合する捕集粉の量を等しくすることが好ましい。また、捕集粉の添加より下流に、混合物貯槽やバッチ式の混合機が存在せずに、添加後、連続的に混合されて焼成に供される場合、捕集粉は連続的に添加するように制御する必要がある。なお、粉状混合物が上述したドープ源化合物及び/又は被覆源化合物を含む場合でも、同様の範囲に制御することが好ましい。
【0118】
経過時間によって(a)又は(b)の質量比のばらつきが生じる場合は、得られるリチウム金属複合酸化物の品質が低下するおそれがあるため、流動条件を再度設定する必要がある。
【0119】
このようにして、捕集粉の添加量を制御して粉状混合物を調製することにより、この粉状混合物を焼成して得られるリチウム金属複合酸化物は、目的とするLi/M比を有するものとなる。
【0120】
本開示に係る製造方法にて製造されるリチウム金属複合酸化物は、Liと少なくとも1種の元素Mとを含有するリチウム金属複合酸化物からなるものであれば、その組成としては特に限定されないが、例えば、式(I):
LiMO (I)
(式中、Mは、Li及びO以外の元素であり、0.95≦a≦1.40である)
で表される組成を有することが好ましい。
【0121】
式(I)で表される組成を有するリチウム金属複合酸化物において、Liの量論比a、すなわちLiのモル数と元素Mの総モル数との比(Li/M)としては、0.95≦a≦1.40、0.95≦a≦1.25、0.96≦a≦1.15であることが好ましい。
【0122】
式(I)で表される組成を有するリチウム金属複合酸化物において、元素Mは、少なくともNiであることが好ましく、少なくともNi、Co並びにAl及び/又はMnであることがより好ましい。Mが少なくともNiである場合、Niの量論比b、すなわちNiのモル数と元素Mの総モル数との比(Ni/M)としては、0.3<b≦1、0.5<b<1、0.8<b<1であることが好ましい。なお、リチウム化合物として炭酸リチウムを用いる場合、Ni/Mとしては、0.3<b≦0.8であることがより好ましい。
【0123】
本開示に係る製造方法にて製造されるリチウム金属複合酸化物の特性は、例えば、二次粒子の平均粒子径(平均二次粒子径)及び結晶子サイズが、各々以下に示す範囲であることが好ましい。
【0124】
平均二次粒子径としては、例えば、1μm~30μm、さらには2μm~25μmであることが好ましい。
【0125】
なお、平均二次粒子径は、レーザー式粒度分布測定装置(マイクロトラックHRA、日機装株式会社製)を用い、湿式レーザー法にて体積基準で測定するD50である。
【0126】
結晶子サイズとしては、例えば、50nm~600nm、さらには60nm~500nmであることが好ましい。
【0127】
なお、結晶子サイズは、以下の方法にてリチウム金属複合酸化物のXRD回折データを得た後、Rietveld解析を行って求められる値である。
【0128】
X線回折装置[SmartLab、(株)リガク製]を用い、以下のX線回折条件にてリチウム金属複合酸化物のXRD回折データを得た後、該XRD回折データを用い、「R.A.Young,ed.,“The Rietveld Method”,Oxford University Press(1992)」を参考にして、Rietveld解析を行った。
(X線回折条件)
線源:Cu-Kα
加速電圧及び電流:45kV及び200mA
サンプリング幅:0.02deg.
走査幅:15deg.~122deg.
スキャンスピード:1.0ステップ/秒
発散スリット:2/3deg.
受光スリット幅:0.15mm
散乱スリット:2/3deg.
