IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社ディスコの特許一覧

特開2024-171379レーザ加工装置、及び、レーザ加工装置の製造方法
<>
  • 特開-レーザ加工装置、及び、レーザ加工装置の製造方法 図1
  • 特開-レーザ加工装置、及び、レーザ加工装置の製造方法 図2
  • 特開-レーザ加工装置、及び、レーザ加工装置の製造方法 図3
  • 特開-レーザ加工装置、及び、レーザ加工装置の製造方法 図4
  • 特開-レーザ加工装置、及び、レーザ加工装置の製造方法 図5
  • 特開-レーザ加工装置、及び、レーザ加工装置の製造方法 図6
  • 特開-レーザ加工装置、及び、レーザ加工装置の製造方法 図7
  • 特開-レーザ加工装置、及び、レーザ加工装置の製造方法 図8
  • 特開-レーザ加工装置、及び、レーザ加工装置の製造方法 図9
  • 特開-レーザ加工装置、及び、レーザ加工装置の製造方法 図10
  • 特開-レーザ加工装置、及び、レーザ加工装置の製造方法 図11
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171379
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】レーザ加工装置、及び、レーザ加工装置の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/00 20140101AFI20241205BHJP
   B23K 26/53 20140101ALI20241205BHJP
   H01L 21/301 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B23K26/00 Q
B23K26/53
H01L21/78 B
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088343
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 貴之
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(72)【発明者】
【氏名】水本 由達
【テーマコード(参考)】
4E168
5F063
【Fターム(参考)】
4E168AE01
4E168CA00
4E168CA06
4E168CB07
4E168CB18
4E168DA02
4E168DA24
4E168DA43
4E168JA12
4E168JA13
4E168KA15
5F063AA15
5F063AA28
5F063AA41
5F063AA48
5F063BA43
5F063BA44
5F063BA45
5F063BA47
5F063BA48
5F063CB02
5F063CB07
5F063DD25
5F063DD32
5F063DE01
5F063DE11
5F063DE14
5F063DE16
5F063DE23
5F063DE32
5F063EE21
5F063FF01
5F063FF33
5F063FF42
5F063FF43
(57)【要約】
【課題】レーザ加工中にアブレーションが発生しているか否かを判定する。
【解決手段】被加工物にレーザビームを照射し該被加工物をレーザ加工するレーザ加工装置であって、該被加工物を保持する保持ユニットと、該被加工物に該レーザビームを照射して該被加工物をレーザ加工するレーザ照射ユニットと、該被加工物から発生する弾性波を検出して弾性波信号を生成する弾性波検出ユニットと、コントローラと、を備え、該コントローラは、該レーザ照射ユニットによる該被加工物のレーザ加工が実施されているとき、該弾性波検出ユニットによって生成された該弾性波信号に基づいて該被加工物でアブレーションが発生したか否かを判定する判定部を有する。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
被加工物にレーザビームを照射し該被加工物をレーザ加工するレーザ加工装置であって、
該被加工物を保持する保持ユニットと、
該被加工物に該レーザビームを照射して該被加工物をレーザ加工するレーザ照射ユニットと、
該被加工物から発生する弾性波を検出して弾性波信号を生成する弾性波検出ユニットと、
コントローラと、を備え、
該コントローラは、該レーザ照射ユニットによる該被加工物のレーザ加工が実施されているとき、該弾性波検出ユニットによって生成された該弾性波信号に基づいて該被加工物でアブレーションが発生したか否かを判定する判定部を有することを特徴とするレーザ加工装置。
【請求項2】
該判定部は、
該弾性波検出ユニットによって生成された該弾性波信号に含まれる波形をフーリエ変換して各周波数帯域における該弾性波の大きさを算出し、
予め設定された特定周波数帯域における該弾性波の大きさが所定の大きさを超えた場合に、該被加工物で該アブレーションが発生したと判定することを特徴とする請求項1に記載のレーザ加工装置。
【請求項3】
該レーザビームの波長は、該被加工物に対して透過性を有する波長であり、
該レーザ加工では、該被加工物に該レーザビームを集光して該被加工物の内部に分割の起点となる改質領域を形成することを特徴とする請求項1または請求項2に記載のレーザ加工装置。
【請求項4】
該コントローラは、該判定部が該被加工物で該アブレーションが発生したと判定した場合に該レーザ照射ユニットによる該被加工物の該レーザ加工を停止する停止制御部をさらに有することを特徴とする請求項3に記載のレーザ加工装置。
【請求項5】
被加工物にレーザビームを照射し該被加工物をレーザ加工でき、該被加工物でアブレーションが発生したか否かを判定できるレーザ加工装置の製造方法であって、
該被加工物を保持する保持ユニットと、該被加工物に該レーザビームを照射するレーザ照射ユニットと、該被加工物から発生する弾性波を検出して弾性波信号を生成する弾性波検出ユニットと、コントローラと、を準備する準備ステップと、
該被加工物と同種の試料を該保持ユニットで保持する保持ステップと、
該保持ステップの後、該レーザ照射ユニットにより該試料に該レーザビームを集光してアブレーションを発生させながら該弾性波検出ユニットで該試料から発生する弾性波を検出して弾性波信号を生成するレーザビーム照射ステップと、
該レーザビーム照射ステップにおいて生成された該弾性波信号に含まれる波形をフーリエ変換して各周波数帯域における該弾性波の大きさを算出し、アブレーションに帰属される弾性波の周波数帯域を特定周波数帯域として導出する特定周波数帯域導出ステップと、
該特定周波数帯域導出ステップで導出された該特定周波数帯域を該コントローラに登録することにより、該保持ユニットに保持された該被加工物に該レーザ照射ユニットから該レーザビームを照射したときにアブレーションが発生したか否かを登録された該特定周波数帯域を利用して判定する機能を該コントローラに具備させる登録ステップと、を備えることを特徴とするレーザ加工装置の製造方法。
【請求項6】
該レーザビーム照射ステップの後、該特定周波数帯域導出ステップの前に、該試料の外観からアブレーションが生じたことを確認する確認ステップをさらに備えることを特徴とする請求項5に記載のレーザ加工装置の製造方法。
【請求項7】
該保持ステップの後、該特定周波数帯域導出ステップの前に、アブレーションが生じていないときに該弾性波検出ユニットで該試料から発生する弾性波を検出して参照用弾性波信号を生成する参照用弾性波信号生成ステップをさらに備え、
該特定周波数帯域導出ステップでは、該特定周波数帯域を導出するとき、該参照用弾性波信号に含まれる波形をフーリエ変換して各周波数帯域における該弾性波の大きさを算出して参照することを特徴とする請求項5または請求項6に記載のレーザ加工装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体ウェーハ等の被加工物にレーザビームを照射して、被加工物の内部に改質領域を形成するレーザ加工装置、及び、このレーザ加工装置の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン等の半導体で構成されたウェーハには互いに交差する複数の分割予定ラインが設定され、ウェーハの表面の分割予定ラインで区画された各領域には、IC(Integrated Circuit)等のデバイスが形成される。このウェーハを分割予定ラインに沿って分割すると、携帯電話、パーソナルコンピュータ等の電子機器に搭載されるデバイスチップが製造される。
