(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171482
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】振動発電装置
(51)【国際特許分類】
H02N 1/00 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
H02N1/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088513
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(71)【出願人】
【識別番号】000143949
【氏名又は名称】株式会社鷺宮製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】年吉 洋
(72)【発明者】
【氏名】本間 浩章
(72)【発明者】
【氏名】三屋 裕幸
(57)【要約】
【課題】環境振動の周波数変化に自動的に追従して、出力を安定化させることが可能な振動発電装置を提供する。
【解決手段】本開示の一実施形態による振動発電装置は、エレクトレット型の可動部を備えた振動発電素子であって、負荷抵抗の変化に応じて共振周波数が変化する振動発電素子と、外部振動の位相と可動部の振動の位相との位相比較を行って、位相差に応じた制御電圧を出力する位相比較手段と、負荷抵抗を備え、制御電圧に応じて負荷抵抗が変化することで、振動発電素子の共振を調整する共振調整手段とを備えることを特徴とする。
【選択図】
図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
エレクトレット型の可動部を備えた振動発電素子であって、負荷抵抗の変化に応じて共振周波数が変化する振動発電素子と、
外部振動の位相と前記可動部の振動の位相との位相比較を行って、位相差に応じた制御電圧を出力する位相比較手段と、
前記負荷抵抗を備え、前記制御電圧に応じて前記負荷抵抗が変化することで、前記振動発電素子の共振を調整する共振調整手段と
を備えることを特徴とする振動発電装置。
【請求項2】
前記負荷抵抗は、共振条件が満たされるように前記制御電圧に応じて上昇または低下して、前記共振が調整されることを特徴とする請求項1に記載の振動発電装置。
【請求項3】
前記共振条件は、前記共振周波数の振幅が最大となることを含むことを特徴とする請求項2に記載の振動発電装置。
【請求項4】
前記位相比較手段は、排他的論理和回路によって前記位相比較を行うことを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載の振動発電装置。
【請求項5】
前記位相比較手段は、前記排他的論理和回路から出力されるパルス信号にしたがって充放電を繰り返し、前記制御電圧を出力する充放電回路をさらに備えることを特徴とする請求項4に記載の振動発電装置。
【請求項6】
前記パルス信号のオン期間とオフ期間は、共振条件が満たされている場合に等しくなることを特徴とする請求項5に記載の振動発電装置。
【請求項7】
前記共振調整手段は、前記制御電圧をゲート電圧とし、前記負荷抵抗をON抵抗とする電界効果トランジスタを含み、前記ゲート電圧に応じて前記ON抵抗が変化することを特徴とする請求項1に記載の振動発電装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、振動発電装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、環境振動からエネルギーを収穫するエナジーハーベスティング技術の1つとして、振動発電素子を備えた振動発電装置が知られている。振動発電装置は、振動発電素子の共振周波数が環境振動と同調していると大きな出力が得られるが、環境振動が共振周波数からずれてしまうと、出力が大幅に減少してしまう。
【0003】
特許文献1(段落[0034]~[0048]、
図3参照)には、振動周波数を検出する周波数検出回路を備えた振動発電装置において、振動周波数を監視しながら出力制御回路にフィードバックを行い、検出された周波数に基づいて出力電力が最大となるように出力制御回路のインピーダンスを制御することが開示されている。特許文献1の振動発電装置は、このような構成により、振動周波数が変化した場合でも電力を効率よく取り出すことを目的としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の振動発電装置では、上述した通り、周波数検出回路によって検出された振動周波数に基づくインピーダンスの制御が必要とされ、環境振動の周波数変化に自動的に追従して、出力を安定化させることはできなかった。
