(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171727
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】ルーメン内からのメタン産生量を推定するプライマー
(51)【国際特許分類】
C12N 15/11 20060101AFI20241205BHJP
C12Q 1/689 20180101ALI20241205BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C12Q1/689 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088893
(22)【出願日】2023-05-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、ムーンショット型農林水産研究開発事業委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100107870
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100098121
【弁理士】
【氏名又は名称】間山 世津子
(72)【発明者】
【氏名】真貝 拓三
(72)【発明者】
【氏名】藤森 美帆
【テーマコード(参考)】
4B063
【Fターム(参考)】
4B063QA01
4B063QA18
4B063QQ06
4B063QQ42
4B063QR08
4B063QR55
4B063QR62
4B063QS25
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】
【課題】 メタン産生を抑制する細菌を迅速かつ簡便に定量する手段を提供する。
【解決手段】 未培養Succinivibrionaceae科細菌を検出標的とするプライマーセット及びPrevotella lacticifexを検出標的とするプライマーセット。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(a)~(d)のいずれかの塩基配列からなるプライマー、
(a)配列番号1に記載の塩基配列に含まれる連続した10塩基以上の塩基配列、
(b)配列番号2に記載の塩基配列に含まれる連続した10塩基以上の塩基配列、
(c)配列番号3に記載の塩基配列に含まれる連続した10塩基以上の塩基配列、
(d)配列番号4に記載の塩基配列に含まれる連続した10塩基以上の塩基配列。
【請求項2】
(a)、(b)、(c)、及び(d)の塩基配列が、15塩基以上、25塩基以下の塩基配列である、請求項1に記載のプライマー。
【請求項3】
(a)、(b)、(c)、及び(d)の塩基配列が、それぞれ配列番号5、6、7、及び8に記載の塩基配列である、請求項1に記載のプライマー。
【請求項4】
ルーメン内からのメタン産生量を推定するために用いられる、請求項1に記載のプライマー。
【請求項5】
以下の工程(1)~(4)を含む、ルーメン内からのメタン産生量を推定する方法、
(1)反芻動物からルーメン内容液を採取する工程、
(2)工程(1)で採取したルーメン内容液からDNAを抽出する工程、
(3)工程(2)で抽出したDNAを鋳型として、請求項1乃至3のいずれか一項に記載のプライマーを用いて、定量PCRを行う工程であって、前記プライマーが、(a)の塩基配列からなるプライマーと(b)の塩基配列からなるプライマーのセット、及び/又は(c)の塩基配列からなるプライマーと(d)の塩基配列からなるプライマーのセットである工程、
(4)工程(3)の定量PCRの結果から、ルーメン内からのメタン産生量を推定する工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なプライマー、及びそれを用いたルーメン内からのメタン産生量を推定する方法に関する。本発明のプライマーを用いることにより、ルーメン内からのメタン産生量を迅速かつ簡便に推定することができる。
【背景技術】
【0002】
反芻家畜は、第一胃内に生息する微生物群の働きによって、摂取した飼料を分解・発酵し、発酵産物である短鎖脂肪酸を栄養利用している。一方、短鎖脂肪酸産生の過程で生じる水素は、メタンに変換され、大気中に放出される。世界では15億頭ものウシが飼養されており、反芻家畜の消化管内発酵に由来するメタンは、農業分野から排出される温室効果ガスの4割を占める主要な温室効果ガス排出源となっている。全世界で温室効果ガスの排出削減が進められており、ウシ由来メタンの削減技術についても各国で研究開発が進められている。
【0003】
