IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ DIC株式会社の特許一覧

特開2024-172327ガーネット型酸化物固体電解質及びその製造方法
<>
  • 特開-ガーネット型酸化物固体電解質及びその製造方法 図1
  • 特開-ガーネット型酸化物固体電解質及びその製造方法 図2
  • 特開-ガーネット型酸化物固体電解質及びその製造方法 図3
  • 特開-ガーネット型酸化物固体電解質及びその製造方法 図4
  • 特開-ガーネット型酸化物固体電解質及びその製造方法 図5
  • 特開-ガーネット型酸化物固体電解質及びその製造方法 図6
  • 特開-ガーネット型酸化物固体電解質及びその製造方法 図7
  • 特開-ガーネット型酸化物固体電解質及びその製造方法 図8
  • 特開-ガーネット型酸化物固体電解質及びその製造方法 図9
  • 特開-ガーネット型酸化物固体電解質及びその製造方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172327
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】ガーネット型酸化物固体電解質及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01B 1/08 20060101AFI20241205BHJP
   C01G 35/00 20060101ALI20241205BHJP
   C04B 35/50 20060101ALI20241205BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20241205BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALN20241205BHJP
【FI】
H01B1/08
C01G35/00 C
C04B35/50
H01B1/06 A
H01M10/0562
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089975
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100215935
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 茂輝
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【弁理士】
【氏名又は名称】成田 友紀
(72)【発明者】
【氏名】水田 清嗣
(72)【発明者】
【氏名】大道 浩児
(72)【発明者】
【氏名】袁 建軍
【テーマコード(参考)】
4G048
5G301
5H029
【Fターム(参考)】
4G048AA04
4G048AB01
4G048AC06
4G048AD01
4G048AD06
4G048AE05
5G301CA02
5G301CA16
5G301CA28
5G301CD01
5H029AJ01
5H029AM12
5H029CJ02
5H029HJ05
5H029HJ14
(57)【要約】
【課題】緻密化焼結温度800℃以下でも、粒子界面連続性が高く、リチウムイオン伝導率に優れる酸化物固体電解質、及びその製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の酸化物固体電解質は、酸化物固体電解質粒子を含む。前記酸化物固体電解質粒子が、第1の層と第2の層とを有する。前記第1の層は、ガーネット型酸化物LiLaZr12及びガーネット型酸化物LiLaZr12のLiサイト、Laサイト及びZrサイトからなる群から選択される少なくも1つのサイトの一部をLi,La,Zr以外の元素で置換した置換ガーネット型酸化物からなる群から選択される少なくとも1種を含む。前記第2の層が、下記一般式(1)で表される酸化物を含む、酸化物固体電解質。
LiMo(3x+1) (1)
(式(1)において、x=1、2、3である。)
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化物固体電解質粒子を含む酸化物固体電解質であって、
前記酸化物固体電解質粒子が、第1の層と第2の層とを有し、
前記第1の層は、ガーネット型酸化物LiLaZr12及びガーネット型酸化物LiLaZr12のLiサイト、Laサイト及びZrサイトからなる群から選択される少なくも1つのサイトの一部をLi,La,Zr以外の元素で置換した置換ガーネット型酸化物からなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記第2の層が、下記一般式(1)で表される酸化物を含む、酸化物固体電解質。
LiMo(3x+1) (1)
(式(1)において、x=1、2、3である。)
【請求項2】
前記式(1)におけるxが1である、請求項1に記載の酸化物固体電解質。
【請求項3】
前記第1の層のガーネット型酸化物又は前記置換ガーネット型酸化物は、下記一般式(2)で表されるガーネット型酸化物である、請求項1に記載の酸化物固体電解質。
Li(7-s) La(3-z) Zr(2-u-v) 12 (2)
(式(2)において、
がAl、Ga、Fe、Siからなる群から選択される1種であり、
がY、Ce、Ta、Ba、Sr、Caからなる群から選択される1種又は2種以上の元素であり、
、Mは、それぞれ独立にして、Mo、Ta,Nb、W、Sb、Te、Biからなる群から選択される1種の元素であり、
0≦y≦2.3、0≦z≦2、0≦u≦2、0≦v≦2であり、かつ、0<s<7であり、
s=m×y+(m-3)×z+(m-4)×u+(m-4)×v である。
ただし、m、m、m、mがそれぞれ、M、M、M、Mの価数である。)
【請求項4】
請求項1~3のいずれか1項に記載の酸化物固体電解質の製造方法であって、
