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特開2024-172334渦電流センサ、渦電流センサ組立体、および研磨装置
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172334
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】渦電流センサ、渦電流センサ組立体、および研磨装置
(51)【国際特許分類】
   G01B 7/06 20060101AFI20241205BHJP
   B24B 49/10 20060101ALI20241205BHJP
   B24B 49/04 20060101ALI20241205BHJP
   B24B 37/013 20120101ALI20241205BHJP
   B24B 37/10 20120101ALI20241205BHJP
   H01L 21/304 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
G01B7/06 M
B24B49/10
B24B49/04 Z
B24B37/013
B24B37/10
H01L21/304 622S
【審査請求】未請求
【請求項の数】11
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023089987
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000000239
【氏名又は名称】株式会社荏原製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100146710
【弁理士】
【氏名又は名称】鐘ヶ江 幸男
(74)【代理人】
【識別番号】100186613
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邊 誠
(74)【代理人】
【氏名又は名称】串田 幸一
(72)【発明者】
【氏名】湊崎 勝也
(72)【発明者】
【氏名】高橋 太郎
【テーマコード(参考)】
2F063
3C034
3C158
5F057
【Fターム(参考)】
2F063AA16
2F063BA26
2F063DA01
2F063DA05
2F063GA08
3C034AA13
3C034AA19
3C034CA02
3C034CB03
3C034DD10
3C034DD20
3C158AA07
3C158AC02
3C158BA02
3C158BA09
3C158BB02
3C158BC01
3C158BC02
3C158CB01
3C158DA12
3C158DA17
3C158EA11
3C158EB01
5F057AA20
5F057BA15
5F057BB23
5F057BB24
5F057BB25
5F057BB27
5F057BB34
5F057CA12
5F057DA03
5F057EB11
5F057FA41
5F057GA27
5F057GB03
5F057GB13
(57)【要約】
【課題】渦電流センサの検出コイルの感度を従来よりも改善した渦電流センサを提供する。
【解決手段】渦電流センサ210は、磁性体と検出コイル34と補正コイル166と励磁コイルを有する。励磁コイルは磁性体の第1柱部および/または外壁部を囲むように巻かれて、導電膜に渦電流を発生させる。検出コイル34および補正コイル166は、第1柱部および/または外壁部を囲むように巻かれて、導電膜に生成される渦電流の変化を検出する。導電膜に生成される渦電流が変化した時の補正コイル166の出力信号の変化量は、検出コイル34の出力信号の変化量より少ない。補正コイル166の一端は検出コイル34の一端に直接接続され、補正コイルの他端と検出コイルの他端がインピーダンス変換器124または増幅器に直接接続される。
【選択図】図6
【特許請求の範囲】
【請求項1】
底部、前記底部の中央から延びる第1柱部、および、前記底部の周辺部から延びる外壁部を備える磁性体と、
前記第1柱部および/または前記外壁部を囲むように巻かれており、導電膜に渦電流を発生させる励磁コイルと、
前記第1柱部および/または前記外壁部を囲むように巻かれており、前記導電膜に生成される前記渦電流の変化を検出する検出コイルおよび補正コイルとを備え、
前記導電膜に生成される前記渦電流が変化した時の前記補正コイルの出力信号の変化量は、前記検出コイルの出力信号の変化量より少なく、
前記補正コイルの一端は前記検出コイルの一端に直接接続され、前記補正コイルの他端と前記検出コイルの他端がインピーダンス変換器または増幅器に直接接続されることを特徴とする渦電流センサ。
【請求項2】
前記検出コイルの断面積は前記補正コイルの断面積より大きい、および/または前記検出コイルの巻き数は前記補正コイルの巻き数より多い、および/または前記検出コイルから前記底部までの距離は前記補正コイルから前記底部までの距離より長い、ことを特徴とする請求項1記載の渦電流センサ。
【請求項3】
前記外壁部は、前記第1柱部の外周を囲んでいることを特徴とする請求項1または2記載の渦電流センサ。
【請求項4】
前記底部は、棒形状であり、前記外壁部は、前記棒形状の両端部にそれぞれ設けられた第2柱部と第3柱部とを備えることを特徴とする請求項1または2記載の渦電流センサ。
【請求項5】
前記補正コイルと前記検出コイルの巻き方向は逆方向であることを特徴とする請求項1または2記載の渦電流センサ。
【請求項6】
前記励磁コイルと前記検出コイルはいずれも、前記第1柱部が延びる方向において前記底部とは反対側に配置されていることを特徴とする請求項1または2記載の渦電流センサ。
【請求項7】
前記補正コイルは、前記第2柱部と前記第3柱部に巻かれていることを特徴とする請求項4記載の渦電流センサ。
【請求項8】
前記検出コイルと前記補正コイルの巻き方向は同じ方向であることを特徴とする請求項7記載の渦電流センサ。
【請求項9】
前記検出コイルと前記補正コイルは、連続した一本の導電線から構成されており、前記一本の導電線の一部が前記検出コイルであり、前記一本の導電線の他の一部が前記補正コイルであることを特徴とする請求項1または2記載の渦電流センサ。
【請求項10】
請求項1または2記載の渦電流センサと、前記インピーダンス変換器または前記増幅器とを備えることを特徴とする渦電流センサ組立体。
