(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172188
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】陽極酸化援用研削装置及び陽極酸化援用研削方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/304 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
H01L21/304 631
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089741
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000167222
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクトマシンシステム
(71)【出願人】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110004495
【氏名又は名称】弁理士法人テイクオフ
(72)【発明者】
【氏名】吉川 亘
(72)【発明者】
【氏名】寺田 久夫
(72)【発明者】
【氏名】加藤 智久
【テーマコード(参考)】
5F057
【Fターム(参考)】
5F057AA33
5F057AA37
5F057BA11
5F057BB09
5F057CA14
5F057DA11
5F057DA34
5F057FA45
5F057GA07
(57)【要約】
【課題】被加工物の表面をより効率的に陽極酸化させながら能率的に研削加工できるようにする。
【解決手段】電解液Wを介して陽極6と陰極7と被加工物1との間で直流電流を流すことにより被加工物1の表面に陽極酸化皮膜を生成して、研削砥石12により陽極酸化皮膜を研削する。陽極6は研削砥石12とは別に設けられており、与圧手段16の与圧によって被加工物1に押し当てながら給電する。陽極6は被加工物1よりも柔らかい導電性材料である。電解液Wは陽極6及び陰極7の電極6,7側から供給する。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解液を介して陽極と陰極と被加工物との間で直流電流を流すことにより前記被加工物の表面に陽極酸化皮膜を生成して、研削砥石により前記陽極酸化皮膜を研削するようにした陽極酸化援用研削装置であって、
前記研削砥石とは別に設けられた前記陽極を与圧によって前記被加工物に押し当てながら給電する
ことを特徴とする陽極酸化援用研削装置。
【請求項2】
前記陽極は前記被加工物よりも柔らかい導電性材料である
ことを特徴とする請求項1に記載の陽極酸化援用研削装置。
【請求項3】
前記電解液は前記陽極及び前記陰極の電極側から供給する
ことを特徴とする請求項1又は2に記載の陽極酸化援用研削装置。
【請求項4】
電解液を介して陽極と陰極と被加工物との間で直流電流を流すことにより前記被加工物の表面に陽極酸化皮膜を生成する工程と、
研削砥石により前記陽極酸化皮膜を研削する工程とを含む陽極酸化援用研削方法であって、
前記研削砥石とは別に設けられた前記陽極を与圧によって前記被加工物に押し当てながら給電する
ことを特徴とする陽極酸化援用研削方法。
【請求項5】
前記被加工物の研削の段階に応じて前記陽極を前記被加工物に対して接触状態と非接触状態とに制御する
ことを特徴とする請求項4に記載の陽極酸化援用研削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電解液を介して被加工物に直流電流を流したときに被加工物の表面に生じる陽極酸化反応を応用して、被加工物の表面を研削砥石により研削する陽極酸化援用研削装置及び陽極酸化援用研削方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
SiCウエーハ等の被加工物を平面研削する際に使用する平面研削装置には、従来から陽極酸化援用研削装置がある(特許文献1)。この陽極酸化援用研削装置は、電解液を貯留する容器を備え、被加工物の加工時に、容器内に貯留された電解液中に被加工物を浸漬して、その電解液を介して陽極と陰極と被加工物との間で直流電流を流し、被加工物の表面に生じる陽極酸化反応を利用して、研削砥石により被加工物の表面を研削するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
このような陽極酸化援用研削装置では、SiCウエーハ等の被加工物を研削加工する場合でも、陽極酸化によりSiCウエーハの表面が柔らかくなるため、酸化セリウム等の一般砥粒による研削砥石や遊離砥粒を使用することが可能になり、ダイヤモンド砥石により研削する場合に比較して、SiCウエーハの表面に与えるダメージが減少して加工後の表面粗さが向上すると共に、研削砥石の非超砥粒化によるツールコストを低減できる利点がある。
【0005】
しかし、従来の陽極酸化援用研削装置は、容器内に貯留された電解液中に被加工物を浸漬するために、研削装置全体が大型化し複雑になる上に、研削砥石により被加工物を研削した研削屑が容器の電解液中に溜まり、その研削屑の回収、メンテナンスが困難になる等の問題がある。
【0006】
そこで、本発明者等は、特願2022-71617号として新たな陽極酸化援用研削装置を提案した。この先願に係る陽極酸化援用研削装置は、容器内に貯留された電解液中に被加工物を浸漬する従来とは異なり、陰極と被加工物との間に電解液を掛け流し状に供給することにより、電解液を溜めるための容器を不要にしたものであり、装置全体を小型化できると共に、容器内に溜まる研削屑の回収が不要でメンテナンス等を容易にできる利点がある。
