(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171820
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 21/60 20060101AFI20241205BHJP
H01L 25/07 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
H01L21/60 301N
H01L25/04 C
【審査請求】未請求
【請求項の数】6
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089063
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【弁理士】
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】田中 聡
(72)【発明者】
【氏名】新開 次郎
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 弘
【テーマコード(参考)】
5F044
【Fターム(参考)】
5F044AA02
5F044EE01
5F044EE04
5F044EE06
5F044EE11
5F044EE13
(57)【要約】
【課題】高い動作温度においても良好な寿命が得られる半導体装置を提供する。
【解決手段】半導体装置は、半導体基板と、前記半導体基板の上に設けられた主電極とを備えた半導体チップと、緩衝板と、前記主電極と前記緩衝板との間に設けられた緩衝接合材と、を有し、前記緩衝板は、積層材、または、キュリー点が300℃以上の合金材であり、前記積層材は、前記緩衝接合材に接する第1銅層と、前記第1銅層の上に設けられたキュリー点が300℃以上の合金層と、前記合金層の上に設けられた第2銅層と、を有する。
【選択図】
図5
【特許請求の範囲】
【請求項1】
半導体基板と、前記半導体基板の上に設けられた主電極とを備えた半導体チップと、
緩衝板と、
前記主電極と前記緩衝板との間に設けられた緩衝接合材と、
を有し、
前記緩衝板は、積層材、または、キュリー点が300℃以上の合金材であり、
前記積層材は、
前記緩衝接合材に接する第1銅層と、
前記第1銅層の上に設けられたキュリー点が300℃以上の合金層と、
前記合金層の上に設けられた第2銅層と、
を有する、半導体装置。
【請求項2】
前記緩衝接合材は、空孔率が5%以上40%以下の焼結体を有する、請求項1に記載の半導体装置。
【請求項3】
前記合金材および前記合金層は、鉄およびニッケルを含み、
前記合金材および前記合金層におけるニッケルの割合は40質量%以上である、請求項1または請求項2に記載の半導体装置。
【請求項4】
前記合金材および前記合金層は、鉄、ニッケルおよびコバルトを含み、
前記合金材および前記合金層におけるニッケルおよびコバルトの合計の割合は40質量%以上である、請求項1または請求項2に記載の半導体装置。
【請求項5】
半導体基板と、前記半導体基板の上に設けられた主電極とを備えた半導体チップと、
緩衝板と、
前記主電極と前記緩衝板との間に設けられた緩衝接合材と、
を有し、
前記緩衝接合材は、空孔率が5%以上40%以下の焼結体を有する、半導体装置。
【請求項6】
前記主電極は、アルミニウムまたはアルミニウム合金層を含み、
前記半導体基板の第1線膨張率および前記緩衝板の第2線膨張率は、前記主電極の第3線膨張率よりも小さく、
前記第2線膨張率は、前記第1線膨張率よりも小さい、請求項1または請求項2に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、半導体装置に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーモジュールに好適な半導体装置の例として、半導体チップの主電極に緩衝板が接合され、緩衝板にボンディングワイヤが接合された半導体装置が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2018-186220号公報
【特許文献2】特開2017-005037号公報
【特許文献3】特開2019-057663号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
近年、より高温で使用可能な半導体装置に対する要求が高まっている。このため、より高温において良好な寿命が望まれる。
【0005】
本開示は、高い動作温度においても良好な寿命が得られる半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の半導体装置は、半導体基板と、前記半導体基板の上に設けられた主電極とを備えた半導体チップと、緩衝板と、前記主電極と前記緩衝板との間に設けられた緩衝接合材と、を有し、前記緩衝板は、積層材、または、キュリー点が300℃以上の合金材であり、前記積層材は、前記緩衝接合材に接する第1銅層と、前記第1銅層の上に設けられたキュリー点が300℃以上の合金層と、前記合金層の上に設けられた第2銅層と、を有する。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、高い動作温度においても良好な寿命が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】
図1は、第1実施形態に係る半導体装置を示す上面図である。
【
図2】
図2は、第1実施形態に係る半導体装置を示す断面図である。
【
図3】
