(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024171961
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】光硬化性組成物およびその光硬化物ならびに光硬化物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 2/50 20060101AFI20241205BHJP
C08G 75/045 20160101ALI20241205BHJP
【FI】
C08F2/50
C08G75/045
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089340
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】519135633
【氏名又は名称】公立大学法人大阪
(71)【出願人】
【識別番号】591147694
【氏名又は名称】大阪ガスケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【弁理士】
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【弁理士】
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】岡村 晴之
(72)【発明者】
【氏名】三ノ上 渓子
(72)【発明者】
【氏名】鞍谷 裕嗣
(72)【発明者】
【氏名】宮内 信輔
【テーマコード(参考)】
4J011
4J030
【Fターム(参考)】
4J011AA05
4J011AC04
4J011CA02
4J011CC10
4J011PA04
4J011PA07
4J011PC02
4J011PC08
4J011QB19
4J011SA84
4J011UA01
4J011VA01
4J011WA01
4J011WA02
4J030BA03
4J030BA41
4J030BA42
4J030BA48
4J030BB07
4J030BC32
4J030BC43
4J030BE02
4J030BF06
4J030BF07
4J030BG01
4J030BG02
4J030BG03
4J030BG09
4J030BG25
(57)【要約】 (修正有)
【課題】光硬化物が高屈折率で耐熱性が高く、不溶化率も高い光硬化性組成物の提供。
【解決手段】下記式(1)で表されるラジカル重合性化合物(A)および金属酸化物粒子(B)を含む硬化性組成物を調製する。
(式中、環Z
1aおよび環Z
1bは独立して多環式アレーン環を示し、A
1aおよびA
1bは独立してアルキレン基を示し、n1およびn2は独立して0以上の整数を示し、A
2aおよびA
2bは独立してヒドロキシル基を有するアルキレン基を示し、s1およびs2は独立して0または1を示し、X
1aおよびX
1bは独立してラジカル重合性基を示し、R
1aおよびR
1bは独立して置換基を示し、k1およびk2は独立して0以上の整数を示し、R
2は置換基を示し、mは0~8の整数を示す)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるラジカル重合性化合物(A)および金属酸化物粒子(B)を含む光硬化性組成物。
【化1】
(式中、
環Z
1aおよび環Z
1bは独立して多環式アレーン環を示し、
A
1aおよびA
1bは独立してアルキレン基を示し、n1およびn2は独立して0以上の整数を示し、
A
2aおよびA
2bは独立してヒドロキシル基を有するアルキレン基を示し、s1およびs2は独立して0または1を示し、
X
1aおよびX
1bは独立してラジカル重合性基を示し、
R
1aおよびR
1bは独立して置換基を示し、k1およびk2は独立して0以上の整数を示し、
R
2は置換基を示し、mは0~8の整数を示す)
【請求項2】
前記式(1)において、環Z1aおよび環Z1bが縮合多環式アレーン環であり、A2aおよびA2bが2級ヒドロキシル基を有するアルキレン基であり、s1およびs2が1であり、かつX1aおよびX1bがアリル基または(メタ)アクリロイル基である請求項1記載の光硬化性組成物。
【請求項3】
チオール化合物(C)をさらに含む請求項1または2記載の光硬化性組成物。
【請求項4】
前記チオール化合物(C)が、下記式(2)で表されるジチオール化合物を含む請求項3記載の光硬化性組成物。
【化2】
(式中、
環Z
2aおよび環Z
2bは独立してアレーン環を示し、
A
3aおよびA
3bは独立してアルキレン基を示し、p1およびp2は独立して0以上の整数を示し、
A
4aおよびA
4bは独立してアルキレン基を示し、
R
3aおよびR
3bは独立して置換基を示し、r1およびr2は独立して0以上の整数を示し、
R
4は置換基を示し、qは0~8の整数を示す)
【請求項5】
前記金属酸化物粒子(B)が、アシル基を有するチタニア粒子である請求項1または2記載の光硬化性組成物。
【請求項6】
光重合開始剤(D)としてホスフィン系化合物をさらに含む請求項1または2記載の光硬化性組成物。
【請求項7】
溶媒(E)としてケトン類をさらに含む請求項1または2記載の光硬化性組成物。
【請求項8】
前記金属酸化物粒子(B)の割合が、前記ラジカル重合性化合物(A)100質量部に対して1~200質量部である請求項1または2記載の光硬化性組成物。
【請求項9】
請求項1または2記載の光硬化性組成物に光照射して光硬化物を形成する光硬化工程を含む光硬化物の製造方法。
【請求項10】
前記光硬化工程において、可視光線を光照射する請求項9記載の製造方法。
【請求項11】
前記光硬化工程において、50~150℃で加熱しながら光硬化物を形成する請求項9記載の製造方法。
【請求項12】
前記光硬化物を150℃以上の温度で加熱する加熱工程をさらに含む請求項9記載の製造方法。
【請求項13】
請求項1または2記載の光硬化性組成物の光硬化物。
【請求項14】
テトラヒドロフランによる不溶化率が80%以上であり、かつ25℃、589nmの屈折率が1.66以上である請求項13記載の光硬化物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光硬化塗膜、フォトレジストおよび印刷製版材などに利用できる光硬化性組成物およびその光硬化物ならびにこの光硬化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、有機材料と無機材料とを分子レベルで複合化した有機無機ハイブリッド材料は、有機材料に由来する特性(例えば、軽量性、易加工性、柔軟性など)と、無機材料に由来する特性(耐熱性、耐候性、高弾性率など)とを両立し得る材料として注目されている。
【0003】
特開2019-123806号公報(特許文献1)には、可視光の照射であっても、ラジカル重合で屈折率の高い硬化物が得られる硬化性組成物として、ポリシラン(A)、フルオレン骨格を有するラジカル重合性化合物(B)、チオール化合物(C)およびラジカル重合開始剤(D)を含む硬化性組成物が開示されており、光硬化塗膜、フォトレジスト、印刷製版材などに利用できることが記載されている。
【0004】
特開2019-172893号公報(特許文献2)には、光硬化することができ、高い屈折率および透明性を有し、かつ低コストで調製できる樹脂組成物として、チタン化合物および光硬化型樹脂を含有する樹脂組成物が開示されており、前記光硬化型樹脂としてフルオレン骨格を有するアクリレート樹脂が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2019-123806号公報
【特許文献2】特開2019-172893号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、近年の光学材料は、用途によっては、諸特性のバランスが求められ、光学特性および機械的特性において、それぞれ高度な特性を要求されるが、特許文献1の硬化物では充分ではなかった。すなわち、特許文献1の硬化物では、不溶化率、屈折率、耐熱性のいずれにおいても充分ではなかった。また、特許文献2の硬化物でも、屈折率および耐熱性が充分ではなかった。
【0007】
従って、本発明の目的は、光硬化物が高屈折率で耐熱性が高く、不溶化率も高い硬化性組成物およびその光硬化物ならびにこの硬化物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者等は、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、9,9-ビス多環式アリールフルオレン骨格を有するラジカル重合性化合物と金属酸化物粒子とを組み合わせることにより、光硬化物の屈折率、耐熱性、不溶化率を向上できることを見出し、本発明を完成した。