【請求項11】
前記導電膜を研磨するための研磨表面を有する研磨パッドと、
前記研磨パッドが取り付けられる研磨テーブルと、
前記研磨テーブル内に配置される請求項1または2記載の渦電流センサと、
前記インピーダンス変換器または前記増幅器と、
前記インピーダンス変換器または前記増幅器の出力から前記導電体の膜厚データを算出
するように構成される検出信号処理回路と、を備える研磨装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、渦電流センサ、渦電流センサ組立体、および研磨装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
渦電流センサは膜厚測定、変位測定等に使用される。以下では、膜厚測定を例にして渦電流センサを説明する。膜厚測定用渦電流センサは、例えば半導体デバイスの製造工程(研磨工程)で用いられる。研磨工程において渦電流センサは、以下のように用いられる。半導体デバイスの製造工程では被研磨物である半導体ウェハの表面を平坦化することが必要となるが、この平坦化法の一手段として化学的機械的研磨(CMP)装置により研磨(ポリッシング)することが行われている。
【0003】
化学的機械的研磨(CMP)では、回転する研磨テーブル上に設けられた研磨パッドに研磨液を供給しつつ、研磨ヘッドによってワークピース(ウェハ)を回転させるとともにウェハを研磨パッドに押し付けてウェハの研磨を行う。基板を適切な膜厚まで研磨したかどうか、すなわち研磨終点に到達したかどうかを判断するために、研磨テーブル内には渦電流式の膜厚センサ(以下、渦電流センサという)が設けられることがある。
【0004】
渦電流センサは、基板に存在する導電膜(例えば金属膜)の膜厚測定に用いられる。渦電流センサは、磁束を生成する励磁コイルを有する。基板の導電膜に対して、生成された磁束の一部を重ねる(鎖交させる)ことで、渦電流センサは導電膜に渦電流を生成する。生成された渦電流を検出コイルにより検出する。導電膜の膜厚は、検出した渦電流に基づいて決定される。
【0005】
特許文献1に記載する従来技術では、可変抵抗によって構成されたブリッジ回路を使用して検出コイルとダミーコイルの出力信号の差を検出する。そして出力信号の差を高周波用のアンプ(RFアンプ)で増幅していた。しかし以下のような問題点があった。
・RFアンプによってノイズが増加する。
・温度等の環境変化によって、抵抗値が変化する結果、出力信号の差が変動(例えば飽和)して、ブリッジ回路等の再調整が必要になる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2017-152471号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の一形態は、このような問題点を解消すべくなされたもので、その目的は、渦電流センサの検出コイルの感度を従来よりも改善した渦電流センサを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、第1の形態では、底部、前記底部の中央から延びる第1柱部、および、前記底部の周辺部から延びる外壁部を備える磁性体と、前記第1柱部および/または前記外壁部を囲むように巻かれており、導電膜に渦電流を発生させる励磁コイルと、前記第1柱部および/または前記外壁部を囲むように巻かれており、前記導電膜に生成される前記渦電流の変化を検出する検出コイルおよび補正コイルとを備え、前記導電膜に生成される前記渦電流が変化した時の前記補正コイルの出力信号の変化量は、前記検出コイルの出力信号の変化量より少なく、前記補正コイルの一端は前記検出コイルの一端に
直接接続され、前記補正コイルの他端と前記検出コイルの他端がインピーダンス変換器または増幅器に直接接続されることを特徴とする渦電流センサという構成を採っている。
【0009】
本実施形態では、可変抵抗によって構成されたブリッジ回路を使用していないため、抵抗値が変化する結果、出力信号の差が飽和して、ブリッジ回路等の再調整が必要となることが低減する。出力信号が飽和することが従来よりも低減するため、渦電流センサの検出コイルの感度が従来よりも改善した渦電流センサを提供できる。
【0010】
第2の形態では、前記検出コイルの断面積は前記補正コイルの断面積より大きい、および/または前記検出コイルの巻き数は前記補正コイルの巻き数より多い、および/または前記検出コイルから前記底部までの距離は前記補正コイルから前記底部までの距離より長い、ことを特徴とする形態1記載の渦電流センサという構成を採っている。
【0011】
第3の形態では、前記外壁部は、前記第1柱部の外周を囲んでいることを特徴とする形態1または2記載の渦電流センサという構成を採っている。
【0012】
第4の形態では、前記底部は、棒形状であり、前記外壁部は、前記棒形状の両端部にそれぞれ設けられた第2柱部と第3柱部とを備えることを特徴とする形態1または2記載の渦電流センサという構成を採っている。
【0013】
第5の形態では、前記補正コイルと前記検出コイルの巻き方向は逆方向であることを特徴とする形態1ないし4のいずれか1項に記載の渦電流センサという構成を採っている。
【0014】
第6の形態では、前記励磁コイルと前記検出コイルはいずれも、前記第1柱部が延びる方向において前記底部とは反対側に配置されていることを特徴とする形態1ないし5のいずれか1項に記載の渦電流センサという構成を採っている。
【0015】
第7の形態では、前記補正コイルは、前記第2柱部と前記第3柱部に巻かれていることを特徴とする形態4記載の渦電流センサという構成を採っている。
【0016】
第8の形態では、前記検出コイルと前記補正コイルの巻き方向は同じ方向であることを特徴とする形態7記載の渦電流センサという構成を採っている。
【0017】
第9の形態では、前記検出コイルと前記補正コイルは、連続した一本の導電線から構成されており、前記一本の導電線の一部が前記検出コイルであり、前記一本の導電線の他の一部が前記補正コイルであることを特徴とする形態1ないし8のいずれか1項に記載の渦電流センサという構成を採っている。
【0018】
第10の形態では、形態1ないし9のいずれか1項に記載の渦電流センサと、前記インピーダンス変換器または前記増幅器とを備えることを特徴とする渦電流センサ組立体という構成を採っている。
【0019】
