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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172328
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】ガーネット型酸化物固体電解質
(51)【国際特許分類】
   C01G 39/00 20060101AFI20241205BHJP
   H01B 1/06 20060101ALI20241205BHJP
   H01B 1/08 20060101ALI20241205BHJP
   H01M 10/0562 20100101ALI20241205BHJP
【FI】
C01G39/00 Z
H01B1/06 A
H01B1/08
H01M10/0562
【審査請求】未請求
【請求項の数】5
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089976
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【弁理士】
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100215935
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 茂輝
(74)【代理人】
【識別番号】100189337
【弁理士】
【氏名又は名称】宮本 龍
(74)【代理人】
【識別番号】100188673
【弁理士】
【氏名又は名称】成田 友紀
(72)【発明者】
【氏名】原 国豪
(72)【発明者】
【氏名】手塚 稔季
(72)【発明者】
【氏名】清水 正義
(72)【発明者】
【氏名】大道 浩児
(72)【発明者】
【氏名】袁 建軍
【テーマコード(参考)】
4G048
5G301
5H029
【Fターム(参考)】
4G048AA03
4G048AA04
4G048AB01
4G048AC06
4G048AD03
4G048AE05
5G301CA02
5G301CA16
5G301CA28
5H029AJ02
5H029AK03
5H029AM12
5H029HJ02
(57)【要約】
【課題】本発明によれば、ガーネット型酸化物LiLaZr12に対して、GaとMoとTaの3元素を何れも添加することで、リチウムイオン伝導率と充放電特性に優れる固体電解質を提供する。
【解決手段】ガーネット型酸化物固体電解質は、一般式LiLaZr12で表されるガーネット型酸化物に対して、GaとMoとTaの3元素を何れも添加するガーネット型酸化物を含む。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
一般式LiLaZr12で表されるガーネット型酸化物に対して、GaとMoとTaの3元素を何れも添加するガーネット型酸化物を含む、酸化物固体電解質。
【請求項2】
一般式LiLaZr12で表されるガーネット型酸化物のLiサイトの一部をGaで置換し、さらにZrサイトの一部をMoとTaで置換した下記一般式(1)で表されるガーネット型酸化物を含む、請求項1に記載の酸化物固体電解質。
Li(7-3x-2y-z)GaLaZr(2-y-z)MoTa12 (1)
(式(1)において、0<x<2.33、0<y<2、0<z<2、かつ、3x+2y+z<7、y+z<2である。)
【請求項3】
前記一般式(1)において、xが0<x≦0.15を満たす、請求項2に記載の酸化物固体電解質。
【請求項4】
前記一般式(1)において、yが0<y≦0.10を満たす、請求項2又は3に記載の酸化物固体電解質。
【請求項5】
前記一般式(1)において、yが0<y≦0.10を満たし、かつ、0<y+z≦0.6を満たす、請求項2又は3に記載の酸化物固体電解質。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガーネット型酸化物固体電解質に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、高いエネルギー密度を有しながら、高い電位で作動させられるため、携帯電話やノートパソコンなどの小型情報機器や電気自動車などに用いられている。安全性を考慮して、可燃性の電解液を使用しない全固体リチウムイオン二次電池の研究開発が行われている。全固体リチウムイオン二次電池に用いられる固体電解質には、高いリチウムイオン伝導率が要求される。高いリチウムイオン伝導率を有する酸化物として立方晶ガーネット型の結晶構造を有するLiLaZr12が開示されている(例えば、特許文献1)。
