(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171504
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】多層フィルム、及びこれを用いる包装材
(51)【国際特許分類】
B32B 27/18 20060101AFI20241205BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20241205BHJP
B65D 65/40 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B32B27/18 Z
B32B27/32 E
B65D65/40 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088546
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】アウリア アウェルロース
【テーマコード(参考)】
3E086
4F100
【Fターム(参考)】
3E086AA23
3E086AB01
3E086AC07
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3E086CA01
4F100AA21A
4F100AK06A
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4F100JL08A
4F100JL12A
4F100YY00A
(57)【要約】
【課題】本発明の課題は、フィルム物性に優れながらリサイクル性も高く、抗ウイルス性能をも有する多層フィルム及び当該フィルムを用いた包装材を提供することにある。
【解決手段】本発明は、シール層を含む多層フィルムであって、前記多層フィルムを構成する樹脂の90質量%以上が、ポリエチレン系樹脂又はポリプロピレン系樹脂であり、前記シール層に光触媒微粒子を含み、前記多層フィルムの前記シール層側表面の水の接触角の低下が、3度以上である、多層フィルムを提供する。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シール層を含む多層フィルムであって、
前記多層フィルムを構成する樹脂の90質量%以上が、ポリエチレン系樹脂又はポリプロピレン系樹脂であり、
前記シール層に光触媒微粒子を含み、前記多層フィルムの前記シール層側表面の水の接触角の低下が、3度以上である、多層フィルム。
【請求項2】
前記光触媒微粒子が、2価銅化合物が担持された酸化チタンを含有する、請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項3】
前記多層フィルムの前記シール層側表面の水の接触角が、85度以下である、請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項4】
前記多層フィルムを構成する樹脂の90質量%以上が、ポリエチレン系樹脂であり、前記シール層と、前記シール層に隣接する層の樹脂密度の差が0.010g/cm3以上である、請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項5】
前記多層フィルムを構成する樹脂の90質量%以上が、ポリプロピレン系樹脂であり、前記シール層が、プロピレン-エチレンブロック共重合体を含む、請求項1に記載の多層フィルム。
【請求項6】
請求項1~5のいずれかに記載の多層フィルムを有する包装材。
【請求項7】
食品包装用である、請求項6に記載の包装材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高い抗ウイルス性能を有する多層フィルム及びそれを用いた包装材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新型コロナウィルスをはじめとした各種ウイルスや菌等が蔓延し、社会全体における抗菌・抗ウイルス性を付加した製品需要が高まっている。これらの製品としては特に多数の人の手が触れる場所や、使用頻度が高い物品への要望が高いが、従来の設備や物品を全て抗菌・抗ウイルス作用を付与されたものに変更するのは手間やコストがかかるため、簡便な方法でこれらの特性を付与可能とする製品が求められている。
【0003】
従来用いられている抗菌・抗ウイルス剤としては、各種アルコール剤、第4級アンモニウム塩化合物、銀系化合物、銅系化合物等があるが、これらは皮膚への刺激性や、経時変化による抗菌・抗ウイルス性の低減等市場の要求特性を十分に満たすことが出来ていなかった。これに対し、酸化チタン等を用いる光触媒は人体への刺激が少なく、また長期にわたり抗菌・抗ウイルス性能が維持されるため、実用化への期待が高まっている。
【0004】
また、昨今のプラスチック資源循環への注目の高まりから、リサイクルを促進して環境負荷を低減するため、モノマテリアル(単一素材)化が進んでいる。そのため、抗菌・抗ウイルス性を付与した製品であっても、モノマテリアル化によりリサイクル性を向上させていくことが期待されている。
【0005】
光触媒を利用したフィルムとして、モスアイ構造を有する高分子膜に光触媒粒子を担持したフィルムが開示されている(特許文献1)。しかしながら、当該フィルムはベースフィルムに光硬化性化合物を塗布し、モスアイ構造用型により構造を付与しながら硬化させ、その後光触媒を塗布して乾燥させ担持させるという複雑なプロセスにより形成されており、安価に大量に生産することは難しかった。また、包装材として使用できるものでもなかった。さらに、リサイクル性について何らの考慮もなされていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記実情を鑑み、本発明の課題は、フィルム物性に優れながらリサイクル性も高く、抗ウイルス性能をも有する多層フィルム及び当該フィルムを用いた包装材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、かかる課題を解決すべく鋭意研究した結果、シール層を含む多層フィルムであって、前記多層フィルムを構成する樹脂の90質量%以上が、ポリエチレン系樹脂又はポリプロピレン系樹脂であり、前記シール層に光触媒微粒子を含み、前記多層フィルムの前記シール層側表面の水の接触角の低下が、3度以上である、多層フィルムが、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明は、シール層を含む多層フィルムであって、前記多層フィルムを構成する樹脂の90質量%以上が、ポリエチレン系樹脂又はポリプロピレン系樹脂であり、 前記シール層に光触媒微粒子を含み、前記多層フィルムの前記シール層側表面の水の接触角の低下が、3度以上である、多層フィルムを提供する。
【0010】
また、本発明は、上記の多層フィルムを有する包装材、及び食品包装用の包装材を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明の多層フィルム及びこれを用いた包装材は、モノマテリアルであるためリサイクル性に優れ、フィルム物性と抗ウイルス性を好適に両立することができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に、本発明の多層フィルムとこれを用いてなる包装材を構成する各部分について詳述する。
【0013】
<多層フィルム>
本発明の多層フィルムは、シール層を含み、多層フィルムを構成する樹脂の90質量%以上が、ポリエチレン系樹脂又はポリプロピレン系樹脂であり、前記シール層に光触媒微粒子を含み、前記多層フィルムの前記シール層側表面の水の接触角の低下が、3度以上である。
【0014】
<ポリエチレン系多層フィルム>
本発明の多層フィルムは、多層フィルムを構成する樹脂の90質量%以上が、ポリエチレン系樹脂であることが好ましい。このような多層フィルムは、モノマテリアルフィルムとも呼ばれ、リサイクル性が良好になる。以降、多層フィルムを構成する樹脂の90質量%以上が、ポリエチレン系樹脂である多層フィルムを、「ポリエチレン系多層フィルム」と呼称することがある。
【0015】
上記ポリエチレン系樹脂とは、従来公知のポリエチレン系樹脂を使用することができ、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のポリエチレン樹脂等が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0016】
<ポリプロピレン系多層フィルム>
本発明の多層フィルムは、多層フィルムを構成する樹脂の90質量%以上が、ポリプロピレン系樹脂であることも好ましい。このような多層フィルムは、モノマテリアルフィルムとも呼ばれ、リサイクル性が良好になる。以降、多層フィルムを構成する樹脂の90質量%以上が、ポリプロピレン系樹脂である多層フィルムを、「ポリプロピレン系多層フィルム」と呼称することがある。
【0017】
ポリプロピレン系樹脂とは、プロピレン単独重合体又はプロピレン系共重合体を指す。当該ポリプロピレン系共重合体とは、プロピレン70質量%~99質量%とエチレン及び/又は炭素原子数4以上のα-オレフィン30質量%~1質量%との共重合体であり、プロピレン75質量%~99質量%とエチレン及び/又は炭素原子数4以上のα-オレフィン25質量%~1質量%との共重合体であることが好ましく、プロピレン80質量%~99質量%とエチレン及び/又は炭素原子数4以上のα-オレフィン20質量%~1質量%との共重合体であることがより好ましい。当該炭素原子数4以上のα-オレフィンとしては、例えば、1-ブテン等が挙げられる。
また、当該ポリプロピレン系共重合体は、ランダム共重合体でもよいし、ブロック共重合体でもよい。
当該ポリプロピレン系樹脂は、1種単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
【0018】
<シール層>
本発明の多層フィルムは、シール層を含む。当該シール層は、本発明の多層フィルムの一方の面の表面層を構成し、内部に収容する食品等の物品に直接接触する層である。
また、当該シールは酸化チタン組成物を含み、抗菌効果を有する。
【0019】
本発明の多層フィルムのシール層は、ポリオレフィン系樹脂を主成分とすることが好ましい。当該ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂等が挙げられ、特に限定されず、ポリエチレン系樹脂とポリプロピレン系樹脂を併用してもよいし、ポリエチレン系樹脂を複数併用してもよいし、ポリプロピレン系樹脂を複数併用してもよい。
特に、本発明の多層フィルムがポリエチレン系多層フィルムである場合は、当該シール層もポリエチレン系樹脂を使用することが好ましく、本発明の多層フィルムがポリプロピレン系多層フィルムである場合は、当該シール層もポリプロピレン系樹脂を使用することが好ましい。
【0020】
上記ポリエチレン系樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等が挙げられ、それぞれ単独で使用してもよいし、併用してもよい。中でも、直鎖状低密度ポリエチレンであることが好ましい。
【0021】
上記低密度ポリエチレン(LDPE)とは、0.935g/cm3未満の密度を有する、エチレンの単独重合体を意味する。
【0022】
上記直鎖状低密度ポリエチレンとしては、チーグラー・ナッタ触媒に代表されるマルチサイト触媒又はシングルサイト触媒を用いた低圧ラジカル重合法により、エチレン単量体を主成分として、これにコモノマーとしてブテン-1、ヘキセン-1、オクテン-1、4-メチルペンテン等のα-オレフィンを共重合したものであり、密度が0.925g/cm3未満のものを指す。したがって、エチレンの単独重合体である低密度ポリエチレン(LDPE)とは区別される。直鎖状低密度ポリエチレン中のコモノマー含有率としては、0.5~10モル%の範囲であることが好ましく、1~7モル%の範囲であることがより好ましい。なお、コモノマーとしてブテン-1を用いた場合、透明性、耐衝撃性、易引き裂き性等が向上するので好ましく、このとき該ブテン単量体の含有率は、1~5モル%の範囲であることが最も好ましい。
【0023】
上記シングルサイト触媒としては、周期律表第IV又はV族遷移金属のメタロセン化合物と、有機アルミニウム化合物及び/又はイオン性化合物の組合せ等のメタロセン触媒系等の種々のシングルサイト触媒が挙げられる。また、シングルサイト触媒は活性点が均一であるため、活性点が不均一なマルチサイト触媒と比較して、得られる樹脂の分子量分布がシャープになるため、フィルムに成膜した際に低分子量成分の析出が少なく、シール強度の安定性や耐ブロッキング適性に優れた物性の樹脂が得られるので好ましい。
【0024】
上記中密度ポリエチレン(MDPE)とは、0.925g/cm3以上0.942g/cm3未満の密度を有するエチレンとαオレフィンの共重合体を意味する。コモノマーとなるαオレフィンが増えると密度が低下するため、コモノマーは少ない方が好ましく、具体的にはコモノマー比率が0.5~1%であることが好ましいが、この範囲に限定されるものではない。
