(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172118
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】逆波長分散性光学フィルムとその製造方法
(51)【国際特許分類】
G02B 5/30 20060101AFI20241205BHJP
H10K 50/10 20230101ALI20241205BHJP
H10K 50/86 20230101ALI20241205BHJP
H10K 85/10 20230101ALI20241205BHJP
B29C 65/02 20060101ALI20241205BHJP
C08F 8/32 20060101ALI20241205BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20241205BHJP
B32B 27/36 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
G02B5/30
H10K50/10
H10K50/86
H10K85/10
B29C65/02
C08F8/32
B32B27/30 A
B32B27/36 102
【審査請求】未請求
【請求項の数】14
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089643
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】谷口 仁聡
(72)【発明者】
【氏名】野本 祐作
【テーマコード(参考)】
2H149
3K107
4F100
4F211
4J100
【Fターム(参考)】
2H149AA02
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4J100JA32
(57)【要約】
【課題】広い波長域でRe値の絶対値を高精度に所望範囲内にできる逆波長分散性光学フィルムを提供する。
【解決手段】本開示の逆波長分散性光学フィルム(1)は、メタクリル酸メチル単位20~90質量%とα-メチルスチレン単位40~10質量%とを有するメタクリル系樹脂(M-α)を含み、配向複屈折値が負である第1の樹脂層(11)と、主鎖に、酸無水物単位、環構造を含むイミド単位、及びラクトン環単位からなる群より選ばれる1種以上の環構造単位(R)40~75質量%を有するメタクリル系樹脂(M-RS)、又は、ポリカーボネート系樹脂(PC)を含み、配向複屈折値が正である第2の樹脂層(12)とを有し、Re(450)/Re(550)が0.70~0.95であり、Re(650)/Re(550)が1.05~1.60である。Re(λ)は、波長λにおける面内のリターデーション値である。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
メタクリル酸メチル単位20~90質量%とα-メチルスチレン単位40~10質量%とを有するメタクリル系樹脂(M-α)を含み、配向複屈折値が負である第1の樹脂層と、
主鎖に、酸無水物単位、環構造を含むイミド単位、及びラクトン環単位からなる群より選ばれる1種以上の環構造単位(R)40~75質量%を有するメタクリル系樹脂(M-RS)、又は、ポリカーボネート系樹脂(PC)を含み、配向複屈折値が正である第2の樹脂層とを有し、
下記式(1)及び(2)を充足する、逆波長分散性光学フィルム。
0.70≦(Re(450)/Re(550))≦0.95・・・(1)
1.05≦(Re(650)/Re(550))≦1.60・・・(2)
(上記式中、Re(450)、Re(550)、及びRe(650)はそれぞれ、波長450nm、波長550nm、及び波長650nmにおける面内のリターデーション値を示す。)
【請求項2】
Re(550)が70~155nmである、請求項1に記載の逆波長分散性光学フィルム。
【請求項3】
前記第2の樹脂層が、メタクリル系樹脂(M-RS)を含む、請求項1に記載の逆波長分散性光学フィルム。
【請求項4】
メタクリル系樹脂(M-RS)が、メタクリル酸メチル単位60~25質量%を含む、請求項3に記載の逆波長分散性光学フィルム。
【請求項5】
前記第2の樹脂層が、メタクリル系樹脂(M-RS)として、メタクリル酸メチル単位60~25質量%と無置換又はN-置換グルタルイミド単位40~75質量%とを有するグルタルイミド樹脂(M-G)を含む、請求項3に記載の逆波長分散性光学フィルム。
【請求項6】
総厚みが50~300μmであり、前記第2の樹脂層の厚み(T2)に対する前記第1の樹脂層の厚み(T1)の比(T1/T2)が0.5~4.0である、請求項1に記載の逆波長分散性光学フィルム。
【請求項7】
メタクリル系樹脂(M-α)は、幅20mm、長さ40mmのフィルム状の試験片を、ガラス転移温度より10℃高い温度で3mm/分の速度で100%の延伸率で一軸延伸し、波長550nmにおける前記試験片の中央部分の面内のリターデーション値を測定して求められる配向複屈折値が-100.0×10-4~-1.0-4である、請求項1に記載の逆波長分散性光学フィルム。
【請求項8】
メタクリル系樹脂(M-RS)及びポリカーボネート系樹脂(PC)は、幅20mm、長さ40mmのフィルム状の試験片を、ガラス転移温度より10℃高い温度で3mm/分の速度で100%の延伸率で一軸延伸し、波長550nmにおける前記試験片の中央部分の面内のリターデーション値を測定して求められる配向複屈折値が1.0×10-4~200.0×10-4である、請求項1に記載の逆波長分散性光学フィルム。
【請求項9】
メタクリル系樹脂(M-RS)のガラス転移温度(Tg)が140℃以上である、請求項1に記載の逆波長分散性光学フィルム。
【請求項10】
前記第1の樹脂層がメタクリル系樹脂(M-α)を含む第1の一軸延伸フィルムからなり、
前記第2の樹脂層がメタクリル系樹脂(M-RS)又はポリカーボネート系樹脂(PC)を含む第2の一軸延伸フィルムからなる、請求項1に記載の逆波長分散性光学フィルム。
【請求項11】
前記第1の樹脂層の一軸延伸方向と前記第2の樹脂層の一軸延伸方向とが互いに略垂直又は略平行である、請求項10に記載の逆波長分散性光学フィルム。
【請求項12】
共押出成形フィルムである、請求項1に記載の逆波長分散性光学フィルム。
【請求項13】
位相差フィルム、偏光子補償フィルム、又は偏光子保護フィルム用である、請求項1に記載の逆波長分散性光学フィルム。
【請求項14】
メタクリル系樹脂(M-α)を含む前記第1の一軸延伸フィルムを用意する工程と、
メタクリル系樹脂(M-RS)又はポリカーボネート系樹脂(PC)を含む前記第2の一軸延伸フィルムを用意する工程と、
前記第1の一軸延伸フィルムと前記第2の一軸延伸フィルムとを重ね、圧着する工程とを有する、請求項10に記載の逆波長分散性光学フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、逆波長分散性光学フィルムとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、液晶ディスプレイ及び有機エレクトロルミネセンス(EL)ディスプレイ等の画像表示装置の高機能化に伴い、画像表示装置を構成する光学フィルムに対しても、より高度な機能が要求されるようになっている。
位相差フィルムとして、直線偏光を(楕)円偏光に変換し、(楕)円偏光を直線偏光に変換する1/4波長板(λ/4板とも言う。)が挙げられる。λ/4板を偏光子と組み合わせて使用することで、画像表示装置において、外光反射を防ぎ、明所コントラスト及び黒色再現性を向上させることができる。
本明細書において、特に明記しない限り、符合λは波長[nm]を示す。
【0003】
従来、位相差フィルムとしては、セルロースアセテート及び/又はセルロースアセテートプロピオネートを含むセルロース系樹脂フィルム(特許文献1等)、及び、ポリカーボネート系樹脂フィルム(特許文献2等)が知られている。これら樹脂フィルムは、1枚のフィルムで、面内のリターデーション値(Re値)の絶対値を所望値(例えば、λ/4又はそれに近い値)にでき、λ/4板等の位相差フィルムを実現できる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003-315538号公報
【特許文献2】特開2019-104872号公報
【特許文献3】国際公開第2021/235393号
【特許文献4】特開2013-033237号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、セルロース系樹脂フィルムは、耐湿(熱)性が充分でなく、(高温)高湿下において、Re値が変動し、これを用いた画像表示装置に色むらが生じる場合がある。一般的に、ポリカーボネート系樹脂フィルムは、入射光の波長が短くなる程、Re値の絶対値が大きくなる順波長分散性を有し、λ/4板等の位相差フィルムとして使用できる波長域が限定的である。
【0006】
位相差フィルムは、可視光域内において、入射光の波長が長くなる程、Re値の絶対値が大きくなる逆波長分散性を有することが好ましい。逆波長分散性位相差フィルムは、可視光域内の広い波長域において、Re値の絶対値が所望値(例えば、λ/4又はそれに近い値)となり、好適である。
逆波長分散性を有する光学フィルムは、位相差フィルム以外にも、偏光子の視野角による色シフトを低減する偏光子補償フィルム(視野角補償フィルムとも言う。)及びリターデーション付きの偏光子保護フィルム等としての使用が期待されている。
【0007】
(メタ)アクリル系樹脂は、透明性に優れ、光学歪が少ないことから、光学材料として好適である。位相差フィルム及び偏光子保護フィルム等の光学フィルム用として好適な、耐熱性及び機械的強度が向上された(メタ)アクリル系樹脂として、主鎖に環構造単位を有するメタクリル系樹脂が挙げられる。
特許文献3には、メタクリル酸メチル(MMA)単位40~87質量%と、ラクトン環単位、無水グルタル酸単位、及び無置換又はN-置換グルタルイミド単位からなる群より選ばれる環構造単位(R)6~30質量%と、α-メチルスチレン(αMSt)単位7~30質量%とを有するメタクリル系樹脂を含む逆波長分散性位相差フィルムが開示されている(請求項1、4)。特許文献4には、メタクリル酸メチル(MMA)単位とマレイミド単位とを有するメタクリル系樹脂を含む光学等方性偏光子保護フィルムが開示されている(要約書等)。
【0008】
本発明者らは鋭意研究を行い、特許文献3、4に開示のメタクリル系樹脂フィルムよりも、Re値の絶対値を高精度に所望範囲内(例えば、λ/4又はそれに近い範囲内)にできる逆波長分散性光学フィルムを発明した。
本開示は上記事情に鑑みてなされたものであり、可視光域内の広い波長域で、面内のリターデーション値(Re値)の絶対値を高精度に所望範囲内(例えば、1/4波長又はそれに近い範囲内)にできる逆波長分散性光学フィルムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、以下の逆波長分散性光学フィルムとその製造方法を提供する。
[1] メタクリル酸メチル単位20~90質量%とα-メチルスチレン単位40~10質量%とを有するメタクリル系樹脂(M-α)を含み、配向複屈折値が負である第1の樹脂層と、
主鎖に、酸無水物単位、環構造を含むイミド単位、及びラクトン環単位からなる群より選ばれる1種以上の環構造単位(R)40~75質量%を有するメタクリル系樹脂(M-RS)、又は、ポリカーボネート系樹脂(PC)を含み、配向複屈折値が正である第2の樹脂層とを有し、
下記式(1)及び(2)を充足する、逆波長分散性光学フィルム。
0.70≦(Re(450)/Re(550))≦0.95・・・(1)
1.05≦(Re(650)/Re(550))≦1.60・・・(2)
(上記式中、Re(450)、Re(550)、及びRe(650)はそれぞれ、波長450nm、波長550nm、及び波長650nmにおける面内のリターデーション値を示す。)
【0010】
[2] Re(550)が70~155nmである、[1]の逆波長分散性光学フィルム。
[3] 前記第2の樹脂層が、メタクリル系樹脂(M-RS)を含む、[1]又は[2]の逆波長分散性光学フィルム。
[4] メタクリル系樹脂(M-RS)が、メタクリル酸メチル単位60~25質量%を含む、[3]の逆波長分散性光学フィルム。
[5] 前記第2の樹脂層が、メタクリル系樹脂(M-RS)として、メタクリル酸メチル単位60~25質量%と無置換又はN-置換グルタルイミド単位40~75質量%とを有するグルタルイミド樹脂(M-G)を含む、[3]又は[4]の逆波長分散性光学フィルム。
[6] 総厚みが50~300μmであり、前記第2の樹脂層の厚み(T2)に対する前記第1の樹脂層の厚み(T1)の比(T1/T2)が0.5~4.0である、[1]~[5]のいずれかの逆波長分散性光学フィルム。
【0011】
[7] メタクリル系樹脂(M-α)は、幅20mm、長さ40mmのフィルム状の試験片を、ガラス転移温度より10℃高い温度で3mm/分の速度で100%の延伸率で一軸延伸し、波長550nmにおける前記試験片の中央部分の面内のリターデーション値を測定して求められる配向複屈折値が-100.0×10-4~-1.0-4である、[1]~[6]のいずれかの逆波長分散性光学フィルム。
【0012】