第11の形態では、前記導電膜を研磨するための研磨表面を有する研磨パッドと、前記研磨パッドが取り付けられる研磨テーブルと、前記研磨テーブル内に配置される形態1ないし9のいずれか1項に記載の渦電流センサと、前記インピーダンス変換器または前記増幅器と、前記インピーダンス変換器または前記増幅器の出力から前記導電体の膜厚データを算出するように構成される検出信号処理回路と、を備える研磨装置という構成を採っている。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、研磨装置の全体構成を模式的に示す図である。
図2図2は、研磨テーブルと渦電流センサと研磨対象物との関係を示す平面図である。
図3図3は、渦電流センサの電気的接続を示す図である。
図4図4は、従来のアナログ信号処理回路に用いられているブリッジ回路を示す図である。
図5図5は、従来のアナログ信号処理回路を示す図である。
図6図6は、従来技術と、比較回路と、本発明の実施形態の違いを説明する図である。
図7図7は、比較回路の課題を説明する図である。
図8図8は、渦電流センサの概念図である。
図9図9は、渦電流センサの断面図である。
図10図10は、渦電流センサの磁性体を示す図である。
図11図11は、検出コイルの両端に生成される電圧と、補正コイルの両端に生成される電圧を示す図である。
図12図12は、一実施形態の磁場を示す図である。
図13図13は、いわゆるE型コアを示す図である。
図14図14は、図13に示す渦電流センサを上から見た図である。
図15図15は、図13(a)に示す実施形態の磁場を示す図である。
図16図16は、図13(b)に示す実施形態の磁場を示す図である。
図17図17は、E型コアを示す図である。
図18図18(a)、図18(b)は、図17に示す渦電流センサを上から見た図である。
図19図19は、図17(a)に示す実施形態の磁場を示す図である。
図20図20は、図17(b)に示す実施形態の磁場を示す図である。
図21図21は、E型コアを示す図である。
図22図22は第1柱部の幅を示す図である。
図23図23は、図21に示す実施形態の磁場を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。なお、以下の各実施形態において、同一または相当する部材には同一符号を付して重複した説明を省略することがある。また、各実施形態で示される特徴は、互いに矛盾しない限り他の実施形態にも適用可能である。
【0022】
図1に示すように、研磨対象物102(導電膜)を研磨する研磨装置100は、基板またはウェハ等の研磨対象物102を研磨するための研磨表面を有する研磨パッド108を上面に取付け可能な研磨テーブル110と、研磨テーブル110を回転駆動する第1の電動モータ112と、研磨対象物102を保持可能なトップリング116と、トップリング116を回転駆動する第2の電動モータ118と、を備える。研磨対象物102が検出対象物である。検出対象物は、例えば、半導体ウェハなどの基板、又は基板の表面に形成された各種の導電膜である。研磨パッド108、研磨テーブル110、第1の電動モータ112、トップリング116、第2の電動モータ118は、検出対象物の研磨が可能な研磨部を構成する。
【0023】
また、研磨装置100は、研磨パッド108の上面に研磨材を含む研磨砥液を供給するスラリーライン120を備える。また、研磨装置100は、研磨装置100に関する各種制御信号を出力する研磨装置制御部140を備える。
【0024】
研磨装置100は、研磨対象物102を研磨するとき、研磨砥粒を含む研磨スラリーを
スラリーライン120から研磨パッド108の上面に供給し、第1の電動モータ112によって研磨テーブル110を回転駆動する。そして、研磨装置100は、トップリング116を、研磨テーブル110の回転軸とは偏心した回転軸回りで回転させた状態で、トップリング116に保持された研磨対象物102を研磨パッド108に押圧する。これにより、研磨対象物102は研磨スラリーを保持した研磨パッド108によって研磨され、平坦化される。
【0025】
研磨装置100は、検出対象物に渦電流を形成するとともに、形成された渦電流を検出可能な渦電流センサ210と、渦電流センサ210に接続された検出信号処理回路220と、を備える。検出信号処理回路220が出力する膜厚データ150は、ロータリージョイント・コネクタ160,170(またはスリップリング)を介して終点検出部240に出力される。
【0026】
渦電流センサ210について説明する。研磨テーブル110及び研磨パッド108には、渦電流センサ210を研磨テーブル110の裏面側から挿入できる穴が形成されている。渦電流センサ210は、研磨テーブル110に形成された穴に挿入される。本実施形態では検出信号処理回路220は、研磨テーブル110内に配置される。検出信号処理回路220は、渦電流センサ210と一体化してもよい。
【0027】
図2は、研磨テーブル110と渦電流センサ210と研磨対象物102との関係を示す平面図である。図2に示すように、渦電流センサ210は、トップリング116に保持された研磨中の研磨対象物102の中心Cwを通過する位置に設置されている。符号Ctは研磨テーブル110の回転中心である。例えば、渦電流センサ210は、研磨対象物102の下方を通過している間、通過軌跡258(走査線)上で連続的に研磨対象物102の厚さを検出できるようになっている。
【0028】
図3は、渦電流センサ210の電気的接続を示す図である。図3(a)は渦電流センサ210の電気的接続を示すブロック図であり、図3(b)は渦電流センサ210の等価回路図である。
【0029】
図3(a)に示すように、渦電流センサ210は、研磨対象物102内の金属膜等の近傍に配置される検出コイル34と励磁コイル164を備える。励磁コイル164には、交流信号源203が接続される。検出コイル34と励磁コイル164と、交流信号源203及び検出信号処理回路220との詳細な接続については後述する。研磨対象物102は、例えば半導体ウェハ上に形成されたCu,Al,Au,Wなどの薄膜を有する。検出コイル34と励磁コイル164は、研磨対象物102に対して、例えば0.5~5.0mm程度の近傍に配置される。
【0030】