【0007】
しかし、先願の陽極酸化援用研削装置は、研削砥石を陽極として使用し、この研削砥石を介して給電するため、研削砥石自体が酸化反応してしまうことになり、研削砥石の研削効率が低下し、また被加工物の表面を陽極酸化させる際の電気エネルギーの損失が大きい等の問題があり、被加工物の表面をより効率的に陽極酸化させながら、研削砥石により被加工物の表面を能率的に研削加工できなかった。
【0008】
本発明は、このような問題点に鑑み、被加工物の表面をより効率的に陽極酸化させながら能率的に研削加工できる陽極酸化援用研削装置及び陽極酸化援用研削方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る陽極酸化援用研削装置は、電解液を介して陽極と陰極と被加工物との間で直流電流を流すことにより前記被加工物の表面に陽極酸化皮膜を生成して、研削砥石により前記陽極酸化皮膜を研削するようにした陽極酸化援用研削装置であって、前記研削砥石とは別に設けられた前記陽極を与圧によって前記被加工物に押し当てながら給電するものである。前記陽極は前記被加工物よりも柔らかい導電性材料であることが望ましい。前記電解液は前記陽極及び前記陰極の電極側から供給することが望ましい。
【0010】
本発明に係る陽極酸化援用研削方法は、電解液を介して陽極と陰極と被加工物との間で直流電流を流すことにより前記被加工物の表面に陽極酸化皮膜を生成する工程と、研削砥石により前記陽極酸化皮膜を研削する工程とを含む陽極酸化援用研削方法であって、前記研削砥石とは別に設けられた前記陽極を与圧によって前記被加工物に押し当てながら給電するものである。前記被加工物の研削の段階に応じて前記陽極を前記被加工物に対して接触状態と非接触状態とに制御することもある。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、研削砥石とは別に設けられた陽極を与圧によって被加工物に押し当てながら給電するため、研削砥石を介して給電する場合に比較して、被加工物の表面をより効率的に陽極酸化させながら能率的に研削加工できる利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本願発明の第1実施形態を示す陽極酸化援用研削装置の立面図である。
【
図3】同陽極酸化援用研削装置の要部の断面図である。
【
図4】同陽極酸化援用研削装置の要部の平面断面図である。
【
図6】(a)(b)は本願発明の第2実施形態を示すオシレート型の陽極酸化援用研削装置の平面断面図である。
【
図7】本願発明の第3実施形態を示す陽極の断面図である。
【
図8】本願発明の第4実施形態を示す要部の平面断面図である。
【
図9】本願発明の第5実施形態を示す第1加工例の説明図である。
【
図12】(a)は同電極の構成図、(b)は同第4加工例の説明図である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、発明の実施形態を図面に基づいて詳述する。
図1~
図5は平面研削装置に採用した陽極酸化援用研削装置の第1の実施形態を示す。この陽極酸化援用研削装置は、
図1、
図2に示すように、上面に円板状の被加工物1が同心状に着脱自在に装着され且つ縦軸心2a回りに
図1のa矢示方向に回転する被加工物回転装置2と、縦軸心3a回りに
図1のb矢示方向に回転しながら上下方向(上下方向は鉛直方向と同義である。以下同様)に前進後退可能な砥石軸3と、砥石軸3の下端の砥石軸フランジ4に着脱自在に装着され且つ被加工物回転装置2上の被加工物1の上表面を研削可能な研削ホイール5と、被加工物回転装置2上の被加工物1の外周側近傍に配置され且つ被加工物1の上表面に与圧によって被加工物1の回転方向に相対移動自在に押し当てられた陽極6と、研削ホイール5と陽極6との間に配置され且つ被加工物回転装置2上の被加工物1の上側に微小間隙Sをおいて非接触状態に配置された陰極7と、陽極6及び陰極7の電極6,7に対して被加工物1の外周側に配置され、且つ被加工物1、陽極6及び陰極7の間に電解液Wを掛け流し状に供給する電解液供給手段8と、電解液Wを介して陽極6から被加工物1を経て陰極7へと直流電流を流す直流電源9とを備えている。
【0014】
なお、この陽極酸化援用研削装置は、研削ホイール5、陽極6、陰極7、電解液供給手段8等により上側ユニットU1が構成され、被加工物回転装置2等により下側ユニットU2が構成されている。
【0015】
被加工物回転装置2は、上端のチャック手段10により被加工物1を着脱自在に吸着するようになっている。チャック手段10は被加工物1を吸着する多孔質の吸着板を有する。被加工物1は、例えば導電性を有するSiCウエーハであるが、導電性を有するものであれば、他のものでもよい。
【0016】
研削ホイール5は被加工物1を研削する研削砥石(研削手段)を構成するもので、砥石軸フランジ4の下側に着脱自在に装着可能な砥石母材11と、この砥石母材11の下側に固定された非導電性のカップ型砥石12とを有する。カップ型砥石12はその外径が被加工物1の外径以上であり、且つ刃幅が被加工物1の中心を通るように配置されている。なお、カップ型砥石12は一般砥石等の非導電性砥石が使用されている。砥石にはカップ型砥石12以外のものを使用することも可能であり、被加工物1の材質に応じて一般砥石以外のもの、導電性を有するもの等を使用してもよい。
【0017】
陽極6は上下方向の棒状であって、被加工物1上を摺動しても、被加工物1にダメージを与えないように、被加工物1よりも柔らかい導電性材料により構成されている。また陽極6は、
