(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017138
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】複合銅ナノ粒子及び複合銅ナノ粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 1/00 20220101AFI20240201BHJP
B22F 1/052 20220101ALI20240201BHJP
C09C 3/08 20060101ALI20240201BHJP
C09C 3/06 20060101ALI20240201BHJP
B22F 1/102 20220101ALI20240201BHJP
【FI】
B22F1/00 L
B22F1/052
C09C3/08
C09C3/06
B22F1/102
【審査請求】有
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119587
(22)【出願日】2022-07-27
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2023-02-08
(71)【出願人】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山脇 直也
(72)【発明者】
【氏名】高田 克則
(72)【発明者】
【氏名】五十嵐 弘
【テーマコード(参考)】
4J037
4K018
【Fターム(参考)】
4J037AA04
4J037CA09
4J037CB23
4J037DD05
4J037FF23
4K018BA02
4K018BB04
4K018BC29
4K018KA33
(57)【要約】
【課題】有機溶媒への分散性が高く、平滑な導電膜の成膜が可能な複合銅ナノ粒子の提供。
【解決手段】銅ナノ粒子の表面がシランカップリング剤で改質された複合銅ナノ粒子であって、前記銅ナノ粒子は、表面の少なくとも一部に酸化銅を含む皮膜を有し、前記複合銅ナノ粒子における前記シランカップリング剤に起因する炭素の質量濃度が前記複合銅ナノ粒子の全質量に対して0.1~1.2質量%である、又は前記複合銅ナノ粒子の表面における前記シランカップリング剤に由来する表面基が前記複合銅ナノ粒子の表面積1nm2当たり1.0個以上13.0個以下である、複合銅ナノ粒子及び複合銅ナノ粒子の製造方法。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅ナノ粒子の表面がシランカップリング剤で改質された複合銅ナノ粒子であって、
前記銅ナノ粒子は、表面の少なくとも一部に酸化銅を含む皮膜を有し、
前記複合銅ナノ粒子における前記シランカップリング剤に起因する質量炭素濃度が前記複合銅ナノ粒子の全質量に対して0.1~1.2質量%である、複合銅ナノ粒子。
【請求項2】
前記複合銅ナノ粒子における前記シランカップリング剤に起因する質量炭素濃度が前記複合銅ナノ粒子の全質量に対して0.2~0.5質量%である、請求項1に記載の複合銅ナノ粒子。
【請求項3】
前記複合銅ナノ粒子における前記銅ナノ粒子に起因する質量炭素濃度が前記複合銅ナノ粒子の全質量に対して0.3質量%以下である、請求項1又は2に記載の複合銅ナノ粒子。
【請求項4】
銅ナノ粒子の表面がシランカップリング剤で改質された複合銅ナノ粒子であって、
前記銅ナノ粒子は、表面の少なくとも一部に酸化銅を含む皮膜を有し、
前記複合銅ナノ粒子の表面における前記シランカップリング剤に由来する表面基が前記複合銅ナノ粒子の表面積1nm2当たり1.0個以上13.0個以下である、複合銅ナノ粒子。
【請求項5】
前記シランカップリング剤がアルキルシランである、請求項1又は4に記載の複合銅ナノ粒子。
【請求項6】
前記シランカップリング剤が炭素数3以上10以下のアルキル鎖を有するアルキルシランである、請求項5に記載の複合銅ナノ粒子。
【請求項7】
前記シランカップリング剤がn-オクチルトリメトキシシランである、請求項6に記載の複合銅ナノ粒子。
【請求項8】
前記銅ナノ粒子の平均粒子径が200nm以下である、請求項1又は4に記載の複合銅ナノ粒子。
【請求項9】
表面の少なくとも一部に酸化銅を含む皮膜を有する銅ナノ粒子と、有機溶媒と、を準備し、
前記銅ナノ粒子と前記有機溶媒との混合物を調製し、
前記混合物を加圧して細菅流路に送り込み、前記混合物に衝突、せん断力を掛けて分散させて分散液を得、