渦電流センサ210には、研磨対象物102に渦電流が生じることに起因する交流信号源203から見たインピーダンスの変化に基づいて導電膜を検出するインピーダンスタイプがある。すなわち、インピーダンスタイプでは、図3(b)に示す等価回路において、渦電流Iが変化することによって、インピーダンスZが変化し、その結果、交流信号源(固定周波数発振器)203から見たインピーダンスZが変化する。渦電流センサ210は、検出信号処理回路220でこのインピーダンスZの変化を検出し、導電膜の変化を検出することができる。
【0031】
インピーダンスタイプの渦電流センサでは、インピーダンスZの実数部I(抵抗成分)、虚数部Q(リアクタンス)、位相、合成インピーダンスZ、が取り出される。周波数F、またはインピーダンスの各成分Q、I等から、導電膜の測定情報が得られる。渦電流センサ210は、図1に示すように研磨テーブル110の内部の表面付近の位置に内蔵する
ことができ、研磨対象物102に対して研磨パッドを介して対向するように位置している間は、研磨対象物102に流れる渦電流から導電膜の変化を検出することができる。
【0032】
以下に、インピーダンスタイプの渦電流センサについて図3(b)により具体的に説明する。交流信号源203は、1~50MHz程度の固定周波数の発振器であり、例えば水晶発振器が用いられる。そして、交流信号源203により供給される交流電圧により、センサコイル260に電流Iが流れる。研磨対象物102の近傍に配置されたセンサコイル260に電流が流れることで、センサコイル260から発生する磁束が研磨対象物102と鎖交する。その結果、センサコイル260と研磨対象物102の間に相互インダクタンスMが形成され、研磨対象物102中に渦電流Iが流れる。ここでR1はセンサコイル260を含む一次側228の抵抗であり、L1は同様にセンサコイル260を含む一次側228の自己インダクタンスである。研磨対象物102側では、R2は渦電流損に相当する抵抗であり、L2は研磨対象物102の自己インダクタンスである。交流信号源203の端子a,bからセンサコイル260側を見たインピーダンスZは、渦電流Iによって発生する磁力線の影響で変化する。
【0033】
渦電流センサの検出信号を処理してインピーダンスZの変化を検出する従来のアナログ信号処理回路はノイズが大きく、渦電流センサの検出信号を処理して得られた膜厚は変動して不安定である。従来のアナログ信号処理回路において、出力が安定しない理由の一例を図4により説明する。図4は、従来のアナログ信号処理回路に用いられているブリッジ回路を示す。センサコイル260は、検出コイル34とダミーコイル36と励磁コイル164を有する。3個のコイルのうちの検出コイル34とダミーコイル36は直列回路を構成し、その両端は可変抵抗38を含む抵抗ブリッジ回路40に接続されている。抵抗ブリッジ回路40の可変抵抗38を調整することによりバランスの調整を行うことで、膜厚がゼロのときに、抵抗ブリッジ回路40の出力42がゼロになるようにゼロ点の調整が可能である。
【0034】
従来のブリッジ回路40を使用した検出方法に関しては、ゼロ点調整時の抵抗値調整量はブリッジ回路40を構成する抵抗値全体の大きさに比べて非常に小さい。その結果、抵抗値全体の温度変化量は、ゼロ点調整時の抵抗値調整量と比べると、無視できない量である。温度変化による可変抵抗38や固定抵抗44の抵抗値の変化や、抵抗が有する浮遊容量46の変化等のために、抵抗の周囲環境の変化に対してブリッジ回路40の特性が敏感に影響を受ける。この結果、上述のゼロ点がシフトしやすく、膜厚の測定精度が低下するという問題があった。
【0035】
本願の実施形態との比較のために、抵抗ブリッジ回路40を用いた従来のアナログ信号処理回路を図5に示す。センサコイル260は、検出コイル34とダミーコイル36と励磁コイル164を有する。センサコイル260の励磁コイル164は交流信号源203に接続され、交番磁束を生成することで、渦電流センサ210の近傍に配置される研磨対象物102に渦電流を形成する。研磨対象物102の近傍に配置されたセンサコイル260に、交流信号を供給する信号源203は、水晶発振器からなる固定周波数の発振器である。交流信号源203は、例えば、1~50MHzの固定周波数の電圧を供給する。信号源203で形成される交流電圧は、励磁コイル164に供給される。
【0036】
センサコイルの端子から出力される信号128,131は、抵抗ブリッジ回路40を経て出力42として出力される。出力42は高周波アンプ303を経て、cos同期検波回路305およびsin同期検波回路306からなる同期検波部に入力される。同期検波部により検出信号のcos成分(Q成分)とsin成分(I成分)とが取り出される。ここで、信号源203で形成される発振信号から、位相シフト回路304により、信号源203の同相成分(0゜)と直交成分(90゜)の2つの信号が形成される。これらの信号は
、それぞれsin同期検波回路306とcos同期検波回路305とに導入され、上述の同期検波が行われる。
【0037】
同期検波された信号は、ローパスフィルタ307,308により、信号成分以上の不要な例えば5KHz以上の高周波成分が除去される。同期検波された信号は、cos同期検波出力であるQ成分出力309と、sin同期検波出力であるI成分出力310である。また、演算回路311によりベクトル演算を行い、Q成分出力309とI成分出力310とから、インピーダンスZの大きさ、(Q+ I1/2、が得られる。また、演算回路311によりθ処理を行い、同様にQ成分出力309とI成分出力310とから、位相出力(θ = tan-1Q/I)、が得られる。ここで、これらフィルタ307,308は、センサ信号の雑音成分を除去するために設けられ、各種フィルタに応じたカットオフ周波数が設定されている。検波回路226は、位相シフト回路304と、同期検波回路305と、同期検波回路306と、ローパスフィルタ307、308と、演算回路311とを含む。Q成分出力309、I成分出力310、インピーダンスZの大きさ、位相出力のうちの少なくとも1つが膜厚データ150である。
【0038】
図5に示す従来技術は、既述のように(1)増幅率の大きい高周波アンプ303が必要であり、高周波アンプ303によってノイズが増加する、(2)温度変化等の環境変化によって、抵抗ブリッジ回路40の出力が変動(飽和)して再調整が必要になるという問題があった。これを改善するために、抵抗ブリッジ回路40を使用しない回路(以下では「比較回路」と呼ぶ。)が考えられる。比較回路について図6により説明する。
【0039】