[8]メタクリル系樹脂(M-RS)及びポリカーボネート系樹脂(PC)は、幅20mm、長さ40mmのフィルム状の試験片を、ガラス転移温度より10℃高い温度で3mm/分の速度で100%の延伸率で一軸延伸し、波長550nmにおける前記試験片の中央部分の面内のリターデーション値を測定して求められる配向複屈折値が1.0×10-4~200.0×10-4である、[1]~[7]のいずれかの逆波長分散性光学フィルム。
【0013】
[9] メタクリル系樹脂(M-RS)のガラス転移温度(Tg)が140℃以上である、[1]~[8]のいずれかの逆波長分散性光学フィルム。
[10] 前記第1の樹脂層がメタクリル系樹脂(M-α)を含む第1の一軸延伸フィルムからなり、
前記第2の樹脂層がメタクリル系樹脂(M-RS)又はポリカーボネート系樹脂(PC)を含む第2の一軸延伸フィルムからなる、[1]~[9]のいずれかの逆波長分散性光学フィルム。
[11] 前記第1の樹脂層の一軸延伸方向と前記第2の樹脂層の一軸延伸方向とが互いに略垂直又は略平行である、[10]の逆波長分散性光学フィルム。
[12] 共押出成形フィルムである、[1]~[9]のいずれかの逆波長分散性光学フィルム。
[13] 位相差フィルム、偏光子補償フィルム、又は偏光子保護フィルム用である、[1]~[12]のいずれかの逆波長分散性光学フィルム。
【0014】
[14] メタクリル系樹脂(M-α)を含む前記第1の一軸延伸フィルムを用意する工程と、
メタクリル系樹脂(M-RS)又はポリカーボネート系樹脂(PC)を含む前記第2の一軸延伸フィルムを用意する工程と、
前記第1の一軸延伸フィルムと前記第2の一軸延伸フィルムとを重ね、圧着する工程とを有する、[10]の逆波長分散性光学フィルムの製造方法。
【発明の効果】
【0015】
本開示によれば、可視光域内の広い波長域で、面内のリターデーション値(Re値)の絶対値を高精度に所望範囲内(例えば、1/4波長又はそれに近い範囲内)にできる逆波長分散性光学フィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明に係る一実施形態の逆波長分散性光学フィルムの模式断面図である。
【
図2】いくつかの代表的な樹脂の波長分散曲線の例である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
一般的に、薄膜成形体に対しては、厚みに応じて、「フィルム」、「シート」、又は「板」の用語が使用されるが、明確な定義はなく、これらの間に明確な区別はない。本明細書で言う「フィルム」には、「シート」及び「板」が含まれることができる。
本明細書において、特に明記しない限り、重合体に含まれる「単位」は、重合体に含まれる繰返し単位であり、原料単量体に由来する単量体単位又は1種以上の単量体単位から誘導された誘導単位である。
本明細書において、(メタ)アクリルは、アクリル及びメタクリルの総称であり、(メタ)アクリロニトリル等についても、同様である。
本明細書において、特に明記しない限り、「重量平均分子量(Mw)」はゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)法により求められる標準ポリメタクリル酸メチル(PMMA)換算の重量平均分子量である。
【0018】
本明細書において、特に明記しない限り、可視光は380~780nmの波長域の光である。
本明細書において、特に明記しない限り、「リターデーション」は面内のリターデーションであり、Reと略記する場合がある。
本明細書において、特に明記しない限り、「Re(λ)」は、波長λ[nm]における面内のリターデーション値である。
本明細書において、特に明記しない限り、「配向複屈折値」は、波長550nmにおける配向複屈折値である。
【0019】
[逆波長分散性光学フィルム]
本開示は、逆波長分散性光学フィルムに関する。「逆波長分散性」とは、可視光域内において、入射光の波長が長くなる程、面内リターデーション値(Re値)の絶対値が大きくなる性質である。以下、本開示の逆波長分散性光学フィルムは、単に、光学フィルム、積層フィルム、又はフィルムとも言う。
【0020】
本開示の逆波長分散性光学フィルムは、
メタクリル酸メチル(MMA)単位20~90質量%とα-メチルスチレン(αMSt)単位40~10質量%とを有するメタクリル系樹脂(M-α)を含み、配向複屈折値が負である第1の樹脂層と、
主鎖に、酸無水物単位、環構造を含むイミド単位、及びラクトン環単位からなる群より選ばれる1種以上の環構造単位(R)40~75質量%を有するメタクリル系樹脂(M-RS)、又は、ポリカーボネート系樹脂(PC)を含み、配向複屈折値が正である第2の樹脂層とを有する。
【0021】
図1は、本発明に係る一実施形態の逆波長分散性光学フィルムの模式断面図である。
本実施形態の逆波長分散性光学フィルム1は、メタクリル系樹脂(M-α)を含み、配向複屈折値が負である第1の樹脂層11と、メタクリル系樹脂(M-RS)又はポリカーボネート系樹脂(PC)を含み、配向複屈折値が正である第2の樹脂層12とからなる2層構造の積層フィルムである。
逆波長分散性光学フィルムの構成は、適宜設計変更が可能である。第1の樹脂層の層数は単数でも複数でもよく、第2の樹脂層の層数は単数でも複数でもよい。本開示の逆波長分散性光学フィルムは、必要に応じて、上記以外の1つ以上の任意の層を有することができる。
【0022】
本開示の光学フィルムは、フィルム全体として、メタクリル酸メチル(MMA)単位とα-メチルスチレン(αMSt)単位と環構造単位(R)とを含有することにより、逆波長分散性を発現できる。この理由は必ずしも明らかではないが、以下のように推測される。
図2に、いくつかの代表的な樹脂の波長分散曲線の例(a)~(e)を示す。
【0023】
一般的に、樹脂フィルムのRe値は、下記式(i)で表される。
[樹脂フィルムのRe値]=[複屈折(ΔN)]×[厚み(d)]・・・(i)
複屈折(ΔN)は、下記式(ii)で表される。
[複屈折]=[応力複屈折]+[配向複屈折]・・・(ii)
応力複屈折、配向複屈折はそれぞれ、下記式(iii)、(iv)で表される。
[応力複屈折]=[光弾性係数(C)]×[応力]・・・(iii)
[配向複屈折]=[固有複屈折]×[配向度]・・・(iv)
式(iv)において、配向度は0~1.0の範囲の値である。
【0024】
以下、厚み(d)を共通条件として、説明する。
一般的に、構造単位としてメタクリル酸メチル(MMA)単位のみを含むメタクリル系樹脂(すなわち、ポリメタクリル酸メチル(PMMA))は、比較的絶対値の小さな負の固有複屈折値を有し、かつ、光の波長が短くなる程、固有複屈折値の絶対値が大きくなる傾向がある。この樹脂は、波長分散曲線(b)のように、負の配向複屈折値を有し、かつ、光の波長が短くなる程、Re値の絶対値が大きくなる順波長分散性を有する傾向がある。
【0025】
一般的に、メタクリル酸メチル(MMA)単位を含まず、環構造単位(R)を比較的多く含む樹脂は、正の固有複屈折値を有し、かつ、光の波長が短くなる程、固有複屈折値の絶対値が大きくなる傾向がある。この樹脂は、波長分散曲線(a)のように、正の配向複屈折値を有し、かつ、光の波長が短くなる程、Re値の絶対値が大きくなる順波長分散性を有する傾向がある。
【0026】
一般的に、メタクリル酸メチル(MMA)単位と環構造単位(R)とを含む樹脂(メタクリル系共重合体)は、これら単位の特性が統合され、正の固有複屈折値を有し、かつ、光の波長が短くなる程、固有複屈折値の絶対値が大きくなる傾向がある。この樹脂は、波長分散曲線(e)のように、正の配向複屈折値を有し、かつ、光の波長が短くなる程、Re値の絶対値が大きくなる順波長分散性を有する傾向がある。
【0027】
一般的に、環構造単位(R)を含まず、α-メチルスチレン(αMSt)単位を比較的多く含む樹脂は、負の固有複屈折値を有し、光の波長が短くなる程、固有複屈折値の絶対値が大きくなる傾向があり、かつ、波長に対する固有複屈折値の傾きが比較的大きい傾向がある。この樹脂は、波長分散曲線(c)のように、負の配向複屈折値を有し、かつ、光の波長が長くなる程、Re値の絶対値が大きくなる逆波長分散性を有し、波長に対するRe値の傾きが比較的大きい傾向がある。
【0028】
本開示の光学フィルムは、フィルム全体として、メタクリル酸メチル(MMA)単位とα-メチルスチレン(αMSt)単位と環構造単位(R)とを適切な比率で含むことで、これら単位の特性が統合され、波長分散曲線(d)のように、正の配向複屈折値を有し、かつ、光の波長が長くなる程、Re値が大きくなる逆波長分散性を発現できると考えられる。
【0029】
なお、[背景技術]の項に挙げた特許文献3に開示の、メタクリル酸メチル(MMA)単位とα-メチルスチレン(αMSt)単位と環構造単位(R)とを有するメタクリル系樹脂を含む光学フィルムは、本開示の光学フィルムと同様、逆波長分散性を有することができる。
しかしながら、本発明者らの研究により、主鎖に環構造単位(R)を有するメタクリル系樹脂単独では、α-メチルスチレン(αMSt)の共重合量に制限があるなど、樹脂の単位組成の設計に制限があり、Re値を1/4波長(λ/4)等の理想値に高精度に近づけることが難しいことが分かった。
【0030】
本開示の光学フィルムでは、α-メチルスチレン(αMSt)単位を含む樹脂を含む層と、主鎖に環構造単位(R)を有する樹脂を含む層とを分けた積層構造を採用することで、各樹脂の単位組成及び複数種の樹脂の組合せ等の設計自由度を高めることができる。例えば、主鎖に環構造単位(R)を有する1種の樹脂では含有量に制限のあるαMSt単位の含有量を、フィルム全体として高めることができる。その結果、各波長におけるRe値を1/4波長(λ/4)等の理想値に高精度に近づけることが可能となる。そのため、本開示の技術によれば、可視光域内の広い波長域(少なくとも450~650nmの波長域)で、Re値を高精度に所望範囲内(例えば、1/4波長(λ/4)又はそれに近い範囲内)にできる逆波長分散性光学フィルムを提供することができる。
【0031】
逆波長分散性は、Re(550)を基準として、Re(550)に対するRe(450)の比(=Re(450)/Re(550))、及び、Re(550)に対するRe(650)の比(=Re(650)/Re(550)を指標とすることができる。
一般的に、逆波長分散性光学フィルムは、0<(Re(450)/Re(550))<1.00<(Re(650)/Re(550))を充足すればよい。
【0032】
本開示の逆波長分散性光学フィルムは、上記関係を充足した上で、さらに、下記式(1)及び(2)を充足する。
0.70≦(Re(450)/Re(550))≦0.95・・・(1)
1.05≦(Re(650)/Re(550))≦1.60・・・(2)
(上記式中、Re(450)、Re(550)、及びRe(650)はそれぞれ、波長450nm、波長550nm、及び波長650nmにおける面内リターデーション値を示す。)
【0033】
上記式(1)及び(2)を充足する本開示の光学フィルムは、逆波長分散性を有し、かつ、可視光域内の広い波長域で、面内のリターデーション値(Re値)を高精度に所望範囲内(例えば、1/4波長又はそれに近い範囲内)にできる。そのため、本開示によれば例えば、直線偏光が入射したときの出射光の(楕)円偏光状態を可視光域内の広い波長域でほぼ均質にでき、良好な光学補償が可能な1/4波長板(λ/4板)等の高機能な位相差フィルムを提供できる。
【0034】
本開示の光学フィルムが1/4波長板(λ/4板)等の位相差フィルム用である場合、Re(450)/Re(550)の理想値は、450/550=約0.81であり、Re(650)/Re(550)の理想値は、650/550=約1.18である。
本開示の光学フィルムにおいて、Re(450)/Re(550)の下限値は、好ましくは0.75、より好ましくは0.77、特に好ましくは0.80である。Re(450)/Re(550)の上限値は、好ましくは0.93、より好ましくは0.90、特に好ましくは0.85である。
本開示の光学フィルムにおいて、Re(650)/Re(550)の下限値は、好ましくは1.10、より好ましくは1.15である。Re(650)/Re(550)の上限値は、好ましくは1.50、より好ましくは1.30、特に好ましくは1.20である。
【0035】
本開示の光学フィルムのRe(550)は、用途に応じて設計でき、例えば5~1000nmの範囲内であることができる。
本開示の光学フィルムが1/4波長板(λ/4板)用である場合、Re(550)の理想値は、550/4nm(=137.5nm)である。
本開示の光学フィルムが1/4波長板(λ/4板)用である場合、Re(550)は、好ましくは70~155nmである。下限値は、より好ましくは80nm、さらに好ましくは90nm、さらに好ましくは100nm、さらに好ましくは110nm、特に好ましくは120nm、最も好ましくは130nmである。上限値は、より好ましくは150nm、特に好ましくは145nm、最も好ましくは140nmである。
【0036】
第1の樹脂層を構成するメタクリル系樹脂(M-α)の配向複屈折値は、負であれば特に制限されない。同様に、第2の樹脂層を構成するメタクリル系樹脂(M-RS)又はポリカーボネート系樹脂(PC)の配向複屈折値は、正であれば特に制限されない。
本明細書において、特に明記しない限り、樹脂の配向複屈折値は、幅20mm、長さ40mmのフィルム状の試験片を、ガラス転移温度(Tg)より10℃高い温度で3mm/分の速度で100%の延伸率で一軸延伸し、波長550nmにおける試験片の中央部分の面内のリターデーション値(Re値)を測定して求められる配向複屈折値である。具体的な測定方法は、後記[実施例]の項を参照されたい。