前記分散液にシランカップリング剤を添加する、
銅ナノ粒子の表面がシランカップリング剤で改質された複合銅ナノ粒子を製造する方法であって、
前記シランカップリング剤の添加量が、前記銅ナノ粒子の表面への単分子膜形成相当量の0.6~3.3倍である、複合銅ナノ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合銅ナノ粒子及び複合銅ナノ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
各種電子部品等の接合や配線形成の際に、銅ナノ粒子を主成分とするインク又はペーストを適用するとき、銅ナノ粒子は粒子径の小ささと酸化しやすさが原因で凝集粒子が発生しやすい。特に、非水性溶媒中では分散を維持することが難しく、インク又はペーストにて薄膜を形成した時に凹凸が発生しやすく平滑度が低いという問題がある。このような問題に対して、シランカップリング処理により分散性を向上した銅ナノ粒子を用いることが知られている。
【0003】
特許文献1には、ビニル基を持つシランカップリング剤で銅ナノ粒子の表面を改質した後、モノマーと反応させてグラフト高分子鎖を形成し、銅ナノ粒子の分散性を改善する方法が開示されている。
【0004】
特許文献2には、湿式法により合成した水素化銅微粒子をシランカップリング剤によって表面を改質する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2017-165796号公報
【特許文献2】特開2015-110682号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の実施例では、高分子鎖の割合が2.8~7.0質量%と高く、電極膜の成膜時に炭素残渣が残りやすいため、電極膜の密着性の阻害や導電不良が懸念される。
特許文献2の複合銅ナノ粒子は表面がシランカップリング剤で改質されていないため、有機溶媒への分散性が発揮されない懸念がある。また、シランカップリング剤は分散性向上を目的として使用されていないため、銅ナノ粒子に対して0.1質量%しか添加されておらず、十分な有機溶媒への分散性が発揮されない懸念がある。特に導電性インクよりも金属濃度が高い導電性ペーストでは凝集が発生しやすい懸念がある。
【0007】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、有機溶媒への分散性が高く、平滑な電極膜の成膜が可能な複合銅ナノ粒子及び複合銅ナノ粒子の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を達成するために、本発明は以下の構成を採用する。
[1] 銅ナノ粒子の表面がシランカップリング剤で改質された複合銅ナノ粒子であって、
前記銅ナノ粒子は、表面の少なくとも一部に酸化銅を含む皮膜を有し、
前記複合銅ナノ粒子における前記シランカップリング剤に起因する質量炭素濃度が前記複合銅ナノ粒子の全質量に対して0.1~1.2質量%である、複合銅ナノ粒子。
[2] 前記複合銅ナノ粒子における前記シランカップリング剤に起因する質量炭素濃度が前記複合銅ナノ粒子の全質量に対して0.2~0.5質量%である、[1]に記載の複合銅ナノ粒子。
[3] 前記複合銅ナノ粒子における前記銅ナノ粒子に起因する質量炭素濃度が前記複合銅ナノ粒子の全質量に対して0.3質量%以下である、[1]又は[2]に記載の複合銅ナノ粒子。
[4] 銅ナノ粒子の表面がシランカップリング剤で改質された複合銅ナノ粒子であって、
前記銅ナノ粒子は、表面の少なくとも一部に酸化銅を含む皮膜を有し、
前記複合銅ナノ粒子の表面における前記シランカップリング剤に由来する表面基が前記複合銅ナノ粒子の表面積1nm2当たり1.0個以上13.0個以下である、複合銅ナノ粒子。
[5] 前記シランカップリング剤がアルキルシランである、[1]~[4]のいずれかに記載の複合銅ナノ粒子。
[6] 前記シランカップリング剤が炭素数3以上10以下のアルキル鎖を有するアルキルシランである、[5]に記載の複合銅ナノ粒子。
[7] 前記シランカップリング剤がn-オクチルトリメトキシシランである、[6]に記載の複合銅ナノ粒子。
[8] 前記銅ナノ粒子の平均粒子径が200nm以下である、[1]~[7]のいずれかに記載の複合銅ナノ粒子。
[9] 表面の少なくとも一部に酸化銅を含む皮膜を有する銅ナノ粒子と、有機溶媒と、を準備し、
前記銅ナノ粒子と前記有機溶媒との混合物を調製し、
