(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171862
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】ウェーハの製造方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20241205BHJP
B23K 26/53 20140101ALI20241205BHJP
【FI】
H01L21/304 611Z
B23K26/53
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089125
(22)【出願日】2023-05-30
(71)【出願人】
【識別番号】000134051
【氏名又は名称】株式会社ディスコ
(74)【代理人】
【識別番号】100075384
【弁理士】
【氏名又は名称】松本 昂
(74)【代理人】
【識別番号】100172281
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 知広
(74)【代理人】
【識別番号】100206553
【弁理士】
【氏名又は名称】笠原 崇廣
(74)【代理人】
【識別番号】100189773
【弁理士】
【氏名又は名称】岡本 英哲
(74)【代理人】
【識別番号】100184055
【弁理士】
【氏名又は名称】岡野 貴之
(74)【代理人】
【識別番号】100185959
【弁理士】
【氏名又は名称】今藤 敏和
(72)【発明者】
【氏名】森 一輝
【テーマコード(参考)】
4E168
5F057
【Fターム(参考)】
4E168AE01
4E168CB07
4E168DA02
4E168DA24
4E168DA43
4E168HA01
4E168JA13
5F057AA42
5F057BA01
5F057BB09
5F057CA02
5F057DA19
5F057DA20
5F057DA22
5F057DA26
5F057DA31
5F057EB26
5F057FA13
(57)【要約】
【課題】剥離層を形成する際に各々線状であり互いに平行に配置された複数の第1改質層の間の各々に第2改質層を形成する場合に比べて、被加工物における材料の損失を低減する。
【解決手段】被加工物を透過する波長を有するパルス状のレーザービームの集光点を被加工物の所定の深さに位置付けて、被加工物の厚さ方向と直交する第1方向に沿って被加工物とレーザービームの集光点とを相対的に移動させる加工送りと、被加工物と集光レンズとを厚さ方向及び第1方向に直交する第2方向に沿って相対的に移動させる割り出し送りと、を交互に繰り返すことで、複数の剥離層を形成する剥離層形成工程と、剥離層形成工程で形成された複数の剥離層のうち少なくとも1つの剥離層における改質層にレーザービームを照射するクラック進展工程と、複数の剥離層を起点として被加工物からウェーハを剥離する剥離工程と、を備えるウェーハの製造方法を提供する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
インゴット又は単結晶基板である被加工物から該被加工物の厚さ未満の厚さを有するウェーハを製造するウェーハの製造方法であって、
該被加工物を透過する波長を有するパルス状のレーザービームの集光点が該被加工物の所定の深さに位置する様に、該レーザービームを集光する集光レンズを所定の高さ位置に調整した状態で、該被加工物の厚さ方向と直交する第1方向に沿って該被加工物と該レーザービームの集光点とを相対的に移動させる加工送りと、該被加工物と該集光レンズとを該厚さ方向及び該第1方向とそれぞれ直交する第2方向に沿って相対的に移動させる割り出し送りと、を交互に繰り返すことで、該被加工物の内部において該第1方向に沿って延在する改質層と、該改質層から進展するクラックと、をそれぞれ含む複数の剥離層を形成する剥離層形成工程と、
該剥離層形成工程で形成された該複数の剥離層のうち少なくとも1つの剥離層における改質層の長手方向に沿って該少なくとも1つの剥離層における改質層に該レーザービームを照射することで、該少なくとも1つの剥離層における改質層から進展しているクラックの更なる進展と、該少なくとも1つの剥離層における改質層からの新たなクラックの進展と、の一方又は両方を行わせるクラック進展工程と、
該複数の剥離層を起点として該被加工物から該ウェーハを剥離する剥離工程と、を備えることを特徴とするウェーハの製造方法。
【請求項2】
該クラック進展工程では、該第2方向に並んでいる複数の剥離層のうち所定本数おきの各剥離層における改質層に該レーザービームを照射することを特徴とする請求項1に記載のウェーハの製造方法。
【請求項3】
該クラック進展工程では、該レーザービームの照射が省略された改質層が無い様に該第2方向で連続する第1本数の各剥離層における改質層に該レーザービームを照射する照射工程と、該第2方向で連続する該第1本数の剥離層に該第2方向で隣接する第2本数の各剥離層における改質層に対しては該レーザービームの照射を省略する非照射工程と、を該第2方向で繰り返すことを特徴とする請求項1に記載のウェーハの製造方法。
【請求項4】
該クラック進展工程では、該剥離層形成工程において該被加工物に照射する該レーザービームの出力以下の出力を有する該レーザービームを該被加工物に照射することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のウェーハの製造方法。
【請求項5】
該クラック進展工程では、該剥離層形成工程における該レーザービームの集光点の高さ位置と同じ高さ位置に該レーザービームの集光点の高さ位置を調整した上で、該被加工物に該レーザービームを照射することを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載のウェーハの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インゴット又は単結晶基板である被加工物から該被加工物の厚さ未満の厚さを有するウェーハを製造するウェーハの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭化ケイ素(以下、SiC)等の化合物半導体のインゴットからウェーハを切り出す手段としてワイヤーソーが知られている(例えば、特許文献1参照)。しかし、インゴットから切り出されるウェーハの厚さに対してワイヤーソーの切り代は比較的大きい。更に、切り出されたウェーハの表面を平坦化するために、ラッピング等を行う必要もある。
