(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171632
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】可塑性油脂組成物
(51)【国際特許分類】
A23D 7/00 20060101AFI20241205BHJP
A21D 13/00 20170101ALI20241205BHJP
【FI】
A23D7/00 506
A21D13/00
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088751
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森田 諒
(72)【発明者】
【氏名】阿部 沙也加
【テーマコード(参考)】
4B026
4B032
【Fターム(参考)】
4B026DC01
4B026DC06
4B026DG03
4B026DG04
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4B032DP08
4B032DP16
4B032DP25
4B032DP26
4B032DP33
4B032DP40
(57)【要約】
【課題】本発明はベーカリー食品のコクの付与・増強、ベーカリー食品の口溶け向上、及び調温作業の省略又は簡略化とベーカリー生地の製造時の作業性を両立する。
【解決手段】油脂A:10℃におけるSFCが20%以下である油脂、及び、油脂B:パーム極度硬化油を10~60質量%含む油脂配合物のランダムエステル交換油脂であって、10℃におけるSFCが55%以上であり、脂肪酸残基組成における不飽和脂肪酸残基の含量に対する飽和脂肪酸残基の含量の比が1.5~9.5である油脂を含有し、条件(1):30℃におけるSFCに対する10℃におけるSFCの割合が1.2~3.2であり、条件(2):脂肪酸残基組成における不飽和脂肪酸残基の総和に対する飽和脂肪酸残基の総和の質量比が0.90~1.25であり、条件(3):不けん化物の含量が0.5~3.5質量%であり、条件(4):乳化剤の含量が2質量%以下であることを満たす、可塑性油脂組成物。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
油脂A及び油脂Bを含有し、且つ条件(1)~(4)を満たす、可塑性油脂組成物。
但し、
油脂A:10℃におけるSFCが20%以下である油脂
油脂B:パーム極度硬化油を10~60質量%含む油脂配合物のランダムエステル交換油脂であって、10℃におけるSFCが55%以上であり、且つ脂肪酸残基組成における不飽和脂肪酸残基(U)の含量に対する飽和脂肪酸残基(S)の含量の比(S/U)が1.5~9.5である油脂
条件(1):30℃におけるSFC(SFC-30)に対する、10℃におけるSFC(SFC-10)の割合(SFC-10/SFC-30)が、1.2~3.2である
条件(2):脂肪酸残基組成における、不飽和脂肪酸残基の総和に対する飽和脂肪酸残基の総和の質量比(S/U)が、0.90~1.25である
条件(3):不けん化物の含量が0.5~3.5質量%である
条件(4):乳化剤の含量が2質量%以下である
【請求項2】
次の条件(5)を満たす、請求項1記載の可塑性油脂組成物。
条件(5):トリグリセリド組成における、総炭素数40~48のトリグリセリドの割合が18~38質量%である
【請求項3】
次の条件(6)を満たす、請求項1記載の可塑性油脂組成物。
条件(6):プランジャー径5mm、侵入速度20mm/minの条件で測定した、20℃における硬さ(レオ値)が600~1500gf/cm2である
【請求項4】
請求項1記載の可塑性油脂組成物を含むベーカリー生地。
【請求項5】
請求項4に記載のベーカリー生地の焼成品であるベーカリー食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベーカリー食品の製造に用いられる可塑性油脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
パン類やクッキー・スポンジケーキ等の焼菓子類等のベーカリー食品への消費者の要望として、コク(飲食品の特徴を決める味わいの持続性や広がりのこと)が挙げられる。また、ベーカリー食品への消費者の別の要望として、良好な口溶けが挙げられる。
【0003】
これらの要望に応えるために、ベーカリー食品を製造する際に使用される油脂組成物について従来検討されてきた。
【0004】
例えば特許文献1では、熱凝固性β-1,3-グルカン、油脂及びカルシウム塩を含有することを特徴とする固形油脂代替組成物により食品の油脂感を増強することができることが開示されており、特許文献2では、植物ステロール及び植物ステロールエステルから選ばれる少なくとも1種を含む食用油脂と特定の乳化剤を含有する乳化油脂組成物により、ソフト感やしっとり感が良好で、ほどよいコク味を有するベーカリー食品が得られることが開示されている。
【0005】
他方、ベーカリー食品を提供する生産者の油脂組成物に対する要望として、調温作業の省略又は簡略化が挙げられる。ベーカリー食品の製造に用いられるマーガリンやショートニングなどの油脂組成物は、通常、10℃以下の冷却設備で流通・保管され、一般的に冷却設備から取り出してすぐは硬く、ベーカリー生地の製造に適した物性を有していないことが知られている。
【0006】
このため、適切な硬さに調整するために例えば15~20℃程度に油脂組成物を調温して使用することが一般的である。しかし、調温には時間がかかる上、調温設備がない場合には気温が高い夏場と気温が低い冬場とでは調温条件を変える必要があり、適度に調温することは難しいため、調温をおこなう必要がなく、冷却設備から取り出してすぐ使用できる(すなわち10℃以下の低い温度のまま使用できる)、ベーカリー食品用の油脂組成物が求められている。
【0007】
例えば、特許文献3では、油相の融点が36℃以上且つ比重が0.9未満である製パン練込用油脂組成物は調温せずとも、低温域からの幅広い温度域で使用可能であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2021-078395号公報
【特許文献2】特開2015-202093号公報
【特許文献3】特開2022-142416号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
特許文献1に記載された油脂組成物を用いると、不足するコクを増強することができるものの、増粘剤である熱凝固性β-1,3-グルカンやセルロースを含有させるため、ベーカリー食品の口溶けが良好なものとなりにくかった。
【0010】
また、特許文献2に記載された油脂組成物を用いると、コクが増強され、且つ良好な食感のベーカリー食品を得ることができる上、起泡力・気泡安定性が良好であるためベーカリー生地の製造効率を高められる。一方で、乳化剤を多く含有するため、例えばクッキー等の油脂の配合量が多いベーカリー食品を製造する場合に、コクを含めた風味発現性が悪化しやすかった。
【0011】
また、特許文献3に記載された油脂組成物を用いることで調温作業の省略又は簡略化を図ることが可能であり、パン生地への油脂混合性が良好であるが、油相の融点を36℃以上とするものであり、これを用いたベーカリー食品の口溶けやコクにおいて改良の余地があった。
【0012】
そこで、本発明の課題は、以下の(1)~(3)を解決する油脂組成物を提供することにある。
(1)ベーカリー食品のコクを付与・増強すること
(2)ベーカリー食品の口溶けを向上させること
(3)調温作業の省略又は簡略化(以下、「調温作業の省略等」と記載する場合がある)とベーカリー生地の製造時の作業性を両立すること
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らが鋭意検討した結果、10℃におけるSFCが特定範囲を満たす油脂と、10℃におけるSFC及び脂肪酸残基組成が特定範囲を満たすランダムエステル交換油脂を含有する可塑性油脂組成物であって、且つ特定の条件を満たすものを用いることにより、上記課題を解決しうることを知見した。
本発明はこの知見に基づくものであり、詳細には以下の通りである。
<1>
油脂A及び油脂Bを含有し、且つ条件(1)~(4)を満たす、可塑性油脂組成物。
但し、
油脂A:10℃におけるSFCが20%以下である油脂
油脂B:パーム極度硬化油を10~60質量%含む油脂配合物のランダムエステル交換油脂であって、10℃におけるSFCが55%以上であり、且つ脂肪酸残基組成における不飽和脂肪酸残基(U)の含量に対する飽和脂肪酸残基(S)の含量の比(S/U)が1.5~9.5である油脂