【0037】
第1の樹脂層を構成するメタクリル系樹脂(M-α)の配向複屈折値は、好ましくは、-100.0×10-4~-1.0-4である。下限値は、より好ましくは-90.0×10-4、さらに好ましくは-80.0×10-4、さらに好ましくは-70.0×10-4、さらに好ましくは-60.0×10-4、さらに好ましくは-50.0×10-4、さらに好ましくは-40.0×10-4、特に好ましくは-30.0×10-4、最も好ましくは-20.0×10-4である。上限値は、より好ましくは-1.5×10-4、特に好ましくは-2.0×10-4、最も好ましくは-3.0×10-4である。
【0038】
第2の樹脂層を構成するメタクリル系樹脂(M-RS)又はポリカーボネート系樹脂(PC)の配向複屈折値は、好ましくは1.0×10-4~200.0×10-4である。下限値は、より好ましくは5.0×104、さらに好ましくは10.0×104、特に好ましくは15.0×104、最も好ましくは20.0×104である。上限値は、より好ましくは170.0×104、さらに好ましくは150.0×104、さらに好ましくは100.0×104、特に好ましくは90.0×104、特に好ましく80.0×104、最も好ましくは50.0×104である。
第2の樹脂層を構成するメタクリル系樹脂(M-RS)又はポリカーボネート系樹脂(PC)の配向複屈折値は、第1の樹脂層を構成するメタクリル系樹脂(M-α)の配向複屈折値の絶対値より大きいことが好ましい。
【0039】
各樹脂層の構成樹脂の配向複屈折値が上記範囲内であると、各樹脂層のRe値を好適な範囲に制御することができる。なお、配向複屈折値はポリマーの配向度に依存するため、成形条件及び延伸条件等の製造条件の影響を受ける。
【0040】
本開示の逆波長分散性光学フィルムにおいて、各樹脂層の厚み及び総厚みは特に制限されない。
高精度な光学フィルムの製造容易性の観点から、総厚みの下限値は好ましくは50μmである。材料コスト、並びに、液晶ディスプレイ及び有機エレクトロルミネセンス(EL)ディスプレイ等の画像表示装置等の薄型化及び軽量化の観点から、総厚みの上限値は好ましくは300μmである。
第2の樹脂層の厚み(T2)に対する第1の樹脂層の厚み(T1)の比(T1/T2)は、好ましくは0.5~4.0である。T1/T2が上記範囲内であれば、フィルム全体に対する第1の樹脂層の厚みを充分に確保でき、フィルム全体に対するαMSt単位の含有量を充分に確保でき、上記式(1)及び(2)で規定されるRe値の逆波長分散性を実現しやすい。
【0041】
各樹脂層の配向複屈折値及び各波長におけるRe値は、各樹脂層の構成樹脂の単位組成と厚み、各樹脂層の成形方法、各樹脂層の延伸の有無、及び各樹脂層の延伸条件等によって、調整できる。
本開示の逆波長分散性光学フィルム全体のRe値の波長分散性及び各波長におけるRe値は、各樹脂層の配向複屈折値及び各波長におけるRe値、各樹脂層の厚み比、フィルム全体中の各単位の含有比率、及び、各樹脂層の延伸方向の関係等によって、調整できる。
【0042】
(第1の樹脂層)
第1の樹脂層は、メタクリル酸メチル(MMA)単位とα-メチルスチレン(αMSt)単位とを有するメタクリル系樹脂(M-α)を1種以上含み、負の配向複屈折を有する樹脂層である。
αMSt単位を適量含むメタクリル系樹脂(M-α)を含む第1の樹脂層は、
図2の波長分散曲線(c)のような逆波長分散性を有することができる。
第1の樹脂層は、0<(Re(450)/Re(550))<1.00<(Re(650)/Re(550))を充足することができる。
式(1)、(2)を充足する本開示の光学フィルムが得られやすいことから、第1の樹脂層はさらに、下記式(11)及び(12)を充足することが好ましい。
0.30≦(Re(450)/Re(550))≦0.95・・・(11)
1.02≦(Re(650)/Re(550))≦2.00・・・(12)
【0043】
なお、本開示の光学フィルム全体の波長分散性は、第1の樹脂層の波長分散性と第2の樹脂層の波長分散性との組合せで調整でき、本開示の光学フィルム全体が上記式(1)を充足すればよいので、第1の樹脂層単独のRe(450)/Re(550)の好ましい範囲は、本開示の光学フィルムのRe(450)/Re(550)の範囲より広く規定できる。Re(650)/Re(550)についても、同様である。
【0044】
<メタクリル系樹脂(M-α)>
メタクリル系樹脂(M-α)は、メタクリル酸メチル(MMA)単位とα-メチルスチレン(αMSt)単位とを有し、必要に応じて1種以上の他の単位を有することができる。
【0045】
メタクリル系樹脂(M-α)中のMMA単位の含有量は、20~90質量%である。下限値は、より好ましくは30質量%、さらに好ましくは40質量%、特に好ましくは50質量%、最も好ましくは60質量%である。上限値は、より好ましくは85質量%、特に好ましくは80質量%である。MMA単位の含有量は、上記下限値未満ではメタクリル系樹脂(M-α)の透明性(例えば、全光線透過率)が低下する恐れがあり、上記上限値超ではメタクリル系樹脂(M-α)の耐熱性が低下する恐れがある。MMA単位の含有量が上記範囲内であれば、メタクリル系樹脂(M-α)は透明性及び耐熱性が良好であることができる。
【0046】
メタクリル系樹脂(M-α)中のαMSt単位の含有量は、40~10質量%である。下限値は、より好ましくは15質量%、特に好ましくは20質量%である。上限値は、より好ましくは35質量%、さらに好ましくは30質量%、特に好ましくは25質量%、最も好ましくは20質量%である。
メタクリル酸メチル(MMA)単位の含有量及びαMSt単位の含有量によって、メタクリル系樹脂(M-α)の固有複屈折値を調整できる。
メタクリル系樹脂(M-α)中のαMSt単位の含有量が上記下限値以上であれば、フィルム全体に対するαMSt単位の含有量を充分に確保でき、第1の樹脂層の配向複屈折値とRe値の波長分散性、並びに、本開示の光学フィルムのRe値の波長分散性を好適に設計しやすい。その結果、上記式(1)及び(2)で規定されるRe値の逆波長分散性を実現しやすく、Re(550)、Re(450)/Re(550)、及びRe(650)/Re(550)が理想値又はそれに近い範囲内である高精度な逆波長分散性光学フィルムを提供できる。
【0047】
メタクリル系樹脂(M-α)中のαMSt単位の含有量が上記下限値未満では、メタクリル系樹脂(M-α)の飽和吸水率が高くなる恐れがある。αMSt単位の含有量が上記上限値超では、メタクリル系樹脂(M-α)の耐衝撃性が不充分となる恐れがあり、メタクリル系樹脂(M-α)の重合性が低下し、生産性が低下する恐れがある。
αMSt単位の含有量が上記範囲内であれば、メタクリル系樹脂(M-α)を含む第1の樹脂層は、Re値の逆波長分散性が良好で、飽和吸水率が低く、耐衝撃性及び生産性が良好であることができる。
【0048】
メタクリル系樹脂(M-α)に必要に応じて含まれる1種以上の他の単位の種類と含有量は、メタクリル系樹脂(M-α)が、配向複屈折値が負であり、かつ、逆波長分散性を有する条件を充足する範囲内において、決定できる。メタクリル系樹脂(M-α)中のMMA単位とαMSt単位との合計含有量は、好ましくは60~100質量%、より好ましくは70~100質量%、特に好ましくは80~100質量%、最も好ましくは90~100質量%である。メタクリル系樹脂(M-α)中の他の単位の含有量(複数種の場合は、合計量)は、好ましくは40~0質量%、より好ましくは30~0質量%、特に好ましくは20~0質量%、最も好ましくは10~0質量%である。
なお、共重合体の単位組成は、1H-NMR等によって決定できる。
【0049】
他の単位は、他の単量体単位及び/又は他の単量体単位から誘導された誘導単位であることができる。
MMA及びαMSt以外の他の単量体としては、メタクリル酸メチル(MMA)以外のメタクリル酸エステルが挙げられる。本明細書において、「メタクリル酸メチル(MMA)以外のメタクリル酸エステル」としては公知のものを使用でき、具体例としては、メタクリル酸メチル(MMA)、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸s-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸ペンチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸ヘプチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ノニル、メタクリル酸デシル、及びメタクリル酸ドデシル等のメタクリル酸アルキルエステル;メタクリル酸1-メチルシクロペンチル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸シクロヘプチル、メタクリル酸シクロオクチル、及びメタクリル酸トリシクロ[5.2.1.02,6]デカ-8-イル等のメタクリル酸シクロアルキルエステル;メタクリル酸フェニル等のメタクリル酸アリールエステル;メタクリル酸ベンジル等のメタクリル酸アラルキルエステル等が挙げられる。入手性の観点から、MMA、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸イソブチル、及びメタクリル酸t-ブチルが好ましく、MMAが最も好ましい。
【0050】
メタクリル酸エステル以外の他の単量体としては、アクリル酸エステル;(メタ)アクリル酸、無水マレイン酸、マレイン酸、及びイタコン酸等の不飽和カルボン酸及びそれらの無水物;エチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブチレン、及び1-オクテン等のオレフィン;ブタジエン、イソプレン、及びミルセン等の共役ジエン;スチレン(St)、p-メチルスチレン、及びm-メチルスチレン等の、α-メチルスチレン(αMSt)以外の芳香族ビニル単量体;(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリロニトリル;酢酸ビニル、ビニルピリジン、ビニルケトン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、及びフッ化ビニリデン等が挙げられる。
【0051】
本明細書において、「アクリル酸エステル」としては公知のものを使用でき、具体例としては、アクリル酸メチル(MA)、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸イソブチル、アクリル酸s-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸アミル、アクリル酸イソアミル、アクリル酸n-へキシル、アクリル酸2-エチルへキシル、アクリル酸ペンタデシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸フェニル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸2-ヒドロキシエチル、アクリル酸2-エトキシエチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸アリル、アクリル酸シクロへキシル、アクリル酸ノルボルネニル、及びアクリル酸イソボニル等が挙げられる。
【0052】
メタクリル系樹脂(M-α)は、1種以上の他の単位として、主鎖に、酸無水物単位、環構造を含むイミド単位、及びラクトン環単位からなる群より選ばれる1種以上の環構造単位(R)を含むことができる。ただし、一般的に、環構造単位(R)を比較的多く含む樹脂は、
図2の波長分散曲線(a)のように、正の配向複屈折値を有し、かつ、光の波長が短くなる程、Re値の絶対値が大きくなる順波長分散性を有する傾向がある。そのため、メタクリル系樹脂(M-α)が、配向複屈折値が負であり、かつ、逆波長分散性を有する条件を充足する範囲内において、メタクリル系樹脂(M-α)中の環構造単位(R)の種類と含有量は制限される。
環構造単位(R)の含有量(複数種の場合は、合計量)は、好ましくは40~0質量%、より好ましくは30~0質量%、特に好ましくは20~0質量%、最も好ましくは10~0質量%である。
環構造単位(R)の好ましい態様は、第2の樹脂層の構成樹脂であるメタクリル系樹脂(M-RS)に含まれる環構造単位(R)と同様である。なお、第1の樹脂層に含まれる環構造単位(R)と、第2の樹脂層に含まれる環構造単位(R)とは、同一でも非同一でもよい。
【0053】
主鎖に環構造単位(R)を有さないメタクリル系樹脂(M-α)は、メタクリル酸メチル(MMA)及びα-メチルスチレン(αMSt)を含み、必要に応じて1種以上の他の単量体を含む単量体混合物を、公知方法にて共重合することで、製造できる。
主鎖に環構造単位(R)を有するメタクリル系樹脂(M-α)の製造方法としては、メタクリル酸メチル(MMA)、α-メチルスチレン(αMSt)、環構造単位(R)の原料単量体、及び必要に応じて他の単量体を含む複数種の単量体を公知方法により共重合する方法;公知方法により、MMA単位及びαMSt単位を含み、環構造単位(R)を有さないメタクリル系樹脂を共重合した後、主鎖に環構造を導入して、環構造単位(R)を形成する方法が挙げられる。