【0003】
より高いリチウムイオン伝導率を実現するため、ガーネット型の結晶構造を有するLiLaZr12に対して、Laサイトにアルカリ土類元素を、ZrサイトにNbを置換(添加)したガーネット型酸化物を合成する研究が行われている(例えば、非特許文献1)。また、ガーネット型の結晶構造を有するLiLaZr12に対して、ZrサイトをMo及びCrに置換(添加)したガーネット型酸化物Li6.4LaZr1.70.312(M=Mo及びCr)を固相反応法で合成する研究が行われている(例えば、非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】国際公開第2016/017769号
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】太田ら、Journal of Flux Growth Vol.11, No.1, 2016,pages 10-14。
【非特許文献2】Gao et. al., Solid State Ionics Vol.291,2016,pages 1-7。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
非特許文献1、2では、上記のとおり、リチウムイオン伝導率を向上させることを目的としてガーネット型酸化物LiLaZr12に対する元素置換(添加)が開示されている。
【0007】
全固体リチウムイオン二次電池を実現するためには、固体電解質のリチウムイオン伝導率向上に加え、固体電解質を用いた全固体リチウムイオン二次電池セルの充放電特性の改善が非常に重要となる。充放電特性の優劣を判断する指標としては、例えば、短時間で高速に充放電した場合(高Cレートで充放電した場合)の、充電容量に対する放電容量の低下量を挙げることができる。この評価指標では、高Cレートで充放電した時に、充電容量に対する放電容量の低下量が小さいほど、充放電特性に優れるということができる。しかしながら、非特許文献1、2では充放電特性に関する評価・検討がなされていない。このことより、ガーネット型酸化物LiLaZr12に対する既知の元素置換(添加)では充放電特性の観点で更なる改善の余地があると考えられる。
【0008】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、ガーネット型酸化物LiLaZr12に対して、GaとMoとTaの3元素を何れも添加することで、リチウムイオン伝導率と充放電特性に優れる固体電解質を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示の内容は、以下の実施態様[1]~[5]を含む。
[1] 一般式LiLaZr12で表されるガーネット型酸化物に対して、GaとMoとTaの3元素を何れも添加するガーネット型酸化物を含む、酸化物固体電解質。
[2] 一般式LiLaZr12で表されるガーネット型酸化物のLiサイトの一部をGaで置換し、さらにZrサイトの一部をMoとTaで置換した下記一般式(1)で表されるガーネット型酸化物を含む、[1]に記載の酸化物固体電解質。
Li(7-3x-2y-z)GaLaZr(2-y-z)MoTa12 (1)
(式(1)において、0<x<2.33、0<y<2、0<z<2、かつ、3x+2y+z<7、y+z<2である。)
[3] 前記一般式(1)において、xが0<x≦0.15を満たす、[2]に記載の酸化物固体電解質。
[4] 前記一般式(1)において、yが0<y≦0.10を満たす、[2]または[3]に記載の酸化物固体電解質。
[5] 前記一般式(1)において、yが0<y≦0.10を満たし、かつ、0<y+z≦0.6を満たす、[2]~[4]の何れかに記載の酸化物固体電解質。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、ガーネット型酸化物LiLaZr12に対して、GaとMoとTaの3元素を何れも添加することで、リチウムイオン伝導率と充放電特性に優れる固体電解質を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態の製造方法の一例を示す図である。