【0003】
ウェーハの分割には、例えば、ウェーハをレーザ加工するレーザ加工装置が使用される(例えば、特許文献1参照)。レーザ加工装置は、例えば、ウェーハを透過できる波長のレーザビームを分割予定ラインに沿ってウェーハに照射し、ウェーハの内部に改質領域を形成する。ウェーハは、改質領域が起点となって分割される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002-192370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ウェーハの内部に改質領域を形成する際、レーザビームの集光点はウェーハの内部の所定の高さ位置に位置付けられる。しかしながら、ウェーハの表面の各所で高さに大きなばらつきが生じている場合や、ウェーハの表面に金属膜等の構造物が形成されている場合、レーザ加工装置の制御系に異常が発生した場合等では、レーザビームがウェーハの表面近傍に集光されることがある。そして、レーザビームがウェーハの表面に集光されると、アブレーションが発生してしまう。
【0006】
ウェーハの表面でアブレーションが発生すると、ウェーハが部分的に溶融してデブリが周囲に飛散し、レーザビームの集光領域の近傍でウェーハの表面にデブリが付着したり、レーザ加工装置の集光レンズが汚染されたりする場合がある。さらに、ウェーハの内部に予定された通りに改質領域が形成されず、その後にウェーハを予定通りに分割できない場合がある。
【0007】
しかしながら、レーザ加工の実施中にアブレーションが発生しているか否かを検知することは困難であるため、レーザ加工装置の使用者等は、アブレーションが発生しても即時に対処できない。そのため、アブレーションが継続して生じ続けることとなり、集光レンズ等の汚染が進行してしまう。また、複数のウェーハを次々にレーザ加工する場合、不適切な加工が繰り返され、不良品となるウェーハが次々に生じてしまう。
【0008】
本発明は係る問題点に鑑みてなされたものであり、レーザ加工中にアブレーションが発生しているか否かを判定可能なレーザ加工装置、及び、レーザ加工装置の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様によれば、被加工物にレーザビームを照射し該被加工物をレーザ加工するレーザ加工装置であって、該被加工物を保持する保持ユニットと、該被加工物に該レーザビームを照射して該被加工物をレーザ加工するレーザ照射ユニットと、該被加工物から発生する弾性波を検出して弾性波信号を生成する弾性波検出ユニットと、コントローラと、を備え、該コントローラは、該レーザ照射ユニットによる該被加工物のレーザ加工が実施されているとき、該弾性波検出ユニットによって生成された該弾性波信号に基づいて該被加工物でアブレーションが発生したか否かを判定する判定部を有することを特徴とするレーザ加工装置が提供される。
【0010】
好ましくは、該判定部は、該弾性波検出ユニットによって生成された該弾性波信号に含まれる波形をフーリエ変換して各周波数帯域における該弾性波の大きさを算出し、予め設定された特定固有周波数帯域における該弾性波の大きさが所定の大きさを超えた場合に、該被加工物で該アブレーションが発生したと判定する。
【0011】
また、好ましくは、該レーザビームの波長は、該被加工物に対して透過性を有する波長であり、該レーザ加工では、該被加工物に該レーザビームを集光して該被加工物の内部に分割の起点となる改質領域を形成する。
【0012】
より好ましくは、該コントローラは、該判定部が該被加工物で該アブレーションが発生したと判定した場合に該レーザ照射ユニットによる該被加工物の該レーザ加工を停止する停止制御部をさらに有する。
【0013】
また、本発明の他の一態様によれば、被加工物にレーザビームを照射し該被加工物をレーザ加工でき、該被加工物でアブレーションが発生したか否かを判定できるレーザ加工装置の製造方法であって、該被加工物を保持する保持ユニットと、該被加工物に該レーザビームを照射するレーザ照射ユニットと、該被加工物から発生する弾性波を検出して弾性波信号を生成する弾性波検出ユニットと、コントローラと、を準備する準備ステップと、該被加工物と同種の試料を該保持ユニットで保持する保持ステップと、該保持ステップの後、該レーザ照射ユニットにより該試料に該レーザビームを集光してアブレーションを発生させながら該弾性波検出ユニットで該試料から発生する弾性波を検出して弾性波信号を生成するレーザビーム照射ステップと、該レーザビーム照射ステップにおいて生成された該弾性波信号に含まれる波形をフーリエ変換して各周波数帯域における該弾性波の大きさを算出し、アブレーションに帰属される弾性波の周波数帯域を特定固有周波数帯域として導出特定する特定周波数帯域導出ステップと、該特定周波数帯域導出ステップで導出特定された該特定固有周波数帯域を該コントローラに登録することにより、該保持ユニットに保持された該被加工物に該レーザ照射ユニットから該レーザビームを照射したときにアブレーションが発生したか否かを登録された該特定固有周波数帯域を利用して判定する機能を該コントローラに具備させる登録ステップと、を備えることを特徴とするレーザ加工装置の製造方法が提供される。
【0014】
好ましくは、該レーザビーム照射ステップの後、該特定周波数帯域導出ステップの前に、該試料の外観からアブレーションが生じたことを確認する確認ステップをさらに備える。
【0015】
より好ましくは、該保持ステップの後、該特定周波数帯域導出ステップの前に、アブレーションが生じていないときに該弾性波検出ユニットで該試料から発生する弾性波を検出して参照用弾性波信号を生成する参照用弾性波信号生成ステップをさらに備え、該特定周波数帯域導出ステップでは、該特定固有周波数帯域を導出特定するとき、該参照用弾性波信号に含まれる波形をフーリエ変換して各周波数帯域における該弾性波の大きさを算出して参照する。
【発明の効果】
【0016】
本発明の一態様に係るレーザ加工装置、及び、発明の他の一態様に係る製造方法で製造されるレーザ加工装置は、被加工物から発生する弾性波を検出して弾性波信号を生成する弾性波検出ユニットと、コントローラ(制御ユニット)と、を備える。そして、コントローラは、弾性波検出ユニットによって生成された弾性波信号に基づいて被加工物でアブレーションが発生したか否かを判定する判定部を有する。
【0017】
このように構成されたレーザ加工装置は、被加工物のレーザ加工が実施されているときに被加工物から発生する弾性波を検出することでアブレーションが発生したか否かを判定できる。そのため、レーザ加工中にアブレーションの発生が迅速に検知され、問題への迅速な対処が可能となる。
【0018】
したがって、本発明の一態様により、レーザ加工中にアブレーションが発生しているか否かを判定可能なレーザ加工装置、及び、レーザ加工装置の製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】被加工物がテープ及びリングフレームと一体化されフレームユニットが形成される様子を模式的に示す斜視図である。
図2】レーザ加工装置を模式的に示す斜視図である。
図3】保持ユニットで保持されレーザ加工される被加工物を模式的に示す断面図である。
図4】一例に係る保持ユニットを分解して模式的に示す断面図である。
図5図5(A)は、他の一例に係る保持ユニットの一部を模式的に示す断面図であり、図5(B)は、さらに他の一例に係る保持ユニットの一部を模式的に示す断面図である。
図6図6(A)は、弾性波検出ユニットで検出された弾性波の波形を示すグラフであり、図6(B)は、弾性波の周波数分布を示すグラフである。
図7図7(A)は、弾性波検出ユニットで検出された弾性波の波形を示すグラフであり、図7(B)は、弾性波の周波数分布を示すグラフである。
図8図8(A)は、弾性波検出ユニットで検出された弾性波の波形を示すグラフであり、図8(B)は、弾性波の周波数分布を示すグラフである。
図9図9(A)は、弾性波検出ユニットで検出された弾性波の波形を示すグラフであり、図9(B)は、弾性波の周波数分布を示すグラフである。
図10図10(A)は、弾性波検出ユニットで検出された弾性波の波形を示すグラフであり、図10(B)は、弾性波の周波数分布を示すグラフである。