【0006】
本開示は、このような問題に鑑みてなされたものであり、環境振動の周波数変化に自動的に追従して、出力を安定化させることが可能な振動発電装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様による振動発電装置は、エレクトレット型の可動部を備えた振動発電素子であって、負荷抵抗の変化に応じて共振周波数が変化する振動発電素子と、外部振動の位相と前記可動部の振動の位相との位相比較を行って、位相差に応じた制御電圧を出力する位相比較手段と、前記負荷抵抗を備え、前記制御電圧に応じて前記負荷抵抗が変化することで、前記振動発電素子の共振を調整する共振調整手段とを備えることを特徴とする。
【0008】
また、本開示の一態様によると、前記負荷抵抗は、共振条件が満たされるように前記制御電圧に応じて上昇または低下して、前記共振が調整されることを特徴とする。
【0009】
また、本開示の一態様によると、前記共振条件は、前記共振周波数の振幅が最大となることを含むことを特徴とする。
【0010】
また、本開示の一態様によると、前記位相比較手段は、排他的論理和回路によって前記位相比較を行うことを特徴とする。
【0011】
また、本開示の一態様によると、前記位相比較手段は、前記排他的論理和回路から出力されるパルス信号にしたがって充放電を繰り返し、前記制御電圧を出力する充放電回路をさらに備えることを特徴とする。
【0012】
また、本開示の一態様によると、前記パルス信号のオン期間とオフ期間は、共振条件が満たされている場合に等しくなることを特徴とする。
【0013】
さらに、本開示の一態様によると、前記共振調整手段は、前記制御電圧をゲート電圧とし、前記負荷抵抗をON抵抗とする電界効果トランジスタを含み、前記ゲート電圧に応じて前記ON抵抗が変化することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本開示によると、環境振動の周波数変化に自動的に追従して、出力を安定化させることが可能な振動発電装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】エレクトレット型の振動発電装置の発電周波数特性を示す図である。
【
図2】一実施形態に係る振動発電装置の概略構成図である。
【
図3】一実施形態に係る共振調整回路及び位相比較器の構成例を説明するための図である。
【
図4】外部振動と可動部振動の位相差が、90度である場合の動作例を説明するための図である。
【
図5】外部振動と可動部振動の位相差が、90度より大きい場合の動作例を説明するための図である。
【
図6】外部振動と可動部振動の位相差が、90度より小さい場合の動作例を説明するための図である。
【
図7】ゲート電圧とON抵抗の関係を示す図である。
【
図8】本開示による振動発電装置の発電量と、従来の振動発電装置による発電量とを比較した図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、添付の図面を参照して、本開示の実施形態について詳細に説明する。本明細書及び添付の図面を通して同じ要素には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0017】
(概要)
図1は、発電素子にエレクトレット電極を使用する、エレクトレット型の振動発電装置の発電周波数特性を示す図である。グラフの横軸は、周波数(Hz)を示し、グラフの縦軸は、発電電力(μW)を示す。ここでは、負荷抵抗を1~15MΩとした場合の周波数と発電電力とのシミュレーション結果を示す。
【0018】
図示されるように、発電素子の負荷抵抗が変化すると、その発電周波数特性も変化する。例えば、負荷抵抗が1MΩから5MΩ、そして15MΩへ変化するに伴い、発電電力のピークも、およそ102Hzから103Hz後半へと変化する。これは、静電力によるハードスプリング効果によるものである。ピーク時の周波数が、発電素子の共振周波数である。
【0019】
本開示による振動発電装置では、共振周波数が負荷抵抗の大きさによって変動する特性を利用して、振動発電装置の発電周波数特性を変化させて、環境振動の周波数に共振周波数を自動追従させる。そうすることで、本開示による振動発電装置は、環境振動の周波数が変動した場合でも安定した発電を行うことが可能になる。
【0020】
(実施形態)
図2は、一実施形態に係る振動発電装置の概略構成図である。振動発電装置100は、発電素子10と、整流回路20と、共振調整回路30と、位相比較器40とを備える。また、振動発電装置100は、外部機器50及び外部負荷60に接続されている。
【0021】