【0009】
すなわち、本発明の態様[1]としての光硬化性組成物は、下記式(1)で表されるラジカル重合性化合物(A)および金属酸化物粒子(B)を含む。
【0010】
【0011】
(式中、
環Z1aおよび環Z1bは独立して多環式アレーン環を示し、
A1aおよびA1bは独立してアルキレン基を示し、n1およびn2は独立して0以上の整数を示し、
A2aおよびA2bは独立してヒドロキシル基を有するアルキレン基を示し、s1およびs2は独立して0または1を示し、
X1aおよびX1bは独立してラジカル重合性基を示し、
R1aおよびR1bは独立して置換基を示し、k1およびk2は独立して0以上の整数を示し、
R2は置換基を示し、mは0~8の整数を示す)。
【0012】
本発明の態様[2]は、前記態様[1]の式(1)において、環Z1aおよび環Z1bが縮合多環式アレーン環であり、A2aおよびA2bが2級ヒドロキシル基を有するアルキレン基であり、s1およびs2が1であり、X1aおよびX1bがアリル基または(メタ)アクリロイル基である態様である。
【0013】
本発明の態様[3]は、前記態様[1]または[2]の光硬化性組成物が、チオール化合物(C)として芳香族ジチオール化合物をさらに含む態様である。
【0014】
本発明の態様[4]は、前記態様[3]のチオール化合物(C)が、下記式(2)で表されるジチオール化合物を含む態様である。
【0015】
【0016】
(式中、
環Z2aおよび環Z2bは独立してアレーン環を示し、
A3aおよびA3bは独立してアルキレン基を示し、p1およびp2は独立して0以上の整数を示し、
A4aおよびA4bは独立してアルキレン基を示し、
R3aおよびR3bは独立して置換基を示し、r1およびr2は独立して0以上の整数を示し、
R4は置換基を示し、qは0~8の整数を示す)。
【0017】
本発明の態様[5]は、前記態様[1]~[4]のいずれかの態様において、前記金属酸化物粒子(B)が、アシル基を有するチタニア粒子である態様である。
【0018】
本発明の態様[6]は、前記態様[1]~[5]のいずれかの態様において、光重合開始剤(D)としてホスフィン系化合物をさらに含む態様である。
【0019】
本発明の態様[7]は、前記態様[1]~[6]のいずれかの態様において、溶媒(E)としてケトン類をさらに含む態様である。
【0020】
本発明の態様[8]は、前記態様[1]~[7]のいずれかの態様において、前記金属酸化物粒子(B)の割合が、前記ラジカル重合性化合物(A)100質量部に対して1~200質量部である態様である。
【0021】
本発明には、態様[9]として、前記態様[1]~[8]のいずれかの態様の光硬化性組成物に光照射して光硬化物を形成する光硬化工程を含む光硬化物の製造方法も含まれる。
【0022】
本発明の態様[10]は、前記態様[9]の光硬化工程において、可視光線を光照射する態様である。
【0023】
本発明の態様[11]は、前記態様[9]または[10]の光硬化工程において、50~150℃で加熱しながら光硬化物を形成する態様である。
【0024】
本発明の態様[12]は、前記態様[9]~[11]のいずれかの態様の製造方法が、前記光硬化物を150℃以上の温度で加熱する加熱工程をさらに含む態様である。
【0025】
本発明には、態様[13]として、前記態様[1]~[12]のいずれかの態様の光硬化性組成物の光硬化物も含まれる。
【0026】
本発明の態様[14]は、前記態様[13]において、テトラヒドロフランによる不溶化率が80%以上であり、かつ25℃、589nmの屈折率が1.66以上である態様である。
【0027】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、置換基などの炭素原子の数をC1、C6、C10などで示すことがある。例えば「C1アルキル基」は炭素数が1のアルキル基を意味し、「C6-10アリール基」は炭素数が6~10のアリール基を意味する。
【発明の効果】
【0028】
本発明では、9,9-ビス多環式アリールフルオレン骨格を有するラジカル重合性化合物と金属酸化物粒子とを組み合わせているため、金属酸化物粒子が組成物中に均一に分散し、光硬化物が高屈折率で耐熱性が高い上に、不溶化率も高い。さらに、光重合開始剤としてホスフィン系化合物を用いると、可視光線の照射であっても、透明性が高く、前記特性を有する光硬化物が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[(A)ラジカル重合性化合物]
本発明の光硬化性組成物は、前記式(1)で表されるラジカル重合性化合物(A)を含む。ラジカル重合性化合物(A)は、9,9-ビス多環式アリールフルオレン骨格を有するため、有機材料であるにも拘わらず、高い屈折率および耐熱性を有するため、光硬化物の高屈折率化および耐熱性を維持しつつ、不溶化率も向上できる。
【0030】
前記式(1)において、環Z1aおよび環Z1bで表される多環式アレーン環(多環式芳香族炭化水素環)には、縮合多環式アレーン環、環集合アレーン環が含まれる。
【0031】
縮合多環式アレーン環は、縮合二ないし四環式アレーン環であってもよい。縮合二環式アレーン環としては、インデン環、ナフタレン環などの縮合二環式C8-20アレーン環などが挙げられる。縮合三環式アレーン環としては、アセナフチレン環、フルオレン環、フェナレン環、アントラセン環、フェナントレン環などの縮合三環式C14-20アレーン環などが挙げられる。縮合四環式芳香族炭化水素環としては、ピレン環、ナフタセン環などの縮合四環式C16-22アレーン環などが挙げられる。これらの縮合多環式アレーン環は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0032】
環集合アレーン環としては、ビフェニル環、フェニルナフタレン環、ビナフチル環などのC12-20ビアレーン環;テルフェニル環などのC16-20テルアレーン環;9,9-ジフェニルフルオレン環、9,9-ジナフチルフルオレン環、9,9-ビス(フェニルフェニル)フルオレン環などの9,9-ジC6-18アリールフルオレン環;9,9-ビス(C1-3アルキルフェニル)フルオレン環などの9,9-ビス(C1-3アルキルC6-18アリール)フルオレン環などの環集合C6-30アレーン環などが挙げられる。これらの環集合アレーン環は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。
【0033】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、「環集合アレーン環」とは、2つ以上の環系(アレーン環系)が一重結合(単結合)か二重結合で直結し、環を直結する結合の数が環系の数より1つだけ少ないものを意味し、例えば、上述のように、フェニルナフタレン環、ビナフチル環などは縮合多環式アレーン環骨格を有していても環集合アレーン環に分類され、ナフタレン環(非環集合アレーン環)などの「縮合多環式アレーン環」と明確に区別される。
【0034】
これらのうち、ナフタレン環などのC10-16縮合二環式炭化水素環、ビフェニル環などのC12-16ビアレーン環が好ましく、屈折率および耐熱性を向上できる点から、縮合二環式C10-14アレーン環がさらに好ましく、ナフタレン環が最も好ましい。
【0035】
環Z1aと環Z1bとは、異なっていてもよいが、通常、同一である。フルオレン環の9位に対する環Z1aおよび環Z1bの結合位置は、特に限定されず、例えば、環Z1aおよび環Z1bがナフタレン環であるとき、1位または2位、好ましくは2位である。
【0036】
A1aおよびA1bで表されるアルキレン基としては、エチレン基、プロピレン基(1,2-プロパンジイル基)、トリメチレン基、1,2-ブタンジイル基、テトラメチレン基などのC2-6アルキレン基などが挙げられる。これらのアルキレン基は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、C2-4アルキレン基が好ましく、エチレン基、プロピレン基などのC2-3アルキレン基がさらに好ましく、エチレン基が最も好ましい。アルキレン基A1aとアルキレン基A1bとは、異なっていてもよいが、通常、同一である。
【0037】
繰り返し数n1およびn2は、それぞれ0以上であり、例えば0~15の整数の範囲から選択でき、好ましくは以下段階的に、0~10、0~8、0~6、0~4、0~3、0~1であり、最も好ましくは0である。なお、後述するs1およびs2が0の場合、n1およびn2は1が最も好ましい。繰り返し数が多すぎると、光硬化物の屈折率が低下する虞がある。
【0038】