図2】実施例1の第2ステップで得られた粉体のXRDスペクトルである。
図3】実施例1、2及び比較例1で得られたガーネット型酸化物固体電解質のリチウムイオン伝導率におけるMo添加量依存性を示す図である。
図4】実施例1、3、4及び比較例2で得られたガーネット型酸化物固体電解質のリチウムイオン伝導率におけるGa添加量依存性を示す図である。
図5】実施例1及び比較例1、2で得られたガーネット型酸化物固体電解質を用いて作製した評価用電池セルの充放電特性の測定結果である。縦軸の放電容量は、0.02Cにおける第1サイクル目(サイクルNO.1)の充電容量との比である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、実施形態を用いて、さらに詳細に説明する。なお、本発明は以下に示す実施形態のみに限定されるものではない。
【0013】
「~」は「~」という記載の前の値以上、「~」という記載の後の値以下を意味する。
【0014】
(酸化物固体電解質)
本発明の一実施形態の酸化物固体電解質(本実施形態の酸化物固体電解質ということがある)は、一般式LiLaZr12で表されるガーネット型酸化物に対して、GaとMoとTaの3元素を何れも添加するガーネット型酸化物を含む。
【0015】
本実施形態の酸化物固体電解質は、一般式LiLaZr12で表されるガーネット型酸化物のLiサイトの一部をGaで置換し、さらにZrサイトの一部をMoとTaで置換した下記一般式(1)で表されるガーネット型酸化物を含むことが好ましい。
【0016】
Li(7-3x-2y-z)GaLaZr(2-y-z)MoTa12 (1)
(式(1)において、0<x<2.33、0<y<2、0<z<2、かつ、3x+2y+z<7、y+z<2である。)
【0017】
上記一般式(1)において、0<x≦0.15であることが好ましく、0<x≦0.10であることがより好ましく、0<x≦0.05であることが最も好ましい。
上記一般式(1)において、0<y≦0.10であることが好ましく、かつ、0<y+z≦0.6であることがより好ましい。
また、上記一般式(1)において、0<x≦0.15、0<y≦0.10であることが好ましく、0<x≦0.15、0<y≦0.10、かつ、0<y+z≦0.6であることがより好ましい。
上記一般式(1)において、x、y、zが上記範囲では、リチウムイオン伝導率と充放電特性に優れる固体電解質が得られる。
【0018】
本実施形態の酸化物固体電解質に含まれる上記式(1)で表されるガーネット型酸化物の具体例としては、例えば、実施例1のLi6.15Ga0.05LaZr1.40Mo0.10Ta0.5012(上記一般式(1)において、x=0.05、y=0.10、z=0.50)、実施例4のLi5.85Ga0.15LaZr1.40Mo0.10Ta0.5012(上記一般式(1)において、x=0.15、y=0.10、z=0.50)などが挙げられる。
【0019】
本実施形態の酸化物固体電解質は、立方晶であることが好ましい。結晶構造の評価方法については、後述の粉末X線回折(XRD)法で確認することができる。
本実施形態の酸化物固体電解質は、上記Ga、Mo、Ta添加ガーネット型酸化物以外に、固体電解質としての機能を損なわない範囲において、他の成分を含んでもよい。例えば、原料由来の不純物などが挙げられる。本実施形態の酸化物固体電解質は、実質的に上記Ga、Mo、Ta添加ガーネット型酸化物のみからなることが好ましい。「実質的に上記Ga、Mo、Ta添加ガーネット型酸化物のみからなる」とは、本実施形態の酸化物固体電解質において、前記Ga、Mo、Ta添加ガーネット型酸化物の含有量が95%以上100%以下であってもよく、98%以上100%以下であってもよく、99%以上100%以下であってもよい意味である。
【0020】
本実施形態の酸化物固体電解質は、後の製造方法で得られた緻密化焼結後のペレットで測定したリチウムイオン伝導率が、10-6S/cm以上であることが好ましく、10-5S/cm以上であることがより好ましく、10-4S/cm以上であることがさらに好ましい。10-1S/cm以下であってもよい。リチウムイオン伝導率の測定方法は、実施例で説明する。