図6は、従来技術と、比較回路と、本発明の実施形態の違いを説明する図である。図6(a)は、図5に示す抵抗ブリッジ回路40を用いた従来のアナログ信号処理回路である。図6(b)は比較回路104を示す。図6(c)は本発明の一実施形態を示す。比較回路104では、抵抗ブリッジ回路40を使用しないため、ダミーコイル36も使用しない。検出コイル34のみの1コイルと高性能なアナログデジタル変換回路122(ADC)を用いて、検波回路224をデジタル化することで安定性改善とノイズ改善が実現できる。検波回路224は、検波回路226と同等の機能を有するデジタル回路もしくはソフトウェアである。
【0040】
比較回路104の課題としては、検出コイル34の検出信号を大きくできず、感度向上が不十分であるという課題がある。この課題について図7により説明する。図7は、比較回路の課題を説明する図である。比較回路104は、渦電流センサの励磁コイル(図示せず)が測定対象の導電膜に生成した磁場を、渦電流センサの受信コイルである検出コイル34により電圧に変換する。検出コイル34の出力は、減衰回路106に入力されて、振幅を小さくする。その後、信号はインピーダンス変換器124によりインピーダンス変換される。インピーダンス変換器124は増幅率がほぼ1である。インピーダンス変換された信号はアナログデジタル変換回路122によりデジタル信号に変換された後に、検波回路224に入力される。図7(a)は検出コイル34の両端に現れる電圧を示す。図7(b)は、インピーダンス変換器124の出力信号である。図7(a)と図7(b)の横軸は時間(単位は秒:s)であり、縦軸は電圧(単位はミリボルト:mv)である。
【0041】
渦電流センサが、導電膜から離れた位置から導電膜の近傍にまで移動すると、移動に伴い検出コイル34が出力する電圧が変化する。渦電流センサが導電膜から離れた位置にあるときの検出コイル34の出力134と、渦電流センサが導電膜の近傍にあるときの検出コイル34の出力142との差分が導電膜検出信号146,148となる。導電膜検出信号は、渦電流センサが導電膜の近傍にあるときの導電膜の厚さにも依存する。渦電流センサ210が研磨対象物102の下にある時(図2を参照)の検出コイル34の出力の時間変化から研磨の進行状況を判断する。図7(a)、図7(b)に渦電流センサが導電膜か
ら離れた位置にあるときの検出コイル34の出力134,136と、渦電流センサが導電膜の近傍にあるときの検出コイル34の出力142,144を示す。図7(a)、図7(b)に導電膜検出信号146,148も示す。導電膜を検知することにより、検出コイル34の出力信号は、出力134,136から出力142,144へと矢印152が示すように変化する。研摩が進行するに伴って、導電膜が薄くなるため、導電膜検出信号146,148の振幅は小さくなる。
【0042】
膜厚の検出感度を大きくするためには、比較回路104において、検出コイル34の巻き数を増やす等の感度向上策により、検出コイル34の感度を上げることが必要である。検出コイル34の感度を上げようとすると、抵抗ブリッジ回路40を使用していないため、従来技術よりも検出した信号の振幅が大きくなる。しかし、検出コイル34に後続する検波回路224等では、検出可能な電圧範囲が決まっており、この範囲を超えると減衰回路106を追加する必要がある。このため比較回路104では減衰回路106が設けられている。電圧減衰により、渦電流センサの感度向上策が相殺されてしまい、結果として導電膜厚の検出感度が上げられないという課題がある。
【0043】
図6(c)に示す本発明の一実施形態では、従来技術の課題と比較回路の課題を解決するために、導電膜に反応しやすい検出コイル34と、導電膜に反応しにくい補正コイル166を、検出信号成分を増やすように組み合わせる。これにより、従来技術や比較回路と比較して感度を、より改善する。本発明の一実施形態に係わる渦電流センサ210の詳細を図8図9図10に示す。図8は渦電流センサ210の概念図である。図9は渦電流センサ210の断面図である。図10は、渦電流センサ210の磁性体154を示す図である。図8では、コイルの配置を説明するために磁性体154の一部を省略している。
【0044】
渦電流センサ210は磁性体154を有する。磁性体154は、底部156、底部156の中央から延びる第1柱部158、および、底部156の周辺部から延びる外壁部162を備える。外壁部162は、第1柱部158の外周を囲んでいる、すなわち磁性体154はいわゆるポッド型コアである。後述するように磁性体154はいわゆるE型コアでもよい。渦電流センサ210は、励磁コイル164と、検出コイル34と、補正コイル166とを有する。励磁コイル164は、本発明では第1柱部158および/または外壁部162を囲むように巻かれており、研磨対象物102(導電膜)に渦電流を発生させる。本実施形態では励磁コイル164は、第1柱部158にのみ巻かれている。
【0045】
検出コイル34および補正コイル166は、本発明では第1柱部158および/または外壁部162を囲むように巻かれており、研磨対象物102に生成される渦電流の変化を検出する。本実施形態では検出コイル34は、第1柱部158および外壁部162を囲むように巻かれている。言い換えると、検出コイル34は第1柱部158の外周を囲む外壁部162を囲むように巻かれている。補正コイル166は、第1柱部158のみを囲むように巻かれている。研磨対象物102に生成される渦電流が変化した時の補正コイル166の出力信号の変化量は、検出コイル34の出力信号の変化量より少ない。
【0046】
補正コイル166の一端168は検出コイル34の一端172に直接接続されている。補正コイル166の他端174と検出コイル34の他端176がインピーダンス変換器または増幅器に直接接続される。本実施形態では補正コイル166の他端174と検出コイル34の他端176がインピーダンス変換器124に直接接続されている。励磁コイル164は信号源203に接続されている。「研磨対象物102に生成される渦電流が変化した時の補正コイル166の出力信号の変化量は、検出コイル34の出力信号の変化量より少ない」ことは、別の表現で述べると、「検出コイル34は導電膜に反応しやすく、補正コイル166は導電膜に、検出コイル34よりも反応しにくい」ということである。また、「検出コイル34は導電膜に対する感度が高く、補正コイル166は導電膜に対する感
度が検出コイル34より低い」ということである。
【0047】