繰り返し数n1およびn2は、互いに同一または異なっていてもよく;n1およびn2が2以上の整数である場合、2以上のアルキレン基A1aおよびA1bの種類は、それぞれ同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0039】
なお、本明細書および特許請求の範囲において「繰り返し数(付加モル数)」は、平均値(算術平均値、相加平均値)または平均付加モル数であってもよく、好ましい態様は、前記好ましい範囲(前記整数の範囲)と同様である。
【0040】
A2aおよびA2bで表されるヒドロキシル基を有するアルキレン基としては、2-ヒドロキシ-1,3-プロパンジイル基などの2級ヒドロキシル基を有するアルキレン基が好ましい。
【0041】
繰り返し数s1およびs2は、0であってもよく、1であってもよいが、1が好ましい。s1およびs2が1の場合、分子中にヒドロキシル基が存在することとなり、このヒドロキシル基によって、組成物中における金属酸化物粒子(B)の分散性を向上できるとともに、光硬化性樹脂組成物を光硬化させたときの基板への密着性を高めることができる。また、ヒドロキシル基を有することで、硬化性樹脂組成物の硬化物の屈折率が高くなる傾向もある。そのため、繰り返し数n1およびn2が0であり、かつs1およびs2が1であるのが特に好ましい。
【0042】
X1aおよびX1bで表されるラジカル重合性基は、ラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する基であれば特に限定されないが、アリル基または(メタ)アクリロイル基が好ましく、(メタ)アクリロイル基がさらに好ましく、アクリロイル基がより好ましい。
【0043】
ラジカル重合性基X1aまたはX1bを含む基の環Z1aおよび環Z1bに対する置換位置は、特に限定されず、環Z1aおよび環Z1bがナフタレン環である場合には、フルオレンの9位に結合するナフチル基の5~8位である場合が多く、例えば、フルオレンの9位に対して、1,5位、2,6位などの関係が好ましく、2,6位の関係が特に好ましい。
【0044】
置換基R1aおよびR1bで表される置換基としては、反応に不活性な非反応性置換基であってもよく、例えば、ハロゲン原子、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アシル基、ニトロ基、シアノ基、モノまたはジ置換アミノ基が挙げられる。
【0045】
ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。
【0046】
アルキル基としては、直鎖状または分岐鎖状アルキル基が含まれ、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基などのC1-10アルキル基、好ましくはC1-6アルキル基、さらに好ましくはC1-4アルキル基が挙げられる。アリール基としては、フェニル基、アルキルフェニル基、ビフェニリル基、ナフチル基などのC6-12アリール基;メチルフェニル基(またはトリル基)、ジメチルフェニル基(またはキシリル基)などのモノないしトリC1-4アルキル-フェニル基などが挙げられる。
【0047】
アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、n-ブトキシ基、t-ブトキシ基などのC1-10アルコキシ基が挙げられる。アシル基としては、アセチル基などのC1-6アルキル-カルボニル基などが挙げられる。
【0048】
モノまたはジ置換アミノ基としては、ジメチルアミノ基などのモノまたはジC1-4アルキルアミノ基;ジアセチルアミノ基などのビス(C1-4アルキル-カルボニル)アミノ基が挙げられる。
【0049】
代表的な置換基R1aおよびR1bとしては、アルキル基、アリール基、アルコキシ基、アシル基、ニトロ基、シアノ基などが挙げられる。これらのうち、アルキル基、アルコキシ基が好ましく、C1-6アルキル基、C1-4アルコキシ基がより好ましく、メチル基などのC1-4アルキル基が最も好ましい。置換基R1aと置換基R1bとは、異なっていてもよいが、同一が好ましい。
【0050】
置換数k1およびk2は、0~4の整数、好ましくは0~2の整数、さらに好ましくは0または1、より好ましくは0である。k1およびk2が2以上の整数であるとき、2以上の置換基R1aおよび置換基R1bの種類は、それぞれ同一であってもよく、異なる組み合わせであってもよい。
【0051】
R2で表される置換基としては、反応に不活性な非反応性置換基であってもよく、例えば、シアノ基;フッ素原子、塩素原子、臭素原子などのハロゲン原子;アルキル基、アリール基などの炭化水素基などが挙げられる。前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基などのC1-12アルキル基などが挙げられる。前記アリール基としては、フェニル基などのC6-10アリール基などが挙げられる。好ましい置換基R2としては、シアノ基、ハロゲン原子、アルキル基であり、特にアルキル基である。アルキル基のなかでも、C1-8アルキル基が好ましく、C1-6アルキル基がさらに好ましく、メチル基などのC1-4アルキル基がより好ましい。
【0052】
なお、置換基R2の置換数mが2以上である場合、フルオレン環を構成する2つのベンゼン環のうち、同一のベンゼン環に置換する2以上の置換基R2の種類は、同一であっても異なっていてもいずれでもよく、異なるベンゼン環に置換する2以上の基R2の種類も、同一であってもよく異なっていてもいずれでもよい。また、基R2の結合位置(置換位置)は、フルオレン環の1~8位である限り特に制限されず、例えば、フルオレン環の2位、7位、2,7位などが挙げられる。
【0053】
置換数mは、例えば0~6の整数であってもよく、好ましくは以下段階的に、0~4、0~3、0~2、0または1であり、最も好ましくは0である。なお、フルオレン環を構成する2つのベンゼン環において、基R2のそれぞれの置換数は、互いに異なっていてもよいが、同一であるのが好ましい。
【0054】
具体的には、前記ラジカル重合性化合物(A)としては、下記式(1a)で表される化合物が好ましい。
【0055】
【0056】
(式中、環Z1aおよび環Z1bは独立して縮合多環式アレーン環を示し、A1a、A1b、n1、n2、s1、s2、X1a、X1b、R1a、R1b、k1、k2、R2およびmは前記に同じ)。
【0057】
前記ラジカル重合性化合物(A)のうち、代表的な化合物としては、例えば、9,9-ビス[6-((メタ)アクリロイルオキシ-(ポリ)エトキシ)-2-ナフチル]フルオレンなどの9,9-ビス[(メタ)アクリロイルオキシ-(ポリ)アルコキシナフチル]フルオレン類;9,9-ビス[6-(3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)-2-ナフチル]フルオレン、9,9-ビス[5-(3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)-1-ナフチル]フルオレンなどの9,9-ビス[(3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)ナフチル]フルオレン類;9,9-ビス[6-(3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)(ポリ)エトキシ-2-ナフチル]フルオレンなどの9,9-ビス[(3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)(ポリ)アルコキシナフチル]フルオレン類などが挙げられる。これらのうち、9,9-ビス[6-(3-アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)-2-ナフチル]フルオレンなどの9,9-ビス[(3-(メタ)アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)ナフチル]フルオレン類が好ましい。
【0058】
前記ラジカル重合性化合物(A)の割合は、光硬化性組成物中10~95質量%程度の範囲から選択でき、好ましくは以下段階的に、20~90質量%、30~80質量%、40~70質量%、40~60質量%であり、最も好ましくは45~55質量%である。前記ラジカル重合性化合物(A)の割合が少なすぎると、光硬化物の光学特性と耐熱性と不溶化率とのバランスを取るのが困難となる虞があり、逆に多すぎると、光硬化物の屈折率や不溶化率が低下する虞がある。
【0059】
[(B)金属酸化物粒子]
本発明の光硬化性組成物は、金属酸化物粒子(B)をさらに含む。本発明の光硬化性組成物は、金属酸化物粒子(B)を含むことにより、屈折率および耐熱性を高度に向上できる。
【0060】