【0003】
この様に、ワイヤーソーを用いる場合、インゴットにおいてウェーハとなる体積に対して廃棄される体積が比較的多いので、ワイヤーソーを用いたインゴットからウェーハの切り出しは、生産性が比較的低いという問題がある。
【0004】
これに対して、ウェーハの生産性を向上させるために、化合物半導体のインゴットを透過する波長を有するパルス状のレーザービームを用いてインゴットの内部の所定深さに機械的強度が脆弱な剥離層を複数形成した後、当該複数の剥離層を起点としてインゴットからウェーハを剥離する手法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0005】
具体的には、まず、レーザービームの集光点をインゴットの内部の所定深さに位置付けた状態で、当該集光点に対してインゴットをインゴットの厚さ方向と直交する加工送り方向に沿って相対的に移動させることで、改質層と、改質層を起点に延伸するクラックと、を含む1つの剥離層をインゴットの内部に形成する。
【0006】
この1つの剥離層を形成した後、加工送り方向及びインゴットの厚さ方向と直交する割り出し送り方向に沿って所定距離だけインゴットを移動させる。そして、集光点に対してインゴットを再度加工送りすることで、同様に、剥離層を形成する。
【0007】
この様にして、複数の剥離層を形成した後、複数の剥離層を起点にインゴットからウェーハを剥離する。次いで、複数の剥離層にそれぞれ接するウェーハの剥離面とインゴットの被剥離面とに残存する凹凸を、研削、研磨等により除去する。
【0008】
剥離層の厚さは、ワイヤーソーの切り代に比べて薄く、また、剥離後のラッピングも不要であるので、レーザービームを利用して化合物半導体のインゴットからウェーハを剥離する場合、ワイヤーソーを用いる場合に比べて、廃棄されるインゴットの体積(即ち、材料の損失)を低減できる。
【0009】
しかし、インゴット、単結晶基板等の被加工物からウェーハを剥離する際における更なる材料の損失の低減が求められている。レーザー加工における被加工物の材料の損失は、主として、被加工物の厚さ方向に進展して形成されたクラックの長さに応じて増加する。
【0010】
被加工物に照射されるレーザービームの平均出力が高いほど、改質層が形成され易いが、その反面、クラックが被加工物の厚さ方向に進展し易くなる(即ち、レーザービームによるダメージが高くなる)。
【0011】
そこで、材料の損失を低減する加工方法として、レーザービームの平均出力を低減し、その代わりに、割り出し送り方向における改質層の間隔を狭くすることが検討されている(例えば、特許文献3参照)。
【0012】
特許文献3に記載のレーザー加工方法では、まず、インゴットの内部の所定深さ位置に各々線状であり互いに平行に配置された複数の第1改質層を形成し、次に、各第1改質層の間に線状の第2改質層を形成する。
【0013】
しかし、当該加工方法では、第2改質層を形成する際に、2つの第1改質層をつなぐ様に形成されているクラックによってレーザービームが反射されて、ウェーハとなる領域がこの反射光によりダメージを受けることで、かえって材料の損失が増加する場合がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開平9-262826号公報
【特許文献2】特開2016-111143号公報
【特許文献3】特表2022-517543号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は係る問題点に鑑みてなされたものであり、剥離層を形成する際に各々線状であり互いに平行に配置された複数の第1改質層の間の各々に第2改質層を形成する場合に比べて、被加工物における材料の損失を低減することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明の一態様によれば、インゴット又は単結晶基板である被加工物から該被加工物の厚さ未満の厚さを有するウェーハを製造するウェーハの製造方法であって、該被加工物を透過する波長を有するパルス状のレーザービームの集光点が該被加工物の所定の深さに位置する様に、該レーザービームを集光する集光レンズを所定の高さ位置に調整した状態で、該被加工物の厚さ方向と直交する第1方向に沿って該被加工物と該レーザービームの集光点とを相対的に移動させる加工送りと、該被加工物と該集光レンズとを該厚さ方向及び該第1方向とそれぞれ直交する第2方向に沿って相対的に移動させる割り出し送りと、を交互に繰り返すことで、該被加工物の内部において該第1方向に沿って延在する改質層と、該改質層から進展するクラックと、をそれぞれ含む複数の剥離層を形成する剥離層形成工程と、該剥離層形成工程で形成された該複数の剥離層のうち少なくとも1つの剥離層における改質層の長手方向に沿って該少なくとも1つの剥離層における改質層に該レーザービームを照射することで、該少なくとも1つの剥離層における改質層から進展しているクラックの更なる進展と、該少なくとも1つの剥離層における改質層からの新たなクラックの進展と、の一方又は両方を行わせるクラック進展工程と、該複数の剥離層を起点として該被加工物から該ウェーハを剥離する剥離工程と、を備えるウェーハの製造方法が提供される。
【0017】
好ましくは、該クラック進展工程では、該第2方向に並んでいる複数の剥離層のうち所定本数おきの各剥離層における改質層に該レーザービームを照射する。
【0018】