ここで「補正コイル166の一端168は検出コイル34の一端172に直接接続されている。補正コイル166の他端174と検出コイル34の他端176がインピーダンス変換器または増幅器に直接接続される。」における「直接接続」とは、抵抗等の回路素子を介さずに接続されていることを意味する。図4に示す従来技術では、ダミーコイル36の一端178は検出コイル34の一端180に直接接続されているが、ダミーコイル36の他端182と検出コイル34の他端184が高周波アンプ303に直接接続されていない。ダミーコイル36の他端182と検出コイル34の他端184が高周波アンプ303に固定抵抗44と可変抵抗38を介して接続されている。
【0048】
「補正コイル166の一端168は検出コイル34の一端172に直接接続されている。」とは、別の表現でいうと、「検出コイル34と補正コイル166は、連続した一本の導電線から構成されており、一本の導電線の一部が検出コイル34であり、一本の導電線の他の一部が補正コイル166である。」ということである。なお、別の表現として「それぞれ別の導電線で構成した補正コイル166の一端と検出コイル34の一端とを接続する」ということも含まれる。
【0049】
研磨対象物102に生成される渦電流が変化した時の補正コイル166の出力信号の変化量を、検出コイル34の出力信号の変化量より少なくする方法は種々可能である。コイルの感度は、コイルの断面積が大きくなると高くなり、コイルの巻き数が多くなると高くなり、コイルと導電膜との距離が近くなると高くなる。従って、断面積、巻き数、距離を調整することにより、感度を調整することができる。例えば断面積を大きくしても巻き数を減らすと、結果として感度が低下する場合もある。従って、検出コイル34の感度が補正コイル166の感度より大きくなるように、断面積、巻き数、距離を調整することが必要である。なお、後述する図11に示すように、検出コイル34の感度の大きさにはシステム設計上の上限があり、補正コイル166の感度の大きさにはシステム設計上の下限がある。
【0050】
本実施形態では、検出コイル34の断面積は補正コイル166の断面積より大きい。ここで「断面積」とは、コイルの軸方向に垂直なコイルの断面の面積である。検出コイル34の断面積は補正コイル166の断面積より大きいため、検出コイル34は導電膜に反応しやすく、補正コイル166は導電膜に反応しにくい。「検出コイル34は導電膜に反応しやすく、補正コイル166は導電膜に反応しにくい」ことを実現するために、「検出コイル34の巻き数を補正コイル166の巻き数より多くする、および/または検出コイル34から底部156までの距離を補正コイル166から底部156までの距離より長く」してもよい。「検出コイル34から底部156までの距離を補正コイル166から底部156までの距離より長くする」とは、別の表現で述べると、「検出コイル34から研磨対象物102までの距離を補正コイル166から研磨対象物102までの距離より短くする」ということである。
【0051】
図8図10では外壁部162は、第1柱部158の外周を囲んでいる、すなわち磁性体154はいわゆるポッド型コアである。後述するように磁性体154はいわゆるE型コアでもよい。E型コアの場合、底部156は、棒形状であり、外壁部162は、棒形状の両端部にそれぞれ設けられた第2柱部186と第3柱部188とを備える。図10(a)は、磁性体154のみを示す。図10(b)は、外壁部162のみを示す。図10(c)は、底部156と第1柱部158を示す。図10(d)、図10(e)、図10(f)は、渦電流センサ210を上から見た図である。図10(d)、図10(e)、図10(f)はそれぞれ上から見たときの、検出コイル34、励磁コイル164、補正コイル166の位置のみを示す。
【0052】
図8図10では補正コイル166と検出コイル34の巻き方向は逆方向である。しかし、補正コイル166と検出コイル34の巻き方向は同じ方向でもよい。そのときは補正コイル166と検出コイル34の接続端子を図8と逆にすればよい。なお、図8図10では励磁コイル164と検出コイル34の巻き方向は同じ方向である。補正コイル166と検出コイル34は直列に接続されている。直列に接続する場合、補正コイル166の一端168を、検出コイル34の一端172と他端176のいずれに接続するかは、図9(b)に示すように検出コイル34の両端に生成される電圧190と、補正コイル166の両端に生成される電圧192が逆向きになるように、すなわち、電圧190と電圧192が相殺するように接続する。
【0053】
図9に示すように励磁コイル164が生成して補正コイル166を通る磁場194は上向きである。検出コイル34を通る磁場には、上向きの磁場194と下向きの磁場196があり、上向きの磁場194の方が強い。この2つのことにより、図9(b)に示すように、巻き方向を逆にすることにより、検出コイル34の両端に生成される電圧190と、補正コイル166の両端に生成される電圧192は逆相になる。従って、既述のように補正コイル166の一端168を検出コイル34の一端172に接続すると、補正コイル166の他端174と検出コイル34の他端176との間に生じる電圧198は、図9(b)に示すように電圧190と電圧192が相殺されたものである。
【0054】
このように二つのコイル(検出コイル34と補正コイル166)を磁場に対して逆向きで組み合わせることにより、導電膜が二つのコイルに近接したときの二つのコイルの反応振幅を維持しつつ、導電膜が二つのコイルに近接していない時の振幅を受信回路(インピーダンス変換器124)の測定範囲内に抑えることができる。すなわち、比較回路104の減衰回路が不要となり、導電膜を検出したときの信号が減衰しない。この点についてさらに説明する。
【0055】
図11は、検出コイル34の両端に生成される電圧190と、補正コイル166の両端に生成される電圧192を示す。図11(a)は検出コイル34の両端に生成される電圧190であり、電圧1901は導電膜が検出コイル34に近接していない時の振幅であり、電圧1902は導電膜が検出コイル34に近接している時の振幅である。図11(b)は補正コイル166の両端に生成される電圧192であり、電圧1921は導電膜が補正コイル166に近接していない時の振幅であり、電圧1922は導電膜が補正コイル166に近接している時の振幅である。図11(c)は補正コイル166の他端174と検出コイル34の他端176との間に生じる電圧198であり、電圧1981は導電膜が二つのコイルに近接していない時の振幅であり、電圧1982は導電膜が二つのコイルに近接している時の振幅である。図11(a)、図11(b)、図11(c)の横軸は時間(単位は秒:s)であり、縦軸は電圧(単位はミリボルト:mv)である。
