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特開2024-172124共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172124
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器
(51)【国際特許分類】
   H10N 60/10 20230101AFI20241205BHJP
   H10N 60/12 20230101ALI20241205BHJP
   H03B 7/08 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
H10N60/10 K ZAA
H10N60/12 Z
H03B7/08
【審査請求】未請求
【請求項の数】2
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089652
(22)【出願日】2023-05-31
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用申請有り 令和5年2月27日に公益社団法人応用物理学会より発行された「2023年第70回応用物理学会春季学術講演会講演予稿集」の「11超伝導|11.4アナログ応用および関連技術」の10-060頁において発表した。
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、ムーンショット型研究開発事業「超伝導SISミキサを用いた低雑音マイクロ波増幅器の開発」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】301022471
【氏名又は名称】国立研究開発法人情報通信研究機構
(71)【出願人】
【識別番号】504261077
【氏名又は名称】大学共同利用機関法人自然科学研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100095337
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100174425
【弁理士】
【氏名又は名称】水崎 慎
(74)【代理人】
【識別番号】100203932
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 克宗
(72)【発明者】
【氏名】川上 彰
(72)【発明者】
【氏名】鵜澤 佳徳
(72)【発明者】
【氏名】牧瀬 圭正
【テーマコード(参考)】
4M113
【Fターム(参考)】
4M113AA04
4M113AA14
4M113AA25
4M113AC44
4M113AC45
4M113AC50
4M113AD01
4M113CA13
(57)【要約】
【課題】共振器一体型ジョセフソン素子のアレイ化により高い発振出力を取得可能で、かつ、小型化を可能とする共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器を提供する。
【解決手段】λ/2の線路長のマイクロストリップ線路の中央にジョセフソン素子3を配置した第1~第4共振器一体型ジョセフソン素子21~24を集中定数電極4にて数珠繋ぎに接続する。正極側の直流バイアス供給ライン51と負極側の直流バイアス供給ライン52を介して第1~第4共振器一体型ジョセフソン素子21~24に適宜な直流電圧VDCを印加することで、第1~第4共振器一体型ジョセフソン素子21~24が一体となったマイクロストリップ共振器として機能し、全てのジョセフソン素子3を位相同期させた合成出力が得られる共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器1A~1Cとなる。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロストリップ線路の線路内波長がλであるλ/2共振器の中央にジョセフソン素子を配置した共振器一体型ジョセフソン素子と、
複数の前記共振器一体型ジョセフソン素子を数珠繋ぎに連結する集中定数電極と、
前記共振器一体型ジョセフソン素子に交流ジョセフソン効果を生じさせるように、各共振器一体型ジョセフソン素子に直流電圧を印加する直流電圧印加手段と、
を備え、
前記集中定数電極で連結した隣接する前記共振器一体型ジョセフソン素子の定在波を連続させ、全ての前記ジョセフソン素子を位相同期させた合成出力が得られるようにしたことを特徴とする共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器。
【請求項2】
複数の前記共振器一体型ジョセフソン素子は、前記集中定数電極で折り返してミアンダ状に最密配置したことを特徴とする請求項1に記載の共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半波長共振器と発振器の機能を併せ持つ共振器一体型ジョセフソン素子をアレイ化して高い発振出力を取得可能で、かつ、小型化が可能な共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
