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特開2024-172262波長ビーム結合装置、ダイレクトダイオードレーザ装置、およびレーザ加工機
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172262
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】波長ビーム結合装置、ダイレクトダイオードレーザ装置、およびレーザ加工機
(51)【国際特許分類】
   B23K 26/064 20140101AFI20241205BHJP
   H01S 5/02251 20210101ALI20241205BHJP
   H01S 5/02253 20210101ALI20241205BHJP
   H01S 5/02255 20210101ALI20241205BHJP
   G02B 6/42 20060101ALI20241205BHJP
   G02B 6/32 20060101ALI20241205BHJP
   G02B 13/00 20060101ALI20241205BHJP
   G02B 13/08 20060101ALI20241205BHJP
   G02B 13/18 20060101ALN20241205BHJP
【FI】
B23K26/064 A
H01S5/02251
H01S5/02253
H01S5/02255
G02B6/42
G02B6/32
G02B13/00
G02B13/08
G02B13/18
【審査請求】未請求
【請求項の数】21
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089853
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000226057
【氏名又は名称】日亜化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101683
【弁理士】
【氏名又は名称】奥田 誠司
(74)【代理人】
【識別番号】100155000
【弁理士】
【氏名又は名称】喜多 修市
(74)【代理人】
【識別番号】100202197
【弁理士】
【氏名又は名称】村瀬 成康
(74)【代理人】
【識別番号】100218981
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】出島 範宏
(72)【発明者】
【氏名】水野 真吾
(72)【発明者】
【氏名】大森 雅樹
【テーマコード(参考)】
2H087
2H137
4E168
5F173
【Fターム(参考)】
2H087KA26
2H087LA26
2H087LA28
2H087PA02
2H087PA06
2H087PA17
2H087PB02
2H087PB06
2H087QA02
2H087QA06
2H087QA12
2H087QA13
2H087QA21
2H087QA22
2H087QA25
2H087QA39
2H087QA41
2H087QA42
2H087QA45
2H087RA03
2H087RA07
2H087RA45
2H087RA46
2H137AA13
2H137AB06
2H137BA15
2H137BB02
2H137BC02
2H137BC03
2H137BC05
2H137BC07
2H137BC12
2H137BC29
2H137BC44
2H137BC50
2H137BC51
2H137CC11
2H137HA00
2H137HA08
4E168DA03
4E168DA26
4E168DA60
4E168EA05
4E168EA08
4E168EA17
5F173MA08
5F173MB03
5F173MC15
5F173ME44
5F173MF03
5F173MF13
5F173MF23
5F173MF27
5F173MF28
5F173MF33
5F173MF39
(57)【要約】
【課題】波長ビーム結合によって結合されたレーザビームの出力およびパワー密度を更に高める。
【解決手段】波長ビーム結合装置は、ピーク波長が互いに異なり、かつ、第1の方向に出射されるビームの中心軸が第1の方向に対して交差する第2の方向に並んだ複数のコリメートビームを結合する波長ビーム結合装置であって、複数のコリメートビームのビーム中心軸間の距離を縮小して出射させるように構成された光学素子と、第1および第2回折格子であって、第1回折格子は、光学素子から出射される複数のコリメートビームを受ける位置に配置され、かつ、複数のコリメートビームを波長に応じて異なる方向に回折して第2回折格子に入射させ、第2回折格子は、第1回折格子で回折された複数のコリメートビームを更に回折して波長結合ビームを形成し、波長結合ビームを出射する、第1および第2回折格子と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピーク波長が互いに異なり、かつ、第1の方向に出射されるビームの中心軸が前記第1の方向に対して交差する第2の方向に並んだ複数のコリメートビームを結合する波長ビーム結合装置であって、
前記複数のコリメートビームのビーム中心軸間の距離を縮小して出射させるように構成された光学素子と、
第1および第2回折格子であって、前記第1回折格子は、前記光学素子から出射される前記複数のコリメートビームを受ける位置に配置され、かつ、前記複数のコリメートビームを波長に応じて異なる方向に回折して前記第2回折格子に入射させ、前記第2回折格子は、前記第1回折格子で回折された前記複数のコリメートビームを更に回折して波長結合ビームを形成し、前記波長結合ビームを出射する、第1および第2回折格子と、
を備える、波長ビーム結合装置。
【請求項2】
前記光学素子は、前記複数のコリメートビームを、前記第1の方向と前記第2の方向とを含む第1の平面内で集光する少なくとも1つのレンズを含む、請求項1に記載の波長ビーム結合装置。
【請求項3】
前記少なくとも1つのレンズは、正の焦点距離を有するレンズと、負の焦点距離を有するレンズとを含む、請求項2に記載の波長ビーム結合装置。
【請求項4】
前記少なくとも1つのレンズはシリンドリカルレンズを含む、請求項2または3に記載の波長ビーム結合装置。
【請求項5】
前記少なくとも1つのレンズは2個の軸対称レンズを含み、
前記2個の軸対称レンズのそれぞれの前記第2の方向におけるサイズが、前記第1の平面に垂直な第3の方向におけるサイズよりも大きい、請求項2に記載の波長ビーム結合装置。
【請求項6】
前記少なくとも1つのレンズを収納するレンズ鏡筒を備え、
前記レンズ鏡筒は、少なくとも1つの貫通孔を有する、請求項2または3に記載の波長ビーム結合装置。
【請求項7】
前記少なくとも1つのレンズを収納するレンズ鏡筒を備え、
前記少なくとも1つのレンズは、留め具によって前記レンズ鏡筒に固定される、請求項2または3に記載の波長ビーム結合装置。
【請求項8】
前記レンズ鏡筒の内側面は黒色を呈する、請求項6に記載の波長ビーム結合装置。
【請求項9】
前記光学素子はビームレデューサであり、
前記ビームレデューサの倍率が、5以上20以下である、請求項1から3のいずれか1項に記載の波長ビーム結合装置。
【請求項10】
前記波長結合ビームを収束する光収束器を備える、請求項1に記載の波長ビーム結合装置。
【請求項11】
前記光収束器は、前記波長結合ビームを収束する収束レンズを含む、請求項10に記載の波長ビーム結合装置。
【請求項12】
前記第2回折格子は、前記波長結合ビームを前記第1の方向に出射し、
前記光収束器は、
前記波長結合ビームを、前記第1の方向と前記第2の方向とを含む第1の平面内で集光する第1レンズと、
前記波長結合ビームを、前記第1の方向と、前記第1および前記第2の方向に直交する第3の方向とを含む第2の平面内で集光する第2レンズと、
を含む、請求項10に記載の波長ビーム結合装置。
【請求項13】
前記光学素子と前記第1回折格子との間に配置された偏光ビームスプリッタと、
前記偏光ビームスプリッタと前記第1回折格子との間に配置された第1偏光変換素子と、
前記第2回折格子と前記光収束器との間に配置された偏光ビーム結合器と、
前記第2回折格子と前記偏光ビーム結合器との間に配置された第2偏光変換素子と、
を備える、請求項10から12のいずれか1項に記載の波長ビーム結合装置。
【請求項14】
前記偏光ビームスプリッタは、前記光学素子の作用を受けた前記複数のコリメートビームを、それぞれ、第1偏光方向に直線偏光した複数の第1偏光ビームと、前記第1偏光方向に直交する第2偏光方向に直線偏光した複数の第2偏光ビームとに分離し、
前記第1偏光変換素子は、前記複数の第2偏光ビームを、前記第1偏光方向に直線偏光した複数の第3偏光ビームに変換し、
前記第1回折格子は、前記複数の第1偏光ビームを波長に応じて異なる方向に回折して前記第2回折格子の第1領域に入射させ、かつ、前記複数の第3偏光ビームを波長に応じて異なる方向に回折して前記第2回折格子の第2領域に入射させ、
前記第2回折格子は、前記第1領域に入射した前記複数の第1偏光ビームを更に回折して前記複数の第1偏光ビームを同軸に重畳した第1波長結合ビームを形成し、かつ、前記第2領域に入射した前記複数の第3偏光ビームを更に回折して前記複数の第3偏光ビームを同軸に重畳した第2波長結合ビームを形成し、