発電素子10は、エレクトレット電極を備える静電容量型の振動発電素子であり、外部機器50の振動、すなわち、環境振動に応じて可動電極11が固定電極12、13に対して振動することにより、発電を行う。可動電極11及び固定電極12、13の少なくとも一方には、可動電極11と固定電極12、13とが対向する面の表面近傍に、エレクトレットが形成されている。なお、可動電極11及び固定電極12、13の構成は、図示した構成に限定されるものではない。このように、発電素子10は、エレクトレット型の可動部を備えている。発電素子10の出力電力は、環境振動との共振周波数において最も大きくなり、環境振動の振動周波数からずれてしまうと大幅に減少する。発電素子10は振動発電装置100の発電機構を構成する。整流回路20は、発電素子10から出力された交流電力を整流して直流電力に変換し、共振調整回路30に出力する。整流回路20は、図示されたように、4つのダイオードを備えて構成することができるが、この構成には限定されない。
【0022】
位相比較器40は、外部機器50の振動、すなわち、環境振動の位相と、発電機構の動きの位相とを比較し、共振調整回路30において共振を調整するための制御電圧を出力する。位相比較器40の詳細は後述する。
【0023】
共振調整回路30は、位相比較器40からの制御電圧に応じて、共振、すなわち、外部振動と発電機構の動きとの位相差を調整する。共振調整回路30の詳細は後述する。
【0024】
本開示による振動発電装置は、共振調整回路30及び位相比較器40を用いることによって、環境振動の振動周波数の変化に自動的に追従することが可能になり、出力が安定化される。なお、上述した概略構成は例示に過ぎず、本開示による振動発電装置の構成を限定するものではない。
【0025】
次に、本開示による振動発電装置の共振調整回路30及び位相比較器40の構成例について説明する。
図3は、一実施形態に係る振動発電装置の共振調整回路30及び位相比較器40の構成例を説明するための図である。なお、整流回路20の図示は省略する。
【0026】
位相比較器40は、排他的論理和(EXOR)回路41と、充放電回路42とを含む。EXOR回路41は、可動部振動、すなわち、発電機構の動きの位相と、外部振動、すなわち、外部機器の振動の位相とを入力とし、パルス信号を出力する。本実施形態では、外部振動を読み取る際に、外部振動と可動部の共振周波数が一致しているときに可動部振動の信号と外部振動の位相が90度ずれたタイミングになるように、振動センサ(図示せず)による外部振動の読み取りタイミングをチューニングしている。可動部振動と外部振動との位相差が90度の場合、すなわち、発電機構が共振している場合には、パルス信号のオン期間とオフ期間が等しくなる。また、位相差が90度より大きい場合は、オン期間がオフ期間より短くなり、位相差が90度より小さい場合は、オン期間がオフ期間より長くなる。なお、EXOR回路41として、フリップフロップ回路を用いてもよい。
【0027】
充放電回路42は、抵抗43及びコンデンサ44を含む。充放電回路42では、EXOR回路41から出力されるパルス信号のオン/オフにしたがってコンデンサ44の充放電が行われ、それに伴って変化する制御電圧が、共振調整回路30へ出力される。パルス信号のオン期間では、コンデンサ44の充電に伴い制御電圧は上昇し、パルス信号のオフ期間では、コンデンサ44の放電とともに制御電圧は低下する。
【0028】
このように、位相比較器40は、EXOR回路41と充放電回路42とによって、外部振動と可動部振動の位相差に応じて制御電圧を出力する。
【0029】
共振調整回路30は、ON抵抗調整用の電界効果トランジスタ(FET)で構成され、位相比較器40からの制御電圧をゲート電圧として用いて、ON抵抗が調整される。ON抵抗が変化することで、
図1に示したように発電周波数特性が変化し、振動発電装置100の共振が外部振動に追従するように制御される。
【0030】
図7は、FETのゲート電圧とON抵抗の関係を示す図である。グラフの横軸はゲート電圧(V)を示し、グラフの縦軸はON抵抗(MΩ)を示す。図示されるように、ゲート電圧の上昇に伴いON抵抗は低下し、ゲート電圧の低下に伴いON抵抗は上昇する。さらに、
図1に示したように、ON抵抗(すなわち、負荷抵抗)が上昇すると、発電周波数特性のピーク周波数は高周波側にシフトし、反対に、ON抵抗が低下すると、発電周波数特性のピーク周波数は低周波側にシフトする。
【0031】