【0021】
本実施形態の酸化物固体電解質は、後の製造方法で得られた緻密化焼結後のペレットを用いて製造した評価用電池セル(実質的に全固体リチウムイオン二次電池と同等の電池セル)が優れた充放電特性を示す。充放電特性の測定方法は、実施例で説明する。
【0022】
[酸化物固体電解質の製造方法]
本実施形態の酸化物固体電解質の製造方法(「本実施形態の製造方法」ということがある。)は、以下の第1のステップ~第3のステップを含む。
第1のステップ:前記一般式(1)を満たす組成比(モル比)となるように原料粉体を調製する。
第2のステップ:調製した原料粉体を固相反応法により、焼成温度600℃以上12000℃以下で焼成し、焼成粉体を合成する。
ステップ3:合成した焼成粉体をペレット化したのち、該ペレットを緻密化温度600℃以上1500℃以下で焼結して緻密化する。
【0023】
[第1のステップ]
前記一般式(1)で表されるガーネット型酸化物を製造するために、前記一般式(1)を満たす組成比(モル比)になるように原料粉体を調製し、混合する。上記範囲を満たす組成比となるように原料粉体を調製する場合、最終的に得られる生成物が高いイオン伝導率及び優れた充放電特性が得られる。
また、ガーネット型酸化物の製造時に前記一般式(1)よりもLi組成が低減することを抑制するため、例えば、第2ステップで揮発しやすいLiNOなどのLi原料は、前記一般式(1)を満たす組成比よりも10%過量としてもよい。
【0024】
リチウムの原料としては、例えば、水酸化リチウムなどの水酸化物、硝酸リチウム、炭酸リチウム、などが挙げられる。水酸化リチウムとしては、例えば、水酸化リチウム一水化物を脱水処理して得られる。脱水処理の条件としては、例えば、100~250℃で3~10時間でもよく、180~220℃で5~10時間でもよい。
ランタンの原料としては、例えば、酸化ランタンなどの酸化物、硝酸ランタン、などが挙げられる。
ジルコニウムの原料としては、例えば、酸化ジルコニウムなどの酸化物、などが挙げられる。
モリブデンの原料としては、例えば、酸化モリブデンなどの酸化物、モリブデン酸アンモニウム四水和物、などが挙げられる。
タンタルの原料としては、例えば、酸化タンタルなどの酸化物、などが挙げられる。
ガリウムの原料としては、例えば、酸化ガリウムなどの酸化物、硝酸ガリウム、などが挙げられる。
【0025】
上記一般式(1)を構成する各成分の上記原料は、粉体であることが好ましい。粉体の平均粒子径は200μm以下であることが好ましく、100μm以下であることがより好ましく、50μm以下であることがさらに好ましい。1μm以上であってもよい。
なお、粉体の平均粒子径は、公知の方法で測定することができ、例えば、SEM観察による測長、湿式粒度分布測定、乾式粒度分布測定、などが挙げられる。
【0026】
本実施形態の製造方法の第1のステップは、合成しようとする上記式(1)に表すガーネット型酸化物の組成に基づいて、必要な各成分の原料を選定するサブステップ1aと、選定した各原料を混合するサブステップ1bとを含んでもよい。また、必要に応じて、サブステップ1aとサブステップ1bの間、あるいは、サブステップ1bの後において、更に、粉砕するサブステップ1cを含んでもよい。
上記混合方法、粉砕方法は、特に限定されなく、公知の方法を使用することができる。
【0027】
[第2のステップ]
本実施形態の製造方法の第2のステップにおいて、焼成温度が600℃以上であることが好ましく、700℃以上であることがより好ましく、800℃以上であることがさらに好ましい。また、1500℃以下であることが好ましく、1200℃以下であることがより好ましい。1000℃以下であることが更に好ましい。例えば、後述の実施例では、焼成温度が900℃であった。
【0028】
上記焼成に使用する固相反応法(装置)としては、特に限定されなく、公知の方法を使用するができる。例えば、マッフル炉、電気炉などを使用することができる。
【0029】
上記焼成時の雰囲気としては、例えば、空気であることが好ましい。
焼成時間は、6時間以上であることが好ましく、12時間以上であることがより好ましく、20時間以下であってもよい。例えば、後述の実施例では、12時間であった。
【0030】
