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特開2024-171728Prevotella lacticifex増殖用組成物
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  • 特開-Prevotella  lacticifex増殖用組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171728
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】Prevotella lacticifex増殖用組成物
(51)【国際特許分類】
   C12N 1/20 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
C12N1/20 A
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023088894
(22)【出願日】2023-05-30
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、ムーンショット型農林水産研究開発事業委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100107870
【弁理士】
【氏名又は名称】野村 健一
(74)【代理人】
【識別番号】100098121
【弁理士】
【氏名又は名称】間山 世津子
(72)【発明者】
【氏名】真貝 拓三
(72)【発明者】
【氏名】熊谷 真彦
【テーマコード(参考)】
4B065
【Fターム(参考)】
4B065AA01X
4B065BB18
4B065CA43
(57)【要約】
【課題】 Prevotella lacticifexを効率的に増殖させる手段を提供する。
【解決手段】 プルラン又はデンプンを含有することを特徴とするPrevotella lacticifex増殖用組成物。
【選択図】 なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
プルラン又はデンプンを含有することを特徴とするPrevotella lacticifex増殖用組成物。
【請求項2】
Prevotella lacticifexを更に含有することを特徴とする請求項1に記載のPrevotella lacticifex増殖用組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のPrevotella lacticifex増殖用組成物を含むことを特徴とする反芻動物用飼料。
【請求項4】
反芻動物が、ウシであることを特徴とする請求項3に記載の反芻動物用飼料。
【請求項5】
請求項1に記載のPrevotella lacticifex増殖用組成物を含む培地中で、Prevotella lacticifexを培養することを特徴とするPrevotella lacticifexの培養方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Prevotella lacticifex増殖用組成物、並びにこれを利用した反芻動物用飼料及びPrevotella lacticifexの培養方法に関する。Prevotella lacticifexは、飼料利用性の改善やメタン排出低減に貢献することが期待される有用な細菌である。
【背景技術】
【0002】
反芻家畜が摂取した牧草などの飼料成分は、第一胃内に生息する微生物群によって分解、発酵され、酢酸やプロピオン酸などの短鎖脂肪酸となって反芻家畜に利用される。プロピオン酸は反芻家畜体内でグルコースに変換され、反芻家畜の主要なエネルギー源になることから、家畜の飼料効率の改善の鍵となる発酵産物である。また、第一胃内でのプロピオン酸産生は、水素利用の観点からメタン(温室効果ガス)産生と競合関係にあることが知られており、反芻家畜から放出されるメタン削減技術としてのプロピオン酸産生増強への期待も大きい。
【0003】
これまで、プロピオン酸増強やメタン低減は、主に穀物飼料などの高エネルギー飼料への変更やモネンシンなどの抗菌物質給与により行われてきた。一方、プロピオン酸増強につながるルーメン微生物の生菌材はない。本発明者は、低メタン産生で、かつ高プロピオン酸産生を示す乳用牛に特徴的に多く存在し、プロピオン酸前駆物質を多く産生する新規細菌種Prevotella lacticifex(以下、「P. lacticifex」と記載する場合がある。)菌を分離し、生菌剤利用に関する特許を出願している(特許文献1)。
【0004】
P. lacticifex菌は非特許文献1において開示された新規な細菌種である。非特許文献1には、P. lacticifex菌が「D-グルコース、ラクトース、サッカロース、マルトース、サリシン、L-アラビノース、セロビオース、D-マンノース、D-ラフィノースを加えた場合に酸生成するが、D-マンニトール、グリセロール、D-メレチトース、D-ソルビトール、D-トレハロースを加えた場合には酸生成を行わない」ことが記述されており、P. lacticifex菌とこれらの糖類との組合せについては開示されているが、それ以外の基質への資化性は開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2022/265014号
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Shinkai T, Ikeyama N, Kumagai M, Ohmori H, Sakamoto M, Ohkuma M, Mitsumori M. “Prevotella lacticifex sp. nov., isolated from the rumen of cows” International Journal of Systematic and Evolutional MIcrobiology 72, 00518, 202203
