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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024017216
(43)【公開日】2024-02-08
(54)【発明の名称】ポリイミド系フィルム
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20240201BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20240201BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20240201BHJP
   C08L 79/04 20060101ALI20240201BHJP
【FI】
C08J5/18 CFG
C08G73/10 ZNM
C08K7/02
C08L79/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】12
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2022119714
(22)【出願日】2022-07-27
(71)【出願人】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】517366688
【氏名又は名称】ザイマージェン インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100104592
【弁理士】
【氏名又は名称】森住 憲一
(72)【発明者】
【氏名】霜山 岳呂
(72)【発明者】
【氏名】桜井 孝至
(72)【発明者】
【氏名】ホミャック,パトリック
(72)【発明者】
【氏名】ズームベルト,アーリヤン
(72)【発明者】
【氏名】ウー,ウェイ-チー
【テーマコード(参考)】
4F071
4J002
4J043
【Fターム(参考)】
4F071AA60X
4F071AB18
4F071AD01
4F071AD06
4F071AE17
4F071AF17
4F071AF20Y
4F071AF23
4F071AF30Y
4F071AF34Y
4F071AH12
4F071AH19
4F071BB02
4F071BC01
4F071BC12
4J002CM041
4J002DE146
4J002FA066
4J002FD016
4J002GQ00
4J002GT00
4J043PA06
4J043PC145
4J043PC146
4J043QB23
4J043QB26
4J043QB31
4J043RA05
4J043RA34
4J043SA06
4J043SA42
4J043SA54
4J043SB03
4J043TA22
4J043TB03
4J043UA121
4J043UA131
4J043UA132
4J043UB062
4J043UB402
4J043VA021
4J043VA022
4J043XA03
4J043XA16
4J043XB27
4J043XB35
4J043ZB11
4J043ZB47
(57)【要約】
【課題】光学特性に優れ、フィルム表面への衝撃により生じる底面応力を抑制できるポリイミド系フィルムを提供する。
【解決手段】本発明のポリイミド系フィルムは、ポリイミド系樹脂を含み、引張弾性率は7.6GPa超であり、全光線透過率は85%以上であり、黄色度は7.0以下である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリイミド系樹脂を含み、引張弾性率は7.6GPa超であり、全光線透過率は85%以上であり、黄色度は7.0以下である、ポリイミド系フィルム。
【請求項2】
圧縮弾性率は5.0GPa超である、請求項1に記載のポリイミド系フィルム。
【請求項3】
さらにナノファイバーを含む、請求項1又は2に記載のポリイミド系フィルム。
【請求項4】
動的粘弾性測定により得られるtanδ曲線において、温度20~300℃の範囲におけるtanδの最大値は0.5以下である、請求項1又は2に記載のポリイミド系フィルム。
【請求項5】
前記ポリイミド系樹脂は、式(1):
【化1】
[式(1)中、Xは2価の有機基を表し、Yは4価の有機基を表し、*は結合手を表す]
で表される構成単位を有し、Yとして、式(4):
【化2】
[式(4)中、R~Rは、互いに独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を表し、R~Rに含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、Vは、単結合、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-SO-、-S-、-CO-又は-N(R’)-を表し、R’は、水素原子、又はハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の1価の炭化水素基を表し、*は結合手を表す]
で表される構造を含む、請求項1又は2に記載のポリイミド系フィルム。
【請求項6】
前記ポリイミド系樹脂は、式(1):
【化3】
[式(1)中、Xは2価の有機基を表し、Yは4価の有機基を表し、*は結合手を表す]
で表される構成単位を有し、Xとして、非対称ジアミン由来の構造を含む、請求項1又は2に記載のポリイミド系フィルム。
【請求項7】
前記ナノファイバーの含有量は、前記ポリイミド系フィルムの質量に対して1~60質量%である、請求項3に記載のポリイミド系フィルム。
【請求項8】
ポリアミドイミド樹脂及び無機ナノファイバーを含む、ポリイミド系フィルム。
【請求項9】
前記無機ナノファイバーは、アルミナナノファイバーである、請求項8に記載のポリイミド系フィルム。
【請求項10】
請求項1又は8に記載のポリイミド系フィルムを備える、フレキシブル表示装置。
【請求項11】
さらに偏光板を備える、請求項10に記載のフレキシブル表示装置。
【請求項12】
さらにタッチセンサを備える、請求項10に記載のフレキシブル表示装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フレキシブル表示装置の材料等に使用されるポリイミド系フィルム、及び該ポリイミド系フィルムを備えるフレキシブル表示装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリイミド系フィルムは、有機ELや液晶等の表示装置、タッチセンサ、スピーカー、半導体など、種々の用途に用いられている。例えば、タッチセンサ基板材料としては、寸法安定性等を有する芳香族ポリイミド系フィルムや脂肪族ポリイミド系フィルムなどが知られている(例えば特許文献1及び2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005-336243号公報
【特許文献2】WO2019/156717号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
表示装置は、物体の衝突等により前面板に衝撃が加わると、装置内部に存在する有機ELや液晶等の表示素子にキズや割れが生じるおそれがある。そのため、前面板や、前面板と表示素子の間に存在する透明部材としてポリイミド系フィルムを用いる場合、視認側からのフィルム表面への衝撃を吸収し、フィルム底面への応力を抑制できる機能が要求される。さらに、このようなポリイミド系フィルムには、光学特性も要求される。しかし、本発明者の検討によれば、従来の良好な光学特性を有するポリイミド系フィルムは、フィルム表面に衝撃を受けた際に生じるフィルム底面への応力(底面応力ともいう)を十分に抑制できないことがわかった。
【0005】
したがって、本発明の目的は、光学特性に優れ、フィルム表面への衝撃により生じる底面応力を抑制できるポリイミド系フィルム、及び該ポリイミド系フィルムを備えるフレキシブル表示装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、ポリイミド系樹脂を含むポリイミド系フィルムにおいて、全光線透過率及び黄色度が、それぞれ85%以上及び7.0以下であり、かつ引張弾性率が7.6GPa超であると、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明には、以下の形態が含まれる。
【0007】
[1]ポリイミド系樹脂を含み、引張弾性率は7.6GPa超であり、全光線透過率は85%以上であり、黄色度は7.0以下である、ポリイミド系フィルム。
[2]圧縮弾性率は5.0GPa超である、[1]に記載のポリイミド系フィルム。
[3]さらにナノファイバーを含む、[1]又は[2]に記載のポリイミド系フィルム。
[4]動的粘弾性測定により得られるtanδ曲線において、温度20~300℃の範囲におけるtanδの最大値は0.5以下である、[1]~[3]のいずれかに記載のポリイミド系フィルム。
[5]前記ポリイミド系樹脂は、式(1):
【化1】
[式(1)中、Xは2価の有機基を表し、Yは4価の有機基を表し、*は結合手を表す]
で表される構成単位を有し、Yとして、式(4):
【化2】
[式(4)中、R~Rは、互いに独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を表し、R~Rに含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、Vは、単結合、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-SO-、-S-、-CO-又は-N(R’)-を表し、R’は、水素原子、又はハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の1価の炭化水素基を表し、*は結合手を表す]
で表される構造を含む、[1]~[4]のいずれかに記載のポリイミド系フィルム。
[6]前記ポリイミド系樹脂は、式(1):
【化3】
[式(1)中、Xは2価の有機基を表し、Yは4価の有機基を表し、*は結合手を表す]
で表される構成単位を有し、Xとして、非対称ジアミン由来の構造を含む、[1]~[5]のいずれかに記載のポリイミド系フィルム。
[7]前記ナノファイバーの含有量は、前記ポリイミド系フィルムの質量に対して1~60質量%である、[3]~[6]のいずれかに記載のポリイミド系フィルム。
[8]ポリアミドイミド樹脂及び無機ナノファイバーを含む、ポリイミド系フィルム。
[9]前記無機ナノファイバーは、アルミナナノファイバーである、[8]に記載のポリイミド系フィルム。
[10][1]~[9]のいずれかに記載のポリイミド系フィルムを備える、フレキシブル表示装置。
[11]さらに偏光板を備える、[10]に記載のフレキシブル表示装置。
[12]さらにタッチセンサを備える、[10]又は[11]に記載のフレキシブル表示装置。
【発明の効果】
【0008】
本発明のポリイミド系フィルムは、光学特性に優れ、フィルム表面への衝撃により生じる底面応力を抑制できる。そのため、フレキシブル表示装置の材料等として好適に使用できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
[ポリイミド系フィルム]
本発明のポリイミド系フィルムは、ポリイミド系樹脂を含み、引張弾性率が7.6GPa超であり、全光線透過率(Ttと称することがある)が85%以上であり、かつ黄色度(YIと称することがある)が7.0以下である。
【0010】
本発明者は、衝撃に対する底面応力に着目して検討を進めたところ、Ttが高くかつYIが低いポリイミド系フィルムにおいて、Tt及びYIをそれぞれ85%以上及び7.0以下に維持しつつ、引張弾性率を7.6GPa超に調整すれば、意外なことに、光学特性に優れるとともに、フィルム表面に衝撃を受けた際にフィルム底面にかかる底面応力を有効に抑制できることを見出した。これは、引張弾性率が7.6GPaを超えると、フィルム面内方向の応力歪みが小さくなるため、衝撃により特にフィルム厚み方向に伝わる力が吸収(又は緩和)されやすくなるからだと推定される。なお、本明細書において、光学特性とは、少なくとも全光線透過率(Tt)及び黄色度(YI)を含む光学的な特性を意味する。
【0011】
ポリイミド系フィルムの引張弾性率が7.6GPa以下であると、フィルム表面に衝撃を受けた際に生じる底面応力を十分に抑制できない傾向がある。本発明のポリイミド系フィルムの引張弾性率は、7.6GPa超、好ましくは8.0GPa以上、より好ましくは9.0GPa以上、さらに好ましくは9.5GPa以上、さらにより好ましくは10GPa以上であり、11GPa以上、12GPa以上、13GPa以上、14GPa以上、又は15GPa以上であってもよい。ポリイミド系フィルムの引張弾性率が上記の下限以上であると、フィルム表面に衝撃を受けた際に生じるフィルム底面の底面応力を有効に抑制できる。ポリイミド系フィルムの引張弾性率の上限は、特に限定されないが、通常100GPa以下であり、例えば50GPa以下であってもよい。引張弾性率は、精密万能試験機を用いて、引張速度;10mm/min、チャック間距離;50mmの条件で測定でき、例えば実施例に記載の方法により測定できる。なお、引張弾性率は、温度25℃、50%RHにおける値である。本明細書において、数値範囲の上限と下限とは、任意に組み合わせることができる。
【0012】
本発明の好適な一実施形態において、ポリイミド系フィルムは、圧縮弾性率が5.0GPa超であることが好ましい。圧縮弾性率が5.0GPa超であると、フィルム表面に衝撃を受けた際に生じるフィルム底面の底面応力を抑制する効果がさらに向上しやすい。これは、面内方向に加え、フィルム厚み方向の応力歪も小さくなるため、フィルム表面への衝撃に対して底面に伝わる力がより吸収されやすくなるからだと推定される。本発明のポリイミド系フィルムの圧縮弾性率は、好ましくは5.1GPa以上、より好ましくは5.3GPa以上、さらに好ましくは5.5GPa以上、さらにより好ましくは5.8GPa以上、特に好ましくは6.0GPa以上であり、6.1GPa以上、6.3GPa以上、又は6.5GPa以上であってもよい。ポリイミド系フィルムの圧縮弾性率が上記の下限以上であると、フィルム表面に衝撃を受けた際に生じるフィルム底面の底面応力をより有効に抑制しやすい。ポリイミド系フィルムの圧縮弾性率の上限は、特に限定されないが、通常80GPa以下であり、例えば40GPa以下であってもよい。圧縮弾性率は、押し込み硬さ試験機を用いて、試験荷重30mN、荷重印加時間15秒、荷重保持時間60秒の条件で、バーコヴィッチ圧子を使用して測定でき、例えば実施例に記載の方法により測定できる。なお、圧縮弾性率は、温度25℃、50%RHにおける値である。なお、本明細書において、弾性率とは、引張弾性率及び圧縮弾性率を含む意味である。
【0013】