図3に示すように保持ケース14と陽極ホルダ15とにより上下動自在に保持されると共に、バネ式の与圧手段16の与圧により被加工物1上に下向きに押し当てられ、エアー式の昇降手段17により与圧手段16に抗して被加工物1から離れる非接触状態に持ち上げ可能である。陽極6は給電部材18、陽極ホルダ15、正電位側給電線19を介して直流電源9の正電位側端子に接続されている。
【0018】
なお、陽極6、陰極7により給電装置が構成されている。また被加工物1、電解液Wを介して直流電源9、陽極6、陰極7間で構成される閉回路により、被加工物1に直流電流を流して被加工物1の表面に陽極酸化皮膜を生成させる工程が実行される。
【0019】
陽極6、陰極7及び電解液供給手段8は支持部材21に設けられている。支持部材21はブラケット23、摺動部24を介して揺動枠25の一対の案内軸26により上下方向に摺動自在に支持され、図外の昇降駆動手段の駆動により昇降可能である。揺動枠25は縦軸回りに揺動自在に支持され、陽極6、陰極7及び電解液供給手段8が被加工物回転装置2上に位置する加工位置(
図1及び
図2に示す位置)と、被加工物回転装置2上から側方に離れた退避位置との間で揺動可能である。
【0020】
陽極6、陰極7及び電解液供給手段8は、
図2に示すように、加工位置では被加工物1の略中心を通る線分X上に研削ホイール5、陰極7、陽極6及び電解液供給手段8の順で略一列に並んで配置されている。陽極6は、研削ホイール5との間に陰極7を挟んで配置され、被加工物1の外周側に対応している。
【0021】
陽極6は、
図3、
図4に示すように、絶縁性を有する保持ケース14内でブッシュ27により上下摺動自在に保持されており、ブッシュ27の上側に位置する鍔状のピストン部28と、保持ケース14から下方に突出して被加工物1の上面に接触可能な凸部29とを有する。陽極ホルダ15内には陽極6の上端側に当接可能な給電部材18が収容され、この給電部材18と陽極ホルダ15の頂部との間にコイルバネ30が介在されている。保持ケース14、陽極ホルダ15は、支持部材21に着脱自在に取り付けられている。
【0022】
与圧手段16は陽極ホルダ15、コイルバネ30等により構成されている。昇降手段17は、保持ケース14内でブッシュ27とピストン部28との間に形成されたシリンダ室31と、そのシリンダ室31に接続されたエアー管路32と、コイルバネ30とにより構成されている。エアー管路32は制御弁33を介してエアー源39に接続されている。
【0023】
陽極6は制御弁33の操作による昇降手段17の昇降動作により、被加工物1に接触する接触状態(
図1、
図3参照)と、被加工物1から離れた非接触状態(
図5(b)参照)とに切り替え可能である。即ち、制御弁33を上昇側に操作すると、エアー管路32を介して昇降手段17のシリンダ室31内にエアーが供給されるので、
図5(b)に示すようにピストン部28を介して陽極6が上昇し凸部29が被加工物1の上面から離れて非接触状態となる。また制御弁33を下降側に操作すると、コイルバネ30の与圧により昇降手段17のシリンダ室31のエアーが抜けて、
図3に示すように陽極6が被加工物1に接触する接触状態となる。
【0024】
そのため被加工物1の加工状況に応じて制御弁33を操作することにより、昇降手段17が上昇又は下降方向に作動して、陽極6が被加工物1に対して接触する接触状態と、陽極6が被加工物1から離れる非接触状態とを任意に選択することができる。
【0025】
なお、陽極6は被加工物1よりも柔らかい黒鉛(グラファイト)やカーボン、又はそれらの複合材料から構成されている。しかし、陽極6は、被加工物1よりも柔らかい材料であればよく、黒鉛やカーボンに限定されるものではない。
【0026】
陰極7は平板状であって、被加工物1の上表面との間に所定の間隙、例えば微小間隙Sをおいて略平行に配置されている。この陰極7は被加工物回転装置2上での被加工物1の回転に伴って、被加工物1の上面の外周部側から中心側の略全体と対向可能な形状になっている。即ち、陰極7は、
図2に示すように、研削ホイール5に近い側に被加工物1の略直径方向の長辺部7aを有し、この長辺部7aに対して研削ホイール5と反対側の円弧状部7bを有する略半円板状であって、その円弧状部7bの中央側に研削ホイール5へと略V字状の切り欠き部7cが設けられている。切り欠き部7c内には、陽極6、保持ケース14等を含む陽極ユニットが配置されている。
【0027】
換言すれば、陰極7は被加工物1の陽極6側の略半分に対応する形状、大きさであって、被加工物1の外周側が広がる形状の一対の陰極部7dを線分X上を挟む両側に備え、被加工物1との相対回転によって、被加工物1の上表面側の全域が各陰極部7dと対応するようになっている。なお、陰極7は被加工物1の回転、オシレート(後述)等の相対移動により、陰極7が被加工物1の全体に対応すればよいので、例えば
図2の一対の陰極部7dの何れか一方のみでもよい。
【0028】
陰極7は、絶縁性を有する取り付け部材(図示省略)を介して支持部材21の下側に固定されると共に、支持部材21を貫通して上側に突出する給電部材36が固定されている。給電部材36は負電位側給電線37を介して直流電源9の負電位側端子に接続されている。
【0029】
被加工物1と陰極7との間の間隙は、具体的には1mm以下、好ましくは500μm以下の微小間隙Sである。以下、この間隙を微小間隙Sというが、特定の寸法の間隙を指称するものではない。なお、給電時には被加工物1、電解液Wを介して直流電源9、陽極6、陰極7間で閉回路を構成する。
【0030】
電解液供給手段8は陽極6及び陰極7の電極6,7側から被加工物1側へと電解液Wを供給して、被加工物1、陽極6及び陰極7間に電解液Wの層を形成するためのものであって、陽極6及び陰極7に対して研削ホイール5と反対側に配置されている。