【0025】
上記高密度ポリエチレン(HDPE)とは、0.942g/cm3以上の密度を有するポリエチレンを意味する。エチレンの単独重合体であってもよいし、エチレンとαオレフィンの共重合体であっても構わないが、コモノマーとなるαオレフィンが増えると密度が低下するため、コモノマーは少ない方が好ましく、具体的にはコモノマー比率が0.5%以下であることが好ましい。
【0026】
市販品では、コモノマー比率が開示されていない場合もあるため、直鎖状低密度ポリエチレンと中密度ポリエチレンと高密度ポリエチレンとは、密度で区別し、低密度ポリエチレンと中密度ポリエチレンでは、エチレンの単独重合体であるか否かで区別すればよい。本発明においては、直鎖状低密度ポリエチレンとして市販されているものであっても、密度が0.925g/cm3以上のものは、中密度ポリエチレンとして扱えばよい。また、例えば密度0.926g/cm3のポリエチレンがあった場合、エチレンの単独重合体であれば低密度ポリエチレン、エチレンとαオレフィン共重合体であれば中密度ポリエチレンとして扱えばよい。
【0027】
また、上記ポリエチレン系樹脂は、メルトフローレート(以下、MFRとも呼称する場合がある)(190℃における)が0.5~30.0g/10分であるものが、押出成形が容易となることから好ましく、より好ましくはMFRが2.0~15.0g/10分のものである。更に、当該ポリエチレン系樹脂が、融点が80~135℃のものであれば、ヒートシール時のフィルムの収縮が起こりにくく、包装適性が向上する。より好ましくは融点が90~130℃のものである。
【0028】
また、当該ポリエチレン系樹脂として、バイオマス由来のポリエチレンを使用してもよく、例えばBraskem社製のバイオマス由来の低密度ポリエチレン(商品名:SBC818、密度:0.918g/cm3、MFR:8.1g/10分)、Braskem社製のバイオマス由来の低密度ポリエチレン(商品名:SPB681、密度:0.922g/cm3、MFR:3.8g/10分)、Braskem社製のバイオマス由来の直鎖状低密度ポリエチレン(商品名:SLL118、密度:0.916g/cm3、MFR:1.0g/10分)等が挙げられる。
【0029】
また、ポリエチレン系樹脂の密度は、良好なシール性と耐衝撃性とを得やすいことから、0.880~0.945g/cm3であることが好ましく、0.890~0.940g/cm3であることがより好ましく、0.890~0.935g/cm3であることが更に好ましい。。
【0030】
また、ポリエチレン系樹脂のMFRは、0.5~50g/10分(190℃、21.18N)、好ましくは1~30g/10分(190℃、21.18N)、より好ましくは2~20g/10分(190℃、21.18N)である。
MFRがこの範囲であると、良好な成膜性が得られる点で好ましい。
【0031】
また、ポリエチレン系樹脂に、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-メチルメタアクリレート共重合体(EMMA)、エチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン-メチルアクリレート(EMA)共重合体、エチレン-エチルアクリレート-無水マレイン酸共重合体(E-EA-MAH)、エチレン-アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)等のエチレン系共重合体;更にはエチレン-アクリル酸共重合体のアイオノマー、エチレン-メタクリル酸共重合体のアイオノマー等を混合して使用してもよい。
【0032】
上記ポリプロピレン系樹脂としては、例えば、プロピレン単独重合体、プロピレン-エチレン共重合体、プロピレン-ブテン-1共重合体、プロピレン-エチレン-ブテン-1共重合体、メタロセン触媒系ポリプロピレン等が挙げられる。これらはそれぞれ単独で使用してもよいし、併用してもよい。特に、当該ポリプロピレン系樹脂として、プロピレン系共重合体を使用すると、シール強度が得やすいため好ましい。当該ポリプロピレン系樹脂を本発明に使用するシール層に用いた場合には、フィルムの耐熱性が向上し、ヒートシール強度を高くすることができるため、特に重量物の包装材として好適に用いることができる。
【0033】
また、本発明の多層フィルムがポリプロピレン系多層フィルムである場合、上記シール層が、プロピレン-エチレンブロック共重合体を含むものであることが好ましい。
【0034】
また、上記ポリプロピレン系樹脂は、MFR(230℃における)が0.5~30.0g/10分で、融点が120~165℃であるものが好ましく、より好ましくは、MFR(230℃における)が2.0~15.0g/10分で、融点が125~162℃のものである。MFR及び融点が当該範囲であれば、ヒートシール時のフィルムの収縮が少なく、更にフィルムの成膜性も向上する。
【0035】
上記プロピレン系樹脂の含有量としては、上記シール層に含まれる樹脂成分の総量に対して、50質量%以上99質量%以下が好ましく、50質量%以上95質量%以下がより好ましく、50質量%以上90質量%以下がさらに好ましい。当該範囲であると、シール性と剛性を両立しやすい。
【0036】
上記プロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、温度190℃、及び荷重2.16kgの測定条件において、1.0g/10分間~50.0g/10分間が好ましく、3.0g/10分間~45.0g/10分間がより好ましく、3.0g/10分間~12.0g/10分間が更に好ましい。
【0037】
上記プロピレン系樹脂の密度としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、0.89g/cm3~0.93g/cm3が好ましく、0.90g/cm3~0.92g/cm3がより好ましい。
【0038】
上記プロピレン系樹脂の融点としては、特に制限はなく目的に応じて適宜選択することができるが、110℃~170℃が好ましく、121℃~166℃がより好ましく、121℃~140℃がさらに好ましい。
【0039】
上記シール層に用いる樹脂としては本発明の効果を損なわない範囲で、その他の樹脂を併用しても良い。当該他の樹脂としては、例えば、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-αオレフィン共重合体等のポリエチレン系エラストマー、ポリプロピレン系エラストマー、ブテン系エラストマー等の熱可塑性エラストマー;エチレン メチルメタアクリレート共重合体(EMMA)、エチレン エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン メチルアクリレート(EMA)共重合体、エチレン エチルアクリレート 無水マレイン酸共重合体(E EA MAH)、エチレン アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン メタクリル酸共重合体(EMAA)等のエチレン系共重合体;更にはエチレン アクリル酸共重合体のアイオノマー、エチレン メタクリル酸共重合体のアイオノマー等を例示できる。上記他の樹脂を使用する場合には、その含有量がシール層に含まれる樹脂成分中の30質量%以下で使用することが好ましく、20質量%以下で使用することがより好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。
【0040】
<光触媒微粒子>
本発明に使用する光触媒微粒子は、光触媒活性を有する金属酸化物組成物を主成分とする粒子である。光触媒としては、公知の光触媒を使用することができ、例えば、酸化チタン及び酸化タングステンが挙げられる。なお、光触媒微粒子には、紫外光や可視光により光触媒活性を有する金属酸化物組成物だけでなく、光がなくとも(つまり暗所であっても)活性を有する金属酸化物組成物も含む。
【0041】
酸化タングステンとしては、例えば、WO3(三酸化タングステン)、WO2、WO、W2O3、W4O5、W4O11、W25O73、W20O58、及びW24O68、並びにこれらの混合物が挙げられる。抗菌・抗ウイルス作用を更に向上させる観点から、酸化タングステンとしては、WO3が好ましい。
【0042】
光触媒微粒子中の酸化タングステンの結晶構造は、特に限定されない。酸化タングステンの結晶構造としては、例えば、単斜晶、三斜晶、斜方晶、及びこれらのうち少なくとも2種の混晶が挙げられる。
【0043】
本発明の多層フィルムにおいては、光触媒微粒子として特に酸化チタンを使用することが好ましい。また、当該酸化チタンとしては、ジルコニウム及びニオブからなる群から選ばれる少なくとも1種の金属元素とを実質的に含むものであることが好ましい。
【0044】
前記酸化チタンとしては、ルチル型酸化チタンを含むものであることが好ましい。前記ルチル型酸化チタンの含有率(ルチル化率)としては、より一層優れた明所及び暗所における抗ウイルス性、明所における有機化合物分解性、及び、可視光応答性が得られる点から、15モル%以上であることが好ましく、50モル%以上あることがより好ましく、90モル%以上が更に好ましい。
【0045】
前記酸化チタンとしては、前記ルチル型酸化チタン以外には、アナターゼ型酸化チタン、ブルッカイト型酸化チタン等が含まれていてもよい。
【0046】
本発明においては、前記酸化チタンとしては、気相法及び液相法いずれの方法で製造されたものでも用いることができるが、液相法により製造されたものを用いることが好ましい。
【0047】
前記酸化チタン組成物の製造方法としては、一般的に、液相法と気相法とが知られており、そのいずれを用いることもできるが、気相法で製造された酸化チタンがより好適である。前記液相法とは、イルメナイト鉱等の原料鉱石を溶解した液から得られる硫酸チタニルを、加水分解又は中和して酸化チタンを得る方法である。より詳しくは、液相法には、硫酸法と塩素法の2種類あり、本発明では、いずれの製造方法により製造された酸化チタンも好適に使用することができる。ここで、硫酸法は、イルメナイト鉱石やチタンスラグを原料とし、これを濃硫酸に溶解して鉄分を硫酸鉄として分離する工程、分離した溶液を加水分解して水酸化物の沈殿物を得る工程、該沈殿物を焼成してルチル型酸化チタンを取り出す工程を有する。また、塩素法は、合成ルチルや天然ルチルを原料とし、これを950℃以上の高温で塩素ガスと反応させて四塩化チタンを合成する工程、必要に応じて精留処理する工程を経た後、これを酸素で酸化してルチル型酸化チタンを取り出す工程をいう。また、気相法とは、ルチル鉱等の原料鉱石を塩素化して得られる四塩化チタンと、酸素との気相反応により酸化チタンを得る方法である。気相法で得られた酸化チタンは、粒子径が均一であると同時に、製造時に高温プロセスを経由しているため、結晶性が高いものとなる。その結果、得られる光触媒の、明所及び暗所における抗ウイルス性や、有機化合物分解性及び抗菌性が良好なものとなる。
【0048】
前記酸化チタンは、ジルコニウム、ニオブ等の金属元素を含むことが好ましい。ジルコニウム、ニオブ等の金属元素を含む酸化チタンは、酸化チタン組成物とも言える。
【0049】
本発明において酸化チタンの原料鉱石としてはイルメナイト鉱石を用いてもよいし、イルメナイト鉱石を冶金処理してチタン純度を高めたチタンスラグを用いてもよい。
酸化チタン組成物におけるチタン100に対するジルコニウムの含有比(Zr/Ti比)は、好ましくは0.03以上、より好ましくは0.04以上、さらに好ましくは0.05以上であり、また、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.5以下、さらに好ましくは0.3以下である。これらの上限及び下限はいずれの組み合わせでもよい。酸化チタン組成物におけるチタン100に対するジルコニウムの含有比(Zr/Ti比)は、好ましくは0.03~0.8、より好ましくは0.04~0.5、さらに好ましくは0.05~0.3である。酸化チタン組成物におけるチタン100に対するニオブの含有比(Nb/Ti比)は、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.08以上、さらに好ましくは0.1以上であり、また、好ましくは0.8以下、より好ましくは0.5以下、さらに好ましくは0.3以下である。これらの上限及び下限はいずれの組み合わせでもよい。酸化チタン組成物におけるチタン100に対するニオブの含有比(Nb/Ti比)は、好ましくは0.05~0.8、より好ましくは0.08~0.5、さらに好ましくは0.10~0.3である。上記範囲内の酸化チタン組成物であれば、溶媒への分散性が高く酸化チタンの濃度を高めても混合液の取扱いが良好である。
【0050】
酸化チタンが金属元素(ジルコニウム及び/又はニオブ)を実質的に含むとは、酸化チタンにおける金属元素の含有比がチタン100に対して0.02以上であることを意味する。金属元素(ジルコニウム及び/又はニオブ)を実質的に含む酸化チタンは、金属元素(ジルコニウム及び/又はニオブ)を実質的に含む酸化チタン組成物である。