図11】レーザ加工装置の製造方法の各ステップの流れを示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、添付図面を参照しながら、本発明の実施形態について詳細に説明する。なお、各図では、説明の便宜のために各構造物の大きさや形状について簡略化して表示している場合や、外見上に現れる特徴を強調して表示している場合がある。そのため、各構造物は各図に示された形状、大きさ、角度等には限定されない。
【0021】
まず、本実施形態に係るレーザ加工装置で加工される被加工物について説明する。図1には、被加工物1を模式的に示す斜視図が含まれている。被加工物1は、例えば、シリコン(Si)やシリコンカーバイド(SiC)等の材料で形成された円板状のウェーハであり、互いに概ね平行でそれぞれ平坦な表面1a及び裏面1bを備える。
【0022】
被加工物1の表面1aには、互いに交差するように格子状に配列された複数の分割予定ライン(ストリート)3が設定される。被加工物1の表面1aの分割予定ライン3で区画された各領域には、それぞれ、IC、LSI(Large Scale Integration)等のデバイス5が形成される。
【0023】
なお、被加工物1の材質、構造、大きさ等に制限はない。例えば、被加工物1は、シリコンやシリコンカーバイド以外の半導体(GaAs、InP、GaN等)、サファイア、ガラス(石英ガラス、ホウケイ酸ガラス等)等でなる基板であってもよい。また、デバイスの種類、数量、形状、構造、大きさ、配置等にも制限はなく、被加工物1にはデバイス5が形成されていなくてもよい。
【0024】
被加工物1を分割予定ライン3に沿って分割すると、デバイス5をそれぞれ備える複数のチップ(デバイスチップ)が製造される。分割される被加工物1の裏面1bには、ダイシングテープと呼ばれる図1に示すテープ9が予め貼着される。そして、テープ9の外周部は、金属等で形成されたリングフレーム11に予め貼着され、リングフレーム11の開口部11aがテープ9により塞がれる。被加工物1は、テープ9及びリングフレーム11と一体化されてフレームユニット13(図2参照)として取り扱われる。
【0025】
ただし、本実施形態に係るレーザ加工装置はこれに限定されない。すなわち、レーザ加工装置で加工される被加工物1の裏面1bにはテープ9が貼着されなくてもよく、フレームユニット13が形成されなくてもよい。以下、フレームユニット13の一部に含まれた状態の被加工物1がレーザ加工される場合を例に、本実施形態に係るレーザ加工装置について説明する。
【0026】
図2は、本実施形態に係るレーザ加工装置2を模式的に示す斜視図である。レーザ加工装置2には、フレームユニット13の状態の被加工物1が搬入される。レーザ加工装置2は、被加工物1を吸引保持する保持テーブル(チャックテーブル)28と、保持ユニット28の上方に配設されたレーザ照射ユニット34と、を備える。以下、レーザ加工装置2の構成と機能について詳述する。
【0027】
レーザ加工装置2は、基台4の上面の前角部に配設されたカセット載置台6aを備える。カセット載置台6aには、複数の被加工物1が収容されたカセット8が載せられる。また、レーザ加工装置2は、基台4の上方に被加工物1を搬送するための搬送ユニット10と、搬送レール12と、を備える。
【0028】
レーザ加工装置2の基台4の上面には、X軸ガイドレール14と、X軸移動プレート16と、X軸ボールねじ18と、X軸パルスモータ20と、を備えるX軸移動機構(加工送り機構)が配設されている。基台4の上面には、X軸方向に平行な一対のX軸ガイドレール14が設けられており、X軸ガイドレール14にはX軸移動プレート16がスライド可能に取り付けられている。
【0029】
X軸移動プレート16の下面側には、ナット部(不図示)が設けられており、このナット部には、X軸ガイドレール14に平行なX軸ボールねじ18が螺合されている。X軸ボールねじ18の一端には、X軸パルスモータ20が連結されている。X軸パルスモータ20によりX軸ボールねじ18を回転させると、X軸移動プレート16がX軸ガイドレール14に沿ってX軸方向に移動する。
【0030】
X軸移動プレート16の上面には、Y軸ガイドレール22と、Y軸移動プレート24と、Y軸ボールねじ26と、Y軸パルスモータ(不図示)と、を備えるY軸移動機構(割り出し送り機構)が配設されている。Y軸移動プレート24の上面には、Y軸方向に平行な一対のY軸ガイドレール22が設けられており、Y軸ガイドレール22にはY軸移動プレート24がスライド可能に取り付けられている。
【0031】
Y軸移動プレート24の下面側には、ナット部(不図示)が設けられており、このナット部には、Y軸ガイドレール22に平行なY軸ボールねじ26が螺合されている。Y軸ボールねじ26の一端には、Y軸パルスモータが連結されている。Y軸パルスモータによりY軸ボールねじ26を回転させると、Y軸移動プレート24がY軸ガイドレール22に沿ってY軸方向に移動する。
【0032】
Y軸移動プレート24の上には、保持ユニット(チャックテーブル)28が配設される。保持ユニット28の上面側には、多孔質部材が配されている。または、保持ユニット28の上面側に複数の溝が形成されている。保持ユニット28は、例えば、ステンレス鋼や、石英部材等により形成される。保持ユニット28の上面は、被加工物1を保持する保持面29となる。保持ユニット28は、保持面29に垂直な軸の周りに回転可能である。
【0033】
保持ユニット28は、多孔質部材または溝に接続された吸引源(不図示)を有する。保持面29上にテープ9を介して被加工物1が載せられ、多孔質部材の孔または溝を通して被加工物1に対して吸引源により生じた負圧を作用させると、被加工物1は保持ユニット28に吸引保持される。
【0034】
また、保持ユニット28の周囲には、フレームユニット13を構成するリングフレーム11を固定するクランプ30が備えられている。保持ユニット28で被加工物1を保持する際、クランプ30によりリングフレーム11が固定される。
【0035】
レーザ加工装置2の基台4の上面の後部には、レーザ照射ユニット34を支持する立設部31が配設されている。立設部31の上部には保持ユニット28の上方まで伸びた支持部32の基端側が接続されている。支持部32の先端側には、レーザ照射ユニット34と、撮像ユニット36と、が配設されている。レーザ照射ユニット34は、保持ユニット28の上方に配設された加工ヘッド34aを備える。
【0036】
レーザ照射ユニット34は、例えば、被加工物1に対して透過性を有する(被加工物1を透過できる)波長のレーザビームをパルス発振し、保持ユニット28に保持された被加工物1にレーザビームを照射し集光する機能を有する。例えば、レーザ照射ユニット34は、レーザ媒質としてNd:YVOまたはNd:YAG等を有し、被加工物1を透過する波長(例えば、1342nm、1064nm)を有するパルス状のレーザビームを出射するレーザ発振器を備える。
【0037】
撮像ユニット36は、保持ユニット28に保持された被加工物1を撮像する機能を有する。撮像ユニット36で被加工物1の表面1aを撮像すると、分割予定ライン3の位置を検出できる。そのため、撮像ユニット36を利用すると、被加工物1の分割予定ライン3に沿ってレーザビームを照射できるように加工ヘッド34aに対する被加工物1の位置を調整するアライメントを実施できる。
【0038】
保持ユニット28で保持された被加工物1にレーザ照射ユニット34からレーザビームを照射してレーザビームを被加工物1の内部に集光すると、集光点の近傍に改質領域が形成される。被加工物1の内部に形成された改質領域は、被加工物1の分割の起点となる。
【0039】
レーザ加工装置2の基台4の上面には、洗浄ユニット38を収容する処理室4aが形成されている。処理室4aは、洗浄ユニット38が作動している間、図示しない蓋体により閉じられてもよい。洗浄ユニット38は、加工済みの被加工物1を保持する保持テーブルと、保持テーブルに保持された被加工物1に高圧の洗浄液を噴射して被加工物1を洗浄する洗浄ノズルと、を備える。
【0040】
また、レーザ加工装置2は、レーザ照射ユニット34、保持ユニット28、各種の移動ユニット、搬送ユニット10、撮像ユニット36、洗浄ユニット38等の各構成要素を制御するコントローラ(制御ユニット)40を備える。
【0041】
コントローラ40は、例えば、CPU(Central Processing Unit)等の処理装置と、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等の主記憶装置と、HDD、SSD、フラッシュメモリ等の補助記憶装置と、を含むコンピュータによって構成されている。補助記憶装置に記憶されるソフトウェアに従い処理装置等を動作させることによって、コントローラ40の機能が実現される。