【0031】
この電解液供給手段8は、下向きに配置された一対の供給口41と、供給源34からの電解液Wを供給口41へと供給する供給管路43と、供給口41からの電解液Wを受けて陽極6、陰極7側から被加工物1上へと案内する案内具44とを有する。
【0032】
供給口41は線分Xに対して略対称に配置され、ブラケット23の上下両側に設けられたナット等の調整手段42により上下調整可能に固定されている。なお、供給口41は複数配置する他、1個でもよい。
【0033】
案内具44は供給口41を取り囲む周壁部45と、この周壁部45の底側に設けられた受け部46とを備え、周壁部45には被加工物1側に開放する案内口47が設けられている。案内具44は支持部材21の下側に固定されている。周壁部45の案内口47は、下部側を除いて略全体が陽極ユニットの保持ケース14により塞がれており、陽極ユニットの保持ケース14の下側と受け部46との間を経て電解液Wを被加工物1上に供給するようになっている。
【0034】
なお、電解液供給手段8は、陽極ユニットの保持ケース14の外周を経て電解液Wを被加工物1上に供給するようにしてもよい。受け部46の案内口47には陽極6と干渉しないように切り欠き部49が設けられている。電解液供給手段8の供給口41はブラケット23に、案内具44は支持部材21に夫々取り付けているが、電解液供給手段8の全体を支持部材21に取り付けてもよい。
【0035】
給電線19,37、エアー管路32、供給管路43は、陽極6、陰極7、電解液供給手段8等の揺動、昇降等の動きを阻害しないように適宜可撓性を有する。支持部材21、ブラケット23、案内具44には、絶縁性の材料が使用されている。
【0036】
なお、陽極6、陰極7、電解液供給手段8は、研削ホイール5と電解液供給手段8との間に陽極6、陰極7が位置するように配置すれば十分であり、陽極6、陰極7、電解液供給手段8を線分X上に略一列状に配置する必要はない。また陽極6、陰極7、電解液供給手段8は共通の支持部材21に取り付ける他、個別に移動可能に別々の部材に取り付けてもよい。
【0037】
また電解液供給手段8は、研削の都度、被加工物1に掛けた電解液Wを循環させずに廃棄する使い切り型の他、一度研削で使用した電解液Wを被加工物回転装置2の下流側等の適当部位で回収してフィルタリングや化学反応処理により浄化した後、その電解液Wを循環させて再度被加工物1に供給する循環型とすることも可能である。従って、本実施形態における電解液Wの供給は、電解液Wを被加工物1に掛けてそのまま流す場合と、一旦被加工物1に掛けた電解液Wを回収して浄化し循環させて、再度、被加工物1に掛ける場合とを含むものである。
【0038】
電解液Wの供給量は、少なくとも研削中に陽極6及び陰極7の電極6,7と被加工物1との間を電解液Wで満たし得る量である。従って、電解液Wは少なくとも陽極6及び陰極7と被加工物1との間に溜まれば十分である。なお、陽極6、陰極7から被加工物1の周辺に供給される電解液Wは、研削ホイール5の研削熱の冷却や研削屑の洗い流しのために掛け流される水等の電解性のクーラントを利用することも可能である。そのため電解液Wは直流電流が通電可能な液体であればよく、水溶性クーラント液を使用してもよいし、市水を使用してもよい。
【0039】
陰極7と被加工物1との間隙は、被加工物回転装置2上の被加工物1が陰極7と接触せずに縦軸心2a回りに回転するに必要な微小間隙Sに設定されている。そのため被加工物1上に掛け流された電解液Wは、被加工物1上の微小間隙Sに溜まりながら被加工物1の遠心力を受けて機外方向へと流れて行く。また陽極6が被加工物1に当接した状態では、コイルバネ30の与圧があるものの、両者間に電解液Wの皮膜が形成されることが望ましい。
【0040】
被加工物1の研削加工に際しては、上面に被加工物1が装着された状態の被加工物回転装置2をa矢示方向に回転させると共に、研削ホイール5、陽極6、陰極7、電解液供給手段8等の上側ユニットU1を加工位置側へと移動させた後、上側ユニットU1を所定位置まで下降させて行く。
【0041】
例えば、上側ユニットU1を退避位置と加工位置との間で移動させる場合には、陽極6、陰極7等の給電装置全体を被加工物1の上方の上昇位置に保持する。この上昇位置では、
図5(a)に示すように、陰極7が被加工物1から上昇して離れる一方、陽極6がコイルバネ30の圧力により押し下げられて、陽極6のピストン部28がブッシュ27に当接して規制される位置まで下降する。このときシリンダ室31のエアーは抜いておく。
【0042】
研削ホイール5による被加工物1の研削開始時には、
図5(b)に示すように、陰極7と被加工物1とが微小間隙Sになるまで給電装置を下降させて行く。このとき制御弁33を操作してシリンダ室31のエアーを抜いておくと、給電装置の下降により陽極6の下端の凸部29が
図3に示すように被加工物1の上面に当接し始めて、給電装置の下降に伴って与圧手段16のコイルバネ30が縮み、与圧手段16により陽極6を被加工物1に押し当てる与圧が生じる。これによって陽極6が所定の与圧で被加工物1の上表面に当接する接触状態が得られる。
【0043】
逆に給電装置の上昇位置ではシリンダ室31にエアーを供給して陽極6を上昇させておき、給電装置を陰極7と被加工物1とが微小間隙Sになるまで下降させた後、シリンダ室31のエアーを抜き、コイルバネ30の与圧により陽極6を被加工物1に押し当てることも可能である。
【0044】
陽極6を被加工物1に押し当てた接触状態では、陽極6がコイルバネ30に抗して相対的に押し戻されて、陽極6のピストン部28とブッシュ27の上端との間に隙間ができ、ピストン部28と陽極ホルダ15の下端との間に隙間できる。なお、