図3は、第2実施形態に係る半導体装置を示す上面図である。
【
図4】
図4は、第2実施形態に係る半導体装置を示す断面図である。
【
図5】
図5は、パワーサイクル試験の結果の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
実施するための形態について、以下に説明する。
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。以下の説明では、同一または対応する要素には同一の符号を付し、それらについて同じ説明は繰り返さない。
【0011】
〔1〕 本開示の一態様に係る半導体装置は、半導体基板と、前記半導体基板の上に設けられた主電極とを備えた半導体チップと、緩衝板と、前記主電極と前記緩衝板との間に設けられた緩衝接合材と、を有し、前記緩衝板は、積層材、または、キュリー点が300℃以上の合金材であり、前記積層材は、前記緩衝接合材に接する第1銅層と、前記第1銅層の上に設けられたキュリー点が300℃以上の合金層と、前記合金層の上に設けられた第2銅層と、を有する。
【0012】
強磁性材料においては、キュリー点未満の温度では、磁気歪みによる体積変化と通常の格子振動による熱膨張とが相殺し合うため、熱膨張が小さい。緩衝板が、キュリー点が300℃以上の合金材であるか、キュリー点が300℃以上の合金層を有する積層材であるため、300℃未満の温度では、緩衝板の熱膨張が小さい。このため、緩衝接合材により緩衝板に接合された主電極の熱変形も抑制される。従って、高い温度で使用される場合であっても、主電極の内部破壊を抑制し、良好な寿命が得られる。
【0013】
主電極の内部破壊は、主電極を構成する結晶の粒界で生じる粒界すべりやクラックの発生が、繰り返しの熱変形に伴って重畳することで生じる。主電極の内部破壊は、例えば、主電極の密度の低下として確認されたり、主電極の厚さの増加として確認されたりする。また、主電極に内部破壊が生じると、主電極を間に挟む部材との間の有効な接合面積が減少する。このため、電気的または熱的な直列抵抗の増加としても、内部破壊を確認できる。
【0014】
主電極の内部破壊は、パワーサイクル試験においても生じ得る。すなわち、パワーサイクル試験では、温度の上昇および降下が繰り返されるため、粒界すべりやクラックの発生が重畳し、内部破壊が生じ得る。例えば、パワーサイクル試験の後期では、主電極の内部破壊は、主電極の破断または剥離として確認されたり、電気的抵抗の急増または断線として確認されたり、熱抵抗の急増または熱暴走の発生として確認されたりする。特に、寿命到達直前には、これらの現象が顕著となる。
【0015】
〔2〕 〔1〕において、前記緩衝接合材は、空孔率が5%以上40%以下の焼結体を有してもよい。空孔率が5%以上40%以下の焼結体を緩衝接合材が有することで、緩衝接合材に作用する熱応力が低減され、主電極の熱変形が抑制される。従って、良好な寿命を得やすい。
【0016】
〔3〕 〔1〕または〔2〕において、前記合金材および前記合金層は、鉄およびニッケルを含み、前記合金材および前記合金層におけるニッケルの割合は40質量%以上であってもよい。この場合、合金材および合金層に300℃以上のキュリー点を得やすい。
【0017】
〔4〕 〔1〕または〔2〕において、前記合金材および前記合金層は、鉄、ニッケルおよびコバルトを含み、前記合金材および前記合金層におけるニッケルおよびコバルトの合計の割合は40質量%以上であってもよい。この場合、合金材および合金層に300℃以上のキュリー点を得やすい。
【0018】
〔5〕 本開示の他の一態様に係る半導体装置は、半導体基板と、前記半導体基板の上に設けられた主電極とを備えた半導体チップと、緩衝板と、前記主電極と前記緩衝板との間に設けられた緩衝接合材と、を有し、前記緩衝接合材は、空孔率が5%以上40%以下の焼結体を有する。
【0019】
空孔率が5%以上40%以下の焼結体を緩衝接合材が有することで、緩衝接合材に作用する熱応力が低減され、主電極の熱変形が抑制される。従って、高い温度で使用される場合であっても、主電極の内部破壊を抑制し、良好な寿命が得られる。
【0020】
〔6〕 〔1〕から〔5〕のいずれかにおいて、前記主電極は、アルミニウムまたはアルミニウム合金層を含み、前記半導体基板の第1線膨張率および前記緩衝板の第2線膨張率は、前記主電極の第3線膨張率よりも小さく、前記第2線膨張率は、前記第1線膨張率よりも小さくてもよい。この場合、主電極に良好な導電性を得やすい。その一方で、第3線膨張率が第1線膨張率よりも大きいため、主電極が半導体基板よりも大きく熱変形しようとする。ただし、第2線膨張率が第1線膨張率よりも小さいため、効果的に主電極の熱変形を緩衝接合材によって抑制できる。従って、熱変形に伴って主電極に生じる熱応力を抑制し、主電極に含まれるアルミニウムまたはアルミニウム合金層の内部破壊を抑制できる。
【0021】
一般に、アルミニウムまたはアルミニウム合金層は、強度および耐熱性の点で、半導体装置を構成する他の金属製の部位よりも脆弱である。主電極の内部破壊を引き起こす粒界すべりはクリープ現象とよばれ、クリープ現象の発生開始温度として、融点(Tm)の0.4倍の温度を指標とすることができる。この指標により、アルミニウムまたはアルミニウム合金層中では他の部位に比べ、低温域からクリープ現象が開始することがわかる。例えば、アルミニウム、銅、ニッケルの「Tm×0.4」の値は、それぞれ100℃、270℃、418℃である。
【0022】