【0129】
本開示の製造方法では、上述したとおり、粉状混合物を連続的に流動させながら焼成する際に生じる飛散粉を捕集し、得た捕集粉をそのまま焼成するのではなく、焼成前に、少なくとも前駆体化合物とリチウム化合物と混合する。これによって、得られるリチウム金属複合酸化物の組成のばらつきを抑制し、目的とする組成を有するリチウム金属複合酸化物を得ることができる。
【0130】
Li/Mのばらつきの指標として、焼成開始から所定時間経過時に得られる焼成物中から、採取する部分を変えて採取した複数の焼成物試料のLi/Mの変動係数(以下、「Li/M変動係数」ということもある)が挙げられる。Li/Mの変動係数、いずれの所定時間経過時に得られる焼成物についても小さいことは、Li/Mのばらつきが少ないことを意味する。
【0131】
所定時間経過時に得られる焼成物中から、採取する部分を変えて採取したN個(例えば、N≧10)の焼成物試料の組成が同一に近くなるほど、Li/M変動係数は0%に漸近する。すなわち、Li/M変動係数は小さいほど好ましい。Li/M変動係数が大きすぎる場合は、所定時間経過時に得られる焼成物試料の組成にばらつきが生じていることを示している。そして本開示の製造方法によれば、例えば1時間、2時間、3時間、4時間……といった、いずれの所定時間経過時に得られる焼成物試料も、組成のばらつきが充分に抑制される。Li/M変動係数は、連続する10時間の間、1時間ごと(合計10回)にLi/M変動係数を測定する。Li/M変動係数としては、特に限定されないが、いずれの時間においても、0.7%以下、0.6%以下、0.5%以下であることが好ましい。
【0132】
Li/M変動係数は、所定時間経過時に得られるN個(N=10)の焼成物試料のLi/Mによる標準偏差及び平均値を用い、以下の式に基づいて求める値である。また、それぞれの焼成物試料のLi/M、焼成物0.2gの試料を25mLの20%塩酸溶液中で加熱溶解させ、冷却後100mLメスフラスコに移し、純水を入れて調製した調整液について、ICP-AES[Optima8300、(株)パーキンエルマー製]を用いて各元素を定量することによって求めるものである。
Li/M変動係数(%)=(標準偏差/平均値)×100
【0133】
本開示に係る製造方法にて製造されるリチウム金属複合酸化物は、非水電解質二次電池用正極活物質として用いることができる。非水電解質二次電池は、正極と、負極と、電解質を含む電解液とから構成されるものであり、非水電解質二次電池用正極活物質は、このうち正極に含まれ得るものである。
【0134】
正極を製造する際には、正極活物質に導電剤及びバインダーを添加混合する。導電剤としては、例えば、アセチレンブラック、カーボンブラック、黒鉛等が好ましい。バインダーとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン等が好ましい。
【0135】
負極としては、例えば、リチウム金属、グラファイト、低結晶性炭素材料等の負極活物質や、Si、Al、Sn、Pb、Zn、Bi及びCdからなる群から選択される1種以上の非金属、金属元素又はそれを含む合金若しくはカルコゲン化合物を用いることができる。
【0136】
電解液の溶媒としては、例えば、炭酸エチレン、炭酸プロピレン、炭酸ジメチル、炭酸ジエチル等のカーボネート類や、ジメトキシエタン等のエーテル類からなる群から選択される1種以上を含む有機溶媒を用いることができる。
【0137】
電解質としては、六フッ化リン酸リチウム(LiPF)以外に、例えば、過塩素酸リチウム、四フッ化ホウ酸リチウム等のリチウム塩からなる群から選択される1種以上を用いることができる。なお、電解質は、上述の溶媒に溶解して用いる。
【0138】
<作用>
本開示の製造方法によれば、品質の低下がなく、非水電解質二次電池の正極活物質として、優れた電池特性を付与することができるリチウム金属複合酸化物を製造することができる。
【実施例0139】
以下に、本開示の実施例を用いて本開示を具体的に説明するが、本開示はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0140】
〔試料の分析〕
以下の方法を用いて、実施例及び比較例の試料について分析を行った。
【0141】
[XRD回折]
X線回折装置[SmartLab、(株)リガク製]を用い、以下のX線回折条件にてリチウム金属複合酸化物試料のXRD回折データを得た後、該XRD回折データを用い、「R.A.Young,ed.,“The Rietveld Method”,Oxford University Press(1992)」を参考にして、Rietveld解析を行った。
(X線回折条件)
線源:Cu-Kα
加速電圧及び電流:45kV及び200mA
サンプリング幅:0.02deg.
走査幅:15deg.~122deg.
スキャンスピード:1.0ステップ/秒
発散スリット:2/3deg.