前記第2偏光変換素子は、前記第1波長結合ビームおよび前記第2波長結合ビームの少なくとも一方の偏光状態を変化させて、前記第1波長結合ビームおよび前記第2波長結合ビームの偏光方向を直交させ、
前記偏光ビーム結合器は、前記第1波長結合ビームおよび前記第2波長結合ビームを同軸に重畳した第3波長結合ビームを形成して出射する、請求項13に記載の波長ビーム結合装置。
【請求項15】
前記偏光ビームスプリッタは、前記第1の方向と、前記第1および前記第2の方向に直交する第3の方向とを含む第2の平面内で光ビームの偏光分離を行うように構成され、
前記偏光ビーム結合器は、前記第2の平面内で光ビームの偏光合成を行うように構成されている、請求項13に記載の波長ビーム結合装置。
【請求項16】
それぞれが互いに異なるピーク波長の複数のレーザビームを前記複数のコリメートビームに変換するコリメータを備え、
前記光学素子は、前記コリメータと、前記第1回折格子との間に配置される、請求項1から3のいずれか1項に記載の波長ビーム結合装置。
【請求項17】
請求項16に記載の波長ビーム結合装置と、
それぞれが互いに異なるピーク波長のレーザ光を出射する複数の半導体レーザ装置と、
前記複数の半導体レーザ装置から出射された前記レーザ光から、前記波長ビーム結合装置の前記コリメータに入射する前記複数のレーザビームを形成する光ファイバアレイと、
を備える、ダイレクトダイオードレーザ装置。
【請求項18】
前記複数の半導体レーザ装置のそれぞれは、単一縦モードで発振するように構成されている、請求項17に記載のダイレクトダイオードレーザ装置。
【請求項19】
前記互いに異なるピーク波長は、430nmから480nmの範囲に含まれる、請求項17に記載のダイレクトダイオードレーザ装置。
【請求項20】
前記光ファイバアレイは、前記複数のレーザビームを互いに平行に出射するように構成されている、請求項17に記載のダイレクトダイオードレーザ装置。
【請求項21】
請求項17に記載の少なくとも1つのダイレクトダイオードレーザ装置と、
前記少なくとも1つのダイレクトダイオードレーザ装置から出射される前記波長結合ビームに結合される光伝送ファイバと、
前記光伝送ファイバに接続される加工ヘッドと、
を備える、レーザ加工機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、波長ビーム結合装置、ダイレクトダイオードレーザ装置、およびレーザ加工機に関する。
【背景技術】
【0002】
高出力高輝度のレーザビームを用いて多様な種類の材料に切断、穴あけ、マーキングなどの加工を行ったり、金属材料を溶接したりすることが行われている。従来、このようなレーザ加工に使用されてきた炭酸ガスレーザ装置およびYAG固体レーザ装置の一部は、エネルギー変換効率の高いファイバレーザ装置に置き換わりつつある。ファイバレーザ装置のポンプ光源には、レーザダイオード(以下、単にLDと記載する。)が使用されている。近年、LDの高出力化に伴い、LDをポンプ光源としてではなく、材料を直接に照射して加工するレーザビームの光源として用いる技術が開発されつつある。このような技術は、ダイレクトダイオードレーザ(DDL)技術と称されている。
【0003】
特許文献1は、それぞれが固有波長を有する光ビームを出射する複数のレーザアレイを有するレーザスタックと、シリンドリカル望遠鏡と、複数のレーザアレイのそれぞれからの光ビームを遮り、レーザスタックの積層次元に沿って光ビームを結合して多波長光ビームを形成する変換レンズと、光ビームの重なり領域に位置する回折素子とを備える多波長ビームコンバイナを記載している。互いに波長が異なる複数のレーザビームを同軸に結合することは、「波長ビーム結合(WBC)」または「スペクトルビーム結合(SBC)」と称され、例えばDDL装置などの光出力および輝度を高めるために用いられ得る。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特表2012-508453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
波長ビーム結合によって結合されたレーザビームの出力およびパワー密度を更に高めることが求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の波長ビーム結合装置は、ある実施形態において、ピーク波長が互いに異なり、かつ、第1の方向に出射されるビームの中心軸が前記第1の方向に対して交差する第2の方向に並んだ複数のコリメートビームを結合する波長ビーム結合装置であって、前記複数のコリメートビームのビーム中心軸間の距離を縮小して出射させるように構成された光学素子と、第1および第2回折格子であって、前記第1回折格子は、前記光学素子から出射される前記複数のコリメートビームを受ける位置に配置され、かつ、前記複数のコリメートビームを波長に応じて異なる方向に回折して前記第2回折格子に入射させ、前記第2回折格子は、前記第1回折格子で回折された前記複数のコリメートビームを更に回折して波長結合ビームを形成し、前記波長結合ビームを出射する、第1および第2回折格子と、を備える。
【0007】
本開示のダイレクトダイオードレーザ装置は、ある実施形態において、上記の波長ビーム結合装置と、それぞれが互いに異なるピーク波長のレーザ光を出射する複数の半導体レーザ装置と、前記複数の半導体レーザ装置から出射された前記レーザ光から、前記波長ビーム結合装置の前記コリメータに入射する前記複数のレーザビームを形成する光ファイバアレイと、を備える。
【0008】
本開示のレーザ加工機は、ある実施形態において、上記の少なくとも1つのダイレクトダイオードレーザ装置と、前記少なくとも1つのダイレクトダイオードレーザ装置から出射される前記波長結合ビームに結合される光伝送ファイバと、前記光伝送ファイバに接続される加工ヘッドと、を備える。
【発明の効果】
【0009】
本開示の実施形態によれば、波長ビーム結合によって結合されたレーザビームの出力およびパワー密度を更に高めることが可能な波長ビーム結合装置、ダイレクトダイオードレーザ装置、およびレーザ加工機が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、本開示による波長ビーム結合装置の第1実施形態における構成を模式的に示す、XZ面に垂直な方向から見た平面図である。
図2図2は、本開示による波長ビーム結合装置の第1実施形態における構成を模式的に示す、YZ面に垂直な方向から見た平面図である。
図3図3は、ガリレオ式のレンズ構成を備えるビームレデューサの他の構成例を模式的に示す図である。
図4図4は、ガリレオ式のレンズ構成を備えるビームレデューサの更なる他の構成例を模式的に示す図である。
図5A図5Aは、XZ面内におけるレーザビームの発散角を説明するための模式図である。
図5B図5Bは、YZ面内におけるレーザビームの発散角を説明するための模式図である。
図6図6は、本開示による波長ビーム結合装置の第1実施形態における他の構成を模式的に示す、XZ面に垂直な方向から見た平面図である。
図7図7は、本開示による波長ビーム結合装置の第1実施形態における他の構成を模式的に示す、YZ面に垂直な方向から見た平面図である。
図8図8は、本開示による波長ビーム結合装置の第1実施形態における更なる他の構成を模式的に示す、XZ面に垂直な方向から見た平面図である。
図9図9は、光学素子を備えない波長ビーム結合装置の構成を模式的に示す平面図である。
図10図10は、平行配置された一対の回折格子におけるレーザビームの入射角と回折角との幾何学的な関係を説明するための模式図である。
図11図11は、レンズ鏡筒の構成の一例を模式的に示す断面図である。
図12図12は、レンズ鏡筒の構成の他の一例を模式的に示す断面図である。
図13図13は、ビーム中心軸が互いに平行でない複数のコリメートビームが光学素子に入射する様子を模式的に示す図である。
図14図14は、本開示による波長ビーム結合装置の第2実施形態における構成を模式的に示す、XZ面に垂直な方向から見た平面図である。
図15図15は、本開示による波長ビーム結合装置の第2実施形態における他の構成を模式的に示す、XZ面に垂直な方向から見た平面図である。
図16図16は、本開示による波長ビーム結合装置の第2実施形態における更なる他の構成を模式的に示す、XZ面に垂直な方向から見た平面図である。
図17図17は、本開示による波長ビーム結合装置の第2実施形態における更なる他の構成を模式的に示す、YZ面に垂直な方向から見た平面図である。
図18図18は、本開示によるダイレクトダイオードレーザ装置の実施形態における構成を模式的に示す、XZ面に垂直な方向から見た平面図である。
図19図19は、本開示によるダイレクトダイオードレーザ装置の実施形態における他の構成を模式的に示す、XZ面に垂直な方向から見た平面図である。