条件(1):30℃におけるSFC(SFC-30)に対する、10℃におけるSFC(SFC-10)の割合(SFC-10/SFC-30)が、1.2~3.2である
条件(2):脂肪酸残基組成における、不飽和脂肪酸残基の総和に対する飽和脂肪酸残基の総和の質量比(S/U)が、0.90~1.25である
条件(3):不けん化物の含量が0.5~3.5質量%である
条件(4):乳化剤の含量が2質量%以下である
<2>
次の条件(5)を満たす、<1>記載の可塑性油脂組成物。
条件(5):トリグリセリド組成における、総炭素数40~48のトリグリセリドの割合が18~38質量%である
<3>
次の条件(6)を満たす、<1>又は<2>記載の可塑性油脂組成物。
条件(6):プランジャー径5mm、侵入速度20mm/minの条件で測定した、20℃における硬さ(レオ値)が600~1500gf/cm2である
<4>
<1>~<3>の何れか記載の可塑性油脂組成物を含むベーカリー生地。
<5>
<4>に記載のベーカリー生地の焼成品であるベーカリー食品。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、以下の(1)~(3)を解決できる可塑性油脂組成物を提供することができる。
(1)ベーカリー食品のコクを付与・増強すること
(2)ベーカリー食品の口溶けを向上させること
(3)調温作業の省略又は簡略化とベーカリー生地の製造時の作業性を両立すること
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について詳細に説明する。
【0016】
<本発明の可塑性油脂組成物>
本発明の可塑性油脂組成物は、以下の油脂Aと油脂Bとを含有し、且つ以下の条件(1)~(4)を満たすものであり、ベーカリー食品を製造する際に用いられる物であって、ベーカリー食品のコクや口溶けを改良するものである。
油脂A:10℃におけるSFCが20%以下である油脂
油脂B:パーム極度硬化油を10~60質量%含む油脂配合物のランダムエステル交換油脂であって、10℃におけるSFCが55%以上であり、且つ脂肪酸残基組成における不飽和脂肪酸残基(U)の含量に対する飽和脂肪酸残基(S)の含量の比(S/U)が1.5~9.5である油脂
条件(1):30℃におけるSFC(SFC-30)に対する、10℃におけるSFC(SFC-10)の割合(SFC-10/SFC-30)が、1.2~3.2である
条件(2):脂肪酸残基組成における、不飽和脂肪酸残基の総和に対する飽和脂肪酸残基の総和の質量比(S/U)が、0.90~1.25である
条件(3):不けん化物の含量が0.5~3.5質量%である
条件(4):乳化剤の含量が2質量%以下である
【0017】
<油脂Aについて>
本発明の可塑性油脂組成物は、10℃におけるSFCが20%以下である油脂A(以下、単に本発明の油脂Aと記載する場合がある)を含有する。
【0018】
油脂Aの10℃におけるSFCは20%以下であり、好ましくは15%以下であり、より好ましくは10%以下であり、さらに好ましくは5%以下である。
【0019】
なお、油脂Aの30℃におけるSFCは、10%以下であることが好ましく、5%以下であることがより好ましく、1%以下であることがさらに好ましい。
【0020】
油脂Aの10℃におけるSFC、好ましくはさらに30℃におけるSFCが上記範囲を満たすことで、本発明の可塑性油脂組成物を用いて得られるベーカリー食品のコクや口溶けが向上すると共に、ベーカリー食品を製造する際の調温作業の省略又は簡略化を行うことができる。
【0021】
なお、SFC(固体脂含量、Solid Fat Contents)の値は、所定温度における油脂中の固体脂の含量を示すもので、油脂の熱膨張による比容の変化を利用して求める手法や、核磁気共鳴(NMR)を利用して求める手法等があるが、本発明においては、AOCS official methodのcd16b-93に記載のパルスNMR(ダイレクト法)にて、測定対象となる試料のSFCを測定した後、測定値を油相量に換算した値を使用する。すなわち、水相を含まない試料(例えば本発明の可塑性油脂組成物がショートニングの形態をとる場合)を測定した場合は、測定値がそのままSFCとなり、水相を含む試料(例えば本発明の可塑性油脂組成物がマーガリンの形態をとる場合)を測定した場合は、測定値を油相量に換算した値がSFCとなる(以下、SFCの測定について同様である。)。
【0022】
本発明の油脂Aとしては、上記のSFC条件を満たす任意の油脂を用いることができ、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油(米胚芽油を含む)、オリーブ油(例、エクストラバージンオリーブオイル)、ヒマワリ油、サフラワー油、落花生油、カポック油、胡麻油、月見草油、カカオ脂、シア脂、マンゴー核油、サル脂及びイリッペ脂等の各種植物油脂、牛脂、乳脂、豚脂、魚油及び鯨油等の各種動物油脂、並びにこれらの油脂を原料として水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂のうちから、1種又は2種以上を選択して使用することができる。
【0023】
本発明の可塑性油脂組成物においては、後述する条件を好適に満たす観点から、水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂を用いないことが好ましく、所謂、液状油(25℃で液体であり流動性を有する油脂)を選択して含有させることが好ましい。
【0024】
本発明の油脂Aとして好ましく用いられる液状油としては例えば、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油(米胚芽油を含む)、オリーブ油、ヒマワリ油、サフラワー油、落花生油、胡麻油を挙げることができ、これらのうちから1又は2以上が選択される。
【0025】
なお、本発明の可塑性油脂組成物を用いて得られるベーカリー食品のコクをより向上する観点から、油脂Aとして少なくとも米油を含有させる事が好ましい。
【0026】
本発明の可塑性油脂組成物において好ましく用いられる米油とは、米糠より得られる油脂であり、具体的には米糠を原料として圧搾又は抽出を行い生産される液状油である。なお、米油には、不けん化物であるγ-オリザノールを比較的多く含む米胚芽油と呼ばれる油脂も存在するが、本発明においてはこの米胚芽油も米油として取り扱う。
【0027】
油脂Aとして米油を用いる場合には、油脂Aに対して50質量%以上、又は65質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、75質量%以上であることがさらに好ましい。これにより、本発明の効果をより好適に発揮することができる。
【0028】
油脂Aの不けん化物含量は、後述の条件(3)で特定する、本発明の改良剤の不けん化物含量の条件を満たしていればよく、特に限定されないが、好ましくは0.1質量%以上又は0.15質量%以上であり、より好ましくは1.5質量%以上又は1.6質量%以上であり、さらに好ましくは1.8質量%以上であり、さらにより好ましくは2.0質量%以上である。これにより、本発明の効果をより好ましく発揮することができる。
【0029】
油脂Aとして米油を用いる場合には、後述する本発明の可塑性油脂組成物の不けん化物の含量に係る条件を好適に満たす観点から、不けん化物を好ましくは1.7質量%以上、より好ましくは1.9質量%以上、さらに好ましくは2.1質量%以上含有する米油が選択され用いられる。その上限は、好ましくは3.7質量%以下、より好ましくは3.4質量%以下、さらに好ましくは3.1質量%以下である。したがって、一実施形態において、好ましくは1.7~3.7質量%、より好ましくは1.9~3.4質量%、さらに好ましくは2.1~3.1質量%含有する米油が選択され用いられる。
【0030】
本発明における不けん化物とは、油脂中に含有される成分のうちアルカリでけん化されない物質を指し、具体的には炭化水素、高級アルコール、ステロール、炭水化物、色素、ビタミン、樹脂質を挙げることができ、水に不溶、エーテルに可溶等の特徴を有する。
【0031】
本発明における不けん化物の含量の測定は、例えば、日本油化学協会の基準油脂分析試験法の不けん化物測定法(2.4.8-1996)に準じて測定することができ、以下同様である。
【0032】
<油脂Bについて>
本発明の可塑性油脂組成物は、パーム極度硬化油を10~60質量%含む油脂配合物のランダムエステル交換油脂であって、10℃におけるSFCが55%以上であり、且つ脂肪酸残基組成における不飽和脂肪酸残基(U)の含量に対する飽和脂肪酸残基(S)の含量の比(S/U)が1.5~9.5である油脂B(以下、単に本発明の油脂Bとも記載する)を含有する。
【0033】