本発明のポリイミド系フィルムの全光線透過率(Tt)は、85%以上であり、好ましくは86%以上、さらに好ましくは87%以上、さらにより好ましくは88%以上、特に好ましくは89%以上、特により好ましくは90%以上である。Ttが上記の下限以上であると、フィルムの光学特性、特に透明性を向上できる。ポリイミド系フィルムのTtの上限は通常100%以下である。本発明のポリイミド系フィルムは、高いTtを示すので、例えば、透過率の低いフィルムを用いた場合と比べて、一定の明るさを得るために必要な表示素子等の発光強度を抑えることが可能となり、消費電力を削減することができ、エネルギーの節約に貢献できる。また、Ttは、JIS K 7105:1981に準拠してヘーズコンピュータを用いて測定でき、例えば実施例に記載の方法により測定できる。また、本明細書において、Ttは、後述するポリイミド系フィルムの厚さの範囲における全光線透過率であってよく、ポリイミド系フィルムの厚さが、好ましくは30~80μm、より好ましくは35~70μm、さらに好ましくは40~60μm、さらにより好ましくは50μmであると仮定したときの全光線透過率であってよい。
【0014】
本発明のポリイミド系フィルムの黄色度(YI)は、7.0以下、好ましくは6.0以下、より好ましくは5.5以下、さらに好ましくは5.0以下であり、4.8以下、4.5以下、4.2以下、又は4.0以下であってよい。ポリイミド系フィルムのYIが上記の上限以下であると、ポリイミド系フィルムの光学特性、特に無色透明性を高めることができる。またYIの下限は通常-5以上であり、好ましくは-2以上である。なお、YIは、JIS K 7373:2006に準拠して、紫外可視近赤外分光光度計を用いて300~800nmの光に対する透過率測定を行い、3刺激値(X、Y、Z)を求め、YI=100×(1.2769X-1.0592Z)/Yの式に基づいて算出できる。例えば実施例に記載の方法により算出できる。
【0015】
本発明の好適な一実施形態において、本発明のポリイミド系フィルムは、低いヘーズを有することができる。本発明のポリイミド系フィルムのヘーズは、好ましくは3.0%以下、より好ましくは2.0%以下、さらに好ましくは1.5%以下、さらにより好ましくは1.2%以下、特に好ましくは1.0%以下であり、通常、0%以上である。ポリイミド系フィルムのヘーズが上記の上限以下であると、フィルムの光学特性、特に透明性を向上できる。なお、ヘーズは、JIS K 7136:2000に準拠して、ヘーズコンピュータ等を用いて測定できる。また、本明細書において、ヘーズは、後述するポリイミド系フィルムの厚さの範囲におけるヘーズであってよく、ポリイミド系フィルムの厚さが、好ましくは30~80μm、より好ましくは35~70μm、さらに好ましくは40~60μm、さらにより好ましくは50μmであると仮定したときのヘーズであってよい。なお、光学特性が向上する又は高まるとは、例えばTtが高くなること、YIが低くなること等を意味し、好ましくはTtが高くなること、YIが低くなること、ヘーズが低くなること等を意味する。
【0016】
上記の通り、ポリイミド系フィルムの引張弾性率、好ましくは引張弾性率及び圧縮弾性率が高いほど、フィルム表面への衝撃によりフィルム底面にかかる底面応力を抑制しやすい。また、光学特性が高いほど、YIが低減され、Ttが増加されるため、フィルムの無色透明性を向上しやすい。ポリイミド系フィルムの弾性率は、フィルムに含まれるポリイミド系樹脂を構成する構成単位の種類や構成比;フィルムの溶媒含有量;添加剤の種類及び含有量;樹脂の製造条件やモノマーの純度;フィルムの製造条件を適宜調整することにより上記範囲に調整してよい。特に、弾性率を向上しやすい樹脂の構成単位やその構成比を用いること;添加剤としてのナノファイバーの種類や含有量を調整すること等により、弾性率を上記範囲に調整してもよい。ポリイミド系フィルムの光学特性(Tt、YI及びヘーズ等)も、フィルムに含まれるポリイミド系樹脂を構成する構成単位の種類や構成比;フィルムの溶媒含有量;添加剤の種類及び含有量;樹脂の製造条件やモノマーの純度;フィルムの製造条件を適宜調整することにより上記範囲に調整してもよい。特に、光学特性を向上しやすい樹脂の構成単位やその構成比を用いること;添加剤としてのナノファイバーの分散性が向上するように調整すること等により、光学特性を上記範囲に調整してもよい。
【0017】
本発明の好適な一実施形態において、本発明のポリイミド系フィルムは、動的粘弾性測定により得られるtanδ曲線において、温度20~300℃の範囲におけるtanδの最大値が、好ましくは0.5以下、より好ましくは0.4以下、さらに好ましくは0.3以下、さらにより好ましくは0.25以下、特に好ましくは0.20以下であり、0.15以下、0.10以下、又は0.08以下であってもよい。tanδは、損失弾性率E”と貯蔵弾性率E’との比(E”/E’)を示す。tanδの最大値が上記の上限以下であると、フィルム表面に衝撃が加わった際に生じる底面応力を抑制しやすい。これは、温度20~300℃の範囲におけるtanδの最大値が低いと、フィルムの応力歪が小さくなるからだと推定される。ポリイミド系フィルムのtanδは動的粘弾性測定装置で、チャック間距離20mm、温度20~300℃、昇温速度3℃/min、周波数5Hz、歪み量0.03%の条件で測定でき、例えば実施例に記載の方法により測定できる。tanδの最大値は、フィルムに含まれるポリイミド系樹脂を構成する構成単位の種類及び構成比;フィルムの溶媒含有量;添加剤の種類及び含有量;樹脂の製造条件やモノマーの純度;フィルムの製造条件を適宜調整することにより上記範囲に調整してよい。特に、好ましい樹脂の構成単位及び/又は構成比に調整すること;添加剤としてのナノファイバーの分散性を向上させたり、ネットワーク構造を形成させるように調整すること等により、tanδの最大値を上記範囲としてもよい。
【0018】
本発明の好適な一実施形態において、本発明のポリイミド系フィルムは、耐屈曲性に優れている。ポリイミド系フィルムの屈曲半径R=1.5mmにおける屈曲回数は、好ましくは10,000回以上、より好ましくは50,000回以上、さらに好ましくは100,000回以上、さらにより好ましくは150,000回以上、特に好ましくは200,000回以上である。ポリイミド系フィルムの屈曲回数が上記の下限以上であると、ポリイミド系フィルムを繰り返し折り曲げてもフィルムの破損等を抑制しやすい。屈曲回数の上限は通常50,000,000回以下である。ポリイミド系フィルムの屈曲回数は、耐久屈曲性試験機を用いて、速度30rpm、面間距離3mmで測定でき、例えば実施例に記載の方法により測定できる。
【0019】
本発明において、フィルム底面の底面応力とは、ポリイミド系フィルムの表面側に衝撃を与えたときに、該表面側とは反対の底面側に伝わる(又は作用する)力を意味し、ペンドロップ試験により得られる底面応力(ペンドロップの底面応力とも称する)により評価できる。より詳細には、圧力測定フィルム上にポリイミド系フィルムを配置し、該ポリイミド系フィルム表面(圧力測定フィルム側とは反対の面)に所定の高さ(例えば5cm又は10cm)から市販のボールペン(5g程度)を落下させた後、加圧発色した圧力測定フィルムを、圧力画像回折システムを用いて解析し、得られる圧力をペンドロップの底面応力として評価できる。ペンドロップの底面応力は、例えば実施例に記載の方法により測定できる。なお、ボールペンを5cm及び10cmの高さから落下させて測定した底面応力を、それぞれ底面応力(5cm)及び底面応力(10cm)と示す。
【0020】
本発明の一実施形態において、本発明のポリイミド系フィルムのペンドロップの底面応力(5cm)は、好ましくは80MPa以下、より好ましくは78MPa以下、さらに好ましくは75MPa以下であり、下限は通常45MPa以上、好ましくは55MPa以上である。また、本発明のポリイミド系フィルムのペンドロップの底面応力(10cm)は、好ましくは85MPa以下、より好ましくは83MPa以下であり、下限は通常55MPa以上、好ましくは65MPa以上である。ペンドロップの底面応力が上記の上限以下であると、フィルム表面への衝撃により生じるフィルムの底面応力を抑制できる。そのため、例えば、ポリイミド系フィルムを、透明部材(例えばタッチセンサの基板材料)として用いる場合、物体の衝突等によりフィルム表面に衝撃を受けても、装置内部に存在する有機ELや液晶等の表示素子にキズや割れが生じるのを防止しやすい。なお、ペンドロップの底面応力は、後述するポリイミド系フィルムの厚さの範囲における底面応力であってよく、ポリイミド系フィルムの厚さが、好ましくは30~80μm、より好ましくは35~70μm、さらに好ましくは40~60μm、さらにより好ましくは50μmであると仮定したときの底面応力であってよい。
【0021】
本発明のポリイミド系フィルムの厚さは、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは15μm以上、さらにより好ましくは20μm以上、特に好ましくは30μm以上、特により好ましくは35μm以上、特にさらに好ましくは40μm以上、特にさらにより好ましくは45μm以上であり、好ましくは100μm以下、より好ましくは80μm以下、さらに好ましくは70μm以下、さらにより好ましくは60μm以下、特に好ましくは55μm以下である。ポリイミド系フィルムの厚さが上記の範囲であると、弾性率、耐屈曲性及び光学特性をバランスよく有しやすい。ポリイミド系フィルムの厚さは、厚さ計などで測定でき、例えば実施例に記載の方法により測定できる。
【0022】
<ポリイミド系樹脂>
本発明のポリイミド系フィルムは、ポリイミド系樹脂を含む。ポリイミド系樹脂とは、イミド基を含む繰返し構造単位を含有する樹脂(ポリイミド樹脂ともいう)、イミド基及びアミド基の両方を含む繰り返し構造単位を含有する樹脂(ポリアミドイミド樹脂ともいう)、並びに、アミド基を含む繰り返し構造単位を含有する樹脂(ポリアミド樹脂ともいう)を含む意味である。なお、本明細書において、「繰り返し構造単位」を「構成単位」ということがある。また、「由来の構成単位」を単に「単位」ということがあり、例えば化合物由来の構成単位を化合物単位などということがある。
【0023】
本発明の好適な一実施形態において、本発明のポリイミド系樹脂は、式(1):
【化4】
[式(1)中、Xは2価の有機基を表し、Yは4価の有機基を表し、*は結合手を表す]
で表される構成単位を有する。このような構成単位を有すると、フィルムの弾性率、耐屈曲性及び光学特性を高めやすい。
【0024】
式(1)中のXは、互いに独立に2価の有機基を表し、好ましくは炭素数2~40の2価の有機基を表す。2価の有機基としては、例えば2価の芳香族基、2価の脂肪族基等が挙げられ、2価の脂肪族基としては、例えば2価の非環式脂肪族基又は2価の環式脂肪族基が挙げられる。前記有機基は、有機基中の水素原子が炭化水素基又はフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよく、その場合、炭化水素基及びフッ素置換された炭化水素基の炭素数は好ましくは1~8である。本発明の一実施形態において、ポリイミド系樹脂はそれぞれ、複数種のXを含み得、複数種のXは、互いに同一であっても異なっていてもよい。これらの中でも、フィルムの弾性率、耐屈曲性及び光学特性を高めやすい観点から、2価の芳香族基が好ましい。なお、本明細書において、2価の芳香族基は芳香族基を有する2価の有機基であり、その構造の一部に脂肪族基又はその他の置換基を含んでいてもよい。2価の芳香族基が脂肪族基を含む場合、2価の芳香脂肪族基と称することがある。また、2価の脂肪族基は脂肪族基を有する2価の有機基であり、その構造の一部にその他の置換基を含んでいてもよいが、芳香族基は含まない。
【0025】
フィルムの弾性率、耐屈曲性及び光学特性を高めやすい観点から、ポリイミド系樹脂は、式(1)中のXとして、非対称ジアミン由来の構造(又は基)を含むことが好ましい。本発明の好適な一実施形態では、後述の通り、ポリイミド系フィルムに好ましくはナノファイバーを含む。ポリイミド系樹脂に式(1)中のXとして非対称ジアミン由来の構造を含むと、意外なことに、ポリイミド系樹脂中にナノファイバーが分散しやすくなり、光学特性を維持しつつ、弾性率を向上しやすい。
【0026】
非対称ジアミンは、構造的に対称でないジアミンであれば特に限定されず、非対称芳香族ジアミン又は非対称脂肪族ジアミンであってもよく、フィルムの光学特性を維持しつつ、弾性率及び耐屈曲性を向上しやすい観点からは、非対称芳香族ジアミンであることが好ましく、非対称芳香脂肪族ジアミンであることがより好ましい。本明細書において、「芳香族ジアミン」とは、芳香環を有するジアミンを表し、その構造の一部に脂肪族基又はその他の置換基を含んでいてもよい。芳香族ジアミンが脂肪族基を含む場合、「芳香脂肪族ジアミン」と称する。「脂肪族ジアミン」は、脂肪族基を有するジアミンを表し、その構造の一部にその他の置換基を含んでいてもよいが、芳香族基は含まない。
【0027】
本発明の好適な一実施形態において、非対称ジアミン由来の構造は、式(A)
【化5】
[式中、R~RVIは、互いに独立に、水素原子又は1価の有機基を表し、nは1~3の整数であり、*は結合手を示す]
で表される構造(構造(A)ともいう)であることが好ましい。ポリイミド系樹脂が式(1)中のXとして構造(A)を含むと、フィルムの弾性率、耐屈曲性及び光学特性をより向上しやすい。式(1)で表される構成単位は、Xとして、構造(A)を1種又は複数種含んでいてもよい。
【0028】
式(A)中のR~RVIは、互いに独立に、水素原子又は1価の有機基を表す。1価の有機基としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、2-メチル-ブチル基、3-メチル-ブチル基、2-エチル-プロピル基、n-ヘキシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基、ビフェニル基等のアリール基;シクロペンチル基、シクロオキシル基等のシクロアルキル基;ベンジル基、フェネチル基等のアラルキル基;ヒドロキシル基;メトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基等のアルコキシ基;フェノキシ基、ナフチルオキシ基、トルイルオキシ基等のアリールオキシ基;シクロペンチルオキシ基、シクロヘキシルオキシ基等のシクロアルコキシ基;ベンジルオキシ基等のアラルキルオキシ基;メチルチオ基、エチルチオ基等のアルキルチオ基;チオフェノキシ等のアリールチオ基;シクロへキシルチオ基等のシクロアルキルチオ基;ベンジルチオ基等のアラルキルチオ基;アセチル基等のアシル基などが挙げられる。
これらの中でも、弾性率、耐屈曲性及び光学特性を向上しやすい観点から、R~RVIは、互いに独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1~6のアルキル基(好ましくは炭素数1~4のアルキル基)、炭素数1~6のアルコキシ基(好ましくは炭素数1~4のアルコキシ基)、又は炭素数6~12のアリール基であることが好ましく、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、又は炭素数1~6のアルコキシ基であることがより好ましく、水素原子又は炭素数1~6のアルキル基であることがさらに好ましく、水素原子であることが特に好ましい。