メタクリル系樹脂の重合法としては、懸濁重合法、(連続)塊状重合法、溶液重合法、及び乳化重合法等のラジカル重合法;アニオン重合法等が挙げられる。
【0054】
メタクリル系樹脂(M-α)の重量平均分子量(Mw)は特に制限されず、好ましくは40000~200000である。下限値は、より好ましくは50000、特に好ましくは55000である。上限値は、より好ましくは180000、特に好ましくは160000である。Mwが上記下限値以上であると、第1の樹脂層の強度及び靭性等が向上する。Mwが上記上限値以下であると、メタクリル系樹脂(M-α)の溶融流動性が向上し、成形加工性が向上する。
【0055】
メタクリル系樹脂(M-α)の酸価は特に制限されず、好ましくは0.01~0.30mmol/gである。下限値は、より好ましくは0.05mmol/gである。上限値は、より好ましくは0.28mmol/gである。酸価は、メタクリル系樹脂(M-α)中のカルボン酸(無水物)単位の含有量に比例する値である。酸価は、例えば、特開2005-23272号公報に記載の方法によって算出できる。酸価が上記範囲内にあると、メタクリル系樹脂(M-α)は、耐熱性、機械物性、及び成形加工性のバランスに優れる。
【0056】
メタクリル系樹脂(M-α)のガラス転移温度(Tg)は特に制限されない。下限値は、好ましくは120℃、より好ましくは125℃、特に好ましくは130℃である。上限値は例えば、160℃、150℃、145℃、又は140℃である。メタクリル系樹脂(M-α)のTgが高い程、第1の樹脂層は耐熱性が高く、熱による変形及び収縮を起こしにくい。
本明細書において、「ガラス転移温度(Tg)」は、JIS K7121に準拠して、後記[実施例]の項に記載の方法にて測定できる。
【0057】
第1の樹脂層は、メタクリル系樹脂(M-α)以外の1種以上の他の(メタ)アクリル系樹脂を含んでいてもよい。「(メタ)アクリル系樹脂」は、1種以上の(メタ)アクリル酸エステル単位、及び必要に応じて1種以上の他の単量体単位を含む単独重合体又は共重合体である。
第1の樹脂層は、(メタ)アクリル系樹脂以外の1種以上の他の重合体を含んでいてもよい。他の重合体としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン-1、ポリ-4-メチルペンテン-1、及びポリノルボルネン等のポリオレフィン系樹脂;ポリスチレン、ハイインパクトポリスチレン、メタクリル酸メチル-スチレン共重合体(MS樹脂)、スチレン-無水マレイン酸共重合体(SMA樹脂)、スチレン-無水マレイン酸-メタクリル酸メチル共重合体(SMM樹脂)、アクリロニトリル-スチレン共重合体(AS樹脂)、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン(ABS)樹脂、アクリロニトリル・エチレン-プロピレン-ジエン・スチレン(AES)樹脂、アクリル-アクリロニトリル-スチレン(AAS)樹脂、アクリロニトリル-塩素化エチレン-スチレン(ACS)樹脂、及びメタクリルブタジエンスチレン(MBS)樹脂等の他のスチレン系樹脂;ポリエチレンテレフタレート、及びポリブチレンテレフタレート等のポリエステル系樹脂;ナイロン6、ナイロン66、及びポリアミドエラストマー等のポリアミド系樹脂;ポリカーボネート系樹脂;ポリフェニレンサルファイド、ポリエーテルエーテルケトン、ポリスルホン、ポリフェニレンオキサイド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリフッ化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン-ビニルアルコール共重合体、ポリアセタール、エチレン-酢酸ビニル共重合体、フェノキシ系樹脂、及びエチレン系アイオノマー等の他の熱可塑性樹脂;フェノール系樹脂、メラミン系樹脂、シリコーン系樹脂、及びエポキシ系樹脂等の熱硬化性樹脂;ポリウレタン及び塩素化ポリウレタン樹脂;変性ポリフェニレンエーテル;シリコーン変性樹脂;アクリルゴム、シリコーンゴム;アクリルゴム、シリコーンゴム;メタクリル酸メチル重合体ブロック-アクリル酸n-ブチル重合体ブロックのジブロック共重合体、及びトリブロック共重合体等のアクリル系熱可塑性エラストマー;SEPS、SEBS、及びSIS等のスチレン系熱可塑性エラストマー;IR、EPR、及びEPDM等のオレフィン系ゴム等が挙げられる。
【0058】
第1の樹脂層中のメタクリル系樹脂(M-α)以外の1種以上の他の(メタ)アクリル系樹脂及び/又は1種以上の他の重合体の種類と含有量は、第1の樹脂層が、配向複屈折値が負であり、かつ、逆波長分散性を有する条件を充足する範囲内において、決定できる。第1の樹脂層中のメタクリル系樹脂(M-α)の量(複数種の場合は、合計量)は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、最も好ましくは100質量%である。第1の樹脂層中の1種以上の他の(メタ)アクリル系樹脂及び/又は1種以上の他の重合体の量(複数種の場合は、合計量)は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、最も好ましくは0質量%である。
【0059】
第1の樹脂層は、必要に応じて、1種以上の他の添加剤を含むことができる。添加剤としては、フィラー、酸化防止剤、熱劣化防止剤、紫外線吸収剤、光安定剤、滑剤、離型剤、高分子加工助剤、帯電防止剤、難燃剤、着色剤、染料、顔料、光拡散剤、艶消し剤、有機色素、耐衝撃性改質剤、及び蛍光体等が挙げられる。添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない範囲で適宜設定できる。第1の樹脂層中のフィラーの量(複数種の場合は、合計量)は、好ましくは3質量%以下、より好ましくは1.5質量%以下である。第1の樹脂層中のフィラー以外の添加剤の合計量は、好ましくは7質量%以下、より好ましくは5質量%以下、特に好ましくは4質量%以下である。
他の(メタ)アクリル系樹脂、他の重合体、及び添加剤の添加タイミングは、メタクリル系樹脂(M-α)の重合時でも重合後でもよい。
【0060】
(第2の樹脂層)
第2の樹脂層は、主鎖に、酸無水物単位、環構造を含むイミド単位、及びラクトン環単位からなる群より選ばれる1種以上の環構造単位(R)40~75質量%を有する1種以上のメタクリル系樹脂(M-RS)、又は、1種以上のポリカーボネート系樹脂(PC)を含み、正の配向複屈折値を有する樹脂層である。
【0061】
<メタクリル系樹脂(M-RS)>
メタクリル系樹脂(M-RS)は、主鎖に、メタクリル酸メチル(MMA)単位と、酸無水物単位、環構造を含むイミド単位、及びラクトン環単位からなる群より選ばれる1種以上の環構造単位とを有し、必要に応じて1種以上の他の単位を有することができる。
メタクリル系樹脂(M-RS)は、
図2の波長分散曲線(e)のように、正の配向複屈折値を有することができる。メタクリル系樹脂(M-RS)はまた、光の波長が短くなる程、Re値の絶対値が大きくなる順波長分散性を有することができる。
酸無水物単位としては、マレイン酸無水物単位及びグルタル酸無水物単位等が挙げられる。環構造を含むイミド単位としては、無置換又はN-置換グルタルイミド単位、及び、無置換又はN-置換マレイミド単位等が挙げられ、無置換又はN-置換グルタルイミド単位が好ましい。
【0062】
好ましいメタクリル系樹脂(M-RS)として、メタクリル酸メチル(MMA)単位とグルタルイミド(GI)単位とを含むグルタルイミド樹脂(M-G)が挙げられる。
グルタルイミド(GI)単位は、無置換又はN-置換2,6-ジオキソピペリジンジイル構造を有する単位であり、下記一般式(I)で表される単位(グルタルイミド単位(I)とも言う。)が挙げられる。
【0063】
【0064】
式(I)中、2つのR1はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、2つのR1がともにメチル基であるのが好ましい。R2は、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数3~12のシクロアルキル基、又は芳香環を含む炭素数6~15の有機基であり、好ましくは、水素原子、メチル基、n-ブチル基、シクロヘキシル基、又はベンジル基であり、より好ましくはメチル基、n-ブチル基、又はシクロヘキシル基であり、特に好ましくはメチル基である。
【0065】
グルタルイミド樹脂(M-G)は、ガラス転移温度(Tg)が高く、耐衝撃性が良好で、温度に対する寸法及び形状の安定性が良好で、表面の濡れ張力が高いなどの特性を有する。
用途によっては、第2の樹脂層上に、ハードコート層等のコーティング層を形成する場合がある。グルタルイミド樹脂(M-G)を含む第2の樹脂層は、ガラス転移温度(Tg)が高く、温度に対する寸法安定性が良好であるため、その上にコーティング層を形成する際に、乾燥工程及び硬化工程等において高温に曝されても、反り又はカール等の外観不良の発生が抑制される。グルタルイミド樹脂(M-G)を含む第2の樹脂層は、表面の濡れ張力が高いため、その上に密着性良くコーティング層を形成できる。
【0066】
グルタルイミド樹脂(M-G)は、国際公開第2005/108438号、特開2010-254742号公報、特開2008-273140号公報、及び特開2008-274187号公報等に記載の公知方法により製造できる。これら文献は、それらの全体が参考として本明細書に援用される。
【0067】
第1の製造方法として、互いに隣り合う2つのメタクリル酸メチル(MMA)単位を有する前駆体樹脂に対して、イミド化剤を加え、反応させるイミド環化反応工程を含む方法が挙げられる。イミド化剤としては、アンモニア;メチルアミン(モノメチルアミンとも言う。)、エチルアミン、ジエチルアミン、n-プロピルアミン、イソプロピルアミン、n-ブチルアミン、イソブチルアミン、t-ブチルアミン、及びn-ヘキシルアミン等の脂肪族炭化水素基含有アミン;アニリン、トルイジン、トリクロロアニリン、及びn-メチルベンジルアミン等の芳香族炭化水素基含有アミン;シクロヘキシルアミン、及びn-メチルシクロヘキシルアミン等の脂環式炭化水素基含有アミン;尿素、1,3-ジメチル尿素、1,3-ジエチル尿素、及び1,3-ジプロピル尿素等の尿素系化合物等が挙げられる。中でも、メチルアミン等が好ましい。
【0068】
イミド環化反応工程では、メタクリル酸メチル(MMA)単位の一部が加水分解されてカルボキシ基になることがある。この場合、公知のエステル化剤を用いたエステル化反応により、カルボキシ基を元のメタクリル酸メチル(MMA)単位に戻すことが好ましい。エステル化剤としては、ジメチルカーボネート及びトリメチルアセテート等が挙げられる。この反応では、トリメチルアミン、トリエチルアミン、及びトリブチルアミン等の3級アミンを、触媒として併用してもよい。
【0069】
第2の製造方法として、下記式(IIa)で表される酸無水物単位(グルタル酸無水物単位)を有する前駆体樹脂に対して、一般式R2NH2で表されるイミド化剤を加え、反応させる方法が挙げられる。
【0070】
【化2】
(式中、R
1、R
2は前記に定義される通りである。)
【0071】
上記第1、第2の製造方法において、前駆体樹脂とイミド化剤との反応の方式としては、押出機等を用いて、前駆体樹脂を溶融し、これにイミド化剤を加えて反応を行う連続式、及び、前駆体樹脂を溶解可能で、イミド化反応に対して非反応な溶媒を用いて、前駆体樹脂溶液を調製し、これにイミド化剤を加えて反応を行うバッチ式が挙げられる。
【0072】
第3の製造方法として、下記式(III)で表される単位を有する共重合体の分子内環化反応工程を含む方法が挙げられる。この方法では、分子内環化反応の促進のために、適切な温度の加熱下で反応を行うことが好ましい。
【0073】
【化3】
(式中、R
1、R
2は前記に定義される通りである。Meはメチル基を示す。)
【0074】
メタクリル系樹脂(M-RS)が含むことができる無置換又はN-置換マレイミド単位は、無置換又はN-置換2,5-ピロリジンジオン構造を有する単位であり、下記式(IV)で表される単位(マレイミド単位(IV)とも言う。)が挙げられる。
【0075】
【0076】
式(IV)中、2つのR11はそれぞれ独立に水素原子又はメチル基であり、2つのR11がともにメチル基であるのが好ましい。R12は、水素原子、炭素数1~18のアルキル基、炭素数3~12のシクロアルキル基、又は芳香環を含む炭素数6~15の有機基であり、好ましくはメチル基、n-ブチル基、シクロヘキシル基、又はベンジル基であり、より好ましくはメチル基、n-ブチル基、又はベンジル基であり、特に好ましくはメチル基である。
【0077】
マレイミド単位を含むメタクリル系樹脂の製造方法としては、マレイミド単位を含む単量体を含む単量体混合物を重合する方法;マレイン酸無水物を含む単量体混合物の重合反応生成物中のマレイン酸無水物単位とイミド化剤とを反応させる方法等が挙げられる。後者方法は、特公昭61-026924号公報、特公平7-042332号公報、特開平9-100322号公報、及び特開2001-329021号公報等を参照されたい。これら文献は、それらの全体が参考として本明細書に援用される。
【0078】