油脂Bの調製に用いられるパーム極度硬化油は、パーム油をヨウ素価が5以下、好ましくは3以下、より好ましくは1以下となるまで水素添加を行った油脂を指す。
【0034】
また、ヨウ素価とは、油脂100gに吸収されるハロゲンの量をヨウ素のg数で表したものをいう。油脂のヨウ素価は、例えば、「日本油化学会制定 2.3.4.1-1996 ヨウ素価(ウィイス-シクロヘキサン法)」に従って測定することができる。
【0035】
油脂Bはこのパーム極度硬化油10質量%以上、好ましくは15質量%以上、より好ましくは20質量%以上と、パーム極度硬化油以外の油脂とを合わせて100質量%とした油脂配合物をランダムエステル交換することによって得られる。該油脂配合物におけるパーム極度硬化油の含量の上限は、60質量%以下、好ましくは55質量%以下、より好ましくは50質量%以下である。すなわち、油脂Bは、パーム極度硬化油10~60質量%、好ましくは15~55質量%、より好ましくは20~50質量%と、パーム極度硬化油以外の油脂とを合わせて100質量%とした油脂配合物をランダムエステル交換することによって得られる。
【0036】
油脂Bの調製に用いられるパーム極度硬化油以外の油脂としては特に制限されないが、後述する条件を好ましく満たす観点から、ヤシ油やパーム核油、及びこれらの油脂を原料として水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂からなるラウリン系油脂や、パーム油及びこれらの油脂を原料として水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂からなるパーム系油脂から1種又は2種以上選択されることが好ましく、ヤシ油、パーム核油、パーム油、パーム分別硬部油のうちから1種又は2種以上選択されることがより好ましく、パーム核油が選択されることがさらに好ましい。
【0037】
なお、ランダムエステル交換油脂を得る際の、ランダムエステル交換処理は、常法に基づき実施することができる。
【0038】
次に、油脂Bの10℃におけるSFCについて述べる。
【0039】
油脂Bの10℃におけるSFCは、55%以上であり、好ましくは60%以上であり、より好ましくは65%以上である。その上限は100%であり、好ましくは95%以下、より好ましくは90%以下である。したがって、一実施形態において、油脂Bの10℃におけるSFCは、55~100%であり、好ましくは60~95%であり、より好ましくは65~90%である。
油脂Bの10℃におけるSFCが上記範囲を満たすことにより、後述する条件を容易に満たすことができるようになる他、ベーカリー食品製造時の調温作業の省略等と、得られるベーカリー食品の良好な口溶けやコクとを両立できるようになる。
【0040】
ベーカリー食品製造時の調温作業の省略等と、得られるベーカリー食品の良好な口溶けやコクとをいっそう好ましく両立する観点から、油脂Bの30℃におけるSFCが、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは15%以上である。その上限は、好ましくは70%以下であり、より好ましくは65%以下であり、さらに好ましくは60%以下である。したがって、一実施形態において、油脂Bの30℃におけるSFCは、好ましくは5~70%、より好ましくは10~65%、さらに好ましくは15~60%である。
【0041】
次に、油脂Bの不けん化物含量について述べる。
後述する本発明の可塑性油脂組成物の不けん化物の含量に係る条件を好適に満たす観点から、油脂Bの不けん化物含量は、好ましくは0.01~2.0質量%、より好ましくは0.05~1.5質量%、さらに好ましくは0.1~1.0質量%である。
【0042】
次に、本発明の油脂BのS/U(脂肪酸残基組成における不飽和脂肪酸残基の含量に対する飽和脂肪酸残基の含量の比)について述べる。
【0043】
本発明の油脂BのS/Uは、1.5以上であり、好ましくは3.0以上であり、より好ましくは4.5以上である。その上限は、9.5以下であり、好ましくは9.0以下であり、より好ましくは8.5以下である。したがって、一実施形態において、油脂BのS/Uは、1.5~9.5であり、好ましくは3.0~9.0であり、より好ましくは4.5~8.5である。
油脂BのS/Uが上記範囲を満たすことにより、後述する条件(1)~(3)を容易に満たすことができるようになる他、ベーカリー食品製造時の調温作業の省略等と、得られるベーカリー食品の良好な口溶けやコクとをいっそう好ましく両立できるようになる。
【0044】
なお、本発明に用いられる油脂の脂肪酸残基組成は、「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.4.2.3-2013」や「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.4.4.3-2013」に準拠して、キャピラリーガスクロマトグラフ法により測定することができる。本発明において示す脂肪酸残基組成は、「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.4.2.3-2013」や「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.4.4.3-2013」に準拠して、キャピラリーガスクロマトグラフ法により測定した値に基づく。以降の脂肪酸残基組成の測定において同様である。
【0045】
なお、本発明の可塑性油脂組成物は、油脂Bに係る条件を満たす油脂であれば、1種又は2種以上を用いることができ、好ましくは以下の油脂B-1及び油脂B-2のいずれか1つ以上が本発明の油脂Bとして用いられ、より好ましくは以下の油脂B-1及び油脂B-2の両方が本発明の油脂Bとして用いられる。
油脂B-1:パーム極度硬化油15~35質量%とラウリン系油脂65~85質量%とを合わせて100質量%となるように混合して得られる油脂配合物のランダムエステル交換油脂
油脂B-2:パーム極度硬化油40~60質量%とラウリン系油脂40~60質量%とを合わせて100質量%となるように混合して得られる油脂配合物のランダムエステル交換油脂
【0046】
油脂B-1としては、より好ましくはパーム極度硬化油17~35質量%とラウリン系油脂65~83質量%、さらに好ましくはパーム極度硬化油20~35質量%とラウリン系油脂65~80質量%合わせて100質量%となるように混合して得られる油脂配合物のランダムエステル交換油脂である。
油脂B-2としては、より好ましくはパーム極度硬化油40~55質量%とラウリン系油脂45~60質量%、さらに好ましくはパーム極度硬化油45~55質量%とラウリン系油脂45~55質量%のランダムエステル交換油脂である。油脂B-1及び油脂B-2が上記の数値範囲を満たし、好ましくはこれらを併用することで、本発明の効果をより好適に発揮することができる。
【0047】
<油脂Aと油脂Bの含量、及び含有比率について>
本発明の可塑性油脂組成物における油脂Aの量は、本発明の可塑性油脂組成物を用いて得られるベーカリー食品のコクや口溶けを向上させると共に、ベーカリー食品を製造する際の調温作業の省略又は簡略化を図る観点から、好ましくは25質量%以上、より好ましくは30質量%以上、さらに好ましくは35質量%以上である。その上限は、好ましくは65質量%以下、より好ましくは60質量%以下、さらに好ましくは55質量%以下である。したがって、一実施形態において、本発明の可塑性油脂組成物における油脂Aの量は、好ましくは25~65質量%、より好ましくは30~60質量%、さらに好ましくは35~55質量%である。
【0048】
また、本発明の可塑性油脂組成物中の油脂Bの含量は、本発明の可塑性油脂組成物を用いて得られるベーカリー食品のコクや口溶けを向上させると共に、ベーカリー食品を製造する際の調温作業の省略又は簡略化を図る観点から、好ましくは20質量%以上、より好ましくは25質量%以上、さらに好ましくは30質量%以上である。その上限は、好ましくは55質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは45質量%以下である。したがって、一実施形態において、本発明の可塑性油脂組成物中の油脂Bの含量は、好ましくは20~55質量%、より好ましくは25~50質量%、さらに好ましくは30~45質量%である。
【0049】