図3に示す状態において、シリンダ室31のエアー圧を調整すれば、そのエアー圧とコイルバネ30の与圧量とを相殺できるので、陽極6を被加工物1に押し付ける力を調整することも可能である。従って、被加工物1の上面側の酸化反応状況に応じて、陽極6の与圧力を適宜調整することができる。
【0045】
陽極6を被加工物1に接触した接触状態において、シリンダ室31にエアーを供給すると、
図5(b)に示すように、陽極6が陽極ホルダ15の下面に当接するまで陽極6と給電部材18とがコイルバネ30の与圧に抗して上昇する。そして、陽極6のピストン部28が陽極ホルダ15の下面に当接すると、陽極6と被加工物1との間に隙間ができ、陽極6と被加工物1とが非接触状態となる。
【0046】
この非接触状態でも、陽極6と被加工物1との間は電解液Wが充満しているため、陽極6と被加工物1とは電解液Wを介して導通状態を維持する。しかし、陽極6と被加工物1とが接触する接触状態の場合に比較して、電解液Wを介して陽極6と被加工物1とが導通するため、陽極6と被加工物1との間の電気抵抗が大になり、被加工物1の陽極酸化反応が低下する。
【0047】
従って、被加工物1の研削加工を開始して直ぐの粗研削領域では、陽極6を被加工物1に接触させて給電することにより、被加工物1の陽極酸化効率を高くし、研削終盤の仕上げ研削領域又はスパークアウトの領域になったタイミングで陽極6を被加工物1から退避させて非接触状態として意図的に陽極酸化効率を下げて、陽極酸化による研削加工よりも、研削ホイール5による研削除去を優先することで、被加工物1を陽極酸化のダメージの少ない表面に仕上げていくことが可能になる。
【0048】
研削ホイール6により被加工物1を研削加工する際には、被加工物回転装置2の被加工物1の上面に電解液供給手段8から電解液Wを掛け流し、電解液Wを介して陽極6から被加工物1を経て陰極7へと直流電流を流しながら、粗加工、仕上げ加工及びスパークアウトの工程を経て順次加工する。
【0049】
電解液供給手段8から被加工物1の上面に電解液Wを掛ける場合に、電解液Wは陽極6、陰極7の電極側から被加工物1上に掛け流す。これによって被加工物1の上面側を流動する電解液Wを確実に電極6,7側に供給することができる。被加工物1の上面の電解液Wは、被加工物1の遠心力又は表面張力を受けて薄膜状を保ちながら、被加工物1の外周側から被加工物回転装置2の外周側へと流れ、被加工物1と陽極6との隙間、被加工物1と陰極7との隙間に夫々浸入して、各隙間の大小に見合う厚さの電解液層を形成することができる。
【0050】
電解液Wの供給と同期して給電装置の下降により被加工物1に直流電流を流して、被加工物1の上面に陽極酸化反応による陽極酸化皮膜を形成する。研削ホイール5が回転状態にある場合には、電解液Wは回転状態の研削ホイール5と被加工物1との間にも浸入してクーラントとしても機能する。
【0051】
砥石軸3回りに回転状態にある研削ホイール5を被加工物1側へとc矢示方向に前進させて行くと、研削ホイール5が被加工物1に接触して、研削ホイール5による被加工物1の粗研削工程が始まる。一方、給電装置を所定位置まで下降させると、被加工物1と陰極7が微小間隙Sとなり、陽極6が被加工物1の上面にコイルバネ30の与圧により当接する接触状態となり、陽極6から陰極7へと被加工物1、電解液Wを介して直流電流が流れる。
【0052】
このとき陽極6は直接被加工物1の上面に接触しており、陽極6と被加工物1との間の電気抵抗が小さくなるため、被加工物1の上面の陰極7と対向する領域の全域が正電位となり、その正電位領域が被加工物1の回転に伴って全体に広がる。そのため被加工物1の上面を効率的に陽極酸化反応させることができ、電力の無駄な消費を防止することができる。
【0053】
また陽極6は研削ホイール5とは別に設けており、研削ホイール5に直流電流を流す必要がないので、研削ホイール5を経て被加工物1に直流電流を流す場合に発生していた研削ホイール5の陽極酸化反応がなく、電力の無駄な消費がない上に、陽極酸化反応による研削ホイール5の劣化等を防止でき、研削ホイール5の研削能率を長期にわたって維持でき被加工物1を能率的に加工できる。更に陽極6は被加工物1よりも柔らかい材料を使用しているため、陽極6が被加工物1の上面を摺動するにも拘わらず、陽極6による被加工物1の上面のダメージを防止できる。
【0054】
なお、陽極6は被加工物1よりも柔らかい材料を使用する他、陽極6の被加工物1と接触する先端側を、被加工物1と面接触する平坦状にしてもよいし、曲面状に加工する等により摺動抵抗が極力少なくなるように曲面状に構成してもよい。また陽極6の先端側は、ローラ、球体等を介して転がり接触するようにしてもよい。
【0055】
陽極6は与圧手段16による与圧を介して被加工物1に当接しているので、与圧のない場合に比較して陽極6が電気抵抗の少ない状態で被加工物1に対して安定的に接触させることができる。また陽極6側が摩耗等により損傷しても陽極6を被加工物1側に押し出すことができるため、陽極6を長期にわたって使用することが可能であり、陽極6の交換頻度を少なくすることができる。
【0056】
また陽極6が被加工物1に直接接触すると、陽極6から被加工物1へと正電位を直接印加することになり、陽極6と被加工物1との間の電気抵抗が更に低下する。そのため被加工物1の陰極7と対向する部分が陽極酸化し易くなり、被加工物1の上面側の陽極化に伴って被加工物1上面の陽極酸化が急速に生じて、被加工物1の上面に柔らかい陽極酸化皮膜を生成することができる。
【0057】