メタクリル系樹脂(M-RS)が含むことができるラクトン環単位は、>CH-O-C(=O)-基を環構造に含む単位である。>CH-O-C(=O)-基を環構造に含む単位は、環構成元素の数が好ましくは、4~8個、より好ましくは5~6個、最も好ましくは6個である。>CH-O-C(=O)-基を環構造に含む単位としては、β-プロピオラクトンジイル単位、γ-ブチロラクトンジイル単位、及びδ-バレロラクトンジイル単位等のラクトンジイル単位が挙げられる。なお、式中の「>C」は炭素原子Cに結合手が2つあることを意味する。
【0079】
例えば、δ-バレロラクトンジイル単位としては、下記式(V)で表される単位(ラクトン環単位(V)とも言う。)が挙げられる。
【化5】
【0080】
式(V)中、R21、R22、及びR23はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~20の有機基、好ましくは水素原子又は炭素数1~10の有機基、より好ましくは水素原子又は炭素数1~5の有機基である。ここで、有機基は、炭素数1~20であれば、特に限定されず、例えば、直鎖又は分岐状のアルキル基、直鎖又は分岐状のアリール基、-OCOCH3基、及び-CN基等が挙げられる。有機基は酸素原子等のヘテロ原子を含んでいてもよい。好ましくは、R22がメチル基であり、R21及びR23が水素原子である。
【0081】
ラクトン環単位は、ヒドロキシ基及びエステル基の分子内環化によって得ることができ、例えば、2-(ヒドロキシアルキル)アクリル酸エステル単位と(メタ)アクリル酸メチル単位との分子内環化によって得ることができる。特開2000-230016号公報、特開2001-151814号公報、特開2002-120326号公報、特開2002-254544号公報、及び特開2005-146084号公報等を参照されたい。これら文献は、それらの全体が参考として本明細書に援用される。
【0082】
メタクリル系樹脂(M-RS)が含むことができる無水グルタル酸単位は、2,6-ジオキソジヒドロピランジイル構造を有する単位であり、式(VI)で表される単位(無水グルタル酸単位(VI)とも言う。)が挙げられる。
【0083】
【0084】
式(VI)中、2つのR31はそれぞれ独立に、水素原子又は炭素数1~5のアルキル基であり、メチル基であるのが好ましい。
【0085】
無水グルタル酸単位は、互いに隣り合う2つの(メタ)アクリル酸単位の分子内環化、又は、(メタ)アクリル酸単位と(メタ)アクリル酸メチル単位との分子内環化等によって、得ることができる。特開2007-197703号公報及び特開2010-96919号公報等を参照されたい。これら文献は、それらの全体が参考として本明細書に援用される。
【0086】
メタクリル系樹脂(M-RS)中のメタクリル酸メチル(MMA)単位の含有量は、好ましくは60~25質量%である。上限値はより好ましくは55質量%であり、下限値はより好ましくは30質量%である。
メタクリル系樹脂(M-RS)中の環構造単位(R)の含有量は、40~75質量%である。下限値は好ましくは45質量%であり、上限値は好ましくは70質量%である。
メタクリル酸メチル(MMA)単位の含有量及び環構造単位(R)の種類と含有量によって、メタクリル系樹脂(M-RS)の固有複屈折値を調整できる。メタクリル系樹脂(M-RS)中の環構造単位(R)の含有量が上記範囲内であれば、第2の樹脂層の配向複屈折値とRe値の波長分散性、並びに、本開示の光学フィルムのRe値の波長分散性を好適に設計しやすい。
メタクリル系樹脂(M-RS)は、環構造単位(R)の含有量が上記下限値未満では、耐熱性が不充分となる恐れがある。環構造単位(R)の含有量が上記上限値超では、柔軟性及び成形加工性が低下する恐れがある。
メタクリル系樹脂(M-RS)中の環構造単位(R)の含有量が上記範囲内であれば、第2の樹脂層は、配向複屈折値、Re値の波長分散性、耐熱性、柔軟性、及び成形加工性が良好となる。
【0087】
メタクリル系樹脂(M-RS)は必要に応じて、メタクリル酸メチル(MMA)単位及び環構造単位(R)以外の1種以上の他の単位を含むことができる。
メタクリル系樹脂(M-RS)は、他の単位として、α-メチルスチレン(αMSt)単位を含むことができる。メタクリル系樹脂(M-RS)はまた、他の単位として、第1の樹脂層の構成樹脂であるメタクリル系樹脂(M-α)に含まれることができる他の単位として例示したのと同様の1種以上の単位を含むことができる。
【0088】
メタクリル系樹脂(M-RS)に必要に応じて含まれる1種以上の他の単位の種類と含有量は、メタクリル系樹脂(M-RS)が、配向複屈折値が正である条件を充足する範囲内において、決定できる。メタクリル系樹脂(M-RS)中のMMA単位と環構造単位(R)との合計含有量は、好ましくは60~100質量%、より好ましくは70~100質量%、特に好ましくは80~100質量%、最も好ましくは90~100質量%である。メタクリル系樹脂(M-RS)中の他の単位の含有量(複数種の場合は、合計量)は、好ましくは40~0質量%、より好ましくは30~0質量%、特に好ましくは20~0質量%、最も好ましくは10~0質量%である。
【0089】
メタクリル系樹脂(M-RS)の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは40,000~250,000である。下限値は、より好ましくは50,000、特に好ましくは55,000、最も好ましくは60,000である。上限値は、より好ましくは200,000、特に好ましくは180,000である。Mwが上記下限値以上であると、第2の樹脂層の耐衝撃性等が良好である。Mwが上記上限値以下であると、メタクリル系樹脂(M-RS)の溶融流動性及び成形性が良好である。
【0090】
メタクリル系樹脂(M-RS)のガラス転移温度(Tg)は特に制限されない。下限値は、好ましくは130℃、より好ましくは135℃、特に好ましくは140℃、最も好ましくは145℃である。上限値は特に制限されず、例えば160℃である。メタクリル系樹脂(M-RS)のTgが高い程、第2の樹脂層は耐熱性が高く、熱による変形及び収縮を起こしにくい。
【0091】
<ポリカーボネート系樹脂(PC)>
第2の樹脂層は、1種以上のメタクリル系樹脂(M-RS)の代わりに、1種以上のポリカーボネート系樹脂(PC)を含むことができる。ポリカーボネート系樹脂(PC)は、好ましくは1種以上の二価フェノールと1種以上のカーボネート前駆体とを共重合して得られる。製造方法としては、二価フェノールの水溶液とカーボネート前駆体の有機溶媒溶液とを界面で反応させる界面重合法、及び、二価フェノールとカーボネート前駆体とを高温、減圧、無溶媒条件下で反応させるエステル交換法等が挙げられる。
【0092】
二価フェノールとしては、2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパン(通称ビスフェノールA)、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)エタン、1,1-ビス(4-ヒドロキシフェニル)シクロヘキサン、2,2-ビス(3-メチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、2,2-ビス(3,5-ジメチル-4-ヒドロキシフェニル)プロパン、ビス(4-ヒドロキシフェニル)サルファイド、及びビス(4-ヒドロキシフェニル)スルホン等が挙げられ、中でもビスフェノールAが好ましい。カーボネート前駆体としては、ホスゲン等のカルボニルハライド;ジフェニルカーボネート等のカーボネートエステル;二価フェノールのジハロホルメート等のハロホルメート等が挙げられる。
【0093】
ポリカーボネート系樹脂(PC)のMwは、好ましくは10,000~100,000、より好ましくは20,000~70,000である。Mwが10,000以上であることで第2の樹脂層は耐衝撃性及び耐熱性に優れるものとなり、Mwが100,000以下であることで第2の樹脂層は成形性に優れるものとなる。
【0094】
ポリカーボネート系樹脂(PC)のガラス転移温度(Tg)は特に制限されない。下限値は、好ましくは130℃、より好ましくは135℃、特に好ましくは140℃、最も好ましくは145℃である。上限値は特に制限されず、例えば160℃である。ポリカーボネート系樹脂(PC)のTgが高い程、第2の樹脂層は耐熱性が高く、熱による変形及び収縮を起こしにくい。
【0095】
ポリカーボネート系樹脂(PC)は市販品を用いてもよい。住化スタイロンポリカーボネート株式会社製「カリバー(登録商標)」及び「SDポリカ(登録商標)」、三菱エンジニアリングプラスチック株式会社製「ユーピロン/ノバレックス(登録商標)」、出光興産株式会社製「タフロン(登録商標)」、及び帝人化成株式会社製「パンライト(登録商標)」等が挙げられる。
【0096】
第2の樹脂層は、メタクリル系樹脂(M-RS)以外の1種以上の他の(メタ)アクリル系樹脂を含んでいてもよい。
第2の樹脂層は必要に応じて、(メタ)アクリル系樹脂以外の1種以上の他の重合体及び/又は1種以上の添加剤を含むことができる。(メタ)アクリル系樹脂以外の他の重合体及び添加剤の例示は、第1の樹脂層と同様である。
第2の樹脂層中のメタクリル系樹脂(M-RS)以外の1種以上の他の(メタ)アクリル系樹脂及び/又は1種以上の他の重合体の種類と含有量は、第2の樹脂層が、配向複屈折値が正である条件を充足する範囲内において、決定できる。第2の樹脂層中のメタクリル系樹脂(M-RS)の量(複数種の場合は、合計量)は、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、最も好ましくは100質量%である。第2の樹脂層中の1種以上の他の(メタ)アクリル系樹脂及び/又は1種以上の他の重合体の量(複数種の場合は、合計量)は、好ましくは10質量%以下、より好ましくは5質量%以下、最も好ましくは0質量%である。第2の樹脂層中の添加剤の好ましい含有量は、第1の樹脂層と同様である。
他の(メタ)アクリル系樹脂、他の重合体、及び添加剤の添加タイミングは、メタクリル系樹脂(M-RS)の重合時でも重合後でもよい。
【0097】
(他の層)
本開示の逆波長分散性光学フィルムは、必要に応じて、第1の樹脂層及び第2の樹脂層以外に、1つ以上の他の層を有していてもよい。他の層としては、熱可塑性樹脂、熱硬化樹脂、エネルギー線硬化樹脂、又はこれらの組合せを含む樹脂層;無機層;樹脂と無機材料とを含む有機無機複合層等が挙げられる。他の樹脂層は、表層でも内層でもよい。
【0098】
本開示の逆波長分散性光学フィルムは、必要に応じて、1つ以上の機能層を有することができる。機能層としては、ハードコート層(耐擦傷性層とも言う。)、防眩(アンチグレア)層、反射防止層、スティッキング防止層、光拡散層、静電気防止層、防汚層、及び微粒子を含む易滑性層等が挙げられる。第1の樹脂層と第2の樹脂層との間、又は、第1の樹脂層又は第2の樹脂層と他の層との間に、接着層又は粘着層を配置してもよい。層間密着性又は層間接着性の向上のために、第1の樹脂層又は第2の樹脂層と他の層との間に、アンダーコート層を配置してもよい。
【0099】
ハードコート層の材料としては、無機系、有機系、有機無機系、及びシリコーン系等が挙げられ、生産性の観点から、有機系及び有機無機系が好ましい。ハードコート層の厚さは特に制限されず、好ましくは0.5~30μm、より好ましくは1~20μm、特に好ましくは1.5~15μmである。
【0100】
無機系ハードコート層は例えば、SiO2、Al2O3、TiO2、及びZrO2等の金属酸化物等の無機材料を、真空蒸着及びスパッタリング等の気相成膜で成膜することにより形成できる。
有機系ハードコート層は、1種以上の硬化性化合物を含む硬化性組成物を塗工し、加熱又は電離放射線照射により硬化することにより形成できる。硬化性化合物としては、モノマー、オリゴマー、プレポリマー、及び硬化性樹脂が挙げられる。
加熱により硬化する硬化性化合物としては、ポリエステル樹脂、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、アミノアルキッド樹脂、メラミン樹脂、グアナミン樹脂、尿素樹脂、及び熱硬化性アクリル樹脂等の熱硬化性樹脂が挙げられる。
電離放射線照射により硬化する硬化性化合物としては、分子中にラジカル重合性不飽和基を持つオリゴマー及びプレポリマーが挙げられる。具体的には、エポキシ(メタ)アクリレート系、ウレタン(メタ)アクリレート系、ポリエーテル系ウレタン(メタ)アクリレート、カプロラクトン系ウレタン(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート系、及びポリエーテル(メタ)アクリレート系等のオリゴマー及びプレポリマー等が挙げられる。
電離放射線は、電磁波及び荷電粒子線のうち、分子を重合又は架橋し得るエネルギー量子を有するものであり、具体的には、紫外線(UV)、電子線(EB)、X線、及びγ線等の電磁波;α線、β線、及びイオン線等の荷電粒子線等が挙げられる。
【0101】
有機無機系ハードコート層は例えば、表面に光重合反応性官能基が導入されたシリカ超微粒子等の無機超微粒子と硬化性有機成分とを含む紫外線硬化性ハードコート塗料を塗工し、紫外線照射により硬化性有機成分と無機超微粒子の光重合反応性官能基とを重合反応させることにより形成することができる。この方法では、無機超微粒子が、有機マトリックスと化学結合した状態で有機マトリックス中に分散した網目状の架橋膜が得られる。
【0102】
シリコーン系ハードコート層は例えば、カーボンファンクショナルアルコキシシラン、アルキルトリアルコキシシラン、及びテトラアルコキシシラン等の部分加水分解物、又はこれらにコロイダルシリカを配合した材料を重縮合させることにより形成することができる。