受光スリット幅:0.15mm
散乱スリット:2/3deg.
【0142】
[前駆体化合物及びリチウム金属複合酸化物試料の組成]
前駆体化合物又はリチウム金属複合酸化物試料0.2gを25mLの20%塩酸溶液中で加熱溶解させ、冷却後100mLメスフラスコに移し、純水を入れて調製した調整液について、ICP-AES[Optima8300、(株)パーキンエルマー製]を用いて各元素を定量した。
【0143】
[リチウム金属複合酸化物試料を用いたコインセル]
リチウム金属複合酸化物試料を正極活物質として用いた2032タイプコインセルを、次の方法にて作製した正極、負極及び電解液を用いて製造した。
【0144】
(正極)
導電剤としてアセチレンブラック及びグラファイトを、アセチレンブラック:グラファイト=1:1(重量比)で用い、バインダーとしてポリフッ化ビニリデンを用いて、正極活物質、導電剤、及びバインダーを、正極活物質:導電剤:バインダー=90:6:4(重量比)となるように配合し、これらをN-メチルピロリドンに混合したスラリーをアルミニウム箔上に塗布した。これを110℃で乾燥してシートを作製し、このシートを15mmΦに打ち抜いた後、合材の密度が3.0g/cmとなるように圧延したものを正極とした。
【0145】
(負極)
16mmΦに打ち抜いた厚さ500μmのリチウム箔を負極とした。
【0146】
(電解液)
炭酸エチレン(EC)及び炭酸ジメチル(DMC)の混合溶媒を、EC:DMC=1:2(体積比)となるように調製し、これに、電解質である1MのLiPFを混合した溶液を電解液とした。
【0147】
[非水電解質二次電池の電池特性]
(初期充電容量及び初期充放電効率)
「リチウム金属複合酸化物試料を用いたコインセル」の項に示す方法にて製造したコインセルを用い、25℃の環境下で、4.30V(上限電圧)まで18mA/gの電流密度で定電流充電後、電流密度が2mA/gとなるまで定電圧充電を行った。このときの容量を初期充電容量(mAh/g)とした。
【0148】
次いで、5分間休止した後、同環境下で、3.00Vまで18mA/gの電流密度で定電流放電を行い、5分間休止して初期放電容量(mAh/g)を測定した。
【0149】
初期充電容量の測定値及び初期放電容量の測定値を用い、以下の式に基づいて初期充放電効率を算出した。
初期充放電効率(%)=(初期放電容量/初期充電容量)×100
【0150】
〔試料の調製〕
以下に示す方法で、実施例及び比較例のリチウム金属複合酸化物試料を調製した。
【0151】
[合成例1:前駆体化合物1の合成]
硫酸ニッケル水溶液、硫酸コバルト水溶液及び硫酸アルミニウム水溶液を、NiとCoとAlとの割合(モル比)がNi:Co:Al=89:7:4となるように混合して、混合水溶液を得た。反応槽内には事前に、水酸化ナトリウム水溶液300g及びアンモニア水500gを添加した純水10Lを母液として準備し、0.7L/minの流量の窒素ガスにより反応槽内を窒素雰囲気とし、反応も窒素雰囲気で行った。
【0152】
その後、攪拌羽を1000rpmで回転させながら混合水溶液と水酸化ナトリウム水溶液及びアンモニア水とを、所定の速度で同時に滴下させ、pHが11.8となるようにアルカリ溶液の滴下量を調整した晶析反応により、NiとCoとAlとが晶析して凝集粒子を形成するように共沈させ、共沈物を得た。
【0153】
その後、反応器内のスラリーを固液分離し、さらに純水にて洗浄することで残留不純物を低減させてから、ケーキ状態となった共沈物を大気環境下にて110℃で12時間乾燥し、前駆体化合物1を得た。このとき、前駆体化合物1の体積基準の粒度分布におけるD50は11.2μmであった。また、注入法にて測定した前駆体化合物1の安息角は、34.2°であった。
【0154】
[実施例1-1:リチウム金属複合酸化物試料の製造]
図3は、実施例1-1の正極活物質の製造方法を示すフローチャート図(フローα)である。実施例1-1では、このフローαにしたがい、リチウム金属複合酸化物試料を製造した。