図20図20は、本開示による加工機の実施形態における構成例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態による波長ビーム結合装置、ダイレクトダイオードレーザ装置、およびレーザ加工機を詳細に説明する。複数の図面に表れる同一符号の部分は同一または同等の部分を示す。構成要素の寸法、材質、形状、その相対的配置などの記載は、本発明の範囲をそれのみに限定する趣旨ではなく、例示することを意図している。各図面が示す部材の大きさや位置関係などは、理解を容易にするなどのために誇張している場合がある。
【0012】
<波長ビーム結合装置の第1実施形態>
図1図11を参照しながら、本開示による波長ビーム結合装置の第1実施形態を説明する。図面には、参考のため、互いに直交するX軸、Y軸、およびZ軸が示されている。
【0013】
図1は、本開示による波長ビーム結合装置の第1実施形態における構成を模式的に示す、XZ面に垂直な方向から見た平面図である。図2は、本開示による波長ビーム結合装置の第1実施形態における構成を模式的に示す、YZ面に垂直な方向から見た平面図である。ただし、図2において、図1に示される第2回折格子40B、および光収束器50が省略されている。
【0014】
図1に示される波長ビーム結合装置100は、ピーク波長が互いに異なる複数のレーザビーム10を結合することができる。図1では、簡単のため、ピーク波長がλ1およびλ2である2本のレーザビーム10を同軸に結合する装置の構成例が記載されている。結合するレーザビーム10の本数は2本に限定されず、ピーク波長が互いに異なる3本以上のレーザビーム10を結合してもよい。以下、結合する複数のレーザビーム10のピーク波長をλnと表記する場合がある。ここで、「n」は、1以上の整数であり、複数のレーザビーム10のそれぞれを区別(特定)する数値として用いられる。図示される例では、λ1<λ2の関係が成立している。ピーク波長λnの単位は、任意であるが、例えばナノメートル(nm)である。
【0015】
図1では、複数のレーザビーム10のそれぞれを、単純な直線で示している。実際のレーザビーム10は、進行方向に直交する平面内において強度分布を有する光ビームである。この強度分布は、光ビームの進行方向に直交する平面内において、例えばガウス分布などの分布関数によって近似することができる。光ビームの直径は、例えば、ビーム中心の強度に対して1/e倍以上の強度を有する断面領域のサイズによって定義される。図1に示される例では、レーザビーム10は、コリメータレンズ(以下、単に「コリメータ」と呼ぶ。)20などの光学系によってコリメートされている。コリメートされた1/eのビーム直径は例えば1mmから30mmであり、コリメータ20の隣接間隔よりも小さい。図面では、レーザビーム10などのコリメートされた光ビームの進行方向を模式的に示すため、それぞれの光ビームの中心軸を直線によって表現している。これらの直線は、各光ビームの中心を通る光線を示していると考えてもよい。
【0016】
図1に示される波長ビーム結合装置100は、コリメータ20、光学素子30、および平行配置された一対の回折格子40を備える。波長ビーム結合装置100は、ピーク波長が互いに異なり、かつ、第1の方向に出射されるビームの中心軸が、第1の方向に対して交差する第2の方向に並んだ、複数のコリメートビームを結合する。図1に示される例において、第1の方向はZ軸方向に平行であり、第2の方向はX軸方向に平行である。このように、第1の方向に対し第2の方は直交する。本開示において、特に断りがない限り、第1の方向はZ軸方向に平行であり、第2の方向はX軸方向に平行である。
【0017】
図1に示される例では、ビームの中心軸が互いに平行な2本のレーザビーム10がコリメータ20に入射する。コリメータ20は、それぞれが互いに異なるピーク波長の複数のレーザビーム10を複数のコリメートビーム11に変換するように構成されている。コリメータ20はコリメータレンズの集合体である。コリメータ20は、複数のレーザビーム10の本数に等しい個数のレンズが1個の光学材料から形成されたレンズアレイであってもよいし、複数のレンズが並べられた光学部品アセンブリであってもよい。コリメータ20を透過して発散角が小さくなったコリメートビーム11は、厳密には平行光ではなく、発散角とビーム径の積が有限の値を有するガウシアンビームに近似される。コリメータ20の光学材料は、合成石英またはBK7などの光学ガラスであり得る。光学ガラスとは可視光で高い透過率を有するガラス材料である。
【0018】
光学素子30は、複数のコリメートビーム11のビーム中心軸間の距離を縮小して出射させるように構成されている。光学素子30は、コリメータ20と、後述する第1回折格子40Aとの間に配置される。光学素子30は、複数のコリメートビーム11を、第1の方向(Z軸方向)と第2の方向(X軸方向)とを含む第1の平面(XZ面)内で集光する少なくとも1つのレンズを含み得る。光学素子30を構成するレンズは、例えば球面レンズ、非球面レンズなどの軸対称レンズ、またはシリンドリカルレンズである。光学素子30を構成するレンズの材料は、合成石英またはBK7などの光学ガラスであり得る。複数の高出力レーザビームが入射するため、合成石英から形成されることが好ましい。
【0019】
光学素子30は、例えばビームレデューサである。本開示の実施形態における光学素子30はビームレデューサである。ビームレデューサとして、例えばケプラー式ビームレデューサまたはガリレオ式ビームレデューサを用いることができる。あるいは、光学素子30として、ビームレデューサに代えてアナモルフィックレンズを用いてもよい。本開示の実施形態におけるビームレデューサは、複数のコリメートビーム11のビーム中心軸間の距離を縮小させるのみならず、個々のコリメートビーム11のビーム径も縮小させることができる。
【0020】
図1および図2に示される例において、光学素子(ビームレデューサ)30はガリレオ式であるが、これに限定されない。光学素子30は、それぞれがXZ面内で集光する2個のレンズ31、32を含む。2個のレンズ31、32のそれぞれは、シリンドリカルレンズであり、XZ面内で集光する機能を有し、かつ、YZ面内で集光する機能を有しない。2個のレンズ31、32を、それぞれ、入射側のレンズ31および出射側のレンズ32と呼ぶ場合がある。
【0021】
図3および図4のそれぞれは、ガリレオ式のレンズ構成を備えるビームレデューサの構成例を模式的に示す図である。図3および図4のそれぞれには、ビームの中心軸が互いに平行な7本のコリメートビームが示されている。図3に例示される光学素子30は、2個のレンズ31、32から構成されるビームレデューサである。入射側のレンズ31が非球面レンズであり、出射側のレンズ32が球面レンズである。非球面レンズを用いる場合、レンズの枚数を少なくして光学素子30を設計できる。
【0022】
図4に例示される光学素子30は、複数のレンズ群から構成されるビームレデューサである。複数のレンズ群のそれぞれは球面レンズである。入射側のレンズ31が4個の球面レンズ31-1~31-4から構成され、出射側のレンズ32が2個の球面レンズ32-1、32-2から構成されている。このように球面レンズを用いる場合、球面収差が生じ易くなる。しかし、複数のレンズ群から光学素子30を構成することによって、光路を徐々に縮小し、球面収差を低減することが可能である。このようにして、光学素子30は、複数の軸対称レンズから構成され得る。
【0023】
再び図1を参照する。光学素子30は、正の焦点距離を有するレンズと、負の焦点距離を有するレンズとを含み得る。図1に示される例では、光学素子30のレンズ31は、正の焦点距離を有するシリンドリカルレンズであり、レンズ32は、負の焦点距離を有するシリンドリカルレンズである。負の焦点距離を有するレンズを用いることで、2枚のレンズ間の距離を小さくすることができ、その結果、レーザビームの光路長を縮小できる。
【0024】
図1に示される入射側のレンズ31の焦点距離をf1、出射側のレンズ32の焦点距離をf2とする。ビームレデューサである光学素子30は、入射光ピッチを1/Mに縮小する倍率Mを有する。ビームレデューサの倍率Mが、レンズ焦点距離の比で決まり、(式1)の数式で与えられる。ここで、p1は、光学素子30(入射側のレンズ31)に入射する入射光ピッチであり、p2は、光学素子30(出射側のレンズ32)から出射される出射光のピッチ、すなわち、第1回折格子40Aに入射する入射光ピッチである。ビームレデューサの倍率Mは、例えば2以上20以下であり得る。
M = f1/-f2 = p1/p2 (式1)
例えば、f1が100(mm)、f2が-10(mm)であるとき、Mが10倍になる。この場合、入射光ピッチp1が5mmであれば、出射光のピッチp2が0.5mmになる。このように、光学素子30を用いることで、第1回折格子40Aに入射する入射光ピッチをビームレデューサの倍率に応じて縮小することが可能となる。このことは、後述するように、レーザビームのピーク波長の間隔Δλの縮小に寄与する。ただし、平行光からの広がり角を示す残存発散角が倍率分大きくなり、これにより、ビーム品質が保存される。
【0025】
図5Aは、XZ面内におけるレーザビームの発散角を説明するための模式図である。図5Bは、YZ面内におけるレーザビームの発散角を説明するための模式図である。図5Aにおいて、コリメータ20から出射されるコリメートビームの発散角θx1、および、光学素子30を透過し、出射側のレンズ32から出射されるコリメートビームの発散角θx2が(式2)の関係を満たす。