更に与圧手段16によって陽極6を被加工物1に押し当てながら給電することにより、被加工物1と陽極6との接触部分の電気抵抗が安定的に低下して効率的に被加工物1を陽極酸化させながら研削加工できるので、被加工物1の上面の研削性が向上し、研削ホイール5を切り込むことにより、陽極酸化反応で柔らかくなった被加工物1の表面の陽極酸化皮膜を研削し除去することができる。なお、被加工物1の上面の陽極酸化皮膜は、被加工物1と陰極7との微小間隙Sが小さくなるほど効率的に生成される。
【0058】
勿論、この陽極酸化援用研削装置によれば、従来のように容器に貯留した電解液中に被加工物1を浸漬する必要がないため、容器が必要不可欠であった従来に比較して、装置全体を小型化、単純化することができる。また電解液Wを掛け流しながら研削ホイール5により陽極酸化皮膜を研削し除去するため、その研削屑は掛け流される電解液Wにより洗い流すことができる。そのため研削屑の回収を機外で容易に行うことができ、しかも装置のメンテナンスを容易にすることができる。
【0059】
被加工物1に向かって研削ホイール5を切り込む際の制御には、一定の切込み速度に制御する一定速度制御方式、一定の切込み負荷に制御する一定負荷制御方式、任意の回転負荷となるように切込み速度を制御する任意負荷制御方式、被加工物1の表面の陽極酸化速度に合わせて制御する酸化速度即応方式等がある。任意負荷制御方式の場合には、回転負荷が小さいほど速く切込み、回転負荷が高くなり過ぎた場合は、被加工物1から研削ホイール5が離れるように制御する。
【0060】
電解液Wは案内具44により陽極6、陰極7の電極6,7に近い側から供給する。そのため電解液Wの無駄な消費を防止しながら、電極6,7と被加工部1との間に電解液Wを確実に供給することができる。特に案内具44側に棒状の陽極6を配置して、この陽極6を挟んで案内具44と反対側に、被加工物1と略平行に配置された陰極7があるため,被加工物1上に供給された電解液Wを陽極6及び陰極7と被加工物1との隙間にスムーズに浸入させることができる。
【0061】
また案内具44の案内口47は下部側の低い位置を除いて陽極6の保持ケース14で塞がれているため、電解液Wは保持ケース14の下側を経て被加工物1上に供給されることになり、電解液Wを被加工物1の近傍に集中して供給することができる。
【0062】
また被加工物1の加工中、特に研削の終盤近く又は終盤まで加工が進んだ場合に、そのときの状況に応じて陽極6を上昇させて非接触状態にすれば、陽極6の非接触中は被加工物1の上面の陽極酸化の効率を下げることができる。そのため被加工物1の上面の陽極酸化によるダメージの少ない状態に仕上げることができる。
【0063】
この陽極6の非接触は被加工物1の研削状況に応じて、仕上げ段階又はスパークアウト時に所定時間継続してもよいし、粗研削の終了後に短い時間間隔で非接触状態と接触状態とを間欠的に繰り返してもよい。このようにすることによって、何れの場合にも被加工物1の上面の陽極酸化によるダメージの少ない状態に仕上げることができる。
【0064】
図6は本発明の第2の実施形態を例示する。この陽極酸化援用研削装置はオシレート型であって、
図6(a)(b)に示すように、研削ホイール5、陽極6、陰極7、電解液供給手段8を含む上側ユニットU1と、被加工物1を支持する被加工物回転装置2を含む下側ユニットU2とが、オシレート手段(図示省略)により被加工物1の略径方向(d,e矢示方向)に相対的にオシレート動作可能に構成されている。
【0065】
なお、
図6では下側ユニットU2を定位置に配置して、上側ユニットU1をオシレート方向に往復移動させているが、上側ユニットU1を定位置に配置して、下側ユニットU2をオシレート方向に往復移動させてもよいし、両者を逆方向に往復移動させてもよい。なお、他の構成等は第1の実施形態と同様である。
【0066】
このように上側ユニットU1と下側ユニットU2とを相対的にオシレート動作させながら被加工物1の研削加工を行うことにより、被加工物1の上面の陽極酸化と、研削ホイール5による被加工物1の上面の研削とを効率よく行う。
【0067】
即ち、研削ホイール5にカップ型砥石12を使用する場合、
図6(a)に示すように、カップ型砥石12の刃幅内を被加工物1の中心Yが通るように研削位置を調整するが、被加工物1の中心Yが陰極7の下にないため、被加工物1の中心Y付近の陽極酸化効率が極端に低下する。
【0068】
しかし、上側ユニットU1と下側ユニットU2とを相対的にオシレート動作させることによって、被加工物1の中心Y付近が
図6(b)に示すように陰極7の下側に対応し易くなって、被加工物1の上面の陽極酸化と、被加工物1の上面のカップ型砥石12による研削とを効率よく行うことができる。従って、被加工物1の中心Yが陰極7下又はその近傍に入る位置まで被加工物回転装置2を被加工物1の略径方向に往復移動させて、研削ホイール5と陰極7との被加工物1に対するオシレート動作を繰り返す。これによってカップ型砥石12を使用する場合でも、被加工物1と陰極7との重なり量が大きくなり、被加工物1の陽極酸化効率が著しく向上する利点がある。
【0069】
なお、研削加工の終了前にスパークアウトする場合には、直流電源9をオフして被加工物1の上面の陽極酸化を止めて、通常研削と同じ状態でオシレート動作を継続してもよい。
【0070】
図7は本発明の第3の実施形態を例示する。この陽極酸化援用研削装置では、陽極6の自重を利用して、その与圧により陽極6を被加工物1側に押し当てるように構成されている。陽極6は保持ケース14内のブッシュ27により上下両側で上下摺動自在に支持されている。陽極6は支持部材21の通孔21aを貫通して上側に突出し、その上端側に正電位側給電線19が接続されている。また陽極6は上下方向の中間にピストン部28を有し、そのピストン部28がシリンダ室31に配置されている。なお、ピストン部28、シリンダ室31等により、第1の実施形態と同様に昇降手段17が構成され、そのシリンダ室31はエアー管路32を介して図外の制御弁に接続されている。