【0029】
式(A)において、nは1~3の整数であり、フィルムの弾性率、耐屈曲性及び光学特性を向上しやすい観点から、好ましくは1又は2であり、より好ましくは2である。なお、nが2又は3であるとき、複数のR及びRVIは互いに同一又は異なっていてもよい。
【0030】
構造(A)以外の2価の芳香族基又は2価の環式脂肪族基としては、式(11)、式(12)、式(13)、式(14)、式(15)、式(16)、式(17)及び式(18)で表される基;それらの式(10)~式(18)で表される基中の水素原子がメチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基で置換された基;並びに炭素数6以下の鎖式炭化水素基が挙げられる。
【0031】
【化6】
【0032】
式(10)~式(18)中、
*は結合手を表し、
、V及びVは、互いに独立に、単結合、-O-、-S-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-SO-、-CO-又は-N(Q)-を表す。ここで、Qはハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の1価の炭化水素基を表す。ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の1価の炭化水素基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、2-メチル-ブチル基、3-メチルブチル基、2-エチル-プロピル基、n-ヘキシル、n-ヘプチル基、n-オクチル基、tert-オクチル基、n-ノニル基及びn-デシル基等が挙げられる。前記ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子及びヨウ素原子などが挙げられる。
1つの例は、V及びVが単結合、-O-又は-S-であり、かつ、Vが-CH-、-C(CH-、-C(CF-又は-SO-である。VとVとの各環に対する結合位置、及び、VとVとの各環に対する結合位置は、互いに独立に、各環に対して好ましくはメタ位又はパラ位、より好ましくはパラ位である。なお、式(10)~式(18)における環上の水素原子は、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基で置換されていてもよい。炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基及び炭素数6~12のアリール基としては、それぞれ、後述の式(5)中のR~R16として例示のものが挙げられる。これらの2価の環式脂肪族基又は2価の芳香族基は、単独又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0033】
本発明の一実施形態において、式(1)中のXにおける2価の非環式脂肪族基としては、例えば、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、プロピレン基、1,2-ブタンジイル基、1,3-ブタンジイル基、2-メチル-1,2-プロパンジイル基、2-メチル-1,3-プロパンジイル基等の直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基などが挙げられる。2価の非環式脂肪族基中の水素原子は、ハロゲン原子で置換されていてもよく、炭素原子はヘテロ原子(例えば酸素原子、窒素原子等)で置換されていてもよい。直鎖状又は分岐鎖状アルキレン基の炭素数は、好ましくは2以上、より好ましくは3以上、さらに好ましくは4以上であり、好ましくは10以下、より好ましくは8以下、さらに好ましくは6以下である。2価の非環式脂肪族基の中でも、エチレン基、トリメチレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基等の炭素数2~6のアルキレン基が好ましく、テトラメチレン基がより好ましい。
【0034】
本発明の好適な一実施形態では、本発明のポリイミド系樹脂は、式(1)中のXとして、式(5):
【化7】
[式(5)中、R~R16は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を表し、R~R16に含まれる水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、*は結合手を表す]
で表される構造(構造(5)ともいう)を含むことが好ましい。このような構造を含むと、フィルムの弾性率、耐屈曲性及び光学特性をより向上しやすい。式(1)で表される構成単位は、Xとして式(5)で表される構造を1種又は複数種含んでいてもよい。
【0035】
式(5)中、R、R10、R11、R12、R13、R14、R15及びR16は、それぞれ独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を表す。炭素数1~6のアルキル基としては、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、2-メチル-ブチル基、3-メチルブチル基、2-エチル-プロピル基、n-ヘキシル基等が挙げられる。炭素数1~6のアルコキシ基としては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロピルオキシ基、イソプロピルオキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、tert-ブトキシ基、ペンチルオキシ基、ヘキシルオキシ基及びシクロヘキシルオキシ基等が挙げられる。炭素数6~12のアリール基としては、例えばフェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基及びビフェニル基等が挙げられる。これらの中でも、R~R16は、それぞれ独立に、好ましくは水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、より好ましくは水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を表し、ここで、R~R16に含まれる水素原子は、それぞれ独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよい。ハロゲン原子としては、例えばフッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。R~R16は、それぞれ独立に、フィルムの弾性率、光学特性及び耐屈曲性を高めやすい観点から、さらに好ましくは水素原子、メチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基であり、特に好ましくはR、R10、R12、R14、R15及びR16が水素原子、R11及びR13が水素原子、メチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基であり、特にR11及びR13がメチル基又はトリフルオロメチル基であることが好ましい。
【0036】
本発明の好適な一実施形態においては、式(5)は、式(5’)
【化8】
[式(5’)中、*は結合手を表す]
で表される。このような形態であると、フィルムの弾性率、耐屈曲性及び光学特性を向上しやすい。
【0037】
本発明の好適な一実施形態において、フィルムの弾性率、耐屈曲性及び光学特性を高めやすい観点から、式(1)中のXとして、構造(A)及び/又は構造(5)を含むことが好ましく、構造(A)及び構造(5)を含むことがより好ましい。
【0038】
本発明の好適な一実施形態において、式(1)中のXとして、構造(A)を含む場合、式(1)中のXが式(A)で表される構成単位の割合は、式(1)で表される構成単位の総モル量に対して、好ましくは5モル%以上、より好ましくは10モル%以上、さらに好ましくは20モル%以上、さらにより好ましくは30モル%以上、特に好ましくは35モル%以上であり、好ましくは100モル%以下、より好ましくは80モル%以下、さらに好ましくは70モル%以下、さらにより好ましくは60モル%以下、特に好ましくは50モル%以下である。また、本発明の別の実施形態において、式(1)中のXが式(A)で表される構成単位の割合は、式(1)で表される構成単位の総モル量に対して、50モル%以上、75モル%以上、又は90モル%以上であってもよく、100モル%以下であってもよい。式(1)中のXが式(A)で表される構成単位の割合が上記の範囲内であると、フィルムの弾性率、耐屈曲性及び光学特性を高めやすい。
【0039】
本発明の好適な一実施形態において、式(1)中のXとして、構造(5)を含む場合、式(1)中のXが式(5)で表される構成単位の割合は、式(1)で表される構成単位の総モル量に対して、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上、さらに好ましくは30モル%以上、さらにより好ましくは40モル%以上、特に好ましくは50モル%以上であり、好ましくは100モル%以下、より好ましくは90モル%以下、さらに好ましくは80モル%以下、さらにより好ましくは70モル%以下である。また、本発明の別の実施形態において、式(1)中のXが式(5)で表される構成単位の割合は、式(1)で表される構成単位の総モル量に対して、50モル%以下、25モル%以下、又は10モル%以下であってもよく、0モル%以上であってもよい。式(1)中のXが式(5)で表される構成単位の割合が上記の範囲内であると、フィルムの弾性率、耐屈曲性及び光学特性を高めやすい。
【0040】
本発明の好適な一実施形態において、式(1)中のXとして、構造(A)と構造(5)とを含む場合、式(1)中のXが式(5)で表される構成単位の割合は、式(1)中のXが式(A)で表される構成単位1モルに対して、好ましくは0.1~9モル、より好ましくは0.25~4モル、さらに好ましくは1~2.3モルである。本発明の別の実施形態において、式(1)中のXが式(A)で表される構成単位の割合は、式(1)中のXが式(5)で表される構成単位1モルに対して、1モル以上、3モル以上、又は9モル以上であってもよく、100モル以下、又は50モル以下であってもよい。式(1)中のXが式(A)で表される構成単位又は式(5)で表される構成単位の割合が上記の範囲内であると、フィルムの弾性率、耐屈曲性及び光学特性を高めやすい。なお、Xが式(A)で表される構成単位の割合及びXが式(5)で表される構成単位の割合は、それぞれ、例えばH-NMRを用いて測定することができ、又は原料の仕込み比から算出することもできる。
【0041】
式(1)において、Yは、それぞれ独立に4価の有機基を表し、好ましくは炭素数4~40の4価の有機基を表し、より好ましくは環状構造を有する炭素数4~40の4価の有機基を表す。環状構造としては、脂環、芳香環、ヘテロ環構造が挙げられる。前記有機基は、有機基中の水素原子が炭化水素基又はフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよい有機基であり、その場合、炭化水素基及びフッ素置換された炭化水素基の炭素数は好ましくは1~8である。本発明のポリイミド系樹脂は、複数種のYを含み得、複数種のYは、互いに同一でよく、異なっていてもよい。Yとしては、以下の式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)及び式(29)で表される基;それらの式(20)~式(29)で表される基中の水素原子がメチル基、フルオロ基、クロロ基又はトリフルオロメチル基で置換された基;並びに4価の炭素数6以下の鎖式炭化水素基が挙げられる。
【0042】
【化9】
【0043】
式(20)~式(29)中、
*は結合手を表し、
は、単結合、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-Ar-、-SO-、-CO-、-O-Ar-O-、-Ar-O-Ar-、-Ar-CH-Ar-、-Ar-C(CH-Ar-又は-Ar-SO-Ar-を表す。Arは、水素原子がフッ素原子で置換されていてもよい炭素数6~20のアリーレン基を表し、具体例としてはフェニレン基が挙げられる。
【0044】
式(20)~式(29)で表される基の中でも、フィルムの弾性率、耐屈曲性及び光学特性を向上しやすい観点から、式(26)、式(28)又は式(29)で表される基が好ましく、式(26)で表される基がより好ましい。また、Wは、フィルムの弾性率、耐屈曲性及び光学特性を向上しやすい観点から、それぞれ独立に、単結合、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-又は-C(CF-であることが好ましく、単結合、-O-、-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-又は-C(CF-であることがより好ましく、単結合、-C(CH-又は-C(CF-であることがさらに好ましい。
【0045】
本発明の好適な一実施形態において、式(1)で表される構成単位は、Yとして、式(4):
【化10】
[式(4)中、R~Rは、互いに独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を表し、R~Rに含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよく、Vは、単結合、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-SO-、-S-、-CO-又は-N(R’)-を表し、R’は、水素原子、又はハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の1価の炭化水素基を表し、*は結合手を表す]
で表される構造(構造(4)ともいう)を含む。このような構造を含むと、フィルムの弾性率、耐屈曲性及び光学特性を向上しやすい。なお、式(1)で表される構成単位は、Yとして、式(4)で表される構造を1種又は複数種含んでいてもよい。
【0046】