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
P. lacticifex菌は、ウシのルーメン内においてプロピオン酸産生の増強やメタン産生の抑制が期待され細菌であるが、この細菌を効率的に増殖させる方法は未だ明らかにされていない。本発明は、このような背景の下になされたものであり、P. lacticifex菌を効率的に増殖させる手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた結果、P. lacticifex菌が、他のルーメン内Prevotella属細菌よりも、プルランやデンプンを優先的に増殖基質として利用することを見出し、この知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、以下の(1)~(5)を提供するものである。
(1)プルラン又はデンプンを含有することを特徴とするPrevotella lacticifex増殖用組成物。
【0010】
(2)Prevotella lacticifexを更に含有することを特徴とする(1)に記載のPrevotella lacticifex増殖用組成物。
【0011】
(3)(1)又は(2)に記載のPrevotella lacticifex増殖用組成物を含むことを特徴とする反芻動物用飼料。
【0012】
(4)反芻動物が、ウシであることを特徴とする(3)に記載の反芻動物用飼料。
【0013】
(5)(1)に記載のPrevotella lacticifex増殖用組成物を含む培地中で、Prevotella lacticifexを培養することを特徴とするPrevotella lacticifexの培養方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明は、P. lacticifex菌の増殖に用いられる新規な組成物を提供する。この組成物は、反芻動物用飼料やP. lacticifex菌の培養方法に利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】各種基質に対するPrevotella lacticifexの増殖曲線を示す図。横軸は培養時間(時間)、縦軸は細菌濁度(OD600)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のP. lacticifex増殖用組成物は、プルラン又はデンプンを含有することを特徴とするものである。ここで、「P. lacticifex増殖用組成物」とは、P. lacticifexを増殖させるために用いられる組成物を意味する。
【0017】
本発明の組成物は、反芻動物用飼料に利用することができる。Prevotella属細菌はルーメン内における最優勢菌の一つとして知られているが、本発明の組成物に含まれるプルランやデンプンはP. lacticifexに対して高い増殖効果を示す一方、他のPrevotella属細菌(P. ruminantium、P. bryantiiなど)に対してはあまり増殖効果を示さない。従って、本発明の組成物を含む飼料を反芻動物に給与することにより、その動物のルーメン内におけるP. lacticifexの増殖性、占有率を高めることができる。対象とする反芻動物は、主にウシであるが、ウシ以外の反芻動物、例えば、ヤギ、ヒツジ、シカなどを対象としてもよい。また、ウシは、乳牛でも、肉牛でもよい。
【0018】
本発明の組成物は、P. lacticifexの培養方法にも利用できる。培地に本発明の組成物を添加することにより、P. lacticifexを効率的に培養することが可能になる。
【0019】
プルランは、グルコース3分子がα1-4結合したマルトトリオースがα1-6結合で繋がった構造を持つ多糖である。プルランは市販されており、本発明においてはそのような市販品を使用することができる。
【0020】
デンプンとしては、例えば、可溶性デンプンを使用することができる。デンプンも可溶性デンプンも市販されており、本発明においてはそのような市販品を使用することができる。
【0021】
本発明の組成物は、増殖対象とするP. lacticifexを含んでいてもよい。P. lacticifexをルーメン内に有するウシは多数存在する一方、この細菌を持たないウシも存在すると考えられる。そのようなウシに対して本発明の組成物を給与する場合は、P. lacticifexも含む組成物を使用することが好ましい。
【0022】
Prevotella lacticifexは生菌剤として有用な菌であるが、生菌剤には、通常、微生物の他に、分散性や安定性のある嵩増し素材が含まれている。デンプンはこのような嵩増し素材として一般的に使用されるものである。Prevotella lacticifexを生菌剤として製造保存する場合も、菌に安定性や分散性を持たせるために、デンプンが添加されることが考えられる。このようにPrevotella lacticifexの増殖ではなく、安定性や分散性の向上を目的として添加された場合であっても、Prevotella lacticifexは添加されたデンプンを利用して増殖することできる。従って、安定性や分散性の向上を目的で添加されたデンプンを含むPrevotella lacticifexの生菌剤も、本発明のPrevotella lacticifex増殖用組成物に含まれる。
【0023】