【0155】
前駆体化合物1と無水水酸化リチウム(注入法にて測定した安息角:52.2°)とを、Liと、Ni、Co及びAlの合計量との割合(モル比)が、Li/(Ni+Co+Al)=1.02となるように秤量し、加えて、後述のとおり、捕集した捕集粉の量と前駆体化合物1及び無水水酸化リチウムの合計量との質量比(飛散粉:合計量)を制御するように混合機に投入し、精密混合を行うことで、混合物1を調製した。得られた混合物1を、さらにスクリューにて搬送しながら連続的に混合し、さらにスクリュー(回転数:104rpm)による混合機能が備えられた混合物貯槽にて連続的に混合して、貯槽した。注入法にて測定した混合物1の安息角は、43.7°であった。
【0156】
次いで、混合物1を混合物貯槽からロータリーキルンへと投入し、焼成を行った。焼成は、レトルト直径が300mmで、図2に示すような炉芯管内の表面部に30度の設置角度で、円周上にかき揚げ羽を4枚備えたロータリーキルンを用いて、酸素雰囲気下(酸素濃度:97vol%)にて、後述するロータリーキルン条件で13時間にわたって、混合物1をかき揚げ攪拌して連続的に流動させながら行った(混合物1は矢印Bのように流動)。
【0157】
この焼成の際に生じる飛散粉を含む排気ガス(約280℃)をロータリーキルンの入口側の系外に排出し、この排気ガスに対して、脱炭酸冷却ガス(超低露点ドライエアー、炭酸ガス濃度:10ppm以下)を導入して接触させ、飛散粉を含む排気ガスを、脱炭酸雰囲気で冷却した。このときの排気ガスの温度は、約101.2kPaの微負圧で約180℃であった。
【0158】
次いで、排気ガスの温度を、冷却時と同様に約101.2kPaの微負圧で約180℃に維持しながら、排気ガスに含まれる飛散粉を濾布式バグフィルターで捕集して、これを捕集粉とした。
【0159】
捕集粉を、前駆体化合物1と無水水酸化リチウムとを混合して混合物1を調製している混合機に投入し、これら前駆体化合物1、無水水酸化リチウム及び飛散粉を精密混合して、粉状混合物を調製した。このときの捕集粉の投入量は、捕集粉の量と前駆体化合物1及び無水水酸化リチウムの合計量との質量比(飛散粉:前駆体化合物1及び無水水酸化リチウム)が約13:87となるように制御した。得られた粉状混合物を、スクリューにて搬送しながら連続的に混合し、さらに混合物貯槽にて連続的に混合して、貯槽した。
【0160】
次いで、粉状混合物を混合物貯槽からロータリーキルンへと投入し、継続して焼成を行い、連続的にリチウム金属複合酸化物を得た。得られたリチウム金属複合酸化物の収率は、投入した前駆体化合物1及び無水水酸化リチウムの合計量(質量)に対して約82%であった。
【0161】
なお、この焼成において、粉状混合物をロータリーキルンに投入し、安定して連続的に排出される際に、粉状混合物が焼成される時間を3時間に設定しており、粉状混合物が最高温度(約600℃)で焼成されている時間は、約1.5時間であった。
【0162】
また、かき揚げ羽によるかき揚げ攪拌は、粉状混合物の最上部の高さが、かき揚げ攪拌されない状態の最上部の高さの約1.0倍となるように行った。また、かき揚げ羽の大きさは、充填率が20%の混合物を、1回の回転で全量の50%攪拌することができる大きさとした。
【0163】
(ロータリーキルン条件)
レトルト回転数:0.9rpm
充填率:20%
炉内風速及び露点:ガスインプット速度を47L/minに調整
昇温速度:炉芯管の表面温度を下記のとおりに設定
炉芯管の最高表面温度:640℃
混合物の最高温度:約600℃
【0164】
なお、粉状混合物を13時間にわたって焼成している間、安定した排出となった時点(焼成開始から4時間経過した時点)を1回目として、以降1時間経過するごとに、得られた焼成物から採取する部分を変えて10個の焼成物試料を採取し、それぞれのLi/Mを測定し、上述した方法にしたがって、標準偏差及び平均値から、各時間経過時のLi/M変動係数を算出した。
