(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172234
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】端子付き電線、ワイヤハーネス、端子付き電線の製造方法
(51)【国際特許分類】
H01R 4/18 20060101AFI20241205BHJP
H01R 43/048 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
H01R4/18 A
H01R43/048 Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089814
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100096091
【弁理士】
【氏名又は名称】井上 誠一
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏和
(72)【発明者】
【氏名】水戸瀬 賢悟
(72)【発明者】
【氏名】外池 翔
【テーマコード(参考)】
5E063
5E085
【Fターム(参考)】
5E063CC05
5E063XA01
5E085BB02
5E085BB12
5E085CC03
5E085DD14
5E085EE01
5E085FF01
5E085JJ36
(57)【要約】
【課題】 細径の単線の電線であっても高い接続強度で接続することが可能な端子付き電線等を提供する。
【解決手段】 端子付き電線10は、端子1と被覆導線11とが電気的に接続されて構成される。被覆導線11は、金属単線の導線13と、導線13を被覆する被覆部15からなる。端子1の圧着部5は、被覆導線11と圧着される部位であり、被覆導線11の先端側に被覆部15から露出する導線13を圧着する導線圧着部7を有する。ここで、導線圧着部7の長手方向の寸法をA(mm)、導線13の外径寸法をB(mm)、導線13の引張強さをC(MPa)、導線圧着部7が導線13に圧着された状態での導線圧着部7の導線13の周方向の寸法と導線13の周長との比をD、前記導線圧着部と前記導線との接続強度をE(N)としたとき、10≦(A×B×C×D)/E≦50の条件を満たす。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
端子に被覆導線が圧着された端子付き電線であって、
前記被覆導線は、単線の導線が被覆部で被覆されており、
前記端子は、前記被覆導線の先端の前記被覆部から露出する前記導線が圧着される導線圧着部と、前記被覆導線の前記被覆部が圧着される被覆圧着部と、を具備し、
前記導線圧着部は、前記導線の周方向に対して、前記導線の周長の1/2倍超の範囲を覆うように前記導線を圧着し、
前記導線圧着部の長手方向の寸法をA(mm)、前記導線の外径寸法をB(mm)、前記導線の引張強さをC(MPa)、前記導線圧着部が前記導線に圧着された状態での前記導線圧着部の前記導線の周方向の寸法と前記導線の周長との比をD、前記導線圧着部と前記導線との接続強度をE(N)としたとき、8≦(A×B×C×D)/E≦50の条件を満たすことを特徴とする端子付き電線。
【請求項2】
前記導線の断面積が0.35sq以下であることを特徴とする請求項1記載の端子付き電線。
【請求項3】
前記導線が圧着された前記導線圧着部は、対向するバレル片の端部同士が接合されておらず、前記導線圧着部は、前記導線の周方向に対して、前記導線の周長の1/2倍超1倍未満の範囲で前記導線を圧着することを特徴とする請求項1記載の端子付き電線。
【請求項4】
請求項1に記載の端子付き電線を含む複数の端子付き電線が束ねられていることを特徴とするワイヤハーネス。
【請求項5】
端子付き電線の製造方法であって、
端子は、導線圧着部と被覆圧着部とを有するオープンバレル型であり、
前記導線圧着部のバレル片の端部を、隙間をあけて接合することなく丸めて、