前記混合物を加圧して細菅流路に送り込み、前記混合物に衝突、せん断力を掛けて分散させて分散液を得、
前記分散液にシランカップリング剤を添加する、
銅ナノ粒子の表面がシランカップリング剤で改質された複合銅ナノ粒子を製造する方法であって、
前記シランカップリング剤の添加量が、前記銅ナノ粒子の表面への単分子膜形成相当量の0.6~3.3倍である、複合銅ナノ粒子の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、有機溶媒への分散性が高く、平滑な電極膜の成膜が可能な複合銅ナノ粒子及び複合銅ナノ粒子の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】
図1は、複合銅ナノ粒子のシランカップリング剤に由来する質量炭素濃度(横軸、単位:質量%)と複合銅ナノ粒子のメディアン径(縦軸、単位:μm)との関係を示すグラフである。
【
図2】
図2は、複合銅ナノ粒子表面のシランカップリング剤に由来する表面基の数(横軸、単位:個/nm
2)と複合銅ナノ粒子のメディアン径(縦軸、単位:μm)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では本発明の実施形態を詳細に説明するが、本発明は後述する実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない限り種々の変形が可能である。
【0012】
本明細書における用語の意味及び定義は、以下のとおりである。
「~」で表される数値範囲は、~の前後の数値を下限値及び上限値とする数値範囲を意味する。
銅ナノ粒子の表面がシランカップリング剤で改質されるとは、粒子の表面上に存在する水酸基とシランカップリング剤が脱水縮合反応をおこし、シラノールが表面に結合されることを意味する。あるいは、水酸基が存在しない場合でも、静電的相互作用によりシランカップリング剤のアルコキシ基が加水分解されて形成されたシラノール基が粒子表面に吸着し、その後のシランカップリング剤同士の脱水縮合により表面に単分子膜が形成されることを意味する。
【0013】
[複合銅ナノ粒子]
本発明の複合銅ナノ粒子は、銅ナノ粒子の表面がシランカップリング剤で改質された複合銅ナノ粒子であって、前記銅ナノ粒子は、表面の少なくとも一部に酸化銅を含む皮膜を有する複合銅ナノ粒子である。
【0014】
前記複合銅ナノ粒子における前記シランカップリング剤に起因する質量炭素濃度は、前記複合銅ナノ粒子の全質量に対して、0.1~1.2質量%であり、0.2~0.5質量%が好ましく、0.25~0.4質量%がより好ましい。
前記シランカップリング剤に起因する質量炭素濃度が0.1質量%未満であると、複合銅ナノ粒子へ十分な疎水性を付与することができず、疎水化されていない部分から凝集が始まり分散性を阻害して粒度分布が大きくなる。
前記シランカップリング剤に起因する質量炭素濃度が1.2質量%超であると、過剰に付着したシランカップリング剤同士での凝集が始まるため、分散性が阻害され粒度分布が大きくなる。また、シランカップリング剤に起因する質量炭素濃度が1.2質量%を超えると、電極膜の成膜時に炭素残渣が残りやすくなり、導電率の悪化や脱ガス時に電極膜が欠損する可能性がある。
【0015】
ここで、前記シランカップリング剤に起因する質量炭素濃度は、後述するような方法によって複合銅ナノ粒子の質量炭素濃度と、シランカップリング剤と反応前の、原料状態の銅ナノ粒子の質量炭素濃度とをそれぞれ測定し、複合銅ナノ粒子の測定値と銅ナノ粒子の測定値との差分によって求める。
【0016】
〈銅ナノ粒子〉
銅ナノ粒子は、表面の少なくとも一部に酸化銅を含む皮膜を有する。このような銅ナノ粒子としては、還元火炎による乾式法によって製造されたものが挙げられる。乾式法によって製造された銅ナノ粒子は、300℃以上で焼結しても熱収縮が少ない。これに対して、湿式法によって合成された銅ナノ粒子は、熱収縮が大きい。
前記酸化銅としては、酸化銅(I)、酸化銅(II)、及びこれらの混合物が挙げられる。前記酸化銅が酸化銅(I)と酸化銅(II)との混合物である場合、これらの量比は特に限定されない。
銅ナノ粒子は、平均粒子径が10~200nmであることが好ましく、10~150nmであることがより好ましい。銅ナノ粒子の平均粒子径が200nm以下であると、複合銅ナノ粒子をペースト化した際の分散性に優れ、150nm以下であると分散性がより良好に発揮される。これに対して、銅ナノ粒子の平均粒子径が200nmを超えると、一粒子当たりの重量が増加するため、シランカップリング剤のアルキル鎖による立体作用が十分に機能しなくなり、複合銅ナノ粒子をペースト化した際の分散性が低下する傾向となる。