前記第1の層を構成する前記ガーネット型酸化物又は前記置換ガーネット型酸化物の焼成粉体に、前記第2の層を構成する原料粉体を加えて混合し、混合粉体を調製する第1のステップと、
前記混合粉体をペレット化し、前記ペレットを緻密化焼結温度800℃以下で焼結して緻密化する第2のステップと、含み、
前記第2の層を構成する原料粉体は、三酸化モリブデン(MoO)粒子を含み、前記三酸化モリブデン粒子の平均粒径(D50)が2000nm以下である、
ことを特徴とする酸化物固体電解質の製造方法。
【請求項5】
前記第2のステップの緻密化焼結温度が500℃以上800℃以下である、請求項4に記載の酸化物固体電解質の製造方法。
【請求項6】
前記第2のステップは、
前記混合粉体をペレット化し、ペレットを得る第2Aのサブステップと、
前記得られたペレットを焼結して緻密化する第2Bのサブステップと、を有する、請求項4に記載の酸化物固体電解質の製造方法。
【請求項7】
前記第2のステップにおいて、ホットプレス法を用いて、前記混合粉体をペレット化及び緻密化焼結を一括して行う、請求項4に記載の酸化物固体電解質の製造方法。
【請求項8】
前記ホットプレス法は、ホットプレス温度500~800℃で行う、請求項7に記載の酸化物固体電解質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガーネット型酸化物固体電解質及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、高いエネルギー密度を有しながら、高い電位で作動させられるため、携帯電話やノートパソコンなどの小型情報機器や電気自動車などに用いられている。安全性を考慮して、可燃性の電解液を使用しない全固体リチウムイオン二次電池の研究開発が行われている。全固体リチウムイオン二次電池に用いられる固体電解質には、高いリチウムイオン伝導率が要求される。高いリチウムイオン伝導率を有する酸化物として立方晶ガーネット型の結晶構造を有するLiLaZr12が開示されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
高いリチウムイオン伝導率の固体電解質を実現するためには、粒界抵抗や界面抵抗を低減させる必要がある。このため、ガーネット型の結晶構造を有するLiLaZr12に対して、Laサイトにアルカリ土類元素を、ZrサイトにNbを置換したガーネット型酸化物を合成し、結晶構造とリチウムイオン伝導率に関する研究が行われている(例えば、非特許文献1)。そのガーネット型酸化物の合成は、出発原料粉末を900℃程度で仮焼した後、粉砕した仮焼粉末をペレット形状に成形し、1200℃で本焼結することで多結晶体ペレットを作成したと、開示されている。また、ガーネット型の結晶構造を有するLiLaZr12に対して、ZrサイトをMo及びCrに置換にしたガーネット型酸化物Li6.4LaZr1.70.312(M=Mo及びCr)を固相反応法で合成し、結晶構造とリチウムイオン伝導率に関する研究が行われている(例えば、非特許文献2)。そのガーネット型酸化物の合成は、原料粉末を1000℃程度で焼成した後、粉砕した焼成粉末をペレット形状に成形し、1100℃で焼結することで多結晶体ペレットを作成したと、開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2016/017769号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】太田ら、Journal of Flux Growth Vol.11, No.1, 2016,pages 10-14。
【非特許文献2】Gao et al., Journal of the Korean Ceramic Society Vol.56,No.2、2019,pages 111-129。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
全固体リチウムイオン二次電池の高性能化を実現するために、高いリチウムイオン伝導率の固体電解質を開発する以外に、固体電解質-電極間の界面抵抗の低減も必要である。その固体電解質-電極間の界面抵抗を低減するために、電極、固体電解質、及び負極を合わせた状態で焼結するいわゆる一体型焼結を行うことが有効である。しかし、非特許文献1又は非特許文献2に記載のガーネット型酸化物を固体電解質として使用する場合、上記一体型焼結を、その焼結温度である1100℃以上で行う必要がある。しかしながら、例えば、電極材料としてLiCoO等を用いる場合、1100℃以上の温度で電極の性能が劣化するという問題があった。電極の性能を劣化させずに一体型焼結を行うには、800℃以下で、ガーネット型酸化物固体電解質を製造することができる構造設計および製造方法が必要がある。しかし、非特許文献1、2には、これを実現するガーネット型酸化物とその製造方法は開示されていない。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、ガーネット型酸化物の表面に一般式(1):LiMo(3x+1)で表される酸化物層を形成することより、緻密化焼結温度800℃以下でも、粒子界面連続性が高く、リチウムイオン伝導率に優れる酸化物固体電解質、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示の内容は、以下の実施態様[1]~[8]を含む。
[1] 酸化物固体電解質粒子を含む酸化物固体電解質であって、
前記酸化物固体電解質粒子が、第1の層と第2の層とを有し、
前記第1の層は、ガーネット型酸化物LiLaZr12及びガーネット型酸化物LiLaZr12のLiサイト、Laサイト及びZrサイトからなる群から選択される少なくも1つのサイトの一部をLi,La,Zr以外の元素で置換した置換ガーネット型酸化物からなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記第2の層が、下記一般式(1)で表される酸化物を含む、酸化物固体電解質。
LiMo(3x+1) (1)