【0042】
コントローラ40を別の観点から説明する。コントローラ40は、レーザ加工装置2における各種の構成要素の制御条件や、撮像ユニット36が取得した撮像画像、各種の被加工物1に所定の加工を実施するための加工条件等の各種の情報を記憶する記憶部42を備える。コントローラ40のより詳細な構成については、後述する。
【0043】
次に、レーザ加工装置2で被加工物1が加工される流れについて説明する。加工される被加工物1は、例えば、フレームユニット13の状態で図2に示されるカセット8に収容されてレーザ加工装置2に搬入される。カセット8は、複数のフレームユニット13を収容する機能を有する。カセット8は、カセット載置台6aに載置される。
【0044】
フレームユニット13は、搬送ユニット10によりカセット8から搬送レール12上に引き出され、搬送ユニット10により保持ユニット28の保持面29に搬送される。そして、保持ユニット28の吸引源を作動させ、テープ9を介して被加工物1を保持ユニット28で吸引保持するとともに、クランプ30にリングフレーム11を把持させる。
【0045】
次に、保持ユニット28をレーザ照射ユニット34の加工ヘッド34aの下方に移動させ、撮像ユニット36により被加工物1の表面1aを撮像し、分割予定ライン3の位置に関する情報を取得する。そして、該情報を基に、保持ユニット28を保持面29に垂直な方向に沿った軸の周りに回転させてX軸方向に分割予定ライン3を合わせる。それとともに、保持ユニット28を移動させて加工ヘッド34aを分割予定ライン3の一端の上方に位置づける。
【0046】
そして、レーザ照射ユニット34にレーザを発振させながら、保持ユニット28をX軸方向に沿って移動させ、分割予定ライン3に沿って被加工物1にレーザビームを照射する。図3には、レーザ照射ユニット34によりレーザビーム56が被加工物1に照射され、集光点54にレーザビーム56が集光される様子が模式的に示されている。被加工物1を透過できる波長のレーザビームを分割予定ライン3に沿って被加工物1の内部に集光すると、集光点の近傍において被加工物1が改質され、改質領域が被加工物1の内部に形成される。
【0047】
一つの分割予定ライン3に沿ってレーザ加工を実施して改質領域を形成した後、保持ユニット28を割り出し送り方向(Y軸方向)に沿って移動させ、同様に他の分割予定ライン3に沿ってレーザ加工を実施する。X軸方向に沿ったすべての分割予定ライン3に沿ってレーザ加工を実施した後、保持ユニット28を回転させ、他の方向に沿った分割予定ライン3に沿って同様にレーザ加工を実施する。
【0048】
こうして、すべての分割予定ライン3に沿ってレーザ加工が実施され改質領域が形成された後、レーザ加工装置2の内部または外部で改質領域を起点として被加工物1を分割すると、個々のチップが形成される。個々のチップは、引き続きテープ9に支持される。
【0049】
被加工物1にレーザ加工が実施された後、被加工物1は、搬送ユニット10により保持ユニット28から洗浄ユニット38に搬送される。そして、洗浄ユニット38では、高圧気体と純水の混合流体等で構成される洗浄液が被加工物1に噴射され、被加工物1が洗浄される。
【0050】
被加工物1の洗浄が完了した後、加工された被加工物1を含むフレームユニット13をカセット8に収容する。そして、カセット8に収容されている他の被加工物1を同様にレーザ加工装置2で次々にレーザ加工し、カセット8に戻す。カセット8に収容されたすべての被加工物1が加工された後、カセット8をレーザ加工装置2から搬出する。
【0051】
ここで、レーザ加工装置2において被加工物1の内部に改質領域を形成する際、レーザビーム56の集光点(集光領域)54は被加工物1の内部に位置付けられる。図3には、レーザ照射ユニット34から被加工物1に照射されるレーザビーム56が破線で示されている。レーザビーム56は、被加工物1の内部の所定の深さ位置に位置付けられた集光点(集光領域)54に集光される。
【0052】
しかしながら、レーザ加工装置2では、レーザビーム56が被加工物1の表面1a近傍に集光されることがある。これは、例えば、被加工物1の表面1aの各所で高さに大きなばらつきが生じている場合や、被加工物1の表面1aに金属膜等の構造物が形成されている場合、レーザ加工装置2の制御系に異常が発生した場合等に生じる。そして、レーザビーム56が被加工物1の表面1aに集光されると、アブレーションが発生してしまう。
【0053】
被加工物1の表面1aでアブレーションが発生すると、被加工物1が部分的に溶融してデブリが周囲に飛散する。そして、レーザビーム56の集光点(集光領域)54の近傍で被加工物1の表面1aにデブリが付着したり、レーザ照射ユニット34の加工ヘッド34aの内部に設けられた集光レンズ等の部品が汚染されたりする場合がある。さらに、被加工物1の内部に予定された通りに改質領域が形成されず、その後に被加工物1を予定通りに分割できない場合がある。
【0054】
しかしながら、レーザ加工の実施中にアブレーションが発生しているか否かを判断するのは容易ではない。例えば、加工後の被加工物1をレーザ加工装置2から搬出し被加工物1の表面1aを観察したとき、アブレーションの痕跡が表面1aから初めて確認され、アブレーションが発生したことが判明する。
【0055】
そのため、レーザ加工装置2の使用者はアブレーションが発生しても即時に対処できず、レーザ加工装置2等に問題が生じている状態で被加工物1のレーザ加工が継続されることとなる。この場合、アブレーションが生じ続けることとなり、集光レンズ等の汚染が進行してしまう。また、複数の被加工物1を次々にレーザ加工する場合、不適切な加工がされ不良品となる被加工物1が次々に生じてしまう。
【0056】
そこで、本実施形態に係るレーザ加工装置2は、被加工物1のレーザ加工中に被加工物1でアブレーションが発生したか否かを判定できるように構成される。以下、アブレーションが発生したか否かの判定に寄与する構成を中心に、本実施形態に係るレーザ加工装置2について説明する。
【0057】
本実施形態に係るレーザ加工装置2は、さらに、被加工物1から発生する弾性波を検出して弾性波信号を生成する弾性波検出ユニットを備える。弾性波検出ユニットは、例えば、被加工物1を保持する保持ユニット28の内部、または、近傍に配設される。
【0058】
レーザビーム56が被加工物1に照射されたとき、被加工物1で生じる現象次第で被加工物1に様々な弾性波が生じる。この弾性波を解析することにより、被加工物1で生じた現象に関して情報を得られる。
【0059】
より詳細には、被加工物1にレーザビーム56が照射された結果としてアブレーションが生じた場合、特定の周波数帯域に有意な成分を有する弾性波が被加工物1から発生する。これは、アブレーションにより被加工物1が部分的に溶融して除去されたときの衝撃により、応力や歪み等が特定の周波数(振動数)に有意な成分を有する波として被加工物1の内部に伝播することに起因すると考えられる。
【0060】
そのため、被加工物1にアブレーションが生じたことを示す特定の周波数帯域に有意な強度をもつ弾性波が被加工物1から観測された場合、被加工物1にアブレーションが発生したと判断できる。ここでは、アブレーションに帰属される弾性波の周波数帯域を特定周波数帯域と呼ぶこととする。すなわち、被加工物1から観測される弾性波が特定周波数帯域に有意な強度を有する場合、被加工物1にアブレーションが生じたと判定できる。
【0061】
なお、この特定周波数帯域は、様々な要素で変化するものと考えられる。例えば、被加工物1の材質、厚み、大きさ、純度、温度等の要素で変化すると考えられる。また、レーザビーム56の照射条件により変化するものと考えられる。ただし、いずれの要素が特定周波数帯域を決定するかは必ずしも明確にはなっておらず、ここに挙げられた要素に依存して特定周波数帯域が変動しなくてもよく、その他の要素により特定周波数帯域が変動してもよい。
【0062】
図3には、弾性波検出ユニットの一つの設置例として、保持ユニット28aの外側に設置された弾性波検出ユニット50aが模式的に示されている。この例では、保持ユニット28aに吸引保持された被加工物1の外周部は保持ユニット28aの保持面29aから外部にはみ出しており、弾性波検出ユニット50aは被加工物1のはみ出した外周部に下面(裏面1b)側から直接接触する。
【0063】