また、好ましくは、該クラック進展工程では、該レーザービームの照射が省略された改質層が無い様に該第2方向で連続する第1本数の各剥離層における改質層に該レーザービームを照射する照射工程と、該第2方向で連続する該第1本数の剥離層に該第2方向で隣接する第2本数の各剥離層における改質層に対しては該レーザービームの照射を省略する非照射工程と、を該第2方向で繰り返す。
【0019】
また、好ましくは、該クラック進展工程では、該剥離層形成工程において該被加工物に照射する該レーザービームの出力以下の出力を有する該レーザービームを該被加工物に照射する。
【0020】
また、好ましくは、該クラック進展工程では、該剥離層形成工程における該レーザービームの集光点の高さ位置と同じ高さ位置に該レーザービームの集光点の高さ位置を調整した上で、該被加工物に該レーザービームを照射する。
【発明の効果】
【0021】
本発明の一態様に係るウェーハの製造方法では、剥離層形成工程で形成された改質層に沿ってレーザービームを照射することで、当該改質層から進展しているクラックの更なる進展と、当該改質層からの新たなクラックの進展と、の一方又は両方を行わせる(クラック進展工程)。
【0022】
それゆえ、クラック進展工程では、2つの第1改質層の間にレーザービームを照射する際に2つの第1改質層の間に形成されているクラックによってレーザービームが反射されることが無いので、被加工物における材料の損失を低減できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】SiCウェーハの製造方法のフロー図である。
【
図2】
図2(A)はSiCインゴットの平面図であり、
図2(B)はSiCインゴットの斜視図である。
【
図4】
図4(A)は剥離層形成工程の概要を示す平面図であり、
図4(B)は剥離層形成工程で形成された複数の剥離層を示す平面図である。
【
図5】クラック進展工程の一部を示す断面図である。
【
図6】クラック進展工程の全体を示す平面図である。
【
図7】
図7(A)はクラックが進展する様子を示す断面図であり、
図7(B)はオフ角を有するSiCインゴットにおいてクラックが進展する様子を示す断面図である。
【
図8】
図8(A)は剥離工程の概要を示す図であり、
図8(B)は剥離工程後のSiCインゴット及びSiCウェーハを示す図である。
【
図9】クラックで反射されるレーザービームを示すSiCインゴットの断面図である。
【
図10】第1変形例に係るクラック進展工程を示す平面図である。
【
図11】第2変形例に係るクラック進展工程を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
添付図面を参照して、本発明の一態様に係る実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係るSiCウェーハ11(
図8(B)参照)の製造方法のフロー図である。
図1に示す様に、本実施形態におけるSiCウェーハ11の製造方法では、保持工程S10、剥離層形成工程S20、クラック進展工程S30及び剥離工程S40を順に行う。
【0025】
まず、
図2(A)及び
図2(B)を参照し、SiCウェーハ11を製造する際に使用されるSiCインゴット(被加工物)13について説明する。
図2(A)は、SiCインゴット13の平面図であり、
図2(B)は、SiCインゴット13の斜視図である。
【0026】
SiCインゴット13は、六方晶の結晶構造を有するSiCの単結晶である。但し、SiCインゴット13の導電型は、特段限定されない。SiCインゴット13は、p型であってもよく、n型であってもよい。
【0027】
本実施形態のSiCインゴット13は、4インチ(約100mm)の径と、500μmの厚さと、を有するが、径及び厚さはこの値に限定されない。SiCインゴット13は、厚さ方向13cにおいて反対側に位置する第1面13a及び第2面13bを有する。
【0028】
本実施形態のSiCインゴット13は、オフ角を有さない。本明細書では、ミラー・ブラベー指数を用いて、結晶面及び結晶方位を特定する。第1面13aは、(0001)で表され、第2面13bは、(000-1)で表される。
【0029】
また、SiCインゴット13の側部には、SiCウェーハ11のオリエンテーションフラットとなる平坦面13dが形成されている。本実施形態の平坦面13dは、(-1100)で表される。
【0030】
特定の結晶面は()を用いて表現され、結晶構造の対照性に起因して互いに等価である結晶面は{}を用いて表現される。同様に、特定の結晶方位は[]を用いて表現され、互いに等価である結晶方位は〈〉を用いて表現される。なお、マイナスを伴う指数は、指数の上にバーが付された指数と等しい。
【0031】
図2(A)に示す平面視において、平坦面13dに対して直交する第1方向A1は、[-1100]と平行である。第1面13aと平坦面13dとの交差により形成される直線と平行な第2方向A2は、[11-20]と平行である。また、第1方向A1及び第2方向A2に直交する第3方向A3(厚さ方向13c)は、[0001]と平行である。
【0032】
但し、上述の様に、本実施形態のSiCインゴット13はオフ角を有さないので、第1方向A1は、第3方向A3と平行な<0001>に直交する任意の方向であってもよい。この場合、第2方向A2は、第1方向A1及び第3方向A3と直交する方向である。
【0033】
これに対して、SiCインゴット13がオフ角を有する場合には、第1方向A1は、オフ角が形成される方向(例えば、<11-20>)と<0001>とに直交する方向(例えば、<-1100>)に設定されるが、当該方向に対して±5°以内(例えば、<-1100>±5°以内)に設定されてもよい。
【0034】
なお、SiCインゴット13がオフ角を有する場合にオフ角が形成される方向とは、SiCインゴット13の第1面13aの法線ベクトルと、SiCインゴット13の[0001]と、が成す所定平面内において、[0001]と直交する方向と読み替えてもよい。
【0035】
次に、
図3を参照し、SiCインゴット13に対してレーザー加工を施すためのレーザー加工装置2について説明する。