なお、上記の通り、本発明の可塑性油脂組成物は油脂Bとして上記の油脂B-1及び油脂B-2のいずれか1つ以上が本発明の油脂Bとして好ましく用いられるが、油脂B-1と油脂B-2の両方が用いられる場合には、ベーカリー食品製造時の調温作業の省略等と、得られるベーカリー食品の良好な口溶けやコクとをいっそう好ましく両立する観点から、油脂B-1 1質量部に対する油脂B-2の含量は、0.5質量部以上が好ましく、0.7質量部以上がより好ましく、0.9質量部以上がさらに好ましい。その上限は、3質量部以下が好ましく、2.5質量部以下がより好ましく、2.0質量部以下がさらに好ましい。したがって、一実施形態において、油脂B-1 1質量部に対する油脂B-2の含量は、0.5~3質量部が好ましく、0.7~2.5質量部がより好ましく、0.9~2.0質量部がさらに好ましい。
【0050】
後述の条件(1)~(4)を好ましく満たす観点から、本発明の可塑性油脂組成物においては、油脂Aと油脂Bの含有比率が、油脂A1質量部に対する油脂Bの含量は、0.4質量部以上が好ましく、0.45質量部以上、又は0.5質量部以上がより好ましく、0.55質量部以上、又は0.6質量部以上がさらに好ましい。その上限は、2.5質量部以下が好ましく、2.0質量部以下がより好ましく、1.5質量部以下がさらに好ましい。したがって、一実施形態において、油脂A1質量部に対する油脂Bの含量は、0.4~2.5質量部が好ましく、0.45~2.0質量部、又は0.5~2.0質量部がより好ましく、0.55~1.5質量部、又は0.6~1.5質量部がさらに好ましい。
【0051】
また、後述の条件を好ましく満たすと共に、本発明の可塑性油脂組成物を用いて得られるベーカリー食品のコクや口溶けを向上させると共に、ベーカリー食品を製造する際の調温作業の省略又は簡略化を図る観点から、本発明の可塑性油脂組成物においては、含有される油脂中、好ましくは油脂Aと油脂Bとを合わせて80質量%以上含有されることが好ましく、85質量%以上含有されることがより好ましく、90質量%以上含有されることがさらに好ましく、その上限は100質量%である。
【0052】
<本発明の可塑性油脂組成物が含有しうる油脂Aと油脂B以外のその他油脂について>
本発明の可塑性油脂組成物が含有しうる、上記の油脂Aと油脂B以外のその他油脂としては、上記の油脂A及び油脂Bに該当するものでなければ特に限定されるものではなく、例えば、パーム油、パーム核油、ヤシ油、コーン油、綿実油、大豆油、菜種油、米油、ヒマワリ油、サフラワー油、オリーブ油(例、エクストラバージンオリーブオイル)、キャノーラ油、牛脂、乳脂、豚脂、カカオ脂、魚油、鯨油等の各種植物油脂、及び動物油脂、並びにこれらを水素添加、分別及びエステル交換から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂から選ばれた1種又は2種以上からなるものを、後述の条件を満たす範囲で任意に選択し用いることができる。
【0053】
また、加工油脂としては、パーム核ステアリン等の分別硬部油、パームオレイン、パームスーパーオレイン等の分別軟部油、菜種極度硬化油、パーム極度硬化油等の水素添加油脂、及びこれらのエステル交換油脂が挙げられる。エステル交換油脂としては、ランダムエステル交換油脂が好ましい。ランダムエステル交換は、常法に従って行うことができ、化学的触媒による方法でも、酵素による方法でもよい。
【0054】
その他油脂の不けん化物含量は、後述の条件(3)で特定する、本発明の改良剤の不けん化物含量の条件を満たしていればよい。
【0055】
本発明の効果を損ねない範囲で任意の量のその他油脂を用いることができるが、本発明の可塑性油脂組成物においては好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下である。
【0056】
なお、本発明の可塑性油脂組成物が、その他油脂として極度硬化油等のヨウ素価が5以下の油脂を含有する場合には、得られるベーカリー食品の口溶けとコクとのバランスをとる観点から、その総量が本発明の可塑性油脂組成物中2.5質量%以下であることが好ましく、1.8質量%以下であることがより好ましく、1.2質量%以下であることがさらに好ましい。
【0057】
<本発明の可塑性油脂組成物が満たす条件(1)について>
以下、本発明の可塑性油脂組成物にかかる条件(1)について述べる。
【0058】
本発明の可塑性油脂組成物は、30℃におけるSFC(SFC-30)に対する、10℃におけるSFC(SFC-10)の割合(SFC-10/SFC-30)が、1.2~3.2であるという特徴を有する。
【0059】
本発明の可塑性油脂組成物のSFC-10/SFC-30が上記条件を満たすことで、本発明の可塑性油脂組成物を用いて得られるベーカリー食品のコクや口溶けが向上すると共に、ベーカリー食品を製造する際の調温作業の省略又は簡略化を行うことができる。
【0060】
なお、同観点から、本発明の可塑性油脂組成物のSFC-10/SFC-30は、好ましくは1.2以上、又は1.4以上、より好ましくは1.6以上、さらに好ましくは1.8以上となるように調整されることが好ましい。その上限は、好ましくは3.2以下、又は3.0以下、より好ましくは2.6以下、さらに好ましくは2.2以下となるように調整されることが好ましい。したがって、一実施形態において、本発明の可塑性油脂組成物のSFC-10/SFC-30は、好ましくは1.4~3.0、より好ましくは1.6~2.6、さらに好ましくは1.8~2.2となるように調整されることが好ましい。
【0061】
本発明の可塑性油脂組成物を用いて得られるベーカリー食品のコクや口溶けの向上と、ベーカリー食品を製造する際の調温作業の省略又は簡略化との両立をいっそう好ましく図る観点から、本発明の可塑性油脂組成物のSFC-10は、20%以上であることが好ましく、25%以上であることがより好ましく、30%以上であることがさらに好ましい。その上限は、50%以下であることが好ましく、45%以下であることがより好ましく、40%以下であることがさらに好ましい。したがって、一実施形態において、本発明の可塑性油脂組成物のSFC-10は、20~50%であることが好ましく、25~45%であることがより好ましく、30~40%であることがさらに好ましい。
【0062】
同様の観点から、本発明の可塑性油脂組成物のSFC-30は、5%以上であることが好ましく、10%以上であることがより好ましく、15%以上であることがさらに好ましい。その上限は、25%以下であることが好ましい。したがって、一実施形態において、本発明の可塑性油脂組成物のSFC-30は、5~25%であることが好ましく、10~25%であることがより好ましく、15~25%であることがさらに好ましい。
【0063】
<本発明の可塑性油脂組成物が満たす条件(2)について>
以下、本発明の可塑性油脂組成物にかかる条件(2)について述べる。
本発明の可塑性油脂組成物は、脂肪酸残基組成における、不飽和脂肪酸残基の総和に対する飽和脂肪酸残基の総和の質量比(S/U)が、0.90~1.25であるという特徴を有する。
【0064】
本発明の可塑性油脂組成物のS/Uが上記条件を満たすことで、本発明の可塑性油脂組成物を用いて得られるベーカリー食品のコクや口溶けが向上すると共に、ベーカリー食品を製造する際の調温作業の省略又は簡略化を行うことができる。
【0065】
なお、同観点から、本発明の可塑性油脂組成物のS/Uは、好ましくは0.90以上、又は0.95以上であり、より好ましくは1.00以上であり、さらに好ましくは1.05以上となるように調整されることが好ましい。その上限は、1.25以下である。したがって、一実施形態において、本発明の可塑性油脂組成物のS/Uが、0.95~1.25であり、より好ましくは1.00~1.25であり、さらに好ましくは1.05~1.25となるように調整されることが好ましい。
【0066】
本発明の可塑性油脂組成物を用いて得られるベーカリー食品のコクや口溶けの向上と、ベーカリー食品を製造する際の調温作業の省略又は簡略化との両立をいっそう好ましく図る観点から、本発明の可塑性油脂組成物の脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基の割合が7質量%以上又は10質量%以上であることが好ましい。その上限は、25質量%以下であることが好ましく、22質量%以下であることがより好ましく、20質量%以下であることがさらに好ましい。したがって、一実施形態において、本発明の可塑性油脂組成物の脂肪酸残基組成におけるラウリン酸残基の割合が、7~25質量%又は10~25質量%であることが好ましく、10~22質量%であることがより好ましく、10~20質量%であることがさらに好ましい。
【0067】
同様の観点から、本発明の可塑性油脂組成物の脂肪酸残基組成におけるパルミチン酸残基の割合が20質量%以上であることが好ましい。その上限は、35質量%以下であることが好ましく、32質量%以下であることがより好ましく、28質量%以下であることがさらに好ましい。したがって、一実施形態において、本発明の可塑性油脂組成物の脂肪酸残基組成におけるパルミチン酸残基の割合が20~35質量%であることが好ましく、20~32質量%であることがより好ましく、20~28質量%であることがさらに好ましい。