(式(1)において、x=1、2、3である。)
[2] 前記式(1)におけるxが1である、[1]に記載の酸化物固体電解質。
[3] 前記第1の層の前記置換ガーネット型酸化物は、下記一般式(2)で表されるガーネット型酸化物である、[1]に記載の酸化物固体電解質。
Li(7-s) La(3-z) Zr(2-u-v) 12 (2)
(式(2)において、
は、Al、Ga、Fe、Siからなる群から選択される1種の元素であり、
は、Y、Ce、Ta、Ba、Sr、Caからなる群から選択される1種又は2種以上の元素であり、
、Mは、それぞれ独立にして、Mo、Ta,Nb、W、Sb、Te、Biからなる群から選択される1種の元素であり、
0≦y≦2.3、0≦z≦2、0≦u≦2、0≦v≦2であり、かつ、0<s<7であり、
s=m×y+(m-3)×z+(m-4)×u+(m-4)×v である。
ただし、m、m、m、mがそれぞれ、M、M、M、Mの価数である。)
[4] [1]~[3]のいずれか1項に記載の酸化物固体電解質の製造方法であって、
前記第1の層を構成する前記ガーネット型酸化物又は前記置換ガーネット型酸化物の焼成粉体に、前記第2の層を構成する原料粉体を加えて混合し、混合粉体を調製する第1のステップと、
前記混合粉体をペレット化し、前記ペレットを緻密化焼結温度800℃以下で焼結して緻密化する第2のステップと、を含み、
前記第2の層を構成する原料粉体は、三酸化モリブデン(MoO)粒子を含み、前記三酸化モリブデン粒子の平均粒径(D50)が2000nm以下である、
ことを特徴とする酸化物固体電解質の製造方法。
[5]前記第2のステップの緻密化焼結温度が500℃以上800℃以下である、[4]に記載の酸化物固体電解質の製造方法。
[6]前記第2のステップは、
前記混合粉体をペレット化し、ペレットを得る第2Aのサブステップと、
前記得られたペレットを焼結して緻密化する第2Bのサブステップと、を有する、[4]又は[5]に記載の酸化物固体電解質の製造方法。
[7]前記第2のステップにおいて、ホットプレス法を用いて、前記混合粉体をペレット化及び緻密化焼結を一括して行う、[4]又は[5]に記載の酸化物固体電解質の製造方法。
[8]前記ホットプレス法は、ホットプレス温度500~800℃で行う、[7]に記載の酸化物固体電解質の製造方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ガーネット型酸化物の表面に一般式(1):LiMo(3x+1)で表される酸化物層を形成することで、緻密化焼結温度800℃以下でも、粒子界面連続性が高く、リチウムイオン伝導率に優れる酸化物固体電解質、及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1、3、4の酸化物固体電解質の製造方法を示す図である。
図2】本開示の酸化物固体電解質及びその製造方法の効果を説明する図である。
図3】参考例1で得られた混合粉末のSEM写真である。
図4】参考例1で得られた混合粉末のEDX画像である。
図5】比較参考例1で得られた混合粉末のSEM写真である。
図6】比較参考例1で得られた混合粉末のEDX画像である。
図7】参考例2~7、比較参考例3で得られた混合粉末のXRDスペクトルである。
図8】参考例2~7、比較参考例3で得られた混合粉末のXPSスペクトルである。
図9】比較例1の酸化物固体電解質の製造方法を示す図である。
図10】従来の技術の酸化物固体電解質及びその製造方法の効果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態を用いて、さらに詳細に説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。
【0012】
「~」は「~」という記載の前の値以上、「~」という記載の後の値以下を意味する。
【0013】
(酸化物固体電解質)
本発明の一実施形態の酸化物固体電解質(本実施形態の酸化物固体電解質ということがある)は、酸化物固体電解質粒子を含む。前記酸化物固体電解質粒子が、第1の層と第2の層とを有し、前記第1の層は、ガーネット型酸化物LiLaZr12及びガーネット型酸化物LiLaZr12のLiサイト、Laサイト及びZrサイトからなる群から選択される少なくも1つのサイトの一部をLi,La,Zr以外の元素で置換した置換ガーネット型酸化物からなる群から選択される少なくとも1種を含み、
前記第2の層が、下記一般式(1)で表される酸化物を含む、酸化物固体電解質である。
【0014】
LiMo(3x+1) (1)
(式(1)において、x=1、2、3である。)
【0015】
本実施形態の酸化物固体電解質の粒子は、第1の層(コア、あるいは、コア層と呼ぶことがある)と、第1の層の表面に形成された第2の層(シェル、あるいは、シェル層と呼ぶことがある)とを含むことが好ましい。
【0016】
前記第2の層が、前記第1の層の表面の一部で形成されてもよく、前記第1の層の表面に表面積比で80%以上形成されても良く、前記第1の層の表面に表面積比で90%以上形成されても良く、前記第1の層の表面に表面積比で95%以上形成されても良い。前記第1の層の表面に表面積比で100%形成されることが好ましい。前記第2の層が、前記第1の層の表面において、実質的に全面に形成されることが好ましい。「実質的に全面」とは、本実施形態の酸化物固体電解質の特性に影響しない限り、前記第1の層の表面に表面積比で95%、98%以上、或いは99%以上、かつ100%以下の意味である。
【0017】
[一般式(1)で表される酸化物]
本実施形態の酸化物固体電解質の粒子において、前記第2の層が、下記式(1A)で表されるモリブデン酸リチウムを含むことが好ましい。すなわち、上記一般式(1)において、x=1であることが好ましい。
【0018】
LiMoO (1A)
【0019】
[置換ガーネット型酸化物]
本実施形態の酸化物固体電解質の粒子において、前記第1の層に構成する置換ガーネット型酸化物は、下記一般式(2)で表されるガーネット型酸化物であってもよい。