【0017】
「平均粒子径」
銅ナノ粒子の平均粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)を使用して測定できる。例えば、電子顕微鏡像において1視野に存在する250個の銅ナノ粒子について、銅ナノ粒子の粒子径を測定し、その個数平均値を算出して銅ナノ粒子の平均粒子径とする。
ここで、走査型電子顕微鏡の画像(写真)上に映っている粒子のうち、測定する粒子の選定基準は、以下の(1)~(6)のとおりである。
(1)粒子の一部が写真の視野の外にはみだしている粒子は測定しない。
(2)輪郭がはっきりしており、孤立して存在している粒子は測定する。
(3)平均的な粒子形状から外れている場合でも、独立しており、単独粒子として測定が可能な粒子は測定する。
(4)粒子同士に重なりがあるが、両者の境界が明瞭で、粒子全体の形状も判断可能な粒子は、それぞれの粒子を単独粒子として測定する。
(5)重なり合っている粒子で、境界がはっきりせず、粒子の全形も判らない粒子は、粒子の形状が判断できないものとして測定しない。
(6)楕円など真円ではない粒子については、長径を粒子径とした。
【0018】
前記銅ナノ粒子の表面は、酸化銅を含む皮膜に覆われている。皮膜に含まれる酸化銅は、シランカップリング剤との反応サイトとして機能する。
前記銅ナノ粒子の表面の皮膜は、銅化合物として酸化銅以外に炭酸銅が含まれていてもよいが、炭酸銅は、シランカップリング剤と反応しない。したがって、銅ナノ粒子に起因する質量炭素濃度は、0.3質量%以下であることが好ましい。
【0019】
「質量炭素濃度」
銅ナノ粒子及び複合銅ナノ粒子中の質量炭素濃度は、炭素硫黄分析装置(例えば、株式会社堀場製作所製「EMIA-920V」)を使用して測定できる。銅ナノ粒子及び複合銅ナノ粒子中の質量炭素濃度は、3サンプルの個数平均値である。
【0020】
〈シランカップリング剤〉
シランカップリング剤は、銅ナノ粒子の表面にシランカップリング反応によって化学結合可能であって、溶媒への分散性を向上するものであれば、特に限定されない。このようなシランカップリング剤としては、例えば、表面基としてアルキル鎖のみを有するアルキルシラン、アミノ基を有するアミノアルキルシラン、フェニル基を有するアリールシランなどが挙げられる。それぞれのシランカップリング剤の具体例として、アルキルシランでは、n-オクチルトリメトキシシラン、n-オクチルトリエトキシシラン、ドデシルトリエトキシシラン、オクタデシルトリメトキシシラン、オクタデシルトリエトキシシランなどが挙げられる。アミノアルキルシランでは、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。アリールシランでは、フェニルトリメトキシシランなどが挙げられる。前述したシランカップリング剤のなかでも銅ナノ粒子表面の改質に用いるものとしては、アルキルシランが好ましく、n-オクチルトリメトキシシランがより好ましい。アルキルシランを用いることで複合銅ナノ粒子の有機溶媒への分散性を損なわずに複合銅ナノ粒子の含有炭素量を低減することができる。
【0021】
シランカップリング剤が有するアルキル鎖は、炭素数3以上のアルキル鎖であることが好ましく、炭素数6以上のアルキル鎖であることがより好ましく、炭素数8以上のアルキル鎖であることがさら好ましい。アルキル鎖の炭素数3以上であれば、銅ナノ粒子の表面に単分子膜形成相当量のシランカップリング剤が結合することで、アルキル鎖が立体作用を発揮できる。
一方で、アルキル鎖が必要以上に長いと、複合銅ナノ粒子を焼結して電極用途に適用する際、炭素残渣が増える要因となる。したがって、シランカップリング剤が有するアルキル鎖は、炭素数10以下であることが好ましい。
【0022】
シランカップリング剤を用いて銅ナノ粒子表面を改質した複合銅ナノ粒子は、前記複合銅ナノ粒子の表面の前記シランカップリング剤に由来する表面基の数、すなわち、銅ナノ粒子表面へ付着している前記シランカップリング剤の表面基数が1nm2当たり1.0~13.0個以下であり、1.0~5.0個であることが好ましく、2.0~4.0個であることがさらに好ましい。
【0023】
ここで表面基数は、以下の式(A)により算出する。
【0024】
【0025】