メタン削減技術の開発では、ウシの個体差に着目した研究も進められている。すなわち、元来メタン産生の少ないウシ個体の微生物的特徴を明らかにし、その特徴を生菌剤などの形で活用したり、低メタン産生牛の育種に繋げようとする取り組みである。低メタン産生ウシの特徴として、牛第一胃内において水素消費を巡ってメタン産生と拮抗的な関係にあるプロピオン酸産生が増加することが知られている。低メタン産生ウシでは、未培養のSuccinivibrionaceae科細菌などの関連が指摘されているが、培養化には至っていない。また、農研機構において特定した低メタン産生牛に特徴的な細菌として検出、分離された新規細菌種Prevotella lacticifex(以下、「P. lacticifex」と記載する場合がある。)は、プロピオン酸の前駆物質を多く産生する特徴が明らかになっており、プロピオン酸産生の増強やメタン産生の低減に向けた応用利用が期待されている。
【0004】
ウシから排出されるメタンの測定には、1)ウシの体全体、又は頭部を覆って呼気を収集するチャンバー法、2)ウシに六フッ化硫黄(SF6)などの微量の希ガスを飲ませて内部標準とし、首部に設置したボンベに呼気を回収する方法、3)メタン:二酸化炭素比から推定する方法、などが利用されるが、いずれも特殊な装置や設備を必要とする。また、飼料の採食量の測定など、個体別管理が必要となる場合がある。
【0005】
微生物群の検出では、未培養Succinivibrionaceae科細菌及びP. lacticifexの検出、及び細菌群全体に占める割合を調べるために、ルーメン微生物群集から抽出したDNAに対し、16SrRNA遺伝子の部分配列(V3-V4領域など)を標的としたユニバーサルプライマー(全ての細菌を標的とした網羅的なプライマー)によってPCR増幅した後、その塩基配列をMiSeqなどの次世代シークエンサーによって数万個規模で解読し、QIIMEなどの専用のプラットフォームで解析するなど、複雑な解析手順が必要である(非特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Caporaso, J., Lauber, C., Walters, W. et al. Ultra-high-throughput microbial community analysis on the Illumina HiSeq and MiSeq platforms. ISME J 6, 1621-1624 (2012).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来技術のうち、ガスを測定する方法は、特殊な装置や設備を必要とする。また、飼料の採食量の測定など、個体ごとに管理したデータ集積が必要となる場合がある。
【0008】
一方、従来の微生物群の検出は、サンプル間比較を目的とした、網羅的な占有率調査の研究手法であり、特定細菌の定量的データは得られない。また、16S rRNA遺伝子の部分配列(V3-V4領域など) を利用する専門の検査機関での解析では、どの配列が未培養Succinivibrionaceae科細菌やP. lacticifexなのかを特定できない。特定には専門的な解析を必要とする。また、サンプルは専門の調査機関に送付する必要があり、解析に1ヶ月程度の日数を要する。
【0009】
以上のように、従来のメタンの測定法や微生物群からメタン産生量を推定する方法はいずれも多くの問題を有していた。本発明は、このような背景の下になされたものであり、メタン産生を抑制する細菌を迅速かつ簡便に定量する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、配列番号5~8に記載の塩基配列からなるプライマーを使用したPCRにより、低メタン産生牛に特徴的な細菌のDNAを特異的に増幅できることを見出し、この知見に基づき本発明を完成するに至った。
【0011】
即ち、本発明は、以下の〔1〕~〔5〕を提供するものである。
〔1〕下記(a)~(d)のいずれかの塩基配列からなるプライマー、
(a)配列番号1に記載の塩基配列に含まれる連続した10塩基以上の塩基配列、
(b)配列番号2に記載の塩基配列に含まれる連続した10塩基以上の塩基配列、
(c)配列番号3に記載の塩基配列に含まれる連続した10塩基以上の塩基配列、
(d)配列番号4に記載の塩基配列に含まれる連続した10塩基以上の塩基配列。
【0012】
〔2〕(a)、(b)、(c)、及び(d)の塩基配列が、15塩基以上、25塩基以下の塩基配列である、〔1〕に記載のプライマー。
【0013】
〔3〕(a)、(b)、(c)、及び(d)の塩基配列が、それぞれ配列番号5、6、7、及び8に記載の塩基配列である、〔1〕に記載のプライマー。
【0014】
〔4〕ルーメン内からのメタン産生量を推定するために用いられる、〔1〕に記載のプライマー。
【0015】
〔5〕以下の工程(1)~(4)を含む、ルーメン内からのメタン産生量を推定する方法、
(1)反芻動物からルーメン内容液を採取する工程、
(2)工程(1)で採取したルーメン内容液からDNAを抽出する工程、