焼成開始及び終了する間の加熱、冷却速度は、特に限定されない。例えば、加熱速度が10℃/minであることが好ましく、8℃/minであることがより好ましく、5℃/minであることが更に好ましい。冷却速度は、5℃/minであることが好ましく3℃/minであることがより好ましく、1℃/minであることが更に好ましい。
上記焼成時の圧力は、特に限定されないが、大気圧で加熱してもよい。また、本実施形態の酸化物固体電解質のリチウムイオン伝導率向上の観点から、大気圧を超える加圧条件下で加熱してもよい。
【0031】
上記第2のステップは、第1のステップで調製した原料粉体を焼成した後、さらに、粉砕するサブステップを含んでもよい。
第2のステップで調製した焼成粉体は、ガーネット型酸化物であっても良い。立方晶構造であっても良い。
なお、第2のステップにおける焼成には様々な呼び方があり、例えば非特許文献1では仮焼と記載されている。
【0032】
[ステップ3]
第2のステップで調製した焼成粉体をペレット化する方法は、特に限定されなく、公知の方法を使用することができる。ペレット化方法としては、例えば、上記ステップ2で得られた焼成粉体を10MPa以上の静水圧プレスで、ペレット化する方法などが挙げられる。上記圧力が15MPa以上であってもよく、20MPa以上であってもよい。また、100MPa以下であってもよい。ペレット化の具体例として、後述の実施例1に記載したように、焼成粉体を20MPaで静水圧プレスする方法などが挙げられる。
ペレット化する際の温度は、特に限定されないが、1500℃以下であることが好ましく、未加熱(例えば25℃)であっても構わない。
【0033】
本実施形態の製造方法のステップ3において、得られたペレットを緻密化温度600℃以上で焼結して緻密化することが好ましい。緻密化温度は800℃以上であることがより好ましく、1000℃以上であることがさらに好ましい。また、緻密化温度は1500℃以下であることが好ましく、1200℃以下であることがより好ましい。例えば、後述の実施例では、緻密化温度が1200℃であった。
上記ペレットを緻密化するために焼結する前に、該ペレットの周囲を上記ステップ2で得られた焼成粉体で覆い、上記緻密化温度で緻密化してもよい。
【0034】
上記緻密化するための焼結に使用する装置としては、特に限定されなく、公知の方法を使用することができる。例えば、マッフル炉、電気炉、ホットプレスなどを使用することができる。
【0035】
上記焼結時の雰囲気としては、例えば、空気であることが好ましい。
焼結時間は、3時間以上であることが好ましく、4時間以上であることがより好ましく、12時間以下であってもよい。例えば、後述の実施例では、4時間であった。
【0036】
焼結開始及び終了する間の加熱、冷却速度は、特に限定されない。例えば、加熱速度が10℃/minであることが好ましく、8℃/minであることがより好ましく、5℃/minであることが更に好ましい。冷却速度は、5℃/minであることが好ましく3℃/minであることがより好ましく、1℃/minであることが更に好ましい。
なお、第3のステップにおける焼結には様々な呼び方があり、例えば非特許文献1では本焼結と記載されている。また、本発明においては、緻密化、緻密化焼結、あるいは単に焼結と記載することがある。
【0037】
本実施形態の製造方法としは、例えば、図1に示すように、第1のステップとしての組成設計及び原料粉体調製・混合ステップと、第2のステップとしての原料粉体焼成ステップと、第3のステップとしてのペレット化及び緻密化焼結ステップと、を含む製造方法が挙げられる。また、必要に応じて、検査ステップとして、リチウムイオン伝導率測定ステップを含んでもよい。
【0038】
<組成設計ステップ>
ガーネット型酸化物の基本組成LiLaZr12に対し、Liサイトの一部をGaで置換し、さらにZrサイトの一部をMoとTaで置換する組成設計を行う。上記一般式(1)を満たすようにする。
【0039】
<原料粉体調製・混合ステップ>
上記組成設計ステップで設計した組成に応じて原料粉体を調製し、混合する。例えば、LiNOなどのLi原料のみ設計組成よりも10%過量としてもよい。
【0040】
<原料粉体焼成ステップ>
上記原料粉体調製・混合ステップで調製・混合した原料粉体を固相反応法により、例えば、800~1000℃で8~15時間焼成し、焼成粉体を得る。粉体焼成温度と時間の具体例としては、例えば、900℃、12時間が挙げられる。