θx2 = M・θx1 (式2)
【0026】
このように、光学素子30の作用を受けて複数のコリメートビームのビーム中心軸間の距離が縮小される一方、残存発散角が増加する。しかしながら、YZ面内で集光する機能を有しない、XZ面内で集光する少なくとも1つのシリンドリカルレンズを採用することで、図5Bに示されるように、第1および第2の方向に直交する第3の方向(Y軸方向)における残存発散角θyを維持しつつ、図1に示されるように、第2の方向(X軸方向)における複数のコリメートビームのビーム中心軸間の距離を縮小できる。本実施形態において、Y軸方向は入射光ピッチを縮小させる必要がないために、その方向のビームレデューサは不要である。
【0027】
図1に示される一対の回折格子40は、コリメータ20と光収束器50との間において平行配置された第1および第2回折格子40A、40Bを備える。第1および第2回折格子40A、40Bのそれぞれは、透過型回折格子である。ただし、回折格子40は、反射型回折格子であってもよい。本開示において、回折格子によって反射される反射光、および回折格子を透過する透過光の両方が存在するタイプの回折格子を「透過型回折格子」、透過光が存在しないタイプの回折格子を「反射型回折格子」と呼ぶ。
【0028】
透過型回折格子とは異なり、反射型回折格子は、反射のための部材(例えば金属ミラー)を備えており、この部材による光吸収は無視できない。そのため、反射型回折格子によれば、入射するレーザビームの強度が高くなると、光吸収による発熱が回折格子の性能を劣化させる、あるいは回折格子を破損させる可能性がある。このため、本開示の実施形態では、透過型回折格子を利用することが望ましい。回折格子40の基材は、レーザビームのピーク波長における吸収率の低い材料、例えば合成石英から形成され得る。格子断面の形状は、例えば矩形または台形である。なお、後述するように、透過型回折格子の反射光ではなく透過光を利用することも可能である。
【0029】
なお、第1回折格子40Aと第2回折格子40Bとの平行度は、第1回折格子40Aの回折溝が形成されている面に対する第1の法線と、第2回折格子40Bの回折溝が形成されている面に対する第2の法線との間の角度によって評価される。本開示の実施形態において、これら第1の法線と第2の法線との間の角度は、180度±1度の範囲にあることが望ましい。
【0030】
第1回折格子40Aは、光学素子30から出射される複数のコリメートビーム12を受ける位置に配置され、かつ、複数のコリメートビーム12を波長に応じて異なる方向に回折して第2回折格子40Bの同一の領域(または入射点)41に入射させる。第2回折格子40Bは、第1回折格子40Aで回折された複数のコリメートビーム12を領域41で更に回折して波長結合ビーム19を形成し、波長結合ビーム19を第1の方向(Z軸方向)に出射する。
【0031】
図1に示される例では、第1回折格子40Aおよび第2回折格子40Bは、同一の構造を備えている。第1回折格子40Aの回折溝の延びる方向と、第2回折格子40Bの回折溝の延びる方向とが平行になるように配置されている。より詳しく説明すると、第1回折格子40Aの法線と第2回折格子40Bの法線とは平行であり、かつ、第1回折格子40Aの回折溝の延びる方向と第2回折格子40Bの回折溝の延びる方向とが平行である。図1に示される例では、第1回折格子40Aおよび第2回折格子40Bのそれぞれの回折溝の延びる方向はY軸に平行である。第1回折格子40Aおよび第2回折格子40Bのそれぞれの分散方向(XZ平面)が同一であると言うこともできる。また、第1回折格子40Aの回折溝周期(回折溝の中心間隔)と第2回折格子40Bの回折溝周期(回折溝の中心間隔)とが等しい。このような構成を採用することにより、波長結合ビーム19を、各コリメートビーム11の出射方向に平行な第1の方向(Z軸方向)に出射することが可能になる。図1に示される例において、複数のコリメートビーム12の出射方向と、波長結合ビーム19の出射方向とが平行となる。
【0032】
波長結合ビーム19は、ピーク波長がλ1、λ2、・・・、λnであるn本のレーザビーム10が波長結合されたレーザビームであり得る。複数のレーザビーム10が同軸に重畳される波長結合ビーム19の光強度は、各レーザビーム10の光強度の総和に等しくなる。結合するレーザビーム10の本数が増えれば、それに比例して波長結合ビーム19の出力およびパワー密度は増加し得る。
【0033】
本実施形態における波長ビーム結合装置100は、波長結合ビーム19を収束する光収束器50を更に備える。図1に示される例における光収束器50は、波長結合ビーム19を収束する収束レンズである。ただし、後述するように、光収束器50は、2個以上のレンズを含み得る。
【0034】
図1に示される例では、複数のレーザビーム10の進行方向と、複数のコリメートビーム11の進行方向と、波長結合ビーム19の進行方向とが、第1の方向(Z軸方向)に平行である。波長結合ビーム19は光収束器50によって収束され、光伝送ファイバ60に入射する。このようにして、光収束器によって、波長ビーム結合装置から出射される波長結合ビームを例えば光伝送ファイバに効率的に結合することができる。
【0035】
図6は、本開示による波長ビーム結合装置の第1実施形態における他の構成を模式的に示す、XZ面に垂直な方向から見た平面図である。図7は、本開示による波長ビーム結合装置の第1実施形態における他の構成を模式的に示す、YZ面に垂直な方向から見た平面図である。
【0036】
図6および図7に示される例では、2個のレンズ31、32のそれぞれが軸対称レンズである。ただし、2個のレンズ31、32のそれぞれには、図7に示されるように、Y軸方向に上下をカットして、レーザビームが通過する中央領域を残す加工がされている。図7には、参考として、上下をカットする前のレンズの外形が点線で示されている。この例では、2個のレンズ31、32のそれぞれのX軸方向におけるサイズが、Y軸方向におけるサイズよりも大きい。このようなレンズ構造を採用することで、レンズコストの低減、レンズ加工時間の削減、および光学素子30の軽量化が見込まれる。また、このレンズ構造は、波長ビーム結合装置100の内部空間の省スペース化、および波長ビーム結合装置100の小型化にも寄与し得る。なお、2個のレンズ31、32は、カットする加工をすることなく、射出成形またはガラスモールド成形により形成されてもよい。
【0037】
図8は、本開示による波長ビーム結合装置の第1実施形態における他の構成を模式的に示す、XZ面に垂直な方向から見た平面図である。図8に示される波長ビーム結合装置101は、平行配置された一対の回折格子40を備える。第1および第2回折格子40A、40Bのそれぞれは、図1に示される波長ビーム結合装置100と同様に、透過型回折格子である。ただし、この例では、反射光ではなく透過光が利用される。このように、透過型回折格子の透過光を利用することも可能である。
【0038】
波長ビーム結合を行う場合に、光学素子30の作用によって複数のコリメートビームのビーム中心軸間の距離を縮小させることで、第1回折格子への入射光ピッチを小さくしてレーザビームのピーク波長の間隔Δλを小さくできる。これにより、波長合波の対象となる波長の数を増加させることができ、その結果、波長ビーム結合装置の高出力化が可能となる。こうして、本実施形態に係る波長ビーム結合装置100によれば、波長結合されたレーザビームの出力およびパワー密度を高めることが可能になる。
【0039】
以下、図9、10を参照しながら、回折格子に入射する入射光ピッチによって、結合するレーザビームの本数が制限される理由を説明する。
【0040】
図9は、光学素子を備えない波長ビーム結合装置の構成を模式的に示す平面図である。図9に示される波長ビーム結合装置は、図1に示される波長ビーム結合装置100から光学素子30を除いた構成を備える。図10は、平行配置された一対の回折格子40におけるレーザビームの入射角と回折角との幾何学的な関係を説明するための模式図である。
【0041】
図9に示されるように、ビームの中心軸が互いに平行な複数のレーザビーム10を一対の回折格子40を用いて結合する場合、コリメータ20のサイズに制約があるために、入射光ピッチを狭くできないという課題が生じる。その結果、結合するレーザビームの本数が制限されてしまい、レーザビームの高出力化が困難となる。以下、具体的に説明する。
【0042】
図10に示されるように、回折格子間距離をd、入射光ピッチをpとする。また、ピーク波長λ1のコリメートビーム11が入射する第1回折格子40A上の入射点42から前述した第2回折格子40B上の入射点41までの距離をL1、ピーク波長λ2のコリメートビーム11が入射する第1回折格子40A上の入射点43から第2回折格子40B上の入射点41までの距離をL2とする。
【0043】