特に、主電極に含まれるアルミニウムまたはアルミニウム合金層がスパッタ法により形成された場合、アルミニウムまたはアルミニウム合金層を構成する結晶の粒径は数μmと小さい。このため、アルミニウムまたはアルミニウム合金層中に結晶粒界が高密度で存在し、パワーサイクル試験時の昇降温サイクル等により主電極を間に挟む層の間で熱歪みが生じると、粒界すべりが重畳しやすい。
【0023】
これに対し、第2線膨張率が第1線膨張率よりも小さい場合には、効果的に主電極の熱変形を緩衝接合材によって抑制し、主電極に含まれるアルミニウムまたはアルミニウム合金層の内部破壊を抑制できる。
【0024】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の実施形態について詳細に説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複した説明を省くことがある。本明細書および図面において、X1-X2方向、Y1-Y2方向、Z1-Z2方向を相互に直交する方向とする。X1-X2方向およびY1-Y2方向を含む面をXY平面とし、Y1-Y2方向およびZ1-Z2方向を含む面をYZ平面とし、Z1-Z2方向およびX1-X2方向を含む面をZX平面とする。便宜上、Z1方向を上方向、Z2方向を下方向とする。また、本開示において平面視とは、Z1側から対象物を見ることをいう。
【0025】
(第1実施形態)
第1実施形態について説明する。第1実施形態は、半導体装置に関する。
図1は、第1実施形態に係る半導体装置を示す上面図である。
図2は、第1実施形態に係る半導体装置を示す断面図である。
図2は、
図1中のII-II線に沿った断面図に相当する。
【0026】
図1および
図2に示すように、第1実施形態に係る半導体装置1は、主として、放熱板120と、基板110と、端子102と、端子103と、ケース190と、ダイオード300と、緩衝板500とを有する。
【0027】
放熱板120は、例えば平面視で矩形状の厚さが一様の板状体である。放熱板120の材料は、熱伝導率の高い素材である金属、例えば銅(Cu)、銅合金、アルミニウム(Al)、アルミニウム-シリコン-炭素合金(Al-Si-C合金)等である。放熱板120は、熱界面材料(thermal interface material:TIM)等を用いて冷却器等に固定される。
【0028】
ケース190は、例えば平面視において枠状に形成されており、ケース190の外形は放熱板120の外形と同等である。ケース190の材料は樹脂等の絶縁体である。ケース190は、互いに対向する一対の側壁部191および192と、側壁部191および192の両端をつなぐ一対の端壁部193および194とを有する。側壁部191および192はZX平面に平行に配置され、端壁部193および194はYZ平面に平行に配置されている。側壁部191は側壁部192のY1側に配置され、端壁部193は端壁部194のX2側に配置されている。
【0029】
端壁部193の上面(Z1側の表面)に端子102が配置され、端壁部194の上面(Z1側の表面)に端子103が配置されている。端子102および端子103は、それぞれ金属板から構成されている。
【0030】
ケース190の内側において、放熱板120のZ1側に基板110が配置されている。基板110は、絶縁基板119と、第2導電パターン112と、第3導電パターン113と、導電層115とを有する。第1導電パターン111、第2導電パターン112、第3導電パターン113、第4導電パターン114および導電層115は、Cuから構成されている。
【0031】
第2導電パターン112および第3導電パターン113は、絶縁基板119のZ1側の面に設けられている。導電層115は、絶縁基板119のZ2側の面に設けられている。導電層115は接合材131により放熱板120に接合されている。接合材131は、はんだ材であってもよく、焼結接合材であってもよい。接合材131が焼結接合材である場合、はんだの融点の近傍、ないし、それ以上のより高温での動作が可能となる。
【0032】
図2に示すように、ダイオード300は、主として、炭化珪素基板310と、アノード電極332と、カソード電極333とを有する。
【0033】
炭化珪素基板310は、主面310Aと、主面310Aとは反対の主面310Bとを有する。主面310Aは主面310BのZ1側にある。炭化珪素基板310の形状は、例えば直方体状である。主面310Aおよび310BはXY平面に平行な面である。アノード電極332は主面310Aに設けられ、カソード電極333は主面310Bに設けられている。ダイオード300は第3導電パターン113の上に設けられている。アノード電極332は、例えばアルミニウム層を含む。アノード電極332がアルミニウム層に代えて、アルミニウム-シリコン合金(Al-Si合金)、Al-Si-Cu合金等のアルミニウム合金層を含んでいてもよい。カソード電極333は、オーミック層と、オーミック層の上に設けられた接合層とを有する。オーミック層は、例えばニッケルまたはニッケル合金を含む。ニッケルまたはニッケル合金は炭化珪素との間に良好な接触抵抗を有する。接合層はニッケル層を含む。接合層が、ニッケル層の上に設けられた金層または銀層を更に有していてもよい。カソード電極333が接合層を有することで、カソード電極333と第3導電パターン113との間に良好な接合性が得られる。カソード電極333が銀焼結体または銅焼結体等の接合材133を用いて第3導電パターン113に接合されている。ダイオード300は半導体チップの一例である。炭化珪素基板310は半導体基板の一例である。アノード電極332は主電極の一例である。
【0034】