金属酸化物粒子(B)を構成する金属酸化物は、無機フィラーとして利用される金属酸化物であってもよい。前記金属酸化物としては、高屈折材料が好ましく、例えば、酸化チタン(TiO2)、酸化ジルコニウム(Zr2O)、酸化ハフニウム(Hf2O)、酸化ニオブ(Nb2O5)、酸化タンタル(Ta2O3)、酸化セリウム(CeO2)が挙げられる。これらの金属酸化物は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、周期表第4族金属の酸化物が好ましく、酸化チタン(チタニア)、酸化ジルコニウム(ジルコニア)がさらに好ましく、チタニアが最も好ましい。
【0061】
金属酸化物粒子(B)は、光硬化性組成物中で均一に分散し易い点から、アシル基を有するのが好ましい。アシル基としては、アセチル基、プロピオニル基、ブチル-カルボニル基などのC1-6アルキル-カルボニル基などが挙げられる。これらのアシル基は、ヒドロキシル基やカルボキシル基などの置換基を有していてもよい。これらのアシル基は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。これらのアシル基のうち、アセチル基、プロピオニル基などのC1-3アルキル-カルボニル基が好ましく、C1-2アルキル-カルボニル基がさらに好ましく、アセチル基が最も好ましい。
【0062】
好ましい金属酸化物粒子(B)は、アシル基を有するチタニア粒子(B1)である。前記チタニア粒子(B1)は、下記式(3)で表される単位を有するチタニア粒子であってもよい。
【0063】
【0064】
(式中、R5はアシル基を示す)。
【0065】
前記式(3)において、R5で表されるアシル基としては、好ましい態様も含めて、前記チタニア粒子(B1)のアシル基から選択できる。前記アシル基は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。
【0066】
前記チタニア粒子(B1)は、前記式(3)で表される単位に加えて、下記式(4)で表される単位を有するのが好ましい。
【0067】
【0068】
前記チタニア粒子(B1)は、前記式(3)で表される単位に加えて、下記式(5)で表される単位を有していてもよい。
【0069】
【0070】
(式中、R6は水素原子、アルキル基、シクロアルキル基を示す)。
【0071】
前記式(5)において、アルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、t-ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基、デシル基、ドデシル基などのC1-18アルキル基などが挙げられる。これらのアルキル基は、ヒドロキシル基、カルボキシル基、シクロアルキル基、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらのアルキル基は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。
【0072】
シクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などのC5-10シクロアルキル基が挙げられる。これらのシクロアルキル基は、ヒドロキシル基、カルボキシル基、アルキル基、シクロアルキル基、アリール基などの置換基を有していてもよい。これらのシクロアルキル基は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。
【0073】
これらのうち、アルキル基が好ましく、ブチル基などのC1-6アルキル基が最も好ましい。
【0074】
前記チタニア粒子(B1)は、前記式(3)で表される単位に加えて、下記式(6)および/または(7)で表される単位を有していてもよい。
【0075】
【0076】
(式中、R7~R9は独立して水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アシル基を示し、R10およびR11は独立して水素原子、アルキル基、シクロアルキル基、アシル基を示す)。
【0077】
前記式(6)および(7)において、アルキル基としては、好ましい態様も含めて、前記式(5)のR6として例示されたアルキル基から選択できる。前記アルキル基は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。
【0078】
シクロアルキル基としては、好ましい態様も含めて、前記式(5)のR6として例示されたシクロアルキル基から選択できる。前記シクロアルキル基は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。
【0079】
アシル基としては、好ましい態様も含めて、前記チタニア粒子(B1)のアシル基から選択できる。前記アシル基は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。
【0080】
これらのうち、アルキル基、アシル基が好ましく、ブチル基などのC1-6アルキル基、アセチル基、プロピオニル基などのC1-3アルキル-カルボニル基が好ましく、C1-2アルキル-カルボニル基が最も好ましい。
【0081】
前記チタニア粒子(B1)が前記式(3)および(4)で表される単位に加えて、前記式(5)~(7)で表される単位のうち、少なくとも1種以上の単位を有する場合、基R5~基R11の総モル数中アシル基の割合は50モル%以上が好ましく、好ましくは60モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、最も好ましくは90モル%以上である。アシル基の割合が少なすぎると、チタニア粒子の加水分解および縮合反応が起こり易くなって、チタニア粒子を光硬化性組成物中に均一に分散させるのが困難となる虞がある。
【0082】
前記式(3)~(7)で表される単位の結合態様は、特に限定されず、ランダムで結合してもよく、同一の単位を繰り返して結合するブロック結合であってもよい。
【0083】
前記チタニア粒子(B1)において、1粒子当たりのチタン原子数は、例えば4以上(すなわち4量体以上)、好ましくは8以上であり、具体的には4~100,000、好ましくは8~10,000であってもよい。チタン原子数が少なすぎると、末端構造が不安定になり、チタニア粒子を組成物中に均一に分散させるのが困難となる虞がある。
【0084】
前記チタニア粒子(B1)は、前記式(3)で表される単位を含んでいればよく、他の単位は特に限定されない。前記式(3)で表される単位の割合は、全単位中50質量%以上であってもよく、好ましくは60質量%以上であり、具体的には50~99質量%、好ましくは60~95質量%であってもよい。
【0085】
前記チタニア粒子(B1)において、前記式(3)で表される単位の割合は、全単位中25~75モル%であってもよい。前記式(4)で表される単位の割合は、全単位中10~50モル%であってもよい。前記式(5)で表される単位の割合は、全単位中0~10モル%であってもよい。前記式(6)で表される単位の割合は、全単位中0~20モル%であってもよい。前記式(7)で表される単位の割合は、全単位中0~30モル%であってもよい。
【0086】
前記チタニア粒子(B1)の結晶形(結晶型)は、ルチル型(金紅石型)、アナターゼ型(鋭錐石型)、ブルッカイト型(板チタン石型)のいずれであってもよいが、屈折率を向上できる点から、ルチル型が好ましい。
【0087】
金属酸化物粒子(B)の形状は、例えば、球状、楕円形状、多角体状、扁平状、針状、繊維状、不定形状などであってもよく、通常、略球状などの粒状である。金属酸化物粒子(B)の形状は、異方形状であってもよいが、機械的特性および成形性などの点から、球状などの等方形状が好ましい。
【0088】
金属酸化物粒子(B)の平均粒径(D50)は100μm以下であってもよく、例えば1nm~50μm、好ましくは2nm~30μm、さらに好ましくは3nm~10μm、より好ましくは5nm~5μmである。特に、この平均粒径(D50)の範囲は、前記チタニア粒子(B1)の平均粒径(D50)であってもよい。金属酸化物粒子(B)の平均粒径が大きすぎると、光硬化物の透明性が低下する虞がある。
【0089】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、金属酸化物粒子(B)の平均粒径は、慣用の方法で測定でき、例えば、レーザー回折式粒度分布計を用いて体積基準で測定された中心粒径(D50)を意味する。
【0090】
金属酸化物粒子(B)は、部分的に凝集していてもよい。
【0091】