略筒状又は円弧形状の前記導線圧着部に、被覆導線の被覆部の先端から露出する導線を挿入して、前記導線圧着部で、前記導線の周方向に対して、前記導線の周長の1/2倍超の範囲を覆うように前記導線を圧着するとともに、前記被覆圧着部で前記被覆部を圧着し、
前記導線圧着部の長手方向の寸法をA(mm)、前記導線の外径寸法をB(mm)、前記導線の引張強さをC(MPa)、前記導線圧着部が前記導線に圧着された状態での前記導線圧着部の前記導線の周方向の寸法と前記導線の周長との比をD、前記導線圧着部と前記導線との接続強度をE(N)としたとき、8≦(A×B×C×D)/E≦50の条件を満たすことを特徴とする端子付き電線の製造方法。
【請求項6】
端子付き電線の製造方法であって、
端子は、導線圧着部と被覆圧着部とを有し、前記導線圧着部のバレル片の端部が隙間をあけて接合することなく丸められており、
略筒状又は円弧形状の前記導線圧着部に、被覆導線の被覆部の先端から露出する導線を挿入して、前記導線圧着部で、前記導線の周方向に対して、前記導線の周長の1/2倍超の範囲を覆うように前記導線を圧着するとともに、前記被覆圧着部で前記被覆部を圧着し、
前記導線圧着部の長手方向の寸法をA(mm)、前記導線の外径寸法をB(mm)、前記導線の引張強さをC(MPa)、前記導線圧着部が前記導線に圧着された状態での前記導線圧着部の前記導線の周方向の寸法と前記導線の周長との比をD、前記導線圧着部と前記導線との接続強度をE(N)としたとき、8≦(A×B×C×D)/E≦50の条件を満たすことを特徴とする端子付き電線の製造方法。
【請求項7】
圧着前の対向する前記バレル片の端部同士の隙間が0.01mm以上であることを特徴とする請求項5又は請求項6記載の端子付き電線の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば自動車等に用いられる端子付き電線等に関するものである。
【背景技術】
【0002】
通常、自動車用ワイヤハーネスは、被覆導線の導体に圧着端子が接続された後に束ねられて、自動車等の信号線などとして配索される。近年、特に、自動車分野においては、CASE等の対応により、ECUやセンサ類等が増加し、これに伴い使用する電線本数の増加が著しい。このような中、ワイヤハーネスの線径増大が課題となる。このため、自動車用電線のさらなる細径化が求められている。例えば、従来の一般的な0.35sq(sq:mm2の意味)以下の細径の電線が求められている。
【0003】
また、このような特に細径の電線において、複数の素線が撚り合わせられた撚り線ではなく、単線の電線が用いられる場合がある。このような単線の電線を端子と接続するには、圧接によって接続されるのが一般的である(例えば特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特に細径の単線の電線を圧接によって接続すると、接続強度を十分に確保することが困難である。これに対し、一般的な圧着端子を用いて電線を強く圧着すると、電線が破断するおそれがあるため、高い接続強度を確保することが困難である。
【0006】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたもので、細径の単線の電線であっても高い接続強度で接続することが可能な端子付き電線等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前述した目的を達するために第1の発明は、端子に被覆導線が圧着された端子付き電線であって、前記被覆導線は、単線の導線が被覆部で被覆されており、前記端子は、前記被覆導線の先端の前記被覆部から露出する前記導線が圧着される導線圧着部と、前記被覆導線の前記被覆部が圧着される被覆圧着部と、を具備し、前記導線圧着部は、前記導線の周方向に対して、前記導線の周長の1/2倍超の範囲を覆うように前記導線を圧着し、前記導線圧着部の長手方向の寸法をA(mm)、前記導線の外径寸法をB(mm)、前記導線の引張強さをC(MPa)、前記導線圧着部が前記導線に圧着された状態での前記導線圧着部の前記導線の周方向の寸法と前記導線の周長との比をD、前記導線圧着部と前記導線との接続強度をE(N)としたとき、8≦(A×B×C×D)/E≦50の条件を満たすことを特徴とする端子付き電線である。