【0068】
また、本発明の可塑性油脂組成物を用いて得られるベーカリー食品のコクや口溶けの向上と、ベーカリー食品を製造する際の調温作業の省略又は簡略化との両立をいっそう好ましく図る観点から、本発明の可塑性油脂組成物の脂肪酸残基組成における、ラウリン酸残基とパルミチン酸残基とステアリン酸残基の含量の和(La+P+St)に対するラウリン酸残基(La)の割合(La/(La+P+St))が、15質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、25質量%以上であることがさらに好ましい。その上限は、40質量%以下であることが好ましく、38質量%以下であることがより好ましく、35質量%以下であることがさらに好ましい。したがって、一実施形態において、本発明の可塑性油脂組成物の脂肪酸残基組成における、割合(La/(La+P+St))は、15~40質量%であることが好ましく、20~38質量%であることがより好ましく、25~35質量%であることがさらに好ましい。
【0069】
同様の観点から、本発明の可塑性油脂組成物の脂肪酸残基組成における、ラウリン酸残基とパルミチン酸残基とステアリン酸残基の含量の和(La+P+St)に対するパルミチン酸残基(P)の割合(P/(La+P+St))が、40質量%以上であることが好ましい。その上限は、60質量%以下であることが好ましく、55質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。したがって、一実施形態において、本発明の可塑性油脂組成物の脂肪酸残基組成における、(P/(La+P+St))が、40~60質量%であることが好ましく、40~55質量%であることがより好ましく、40~50質量%であることがさらに好ましい。
【0070】
<本発明の可塑性油脂組成物が満たす条件(3)について>
以下、本発明の可塑性油脂組成物が好ましく満たす条件(3)について述べる。
【0071】
本発明の可塑性油脂組成物は、不けん化物の含量が0.5質量%以上であり、好ましくは0.6質量%以上であり、より好ましくは0.7質量%以上であり、さらに好ましくは0.8質量%以上である。その上限は、3.5質量%以下であり、好ましくは3.0質量%以下であり、より好ましくは2.5質量%以下であり、さらに好ましくは2.0質量%以下である。したがって、一実施形態において、本発明の可塑性油脂組成物は、不けん化物の含量が0.5~3.5質量%であり、好ましくは0.6~3.0質量%であり、より好ましくは0.7~2.5質量%であり、さらに好ましくは0.8~2.0質量%である。
本発明の可塑性油脂組成物中の不けん化物の含量が上記範囲を満たすことで、本発明の可塑性油脂組成物を適用したベーカリー食品に対して、いっそう良好なコクを付与・増強することができる。
【0072】
本発明の可塑性油脂組成物中の不けん化物の含量は、不けん化物を0.5~3.5質量%の範囲で含有する限り、その含量の調整は任意の手法で行うことが可能であり、本発明の可塑性油脂組成物の形態に合わせて任意に選択することが可能である。
【0073】
例えば、(1)市販の不けん化物製剤(例えば築野食品工業(株)社製「ライステロールエステル」、タマ生化学工業(株)社製「フィトステロールS」)を用いて本発明の可塑性油脂組成物中の不けん化物の含量を調整する手法をとることもでき、(2)不けん化物の含量が多い油脂(例えば米油)を用いて本発明の可塑性油脂組成物中の不けん化物の含量を調整する手法をとることもでき、(3)市販の不けん化物製剤と不けん化物の含量が多い油脂とを併用して調整する手法をとることもできる。
【0074】
なお、不けん化物の含量が多い油脂を用いる場合には、該油脂中の不けん化物の含量が1.5質量%以上又は1.6質量%以上であることが好ましく、1.8質量%以上であることがより好ましく、2.0質量%以上であることがさらに好ましい。
【0075】
なお、本発明における不けん化物及び不けん化物の定量法については上述の通りである。
【0076】
<本発明の可塑性油脂組成物が満たす条件(4)について>
以下、本発明の可塑性油脂組成物に係る条件(4)について述べる。
【0077】
本発明の可塑性油脂組成物は、乳化剤の含量が2質量%以下であるという特徴を有する。
【0078】
本発明の可塑性油脂組成物の乳化剤の含量が上記条件を満たすことで、本発明の可塑性油脂組成物を用いて得られるベーカリー食品のコクや口溶けが感じられやすくなり、向上する。
【0079】
本発明の可塑性油脂組成物に用いられる乳化剤としては、例えば、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステル、ショ糖酢酸イソ酪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン縮合リシノレイン酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、ステアロイル乳酸カルシウム、ステアロイル乳酸ナトリウム、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレート、ポリオキシエチレンソルビタンモノグリセリド等の合成乳化剤や、大豆レシチン、卵黄レシチン、大豆リゾレシチン、卵黄リゾレシチン、酵素処理卵黄、乳脂肪球皮膜等の天然乳化剤が挙げられる。
【0080】
なお、本発明においてはステロール類を乳化剤としては取り扱わない。
【0081】
飲食品のコクを向上させるという本発明の効果を一層高めるため、本発明の可塑性油脂組成物を製造する際に、乳化剤を含有させる場合は、好ましくは1.5質量%以下、より好ましくは0.9質量%以下、さらに好ましくは0.3質量%以下であり、下限は0質量%(すなわち含有しない)である。
【0082】
<本発明の可塑性油脂組成物が満たす条件(5)について>
以下、本発明の可塑性油脂組成物が好ましく満たす条件(5)について述べる。
【0083】
本発明の可塑性油脂組成物は、そのトリグリセリド組成における、総炭素数40~48のトリグリセリドの割合が好ましくは18質量%以上であり、より好ましくは21質量%以上であり、さらに好ましくは24質量%以上である。その上限は、38質量%以下であり、より好ましくは36質量%以下であり、さらに好ましくは34質量%以下である。したがって、一実施形態において、本発明の可塑性油脂組成物は、そのトリグリセリド組成における、総炭素数40~48のトリグリセリドの割合が18~38質量%であり、より好ましくは21~36質量%であり、さらに好ましくは24~34質量%である。
本発明の可塑性油脂組成物が上記条件(1)~(4)に加えて、トリグリセリド組成における総炭素数40~48のトリグリセリドの割合が上記範囲を満たすことにより、本発明の可塑性油脂組成物を用いて得られるベーカリー食品のコクや口溶けがいっそう向上すると共に、ベーカリー食品を製造する際の調温作業の省略又は簡略化を容易に行うことができる。
【0084】
本発明の可塑性油脂組成物を用いて得られるベーカリー食品のコクや口溶けの向上と、ベーカリー食品を製造する際の調温作業の省略又は簡略化をより好ましく両立する観点から、本発明の可塑性油脂組成物のトリグリセリド組成における総炭素数26~38のトリグリセリドの割合が、好ましくは5質量%以上である。その上限は、好ましくは20質量%以下であり、より好ましくは18質量%以下であり、さらに好ましくは16質量%以下である。したがって、一実施形態において、本発明の可塑性油脂組成物のトリグリセリド組成における総炭素数26~38のトリグリセリドの割合が、好ましくは5~20質量%であり、より好ましくは5~18質量%であり、さらに好ましくは5~16質量%である。
【0085】
本発明の可塑性油脂組成物のトリグリセリド組成における総炭素数50~60のトリグリセリドの割合が好ましくは45質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上であり、さらに好ましくは55質量%以上である。その上限は、好ましくは70質量%以下である。したがって、一実施形態において、本発明の可塑性油脂組成物のトリグリセリド組成における総炭素数50~60のトリグリセリドの割合が好ましくは45~70質量%であり、より好ましくは50~70質量%であり、さらに好ましくは55~70質量%である。
【0086】
本発明の可塑性油脂組成物のトリグリセリド組成における各総炭素数のトリグリセリドの割合が、上記数値範囲を満たすことにより、本発明の効果をより好適に発揮することができる。
【0087】
