(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171397
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】ニッケル酸化鉱石スラリーの製造方法
(51)【国際特許分類】
C22B 23/00 20060101AFI20241205BHJP
C22B 1/00 20060101ALI20241205BHJP
C22B 3/22 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
C22B23/00 102
C22B1/00 101
C22B3/22
【審査請求】未請求
【請求項の数】4
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088373
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095223
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 章三
(74)【代理人】
【識別番号】100085040
【弁理士】
【氏名又は名称】小泉 雅裕
(74)【代理人】
【識別番号】100137752
【弁理士】
【氏名又は名称】亀井 岳行
(72)【発明者】
【氏名】金子 高志
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 寛人
(72)【発明者】
【氏名】大原 秀樹
(72)【発明者】
【氏名】工藤 敬司
(72)【発明者】
【氏名】工藤 陽平
【テーマコード(参考)】
4K001
【Fターム(参考)】
4K001AA19
4K001BA02
4K001CA01
4K001CA02
4K001CA05
4K001CA09
4K001DB02
4K001DB14
4K001DB16
4K001DB23
4K001DB24
(57)【要約】
【課題】凝集剤等の使用量を増加させることなく、鉱石スラリー中における固形分の重量割合(Solid%)が高められるニッケル(Ni)酸化鉱石スラリーの製造法を提供する。
【解決手段】高圧酸浸出法によるNiの湿式製錬方法の原料に用いるNi酸化鉱石スラリーの製造方法であって、Ni酸化鉱石を所定の粒度に揃える粉砕・分級工程と、得られた酸化鉱石粒子に水を添加して上記酸化鉱石スラリーを調製するスラリー化工程と、得られた酸化鉱石スラリーを固液分離させてスラリーを濃縮するNi酸化鉱石スラリーの濃縮工程と、を有するNi酸化鉱石スラリーの製造方法において、上記粉砕・分級工程で得られたNi酸化鉱石粒子を乾燥処理し、然る後、Ni酸化鉱石粒子に水を添加してNi酸化鉱石スラリーを製造することを特徴とする。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
高圧酸浸出法によるニッケルの湿式製錬方法の原料に用いるニッケル酸化鉱石スラリーの製造方法であって、
上記ニッケル酸化鉱石を所定の粒度に揃える粉砕・分級工程と、
粉砕・分級工程で得られたニッケル酸化鉱石粒子に水を添加してスラリー状のニッケル酸化鉱石スラリーを調製するスラリー化工程と、
スラリー化工程で得られたニッケル酸化鉱石スラリーを固液分離させて該ニッケル酸化鉱石スラリーを濃縮するニッケル酸化鉱石スラリーの濃縮工程と、
を有するニッケル酸化鉱石スラリーの製造方法において、
上記粉砕・分級工程で得られたニッケル酸化鉱石粒子を乾燥処理し、然る後、該ニッケル酸化鉱石粒子に水を添加して上記ニッケル酸化鉱石スラリーを製造することを特徴とするニッケル酸化鉱石スラリーの製造方法。
【請求項2】
上記粉砕・分級工程で得られたニッケル酸化鉱石粒子を乾燥処理してニッケル酸化鉱石粒子の水分率を20重量%以下にすることを特徴とする請求項1に記載のニッケル酸化鉱石スラリーの製造方法。
【請求項3】
上記ニッケル酸化鉱石スラリーを固液分離させて該ニッケル酸化鉱石スラリーを濃縮するニッケル酸化鉱石スラリーの濃縮工程において、