図3は、レーザー加工装置2の概要図である。
図3では、複数の構成要素を、機能ブロックや簡略化された形状で示す。
【0036】
図3に示すX軸方向(加工送り方向)、Y軸方向(割り出し送り方向)、及び、Z軸方向(高さ方向)は、互いに直交している。後述する様に、X軸方向は、第1方向A1と略平行に配置される。これに伴い、Y軸方向は、第2方向A2と略平行に配置され、Z軸方向は、第3方向A3及び厚さ方向13cと略平行に配置される。
【0037】
なお、X軸方向は、互いに逆向きの+X方向及び-X方向と平行である。同様に、Y軸方向は、互いに逆向きの+Y方向及び-Y方向と平行であり、Z軸方向は、互いに逆向きの+Z方向及び-Z方向と平行である。
【0038】
レーザー加工装置2は、円盤状のチャックテーブル4を有する。チャックテーブル4は、ステンレス鋼等の金属で形成された円盤状の枠体を有する。枠体の中央部には枠体の径よりも小径の円盤状の凹部(不図示)が形成されている。この凹部には、多孔質セラミックスで形成された円盤状の多孔質板(不図示)が固定されていている。
【0039】
枠体には、所定の流路(不図示)が形成されており、所定の流路には、管部(不図示)等を介して真空ポンプ等の吸引源(不図示)が接続されている。吸引源で生じた負圧が多孔質板に伝達されると、多孔質板の上面には負圧が生じる。
【0040】
枠体の環状の上面と、多孔質板の円形の上面とは、略面一且つ略平坦となっており、SiCインゴット13を吸引保持するための保持面4aとして機能する。保持面4aは、XY平面と略平行に配置されている。
【0041】
チャックテーブル4の下部には、チャックテーブル4を回転させる回転駆動機構(不図示)が設けられている。回転駆動機構は、Z軸方向に沿う所定の回転軸を回転中心としてチャックテーブル4を任意の角度回転させることができる。
【0042】
チャックテーブル4及び回転駆動機構は、水平方向移動機構(不図示)で支持されている。水平方向移動機構は、それぞれボールねじ式のX軸方向移動機構及びY軸方向移動機構を含み、X軸方向及びY軸方向に沿ってチャックテーブル4及び回転駆動機構を移動させることができる。
【0043】
保持面4aの上方には、レーザービーム照射ユニット6が設けられている。レーザービーム照射ユニット6は、レーザー発振器8を含む。レーザー発振器8は、例えば、レーザー媒質としてNd:YAG、Nd:YVO4等を有する。
【0044】
レーザー発振器8からは、SiCインゴット13を透過する波長(例えば、1064nm)を有するパルス状のレーザービームLを生成する。レーザー発振器8から出射したレーザービームLは、アッテネータ等を有する調整器10においてパワーが調整された後、集光器12に進入する。
【0045】
集光器12内の上部には、レーザービームLの進行方向を変えるためのミラー14が設けられており、集光器12内の下部には、レーザービームLを集光させる集光レンズ16が設けられている。なお、集光レンズ16は、集光器12内に固定されていてもよく、アクチュエータ(不図示)により移動可能な態様で集光器12内に固定されてもよい。
【0046】
ミラー14で反射されたレーザービームLは、集光レンズ16を経て、保持面4aで保持されたSiCインゴット13の内部の所定深さに集光される。集光器12には、ボールねじ式のZ軸方向移動機構(不図示)が連結されており、集光器12をZ軸方向に沿って移動させれば、レーザービームLの集光点PをZ軸方向に沿って移動させることができる。
【0047】
集光点PをSiCインゴット13の所定深さに位置付けた上で、集光点Pとチャックテーブル4とをX軸方向に沿って移動させることで、集光点Pの軌跡に沿って改質層15(
図4(B)参照)が形成される。
【0048】
改質層15は、単結晶SiCがアモルファスシリコンとアモルファスカーボンとに変化した領域を含み、SiCインゴット13においてレーザービームLが照射されていない領域に比べて結晶性が変化した比較的脆弱な領域である。
【0049】
特に、レーザービームLの集光点Pが第3方向A3で互いに重なる様に、繰り返し周波数、加工送り速度、集光点Pのスポットサイズ等を調整することで、単結晶SiCの吸収係数に比べて非常に大きい吸収係数を有するアモルファスカーボンによりレーザービームLが吸収され、第3方向A3よりも第2方向A2に広がる扁平な領域に改質層15が形成される。
【0050】
改質層15が形成されたSiCインゴット13の深さ位置では、主として第2方向A2に略沿う様に改質層15からクラック17(
図4(B)参照)が進展する。クラック17は、直線状に形成された改質層15の第2方向A2における両側から、主として第2方向A2に略沿う様に進展する。
【0051】
集光器12の近傍には、集光器12と共にZ軸方向移動によって移動可能な態様で顕微鏡カメラユニット(不図示)が設けられている。顕微鏡カメラユニットは、LED(Light Emitting Diode)等の発光素子を含む光源と、CCD(Charge-Coupled Device)イメージセンサ、CMOS(Complementary Metal-Oxide-Semiconductor)イメージセンサ等の固体撮像素子と、を有する。
【0052】
上述のチャックテーブル4、回転駆動機構、水平方向移動機構、レーザービーム照射ユニット6等の動作は、不図示のコントローラにより制御される。コントローラは、例えば、CPU(Central Processing Unit)に代表されるプロセッサ(処理装置)と、メモリ(記憶装置)と、を含むコンピュータによって構成されている。
【0053】
メモリは、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等の主記憶装置と、フラッシュメモリ等の補助記憶装置と、を含む。補助記憶装置には、所定のプログラムを含むソフトウェアが記憶されている。このソフトウェアに従いプロセッサ等を動作させることによって、コントローラの機能が実現される。
【0054】
次に、
図1に示す手順に従って、SiCウェーハ11の製造方法について説明する。まず、