本発明における金属元素(ジルコニウム及び/又はニオブ)を実質的に含む酸化チタンは、1次粒子に起因する比表面積(BET値)に対して、凝集力は少なく混合液の粘度を抑制することが可能であり、酸化チタンの濃度を向上させやすい。
【0051】
前記酸化チタンのBET比表面積としては、より一層優れた抗ウイルス性、及び、可視光応答性が得られる点から、1~200m2/gの範囲が好ましく、3~100m2/gの範囲がより好ましく、4~70m2/gの範囲がより好ましく、8~50m2/gの範囲が更に好ましく、抗ウイルス剤の生産性をより一層高めることができる点から、7.5~9.5m2/gの範囲であることが好ましい。なお、前記ルチル型酸化チタンのBET比表面積の測定方法は、後述する実施例にて記載する。
【0052】
前記酸化チタンの1次粒子径としては、より一層優れた抗ウイルス性、及び、可視光応答性が得られる点から、0.01~0.5μmの範囲が好ましく、0.03~0.35μmの範囲がより好ましく0.06~0.35μmの範囲がさらに好ましい。なお、前記酸化チタンの1次粒子径の測定方法は、透過型電子顕微鏡(TEM)を使用して、電子顕微鏡写真から一次粒子の大きさを直接計測する方法で測定した値を示す。具体的には、個々の酸化チタンの1次粒子の短軸径と長軸径を計測し、平均をその1次粒子の粒子径とし、次に100個以上の酸化チタン粒子について、それぞれの粒子の体積(重量)を、求めた粒子径の立方体と近似して求め、体積平均粒径を平均1次粒子径とした。
【0053】
酸化チタン組成物は、金属化合物が担持されたものであることが好ましい。酸化チタン組成物が金属化合物を担持することで、酸化チタン組成物の可視光領域における光触媒活性(抗ウイルス活性及び汚れ成分の分解活性)を向上することができる。金属化合物によっては様々な機能を酸化チタン組成物に付与することができる。
金属化合物を担持する酸化チタン組成物において、金属元素(ジルコニウム及び/又はニオブ)の含有比は、金属化合物を担持する前の酸化チタン組成物と同様である。
【0054】
金属化合物の金属としては、例えば、銅、鉄、タングステン、ジルコニウム、モリブデン等の遷移金属を用いることができる。金属化合物の金属としては、所望の物性に応じて他にも、亜鉛、アルミニウム、アンチモン、スズ等の金属を用いることができる。酸化チタン組成物は、所望の物性に応じて無機化合物を担持してもよく、例えばケイ素を用いてもよい。これらの中でも、より一層優れた抗菌性、及び、抗ウイルス性が得られる点から、銅化合物が好ましく、2価銅化合物がより好ましい。
【0055】
前記2価銅化合物としては、例えば、2価銅無機化合物、2価銅有機化合物等を用いることができる。
前記2価銅無機化合物としては、例えば、硫酸銅、硝酸銅、沃素酸銅、過塩素酸銅、シュウ酸銅、四ホウ酸銅、硫酸アンモニウム銅、アミド硫酸銅、塩化アンモニウム銅、ピロリン酸銅、炭酸銅等の2価銅の無機酸塩;塩化銅、フッ化銅、臭化銅等の2価銅のハロゲン化物;酸化銅、硫化銅、アズライト、マラカイト、アジ化銅等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0056】
前記2価銅有機化合物としては、例えば、蟻酸銅、酢酸銅、プロピオン酸銅、酪酸銅、吉草酸銅、カプロン酸銅、エナント酸銅、カプリル酸銅、ペラルゴン酸銅、カプリン酸銅、ミスチン酸銅、パルミチン酸銅、マルガリン酸銅、ステアリン酸銅、オレイン酸銅、乳酸銅、リンゴ酸銅、クエン酸銅、安息香酸銅、フタル酸銅、イソフタル酸銅、テレフタル酸銅、サリチル酸銅、メリト酸銅、シュウ酸銅、マロン酸銅、コハク酸銅、グルタル酸銅、アジピン酸銅、フマル酸銅、グリコール酸銅、グリセリン酸銅、グルコン酸銅、酒石酸銅、アセチルアセトン銅、エチルアセト酢酸銅、イソ吉草酸銅、β-レゾルシル酸銅、アセト酢酸銅、ホルミルコハク酸銅、サリチルアミン酸銅、ビス(2-エチルヘキサン酸)銅、セバシン酸銅、ナフテン酸銅、オキシン銅、アセチルアセトン銅、エチルアセト酢酸銅、トリフルオロメタンスルホン酸銅、フタロシアニン銅、銅エトキシド、銅イソプロポキシド、銅メトキシド、ジメチルジチオカルバミン酸銅等を用いることができる。これらの化合物は単独で用いても2種以上を併用してもよい。
【0057】
上記2価銅化合物のうち、好ましくは酸化銅、2価銅のハロゲン化物、2価銅の無機酸塩及び2価銅のカルボン酸塩の1種又は2種以上であり、例えば2価銅のハロゲン化物、2価銅の無機酸塩及び2価銅のカルボン酸塩の1種又は2種以上である。
【0058】
前記2価銅化合物原料としては、前記したものの中でも、下記一般式(1)で示されるものを用いることが好ましい。
CuX2(1)
(式(1)において、Xは、ハロゲン原子、CH3COO、NO3、又は、(SO4)1/2を示す。)
【0059】
前記式(1)におけるXとしては、ハロゲン原子であることがより好ましく、塩素原子が更に好ましい。
【0060】
これらの2価銅化合物のうち、より不純物が少なく、経済的な観点から、2価銅無機化合物がより好ましく、酸化銅が更に好ましい。また、上記一般式(1)で表される2価銅化合物も好ましい。2価銅化合物は、無水物であっても水和物であってもよい。
【0061】
前記酸化チタン組成物に担持物(金属化合物又は無機化合物)を担持させる加工方法としては、湿式であれば公知の手法を用いることができる。例えば、担持物と溶媒の水溶液中に酸化チタン組成物を懸濁した混合液で吸着させる方法、酸化チタン組成物と担持物と溶媒とアルカリ性物質との混合液で反応させる方法等が挙げられる。加工の際は混合液を作る。混合液は、少なくとも酸化チタン組成物と溶媒を含むものである。
【0062】
前記混合液における前記酸化チタン組成物の濃度としては、3~40質量%の範囲が好ましい。なお、本発明においては、液相法により製造された酸化チタンを用いることが好ましく、酸化チタンの濃度を高めても取扱いの良好な混合液で反応を行うことができる。具体的には、前記酸化チタン組成物の濃度が、25質量%を超えて40質量%以下の範囲でも良好な混合液での反応を行うことができる。
【0063】
混合液における担持物原料の使用量としては、前記酸化チタン100質量部に対して、0.01~20質量部の範囲であることが好ましく、0.1~15質量部の範囲がより好ましく、0.3~10質量部の範囲が更に好ましい。0.01質量部以上であると、抗ウイルス性だけでなく抗菌性も良好なものとなる。また、20質量部以下であると、酸化チタン表面が被覆されてしまうことが防止されて抗ウイルス性が良好に発現すると共に、少量で抗ウイルス性を向上することができて経済的である。この観点から、2価銅化合物の銅換算含有量は、酸化チタン100質量部に対して、より好ましくは0.1質量部以上、さらに好ましくは0.3質量部以上から、好ましくは20質量部以下、より好ましくは15質量部以下、さらに好ましくは10質量部以下までの範囲である。
【0064】
ここで、この酸化チタン100質量部に対する2価銅化合物の銅換算含有量は、2価銅化合物の原料と酸化チタンの原料との仕込み量から算出することができる。
【0065】
前記酸化チタン組成物に担持物(金属化合物又は無機化合物)を担持させる加工方法における溶媒は、水のみを用いてもよく、また水と有機溶剤との混合溶媒を用いてもよい。混合溶媒の場合、水を主成分とする水性溶媒が好ましい。ここで水を主成分とする水性溶媒とは、溶媒全量において水の含有量が最も多いものをいい、50質量%以上が水であることが好ましい。
有機溶剤を含有する混合溶媒の場合は、所望の混合液の性質に応じて有機溶剤の組成を決定する。混合溶媒は、環境負荷低減と安全性向上の観点から、有機溶剤を溶媒全量中30質量%以下で含有することが好ましく、5質量%以下で含有することが好ましい。
【0066】
溶媒に使用可能な有機溶剤としては特に限定はないが、例えば、水と混和する有機溶剤が好ましく用いられる。溶媒に使用可能な有機溶剤としては、メタノール、エタノール、1-プロパノール、2-プロパノール、1-ブタノール、イソブタノール、1-ペンタノール、2-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-3-ペンタノール等の単官能アルコール、 エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、1,8-オクタンジオール、1,9-ノナンジオール、1,10-デカンジオール、1,12-ドデカンジオール、プロピレングリコール、1,2-ブタンジオール、3-メチル-1,3ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、2-メチル―1,3-プロパンジオール、1,2-ヘキサンジオール、ジプロピレングリコール、ジエチレングリコール等の各種ジオール、グリセリン等の多価アルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等のケトン、ジメチルホルムアミド、テトラヒドロフラン、 ビスフェノールA、ビスフェノールAの炭素原子数2又は3のアルキレンオキサイド(平均付加モル数1以上16以下)付加物である芳香族ジオール、水素添加ビスフェノールA等の脂環式ジオールポリオキシプロピレン-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ポリオキシエチレン-2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン、シクロヘキサンジオール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、エチルカルビトール、γ-ブチロラクトン、等が挙げられる。これらは1種で使用してもよく2種以上混合して使用してもよく限定はない。
中でも、1-ブタノール、イソブタノール、1-ペンタノール、2-メチル-2-ペンタノール、3-メチル-3-ペンタノール、メチルエチルケトン、メタノール、エタノール、n-プロピルアルコール(NPA)、イソプロピルアルコール(IPA)、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノメチルエーテル(1-メトキシ2-プロパノール)(PGM)、エチレングリコールが好ましい。
【0067】
前記アルカリ性物質としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、テトラメチルアンモニウムハイドロオキサイド、テトラブチルアンモニウムヒドロキシド、トリエチルアミン、トリメチルアミン、アンモニア、塩基性界面活性剤等を用いることができ、水酸化ナトリウムを用いることが好ましい。
【0068】
前記アルカリ性物質は、反応を制御しやすい点から、溶液として添加するのが好ましく、添加するアルカリ溶液の濃度としては、0.1~5mol/Lの範囲であることが好ましく、0.3~4mol/Lの範囲がより好ましく、0.5~3mol/Lの範囲が更に好ましい。
【0069】
次に、最も好ましい態様である、酸化チタンに2価銅化合物を担持する方法について説明する。
【0070】
前記混合液は、前記酸化チタン、2価銅化合物原料、溶媒、及び、アルカリ性物質を混合すればよく、例えば、まず水に酸化チタンを混合するとともに必要に応じて撹拌し、次いで、2価銅化合物原料を混合し、撹拌し、その後、アルカリ性物質を添加して撹拌する方法が挙げられる。この混合液により、前記2価銅化合物原料由来の2価銅化合物が前記酸化チタンに担持することとなる。
【0071】
前記混合液における全体の撹拌時間としては、例えば、5~120分間が挙げられ、好ましくは10~60分間である。混合液の反応温度としては、例えば、室温~70℃の範囲が挙げられる。
【0072】
酸化チタンへの2価銅化合物の担持が良好である点から、前記酸化チタン、2価銅化合物原料、及び、水を混合・撹拌し、その後アルカリ性物質を混合・撹拌した後の混合液のpHとしては、好ましくは8~11の範囲であり、より好ましくは9.0~10.5の範囲である。
【0073】
前記混合液での反応が終了した後には、固形分を分離することができる。前記分離を行う方法としては、例えば、濾過、沈降分離、遠心分離、蒸発乾燥等が挙げられるが、濾過が好ましい。分離した固形分は、その後必要に応じて、水洗、解砕、分級等を行ってもよい。
【0074】
前記固形分を得た後には、前記酸化チタン上に担持された前記2価銅化合物原料由来の2価銅化合物を、より強固に結合することができる点から、固形分を熱処理することが好ましい。熱処理温度としては、好ましくは150~600℃の範囲であり、より好ましくは250~450℃の範囲である。また、熱処理時間は、好ましくは1~10時間であり、より好ましくは、2~5時間である。
【0075】
以上の方法によって、酸化チタンに2価銅化合物が担持された酸化チタンを含有する酸化チタン組成物が得られる。酸化チタンに担持された2価銅化合物の担持量としては、酸化チタン100質量部に対して、0.01~20質量部の範囲であることが、抗ウイルス性を含む光触媒活性の点から好ましい。前記2価銅化合物の担持量は、前記混合液における前記2価銅化合物原料の使用量によって調整することができる。