【0008】
前記導線の断面積が0.35sq以下であることが望ましい。
【0009】
前記導線が圧着された前記導線圧着部は、対向するバレル片の端部同士が接合されていなくてもよい。
【0010】
前記導線圧着部は、前記導線の周方向に対して、前記導線の周長の1/2倍超1倍未満の範囲で前記導線を圧着してもよい。
【0011】
第1の発明によれば、前記導線圧着部の長手方向の寸法をA(mm)、前記導線の外径寸法をB(mm)、前記導線の引張強さをC(MPa)、前記導線圧着部が前記導線に圧着された状態での前記導線圧着部の前記導線の周方向の寸法と前記導線の周長との比をD、前記導線圧着部と前記導線との接続強度をE(N)としたとき、8≦(A×B×C×D)/E≦50の条件を満たす、単線の導線と導線圧着部との接続強度を圧着長さによって高めることができるため、適切な圧着を行う必要ができ、電線の破断や不十分な圧着を抑制することができる。
【0012】
特に、本発明は、導線の断面積が0.35sq以下の細径の被覆導線を用いるような場合に有効である。
【0013】
また、バレル片の突き合わせ部を溶接しないことで、溶接部と非溶接部との強度差が生じることがなく、また、全周にわたって略均一に圧着することができるため、接合強度を高めることができる。また、筒状の導線圧着部は、板状部材を丸めて形成することができるため、端子の製造も容易である。
【0014】
また、導線圧着部が、導線の周長に対して、1/2倍超1倍未満の範囲で導線を圧着することで、導線圧着部に導線を通した際に導線の先端位置を容易に把握することができるとともに、確実に導線を圧着することができる。
【0015】
第2の発明は、第1の発明にかかる端子付き電線を含む複数の端子付き電線が束ねられていることを特徴とするワイヤハーネスである。
【0016】
第2の発明によれば、電線が複数束ねられたワイヤハーネスを得ることができる。
【0017】
第3の発明は、端子付き電線の製造方法であって、端子は、導線圧着部と被覆圧着部とを有するオープンバレル型であり、前記導線圧着部のバレル片の端部を、隙間をあけて接合することなく丸めて、略筒状又は円弧形状の前記導線圧着部に、被覆導線の被覆部の先端から露出する導線を挿入して、前記導線圧着部で、前記導線の周方向に対して、前記導線の周長の1/2倍超の範囲を覆うように前記導線を圧着するとともに、前記被覆圧着部で前記被覆部を圧着し、前記導線圧着部の長手方向の寸法をA(mm)、前記導線の外径寸法をB(mm)、前記導線の引張強さをC(MPa)、前記導線圧着部が前記導線に圧着された状態での前記導線圧着部の前記導線の周方向の寸法と前記導線の周長との比をD、前記導線圧着部と前記導線との接続強度をE(N)としたとき、8≦(A×B×C×D)/E≦50の条件を満たすことを特徴とする端子付き電線の製造方法である。
【0018】
また、第3の発明は、端子付き電線の製造方法であって、端子は、導線圧着部と被覆圧着部とを有し、前記導線圧着部のバレル片の端部が隙間をあけて接合することなく丸められており、略筒状又は円弧形状の前記導線圧着部に、被覆導線の被覆部の先端から露出する導線を挿入して、前記導線圧着部で、前記導線の周方向に対して、前記導線の周長の1/2倍超の範囲を覆うように前記導線を圧着するとともに、前記被覆圧着部で前記被覆部を圧着し、前記導線圧着部の長手方向の寸法をA(mm)、前記導線の外径寸法をB(mm)、前記導線の引張強さをC(MPa)、前記導線圧着部が前記導線に圧着された状態での前記導線圧着部の前記導線の周方向の寸法と前記導線の周長との比をD、前記導線圧着部と前記導線との接続強度をE(N)としたとき、8≦(A×B×C×D)/E≦50の条件を満たすことを特徴とする端子付き電線の製造方法であってもよい。
【0019】
圧着前の対向する前記バレル片の端部同士の隙間が0.01mm以上であってもよい。
【0020】