【0071】
この場合には、陽極6の自重によって、陽極6を被加工物1に対して所定の与圧で押し当てることができるので、陽極6の被加工物1に対する接触状態を安定的に確保することができる。またシリンダ室31にエアーを送り込むと、ピストン部28を介して陽極6を持ち上げて被加工物1に対して非接触状態に維持できる。
【0072】
従って、与圧手段16は、陽極6を被加工物1に押し当てる方向に所定の与圧を与えられるものであればよく、第1の実施形態に示すコイルバネ30等を利用するバネ式の他、エアーシリンダを利用して陽極6を押し当てるシリンダ式でもよいし、陽極6自体の自重を利用した自重式等の何れを採用することも可能である。
【0073】
図8は本発明の第4の実施形態を例示する。この陽極酸化援用研削装置では、略V字状の陰極7が採用されている。この陰極7は板状の導電性部材により構成される帯板状の陰極部7dを一対備え、その両陰極部7dは給電部材36側の接続部7eで略V字状に連続している。陰極7の研削ホイール5と反対側には切り欠き部7cがあり、その切り欠き部7cに陽極6、電解液供給手段8等が設けられる等、他の構成は第1の実施形態と同じである。
【0074】
このように帯状の陰極部7dを略V字状に備えた陰極7を採用した場合でも、研削加工時には被加工物1がその中心回りに回転するため、陰極7を被加工物上1の加工面の全面に対応させることができる。従って、陰極7が被加工物1の加工面上を通過する都度、その陰極7に対応する部分を高い通電効率で間欠的に陽極酸化させると共に、陰極7から外れた部分を低い通電効率で陽極酸化させることが可能であり、被加工物1の材質、その他に応じて被加工物1の回転速度、陰極部7dの幅等を考慮することにより、被加工物1の加工面のダメージを抑えながら効率的に加工することもできる。
【0075】
図9~
図12は本発明の第5の実施形態として、被加工物1を研削加工する際の第1~第4加工例を例示する。
図9は第1加工例を示す。この第1加工例は、全加工工程を粗加工工程と仕上げ加工工程とスパークアウト工程とに分け、粗加工工程では陽極6を接触状態として通電し、仕上げ加工工程では陽極6を非接触状態として通電し、スパークアウト工程では陽極6を非接触状態とし通電も止める。
【0076】
このようにすれば、粗加工工程では被加工物1への通電効率が高くなり、被加工物1の上面の酸化効率が高まるため、被加工物1の加工能率を高めることができる。一方、仕上げ加工工程では非接触状態の陽極6から電解液Wを介して被加工物1へと通電することにより通電効率を意図的に下げることができる。そのため被加工物1の酸化効率が低下して、被加工物1の表面の酸化反応のダメージが残るのを防止できると共に、被加工物1の表面の陽極の接触痕の発生も防止できる。スパークアウト工程では、陽極6による接触痕跡もなく、酸化反応のダメージもないので、被加工物1の表面の仕上がりを良好にできる。
【0077】
図10は第2加工例を示す。この第2加工例は、全研削工程を粗加工工程と仕上げ加工工程とスパークアウト工程とに分け、粗加工工程と仕上げ加工工程では、被加工物1に対する陽極6の接触・非接触を間欠的に繰り返しながら通電したままで加工する。そして、粗加工工程では、陽極6の被加工物1に対する接触時間t1を長くし、仕上げ加工工程では粗加工工程に較べて陽極6の被加工物1に対する接触時間t2を短くする。
【0078】
これによって粗加工工程では被加工物1への通電効率が高くなり、被加工物1の加工能率を高めることができるが、仕上げ加工工程では通電効率が意図的に下がり、被加工物1の表面の酸化反応のダメージを防止できる。スパークアウト工程では、陽極6を非接触状態とし、通電も停止する。
【0079】
図11は第3加工例を示す。この第3加工例は、全加工工程を粗加工工程と仕上げ加工工程とスパークアウト工程とに分け、粗加工工程及び仕上げ加工工程は陽極6を接触状態のままとし、通電を継続するが、粗加工工程では通電時の電流値を高くし、仕上げ加工工程では通電時の電流値を下げる。
【0080】
その結果、粗加工工程では被加工物1への通電効率を高めることができるが、仕上げ加工工程では被加工物1の通電効率が下がり、被加工物1の表面の酸化反応によるダメージを防止できる。スパークアウト工程では、陽極6を非接触状態とし、通電も停止する。
【0081】
なお、この第3加工例では、点線で示すように粗加工工程から仕上げ加工工程の途中までは陽極6を被加工物1に接触させた接触状態とし、仕上げ加工工程の途中から以降は陽極6を被加工物1から離して非接触状態としてもよい。
【0082】
図12は第4加工例を示す。この第4加工例は、
図12(a)に示すように、陰極7に対応して陽極6側に複数個(例えば5個)の陽極棒6a~6eを配置する。そして、粗加工工程では、
図12(b)に示すように、全ての陽極棒6a~6eを被加工物1に接触状態にして多くの陽極棒6a~6eを介して通電し、仕上げ加工工程では、陽極棒6a~6eの内の陽極棒6b,6dを非接触状態にして、接触状態の陽極棒6a,6c,6eの数を減らす。
【0083】
これによって粗加工工程では被加工物1の加工能率を高めることができるが、仕上げ加工工程では被加工物1の通電効率が下がり、被加工物1の表面の酸化反応によるダメージを防止できる。スパークアウト工程では、全陽極棒6a~6eを非接触状態とし、通電も停止する。なお、複数の陽極棒6a~6eと陰極7との関係は、陽極棒数の増減に拘わらず、各陽極棒6a~6eと陰極7との間で略均等に電流が流れるようにすることが望ましい。
【0084】