緩衝板500は、例えば、第1銅層510と、合金層520と、第2銅層530とを有する積層材である。第1銅層510のZ1側に合金層520が設けられ、合金層520のZ1側に第2銅層530が設けられている。すなわち、合金層520が第1銅層510の上に設けられ、第2銅層530が合金層520の上に設けられている。合金層520は、キュリー点が300℃以上の合金材である。合金層520は、例えば、鉄(Fe)およびニッケル(Ni)を含み、合金層520におけるNiの割合は40質量%以上である。合金層520は、例えば、Fe、Niおよびコバルト(Co)を含み、合金層520におけるNiおよびCoの合計の割合が40質量%以上であってもよい。合金層520が29質量%のNiおよび17質量%のCoを含んでもよい。いずれにおいても、合金層520は、Feを45質量%以上の割合で含有してもよく、48質量%以上の割合で含んでもよい。合金層520に、0.7質量%程度のマンガンが含まれていてもよい。合金層520の材料は、コバール(登録商標)であってもよい。緩衝板500の厚さT2は、例えば0.05mm以上0.5mm以下である。緩衝板500の厚さT2が0.05mm以上0.25mm以下であってもよい。例えば、緩衝板500の厚さT2はダイオード300の厚さT1よりも小さい。緩衝板500はアノード電極332の上に設けられている。第1銅層510が銀焼結体または銅焼結体等の緩衝接合材135を用いてアノード電極332に接合されている。緩衝接合材135は、空孔率が5%以上40%以下の焼結体を有する。
【0035】
炭化珪素基板310は第1線膨張率ρ1を有し、緩衝板500は第2線膨張率ρ2を有し、アノード電極332は第3線膨張率ρ3を有する。本開示での線膨張率とは、特に断らないかぎり、25℃での主面310Aに平行な方向の線膨張率である。また、本開示での線膨張率とは、特に断らないかぎり、互いに接合された状態が解かれ、炭化珪素基板310、緩衝板500およびアノード電極332を単体としたときの線膨張率である。第1線膨張率ρ1および第2線膨張率ρ2は第3線膨張率ρ3よりも小さい。第2線膨張率ρ2が第1線膨張率ρ1より大きくても、小さくてもよいが、第1線膨張率ρ1と第2線膨張率ρ2との差が小さい場合、アノード電極332にかかる熱応力を抑制しやすい。第2線膨張率ρ2が第1線膨張率ρ1より小さい場合、第2線膨張率ρ2が第1線膨張率ρ1より大きい場合よりも寿命を長くしやすい。例えば、第1線膨張率ρ1が4.0×10-6/℃であるのに対し、第2線膨張率ρ2は1.2×10-6/℃以上3.9×10-6/℃以下である。この場合、「ρ2-ρ1」の値は-2.8×10-6/℃以上-0.1×10-6/℃以下であり、「ρ2-ρ1」の値が正の場合よりも、長い寿命を得やすい。なお、鉄-ニッケル合金の線膨張率は1.2×10-6/℃程度であり、銅の線膨張率は16.5×10-6/℃程度であり、アルミニウムの線膨張率は23.1×10-6/℃程度である。
【0036】
半導体装置1は、更に、ワイヤ162、165および166を有する。ワイヤ162、165および166の各々の数は限定されず、1本でもよく、2本以上であってもよい。
【0037】
ワイヤ162は、緩衝板500の第2銅層530と第2導電パターン112とを互いに接続する。ワイヤ165は、第2導電パターン112と端子102とを互いに接続する。ワイヤ166は、第3導電パターン113と端子103とを互いに接続する。ワイヤ162、165および166は、例えば銅ワイヤである。ワイヤ162、165および166の各々の直径は、例えば100μm以上400μm以下である。ワイヤ162、165および166の接合は、例えば超音波接合により行われる。
【0038】
一般に、パワーモジュールに用いられる半導体装置の動作温度での寿命はパワーサイクル試験により評価される。パワーサイクル試験では、半導体装置の試料に対して通電および遮断を繰り返す。このとき、最高接合温度(Tjmax)を、寿命を評価しようとする動作温度とする。そして、最高接合温度(Tjmax)と最低接合温度(Tjmin)との差(ΔT)に基づき、接合温度(Tj)がTjmax+ΔT×20%に達した時に試料が寿命に達したと判断する。
【0039】
例えば、最高接合温度(Tjmax)が250℃であり、最低接合温度(Tjmin)が65℃である場合、差(ΔT)は185℃であるため、接合温度(Tj)が287℃に達した時に試料が寿命に達したと判断する。また、最高接合温度(Tjmax)が250℃であり、最低接合温度(Tjmin)が25℃である場合、差(ΔT)は225℃であるため、接合温度(Tj)が295℃に達した時に試料が寿命に達したと判断する。
【0040】
また、インバー(登録商標)およびコバール等の強磁性材料においては、キュリー点未満の温度では、磁気歪みによる体積変化と通常の格子振動による熱膨張とが相殺し合うため、熱膨張が小さい。上記のように、本実施形態では、合金層520は、キュリー点が300℃以上の合金材である。つまり、300℃未満の温度では、合金層520の熱膨張が小さい。従って、本実施形態では、最高接合温度(Tjmax)を250℃としたパワーサイクル試験において、合金層520および緩衝板500の熱変形が抑制される。
【0041】
そして、緩衝板500の熱変形が抑制されるため、緩衝接合材135により緩衝板400に接合されたアノード電極332の熱変形も抑制される。従って、本実施形態によれば、高い温度で使用される場合であっても、熱変形に伴ってアノード電極332に生じる熱応力を抑制し、アノード電極332の内部破壊を抑制できる。
【0042】