固液分離させるニッケル酸化鉱石スラリー中にニッケル酸化鉱石1トン当たり150g以下の凝集剤を添加することを特徴とする請求項1または2に記載のニッケル酸化鉱石スラリーの製造方法。
【請求項4】
上記濃縮工程で得られるニッケル酸化鉱石スラリーのSolid%が40重量%~45重量%であることを特徴とする請求項2に記載のニッケル酸化鉱石スラリーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧酸浸出法によるニッケルの湿式製錬方法の原料に用いるニッケル酸化鉱石スラリーの製造方法に係り、特に、凝集剤や中和に要する薬剤の使用量を増加させることなく、鉱石スラリー中における固形分の重量割合(Solid%)を高めることができるニッケル酸化鉱石スラリーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
低品位ニッケル酸化鉱石からニッケルを回収する方法として、高圧酸浸出(High Pressure Acid Leach:HPAL)法を用いた湿式製錬方法が知られている。この湿式製錬方法では、高圧酸浸出工程に送られて処理される鉱石は、ニッケルを浸出しやすいように、予め解砕機や湿式篩を使用して所定の大きさ以下に破砕および分級され、次いで水や工程水等を加えてスラリー化された、いわゆる鉱石スラリーが用いられている。
【0003】
このような鉱石スラリーは、高圧酸浸出工程における酸消費量、得られる浸出液のニッケル濃度、および、その他の不純物濃度が所定の割合となるように、数種類の酸化ニッケル鉱石をブレンドして作られることが多い。
【0004】
また、鉱石スラリーでは、鉱石スラリーを構成する鉱石スラリー中における固形分(鉱石固体分)の重量割合(以下「Solid%」と称する)が高い(または「大きい」とも称す)方が、高圧酸浸出工程での単位時間当たりのニッケル通過量が増加することになるため、相応して設備がコンパクトで済むことから投資や運転コストを低減でき、ニッケル回収効率も高くなる等好ましい。
【0005】
しかし、鉱石スラリーのSolid%は一般的に10~20重量%と低くなることが多く、その結果、高圧酸浸出工程で得られる浸出液のニッケル濃度が低く、効率的にニッケルを回収できないという課題が存在した。
【0006】
このような鉱石スラリーから固液分離して高いSolid%を得ようとする場合、鉱石スラリー中における固形分の沈降速度をできるだけ大きく(または「速く」とも称す)することが好ましく、固形分の沈降速度を大きく(または「速く」)する方法として、例えば、特許文献1に開示された方法が知られている。
【0007】
すなわち、特許文献1には、ニッケル酸化鉱石から湿式製錬方法によりニッケル等の有価金属を回収する際、浸出工程等に固形物濃度(Solid%)の高い鉱石スラリーを効率的に供給するため、鉱石スラリーの沈降速度を向上させて固液分離する際の沈降濃縮に要する時間を短縮させ、あるいは、鉱石スラリーの降伏応力を低下させて流送する際の鉱石スラリーの固形物濃度を高めるニッケル酸化鉱石の前処理方法が開示され、具体的には、ニッケル酸化鉱石の水性スラリーに中和剤を添加し、pHを等電点近傍に調整することにより鉱石スラリーの沈降速度又は降伏応力を制御する方法が開示されている。
【0008】
他方、Solid%の低い鉱石スラリーに対し、シックナー(「沈殿濃縮装置」とも称する)と凝集剤を用いて鉱石スラリーのSolid%を高くする方法も知られている。
【0009】
例えば、特許文献2には、スラリー処理量を維持しつつ、固体成分率(Solid%)と比重の高い鉱石スラリーを製造できる鉱石スラリーの製造設備と鉱石スラリーの製造方法が開示されている。
【0010】
すなわち、特許文献2には、原料鉱石スラリーを予備濃縮して中間鉱石スラリーを得る第1シックナーと、第1シックナーよりシックニング(沈降濃縮)効果が高くかつ中間鉱石スラリーを濃縮して濃縮鉱石スラリーを得る第2シックナーとを備える鉱石スラリーの製造設備が開示されており、更に、第1シックナーにより原料鉱石スラリーを予備濃縮して中間鉱石スラリーを得、かつ、第1シックナーよりシックニング(沈降濃縮)効果の高い第2シックナーにより中間鉱石スラリーを濃縮して濃縮鉱石スラリーを得る鉱石スラリーの製造方法が開示されている。