第3の発明によれば、一対のバレル片からなる導線圧着部を有するオープンバレル型の端子を用い、そのままバレル片を導線側に折り曲げるようにして導線を圧着するのではなく、導線圧着部を一旦筒状に丸めて、略筒状のまま導線を圧着するため、バレル片が導線に食い込むことがない。また、バレル片の先端部同士を溶接していないため、全周にわたって均一に圧着することができ、接合強度を高めることができる。
【0021】
また、圧着前のバレル片の端部同士の隙間が0.01mm以上であれば、導線の挿入状態や圧着状態を確認することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明によれば、細径の単線の電線であっても高い接続強度で接続することが可能な端子付き電線等を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図2】(a)~(c)は、導線圧着部7の径方向断面図。
【
図5】(a)は、圧着前の端子1と被覆導線11を示す斜視図、(b)は、導線圧着部7の断面図。
【
図6】圧着後の他の導線圧着部7を示す径方向断面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
図1は、端子付き電線10を示す斜視図であり、
図2(a)は、導線圧着部7の径方向断面図である。端子付き電線10は、端子1と被覆導線11とが電気的に接続されて構成される。
【0025】
被覆導線11は、導線13と、導線13を被覆する被覆部15からなる。なお、本実施形態では、導線13は、複数の素線が撚り合わせられた撚り線ではなく金属単線である。
【0026】
導線13は、例えば、銅、銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金、銀、マグネシウム製である。より詳細には、銅、銅合金としては、無酸素銅、タフピッチ銅、黄銅、Cu-Sn合金、コルソン銅などが適用可能であり、アルミニウム、アルミニウム合金としては、純アルミニウム、Al-Cu、Al-Fe、Al-Mg-Siなどが適用可能である。なお、より望ましくは、導線13の径が0.35sq以下の場合にはCu-0.7質量%Sn合金が望ましく、0.35sq超の場合には、タフピッチ銅が望ましい。
【0027】
端子1には被覆導線11が接続される。端子1は、端子本体3と圧着部5とがトランジション部4を介して連結されて構成される。端子1は、例えば銅、銅合金、アルミニウムまたはアルミニウム合金製等であり、例えば、導線13と同一種の材料を選択可能である。また、端子1を銅製(銅合金製)とした際には、Snめっきなどを設けてもよい。
【0028】
端子本体3は、所定の形状の板状部材を、断面が矩形の筒体に形成したものである。端子本体3は、内部に、板状部材を矩形の筒体内に折り込んで形成される弾性接触片を有する。端子本体3は、前端部から雄型端子などが挿入されて接続される。なお、以下の説明では、端子本体3が、雄型端子等の挿入タブ(図示省略)の挿入を許容する雌型端子である例を示すが、本発明において、この端子本体3の細部の形状は特に限定されない。例えば、雌型の端子本体3に代えて雄型端子の挿入タブを設けてもよいし、丸型端子のようなボルト締結部を設けても良い。
【0029】
端子1の圧着部5は、被覆導線11と圧着される部位であり、被覆導線11の先端側に被覆部15から露出する導線13を圧着する導線圧着部7と、被覆導線11の被覆部15を圧着する被覆圧着部9とを有する。すなわち、被覆部15が剥離されて露出する導線13が、導線圧着部7により圧着され、導線13と端子1とが電気的に接続される。また、被覆導線11の被覆部15は、端子1の被覆圧着部9によって圧着される。
【0030】
なお、導線圧着部7の内面の一部には、幅方向(長手方向に垂直な方向)に、図示を省略したセレーションが設けられてもよい。このようにセレーションを形成することで、導線13を圧着した際に、導線13の表面の酸化膜を破壊しやすく、また、導線13との接触面積を増加させることができる。なお、細径の電線の場合には、セレーションの段差によって却って破断の恐れがあるため、導線圧着部の内面を粗面化するなどによって表面に微細な凹凸を形成してもよい。
【0031】