また、本実施形態では、緩衝接合材135が、空孔率が5%以上40%以下の焼結体を有する。加熱時に緩衝接合材135に作用する熱応力は空孔率が高いほど低くなり、結果としてアノード電極332に生じる熱応力を抑制できる。有限要素法を用いた応力解析によれば、銅焼結体からなる緩衝接合材135の温度が200℃の場合、アノード電極332に生じる熱応力は、空孔率が0%のときに54MPaであり、空孔率が5%のときに36MPaであり、空孔率が30%のときに10MPaである。つまり、空孔率が5%のときは0%のときよりも熱応力が34%低くなり、空孔率が30%のときは5%のときよりも熱応力が72%低くなる。また、有限要素法を用いた応力解析により、銅焼結体からなる緩衝接合材135の温度が250℃の場合でも、空孔率が5%以上40%以下のときにアノード電極332に生じる熱応力が低減されることが確認できている。
【0043】
このような焼結体の空孔率の増加による熱応力低減の効果は、焼結体を高温で用いることにより、より顕著となる。これは、バルクCuの場合は、応力-歪曲線から得られるヤング率は通常温度依存性を有しない。一方、Cuの焼結体は、応力-歪曲線に温度依存性を有し、応力-歪曲線からヤング率は高温域でより小さくなる。この現象がアノード電極332の熱変形が抑制する有利な方向に作用することが、上記有限要素法を用いた応力解析によっても確認できている。また、Cu焼結体だけでなくAg焼結体でも同様の温度依存性が確認されている。
【0044】
空孔率が5%未満であると、アノード電極332に生じる熱応力を低減しにくい。また、空孔率が40%超であると、緩衝接合材135が脆くなりやすい。緩衝接合材135に含まれる焼結体の空孔率は5%以上30%以下であってもよく、5%以上20%以下であってもよい。
【0045】
このように、本実施形態では、緩衝接合材135に作用する熱応力が低減されるため、アノード電極332の熱変形が抑制される。従って、本実施形態によれば、高い温度で使用される場合であっても、熱変形に伴ってアノード電極332に生じる熱応力を抑制し、アノード電極332の内部破壊を抑制できる。
【0046】
本実施形態によれば、合金層520が、キュリー点が300℃以上である合金材であることの効果と、緩衝接合材135が、空孔率が5%以上40%以下の焼結体を有することの効果とが得られるが、下記のように、これらの組み合わせによる効果も得られる。
【0047】
アノード電極332に生じる熱応力の要因として、主として2つの要因が考えられる。第1の要因は、緩衝板500が有する第2線膨張率ρ2と炭化珪素基板310が有する第1線膨張率ρ1との差異による熱歪みであり、第2の要因は、緩衝接合材135が有するヤング率の温度依存性である。第1の要因については、第2線膨張率ρ2と第1線膨張率ρ1との差を小さくすることで、動作温度である最低接合温度から最高接合温度の広い温度範囲で、熱歪みを抑制することができる。第2の要因については、温度の上昇に伴って緩衝接合材135のヤング率が低下するため、広い温度範囲で熱歪みを抑制する効果を維持することができる。これに対し、緩衝接合材135に代えて銅のバルク材からなる接合材が用いられた場合には、銅のバルク材はヤング率の温度依存性を有しないため、熱歪みを抑制する効果を低減するおそれがある。
【0048】
アノード電極332がアルミニウム層またはアルミニウム合金層を含むため、アノード電極332に良好な導電性を得やすい。その一方で、炭化珪素基板310の第1線膨張率ρ1および緩衝板500の第2線膨張率ρ2がアノード電極332の第3線膨張率ρ3よりも小さく、第2線膨張率ρ2が第1線膨張率ρ1よりも小さい。この場合、アノード電極332が炭化珪素基板310よりも大きく熱変形しようとする。ただし、第2線膨張率ρ2が第1線膨張率ρ1よりも小さいため、効果的にアノード電極332の熱変形を緩衝接合材135によって抑制できる。従って、熱変形に伴ってアノード電極332に生じる熱応力を抑制し、アノード電極332の内部破壊を抑制できる。
【0049】
本実施形態では、ワイヤ162を緩衝板500に接合することで、緩衝板500を介してワイヤ162をアノード電極332に電気的に接続できる。このため、ワイヤ162の接合に超音波接合を採用しても、ダイオード300へのダメージを抑制できる。ワイヤ162が銅ワイヤであると、ワイヤ162を緩衝板500の第2銅層530に接合しやすく、また、ワイヤ162に低電気抵抗を得やすい。
【0050】
緩衝板500は、第1銅層510および第2銅層530を含まなくてもよい。つまり、緩衝板500は、コバール等のキュリー点が300℃以上の合金層520から構成されてもよい。
【0051】
合金層520が、FeおよびNiを含み、合金層520におけるNiの割合が40質量%以上である場合、合金層520に300℃以上のキュリー点を得やすい。合金層520が、Fe、NiおよびCoを含み、合金層520におけるNiおよびCoの合計の割合が40質量%以上である場合も、合金層520に300℃以上のキュリー点を得やすい。
【0052】
合金層520のキュリー点が300℃以上であれば、緩衝接合材135に含まれる焼結体の空孔率は5%以上40%以下でなくてもよい。また、緩衝接合材135に含まれる焼結体の空孔率が5%以上40%以下であれば、合金層520のキュリー点は300℃以上でなくてもよい。
【0053】
なお、第3導電パターン113の上に複数のダイオード300が設けられてもよい。この場合、複数のダイオード300は互いに電気的に並列に接続される。
【0054】
(第2実施形態)
次に、第2実施形態について説明する。第2実施形態は、主として、トランジスタを含む点で第1実施形態と相違する。
図3は、第2実施形態に係る半導体装置を示す上面図である。
図4は、第2実施形態に係る半導体装置を示す断面図である。
図4は、
図3中のIV-IV線に沿った断面図に相当する。
【0055】
図3および