式(4)において、R、R、R、R、R及びRは、互いに独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を表す。炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基及び炭素数6~12のアリール基としてはそれぞれ、式(5)中のR~R16として上記に例示のものが挙げられる。R~Rは、互いに独立に、好ましくは水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表し、より好ましくは水素原子又は炭素数1~3のアルキル基を表し、ここで、R~Rに含まれる水素原子は、互いに独立に、ハロゲン原子で置換されていてもよい。ハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が挙げられる。Vは、単結合、-O-、-CH-、-CH-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-、-C(CF-、-SO-、-S-、-CO-又は-N(R’)-を表し、R’は、水素原子、又はハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の1価の炭化水素基を表す。ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の1価の炭化水素基としては、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の1価の炭化水素基として上記に例示のものが挙げられる。これらの中でも、フィルムの光学特性、耐熱性、引張強度及び耐屈曲性を高めやすい観点から、Vは、単結合、-O-、-CH-、-CH(CH)-、-C(CH-又は-C(CF-であることが好ましく、単結合、-C(CH-又は-C(CF-であることがより好ましく、単結合又は-C(CF-であることがさらに好ましい。
【0047】
本発明の好適な一実施形態においては、式(4)は、式(4’)
【化11】
[式(4’)中、*は結合手を表す]
で表される。このような実施形態であると、フィルムの弾性率、耐屈曲性及び光学特性を向上しやすい。また、フッ素元素を含有する骨格により樹脂の溶媒への溶解性を向上し、ワニスの粘度を低く抑制することができ、フィルムの加工を容易にすることができる。
【0048】
本発明の一実施形態において、式(1)中のYとして、式(4)で表される構造を含む場合、式(1)中のYが式(4)で表される構成単位の割合は、式(1)で表される構成単位の総モル量に対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上、特に好ましくは90モル%以上であり、好ましくは100モル%以下である。式(1)中のYが式(4)で表される構成単位の割合が上記の範囲であると、フィルムの弾性率、耐屈曲性及び光学特性を向上しやすい。式(1)中のYが式(4)で表される構成単位の割合は、例えばH-NMRを用いて測定することができ、又は原料の仕込み比から算出することもできる。
【0049】
本発明の好適な一実施形態において、ポリイミド系樹脂は、式(2):
【化12】
[式(2)中、X及びZは、互いに独立に、2価の有機基を表し、*は結合手を表す]
で表される構成単位を含むことが好ましい。式(2)で表される構成単位を含むと、フィルムの弾性率、耐屈曲性及び光学特性を高めやすい。
【0050】
式(2)中、Zは2価の有機基を表し、好ましくは炭素数1~8の炭化水素基又はフッ素置換された炭素数1~8の炭化水素基を有してもよい、炭素数4~40の2価の有機基を表し、より好ましくは炭素数1~8の炭化水素基又はフッ素置換された炭素数1~8の炭化水素基を有してもよい、環状構造を有する炭素数4~40の2価の有機基を表す。環状構造としては、脂環、芳香環、ヘテロ環構造が挙げられる。脂環及び芳香環を有する2価の有機基としては、上記の式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)及び式(29)で表される基の結合手のうち、隣接しない2つが水素原子に置き換わった基及び炭素数6以下の2価の鎖式炭化水素基が挙げられる。ヘテロ環構造を有する2価の有機基としてはチオフェン環骨格を有する基が挙げられる。フィルムの弾性率、耐屈曲性及び光学特性を高めやすい観点から、式(20)~式(29)で表される基の結合手のうち、隣接しない2つが水素原子に置き換わった基、及び、チオフェン環骨格を有する基が好ましい。
【0051】
式(2)中のZとしては、式(20’)、式(21’)、式(22’)、式(23’)、式(24’)、式(25’)、式(26’)、式(27’)、式(28’)及び式(29’):
【化13】
[式(20’)~式(29’)中、W及び*は、式(20)~式(29)において定義した通りである]
で表される2価の有機基がより好ましい。なお、式(20)~式(29)及び式(20’)~式(29’)における環上の水素原子は、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基、又は炭素数6~12のアリール基で置換されていてもよい。炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基及び炭素数6~12のアリール基としては、それぞれ、式(5)中のR~R16として上記に例示のものが挙げられる。
【0052】
本発明の好適な一実施形態では、本発明のポリイミド系樹脂は、式(2)中のZとして、式(6):
【化14】
[式(6)中、Wは、互いに独立に、単結合、-O-、ジフェニルメチレン基、ハロゲン原子を有してもよい2価の炭化水素基、-SO-、-S-、-CO-、-PO-、-PO-、-N(RC1)-又は-Si(RC2-を表し、RC1及びRC2は、互いに独立に、水素原子又はハロゲン原子を有してもよい炭素数1~12の1価の炭化水素基を表し、Rは、互いに独立に、ハロゲン原子、ハロゲン原子を有してもよい、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、又はアリールオキシ基を表し、pは、互いに独立に、0~4の整数を表し、qは0~4の整数を表し、*は結合手を表す]
で表される構造(又は基)を含むことが好ましい。このような形態であると、フィルムの弾性率、耐屈曲性及び光学特性を高めやすい。また、式(2)で表される構成単位は、Zとして式(6)で表される構造を1種又は複数種含んでいてもよい。
【0053】
式(6)において、Wの結合位置は、互いに独立に、フィルムの弾性率、耐屈曲性及び光学特性を高めやすい観点から、結合手を基準に、メタ位又はパラ位であることが好ましく、パラ位であることがより好ましい。
【0054】
本発明の好適な一実施形態においては、式(6)は、式(6’):
【化15】
[式(6’)中、W、R、p及びqは式(6)において定義した通りである]
で表される。すなわち、本発明のイミド系樹脂は、式(2)中のZとして式(6’)で表される構造を含むことが好ましい。このような形態であると、フィルムの弾性率、耐屈曲性及び光学特性を高めやすい。
【0055】
式(6)及び式(6’)中、Rは、互いに独立に、ハロゲン原子、ハロゲン原子を有してもよい、アルキル基、アルコキシ基、アリール基、又はアリールオキシ基を表す。ハロゲン原子、ハロゲン原子を有してもよい、アルキル基、アルコキシ基及びアリール基としては、それぞれ、式(5)中のR~R16として上記に例示の炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基等が挙げられる。アリールオキシ基としては、フェノキシ基、ナフチルオキシ基、トルイルオキシ基等が挙げられる。ハロゲン原子としては、上記に例示のものが挙げられる。
【0056】
これらの中でも、Rは、互いに独立に、フィルムの弾性率、耐屈曲性及び光学特性を高めやすい観点から、好ましくはハロゲン原子を有してもよい、炭素数1~6のアルキル基又は炭素数1~6のアルコキシ基、より好ましくは炭素数1~3のアルキル基又は炭素数1~3のアルコキシ基を表す。pは、互いに独立に、0~4の整数を表し、フィルムの弾性率、耐屈曲性及び光学特性を高めやすい観点から、好ましくは0~2の整数、より好ましくは0又は1、さらに好ましくは0である。
【0057】
式(6)及び式(6’)中、Wは、互いに独立に、単結合、-O-、ジフェニルメチレン基、ハロゲン原子を有してもよい2価の炭化水素基、-SO-、-S-、-CO-、-PO-、-PO-、-N(RC1)-又は-Si(RC2-を表し、フィルムの弾性率、耐屈曲性及び光学特性を高めやすい観点から、好ましくは-O-又は-S-、より好ましくは-O-を表す。RC1及びRC2は、互いに独立に、水素原子又はハロゲン原子を有してもよい炭素数1~12の1価の炭化水素基を表す。ハロゲン原子を有してもよい炭素数1~12の1価の炭化水素基としては、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数1~12の1価の炭化水素基として上記に例示のものが挙げられる。
【0058】
式(6)及び式(6’)中、qは、0~4の範囲の整数であり、qがこの範囲内であると、フィルムの弾性率、耐屈曲性及び光学特性を高めやすい。式(6)及び式(6’)中のqは、好ましくは0~3の範囲の整数、より好ましくは0~2の範囲の整数である。
【0059】
qが0である式(6)又は式(6’)で表される構造は、例えばテレフタル酸又はイソフタル酸に由来する構造であり、該構造は、中でも、式(6)又は式(6’)中のp及びqがそれぞれ0、又は、qが0及びpが1若しくは2(好ましくはRが炭素数1~3のアルキル基又はフッ素化アルキル基又は炭素数1~3のアルコキシ基)である構造であることが好ましい。フィルムの弾性率、耐屈曲性及び光学特性を高めやすい観点から、ポリイミド系樹脂は、テレフタル酸に由来する構造を含む、式(2)で表される構成単位を含むことが好ましい。ポリイミド系樹脂は式(2)中のZとして、式(6)又は式(6’)で表される構成単位を1種又は2種類以上含んでいてもよい。
【0060】
本発明の一実施形態において、式(2)中のZとして、式(6)で表される構造を含む場合、式(2)で表される構成単位のうち、Zが式(6)で表される構成単位の割合は、式(2)で表される構成単位の総モル量に対して、好ましくは30モル%以上、より好ましくは50モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上、さらにより好ましくは80モル%以上、特に好ましくは90モル%以上であり、好ましくは100モル%以下である。式(2)中のZが式(6)で表される構成単位の割合が上記の下限以上であると、フィルムの弾性率、耐屈曲性及び光学特性を高めやすい。該割合が上記の上限以下であると、式(6)由来のアミド結合間水素結合による樹脂ワニスの粘度上昇を抑制し、フィルムの加工性を向上しやすい。
【0061】
本発明の一実施形態において、式(2)中のZとして、式(6)で表される構造を含む場合、式(2)で表される構成単位のうち、Zが式(6)で表される構成単位の割合は、式(1)で表される構成単位及び式(2)で表される構成単位の総モル量に対して、好ましくは10モル%以上、より好ましくは30モル%以上、さらに好ましくは50モル%以上、さらにより好ましくは70モル%以上であり、好ましくは95モル%以下、より好ましくは90モル%以下である。式(2)中のZが式(6)で表される構成単位の割合が上記の下限以上であると、フィルムの弾性率、耐屈曲性及び光学特性を高めやすい。該割合が上記の上限以下であると、式(6)由来のアミド結合間水素結合による樹脂ワニスの粘度上昇を抑制し、フィルムの加工性を向上しやすい。なお、式(2)中のZが式(6)で表される構成単位の割合は、例えばH-NMRを用いて測定することができ、又は原料の仕込み比から算出することもできる。
【0062】
本発明の一実施形態において、ポリイミド系樹脂は、フィルムの弾性率、耐屈曲性及び光学特性を高めやすい観点から、式(2)中のZとして、qが0である式(6)で表される構造(構造(I)ともいう)を含むことが好ましい。また、本発明の別の実施形態において、構造(I)とqが1である式(6)で表される構造(構造(II)ともいう)とを含むことができる。構造(I)は、好ましくは、pが0~2であり、Rが炭素数1~3のアルキル基又はフッ素化アルキル基又は炭素数1~3のアルコキシ基である。構造(II)は、好ましくは、Wが-O-又は-S-であり、pが0~2であり、Rが炭素数1~3のアルキル基又はフッ素化アルキル基又は炭素数1~3のアルコキシ基である。
【0063】
本発明の一実施形態において、ポリイミド系樹脂が、式(2)中のZが上記の式(20’)~式(29’)のいずれかで表される構成単位を有する場合、特に式(2)中のZが式(6’)で表される構成単位を有する場合、ポリイミド系樹脂は、式(1)及び式(2)で表される構成単位に加えて、次の式(d1):
【化16】
[式(d1)中、R24は、互いに独立に、水素原子、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基又は炭素数6~12のアリール基を表し、R25は、R24又は-C(=O)-*を表し、*は結合手を表す]
で表されるカルボン酸由来の構成単位をさらに有することが、樹脂の溶解性を向上しやすくして、樹脂の加工性を高める観点から好ましい。
【0064】
24において、炭素数1~6のアルキル基、炭素数1~6のアルコキシ基及び炭素数6~12のアリール基としては、それぞれ、式(5)中のR~R16として上記に例示のものが挙げられる。構成単位(d1)としては、具体的には、R24及びR25がいずれも水素原子である構成単位(ジカルボン酸化合物に由来する構成単位)、R24がいずれも水素原子であり、R25が-C(=O)-*を表す構成単位(トリカルボン酸化合物に由来する構成単位)などが挙げられる。
【0065】
ポリイミド系樹脂が、式(d1)で表される構成単位を含む場合、式(d1)で表される構成単位の割合は、式(1)で表される構成単位と式(2)で表される構成単位との総モル量に対して、好ましくは0.01モル%以上、より好ましくは0.1モル%以上、さらに好ましくは1モル%以上であり、好ましくは30モル%以下、より好ましくは20モル%以下、さらに好ましくは10モル%以下である。該割合が上記範囲内であると、フィルムの弾性率を維持しつつ樹脂の溶解性を改善しやすい。なお、該割合は、例えばH-NMRを用いて測定することができ、又は原料の仕込み比から算出することもできる。
【0066】
式(2)中のXとしては、式(1)中のXとして上記に例示したものが挙げられ、好ましい形態も同じである。また、式(1)中のXと式(2)中のXは、同一又は異なっていてもよいが、同一であることが好ましい。本発明の一実施形態では、式(1)で表される構成単位及び/又は式(2)で表される構成単位は、Xとして、構造(A)及び/又は構造(5)を1種又は複数種含んでいてもよい。
【0067】
本発明の好適な一実施形態において、式(1)及び式(2)中のXとして、構造(A)を含む場合、式(1)及び式(2)中のXが式(A)で表される構成単位の割合は、式(1)で表される構成単位及び式(2)で表される構成単位の総モル量に対して、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上、さらに好ましくは30モル%以上、さらにより好ましくは35モル%以上であり、好ましくは100モル%以下、より好ましくは80モル%以下、さらに好ましくは70モル%以下、さらにより好ましくは60モル%以下、特に好ましくは50モル%以下である。式(1)及び式(2)中のXが式(A)で表される構成単位の割合が上記の範囲内であると、フィルムの弾性率、耐屈曲性及び光学特性を高めやすい。
【0068】