弾性波検出ユニット50aは、保持ユニット28aの外側に設けられた支持柱48に支持されており、上面の高さ位置は、保持ユニット28aの保持面29aの高さ位置と概ね一致している。換言すると、弾性波検出ユニット50aは、保持ユニット28aに被加工物1が吸引保持されたときに被加工物1の外周部に接触するようにレーザ加工装置2に配設されている。
【0064】
支持柱48は、例えば、コイルスプリングやエアシリンダ等のクッション部材に支持されてもよい。この場合、保持ユニット28aの保持面29a及び弾性波検出ユニット50aの上面に僅かな高さの差がある場合においても、弾性波検出ユニット50aが被加工物1の外周部に接触するときに弾性波検出ユニット50aの高さが変化できる。
【0065】
これにより、保持ユニット28aで保持される被加工物1に不要な外力がかかることがなく、被加工物1に変形等が生じることがない。また、被加工物1の外周部に弾性波検出ユニット50aがより確実に接触できる。ただし、支持柱48はクッション部材に支持されなくてもよい。
【0066】
弾性波検出ユニット50aは、例えば、AE(Acoustic Emission)センサを含む。AEセンサは、被測定物が変形する際あるいは破壊される際に内部に蓄えていた弾性エネルギーを放出して発生させる弾性波を検出するセンサである。AEセンサは、被加工物1から発生し被加工物1の内側及び外側を伝播する弾性波を検出できる。AEセンサが組み込まれた弾性波検出ユニット50aを利用すると、被加工物1から発出され伝播される弾性波(振動)を検出することができる。
【0067】
弾性波検出ユニット50aのAEセンサには、例えば、同軸ケーブル等で構成される配線52が接続される。配線52は、レーザ加工装置2のコントローラ(制御ユニット)40に電気的に接続されている。
【0068】
例えば、AEセンサの内部には、振動子が備えられている。そして、同軸ケーブルの内部導体と、外部導体と、の一方は、振動子のマイナス電極に接続されており、他方は、振動子のプラス電極に接続されている。振動子は、セラミックス等でなる絶縁材に接している。
【0069】
AEセンサで検出対象となる弾性波(振動)は、絶縁材を介して振動子に伝播する。振動子に到達した弾性波は、弾性波に応じた電圧の電気信号である弾性波信号に振動子により変換される。弾性波信号は、同軸ケーブルにより構成される配線52を通じてコントローラ40に伝達される。ただし、弾性波検出ユニット50aの構成はこれに限定されない。
【0070】
次に、弾性波検出ユニットの別の設置例及び構成例について説明する。図4は、一例に係る保持ユニット28bを分解して模式的に示す断面図である。保持ユニット28bには、弾性波検出ユニット50bが組み込まれている。
【0071】
図4に示す保持ユニット28bは、保持ユニット28bの各構成要素を支持するテーブルベース58と、テーブルベース58に支持される枠体64bと、枠体64bに収容され枠体64bの上面に露出する多孔質部材66bと、を備える。テーブルベース58の上部外側には、被加工物1を含むフレームユニット13のリングフレーム11を把持する複数のクランプ30bが配設されている。
【0072】
テーブルベース58の内部には、吸引路60が形成されている。吸引路60の一端はテーブルベース58の上面に達しており、吸引路60の他端には図示しない吸引源に接続されている。テーブルベース58の上には、枠体64bが載せられ固定される。枠体64bの上面には多孔質部材66bを収容する収容凹部が形成されており、枠体64bの内部には、一端がこの収容凹部に通じており、他端が枠体64bの下面に通じている吸引路68bが形成されている。
【0073】
枠体64bは、吸引路68bがテーブルベース58の吸引路60に接続されるようにテーブルベース58の上面に固定される。テーブルベース58の上面には、吸引路60が接続された凹部が形成されており、枠体64bの下面には、吸引路68bが接続された凹部が形成されている。この二つの凹部に筒状のジョイント部62が収容されつつテーブルベース58に枠体64bが載せられることで、テーブルベース58に枠体64bが固定される。
【0074】
枠体64bに収容された多孔質部材66bの上面は、保持ユニット28bの吸引面29bとなる。この吸引面29bに被加工物1を載せ、テーブルベース58の吸引路60に接続された吸引源を作動させると、吸引路60と、吸引路68bと、多孔質部材66bと、を介して被加工物1に負圧が作用し、被加工物1が保持ユニット28bに吸引保持される。
【0075】
図4に示す例では、保持ユニット28bのテーブルベース58の内部に弾性波検出ユニット50bの一部構成が配設される。保持ユニット28bに吸引保持された被加工物1にレーザビーム56が照射されたとき、被加工物1から発生する弾性波は、多孔質部材66b、枠体64b、テーブルベース58等を伝播して、弾性波検出ユニット50bに到達する。そして、弾性波検出ユニット50bは、この弾性波を検出して弾性波信号を生成する。
【0076】
弾性波検出ユニット50bは、例えば、保持ユニット28bのテーブルベース58に配設されたAEセンサ49と、配線55を介してAEセンサ49に接続された増幅器51と、増幅器51に接続されたオシロスコープ53と、を備える。AEセンサ49に弾性波が到達したとき、AEセンサ49が弾性波を検出し、増幅器51が弾性波を増幅し、オシロスコープ53が弾性波に基づいた電気信号を生成する。弾性波検出ユニット50bは、生成された電気信号を弾性波信号としてコントローラ40に送信する。
【0077】
次に、弾性波検出ユニットのさらに別の設置例について説明する。図5(A)は、他の一例に係る保持ユニット28cを構成する枠体64c及び多孔質部材66c等を模式的に示す断面図である。枠体64cの内部には吸引路68cが形成されており、多孔質部材66cの上面が保持ユニット28cの保持面29cとなる。図5(A)では、枠体64cを支持するテーブルベースやクランプ等が省略されている。保持ユニット28cでは、枠体64cの内部に弾性波検出ユニット50cの一部の構成、または、全ての構成が組み込まれている。
【0078】
保持面29cに被加工物1を載せ、保持ユニット28cで被加工物1を吸引保持し、被加工物1にレーザビーム56を照射して被加工物1をレーザ加工する際、被加工物1で発生する弾性波が弾性波検出ユニット50cで検出される。このとき、弾性波は、多孔質部材66c及び枠体64cを伝播して弾性波検出ユニット50cに到達する。弾性波検出ユニット50cは、こうして被加工物1から発生する弾性波を検出して弾性波信号を生成し、この弾性波信号をコントローラ40に送信する。
【0079】
次に、弾性波検出ユニットのさらに別の設置例について説明する。図5(B)は、さらに他の一例に係る保持ユニット28dを構成する枠体64d及び多孔質部材66d等を模式的に示す断面図である。枠体64dの内部には吸引路68dが形成されており、多孔質部材66dの上面が保持ユニット28dの保持面29dとなる。図5(B)では、枠体64dを支持するテーブルベースやクランプ等が省略されている。保持ユニット28dでは、多孔質部材66dに弾性波検出ユニット50dが埋め込まれている。
【0080】
保持面29dに被加工物1を載せ、保持ユニット28dで被加工物1を吸引保持し、被加工物1にレーザビーム56を照射して被加工物1をレーザ加工する際、被加工物1で発生する弾性波が弾性波検出ユニット50dで検出される。このとき、弾性波は、多孔質部材66dを伝播して弾性波検出ユニット50dに到達する。弾性波検出ユニット50dは、こうして被加工物1から発生する弾性波を検出して弾性波信号を生成し、この弾性波信号をコントローラ40に送信する。
【0081】
いずれにせよ、本実施形態に係るレーザ加工装置2では、弾性波検出ユニット50a,50b,50c,50dは、被加工物1にレーザビーム56が照射されたときに被加工物1から発生する弾性波を検出して弾性波信号を生成する。そして、弾性波信号をコントローラ40に送信する。
【0082】
コントローラ40は、図2に示すように、判定部44を有する。判定部44は、レーザ照射ユニット34による被加工物1のレーザ加工が実施されているとき、弾性波検出ユニット50a,50b,50c,50dによって生成された弾性波信号に基づいて被加工物1でアブレーションが発生したか否かを判定する。
【0083】
判定部44の動作の一例について説明する。例えば、判定部44は、弾性波検出ユニット50a,50b,50c,50dによって生成された弾性波信号に含まれる弾性波の波形をフーリエ変換して各周波数における弾性波の大きさを算出する。すなわち、判定部44は、弾性波の周波数分布を算出する。そして、判定部44は、予め設定された特定周波数帯域における弾性波の大きさ(強度)が所定の大きさ(閾値)を超えた場合に、被加工物1でアブレーションが発生したと判定する。