【0020】
Li(7-s) La(3-z) Zr(2-u―v) 12 (2)
【0021】
(式(2)において、
、がGa、Fe、Siからなる群から選択される1種の元素であり、
、がY、Ce、Ta、Ba、Sr、Caからなる群から選択される1種又は2種以上の元素であり、
、Mは、それぞれ独立にして、Mo、Ta,Nb、W、Sb、Te、Biからなる群から選択される1種の元素であり、
0≦y≦2.3、0≦z≦2、0≦u≦2、0≦v≦2であり、かつ、0<s<7であり、
s=m×y+(m-3)×z+(m-4)×u+(m-4)×v である。
ただし、m、m、m、mがそれぞれ、M、M、M、Mの価数である。)
【0022】
前記式(2)において、0≦y≦1であってもよく、0≦y≦0.5であってもよい。0≦z≦1であってもよく、0≦z≦0.5であってもよい。0≦u≦1.5であってもよく、0≦u≦1であってもよい。0≦v≦1.5であってもよく、0≦v≦1であってもよい。ただし、u+v≦2である。
前記式(2)において、0≦y≦1、z=0、0≦u≦1.5、0≦v≦1.5であってもよく、0≦y≦0.5、z=0、0≦u≦1.2、0≦v≦1.2であってもよく、0≦y≦0.5、z=0、0≦u≦1、0≦v≦1であってもよい。ただし、u+v≦2である。
前記式(2)において、y=0、z=0、0≦u≦1.5、0≦v≦1.5であってもよく、y=0、z=0、0≦u≦1.2、0≦v≦1.2であってもよく、y=0、z=0、0≦u≦1、0≦v≦1であってもよい。ただし、u+v≦2である。
前記式(2)において、y=0、z=0、0≦u≦1.5、v=0であってもよく、y=0、z=0、0≦u≦1.2、v=0であってもよく、y=0、z=0、0≦u≦1、v=0であってもよい。
【0023】
前記式(2)において、0<s<7であってもよく、0<s≦3であってもよく、0<s≦2であってもよい。
【0024】
本実施形態の酸化物固体電解質の粒子において、前記第1の層に構成する置換ガーネット型酸化物は、前記一般式(2)で表されるガーネット型酸化物であって、前記式(2)において、MがTaであるガーネット型酸化物であることが好ましい。
【0025】
その場合、式(2)において、M、M、は上記と同じ意味であり;Mは、独立にして、Mo、Nb、W、Sb、Te、Biからなる群から選択される1種の元素であり;y、z、u、v、sが、上記と同じ意味である。
【0026】
前記式(2)において、0≦y≦1であってもよく、0≦y≦0.5であってもよい。0≦z≦1であってもよく、0≦z≦0.5あってもよい。0≦u≦1.5であってもよく、0≦u≦1あってもよい。0<v≦1.5であってもよく、0<v≦1あってもよい。ただし、u+v≦2である。
前記式(2)において、0≦y≦1、z=0、0≦u≦1.5、0≦v≦1.5であってもよく、0≦y≦0.5、z=0、0≦u≦1.2、0≦v≦1.2であってもよく、0≦y≦0.5、z=0、0≦u≦1、0<v≦1であってもよい。ただし、u+v≦2である。
前記式(2)において、y=0、z=0、0≦u≦1.5、0<v≦1.5であってもよく、y=0、z=0、0≦u≦1.2、0<v≦1.2であってもよく、y=0、z=0、0≦u≦1、0<v≦1であってもよい。ただし、u+v≦2である。
前記式(2)において、y=0、z=0、u=0、0<v≦1.5であってもよく、y=0、z=0、u=0、0<v≦1.2であってもよく、y=0、z=0、u=0、0<v≦1であってもよい。
【0027】
また、その場合、
前記式(2)において、0<s<7であってもよく、0<s≦3であってもよく、0<s≦2であってもよい。
【0028】
本実施形態の酸化物固体電解質の粒子において、前記第1の層を構成する置換ガーネット型酸化物の具体例としては、例えば、上記非特許文献2の表3と表4に記載した置換ガーネット型酸化物が挙げられる。また、後述の製造例2で得られた化学式Li6.40LaZr1.40Ta0.6012(上記式(2)において、MがTaであり、y=0、z=0、u=0、v=0.60、s=0.60)で表される置換ガーネット型酸化物であってもよい。
【0029】
本実施形態の酸化物固体電解質の粒子において、前記第1の層を構成する置換ガーネット型酸化物は、前記ガーネット型酸化物と前記置換ガーネット型酸化物の混合物であっても構わない。この時の混合比率に制限はなく、例えば、ガーネット型酸化物:置換ガーネット型酸化物が99:1、50:50、1:99のいずれの重量比であっても構わない。
【0030】
本実施形態に係る上記置換ガーネット型酸化物は、立方晶であることが好ましい。結晶構造の評価方法については、後述の粉末X線回折(XRD)法で確認することができる。
【0031】
(酸化物固体電解質の製造方法)
本発明の一実施形態の、酸化物固体電解質の製造方法(「本実施形態の製造方法」ということがある。)は、上記本実施形態の酸化物固体電解質を製造する方法である。本実施形態の製造方法は、以下の第1のステップ~第2のステップを含む。
第1のステップ:上記本実施形態の酸化物固体電解質に係る前記第1の層を構成する前記ガーネット型酸化物又は前記置換ガーネット型酸化物の焼成粉体(以後、「前記ガーネット型酸化物又は前記置換ガーネット型酸化物」を単に「ガーネット型酸化物」ということがある。)に、前記第2の層を構成する原料粉体(以後、単に「第2の層の原料粉体」と言うことがある。)を加えて混合し、混合粉体を調製する。
第2のステップ:前記混合粉体をペレット化し、前記ペレットを緻密化焼結温度800℃以下で焼結して緻密化する。
必要に応じて、本実施形態の製造方法は、前記第1のステップの前に、前記第1の層を構成する前記置換ガーネット型酸化物の焼成粉体を製造するステップを含んでもよい。
【0032】
[第1のステップ]
前記置換ガーネット型酸化物の焼成粉体は、後述の<置換ガーネット型酸化物の製造方法>で製造することができる。