ピーク波長λ1、λ2の2本のコリメートビーム11の第1回折格子40Aへの入射角をそれぞれα1、α2とする。前述したように、本実施形態では、第1回折格子40Aに入射する2本のコリメートビーム11のそれぞれのビームの中心軸が互いに平行である。したがって、入射角α1と入射角α2とは等しい。入射角α1、α2のそれぞれは、第1回折格子40Aの法線方向に対してコリメートビーム11の中心軸が形成する角度である。ピーク波長λ1、λ2の2本のコリメートビーム11が第1回折格子40Aに入射して形成される反射回折光の回折角をそれぞれβ1、β2とすると、以下の(式3)および(式4)の関係が成立する。更に、距離L1、L2から(式5)が幾何学的に成立する。
sinα1 + sinβ1 = N・m・λ (式3)
sinα2 + sinβ2 = N・m・λ (式4)
d・tanβ2 - d・tanβ1 = p/cosα (式5)
ここで、Nは第1回折格子40Aの単位長さ(例えば1mm)あたりの溝数、mは回折次数、λは光の波長である。単位長さあたりの溝数Nは、格子溝周期の逆数である。また、入射角α1、α2のそれぞれをαとする。
【0044】
レーザビームのピーク波長の間隔Δλは、入射光ピッチpに比例し、(式3)~(式5)を解くことで求まる。まず、(式3)にλ1、α、N、mを代入してβ1が求まる。次に、(式5)にd、p、α、β1を代入してβ2が求まる。次に、(式4)にα、β2、N、mを代入してλ2が求まる。最後にλ1、λ2からΔλ(=λ2-λ1)が求まる。例えば、α=30(deg)、N=2600(本/mm)、m=1、d=200(mm)、p=5(mm)、λ1=440(nm)の場合、β1=40.1(deg)、L1=168.4(mm)、λ2=444.87(nm)、β2=41.0(deg)、L2=174.1(mm)となる。この例では波長間隔Δλは4.87(nm)となる。
【0045】
入射光ピッチpを小さくする、dを大きくする、あるいは、Nを大きくすることによって、波長間隔Δλを小さくできる。ただし、dを大きくすると、光路長が長くなり、Nを大きくすると回折条件が制限される。このため、本実施形態では、入射光ピッチpを小さくすることで、Δλを小さくしている。なお、入射光ピッチpを小さくするために、コリメータ20のレンズのサイズを小さくすることが考えられる。しかしながら、レンズのサイズを小さくすると、レンズの焦点距離が短くなり、結果として光学倍率が大きくなる。その結果、残存発散角が更に大きくなる。したがって、コリメータ20のレンズのサイズを小さくすることは好ましくない。
【0046】
(1.光学素子を用いない場合)
図9に示される波長ビーム結合装置において、例えば、α=30(deg)、N=2500(本/mm)、m=1、d=200(mm)、p=10(mm)、λ1=460(nm)の場合、β1=40.5(deg)、L1=171.1(mm)、λ2=469.71(nm)、β2=42.4(deg)、L2=182.6(mm)となる。この場合、波長間隔Δλは9.71(nm)となる。このように入射光ピッチpが10(mm)であるとき、波長間隔Δλは9.71(nm)となり、その結果、例えば450nm~470nmのゲイン波長を持つ半導体レーザ装置から出射されるレーザビームの波長合成を行う場合、3波長の合成が上限となる。
【0047】
(2.光学素子を用いる場合)
図1に示される波長ビーム結合装置において、倍率M=5の光学素子を利用すると、第1回折格子40Aに入射するコリメートビームの入射光ピッチpは10(mm)から2(mm)に縮小される。α=30(deg)、N=2500(本/mm)、m=1、d=200(mm)、p=2(mm)、λ1=460(nm)の場合、β1=40.5(deg)、L1=171.1(mm)、λ2=462.01(nm)、β2=40.9(deg)、L2=173.4(mm)となる。この場合、波長間隔Δλは2.01(nm)となる。このように、入射光ピッチpが2(mm)となれば、波長間隔Δλは2.01(nm)となり、その結果、例えば450nm~470nmのゲイン波長を持つ半導体レーザ装置から出射されるレーザビームの波長合成を行う場合、11波長まで合成が可能となる。半導体レーザとして、例えば窒化物半導体レーザを用いることができる。このように、入射光ピッチを縮小させることによって、レーザビームの合成数を増加させることができる。合成できるレーザビームの本数が増加するために、合成後のレーザビームの高出力化が可能となる。レーザビームの合成数は、2本以上であり、例えば4本以上であってもよく、7本以上であってもよく、10本以上であってもよく、あるいは15本以上であってもよい。
【0048】
本開示の実施形態に係る波長ビーム結合装置は、少なくとも1つのレンズを収納するレンズ鏡筒を備え得る。図11は、レンズ鏡筒の構成の一例を模式的に示す断面図である。図11には、XZ面に平行なレンズ鏡筒の断面が示されている。レンズ鏡筒は、レンズ鏡筒の内部とレンズ鏡筒の外部とを繋ぐ少なくとも1つの貫通孔を有し得る。図11に示されるレンズ鏡筒70Aは、光学素子30に含まれる入射側のレンズ31と出射側のレンズ32との間の位置に2個の貫通孔71を有する。レンズを例えば有機材料を用いてレンズ鏡筒に固定する場合に、アウトガスが生じる可能性がある。その場合であっても、貫通孔71を通してレンズ鏡筒の外部にアウトガスを逃がすことができる。
【0049】
図12は、レンズ鏡筒の構成の他の一例を模式的に示す断面図である。図12には、XZ面に平行なレンズ鏡筒の断面が示されている。この例では、光学素子30に含まれる入射側のレンズ31、出射側のレンズ32のそれぞれが、留め具72によってレンズ鏡筒70Bに固定される。留め具72は、例えばセットスクリュである。有機材料の代わりにレンズを例えばセットスクリュのような留め具でレンズ鏡筒に固定することにより、アウトガスの発生を防止できる。
【0050】
レンズ鏡筒70A、70Bのそれぞれの内側面が黒色を呈し得る。レンズの各面には反射防止膜(例えばARコート)が設けられ得る。しかしながら、レンズと空気層との界面で反射する僅かな反射光が迷光の原因になり得る。レンズ鏡筒の内側面を例えば黒色塗装または黒色処理することによって、内側面が黒色を呈し、迷光の発生を抑制することが可能となる。
【0051】
前述した実施形態において、複数のコリメートビーム11は、光学素子30に入射するとき、互いに平行であったが、互いに平行でなくてもよい。図13は、ビーム中心軸が互いに平行でない複数のコリメートビーム11が光学素子30に入射する様子を模式的に示す図である。図13の例において、7本のコリメートビーム11の進行方向は、所定の角度を形成している。このような場合、光学素子30を構成するレンズ群を適切に設計すれば、複数のコリメートビーム11を、複数のコリメートビーム11のビーム中心軸間の距離を縮小し、かつ、ビーム中心軸を互いに平行にして出射させることが可能である。
【0052】
入射側レンズ31と出射側レンズ32とを別のレンズ鏡筒に収納し、2つのレンズ鏡筒の間の距離を調整することにより、複数のコリメートビーム11が平行、発散または収束のいずれの状態にもなるようにすることが可能となる。
【0053】
<波長ビーム結合装置の第2実施形態>
図14、15を参照しながら、本開示による波長ビーム結合装置の第2実施形態を説明する。
【0054】
本開示の第2実施形態に係る波長ビーム結合装置は、偏光分離および合成の機構を更に備える。具体的には、波長ビーム結合装置は、偏光ビームスプリッタ、第1偏光変換素子、偏光ビーム結合器および第2偏光変換素子を更に備え得る。このような波長ビーム結合装置によれば、ピーク波長が互いに異なる複数のレーザビーム10を結合し、波長結合ビームの出力およびパワー密度を更に高めることが可能となる。
【0055】
図14は、本開示による波長ビーム結合装置の第2実施形態における構成を模式的に示す、XZ面に垂直な方向から見た平面図である。波長ビーム結合装置200は、偏光ビームスプリッタ81と、第1偏光変換素子91と、偏光ビーム結合器82と、第2偏光変換素子92とを更に備える。偏光ビームスプリッタ81は、光学素子30と第1回折格子40Aとの間に配置される。第1偏光変換素子91は、偏光ビームスプリッタ81と第1回折格子40Aとの間に配置される。偏光ビーム結合器82は、第2回折格子40Bと光収束器50との間に配置される。第2偏光変換素子92は、第2回折格子40Bと偏光ビーム結合器82との間に配置される。
【0056】
偏光ビームスプリッタ81は、光学素子30の作用を受けた複数のコリメートビーム12を、それぞれ、第1偏光方向(Y軸方向)に直線偏光した複数の第1偏光ビーム13と、第1偏光方向に直交する第2偏光方向(XZ平面内の方向)に直線偏光した複数の第2偏光ビーム14とに分離する。図14では、簡単のために、複数のコリメートビーム12を纏めて1本の直線で表している。しかし、実際は、光学素子30の作用によってコリメートビームのビーム中心軸間の距離が縮小された5本の複数のコリメートビーム12が並んで進行する。
【0057】