【0041】
<ペレット化ステップ>
上記原料粉体焼成ステップで得られる焼成粉体を20MPaで静水圧プレスする。
【0042】
<緻密化焼結ステップ>
上記ペレット化ステップで得られたペレットの周囲を焼成粉体で覆い、1000~1500℃で8~15時間焼結して緻密化する。緻密化温度と時間の具体例としては、例えば、1200℃、12時間が挙げられる。
【0043】
<リチウムイオン伝導率測定>
緻密化焼結ステップで得られた緻密化処理後のペレット(「緻密ペレット」ということがある。)のリチウムイオン伝導率を測定する。測定方法は特に限定がなく、公知の方法を使用することができる。後述の実施例で、リチウムイオン伝導率測定方法を詳細に説明する。
【0044】
本実施形態の酸化物固体電解質は、ガーネット型酸化物LiLaZr12に対して、GaとMoとTaの3元素を何れも添加することで得られた上記一般式(1)で表されるガーネット型酸化物を用いたことより、リチウムイオン伝導率と充放電特性に優れる酸化物固体電解質の製造を可能とした。
【実施例0045】
以下、本発明を実施例により詳細に説明するが、本発明はこれにより限定されるものではない。
【0046】
(原料)
水酸化リチウム一水化物:関東化学株式会社製、LiOH・H
酸化ランタン:関東化学株式会社製、La
酸化ジルコニウム:関東化学株式会社製、ZrO
酸化モリブデン:関東化学株式会社製、MoO
酸化タンタル:関東化学株式会社製、Ta
酸化ガリウム:関東化学株式会社製、Ga
【0047】
(製造例1)
「水酸化リチウム原料の調製」
上記水酸化リチウム一水化物を200℃で6時間脱水処理して、水酸化リチウム原料を調製した。
【0048】
(XRD測定方法)
各実施例・比較例の第2のステップで、粉体焼成温度900℃で12時間焼成して得た粉体をXRDで測定した。
測定装置:株式会社リガク製 UltimaIV、光学系は平行ビーム法+シンチレーションカウンター検出器、回転ステージを使用した。
測定条件:試料を0.5mm深さの測定試料用ホルダーに充填し、それをX線回折(XRD)装置にセットし、Cu/Kα線、40kV/40mA、スキャンスピード(2θ)2°/min、ステップ(2θ)0.02°、走査範囲(2θ)10°~70°の条件で測定を行った。
【0049】
(リチウムイオン伝導率の測定方法)
得られたペレットの上下両面に金をスパッタリングし、ペレット表面の金と集電体と接触させ、測定セルに入れた。この測定セルをインピーダンス測定装置に接続し、インピーダンス法でペレットの抵抗値を測定した。そして、下記式から伝導率σを算出する。
導電率σ=L/(R×S)
(式中、L:電圧端子間距離、S:断面積、R:抵抗)
【0050】
測定装置:日置電機製LCRメータIM3536
測定条件:周波数4Hz-8MHz、印加電圧1V、交流インピーダンス測定
【0051】
(評価用電池セルの作製方法、充放電特性の測定方法)
ペレット(円盤状、厚み:1mm)の両面をサンドペーパで研磨した後、その第一面において、正極活物質層(Li(Ni0.33Mn0.33Co0.33)O、豊島製作所製)を固定して正極を作製した。次いで、正極活物質層上に正極集電体層としてAlを設置した。上記第一面の反対側の第二面において、リチウム金属負極を固定し、次いで、リチウム金属負極上に負極集電体層として、SUSを設置した。それによって、評価用電池セルを作製した。
AlとSUSに端子を接続し、下記の測定条件で0.02C(充放電各50時間)、0.05C(同20時間)、0.10C(同10時間)、0.20C(同5時間)のCレートで充電および放電を行った。充電から放電までを1サイクルとし、0.02Cで2サイクル、0.05Cで2サイクル、0.10Cで2サイクル、0.20Cで2サイクル、計8サイクル実施した。各Cレートの1、2サイクルの充放電容量は、0.02Cの第1サイクルの充電容量に対する比を用いた。
【0052】
測定条件
充放電電圧:充電電圧が2.5Vから4.25Vであり、放電電圧が4.25Vから2.5Vであった。
Cレート×サイクル数:0.02C×2 ⇒ 0.05C×2 ⇒0.10C×2 ⇒ 0.20C×2
温度:45℃
測定装置:二次電池充放電測定装置(北斗電工株式会社製)
【0053】
(実施例1~4、比較例1~2)
<第1のステップ>