加工例はこれらの第1加工例~第4加工例に限定されるものではなく、被加工物1の加工条件に応じて多数の加工手順があることは云うまでもない、例えば、第1加工例~第4加工例の何れかと組み合わせて、第2の実施形態のオシレート動作を併用することも可能である。
【0085】
また粗加工工程を第1段階と第2段階とに分けて、第1段階では陽極6を被加工物1に接触させて通電する等、被加工物1の通電効率の高い加工を行ない、その次の第2段階では、陽極6の被加工物1に対する接触・非接触を繰り返す等、第1段階より通電効率を下げた加工を行った後に、仕上げ加工工程からスパークアウト工程へと移行するようにしてもよい。なお、スパークアウト工程は研削砥石12の切込みを停止した状態で研削砥石12により所定時間研削を行うが、このスパークアウト工程は省略してもよい。
【0086】
以上、本発明の各実施形態を例示したが、本発明は各実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で種々の変更が可能である。例えば、各実施形態では、電解液Wを被加工物1等に掛け流して供給する掛け流し式の陽極酸化援用研削装置を例示しているが、本発明は、研削砥石(研削ホイール5)とは別に設けられた陽極6を与圧によって被加工物1に押し当てながら給電可能にすればよいので、容器内に溜めた電解液Wに被加工物1、陽極6、陰極7、研削砥石を浸漬状に配置する陽極酸化援用研削装置においても同様に採用可能である。つまり、本発明は電解液Wの掛け流し型、浸漬型の何れにおいても同様に採用可能であり、一方にのみ限定されるものではない。
【0087】
陽極6、陰極7等の給電装置、及び電解液供給手段8は支持部材21等を介して昇降機構により昇降自在とするが、その昇降機構は手動式、自動式でもよいし、機構的にもねじ式、シリンダ式等、任意のものを採用可能である。シリンダ式はエアー圧式、油圧式の何れでもよい。ただ、被加工物1の加工精度との関係から、位置決め精度の高い昇降機構を採用することが望ましい。
【0088】
陽極6、陰極7及び電解液供給手段8と、これらを上下動可能に支持する支持部側との間は、支持部材21に絶縁性のものを使用することによって絶縁してもよい。陽極6及び陰極7と、これらに対して給電する給電系を導体より構成し、電解液供給手段8は全部又は一部を絶縁材により構成してもよい。
【0089】
陽極6、陰極7の形状は任意に選択可能であり、各実施形態に限定されるものではない。陽極6の被加工物1に対する接触面は、円形、角形の何れでもよい。また棒状の陽極6の上側に給電部材18を設ける場合、その陽極6と給電部材18は一体でもよいし、別体でもよい。一方、陰極7の形状も任意である。しかし、陽極6と陰極7との内、少なくとも一方が被加工物1の平面方向に長いような場合には、どの位置でも陽極6と陰極7との間の電気抵抗が略同じとなることが望ましい。陽極6が被加工物1に接触して、被加工物1の陰極7との対向面が陽極酸化することから、加工能率的には陰極7が陽極6よりも広いことが望ましい。
【0090】
陽極6に与圧を付与する与圧手段16は、コイルバネ30又は自重を利用する他、ゴム、その他の弾性体による弾性力、エアーのエアー圧、磁石の磁力を利用してもよい。昇降手段17も与圧手段16と同様に任意のものを採用可能である。例えば、磁石式の昇降手段17を採用して、磁力により陽極6を上下させることも可能である。その場合には、昇降手段17で付勢手段16の一部又は全部を兼用することも可能である。
【0091】
陽極6は被加工物1よりも柔らかい導電性材料であることが望ましいが、被加工物1に対して接触痕等を残さないものであれば、被加工物1と同等の硬さの材料、又は被加工物1よりも硬い材料を陽極6に使用してもよい。
【0092】
実施形態では研削砥石に非導電性のものが使用されているが、導電性のものを使用してもよい。研削砥石に導電性のものを使用する場合には、陽極6からの直流電流が研削砥石側に流れないようにすることが望ましい。
【0093】
陽極6を介して給電するに当たり、被加工物1の加工状況(砥石による除去量)に合わせて陽極6を被加工物1に接触させたり被加工物1から離したりすることにより、被加工物1の上表面の酸化反応を細かく制御できる。そのため被加工物1を効率よく加工でき、被加工物1の上表面に酸化層が残ってしまうようなことも防止できる。
【0094】
陽極6を介して給電することにより、研削ホイール5に導電性のものを使用する必要がないので、砥石の選択肢が増える利点がある。また砥石を陽極として使用する場合には、陽極を被加工物1に対して接触・非接触に切り替えることができないため、被加工物1の上表面の酸化反応の調整は電流値の制御に限られていたが、陽極6の被加工物1に対する接触・非接触を併用することにより、選択肢が増える利点がある。
【0095】
電解液Wは砥石軸3を通して供給してもよい。また陽極6とは別に供給口41を設けて電解液Wを供給する場合にも、陽極6と陰極7との中間部分を指向するように供給口41を配置する等、第1の実施形態とは異なる位置関係に陽極6、陰極7、供給口41を配置してもよい。但し、陽極6及び陰極7と被加工物1との間、被加工物1の表面を電解液Wで満たす必要がある。陰極7を平板状にする場合には、被加工物1との間に電解液Wが流れやすくなるように陰極7の被加工物1に対向する面に複数の溝を設けてもよい。これによって陰極7と被加工物1との間に古い電解液が滞留することなく常に新鮮な電解液Wが供給されるので、電解効率の低下を防止することが期待できる。
【符号の説明】
【0096】
1 被加工物
2 被加工物回転装置
5 研削ホイール
6 陽極
7 陰極
8 電解液供給手段
9 直流電源
16 与圧手段
17 昇降手段
W 電解液