【0011】
そして、特許文献2に開示された鉱石スラリーの製造設備と製造方法によれば、第1シックナーで予備濃縮された中間鉱石スラリーが第2シックナーに供給されるため、第2シックナーにおいて鉱石スラリーの沈降速度が速くなり、スラリー処理量を増加させることが可能となる。更に、後段のシックナーがシックニング効果の高い第2シックナーで構成されるため、固体成分率(Solid%)と比重の高い濃縮鉱石スラリーを製造することが可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2008-189999号公報
【特許文献2】特開2015-086457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
ところで、上記シックニング(沈降濃縮)処理では、高分子炭化水素を主成分とする凝集剤が用いられる。凝集剤は、その添加量が不足すると鉱石スラリーのSolid%を増加させることが難くなる。一方、過大に添加しても鉱石スラリーのSolid%が過大に増加するものでもなく、むしろ薬剤コストを増加させ、鉱石スラリーの粘度が上昇して設備負荷を増やしてしまう問題がある。また、液中の全有機炭素(TOC)濃度を上昇させて排水処理を難しくさせる問題もあった。
【0014】
更に、シックニング(沈降濃縮)処理においては、鉱石の種類と混合割合、シックナーの形状等の影響により、Solid%の高い鉱石スラリーを安定して得られるように操業することが容易でないという問題も存在した。
【0015】
本発明はこのような問題点に着目してなされたもので、その課題とするところは、凝集剤や中和に要する薬剤の使用量を増加させることなく、鉱石スラリー中における固形分の重量割合(Solid%)を高めることができるニッケル酸化鉱石スラリーの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
上記課題を解決するため本発明者が鋭意研究を重ねた結果、粉砕・分級したニッケル酸化鉱石粒子を乾燥させておき、この乾燥させたニッケル酸化鉱石粒子に水を添加してニッケル酸化鉱石スラリーを調製することにより、Solid%の高いニッケル酸化鉱石スラリーが得られることを見出すに至った。
【0017】
本発明はこのような技術的発見に基づき完成されたものである。
【0018】
すなわち、本発明に係る第1の発明は、
高圧酸浸出法によるニッケルの湿式製錬方法の原料に用いるニッケル酸化鉱石スラリーの製造方法であって、
上記ニッケル酸化鉱石を所定の粒度に揃える粉砕・分級工程と、
粉砕・分級工程で得られたニッケル酸化鉱石粒子に水を添加してスラリー状のニッケル酸化鉱石スラリーを調製するスラリー化工程と、
スラリー化工程で得られたニッケル酸化鉱石スラリーを固液分離させて該ニッケル酸化鉱石スラリーを濃縮するニッケル酸化鉱石スラリーの濃縮工程と、
を有するニッケル酸化鉱石スラリーの製造方法において、
上記粉砕・分級工程で得られたニッケル酸化鉱石粒子を乾燥処理し、然る後、該ニッケル酸化鉱石粒子に水を添加して上記ニッケル酸化鉱石スラリーを製造することを特徴とし、
第2の発明は、
第1の発明に記載のニッケル酸化鉱石スラリーの製造方法において、
上記粉砕・分級工程で得られたニッケル酸化鉱石粒子を乾燥処理してニッケル酸化鉱石粒子の水分率を20重量%以下にすることを特徴とする。
【0019】
また、本発明に係る第3の発明は、
第1の発明または第2の発明に記載のニッケル酸化鉱石スラリーの製造方法であって、
上記ニッケル酸化鉱石スラリーを固液分離させて該ニッケル酸化鉱石スラリーを濃縮するニッケル酸化鉱石スラリーの濃縮工程において、
固液分離させるニッケル酸化鉱石スラリー中にニッケル酸化鉱石1トン当たり150g以下の凝集剤を添加することを特徴とし、
第4の発明は、
第2の発明に記載のニッケル酸化鉱石スラリーの製造方法において、