前記第2の層の原料粉体は、三酸化モリブデン粉体であり、三酸化モリブデン(MoO)粒子を含む。前記第2の層の原料粉体は、ナノ三酸化モリブデン(ナノMoO)粒子であることが好ましい。前記ナノMoO粒子の平均粒径(D50)が500nm以下であってもよく、300nm以下であってもよく、200nm以下であってもよく。100nm以下であってもよい。前記ナノMoO粒子の平均粒径(D50)が10nm以上であってもよく、20nm以上であってもよい。
【0033】
前記第2の層の原料粉体の添加量は、前記第1の層を構成する前記ガーネット型酸化物及び前記置換ガーネット型酸化物の焼成粉体の合計質量100%に対して、1質量%以上であってもよく、5質量%以上であってもよく、10質量%以上であることが好ましく、50質量%以下であってもよく、30質量%以下であってもよく、20質量%以下であることが好ましい。
【0034】
[三酸化モリブデン(MoO)粉体」
本実施形態の製造方法に用いる三酸化モリブデン粉体は、三酸化モリブデンの結晶構造を含む一次粒子の集合体を含有し、動的光散乱法により求められる前記一次粒子のメディアン径D50が2000nm以下であることが好ましい。1000nm以下であってもよく、800nm以下であってもよい。10nm以上であってもよい。
本実施形態の三酸化モリブデン粉体は、動的光散乱法により求められる前記一次粒子のメディアン径D50は、10nm以上2000nm以下が好ましく、より好ましくは10nm以上500nm以下であり、更に好ましくは10nm以上200nm以下である。20nm以上200nm以下であってもよく、50nm以上200nm以下であってもよく、50nm以上150nm以下であってもよい。後述実施例では、前記一次粒子のメディアン径D50は、100nmであるナノ三酸化モリブデン粉体を用いた。
一次粒子のメディアン径D50が上記の好ましい範囲内であると、三酸化モリブデン粉体から本実施形態の製造方法にかかる前記第2の層を形成しやすくなる。三酸化モリブデン粉体の一次粒子のメディアン径D50は、例えば動的光散乱式粒子径分布測定装置を用いて測定された体積基準の累積粒度分布から算出される。実施例で詳細に説明する。
【0035】
<三酸化モリブデン粉体の製造方法>
本実施形態の製造方法に用いる三酸化モリブデン粉体の製造方法は、酸化モリブデン前駆体化合物を気化させて、三酸化モリブデン蒸気を形成し、前記三酸化モリブデン蒸気を冷却することを含む。例えば、下記の特許文献A又は特許文献Bに開示の製造方法が挙げられる。
[特許文献A]国際公開第2021/060375号
[特許文献B]国際公開第2022/202757号
【0036】
本実施形態にかかる三酸化モリブデン粉体の製造方法は、酸化モリブデン前駆体化合物、及び、前記酸化モリブデン前駆体化合物以外の金属化合物を含む原料混合物を焼成し、前記酸化モリブデン前駆体化合物を気化させて、三酸化モリブデン蒸気を形成することを含み、前記原料混合物100質量%に対する、前記金属化合物の割合が、酸化物換算で70質量%以下であることが好ましい。
【0037】
<置換ガーネット型酸化物の製造方法>
本実施形態の酸化物固体電解質の製造方法において、前記第1の層を構成する置換ガーネット型酸化物は、公知の方法で製造することができる。本実施形態にかかる置換ガーネット型酸化物の製造方法は、例えば、以下の第1Aのサブステップ~第1Bのサブステップを含んでもよい。
第1Aのサブステップ:前記置換ガーネット型酸化物の組成式を満たす組成比(モル比)となるように原料粉体を調製する。
第1Bのサブステップ:調製した原料粉体を固相反応法により、焼成温度600℃以上1200℃以下で焼成し、焼成粉体を合成する。
【0038】
<<第1Aのサブステップ>>
前記置換ガーネット型酸化物が、下記一般式(2)で表されるガーネット型酸化物である場合を例として、第1Aのサブステップを説明する。
Li(7-s) La(3-z) Zr(2-u-v) 12 (2)
(式(2)において、
は、Al、Ga、Fe、Siからなる群から選択される1種の元素であり、
は、Y、Ce、Ta、Ba、Sr、Caからなる群から選択される1種又は2種以上の元素であり、
、Mは、それぞれ独立にして、Mo、Ta,Nb、W、Sb、Te、Biからなる群から選択される1種の元素であり、
0≦y≦2.3、0≦z≦2、0≦u≦2、0≦v≦2であり、かつ、0<s<7であり、 s=m×y+(m-3)×z+(m-4)×u+(m-4)×v である。
ただし、m、m、m、mがそれぞれ、M、M、M、Mの価数である。)
【0039】
前記一般式(2)で表される置換ガーネット型酸化物を製造するために、前記一般式(2)を満たす組成比(モル比)になるように原料粉体を調製し、混合する。
また、ガーネット型酸化物の製造時に前記一般式(2)よりもLi組成が低減することを抑制するため、例えば、第1Bのサブステップで揮発しやすいLiNOなどのLi原料は、前記一般式(2)を満たす組成比よりも10%過量としてもよい。
【0040】
リチウムの原料としては、例えば、水酸化リチウムなどの水酸化物、硝酸リチウムなどの硝酸塩、炭酸リチウム、などが挙げられる。水酸化リチウムとしては、例えば、水酸化リチウム一水化物を脱水処理して得られる。脱水処理の条件としては、例えば、100~250℃で3~10時間でもよく、180~220℃で5~10時間でもよい。
ランタンの原料としては、例えば、酸化ランタンなどの酸化物、硝酸ランタン、などが挙げられる。
ジルコニウムの原料としては、例えば、酸化ジルコニウムなどの酸化物などが挙げられる。
【0041】
、M、M、Mの原料としては、例えば、M、M、M、Mの酸化物、複合酸化物などが挙げられる。例えば、M、M、M、Mは、モリブデン、タンタル、ガリウムの何れかである場合、以下のようにそれぞれの酸化物などが挙げられる。
モリブデンの原料としては、例えば、酸化モリブデンなどの酸化物、モリブデン酸アンモニウム四水和物、などが挙げられる。
タンタルの原料としては、例えば、酸化タンタルなどの酸化物などが挙げられる。
ガリウムの原料としては、例えば、酸化ガリウムなどの酸化物、硝酸ガリウム、などが挙げられる。