(3)工程(2)で抽出したDNAを鋳型として、〔1〕乃至〔3〕のいずれかに記載のプライマーを用いて、定量PCRを行う工程であって、前記プライマーが、(a)の塩基配列からなるプライマーと(b)の塩基配列からなるプライマーのセット、及び/又は(c)の塩基配列からなるプライマーと(d)の塩基配列からなるプライマーのセットである工程、
(4)工程(3)の定量PCRの結果から、ルーメン内からのメタン産生量を推定する工程。
【発明の効果】
【0016】
本発明は、新規なプライマーを提供する。このプライマーを用いることにより、ルーメン内からのメタン産生量を迅速かつ簡便に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】未培養Succinivibrionaceae科細菌及びP. lacticifexとプロピオン酸割合との相関関係を示す図。図中のラインとその周りのグレーの範囲は95%信頼曲線の信頼度を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明を詳細に説明する。
(A)プライマー
本発明のプライマーは、下記(a)~(d)のいずれかの塩基配列からなるプライマーである。
(a)下記の配列番号1に記載の塩基配列に含まれる連続した10塩基以上の塩基配列
(b)下記の配列番号2に記載の塩基配列に含まれる連続した10塩基以上の塩基配列
(c)下記の配列番号3に記載の塩基配列に含まれる連続した10塩基以上の塩基配列
(d)下記の配列番号4に記載の塩基配列に含まれる連続した10塩基以上の塩基配列
配列番号1:5’-ACC GAT GAT CTC TAG CTG GTT TGA GAG GAC AAT CAG CCA CAT-3’
配列番号2:5’-CAC GGA GTT TGC CGG TGC TTA TTC ACA CTC TAA CGT CAA AT-3’
配列番号3:5’-GAG TAA CGC GTA TCC AAC CTG CCG CAA AGT AGG GCA CAG-3’
配列番号4:5’-GGG TAC CTG CAA TGA ATG ACA CGT CAC TCA CTT TAT CCC-3’
【0019】
(a)の塩基配列からなるプライマーは未培養Succinivibrionaceae科細菌を検出標的とするフォワードプライマーであり、(b)の塩基配列からなるプライマーは未培養Succinivibrionaceae科細菌を検出標的とするリバースプライマーであり、(c)の塩基配列からなるプライマーはPrevotella lacticifexを検出標的とするフォワードプライマーであり、(d)の塩基配列からなるプライマーはPrevotella lacticifeを検出標的とするリバースプライマーである。
【0020】
(a)~(d)の塩基配列において、連続する塩基の数は10塩基以上であればよいが、12塩基以上であることが好ましく、15塩基以上であることがより好ましい。また、連続する塩基の数は、35塩基以下であることが好ましく、30塩基以下であることがより好ましく、25塩基以下であることが更に好ましい。
【0021】
(a)、(b)、(c)、及び(d)の塩基配列からなるプライマーは、それぞれ配列番号5、6、7、及び8に記載の塩基配列(上記配列番号1~4において下線を付けた塩基配列)からなるプライマーであることが好ましい。配列番号5、6、7、及び8に記載の塩基配列からなるプライマーは、塩基配列の特異性だけでなく、プライマーとしての機能を損なわないように(例えば、プライマー同士のアニーリングやプライマー内のセルフアニーリングが生じないように)配列の利用部位や長さを考慮して設計されている。
【0022】
本発明のプライマーは、未培養Succinivibrionaceae科細菌又はPrevotella lacticifexを検出標的とする。これらの細菌のルーメン内の存在数は、ルーメン内のプロピオン酸産生量と正の相関関係を示す。また、ルーメン内のプロピオン酸産生は、水素消費を巡って、メタン産生と拮抗的な関係にある。従って、未培養Succinivibrionaceae科細菌及びPrevotella lacticifexのルーメン内の存在数は、ルーメン内のメタン産生と負の相関関係を示すと考えられる。よって、本発明のプライマーは、ルーメン内からのメタン産生量を推定するために用いることができる。また、本発明のプライマーは、ルーメン内からのプロピオン酸産生量を推定するために用いることもできる。
【0023】
(B)メタン産生量を推定する方法
本発明のルーメン内からのメタン産生量を推定する方法は、下記の工程(1)~(4)を含むものである。
【0024】
工程(1)では、反芻動物からルーメン内容液を採取する。
【0025】
ルーメン(第一胃)内容液の採取は、特別な方法を用いる必要はなく、公知の方法に従って行うことができ、また、ルーメン内容液を採取する専用の器具も市販されているので、そのような器具を使用して行うことができる。