上記濃縮工程で得られるニッケル酸化鉱石スラリーのSolid%が40重量%~45重量%であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係るニッケル酸化鉱石スラリーの製造方法によれば、
凝集剤や中和に要する薬剤の使用量を増加させることなく、鉱石スラリー中における固形分の重量割合(Solid%)を高めることができる効果を有する。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本実施形態に係るニッケル酸化鉱石スラリーの製造方法と製造された上記ニッケル酸化鉱石スラリーを原料に用いた高圧酸浸出法によるニッケルの湿式製錬方法を示す工程説明図。
【
図2】スラリー化工程で得られた鉱石スラリーに凝集剤を添加し、該鉱石スラリーを固液分離させて濃縮した鉱石スラリーのSolid%[%]と凝集剤濃度[g/t]との関係を示すグラフ図で、符号◆は鉱石A[水分率>20重量%]が適用された鉱石スラリー、符号□は鉱石B[水分率>20重量%]が適用された鉱石スラリー、符号△は鉱石A[水分率=0重量%]が適用された鉱石スラリー、および、符号〇は鉱石B[水分率=0重量%]が適用された鉱石スラリーをそれぞれ示す。
【
図3】スラリー化工程で得られた鉱石スラリーに凝集剤を添加し、該鉱石スラリーを固液分離させて濃縮した鉱石スラリーのSolid%[%]と水分率[重量%]との関係を示すグラフ図で、符号△は鉱石A[水分率≦20重量%]が適用された鉱石スラリー、符号◆は鉱石A[水分率>20重量%]が適用された鉱石スラリーを示す。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明に係る実施形態を詳細に説明する。
【0023】
尚、
図1は、本実施形態に係るニッケル酸化鉱石スラリーの製造方法、および、製造されたニッケル酸化鉱石スラリーを原料に用いた高圧酸浸出法によるニッケルの湿式製錬方法を示す工程説明図である。
【0024】
1.ニッケル酸化鉱石スラリーの製造方法
本実施形態に係るニッケル酸化鉱石スラリーの製造工程S1は、
ニッケル酸化鉱石を所定の粒度に揃える粉砕・分級工程と、
粉砕・分級工程で得られたニッケル酸化鉱石粒子を乾燥させる乾燥工程と、
乾燥されたニッケル酸化鉱石粒子に水を添加してスラリー状のニッケル酸化鉱石スラリーを調製するスラリー化工程と、
スラリー化工程で得られたニッケル酸化鉱石スラリーを固液分離させて該ニッケル酸化鉱石スラリーを濃縮するニッケル酸化鉱石スラリーの濃縮工程と、
を有する。
【0025】
(1)粉砕・分級工程
粉砕・分級工程では、原料鉱石であるニッケル酸化鉱石を粉砕機や解砕機等を用いて粉砕し、粉砕後の鉱石を篩に掛けて所定の分級点で分級してオーバーサイズの鉱石粒子を除去した後に、アンダーサイズの鉱石のみを得る。
【0026】
ところで、高圧酸浸出法によるニッケルの湿式製錬方法の原料に使用されるニッケル酸化鉱石としては、硫酸を過剰に消費するマグネシウムの品位が低くかつ安価なリモナイト(Limonite)が主に用いられる。一般的にリモナイトはNi品位が0.8重量%~1.5重量%程度と低品位であるため、Ni品位またはNi以外の元素であるCo、Mg、Cr、Fe、Mn、Al、および、Siの中から選ばれる少なくとも1種の品位が所定の品位になるように、あるいは、Ni等の回収対象となる特定の元素に対するそれ以外の特定の元素の比率が所定の値を満たすように複数の鉱石種をブレンドすることが行われている。例えば、リモナイトを主として用い、マグネシウム品位がリモナイトに較べて高いもののニッケル品位がリモナイトに較べて約2倍程度高いサプロライト(Saprolite)を上記Ni品位やNi以外の元素品位等の条件を満たすように混合して用いることが多い。
【0027】
そして、複数の鉱石種がブレンドされたニッケル酸化鉱石は、好ましくは複数段の解砕機や分級機を使用して鉱石の粒径が所定の大きさになるよう段階的に細かくされる。
【0028】
これら複数段の分級機のうち、少なくとも最終段では例えばバイブレーティングスクリーンやトロンメルなどの湿式篩が用いられ、ニッケル酸化鉱石は水と共に分級機に装入されて篩分けが行われる。