図2(a)に示すように、導線圧着部7は、板状部材であるバレル片が丸められて略筒状に形成される。なお、バレル片の突き合わせ部23は、全長にわたって、溶接などによって接合されていない。導線圧着部7においては、導線13が略全周から略筒状に圧着される。
【0032】
圧着後の導線圧着部7の形状は略円形であることが望ましい。ここで、導線圧着部7が略円形とは、
図2(a)に示すように、多少の偏平形状(略楕円形状)を含み、また、金型の合わせ部に対応する部位の外周に、わずかな突起が形成される場合も含む。
【0033】
このように、導線13が圧着された導線圧着部7は、導線13を全周からほぼ均一に圧縮するとともに、対向するバレル片の端部同士の突き合わせ部23が導線13側に折り曲げられずに突き合せられることが望ましい。すなわち、導線圧着部7の断面が略円形となり、全体的に縮径するように圧縮されることが望ましい。なお、圧着後の略円形の導線圧着部としては、
図2(b)に示すように、バレル片の突き合わせ部23がわずかに中心方向に折れ曲がっていてもよい。また、
図2(c)に示すように、圧着後に、導線圧着部7のバレル片の端部同士が重なり合うように形成されてもよい。
【0034】
但し、
図2(b)に示すように、バレル片の先端が導線13の外面に折れ曲がると、導線13が細い場合には破断の恐れがあるため、バレル片同士が導線13に食い込まないように圧着されることがより望ましい。例えば、バレル片の先端同士が接触せずに隙間が形成されていてもよい。また、
図2(c)に示すように、バレル片が重なり合うと、圧着時に導線13へ回転方向の力が付与されるため、バレル片同士が重なり合わずに突き合わせ部23で突き合わせられることが望ましい。
【0035】
ここで、導線13の断面積は、0.35sq超であってもよいが、本実施形態は、特に0.35sq以下である場合に効果的である。さらには、導線13は、0.3sq以下であってもよく、0.13sq以下であってもよく、導線13の径が小さくなるほど効果的である。一方で、導線13の断面積が小さくなると、圧着接続が困難になる傾向があるため、導線13の断面積は0.01sq以上が好ましく、0.03sq以上がより好ましい。
【0036】
本実施形態では、導線13の径が小さくなると、導線13が破断せずに圧着可能となる導線13の単位長さあたりの接続強度が小さくなることに鑑み、導線圧着部7の長さを長くすることで、接続強度を確保する。
図3は、導線圧着部7の軸方向断面図である。導線圧着部7の長手方向の寸法A(mm)は、導線13の導線13の外径寸法をB(mm)、導線13の引張強さをC(MPa)、導線圧着部7が導線13に圧着された状態での導線圧着部7の導線13の周方向の寸法と導線13の周長との比(圧着後において導線圧着部7に覆われている導線13の周長/圧着された後の導線圧着部7における導線13の全周長)をD、導線圧着部7と導線13との接続強度をE(N)としたとき、8≦(A×B×C×D)/E≦50の条件を満たすように設定される。なお、「導線圧着部7と導線13との接続強度をE(N)」とは、日本産業規格「JIS C 5402-16-4:2012 電子機器用コネクタ-試験及び測定-第16-4部:コンタクト及びターミネーションの機械的試験-試験16d:引張強度(圧着接続)」により定義される引張強度に相当する。
【0037】
このようにすることで、導線13の径が小さくなる場合において、長さ方向で導線13と導線圧着部7の接触面積を確保して、接続強度を高めることができる。すなわち、従来であれば、導線13の径が小さくなると、導線圧着部7の全体のサイズはそれに応じて小さくなるのが技術常識であるが、導線圧着部7に導線13が耐えられないほどの力が加わることで圧着時における導線13の破断を招かないようにするため、本実施形態では、径が小さくなるほど導線圧着部の長さを長くすることで、接続強度を確保することができる。なお、(A×B×C×D)/E>50となると、例えば、同一径、同一材質の導線を同一条件(圧縮率、接続強度)で圧着した場合において(すなわち、B~Eを一定とすると)、導線圧着部7が必要以上に長くなりすぎて、導線圧着部7に均等に力をかけることが困難となる場合や、導線圧着部7の単位長さ当たりにかかる力が小さくなりすぎて必要な接続強度を得られなくなる場合などが想定され、この場合、接続強度の低下等(具体的には圧着後の試験時の端子の抜け等)の悪影響を招く懸念がある。