図3に示す様に、第2面13bと保持面4aとが接する様にSiCインゴット13を保持面4aに載置し、第2面13bを保持面4aで吸引保持する(保持工程S10)。
【0055】
保持工程S10の後、改質層15及びクラック17をそれぞれ含む複数の剥離層19(
図4(A)参照)をSiCインゴット13の内部に形成する(剥離層形成工程S20)。
図4(A)は、剥離層形成工程S20の概要を示すSiCインゴット13の平面図である。
【0056】
図4(A)以降において、第1面13aを平面視した場合の第1面13a上の矢印は、集光点Pの軌跡を意味する。また、第1面13aの平面視において、改質層15にはドットを付し、クラック17には斜線を付して示す。更に、集光点Pが既に移動した経路を実線で示し、これから集光点Pが移動する経路を破線で示す。
【0057】
剥離層形成工程S20では、まず、顕微鏡カメラユニットを用いて平坦面13dの向きを特定し、回転駆動機構でチャックテーブル4を回転させることでXY平面におけるSiCインゴット13の向きを調整する。本例では、平坦面13dに直交する第1方向A1をX軸方向と略平行にする。
【0058】
次いで、集光点PがSiCインゴット13の第2方向A2の端部領域(
図4(A)に示すSiCインゴット13において紙面下側の一部)を第1方向A1に沿って横断する様にチャックテーブル4のXY平面での位置を調整すると共に、集光点PがSiCインゴット13の所定の深さに位置する様に集光レンズ16の高さを調整する。
【0059】
集光点Pの深さ位置は、例えば、第1面13a(即ち、SiCインゴット13の上面)から400μmに設定されるが、製造されるSiCウェーハ11の厚さに応じて、集光点Pの深さ位置は、適宜調整される。
【0060】
上述の様に、集光点Pの位置を調整した状態で、SiCインゴット13と集光点PとをX軸方向に沿って相対的に移動させる加工送りを行う。本例では、奇数回目の加工送り時に、SiCインゴット13に対して集光点Pを+X方向に移動させる。
【0061】
この相対移動により第1面13aを横断する様に集光点Pを加工送りした後、SiCインゴット13と集光レンズ16とをY軸方向に沿って所定距離だけ相対的に移動させる割り出し送りを行う。割り出し送り量は、例えば、300μmに設定され、本例では、SiCインゴット13に対して集光点Pを+Y方向に移動させる。
【0062】
なお、通常、割り出し送り時には、レーザービームLの照射を継続するが、一時的にレーザービームLの照射を停止してもよい。割り出し送りの後、再度、加工送りを行うが、スループットを向上させるために、本例では、偶数回目の加工送り時に、SiCインゴット13に対して集光点Pを-X方向に移動させる。
【0063】
この様に、加工送りと、割り出し送りと、を交互に繰り返すことで、SiCインゴット13の内部において第1方向A1に沿って延在する改質層15と、改質層15から進展するクラック17と、をそれぞれ含む複数の剥離層19を形成する。
【0064】
図4(B)は、剥離層形成工程S20で形成された複数の剥離層19を示すSiCインゴット13の平面図である。剥離層形成工程S20の後、クラック進展工程S30を行う。
図5は、クラック進展工程S30の一部を示すSiCインゴット13の断面図であり、
図6は、クラック進展工程S30の全体を示すSiCインゴット13の平面図である。
【0065】
クラック進展工程S30では、集光レンズ16の高さ位置を剥離層形成工程S20における集光レンズ16の高さ位置と同じとする。つまり、剥離層形成工程S20における集光点Pの高さ位置と同じ高さ位置に集光点Pの高さ位置を調整した上で、SiCインゴット13内に形成された改質層15にレーザービームLを照射する。
【0066】
なお、本明細書において、剥離層形成工程S20における集光点Pの高さ位置とクラック進展工程S30における集光点Pの高さ位置とを同じ高さにするとは、厚さ方向13cにおける集光点Pの高さ位置が両工程で±1μm以内にあることを意味する。
【0067】
クラック進展工程S30では、剥離層形成工程S20で形成された複数の剥離層19のうち少なくとも1つの剥離層19における改質層15の長手方向に沿って、当該改質層15の一端から他端まで当該改質層15にレーザービームLを照射する。
【0068】
これにより、当該改質層15から進展しているクラック17の更なる進展と、当該改質層15からの新たなクラック17の進展と、の一方又は両方を行わせる。
【0069】
改質層15は、単結晶SiCに比べて吸収係数が非常に大きいアモルファスカーボンを含むので、改質層15に照射されるレーザービームLは十分に改質層15に吸収される。この吸収されたエネルギーが、既存のクラック17の進展、及び/又は、新たなクラック17の進展に寄与する。
【0070】
図7(A)は、クラック進展工程S30でクラック17が進展する様子を示すSiCインゴット13の断面図である。クラック17はc面(本実施形態では、第1面13aが(0001)、即ち、c面である)に沿って進展し、第2方向A2で隣り合う改質層15間でクラック17同士がつながる。
【0071】
なお、SiCインゴット13がオフ角を有する場合には、c面の法線であるc軸と、第1面13aに対する法線とが、平行ではなく所定の角度を形成する。
図7(B)は、オフ角を有するSiCインゴット13でクラック17が進展する様子を示すSiCインゴット13の断面図である。
【0072】
クラック17はc面(即ち、SiCインゴット13の劈開面)に沿って進展するので、SiCインゴット13がオフ角を有する場合には、
図7(B)に示す様に、クラック17もオフ角に応じて傾く。剥離層形成工程S20及びクラック進展工程S30のそれぞれにおける加工条件の一例を下記に示す。
【0073】
レーザービームの波長 :1065nm
レーザービームの繰り返し周波数:120kHz
加工送り速度 :785mm/s
割り出し送り量 :150μm
平均出力 :9.5W
集光レンズの開口数(N.A.):0.8
集光点の深さ位置 :400μm(第1面13aからの深さ)
パス数 :1
【0074】