【0076】
酸化チタン組成物への2価銅化合物の担持量は、以下のように測定できる。
酸化チタン組成物を、フッ酸溶液で全溶解し、抽出液をICP発光分光分析装置により分析して、酸化チタン100質量部に対する2価銅化合物の担持量(質量部)を定量した。
【0077】
混合液は、本発明の効果を得られる限り、他の成分を含んでいてもよい。他の成分としては、顔料、レベリング剤、消泡剤、可塑剤、赤外線吸収剤、紫外線吸収剤、芳香剤、難燃剤等が挙げられる。また、本発明における混合液は、酸化チタン組成物の分散体であり、抗ウイルス剤、コーティング剤、着色剤等としても利用できる。着色剤としては一般のインキ、塗料、及び記録剤等が挙げられる。
【0078】
本発明に用いる光触媒微粒子は、上記のような2価銅化合物が担持された酸化チタンを含有することが好ましいが、本発明の目的を阻害しない範囲内において、他の任意成分を含有していてもよい。ただし、抗ウイルス性の向上の観点から、光触媒微粒子中における当該必須成分の含有量は、好ましくは90質量%以上であり、より好ましくは95質量%以上であり、更に好ましくは99質量%以上であり、特に好ましくは100質量%である。
【0079】
本発明の光触媒微粒子をシール層に添加する際に、当該光触媒微粒子は、マスターバッチの状態で添加されることが好ましい。当該マスターバッチは、熱可塑性樹脂と、光触媒微粒子とを配合して、溶融混練する工程を有する方法により製造することができる。より具体的には、上記した各成分を熱可塑性樹脂と、光触媒微粒子とが所定の配合量となるよう配合し、必要に応じてV型ブレンダー、リボンブレンダー、ヘンシェルミキサー等の混合機により予備混合したのち、単軸押出型混練機、オープンロールミキサー、加圧型ニーダー、バンバリーミキサー、二軸押出型混練機等、既知の混合機を用い、樹脂設定温度を融点以上にして溶融混練する。このなかでも二軸押出型混練機は混練性、生産性の点で好ましい。溶融混練後、常法にしたがってペレット等に加工することにより、当該マスターバッチが得られる。
【0080】
また、上記マスターバッチの製造方法において、前記光触媒微粒子は、光触媒微粒子を含有する水分散体であってよい。すなわち、本発明の抗ウィルス性マスターバッチは、さらに、予め、光触媒微粒子と、分散剤と、水を混合して、上記光触媒微粒子を含有する水分散体を準備する工程(I)を有し、前記光触媒微粒子を前記水分散体として熱可塑性樹脂と配合して、溶融混合する工程(II)と、を有する方法により製造することもできる。
【0081】
前記工程(I)において分散剤としては、例えば、分散剤としては、アニオン性、ノニオン性、カチオン性、両イオン性等の界面活性剤を使用することができる。例えばポリエチレンイミンにポリエステル付加させた櫛型構造高分子化合物、あるいはα-オレフィンマレイン酸重合物のアルキルアミン誘導体等が挙げられる。具体的にはソルスパーズシリーズ(LUBRIZOL)、アジスパーシリーズ(味の素)、ホモゲノールシリーズ(花王)等を挙げることができる。またBYKシリーズ(ビックケミー)、EFKAシリーズ(EFKA)等も適宜使用できる。本発明に用いる水分散体は、このような分散剤の存在下で前記光触媒微粒子を水中に分散させることが可能となる。
【0082】
前記工程(I)において当該分散剤の配合量は、特に限定されないが、分散性に優れる観点から、光触媒微粒子100質量部に対して、好ましくは1質量部以上、より好ましくは10質量部以上であり、そして、好ましくは100質量%以下、より好ましくは50質量%以下の範囲としてよい。
【0083】
前記工程(I)において当該水の配合量は、特に限定されないが、分散性に優れる観点から、光触媒微粒子、分散剤及び水(すなわち、水分散体)の合計量に対して、光触媒微粒子が、好ましくは1質量%以上、より好ましくは10質量%以上から、好ましくは80質量%以下、より好ましくは50質量%以下の範囲となるよう適宜調整すればよい。
【0084】
前記工程(II)では、工程(I)で調整した水分散体を、熱可塑性樹脂と、光触媒微粒子とが所定の配合量となるよう配合し、樹脂設定温度を熱可塑性樹脂の溶融以上にして溶融混練する。
【0085】
溶融混合の際には、押出機(単軸押出機、二軸押出機)、ニーダー、バンバリーミキサー等の混練機を用いることができ、なかでも、連続的に混練できる点で、混練押出機が好ましい。
【0086】
前記工程(II)の溶融混練後、常法にしたがってペレット等に加工することにより、上記光触媒微粒子マスターバッチが得られる。
【0087】
光触媒微粒子マスターバッチとシール層に用いられる樹脂との混合方法は、特に限定されず、従来公知の方法で混合することができる。例えば、ドライブレンドでもよいし、メルトブレンドでもよい。なかでもメルトブレンドが好ましく具体的には、例えば当該光触媒微粒子マスターバッチを、押出機等の溶融混練装置に当該抗菌剤と当該樹脂をメルトブレンドにてコンパウンドし、ペレット化して製造することが好ましい。
【0088】
本発明に使用するシール層中の上記光触媒微粒子の含有量は、1~15質量%であることが好ましく、2~10質量%であることが好ましく、3~8質量%であることがより好ましい。当該光触媒微粒子の含有量がこの範囲であれば、多層フィルムとしての特性や品質を確保しながら、充分な抗菌抗ウイルス性を付与できる。
【0089】
<その他の層>
本発明の多層フィルムは、多層フィルムを構成する樹脂の90質量%以上が、ポリエチレン系樹脂又はポリプロピレン系樹脂であれば、シール層以外のその他の層を含んでいてもよい。
当該その他の層としては、ポリエチレン系樹脂又はポリプロピレン系樹脂を含む中間層、環状オレフィン系樹脂層、最外層等が挙げられる。
【0090】
<中間層>
本発明の多層フィルムは、中間層を有することが好ましい。当該中間層としては、ポリエチレン系多層フィルムであれば、ポリエチレン系樹脂を含み、ポリプロピレン系多層フィルムであれば、ポリプロピレン系樹脂を含むことが好ましい。
当該ポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂としては、上記シール層にて例示したものを使用することができる。特に、中間層は、シール層と剛性の異なる樹脂を含むものであることが好ましく、シール層よりも剛性の高い樹脂を含むものであることがより好ましく、シール層よりも剛性の高い樹脂層であることがより好ましい。
具体的には、中間層に用いるポリエチレン系樹脂としては、高密度ポリエチレンを含むものであることが好ましく、高密度ポリエチレンと直鎖状低密度ポリエチレン又は低密度ポリエチレンとを含むものであることがより好ましく、高密度ポリエチレンと直鎖状低密度ポリエチレンを混合したものであることが更に好ましい。また、中間層に用いるポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン単独重合体を含むものであることが好ましく、プロピレン単独重合体のみからなるものであることがより好ましい。
【0091】
上記中間層がシール層と剛性の異なる樹脂を含むものである場合、シール層と中間層の剛性の違いにより、フィルム製造の際の押出成形工程において、シール層中の光触媒微粒子がシール層中にとどまりやすくなる傾向にある。また、当該中間層がシール層よりも剛性の高い樹脂を含むものである場合、光触媒微粒子が多層フィルムのシール層側表面に突出しやすくなる傾向にある。さらに、当該中間層がシール層よりも剛性の高い樹脂層である場合、光触媒微粒子が多層フィルムのシール層側表面に突出する傾向がさらに強くなる。光触媒微粒子が多層フィルムのシール層側表面に突出することにより、抗菌抗ウイルス機能をより効率的に発揮することができるようになる。
【0092】
中間層に用いるポリエチレン系樹脂として高密度ポリエチレンと直鎖状低密度ポリエチレン又は低密度ポリエチレンとを含むものを使用する場合、高密度ポリエチレン系樹脂は、密度0.950g/cm3以上の高密度ポリエチレンであることが好ましく、中でも密度0.955g/cm3以上の高密度ポリエチレンであることが好ましい。当該高密度ポリエチレンの密度が当該範囲であると、易引き裂き性、包装適性向上が期待できる。また、当該高密度ポリエチレンは、MFR(190℃)が5~20g/10分の流動性の良好なものであることが、上記直鎖状低密度ポリエチレン又は低密度ポリエチレンと共に溶融混練して押出成形した場合に比較的分散が良好になり、表面が平滑で透明性の良いフィルムが得られることから好ましい。
【0093】
中間層に用いるポリエチレン系樹脂として高密度ポリエチレンと直鎖状低密度ポリエチレン又は低密度ポリエチレンとを含むものを使用する場合、上記中間層中の上記直鎖状低密度ポリエチレン又は低密度ポリエチレンの含有率は25~65質量%であることが好ましく、縦方向と横方向との引き裂き性により優れる観点から35~65質量%含有することが特に好ましい。また、上記高密度ポリエチレンの中間層中の含有率としては、透明性・平滑性・水蒸気透過性の観点並びに中間層以外のその他の層との接着強度の観点から35~75質量%であることが好ましく、35~65質量%であることがより好ましい。
【0094】
上記中間層に用いる樹脂としては本発明の効果を損なわない範囲で、その他の樹脂を併用しても良い。当該その他の樹脂としては、上記シール層に使用する上記その他の樹脂と同様のものを使用でき、好ましい範囲も同様である。
【0095】
<環状オレフィン系樹脂層>
本発明の多層フィルムは、環状オレフィン系樹脂層を含んでいてもよい。当該環状オレフィン系樹脂層は、環状オレフィン系樹脂を主成分とする。すなわち当該環状オレフィン系樹脂層全質量に対し、環状オレフィン系樹脂を60質量%以上含む。
【0096】
上記環状オレフィン系樹脂としては、例えば、ノルボルネン系重合体、ビニル脂環式炭化水素重合体、環状共役ジエン重合体等が挙げられる。これらの中でも、ノルボルネン系重合体が好ましい。また、ノルボルネン系重合体としては、ノルボルネン系単量体の開環重合体(以下、「COP」と称する場合がある)、ノルボルネン系単量体とエチレン等のオレフィンを共重合したノルボルネン系共重合体(以下、「COC」と称する場合がある)等が挙げられる。COP及びCOCの水素添加物が特に好ましい。また、当該環状オレフィン系樹脂の重量平均分子量は、5,000~500,000が好ましく、より好ましくは7,000~300,000である。
【0097】
上記ノルボルネン系重合体と原料となるノルボルネン系単量体は、ノルボルネン環を有する脂環族系単量体である。このようなノルボルネン系単量体としては、例えば、ノルボルネン、テトラシクロドデセン、エチリデンノルボルネン、ビニルノルボルネン、エチリデテトラシクロドデセン、ジシクロペンタジエン、ジメタノテトラヒドロフルオレン、フェニルノルボルネン、メトキシカルボニルノルボルネン、メトキシカルボニルテトラシクロドデセン等が挙げられる。これらのノルボルネン系単量体は、単独で用いても、2種以上を併用しても良い。
【0098】
上記ノルボルネン系共重合体(COC)は、上記ノルボルネン系単量体と共重合可能なオレフィンとを共重合したものであり、このようなオレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン等の炭素原子数2~20個を有するオレフィン;シクロブテン、シクロペンテン、シクロヘキセン等のシクロオレフィン;1,4-ヘキサジエン等の非共役ジエン等が挙げられる。これらのオレフィンは、それぞれ単独でも、2種類以上を併用することもできる。
【0099】
また、上記ノルボルネン系共重合体(COC)中のノルボルネン系単量体の含有比率は、40~90モル%が好ましく、より好ましくは50~80モル%である。含有比率がこの範囲にあれば、フィルムの剛性、引き裂き性、加工安定性が向上する。
【0100】
上記環状オレフィン系樹脂として用いることができる市販品として、ノルボルネン系モノマーの開環重合体(COP)としては、例えば、日本ゼオン株式会社製「ゼオノア(ZEONOR)」等が挙げられ、ノルボルネン系共重合体(COC)としては、例えば、三井化学株式会社製「アペル」、チコナ(TICONA)社製「トパス(TOPAS)」等が挙げられる。
【0101】
上記環状オレフィン系樹脂層中の上記環状オレフィン系樹脂の含有率は60質量%以上であることが好ましく、縦方向と横方向との引き裂き性により優れる観点から80質量%以上であることが好ましい。
また、当該環状オレフィン系樹脂層に、本発明の効果を損なわない範囲において環状オレフィン系樹脂以外の樹脂が含まれていてもよく、当該環状オレフィン系樹脂以外の樹脂としては、当該環状オレフィン系樹脂と混合できる樹脂であれば、特に限定されない。例えば、低密度ポリエチレン系樹脂との混合物、高密度ポリエチレン樹脂との混合物、又は低密度ポリエチレン系樹脂と高密度ポリエチレン系樹脂と環状ポリオレフィン系樹脂との混合物であっても良い。
【0102】
<環状オレフィン系樹脂層の厚み>
上記環状オレフィン系樹脂層の厚みは、2μm以上であることが好ましく、3μm以上であることがより好ましく、5μm以上であることが特に好ましい。