また、本発明の可塑性油脂組成物のトリグリセリド組成中の、トリラウロイルグリセロールの含量は8質量%以下であることが好ましく、7質量%以下であることがより好ましく、6質量%以下であることがさらに好ましい。また、該トリラウロイルグリセロールの含量の下限については、特に限定されず、0質量%である。
トリラウロイルグリセロールの含量が上記範囲内にあることで、本発明の可塑性油脂組成物を用いて得られるベーカリー食品のコクや口溶けの向上と、ベーカリー食品を製造する際の調温作業の省略又は簡略化をより好ましく両立することが容易になる。
【0088】
本発明の可塑性油脂組成物中のトリラウロイルグリセロールの含量が上記範囲を満たすことで、本発明の可塑性油脂組成物を用いて得られるベーカリー食品のコクや口溶けの向上と、ベーカリー食品を製造する際の調温作業の省略又は簡略化をより好ましく両立することが容易になる理由は明らかになっていないが、本発明者らは次のように考えている。
【0089】
すなわち、トリラウロイルグリセロールは、食用油脂中に含まれるトリ飽和トリグリセリドのうちでも比較的融点が低いトリグリセリドであり、他のトリ飽和トリグリセリドよりも低い温度で溶解しやすいため、口溶けは向上しやすいが、急峻に溶解するため持続性に欠け、コクの付与・増強効果を損ねやすいと考えられる。また、急峻に溶解するトリラウロイルグリセロールを多く含有することで、適度に調温することが困難となり、調温作業の省略又は簡略化を図る事が難しくなる他、ベーカリー生地の調製に必要な可塑性・硬さが得られにくいものと考えられる。
【0090】
トリラウロイルグリセロールの含量を上記範囲とする観点や、べーカリー食品製造時の調温作業の省略等と、得られるベーカリー食品の良好な口溶けやコクとをよりいっそう好ましく両立させる観点から、本発明の可塑性油脂組成物中の、パーム核油及びヤシ油、並びにこれらに水素添加、分別から選択される1又は2以上の処理を施した加工油脂から選ばれる1種又は2種以上の油脂(すなわちエステル交換油脂に該当しない油脂)の含量が15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、最も好ましくは0質量%(すなわち含有しない)である。
【0091】
なお、本発明において示すトリグリセリド組成は、「日本油化学会制定 基準油脂分析試験法2.4.6.2-2013」に準拠して、高速液体クロマトグラフ(HPLC)法により測定した値に基づくものであり、以下同様である。
【0092】
<本発明の可塑性油脂組成物が満たす条件(6)について>
本発明の可塑性油脂組成物は、プランジャー径5mm、侵入速度20mm/minの条件で測定した、20℃における硬さ(レオ値)が好ましくは600~1500gf/cm2である。
【0093】
上記条件(1)~(4)に加えて、本発明の可塑性油脂組成物の20℃における硬さが上記範囲を満たすことで、本発明の可塑性油脂組成物を用いて得られるベーカリー食品のコクや口溶けが向上すると共に、ベーカリー食品を製造する際の調温作業の省略又は簡略化を行うことができる。なお、本発明の可塑性油脂組成物の20℃における硬さは円盤形のプランジャーを用いて測定される。
【0094】
同観点から、本発明の可塑性油脂組成物のプランジャー径5mm、侵入速度20mm/minの条件で測定した、20℃における硬さ(レオ値)が600gf/cm2以上であることが好ましく、700gf/cm2以上であることがより好ましく、800gf/cm2以上であることがさらに好ましい。その上限は、1500gf/cm2以下であることが好ましく、1400gf/cm2以下であることがより好ましく、1300gf/cm2以下であることがさらに好ましい。したがって、一実施形態において、本発明の可塑性油脂組成物の20℃における硬さ(レオ値)が、700~1400gf/cm2であることがより好ましく、800~1300gf/cm2であることがさらに好ましい。
【0095】
なお、同観点から、本発明の可塑性油脂組成物のプランジャー径5mm、侵入速度20mm/minの条件で測定した、10℃における硬さ (レオ値)が2000gf/cm2以上であることが好ましく、2200gf/cm2以上であることがより好ましく、2400gf/cm2以上であることがさらに好ましい。その上限は、3000gf/cm2以下であることが好ましい。したがって、一実施形態において、本発明の可塑性油脂組成物の10℃における硬さ(レオ値)が、2000~3000gf/cm2であることが好ましく、2200~3000gf/cm2であることがより好ましく、2400~3000gf/cm2であることがさらに好ましい。
【0096】
本発明の可塑性油脂組成物の20℃における硬さを測定する機器としては、レオメーターが用いられ、例えば、サン科学株式会社製 レオメーター CR-3000EX-Sを用いることができる。
【0097】
<本発明の可塑性油脂組成物に含有されるその他原料>
本発明の可塑性油脂組成物は、いずれの態様をとる場合であっても、上記の油脂Aや油脂B以外に、本発明の効果を損ねない範囲で、その他原料を含有していてもよい。
【0098】
その他原料としては、例えば、水、ブドウ糖、果糖、ショ糖、麦芽糖、ステビア等の甘味料、澱粉類、デキストリン、食物繊維、食塩や塩化カリウム等の塩味剤、酢酸、乳酸、グルコン酸等の酸味料、牛乳・脱脂粉乳・カゼイン・ホエーパウダー・脱脂濃縮乳・蛋白質濃縮ホエイ等の乳や乳製品、植物ミルク、ステビア、アスパルテーム等の甘味料、β-カロチン、カラメル、紅麹色素等の着色料、トコフェロール、茶抽出物等の酸化防止剤、小麦蛋白や大豆蛋白等の植物蛋白、全卵・卵黄・酵素処理卵黄・卵白・卵蛋白質等の卵及び各種卵加工品、着香料、調味料、pH調整剤、食品保存料、日持ち向上剤、果実、果汁、コーヒー、ナッツペースト、香辛料、カカオマス、ココアパウダー、穀類、豆類、野菜類、肉類、魚介類等の食品素材や食品添加物が挙げられる。その他原料は、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いてよい。
【0099】
本発明の可塑性油脂組成物においては、効果を損ねない範囲で任意の量・種類のその他原料を含有させることが可能であるが、好ましくは25質量%以下、より好ましくは20質量%以下とする。
【0100】
<本発明の可塑性油脂組成物の形態>
本発明の可塑性油脂組成物の形態としては、油脂を含有する食品、例えばマーガリン・ファットスプレッド・ショートニング・バター等の可塑性油脂組成物を挙げることができる。
【0101】
本発明の可塑性油脂組成物は、その連続相が油相であってもよく、また水相であってもよいが、本発明の効果を十分に得る観点から、連続相を油相とすることが好ましい。
【0102】
本発明の可塑性油脂組成物が乳化物である場合、その乳化形態は特に問われず、油中水型、水中油型、及び二重乳化型のいずれでも構わないが、油中水型乳化物、及び油中水中油型乳化物のような連続相を油相とする多重乳化物であることが好ましく、簡便に製造できる点からとりわけ、油中水型乳化物であることが好ましい。
【0103】
本発明品は可塑性を有する油脂組成物であり、ベーカリー食品製造時の使用形態として、練り込み油脂や折り込み油脂の形態をとりうるが、練り込み油脂として、ベーカリー食品の製造時に用いることで、ベーカリー生地中に均一に分散するため、特に好ましい。
【0104】
<本発明の可塑性油脂組成物の製造方法について>
本発明の可塑性油脂組成物の製造方法は、特に限定されるものではなく、上記の油脂A及び油脂Bを含有し、且つ上記条件(1)~(4)を満たすものであれば公知の方法で製造することができる。
【0105】
例えば、油脂A及び油脂B、必要に応じてその他油脂を含む油相に必要に応じてその他原料を加えて、急冷可塑化することにより可塑性油脂組成物を製造することができる。
【0106】
以下、本発明の好ましい態様に基づき、連続相を油相とする油中水型乳化物である、本発明の可塑性油脂組成物の製造方法について述べる。
【0107】
油中水型乳化物である可塑性油脂組成物を製造するには、上記の油脂A及び油脂B、必要に応じてその他油脂及び油溶性のその他原料を、好ましくは上記の含量の範囲内を満たすような量で、連続相である油相に含有させる。
【0108】
次に、水に必要に応じて水溶性のその他原料を分散・溶解させた水相と油相とを混合し、油中水型に混合・乳化して予備乳化液を得る。そして、得られた予備乳化液を冷却、好ましくは急冷可塑化することにより、油中水型乳化物である本発明の可塑性油脂組成物を得ることができる。
【0109】
なお、予備乳化液は、冷却の前に、殺菌処理することが望ましい。殺菌方式は、タンクでのバッチ式でもよく、プレート式熱交換器や掻き取り式熱交換器を用いた連続方式でもよい。また殺菌温度は、好ましくは80~100℃、より好ましくは80~95℃、さらに好ましくは80~90℃とする。その後、必要に応じ、油脂結晶が析出しない程度に予備冷却を行う。予備冷却の温度は、好ましくは40~60℃、より好ましくは40~55℃、さらに好ましくは40~50℃とする。