本実施形態のクラック進展工程S30では、
図9の比較例に示す様に2つの第1改質層15aの間にレーザービームLを照射する際に2つの第1改質層15aの間に形成されているクラック17によってレーザービームLが反射されることが無い。
【0075】
この様に、クラック17でのレーザービームLの反射光によりSiCウェーハ11がダメージを受けることを防止できるので、複数の第1改質層15aの間の各々にレーザービームLを照射して第2改質層15bを形成する場合に比べて、SiCインゴット13における材料の損失を低減できる。
【0076】
なお、クラック進展工程S30では、剥離層形成工程S20においてSiCインゴット13に照射するレーザービームLの出力以下の出力を有するパルス状のレーザービームLをSiCインゴット13に照射してもよい。
【0077】
例えば、剥離層形成工程S20ではレーザービームLの平均出力を9.5Wとするが、クラック進展工程S30ではレーザービームLの平均出力を9.0Wとする。この様に、クラック進展工程S30での平均出力を剥離層形成工程S20での平均出力よりも下げても、レーザービームLはアモルファスカーボンを含む改質層15に吸収され、吸収されたエネルギーがクラック17の進展に使用される。
【0078】
なお、クラック17が進展する方向は、第2方向A2の成分が主ではあるが、第1方向A1の成分も含む。それゆえ、クラック17が進展すると、クラック17同士が互いにつながる。
【0079】
クラック進展工程S30において、剥離層形成工程S20でのレーザービームLの出力以下の出力を有するレーザービームLを使用することで、剥離層形成工程S20でのレーザービームLの出力よりも大きな出力を有するレーザービームLを使用する場合に比べて、厚さ方向13cに沿ってクラック17が形成される可能性を低減できる。
【0080】
上述の様に、厚さ方向13cに沿って形成されるクラック17は、研削、研磨等によりSiCウェーハ11から除去する必要があるので、クラック進展工程S30におけるレーザービームLの出力の低減は、廃棄されるインゴットの体積(即ち、材料の損失)の低減につながる。
【0081】
ところで、本実施形態におけるクラック進展工程S30での集光点Pの軌跡は、剥離層形成工程S20での集光点Pの軌跡と同じであるが、集光点Pの移動順序は、剥離層形成工程S20とクラック進展工程S30とで異なっていてもよい。但し、本実施形態のクラック進展工程S30において、集光点Pは各改質層15を1回通る(即ち、パス数は1である)。
【0082】
クラック進展工程S30の後、
図8(A)及び
図8(B)に示す様に剥離装置20を用いて、上述の複数の剥離層19を起点としてSiCインゴット13からSiCウェーハ11を剥離する(剥離工程S40)。
図8(A)は、剥離工程S40の概要を示す図である。
【0083】
剥離装置20は、上述のチャックテーブル4と略同径のチャックテーブル22を有する。チャックテーブル22の構造は、チャックテーブル4と略同じであり、チャックテーブル22の上面は、SiCインゴット13を吸引保持する保持面22aとして機能する。
【0084】
チャックテーブル22の上方には、剥離ユニット24が設けられている。剥離ユニット24は、長手部がZ軸方向に沿って配置された円柱状の可動部26を有する。可動部26には、Z軸方向移動機構(不図示)が連結されている。
【0085】
Z軸方向移動機構は、例えば、ボールねじ式の移動機構であるが、他のアクチュエータで構成されてもよい。Z軸方向移動機構により、可動部26は、Z軸方向に沿って移動可能である。
【0086】
可動部26の底部には、円盤状の吸引ヘッド28が設けられている。吸引ヘッド28は、チャックテーブル22と同様に、枠体及び多孔質板を有する。枠体及び多孔質板の下面は、略面一且つXY平面と略平行に配置されており、保持面28aとして機能する。
【0087】
剥離工程S40では、複数の剥離層19が形成されたSiCインゴット13の第2面13bをチャックテーブル22の保持面22aで吸引保持すると共に、吸引ヘッド28の保持面28aで第1面13aを吸引保持する。
【0088】
次いで、SiCインゴット13に外力を付与する。外力の付与は、例えば、SiCインゴット13の側面に対して複数の剥離層19の高さ位置に楔(不図示)を打ち込むことで行われる。楔はSiCインゴット13側面の一箇所だけでなく、SiCインゴット13の周方向に沿って複数箇所に打ち込む方が好ましい。
【0089】
外力を付与することで、複数の剥離層19が形成されている深さ位置において、主として上述の第2方向A2に沿ってクラック17が更に進展する。なお、楔の打ち込みに代えて、SiCインゴット13に対して超音波(即ち、20kHzを超える周波数帯域の弾性振動波)を印加することで、外力を付与してもよい。
【0090】
超音波を印加する場合、吸引ヘッド28の保持面28aで第1面13aを吸引保持する前に、第1面13a側に純水等の液体を介して超音波を印加する。具体的には、超音波が印加された液体をノズルからSiCインゴット13に噴射する、又は、液体を介してホーンから第1面13a側に超音波を印加する。
【0091】
なお、ノズル又はホーンを用いる場合、まず、第1面13a側における直径5mmから50mm程度の局所的な領域に、超音波を利用して外力を印加する。次いで、ノズル又はホーンと、チャックテーブル22と、を相対的に移動させることで、第1面13a側の他の領域に外力を印加する。
【0092】
この様に、外力を印加する領域を第1面13a側において徐々に広げることで、改質領域間のクラック17を第1面13aに沿って進展させることができる。外力の付与により、隣接する改質領域間でクラック17が更に進展し、複数の剥離層19の機械的強度は、SiCインゴット13の複数の剥離層19以外の領域に比べて更に弱くなる。
【0093】
外力付与後、吸引ヘッド28を上昇させる(即ち、+Z方向に移動させる)。なお、吸引ヘッド28の上昇と並行して、上述した外力の付与を行ってもよい。吸引ヘッド28の上昇に伴って、複数の剥離層19を起点としてSiCインゴット13からSiCウェーハ11が剥離される。