【0029】
(2)乾燥工程
乾燥工程では、粉砕・分級工程で得られたニッケル酸化鉱石粒子を乾燥させてニッケル酸化鉱石粒子の水分を除去し、水分率が20重量%以下のニッケル酸化鉱石粒子とする。
【0030】
尚、ニッケル酸化鉱石粒子を乾燥させる方法は特に限定されず、粉砕されたニッケル酸化鉱石粒子を所定の乾燥温度(例えば、100℃~150℃)に保持する方法、あるいは、所定の乾燥温度の熱風を粉砕したニッケル酸化鉱石粒子に吹き付けて乾燥させる方法等、公知の手段を用いることができる。
【0031】
(3)スラリー化工程
スラリー化工程では、上記分級工程で分級されかつ乾燥工程で乾燥処理された鉱石粒子に水を添加し、スラリー状の鉱石スラリーを得る。得られる鉱石スラリーは、濃縮工程前の鉱石スラリーであり、上記湿式製錬方法の浸出工程に供される濃縮された鉱石スラリーと区別して「希薄鉱石スラリー」とも称する。また、濃縮工程で処理された鉱石スラリーは「濃縮鉱石スラリー」とも称する。
【0032】
尚、鉱石粒子に添加する水は、例えば、工業用水を用いることができる。また、ニッケル酸化鉱石の湿式製錬方法において排出される工程水を使用してもよい。
【0033】
(4)濃縮工程
濃縮工程では、乾燥処理された鉱石粒子に水を添加して得られた「希薄鉱石スラリー」に対してシックニング(沈降濃縮)処理を施し、固形分の重量割合(Solid%)を高めた鉱石スラリー(濃縮鉱石スラリー)を得る。
【0034】
尚、濃縮処理に供する鉱石スラリー(希薄鉱石スラリー)のSolid%は特に限定されないが、通常、10重量%~20重量%程度であり、この希薄鉱石スラリーがシックニング(沈降濃縮)されて、Solid%が40重量%~45重量%程度に高められた「濃縮鉱石スラリー」とすることが可能となる。
【0035】
ここで、粉砕・分級工程で得られたニッケル酸化鉱石粒子を乾燥処理することで鉱石スラリー(濃縮鉱石スラリー)のSolid%が高められる理由について、本発明者は、以下の2点が関係していると推察している。
【0036】
すなわち、ニッケル酸化鉱石粒子を乾燥処理すると、ニッケル酸化鉱石の表面状態が改質されてニッケル酸化鉱石が持つゼータ電位(プラスマイナスの電荷)が小さくなり、これによりニッケル酸化鉱石同士の反発が減少してニッケル酸化鉱石同士が密になる結果、鉱石スラリー(濃縮鉱石スラリー)のSolid%が高められる点。
【0037】
更に、ニッケル酸化鉱石粒子が乾燥すると、乾燥した際にニッケル酸化鉱石自身の引力でニッケル酸化鉱石同士が凝集(Van der Walls力等)し、ニッケル酸化鉱石同士が密になる結果、鉱石スラリー(濃縮鉱石スラリー)のSolid%が高められる点が関係していると推察している。
【0038】
2.高圧酸浸出法によるニッケルの湿式製錬方法
本実施形態に係るニッケル酸化鉱石スラリーの製造方法で得られたニッケル酸化鉱石スラリー(濃縮鉱石スラリー)を原料に用いた高圧酸浸出法による湿式製錬工程は、
上記ニッケル酸化鉱石スラリーの製造工程S1と、
上記製造工程S1で得た濃縮鉱石スラリーに対して鉱酸を添加し、高温高圧下で酸浸出処理を施すことでニッケルを浸出させる浸出工程S2と、
上記浸出工程S2により生成した浸出液と残渣とからなる浸出スラリーを連続する複数のシックナー(沈殿濃縮装置)に導入し、向流で流れる洗浄液で洗浄しながら残渣を分離除去することで浸出液を回収する向流多段洗浄工程S3と、
回収された上記浸出液に中和剤を添加し、該浸出液に含まれる不純物元素を中和澱物として分離除去して中和終液を得る中和工程S4と、
中和終液に硫化水素等の硫化剤を添加し、ニッケルを硫化物の形態で回収する硫化工程S5と、
上記硫化物の回収時に排出されるニッケル貧液に消石灰等の中和剤を添加して無害化処理を行なう最終中和工程S6と、
から一般的に構成される。
【0039】
3.本発明の乾燥工程による改善効果
(1)凝集剤