使用するP. lacticifexは特に限定されず、例えば、P. lacticifex R5019、P. lacticifex R6014、P. lacticifex R6025などを使用することができる。なお、P. lacticifex R6014は、独立行政法人製品評価技術基盤機構特許微生物寄託センター(日本国千葉県木更津市かずさ鎌足2-5-8)に受託番号FERM BP-03463として寄託されている。
【0024】
本発明の組成物は、プルラン、デンプン、P. lacticifex以外の成分を含んでいてもよい。
【0025】
本発明の組成物を含む飼料を反動動物に給与する場合、その飼料中のプルラン又はデンプンの含有量はP. lacticifexを増殖させ得る量であれば特に限定されないが、プルランの含有量は、0.02~5 w/w%とすることが好ましく、0.1~5w/w%とすることがより好ましく、1~5w/w%とすることが更に好ましく、デンプンの含有量は、0.02~5 w/w%とすることが好ましく、0.1~5w/w%とすることがより好ましく、1~5w/w%とすることが更に好ましい。また、本発明の組成物がP. lacticifexを含む場合、飼料中のP. lacticifexの含有量はP. lacticifexを増殖させ得る量であれば特に限定されないが、例えば、102~106 cell/g(湿重)とすることでき、また、106~109 cell/g(湿重)とすることができ、更に、109~1012 cell/g(湿重)とすることができる。
【0026】
本発明の組成物を含む培地でP. lacticifexを培養する場合、その培地中のプルラン又はデンプンの含有量はP. lacticifexを増殖させ得る量であれば特に限定されないが、0.05~5 w/w%とすることが好ましく、0.1~ 2 w/w%とすることがより好ましく、0.1~1 w/w%とすることが更に好ましい。
【実施例0027】
以下に、実施例により本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこの実施例に限定されるものではない。
【0028】
〔材料と方法〕
農研機構畜産研究部門が分離し、分譲機関に寄託済みの新種認定されたPrevotella lacticifex R5019T株(JCM 34664、DSM 112675)、R6014株(NITE P-03463)を含む菌株に加え、ルーメン内の主要な既知Prevotella属細菌であるP. ruminicola B23T(JCM 8529)、及びP. bryantii B14T(DSM 11371)を用いた。菌株のゲノム比較には上記細菌株に加え、P. lacticifexの16S rRNA遺伝子配列上の最近縁菌であるP. multisaccharivorax PPPA20T(JCM 12952)を用いた。細菌株はルーメン液を含む酵母抽出物―トリプチケース-ルーメン液(YTR)スラント培地で維持し、ゲノム解析、及び基質利用性試験には変法GAM寒天プレート(日水製薬)にて培養した細胞を供試した。細胞脂質組成、及びキノン構成の評価にはYTR液体培地を、発酵産物の評価にはペプトン-酵母抽出物-グルコース(PYG)液体培地をそれぞれ用いた。培養は37℃とし、コロニーや対数増殖が確認された培養後48-72時間の細胞を分析に供した。
【0029】
全ゲノム解析のため、各細菌株からNucleoSpin Tissue(Machery-Nagel)を用いて長鎖DNAを抽出し、Illumina MiSeq (Reagent kit v3)、及び Nanopore sequencing system (MinION)を用いて塩基配列を解読後、SPAdes v3.13.2によりハイブリッドアセンブルした。アセンブルゲノムをprokka v1.14.5 及びDFASTによりアノテーションした。hypothetical protein(機能、名称等が不明なタンパク質)を除いた後、遺伝子ID、又は遺伝子名が得られている遺伝子をピックアップし、菌株間でゲノム比較してP. lacticifexが固有に保持する遺伝子、及びその塩基配列を特定した。固有に保持することを特定した遺伝子情報(遺伝子ID、遺伝子名、又は塩基配列)から糖質加水分解酵素の情報を抽出し、利用性の高いことが推定される基質を選定した。
【0030】
P. lacticifexの基質の利用性は、基礎培地であるPY培地に試験する糖を添加し、細胞の増殖性を細胞濁度(OD660、mini photo 518R、TAITEC)を測定することで他菌と比較評価した。グルコース(ナカライテスク)、デキストリン(ナカライテスク)、プルラン(東京化成工業)、可溶性デンプン(ナカライテスク)を使用し、濃度が0.5 w/v %になるように添加した。5 mlの培地に培養液0.2 mlを植菌し、10分ごとに細胞濁度をモニタリングしながら対数増殖初期に当たるOD600 0.20-0.35(P. ruminicolaの場合は0.1)の間で継代して前々培養、前培養、及び本培養を行なった。評価は3回繰り返し行なった。
【0031】
〔結果〕
遺伝子ID及び遺伝子名に基づく比較解析の結果、P. lacticifexに固有の遺伝子がそれぞれ169個、及び105個検出された。これらの遺伝子ID、遺伝子名、及びその塩基配列情報を元にP. lacticifexが固有に持つ糖質加水分解酵素を特定し、遺伝子配列が糖質加水分解酵素ファミリー13のプルラナーゼに類似することを見出した。この解析結果から、P. lacticifexによる利用性が高いことが推定される基質としてプルラン、及び可溶性デンプンを選定した。これら基質に対する利用、及び増殖性を培養法により評価したところ、P. lacticifex菌がルーメン内の他のPrevotella属既知細菌よりもプルラン又は可溶性デンプンに対し、優れた増殖性を示すことが明らかになった(図1)。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明は、畜産業などの産業において利用可能である。
図1