【0110】
次に、必要に応じ予備冷却した予備乳化液を冷却する。好ましくは急冷可塑化を行う。可塑化の終点温度は、特に限定されず、20℃以下となるまで冷却すればよく、好ましくは15℃以下であり、より好ましくは12℃以下である。冷却速度は、前記終点温度に冷却できればよく、特に限定されないが、1~15℃/分が好ましく、3~10℃/分がより好ましい。この急冷可塑化は、コンビネーター、ボテーター、パーフェクター及びケムテーター等の密閉型連続式掻き取りチューブチラー冷却機(Aユニット)、プレート式熱交換器、開放型冷却機のダイヤクーラーとコンプレクターとの組み合わせを用いて行うことができる。急冷を行うことにより、予備乳化液が可塑性を有する油脂組成物となる。急冷可塑化の際に、ピンマシン等の捏和装置(Bユニット)やレスティングチューブ、ホールディングチューブを使用してもよい。
【0111】
なお、本発明の可塑性油脂組成物が、ショートニングのような水分を殆ど含有しない形態の場合は、油脂A及び油脂B、並びに必要に応じてその他成分を、好ましくは上記範囲内となるような量で、油相に混合・分散させることにより、製造できる。
【0112】
なお、本発明の可塑性油脂組成物の製造工程において、窒素、空気等を含気させてもよく、含気させなくてもよい。
【0113】
<本発明のベーカリー生地及びベーカリー食品について>
次に、本発明のベーカリー生地及びベーカリー食品について述べる。
【0114】
本発明のベーカリー生地は、本発明の可塑性油脂組成物を含有するものであり、本発明のベーカリー食品は、該ベーカリー生地を加熱処理することにより得られる。
【0115】
まず、本発明のベーカリー生地について述べる。
【0116】
本発明のベーカリー生地は、本発明の可塑性油脂組成物を含有するベーカリー生地であり、その種類は特に限定されず、任意のパン類の生地、菓子類の生地が挙げられる。
【0117】
好ましくは、食パン生地、菓子パン生地、バラエティーブレッド生地、バターロール生地、ソフトロール生地、ハードロール生地、スイートロール生地、デニッシュ生地、ペストリー生地、フランスパン生地等のパン類の生地や、パイ生地、シュー生地、ドーナツ生地、バターケーキ生地、スポンジケーキ生地、ハードビスケット生地、ワッフル生地、スコーン生地等の菓子類の生地が挙げられる。
【0118】
とりわけ、本発明の効果をより十分に得る観点から、含有される油脂分が多いベーカリー生地が好ましく選択され、具体的にはベーカリー生地における油分含量が好ましくは5質量%以上、より好ましくは7質量%以上の生地が選択される。このような生地としては、例えば菓子パン生地、ドーナツ生地(イーストドーナツ生地、ケーキドーナツ生地のいずれも含む)、デニッシュ生地、ペストリー生地、ハードビスケット生地を挙げることができ、これらが本発明の効果を得る観点から好ましく選択される。
【0119】
本発明のベーカリー生地中における、本発明の可塑性油脂組成物の含量は、選択されるベーカリー生地の種類や、求める効果の程度、さらには本発明の可塑性油脂組成物の形態によっても異なるが、例えば、ベーカリー生地に含まれる穀粉類100質量部に対し、好ましくは40質量部以下、より好ましくは35質量部以下、さらに好ましくは30質量部以下である。なお、その下限は好ましくは1質量部以上、より好ましくは2質量部以上、さらに好ましくは3質量部以上である。したがって、一実施形態において、本発明の可塑性油脂組成物の含量は、ベーカリー生地に含まれる穀粉類100質量部に対し、好ましくは1~40質量部、より好ましくは2~35質量部、さらに好ましくは3~30質量部である。
【0120】
上記穀粉類としては、小麦粉(薄力粉、中力粉、準強力粉、強力粉)をはじめ、小麦胚芽、全粒粉、小麦ふすま、デュラム粉、大麦粉、米粉、ライ麦粉、ライ麦全粒粉、大豆粉、ハトムギ粉等を挙げることができ、これらの中から選ばれた1種又は2種以上を用いることができる。本発明では、これらの中でも、小麦粉を、穀粉類中、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上、更に好ましくは100質量%使用する。
【0121】
上記ベーカリー生地のうち、パン類の生地を調製する場合においては、小麦粉以外の穀粉類を使用する際、グルテンを別途添加することが好ましい。その添加量は、穀粉類とグルテンをあわせた合計量に対し、タンパク質含量が好ましくは5~20質量%、より好ましくは10~18質量%となる量である。
【0122】
本発明のベーカリー生地においては、必要に応じ、一般の製菓製パン材料として使用することのできる、その他の原料を配合することができる。該その他の原料としては、例えば、水、本発明の可塑性油脂組成物以外の油脂類(例えばバターやマーガリン、ショートニング)、イースト、糖類や甘味料(例、上白糖)、増粘安定剤、着色料、酸化防止剤、デキストリン、乳や乳製品、でんぷん類、チーズ類、蒸留酒、醸造酒、各種リキュール、乳化剤、膨張剤、無機塩類、食塩、ベーキングパウダー、イーストフード、カカオ及びカカオ製品、コーヒー及びコーヒー製品、ハーブ、豆類、蛋白質、保存料、苦味料、酸味料、pH調整剤、日持ち向上剤、果実、果汁、ジャム、フルーツソース、調味料、香辛料、酵母エキス、香料、各種食品素材や食品添加物を挙げることができる。
【0123】
上記その他の原料は、本発明の効果を損なわない限り、任意に使用することができるが、水については、例えばパン類の場合、上記穀粉類100質量部に対して、好ましくは30~100質量部、より好ましくは30~70質量部となる範囲で使用する。また、水以外のその他の原料については、上記穀粉類100質量部に対して、合計で好ましくは100質量部以下、より好ましくは50質量部以下となる範囲で使用する。
【0124】
なお、その他の原料として、水分を含有する原料を使用した場合は、上記の水には、その他の原料に含まれる水分も含めるものとする。
【0125】
上記ベーカリー生地の製造方法としては、パン類の製造方法としては中種法、直捏法、液種法、中麺法、湯種法等をとることができ、菓子類の製造方法としてはシュガーバッター法、フラワーバッター法、オールインミックス法、共立て法、別立て法等をとることができ、通常製菓製パン法として使用されている、あらゆる製菓製パン法を採ることができる。
【0126】
本発明のベーカリー生地のうち、とりわけパン類の生地を中種法で製造する場合は、本発明の可塑性油脂組成物を中種生地及び/又は本捏生地に練り込み、含有させることにより製造することができるが、本捏生地に練り込み、含有させることが好ましい。
【0127】
また、一般的に、ベーカリー生地の製造に用いられるバターやマーガリン等の油脂組成物は、その品温を15~20℃に調温した上で生地中に投入されるが、本発明の可塑性油脂組成物では、この調温作業が不要であり、本発明の可塑性油脂組成物を用いることで、ベーカリー生地の製造に係る調温作業の省略又は簡略化を図ることができる。
【0128】
なお、得られたベーカリー生地は、冷蔵、冷凍保存することが可能である。
【0129】
次に、本発明のベーカリー食品、及びその製造方法について説明する。
【0130】
本発明のベーカリー食品は、上記の本発明のベーカリー生地を加熱処理することにより得られる。
【0131】
上記加熱処理としては、上記ベーカリー生地を焼成したり、フライしたり、蒸したり、電子レンジ処理したりすることが挙げられるが、処理温度が140℃以上であることが好ましく、150℃以上であることがより好ましく、160℃以上であることがさらに好ましく、加熱処理が焼成であることが好ましい。また、得られた本発明のベーカリー食品を、冷蔵、冷凍保存したり、該保存後に電子レンジ加熱することも可能である。
【実施例0132】
次に、実施例及び比較例を挙げ、本発明を更に詳細に説明するが、これらは本発明をなんら限定するものではない。
【0133】
<使用原料>
・オリーブ油(エクストラバージンオリーブオイル、不けん化物含量1.5質量%、油脂Aに該当、SFC-10:0.2%)
・大豆油(不けん化物含量0.58質量%、油脂Aに該当、SFC-10:0.5%)
・米油(不けん化物含量2.4質量%、油脂Aに該当、SFC-10:0.2%、SFC-30:0.4%)
・パーム油(不けん化物含量0.17質量%)
・パームスーパーオレイン(ヨウ素価63、不けん化物含量0.17質量%、油脂Aに該当、SFC-10:1.3%、SFC-30:0.1%)
・パーム核ステアリン(ヨウ素価245、不けん化物含量1.0質量%)
・菜種極度硬化油(不けん化物含量1.11質量%)