高圧酸浸出法によるニッケルの湿式製錬方法において、鉱石スラリー(濃縮鉱石スラリー)を上記浸出工程S2に供給する場合、単位時間当たりに送ることができるニッケル量を増加させた方が高い生産性を実現できるため、鉱石スラリーのSolid%は上述したようにできるだけ高いことが求められる。
【0040】
そこで、シックニング(沈降濃縮)処理により鉱石スラリー(希薄鉱石スラリー)を固液分離してSolid%の高い鉱石スラリー(濃縮鉱石スラリー)を得る場合、凝集剤が使用されるが、凝集剤の最適な添加量を選定することは容易ではなく、その添加量が不足すると固液分離が不完全となりやすく、過剰に添加すると薬剤コストが増加してしまう。
【0041】
更に、凝集剤を過剰に添加すると、凝集剤の主成分が高分子炭化水素であるため、鉱石スラリーの粘度を過度に増加させ、鉱石スラリーにおける液中のC(炭素)品位が上昇する不都合を生ずる。
【0042】
(2)ニッケル酸化鉱石粒子の乾燥処理
本発明に係るニッケル酸化鉱石スラリーの製造方法は、粉砕・分級工程で得られたニッケル酸化鉱石粒子に水を添加し、鉱石スラリー(希薄鉱石スラリー)を調製するスラリー化工程の前段階において、粉砕・分級工程で得られたニッケル酸化鉱石粒子に対し乾燥処理を施すという本発明独自の処理を含んでおり、乾燥処理により表面状態が改質されたニッケル酸化鉱石粒子に対し水を添加して鉱石スラリー(希薄鉱石スラリー)を調製することが可能となる。
【0043】
すなわち、粉砕・分級工程で得られたニッケル酸化鉱石粒子に対して予め乾燥処理を施すことで、ニッケル酸化鉱石粒子の表面状態が改質されて鉱石が有するゼータ電位(プラスマイナスの電荷)を小さくすることでき、これによりニッケル酸化鉱石粒子同士が反発してしまう不都合を効果的に抑制することが可能となる。更に、粒子同士の反発が抑制されて密になったニッケル酸化鉱石表面を凝集剤が被覆して液膜を形成することで架橋効果を発現できる。これによりニッケル酸化鉱石同士を凝集させる従来の凝集効果に加えて、鉱石自体の引力によって凝集させた本発明独自の凝集効果を共に享受できるため、鉱石スラリーのシックニング(沈降濃縮)処理において固形分の濃縮が行い易くなる。
【0044】
実際の操業においては、鉱石スラリーの浸出処理を効率的に行う必要があるため、シックニング(沈降濃縮)処理にかけられる時間は限られている。その決められた時間内に沈降させることができない場合、シックニング(沈降濃縮)処理後の上澄み液は、その液中に残留する微細な鉱石によって懸濁し、系外へ除去されてロスとなる。これに対し、固形分の濃縮を行い易くして上記ロスの回避が図れる本発明の効果は絶大である。
【0045】
(3)乾燥工程による改善効果
本発明方法で製造された鉱石スラリーは、粉砕・分級工程で得られたニッケル酸化鉱石粒子に対し予め乾燥処理を施すという比較的平易な手法であるにも拘らず、従来法と比較して沈降速度を概ね20%~60%程度高めることができ、更に、凝集剤や中和に要する薬剤の使用量を増加させることなく、10重量%~20重量%程度の希薄鉱石スラリーのSolid%を40重量%~45重量%程度まで高めることを可能とする乾燥工程による改善効果は極めて絶大である。
【実施例0046】
以下、本発明の実施例について比較例も挙げて具体的に説明する。
【0047】
[実施例1]
ニッケル酸化鉱石として、下記表1に示す組成の2種類のリモナイト鉱(鉱石Aと鉱石B)を適用した。
【0048】
まず、粉砕機により2種類のリモナイト鉱(鉱石Aと鉱石B)を破砕し、得られた鉱石粒子を130℃で乾燥処理して水分率を0重量%にした後、スラリー濃度が4重量%になるように純水で希釈して実施例1に係る2種類の鉱石スラリーを作製した。
【0049】
次いで、実施例1に係る各鉱石スラリーに、栗田工業株式会社製の凝集剤(商品名PN901とPA904)を複数の水準からなる予め定めた濃度で混合した後、シックナーを用いてシックニング(沈降濃縮)処理を行った。
【0050】
そして、各鉱石スラリーのシックニング(沈降濃縮)処理を2時間行った後、沈降により堆積した部分(固形分)を抜き取り、その重量を測定して各鉱石スラリーに対する重量割合(すなわち、濃縮鉱石スラリー中における固形分の重量割合)を求めた。
【0051】