例えば、Mは、Feである場合、Feの原料としては、例えば、酸化鉄が挙げられる。Mは、Caある場合、Caの原料としては、例えば、酸化カルシウムなどの酸化物が挙げられる。他の元素においても同様に酸化物が挙げられる。
【0042】
上記一般式(2)に構成する各成分の上記原料は、粉体であることが好ましい。粉体の平均粒子径は200μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましい。1μm以上でってもよい。
なお、粉体の平均粒子径は、公知の方法で測定することができ、例えば、SEM観察による測長、湿式粒度分布測定、乾式粒度分布測定、が挙げられる。
【0043】
[第2のステップ]
本実施形態の酸化物固体電解質の製造方法の第2のステップは、以下の第2のステップの第1実施態様、あるいは、第2のステップの第2実施態様であることが好ましい。
<第2のステップの第1実施態様>
第2のステップの第1実施態様は、以下の第2Aのサブステップと、第2Bのサブステップと、を有することが好ましい。
第2Aのサブステップにおいて、前記混合粉体をペレット化し、ペレットを得る。ペレット化する方法は、特に限定されなく、公知の方法を使用することができる。ペレット化方法としては、例えば、前記混合粉体を10MPa以上の静水圧プレスで、ペレット化する方法などが挙げられる。上記圧力が15MPa以上であってもよく、20MPa以上であってもよい。また、100MPa以下であってもよい。ペレット化の具体例として、後述の実施例1の記載したように、20MPaで静水圧プレスする方法などが挙げられる。ペレット化する際の温度は、特に限定されず、800℃以下であることが好ましく、未加熱(例えば25℃)であっても構わない。
【0044】
第2Bのサブステップにおいて、前記第2Aのサブステップで得られたペレットを緻密化温度800℃以下で焼結して緻密化する。上記緻密化温度が500~800℃であることが好ましい。緻密化温度は600~800℃であることがより好ましい。緻密化温度は700~800℃であることが更に好ましい。例えば、後述の実施例1では、緻密化温度が800℃であった。緻密化する際の焼結時間は、特に限定されず、6時間以上であることが好ましく、12時間以上であることがより好ましい。20時間以下であってもよい。例えば、後述の実施例では、12時間であった。
上記ペレットを緻密化するために焼結する前に、該ペレットの周囲を上記ステップ2で得られた焼成粉体で覆い、上記緻密化温度で緻密化してもよい。
【0045】
上記緻密化の雰囲気としては、例えば、空気であることが好ましい。
【0046】
緻密化の開始及び終了する間の加熱、冷却速度は、特に限定されない。例えば、加熱速度が10℃/minであることが好ましく、8℃/minであることがより好ましく、5℃/minであることが更に好ましい。冷却速度は、5℃/minであることが好ましく、3℃/minであることがより好ましく、1℃/minであることが更に好ましい。
【0047】
上記緻密化するための焼結に使用する装置としては、特に限定されなく、公知の方法を使用することができる。例えば、マッフル炉、電気炉などを使用することができる。
なお、第2のステップにおける焼結には様々な呼び方があり、例えば非特許文献1では本焼結と記載されている。また、本発明においては、緻密化、緻密化焼結、あるいは単に焼結と記載することがある。
【0048】
第1の層を構成するガーネット型酸化物粒子は、その最表面に炭酸リチウム(LiCO)が自然形成される。第2のステップ(第2Bのサブステップ)において、炭酸リチウムと三酸化モリブデンが反応することにより、x=1、即ちLiMoOからなる第2の層を形成することができる。
【0049】
<第2のステップの第2実施態様>
第2のステップの第2実施態様は、ホットプレス法を用いて、前記混合粉体をペレット化及び焼結を一括して行うことが好ましい。
ホットプレス法としては、公知の方法を用いることができる。例えば、以下の特許文献Cに記載の方法が挙げられる。
【0050】
[特許文献C]特開2017-216222号公報
【0051】
ホットプレス法は、焼結とプレスを同時に行う方法であり、特に対象物質の融点以上での温度における加圧(プレス)で、焼結密度が大きく向上する(すなわち、緻密化が進行する)効果がある。ホットプレス温度が800℃以下である。ホットプレス温度は500~800℃であることが好ましい。ホットプレス温度は600~800℃であることがより好ましい。ホットプレス温度は700~800℃であることが更に好ましい。例えば、後述の実施例2では、ホットプレス温度が800℃であった。
第2実施態様においては、第1の層を構成するガーネット型酸化物粒子ならびにその最表面に自然形成される炭酸リチウムの融点以上の温度で加圧(プレス)することは必ずしも必要なく、第2の層を構成する原料粉体の融点以上の温度で加圧(プレス)すれば焼結密度が大きく向上する効果がある。従って、後述の実施例2では、第2の層を構成する原料粉体に用いる三酸化モリブデンは融点が795℃であることを考慮して、ホットプレス温度を800℃としている。
ホットプレスの圧力が10MPa以上であってもよく、上記圧力が15MPa以上であってもよく、20MPa以上であってもよい。また、100MPa以下であってもよい。具体例として、後述の実施例2に記載したように、ホットプレスの圧力が20MPaであった。
【0052】
上記ホットプレス時の雰囲気としては、例えば、窒素、アルゴン、空気であることが好ましい。
【0053】
ホットプレス開始及び終了する間の加熱、冷却速度は、特に限定されない。例えば、加熱速度が10℃/minであることが好ましく、8℃/minであることがより好ましく、5℃/minであることが更に好ましい。冷却速度は、5℃/minであることが好ましく、3℃/minであることがより好ましく、1℃/minであることが更に好ましい。
【0054】
[酸化物固体電解質の製造方法のその他の実施形態]
上記本実施形態の酸化物固体電解質の粒子に含まれている前記第2の層が、下記一般式(1)で表される酸化物を含む場合、本実施形態の酸化物固体電解質の製造方法としては、以下のような方法が挙げられる。