前記金属酸化物粒子(B)の割合は、前記ラジカル重合性化合物(A)100質量部に対して1~200質量部程度の範囲から選択でき、好ましくは以下段階的に、3~180質量部、5~170質量部、10~160質量部、30~150質量部、50~140質量部、70~130質量部、80~120質量部であり、最も好ましくは90~110質量部である。前記金属酸化物粒子(B)の割合が少なすぎると、光硬化物の屈折率や不溶化率が低下する虞があり、逆に多すぎると、光硬化物の透明性が低下する虞がある。
【0092】
[(C)チオール化合物]
本発明の光硬化性組成物は、チオール化合物(C)をさらに含んでいてもよい。本発明の光硬化性組成物は、チオール化合物(C)を含むことにより、ラジカル重合性を促進して光硬化物の不溶化率を向上できる。
【0093】
チオール化合物(C)は、前記ラジカル重合性化合物(B)とエン/チオール反応するためのチオール基を有していればよいが、重合性が高い点から、分子内に2以上のチオール基を有するポリチオール化合物が好ましい。1分子内のチオール基数は、2以上であればよく、例えば2~20、好ましくは2~8、さらに好ましくは2~6、より好ましくは2~4である。
【0094】
チオール化合物(C)は、屈折率および耐熱性を向上できる点から、アレーン環を有するチオール化合物が好ましく、アレーン環を有するジチオール化合物(芳香族ジチオール化合物)がさらに好ましく、フルオレン骨格を有するジチオール化合物がより好ましい。好ましいフルオレン骨格を有するジチオール化合物は、前記式(2)で表されるジチオール化合物である。
【0095】
前記式(2)において、環Z2aおよび環Z2bで表されるアレーン環としては、例えば、前記式(1)の環Z1aおよび環Z1bのアレーン環として例示された多環式アレーン環の他、単環式アレーン環などが挙げられる。単環式アレーン環としては、ベンゼン環;トルエン環、キシレン環などのC1-4アルキルベンゼン環などが挙げられる。これらのアレーン環は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。これらのアレーン環のうち、ナフタレン環などのC10-16縮合二環式炭化水素環、ビフェニル環などのC12-16ビアレーン環が好ましく、屈折率および耐熱性を向上できる点から、縮合二環式C10-14アレーン環がさらに好ましく、ナフタレン環が最も好ましい。
【0096】
環Z2aと環Z2bとは、異なっていてもよいが、同一が好ましい。フルオレン環の9位に対する環Z2aおよび環Z2bの結合位置は、特に限定されず、例えば、環Z2aおよび環Z2bがナフタレン環であるとき、1位または2位、好ましくは2位である。
【0097】
A3aおよびA3bで表されるアルキレン基は、好ましい態様も含めて、前記式(1)のA1aおよびA1bとして例示したアルキレン基から選択できる。繰り返し数p1およびp2は、それぞれ0以上であり、例えば0~15の整数の範囲から選択でき、好ましくは以下段階的に、0~10、0~8、0~6、0~4、0~3、0~1であり、最も好ましくは1である。
【0098】
A4aおよびA4bで表されるアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、エチリデン基、トリメチレン基、プロピレン基、イソプロピリデン基、テトラメチレン基、1,2-ブタンジイル基、1,3-ブタンジイル基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基などのC1-10アルキレン基などが挙げられる。アルキレン基A4aとアルキレン基A4bとは、異なっていてもよいが、同一が好ましい。これらのうち、光学特性などの点から、メチレン基、エチリデン基、プロピレン基、イソプロピリデン基などのC1-4アルキレン基が好ましく、プロピレンなどのC2-3アルキレン基が特に好ましい。プロピレン基は、2-メチルエタンジイル基(チオール基が結合した炭素原子にメチル基を有するプロピレン基)であってもよい。
【0099】
置換基R3aおよびR3bは、好ましい態様も含めて、前記式(1)の置換基R1aおよびR1bとして例示した置換基から選択できる。置換基R3aおよびR3bの置換数r1およびr2も、好ましい態様も含めて、前記式(1)の置換数k1およびk2として記載した置換数から選択できる。
【0100】
置換基R4は、好ましい態様も含めて、前記式(1)の置換基R2として例示した置換基から選択できる。置換基R4の置換数qは、その好ましい態様も含めて、前記式(1)の置換数mとして記載した置換数から選択できる。
【0101】
前記式(2)で表されるジチオール化合物としては、例えば、9H-フルオレン-9-イリデンビス(4,1-フェニレンオキシ-2,1-エタンジイル)2-メルカプトアセテート(または9,9-ビス[4-(2-メルカプトアセトキシエトキシ)フェニル]フルオレン)、9H-フルオレン-9-イリデンビス(6,2-ナフチレンオキシ-2,1-エタンジイル)2-メルカプトアセテート、9H-フルオレン-9-イリデンビス(4,1-フェニレンオキシ-2,1-エタンジイル)3-メルカプトプロピオネート(BPEFMP)、9H-フルオレン-9-イリデンビス(6,2-ナフチレンオキシ-2,1-エタンジイル)3-メルカプトプロピオネート(BNEFMP)、9H-フルオレン-9-イリデンビス(6,2-ナフチレンオキシ-2,1-エタンジイル)2-メルカプトプロピオネート、9H-フルオレン-9-イリデンビス(4,1-フェニレンオキシ-2,1-エタンジイル)3-メルカプトブチレート(BPEFMB)、9H-フルオレン-9-イリデンビス(6,2-ナフチレンオキシ-2,1-エタンジイル)3-メルカプトブチレート(BNEFMB)などの9H-フルオレン-9-イリデンビス(アリーレンオキシ-C2-4アルカンジイル)メルカプトC2-6アシレートなどが挙げられる。これらのうち、屈折率を向上でき、かつラジカル重合性化合物(A)との相溶性にも優れる点から、BNEFMBなどの9H-フルオレン-9-イリデンビス(6,2-ナフチレンオキシ-2,1-エタンジイル)メルカプトC3-5アシレートが好ましい。
【0102】
チオール化合物(C)の割合は、前記ラジカル重合性化合物(A)100質量部に対して1~200質量部程度の範囲から選択でき、好ましくは以下段階的に、5~100質量部、10~90質量部、20~80質量部、30~70質量部、40~60質量部であり、最も好ましくは45~55質量部である。これらのチオール化合物(C)の割合は、前記式(2)で表されるジチオール化合物の割合であってもよい。チオール化合物(C)の割合が少なすぎると、光硬化物の不溶化率を向上できる効果が低下する虞があり、逆に多すぎると、光硬化物の屈折率が低下する虞がある。
【0103】
[(D)光重合開始剤]
本発明の光硬化性組成物は、光重合開始剤(D)をさらに含んでいてもよい。光重合開始剤(D)としては、慣用の光ラジカル重合開始剤を利用できる。
【0104】
慣用の光ラジカル重合開始剤は、アセトフェノン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、ベンゾイン系化合物、ベンジル系化合物、アントラキノン系化合物、チオキサントン系化合物、モルフォリン系化合物などのケトン系化合物や、ジブチルスルフィド、ジフェニルジスルフィド、ジベンジルスルフィド、デシルフェニルスルフィド、テトラメチルチウラムモノスルフィドなどのスルフィド系化合物であってもよいが、可視光線で光硬化し易い点から、ホスフィン系化合物が好ましい。本発明では、金属酸化物粒子(B)を含んでいても、可視光で光硬化可能なため、不溶化率を有効に向上できる。
【0105】
ホスフィン系化合物としては、フェニル-ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-ホスフィンオキシド(BAPO)、ジフェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイル-ホスフィンオキシド(MAPO)、フェニル-2,4,6-トリメチルベンゾイル-エトキシ-ホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-メチル-ホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-エチル-ホスフィンオキシド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-n-ブチル-ホスフィンオキシドなどが挙げられる。これらのホスフィン系化合物は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。
【0106】