【0026】
対象とする反芻動物は、主にウシであるが、ウシ以外の反芻動物、例えば、ヤギ、ヒツジ、シカなどを対象としてもよい。また、ウシは、乳牛でも、肉牛でもよい。
【0027】
工程(2)では、工程(1)で採取したルーメン内容液からDNAを抽出する。
【0028】
ルーメン内容液からDNAの抽出は、特別な方法を用いる必要はなく、公知の方法に従って行うことができ、また、DNAを抽出する専用のキットも市販されているので、そのようなキットを使用して行うことができる。
【0029】
工程(3)では、工程(2)で抽出したDNAを鋳型として、本発明のプライマーを用いて、定量PCRを行う。
【0030】
未培養Succinivibrionaceae科細菌を検出標的とする場合は(a)の塩基配列からなるプライマーと(b)の塩基配列からなるプライマーのセットを使用し、Prevotella lacticifexを検出標的とする場合は(c)の塩基配列からなるプライマーと(d)の塩基配列からなるプライマーのセットを使用する。両方の細菌を検出標的とする場合は前記二種類のプライマーセットを使用する。
【0031】
定量PCRの種類は特に限定されないが、リアルタイムPCRが好ましい。リアルタイムPCRは、公知の方法、例えば、SYBRTM Greenなどを用いたインタカレーション法、TaqManTMプローブなどを用いたプローブ法に従って行うことができる。
【0032】
PCRにおける変性条件は特に限定されないが、変性温度は92~100℃であることが好ましく、94~98℃であることがより好ましく、約95℃であることが更に好ましく、変性時間は5~180秒であることが好ましく、10~60秒であることがより好ましく、約15秒であることが更に好ましい。
【0033】
PCRにおけるアニーリング条件も特に限定されないが、アニーリング温度は45~68℃であることが好ましく、55~57℃であることがより好ましく、約56℃であることが更に好ましく、アニーリング時間は10~60秒であることが好ましく、20~40秒であることがより好ましく、約30秒であることが更に好ましい。
【0034】
PCRにおける伸長反応条件も特に限定されないが、伸長反応温度は60~75℃であることが好ましく、60~72℃であることがより好ましく、約72℃であることが更に好ましく、伸長反応時間は10~60秒であることが好ましく、20~40秒であることがより好ましく、約30秒であることが更に好ましい。
【0035】
PCRにおけるサイクル数も特に限定されないが、20~60サイクルが好ましく、30~50サイクルがより好ましく、約40サイクルが更に好ましい。
【0036】
工程(4)では、工程(3)の定量PCRの結果から、ルーメン内からのメタン産生量を推定する。
【0037】
工程(3)の定量PCRの結果から、未培養Succinivibrionaceae科細菌又はPrevotella lacticifexのルーメン内の存在数がわかる。上述したように、これらの細菌の存在数は、ルーメン内のメタン産生と負の相関関係を示す。従って、工程(3)の定量PCRの結果から、ルーメン内からのメタン産生量を推定することが可能である。また、後述する実施例に示すように、存在数ではなく、標的細菌の存在数をルーメン内の総細菌の存在数で除した存在割合から、ルーメン内からのメタン産生量を推定することも可能である。ルーメン内の総細菌の存在数は、例えば、表1に記載したプライマーセット(配列番号9及び10)を使用した定量PCRによって求めることができる。
【0038】
本発明の上記方法により、反芻動物の各個体におけるルーメン内からのメタン産生量を数値化することができるようになる。これにより、メタン産生量の少ない個体を特定することができるようになり、また、このような個体を育種選抜に利用することも可能になる。
【0039】
上述したように、未培養Succinivibrionaceae科細菌又はPrevotella lacticifexのルーメン内の存在数は、ルーメン内のプロピオン酸産生量とも相関関係を示すので、本発明の上記方法は、ルーメン内からのプロピオン酸産生量を推定する方法にも応用することができる。
【実施例0040】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0041】
〔材料と方法〕
〔特異的プライマーの設計〕