【0103】
硬化性組成物の塗工方法としては、ディップコート、グラビアロールコート等の各種ロールコート、フローコート、ロッドコート、ブレードコート、スプレーコート、ダイコート、及びバーコート等が挙げられる。
【0104】
[逆波長分散性光学フィルムの製造方法]
本開示の逆波長分散性光学フィルムは、共押出成形法(多層押出成形法とも言う。)、多層ブロー成形法、及び多層射出成形法等の公知の多層成形法により製造できる。
第1の樹脂層及び第2の樹脂層のうちの一方の樹脂層からなる単層フィルムを用意し、この単層フィルムに対して、他方の樹脂層を積層してもよい。他方の樹脂層の積層方法としては、インサート成形;一方の樹脂層からなる単層フィルム上に、他方の樹脂層の材料を含む溶液を塗布し、乾燥又は硬化する方法;一方の樹脂層からなる単層フィルム上に、接着層又は粘着層を介して、他方の樹脂層からなる単層フィルムを貼り合わせる方法;一方の樹脂層からなる単層フィルムと他方の樹脂層からなる単層フィルムとを(熱)圧着する多層圧着成形法等が挙げられる。
本開示の逆波長分散性光学フィルムが第1の樹脂層及び第2の樹脂層以外の他の樹脂層を含む場合も、上記と同様の製造方法を適用できる。
【0105】
第1の樹脂層からなる単層フィルムは、未延伸フィルム、一軸延伸フィルム、及び二軸延伸フィルムのいずれでもよい。同様に、第2の樹脂層からなる単層フィルムは、未延伸フィルム、一軸延伸フィルム、及び二軸延伸フィルムのいずれでもよい。
本開示の逆波長分散性光学フィルムは、一態様において、第1の樹脂層がメタクリル系樹脂(M-α)を含む第1の一軸又は二軸延伸フィルムからなり、第2の樹脂層がメタクリル系樹脂(M-RS)又はポリカーボネート系樹脂(PC)を含む第2の一軸又は二軸延伸フィルムからなることができる。
第1の樹脂層がメタクリル系樹脂(M-α)を含む第1の一軸延伸フィルムからなり、第2の樹脂層がメタクリル系樹脂(M-RS)又はポリカーボネート系樹脂(PC)を含む第2の一軸延伸フィルムからなる場合、第1の樹脂層の一軸延伸方向と第2の樹脂層の一軸延伸方向との関係は特に制限されず、互いに略垂直又は略平行であることができる。
本明細書において、特に明記しない限り、「略垂直」とは、完全な垂直方向±10°の範囲を意味し、「略平行」とは、完全な平行方向±10°の範囲を意味する。
【0106】
上記態様の逆波長分散性光学フィルムの製造方法は、
メタクリル系樹脂(M-α)を含む第1の一軸又は二軸延伸フィルムを用意する工程と、
メタクリル系樹脂(M-RS)又はポリカーボネート系樹脂(PC)を含む第2の一軸又は二軸延伸フィルムを用意する工程と、
第1の一軸又は二軸延伸フィルムと第2の一軸又は二軸延伸フィルムとを重ね、(熱)圧着する工程とを有することができる。
本明細書において、(熱)圧着は、常温圧着及び熱圧着の総称である。
【0107】
単層フィルムの製造方法としては、溶液キャスト法、溶融流延法、押出成形法、インフレーション成形法、ブロー成形法、及びカレンダー法等が挙げられる。透明性;靭性、表面硬度、及び剛性等の機械的特性;取扱い性等が良好なフィルムが得られることから、溶液キャスト法及び押出成形法等が好ましく、押出成形法がより好ましい。押出成形法の中でも、表面平滑性、鏡面光沢、及び低ヘイズのフィルムが得られることから、Tダイ法が好ましい。
【0108】
以下、Tダイ法について、説明する。
メタクリル系樹脂(M-α)を含み、必要に応じて1種以上の任意成分を含む第1の樹脂層用の樹脂材料は、押出機を用いて、溶融混練され、幅広の吐出口を有するTダイから溶融状態で押出される。押出機としては、単軸押出機、二軸押出機、多軸押出機、及びこれらの組合せ等が挙げられる。樹脂材料の溶融温度は、メタクリル系樹脂(M-α)のガラス転移温度(Tg)より高い温度であり、好ましくは160~270℃、より好ましくは220~260℃である。着色抑制の観点から、ベントを使用して減圧下で、又は窒素気流下で、溶融混練を行うことが好ましい。
【0109】
異物除去のために、押出前に、溶融樹脂はフィルタを用いて溶融濾過することが好ましい。溶融濾過した溶融樹脂を用いて製膜することにより、異物及びゲルに起因する欠点の少ない未延伸フィルムが得られる。フィルタの濾材は、使用温度、粘度、及び濾過精度等により適宜選択される。例えば、グラスファイバー等からなる不織布;フェノール樹脂含浸セルロース製のシート状物;金属繊維不織布焼結シート状物;金属粉末焼結シート状物;金網;及びこれらの組合せ等が挙げられる。中でも耐熱性及び耐久性の観点から、金属繊維不織布焼結シート状物を複数枚積層したフィルタが好ましい。フィルタの濾過精度は特に制限されず、好ましくは30μm以下、より好ましくは15μm以下、特に好ましくは5μm以下である。
フィルムの厚み精度を高めるために、押出成形ラインに、ギアポンプを設置して製膜を行ってもよい。
【0110】
Tダイからフィルム状に押出された溶融状態の樹脂は、複数の冷却ロールを用いて冷却される。冷却ロールとしては、金属剛性ロール及び金属弾性ロール等が挙げられる。
金属剛性ロールは、ステンレス鋼等の金属からなる弾性を有さないロールであり、ドリルドロール及びスパイラルロール等が挙げられる。表面平滑性の高い未延伸フィルムを製膜できることから、金属剛性ロールの表面は、鏡面であることが好ましい。
金属弾性ロールは、外周部に金属製薄膜からなる弾性外筒を備えたロールである。金属弾性ロールは例えば、ステンレス鋼等からなる金属製軸ロールと、この軸ロールの外周面を覆うステンレス鋼等からなる金属製薄膜(弾性外筒)と、これら軸ロール及び金属製薄膜(弾性外筒)との間に封入された流体とからなり、流体の存在により弾性を示すことができる。流体としては、水及び油等が挙げられる。
金属弾性ロールの金属製薄膜の厚みは特に制限されず、好ましくは2~8mm程度である。金属製薄膜は、屈曲性及び可撓性等を有することが好ましく、溶接継ぎ部のないシームレス構造であるのが好ましい。このような金属製薄膜を備えた金属弾性ロールは、耐久性に優れると共に、金属製薄膜を鏡面化すれば通常の鏡面ロールと同様の取扱いができ、表面平滑性の高い未延伸フィルムを製膜できる。
冷却後に得られた第1の樹脂層からなる単層フィルム(未延伸フィルム)は、引取りロールによって引き取られる。以上の押出、冷却、及び引取りの工程は、連続的に実施される。
【0111】
溶液キャスト法では、メタクリル系樹脂(M-α)を含み、必要に応じて1種以上の任意成分を含む第1の樹脂層用の樹脂材料に、公知の1種以上の有機溶媒を加えて樹脂溶液を得、この溶液を支持体上に流延し、加熱乾燥して、第1の樹脂層からなる単層フィルム(未延伸フィルム)を製造できる。
【0112】
第1の樹脂層からなる単層フィルム(未延伸フィルム)と同様の方法で、第2の樹脂層からなる単層フィルム(未延伸フィルム)を製造できる。
第1の樹脂層からなる単層フィルム(未延伸フィルム)及び第2の樹脂層からなる単層フィルム(未延伸フィルム)の厚みは特に制限されず、好ましくは10~300μmである。第1の樹脂層からなる単層フィルム(未延伸フィルム)及び第2の樹脂層からなる単層フィルム(未延伸フィルム)のヘイズは特に制限されず、100μm厚の条件において、好ましくは0.7%以下、より好ましくは0.5%以下、特に好ましくは0.3%以下である。
【0113】
延伸工程は公知方法にて実施でき、好ましくは、予熱工程(加熱工程とも言う。)、延伸工程、熱固定工程、及び冷却工程を順次有することができる。熱固定工程と冷却工程との間に、弛緩工程を実施してもよい。これらの工程は、連続的に実施してもよいし、非連続的に実施してもよい。延伸工程によって、フィルムの耐熱性及び機械的強度が高まり、耐熱性、耐衝撃性、及び取扱い性等が良好なフィルムを得ることができる。
【0114】
予熱工程は、未延伸フィルムを、延伸工程の温度に予熱する工程である。
延伸工程における延伸方法は特に制限なく、一軸延伸法、同時二軸延伸法、逐次二軸延伸法、及びチュブラー延伸法等が挙げられ、同時二軸延伸法及び逐次二軸延伸法等が好ましい。
延伸工程における延伸温度は、構成樹脂のガラス転移温度(Tg)に対して、好ましくは+10~+55℃、より好ましくは+10~+40℃である。
延伸工程において、延伸方向の延伸倍率は、好ましくは2.0~4.0倍、より好ましくは2.2~4.0倍である。ここで言う「延伸方向」は、フィルムの長手方向(フィルムの進行方向、MD(Machine Direction))又はフィルムの幅方向(フィルムの進行方向に対して垂直方向、TD(Transverse Direction))である。二軸延伸法では、各延伸方向の延伸倍率が、好ましくは2.0~4.0倍、より好ましくは2.2~4.0倍である。
延伸温度及び延伸倍率が上記範囲内であると、延伸時にフィルムの破断が生じることなく、安定的に延伸フィルムを製造でき、耐熱性及び機械的強度の向上が可能となる。
【0115】
熱固定工程は、延伸工程後に得られた延伸フィルムを所定の温度範囲条件にてフィルムの少なくとも一方向の両端を拘束した状態で一定の温度範囲内に所定時間保持する工程である。熱固定工程を実施することで、耐熱性及び機械的強度の向上効果が得られる。
弛緩工程は、延伸フィルムを弛緩する工程である。弛緩工程を実施することで、延伸フィルムの熱収縮を小さくし、寸法安定性を向上できる場合がある。
冷却工程は、延伸フィルムを常温(20~25℃)まで冷却する工程である。
その後、必要に応じて延伸フィルムの幅方向の両端部を除去するトリミング工程を実施してもよい。最後に、必要に応じて、延伸フィルムを巻取りロールに巻き取る巻取工程を実施する。本開示の延伸フィルムは、熱収縮が小さく寸法安定性に優れるため、巻き皺、巻きずれ、及び巻き締まり等が抑制され、巻取りを問題無く実施できる。
以上のようにして、一軸又は二軸延伸フィルムが製造される。
第1の一軸又は二軸延伸フィルムと第2の一軸又は二軸延伸フィルムとの(熱)圧着等の積層は、公知方法にて行うことができる。
【0116】
本開示の逆波長分散性光学フィルムは、共押出成形フィルムであってもよい。共押出成形では、各層の構成樹脂はそれぞれ押出機を用いて溶融混練され、所望の積層構造の形態で、幅広の吐出口を有するTダイからフィルム状の形態で共押出される。積層方式としては、Tダイ流入前に積層するフィードブロック方式、及びTダイ内部で積層するマルチマニホールド方式等が挙げられる。層間の界面平滑性を高める観点から、マルチマニホールド方式が好ましい。Tダイから共押出された溶融状態の熱可塑性樹脂積層体は、複数の冷却ロールを用いて加圧及び冷却される。冷却後に得られた積層構造のフィルムは、一対の引取りロールによって引き取られる。以上の押出、冷却、及び引取りの工程は、連続的に実施される。
なお、本明細書では、主に加熱溶融状態のものを「熱可塑性樹脂積層体」と表現し、固化したものを「熱可塑性樹脂積層フィルム」と表現しているが、両者の間に明確な境界はない。
なお、共押出成形工程においては、引取りロール速度を調整して、一軸延伸配向を制御することが可能である。
本明細書において、特に明記しない限り、「延伸処理」は、フィルム成形後の延伸処理を意味する。「未延伸フィルム」は、成形後の延伸処理を施されていないフィルムである。
本開示の逆波長分散性光学フィルムは、共押出成形等により得られた未延伸の積層フィルムを一軸又は二軸延伸した延伸フィルムであってもよい。
【0117】
以上説明したように、本開示によれば、可視光域内の広い波長域で、面内のリターデーション値(Re値)の絶対値を高精度に所望範囲内(例えば、1/4波長又はそれに近い範囲内)にできる逆波長分散性光学フィルムを提供することができる。
【0118】
[用途]
本開示の逆波長分散性光学フィルムは、任意の用途に使用でき、液晶ディスプレイ及び有機エレクトロルミネセンス(EL)ディスプレイ等の画像表示装置等に用いられる各種光学フィルムとして好適である。本開示の逆波長分散性光学フィルムは例えば、位相差フィルム(1/4波長板等)、偏光子の視野角による色シフトを低減する偏光子補償フィルム(視野角補償フィルム)、及びリターデーション付きの偏光子保護フィルム等の光学フィルムとして好適である。
本開示の逆波長分散性光学フィルムは上記用途において、公知の偏光子と組み合わせて使用することができる。この場合、偏光子の片面又は両面に、必要に応じて接着層又は粘着層を介して、本開示の逆波長分散性光学フィルムを積層することができる。
【0119】
本開示の逆波長分散性光学フィルムはまた、液晶保護フィルム、携帯型情報端末の表面材、携帯型情報端末の表示窓保護フィルム、導光フィルム、銀ナノワイヤ及びカーボンナノチューブ等の導電材を表面に塗布した透明導電フィルム、及び各種ディスプレイの前面フィルム等の光学フィルムとしても好適である。
本開示のフィルムは透明性及び耐熱性に優れるため、赤外線カットフィルム、防犯フィルム、飛散防止フィルム、加飾フィルム、シュリンクフィルム、及びインモールドラベル用フィルム等の、光学用途以外のフィルムとしても使用できる。
【0120】
本開示のフィルムは、圧空成形、真空成形、及び三次元表面加飾成形(Three dimension Overlay Method:TOM成形)等の二次成形に供してもよい。任意材質及び任意形状の基材上に、本開示のフィルムを積層して、積層体を得ることができる。