これらのホスフィン系化合物のうち、アシルホスフィンオキシド系重合開始剤が好ましく、可視光線での光重合性を向上できる点から、MAPOなどのジフェニル-トリC1-3アルキルベンゾイル-ホスフィンオキシドが特に好ましい。
【0107】
光重合開始剤(D)の割合は、前記ラジカル重合性化合物(A)100質量部に対して0.01~10質量部程度の範囲から選択でき、好ましくは以下段階的に、0.05~5質量部、0.1~3質量部、0.3~2質量部であり、特に好ましくは0.5~1.5質量部である。これらの光重合開始剤(D)の割合は、ホスフィン系化合物の割合であってもよい。
【0108】
[(E)溶媒]
本発明の光硬化性組成物は、溶媒(E)をさらに含んでいてもよい。溶媒(E)としては、慣用の溶媒を利用できるが、極性溶媒が汎用される。
【0109】
極性溶媒としては、慣用の極性溶媒を利用でき、ベンジルアルコールなどのアルコール類、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)などのラクタム類、エチレングリコールなどのグリコール類などであってもよいが、金属酸化物粒子(B)を光硬化性組成物中に均一に分散させ易く、塗工性(取り扱い性)に優れる点から、ケトン類が好ましい。
【0110】
ケトン類には、モノケトン、ジケトンが含まれる。モノケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)などの脂肪族モノケトン;シクロヘキサノンなどの脂環族モノケトンなどが挙げられる。ジケトンとしては、1,2-ジケトン(ジアセチル)、1,3-ジケトン(アセチルアセトン)、1,4-ジケトン(2,5-ヘキサジオン)などの脂肪族ジケトン;ジメドンなどの脂環族ジケトンなどが挙げられる。これらのケトン類は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、ジケトンが好ましい。
【0111】
溶媒(E)は、金属酸化物粒子(B)と錯体を形成可能な溶媒であってもよい。
【0112】
溶媒(E)中のケトン類の割合は、10質量%以上であってもよく、好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、最も好ましくは100質量%である。前記ケトン類の割合は、ジケトンの割合であってもよい。
【0113】
溶媒(E)は、金属酸化物粒子(B)と予め混合して液状組成物を調製するのが好ましい。そのため、溶媒(E)の割合は、金属酸化物粒子(B)を基準とした割合であってもよい。溶媒(E)の割合は、金属酸化物粒子(B)100質量部に対して、例えば10~10000質量部、好ましくは100~5000質量部、さらに好ましくは500~3000質量部、より好ましくは1000~1500質量部、最も好ましくは1100~1200質量部である。前記溶媒(E)の割合はジケトンなどのケトン類の割合であってもよい。溶媒(E)の割合が少なすぎると、金属酸化物粒子(B)を光硬化性組成物中に均一に分散させるのが困難となる虞がある。
【0114】
[他のラジカル重合性化合物(F)]
他のラジカル重合性化合物(F)としては、ラジカル重合性化合物(A)以外のフルオレン骨格を有する化合物や、フルオレン骨格を有さない慣用のラジカル重合性化合物などが挙げられる。
【0115】
フルオレン骨格を有するラジカル重合性化合物としては、ラジカル重合性化合物(A)を表す式(1)において、環Z1aおよび環Z1bがベンゼン環などの単環式アレーン環である化合物などが挙げられる。
【0116】
フルオレン骨格を有さない慣用のラジカル重合性化合物は、ラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有していればよいが、重合性の点から、多官能エチレン性不飽和化合物が好ましい。
【0117】
多官能エチレン性不飽和化合物としては、ジアリルフタレート、トリアリルイソシアヌレートなどのアリル基を有する化合物も使用できるが、複数の(メタ)アクリロイル基を有する多官能(メタ)アクリレート類を使用する場合が多い。多官能(メタ)アクリレート類は、ジ(メタ)アクリレート類と、3以上の(メタ)アクリロイル基を有するポリ(メタ)アクリレート類とに分類できる。
【0118】
ジ(メタ)アクリレート類としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3-プロパンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレートなどのC2-10アルカンジオールジ(メタ)アクリレート類;ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレートなどのポリアルキレングリコールジ(メタ)アクリレート類;トリシクロデカンジメタノールジ(メタ)アクリレートなどの橋架け環式(メタ)アクリレート類などが挙げられる。
【0119】
3以上の(メタ)アクリロイル基を有するポリ(メタ)アクリレート類としては、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどのアルカンポリオールポリ(メタ)アクリレート類;トリメチロールプロパンなどのアルカンポリオールのC2-4アルキレンオキサイド付加体のトリ(メタ)アクリレート類;トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレートトリ(メタ)アクリレートなどのトリアジン環を有するトリ(メタ)アクリレート類などが挙げられる。
【0120】
多官能エチレン性不飽和化合物は、ビスアリール骨格を有する化合物であってもよい。このような化合物としては、ビスフェノール類(ビスフェノールA、F、Sなどのビスフェノール類)またはそのC2-4アルキレンオキサイド付加体のジ(メタ)アクリレート類、例えば、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロイルオキシジエトキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(4-(メタ)アクリロキシポリエトキシフェニル)プロパンなどが挙げられる。
【0121】
これらのうち、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレートなどのなどの3以上の(メタ)アクリロイル基を有するポリ(メタ)アクリレート類が汎用される。
【0122】
他のラジカル重合性化合物(F)の割合は、ラジカル重合性化合物(A)100質量部に対して100質量部以下であってもよく、好ましくは以下段階的に、50質量部以下、30質量部以下、20質量部以下、10質量部以下、5質量部以下であり、より好ましくは1質量部以下である。本発明の光硬化性組成物は、他のラジカル重合性化合物(F)を含まないのが最も好ましい。また、他のラジカル重合性化合物(F)の割合が多すぎると、光硬化物の機械的特性および屈折率が低下する虞がある。
【0123】
[(G)他の添加剤]
本発明の硬化性組成物は、他の添加剤をさらに含んでいてもよい。他の添加剤としては、慣用の添加剤、例えば、光重合開始剤と共に使用される光増感剤、着色剤(染顔料)、増粘剤、安定剤、消泡剤、レベリング剤、分散剤、難燃剤、帯電防止剤、充填剤、滑剤などが挙げられる。
【0124】
光増感剤としては、ジアルキルアミノ安息香酸またはそのエステル、アクリジンなど第三級アミン類;3-(2-ベンゾチアゾリル)-7-(ジエチルアミノ)クマリンなどのクマリン類;2-(2-(4-ジメチルアミノフェニル)エテニル)キノリンなどのキノリン類;ベンゾキノン、アントラキノンなどキノン類;1-ニトロピレンなどピレン類;アセナフテンなどの芳香族炭化水素類などが挙げられる。
【0125】
安定剤としては、老化防止剤、酸化防止剤、オゾン劣化防止剤などが挙げられる。
【0126】
これらの添加剤は、単独でまたは2種以上組み合わせて使用できる。
【0127】
これら他の添加剤の割合は、添加剤の種類に応じて適宜選択できるが、ラジカル重合性化合物(A)100質量部に対して100質量部以下であってもよく、好ましくは以下段階的に、0.1~50質量部、0.3~30質量部、0.5~20質量部である。
【0128】
[光硬化性組成物の調製方法]
本発明の光硬化性組成物は、前記ラジカル重合性化合物(A)および金属酸化物粒子(B)ならびに必要に応じて他の添加剤を配合し、溶解、分散および混合などで均一に混合することによって調製できる。特に、塗布に適した塗布液粘度が得られるように適量の溶媒(E)を使用してもよい。溶媒(E)は、金属酸化物粒子(B)と予め混合して液状組成物を調製した後、他の成分と混合して光硬化性組成物を調製してもよい。
【0129】