発明者は鋭意研究の結果、表面の少なくとも一部に酸化銅を含む皮膜を有する銅ナノ粒子の表面をシランカップリング剤で改質するとき、銅ナノ粒子1粒子の表面がすべて単層のシランカップリング剤で覆われるとき(以下、これを単分子膜形成という)、シランカップリング剤1分子当たりの占有面積は0.33nm2となることを突き止めた。
この値から、銅ナノ粒子の表面にシランカップリング剤の単分子膜を形成するときのシランカップリング剤の分子数は1nm2当たり3個となる。
シランカップリング剤の表面基数が1nm2当たり1.0個未満であると、疎水化されている銅ナノ粒子表面の面積は3割未満となり、疎水化されていない部分から凝集が始まり、分散性を阻害し、粒度分布が大きくなる。
またシランカップリング剤の表面基数が1nm2当たり13.0個以上であると、シランカップリング剤同士での凝集が始まるため分散性が阻害され粒度分布が大きくなる。
【0026】
本発明の複合銅ナノ粒子は、最適量のシランカップリング剤で効率よく表面処理を進めることができるため、残留したシランカップリング剤由来の凝集がなく、有機溶媒への分散性が高く、平滑な電極膜を成膜が可能である。
【0027】
[複合銅ナノ粒子の製造方法]
本発明の複合銅ナノ粒子の製造方法は、銅ナノ粒子の表面をシランカップリング剤で改質して複合銅ナノ粒子を製造する方法であって、表面の少なくとも一部に酸化銅を含む皮膜を有する銅ナノ粒子を準備し、前記銅ナノ粒子と有機溶媒とシランカップリング剤を混合・分散させた分散液を加熱・撹拌させながら反応させる。
【0028】
〈準備工程〉
先ず、準備工程として、表面の少なくとも一部に酸化銅を含む皮膜を有する銅ナノ粒子、すなわち、還元火炎による乾式法で製造された銅ナノ粒子を準備する。
銅ナノ粒子は、例えば特許第6130616号に記載の方法により製造できる。また、銅ナノ粒子が市販されている場合は、それを用いてもよい。
乾式法で製造された銅ナノ粒子であれば、上記の製造方法に限定されない。例えば、銅化合物ガスを還元性ガスで還元する方法や、プラズマで気化させた銅を冷却する方法でも銅ナノ粒子を得ることができる。
【0029】
〈混合工程〉
銅ナノ粒子と有機溶媒とシランカップリング剤を混合し、その混合物に分散処理を施し、銅ナノ粒子混合物の分散液とする。
銅ナノ粒子の分散方法は、加圧して細菅流路に送り込み混合物に衝突、せん断力を掛けて分散処理を施す方法や、ビーズミルを用いて分散させる方法、ブレードやロールを用いて分散させる方法が挙げられる。
有機溶媒は、シランカップリング剤を溶解可能で、かつ、銅ナノ粒子を分散させることが可能な有機溶媒であれば特に限定されない。例えば、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、テルピネオール等のアルコール;エチレングリコール、ジメチレングリコール、トリエチレングリコール等のポリオール;ジエチレングリコールモノブチルエーテル等のエーテル;N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等が挙げられる。
【0030】
〈反応工程〉
次に、反応工程として、得られた銅ナノ粒子混合物の分散液を加熱しながら撹拌することで、シランカップリング剤を銅ナノ粒子の表面に化学結合させる。
分散液へのシランカップリング剤の添加量は、分散液中の銅ナノ粒子の表面への単分子膜形成相当量の0.6~3.3倍であり、0.6~1.25倍とすることが好ましい。
シランカップリング剤の添加量が、銅ナノ粒子の表面への単分子膜形成相当量の0.6倍以上であれば、銅ナノ粒子の表面に十分なシランカップリング剤の付着させることができる。
シランカップリング剤の添加量が、銅ナノ粒子の表面への単分子膜形成相当量の3.3倍以下であれば、シランカップリング剤同士の反応による凝集の発生を抑制できる。さらには、未反応のシランカップリング剤を除去しやすくなるという効果が得られる。
【0031】
なお、単分子膜形成相当量とは、銅ナノ粒子のすべての表面にシランカップリング剤が付着した状態となる添加量であり、具体的には、「銅ナノ粒子の表面積/シランカップリング剤一分子の専有面積=シランカップリング剤の分子数」を算出し、この分子数とシランカップリング剤一分子あたりの質量とから、単分子膜形成相当量を算出する。
【0032】
ここで単分子膜形成相当量は、以下の式(B)により算出する。
【0033】
【0034】
〈洗浄工程〉