本発明の好適な一実施形態において、式(1)及び式(2)中のXとして、構造(5)を含む場合、式(1)及び式(2)中のXが式(5)で表される構成単位の割合は、式(1)で表される構成単位及び式(2)で表される構成単位の総モル量に対して、好ましくは10モル%以上、より好ましくは20モル%以上、さらに好ましくは30モル%以上、さらにより好ましくは40モル%以上、特に好ましくは50モル%以上であり、好ましくは100モル%以下、より好ましくは90モル%以下、さらに好ましくは80モル%以下、さらにより好ましくは70モル%以下である。式(1)及び式(2)中のXが式(5)で表される構成単位の割合が上記の範囲内であると、フィルムの弾性率、耐屈曲性及び光学特性を高めやすい。
【0069】
本発明の好適な一実施形態において、式(1)及び式(2)中のXとして、構造(A)と構造(5)とを含む場合、式(1)及び式(2)中のXが式(5)で表される構成単位の割合は、式(1)及び式(2)中のXが式(A)で表される構成単位の総量1モルに対して、好ましくは0.1~9モル、より好ましくは0.25~4モル、さらに好ましくは1~2.3モルである。式(1)及び式(2)中のXが式(5)で表される構成単位の割合が上記の範囲内であると、フィルムの弾性率、耐屈曲性及び光学特性を高めやすい。なお、Xが式(A)で表される構成単位の割合及びXが式(5)で表される構成単位の割合は、それぞれ、例えばH-NMRを用いて測定することができ、又は原料の仕込み比から算出することもできる。
【0070】
本発明の一実施形態において、式(2)で表される構成単位の含有量は、式(1)で表される構成単位1モルに対して、好ましくは0.1モル以上、より好ましくは1モル以上、さらに好ましくは2モル以上、さらにより好ましくは3モル%以上であり、好ましくは6モル以下、より好ましくは5モル以下、さらに好ましくは4.5モル以下である。式(2)で表される構成単位の含有量が上記の下限以上であると、フィルムの弾性率、耐屈曲性及び光学特性を高めやすい。また、式(2)で表される構成単位の含有量が上記の上限以下であると、式(2)中のアミド結合間の水素結合による増粘を抑制し、ポリイミド系樹脂ワニスの粘度を低減することができ、基材の製造が容易である。
【0071】
ポリイミド系樹脂は、上記の通り、ポリイミド樹脂、ポリアミドイミド樹脂及びポリアミド樹脂を包含する。ポリイミド樹脂は、好ましくは式(1)で表される構成単位を有し、ポリアミドイミド樹脂は、好ましくは式(1)で表される構成単位と式(2)で表される構成単位とを有し、ポリアミド樹脂は、好ましくは式(2)で表される構成単位を有する。ポリイミド系樹脂は、フィルムの弾性率、耐屈曲性及び光学特性を高めやすい観点から、ポリイミド樹脂及びポリアミドイミド樹脂からなる群から選択される少なくとも1つであることが好ましく、ポリアミドイミド樹脂であることがより好ましい。
【0072】
本発明のポリイミド系樹脂は、式(1)で表される構成単位及び式(2)で表される構成単位の他に、式(30)で表される構成単位及び/又は式(31)で表される構成単位を含んでいてもよい。
【化17】
【0073】
式(30)において、Yは4価の有機基であり、好ましくは、式(1)中のYとして上記に例示のものを用いることができる。本発明の一実施形態において、ポリイミド系樹脂は、複数種のYを含み得、複数種のYは、互いに同一であっても、異なっていてもよい。
【0074】
式(31)において、Yは3価の有機基であり、好ましくは有機基中の水素原子が炭化水素基又はフッ素置換された炭化水素基で置換されていてもよい有機基である。Yとしては、上記の式(20)、式(21)、式(22)、式(23)、式(24)、式(25)、式(26)、式(27)、式(28)及び式(29)で表される基の結合手のいずれか1つが水素原子に置き換わった基、及び3価の炭素数6以下の鎖式炭化水素基が挙げられる。本発明の一実施形態において、ポリイミド系樹脂は、複数種のYを含み得、複数種のYは、互いに同一であっても、異なっていてもよい。
【0075】
式(30)及び式(31)において、X及びXは、互いに独立に、2価の有機基であり、好ましくは、式(1)及び式(2)中のXとして上記に例示のものを用いることができる。
【0076】
本発明の一実施形態において、ポリイミド系樹脂は、式(1)で表される構成単位及び/又は式(2)で表される構成単位、並びに、場合により式(30)で表される構成単位及び/又は式(31)で表される構成単位を含んでなる。また、フィルムの弾性率、耐屈曲性及び光学特性を高めやすい観点から、上記ポリイミド系樹脂において、式(1)で表される構成単位及び式(2)で表される構成単位の合計割合は、ポリイミド系樹脂に含まれる全構成単位、例えば式(1)で表される構成単位及び/又は式(2)で表される構成単位、並びに、場合により式(30)で表される構成単位及び/又は式(31)で表される構成単位の総モル量に基づいて、好ましくは80モル%以上、より好ましくは90モル%以上、さらに好ましくは95モル%以上である。なお、ポリイミド系樹脂において、式(1)で表される構成単位及び式(2)で表される構成単位の合計割合の上限は100モル%以下である。なお、上記割合は、例えば、H-NMRを用いて測定することができ、又は原料の仕込み比から算出することもできる。
【0077】
本発明の好ましい一実施形態において、本発明のポリイミド系樹脂は、例えば上記の含ハロゲン原子置換基等によって導入することができる、ハロゲン原子、好ましくはフッ素原子を含有していてもよい。ポリイミド系樹脂がハロゲン原子、好ましくはフッ素原子を含有する場合、フィルムの弾性率及び耐屈曲性に加え、光学特性を高めやすい。ポリイミド系樹脂にフッ素原子を含有させるために好ましい含フッ素置換基としては、例えばフルオロ基及びトリフルオロメチル基が挙げられる。
【0078】
ポリイミド系樹脂におけるハロゲン原子の含有量は、ポリイミド系樹脂の質量を基準として、好ましくは1~40質量%、より好ましくは5~40質量%、さらに好ましくは5~30質量%である。ハロゲン原子の含有量が上記の下限以上であると、フィルムの弾性率、耐屈曲性及び光学特性を高めやすい。ハロゲン原子の含有量が上記の上限以下であると、合成がしやすくなる。
【0079】
本発明の一実施形態において、ポリイミド系樹脂のイミド化率は、好ましくは90%以上、より好ましくは93%以上、さらに好ましくは95%以上である。フィルムの光学特性を高めやすい観点から、イミド化率が上記の下限以上であることが好ましい。また、イミド化率の上限は100%以下である。イミド化率は、ポリイミド系樹脂中のテトラカルボン酸化合物に由来する構成単位のモル量の2倍の値に対する、ポリイミド系樹脂中のイミド結合のモル量の割合を示す。なお、ポリイミド系樹脂がトリカルボン酸化合物を含む場合には、ポリイミド系樹脂中のテトラカルボン酸化合物に由来する構成単位のモル量の2倍の値と、トリカルボン酸化合物に由来する構成単位のモル量との合計に対する、ポリイミド系樹脂中のイミド結合のモル量の割合を示す。また、イミド化率は、IR法、NMR法などにより求めることができる。
【0080】
本発明の一実施形態において、ポリイミド系フィルムに含まれるポリイミド系樹脂の含有量は、ポリイミド系フィルムの質量に対して、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは55質量%以上、さらにより好ましくは60質量%以上、特に好ましくは65質量%以上、特により好ましくは70質量%以上、特にさらに好ましくは75質量%以上であり、好ましくは97質量%以下、より好ましくは95質量%以下、さらに好ましくは93質量%以下である。ポリイミド系樹脂の含有量が上記の下限以上であると、フィルムの光学特性を向上しやすく、また上記の上限以下であると、フィルムの弾性率及び耐屈曲性を向上しやすい。
【0081】
ポリイミド系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、標準ポリスチレン換算で、好ましくは50,000以上、より好ましくは100,000以上、さらに好ましくは150,000以上、さらにより好ましくは200,000以上であり、好ましくは800,000以下、より好ましくは600,000以下、さらに好ましくは500,000以下、特に好ましくは450,000以下である。ポリイミド系樹脂のMwが上記の下限以上であると、フィルムの弾性率及び耐屈曲性を高めやすい。また、ポリイミド系樹脂のMwが上記の上限以下であると、フィルムの光学特性を高めやすい。なお、本明細書において重量平均分子量は、GPC測定を行い、標準ポリスチレン換算によって求めることができ、例えば実施例に記載の方法により求めることができる。
【0082】
<ポリイミド系樹脂の製造方法>
本発明のポリイミド系樹脂において、ポリイミド樹脂は、例えば、主に、ジアミン化合物とテトラカルボン酸化合物とを反応させることにより製造でき、ポリアミドイミド樹脂は、例えば、主に、ジアミン化合物と、ジカルボン酸化合物と、テトラカルボン酸化合物とを反応させることにより製造でき、ポリアミド樹脂は、例えば、主に、ジアミン化合物とジカルボン酸化合物とを反応させることにより製造できる。
【0083】
ジアミン化合物としては、例えば、脂肪族ジアミン、芳香族ジアミン及びこれらの混合物が挙げられる。芳香族ジアミンが有する芳香環は、単環でも縮合環でもよく、ベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環及びフルオレン環等が例示されるが、これらに限定されるわけではない。これらの中でも、好ましくはベンゼン環である。
【0084】
脂肪族ジアミンとしては、例えば、ヘキサメチレンジアミン等の非環式脂肪族ジアミン、並びに1,3-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、1,4-ビス(アミノメチル)シクロヘキサン、ノルボルナンジアミン及び4,4’-ジアミノジシクロヘキシルメタン等の環式脂肪族ジアミン等が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組合せて用いることができる。
【0085】
芳香族ジアミンとしては、例えば、4-アミノフェニルメチルアミン、4-アミノフェニルエチルアミン(4-APEAと記載することがある)、4-アミノフェニルプロピルアミン等の非対称ジアミン;p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、2,4-トルエンジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミン、1,5-ジアミノナフタレン、2,6-ジアミノナフタレン等の、芳香環を1つ有する芳香族ジアミン;4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルプロパン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,4’-ジアミノジフェニルエーテル、3,3’-ジアミノジフェニルエーテル、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,4’-ジアミノジフェニルスルホン、3,3’-ジアミノジフェニルスルホン、1,4-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-アミノフェノキシ)ベンゼン、ビス〔4-(4-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、ビス〔4-(3-アミノフェノキシ)フェニル〕スルホン、2,2-ビス[4-(4-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2-ビス[4-(3-アミノフェノキシ)フェニル]プロパン、2,2’-ジメチルベンジジン、2,2’-ビス(トリフルオロメチル)-4,4’-ジアミノジフェニル(TFMBと記載することがある)、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル、9,9-ビス(4-アミノフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-メチルフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-クロロフェニル)フルオレン、9,9-ビス(4-アミノ-3-フルオロフェニル)フルオレン等の、芳香環を2つ以上有する芳香族ジアミンが挙げられる。これらは単独又は2種以上を組合せて使用できる。
【0086】
ジアミン化合物としては、フィルムの弾性率、耐屈曲性及び光学特性を高めやすい観点からは、非対称ジアミン及びビフェニル構造を有する芳香族ジアミンからなる群から選ばれる少なくとも1つを用いることが好ましく、4-APEA、4-アミノフェニルメチルアミン、4-アミノフェニルプロピルアミン、TFMB、2,2’-ジメチルベンジジン、4,4’-ビス(4-アミノフェノキシ)ビフェニル及び4,4’-ジアミノジフェニルエーテルからなる群から選ばれる少なくとも1つを用いることがより好ましく、TFMB及び/又は4-APEAを用いることがさらに好ましい。なお、非対称ジアミンの製造方法は、特に限定されないが、国際公開第2022/040457号を参照できる。
【0087】
テトラカルボン酸化合物としては、芳香族テトラカルボン酸二無水物等の芳香族テトラカルボン酸化合物;及び脂肪族テトラカルボン酸二無水物等の脂肪族テトラカルボン酸化合物等が挙げられる。テトラカルボン酸化合物は、単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。テトラカルボン酸化合物は、二無水物の他、酸クロリド化合物等のテトラカルボン酸化合物類縁体であってもよい。
【0088】
芳香族テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、非縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物、単環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物及び縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。非縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば4,4’-オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、2,2’,3,3’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物(BPDAと記載することがある)、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェノキシフェニル)プロパン二無水物、4,4’-(ヘキサフルオロイソプロピリデン)ジフタル酸二無水物(6FDAと記載することがある)、1,2-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、1,1-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)エタン二無水物、ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、ビス(2,3-ジカルボキシフェニル)メタン二無水物、4,4’-(p-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物、4,4’-(m-フェニレンジオキシ)ジフタル酸二無水物が挙げられる。また、単環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば1,2,4,5-ベンゼンテトラカルボン酸二無水物が挙げられ、縮合多環式の芳香族テトラカルボン酸二無水物としては、例えば2,3,6,7-ナフタレンテトラカルボン酸二無水物が挙げられる。