【0038】
次に、端子付き電線10の製造方法について説明する。
図4は、圧着前の端子1を示す斜視図である。本実施形態では、導線圧着部7と被覆圧着部9とを有する通常のオープンバレル型の端子を用いることができる。すなわち、加工前の端子1は、導線圧着部7と被覆圧着部9は、いずれも一対のバレル片からなる。
【0039】
本発明では、
図4に示した端子に対して、圧着前に、
図5(a)に示すように、導線圧着部7のバレル片(板状部材)の端部を突き合わせるように丸めて、断面が略円形となるように筒状にすることで導線圧着部7を形成する。この際、対向するバレル片の端部同士の突き合わせ部23は、溶接等によって接合されない。なお、突き合わせ部23は、端部同士が接触して隙間が0であってもよいが、加工時のスプリングバック等により、わずかに隙間が形成されてもよい。
【0040】
図5(b)は、導線圧着部7の軸方向に垂直な断面図である。圧着前の対向するバレル片の端部同士の隙間(図中B)は、例えば、0.01mm以上であることが望ましい。バレル片の先端同士を接触させずに、あえて突き合わせ部23に隙間が形成されることで、圧着時にバレル片が導線側に折り曲げられることを抑制することができるとともに、導線13の挿入時に、導線圧着部7の内部の導線13の位置を把握することができる。なお、導線13をできるだけ全周から均一に圧着する観点からは、バレル片の厚みよりもバレル片の端部同士の隙間の方が狭いことが望ましい。
【0041】
このように、突き合わせ部23は、導線圧着部7の軸方向に対して略まっすぐに全長にわたって形成される。また、筒状に形成された導線圧着部7には、内外面に突き合わせ部23以外の凹凸や断面形状の変化部は形成されない。また、被覆圧着部9については、導線13の挿入性を確保するため、オープンバレル形状をそのまま残すことが望ましい。
【0042】
被覆導線11は、予め先端部の被覆部15を剥離して、先端部の導線13を露出させておく。次に、被覆導線11の被覆部15の先端から露出した導線13を、略筒状の導線圧着部7に挿入する。被覆導線11の先端部を圧着部5へ配置すると、導線圧着部7には導線13の露出部が位置し、被覆圧着部9には被覆部15が位置する。この際、導線13の先端が導線圧着部7の先端からはみ出してもよい。
【0043】
その後、導線圧着部7で導線13を略全周から略筒状に圧着するとともに、被覆圧着部9で被覆部15を圧着することで、被覆導線11と端子1とが電気的に接続された端子付き電線10を得ることができる。さらに、得られた端子付き電線10を含む、複数の端子付き電線が束ねられて一体化されたワイヤハーネスを得ることができる。
【0044】
なお、導線13の視認性をより高めるためには、例えば、
図6に示すように、隙間をあえて大きくしてもよい。前述したように、本実施形態では、導線圧着部7を長くすることで導線13と導線圧着部7との接続強度を高めることができるため、周方向の一部を開口させることもできる。
【0045】
なお、この場合でも、導線13が導線圧着部7から抜け落ちないようにするため、導線13の周方向に対して、導線13の総周長の1/2倍超を導線圧着部7で圧着(被覆)することが望ましい。また、導線13の圧着後の状態をより確実に把握するためには、導線13の周方向に対して、導線13の総周長の1倍未満を導線圧着部7で圧着(被覆)することが望ましい。例えば、少なくとも導線13の周長の1/4~1/10程度を開口させておくことで導線13の挿入状態や圧着状態を確認することができる。この観点から、端子の圧着前の導線圧着部7のバレル片の端部同士の隙間が0.01mm以上であることが好ましい。
【0046】