次に、洗浄工程として、反応工程を終えた銅ナノ粒子混合物に有機溶媒を加え撹拌することで洗浄する。撹拌は、撹拌機、超音波バス、振とう機などを用いることができる。
洗浄工程は割愛することもできる。
【0035】
〈乾燥工程〉
次に、乾燥工程として、反応工程もしくは洗浄工程を終えた銅ナノ粒子混合物をろ過乾燥法、減圧乾燥法、送風乾燥法、噴霧乾燥法などの方法が挙げられる。これらの方法はそれぞれ単独でもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0036】
以上説明したように、本発明の複合銅ナノ粒子によれば、銅ナノ粒子の表面がシランカップリング剤で改質されているため、有機溶媒への分散性が高い。また、本発明の複合銅ナノ粒子は、乾式法によって製造された銅ナノ粒子を用いるため、その後、300℃以上で焼結しても熱収縮が少なく、平滑な電極膜を成膜が可能である。
【0037】
[作用効果]
本発明では、銅ナノ粒子の表面をシランカップリング剤で改質した複合銅ナノ粒子において、シランカップリング剤に起因する質量炭素濃度を複合銅ナノ粒子の全質量に対して0.1~1.2質量%の範囲内としたこと、又は複合銅ナノ粒子の表面のシランカップリング剤に由来する表面基を複合銅ナノ粒子の表面積1nm2当たり1.0個以上13.0個以下の範囲内としたことによって、有機溶媒への分散性に優れ、凝集が抑制される。その結果、本発明の複合銅ナノ粒子のメディアン径は小さくなり、本発明の複合銅ナノ粒子を用いて成膜された電極膜は平滑性に優れる。
【実施例0038】
以下、実施例によって本発明の効果を説明するが、本発明は実施例の構成に限定されるものではない。
【0039】
[製造例1]
銅ナノ粒子の製造
銅ナノ粒子は、特許第6130616号公報に記載の製造方法によって製造した。製造条件は、以下のとおりとした。
・粉体原料:銅粉酸化銅(I)(日本アトマイズ加工社製、平均粒子径10μm)・バーナに供給する燃料ガス:液化天然ガス
・支燃性ガス:酸素
・炉内に旋回流を形成する第1冷却ガス:窒素
・酸素比:0.9
・原料供給速度:0.36kg/h
これにより、平均粒子径110nm、質量炭素濃度0.16質量%の銅ナノ粒子を得た。
【0040】
[実施例1]
ビーカーに、平均粒子径110nm、質量炭素濃度0.16質量%の銅ナノ粒子20g、エタノール15.8gを量り取り、シランカップリング(SC)剤としてn-オクチルトリメトキシシラン(OTMS)0.16g(=単分子膜形成相当量)を添加した。
これらの混合物を10分間マグネットスターラーで撹拌した後、吉田機械興業製「ナノヴェイタB-ED」を用いて混合物を圧力100MPaに加圧して、細菅流路に送り込み混合物に衝突、せん断力を掛けて分散する処理を10回行った。
得られた分散液を耐圧容器に入れ、80℃の水浴に浸けながら、30分間マグネットスターラーで撹拌した。
30分後、得られた混合液をろ過により固液分離し、エタノール50gを加え、超音波バスで10分間撹拌した。
得られた混合液を再びろ過して固液分離し、送風乾燥し、複合銅ナノ粒子の粉末を得た。
得られた複合銅ナノ粒子の粉末は、上述した手法を用いて銅ナノ粒子の表面積1nm2当たりの表面基数の算出と後述するような有機溶媒中での粒度分布測定、及び粒子の緻密性の観察を実施した。
【0041】
なお、n-オクチルトリメトキシシラン(OTMS)の単分子膜形成相当量は、前記の計算式(B)により、0.14gと算出された。計算式(B)中、n-オクチルトリメトキシシラン(OTMS)1分子の専有面積を0.33nm2、分子量を234g/mol、アボガドロ定数を6.02個/molとした。
【0042】
「有機溶媒中での粒度分布」
銅ナノ粒子、及び複合銅ナノ粒子の有機溶媒中での粒度分布測定は、レーザー回折式の湿式粒度分布計(例えば、株式会社島津製作所製「SALD-7100」)を使用して測定できる。
粒度分布測定に供したサンプルは銅ナノ粒子もしくは複合銅ナノ粒子0.1gをエタノール23.7gに超音波ホモジナイザーを用いて分散させた分散液を使用した。有機溶媒中での粒度分布測定の評価指標としては、同一サンプルを3回測定し、その粒度分布から算出されるメディアン径の3回平均値を用いた。
なお、有機溶媒中でのメディアン径が0.3μm以下である場合、ペースト化した粒子の塗膜の緻密性が向上する(表面粗さが低い)ことが分かっている。
【0043】
得られた複合銅ナノ粒子の粉末は、上述した手法を用いて銅ナノ粒子の表面積1nm2当たりの表面基数の算出と後述するような有機溶媒中での粒度分布測定、及び粒子の緻密性の観察を実施した。