・ランダムエステル交換油脂A
(パーム核油75質量%とパーム極度硬化油25質量%をそれぞれ加熱溶解した後混合して得られる混合油脂を常法に基づきランダムエステル交換して得られる油脂、油脂Bに該当し、且つ油脂B-1に該当する。不けん化物含量0.8質量%、SFC-10:71.8%、SFC-30:19.7%、S/U:5.2)
・ランダムエステル交換油脂B
(パーム核油50質量%とパーム極度硬化油50質量%をそれぞれ加熱溶解した後混合して得られる混合油脂を常法に基づきランダムエステル交換して得られる油脂、油脂Bに該当し、且つ油脂B-2に該当する。不けん化物含量0.2質量%、SFC-10:86.6%、SFC-30:54.8%、S/U:8.2)
・ランダムエステル交換油脂C
(パーム油65質量%とパーム極度硬化油35質量%をそれぞれ加熱溶解した後混合して得られる混合油脂を常法に基づきランダムエステル交換して得られる油脂。不けん化物含量0.17質量%、SFC-10:71.5%、SFC-30:47.7%、S/U:2.0)
・ランダムエステル交換油脂D
(パームオレイン(ヨウ素価55)を加熱溶解した後、常法に基づきランダムエステル交換して得られる油脂。不けん化物含量0.17質量%)
・ランダムエステル交換油脂E
(パームスーパーオレイン(ヨウ素価63)を加熱溶解した後、常法に基づきランダムエステル交換して得られる油脂。不けん化物含量0.17質量%)
・ショートニングA:ADEKA社製「プレミアムショートCF」(不けん化物含量0質量%)
【0134】
<可塑性油脂組成物の製造>
上記の使用原料を用いて、以下のとおり可塑性油脂組成物Cex-1~3、本発明の可塑性油脂組成物Ex-1~3を製造した。製造した各可塑性油脂組成物の詳細は表1~3に示すとおりである。
【0135】
[比較例1]
大豆油58質量%、パーム核ステアリン36質量%、パーム油6質量%を混合し、混合油脂Aを得た。この混合油脂A83.9質量部に対して、オリーブ油0.83質量部を加え、これを油相とし、水15.17質量部に食塩0.1質量部を混合・分散させ、これを水相とした。
得られた油相と水相とを混合し、乳化させ、油中水型の予備乳化液を得た。この予備乳化液を-5℃/分の冷却速度で10℃まで急冷可塑化して、可塑性油脂組成物Cex-1を得た。
【0136】
[実施例1]
米油45質量%、パームスーパーオレイン11質量%、菜種極度硬化油1質量%、ランダムエステル交換油脂A20質量%、ランダムエステル交換油脂B23質量%を混合し、混合油脂Bを得た。混合油脂Aの代わりに、この混合油脂Bを用いた他は、比較例1と同様に製造し、本発明の可塑性油脂組成物Ex-1を得た。
【0137】
[実施例2]
米油45質量%、パームスーパーオレイン11質量%、ランダムエステル交換油脂A10質量%、ランダムエステル交換油脂B24質量%、ランダムエステル交換油脂E10質量%を混合し、混合油脂Cを得た。混合油脂Aの代わりに、この混合油脂Cを用いた他は、比較例1と同様に製造し、本発明の可塑性油脂組成物Ex-2を得た。
【0138】
[実施例3]
米油35質量%、パームスーパーオレイン31質量%、ランダムエステル交換油脂A20質量%、ランダムエステル交換油脂B14質量%を混合し、混合油脂Dを得た。混合油脂Aの代わりに、この混合油脂Dを用いた他は、比較例1と同様に製造し、本発明の可塑性油脂組成物Ex-3を得た。
【0139】
[比較例2]
米油20質量%、ランダムエステル交換油脂C4質量%、ランダムエステル交換油脂D76質量%を混合し、混合油脂Eを得た。混合油脂Aの代わりに、この混合油脂Eを用いた他は、比較例1と同様に製造し、可塑性油脂組成物Cex-2を得た。
【0140】
[比較例3]
ランダムエステル交換油脂A10質量%、ランダムエステル交換油脂C30%、ランダムエステル交換油脂D60質量%を混合し、混合油脂Fを得た。混合油脂Aの代わりに、この混合油脂Fを用いた他は、比較例1と同様に製造し、可塑性油脂組成物Cex-3を得た。
【0141】
<可塑性油脂組成物の20℃における硬さの測定について>
得られた各可塑性油脂組成物の硬さは、サン科学株式会社製 レオメーター CR-3000EX-Sと、直径5mmの円盤形のプランジャーとを用いて測定した。測定サンプルは各可塑性油脂組成物を1辺が概ね5cmの立方体形状に切り出したものを用い、侵入速度は20mm/minとした。
【0142】
【0143】
【0144】
【0145】
<可塑性油脂組成物Cex-1~3を用いた食パンCex-1~3、及び本発明の可塑性油脂組成物Ex-1~3を用いた食パンEx-1~3の製造>
【0146】
調製した可塑性油脂組成物を用いて、下記の製法で、食パンを製造した。
【0147】
強力粉(商品名「カメリア」:日清製粉製)70質量部、上白糖3質量部、生イースト3質量部、イーストフード0.1質量部及び水40質量部をミキサーボウルに投入し、フックを使用し、低速で2分、中速で2分混合し、中種生地を得た。捏ね上げ温度は24℃であった。
【0148】
この中種生地を生地ボックスに入れ、温度28℃、相対湿度75%の恒温室で、2時間中種醗酵を行った。終点温度は29℃であった。
【0149】
この中種醗酵の終了した生地を再びミキサーボウルに投入し、更に、強力粉30質量部、上白糖12質量部、食塩0.9質量部及び水23質量部を添加し、低速で3分、中速で3分本捏ミキシングした。
【0150】
ここで、可塑性油脂組成物Cex-1~3及び本発明の可塑性油脂組成物Ex-1~3のいずれか1つを16質量部投入し、フックを使用し、低速で3分、中速で4分ミキシングを行ない、食パン用の本捏生地を得た。得られた食パン生地の捏ね上げ温度は28℃であった。
【0151】
食パン用の本捏生地を、フロアタイムを20分とった後、380gに分割・丸目を行なった。次いで、ベンチタイムを15分とった後、ワンローフ食パン用の型に1個入れ、38℃、相対湿度85%で40分ホイロをとった後、180℃に設定した固定窯に入れ25分焼成して、ベーカリー食品である食パンCex-1~3、Ex-1~3を得た。
【0152】
なお、本捏ミキシングを行った後に添加される、可塑性油脂組成物Cex-1~3及び本発明の可塑性油脂組成物Ex-1~3のいずれか1つ16質量部の代わりに、ショートニングA16質量部を加えた他は同様に製造したものを、後述する食パンの評価のコントロールとして用いた。
【0153】
用いた可塑性油脂組成物Cex-1~3及び本発明の可塑性油脂組成物Ex-1~3は、製造された後、5℃設定の冷蔵庫内で24時間以上保管されたものを、冷蔵庫から取り出してすぐ用いた。
【0154】
<ベーカリー生地の評価>
本捏時に添加した可塑性油脂組成物の練り込まれる様子を目視観察し、下記の評価基準に従って評価を行った。また、得られたベーカリー生地のべとつきについても下記の評価基準に従って評価を行った。いずれもB以上の評価を得たものを合格品とした。この評価結果を表4に記載した。
【0155】
<<評価基準:ベーカリー生地への油脂分散性>>
A:ミキサーボウルの壁面に油脂がほとんど付着することなく、生地に均質に練り込まれた。
B:ミキサーボウルの壁面に油脂が付着するものの、中速2分の時点で練り込まれ、均質な生地となった。
C:生地が滑って、中速4分の時点でも均質に練り込まれることはなかった。
【0156】
<<評価基準:製造時の作業性(生地べたつき)>>
分割後の丸め時のベーカリー生地のべとつきについて、下記の評価基準に従って評価を行なった。
A:べたつきなし
B:わずかにべたつきあり
C:ややべたつきあり
D:べたつきあり
E:非常にべたつく
【0157】
<ベーカリー食品の評価>
焼成後に25℃で24時間保管していた、上記の食パンを1.5cm厚にスライスしたものを12人のパネラーで喫食し、コントロールと比較して「コク」「口溶け」の2項目について評価した。評価は下記の基準に沿って採点し、その合計点を評価結果とした。なお、事前にパネラーの評価基準はすり合わせを行っている。
【0158】
得られた評点の合計を、54~60点:+++、44~53点:++、36~43点:+、30~35:±、18~29点:-、0~17点:--として表4に表記した。
【0159】
それぞれの評価項目について、「+」以上の評価を得たものを合格品とした。
【0160】
<<評価基準:コク>>
5点:コントロールと比較して、非常に強い。
3点:コントロールと比較して、強い。
1点:コントロールと比較して、やや強い。
0点:コントロールと同等である、又はコントロールと比較して弱い。
【0161】
<<評価基準:口溶け>>
5点:コントロールと比較して、非常に向上している。
3点:コントロールと比較して、向上している。
1点:コントロールと比較して、やや向上している。
0点:コントロールと同等である、又はコントロールと比較して弱い。
【0162】