表1に示す各実施例・比較例の組成を設計し、設計した組成に応じて、表1に示す各原料(上記製造例1で得られた水酸化リチウム、酸化ランタン、酸化ジルコニウム、酸化モリブデン、酸化タンタル、酸化ガリウム)を、表1に示す配合量に従って配合し、混合することで、原料粉体を調製した。
【0054】
<第2のステップ>
上記調製した原料粉体を固相反応法により、粉体焼成温度900℃で12時間焼成し、焼成粉体を得た。
第2ステップで得られた焼成粉体に対して、上記XRD測定を行った。粉体焼成後の結晶構造を確認した。その結果を表1に示す。また、実施例1のXRD結果を図2に示す。
【0055】
<第3のステップ>
上記得られた焼成粉体をペレット化圧力20MPaで静水圧プレスしてペレットにした。ペレットの周囲を第2のステップで得られた焼成粉体で覆い、緻密化温度1200℃で4時間焼結した。表1に示す組成式で表されるガーネット型酸化物で構成した酸化物固体電解質を得た。
【0056】
<検査ステップ>
上記のリチウムイオン伝導率の測定方法で、緻密化処理後のペレットのリチウムイオン伝導率を測定した。その結果は、表1、図3図4に示す。
また、上記の評価用電池セルの作製方法で評価用電池セルを作製し、上記の充放電特性測定方法で、評価用電池セルの充放電特性測定を行った。その結果は、表1、表2、図5に示す。
【0057】
【表1】
【0058】
表1に関する説明は以下に示す。
*1:各原子の組成比(モル比)である。
*2:表1中の「充放電特性」は、後述の表2に示す「充放電カーブ:〇」の場合の最高Cレートである。
【0059】
【表2】
【0060】
表2に関する説明は以下に示す。
*1充電容量:0.02C第1サイクル目(サイクルNo.1)の充電容量との比
*2放電容量:0.02C第1サイクル目(サイクルNo.1)の充電容量との比
*3放電率:放電容量/充電容量
*4充放電カーブに異常なき場合は○、異常ある場合×
【0061】
(考察)
実施例1の第2ステップで得られた粉体のXRDの結果(図2)から、第3のステップのペレット化及び緻密化焼結の前において、立方晶構造を有する化学式「Li6.15Ga0.05LaZr1.40Mo0.10Ta0.5012」のガーネット型酸化物が得られたことが分かった。
【0062】
図3図4は、リチウムイオン伝導率のMo添加依存性及びGa添加依存性の実験結果を示す。上記一般式(1)において、Moの組成y≦0.1までの酸化物固体電解質は、安定して、優れたリチウムイオン伝導率を示す。上記一般式(1)において、Gaの組成0<x≦0.15までの酸化物固体電解質は、Gaの組成x=0の組成より優れたリチウムイオン伝導率を示す。Gaの組成x=0.05の時に最大のリチウムイオン伝導率を示す。
【0063】
図5は、実施例1及び比較例1、2で得られたガーネット型酸化物固体電解質を用いて作製した評価用電池セルの充放電特性の測定結果である。縦軸の放電容量は、0.02Cにおける第1サイクル目(サイクルNO.1)の充電容量との比である。図5の充放電特性の測定結果から、実施例1で得られた本実施形態のガーネット型酸化物固体電解質を用いて作製した評価用電池セルは、比較例1と2のガーネット型酸化物固体電解質を用いて作製した評価用電池セルより、優れた充放電特性を有することが分かった。
【0064】
以上の考察結果より、一般式LiLaZr12で表されるガーネット型酸化物に対して、GaとMoとTaの3元素を何れも添加すると、以下の効果が得られると結論づけることができる。(1)立方晶構造を有する(ガーネット型酸化物である)。(2)GaとTaの2元素を添加したガーネット型酸化物(比較例1)ならびにMoとTaの2元素を添加したガーネット型酸化物(比較例2)と比較して、同等以上のリチウムイオン伝導率を実現可能。(3)GaとTaの2元素を添加したガーネット型酸化物(比較例1)ならびにMoとTaの2元素を添加したガーネット型酸化物(比較例2)と比較して、充放電特性に優れた全固体リチウムイオン二次電池を実現可能。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本実施形態の酸化物固体電解質は、リチウムイオン伝導率と充放電特性に優れるため、全固体リチウムイオン二次電池に用いられる固体電解質などの用途に使用することが期待される。
図1
図2
図3
図4
図5