【0056】
ここで「コイルが導電膜に近接していない」とは、検出コイル34と補正コイル166の出力信号の大きさの基準となる状態を意味する。すなわち「コイルが導電膜に近接していない」とは、「コイルが研磨対象物102である導電膜の影響を受けない位置まで離れている」場合等を意味する。例えば「図1のトップリング116が研磨テーブル110の外部にある状態」、または「トップリング116が研磨テーブル110上にあるが、渦電流センサ210から十分離れている状態」、または「トップリング116の中心の直下に渦電流センサ210があるが、トップリング116が基板を保持していない又は所定の膜厚を有する導電膜が存在する基板を保持している状態」等である。
【0057】
研磨テーブル110が回転して渦電流センサが導電膜に接近していくと、図11(a)に示すように電圧1901から電圧1902へと、矢印202の方向に検出コイル34の
出力が変化する。電圧1901と電圧1902の差分200が、検出コイル34が導電膜に反応して出力信号が変化した変化量である。研摩が進行するに伴い、導電膜が薄くなるため、導電膜に生成される渦電流が変化する。すなわち差分200が小さくなっていく。「検出コイル34の出力信号の変化量」とは「導電膜に生成される渦電流が変化した時の検出コイル34の出力信号の差分200もしくは差分204の変化量」である。
【0058】
研磨テーブル110が回転して渦電流センサが導電膜に接近していくと、図11(b)に示すように電圧1921から電圧1922へと補正コイル166の出力が変化する。電圧1921と電圧1922の差分204が、補正コイル166が導電膜に反応して出力信号が変化した変化量である。研摩が進行するに伴い、導電膜が薄くなるため、導電膜に生成される渦電流が変化する。すなわち差分204が小さくなっていく。「導電膜に生成される渦電流が変化した時の補正コイル166の出力信号の変化量」とは、「導電膜に生成される渦電流が変化した時の補正コイル166の出力信号の差分204もしくは差分204の変化量」を意味する。本実施形態では導電膜に生成される渦電流が変化した時の補正コイル166の出力信号の変化量は、検出コイル34の出力信号の変化量より少ない。これは差分200と差分204を比較したときに、差分204が差分200よりかなり小さいことからもわかる。
【0059】
研磨テーブル110が回転して渦電流センサが導電膜に接近していくと、図11(c)に示すように、検出コイル34と補正コイル166の出力電圧の差は、電圧1981から電圧1982へと矢印202の方向に変化する。電圧1981と電圧1982の差分206は、検出コイル34と補正コイル166の出力電圧の差が、導電膜に反応して出力信号が変化した変化量である。研摩が進行するに伴い、導電膜が薄くなるため、導電膜に生成される渦電流が変化する。渦電流が変化した時の出力電圧の差の変化量とは、差分206の変化量である。
【0060】
本実施形態では検出コイル34は、導電膜に励磁コイル164が生成する渦電流によって生成される逆磁場(すなわち励磁コイル164が生成する磁場と逆向きの磁場)を検出しやすくするために大きい断面積で巻かれている。補正コイル166は逆磁場の影響を受けにくいように小さい断面積で巻かれている。逆磁場は、導電膜からコイルまでの距離が大きいほど弱くなるため、検出コイル34は上に、補正コイル166は下に配置されている。このような「検出コイル34と補正コイル166の組み合わせ」により、検出コイル34と補正コイル166の組み合わせが生成する電圧を、受信回路であるインピーダンス変換器124の測定範囲208(入力可能範囲:図11(c)参照)以下に抑えることができる。比較回路104のように減衰回路106によって膜反応変化量を減衰することなく、組み合わせが生成する電圧を検出できる、即ち渦電流センサ210の感度が上がる。本実施形態の効果としては、以上述べたように、感度の異なるセンサを減衰回路に接続しないでインピーダンス変換器に直結することにより受信回路の検出範囲を広く使える、測定精度に影響する環境要因(ブリッジ回路への温度影響)を回避できる、増幅器ではなくインピーダンス変換器に直接接続するためノイズが改善する、励磁コイル164と検出コイル34をともに研磨面近くに配置するため、検出感度を最大化できる、という効果がある。
【0061】
本実施形態における磁場212を図12に示す。図12は、本実施形態の磁場を示す図である。励磁コイル164が研磨対象物102に近い位置に配置されるため、研磨対象物102に強い磁場ができる。検出コイル34が研磨対象物102に近い位置に配置されるため、検出コイル34の出力信号が大きくなる。
【0062】
別の実施形態を図13により説明する。図13は、いわゆるE型コアを示す図である。磁性体154はE型コアである。E型コアの場合、底部156は角棒形状であり、外壁部
162は、棒形状の両端部にそれぞれ設けられた角棒形状の第2柱部186と第3柱部188とを備える。第1柱部158も角棒形状である。第1柱部158、第2柱部186、第3柱部188、底部156は角型に限られず、丸棒でもよく、3角形、5角形等の多角形でもよい。図13(a)では検出コイル34は外壁部162に巻かれている。本実施形態の場合、外壁部162は第2柱部186と第3柱部188からなる。検出コイル34は、第2柱部186と第3柱部188の全体の外周に巻かれている。検出コイル34は研磨対象物102に最も近い位置に配置されている。補正コイル166と励磁コイル164は第1柱部158に巻かれている。励磁コイル164は、検出コイル34と補正コイル166の中間に位置している。補正コイル166は第1柱部158の研磨対象物102から最も遠い位置に配置されている。
【0063】
図13(b)では励磁コイル164は研磨対象物102に最も近い位置に配置されている。検出コイル34は外壁部162に巻かれている。すなわち検出コイル34は、第2柱部186と第3柱部188の全体の外周に巻かれている。補正コイル166と励磁コイル164は第1柱部158に巻かれている。検出コイル34は、研磨対象物102からの距離に関して、励磁コイル164と補正コイル166の中間に位置している。補正コイル166は第1柱部158の研磨対象物102から最も遠い位置に配置されている。