【0084】
ここで、アブレーションに帰属される周波数帯域(特定周波数帯域)は、例えば、特定の数値範囲としてコントローラ40の記憶部42に予め記憶される。また、アブレーションが発生したと判定できる特定周波数帯域における弾性波の所定の大きさ(閾値)も、コントローラ40の記憶部42に予め記憶される。判定部44は、判定を実施する際に判定に使用される特定周波数帯域と、閾値と、を記憶部42から読み出して判定を実施する。
【0085】
なお、判定部44による判定に使用される特定周波数帯域及び閾値は、レーザ加工装置2で実施される実験により決定され記憶部42に登録されるとよい。レーザ加工装置2で加工されることが予定された被加工物1と同種の試料を使用して、試料にレーザビーム56を照射してアブレーションを発生させ、このときに試料に生じる弾性波を弾性波検出ユニットで検出する。そして、弾性波検出ユニットが生成する弾性波信号に含まれる弾性波の波形をフーリエ変換し、弾性波の周波数分布を取得する。
【0086】
また、試料に対してアブレーションが発生しない条件でレーザビーム56を照射して、または、レーザビーム56を照射せずに、試料に生じる弾性波を弾性波検出ユニットで検出する。そして、弾性波検出ユニットが生成する弾性波信号に含まれる波形をフーリエ変換し、弾性波の周波数分布を取得する。その上で、アブレーションの発生の有無による弾性波の周波数分布の差を評価し、アブレーションに帰属される弾性波の周波数帯域(特定周波数帯域)と、アブレーションが発生したと判定できる弾性波の大きさ(閾値)と、を決定する。
【0087】
ただし、記憶部42に登録される特定周波数帯域及び閾値の決定方法はこれに限定されない。被加工物1の種別や被加工物1に実施されるレーザ加工の条件に対する特定周波数帯域及び判定に使用される閾値について適切な範囲または値が知られている場合、知られた範囲または値が特定周波数帯域及び閾値として記憶部42に登録されてもよい。このとき、被加工物1と同種の試料を用いた実験等がレーザ加工装置2で実施されなくてもよい。
【0088】
いずれにせよ、判定部44は、予め設定された特定周波数帯域における弾性波の大きさが所定の大きさ(閾値)を超えた場合に、被加工物1でアブレーションが発生したと判定する。
【0089】
なお、判定部44が被加工物1でアブレーションが発生したと判定する場合、このままレーザ加工装置2におけるレーザ加工を継続すると、次々にアブレーションが発生して加工不良が生じ続けることになる。そこで、レーザ加工装置2のコントローラ40は、実施の途上にある被加工物1のレーザ加工を停止させるようにレーザ加工装置2の各構成要素を制御することが好ましい。
【0090】
コントローラ40は、判定部44が被加工物1でアブレーションが発生したと判定した場合にレーザ照射ユニット34による被加工物1のレーザ加工を停止する停止制御部46(図2参照)をさらに有することが好ましい。停止制御部46は、判定部44が被加工物1でアブレーションが発生したと判定したときにレーザ加工を停止させる機能とともに、被加工物1にアブレーションが発生したことをレーザ加工装置2の使用者等に報知する機能を有してもよい。
【0091】
例えば、レーザ加工装置2は、警報音を発することのできるブザーまたはスピーカーを備える。また、例えば、レーザ加工装置2は、警告画面を表示できるディスプレイを外装に備える。また、例えば、レーザ加工装置2は、警告を意味する光を発生できる警報ランプを備える。コントローラ40(停止制御部46)は、これらのブザー、スピーカー、ディスプレイ、警報ランプ等のいずれかを警報ユニットとして使用し、レーザ加工装置2の使用者等に警報を報知してもよい。ただし、警報ユニットはこれらに限定されない。
【0092】
以上に説明する通り、本実施形態に係るレーザ加工装置2は、被加工物1のレーザ加工が実施されているときに被加工物1から発生する弾性波を検出することでアブレーションが発生したか否かを判定できる。そのため、レーザ加工中にアブレーションの発生が迅速に検知され、問題への迅速な対処が可能となる。
【0093】
次に、被加工物1と同種の試料を用いてレーザ加工装置2のコントローラ40の記憶部42に特定周波数帯域等を登録する手順について説明する。レーザ加工装置2に記憶部42に特定周波数帯域等が登録されると、レーザ加工装置2は、レーザ加工時に被加工物1にアブレーションが生じたか否かを判定できるようになる。換言すると、被加工物1にアブレーションが生じたか否かを判定できる機能をレーザ加工装置2が具備する。すなわち、下記に説明する手順は、当該機能を具備するレーザ加工装置2の製造方法でもある。
【0094】
以下、本実施形態に係るレーザ加工装置2の製造方法として、レーザ加工装置2のコントローラ40の記憶部42に特定周波数帯域等を登録する手順を説明する。図11は、レーザ加工装置2の製造方法の各ステップの流れを示すフローチャートである。
【0095】
本実施形態に係るレーザ加工装置2の製造方法では、まず、準備ステップS10を実施する。準備ステップS10では、被加工物1と同種の試料を用いたレーザ加工装置2における実験の準備をする。
【0096】
すなわち、保持ユニット28と、レーザ照射ユニット34と、被加工物1から発生する弾性波を検出して弾性波信号を生成する弾性波検出ユニット50a,50b,50c,50dと、コントローラ40と、を準備する。換言すると、準備ステップS10では、コントローラ40の記憶部42に特定周波数帯域等が登録されていないレーザ加工装置2を準備する。
【0097】
本実施形態に係るレーザ加工装置2の製造方法では、次に、被加工物1と同種の試料を保持ユニット28で保持する保持ステップS20を実施する。保持ステップS20で保持ユニット28に保持させる試料は、レーザ加工装置2で加工が予定された被加工物1と同種のものとされる。例えば、試料の仕様は、被加工物1の仕様と同一であることが好ましい。例えば、レーザ加工装置2で複数の被加工物1のレーザ加工が計画された場合、そのうち一つの被加工物1を試料として利用して以下のステップが実施されてもよい。
【0098】
なお、試料が被加工物1と同種であるとは、試料が被加工物1と仕様が完全に同一であることを必ずしも意味しない。すなわち、被加工物1にアブレーションが生じたか否かの判定に使用可能な弾性波の周波数帯域等を導出するための実験が可能な範囲で試料の仕様が被加工物1の仕様と相違していてもよい。換言すると、アブレーションが生じた際に発生する弾性波の周波数帯域が被加工物1と同じである試料が使用されるとよい。
【0099】
本実施形態に係るレーザ加工装置2の製造方法では、保持ステップS20の後、レーザビーム照射ステップS40が実施される。レーザビーム照射ステップS40では、レーザ照射ユニット34により試料にレーザビーム56を集光してアブレーションを発生させながら弾性波検出ユニット50a,50b,50c,50dで試料から発生する弾性波を検出して弾性波信号を生成する。
【0100】
特に、レーザビーム照射ステップS40では、レーザ加工装置2で被加工物1がレーザ加工される際に被加工物1にレーザビーム56が照射される際と同様の条件で試料にレーザビーム56が照射されることが好ましい。ただし、試料に照射されるレーザビーム56の照射条件は、被加工物1に照射されるレーザビーム56の照射条件と完全に同一である必要はない。
【0101】
例えば、レーザビーム照射ステップS40では、レーザビーム56の集光点54の高さが試料の上面の高さ位置に設定されてレーザビーム56が試料に集光されるとよい。換言すると、試料でアブレーションが生じる条件でレーザビーム56が試料に集光されるとよい。
【0102】
レーザビーム照射ステップS40の後、特定周波数帯域導出ステップS60が実施される。特定周波数帯域導出ステップS60では、レーザビーム照射ステップS40において生成された弾性波信号に含まれる波形をフーリエ変換して各周波数帯域における弾性波の大きさ(弾性波の周波数分布)を算出する。そして、アブレーションに帰属される弾性波の周波数帯域を特定周波数帯域として導出する。
【0103】
具体的には、試料にアブレーションが発生した際に検出された弾性波の周波数分布を算出し、この周波数分布から有意な強度を有する周波数帯域を探す。そして、弾性波が有意な強度を有する周波数帯域の中から、特定周波数帯域が選定される。特に、試料にアブレーションが発生していない際に検出される弾性波の周波数分布を算出して参照することにより、アブレーションに無関係な弾性波の周波数帯域を特定周波数帯域の候補から除外できる。