【0094】
図8(B)は、剥離工程S40後のSiCインゴット13及びSiCウェーハ11を示す図である。保持工程S10から剥離工程S40を経た場合に、廃棄されるSiCインゴット13の体積は、厚さ方向13cで50μmから80μm程度の厚さに対応する。
【0095】
剥離工程S40後、SiCウェーハ11の剥離面とSiCインゴット13の被剥離面とに残存する凹凸を、研削、研磨等により除去する。この様にして、SiCインゴット13の厚さ(即ち、第1面13a及び第2面13b間の距離)未満の厚さを有するSiCウェーハ11が製造される。
【0096】
SiCインゴット13から更にSiCウェーハ11を製造する場合(
図1のS50でYES)、剥離層形成工程S20に戻る。これに対して、SiCウェーハ11を更には製造しない場合(
図1のS50でNO)、フローを終了する。
【0097】
ところで、
図1から
図8(B)では、SiCインゴット13に代えて、保持工程S10から剥離工程S40を同様に経ることで、SiC単結晶基板(被加工物)からSiC単結晶基板の厚さ未満の厚さを有するSiCウェーハ11を製造することもできる。
【0098】
SiC単結晶基板は、SiCの単結晶基板で構成されている所謂自立型の基板であってもよいし、種結晶となるSiCウェーハ11上に形成されたSiCのエピタキシャル成長層を有する基板であってもよい。
【0099】
(比較例)次に、
図9を参照して、上述の特許文献3に対応する比較例について説明する。
図9は、2つの第1改質層15aの間に照射されたレーザービームLがクラック17で反射される様子を示すSiCインゴット13の断面図である。
【0100】
比較例では、2つの第1改質層15aをつなぐ様にクラック17が形成されていることがあり、第2改質層15bを形成する際に、クラック17によってレーザービームLが反射されると、この反射光によりSiCウェーハ11となる領域がダメージを受ける。
【0101】
図9では、第2改質層15bを破線で示しており、この第2改質層15b上にダメージ領域21が形成される。ダメージ領域21はSiCウェーハ11から除去されるので、ダメージ領域21が形成されると、上述の実施形態に比べてSiCインゴット13における材料の損失が増加する。
【0102】
なお、
図9では、SiCインゴット13がオフ角を有する場合を示しているが、オフ角を有しない場合も同様に、2つの第1改質層15aをつなぐ様に形成されたクラック17でレーザービームLが反射されるという問題が生じ得る。
【0103】
これに対して、上述のクラック進展工程S30では、剥離層形成工程S20で形成された改質層15にレーザービームLを照射するので、クラック17でレーザービームLが反射されるという問題が基本的には生じない。
【0104】
(第1変形例)次に、
図10を参照し、クラック進展工程S30の第1変形例について説明する。
図10は、第1変形例に係るクラック進展工程S30を示すSiCインゴット13の平面図である。
【0105】
第1変形例に係るクラック進展工程S30では、全ての改質層15にレーザービームLを照射するのではなく、第2方向A2に並んでいる複数の剥離層19のうち所定本数おきの各剥離層19における改質層15にレーザービームLを照射する。より具体的には、第2方向A2に並んでいる複数の改質層15に対して1本おきにレーザービームLを照射する。
【0106】
第1変形例においても、上述の実施形態と同様に既に形成されている改質層15にレーザービームLを照射するので、複数の第1改質層15aの間の各々にレーザービームLを照射して第2改質層15bを形成する場合(
図9参照)に比べて、SiCインゴット13における材料の損失を低減できる。
【0107】
また、第1変形例では、上述の実施形態に比べて、クラック進展工程S30でレーザービームLを照射する改質層15の本数が少ないのでレーザー加工に要する時間を短縮できることに加えて、後述する実験結果で示す様に、SiCインゴット13における材料の損失を低減できるという利点もある。
【0108】
なお、
図10では、複数の改質層15に対して1本おきにレーザービームLを照射するが、剥離層形成工程S20における割り出し送り量、SiCインゴット13の径等に応じて、複数の改質層15に対してN本おきにレーザービームLを照射してもよい(Nは2以上の自然数)。
【0109】
(実験例)次に、複数の加工条件でSiCインゴット13からSiCウェーハ11を製造した場合におけるSiCインゴット13の材料の損失を調べた実験結果(下記の表1)について説明する。なお、表1に記載の改質層15のピッチは、割り出し送り方向での改質層15の幅の中心線同士の割り出し送り方向における間隔である。
【0110】
材料の損失は、SiCウェーハ11の剥離後にSiCウェーハ11及びSiCインゴット13に対して研削を施すことで最終的に廃棄されるSiCインゴット13の体積を、厚さ方向13cの長さに換算することで算出した。
【0111】
なお、SiCウェーハ11及びSiCインゴット13に残存する剥離層19は、色、反射率等に基づいて光学的な観察により判定できるところ、光学的な観察に基づいて剥離層19が除去されるまでSiCウェーハ11及びSiCインゴット13を研削した。
【0112】
【0113】
実験Aは、上述の実施形態に従い、保持工程S10から剥離工程S40までを経て、SiCインゴット13からSiCウェーハ11を剥離した。剥離層形成工程S20及びクラック進展工程S30では、上述の加工条件でレーザー加工を行った。
【0114】
実験Bは、上述の第1変形例(
図10参照)に対応する。実験Bでは、剥離層形成工程S20及びクラック進展工程S30において平均出力を9.0Wとした以外は、上述の加工条件を採用した。また、クラック進展工程S30では、上述の様に複数の改質層15に対して1本おきにレーザービームLを照射した。
【0115】
実験Cは、上述の比較例(
図9参照)に対応する。実験Cでは、剥離層形成工程S20及びクラック進展工程S30において平均出力を9.0Wとした以外は、上述の加工条件を採用した。但し、実験Cでは、剥離層形成工程S20を2回に分けて行った。