【0165】
得られたリチウム金属複合酸化物を無作為に抽出し、幅300mm、深さ100mmの匣鉢に充填して、静置炉で酸素雰囲気下(酸素濃度:98vol%)にて、750℃で5時間にわたってさらに焼成を行い、リチウム金属複合酸化物試料を得た。
【0166】
得られたリチウム金属複合酸化物試料の炭酸リチウムの残存量を上述した方法にしたがって求めたところ、0.49重量%であった。
【0167】
[実施例1-2:リチウム金属複合酸化物試料の製造]
図4は、実施例1-2の正極活物質の製造方法を示すフローチャート図(フローβ)である。実施例1-2では、このフローβにしたがい、リチウム金属複合酸化物試料を製造した。
【0168】
捕集粉を、前駆体化合物1と無水水酸化リチウムとを混合して混合物1を調製している混合機には投入せずに、調製した混合物1と飛散粉とをスクリューにて搬送しながら連続的に混合して粉状混合物を調製し、さらに混合物貯槽にて連続的に混合して貯槽した後、混合物を混合物貯槽からロータリーキルンへと投入して継続して焼成を行い、連続的に焼成物を得た以外は、実施例1-1と同様にしてリチウム金属複合酸化物試料を製造した。得られたリチウム金属複合酸化物試料の収率は、投入した前駆体化合物1及び無水水酸化リチウムの合計量(質量)に対して82%であった。また、炭酸リチウムの残存量は、0.51質量%であった。
【0169】
[参考例1-1:リチウム金属複合酸化物試料の製造]
図5は、参考例1-1の正極活物質の製造方法を示すフローチャート図(フローγ)である。参考例1-1では、このフローγにしたがい、リチウム金属複合酸化物試料を製造した。
【0170】
飛散粉を含む排気ガスを脱炭酸雰囲気で冷却せずに(排気ガスに対して、脱炭酸ガスではない冷却ガス(ドライエアー、炭酸濃度:約400ppm)を導入)、排気ガスに含まれる飛散粉を捕集した以外は、実施例1-1と同様にしてリチウム金属複合酸化物試料を製造した。得られたリチウム金属複合酸化物の収率は、投入した前駆体化合物1及び無水水酸化リチウムの合計量(質量)に対して81%であった。また、炭酸リチウムの残存量は0.69質量%であった。
【0171】
<比較例1-1:リチウム金属複合酸化物試料の製造>
図6は、比較例1-1の正極活物質の製造方法を示すフローチャート図(フローδ)である。比較例1-1では、このフローδにしたがい、リチウム金属複合酸化物試料を製造した。
【0172】
飛散粉を含む排気ガスを、機材保護のために外部まで配管長を延ばすことで冷却した後、スクラバーにより飛散粉を処理することで排気ガスに含まれる飛散粉を捕集せずに、粉状混合物1のみの焼成を行った以外は、実施例1-1と同様にしてリチウム金属複合酸化物試料を製造した。得られたリチウム金属複合酸化物試料の収率は、投入した前駆体化合物1及び無水水酸化リチウムの合計量(質量)に対して72%であった。また、炭酸リチウムの残存量は0.53重量%であった。
【0173】
[比較例1-2:リチウム金属複合酸化物試料の製造]
図7は、比較例1-2の正極活物質の製造方法を示すフローチャート図(フローε)である。比較例1-2では、このフローεにしたがい、リチウム金属複合酸化物試料を製造した。
【0174】
混合物1と捕集粉とを別々にロータリーキルンへと投入した以外は、実施例1-1と同様にしてリチウム金属複合酸化物試料を製造した。得られたリチウム金属複合酸化物試料の収率は、投入した前駆体化合物1及び無水水酸化リチウムの合計量(質量)に対して82%であった。また、炭酸リチウムの残存量は0.53質量%であった。
【0175】
表1に、実施例1-1~1-2、参考例1-1及び比較例1-1~1-2のリチウム金属複合酸化物試料の各時間経過時のLi/M変動係数を示す。また、表2に、実施例1-1~1-2、参考例1-1及び比較例1-1~1-2のリチウム金属複合酸化物試料の収率、の炭酸リチウムの残存量、並びに正極活物質として用いた非水電解質二次電池の初期充電容量及び初期充放電効率を示す。