また、本発明の多層フィルムは、当該環状オレフィン系樹脂層により、環状オレフィン系樹脂以外の樹脂を使用した多層フィルムより厚みが薄くても、水蒸気バリア機能を発現し、特に食品包装等に好適に使用することができる。
【0103】
また、本発明の多層フィルム全体における環状オレフィン系樹脂層の比率は、特に限定されず、多層フィルムを構成する樹脂の環状オレフィン系樹脂の比率が10質量%未満(すなわち、多層フィルムを構成する樹脂の90質量%以上が、ポリエチレン系樹脂又はポリプロピレン系樹脂)となるように調整すればよい。
【0104】
環状オレフィン系樹脂層にも、本発明の効果を損なわない範囲で、その他の樹脂を使用することができ、当該その他の樹脂としては、上記シール層に使用する上記その他の樹脂と同様のものを使用でき、好ましい範囲も同様である。
【0105】
(最外層)
本発明の多層フィルムは、シール層の他に、当該シール層ではない他方の表面層として、最外層を含んでいることが好ましい。
当該最外層で用いる樹脂としては、ポリエチレン系多層フィルムであれば、ポリエチレン系樹脂を含み、ポリプロピレン系多層フィルムであれば、ポリプロピレン系樹脂を含むことが好ましい。
【0106】
上記表面層に使用するポリエチレン系樹脂及びポリプロピレン系樹脂としては、上記シール層にて例示したものを使用することができる。また、ポリエチレン系樹脂としては、易引き裂き性と耐ピンホール性とのバランスが良好なことから低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレンが好ましい。ポリプロピレン系樹脂としては、プロピレン系共重合体であることが好ましい。
【0107】
上記最外層に用いる樹脂としては本発明の効果を損なわない範囲で、その他の樹脂を併用しても良い。当該その他の樹脂としては、上記シール層に使用する上記その他の樹脂と同様のものを使用でき、好ましい範囲も同様である。
【0108】
(その他の添加剤)
前記の各層(例えば、シール層、中間層、環状オレフィン系樹脂層、最外層等)には、その他の添加剤を添加してもよい。当該その他の添加剤としては、例えば、酸化防止剤、熱安定剤、耐候安定剤、帯電防止剤、防曇剤、アンチブロッキング剤、滑剤、核剤、離型剤、紫外線吸収剤、顔料等の着色剤、生分解性促進添加剤等を例示できる。
これら添加剤を使用する場合には、各層に使用する樹脂成分100質量部に対して、好ましくは15質量部以下、より好ましくは0.01~10質量部程度で使用する。
特に、フィルム成形時の加工適性、充填機の包装適性を付与するため、当該多層フィルムの表面となる最外層及びシール層の摩擦係数は1.5以下、中でも1.0以下であることが好ましいので、当該最外層及び当該シール層には、滑剤やアンチブロッキング剤を適宜添加することが好ましい。
【0109】
<シール層と隣接する層との関係>
本発明の多層フィルムにおいて、シール層と、シール層に隣接する層は、その剛性に差があることが好ましい。具体的には、シール層よりシール層に隣接する層の剛性が高いことが好ましい。シール層よりシール層に隣接する層の剛性が高い場合、本発明の多層フィルムの押出製造時に、シール層中の光触媒微粒子が隣接する層に移動しづらくなり、光触媒微粒子が少量でもより効率的に抗ウイルス性を発揮することができる。
このことから、本発明の多層フィルムがポリエチレン系多層フィルムである場合、シール層に直鎖状低密度ポリエチレンを使用し、シール層と隣接する層に、高密度ポリエチレン等の剛性の高い樹脂を使用することが好ましい。また、本発明の多層フィルムがポリプロピレン系多層フィルムである場合、シール層にプロピレン-エチレン共重合体を使用し、シール層と隣接する層にプロピレン単独重合体等の剛性の高い樹脂を使用することが好ましい。
【0110】
また、本発明の多層フィルムにおいて、シール層と、シール層に隣接する層は、両層の樹脂密度の差が0.005g/cm3以上あることが好ましく、0.010g/cm3以上あることがより好ましい。シール層と、シール層に隣接する層の樹脂密度差が当該範囲であると、本発明の多層フィルムの押出製造時に、シール層中の光触媒微粒子が隣接する層に移動しづらくなり、光触媒微粒子が少量でもより効率的に抗ウイルス性を発揮することができる。また、特に本発明の多層フィルムがポリエチレン系多層フィルムである場合において、シール層と、シール層に隣接する層の樹脂密度の差が0.005g/cm3以上あることが好ましく、0.010g/cm3以上あることがより好ましい。
なお、各層の樹脂密度は、当該層が1種の樹脂で構成されている場合、その樹脂の密度、当該層が複数の樹脂で構成されている場合、各樹脂の密度と、各樹脂の構成比率の加重平均により算出することができる値とする。
【0111】
<シール層側表面の水接触角>
本発明の多層フィルムは、本発明に使用するシール層側表面の水の接触角の低下が、3度以上である。当該シール層側表面の水接触角とは、フィルムの当該シール層側表面に4μLの純水を垂らし、DataPhysics社製接触角測定計OCA40にて接触角を測定した測定結果を指す。また、当該「水の接触角の低下」とは、シール層に光触媒微粒子を含有するときの水接触角(すなわち、多層フィルムの水接触角)と、シール層から光触媒微粒子を除いた時の水接触角(すなわち、シール層樹脂をフィルムにした時の水接触角)の差を指す。言い換えると、シール層に光触媒微粒子を含まない以外は同一のフィルムと比較したときの、当該水接触角の差を指す。
【0112】
本発明に使用する光触媒は、抗菌・抗ウイルス効果とともに、親水化効果を有する。したがって、多層フィルムの水接触角が下がり、親水化していることを確認することで、光触媒微粒子が機能しているかを判断できる。水の接触角の低下が3度以上であれば、抗菌・抗ウイルス性を発揮する光触媒微粒子が十分にシール層表面に露出していて表面が親水化しており、抗ウイルス性を発揮できる。
当該水の接触角の低下は、10度以上であることがより好ましい。
【0113】
本発明に使用するシール層側表面の水接触角は、85度以下であることが好ましく、83度以下であることがより好ましく、80度以下であることがさらに好ましい。
【0114】
<多層フィルムの抗ウイルス性評価>
本発明の多層フィルムの抗ウイルス性は、抗ファージウイルス試験(JIS R1756を参照)により評価できる。具体的には、以下の手順で実施する。
【0115】
1)光照射条件は、暗所とした。
2)5cm×5cmの評価用多層フィルムに濃度既知の100μLのQβファージ溶液を垂らした後、5cm×5cmのガラス板で挟んだ。
3)暗所に8時間静置したサンプルを、SCDLP液で回収し、適度に希釈したものを大腸菌と感染させ、寒天培地に塗布し、培養後のプラーク数をカウントすることで評価した。抗ウイルス性はQβファージの不活化度(初期ファージ濃度N0と、所定時間後のファージ濃度Nとから、ファージ相対濃度(N/N0)を算出した際の対数値)で評価し、不活化度-1~-5を抗ウイルス性有と評価した。
【0116】
不活化度が-1は90%、不活化度が-2は99%、不活化度が-3は99.9%不活化していることになり、抗ウイルス性が高いことを示す。検出限界は不活化度-5である。
◎:不活性度が、-3.0~-5.0
〇:不活性度が、-2.0~-3.0超
△:不活性度が、-1.0~-2.0超
×:不活性度が、-1.0超
【0117】
(多層フィルムの層構成)
本発明の多層フィルムは、シール層を含む。また、本発明の多層フィルムにおいて、当該シール層に含まれる抗菌剤が隣接する層へ移行することを防ぐため、当該シール層に隣接する層は、当該シール層と剛性の異なる樹脂を含む中間層又は環状オレフィン系樹脂層であることが好ましく、当該中間層であることがより好ましい。
【0118】
当該多層フィルムの層構成としては、最外層/中間層/シール層、最外層/環状オレフィン系樹脂層/シール層、最外層/中間層/中間層/シール層、最外層/環状オレフィン系樹脂層/中間層/シール層、最外層/中間層/環状オレフィン系樹脂層/シール層、最外層/中間層/中間層/環状オレフィン系樹脂層/シール層、最外層/中間層/環状オレフィン系樹脂層/中間層/シール層等が挙げられるが、これに限定されるものではない。
また、最外層/中間層/シール層と積層したものであることが好ましい。
【0119】
本発明のシール層の厚みは、2.0μm~20μmであることが好ましく、2.5μm~15μmであることがより好ましい。
上記中間層及び上記環状オレフィン系樹脂層の厚みは、2μm以上であることが好ましく、5μm以上であることがより好ましい。
上記最外層の厚みは、フィルム物性の観点から、10~40μmであることが好ましい。
【0120】
上記シール層の厚みは、本発明の多層フィルムの全厚の5~20%の範囲であることが好ましく、より好ましくは5~15%である。当該多層フィルムの全厚に対するシール層の厚みの比率がこの範囲であれば、光触媒微粒子の効果を十分に発揮しやすく、シール性も良好となる。
上記中間層の厚みは、本発明の多層フィルムの全厚の10~40%の範囲であることが好ましく、より好ましくは15~35%である。当該多層フィルムの全厚に対する中間層の厚みの比率がこの範囲であれば、透明性、引き裂き性、耐ピンホール性、ヒートシール性が向上する。
上記最外層の厚みは、フィルムの剛性・包装適正・透明性・表面光沢及び横方向の引き裂き容易性の観点から、本発明の多層フィルムの全厚の30~80%であることが好ましく、より好ましくは35~75%である。
【0121】
さらに、本発明の多層フィルムは、フィルムの厚みが15~90μmのものが好ましく、より好ましくは20~80μmである。フィルムの厚みがこの範囲であれば、安定したシール強度、包装機械適性、優れた耐ピンホール性能、易引き裂き性能等が得られる。
【0122】
(多層フィルムの製造方法)
本発明の多層フィルムの製造方法としては、特に限定されないが、例えば、最外層、中間層、環状オレフィン系樹脂層、シール層に用いる各樹脂又は樹脂混合物を、それぞれ別々の押出機で加熱溶融させ、共押出多層ダイス法やフィードブロック法等の方法により溶融状態で最外層/中間層/環状オレフィン系樹脂層/シール層の順で積層した後、インフレーションやTダイ・チルロール法等によりフィルム状に成形する共押出法が挙げられる。この共押出法は、各層の厚みの比率を比較的自由に調整することが可能で、衛生性に優れ、コストパフォーマンスにも優れた多層フィルムが得られるので好ましい。さらに、本発明の中間層で用いる低密度ポリエチレン又は直鎖状低密度ポリエチレンと、高密度ポリエチレンの軟化点(融点)の差が大きいため、相分離やゲルを生じることがある。このような相分離やゲルの発生を抑制するためには、比較的高温で溶融押出を行うことができるTダイ・チルロール法が好ましい。
【0123】
また、上記樹脂混合物を各層に積層する場合、ドライブレンドした当該樹脂混合物を直接、共押出機により押出すことで積層させることができる。あるいは、当該樹脂混合物を事前に単軸押出機、二軸押出機、ブラベンダーミキサー等の溶融混練装置を用いてメルトブレンドしたものをペレット化し、共押出機を用いて押出すことで積層させることもできる。
【0124】
本発明の多層フィルムは、上記の製造方法によって、実質的に無延伸の多層フィルムとして得られるため、真空成形による深絞り成形等の二次成形も可能となる。
【0125】
また、上記最外層又はシール層の押出直後に、凹凸を有するロールを接触させることにより、エンボス加工を施してもよい。
【0126】
さらに、印刷インキとの接着性、ラミネート適性を向上させるため、上記最外層に表面処理を施すことが好ましい。このような表面処理としては、例えば、コロナ処理、プラズマ処理、クロム酸処理、火炎処理、熱風処理、オゾン・紫外線処理等の表面酸化処理、あるいはサンドブラスト等の表面凹凸処理を挙げることができるが、好ましくはコロナ処理である。
【0127】
(積層体)
本発明の多層フィルムは、基材と積層して積層体とすることができる。
本発明の積層体の構成としては、
(1)基材/接着層/本発明の多層フィルム
(2)基材/接着層/印刷層/本発明の多層フィルム
(3)基材/接着層/第二の基材/印刷層/接着層/本発明の多層フィルム
(4)基材/接着層/第一の印刷層/第二の印刷層/本発明の多層フィルム
(5)基材/接着層/バリア層/接着層/本発明の多層フィルム
(6)基材/接着層/バリア層/印刷層/接着層/本発明の多層フィルム
(7)基材/印刷層/接着層/本発明の多層フィルム
(8)基材/第一の印刷層/第二の印刷層/接着層/本発明の多層フィルム
(9)基材/印刷層/接着層/バリア層/接着層/本発明の多層フィルム
等が挙げられるがこれに限定されず、さらに追加の基材を含んでいてもよい。
なお、第二及び追加の基材は未延伸の樹脂フィルムでもよいし、延伸された樹脂フィルムでもよいし、金属蒸着未延伸フィルムや金属蒸着延伸フィルムといった金属蒸着フィルムでもよいし、透明蒸着フィルムでもよいし、コート紙や上質紙等の紙類であってもよい。
また、複数の接着層は同じ組成であってもよいし、異なる組成であってもよい。
さらに、接着層の接着強度を向上するため、アンカーコート層を層間に挟んでもよい。
【0128】