LiMo(3x+1) (1)
(式(1)において、x=2、3である。)
【0055】
第2の層をx=2、即ちLiMoとする場合は、前記第1のステップにおいて、前記第2の層を形成する原料粉体を三酸化モリブデン粉体とモリブデン酸リチウム粉体(LiMoO)をモル比で1:1で混合したものにすることが好ましい。第2の層をx=3、即ちLiMo10とする場合は、前記第1のステップにおいて、前記第2の層を形成する原料粉体を三酸化モリブデン粉体とモリブデン酸リチウム粉体(LiMoO)をモル比で2:1で混合したものにすることが好ましい。LiMoOの平均粒子径は特に限定されない。LiMoOの融点は700℃程度であることから、第2のステップ(第2実施態様を含む)の緻密化温度(第2実施態様ではホットプレス温度)を700~800℃とすることにより、LiMoOは溶融し、第1の層を構成するガーネット型酸化物粒子表面に流動する。その結果、ガーネット型酸化物粒子表面で三酸化モリブデン粉体とモリブデン酸リチウムが反応し、LiMoあるいはLiMo10からなる第2の層を形成することができる。
【実施例0056】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0057】
(原料)
水酸化リチウム一水化物:関東化学株式会社、LiOH・H
酸化ランタン:関東化学株式会社、La
酸化ジルコニウム:関東化学株式会社、ZrO
酸化タンタル:関東化学株式会社、Ta
三酸化モリブデン:日本無機化学工業、MoO
水酸化アルミニウム:日本軽金属株式会社製、Al(OH)
【0058】
(製造例1)
「水酸化リチウム原料の調製」
上記水酸化リチウム一水化物を200℃で6時間脱水処理して、水酸化リチウム原料を調製した。
【0059】
(製造例2)
「ガーネット型酸化物の焼成粉末の製造」
表1に示す組成を設計し、設計した組成に応じて、表1に示す各原料(製造例1で得られた水酸化リチウム、酸化ランタン、酸化ジルコニウム、酸化タンタル)を、表1に示す配合量に従って配合し、混合することで、原料粉体を調製した。
上記製造した原料粉体を固相反応法により、粉体焼成温度1200℃で12時間焼成し、焼成粉体を得た。
なお、表1に示す組成式の各原子の組成比は、表1に示す各原料の配合量(質量)から計算した原子比(モル比)である。ただし、リチウム原子比は、LiOH配合量の10/11を用いて計算した値である(LiOHの配合量は、組成式に示す原子比で計算した量の110%である)。
【0060】
【表1】
【0061】
(製造例3)
「ナノ三酸化モリブデン(以後、ナノMoO)粉体の製造」
焼成炉としてRHKシミュレーター(株式会社ノリタケカンパニーリミテド製)を、集塵機としてはVF-5N集塵機(アマノ株式会社製)を用いて三酸化モリブデンの製造を行った。
水酸化アルミニウム(日本軽金属株式会社製)1.5kgと、三酸化モリブデン(日本無機株式会社製)1kgと、を混合し、次いでサヤに仕込み、温度1100℃で10時間焼成した。焼成中、焼成炉の側面および下面から外気(送風速度:150L/min、外気温度:25℃)を導入した。三酸化モリブデンは炉内で蒸発後、集塵機付近で冷却され粒子として析出するため、集塵機により0.8kgの三酸化モリブデンを回収した。本製造例のナノ三酸化モリブデン(ナノMoO)を得た。
【0062】
本製造例で得られたナノMoOは、後述の評価方法を用いて、一次粒子のメディアン径D50が100nmであり、TEMにより観察された粒子形状はリボンまたは粒子状であった。
【0063】
[ナノMoO粉体の一次粒子のメディアン径D50の測定方法]
エタノール10ccに三酸化モリブデン粉末0.1gを添加し、氷浴中で4時間超音波処理を施した後、さらにエタノールを加えて動的光散乱式粒子径分布測定装置(MicrotracBEL製Nanotrac WaveII)の測定可能範囲の濃度に適宜調整し、測定サンプルを得た。この測定サンプルを用い、動的光散乱式粒子径分布測定装置(MicrotracBEL製Nanotrac WaveII)により、粒径0.0001~10μmの範囲の粒子径分布を測定し、メディアン径D50を算出した。
【0064】
(XRD測定方法)
上記第2のステップで得られた焼成粉体に対して、XRDで測定する。
試料を0.5mm深さの測定試料用ホルダーに充填し、それを広角X線回折(XRD)装置(リガク社製 UltimaIV、光学系は入射側は平行ビーム法+シンチレーションカウンター検出器、回転ステージを使用)にセットし、Cu/Kα線、40kV/40mA、スキャンスピード0.3°/min、ステップ0.02°、走査範囲10°以上70°以下の条件で測定を行った。
【0065】
(XPS分析方法)
X線光電子分光(XPS)装置(アルバックファイ社、Quantera SXM)を用い、試料をカーボンテープ上に固定し、以下の条件で組成分析を行った。
X線源:モノクロAlKα線、出力25W、イオン銃加速電圧10V
測定範囲:500μm四方
帯電補正:C1s=284.8eV
【0066】
(リチウムイオン伝導率の測定方法)
得られたペレットの上下両面に金をスパッタリングし、ペレット表面の金と集電体と接触させ、測定セルに入れた。この測定セルをインピーダンス測定装置に接続し、インピーダンス法でペレットの抵抗値を測定した。
そして、下記式から伝導率σを算出する。
導電率σ=L/(R×S)
(式中、L:電圧端子間距離、S:断面積、R:抵抗)
【0067】
測定装置:日置電機製LCRメータIM3536
測定条件:周波数4Hz-8MHz、印加電圧1V、交流インピーダンス測定
【0068】
(粒子界面連続性の評価方法)
走査電子顕微鏡(SEM、装置:JEOL製)を用いて、ペレット表面を観察し、2000倍に拡大した時の粒子界面連続性を評価した。
判断基準
〇:粒子界面連続性が十分に高く、粒子界面が観察されない。
×:粒子界面の連続性が低く、粒子界面が明確に観察される。
【0069】
(実施例1、3、4、比較例1)