【0044】
なお、n-オクチルトリメトキシシラン(OTMS)の単分子膜形成相当量は、前記の計算式(B)により、0.14gと算出された。計算式(B)中、n-オクチルトリメトキシシラン(OTMS)1分子の専有面積を0.33nm2、分子量を234g/mol、アボガドロ定数を6.02個/molとした。
【0045】
[実施例2]
n-オクチルトリメトキシシランの添加量を、実施例1の0.6倍に変更した。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0046】
[実施例3]
n-オクチルトリメトキシシランの添加量を、実施例1の0.7倍に変更した。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0047】
[実施例4]
n-オクチルトリメトキシシランの添加量を、実施例1の1.5倍に変更した。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0048】
[実施例5]
n-オクチルトリメトキシシランの添加量を、実施例1の3.3倍に変更した。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0049】
[実施例6]
n-オクチルトリメトキシシランをn-プロピルトリメトキシシラン(PTMS)に変更した。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0050】
[実施例7]
n-オクチルトリメトキシシランをn-ヘキシルトリメトキシシラン(HTMS)に変更した。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0051】
[実施例8]
n-オクチルトリメトキシシランをn-デシルトリメトキシシラン(DTMS)に変更した。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0052】
[比較例1]
シランカップリング剤による表面改質を実施していない銅ナノ粒子を評価した。評価項目については、実施例1と同様とした。
【0053】
[比較例2]
n-オクチルトリメトキシシランの添加量を、実施例1の5倍に変更した。その他の条件は、実施例1と同様とした。
【0054】
実施例1~5及び比較例1の結果を表1に示す。
【0055】
【0056】
<評価1>
図1は、上述した実施例1~8、及び比較例1~2について、シランカップリング剤由来の炭素濃度とメディアン径との関係を示すグラフである。
図1中、X軸は、シランカップリング剤由来の炭素濃度であり、Y軸は有機溶媒中に分散させた銅ナノ粒子および複合銅ナノ粒子のメディアン径である。
【0057】
図1に示すように、実施例1~8、及び比較例1~2の結果から導かれる近似曲線と、メディアン径0.30μmの直線との交点より、シランカップリング剤由来の炭素濃度が0.1から1.2質量%の範囲で有機溶媒中での複合銅ナノ粒子のメディアン径が0.30μm以下となることが確認された。
【0058】
<評価2>
図2は、上述した実施例1~8、及び比較例1~2について、表面基数とメディアン径との関係を示すグラフである。
図2中、X軸は、銅ナノ粒子表面に付着しているシランカップリング剤の1nm
2当たりの表面基数であり、Y軸は有機溶媒中に分散させた銅ナノ粒子および複合銅ナノ粒子のメディアン径である。
【0059】
図2に示すように、実施例1~8、及び比較例1~2の結果から導かれる近似曲線と、メディアン径0.30μmの直線との交点より、1nm
2当たりの表面基数が1.0個~13.0個の範囲で有機溶媒中での複合銅ナノ粒子のメディアン径が0.30μm以下となることが確認された。
本発明の複合銅ナノ粒子は、各種電子部品等の電極膜材料に適用できる。特に、酸化物やセラミックスを基材とし、300℃以上で焼結させて成膜する電極膜材料に好適である。具体的には、例えば、センサー、電池、コンデンサー、抵抗等の電子部品をプリント基板に実装する部分の電極の材料に適用できる。
前記複合銅ナノ粒子における前記シランカップリング剤に起因する質量炭素濃度が前記複合銅ナノ粒子の全質量に対して0.2~0.5質量%である、請求項1に記載の複合銅ナノ粒子。
前記複合銅ナノ粒子における前記銅ナノ粒子に起因する質量炭素濃度が前記複合銅ナノ粒子の全質量に対して0.3質量%以下である、請求項1又は2に記載の複合銅ナノ粒子。