本発明の多層フィルムは、モノマテリアルフィルムであるため、上記積層体としてもモノマテリアルフィルムとなるように構成することが好ましい。
【0129】
本発明の多層フィルムと基材フィルムをラミネート方法としては特に限定されず、ドライラミネート、ウェットラミネート、ノンソルベントラミネート、押出ラミネート、サンドラミネート、熱ラミネート等の複合化技術を用いればよい。
【0130】
上記延伸された樹脂フィルムとしては、例えば、二軸延伸ポリエステル(PET)、易裂け性二軸延伸ポリエステル(PET)、二軸延伸ポリプロピレン(OPP)、二軸延伸ポリアミド(PA)、エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)を中心層とした共押出二軸延伸ポリプロピレン、二軸延伸エチレンビニルアルコール共重合体(EVOH)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)をコートした共押出二軸延伸ポリプロピレン等が挙げられる。
中でも、αオレフィン樹脂からなるフィルムが好ましく使用でき、特に二軸延伸ポリプロピレン(OPP)等のポリプロピレン系樹脂フィルムを用いることが好ましい。
また、プラスチックフィルムとしてガスバリア性や、後述する印刷層を設ける際のインキ受容性の向上等を目的としたコーティングが施されたものを用いてもよい。
コーティングが施されたプラスチックフィルムの市販品としては、K-OPPフィルムやK-PETフィルム等が挙げられる。
これらは、単独あるいは複合化して使用しても良い。
【0131】
上記延伸された樹脂フィルムの厚みとしては、10~60μmであることが好ましく、20~40μmであることがより好ましく、20~30μmであることが更に好ましい。
当該延伸された樹脂フィルムの厚みがこの範囲であると、ラミネートフィルムの製造が容易となる。
【0132】
また、上記未延伸の樹脂フィルムとしては、CPPフィルム、ナイロンフィルム、PETフィルム、PVCフィルム等が挙げられる。
二種以上の基材の組み合わせも使用できる。
【0133】
また、上記基材は、バイオマスポリオレフィンにより形成されていてもよい。
当該バイオマスポリオレフィンとは、原料であるモノマーとして植物由来のオレフィンを用いたポリオレフィン樹脂を指す。
当該原料モノマーは、石油由来のモノマーを含んでいてもよく、植物由来のモノマーを100%含むものでなくてもよい。
当該バイオマスポリオレフィンとしては、市販品を使用することもできる。
市販品としては、ブラスケム社製、SGM9450F、SLL118、SLL118/21、SLL218、SLL318、SLH118、SLH218、SLH0820等が例示できる。
【0134】
また、本発明の多層フィルムに積層する基材は、上記した樹脂フィルム上に、無機物及び/又は無機酸化物からなる蒸着層を設けた基材を用いてもよい。
当該蒸着層を設けた基材を用いることにより、本発明の積層体に、バリア性を付与することができる。
蒸着層は、公知の無機物又は無機酸化物を用いて、公知の方法により形成することができ、その組成及び形成方法は特に限定されない。
また、当該本発明の多層フィルムからなるラミネートフィルムは蒸着膜を2層以上有していてもよく、それらは同一の組成であってもよいし、異なる組成であってもよい。
【0135】
上記蒸着層としては例えば、ケイ素(Si)、アルミニウム(Al)、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)、カリウム(K)、スズ(Sn)、ナトリウム(Na)、ホウ素(B)、チタン(Ti)、鉛(Pb)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)等の無機物又は無機酸化物の蒸着膜を使用することができる。
また、ケイ素酸化物、アルミニウム酸化物等の無機酸化物の蒸着膜は、透明性を有する。
【0136】
上記無機酸化物は、例えば、SiOx、AlOx等のようにMOx(ただし、式中、Mは、無機元素を表す。)と表記される。
xの値は、ケイ素(Si)は、0~2、アルミニウム(Al)は、0~1.5、マグネシウム(Mg)は、0~1、カルシウム(Ca)は、0~1、カリウム(K)は、0~0.5、スズ(Sn)は、0~2、ナトリウム(Na)は、0~0.5、ホウ素(B)は、0~1、5、チタン(Ti)は、0~2、鉛(Pb)は、0~1、ジルコニウム(Zr)は0~2、イットリウム(Y)は、0~1.5の範囲の値をとることができる。
上記において、x=0の場合、完全な無機単体(純物質)であり、透明ではなく、また、xの値が範囲の上限である場合、完全に酸化していることを示す。
蒸着層としては、ケイ素(Si)やアルミニウム(Al)が好適に使用され、ケイ素(Si)は、xの値が1.0~2.0、アルミニウム(Al)は、xの値が0.5~1.5の範囲の値のものを使用することができる。
【0137】
上記蒸着層は、上記基材等の表面に真空蒸着法、スパッタリング法、及びイオンプレ-ティング法等の物理気相成長法(PhysicalVaporDeposition法、PVD法)、プラズマ化学気相成長法、熱化学気相成長法、及び光化学気相成長法等の化学気相成長法(ChemicalVaporDeposition法、CVD法)等の方法により形成することができる。
【0138】
上記蒸着層の蒸着層の厚みは蒸着層単独でも一定のガスバリア機能が発現できれば特に制限はない。
厚みの好ましい範囲は蒸着する金属や金属酸化物の種類により異なるが、0.05~70nmが好ましく、0.1~70nmがより好ましく、3~70nmがより好ましく、5~60nmであることがさらに好ましい。
【0139】
上記金属蒸着フィルムとしては、CPPフィルムにアルミニウム等の金属蒸着を施したVM-CPPフィルム、OPPフィルムにアルミニウム等の金属蒸着を施したVM-OPPフィルムを用いることができる。
また、上記透明蒸着フィルムとしては、OPPフィルム、PETフィルム、ナイロンフィルム等にシリカやアルミナ蒸着を施したフィルムが挙げられる。
シリカやアルミナの無機蒸着層の保護等を目的として、蒸着層上にコーティングが施されたフィルムを用いてもよい。
【0140】
また、本発明の積層体は、バリア層としてアルミニウム層等を含んでいてもよい。
本発明の多層フィルムの光触媒微粒子に2価銅化合物が担持された酸化チタンを用いている場合、アルミニウム層がありシール層に光が通らなくとも、暗所でも同様に抗ウイルス性を発揮することができるので好ましい。
【0141】
上記基材として、紙を用いることもできる。
例えば、化粧品や飲料、医薬品、おもちゃ、機器等の包材・パッケージ等の印刷に用いられるコートボール、カード紙、アイボリー紙、マニラボール等の板紙、ミルクカートン原紙、カップ原紙、上質紙、クラフト紙、純白ロール紙、グラシンペーパー、パーチメント紙、マニラボール、白ボール、コート紙、アート紙、模造紙、薄紙、厚紙、ポリエチレンコート紙等の紙、各種合成紙、耐酸紙等を用いることができる。
本発明の多層フィルムの光触媒微粒子に2価銅化合物が担持された酸化チタンを用いている場合、紙を基材としてシール層に光が通らなくとも、暗所でも同様に抗ウイルス性を発揮することができるので好ましい。
【0142】
本発明の多層フィルムに上記基材又は印刷や蒸着を施した基材等を積層し、積層体とする場合の積層方法としては、例えば、ドライラミネーション、ウェットラミネーション、ノンソルベントラミネーション、押出ラミネーション等の方法が挙げられる。
この時、シーラントフィルムと基材の間に位置する層は、接着層と呼称する。
【0143】
上記ドライラミネーションで用いる接着剤としては、例えば、溶剤型の2液硬化型接着剤等が挙げられる。
「溶剤型」の接着剤とは、接着剤を基材に塗工した後に、オーブン等で加熱して塗膜中の有機溶剤を揮発させた後に他の基材と貼り合せる方法、いわゆるドライラミネート法に用いられる形態をいい、ポリイソシアネート組成物、ポリオール組成物と、それらを溶解(希釈)することが可能な有機溶剤を含む。
【0144】
上記2液硬化型接着剤において、持続的に発展すべき循環型社会の構築(サステナビリティ)を考慮し、上記ポリイソシアネート組成物あるいはポリオール組成物の原料として、植物由来原料(バイオマス原料)を使用することが好ましい。
バイオマス原料を適宜使用することで、環境負荷を低減することができる。
バイオマス原料としては、ひまし油、脱水ひまし油、ひまし油の水素添加物であるヒマシ硬化油、ひまし油のアルキレンオキサイド5~50モル付加体等のひまし油系ポリオールや、コハク酸、無水コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、イタコン酸等の脂肪族多塩基酸や当該酸のアルキルエステル化物、ダイマー酸等が挙げられる。
【0145】
バイオマス原料を使用した上記接着剤としては市販品を利用することもできる。
市販品としては、一般社団法人日本有機資源協会に記載の接着剤等が使用でき、例えば、ディックドライBM(DIC株式会社製)、タケネートBM(三井化学株式会社)等が挙げられる。
【0146】
上記接着層の乾燥後の重量は、0.1~10g/m2であることが好ましく、1~6g/m2であることがより好ましく、2~5g/m2であることがさらに好ましい。
また、当該接着層の厚みは、0.1~10μmが好ましく、1~7μmがより好ましく、2~5μmであることがより好ましい。
【0147】
また、上記接着層として各種の粘着剤を使用することもできるが、感圧性粘着剤を用いることが好ましい。
当該感圧性粘着剤としては、例えば、ポリイソブチレンゴム、ブチルゴム、これらの混合物をベンゼン、トルエン、キシレン、ヘキサンのような有機溶剤に溶解したゴム系粘着剤、或いは、これらゴム系粘着剤にアビエチレン酸ロジンエステル、テルペン・フェノール共重合体、テルペン・インデン共重合体等の粘着付与剤を配合したもの、或いは、2-エチルヘキシルアクリレート・アクリル酸n-ブチル共重合体、2-エチルヘキシルアクリレート・アクリル酸エチル・メタクリル酸メチル共重合体等のガラス転移点が-20℃以下のアクリル系共重合体を有機溶剤で溶解したアクリル系粘着剤等を挙げることができる。
【0148】
上記接着剤や後述するアンカーコート剤としてガスバリア性を有する材料を使用すると、特にバリア性に優れるラミネートフィルムを得ることができる。
ガスバリア性に優れる接着剤として特に好ましくは、3g/m2(固形分)で塗布した接着剤の硬化塗膜の酸素バリア性が300cc/m2/day/atm以下、又は水蒸気バリア性が120g/m2/day以下の、少なくとも一方の条件を満足するものをいう。
市販品としてはDIC株式会社製のPASLIM VM001やPASLIM J350X等の「PASLIM」シリーズや、三菱ガス化学社製の「マクシーブ」が挙げられる。
【0149】
また、上記接着層は、熱可塑性樹脂により形成することもでき、その形成方法は、従来公知の方法、例えば溶融押出しラミネート法やサンドラミネート法により形成することができる。
当該接着層に使用できる当該熱可塑性樹脂としては、例えば、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、中密度ポリエチレン(MDPE)、高密度ポリエチレン(HDPE)等のポリエチレン系樹脂、プロピレンの単独重合体、プロピレン-α-オレフィンランダム共重合体、プロピレン-α-オレフィンブロック共重合体等のポリプロピレン系樹脂、ノルボルネン系単量体の開環重合体(COP)、ノルボルネン系単量体とエチレン等のオレフィンを共重合したノルボルネン系共重合体(COC)等のノルボルネン系重合体及びその水素添加物、ビニル脂環式炭化水素重合体、環状共役ジエン重合体等の環状ポリオレフィン系樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-αオレフィン共重合体等のポリエチレン系エラストマー、ポリプロピレン系エラストマー、ブテン系エラストマー等の熱可塑性エラストマー;エチレン-メチルメタアクリレート共重合体(EMMA)、エチレン-エチルアクリレート共重合体(EEA)、エチレン-メチルアクリレート(EMA)共重合体、エチレン-エチルアクリレート-無水マレイン酸共重合体(E-EA-MAH)、エチレン-アクリル酸共重合体(EAA)、エチレン-メタクリル酸共重合体(EMAA)等のエチレン系共重合体;更にはエチレン-アクリル酸共重合体のアイオノマー、エチレン-メタクリル酸共重合体のアイオノマー等が挙げられる。
また、層間の密着性を向上させるために、上記したポリオレフィン系樹脂を、アクリル酸、メタクリル酸、マレイン酸、無水マレイン酸、フマル酸、イタコン酸等の不飽和カルボン酸で変性した酸変性ポリオレフィン系樹脂等も使用することができる。
また、ポリオレフィン樹脂に、不飽和カルボン酸、不飽和カルボン酸無水物、エステル単量体をグラフト重合、又は、共重合した樹脂等も用いることができる。
これらの樹脂は、単独又は二種以上を組み合わせて使用することができる。
なお、当該ポリエチレン系樹脂としては、バイオマス由来のエチレンをモノマー単位として用いたものを使用することも好ましい。