図1は、実施例1、3、4の製造方法を示す図であり、図9は比較例1の製造方法を示す図である。
<第1のステップ>
製造例2で得られたガーネット型酸化物粉体(焼成粉体)に対して、第2の層を構成する原料粉体として製造例3で得られたナノMoOを表2に示す添加量で加えて混合し、混合粉体を調製した。
【0070】
<第2のステップ>
上記得られた混合粉体をペレット化圧力20MPaで静水圧プレスしてペレットにした。ペレットの周囲を上記製造例2で得られた混合後の原料粉体で覆い、表2に示す緻密化温度で12時間焼結した。本実施形態の酸化物固体電解質を得た。
【0071】
上記のリチウムイオン伝導率の測定方法を用いて、緻密化処理後のペレットの伝導度を測定した。その結果は、表2に示す。
上記粒子界面連続性の評価方法を用いて、緻密化処理後のペレットの粒子界面連続性を評価した。その結果は、表1に示す。
【0072】
(実施例2)
第2のステップは、ホットプレス法(装置:三庄インダストリー社製)を用いて、上記得られた混合粉体をペレット化及び焼結を一括して行った以外は、実施例1と同様な方法で、本実施形態の酸化物固体電解質を得た。実施例1と同様な方法で、評価し、その結果を表2に示す。
ホットプレス装置:SHP-50H
ホットプレス圧力:20MPa
ホットプレス温度:1000℃
ホットプレス時間:5時間
【0073】
【表2】
【0074】
表2に関する説明は以下に示す。
*1:実施例2ではホットプレス法を用いた。
*2:ナノMoO混合後の混合粉体における質量比である。
*3:ホットプレス温度である。
【0075】
(参考例1)
実施例1の第1のステップと同様な方法で、混合粉体を得た。得られた混合粉体をSEM-EDXで観察した。その結果を図3と4に示す。
図3図4の結果から、粒子全体からMoが検出されたことより、粒子表面全体にナノMoOが付着されていると判断した。
【0076】
(比較参考例1)
参考例1のナノ三酸化モリブデン(ナノMoO)粉体の代わりとして、市販の三酸化モリブデンを用いたこと以外は、参考例1と同様な方法で混合粉体を得た。市販の三酸化モリブデンの一次粒子のメディアン径D50は、3000nmである。参考例1と同様な方法で、SEM-EDXで観察した。その結果を図5図6に示す。
図5図6の結果から、Moが局所的にしか検出されなかった。
【0077】
(比較参考例2)
参考例1のナノ三酸化モリブデン(ナノMoO)粉体を混合せず、製造例3で得られた、ガーネット型酸化物の焼成粉末を用いて、参考例1と同様な方法でSEM-EDXで観察した。Moが検出されなかった。
【0078】
(参考例2)
実施例1の第1のステップにおいて、ナノMoOを1wt%加え、第2のステップにおいて、第1のステップで得られた混合粉体をペレット化せず、700℃で12時間焼成した以外は、実施例1と同様の方法で、焼成混合粉体を得た。得られた焼成混合粉体を上記XRDおよびXPSで分析した。その結果を図7と8に示す。
【0079】
(参考例3~7)
参考例2のナノMoOの添加量1wt%の代わりに、それぞれ、2wt%、5wt%、10wt%、20wt%、50wt%を用いた以外は、参考例2と同様な方法で、参考例3~7の焼成混合粉体を得た。参考例2と同様な方法で、得られた焼成混合粉体を上記XRDおよびXPSで分析した。その結果を図7と8に示す。なお、XPS分析においては、事前にリファレンスとしてモリブデン酸リチウム(LiMoO)試薬(富士フイルム和光純薬株式会社製)を測定し、LiMoO起因のピークが285eV付近に現れることを確認している(図示せず)。
【0080】
(比較参考例3)
参考例2のナノMoOの添加量1wt%の代わりに、ナノMoOを添加しなかった以外は、参考例2と同様な方法で、比較参考例2の焼成混合粉体を得た。参考例2と同様な方法で、得られた焼成混合粉体を上記XRDおよびXPSで分析した。その結果を図7と8に示す。
【0081】
図7の結果から、ナノMoO添加によりLiMoOのピークを観測した。ピーク強度はナノMoO添加量に相関して向上することが分かった。また、添加量20wt%ならびに50wt%ではガーネット型酸化物由来のピークが低下することが確認できた。参考例2~7のXRD分析結果より、ナノMoO添加量上限は20wt%であり、好ましくは15wt%であると考えられる。
図8の結果から、ナノMoO添加によりリファレンスとしたモリブデン酸リチウム(LiMoO)試薬と同じ285eV付近のピークを観測した。ピーク強度はナノMoO添加量に相関して向上することが分かった。ナノMoO未添加における285eV付近のピークは、不純物由来のC-C結合ピークと考えられる。ナノMoO添加量増加にともない強度が向上する285eV付近のピークはLiMoO起因と考えられる。参考例2~7のXPS分析結果より、ガーネット型酸化物粉体の粒子表面がLiMoOに改質された(すなわち、ガーネット型酸化物からなる第1の層の表面に、LiMoOからなる第2の層が形成された)と考えられる。
【0082】
(考察)
表1のリチウムイオン伝導率の評価結果から、実施例1~4で得られた本実施形態のガーネット型酸化物固体電解質は、比較例1より優れたリチウムイオン伝導率を有することが分かった。
【0083】
図7図8に示す参考例2~7の結果から、本願の実施例1~4で得られた固体電解質は、LiMoO層を有するガーネット型酸化物粒子で構成されていることが示唆される。
図1図2から、ナノMoOが、ガーネット型酸化物粒子表面のLiCOと反応して表面改質層(LiMo3x+1)を形成するとともに、成型バインダとして働くことで、界面抵抗低減と焼結密度向上が期待できる。その結果、優れたリチウムイオン伝導率を得ることができる。
【産業上の利用可能性】
【0084】
本実施形態の酸化物固体電解質は、粒子界面連続性が高く、リチウムイオン伝導率に優れるため、全固体リチウムイオン二次電池に用いられる固体電解質などに使用することが期待される。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10