量子コンピュータにおける量子ビットの状態読出し方法として、量子ビットと共振器を結合させ、状態に応じて共振周波数が変化することを利用した分散読出し手法が用いられている。この時、マイクロ波帯にある共振周波数の変化を微弱なマイクロ波で計測するため、非常に低雑音のマイクロ波増幅器が必要となる。これまでに試作されている量子コンピュータにおいては、少量子ビット数であることから、初段増幅器として10mK動作のジョセフソンパラメトリック増幅器が、次段には4K動作の半導体増幅器(例えば、HEMT:High Electron Mobility Transistor)が主に用いられてきた。しかし、半導体増幅器の典型的な消費電力は10mW程度あり、量子コンピュータの構成部品として望ましくない発熱量である。すなわち、量子コンピュータの機能を維持するために利用できる冷却能力は有限であるから、量子ビット数の増大に対応させて半導体増幅器を増やしてしまうと、より高い冷却能力が必要となり、量子コンピュータ開発の明確な障害となる。
【0003】
そこで、半導体増幅器に代わる新たな増幅器として、超伝導SIS(Superconductor-Insulator-Superconductor)ミキサを用いたマイクロ波増幅器が検討されている。これはSISミキサが有する周波数変換利得を利用したマイクロ波増幅器で、極低雑音と小型・低消費電力が期待されている。しかし、その動作にはミリ波局部発振源が必要である。小型・低消費電力の発振源を導入・集積できれば、極低雑音で小型・低消費電力のマイクロ波増幅器が実現すると考えられる。
【0004】
超伝導SISミキサを用いたマイクロ波増幅器では、発振周波数100GHz付近で数μWの発振出力を必要としており、この発振周波数領域において数十mWの発振出力を得られる半導体発振器(ガン発振器:Gunn Oscillator)が既に市場にある。しかし、半導体増幅器は数Wの消費電力が必要であり、冷凍機への負担が大きく、SISミキサと局部発振源を集積した“マイクロ波増幅器チップ”の実現は困難である。なお、半導体発振器を超伝導SISミキサと一体化せず、室温で半導体発振器に発振させ、極低温下の超伝導SISミキサへ導入する場合、多数のミリ波伝送線が必要になるため、やはり熱流入などの問題が懸念されることから、超伝導SISミキサ用の局部発振源として望ましいとはいえない。
【0005】
また、長大なジョセフソン接合(ジョセフソン線路)を用いた超伝導発振器で、ジョセフソン接合内に侵入した磁束量子が、バイアス電流によりローレンツ力を受けて生じる運動と、交流ジョセフソン効果により生成されて線路内を伝搬する電磁波とが同期した際に生じる増幅作用を利用して発振するフラックスフロー発振器(Flux Flow Oscillator)が提案されている(例えば、非特許文献1を参照)。フラックスフロー発振器は広帯域の発振が可能で、数μWの発振出力が報告されている。しかし、発振素子に低特性インピーダンスのジョセフソン線路を用いていることから、発振器の出力インピーダンスも数Ω以下と低く、負荷(SISミキサ)との整合が困難である。更に、ジョセフソン線路に磁束量子を侵入させるための外部磁場が必要で、磁場生成用配線が必要になり、熱流入の問題が生じる。したがって、フラックスフロー発振器も超伝導SISミキサ用の局部発振源として望ましいとはいえない。
【0006】
さらに、ジョセフソン素子自身が、交流ジョセフソン効果に基づく電圧制御型の発振器であることが知られている。しかし、ジョセフソン接合(以下、単に「JJ」とよぶ。)1個当たりの発振出力は数十nWと微弱であり、超伝導SISミキサ用の局部発振源として望ましいとはいえない。
【0007】
そこで、複数のJJを位相同期させて出力合成し、十分な発振出力を得られる共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器が提案されている(例えば、非特許文献2を参照)。共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器では、分布定数線路で形成した線路共振器内の半波長毎にJJを配置、共振器内に生成される定在波に各JJの発振位相を同期させ、発振出力の位相合成を実現するものである。以下、共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器の詳細を図5に基づき説明する。
【0008】
図5は、共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器101構造を示した模式図である。ジョセフソンアレイ共振器を形成するマイクロストリップ線路102(例えば、Nb)には、正極側の直流バイアス供給ラインBL1と負極側の直流バイアス供給ラインBL2より直流定電圧が印加される。また、マイクロストリップ線路102には、λ/2(λは、目的とする発振周波数の波長であり、設計周波数を100GHzに設定してSiO2 を誘電体に用いた場合、線路内波長λは約1416μmである。)毎にジョセフソン素子103(例えば、Nb/AlOx/Nbトンネル接合により形成)が設けられる。マイクロストリップ線路102の一方端は、λ/4スタブとしてグランドプレーンGPに接続された終端となり、マイクロストリップ線路102の他方端は、λ/4インピーダンス整合器として発振出力の取出部となる。
【0009】
アレイ発振器を構成するマイクロストリップ線路102は、1μm厚のSiOの誘電体層(図示省略)によって、グランドプレーンGP(例えば、Nb)から分離されている。なお、マイクロストリップ線路102の幅は20μmであり、特性インピーダンスは9Ω程度である。また、ジョセフソン発振のために使用される直流バイアス供給ラインBL1,BL2において、マイクロストリップ線路102に接続されるバイアス線は、アレイ発振器からの発振出力を遮断するための高周波遮断フィルタとして機能する2μm幅および20μm幅のマイクロストリップ線路で形成される。
【0010】