【0150】
押出ラミネート法により接着層を積層する場合には、積層される側の層の表面に、アンカーコート剤を塗布して乾燥させることにより形成されるアンカーコート層を設けてもよい。
アンカーコート剤としては、耐熱温度が135℃以上である任意の樹脂、例えばポリブタジエン系樹脂、ウレタン樹脂、ポリイソシアネート・ポリエーテルポリオール、ポリエチレンイミン、ビニル変性樹脂、エポキシ樹脂、ポリエステル樹脂、アルキルチタネート等からなるアンカーコート剤や、上記接着剤を有機溶剤で希釈したアンカーコート剤が挙げられる。
なかでも、ポリエチレンイミン系アンカーコート剤、上記接着剤を有機溶剤で希釈したアンカーコート剤を、好ましく使用することができる。
また、これに添加剤としてシランカップリング剤を併用してもよく、硝化綿を、耐熱性を高めるために併用してもよい。
【0151】
押出ラミネート法やサンドラミネート法にて本発明の多層フィルムと基材等を積層して本発明の積層体を得る場合、その積層時のニップロールやチルロールをエンボスロールにすることで、シール層側表面にエンボス加工を施してもよい。
【0152】
本発明の積層体は、本発明の多層フィルムと上記基材の間に、さらに印刷層を設けてもよい。
当該印刷層とは、被印刷体に美粧性、内容物に関する様々な情報、及び機能性を付与するために、リキッド印刷インキにより所望の図柄を形成する層である。
当該印刷層は、バインダー樹脂と着色剤とを含有グラビア印刷インキやフレキソ印刷インキ(以後リキッド印刷インキと称する)や、活性エネルギー線硬化型インキや、インクジェットインキを印刷してなる。
当該印刷層は、単層であってもよいし、複数の印刷層があってもよい。
印刷層が複数ある場合は、各印刷層に使用するリキッド印刷インキは同一のものであっても良いし、同一の組成で着色剤のみが違うものであっても良いし、異なる組成であっても良い。
また、リキッド印刷インキとインクジェットインキ等、2種類の印刷インキを併用した印刷であってもよい。
当該印刷層が複数ある場合としては、例えば着色剤を含有する印刷インキより形成された第一の印刷層と、着色剤として白色顔料を含有するリキッドインキにより形成された第二の白印刷層、及び第三の白印刷層とをこの順に有する印刷物とすることができる。
第一の印刷層は着色剤による絵柄を形成させることができ、白色顔料を含有するリキッドインキにより形成された第二の白印刷層、及び第三の印刷層は、絵柄の背景として使用することができる。
第二又は第三の印刷層をオーバープリントニスとする場合は、着色剤を含まなくてもよい。
【0153】
上記リキッド印刷インキは、グラビア印刷インキやフレキソ印刷インキとして使用され、有機溶剤を主溶媒とする有機溶剤型リキッド印刷インキと、水を主溶媒とする水性リキッド印刷インキとに大別される。
当該印刷層としては、汎用の有機溶剤型リキッド印刷インキであることが好ましい。
【0154】
上記有機溶剤型リキッド印刷インキは、顔料、バインダー樹脂、有機溶剤媒体、分散剤、消泡剤等を添加した混合物を分散機で分散し、顔料分散体を得る。
得られた顔料分散体に樹脂、水性媒体、必要に応じてレベリング剤等の添加剤を加え、撹拌混合することで得られる。
分散機としてはグラビア、フレキソ印刷インキの製造に一般的に使用されているビーズミル、アイガーミル、サンドミル、ガンマミル、アトライター等を用いて製造される。
【0155】
上記バインダー樹脂としては、硝化綿、セルロースアセテートプロピオネート(CAP)やセルロースアセテートブチロネート(CAB)等セルロース系樹脂等の繊維素系樹脂、ポリアミド系樹脂、ポリウレタン樹脂、アクリル系樹脂、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合樹脂、塩素化ポリプロピレン樹脂、エチレン-酢酸ビニル共重合体樹脂、酢酸ビニル樹脂、ポリ塩化ビニル樹脂、塩化ビニルアクリル共重合樹脂等の塩化ビニル系樹脂、ポリエステル樹脂、アルキッド樹脂、ロジン系樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、ケトン樹脂、環化ゴム、塩化ゴム、ブチラール、石油樹脂等を挙げることができる。
中でも、ポリウレタン樹脂を好ましく利用できる。
【0156】
上記ポリウレタン樹脂としては、ポリオールとポリイソシアネートとを重合したポリウレタン樹脂が好ましい。
また、当該ポリオールはポリエステルポリオールであることが好ましい。
また、必要に応じて、ポリエーテルポリオール、ポリエステルポリオール及びポリエーテルポリオール以外の汎用のポリオール、鎖伸長剤、及び末端封鎖剤等を併用してポリウレタン樹脂を合成してもよい。
さらに、当該ポリオールとポリイソシアネートを反応させ、末端にイソシアネート基を有するウレタンプレポリマーとし、ポリアミン化合物とを反応させて、ポリウレタン樹脂を合成してもよい。
当該ポリウレタン樹脂はリキッドインキ中に単独で使用してもよいし、複数を併用してもよい。
【0157】
上記顔料としては、一般のインキ、塗料、及び記録剤等に使用されている無機顔料、有機顔料を挙げることができる。
当該有機顔料としては、溶性アゾ系、不溶性アゾ系、アゾ系、フタロシアニン系、ハロゲン化フタロシアニン系、アントラキノン系、アンサンスロン系、ジアンスラキノニル系、アンスラピリミジン系、ペリレン系、ペリノン系、キナクリドン系、チオインジゴ系、ジオキサジン系、イソインドリノン系、キノフタロン系、アゾメチンアゾ系、フラバンスロン系、ジケトピロロピロール系、イソインドリン系、インダンスロン系、カーボンブラック系等の顔料が挙げられる。
また、例えば、カーミン6B、レーキレッドC、パーマネントレッド2B、ジスアゾイエロー、ピラゾロンオレンジ、カーミンFB、クロモフタルイエロー、クロモフタルレッド、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン、ジオキサジンバイオレット、キナクリドンマゼンタ、キナクリドンレッド、インダンスロンブルー、ピリミジンイエロー、チオインジゴボルドー、チオインジゴマゼンタ、ペリレンレッド、ペリノンオレンジ、イソインドリノンイエロー、アニリンブラック、ジケトピロロピロールレッド、昼光蛍光顔料等が挙げられる。
また未酸性処理顔料、酸性処理顔料のいずれも使用することができる。
【0158】
当該無機顔料としては、酸化チタン、酸化亜鉛、硫化亜鉛、硫酸バリウム、炭酸カルシウム、酸化クロム、シリカ、リトボン、アンチモンホワイト、石膏等の白色無機顔料が挙げられる。
無機顔料の中では酸化チタンの使用が特に好ましい。
酸化チタンは白色を呈し、着色力、隠ぺい力、耐薬品性、耐候性の点から好ましく、印刷性能の観点から該酸化チタンはシリカ及び/又はアルミナ処理を施されているものが好ましい。
当該白色以外の無機顔料としては、例えば、アルミニウム粒子、マイカ(雲母)、ブロンズ粉、クロムバーミリオン、黄鉛、カドミウムイエロー、カドミウムレッド、群青、紺青、ベンガラ、黄色酸化鉄、鉄黒、ジルコンが挙げられ、アルミニウムは粉末又はペースト状であるが、取扱い性及び安全性の面からペースト状で使用するのが好ましく、リーフィング又はノンリーフィングを使用するかは輝度感及び濃度の点から適宜選択される。
【0159】
上記有機溶剤としては、特に制限はないが、たとえばトルエン、キシレン、ソルベッソ#100、ソルベッソ#150等の芳香族炭化水素系有機溶剤、ヘキサン、メチルシクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン等の脂肪族炭化水素系有機溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸ノルマルプロピル、酢酸ブチル、酢酸アミル、ギ酸エチル、プロピオン酸ブチル等のエステル系の各種有機溶剤が挙げられる。
また水混和性有機溶剤としてメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール系、アセトン、メチルエチルケトン、シクロハキサノン等のケトン系、エチレングリコール(モノ,ジ)メチルエーテル、エチレングリコール(モノ,ジ)エチルエーテル、エチレングリコールモノプロピルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、モノブチルエーテル、ジエチレングリコール(モノ,ジ)メチルエーテル、ジエチレングリコール(モノ,ジ)エチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコール(モノ,ジ)メチルエーテル、プロピレングリコール(モノ,ジ)メチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコール(モノ,ジ)メチルエーテル等のグリコールエーテル系の各種有機溶剤が挙げられる。
これらを単独又は2種以上を混合しても用いることができる。
【0160】
尚、印刷時の作業衛生性及び包装材料の有害性の観点から、酢酸エチル、酢酸プロピル、イソプロパノール、ノルマルプロパノール等を使用し、トルエン等の芳香族溶剤やメチルエチルケトン等のケトン系溶剤を使用しないことがより好ましい。
中でも、ポリウレタン樹脂の溶解性の観点から、イソプロピルアルコール/酢酸エチル/メトキシプロパノールの混合液がより好ましい。
また、乾燥調整のためにインキ全量の10質量%未満であればグリコールエーテル類を添加することも出来る。
【0161】
上記有機溶剤型リキッド印刷インキは、各種の基材と密着性に優れ、紙、合成紙、熱可塑性樹脂フィルム、プラスチック製品、鋼板等への印刷に使用することができるものであり、電子彫刻凹版等によるグラビア印刷版を用いたグラビア印刷用、又は樹脂版等によるフレキソ印刷版を用いたフレキソ印刷用のインキとして有用である。
上記有機溶剤型リキッド印刷インキを用いてグラビア印刷方式やフレキソ印刷方式から形成されるリキッド印刷インキの膜厚は、0.1~10μmであることが好ましく、1~5μmであることがより好ましく、1~3μmであることがさらに好ましい。
また、印刷層の乾燥後の重量は、0.1~10g/m2であることが好ましく、1~5g/m2であることがより好ましく、1~3g/m2であることがさらに好ましい。
【0162】
上記リキッド印刷インキにおいて、持続的に発展すべき循環型社会の構築(サステナビリティ)を考慮し、植物由来原料(バイオマス原料)を使用したリキッド印刷インキを使用することが好ましい。
植物由来原料としては例えば、セルロースアセテートプロピオネート樹脂や硝化綿等の繊維素系樹脂や、大豆油由来、パーム油由来、米糠油由来等天然油に由来するダイマー酸あるいは重合脂肪酸を使用したポリアミド樹脂や、ポリカルボン酸として、コハク酸、無水コハク酸、アジピン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ダイマー酸、グルタル酸、リンゴ酸等、ポリオールとして、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,4-ブタンジオール、ネオペンチルグリコール、ペンチレングリコール、1,10-ドデカンジオール、ダイマージオール、イソソルビド等、ポリイソシアネートとして、1,5-ペンタメチレンジイソシアネート、ダイマージイソシアネート等の植物由来原料から合成したバイオマスポリウレタンや、ロジン樹脂、ダンマル樹脂、ポリ乳酸等が挙げられる。
【0163】
上記植物由来原料を使用したリキッド印刷インキは、市販品を使用することもできる。
市販品としては、一般社団法人日本有機資源協会に記載のインキ等が使用でき、例えば、フィナートBM(DIC株式会社製)、LP バイオシリーズ(東洋インキ株式会社製)、ベルフローラ(サカタインクス株式会社製)、NB300 BPシリーズ(大日精化工業株式会社製)等が挙げられる。
【0164】
上記印刷層は、所謂裏刷りにて、別の基材に印刷したうえで基材と本発明の多層フィルムとをドライラミネート・サンドラミネート・押出ラミネート等の方法で積層してもよい。押出ラミネート法は、本発明の多層フィルムの製造と基材との積層と、場合により当該多層フィルムのシール層へのエンボス加工とを1工程で実施できるため、製造負荷が少なく好ましい。
また、アンカーコートワニスやオーバーコートワニス等を用いてもよい。
【0165】
<包装材>
本発明の多層フィルムからなる包装材としては、食品、薬品、工業部品、雑貨、建材部品、雑誌等の用途に用いる包装袋、包装容器等が挙げられる。
【0166】
上記包装袋は、本発明の多層フィルムのシール層同士を重ねてシール、あるいは最外層とシール層とを重ね合わせてシールすることにより形成した包装袋であることが好ましい。例えば当該多層フィルム2枚を所望とする包装袋の大きさに切り出して、それらを重ねて3辺をシールして袋状にした後、シールをしていない1辺から内容物を充填しシールして密封することで包装袋として用いることができる。さらには自動包装機によりロール状のフィルムを円筒形に端部をシールした後、上下をシールすることにより包装袋を形成することも可能である。
【0167】