【0089】
脂肪族テトラカルボン酸二無水物としては、環式又は非環式の脂肪族テトラカルボン酸二無水物が挙げられる。環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物とは、脂環式炭化水素構造を有するテトラカルボン酸二無水物であり、その具体例としては、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物等のシクロアルカンテトラカルボン酸二無水物、ビシクロ[2.2.2]オクト-7-エン-2,3,5,6-テトラカルボン酸二無水物、ジシクロヘキシル-3,3’,4,4’-テトラカルボン酸二無水物及びこれらの位置異性体が挙げられる。これらは単独で又は2種以上を組合せて用いることができる。非環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物の具体例としては、1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物、及び1,2,3,4-ペンタンテトラカルボン酸二無水物等が挙げられ、これらは単独で又は2種以上を組合せて用いることができる。また、環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物及び非環式脂肪族テトラカルボン酸二無水物を組合せて用いてもよい。
【0090】
上記テトラカルボン酸二無水物の中でも、フィルムの弾性率、耐屈曲性及び光学特性を高めやすい観点から、4,4’-オキシジフタル酸二無水物、3,3’,4,4’-ベンゾフェノンテトラカルボン酸二無水物、BPDA、2,2’,3,3’-ビフェニルテトラカルボン酸二無水物、3,3’,4,4’-ジフェニルスルホンテトラカルボン酸二無水物、2,2-ビス(3,4-ジカルボキシフェニル)プロパン二無水物、6FDA、並びにこれらの組み合わせが好ましく、BPDA及び/又は6FDAがより好ましく、6FDAがさらに好ましい。
【0091】
ジカルボン酸化合物としては、好ましくはシュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、トランス-1,4-シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、2-メトキシテレフタル酸、4,4’-オキシビス安息香酸、2,6-ナフタレンジカルボン酸、ビフェニル-4,4’-ジカルボン酸又はそれらの酸クロリド化合物が用いられる。前記の酸又はそれらの酸クロリド化合物に加えて、他のジカルボン酸化合物が用いられてもよい。他のジカルボン酸化合物としては、芳香族ジカルボン酸、脂肪族ジカルボン酸、脂環式ジカルボン酸及びそれらの類縁の酸クロリド化合物、酸無水物等が挙げられ、2種以上を組合せて用いてもよい。具体例としては、イソフタル酸;ナフタレンジカルボン酸;4,4’-ビフェニルジカルボン酸;3,3’-ビフェニルジカルボン酸;炭素数8以下である鎖式炭化水素、のジカルボン酸化合物及び2つの安息香酸が単結合、-CH-、-C(CH-、-C(CF-、-SO-又はフェニレン基で連結された化合物並びに、それらの酸クロリド化合物が挙げられる。これらのジカルボン酸の中でも、フィルムの弾性率、耐屈曲性及び光学特性を高めやすい観点から、4,4’-オキシビス(ベンゾイルクロリド)及び/又はテレフタロイルクロリド(TPCと記載することがある)が好ましく、TPCがさらに好ましい。
【0092】
なお、上記樹脂は、フィルムの各種物性を損なわない範囲で、上記テトラカルボン酸化合物に加えて、テトラカルボン酸及びトリカルボン酸並びにそれらの無水物及び誘導体をさらに反応させたものであってもよい。
【0093】
テトラカルボン酸としては、上記テトラカルボン酸化合物の無水物の水付加体が挙げられる。トリカルボン酸化合物としては、芳香族トリカルボン酸、脂肪族トリカルボン酸及びそれらの類縁の酸クロリド化合物、酸無水物等が挙げられ、2種以上を組合せて用いてもよい。具体例としては、1,2,4-ベンゼントリカルボン酸の無水物;1,3,5-ベンゼントリカルボン酸の酸クロリド化合物;2,3,6-ナフタレントリカルボン酸-2,3-無水物;フタル酸無水物と安息香酸とが単結合、-O-、-CH-、-C(CH-、-C(CF-、-SO-又はフェニレン基で連結された化合物が挙げられる。
【0094】
ポリイミド系樹脂の製造において、各化合物(ジアミン化合物、ジカルボン酸化合物、テトラカルボン酸化合物等)の使用量は、所望とする樹脂の各構成単位の比率に応じて適宜選択できる。
【0095】
ポリイミド系樹脂の製造において、各化合物(ジアミン化合物、ジカルボン酸化合物、テトラカルボン酸化合物等)の反応温度は、特に限定されないが、例えば5~350℃、好ましくは10~200℃、より好ましくは20~150℃である。反応時間も特に限定されないが、例えば30分~24時間程度である。必要に応じて、不活性雰囲気又は減圧の条件下において反応を行ってよい。好ましい形態では、反応は、常圧及び/又は不活性ガス雰囲気下、撹拌しながら行う。また、反応は、反応に不活性な溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、反応に影響を与えない限り特に限定されず、例えば、水、メタノール、エタノール、エチレングリコール、イソプロピルアルコール、プロピレングリコール、エチレングリコールメチルエーテル、エチレングリコールブチルエーテル、1-メトキシ-2-プロパノール、2-ブトキシエタノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のアルコール系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル、エチレングリコールメチルエーテルアセテート、γ-ブチロラクトン(以下、GBLと記載することがある)、γ-バレロラクトン、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、乳酸エチル等のエステル系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2-ヘプタノン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素溶媒;エチルシクロヘキサン等の脂環式炭化水素溶媒;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素溶媒;アセトニトリル等のニトリル系溶媒;テトラヒドロフラン及びジメトキシエタン等のエーテル系溶媒;クロロホルム及びクロロベンゼン等の塩素含有溶媒;N,N-ジメチルアセトアミド(DMAcと記載することがある)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMFと記載することがある)等のアミド系溶媒;ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;及びそれらの組合せなどが挙げられる。これらの中でも、溶解性の観点から、アミド系溶媒を好適に使用できる。
【0096】
ポリイミド系樹脂の製造におけるイミド化工程では、イミド化触媒の存在下で、イミド化することができる。イミド化触媒としては、例えばトリプロピルアミン、ジブチルプロピルアミン、エチルジブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン等の脂肪族アミン;N-エチルピペリジン、N-プロピルピペリジン、N-ブチルピロリジン、N-ブチルピペリジン、及びN-プロピルヘキサヒドロアゼピン等の脂環式アミン(単環式);アザビシクロ[2.2.1]ヘプタン、アザビシクロ[3.2.1]オクタン、アザビシクロ[2.2.2]オクタン、及びアザビシクロ[3.2.2]ノナン等の脂環式アミン(多環式);並びにピリジン、2-メチルピリジン(2-ピコリン)、3-メチルピリジン(3-ピコリン)、4-メチルピリジン(4-ピコリン)、2-エチルピリジン、3-エチルピリジン、4-エチルピリジン、2,4-ジメチルピリジン、2,4,6-トリメチルピリジン、3,4-シクロペンテノピリジン、5,6,7,8-テトラヒドロイソキノリン、及びイソキノリン等の芳香族アミンが挙げられる。また、イミド化反応を促進しやすい観点から、イミド化触媒とともに、酸無水物を用いることが好ましい。酸無水物は、イミド化反応に用いられる慣用の酸無水物等が挙げられ、その具体例としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、無水酪酸等の脂肪族酸無水物、フタル酸等の芳香族酸無水物などが挙げられる。
【0097】
ポリイミド系樹脂は、慣用の方法、例えば、濾過、濃縮、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組合せた分離手段により分離精製して単離してもよく、好ましい形態では、ポリイミド系樹脂を含む反応液に、多量のメタノール等のアルコールを加え、樹脂を析出させ、濃縮、濾過、乾燥等を行うことにより単離することができる。
【0098】
<ナノファイバー>
本発明のポリイミド系フィルムは、さらにナノファイバーを含むことが好ましい。ナノファイバーは、ポリイミド系樹脂中に分散(好ましくは均一分散)し、ネットワーク構造(又は網目状構造)を形成し得るため、弾性率(特に引張弾性率)を向上できる。そのため、ポリイミド系樹脂とナノファイバーとを含むフィルムは、光学特性に優れるとともに、フィルム表面への衝撃により生じる底面応力を抑制しやすい。
【0099】
ナノファイバーとしては、例えば、アルミナナノファイバー、ジルコニアナノファイバー、ガラスナノファイバー、シリカナノファイバー、ケイ酸アルミニウムナノファイバー、チタニアナノファイバー、カーボンナノファイバー等の無機ナノファイバー;セルロースナノファイバー、キチンナノファイバー、キトサンナノファイバー、アラミドナノファイバー、ポリエステルナノファイバー、ポリウレタンナノファイバー等の有機ナノファイバーが挙げられる。これらの中でも、ポリイミド系樹脂中に分散(好ましくは均一分散)し、ネットワーク構造(又は網目状構造)を形成しやすいとともに、繊維が硬く、弾性率を向上しやすい観点から、無機ナノファイバーが好ましく、アルミナナノファイバーがより好ましい。ナノファイバーは単独又は二種以上組み合わせて使用できる。
【0100】
ナノファイバーには、樹脂、ならびに溶媒に対する親和性又は分散性を向上させやすい観点から、表面処理が施されていてもよい。すなわち、ナノファイバーは、修飾剤が結合した修飾ナノファイバーであることが好ましく、修飾剤としては、ポリイミド系樹脂の種類に応じて適宜選択でき、例えばアミン系の修飾剤などが挙げられる。
【0101】
本明細書において、ナノファイバーとは、ナノサイズのファイバーを意味し、平均繊維径が1~1000nmの繊維を意味する。本発明の好適な一実施形態において、ナノファイバーの平均繊維径は、好ましくは1.0nm以上、より好ましくは1.5nm以上、さらに好ましくは2.0nm以上、さらにより好ましくは2.5nm以上、特に好ましくは3.0nm以上であり、好ましくは800nm以下、より好ましくは500nm以下、さらに好ましくは300nm以下、さらにより好ましくは100nm以下、特に好ましくは50nm以下、特により好ましくは30nm以下、特にさらに好ましくは10nm以下である。ナノファイバーの平均繊維径が上記の下限以上であると、繊維の強度を向上しやすく、また上記の上限以下であると、ネットワーク構造を形成しやすい。そのため、ナノファイバーの平均繊維径が上記の範囲であると、弾性率を向上しやすく、フィルム表面への衝撃により生じる底面応力を抑制しやすい。また、フィルムの光学特性も向上しやすい。ナノファイバーの平均繊維径は、例えば走査型プローブ顕微鏡により測定できる。
【0102】
本発明の好適な一実施形態において、ナノファイバーの平均繊維長は、好ましくは0.01μm以上、より好ましくは0.03μm以上、さらに好ましくは0.05μm以上、さらにより好ましくは0.07μm以上、特に好ましくは0.1μm以上、特により好ましくは0.5μm以上、特にさらに好ましくは1μm以上であり、好ましくは100μm以下、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは10μm以下、さらにより好ましくは5μm以下である。ナノファイバーの平均繊維長が上記の下限以上であると、弾性率を向上しやすく、上記の上限以下であると、ワニスにおける繊維の切断や粘度上昇が抑制できる。ナノファイバーの平均繊維長は、例えば走査型プローブ顕微鏡により測定できる。
【0103】
本発明の好適な一実施形態において、ナノファイバーの平均繊維径に対する平均繊維長の割合(アスペクト比とも称する)は、好ましくは100以上、より好ましくは300以上、さらに好ましくは500以上であり、好ましくは2000以下、より好ましくは1500以下、さらに好ましくは1000以下である。アスペクト比が上記の下限以上であると、弾性率を向上しやすく、上記の上限以下であると、ワニスにおける繊維の切断や粘度上昇が抑制できる。ナノファイバーのアスペクト比は、例えば走査型プローブ顕微鏡により測定できる。
【0104】
ナノファイバーの含有量は、ポリイミド系フィルムの質量に対して、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上、さらにより好ましくは7質量%以上であり、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは45質量%以下、さらにより好ましくは40質量%以下、特に好ましくは35質量%以下、特により好ましくは30質量%以下、特にさらに好ましくは25質量%以下である。ナノファイバーの含有量が上記の下限以上であると、フィルムの弾性率を向上しやすく、またナノファイバーの含有量が上記の上限以下であると、フィルムの光学特性を向上しやすい。
【0105】
アルミナナノファイバーにおいて、アルミナの結晶構造としては、特に限定されないが、例えば、非晶質、ギブサイト、バイヤライト、ハイドラルジライト、擬ベーマイト、ベーマイト、ノルトストランダイト、ダイアスポア、トーダイト、χアルミナ、κアルミナ、δアルミナ、ρアルミナ、ηアルミナ、θアルミナ、及びαアルミナ等が挙げられる。