共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器101の出力を検出するための検出器104は、狭いCuマイクロストリップ線路で形成された整合負荷104aを有し、Cuマイクロストリップ線路と同じ特定インピーダンスの狭い検出用マイクロストリップ線路104bを介して共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器101の取出部に接続される。この検出器104においても、検出用マイクロストリップ線路104bに発振出力検出用ジョセフソン素子104cを設け、発振器から高周波電流を測定する。発振出力検出用ジョセフソン素子104cは、検出用バイアス供給ライン104d1,104d2より直流給電を行う。
【0011】
検出器104における狭い検出用マイクロストリップ線路104bの特性インピーダンスは約38Ωであり、共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器101を構成するマイクロストリップ線路102との結合部でインピーダンスの不整合が生じる。共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器101で生成された電力は内部に蓄積されるが、インピーダンスの不整合により漏れた電力が出力電力として使用可能となる。よって、マイクロストリップ線路102と狭い検出用マイクロストリップ線路104bとの結合部におけるインピーダンス不整合により取り出された発振出力を、検出器104により検出することで、共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器101に設けるジョセフソン素子103の数に応じて、高い発振出力を得られることが検証できた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】N.V.Kinev,K.I.Rudakov,L.V.Filippenko,A.M.Baryshev,V.P.Koshelets,“Flux-flow Josephson oscillator as the broadband tunable terahertz source to openspace”,J.Appl.Phys.125,151603,2019
【非特許文献2】A.Kawakami,Y.Uzawa,Z.Wang,“Josephson Array Oscillators with Microstrip Resonators”,IEEE TRANSACTIONS ON APPLIED SUPERCONDUCTIVITY,VOL7,NO.2,JUNE 1997,P.3126-3129
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、非特許文献2に記載の共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器は、JJの数を増やすことで発振出力を高めることができる反面、JJの数と同数の半波長共振器を直線状に結合した構造となるために、マイクロストリップの線路長が長くなってしまう。例えば、設計周波数を100GHzとした共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器に31個のJJを設ける場合、発振器長は約22mmとなってしまい、数ミリ角のチップサイズに構成することはできない。すなわち、非特許文献2に記載の共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器では、JJの数を増やして発振出力を高めることと、JJの数を減らして素子寸法を縮小することが、トレードオフの関係となってしまう。
【0014】
そこで、本発明は、共振器一体型ジョセフソン素子のアレイ化により高い発振出力を取得可能で、かつ、小型化を可能とする共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記の課題を解決するために、本発明に係る共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器は、マイクロストリップ線路の線路内波長がλであるλ/2共振器の中央にジョセフソン素子を配置した共振器一体型ジョセフソン素子と、複数の前記共振器一体型ジョセフソン素子を数珠繋ぎに連結する集中定数電極と、前記共振器一体型ジョセフソン素子に交流ジョセフソン効果を生じさせるように、各共振器一体型ジョセフソン素子に直流電圧を印加する直流電圧印加手段と、を備え、前記集中定数電極で連結した隣接する前記共振器一体型ジョセフソン素子の定在波を連続させ、全ての前記ジョセフソン素子を位相同期させた合成出力が得られるようにしたことを特徴とする。
【0016】
また、前記構成において、複数の前記共振器一体型ジョセフソン素子は、前記集中定数電極で折り返してミアンダ状に最密配置してもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器によれば、共振器一体型ジョセフソン素子の数に応じた高出力を得られると共に、個々の共振器一体型ジョセフソン素子を任意の向きに配置することで小型化を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】(A)は本実施形態に係る共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器の第1構成例を示す概略構成図である。(B)は本実施形態に係る共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器の第2構成例を示す概略構成図である。(C)は本実施形態に係る共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器の第3構成例を示す概略構成図である。