金属酸化物粒子(B)がアシル基を有するチタニア粒子(B1)である場合、このチタニア粒子(B1)は、例えば、特開2017-178759号公報、特開2019-172893号公報に記載の方法で製造できる。これらの製造方法で記載された前記チタニア粒子(B1)は、液状組成物の形態で得られるため、得られた液状組成物を溶媒(E)で溶媒置換して、前記チタニア粒子(B1)と溶媒(E)とからなる液状組成物を調製してもよい。
【0130】
[光硬化物の製造方法]
本発明では、前記光硬化性組成物に可視光線を照射して光硬化物を形成する光硬化工程を含む製造方法により光硬化物を製造してもよい。前記光硬化物としては、特に限定されないが、例えば、三次元的硬化物、硬化膜や硬化パターンなどの一次元または二次元的硬化物、点またはドット状硬化物などが挙げられる。
【0131】
光硬化工程では、光硬化物(光硬化膜、光硬化パターンなど)は、前記光硬化性組成物を基材上に塗布し、塗膜を形成した後、可視光線を照射(露光)することにより形成してもよい。さらに、高度の三次元架橋を起こしてネットワーク化を促進し、光硬化物の架橋強度や不溶化率を向上できる点から、加熱しながら、前記光硬化性組成物に可視光線を照射するのが好ましい。
【0132】
光硬化性組成物は、例えば、基材上での塗膜(薄膜)の製造などに使用してもよい。また、光硬化性組成物を基材に塗布し、塗膜を製造する場合は、光硬化性組成物を前記溶媒(E)に溶解または分散させて基材に塗布してもよい。溶媒(E)は、予め金属酸化物粒子(B)と混合して液状組成物を調製した後、他の成分と混合するのが好ましい。
【0133】
塗布方法としては、フローコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、スクリーン印刷法、キャスト法、バーコーティング法、カーテンコーティング法、ロールコーティング法、グラビアコーティング法、ディッピング法、スリット法などが挙げられる。
【0134】
塗膜の厚みは、光硬化物の用途に応じて、0.01μm~10mm程度の範囲から選択できる。フォトレジストの場合、塗膜の厚みは0.05~10μm程度の範囲から選択でき、例えば0.1~5μmである。プリント配線基板の場合、塗膜の厚みは10μm~5mm程度の範囲から選択でき、例えば100μm~1mmである。光学薄膜の場合、塗膜の厚みは0.1~100μm程度の範囲から選択でき、例えば0.3~50μmである。
【0135】
光硬化性組成物が溶媒(E)を含む場合、溶媒(E)を除去するために乾燥してもよい。乾燥は自然乾燥であってもよいが、生産性の点から、加熱して乾燥するのが好ましい。乾燥のための加熱温度は、例えば40~80℃、好ましくは50~70℃である。
【0136】
可視光線の波長は、380~780nmの範囲から選択でき、好ましくは以下段階的に、380~600nm、385~500nm、390~450nm、400~410nmであり、高圧水銀ランプやLEDレーザで出射できるh線(405nm)が最も好ましい。
【0137】
可視光線の照射光量(露光量)は、塗膜の厚みなどに応じて、光硬化性組成物の光硬化が可能な範囲から選択でき、例えば10mJ/cm2以上(例えば100~100,000mJ/cm2)であってもよく、好ましくは以下段階的に、1,000~90,000mJ/cm2、5,000~80,000mJ/cm2、10,000~70,000mJ/cm2、30,000~60,000mJ/cm2であり、最も好ましくは40,000~50,000mJ/cm2である。露光量が少なすぎると、光硬化性が低下する虞がある。
【0138】
可視光線の光源としては、例えば、高圧水銀ランプ、重水素ランプ、ハロゲンランプ、メタルハライドランプ、キセノンランプ、レーザ光(LEDレーザなど)などが挙げられる。
【0139】
可視光線の照射時間は、照射光量や加熱温度などに応じて適宜選択できるが、例えば1~120分、好ましくは3~60分、さらに好ましくは5~30分、より好ましくは8~25分、最も好ましくは10~20分である。
【0140】
可視光線の照射と共に加熱する場合、加熱温度は、例えば50~150℃程度の範囲から選択でき、好ましくは以下段階的に、55~130℃、60~120℃、65~110℃、70~100℃、70~90℃であり、最も好ましくは75~85℃である。本発明では、特に、金属酸化物粒子(B)としてアシル基を有するチタニア粒子(B1)を用いた場合、光硬化で加熱を併用することにより、光照射で光重合系を硬化できるとともに、チタニア粒子(B1)を脱水縮合して光硬化物の屈折率および耐熱性を向上できる。本発明では、可視光線で照射しているにも拘わらず、高温での加熱が必須ではなく、低温(例えば120℃以下)の加熱で強固な光硬化物を形成できるとともに、光硬化物の変形や劣化も抑制できる。
【0141】
光硬化性組成物は、パターンや画像の形成(プリント配線板の製造など)に使用してもよい。プリント配線板を製造する場合は、基材上に光硬化性組成物を塗布して塗膜を形成し、形成した塗膜を光照射(パターン露光)してもよい。パターン露光は、レーザ光の走査により行ってもよく、フォトマスクを介して光照射することにより行ってもよい。パターン露光により生成した非照射領域(未露光部)を、現像剤で現像(または溶解)して除去することによりパターンまたは画像を形成してもよい。現像剤としては、水、アルカリ水溶液、親水性溶媒や、これらの混合液などが挙げられる。前記親水性溶媒としては、メタノール、エタノール、イソプロパノールなどのアルコール類、アセトン、シクロヘキサノンなどのケトン類、ジオキサン、テトラヒドロフランなどのエーテル類、セロソルブ類、セロソルブアセテート類などが挙げられる。
【0142】
特に、加熱しながら可視光線を照射した場合、加熱により、塗膜の照射領域(露光部)で、高度に架橋できるため、可視光線であっても、基材上に、精細で高精度のパターンを形成できる。従って、本発明の光硬化性組成物は、精密なパターンを必要とする用途、例えば、電子機器のプリント配線基板などの製造に使用してもよい。
【0143】
光学薄膜を形成する場合には、基材上に、光硬化性組成物の層を複数形成してもよい。また、基材上に他の機能層などを形成した後、その機能層の上に、光硬化性組成物の層を形成してもよい。本発明の光硬化性組成物は、可視光の透過性に優れ、高い屈折率を有し、光学的特性にも優れるため、特に、液晶ディスプレイなどの反射防止膜の高屈折率層、反射板などの光学薄膜に使用してもよい。
【0144】
基材の材質は、用途に応じて選択され、例えば、プリント配線基板や光学薄膜の場合には、シリコン、ガリウム砒素、窒化ガリウム、炭化シリコンなどの半導体;アルミニウム、銅などの金属;酸化ジルコニウム、酸化チタン、PZTなどセラミックス;ガラス、石英、フッ化マグネシウム、フッ化カルシウムなどの透明無機材料;ポリメチルメタクリレート、ポリメチルアクリレート、ポリスチレンなどの透明樹脂などであってもよい。
【0145】
本発明の製造方法は、前記光硬化工程に加えて、前記光硬化物を150℃以上の温度で加熱する加熱工程をさらに含んでいてもよい。前述の通り、本発明の方法では、前記光硬化工程において、可視光線を利用することによって高温に加熱することなく、不溶化率の高い光硬化膜を製造できるが、前記加熱工程と組み合わせることにより、屈折率および耐熱性をより向上できる。
【0146】
前記加熱工程において、加熱温度は、150℃以上であればよく、例えば150~250℃、好ましくは160~240℃、さらに好ましくは170~230℃、より好ましくは180~220℃であり、最も好ましくは190~210℃である。
【0147】
加熱時間は、例えば0.1~10分、好ましくは0.2~5分、さらに好ましくは0.3~3分、より好ましくは0.5~2分、最も好ましくは0.8~1.5分である。
【0148】
[光硬化物の特性]
得られた光硬化物は、架橋強度に優れており、テトラヒドロフラン(THF)による不溶化率は5%以上であってもよく、好ましくは以下段階的に、10%以上、20%以上、40%以上、50%以上、60%以上、70%以上、80%以上であり、最も好ましくは90%以上である。また、光硬化物の不溶化率は、例えば10~99.9%であってもよく、好ましくは以下段階的に、10~99.9%、20~99.8%、40~99.7%、50~99.6%、60~99.5%、70~99.3%、80~99.2%、90~99.1%であり、最も好ましくは95~99%である。
【0149】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、光硬化物の不溶化率は、THF中に1分間浸漬した後の浸漬前後の膜厚比から算出でき、詳細には、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0150】