図4に示すように、第2実施形態に係る半導体装置2は、主として、放熱板120と、基板110と、端子101と、端子102と、端子103と、ケース190と、トランジスタ200と、ダイオード300と、緩衝板400と、緩衝板500とを有する。
【0056】
端壁部193の上面(Z1側の表面)に端子101および端子102が配置され、端壁部194の上面(Z1側の表面)に端子103が配置されている。例えば、端子102が端子101のY2側に配置されている。端子101、端子102および端子103は、それぞれ金属板から構成されている。
【0057】
基板110は、絶縁基板119と、第1導電パターン111と、第2導電パターン112と、第3導電パターン113と、第4導電パターン114と、導電層115とを有する。第1導電パターン111、第2導電パターン112、第3導電パターン113、第4導電パターン114および導電層115は、Cuから構成されている。
【0058】
第1導電パターン111、第2導電パターン112、第3導電パターン113および第4導電パターン114は、絶縁基板119のZ1側の面に設けられている。導電層115は、絶縁基板119のZ2側の面に設けられている。
【0059】
図4に示すように、トランジスタ200は、主として、炭化珪素基板210と、ゲート電極231と、ソース電極232と、ドレイン電極233とを有する。
【0060】
炭化珪素基板210は、主面210Aと、主面210Aとは反対の主面210Bとを有する。主面210Aは主面210BのZ1側にある。炭化珪素基板210の形状は、例えば直方体状である。主面210Aおよび210BはXY平面に平行な面である。ゲート電極231およびソース電極232は主面210Aに設けられ、ドレイン電極233は主面210Bに設けられている。トランジスタ200は第4導電パターン114の上に設けられている。ゲート電極231およびソース電極232は、例えばアルミニウム層を含む。ゲート電極231およびソース電極232がアルミニウム層に代えて、Al-Si合金、Al-Si-Cu合金等のアルミニウム合金層を含んでいてもよい。ドレイン電極233は、オーミック層と、オーミック層の上に設けられた接合層とを有する。オーミック層は、例えばニッケルまたはニッケル合金を含む。ニッケルまたはニッケル合金は炭化珪素との間に良好な接触抵抗を有する。接合層はニッケル層を含む。接合層が、ニッケル層の上に設けられた金層または銀層を更に有していてもよい。ドレイン電極233が接合層を有することで、ドレイン電極233と第4導電パターン114との間に良好な接合性が得られる。ドレイン電極233が銀焼結体または銅焼結体等の接合材132を用いて第4導電パターン114に接合されている。トランジスタ200は半導体チップの一例である。炭化珪素基板210は半導体基板の一例である。ソース電極232は主電極の一例である。
【0061】
緩衝板400は、例えば、第1銅層410と、合金層420と、第2銅層430とを有する積層材である。第1銅層410のZ1側に合金層420が設けられ、合金層420のZ1側に第2銅層430が設けられている。すなわち、合金層420が第1銅層410の上に設けられ、第2銅層430が合金層420の上に設けられている。合金層420は、キュリー点が300℃以上の合金材である。合金層420は、例えば、FeおよびNiを含み、合金層420におけるNiの割合は40質量%以上である。合金層420は、例えば、Fe、NiおよびCoを含み、合金層420におけるNiおよびCoの合計の割合が40質量%以上であってもよい。合金層420が29質量%のNiおよび17質量%のCoを含んでもよい。いずれにおいても、合金層420は、Feを45質量%以上の割合で含有してもよく、48質量%以上の割合で含んでもよい。合金層420に、0.7質量%程度のマンガンが含まれていてもよい。合金層420の材料は、コバールであってもよい。緩衝板400の厚さT4は、例えば0.05mm以上0.5mm以下である。緩衝板400の厚さT4が0.05mm以上0.25mm以下であってもよい。例えば、緩衝板400の厚さT4はトランジスタ200の厚さT3よりも小さい。緩衝板400はソース電極232の上に設けられている。第1銅層410が銀焼結体または銅焼結体等の緩衝接合材134を用いてソース電極232に接合されている。緩衝接合材134は、空孔率が5%以上40%以下の焼結体を有する。
【0062】
炭化珪素基板210は第1線膨張率ρ1´を有し、緩衝板400は第2線膨張率ρ2´を有し、ソース電極232は第3線膨張率ρ3´を有する。本開示での線膨張率とは、特に断らないかぎり、25℃での主面210Aに平行な方向の線膨張率である。また、本開示での線膨張率とは、特に断らないかぎり、互いに接合された状態が解かれ、炭化珪素基板210、緩衝板400およびソース電極232を単体としたときの線膨張率である。第1線膨張率ρ1´および第2線膨張率ρ2´は第3線膨張率ρ3´よりも小さく、第2線膨張率ρ2´は第1線膨張率ρ1´よりも小さい。例えば、第1線膨張率ρ1´が4.0×10-6/℃であるのに対し、第2線膨張率ρ2´は1.2×10-6/℃以上3.9×10-6/℃以下である。この場合、「ρ2´-ρ1´」の値は-2.8×10-6/℃以上-0.1×10-6/℃以下である。
【0063】
半導体装置2は、更に、ワイヤ161、162、163、164、165および166を有する。ワイヤ161、162、163、164、165および166の各々の数は限定されず、1本でもよく、2本以上であってもよい。
【0064】