図2】(A)は従来の共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器の概略構成図である。(B)は図2(A)の共振器内に生ずる定在波の電圧特性図である。(C)は図2(A)の共振器内に生ずる定在波の電流特性図である。
図3】第3構成例の共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器の素子レイアウト図である。
図4】(A)は共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器のI-V特性図である。(B)は検出器におけるジョセフソン素子のI-V特性図である。
図5】従来の共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器の構成要素を示した模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器の実施形態を、添付図面に基づいて詳細に説明する。図1(A)に示すのは、第1構成例の共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器1Aの概略構成であり、図1(B)に示すのは、第2構成例の共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器1Bの概略構成であり、図1(C)に示すのは、第3構成例の共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器1Cの概略構成であり、何れも複数(例えば、4つ)の共振器一体型ジョセフソン素子2を備える。これら共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器1A~1Cは、超伝導SISミキサと同じ超低温下にて動作する。
【0020】
共振器一体型ジョセフソン素子2は、λ/2共振器(λは線路内波長であり、例えば、共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器1Aの設計周波数に基づき定める。)を構成するマイクロストリップ線路の中央にジョセフソン素子3を配置した構造であり、半波長共振器と発振器の機能を併せ持つ。便宜上、ジョセフソン素子3の一方に連なるλ/4の線路長のマイクロストリップ線路部分を正極側線路部2a、ジョセフソン素子3の他方に連なるλ/4の線路長のマイクロストリップ線路部分を負極側線路部2bとよぶ。また、図1(A)に示す共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器1Aにおける4つの共振器一体型ジョセフソン素子2は、それぞれ区別する必要がある場合、第1共振器一体型ジョセフソン素子21、第2共振器一体型ジョセフソン素子22、第3共振器一体型ジョセフソン素子23、第4共振器一体型ジョセフソン素子24とよぶ。
【0021】
先ず、第1構成例の共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器1Aについて説明する。共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器1Aでは、各共振器一体型ジョセフソン素子2が、集中定数電極4により一直線状に連結されている。この集中定数電極4は、第1~第4共振器一体型ジョセフソン素子21~24を数珠繋ぎに連結する配線で、接続箇所が全て同じ電圧と看做し得る。例えば、第1共振器一体型ジョセフソン素子21の正極側線路部2aと第2共振器一体型ジョセフソン素子22の正極側線路部2aを集中定数電極4により連結し、第2共振器一体型ジョセフソン素子22の負極側線路部2bと第3共振器一体型ジョセフソン素子23の負極側線路部2bを集中定数電極4により連結し、第3共振器一体型ジョセフソン素子23の正極側線路部2aと第4共振器一体型ジョセフソン素子24の正極側線路部2aを集中定数電極4により連結することで、第1~第4共振器一体型ジョセフソン素子21~24各々の共振状態を共有できる。
【0022】
なお、共振器一体型ジョセフソン素子2における正極側線路部2aと負極側線路部2bは、どちらもMSL(Microstripline)としての構造は同じであるが、給電極性を特定するために呼び分けている。したがって、集中定数電極4で隣接する2つの共振器一体型ジョセフソン素子2を数珠繋ぎにする場合、必ず、正極側線路部2a同士または負極側線路部2b同士を接続する。また、集中定数電極4にて共振器一体型ジョセフソン素子2の正極側線路部2a同士または負極側線路部2b同士を接続する部位を各端部とすることで、接続された正極側線路部2aの各端部または負極側線路部2bの各端部は、全て同じ電圧と看做し得る。よって、第1~第4共振器一体型ジョセフソン素子21~24は必ずしも一直線状に配置する必要はなく、第1~第4共振器一体型ジョセフソン素子21~24が任意の角度を以て配置されていても、第1~第4共振器一体型ジョセフソン素子21~24各々の共振状態を共有できるのである。
【0023】