未培養Succinivibrionaceae科細菌及びPrevotella lacticifexの各16S rRNA遺伝子配列は、農研機構畜産研究部門において飼養管理される低メタン産生牛から以下の方法で取得した。低メタン産生牛から第一胃内容液採取用ゾンデ(ルミナー、三紳工業)を用いて第一胃内容液を経口採取し、得られた第一胃内容液から微生物由来DNAを抽出した。細菌のユニバーサルプライマーセット27f (5’-AGAGTTTGATCMTGGCTCAG-3’)(配列番号11)と1492r (5’-GGYTACCTTGTTACGACTT-3’) (配列番号12)を用いて16S rRNA遺伝子をPCR増幅し、増幅断片を得た。各DNA増幅断片をpCR2.1ベクターに導入し、大腸菌に導入して増幅後、コロニーから得られたプラスミドの塩基配列を解読して未培養Succinivibrionaceae科細菌及びP. lacticifexの各16S rRNA遺伝子の塩基配列を取得した。塩基配列をClustalWによりアライメントしたのち、各標的細菌に特有の配列部位を検出した。またプライマー配列内、及びフォワードとリバースのプライマー同士で立体構造形成やセルフアニーリングしない塩基配列になるよう設計し、それぞれについて定量に適した特異的プライマーを設計した。プライマー配列はNCBI/EMBL/DDBJ/のデータベース検索にて特異性を評価後、プライマー標的細菌のクローンプラスミドをポジティブコントロールとし、プライマー標的細菌の近縁菌種の既知菌DNA(Succinivibrio dextrinosolvens ATCC 19716株、Succiniclasticum ruminis DSM 9236株、及びPrevotella ruminicola ATCC 19189株、Prevotella bryantii DSM 11371株、Prevotella brevis ATCC 19188株、及びPrevotella albensis DSM 11370株)に対してPCRを行い、プライマーの特異性を増幅の有無で判定した。
【0042】
〔細菌の定量とルーメン内発酵産物指標との相関解析〕
2017年4月から2021年11月にかけて、農研機構畜産研究部門において飼養管理されるホルスタイン種泌乳牛及び乾乳牛のべ71頭より、早朝給餌3時間後に第一胃内容液サンプルを経口採取し、各サンプルから微生物DNAを抽出・精製した(泌乳牛200サンプル、乾乳牛24サンプル)。
【0043】
各サンプル中の未培養Succinivibrionaceae科細菌とP. lacticifexのルーメン内存在数及びルーメン内総細菌数をリアルタイムPCR法により定量した。使用したプライマーセットを表1に示す(配列番号5~10)。
【表1】
【0044】
ルーメン内総細菌数の定量には既報のプライマーセットを用いた(上記表1中のルーメン内総細菌用プライマーセット (配列番号9及び10)、Denman & McSweeney, 2006)。PCR反応液はPlatinumTM SYBRTM Green qPCR SuperMix-UDG(Invitrogen)を用いて調製した。PCR装置はQuantStudioTM 3リアルタイムPCRシステム(Applied Biosystems)を用いた。PCR条件は1サイクルのうち熱変性を95℃で15秒間、アニーリングを56℃で10秒間、伸長反応を72℃で30秒間とし、40サイクル実施した。定量データは標的細菌数を総細菌数で除した存在割合で示した。
【0045】
ルーメン発酵指標として、ルーメン内短鎖脂肪酸濃度をガスクロマトグラフィーによる短鎖脂肪酸分析システム8890 GC System(Agilent Technologies)を用いて測定した。測定データから、短鎖脂肪酸バランスとして(酢酸+酪酸)/プロピオン酸を算出し、細菌定量データとの関連性を分析した。
【0046】
〔結果〕
〔特異的プライマーの設計〕
設計した各プライマー配列はNCBI/EMBL/DDBJ/のデータベース検索にて、未培養Succinivibrionaceae科細菌とP. lacticifexの16S rRNA遺伝子にそれぞれ特異的な配列であることが確認された。また、PCRにより、両プライマーセットにより定量PCRが可能であることを確認した。さらに近縁菌種のDNAを用いた場合に、PCR陰性が確認され、それぞれ特異的なPCR定量系であることが示された。
【0047】
〔細菌の定量とルーメン内発酵産物指標との相関解析〕
未培養Succinivibrionaceae科細菌とP. lacticifexの存在割合は(酢酸+酪酸)/プロピオン酸と負の相関関係を示し、(酢酸+酪酸)/プロピオン酸が3.5以下の高プロピオン酸産生型ルーメンにおいて高い存在割合を示した(
図1)。このことから、両細菌はルーメン内におけるプロピオン酸産生と正の相関が示された。
【0048】
〔参考文献〕
1. Denman SE & McSweeney CS (2006) Development of a real-time PCR assay for monitoring anaerobic fungal and cellulolytic bacterial populations within the rumen. FEMS Microbiol Ecol, 58(3):572-582.