ワイヤ161は、トランジスタ200のゲート電極231と第1導電パターン111とを互いに接続する。ワイヤ162は、緩衝板400の第2銅層430と第2導電パターン112とを互いに接続する。ワイヤ163は、第3導電パターン113と第4導電パターン114とを互いに接続する。ワイヤ164は、第1導電パターン111と端子101とを互いに接続する。ワイヤ165は、第2導電パターン112と端子102とを互いに接続する。ワイヤ166は、ダイオード300のアノード電極332と端子103とを互いに接続する。ワイヤ161、162、163、164、165および166は、例えば銅ワイヤである。ワイヤ161、162、163、164、165および166の各々の直径は、例えば100μm以上400μm以下である。ワイヤ161、162、163、164、165および166の接合は、例えば超音波接合により行われる。
【0065】
第2実施形態の他の構成、例えばダイオード300および緩衝板500の構成は第1実施形態と同じである。
【0066】
上記のように、本実施形態では、合金層420は、キュリー点が300℃以上の合金材である。つまり、300℃未満の温度では、合金層420の熱膨張が小さい。従って、本実施形態では、最高接合温度(Tjmax)を250℃としたパワーサイクル試験において、合金層420および緩衝板400の熱変形が抑制される。
【0067】
そして、緩衝板400の熱変形が抑制されるため、緩衝接合材134により緩衝板400に接合されたソース電極232の熱変形も抑制される。従って、本実施形態によれば、高い温度で使用される場合であっても、熱変形に伴ってソース電極232に生じる熱応力を抑制し、ソース電極232の内部破壊を抑制できる。
【0068】
また、本実施形態では、緩衝接合材134が、空孔率が5%以上40%以下の焼結体を有する。従って、ダイオード300と同じく、緩衝接合材134に作用する熱応力が低減されるため、ソース電極232の熱変形が抑制される。従って、本実施形態によれば、高い温度で使用される場合であっても、熱変形に伴ってソース電極232に生じる熱応力を抑制し、ソース電極232の内部破壊を抑制できる。緩衝接合材134に含まれる焼結体の空孔率は5%以上30%以下であってもよく、5%以上20%以下であってもよい。
【0069】
ソース電極232がアルミニウム層またはアルミニウム合金層を含むため、ソース電極232に良好な導電性を得やすい。その一方で、炭化珪素基板210の第1線膨張率ρ1´および緩衝板400の第2線膨張率ρ2´がソース電極232の第3線膨張率ρ3´よりも小さく、第2線膨張率ρ2´が第1線膨張率ρ1´よりも小さい。この場合、ソース電極232が炭化珪素基板210よりも大きく熱変形しようとする。ただし、第2線膨張率ρ2´が第1線膨張率ρ1´よりも小さいため、効果的にソース電極232の熱変形を緩衝接合材134によって抑制できる。従って、熱変形に伴ってソース電極232に生じる熱応力を抑制し、ソース電極232の内部破壊を抑制できる。
【0070】
本実施形態では、ワイヤ162を緩衝板400に接合することで、緩衝板400を介してワイヤ162をソース電極232に電気的に接続できる。このため、ワイヤ162の接合に超音波接合を採用しても、トランジスタ200へのダメージを抑制できる。ワイヤ162が銅ワイヤであると、ワイヤ162を緩衝板400の第2銅層430に接合しやすく、また、ワイヤ162に低電気抵抗を得やすい。
【0071】
緩衝板400は、第1銅層410および第2銅層430を含まなくてもよい。つまり、緩衝板400は、コバール等のキュリー点が300℃以上の合金層420から構成されてもよい。
【0072】
合金層420が、FeおよびNiを含み、合金層420におけるNiの割合が40質量%以上である場合、合金層420に300℃以上のキュリー点を得やすい。合金層420が、Fe、NiおよびCoを含み、合金層420におけるNiおよびCoの合計の割合が40質量%以上である場合も、合金層420に300℃以上のキュリー点を得やすい。
【0073】
合金層420のキュリー点が300℃以上であれば、緩衝接合材134の空孔率は5%以上40%以下でなくてもよい。また、緩衝接合材134の空孔率が5%以上40%以下であれば、合金層420のキュリー点は300℃以上でなくてもよい。
【0074】
なお、第4導電パターン114の上に複数のトランジスタ200が設けられてもよい。この場合、複数のトランジスタ200は互いに電気的に並列に接続される。
【0075】
(特性試験)
次に、本開示の実施形態に係る半導体装置についてパワーサイクル試験の結果の例について説明する。ここでいうパワーサイクル試験は、IEC60749に準拠して、次のように行われる。
【0076】
パワーサイクル試験では、試料の温度を室温(25℃)から65℃に昇温した後に、125Aの電流の通電および遮断を繰り返す。通電時間は1秒間とし、遮断時間は13秒間とした。また、各サイクルにおける接合温度(Tj)の最大値である最高接合温度(Tjmax)は250℃とし、各サイクルにおける最高接合温度と最低接合温度(65℃)との差(ΔT)は185℃とした。
【0077】
100mA程度の低電流を試料に流したときの通電開始電圧は、試料の接合温度(Tj)に対応する。従って、通電および遮断のサイクル毎に、通電直後に通電する電流よりも十分小さい100mAの低電流を試料に流し、このときの通電開始電圧を測定すれば、各サイクルにおける通電開始温度を最高接合温度(Tjmax)に換算できる。パワーサイクル試験を進めていくと、試料が徐々に劣化し、最高接合温度(Tjmax)が徐々に上昇するため、通電開始から差(ΔT)が20%増加した状態をもって、本試験での寿命と定義している。前出のように、最低接合温度が65℃、最高接合温度が250℃である場合、差(ΔT)が185℃であるため、最高接合温度(Tjmax)が287℃に達した状態をもって寿命とする。本試験は国際標準化機関が定めた検査規格IEC60749に準拠して行っているため、構造、製造方法が異なるパワーモジュールの試料においても、得られる寿命については、同一の基準での比較が可能となる。