第1~第4共振器一体型ジョセフソン素子21~24に対して、正極側の直流バイアス供給ライン51(電位は+VDC/2)と負極側の直流バイアス供給ライン52(電位は-VDC/2)を介して直流電圧を印加する。例えば、第1共振器一体型ジョセフソン素子21の正極側線路部2aと第2共振器一体型ジョセフソン素子22の正極側線路部2aに対して、発振信号を通さない高周波遮断フィルタの機能を備える正極側第1配線51aを接続し、第1,第2共振器一体型ジョセフソン素子21,22にバイアス電圧(+VDC/2)を印加する。同様に、第3共振器一体型ジョセフソン素子23の正極側線路部2aと第4共振器一体型ジョセフソン素子24の正極側線路部2aに対して、高周波遮断フィルタの機能を備える正極側第2配線51bを接続し、第3,第4共振器一体型ジョセフソン素子23,24にバイアス電圧(+VDC/2)を印加する。一方、第1共振器一体型ジョセフソン素子21の負極側線路部2bに対しては、高周波遮断フィルタの機能を備える負極側第1配線52aを接続し、第2共振器一体型ジョセフソン素子22の負極側線路部2bと第3共振器一体型ジョセフソン素子23の負極側線路部2bに対しては、高周波遮断フィルタの機能を備える負極側第2配線52bを接続し、第4共振器一体型ジョセフソン素子24の負極側線路部2bに対しては、高周波遮断フィルタの機能を備える負極側第3配線52cを接続し、第1~第4共振器一体型ジョセフソン素子21~24を負極(-VDC/2)に接続する。これにより、第1~第4共振器一体型ジョセフソン素子21~24には、正極電位と負極電位の電位差に相当するバイアス電圧VDC(例えば、設計周波数100GHzの場合は、約0.21mV)が印加される。
【0024】
そして、直流バイアス供給ライン51,52を介して第1~第4共振器一体型ジョセフソン素子21~24の各ジョセフソン素子3に直流電圧を印加すると、交流ジョセフソン効果により、印加した直流電圧に比例した振動数(約484GHz/mV)の高周波振動電流を発生することができる。すなわち、直流バイアス供給ライン51,52は、各共振器一体型ジョセフソン素子2に交流ジョセフソン効果を生じさせるように、各共振器一体型ジョセフソン素子2に直流電圧を印加する直流電圧印加手段として機能する。なお、直流電圧印加手段としての機能を実現するために、直流バイアス供給ライン51には直流電源(図示省略)から直流が供給されている。
【0025】
上記のようにして、各共振器一体型ジョセフソン素子2を、交流ジョセフソン効果に基づく発振器として機能させ得ることができるものの、各共振器一体型ジョセフソン素子2のジョセフソン素子3より得られる発振出力は数十nWと微弱である。しかし、複数の共振器一体型ジョセフソン素子2のジョセフソン素子3からの発振出力を位相同期させ、出力合成すれば、ジョセフソン素子3の数に応じた大きな発振出力を得ることができる。本実施形態の共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器1Aでは、各共振器一体型ジョセフソン素子2が別構成であるが、各ジョセフソン素子3からの発振出力を位相同期させ、出力合成が可能である。以下、その原理を説明する。
【0026】
図2(A)に示す従来の共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器101においては、マイクロストリップ線路102や直流バイアス供給ラインBL1,BL2で構成した共振器内にジョセフソン素子103を複数個配置し、共振器内定在波に各ジョセフソン素子103を同期させることで、出力合成を可能とした。図2(B),(C)には、従来の共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器101における共振器内定在波の電圧および電流特性を示す。これより分かるように、各ジョセフソン素子103は、定在波における電流最大の位置に配置されており、発振出力の位相同期を可能にしている。また、隣接する2つのジョセフソン素子103,103の中間に当たる部位、すなわち、マイクロストリップ線路102のλ/2毎の部位に、電圧最大となる開放点OPが存在している。この開放点OPは、ちょうど電流がゼロとなる部位であり、各開放点OPでマイクロストリップ線路102をλ/2毎に切断しても、切断部を前述した集中定数電極4で接続し、電位を共有すれば、共振器内定在波に影響を与えない。
【0027】
例えば、図1(A)に示す共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器1Aにおいて、第1共振器一体型ジョセフソン素子21の負極側線路部2b(左端のMSL)に負荷(特性インピーダンスの大きい線路)を取り付けると、負荷に発振出力が流れ、接続された第1共振器一体型ジョセフソン素子21内の定在波振幅が減少する。ここで、ジョセフソン素子3と負荷との間に介在する負極側線路部2bはλ/4のインピーダンス整合器として働き、その上で、ジョセフソン素子3の出力インピーダンスと負荷とがインピーダンス整合するように各パラメータを設計してある。第1共振器一体型ジョセフソン素子21の定在波が消失に向かうと共振が維持できなくなるため、負極側線路部2bはλ/4インピーダンス整合器として働かなくなり、ジョセフソン素子3と負荷とはインピーダンス不整合となり、負荷に流れる発振出力は減少するとともに、負極側線路部2bの負荷接続端(図1(A)の左端)で反射が生じ、結果として共振を維持する方向に働く。そのため、定在波振幅が際限なく減少することはない。また、第1共振器一体型ジョセフソン素子21は、隣の第2共振器一体型ジョセフソン素子22と集中定数電極4で接続されているので、第2共振器一体型ジョセフソン素子22は第1共振器一体型ジョセフソン素子21の定在波を高める方向に作用する。しかし、第2共振器一体型ジョセフソン素子22からのエネルギーも、第1共振器一体型ジョセフソン素子21を経て負荷に流れ、結局は負荷により消費されてしまう。同様に、第3,第4共振器一体型ジョセフソン素子23,24のエネルギーも第1共振器一体型ジョセフソン素子21に接続された負荷に流れて消費される。このように、第1~第4共振器一体型ジョセフソン素子21~24で構成した共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器1Aは、全体として定在波が維持されると共に、ジョセフソン素子3の数に応じたエネルギーを負荷に供給できる。
【0028】