図14の例における偏光ビームスプリッタ81は、入射したコリメートビーム12の偏光状態に応じて透過率および反射率が異なる反射/透過面81Rを有している。反射/透過面81Rは、第1偏光ビーム13に対しては反射面として機能し、第2偏光ビーム14に対しては透過面として機能する。反射/透過面81Rは、入射するコリメートビーム12を第1偏光ビーム13と第2偏光ビーム14とに分離する。偏光ビームスプリッタ81は、反射/透過面81Rで第2の方向に反射された第1偏光ビーム13を第1の方向に反射するミラー81Mを更に有している。第1偏光ビーム13と第2偏光ビーム14とが偏光ビームスプリッタ81から平行に出射される。光は電磁波であり、光の電磁場は進行方向に対して垂直な方向に振動する横波である。レーザビームの偏光状態は、レーザ光源の利得媒体、共振器、発振方式などに依存して異なり得る。また、レーザ光源から出射された段階では特定の偏光状態にあるレーザビームも、例えば光ファイバなどの伝送媒体を通過中に偏光状態が変動したり、偏光が解消(depolarize)したりする場合がある。偏光ビームスプリッタ81の反射/透過面81Rは、所定方向に直線偏光した偏光成分を選択的に反射し、当該所定方向に直交する方向に直線偏光した偏光成分を透過することができる。反射/透過面81Rには、例えば偏光依存性を有する誘電体多層膜が設けられている。
【0058】
一般に、物体表面に光線が入射するとき、入射点における物体表面の法線と光線の進行方向ベクトル(波数ベクトル)とを含む平面は、「入射面(plane of incidence)」と定義される。また、入射面に垂直な方向に直線偏光した光はS偏光、入射面に平行な方向に直線偏光した光はP偏光と呼ばれる。図14の例において、偏光ビームスプリッタ81の反射/透過面81Rは、XZ面に垂直であり、反射/透過面81Rの法線はXZ面に平行な平面内にある。また、コリメートビーム12の進行方向は、XZ面に平行である。このため、コリメートビーム12が反射/透過面81Rに入射するときの偏光方向を定義するための「入射面」は、XZ面に平行である。本開示において、XZ面に垂直な方向である第1偏光方向に直線偏光した光を「S偏光」と称する。そして、XZ面に平行な方向(第1偏光方向に直交する第2偏光方向)に直線偏光した光を「P偏光」と呼ぶ。添付図面においては、小さな円でクロス記号を囲んだ符号で「S偏光」を示し、両端矢印の符号で「P偏光」を示す。「P偏光」の偏光方向は、XZ面に平行であるが、レーザビームの進行方向に対して垂直であるため、レーザビームの進行方向がXZ面に平行なまま、反射または回折によって回転すると、「P偏光」の偏光方向もXZ面に平行な面内で回転する。このため、本開示における「第2偏光方向」とは、レーザビームの進行方向に垂直、かつ、第1偏光方向に垂直な方向として定義される。
【0059】
図14に示される例においては、断面が三角形である透明プリズム(または直角プリズム)に、断面が平行四辺形の透明部材が、反射/透過面81Rを介して固定されている。そして、ミラー81Mは、断面が平行四辺形の透明部材の斜面に形成されている。全反射条件が適用される場合にはミラー面を形成する必要がなく、ミラー81Mの代わりにARコートが施され得る。断面が平行四辺形の透明部材の代わりに、2個の直角プリズムを貼り合わせたものを用いることが可能である。ただし、断面が平行四辺形の透明部材を用いることによって、直角プリズムの調整が不要になり、更に、2個の直角プリズムの界面おける反射が低減される。
【0060】
第1偏光変換素子91は、複数の第2偏光(P偏光)ビーム14を、第1偏光(S偏光)方向に直線偏光した複数の第3偏光ビーム15に変換する。偏光ビームスプリッタ81の反射/透過面81Rを透過した複数の第2偏光ビーム14は、第1偏光変換素子91によって第3偏光ビーム15に変換される。第1偏光変換素子91は、例えば1/2波長板(半波長位相差板)である。1/2波長板は、複屈折性を有し、厚さ方向に進行する電磁波の直交する2成分における位相差を変化させる。1/2波長板の遅相軸または進相軸を第2偏光(P偏光)ビーム14の偏光方向に対して45°の角度を形成するように配置することにより、1/2波長板はP偏光をS偏光に変換することが可能になる。
【0061】
図14に示される例において、複数の第1偏光ビーム13が入射する第1回折格子40A上の位置が、複数の第3偏光ビーム15が入射する第1回折格子40A上の位置と異なる。第1回折格子40Aは、複数の第1偏光ビーム13を波長に応じて異なる方向に回折して第2回折格子40Bの第1領域45に入射させ、かつ、複数の第3偏光ビーム15を波長に応じて異なる方向に回折して第2回折格子40Bの第1領域45と異なる第2領域46に入射させる。
【0062】
第2回折格子40Bは、第1領域45に入射した複数の第1偏光ビーム13を更に回折して複数の第1偏光ビームを同軸に重畳した第1波長結合ビーム16を形成し、かつ、第2領域46に入射した複数の第3偏光ビーム15を更に回折して複数の第3偏光ビーム15を同軸に重畳した第2波長結合ビーム17を形成する。
【0063】
第2偏光変換素子92は、第1波長結合ビーム16および第2波長結合ビーム17の少なくとも一方の偏光状態を変化させて、第1波長結合ビーム16および第2波長結合ビーム17の偏光方向を直交させるように構成されている。第2偏光変換素子92は、第1偏光変換素子91と同様に、例えば1/2波長板(半波長位相差板)である。図14に示される例では、第2偏光変換素子92は、第1波長結合ビーム16の偏光方向を90度回転させるように配置されている。第2偏光変換素子92を透過した第1波長結合ビーム16は、第2偏光方向に直線偏光している。これとは異なり、第2偏光変換素子92は、第2波長結合ビーム17の偏光方向を90度回転させる位置に置かれてもよい。
【0064】
偏光ビーム結合器82は、第1波長結合ビーム16および第2波長結合ビーム17を同軸に重畳した第3波長結合ビーム18を形成して出射するように構成されている。図14に示される例において、偏光ビーム結合器82は、偏光ビームスプリッタ81と同じ構造を備える。一般に、偏光ビームスプリッタは、偏光ビーム結合器としても使用可能である。ただし、向きがY軸周りに180度回転した関係にある。図14の例において、第2偏光変換素子92を透過した第1波長結合ビーム16はP偏光であり、第2波長結合ビーム17はS偏光である。偏光ビーム結合器82は、第1の方向に進行する第2波長結合ビーム17を第2の方向に反射するミラー82M、および、S偏光を反射し、P偏光は透過する反射/透過面82Rを備える。その結果、偏光ビーム結合器82は、第2偏光変換素子92を透過した第1波長結合ビーム(P偏光)16と第2波長結合ビーム(S偏光)17とが同軸に重畳された第3波長結合ビーム18を出射することができる。
【0065】
第3波長結合ビーム18は、ピーク波長がλ1、λ2、λ3.λ4およびλ5である5本のレーザビーム10が波長結合されたレーザビームである。こうして、波長ビーム結合装置200によれば、波長結合されたレーザビームの出力およびパワー密度を高めることが可能になる。結合するレーザビーム10の本数が増えれば、それに比例して第3波長結合ビーム18の出力およびパワー密度は増加し得る。
【0066】
図14に示される例では、一対の回折格子40に入射するレーザビームが、S偏光の複数の第1偏光ビーム13およびS偏光の複数の第3偏光ビーム15である。回折格子が偏光依存性を有している場合、無偏光のレーザビームが入射すると、偏光成分によっては回折効率が低下してしまう。本実施形態では、一対の回折格子40のそれぞれは、第1偏光方向(Y軸方向)に平行な回折溝を有している。本実施形態では、S偏光に対する回折効率がP偏光に対する回折効率よりも高い回折格子40を用いることにより、回折格子で光損失が発生することを抑制できる。
【0067】
本実施形態の波長ビーム結合装置によれば、回折格子と、偏光分離および合成の機構とを組み合わせることによって、入射する光の偏光状態に適した回折格子を用いて回折効率を高め、回折格子によって生成された回折光を同軸化することにより、出力およびパワー密度を更に高めることが可能になる。
【0068】
図15は、本開示による波長ビーム結合装置の第2実施形態における他の構成を模式的に示す、XZ面に垂直な方向から見た平面図である。図15に示される波長ビーム結合装置201は、2個のシリンドリカルレンズを含む光収束器50を備えている点において、図14に示される波長ビーム結合装置200と相違する。以下、相違点を説明する。
【0069】
この例に示されるように、光収束器50は、第3波長結合ビーム18を、第1の方向(Z軸方向)と第2の方向(X軸方向)とを含む第1の平面(XZ面)内で集光する第1レンズ51と、第3波長結合ビーム18を、第1の方向と、第1および第2の方向に直交する第3の方向(Y軸方向)とを含む第2の平面(YZ面)内で集光する第2レンズ52とを含み得る。第1および第2レンズ51、52は、それぞれ、シリンドリカルレンズである。2個のシリンドリカルレンズを用いることで、光学素子の作用による第2の方向の残存発散角の増大、または回折格子の作用に起因して生じ得るビーム形状の楕円化に対処することが可能となる。
【0070】
また、第1レンズ51に軸対称レンズを用いて、第2レンズ52にシリンドリカルレンズを用いることも可能である。この場合、第1レンズ51で集光しきれない成分を予め第2レンズ52で集光することにより、集光性能を高めることが可能となる。
【0071】
図16は、本開示による波長ビーム結合装置の第2実施形態における更なる他の構成を模式的に示す、XZ面に垂直な方向から見た平面図である。図17は、本開示による波長ビーム結合装置の第2実施形態における更なる他の構成を模式的に示す、YZ面に垂直な方向から見た平面図である。