なお、上述した例では、オープンバレル型の端子を形成した後に略筒状としたが、端子1に追加加工を行うのではなく、平板状の素材から端子1を形成する際に、一度に導線圧着部7を筒状または円弧状に形成してもよい。また、オープンバレル型の端子に対して、圧着と同時にバレル片を丸めてもよい。すなわち、略筒状の形成と圧着とを同時に行ってもよい。また、圧着の際にバレル片を丸めるのではなく、あらかじめバレル片を丸めて略筒状にした端子を用いて圧着を行ってもよい。
【0047】
以上説明したように、本実施形態によれば、導線圧着部7を予め丸めて略筒状または略円弧状に形成しておくことで、圧着時の導線圧着部7の変形を抑制し、導線圧着部7を略円形または略円弧形状に圧着することができる。このため、バレル片が導線13に食い込むことを抑制することができる。また、導線圧着部7には溶接部が存在しないため、圧着時に溶接部と非溶接部の強度差による接続強度の低下のおそれもない。
【0048】
また、特に細径の単線の導線13に対して、導線圧着部7の長さが、導線圧着部7の長手方向の寸法をA(mm)、導線13の外径寸法をB(mm)、導線13の引張強さをC(MPa)、導線圧着部7が導線13に圧着された状態での導線圧着部7の導線13の周方向の寸法と導線13の周長との比をD、導線圧着部7と導線13との接続強度をE(N)としたとき、8≦(A×B×C×D)/E≦50の条件を満たすように所定の長さとすることで、接続強度を確保することができる。
【実施例0049】
導線圧着部の長さ(A)を変更した各種の端子についてそれぞれの径(B)及び材質(C)の電線との圧着を行い、接続強度を評価した。いずれも、導線圧着部の全体を圧縮したものであり、端子の導線圧着部は、導線の周長の95%を覆うように圧着した(D=0.95)。
【0050】
ここでは、導線の径が0.35sq以下の場合にはCu-0.7質量%Sn合金(Sn0.7-Cu)を使用し、0.35sq超の場合には、タフピッチ銅(TPC)を使用した。Cu-0.7質量%Sn合金の引張強さは720MPa、タフピッチ銅の引張強さは300MPaである。また、端子の材質は、Cu-Ni-Si系の銅合金であり、ここでは古河電気工業(株)製の「FAS-680」を用いた。
また、それぞれの径の導線に対しては、圧着後の接続強度(E)として、以下の値となるような条件で、端子の圧着を行った。なお、圧着時の荷重は、圧着後の接続強度(E)が以下の値の1~1.2倍となるような条件に調整され、その条件で20個のサンプルを作成した。
0.05sq~0.35sq:50N
0.75sq:80N
1.25sq:100N
2.5sq:150N
4.8sq:200N
各条件における(A×B×C×D)/Eの計算結果を表1に示し、結果を表2に示す。
【0051】
【0052】
【0053】
ここで、表2中、×は圧着時にかかる力に導線が耐えられずに圧着時に破断したもの(圧着時の荷重が所定の接続強度で圧着可能な条件に設定できなかったもの)、△は圧着はできたものの、圧着後の試験時に一部のサンプルで端子の抜けが発生したもの(圧着時の荷重を所定の接続強度で圧着可能な条件に設定できたが、圧着が不安定であったもの)、〇は接続強度が上記範囲であり接続強度が十分であったもの(圧着時の荷重が所定の接続強度で圧着可能な条件に設定でき、圧着が安定していたもの)である。
【0054】
結果より、所定の条件において、良好な接続強度を得ることができた。なお、ここでいう導線圧着部長さとは、実際に導線と圧着されている部分の長さを指し、端子の構成要素である導線圧着部の全体(全長)を意味するものではない。つまり、結果は割愛するが、導線圧着部の全体(全長)を圧縮しなくてもよく、この場合でも同様の傾向であった。また、端子の導線圧着部は、導線の周長の95%を覆うように圧着した結果を示したが、55%~95%覆った範囲では、表1の値および表2の評価結果が若干変化するが、結果の傾向に大きな差は見られなかった。
【0055】
以上、添付図を参照しながら、本発明の実施の形態を説明したが、本発明の技術的範囲は、前述した実施の形態に左右されない。当業者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、それらについても当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。