【0176】
【表1】
【0177】
【表2】
【0178】
[合成例2:前駆体化合物2の合成]
硫酸ニッケル水溶液、硫酸コバルト水溶液及び硫酸マンガン水溶液を、NiとCoとMnとの割合(モル比)がNi:Co:Mn=4:3:3となるように混合して、混合水溶液を得た。反応槽内には事前に、水酸化ナトリウム水溶液300g及びアンモニア水500gを添加した純水10Lを母液として準備し、0.7L/minの流量の窒素ガスにより反応槽内を窒素雰囲気とし、反応も窒素雰囲気で行った。
【0179】
その後、攪拌羽を1100rpmで回転させながら混合水溶液と水酸化ナトリウム水溶液及びアンモニア水とを、所定の速度で同時に滴下させ、pHが12.2となるようにアルカリ溶液の滴下量を調整した晶析反応により、NiとCoとMnとが晶析して凝集粒子を形成するように共沈させ、共沈物を得た。
【0180】
その後、反応器内のスラリーを固液分離し、さらに純水にて洗浄することで残留不純物を低減させてから、ケーキ状態となった共沈物を大気環境下にて110℃で12時間乾燥し、前駆体化合物2を得た。このとき、前駆体化合物2の体積基準の粒度分布におけるD50は5.8μmであった。また、注入法にて測定した前駆体化合物2の安息角は、46.1°であった。
【0181】
[実施例2-1:リチウム金属複合酸化物試料の製造]
図8は、実施例2-1の正極活物質の製造方法を示すフローチャート図(フローζ)である。実施例2-1では、このフローζにしたがい、リチウム金属複合酸化物試料を製造した。
【0182】
前駆体化合物2と炭酸リチウム(注入法にて測定した安息角:60.1°)とを、Liと、Ni、Co及びMnの合計量との割合(モル比)が、Li/(Ni+Co+Mn)=1.10となるように秤量し、加えて、後述のとおり、捕集粉の量と前駆体化合物2及び炭酸リチウムの合計量との重量比(飛散粉の量:合計量)を制御するように混合機に投入し、精密混合を行うことで、混合物2を調製した。得られた混合物2を、さらにスクリューにて搬送しながら連続的に混合し、さらにスクリュー(回転数:104rpm)が備えられた混合物貯槽にて連続的に混合して、貯槽した。注入法にて測定した粉状混合物2の安息角は、51.2°であった。
【0183】
次いで、混合物2を混合物貯槽からロータリーキルンへと投入し、焼成を行った。焼成は、レトルト直径が300mmで、図2に示すような炉芯管内の表面部に30度の設置角度で、円周上にかき揚げ羽を4枚備えたロータリーキルンを用いて、低露点ドライエアーによる酸化性雰囲気下(酸素濃度:21vol%)にて、後述するロータリーキルン条件で13時間にわたって、混合物2をかき揚げ攪拌して連続的に流動させながら行った(混合物2は矢印Bのように流動)。
【0184】
この焼成の際に生じる飛散粉を含む排気ガス(約270℃)をロータリーキルンの入口側の系外に排出し、この排気ガスに対して、冷却ガス(低露点ドライエアー)を導入して接触させ、飛散粉を含む排気ガスを冷却した。このときの排気ガスの温度は、約101.2kPaの微負圧で約160℃であった。
【0185】
次いで、排気ガスの温度を冷却時と同様に約101.2kPaの微負圧で約160℃に維持しながら、排気ガスに含まれる飛散粉をバグフィルター(セラミックス製)で捕集して、これを捕集粉とした。
【0186】
捕集粉を、前駆体化合物2と炭酸リチウムとを混合して混合物2を調製している混合機に投入し、これら前駆体化合物2、炭酸リチウム及び飛散粉を精密混合して、粉状混合物を調製した。このときの捕集粉の投入量は、捕集粉の量と前駆体化合物2及び炭酸リチウムの合計量との質量比(飛散粉:前駆体化合物2及び炭酸リチウム)が約12:88となるように制御した。得られた粉状混合物を、スクリューにて搬送しながら連続的に混合し、さらに混合物貯槽内にて混合して、貯槽した。