【0116】
つまり、割り出し送り量を300μmとして、複数の第1改質層15aを形成する1回目の剥離層形成工程S20を行った後、隣接する2つの第1改質層15aの中間領域の各々に第2改質層15bを形成する2回目の剥離層形成工程S20を行った。
【0117】
但し、2回目の剥離層形成工程S20では、第1改質層15aに対して第2改質層15bが第2方向A2で150μmだけずれる様に、第2改質層15bの形成開始位置を調整した。また、2回目の剥離層形成工程S20での割り出し送り量は、1回目の剥離層形成工程S20と同様に300μmとした。これにより、第2方向A2に沿って150μmのピッチで改質層15を形成した。なお、実験Cでは、クラック進展工程S30を行っていない。
【0118】
実験Dは、複数の剥離層19を形成した後、複数の剥離層19を起点としてSiCインゴット13からSiCウェーハ11を剥離する一般的な手法に相当する。実験Dでは、剥離層形成工程S20でのレーザービームLの平均出力を11.5Wと比較的高くした以外は、上述の加工条件を採用した。なお、実験Dでも、クラック進展工程S30を行っていない。
【0119】
ところで、実験AからDにおいて、剥離層形成工程S20でのレーザービームLの平均出力は、SiCインゴット13からSiCウェーハ11を剥離することができた最小の平均出力である。実験AからDでは、表1に示す平均出力よりも低い平均出力を用いて複数の剥離層19を形成した後、SiCインゴット13からSiCウェーハ11の剥離を試みたが、この場合、SiCインゴット13からSiCウェーハ11を剥離できなかった。
【0120】
つまり、表1に示す剥離層形成工程S20でのレーザービームLの平均出力は、平均出力以外の加工条件を固定した場合において、SiCインゴット13からSiCウェーハ11を剥離可能なレーザービームLの平均出力の最小値(即ち、下限値)である。
【0121】
なお、実験A及びBにおいて、表1に示す平均出力よりも低い平均出力を用いる場合、剥離層形成工程S20及びクラック進展工程S30の両工程でのレーザービームLの平均出力は同じとした。
【0122】
実験A及びBでは、実験C及びDに比べてSiCインゴット13の材料の損失を低減できた。特に、実験Bの様に、クラック進展工程S30においてレーザービームLの照射領域を間引く方が材料の損失を低減するのには効果的であった。
【0123】
(第2変形例)次に、
図11を参照し、クラック進展工程S30の第2変形例について説明する。
図11は、第2変形例に係るクラック進展工程S30を示すSiCインゴット13の平面図である。
【0124】
第2変形例に係るクラック進展工程S30では、複数の改質層15に対して1本おきにレーザービームLを照射するのではなく、第2方向A2における最初の3つの改質層15にレーザービームLを照射した後、次の1つの改質層15にはレーザービームLを照射せずにスキップする。
【0125】
そして、同様に、第2方向A2における次の3つの改質層15にレーザービームLを照射した後、続く1つの改質層15にはレーザービームLを照射せずにスキップする。この様にして、クラック進展工程S30でレーザービームLが照射される複数の改質層15と、クラック進展工程S30でレーザービームLが照射されない1以上の改質層15とが、第2方向A2において交互に配置される。
【0126】
つまり、第2変形例のクラック進展工程S30では、レーザービームLの照射が省略された改質層15が無い様に第2方向A2で連続する第1本数の各剥離層19における改質層15にレーザービームLを照射する照射工程と、第2方向A2で連続する第1本数の剥離層19に第2方向A2で隣接する第2本数の各剥離層19における改質層15に対してはレーザービームLの照射を省略する非照射工程と、を第2方向A2で繰り返す。
【0127】
なお、
図11に示す例では、第1本数が3本であり、第2本数が1本であるが、剥離層形成工程S20における割り出し送り量、SiCインゴット13の径等に応じて、照射工程の第1本数と、非照射工程の第2本数とを、適宜変更してもよい。第1本数は、2以上の自然数であってよく、第2本数は、自然数であればよい。
【0128】
第2変形例においても、上述の実施形態と同様に、
図9の比較例の様に複数の第1改質層15aの間の各々にレーザービームLを照射して第2改質層15bを形成する場合に比べて、SiCインゴット13における材料の損失を低減できる。
【0129】
その他、上述の実施形態に係る構造、方法等は、本発明の目的の範囲を逸脱しない限りにおいて適宜変更して実施できる。それぞれ上述の実施形態並びに第1及び第2変形例では、剥離層形成工程S20とクラック進展工程S30とで、集光点Pの高さ位置を同じ(即ち、±1μm以内)とした。
【0130】
しかし、クラック進展工程S30での集光点Pの高さ位置は、必ずしも剥離層形成工程S20と同じでなくてもよい。その場合であっても、クラック進展工程S30において改質層15に照射されたレーザービームLは、アモルファスカーボンにより十分に吸収される。但し、剥離層形成工程S20とクラック進展工程S30とで、集光点Pの高さ位置を同じとする方が製造工程上は簡便である。
【符号の説明】
【0131】
2:レーザー加工装置
4:チャックテーブル、4a:保持面
6:レーザービーム照射ユニット、8:レーザー発振器、10:調整器
11:SiCウェーハ
13:SiCインゴット(被加工物)
13a:第1面、13b:第2面、13c:厚さ方向、13d:平坦面
12:集光器、14:ミラー、16:集光レンズ
15:改質層、15a:第1改質層、15b:第2改質層
17:クラック、19:剥離層
20:剥離装置
21:ダメージ領域
22:チャックテーブル、22a:保持面
24:剥離ユニット、26:可動部
28:吸引ヘッド、28a:保持面
A1:第1方向、A2:第2方向、A3:第3方向
L:レーザービーム、P:集光点
S10:保持工程、S20:剥離層形成工程
S30:クラック進展工程、S40:剥離工程