【0104】
例えば、本実施形態に係るレーザ加工装置の製造方法では、保持ステップS20の後、特定周波数帯域導出ステップS60の前に、参照用弾性波信号生成ステップS30が実施されることが好ましい。参照用弾性波信号生成ステップS30では、アブレーションが生じていないときに弾性波検出ユニット50a,50b,50c,50dで試料から発生する弾性波を検出して参照用弾性波信号を生成する。
【0105】
なお、参照用弾性波信号生成ステップS30では、例えば、アブレーションが発生しない条件でレーザビーム56が試料に集光されてもよい。例えば、試料に分割の基点となる改質領域が形成される条件でレーザビーム56が試料に集光されるときに、弾性波検出ユニット50a,50b,50c,50dで試料から発生する弾性波を検出して参照用弾性波信号を生成してもよい。
【0106】
このとき、レーザビーム56の集光点54は、試料の表面から離れた試料の内部の所定の高さ位置に位置付けられる。この所定の高さ位置は、レーザ加工装置2において被加工物1に改質領域が形成される際にレーザビーム56の集光点54が位置付けられる高さ位置であることが好ましい。
【0107】
または、参照用弾性波信号生成ステップS30では、試料にレーザビーム56が集光されなくてもよい。すなわち、レーザビーム56が照射されていないときに弾性波検出ユニット50a,50b,50c,50dで試料から発生する弾性波を検出して参照用弾性波信号を生成してもよい。
【0108】
いずれにせよ、参照用弾性波信号が生成された場合、特定周波数帯域導出ステップS60では、特定周波数帯域を導出するとき参照用弾性波信号に含まれる波形をフーリエ変換して各周波数帯域における弾性波の大きさ(強度)を算出して参照する。例えば、参照用弾性波信号に含まれる弾性波の周波数分布において、有意な強度を有する周波数帯域を特定周波数帯域の候補から除外する。
【0109】
特に、試料にアブレーションが発生しているときに検出される弾性波の周波数分布と、試料にアブレーションが発生していないときに検出される弾性波の周波数分布と、で強度に違いのある周波数帯域が特定周波数帯域として導出されることが好ましい。この2つの弾性波の周波数分布の差分が算出されると、特定周波数帯域が容易に導出される。このように、参照用弾性波信号生成ステップS30が実施される場合、特定周波数帯域導出ステップS60では、アブレーションが発生しないときに試料から検出される弾性波を参照して特定周波数帯域を導出できる。
【0110】
なお、本実施形態に係るレーザ加工装置の製造方法は、レーザビーム照射ステップS40の後、特定周波数帯域導出ステップS60の前に、試料の外観からアブレーションが生じたことを確認する確認ステップS50をさらに備えてもよい。レーザビーム照射ステップS40では、試料にアブレーションが発生する条件でレーザビーム56が照射される。しかしながら、何らかの原因により試料にアブレーションが生じないことも考えられる。そこで、確認ステップS50では、試料にアブレーションが生じたことが確認される。
【0111】
例えば、確認ステップS50では、レーザ加工装置2の撮像ユニット36で保持ユニット28に保持された試料の上面を撮像する。特に、レーザビーム照射ステップS40でレーザビーム56が照射された位置で試料の上面が撮像される。試料の上面でアブレーションが生じていた場合、得られる撮像画像にはアブレーションの痕跡となる加工痕が写る。そのため、撮像画像にこの加工痕が写っていれば、試料でアブレーションが生じたことが確認される。
【0112】
撮像画像に基づくこの確認作業は、例えば、レーザ加工装置2の使用者等により実施されてもよい。例えば、レーザ加工装置2がディスプレイを外装に備える場合、このディスプレイに撮像画像が映される。そして、レーザ加工装置2の使用者等は、ディスプレイに映された撮像画像を見て加工痕の有無を確認することでアブレーションが生じたことを確認する。
【0113】
また、撮像画像に基づくこの確認作業は、例えば、レーザ加工装置2のコントローラ40の機能により実施されてもよい。例えば、コントローラ40は撮像画像に対して所定の画像処理を実施して加工痕を検出する。例えば、試料にレーザビーム56が照射される前に試料の上面を撮像して加工痕が写っていない参照用撮像画像を取得する。そして、撮像画像に対して参照用撮像画像との差分を算出する画像処理を実施すると、撮像画像に写る加工痕が強調される。
【0114】
本実施形態に係るレーザ加工装置の製造方法では、特定周波数帯域導出ステップS60の後、登録ステップS70を実施する。登録ステップS70では、特定周波数帯域導出ステップS60で導出された特定周波数帯域をコントローラ40(記憶部42)に登録する。これにより、保持ユニット28に保持された被加工物1にレーザ照射ユニット34からレーザビーム56を照射したときにアブレーションが発生したか否かを登録された特定周波数帯域を利用して判定する機能をレーザ加工装置2(コントローラ40)が具備する。
【0115】
以上に説明した各ステップを実施すると、被加工物1のレーザ加工中にアブレーションが発生しているか否かを判定可能なレーザ加工装置2が製造される。このレーザ加工装置2では、被加工物1のレーザ加工中にアブレーションが発生した場合、迅速にアブレーションが発生したことが検知される。そのため、レーザ加工装置2に問題が生じたときにレーザ加工を直ちに停止する等の対応が可能となるため、被加工物1等に生じる損害を低減することができ、不良品のチップの発生を抑制できる。
【0116】
なお、上記実施形態では、レーザ加工装置2で被加工物1をレーザ加工することにより分割の起点となる変質領域を被加工物1に形成するレーザ加工において、アブレーションが発生したか否かを判定する構成について説明した。しかしながら、本発明の一態様に係るレーザ加工装置2はこれに限定されない。
【0117】
例えば、レーザ加工装置2では、被加工物1を分割予定ライン3に沿って分割する分断溝をアブレーションにより被加工物1に形成するレーザ加工が実施されもよい。この場合においても、レーザ加工中に被加工物1で発生する弾性波を検出することによりアブレーションが発生したか否かを判定できる。
【0118】
そして、被加工物1でアブレーションが発生していると判定される場合、レーザ加工が予定通りに進行していることが確認される。その一方で、被加工物1でアブレーションが発生していないと判定される場合、レーザ加工がむしろ予定通りに進行していないことが確認される。この場合、レーザ加工を停止することにより、被加工物1等に生じる損害を低減することができ、不良品のチップの発生を抑制できる。
【0119】
その他、上述の実施形態及び変形例に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。上述の実施形態及び変形例を、適宜組み合わせてもよい。
【実施例0120】
以下では、本発明の一態様に係るレーザ加工装置2において被加工物1から発生した弾性波を観測した実施例について説明する。最初に、本実施例の概要について説明する。まず、被加工物1として厚さ625μmのSiCウェーハを準備し、このSiCウェーハをレーザ加工装置2の保持ユニット28に載せ、保持ユニット28でSiCウェーハを吸引保持した。
【0121】
そして、レーザ照射ユニット34からSiCウェーハに複数の条件でレーザビーム56を照射し、または、レーザビーム56を照射せず、SiCウェーハで生じた弾性波を弾性波検出ユニットで検出した。SiCウェーハにレーザビーム56を照射する場合、照射条件は次の通りである。
波長 :1064nm
パルス幅 :4nsec
出力 :1W
周波数 :2kHz
【0122】
図6(A)、図7(A)、図8(A)、図9(A)、及び、図10(A)は、検出された各弾性波の波形を示している。さらに、検出された各弾性波の波形をフーリエ変換して、弾性波の周波数分布を算出した。図6(B)、図7(B)、図8(B)、図9(B)、図10(B)は、各弾性波の周波数分布を示している。そして、得られた各弾性波の周波数分布から、アブレーションに帰属される特定周波数帯域を導出した。以下、各弾性波の波形と、各弾性波の周波数分布と、について個別に説明する。
【0123】