光硬化物の屈折率は、高屈折率であり、25℃、486nmにおいて、1.65以上、特に1.67以上であってもよく、好ましくは以下段階的に、1.65~1.75、1.66~1.745、1.68~1.74、1.70~1.735であり、最も好ましくは1.72~1.73である。
【0151】
また、光硬化物の屈折率は、25℃、589nmにおいて、1.63以上、特に1.66以上であってもよく、好ましくは以下段階的に、1.63~1.73、1.65~1.725、1.67~1.72、1.68~1.71であり、最も好ましくは1.69~1.70である。
【0152】
さらに、光硬化物の屈折率は、25℃、656nmにおいて、1.62以上、特に1.64以上であってもよく、好ましくは以下段階的に、1.62~1.73、1.63~1.725、1.64~1.72、1.65~1.71、1.66~1.70、最も好ましくは1.67~1.69である。
【0153】
光硬化物のアッベ数は、10~50程度の範囲から選択でき、好ましい範囲としては、以下段階的に、10~30、11~25、12~20、13~17であり、最も好ましくは14~16である。
【0154】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、光硬化物の屈折率およびアッベ数は、アッベ数屈折率計を用いて測定でき、詳細には、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【0155】
光硬化物は、耐熱性にも優れており、5%重量減少温度は、150~450℃程度であってもよく、好ましくは以下段階的に、170~400℃、180~370℃、200~350℃、220~330℃、230~300℃、250~280℃であり、最も好ましくは260~270℃である。
【0156】
なお、本明細書および特許請求の範囲において、光硬化物の5%重量減少温度は、熱重量測定-示差熱分析装置を用いて測定でき、詳細には、後述する実施例に記載の方法で測定できる。
【実施例0157】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。なお、実施例で使用した材料の詳細、実施例での各評価方法は、以下の通りである。
【0158】
[材料]
BNFGA:下記式で表される9,9-ビス[6-(3-アクリロイルオキシ-2-ヒドロキシプロポキシ)-2-ナフチル]フルオレン、特開2001-354735号公報の実施例1に準拠して合成
【0159】
【0160】
BNEFMB:9H-フルオレン-9-イリデンビス(6,2-ナフチレンオキシ-2,1-エタンジイル)3-メルカプトブチレート(または9,9-ビス[6-(2-(3-メルカプトブチロイルオキシ)エトキシ)-2-ナフチル]フルオレン)、特開2006-151959号公報の合成例1に準拠して合成
【0161】
【0162】
チタニア粒子溶液(TiO2):特開2019-172893号公報の実施例1記載の方法に準拠して合成したもの
光重合開始剤(MAPO):フェニル-ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-ホスフィンオキシド、アルドリッチ社製
アセチルアセトン:ナカライテスク(株)製。
【0163】
[膜厚]
実施例および参考例で得られた光硬化物の厚みは、非接触型膜厚測定装置(ナノメトリックス・ジャパン(株)製「Nanospec/AFT M-3000」)用いて測定した。
【0164】
[不溶化率]
実施例および参考例で得られた光硬化物の厚みを測定した後、光硬化物をTHF(テトラヒドロフラン)中に1分間浸漬した後、THF中から取り出し、乾燥して浸漬後の厚みを測定し、浸漬前後の厚み比(浸漬後の厚み/浸漬前の厚み)を不溶化率として算出した。
【0165】
[5%重量減少温度(Td5)]
熱重量測定-示差熱分析装置(TG-DTA)((株)島津製作所製「DTG60」)を使用して、窒素雰囲気下、30℃から昇温速度10℃/分の条件下で昇温し、試料の重量が5重量%減少した温度を測定した。
【0166】
[光学特性(屈折率およびアッベ数)]
分光エリプソメーター(ジェー・エー・ウーラム・ジャパン(株)製「M-2000UI」)を用い、温度25℃の条件で、波長486nm(F線)、589nm(D線)および656nm(C線)における実施例および参考例で得られた硬化物の各屈折率nF、nDおよびnCを測定し、下記式によりアッベ数を算出した。
【0167】
アッベ数=(nD-1)/(nF-nC)。
【0168】
実施例1
チタニア粒子溶液(TiO2換算濃度10質量%)3.0mLを透析膜に入れ、アセチルアセトン20mL中に1日浸漬することにより溶媒置換し、溶媒置換チタニア粒子溶液(TiO2換算濃度8質量%)を調製した。サンプル管に、BNFGAを67質量部、溶媒置換チタニア粒子溶液を固形分換算で33質量部、光重合開始剤としてMAPOを1質量部混合し、撹拌して均一に混合し、混合液(光硬化性組成物)を調製した。この混合液をシリコン基板上で2000rpmにて20秒スピンコートした後に、ホットプレートにて80℃で15分間プリベークして溶媒を除去して、膜厚1.0μm程度の薄膜を得た。この薄膜に、LEDレーザ(ポールセミコンダクター(株)製「BP300」、48mW/cm2)を用いて405nmの可視光を所定量照射しながら80℃で15分間硬化し(照射光量:43,200mJ/cm2)、透明性が高い硬化膜を得た。
【0169】
実施例2~5および参考例1~2
光硬化工程の製造条件を表1に示す条件に変更する以外は実施例1と同様にして硬化膜を得た。
【0170】
実施例6
チタニア粒子溶液(TiO2換算濃度10質量%)3.0mLを透析膜に入れ、アセチルアセトン20mL中に1日浸漬することにより溶媒置換し、溶媒置換チタニア粒子溶液を調製した。サンプル管に、BNFGAを44質量部、BNEFMBを22質量部、溶媒置換チタニア粒子溶液を固形分換算で33質量部、光重合開始剤としてMAPOを1質量部混合し、撹拌して均一に混合し、混合液(光硬化性組成物)を調製した。この混合液をシリコン基板上で2000rpmにて20秒スピンコートした後に、ホットプレートにて80℃で15分間プリベークして溶媒を除去して、膜厚1.0μm程度の薄膜を得た。この薄膜に、LEDレーザ(ポールセミコンダクター(株)製「BP300」、48mW/cm2)を用いて405nmの可視光を所定量照射しながら100℃で5分間硬化し(照射光量:14,400mJ/cm2)、透明性が高い硬化膜を得た。
【0171】
実施例7~10および参考例3~5
光硬化工程および加熱工程の製造条件を表1に示す条件に変更する以外は実施例6と同様にして透明性が高い硬化膜を得た。
【0172】
実施例11
チタニア粒子溶液(TiO2換算濃度10質量%)3.0mLを透析膜に入れ、アセチルアセトン20mL中に1日浸漬することにより溶媒置換し、溶媒置換チタニア粒子溶液を調製した。サンプル管に、BNFGAを50質量部、溶媒置換チタニア粒子溶液を固形分換算で50質量部、光重合開始剤としてMAPOを1質量部混合し、撹拌して均一に混合し、混合液(光硬化性組成物)を調製した。この混合液をシリコン基板上で2000rpmにて20秒スピンコートした後に、ホットプレートにて60℃で15分間プリベークして溶媒を除去して、膜厚1.0μm程度の薄膜を得た。この薄膜に、LEDレーザ(ポールセミコンダクター(株)製「BP300」、48mW/cm2)を用いて405nmの可視光を所定量照射しながら60℃で15分間硬化し(照射光量:43,200mJ/cm2)、透明性が高い硬化膜を得た。
【0173】
実施例12~16および参考例6~8
光硬化工程および加熱工程の製造条件を表1に示す条件に変更する以外は実施例11と同様にして透明性が高い硬化膜を得た。
【0174】
実施例および参考例で得られた硬化膜の不溶化率に関する評価結果を表1に示す。さらに、実施例8~9および13~14で得られた硬化膜の耐熱性および光学特性に関する評価結果について表2に示す。
【0175】
【0176】
表1の結果から明らかなように、光硬化工程で可視光線を照射して加熱する実施例では、光硬化膜の不溶化率が高いのに対して、可視光線を照射しない参考例の熱硬化膜では、不溶化率は低かった。
【0177】
【0178】
表2の結果から明らかなように、実施例8~9および13~14で得られた光硬化膜では、耐熱性および屈折率が高く、アッベ数も適度な大きさであった。特に、実施例9および14では、光硬化工程の後に加熱工程を経ることにより、屈折率をさらに向上できた。
本発明の光硬化性組成物およびその光硬化物は、塗料、電線被覆材、電子機器の封止材および絶縁材、プリント配線基板、保護膜、フォトレジスト、印刷製版材、インキ、接着剤、粘着材、光学薄膜(液晶ディスプレイなどの反射防止膜の高屈折率層、反射板など)などの用途に好適に利用できる。