【0072】
図16および図17に示される波長ビーム結合装置202は、図14に示される波長ビーム結合装置200の変形例である。波長ビーム結合装置202は、偏光ビームスプリッタ81および偏光ビーム結合器82の偏光分離および偏光合成がXZ平面ではなく、YZ平面で行われる点で波長ビーム結合装置200と相違する。その他の構成は、図14に示される構成と同一である。
【0073】
図17に示される波長ビーム結合装置202において、偏光ビームスプリッタ81は、第1の方向(Z軸方向)と、第1および第2の方向に直交する第3の方向(Y軸方向)とを含む第2の平面(YZ平面)内で光ビームの偏光分離を行うように構成される。偏光ビーム結合器82は、第2の平面で光ビームの偏光合成を行うように構成されている。
【0074】
図17に示される第1回折格子40Aの第1領域47で回折された複数の第1偏光ビーム13は、第2回折格子40Bの第1領域45に入射し、第1回折格子40Aの第2領域48で回折された複数の第3偏光ビーム15は、第2回折格子40Bの第2領域46に入射する。図17において、第1回折格子40Aから第2回折格子40Bに向かう偏光ビームは図示していない。また、わかり易さのために、第1回折格子40Aの第2領域48と、第2回折格子40Bの第2領域46とが、Y軸方向において異なる位置に図示され、第1回折格子40Aの第2領域48と、第2回折格子40Bの第2領域46とが、Y軸方向において異なる位置に図示されている。しかしながら実際は、第1回折格子40Aの第1領域47と、第2回折格子40Bの第1領域45とはY軸方向において同じ位置に存在し、第1回折格子40Aの第2領域48と、第2回折格子40Bの第2領域46は、Y軸方向において同じ位置に存在する。この構成によれば、偏光ビームスプリッタ81および偏光ビーム結合器82が、第1回折格子40Aから第2回折格子40Bまでの偏光ビームの光路に干渉することがなくなる。更に、第1偏光変換素子91と第1回折格子40Aとの距離、および第2偏光変換素子92と第2回折格子40Bとの距離を縮小した状態でこれらの光学部材を配置することが可能となる。レーザビームの伝播光路を短くすることは、残存発散角により拡がるレーザビームの抑制に貢献することとなり、結果として、波長ビーム結合装置の効率を向上させることが可能となる。
【0075】
<ダイレクトダイオードレーザ装置の実施形態>
以下、図18、19を参照しながら、本開示によるダイレクトダイオードレーザ装置の実施形態を説明する。
【0076】
図18は、本開示によるダイレクトダイオードレーザ装置の実施形態における構成を模式的に示す、XZ面に垂直な方向から見た平面図である。本実施形態におけるダイレクトダイオードレーザ装置1000は、波長ビーム結合装置400と、それぞれが互いに異なるピーク波長のレーザ光を出射する複数の半導体レーザ装置510と、複数の半導体レーザ装置510から出射されたレーザ光から、波長ビーム結合装置400のコリメータ20に入射するレーザビーム10を形成するように構成された光ファイバアレイ530とを備える。図18に示される例では、ピーク波長がλ1、λ2、λ3、λ4、λ5のレーザ光が複数の半導体レーザ装置510から出射される。各半導体レーザ装置510から出射されるレーザ光は、光ファイバアレイ530の対応する光ファイバ520に光学的に結合される。複数の半導体レーザ装置510のそれぞれは、互いに異なるピーク波長の単一縦モードで発振するように構成されている。各ピーク波長は、例えば、430nmから480nmの範囲に含まれる。各半導体レーザ装置510から出射されるレーザ光が直線偏光であっても、光ファイバ520が偏光保持ファイバでない場合、レーザ光の偏光状態は光ファイバ520を通過する過程で変化する。このため、本実施形態における光ファイバアレイ530によって形成される複数のレーザビーム10のそれぞれは、無偏光である。
【0077】
単一縦モードで発振する半導体レーザ装置510の例は、外部共振型レーザ(External Cavity Laser:ECL)装置、分布帰還型(Distributed Feedback:DFB)レーザ装置、分布反射型(Distributed Bragg Reflector:DBR)レーザ装置を含む。
【0078】
光ファイバアレイ530を用いることにより、光ファイバ520を整列でき、レーザビーム10の出射角度を調整することが容易になる。その結果、光ファイバアレイ530から、複数のレーザビーム10を例えば高い正確度で平行に出射させることが容易になる。光ファイバアレイ530によれば、レーザ光源から延びる光ファイバを、光ファイバアレイ530の光ファイバ520に融着して接続することもできる。光ファイバアレイ530は、各光ファイバ520の先端から出射されたレーザ光をコリメートするレンズ系を備え得る。
【0079】
図18には、図1に示される構造を備える波長ビーム結合装置400を備えるダイレクトダイオードレーザ装置1000が例示されている。ただし、本開示の実施形態に係るダイレクトダイオードレーザ装置は、図18に示される例に限定されず、第1実施形態に係る波長ビーム結合装置101、第2実施形態に係る波長ビーム結合装置200もしくは201、またはこれらの変形例を備え得る。波長ビーム結合装置400のコリメータ20には、光ファイバアレイ530から第1の方向(Z軸方向)に平行に出射された、ピーク波長が互いに異なる複数のレーザビーム10が互いに平行に入射する。
【0080】
本実施形態では、波長ビーム結合装置が備える回折格子、偏光変換素子などの光学素子が、いずれも、プレート型である。レーザビームのピーク波長が青色帯域に含まれる場合、これらの光学素子は、青色帯域の光を吸収しにくい材料、例えば石英から形成され得る。これらの光学素子を薄くして所定の空間内に集積することは、装置の小型化に寄与するだけではなく、複数の光学素子の温度を全体として調整することを容易にする。
【0081】
波長結合ビーム19は、光収束器50により光伝送ファイバ60に結合される。青色帯域の高出力光伝送に適した光伝送ファイバ60の例は、OH基含有率の高い「高OH-純石英」コアを有する光ファイバ、コアレスファイバ、および、フォトニクス結晶ファイバを含む。
【0082】
図19は、本開示によるダイレクトダイオードレーザ装置の実施形態における他の構成を模式的に示す、XZ面に垂直な方向から見た平面図である。図19に示されるダイレクトダイオードレーザ装置1000は、レーザ光源として半導体レーザ素子540を備える。半導体レーザ素子540は、波長が制御された単一光源である。図19に示される例において、半導体レーザ素子540は、5個のレーザ発振領域540Xを有するレーザバーである。5個のレーザ発振領域540Xは、それぞれ、λ1、λ2、λ3、λ4、λ5のピーク波長でレーザ発振を行い、ピーク波長がλ1、λ2、λ3、λ4、λ5のレーザ光を出射する。1個のレーザバーが含むレーザ発振領域540Xの個数は5に限定されず、3または4であってもよいし、6以上、例えば10以上であってもよい。半導体レーザ素子540は、複数のレーザ発振領域540Xを規定する複数のリッジまたは複数のストライプ電極を有し得る。半導体レーザ素子540は、単一のレーザバーである必要はなく、複数のレーザバーの集まりであってもよい。
【0083】
本実施形態のダイレクトダイオードレーザ装置によれば、回折格子によって生成された回折光を同軸化することにより、出力およびパワー密度を高めることが可能になる。とりわけ、第2実施形態に係る波長ビーム結合装置を利用することによって、複数の半導体レーザ装置または半導体レーザ素子から出射されたレーザ光の偏光状態が光ファイバアレイ装置によって無偏光になっても、偏光ビームスプリッタによって直線偏光に変換されため、各偏光状態に適した回折格子を用いて回折効率を高めることが可能になる。そして、このような回折格子によって生成された回折光を同軸化することにより、出力およびパワー密度を高めることが可能になる。
【0084】
<レーザ加工機の実施形態>
次に、図20を参照して、本開示によるレーザ加工機2000の実施形態を説明する。図20は、本開示による加工機の実施形態における構成例を示す図である。
【0085】
図示されているレーザ加工機2000は、光源装置1100と、光源装置1100から延びる光伝送ファイバ60に接続された加工ヘッド1200とを備えている。加工ヘッド1200は、光伝送ファイバ60から出射された波長結合ビームで対象物1300を照射する。図示されている例において、光源装置1100の個数は、1個である。加工ヘッド1200は、複数の光源装置1100に光伝送ファイバ60を介して接続され得る。
【0086】
光源装置1100は、前述した構成を有する波長ビーム結合装置と、ピーク波長が互いに異なる複数のレーザビームを出射する複数の半導体レーザ装置または半導体レーザ素子とを有するダイレクトダイオードレーザ装置である。光源装置1100が備える波長ビーム結合装置は、前述した種々の実施形態、および、それら実施形態の変形例であり得る。光源装置1100に搭載される半導体レーザ装置の個数は特に限定されず、必要な光出力または放射照度に応じて決定される。半導体レーザ装置から出射されるレーザ光の波長も、加工対象の材料に応じて選択され得る。
【0087】