【0078】
図5に、パワーサイクル試験の結果の例を示す。
図5には、合計で4種類の試料(試料No.1、No.2、No.3およびNo.4)のパワーサイクル試験の結果を示す。このパワーサイクル試験では、試料としてダイオードを用いた。
図5の横軸は通電および遮断の繰り返し数(回)を示し、縦軸は、最高接合温度(Tjmax)を示す。4種類の試料の間で緩衝板および緩衝接合材の構成を相違させ、他の条件は共通とした。表1に4種類の試料の緩衝板および緩衝接合材の概要を示す。表1には、合金層を構成するNiおよびCoの割合も示す。さらに、表1には、差(ΔT)が20%増加した時点(寿命)での繰り返し数も示す。
【0079】
【0080】
図5および表1に示すように、試料No.1では、合金層の材料がインバーであり、キュリー点が280℃であり、緩衝接合材に含まれる焼結体の空孔率が3%であった。そして、寿命は19700回であった。
【0081】
試料No.2では、合金層の材料がコバールであり、キュリー点が435℃であり、緩衝接合材に含まれる焼結体の空孔率が3%であった。そして、寿命は45400回であった。試料No.2の寿命は試料No.1の2.3倍である。
【0082】
試料No.3では、合金層の材料がインバーであり、キュリー点が280℃であり、緩衝接合材に含まれる焼結体の空孔率が30%であった。そして、寿命は49900回であった。試料No.3の寿命は試料No.1の2.5倍である。
【0083】
試料No.4では、合金層の材料がコバールであり、キュリー点が435℃であり、緩衝接合材に含まれる焼結体の空孔率が30%であった。そして、寿命は135100回であった。試料No.4の寿命は試料No.1の6.8倍である。
【0084】
このように、合金層のキュリー点が300℃以上または緩衝接合材に含まれる焼結体が5%以上40%以下の少なくとも一方を満たす試料No.2、No.3およびNo.4において、動作温度が250℃と高い条件下であっても、優れた寿命が得られた。
【0085】
また、試料No.2の寿命は試料No.1の2.3倍であり、試料No.3の寿命は試料No.1の2.5倍であった。これらの結果を掛け合わせれば、試料No.4の寿命は試料No.1の5.75倍になると類推できるが、実際には、より大きな6.8倍であった。このことから、合金層のキュリー点が300℃以上であることと、焼結体の空孔率が5%以上40%以下であることとの組み合わせにより、それぞれの効果の組み合わせよりも大きな効果が得られることが実証されたといえる。
【0086】
本開示において、合金層または合金材のキュリー点は、350℃以上であってもよく、400℃以上であってもよい。
【0087】
焼結体の空孔率は、緩衝板の断面を電子顕微鏡により観察し、当該断面の面積に対する空孔の合計の面積の割合で定義される。断面観察に際しては、通常、試料の断面を機械的に研磨するが、その際に空孔を閉塞させないなどの細心の注意をはらう。機械的に研磨した後に表面のダメージをスパッタ法により除去したり、電子顕微鏡での観察時に電子線の加速電圧を高くして表面層の影響を排除したりすることで、空孔率をより正確に求めやすい。
【0088】
また、焼結体の空孔率は、緩衝接合材を形成するための水素ガス中での熱処理の際の加圧圧力に応じて調整できる。例えば、加圧圧力を20MPaとすると空孔率は3%程度となり、加圧圧力を3MPaとすると、空孔率は30%程度となる。
【0089】
本開示において、アルミニウム層に代えてアルミニウム合金層が用いられてもよい。また、緩衝接合材に用いられる材料は限定されない。例えば、緩衝接合材が、銅、銀、ニッケル、または銅と錫とを含む金属間化合物の焼結体から構成されていてもよい。銅と錫とを含む金属間化合物の焼結体は、例えば遷移的液相焼結法により得られる。
【0090】
また、本開示において、半導体チップは炭化珪素チップであってもよい。炭化珪素チップは優れた高温耐性を有しており、高温で使用しても故障しにくい。また、炭化珪素チップは高い機械的特性を有している。また、主電極の内部破壊が抑制されるため、半導体装置全体として高温下でも優れた寿命を得やすい。
【0091】
以上、実施形態について詳述したが、本開示は特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形および変更が可能である。
【符号の説明】
【0092】
1、2 半導体装置
101、102、103 端子
110 基板
111 第1導電パターン
112 第2導電パターン
113 第3導電パターン
114 第4導電パターン
115 導電層
119 絶縁基板
120 放熱板
131、132、133 接合材
134、135 緩衝接合材
161、162、163、164、165、166:ワイヤ
190 ケース
191、192 側壁部
193、194 端壁部
200 トランジスタ(半導体チップ)
210 炭化珪素基板(半導体基板)
210A、210B 主面
231 ゲート電極
232 ソース電極(主電極)
233 ドレイン電極
300 ダイオード(半導体チップ)
310 炭化珪素基板(半導体基板)
310A、310B 主面
332 アノード電極(主電極)
333 カソード電極
400、500 緩衝板
410、510 第1銅層
420、520 合金層
430、530 第2銅層