【0187】
次いで、粉状混合物を混合物貯槽からロータリーキルンへと投入し、継続して焼成を行い、連続的にリチウム金属複合酸化物を得た。得られたリチウム金属複合酸化物の収率は、投入した前駆体化合物2及び炭酸リチウムの合計量(質量)に対して80%であった。
【0188】
なお、この焼成において、粉状混合物をロータリーキルンに投入し、安定して連続的に排出される際に、粉状混合物が焼成される時間を3時間に設定しており、粉状混合物が最高温度(約600℃)で焼成されている時間は、約1.5時間であった。
【0189】
また、かき揚げ羽によるかき揚げ攪拌は、粉状混合物の最上部の高さが、かき揚げ攪拌されない状態の最上部の高さの約1.0倍となるように行った。また、かき揚げ羽の大きさは、充填率が20%の混合物を、1回の回転で全量の50%攪拌することができる大きさとした。
【0190】
(ロータリーキルン条件)
レトルト回転数:1.25rpm
充填率:20%
炉内風速及び露点:ガスインプット速度を52L/minに調整
昇温速度:炉芯管の表面温度を下記のとおりに設定
炉芯管の最高表面温度:640℃
混合物の最高温度:約600℃
【0191】
なお、粉状混合物を13時間にわたって焼成している間、安定した排出となってからの焼成開始から4時間経過した時点を1回目として、以降1時間経過するごとに、得られた焼成物から採取する部分を変えて10個の焼成物試料を無作為に採取し、各々のLi/Mを測定し、上述した方法にしたがって、標準偏差及び平均値から、各時間経過時のLi/M変動係数を算出した。
【0192】
得られたリチウム金属複合酸化物を無作為に抽出し、幅300mm、深さ100mmの匣鉢に充填して、静置炉で低露点ドライエアーによる酸化性雰囲気下(酸素濃度:21vol%)にて、980℃で5時間にわたってさらに焼成を行い、リチウム金属複合酸化物試料を得た。
【0193】
<比較例2-1:リチウム金属複合酸化物試料の製造>
図9は、比較例2-1の正極活物質の製造方法を示すフローチャート図(フローη)である。比較例2-1では、このフローηにしたがい、リチウム金属複合酸化物試料を製造した。
【0194】
飛散粉を含む排気ガスを、機材保護のために外部まで配管長を延ばすことで冷却した後、スクラバーにより飛散粉を処理することで排気ガスに含まれる飛散粉を捕集せずに、粉状混合物2のみの焼成を行った以外は、実施例2-1と同様にしてリチウム金属複合酸化物試料を製造した。得られたリチウム金属複合酸化物試料物の収率は、投入した前駆体化合物2及び炭酸リチウムの合計量(質量)に対して69%であった。
【0195】
<比較例2-2:リチウム金属複合酸化物試料の製造>
図10は、比較例2-2の正極活物質の製造方法を示すフローチャート図(フローι)である。比較例2-2では、フローιにしたがい、リチウム金属複合酸化物試料を製造した。
【0196】
混合物2と捕集粉とを別々にロータリーキルンへと投入した以外は、実施例2-1と同様にしてリチウム金属複合酸化物試料を製造した。得られたリチウム金属複合酸化物試料の収率は、投入した前駆体化合物2及び炭酸リチウムの合計量(質量)に対して79%であった。
【0197】
表3に、実施例2-1及び比較例2-1~2-2のリチウム金属複合酸化物試料の各時間経過時のLi/M変動係数を示す。また、表4に、実施例2-1及び比較例2-1~2-2の焼成物のリチウム金属複合酸化物試料の収率、の炭酸リチウムの残存量、並びに正極活物質として用いた非水電解質二次電池の初期充電容量及び初期充放電効率を示す。
【0198】
【表3】
【0199】
【表4】
【符号の説明】
【0200】
1 炉芯管
2 表面部
3 かき揚げ羽
4 軸心
θ 設置角度
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10