本開示のフィルム及び積層体は、家具、壁紙、ペンダントライト、及びミラー等のインテリア部品;ドア、サッシ、ドーム、安全窓ガラス、間仕切り、階段腰板、バルコニー腰板、及びレジャー用建築物の屋根等の建築用部品;広告塔、スタンド看板、袖看板、欄間看板、及び屋上看板等の看板部品又はマーキングフィルム;ショーケース、仕切板、及び店舗ディスプレイ等のディスプレイ部品;蛍光灯カバー、ムード照明カバー、ランプシェード、光天井、光壁、及びシャンデリア等の照明部品;航空機風防、パイロット用バイザー、オートバイ風防、モーターボート風防、バス用遮光板、自動車用サイドバイザー、リアバイザー、ヘッドウィング、ヘッドライトカバー、自動車内装部材、及びバンパー等の自動車外装部材等の輸送機関係部品;携帯電話及びパソコン等の電子機器部品;テレビ保護マスク等の各種家電部品;太陽電池のバックフィルム、及びフレキシブル太陽電池用フロントフィルム等の太陽電池用部品;音響映像用銘板、ステレオカバー;自動販売機;保育器、及びレントゲン部品等の医療機器部品;時計パネル、機械カバー、計器カバー、実験装置、文字盤、及び観察窓等の機器関係部品;道路標識、案内板、カーブミラー、及び防音壁等の交通関係部品;バスタブ等の浴室部材、サニタリー部材;温室、大型水槽、箱水槽;定規、及びデスクマット等の文具;遊技部品、玩具、楽器;熔接時の顔面保護用マスク等の表面に設けられる加飾フィルム兼保護フィルム等の任意の用途に使用できる。
【実施例0121】
本発明に係る実施例及び比較例について説明する。
[評価項目及び評価方法]
評価項目及び評価方法は、以下の通りである。
(重合転化率)
重合転化率は、ガスクロマトグラフィーにより求めた。島津製作所社製「ガスクロマトグラフGC-14A」に、カラムとしてGL Sciences Inc.社製「INERTCAP1」(膜厚0.4μm、内径0.25mmφ、長さ60m)を繋いだ。下記条件で分析を行い、得られたデータから重合転化率を算出した。
インジェクション温度:250℃、
検出器温度:250℃、
温度プロファイル:60℃で5分間保持→昇温速度10℃/分で250℃まで昇温→250℃で10分間保持。
【0122】
(重量平均分子量(Mw))
重量平均分子量(Mw)は、GPC(ゲル浸透クロマトグラフィ)により求めた。測定装置として、東ソー社製のGPC装置「HLC-8320」を用いた。分離カラムとして、東ソー社製の「TSKguardcolumSuperHZ-H」と「TSKgelHZM-M」と「TSKgelSuperHZ4000」とを直列に連結したものを用いた。検出器として、示差屈折率検出器(RI検出器)を用いた。
測定対象樹脂4mgをテトラヒドロフラン5mlに溶解させて試料溶液を調製した。カラムオーブンの温度を40℃に設定した。溶離液としてテトラヒドロフランを用い、溶離液流量を0.35ml/分とし、試料溶液20μlを装置内に注入して、クロマトグラムを測定した。分子量が400~5,000,000の範囲内にある標準ポリメタクリル酸メチル(PMMA)10点のGPC測定を行い、保持時間と分子量との関係を示す検量線を作成した。この検量線に基づいて、測定対象樹脂の標準PMMA換算のMwを決定した。
【0123】
(MMA-αMSt-St共重合体の単位組成)
測定モード:逆ゲート付きデカップリング法の条件にて、MMA-αMSt-St共重合体の13C-NMRスペクトルを測定した。メタクリル酸メチル(MMA)単位に含まれるカルボニル炭素に由来するピークと、α-メチルスチレン(αMSt)単位に含まれる1位の芳香族炭素に由来するピークと、スチレン単位(St)に含まれる1位の芳香族炭素に由来するピークとを特定した。これらピークの積分値をそれぞれ求め、それらの比からMMA-αMSt-St共重合体の単位組成を求めた。
【0124】
(イミド化率)
核磁気共鳴装置(Bruker社製「ULTRA SHIELD 400 PLUS」)を用いて、グルタルイミド樹脂の1H-NMR測定を行い、下記2つのピークを特定した。
N-メチルグルタルイミド単位のN-CH3基に含まれるプロトンに由来するピーク(δ=3.0~3.3ppm付近)、
メタクリル酸メチル(MMA)単位のO-CH3基に含まれるプロトンに由来するピーク(δ=3.5~3.8ppm付近)。
上記2つのピークの積分値をそれぞれ求め、下記式に基づいてイミド化率(モル%)を求めた。
[イミド化率](モル%)=[SG/(SM+SG)]×100
上記式中、SMはMMA単位に由来するピークの積分値であり、SGはN-メチルグルタルイミド単位に由来するピークの積分値である。
各単位の分子量を用いてイミド化率(モル%)を「質量%」に換算して、N-メチルグルタルイミド単位の含有量(質量%)を求めた。
【0125】
(ガラス転移温度(Tg))
測定対象樹脂のガラス転移温度(Tg)を、JIS K7121に準拠して、示差走査熱量測定装置(島津製作所社製「DSC-50」)を用いて、測定した。測定対象樹脂10mgをアルミパンに入れ、上記装置にセットした。30分以上窒素置換を行った後、10ml/分の窒素気流中、一旦室温(20~25℃)から250℃まで20℃/分の速度で昇温し、5分間保持し、室温まで冷却した(1次走査)。次いで、10℃/分の速度で200℃まで昇温し(2次走査)、DSC曲線を測定した。2次走査で得られたDSC曲線から求められる中間点ガラス転移温度をガラス転移温度(Tg)とした。
【0126】
(耐熱性)
各実施例及び比較例において、最終的に得られたフィルム(積層フィルム又は単層フィルム)を構成する1種以上の樹脂のうちTgの最も高い樹脂のTgによって、フィルムの耐熱性を評価した。下記基準にて評価した。ここで、TgHは、構成樹脂のうち、Tgの最も高い樹脂のTgである。
良好(○):TgHが140℃以上であった。
可(△):TgHが135℃以上140℃未満であった。
不良(×):TgHが135℃未満であった。
【0127】
(最終的に得られたフィルムのRe値とその波長分散性)
各実施例及び比較例において、最終的に得られたフィルム(積層フィルム又は単層フィルム)の中央部から、幅20mm、長さ40mmの試験片を切り出した。
デジタルマイクロメーターを用いて、各試験片の中央部の厚み(d)を測定した
王子計測機器社製の自動複屈計「KOBRA-WR」を用いて、測定波長450nm、550nm、及び650nmの条件で、各試験片の中央部の屈折率を測定し、下記式に基づいて各波長における面内のリターデーション値(Re値)を求めた。
Re(λ)=(nx-ny)×d
ここで、λは測定光の波長(nm)、nxは面内の遅相軸方向の屈折率、nyは面内の進相軸方向の屈折率、dはフィルムの厚み(nm)である。
Re(450)/Re(550)及びRe(650)/Re(550)をそれぞれ算出し、Re値の波長分散性を下記基準にて評価した。
0<(Re(450)/Re(550))<1.00<(Re(650)/Re(550))を充足するサンプルを可(△)と判定し、それ以外のサンプルを不良(×)と判定した。
さらに、可(△)と判定されたサンプルのうち、下記式(1)及び(2)を充足するサンプルを、良好(○)と判定した。
0.70≦(Re(450)/Re(550))≦0.95・・・(1)
1.05≦(Re(650)/Re(550))≦1.60・・・(2)
【0128】
(各樹脂層の配向複屈折値)
第1の樹脂からなる未延伸の第1の単層フィルム及び/又は第2の樹脂からなる未延伸の第2の単層フィルムを熱プレス成形した実施例及び比較例では、各未延伸の単層フィルムについて、フィルムの中央部から、幅20mm、長さ40mmの試験片を切り出した。
共押出成形フィルムを製造した実施例及び比較例では、熱圧着成形フィルムを製造した実施例及び比較例に記載の方法と同様の方法で、第1の樹脂からなる未延伸の第1の単層フィルム(1.0mm厚)と第2の樹脂からなる未延伸の第2の単層フィルム(1.0mm厚)とを熱プレス成形した。これら未延伸の単層フィルムについて、それぞれ、フィルムの中央部から、幅20mm、長さ40mmの試験片を切り出した。
各例において、以下のようにして、試験片(未延伸の熱プレス成形単層フィルム片)を一軸延伸した。試験片を加熱チャンバー付きオートグラフ(SHIMADZU社製)にセットした。チャック間距離は20mmとした。ガラス転移温度(Tg)+10℃の温度で3分間保持した後、3mm/分の速度で一軸延伸した。延伸率は100%とした。この条件では、延伸後のチャック間距離は40mmとなる。延伸後の試験片を23℃に冷却し、上記装置から取り外した。
上記の「最終的に得られたフィルムのRe値とその波長分散性」の評価に記載の方法と同様の方法で、得られた一軸延伸フィルム片のRe(550)を求めた。さらに、配向複屈折値として、Re(550)を試験片の厚み(d)で除した値を求めた。
【0129】
(延伸性)
最終的に熱圧着成形積層フィルム又は熱プレス成形単層フィルムを製造した各実施例及び比較例では、延伸工程を実施しなかった以外は同様の方法で、熱圧着成形又は熱プレス成形により、各例で最終的に製造した積層フィルム又は単層フィルムと同じ構造の未延伸の積層フィルム又は単層フィルムを得た。
各例において、最終的に製造したのと同じ構造の未延伸の積層フィルム又は単層フィルムから、80mm×80mmの試験片を切り出した。バッチ式延伸機を用い、温度:TgH+20℃、延伸倍率:縦2倍×横2倍の条件にて、二軸延伸を実施した。ここで、TgHは、構成樹脂のうち、Tgの最も高い樹脂のTgである。
得られた二軸延伸フィルムの無作為に選んだ9箇所の厚みをデジタルマイクロメーターで測定し、平均厚み及び標準偏差を求め、下記基準にて評価した。
良好(○):延伸後の厚みの標準偏差が平均厚みの1/4未満であった。
可(△):延伸後の厚みの標準偏差が平均厚みの1/4以上1/2未満であった。
不良(×):延伸後の厚みの標準偏差が平均厚みの1/2以上であった。
【0130】
(延伸後の耐衝撃性)
上記の「延伸性」の評価で得られた二軸延伸フィルムの耐衝撃性を、JIS 7211に準拠して、評価した。東洋精機社製のフィルムインパクトテスターを用いて、延伸後の積層フィルムの面衝撃値(J)(破壊に要するエネルギー)を測定した。この測定値を積層フィルムの厚み(μm)で除して、単位厚み当たりの面衝撃値(単位厚み当たりの破壊エネルギー)(N)を求め、下記基準にて評価した。
良好(○):単位厚み当たりの面衝撃値が8kN以上であった。
可(△):単位厚み当たりの面衝撃値が4kN以上8kN未満であった。
不良(×):単位厚み当たりの面衝撃値が4kN未満であった。
【0131】
[製造例PE1]
撹拌機付オートクレーブに、精製されたメタクリル酸メチル(MMA)(MMA)88質量部、α-メチルスチレン(αMSt)12質量部、連鎖移動としてのn-オクチルメルカプタン(n-OM)0.025質量部、及び、重合開始剤としての2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオニトリル)(AIBN)400ppmを仕込み、均一に溶解させて、重合原料を得た。この重合原料中に窒素ガスを吹き込み、溶存酸素濃度を3ppmとした。
次いで、ブライン冷却凝縮器を備えた連続流通式槽型反応器を用意し、この内部を窒素ガスで置換した。この反応器内に、上記重合原料を、平均滞留時間が3時間となるように1.5kg/hrの流量で連続的に供給し、重合温度120℃で塊状重合させ、反応器からMMA-αMSt共重合体を含む液を連続的に排出した。なお、反応器内の圧力は、ブライン冷却凝縮器に接続された圧力調整弁によって調整した。重合転化率は40%であった。
次いで、反応器から排出された液を230℃に加熱し、240℃に調整された二軸押出機に供給した。未反応単量体を主成分とする揮発分を分離除去した。樹脂をストランド状に押出し、ペレタイザーでカットして、メタクリル系樹脂(MMA88-αMSt12)のペレットを得た。得られた樹脂の単位組成とガラス転移温度(Tg)と配向複屈折値とを表1に示す。
【0132】
[製造例PE2~PE4]
重合原料中の単量体組成を変更し、必要に応じて連鎖移動剤(n-OM)及び/又は重合開始剤(AIBN)の量を調整し、必要に応じて重合温度及び/又は平均滞留時間を調整した以外は、製造例PE1と同様にして、メタクリル系樹脂(MMA100)、(MMA77.58-αMSt17.5-St5)、(MMA60-αMSt35-St5)を得た。得られた樹脂の単位組成とガラス転移温度(Tg)と配向複屈折値とを表1、表2に示す。
【0133】
【0134】
【0135】
[製造例PE11](グルタルイミド樹脂の製造)
輸送部、溶融混練部、脱揮部、及び排出部を有する二軸押出機(テクノベル社製「KZW20TW-45MG-NH-600」)を用意した。反応ゾーンのスクリューの末端にリバースフライトを設置し、スクリュー回転数を120rpm及び温度を250℃に設定した。この二軸押出機の輸送部に、前駆体樹脂としてメタクリル系樹脂(MMA88-αMSt12)を2kg/hrの流量で供給し、イミド化剤としてモノメチルアミンを0.10kg/hrの流量で、二軸押出機の添加剤供給口から注入した。ニーディングブロックを含む溶融混練部内で、上記前駆体樹脂と上記イミド化剤とを反応させた。得られた溶融樹脂から、脱揮部において、副生成物及び過剰のイミド化剤を揮発させ、ベントを通して排出した。なお、脱揮部内の圧力は、20Torr(約2.7kPa)に設定した。二軸押出機の排出部の末端に設けられたダイスから溶融樹脂をストランド状に押出し、水槽で冷却し、ペレタイザーでカットして、ペレット状のメタクリル系樹脂(MMA79-αMSt12-GI9)を得た。得られた樹脂の単位組成とガラス転移温度(Tg)と配向複屈折値とを表3に示す。