最初に、テープ9を介さずSiCウェーハを直接的に保持ユニット28で吸引保持し、SiCウェーハにレーザビームを照射せず、SiCウェーハから発生する弾性波を弾性波検出ユニットで検出した。図6(A)は、得られた弾性波の波形70aを表すグラフである。このグラフにおいて、縦軸は弾性波の強度、横軸は時間変化を表す。
【0124】
そして、この弾性波の波形70aをフーリエ変換して、弾性波の周波数分布を算出した。図6(B)は、算出された弾性波の周波数分布72aを表すグラフである。このグラフにおいて、縦軸は弾性波の強度、横軸は周波数を表す。図6(B)に示された周波数分布72aにより、弾性波が周波数帯域74aに有意な強度を有することが確認される。弾性波のこの周波数帯域74aの成分は、環境起因の成分であるといえる。
【0125】
次に、テープ9を介さずSiCウェーハを直接的に保持ユニット28で吸引保持し、集光点54をSiCウェーハの上面に位置付けてレーザビーム56をSiCウェーハに照射し、このときにSiCウェーハから発生する弾性波を弾性波検出ユニットで検出した。このとき、比較的大きな強度でアブレーションが発生したことがSiCウェーハの外観から確認された。
【0126】
図7(A)は、得られた弾性波の波形70bを表すグラフである。このグラフにおいて、縦軸は弾性波の強度、横軸は時間変化を表す。そして、この弾性波の波形70bをフーリエ変換して、弾性波の周波数分布を算出した。
【0127】
図7(B)は、算出された弾性波の周波数分布72bを表すグラフである。このグラフにおいて、縦軸は弾性波の強度、横軸は周波数を表す。図7(B)に示された周波数分布72bにより、弾性波が周波数帯域74aのみならず、新たに周波数帯域74b(130kHz付近)及び周波数帯域74c(240kHz付近)に有意な強度を有することが確認された。
【0128】
弾性波の周波数帯域74aの成分は環境起因の成分であることが周波数分布72a(図6(B)参照)により確認されている。その一方で、弾性波の周波数帯域74b,74cの成分は、SiCウェーハにアブレーションが発生したことに伴って弾性波の周波数分布72bに現れた。そのため、これらの周波数帯域74b,74cは、アブレーションに帰属される弾性波の周波数帯域である特定周波数帯域であるといえる。
【0129】
次に、テープ9を介さずSiCウェーハを直接的に保持ユニット28で吸引保持し、集光点54をSiCウェーハの上面から30μm低い高さ位置に位置付けてレーザビーム56をSiCウェーハに照射した。そして、このときにSiCウェーハから発生する弾性波を弾性波検出ユニットで検出した。このとき、比較的小さな強度でアブレーションが発生したことがSiCウェーハの外観から確認された。
【0130】
図8(A)は、得られた弾性波の波形70cを表すグラフである。このグラフにおいて、縦軸は弾性波の強度、横軸は時間変化を表す。そして、この弾性波の波形70cをフーリエ変換して、弾性波の周波数分布を算出した。
【0131】
図8(B)は、算出された弾性波の周波数分布72cを表すグラフである。このグラフにおいて、縦軸は弾性波の強度、横軸は周波数を表す。図8(B)に示された周波数分布72cにより、弾性波が周波数帯域74aに有意な強度を有していることに加え、周波数帯域74b(130kHz付近)及び周波数帯域74c(240kHz付近)にも比較的小さな強度を有することが確認された。
【0132】
図7(B)に示された周波数分布72bと、図8(B)に示された周波数分布72cと、を比較すると、弾性波の周波数帯域74b,74cの成分は、アブレーションの強度の低下に伴って強度が低下したことが理解される。したがって、アブレーションに帰属される弾性波の周波数帯域である特定周波数帯域が、これらの周波数帯域74b,74cであることが裏付けられた。
【0133】
次に、テープ9を介さずSiCウェーハを直接的に保持ユニット28で吸引保持し、集光点54をSiCウェーハの上面から50μm低い高さ位置に位置付けてレーザビーム56をSiCウェーハに照射した。そして、このときにSiCウェーハから発生する弾性波を弾性波検出ユニットで検出した。このときにアブレーションが発生していないことがSiCウェーハの外観から確認された。
【0134】
図9(A)は、得られた弾性波の波形70dを表すグラフである。このグラフにおいて、縦軸は弾性波の強度、横軸は時間変化を表す。そして、この弾性波の波形70dをフーリエ変換して、弾性波の周波数分布を算出した。
【0135】
図9(B)は、算出された弾性波の周波数分布72dを表すグラフである。このグラフにおいて、縦軸は弾性波の強度、横軸は周波数を表す。図9(B)に示された周波数分布72dにより、弾性波が周波数帯域74aに有意な強度を有していることが確認された一方で、周波数帯域74b(130kHz付近)及び周波数帯域74c(240kHz付近)に弾性波が有意な強度を有しないことが確認された。
【0136】
図7(B)に示された周波数分布72bと、図9(B)に示された周波数分布72dと、を比較すると、弾性波の周波数帯域74b,74cの成分は、SiCウェーハにアブレーションが発生したときにだけ有意な強度を有することが理解される。アブレーションに帰属される弾性波の周波数帯域である特定周波数帯域が、これらの周波数帯域74b,74cであることがさらに裏付けられた。
【0137】
次に、テープ9を介してSiCウェーハを保持ユニット28で吸引保持し、集光点54をSiCウェーハの上面に位置付けてレーザビーム56をSiCウェーハに照射し、このときにSiCウェーハから発生する弾性波を弾性波検出ユニットで検出した。このとき、比較的大きな強度でアブレーションが発生したことがSiCウェーハの外観から確認された。
【0138】
図10(A)は、得られた弾性波の波形70eを表すグラフである。このグラフにおいて、縦軸は弾性波の強度、横軸は時間変化を表す。そして、この弾性波の波形70eをフーリエ変換して、弾性波の周波数分布を算出した。
【0139】
図10(B)は、算出された弾性波の周波数分布72eを表すグラフである。このグラフにおいて、縦軸は弾性波の強度、横軸は周波数を表す。図10(B)に示された周波数分布72eにおいても、弾性波が周波数帯域74aのみならず、周波数帯域74b(130kHz付近)及び周波数帯域74c(240kHz付近)に有意な強度を有することが確認された。
【0140】
これにより、テープ9を介してSiCウェーハで生じた弾性波を弾性波検出ユニットで検出しても、アブレーションに帰属される弾性波の周波数帯域(特定周波数帯域)において有意な強度を有する弾性波が検出されることが確認された。そして、テープ9の有無により特定周波数帯域が変化しないことが確認された。
【0141】
以上に説明する実施例により、被加工物1(SiCウェーハ)から発生する弾性波に基づいて、被加工物1でアブレーションが発生したか否かを判定できることが確認された。また、アブレーションに帰属される弾性波の周波数帯域(特定周波数帯域)が存在することが確認された。そして、特定周波数帯域は、テープ9が被加工物1に貼着されているか否かにより変化しないことが確認された。
【符号の説明】
【0142】
1 被加工物
1a 表面
1b 裏面
3 分割予定ライン
5 デバイス
9 テープ
11 リングフレーム
11a 開口部
13フレームユニット
2 レーザ加工装置
4 基台
4a 処理室
6a カセット載置台
8 カセット
10 搬送ユニット
12 搬送レール
14 X軸ガイドレール
16 X軸移動プレート
18 X軸ボールねじ
20 X軸パルスモータ
22 Y軸ガイドレール
24 Y軸移動プレート
26 Y軸ボールねじ
28,28a,28b,28c,28d 保持ユニット
29,29a,29b,29c,29d 保持面
30,30b クランプ
31 立設部
32 支持部
34レーザ照射ユニット
34a 加工ヘッド
36 撮像ユニット
38 洗浄ユニット
40 コントローラ
42 記憶部
44 判定部
46 停止制御部
48 支持柱
49 AEセンサ
50a,50b,50c,50d 弾性波検出ユニット
51 増幅器
52,55 配線
53 オシロスコープ
54 集光点
56 レーザビーム
58 テーブルベース
60 吸引路
62 ジョイント部
64b,64c,64d 枠体
66b,66c,66d 多孔質部材
68b,68c,68d 吸引路
70a,70b,70c,70d,70e 波形
72a,72b,72c,72d,72e 周波数分布
74a,74b,74c 周波数帯域
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11