【0106】
ナノファイバーは、慣用の方法により製造してもよく、市販品を用いてもよい。フィルム製造時に樹脂中に分散させやすい観点から、好ましくは溶媒中に分散したナノファイバー(ナノファイバー分散液)、より好ましくはゾル形態のナノファイバーを用いてもよい。分散溶媒としては、ナノファイバーやポリイミド系樹脂の種類に応じて適宜選択でき、例えば、後述のワニスの調製に用いられる溶媒として例示のものが挙げられる。
【0107】
本発明のポリイミド系フィルムは、前記ポリイミド系樹脂を含み、前記引張弾性率が7.6GPa超であり、Ttが85%以上であり、YIが7.0以下であるため、優れた光学特性を有するとともに、フィルム表面に衝撃が加わってもこれによるフィルム底面にかかる応力(底面応力)を有効に抑制できる。すなわち、本発明のポリイミド系フィルムは、優れた光学特性と、前記底面応力抑制効果とを両立できる。そのため、フレキシブル表示装置の材料等として好適に使用できる。
【0108】
本発明の一実施形態において、ポリイミド系フィルムは、ナノファイバー以外のフィラーを含んでいてよい。ナノファイバー以外のフィラーとしては、例えば有機粒子、無機粒子などが挙げられ、好ましくは無機粒子が挙げられる。無機粒子としては、シリカ粒子、ジルコニア粒子、アルミナ粒子、チタニア粒子、酸化亜鉛粒子、酸化ゲルマニウム粒子、酸化インジウム粒子、酸化スズ粒子、インジウムスズ酸化物(ITO)粒子、酸化アンチモン粒子、酸化セリウム粒子等の金属酸化物粒子、フッ化マグネシウム粒子、フッ化ナトリウム粒子等の金属フッ化物粒子などが挙げられ、これらの中でも、弾性率を向上しやすい観点から、好ましくはシリカ粒子、ジルコニア粒子、アルミナ粒子が挙げられる。これらのフィラーは単独又は2種以上を組合せて使用できる。本発明の一実施形態では、ナノファイバー(好ましくはアルミナナノファイバー)とシリカ粒子とを併用することができる。
【0109】
フィラー(好ましくはシリカ粒子)の平均一次粒子径は、通常1nm以上、好ましくは5nm以上、より好ましくは10nm以上、さらに好ましくは15nm以上、特に好ましくは20nm以上であり、好ましくは100nm以下、より好ましくは80nm以下、さらに好ましくは60nm以下、さらにより好ましくは40nm以下である。フィラーの平均一次粒子径が上記範囲内であると、シリカ粒子の凝集を抑制し、ポリイミド系フィルムの光学特性及び弾性率を向上しやすい。フィラーの平均一次粒子径は、BET法により測定できる。なお、透過型電子顕微鏡や走査型電子顕微鏡の画像解析により、フィラーの平均一次粒子径を測定してもよい。
【0110】
本発明のポリイミド系フィルムがナノファイバー以外のフィラーを含有する場合、該フィラーの含有量は、ナノファイバーの含有量に応じて適宜選択でき、例えば、ポリイミド系フィルムの質量に対して0.1~30質量%であってよい。
【0111】
本発明のポリイミド系フィルムは、フィラー以外の他の添加剤を含んでいてもよい。他の添加剤としては、例えば、酸化防止剤、離型剤、安定剤、紫外線吸収剤、ブルーイング剤、難燃剤、pH調整剤、分散剤、滑剤、増粘剤、及びレベリング剤等が挙げられる。ポリイミド系フィルムは他の添加剤を含んでいても含んでいなくてもよいが、他の添加剤を含有する場合、その含有量は、ポリイミド系フィルムの質量に対して、好ましくは0.001~20質量%、より好ましくは0.01~15質量%、さらに好ましくは0.1~10質量%であってよい。
【0112】
本発明のポリイミド系フィルムが積層体である場合、ポリイミド系フィルムの少なくとも一方の面に1以上の機能層を有することが好ましい。機能層としては、例えばハードコート層、プライマー層、ガスバリア層、紫外線吸収層、粘着層、色相調整層、屈折率調整層などが挙げられる。機能層は単独又は二種以上組合せて使用できる。
【0113】
本発明の一実施形態において、ポリイミド系フィルムは、少なくとも一方の面(片面又は両面)に保護フィルムを有していてもよい。例えばポリイミド系フィルムの片面に機能層を有する場合には、保護フィルムは、ポリイミド系フィルム側の表面又は機能層側の表面に積層されていてもよく、ポリイミド系フィルム側と機能層側の両方に積層されていてもよい。ポリイミド系フィルムの両面に機能層を有する場合には、保護フィルムは、片方の機能層側の表面に積層されていてもよく、両方の機能層側の表面に積層されていてもよい。保護フィルムは、ポリイミド系フィルム又は機能層の表面を一時的に保護するためのフィルムであり、ポリイミド系フィルム又は機能層の表面を保護できる剥離可能なフィルムである限り特に限定されない。保護フィルムとしては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等のポリエステル系樹脂フィルム;ポリエチレン、ポリプロピレンフィルムなどのポリオレフィン系樹脂フィルム、アクリル系樹脂フィルム等が挙げられ、ポリオレフィン系樹脂フィルム、ポリエチレンテレフタレート系樹脂フィルム及びアクリル系樹脂フィルムからなる群から選択されることが好ましい。ポリイミド系フィルムが保護フィルムを2つ有する場合、各保護フィルムは同一又は異なっていてもよい。
【0114】
保護フィルムの厚さは、特に限定されるものではないが、通常、10~120μm、好ましくは15~110μm、より好ましくは20~100μmである。ポリイミド系フィルムが保護フィルムを2つ有する場合、各保護フィルムの厚さは同じであっても、異なっていてもよい。
【0115】
[ポリイミド系フィルムの製造方法]
本発明のポリイミド系フィルムは、特に限定されないが、例えば以下の工程:
(a)前記ポリイミド系樹脂を含む液(ワニスとも称する)を調製する工程(ワニス調製工程)、
(b)ワニスを基材に塗布して塗膜を形成する工程(塗布工程)、及び
(c)塗布された液(塗膜)を乾燥させて、ポリイミド系フィルムを形成する工程(ポリイミド系フィルム形成工程)
を含む方法によって製造することができる。
【0116】
ワニス調製工程では、前記ポリイミド系樹脂、並びに、任意に、前記ナノファイバー、前記フィラー、他の添加剤等を含むワニスを調整する。本発明の好適な実施形態では、該ワニスは、ポリイミド系樹脂が溶媒に溶解した溶液に、少なくともナノファイバーが分散していることが好ましい。得られるフィルム中のナノファイバーの分散性を向上しやすい観点から、ワニスは、ナノファイバー分散液、溶媒、及びポリイミド系樹脂を混合して得ることが好ましい。混合する順序は、特に限定されず、ポリイミド系樹脂を溶媒に溶解した溶液に、ナノファイバー分散液を添加しても、溶媒とナノファイバー分散液との混合液に、ポリイミド系樹脂を添加してもよい。なお、ナノファイバー分散液中の分散溶媒と、ワニスの調製に用いられる溶媒の種類は、異なっていてもよいが、同じであることが好ましい。ワニスを調製する際、ナノファイバー分散液に溶媒を加えなくてもよいが、ワニスの調製を容易にする観点から、溶媒を加えることが好ましい。ナノファイバー分散液において、分散性を高めやすい観点から、ナノファイバーの質量は、分散液の質量に対して、好ましくは1~30質量%、より好ましくは5~15質量%である。
【0117】
ワニスの調製に用いられる溶媒は、前記樹脂を溶解可能であれば特に限定されない。かかる溶媒としては、例えばN,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)等のアミド系溶媒;γ-ブチロラクトン(GBL)、γ-バレロラクトン等のラクトン系溶媒;アセトン、メチルエチルケトン、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、2-ヘプタノン、メチルイソブチルケトン等のケトン系溶媒;ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶媒;エチレンカーボネート、プロピレンカーボネート等のカーボネート系溶媒;及びそれらの組合せが挙げられる。これらの中でも、得られるフィルムの光学特性及び弾性率を高めやすい観点から、アミド系溶媒、ラクトン系溶媒又はケトン系溶媒が好ましい。これらの溶媒は単独又は二種以上組合せて使用できる。また、ワニスには水、アルコール系溶媒、非環状エステル系溶媒、エーテル系溶媒などが含まれてもよい。
【0118】
ワニスの固形分濃度は、好ましくは1~30質量%、より好ましくは5~25質量%、さらに好ましくは10~20質量%である。なお、本明細書において、ワニスの固形分とは、ワニスから溶媒を除いた成分を意味する。また、ワニスの粘度は、好ましくは5~100Pa・s、より好ましくは10~50Pa・sである。ワニスの固形分濃度及び粘度が上記の範囲であると、ポリイミド系フィルムを均一化しやすく、光学特性、弾性率及び耐屈曲性に優れたポリイミド系フィルムが得られやすい。なお、ワニスの粘度は粘度計を用いて測定できる。
【0119】
塗布工程において、公知の塗布方法により、基材上にワニスを塗布して塗膜を形成する。公知の塗布方法としては、例えばワイヤーバーコーティング法、リバースコーティング、グラビアコーティング等のロールコーティング法、ダイコート法、カンマコート法、リップコート法、スピンコーティング法、スクリーンコーティング法、ファウンテンコーティング法、ディッピング法、スプレー法、流涎成形法等が挙げられる。
【0120】
ポリイミド系フィルム形成工程において、塗膜を乾燥し、基材から剥離することによって、ポリイミド系フィルムを形成することができる。剥離後にさらにポリイミド系フィルムを乾燥する乾燥工程を行ってもよい。塗膜の乾燥は、通常50~350℃、好ましくは70~220℃の温度にて行うことができる。乾燥(又は加熱時間)は、好ましくは5分~5時間、より好ましくは10分~1時間である。本発明の好適な一実施形態では、塗膜の乾燥は比較的低温下で行うことが好ましく、例えば50~220℃で行ってもよく、好ましくは80~130℃で塗膜を乾燥し、基材から剥離後に、好ましくは150~220℃、より好ましくは180~210℃で乾燥してもよい。このような乾燥を行うと、弾性率及び光学特性に優れるポリイミド系フィルムが得られやすい。塗膜の乾燥は、必要に応じて、不活性雰囲気条件下において行ってよい。また、ポリイミド系フィルムの乾燥を真空条件下で行うと、フィルム中に微小な気泡が発生、残存することがあり、透明性が低下する要因となるため大気圧下で行うことが好ましい。
【0121】
基材の例としては、ガラス基材、PETフィルム、PENフィルム、他のポリイミド系樹脂フィルム等が挙げられる。中でも、耐熱性に優れる観点から、ガラス基材、PETフィルム、PENフィルム等が好ましく、さらにポリイミド系フィルムとの密着性及びコストの観点から、ガラス基材又はPETフィルムがより好ましい。
【0122】
本発明のポリイミド系フィルムは、種々の用途、例えばタッチセンサ用基板、フレキシブル表示装置用材料、保護フィルム、ベゼル印刷用途フィルム、半導体用途、スピーカー振動板、IRカットフィルターなどに使用してもよい。
【0123】
〔ポリイミド系フィルム〕
本発明は、ポリアミドイミド樹脂及び無機ナノファイバーを含むポリイミド系フィルムを包含する。
【0124】
本発明者は、ポリイミド系フィルムがポリアミドイミド樹脂及び無機ナノファイバーを含む場合にも、意外なことに、光学特性に優れるとともに、フィルム表面に衝撃を受けた際にフィルム底面にかかる底面応力を有効に抑制できることを見出した。これは、比較的硬い無機ナノファイバーが、ポリアミドイミド樹脂中に分散(好ましくは均一分散)し、ネットワーク構造(又は網目状構造)を形成し得るため、光学特性を維持しつつ、フィルム表面からの衝撃を有効に吸収(又は緩和)できるからだと推定される。そのため、本発明のポリイミド系フィルムは、フレキシブル表示装置の材料等として好適に使用できる。
【0125】
本発明のポリイミド系フィルムにおいて、該ポリアミドイミド樹脂は、上記<ポリイミド系樹脂>の項に記載のポリアミドイミド樹脂と同じであり、好ましい形態も同じである。該無機ナノファイバーは、上記<ナノファイバー>の項に記載の無機ナノファイバーと同じであり、好ましい形態も同じである。すなわち、本発明のポリイミド系フィルムに含まれる無機ナノファイバーは、アルミナナノファイバーであることが好ましい。無機ナノファイバーがアルミナナノファイバーであると、ポリアミドイミド樹脂中に分散、好ましくは均一分散しやすく、ネットワーク構造(又は網目状構造)を形成しやすいため、フィルム表面から衝撃を受けた際に生じる底面応力をより有効に抑制しやすい。
【0126】
ポリアミドイミド樹脂の含有量は、ポリイミド系フィルムの質量に対して、好ましくは40質量%以上、より好ましくは50質量%以上、さらに好ましくは55質量%以上、さらにより好ましくは60質量%以上、特に好ましくは65質量%以上、特により好ましくは70質量%以上、特にさらに好ましくは75質量%以上であり、好ましくは97質量%以下、より好ましくは95質量%以下、さらに好ましくは93質量%以下である。ポリアミドイミド樹脂の含有量が上記の下限以上であると、フィルムの光学特性を向上しやすく、また上記の上限以下であると、フィルムの弾性率及び耐屈曲性を向上しやすい。
【0127】
無機ナノファイバーの含有量は、ポリイミド系フィルムの質量に対して、好ましくは1質量%以上、より好ましくは3質量%以上、さらに好ましくは5質量%以上、さらにより好ましくは7質量%以上であり、好ましくは60質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは45質量%以下、さらにより好ましくは40質量%以下、特に好ましくは35質量%以下、特により好ましくは30質量%以下、特にさらに好ましくは25質量%以下である。無機ナノファイバーの含有量が上記の下限以上であると、フィルムの弾性率を向上しやすく、また無機ナノファイバーの含有量が上記の上限以下であると、フィルムの光学特性を向上しやすい。
【0128】
本発明のポリイミド系フィルムは、無機ナノファイバー以外の添加剤を含んでいてよい。無機ナノファイバー以外の添加剤としては、上記のナノファイバー以外のフィラー、上記の他の添加剤と同じものが挙げられ、その含有量も同様の範囲から選択できる。
【0129】
[ポリイミド系フィルムの用途]
本発明のポリイミド系フィルムは、フィルム表面に衝撃が加わってもフィルム底面にかかる底面応力を有効に抑制できるとともに、優れた光学特性及び耐屈曲性を有することができる。そのため、表示装置、特にフレキシブル表示装置の透明部材、例えばタッチセンサ用基板、特にローラブルディスプレイやフォルダブルディスプレイのタッチセンサ用基板として好適に使用できる。すなわち、本発明のポリイミド系フィルムは、フレキシブル表示装置のタッチセンサ基板用フィルムであることが好ましい。なお、フレキシブル表示装置とは、画像表示装置を繰り返し折り曲げる、繰り返し巻く等の操作を伴い使用される表示装置である。
【0130】