【0136】
[製造例PE12](グルタルイミド樹脂の製造)
二軸押出機のスクリュー回転数を100rpm及び温度を230℃に設定し、二軸押出機の輸送部に前駆体樹脂としてメタクリル系樹脂(MMA88-αMSt12)を1kg/hrの流量で供給し、イミド化剤として炭酸ジメチル80質量%及びトリエチルアミン20質量%の混合液を0.024kg/hrの流量で、二軸押出機の添加剤供給口から注入した以外は製造例PE11と同様の方法で、ペレット状のメタクリル系樹脂(MMA48-αMSt12-GI40)を得た。得られた樹脂の単位組成とガラス転移温度(Tg)と配向複屈折値とを表3に示す。
【0137】
[製造例PE13](グルタルイミド樹脂の製造)
前駆体樹脂としてメタクリル系樹脂(MMA77.5-αMSt17.5-St5)を用い、イミド化剤として、モノメチルアミンを0.15kg/hrの流量で、炭酸ジメチル80質量%及びトリエチルアミン20質量%の混合液を0.036kg/hrの流量で、二軸押出機の添加剤供給口から注入した以外は、製造例PE11と同様の方法で、ペレット状のメタクリル系樹脂(MMA60-αMSt17-St5-GI18)を得た。得られた樹脂の単位組成とガラス転移温度(Tg)と配向複屈折値とを表3に示す。
【0138】
[製造例PE14](グルタルイミド樹脂の製造)
前駆体樹脂として(MMA60-αMSt35-St5)を用い、イミド化剤として、モノメチルアミンを0.23kg/hrの流量で、炭酸ジメチル80質量%及びトリエチルアミン20質量%の混合液を0.054kg/hrの流量で、二軸押出機の添加剤供給口から注入した以外は、製造例PE11と同様の方法で、ペレット状のメタクリル系樹脂(MMA30-αMSt35-St5-GI30)を得た。得られた樹脂の単位組成とガラス転移温度(Tg)と配向複屈折値とを表3に示す。
【0139】
[製造例PEC21~23](グルタルイミド樹脂の製造)
前駆体樹脂の種類と流量、イミド化剤の種類と流量のうちのいずれかの条件を変更した以外は製造例PE11~14と同様の方法で、ペレット状のメタクリル系樹脂(MMA48-αMSt5-GI47)、(MMA30-αMSt45-St5-GI20)、(MMA30-αMSt5-St5-GI60)を得た。得られた樹脂の単位組成とガラス転移温度(Tg)と配向複屈折値とを表4に示す。
【0140】
【0141】
【0142】
[グルタルイミド樹脂の用意]
メタクリル系樹脂(MMA30-GI70)として、ポリプラ・エボニック社製「PLEXIMID TT50」を用意した。得られた樹脂の単位組成とガラス転移温度(Tg)と配向複屈折値とを表5に示す。
【0143】
[製造例PE31](グルタルイミド樹脂の製造)
前駆体樹脂としてメタクリル系樹脂(MMA100)を用い、モノメチルアミンを0.69kg/hrの流量で、炭酸ジメチル80質量%及びトリエチルアミン20質量%の混合液を0.15kg/hrの流量で、二軸押出機の添加剤供給口から注入した以外は、製造例PE11と同様の方法で、ペレット状のメタクリル系樹脂(MMA55-GI45)を得た。得られた樹脂の単位組成とガラス転移温度(Tg)と配向複屈折値とを表5に示す。
【0144】
【0145】
[製造例PEC41、42](グルタルイミド樹脂の製造)
前駆体樹脂の流量及び/又はイミド化剤の流量を変更した以外は製造例PE31と同様の方法で、ペレット状のメタクリル系樹脂(MMA65-GI35)、(MMA20-GI80)を得た。得られた樹脂の単位組成とガラス転移温度(Tg)と配向複屈折値とを表6に示す。
【0146】
【0147】
[ポリカーボネート系樹脂(PC)の用意]
以下のポリカーボネート系樹脂(PC)を用意した。
(PC1)住化ポリカーボネート社製「SDポリカ(登録商標)(SS2023)」、ガラス転移温度(Tg):150℃、配向複屈折値:79.2×10-4。
【0148】
[実施例E1、E2、E4、比較例EC3、EC4、EC6]
熱プレス成形機(東洋精機社製)を用い、温度240℃の条件で、表7又は表9に示す第1の樹脂を熱プレス成形して、0.4mm厚の第1の単層フィルムを得た。単層フィルムの厚みは、0.4mm厚のスペーサーを用いることで調整した。「各樹脂層の配向複屈折値」の評価に記載の方法に従って、得られた第1の単層フィルムから、20mm×40mmの第1のフィルム片を切り出し、一軸延伸を行い、得られた第1の一軸延伸フィルム片のRe(550)及び配向複屈折値を求めた。
【0149】
上記と同様の方法で、表7又は表9に示す第2の樹脂を熱プレス成形して、0.2mm厚の第2の単層フィルムを得た。得られた第2の単層フィルムから、20mm×40mmの第2のフィルム片を切り出し、一軸延伸を行い、い、得られた第2の一軸延伸フィルム片のRe(550)及び配向複屈折値を求めた。
【0150】
第1の一軸延伸フィルム片の一軸延伸方向と第2の一軸延伸フィルム片の一軸延伸方向とが互いに垂直となる条件で、第1の一軸延伸フィルム片と第2の一軸延伸フィルム片とを重ね、上記熱プレス成形機を用い、温度240℃の条件で熱圧着して、積層フィルムL1、L2、L4、LC3、LC4、LC6を得た。これら積層フィルムは、熱圧着成形フィルムとも言う。
主な製造条件と評価結果を表7~表10に示す。これらの表の各例において、表に不記載の条件は共通条件とした。これらの表において、Tgの単位は「℃」、厚みT1、T2及び総厚みの単位は「μm」、Re(550)の単位は「nm」である。
【0151】
[実施例E3、E5、比較例EC2、EC5、EC7]
表7又は表9に示す第1の樹脂と第2の樹脂とを用い、第1の一軸延伸フィルム片の一軸延伸方向と第2の一軸延伸フィルム片の一軸延伸方向とが互いに平行となる条件で、第1の一軸延伸フィルム片と第2の一軸延伸フィルム片とを重ね、熱圧着した以外は実施例E1と同様にして、積層フィルムL3、L5、LC2、LC5、LC7を得た。これら積層フィルムは、熱圧着成形フィルムとも言う。
主な製造条件と評価結果を表7~表10に示す。
【0152】
[実施例E6、比較例EC8、EC9]
軸径30mmφの単軸押出機に表7又は表9に示す第1の樹脂のペレットを連続的に投入し、シリンダ温度220℃にて溶融状態で押出した。軸径50mmφの単軸押出機に表7又は表9に示す第2の樹脂のペレットを連続的に投入し、シリンダ温度280℃にて溶融状態で押出した。溶融状態のこれらの樹脂を、ジャンクションブロックに導入し、250℃に設定したマルチマニホールドダイ内で積層し、Tダイから、2層構造の熱可塑性樹脂積層体を共押出した。この熱可塑性樹脂積層体を互いに隣接する第1冷却ロールと第2冷却ロールとの間に挟み込み、第2冷却ロールに巻き掛け、第2冷却ロールと第3冷却ロールとの間に挟み込み、第3冷却ロールに巻き掛けることにより冷却した。冷却後に得られたフィルムを一対の引取りロールによって引き取った。以上のようにして、50μm厚の第1の樹脂層と75μm厚の第2の樹脂層との2層構造の積層フィルムL6、LC8、LC9を得た。これら積層フィルムは、共押出成形フィルムとも言う。なお、これらの例では、引取りロール速度を調整して、一軸延伸配向を制御した。
主な製造条件と評価結果を表7~表10に示す。
【0153】
[比較例EC1]
温度240℃の条件で、表9に示す第1の樹脂を熱プレス成形して、0.4mm厚の第1の単層フィルムを得た。「各樹脂層の配向複屈折値」の評価に記載の方法に従って、得られた第1の単層フィルムから、20mm×40mmの第1のフィルム片を切り出し、一軸延伸を行い、第1の樹脂層のみからなる単層フィルムLC1を得た。この単層フィルムは、熱プレス成形フィルムとも言う。
主な製造条件と評価結果を表9、表10に示す。
【0154】
【0155】
【0156】
【0157】
【0158】
[結果のまとめ]
実施例E1~E6では、メタクリル酸メチル(MMA)単位20~90質量%とα-メチルスチレン(αMSt)単位40~10質量%とを有するメタクリル系樹脂(M-α)を含み、配向複屈折値が負である第1の樹脂層と、主鎖に、酸無水物単位、環構造を含むイミド単位、及びラクトン環単位からなる群より選ばれる1種以上の環構造単位(R)40~75質量%を有するメタクリル系樹脂(M-RS)、又は、ポリカーボネート系樹脂(PC)を含み、配向複屈折値が正である第2の樹脂層とを有する積層フィルムを製造した。
得られた積層フィルムはいずれも、総厚みが50~300μmであり、第2の樹脂層の厚み(T2)に対する第1の樹脂層の厚み(T1)の比(T1/T2)が0.5~4.0であった。
【0159】
これら実施例ではいずれも、Re値が式(1)及び(2)を充足する良好な逆波長分散性を有する逆波長分散性光学フィルムが得られた。
1/4波長板(λ/4板)等の位相差フィルム用である場合、Re(450)/Re(550)の理想値は、450/550=約0.81であり、Re(650)/Re(550)の理想値は、650/550=約1.18である。これら実施例ではいずれも、Re(450)/Re(550)及びRe(650)/Re(550)が理想値又はそれに近い範囲内である逆波長分散性光学フィルムが得られた。
【0160】
1/4波長板(λ/4板)におけるRe(550)の理想値は、550/4nm(=137.5nm)である。これら実施例ではいずれも、Re(550)がλ/4板のRe(550)が理想値又はそれに近い範囲内であり、λ/4板として好適な逆波長分散性光学フィルムが得られた。
【0161】
これら実施例ではいずれも、可視光域内の広い波長域(少なくとも450~650nmの波長域)で、Re値を1/4波長(λ/4)又はそれに近い範囲内にでき、λ/4板等の位相差フィルムとして好適な高精度な逆波長分散性光学フィルムが得られた。
また、これら実施例で採用した樹脂層の組合せはいずれも、耐熱性、延伸性、及び延伸後の耐衝撃性が良好であった。
【0162】
比較例EC1では、メタクリル酸メチル(MMA)単位20~90質量%とα-メチルスチレン(αMSt)単位40~10質量%とを有するメタクリル系樹脂(M-α)を含み、配向複屈折値が負である第1の樹脂層のみからなる単層フィルムを製造した。
【0163】
比較例EC2、4~6では、メタクリル酸メチル(MMA)単位とα-メチルスチレン(αMSt)単位とを有するメタクリル系樹脂(M-α)を含み、配向複屈折値が負である第1の樹脂層と、主鎖に環構造単位(R)を有するメタクリル系樹脂(M-RS)を含み、配向複屈折値が正である第2の樹脂層とを有する積層フィルムを製造した。これら比較例では、第2の樹脂層の構成樹脂中の環構造単位(R)の含有量が40~75質量%の範囲外であった。
【0164】
比較例EC7~9では、メタクリル酸メチル(MMA)単位とα-メチルスチレン(αMSt)単位とを有するメタクリル系樹脂(M-α)を含む第1の樹脂層と、主鎖に環構造単位(R)を有するメタクリル系樹脂(M-RS)を含む第2の樹脂層とを有する積層フィルムを製造した。これら比較例では、第1の樹脂層の構成樹脂中のα-メチルスチレン(αMSt)単位の含有量が40~10質量%の範囲外であり、第1の樹脂層と第2の樹脂層の配向複屈折値がいずれも正であった。
【0165】
比較例EC1、2、4~9で得られた積層フィルムはいずれも、式(1)、又は、式(1)及び(2)を充足することができず、Re値の波長分散性が良くなかった。特に比較例EC4、8、9で得られた積層フィルムは、光の波長が短くなる程、Re値が大きくなる順波長分散性を有し、Re値の波長分散性が不良であった。
【0166】
比較例EC3では、メタクリル酸メチル(MMA)単位20~90質量%とα-メチルスチレン(αMSt)単位40~10質量%とを有するメタクリル系樹脂(M-α)を含み、配向複屈折値が負である第1の樹脂層と、主鎖に、酸無水物単位、環構造を含むイミド単位、及びラクトン環単位からなる群より選ばれる1種以上の環構造単位(R)40~75質量%を有するメタクリル系樹脂(M-RS)を含み、配向複屈折値が正である第2の樹脂層とを有する積層フィルムを製造した。得られた積層フィルムは、総厚みが50~300μmであり、第2の樹脂層の厚み(T2)に対する第1の樹脂層の厚み(T1)の比(T1/T2)が0.5~4.0であった。この比較例で得られた積層フィルムは、逆波長分散性を有していたが、Re(550)の理想値からのずれが大きく、波長に対するRe値の傾きが小さかった。
【0167】
比較例EC1~9で得られた積層フィルムは、Re(550)が110~310nmであった。比較例EC1~9では、Re(550)、Re(450)/Re(550)、及びRe(650)/Re(550)のうちの1つ以上について、理想値からのずれが大きく、良好な逆波長分散性を有し、λ/4板等の位相差フィルムとして好適な高精度な逆波長分散性光学フィルムが得られなかった。
【0168】
以下の比較例で得られた積層フィルムは、Re値の波長分散性の不良に加えて、以下の点でも劣っていた。
比較例EC1で採用した樹脂層は、単独では厚みが薄く、延伸性及び延伸後の耐衝撃性が不良であった。耐熱性も不良であった。
比較例EC2、5では、第2の樹脂層の構成樹脂中の環構造単位(R)の含有量が40質量%未満であり、耐熱性が良くなかった。
比較例EC8では、第1の樹脂層の構成樹脂中のα-メチルスチレン(αMSt)単位の含有量が40質量%超であり、この比較例で採用した樹脂層の組合せは、延伸後の耐衝撃性が不良であった。
【0169】
本発明は上記実施形態及び実施例に限定されず、本発明の趣旨を逸脱しない限りにおいて、適宜設計変更が可能である。