したがって、本実施形態の共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器1Aの如く、各共振器一体型ジョセフソン素子2の各ジョセフソン素子3にて電流最大となり、各共振器一体型ジョセフソン素子2の両端部にて電流ゼロとなる定在波を生じさせ、かつ、集中定数電極4にて連結された隣接する共振器一体型ジョセフソン素子2の定在波が連続するように、直流電圧印加手段としての直流バイアス供給ライン51,52より直流電圧を印加すれば、全ての共振器一体型ジョセフソン素子2が一体となったマイクロストリップ共振器として機能し、全てのジョセフソン素子3を位相同期させた合成出力が得られる。
【0029】
しかも、各共振器一体型ジョセフソン素子2の配置自由度を活かして、本実施形態の共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器1Bでは、図1(B)に示すように、第1~第4共振器一体型ジョセフソン素子21~24を略M字状に配置できる。或いは、図1(C)に示す共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器1Cのように、第1~第4共振器一体型ジョセフソン素子21~24を各集中定数電極4で折り返してミアンダ状に最密配置することもできる。
【0030】
発振周波数を100GHz、発振出力を1μWに設定、これを実現するジョセフソン素子3の数を31個とした第3構成例の共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器1Cの素子レイアウトを図3に示す。各共振器一体型ジョセフソン素子2は、線路幅36μm、特性インピーダンスが約5ΩのMSLによる半波長共振器の中央に1個のジョセフソン素子3を配置した構造である。同じ特性の共振器一体型ジョセフソン素子2を31個、集中定数電極4で接続し、直流バイアス供給ライン51,52により並列に直流バイアスする。
【0031】
31個の共振器一体型ジョセフソン素子2を最密配置した共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器1Cの構造を採用することにより、発振器面積を1.5mm×1.2mm程度に低減でき、従来構造の1/5以下に縮小することに成功した。共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器1Cからの出力は、線路幅4μm、特性インピーダンスが35ΩのMSLを介して検出器(図3中、右方向)に伝達される。検出器において、発振出力は発振出力検出用JJを通過し、銅製のマイクロストリップ線路による整合負荷で消費される。この整合負荷と測定した高周波電流値から、発振出力を導出することができる。
【0032】
図4(A)に、共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器1CのI-V特性を示し、図4(B)に、共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器1Cの発振出力を検出した時の検出器におけるジョセフソン素子のI-V特性を示す。図4(A)に示す共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器1CのI-V特性から、約210μV付近に、発振器MSL共振器との結合による明確な電流ステップを確認できる。そして、確認された電流ステップに電流バイアスすることで、発振出力が観測された。図4(B)は、共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器1Cに210μVを印加したときの検出器におけるジョセフソン素子のI-V特性を示し、0.21mV付近で約0.03mAのシャピロステップが確認できる。共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器1Cによるこの発振器動作は設計動作である。また、この時の発振出力は0.1μWと少ないものの、共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器1Cを構成するジョセフソン素子3のパラメータを最適化することで、設計動作時の発振出力を増大させることが可能である。
【0033】
上述した共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器1A~1Cは、共振器一体型ジョセフソン素子2の数に応じた高出力を得られると共に、個々の共振器一体型ジョセフソン素子2を任意の向きに配置することで小型化を可能にする。また、高出力と小型化を実現できる本実施形態の共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器1A~1Cは、マイクロ波増幅器用の超伝導SISミキサに好適であり、低雑音特性と共に小型・低消費電力性能を達成可能なマイクロ波増幅器の実現に大きく寄与できる。
【0034】
以上、本発明に係る共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器の実施形態を添付図面に基づいて説明したが、本発明は、この実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載の構成を変更しない範囲で、公知既存の等価な技術手段を転用することにより実施しても構わない。
【符号の説明】
【0035】
1A,1B,1C 共振器一体型ジョセフソンアレイ発振器
2 共振器一体型ジョセフソン素子
3 ジョセフソン素子
4 集中定数電極
51,52 直流バイアス供給ライン
図1
図2
図3
図4
図5