表示装置としては、テレビ、スマートフォン、携帯電話、カーナビゲーション、タブレットPC、携帯ゲーム機、電子ペーパー、インジケーター、掲示板、時計、及びスマートウォッチ等のウェアラブルデバイス等が挙げられる。フレキシブル表示装置としては、例えば上記のようなローラブルディスプレイやフォルダブルディスプレイが挙げられる。ローラブルディスプレイとは、画像表示部分がロール状に巻き取られており、該画像表示部分を引き出して平面又は曲面にした状態で使用される画像表示装置であり、ロール状に巻き取る等の操作が使用の度に行われるような画像表示装置である。また、フォルダブルディスプレイとは、画像表示部分が折り曲げられており、該画像表示部分を開いて平面又は曲面にした状態で使用される画像表示装置であり、折り曲げる等の操作が使用の度に行われるような画像表示装置である。このような巻取り、折り曲げ等の操作が繰り返し行われる画像表示装置をフレキシブル表示装置と称する。
【0131】
[フレキシブル表示装置]
本発明は、本発明のポリイミド系フィルムを備えるフレキシブル表示装置を包含する。フレキシブル表示装置の具体的な構成としては、特に限定されないが、例えばフレキシブル表示装置用積層体及び有機EL等の表示素子(有機EL表示パネル等)を含んでなる構成が挙げられる。このような本発明のフレキシブル表示装置は、さらに偏光板及び/又はタッチセンサを備えることが好ましい。偏光板又はタッチセンサとしては、慣用のものを用いることができ、これらは前記フレキシブル表示装置用積層体に含まれていてよい。偏光板としては、例えば円偏光板が挙げられ、タッチセンサとしては、抵抗膜方式、表面弾性波方式、赤外線方式、電磁誘導方式、静電容量方式等の様々な様式が挙げられる。本発明の好適な一実施形態では、上記の通り、本発明のポリイミド系フィルムは、前記タッチセンサ用基板(又はタッチセンサ用フィルム)として使用することができる。
また、本発明の一実施形態では、フレキシブル表示装置用積層体は、視認側に、さらにウインドウフィルムを含むことが好ましく、例えば、視認側からウインドウフィルム、偏光板、タッチセンサ、又はウインドウフィルム、タッチセンサ、偏光板の順に積層されていてもよい。これらの部材は、接着剤又は粘着剤を用いて積層してもよく、これらの部材以外の他の部材を含むこともできる。
【0132】
本発明のフレキシブル表示装置は、ポリイミド系フィルムを含む、好ましくはタッチセンサ用基板としてポリイミド系フィルムを含むため、視認側(フィルム表面側)からの衝撃を吸収(又は緩和)し、フィルム底面に伝わる応力を抑制できる。そのため、フィルム底面側にある有機EL等の表示素子にキズや割れが生じるのを抑制できる。さらに、優れた光学特性及び耐屈曲性を有することもできる。
【実施例0133】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。まず測定方法について説明する。
【0134】
<ポリイミド系樹脂の重量平均分子量(Mw)>
製造例で得られたポリイミド系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、以下の通り、ゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した。
GPC測定
(1)前処理方法
ポリイミド系樹脂にNMP溶離液(10mmol/L臭化リチウム添加溶液)を濃度1mg/mLとなるように加え、80℃にて10分間攪拌しながら加熱し、冷却後、0.45μmメンブランフィルターでろ過したものを測定溶液とした。
(2)測定条件
カラム:東ソー(株)製TSKgel α-M(7.8mm径×300mm)×1本
ガードカラム:東ソー(株)製TSKgel guardcolumn α(6mm径×40mm)
溶離液:NMP(10mmol/Lの臭化リチウム添加溶液)
流量:1.0mL/分
検出器:UV検出器
検出波長:275nm
カラム温度:40℃
注入量:1μL
分子量標準:標準ポリスチレン
【0135】
<引張弾性率>
実施例及び比較例で得られたポリイミド系フィルムの引張弾性率は、以下のように測定した。
島津製作所製 オートグラフAG-IS (1kN)を用いた。サンプルサイズは10mm×120mm、引張速度は10mm/min、チャック間距離は50mm、温度25℃及び50%RHで測定し、変形量と荷重の関係から引張弾性率を算出した。
【0136】
<圧縮弾性率>
実施例及び比較例で得られたポリイミド系フィルムの圧縮弾性率は、以下のように測定した。
エリオ二クス社製 超微小押込み硬さ試験機 ENT-1100を用いた。フィルムは約1cm四方を切出し、接着剤にて試料台に固定した。試験荷重は30mN、荷重印加時間は15秒、荷重保持時間は60秒、測定温度及び湿度は25℃、50%RHとし、圧子にはバーコヴィッチ圧子(三角錐、対陵角115°)を用いた。押込みの変位と押込み荷重の関係から圧縮弾性率を算出した。
【0137】
<全光線透過率(Tt)の測定>
JIS K 7105:1981に準拠して、スガ試験機(株)製の全自動直読ヘーズコンピュータ HGM-2DPにより、実施例及び比較例で得られたポリイミド系フィルムの全光線透過率を測定した。
【0138】
<黄色度(YI)の測定>
実施例及び比較例で得られたポリイミド系フィルムのYIを、JIS K 7373:2006に準拠して、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光(株)製、「V-670」)を用いて測定した。フィルムがない状態でバックグランド測定を行った後、フィルムをサンプルホルダーにセットして、300~800nmの光に対する透過率測定を行い、3刺激値(X、Y、Z)を求めた。YIを、下記の式に基づいて算出した。
YI=100×(1.2769X-1.0592Z)/Y
【0139】
<ヘーズ(Haze)>
JIS K 7136:2000に準拠して、実施例及び比較例で得られたポリイミド系フィルムを30mm×30mmの大きさにカットし、ヘーズコンピュータ(スガ試験機(株)製、「HGM-2DP」)を用いてヘーズ(%)を測定した。
【0140】
<厚さの測定>
実施例及び比較例で得られたポリイミド系フィルムの厚さは、マイクロメーター((株)ミツトヨ製、「ID-C112XBS」)を用いて測定した。
【0141】
<tanδの最大値の測定>
実施例及び比較例におけるポリイミド系フィルムの動的粘弾性測定により得られるtanδの最大値は、以下のように測定した。
TA Instruments社製 RSA-G2を用いた。サンプルサイズは3mm×40mm、チャック間距離20mm、温度20~300℃、昇温速度 3℃/min、周波数5Hz、歪み量0.03%で実施した。tanδの最大値は測定温度域での最大値とした。
【0142】
<屈曲回数>
実施例及び比較例で得られたポリイミド系フィルムの屈曲回数は、以下のように測定した。ユアサシステム機器株式会社製 卓上型耐久試験機(DMLHB)に面状体無負荷U字伸縮試験治具(DMX-FS)を設置して実施した。サンプルサイズは10mm×120mm、速度30rpm、面間距離3mmで屈曲部位の破断有無を目視で観察し、破断した時点の屈曲回数を求めた。
【0143】
<ペンドロップの底面応力>
(測定)
実施例及び比較例で得られたポリイミド系フィルムについて、ペンドロップの底面応力を以下のようにして測定した。
石定盤の上に、圧力測定フィルム(富士フィルム社製、「高圧用(HS)」)を置き、圧力測定フィルムの上にポリイミド系フィルムを配置した。次いで、該ポリイミド系フィルムの表面(圧力測定フィルム側とは反対の面)に、所定のボールペン(5.6g)を5cm及び10cmそれぞれの高さから落下させた。次いで、加圧発色した圧力測定フィルムを、圧力画像解析システム(富士フィルム社製、「FPD-8010J」)を用いて解析し、それぞれの圧力を得た。この圧力をペンドロップの底面応力(MPa)とした。
(評価)
〇・・・<80MPa(5cm)、かつ、<85MPa(10cm)
△・・・<80MPa(5cm)、または、<85MPa(10cm)
×・・・>80MPa(5cm)、かつ、>85MPa(10cm)
【0144】
<製造例1>
(ポリイミド系樹脂Aの製造)
窒素ガス雰囲気下、撹拌翼を備えた反応容器に、ジメチルアセトアミド(MGC(株)製)44.87kg、APEA(Zymergen社製)1.158kg、および6FDA(八幸通商(株))1.889kgを加え、次に、イソキノリン(富士フィルム和光純薬(株)製)0.082kgを添加した後、120℃に昇温し、16時間撹拌した後、得られた反応液を70℃まで冷却した。続いて、ジメチルアセトアミド37.84kg、TFMB(セイカ(株)製)4.084kg、TEA(ダイセル(株)製)3.441kg、およびTPC(イハラニッケイ(株)製)3.459kgを加え、1時間撹拌した後、得られた反応液を30℃まで冷却し、撹拌しながらメタノール(日鉄ケミカル(株)製)を248.12kg加えた後、ろ過した。ろ過した沈殿物をメタノール(41.86kg)で5回洗浄し、沈殿物を乾燥機にて114℃で12時間乾燥させることで、ポリイミド系樹脂を8.425kg得た。製造したポリイミド系樹脂の重量平均分子量(Mw)は、218,000であった。なお、APEA:TFMB:TPC:6FDA(モル比)=4:6:8:2であった。
【0145】
<製造例2>
(ポリイミド系樹脂Bの製造)
河村産業株式会社製の透明ポリイミド(KPI-MX300F)を用いた。
【0146】
<実施例1>
150ccのPP製容器(60mm径)に、DMAcを76.5g、DMAc分散タイプのアルミナナノファイバーゾル(固形分濃度10質量%、川研ファインケミカル(株)製、平均繊維長:3000nm、平均繊維径:4nm、アスペクト比:750)を27.5g添加し、その後にポリイミド系樹脂A 11.0gを数回に分けて投入した。投入後、ファウドラー翼を用いて400rpmの回転数で6時間攪拌してワニスを得た。ワニス中、DMAcの含有量は101.25gであり、ポリイミド系樹脂Aの含有量は11.0gであり、アルミナナノファイバーの含有量は2.75gであり、すなわち、アルミナナノファイバーの含有量は、樹脂及びアルミナナノファイバーの総質量に対して20質量%であった。
【0147】
次いで、ワニスをPET基材に塗布し、120℃で30分乾燥し、塗膜を得た。該塗膜をPET基材から剥離し、剥離した塗膜を200℃で30分、オーブンにて乾燥することにより、厚さ50umのポリイミド系フィルムを得た。
【0148】
<実施例2>
150ccのPP製容器(60mm径)に、DMAcを89g、DMAc分散タイプのアルミナナノファイバーゾル(固形分濃度10重量%、川研ファインケミカル(株)製、平均繊維長:3000nm、平均繊維径:4nm、アスペクト比:750)を13.75g添加し、その後にポリイミド系樹脂A 12.38gを数回に分けて投入した。投入後、ファウドラー翼を用いて400rpmの回転数で6時間攪拌してワニスを得た。ワニス中、DMAcの含有量は101.375gであり、ポリイミド系樹脂Aの含有量は12.38gであり、アルミナナノファイバーの含有量は1.375gであり、すなわち、アルミナナノファイバーの含有量は、樹脂及びアルミナナノファイバーの総質量に対して10質量%であった。
【0149】
次いで、ワニスをPET基材に塗布し、120℃で30分乾燥し、塗膜を得た。該塗膜をPET基材から剥離し、剥離した塗膜を200℃で30分、オーブンにて乾燥することにより、厚さ50umのポリイミド系フィルムを得た。
【0150】
<比較例1>
150ccのPP製容器(60mm径)に、DMAcを70.86g、DMAc系シリカゾル(固形分濃度30重量%、シリカ粒子)を17.14g添加し、その後にポリイミド系樹脂A 12gを数回に分けて投入した。投入後、ファウドラー翼を用いて400rpmの回転数で6時間攪拌してワニスを得た。ワニス中、DMAcの含有量は82.858gであり、ポリイミド系樹脂Aの含有量は12gであり、シリカ粒子の含有量は5.142gであり、すなわち、シリカ粒子の含有量は、樹脂及びシリカ粒子の総質量に対して30質量%であった。
【0151】
次いで、ワニスをPET基材に塗布し、120℃で30分乾燥し、塗膜を得た。該塗膜をPET基材から剥離し、剥離した塗膜を200℃で30分、オーブンにて乾燥することにより、厚さ50umのポリイミド系フィルムを得た。
【0152】
<比較例2>
150ccのPP製容器(60mm径)に、DMAcを90g、ポリイミド系樹脂Aを10g投入した。投入後、ファウドラー翼を用いて400rpmの回転数で6時間攪拌してワニスを得た。ワニス中、DMAcの含有量は90gであり、ポリイミド系樹脂Aの含有量は10gであった。
【0153】
次いで、ワニスをPET基材に塗布し、120℃で30分乾燥し、塗膜を得た。該塗膜をPET基材から剥離し、剥離した塗膜を200℃で30分、オーブンにて乾燥することにより、厚さ50umのポリイミド系フィルムを得た。
【0154】
<比較例3>
150ccのPP製容器(60mm径)に、DMAcを36.9g、DMAc分散タイプのアルミナナノファイバーゾル(固形分濃度10質量%、川研ファインケミカル(株)製、平均繊維長:3000nm、平均繊維径:4nm、アスペクト比:750)を16.5g添加し、その後にポリイミド系樹脂B 6.6gを数回に分けて投入した。投入後、ファウドラー翼を用いて400rpmの回転数で6時間攪拌してワニスを得た。ワニス中、DMAcの含有量は51.75gであり、ポリイミド系樹脂Bの含有量は6.6gであり、アルミナファイバーの含有量は1.65gであり、すなわち、アルミナナノファイバーの含有量は、樹脂及びアルミナナノファイバーの総質量に対して20質量%であった。
【0155】
次いで、ワニスをPET基材に塗布し、120℃で30分乾燥し、塗膜を得た。該塗膜をPET基材から剥離し、剥離した塗膜を200℃で30分、オーブンにて乾燥することにより、厚さ50umのポリイミド系フィルムを得た。
【0156】
実施例1、2、及び比較例1~3で得られたポリイミド系フィルムにおいて、上記の測定方法に従って、Tt(%)、YI、ヘーズ(%)、引張弾性率(GPa)、圧縮弾性率(GPa)、tanδの最大値、及びペンドロップの底面応力(MPa)を測定した結果を表1に示す。なお、表1中、フィラーの含有量は、ポリイミド系フィルムの質量に対するフィラーの質量を意味する。
【0157】
【表1】
【0158】
表1に示されるように、実施例1及び2で得られたポリイミド系フィルムは、ペンドロップの底面応力の評価が〇であるとともに、Ttが85%以上、かつYIが7.0以下であり、光学特性に優れていることが確認された。これに対して、比較例1及び2で得られたポリイミド系フィルムは、ペンドロップの底面応力の評価が×であり、比較例3で得られたポリイミド系フィルムは、ペンドロップの底面応力の評価が△であるとともに、Ttが10%未満であり、光学特性が低いことが確認された。
よって、本発明のポリイミド系フィルムは、光学特性に優れ、フィルム表面への衝撃により生じる底面応力を抑制できる。
なお、製造例1では、樹脂を構成するモノマーの比が、APEA:TFMB:TPC:6FDA(モル比)=4:6:8:2のポリイミド系樹脂Aを製造したが、APEA:TFMB:TPC:6FDA(モル比)=6:4:7:3のポリイミド系樹脂を製造してもよく、当該モル比のポリイミド系樹脂とアルミナナノファイバーとを混合したポリイミドフィルムを製造してもよい。