また、本発明の多層フィルムは、本発明に使用するシール層とシール可能な別のフィルムを重ねてシールすることにより包装袋・容器を形成することも可能である。その際、当該別のフィルムとしては、比較的機械強度の弱いLDPE、EVA等のフィルムを用いることができる。また、LDPE、EVA等のフィルムと、比較的引き裂き性の良い延伸フィルム、例えば、二軸延伸ポリエチレンテレフタレートフィルム(OPET)、二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)等とを貼り合わせたラミネートフィルムも用いることができる。本発明の多層フィルムはリサイクル性に優れたモノマテリアルフィルムであるため、シールしたりラミネートしたりして貼り合わせる当該別のフィルムとしては、本発明の多層フィルムがポリエチレン系多層フィルムであればLDPE等のポリエチレン系樹脂、本発明の多層フィルムがポリプロピレン系多層フィルムであればOPP等のポリプロピレン系樹脂であることが好ましい。
【0168】
また、本発明の多層フィルムの光触媒微粒子が、2価銅化合物が担持された酸化チタンを用いている場合、紫外線遮蔽効果も付与できるため、上記包装袋として、薬液バッグや試薬、紫外線により分解しやすい薬品や食品等の包装袋としても好適に使用することができる。
【0169】
(シール方法)
本発明の多層フィルムは、ヒートシール性を持ち、ヒートシールにより包装体を形成することができる。本発明の多層フィルムのヒートシール強度は、使用態様に応じて適宜調整すればよいが、例えば、本発明の多層フィルムを、A-PETシート(軟化点77℃、結晶化温度126℃)に、温度170℃、圧力0.2MPaで、1.0秒間ヒートシールした後、15mm幅の試験片を切り取り、23℃、50%RHの恒温室において引張速度300mm/分の条件で180度方向に剥離した際の最大荷重が3N/15mm以上であることが好ましく、6N/15mm以上であることがより好ましい。また、当該最大荷重の上限は、20N/15mm未満であることが好ましく、15N/15mm未満であることがより好ましい。当該剥離強度とすることで多層フィルムの剥離や脱落が生じにくく、かつ、開封時の易開封性が特に好適となる。
また、本発明の多層フィルムは、ヒートシール以外にも、超音波によるシールも適用可能である。超音波によりシールする方法としては、特に制限はなく目的に応じて、公知の超音波シール方法や、公知の超音波シール装置を用いた方法等を適宜選択することができる。
【0170】
本発明の共押出多層フィルムを用いた包装材には、初期の引き裂き強度を弱め、開封性を向上するため、シール部にVノッチ、Iノッチ、ミシン目、微多孔等の任意の引き裂き開始部を形成することが好ましい。
【実施例0171】
次に、実施例及び比較例を挙げて本発明をより詳しく説明する。
【0172】
(光触媒微粒子の作製)
蒸留水100mLに6g(100質量部)の酸化チタン原料(昭和電工セラミックス株式会社製、BET比表面積、ルチル化率、アナターゼ化率、ブルッカイト化率、半値全幅及び一次粒子径を表1に示す)を懸濁させ、0.0805g(銅換算で0.5質量部)のCuCl2・2H2O(関東化学株式会社製)を添加して、10分攪拌した。pHが10になるように、1mol/Lの水酸化ナトリウム(関東化学株式会社製)水溶液を添加し、30分間攪拌混合を行ってスラリーを得た。このスラリーをろ過し、得られた粉体を純水で洗浄し、80℃で乾燥し、加熱エアーにより横型ジェット粉砕機(セイシン企業社製「シングルトラックジェットミル」)で解砕し、その後連続旋回気流式ふるい分け装置(セイシン企業社製「スピンエアーシーブ」)により45μm以上の粗粒を除去し、銅及びチタン含有組成物である光触媒微粒子を得た。得られた光触媒微粒子のBET比表面積は10m2/gであった。
【0173】
(BET比表面積)
酸化チタン原料及び光触媒微粒子のBET比表面積は、株式会社マウンテック製の全自動BET比表面積測定装置「Macsorb,HM model 1208」を用いて測定した。
【0174】
(酸化チタン原料中のルチル含有量(ルチル化率)及び結晶性(半値全幅))
酸化チタン原料中におけるルチル型酸化チタンの含有量(ルチル化率)及び結晶性(半値全幅)は、粉末X線回折法により測定した。
【0175】
すなわち、乾燥させた酸化チタン原料について、測定装置としてPANalytical社製「X’pertPRO」を用い、銅ターゲットを用い、Cu Kα1線を用いて、管電圧45kV、管電流40mA、測定範囲2θ=20 100deg、サンプリング幅0.0167deg、走査速度3.3deg/分の条件でX線回折測定を行った。ルチル型結晶に対応するピーク高さ(Hr)、ブルッカイト型結晶に対応するピーク高さ(Hb)、及びアナターゼ型結晶に対応するピーク高さ(Ha)を求め、以下の計算式により、酸化チタン中におけるルチル型酸化チタンの含有量(ルチル化率)を求めた。
ルチル化率(モル%)={Hr/(Ha+Hb+Hr)}×100
【0176】
また、酸化チタン中における、アナターゼ型酸化チタンの含有量(アナターゼ化率)及びブルッカイト型酸化チタンの含有量(ブルッカイト化率)を、それぞれ以下の計算式により求めた。
【0177】
アナターゼ化率(モル%)={Ha/(Ha+Hb+Hr)}×100
ブルッカイト化率(モル%)={Hb/(Ha+Hb+Hr)}×100
上記X線回折測定によって得られたX線回折パターンにおいて、ルチル型酸化チタンに対応する最も強い回折ピークを選択し、半値全幅を測定した。
【0178】
(一次粒子径)
平均1次粒子径(DBET)(nm)は、BET1点法により、酸化チタンの比表面積S(m2/g)を測定し、下式
DBET=6000/(S×ρ)
より算出した。ここでρは酸化チタンの密度(g/cm3)を示す。
使用した酸化チタン原料の測定結果を表1に示す。
【0179】
【0180】
(光触媒微粒子PEマスターバッチの作製)
低密度ポリエチレン(密度0.919g/cm3、MFR5.5g/10分)70質量部及び光触媒微粒子30質量部を混合し、φ30mmの二軸ベント式押出機(設定温度160℃、補足粒子径40μmのメッシュフィルター)内で溶融混練した。得られた樹脂組成物をペレット化して光触媒微粒子PEマスターバッチを得た。
【0181】
(光触媒微粒子PPマスターバッチの作製)
プロピレン共重合体(密度0.900g/cm3、MFR7.0g/10分)70質量部及び光触媒微粒子30質量部を混合し、φ30mmの二軸ベント式押出機(設定温度230℃、補足粒子径40μmのメッシュフィルター)内で溶融混練した。得られた樹脂組成物をペレット化して光触媒微粒子PPマスターバッチを得た。
【0182】
(実施例1)
最外層用樹脂として、直鎖状低密度ポリエチレン(密度0.931g/cm3、MFR3.6g/10分)(以下、LLDPE1と称する。)100質量部を用いた。また、中間層用樹脂として、LLDPE1を60質量部と、高密度ポリエチレン(密度0.960g/cm3、MFR7.5g/10分)(以下、HDPEと称する。)40質量部との樹脂混合物を用いた。また、シール層用樹脂として、低密度ポリエチレン(密度0.919g/cm3、MFR7.0g/10分)(以下、LDPEと称する。)83.2質量部と、光触媒微粒子PEマスターバッチ16.8質量部との混合物を用いた。
これらの樹脂をそれぞれ、最外層用押出機(口径50mm)、中間層用押出機(口径50mm)及びシール層用押出機(口径50mm)に供給して200~230℃で溶融し、その溶融した樹脂をフィードブロックを有するTダイ・チルロール法の共押出多層フィルム製造装置(フィードブロック及びTダイ温度:250℃)にそれぞれ供給して共溶融押出を行って、フィルムの層構成が最外層/中間層/シール層の3層構成で、各層の厚みが28μm/8.0μm/4.0μm(合計40μm)である多層フィルムを得た。シール層に含まれる光触媒微粒子の濃度は、5質量%である。
【0183】
(実施例2~10、比較例1~6)
多層フィルムの構成を表2及び表3のように変更した以外は実施例1と同様にして、実施例2~10及び比較例1~6の多層フィルムを得た。
【0184】
<水接触角の測定>
実施例1~10及び比較例1~6で作製した多層フィルムについて、シール層側表面の水接触角を測定した。水接触角は、シール層側表面に超純水を4μL程度垂らし、DataPhysics社製接触角測定計OCA40により測定した。これらの測定結果は、表2及び表3にて、「多層フィルムの水接触角(°)」として表示した。
また、シール層に光触媒微粒子を含まない以外は同一のフィルムについても、同様にして水接触角を測定した。これらの測定結果は、表2及び表3にて、「シール層樹脂の水接触角(°)」として表示した。
【0185】
<抗ウイルス性の評価>
実施例1~10及び比較例1~6で作製した多層フィルムについて、以下の手順にて、抗ウイルス性評価を行った。
【0186】
1)光照射条件は、暗所とした。
2)5cm×5cmの評価用多層フィルムに濃度既知の100μLのQβファージ溶液を垂らした後、5cm×5cmのガラス板で挟んだ。
3)暗所に8時間静置したサンプルを、SCDLP液で回収し、適度に希釈したものを大腸菌と感染させ、寒天培地に塗布し、培養後のプラーク数をカウントすることで評価した。抗ウイルス性はQβファージの不活化度(初期ファージ濃度N0と、所定時間後のファージ濃度Nとから、ファージ相対濃度(N/N0)を算出した際の対数値)で評価し、不活化度-1~-5を抗ウイルス性有と評価した。
【0187】
不活化度が-1:90%、不活化度が-2:99%、不活化度が-3:99.9%不活化していることになり、抗ウイルス性が高いことを示す。検出限界は不活化度-5である。
◎:不活性度が、-3.0~-5.0
〇:不活性度が、-2.0~-3.0超
△:不活性度が、-1.0~-2.0超
×:不活性度が、-1.0超
表2及び表3にて、評価結果を表示した。
【0188】
(衝撃強度)
実施例1~10及び比較例1~6で作製した多層フィルムについて、23℃及び0℃下に調整した恒温室内で6時間保持した後、直径1.5インチの球状の金属性の衝撃頭を用いてフィルムインパクト法による衝撃強度を測定した。測定結果を表2及び3に示すが、一部測定しなかったものは「未」と記載した。
◎:衝撃強度が0.20以上
○:衝撃強度が0.15(J)以上0.20未満
△:衝撃強度が0.1(J)以上0.15未満
×:衝撃強度が0.1(J)未満
【0189】
(剛性)
実施例1~10及び比較例1~6で作製した多層フィルムについて、ASTM D-882に基づき、23℃における1%接線モジュラス(単位:MPa)を、フィルム製造時の押出方向(以下、「MD」という。)について、テンシロン引張試験機〔株式会社エ-・アンド・デ-製〕を用いて測定した。測定結果を表2及び3に示すが、一部測定しなかったものは「未」と記載した。
【0190】
【0191】
【0192】
表中の略号は以下を示す。
LLDPE1:直鎖状低密度ポリエチレン(密度0.931g/cm3、MFR3.6g/10分)
LLDPE2:直鎖状低密度ポリエチレン(密度0.931g/cm3、MFR6.0g/10分)
LLDPE3:直鎖状低密度ポリエチレン(密度0.919g/cm3、MFR4.0g/10分)
LLDPE4:直鎖状低密度ポリエチレン(密度0.937g/cm3、MFR4.0g/10分)
LLDPE5:直鎖状低密度ポリエチレン(密度0.944g/cm3、MFR4.0g/10分)
LDPE:低密度ポリエチレン(密度0.919g/cm3、MFR7.0g/10分)
HDPE:高密度ポリエチレン(密度0.960g/cm3、MFR7.5g/10分)
COPP1:プロピレン-エチレン共重合体(密度0.900g/cm3、MFR7.8g/10分)
COPP2:プロピレン-エチレン共重合体(密度0.900g/cm3、MFR5.5g/10分)
COPP3:プロピレン-エチレン共重合体(密度0.900g/cm3、MFR7.0g/10分)
COPP4:プロピレン-エチレン共重合体(密度0.900g/cm3、MFR5.0g/10分)
B-COPP1:プロピレン-エチレンブロック共重合体(密度0.909g/cm3、MFR4.5g/10分)
B-COPP2:プロピレン-エチレンブロック共重合体(密度0.900g/cm3、MFR7.0g/10分)
HOPP:プロピレン単独重合体(密度0.900g/cm3、MFR7.5g/10分)
光触媒PEMB:光触媒微粒子PEマスターバッチ
光触媒PPMB:光触媒微粒子PPマスターバッチ
【0193】
上記表から明らかなとおり、実施例1~10の本発明の多層フィルムは、水接触角の低下すなわちシール層樹脂の水接触角と多層フィルムの水接触角の差が3度以上であり、抗ウイルス効果が高いことが分かった。また、実施例3と比較例3の多層フィルムを比較すると、多層フィルムの物性としての剛性や耐衝撃性は、光触媒微粒子を含むことにより劣化することはなく、用途に応じて使用可能な多層フィルムであることがわかった。
一方、光触媒微粒子を含まない比較例1~4と比較例6は、抗ウイルス効果が得られなかった。また、光触媒微粒子を含むものの、水接触角の低下すなわちシール層樹脂の水接触角と多層フィルムの水接触角の差が3度未満である比較例5は、抗ウイルス性能が劣っていた。