更に、この重量割合をSolid%[%]とし、各鉱石スラリー中の凝集剤濃度[g/t]との関係を求めた。
【0052】
【0053】
尚、
図2中、符号△は鉱石A[水分率=0重量%]が適用された鉱石スラリー、符号〇は鉱石B[水分率=0重量%]が適用された鉱石スラリーを示す。
【0054】
【0055】
[比較例1]
上記乾燥処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同様に行った。
【0056】
【0057】
尚、
図2中、符号◆は鉱石A[水分率>20重量%]が適用された鉱石スラリー、符号□は鉱石B[水分率>20重量%]が適用された鉱石スラリーを示す。
【0058】
[乾燥処理がSolid%に与える影響]
(1)
図2のグラフ図から、実施例1(
図2中、符号△と符号〇参照)のケースでは、比較例1(
図2中、符号◆と符号□参照)のケースと比較して全ての凝集剤濃度[g/t]の領域においてSolid%[%]が向上しており、その向上効果は少なくとも20%以上であることが確認される。
【0059】
(2)また、実施例1および比較例1の何れのケースにおいても、凝集剤濃度[g/t]を高めているにも拘らずSolid%[%]が悪化していることが確認される。
【0060】
これは、凝集剤を添加することで粘度が増したことや、凝集剤が複数の鉱石を捉えて塊を形成する際に空間ができることに起因して凝集体の嵩が増したため、沈降性が悪化したことが原因であると考えられる。
【0061】
このように
図2のグラフ図は、破砕したニッケル酸化鉱石粒子に予め乾燥処理を施すことの効果を示したものであるが、それだけではなく、凝集剤のみに頼って沈降性を向上させることが容易でないという事実をも裏付けるものである。
【0062】
(3)更に、
図2のグラフ図から、例えば、乾燥処理を施しかつ凝集剤をスラリー中の鉱石1トン当たり150g程度添加した実施例1(
図2中、符号△と符号〇参照)に係るケースのSolid%[%]は、乾燥処理を行わなかった比較例1(
図2において凝集剤濃度[g/t]が0である符号◆参照)における最良のSolid%[%]と比較しても高いことが確認される。
【0063】
この結果は、凝集剤や中和剤等の薬剤を用いることをせずに、沈降性を向上させる手段として本発明が極めて有効であることを示すものである。
【0064】
[実施例2]
上記リモナイト鉱(鉱石A)を適用し、実施例1と同様、破砕した鉱石粒子を130℃で乾燥処理すると共に、乾燥処理時間を変えることで乾燥処理された鉱石粒子の水分率が20重量%以下(鉱石A:水分率≦20重量%)になるよう調整し、かつ、凝集剤の添加量を一定にして実施例1と同様のシックニング(沈降濃縮)処理を行い、Solid%を測定した。
【0065】
【0066】
尚、
図3において、縦軸は、
図1と同じSolid%[%]を示し、横軸は、乾燥処理された鉱石中の水分率[重量%]を示している。
【0067】
[比較例2]
上記リモナイト鉱(鉱石A)を適用し、実施例1と同様、破砕した鉱石粒子を130℃で乾燥処理すると共に、乾燥処理時間を変えることで乾燥処理された鉱石粒子の水分率が20重量%を超える(鉱石A:水分率>20重量%)ように調整し、かつ、凝集剤の添加量を一定にして実施例1と同様のシックニング(沈降濃縮)処理を行い、Solid%を測定した。
【0068】
【0069】
[水分率とSolid%との関係]
(1)
図3のグラフ図から、乾燥処理された鉱石粒子の水分率が20重量%以下(鉱石A:水分率≦20重量%)である実施例2の領域ではSolid%[%]が40%以上であることが確認される。
【0070】
(2)他方、乾燥処理された鉱石粒子の水分率が20重量%を超える(鉱石A:水分率>20重量%)比較例2の領域(水分率が30重量%以上)では、水分率が20重量%以下(鉱石A:水分率≦20重量%)である実施例2の領域に較べてSolid%[%]が明らかに悪化していることが確認される。
【0071】
(3)この結果から、破砕したニッケル酸化鉱石粒子の乾燥処理は、鉱石粒子の水分率が20重量%以下となるよう行うことが好ましい。