本実施形態によれば、波長ビーム結合によって高出力のレーザビームを生成し、光ファイバに効率的に結合されるため、ビーム品質に優れた高パワー密度のレーザビームを高いエネルギー変換効率で得ることが可能になる。
【0088】
なお、加工ヘッド1200から出射されるレーザビームは、半導体レーザ装置または半導体レーザ素子から出射されて結合されたレーザビーム以外のレーザビームが含まれていてもよい。例えば、半導体レーザ装置から出射されて波長結合されるレーザビームのピーク波長は430nmから480nmの範囲に含まれるが、それとは別に、例えばピーク波長が近赤外のレーザビームが重畳されていてもよい。加工対象の材料に応じて、適宜、その材料の吸収率が高い波長のレーザビームが重畳され得る。
【0089】
本開示は、以下の項目に記載の波長ビーム結合装置、ダイレクトダイオードレーザ装置、およびレーザ加工機を含む。
【0090】
[項目1]
ピーク波長が互いに異なり、かつ、第1の方向に出射されるビームの中心軸が前記第1の方向に対して交差する第2の方向に並んだ複数のコリメートビームを結合する波長ビーム結合装置であって、
前記複数のコリメートビームのビーム中心軸間の距離を縮小して出射させるように構成された光学素子と、
第1および第2回折格子であって、前記第1回折格子は、前記光学素子から出射される前記複数のコリメートビームを受ける位置に配置され、かつ、前記複数のコリメートビームを波長に応じて異なる方向に回折して前記第2回折格子に入射させ、前記第2回折格子は、前記第1回折格子で回折された前記複数のコリメートビームを更に回折して波長結合ビームを形成し、前記波長結合ビームを出射する、第1および第2回折格子と、
を備える、波長ビーム結合装置。
【0091】
[項目2]
前記光学素子は、前記複数のコリメートビームを、前記第1の方向と前記第2の方向とを含む第1の平面内で集光する少なくとも1つのレンズを含む、項目1に記載の波長ビーム結合装置。
【0092】
[項目3]
前記少なくとも1つのレンズは、正の焦点距離を有するレンズと、負の焦点距離を有するレンズとを含む、項目2に記載の波長ビーム結合装置。
【0093】
[項目4]
前記少なくとも1つのレンズはシリンドリカルレンズを含む、項目2または3に記載の波長ビーム結合装置。
【0094】
[項目5]
前記少なくとも1つのレンズは2個の軸対称レンズを含み、
前記2個の軸対称レンズのそれぞれの前記第2の方向におけるサイズが、前記第1の平面に垂直な第3の方向におけるサイズよりも大きい、項目2に記載の波長ビーム結合装置。
【0095】
[項目6]
前記少なくとも1つのレンズを収納するレンズ鏡筒を備え、
前記レンズ鏡筒は、少なくとも1つの貫通孔を有する、項目2から5のいずれか1項に記載の波長ビーム結合装置。
【0096】
[項目7]
前記少なくとも1つのレンズを収納するレンズ鏡筒を備え、
前記少なくとも1つのレンズは、留め具によって前記レンズ鏡筒に固定される、項目2から5のいずれか1項に記載の波長ビーム結合装置。
【0097】
[項目8]
前記レンズ鏡筒の内側面は黒色を呈する、項目6または7に記載の波長ビーム結合装置。
【0098】
[項目9]
前記光学素子はビームレデューサであり、
前記ビームレデューサの倍率が、5以上20以下である、項目1から8のいずれか1項に記載の波長ビーム結合装置。
【0099】
[項目10]
前記波長結合ビームを収束する光収束器を備える、項目1に記載の波長ビーム結合装置。
【0100】
[項目11]
前記光収束器は、前記波長結合ビームを収束する収束レンズを含む、項目10に記載の波長ビーム結合装置。
【0101】
[項目12]
前記第2回折格子は、前記波長結合ビームを前記第1の方向に出射し、
前記光収束器は、
前記波長結合ビームを、前記第1の方向と前記第2の方向とを含む第1の平面内で集光する第1レンズと、
前記波長結合ビームを、前記第1の方向と、前記第1および前記第2の方向に直交する第3の方向とを含む第2の平面内で集光する第2レンズと、
を含む、項目10に記載の波長ビーム結合装置。
【0102】
[項目13]
前記光学素子と前記第1回折格子との間に配置された偏光ビームスプリッタと、
前記偏光ビームスプリッタと前記第1回折格子との間に配置された第1偏光変換素子と、
前記第2回折格子と前記光収束器との間に配置された偏光ビーム結合器と、
前記第2回折格子と前記偏光ビーム結合器との間に配置された第2偏光変換素子と、
を備える、項目10から12のいずれか1項に記載の波長ビーム結合装置。
【0103】
[項目14]
前記偏光ビームスプリッタは、前記光学素子の作用を受けた前記複数のコリメートビームを、それぞれ、第1偏光方向に直線偏光した複数の第1偏光ビームと、前記第1偏光方向に直交する第2偏光方向に直線偏光した複数の第2偏光ビームとに分離し、
前記第1偏光変換素子は、前記複数の第2偏光ビームを、前記第1偏光方向に直線偏光した複数の第3偏光ビームに変換し、
前記第1回折格子は、前記複数の第1偏光ビームを波長に応じて異なる方向に回折して前記第2回折格子の第1領域に入射させ、かつ、前記複数の第3偏光ビームを波長に応じて異なる方向に回折して前記第2回折格子の第2領域に入射させ、
前記第2回折格子は、前記第1領域に入射した前記複数の第1偏光ビームを更に回折して前記複数の第1偏光ビームを同軸に重畳した第1波長結合ビームを形成し、かつ、前記第2領域に入射した前記複数の第3偏光ビームを更に回折して前記複数の第3偏光ビームを同軸に重畳した第2波長結合ビームを形成し、
前記第2偏光変換素子は、前記第1波長結合ビームおよび前記第2波長結合ビームの少なくとも一方の偏光状態を変化させて、前記第1波長結合ビームおよび前記第2波長結合ビームの偏光方向を直交させ、
前記偏光ビーム結合器は、前記第1波長結合ビームおよび前記第2波長結合ビームを同軸に重畳した第3波長結合ビームを形成して出射する、項目13に記載の波長ビーム結合装置。
【0104】
[項目15]
前記偏光ビームスプリッタは、前記第1の方向と、前記第1および前記第2の方向に直交する第3の方向とを含む第2の平面内で光ビームの偏光分離を行うように構成され、
前記偏光ビーム結合器は、前記第2の平面内で光ビームの偏光合成を行うように構成されている、項目13または14に記載の波長ビーム結合装置。
【0105】
[項目16]
それぞれが互いに異なるピーク波長の複数のレーザビームを前記複数のコリメートビームに変換するコリメータを備え、
前記光学素子は、前記コリメータと、前記第1回折格子との間に配置される、項目1から15のいずれか1項に記載の波長ビーム結合装置。
【0106】
[項目17]
項目16に記載の波長ビーム結合装置と、
それぞれが互いに異なるピーク波長のレーザ光を出射する複数の半導体レーザ装置と、
前記複数の半導体レーザ装置から出射された前記レーザ光から、前記波長ビーム結合装置の前記コリメータに入射する前記複数のレーザビームを形成する光ファイバアレイと、
を備える、ダイレクトダイオードレーザ装置。
【0107】
[項目18]
前記複数の半導体レーザ装置のそれぞれは、単一縦モードで発振するように構成されている、項目17に記載のダイレクトダイオードレーザ装置。
【0108】
[項目19]
前記互いに異なるピーク波長は、430nmから480nmの範囲に含まれる、項目17または18に記載のダイレクトダイオードレーザ装置。
【0109】
[項目20]
前記光ファイバアレイは、前記複数のレーザビームを互いに平行に出射するように構成されている、項目17から19のいずれか1項に記載のダイレクトダイオードレーザ装置。
【0110】
[項目21]
項目17から20のいずれか1項に記載の少なくとも1つのダイレクトダイオードレーザ装置と、
前記少なくとも1つのダイレクトダイオードレーザ装置から出射される前記波長結合ビームに結合される光伝送ファイバと、
前記光伝送ファイバに接続される加工ヘッドと、
を備える、レーザ加工機。
【産業上の利用可能性】
【0111】
本開示の波長ビーム結合装置、ダイレクトダイオードレーザ装置、およびレーザ加工機は、高いビーム品質を持つ高出力高パワー密度のレーザ光が求められる用途、例えば各種材料の切断、穴あけ、局所的熱処理、表面処理、金属の溶接、3Dプリンティングなどに広く利用され得る。
【符号の説明】
【0112】
20・・・コリメータ、30・・・光学素子、31、32・・・レンズ、40・・・回折格子、40A・・・第1回折格子、40B・・・第2回折格子、50・・・光収束器、60・・・光伝送ファイバ、70A、70B・・・レンズ鏡筒、71・・・貫通孔、72・・・留め具、81・・・偏光ビームスプリッタ、82・・・偏光ビーム結合器、91・・・第1偏光変換素子、92・・・第2偏光変換素子、100、101、200、201、202、400・・・波長ビーム結合装置、510・・・半導体レーザ装置、520・・・光ファイバ、530・・・光ファイバアレイ、540・・・半導体レーザ素子、1000・・・ダイレクトダイオードレーザ装置、1100・・・光源装置、1200・・・加工ヘッド、1300・・・対象物、2000・・・レーザ加工機
図1
図2
図3
図4
図5A
図5B
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20