ここで、90度の位相差についてさらに説明する。一般に、二次の共振系では共振周波数で機械的振幅が最大となり、発電素子の発電出力も最大となる。このとき、付随的に、駆動力に対して変位の位相が90度遅れになる。本開示による振動発電装置では、それを観察可能な状態変数としてフィードバックに用いて、共振状態が維持されるようにする。すなわち、共振点でのロックとも言える。位相差が90度であることは、共振条件(すなわち、振幅最大)が満たされていることを示す1つの指標として用いるものであり、位相差は必ずしも90度ではなく、回路構成によって値がずれてもよい。例えば、位相差は、89度や91度などとすることもできる。また、電圧の正負の取り方によっては、位相の90度の遅れは、位相の270度の進みとも言える。共振条件は、共振周波数の振幅が最大となることを含んでよい。
【0032】
次に、
図4~
図6を参照して、共振、すなわち、外部振動と可動部振動との位相差が調整される仕組みについて詳細に説明する。
【0033】
図4は、外部振動と可動部振動の位相差が、90度である場合の動作例を示す。
【0034】
図示されるように、外部振動と可動部振動の位相差が90度である場合、EXOR回路41は、オンとオフが等間隔となるパルス信号を出力する。また、充放電回路42は、EXOR回路41から出力されるパルス信号にしたがって、等間隔で充放電を繰り返す。したがって、充放電回路42から出力される制御電圧はおおむね一定となり、共振調整回路30におけるON抵抗も維持される。よって、振動発電装置の発電周波数特性が維持され、共振状態も維持される。
【0035】
図5は、外部振動と可動部振動の位相差が、90度より大きい場合の動作例を示す。
【0036】
図示されるように、外部振動と可動部振動の位相差が90度より大きい場合、EXOR回路41は、オン期間が短く、オフ期間を長いパルス信号を出力する。また、充放電回路42では、EXOR回路41から出力されるパルス信号にしたがって、充電期間が短くなり、放電期間が長くなる。したがって、充放電回路42から出力される制御電圧は低下し、共振調整回路30にけるON抵抗は上昇する。よって、振動発電装置の発電周波数特性は高周波側にシフトする。
【0037】
この場合、制御電圧は、位相差が90度になるまで上昇し、その後一定となる。すなわち、発電共振周波数特性のピーク周波数は、外部振動と共振するまで高周波側にシフトする。
【0038】
図6は、外部振動と可動部振動の位相差が、90度より小さい場合の動作例を示す。
【0039】
図示されるように、外部振動と可動部振動の位相差が90度より小さい場合、EXOR回路41は、オン期間が長く、オフ期間が短いパルス信号を出力する。また、充放電回路42では、EXOR回路41から出力されるパルス信号にしたがって、充電期間が長くなり、放電期間が短くなる。したがって、充放電回路42から出力される制御電圧は上昇し、共振調整回路30におけるON抵抗は低下する。よって、振動発電装置の発電周波数特性は低周波側にシフトする。
【0040】
この場合、制御電圧は、位相差が90度になるまで低下し、その後一定となる。すなわち、発電周波数特性のピーク周波数は、外部振動と共振するまで低周波側へシフトする。
【0041】
上記の通り、本開示による振動発電装置は、位相差が90度になるように(すなわち、共振条件が満たされるように)ON抵抗が調整されることで、外部振動の周波数変化に自動的に追従して、出力を安定化させることができる。
【0042】
図8は、本開示による振動発電装置の発電量を、従来の振動発電装置による発電量と比較した図である。
【0043】
図8(a)は、外部機器の負荷状態変化による周波数への影響を示す。ここでは、外部機器の負荷状態変化により、数Hzの周波数変動が生じている。
【0044】
図8(b)は、
図8(a)に示した周波数変動の、発電量に対する影響を示す。
図8(b)の上段は、追従システムがある場合、すなわち、本開示による振動発電装置の発電量を示す。一方、
図8(b)の下段は、追従システムがない場合、すなわち、従来の振動発電装置の発電量を示す。
【0045】
図示されるように、外部振動の周波数が変化した状態では、従来の振動発電装置では発電量が大幅に減少してしまうが、本開示による振動発電装置では、外部振動の周波数が変動した際に発電量は若干減少するものの、一時的な減少に留まり、すぐに発電量が回復することができる。
【0046】
以上説明した実施形態によれば、以下の作用効果を奏する。
【0047】
(1)外部振動の周波数が変化しても、自動的に最適な共振状態を維持することができるので、振動発電装置の出力を安定化させることができる。
【0048】
(2)また、共振のずれによる発電出力の大幅な減少を回避することできるので、従来の振動発電装置と同期間で比較した場合に、より大きな発電量を得ることができる。すなわち、振動発電装置の発電効率を向上させることができる。
【符号の説明】
【0049】
10 発電素子
20 整流回路
30 共振調整回路
40 位相比較器
41 EXOR回路
42 充放電回路
43 抵抗
44 コンデンサ
50 外部機器
60 外部負荷
100 振動発電装置