【0064】
図14(a)、図14(b)、図14(c)は、図13に示す渦電流センサ210を上から見た図である。図14(a)、図14(b)、図14(c)はそれぞれ上から見たときの、検出コイル34、励磁コイル164、補正コイル166の位置のみを示す。
【0065】
図13に示す実施形態の磁場212を図15,16に示す。図15、16はそれぞれ、図13(a)、図13(b)に示す実施形態の磁場を示す図である。図15図16を比較すると、図16は、励磁コイル164が研磨対象物102に近い位置に配置されるため、研磨対象物102に強い磁場ができる。
【0066】
別の実施形態を図17により説明する。図17は、E型コアを示す図である。磁性体154はE型コアであり、図13に示す実施形態の磁性体154と同一形状である。補正コイルは、第2柱部186と第3柱部188に巻かれている。検出コイルと補正コイルの巻き方向は図17(c)に、矢の先端と根元の記号で示すように同じ方向である。励磁コイル164と検出コイル34の巻き方向も図17(c)に示すように同じ方向である。検出コイル34と補正コイル166は、連続した一本の導電線から構成されており、一本の導電線の一部が検出コイル34であり、一本の導電線の他の一部が補正コイル166である。
【0067】
図17(a)では励磁コイル164が検出コイル34よりも図において上側に、すなわち励磁コイル164が検出コイル34よりも研磨対象物102に近く位置する。図17(b)では励磁コイル164が検出コイル34よりも図において下側に、すなわち励磁コイル164が検出コイル34よりも研磨対象物102から遠くに位置する。
【0068】
図17の実施形態では、検出コイル34と補正コイル166の巻き方に特徴がある。これまでの実施形態では、検出コイル34と補正コイル166は別個独立のコイルである。図17の実施形態では、検出コイル34と補正コイル166と2種類に分けるのではなく、巻き方(複数個所巻き付け)によって図13と同一の機能を実現する。一本の導線214のうち、一部が検出コイル34であり、他の一部が補正コイル166である。導線214のうち補正コイル166は、第2柱部186と第3柱部188のそれぞれに巻かれており、補正コイル166の断面積は、第2柱部186と第3柱部188の断面積の和である。一方、検出コイル34は、第1柱部158と第2柱部186と第3柱部188を全体として囲う外周に巻かれており、従って検出コイル34の断面積は、底部156の断面積と実
質的に一致する。
【0069】
図18(a)、図18(b)は、図17に示す渦電流センサ210を上から見た図である。図18(a)は上から見たときの、検出コイル34と補正コイル166の位置のみを示す。図18(b)は上から見たときの励磁コイル164の位置のみを示す。なお、補正コイル166と検出コイル34を巻きつける位置が図17図18に示すものであれば、補正コイル166と検出コイル34を第2柱部186と第3柱部188に巻きつける順序はどのような順番でも構わない。
【0070】
図17に示す実施形態の磁場212を図19,20に示す。図19、20はそれぞれ、図17(a)、図17(b)に示す実施形態の磁場を示す図である。図19図20を比較すると、図19は、励磁コイル164が研磨対象物102に近い位置に配置されるため、図20よりも研磨対象物102に強い磁場ができる。
【0071】
別の実施形態を図21により説明する。図21は、E型コアを示す図である。磁性体154はE型コアである。磁性体154の中心フェライト(第1柱部158)のみ幅を小さくして、励磁コイル164と検出コイル34を同一の高さにする。すなわち本実施形態は、図8の実施形態と同様に、研磨対象物102と、励磁コイル164および検出コイル34との距離が同じであり、励磁コイル164および検出コイル34は、研磨対象物102に最も近い位置にある。励磁コイル164と検出コイル34はいずれも、第1柱部158が延びる方向において底部156とは反対側に配置されている。図22(c)は第1柱部158の幅216を示す。図22(b)に第2柱部186と第3柱部188の幅218を示す。幅216は幅218よりも小さい。図22(a)、図22(b)、図22(c)は、図21に示す渦電流センサ210を上から見た図である。図22(a)、図22(b)、図22(c)はそれぞれ上から見たときの、補正コイル166、励磁コイル164、検出コイル34の位置のみを示す。図21に示す実施形態の磁場212を図23に示す。励磁コイル164が研磨対象物102に近い位置に配置されるため、研磨対象物102に強い磁場ができる。本実施形態によれば、励磁コイル164と検出コイル34をともに研磨面近くに配置するため、検出感度を最大化できる。
【0072】
なお以上の説明では、磁性体としてE型コアとポッド型コアの場合について本発明の一実施形態を説明してきたが、本発明の磁性体はE型コアとポッド型コアに限られない。磁性体は、1本の棒形状でもよい。棒の形状は、円柱形状、角柱形状、楕円柱形状等の任意の形状でもよい。例えば磁性体が円柱形状の場合、1本の円柱に検出コイル34と励磁コイル164と補正コイル166を巻いてもよい。研磨対象物102に近い位置から遠い位置へと1本の円柱に検出コイル34と励磁コイル164と補正コイル166を順に配置してもよい。感度を調整するために例えば、検出コイル34の巻き数を補正コイル166の巻き数より多くする。
【0073】
次に、図1に示す終点検出部240と研磨装置制御部140について説明する。終点検出部240は、検出信号処理回路220により得られた膜厚データ150を受信する。終点検出部240は、膜厚データ150の変化に基づいて研磨の終点を監視する。終点検出部240は、膜厚データ150が所定値に達したことにより、研磨の終点を検出することができる。
【0074】
終点検出部240は、研磨装置100に関する各種制御を行う研磨装置制御部140と接続されている。終点検出部240は、膜厚データ150に基づいて研磨対象物102の研磨終点を検出すると、その旨を示す信号を研磨装置制御部140へ出力する。研磨装置制御部140は、終点検出部240から研磨終点を示す信号を受信すると、研磨装置100による研磨を終了させる。
【0075】
本発明の一実施形態である渦電流センサ組立体は、渦電流センサ210と、インピーダンス変換器124または増幅器を有する。
【0076】
なお本発明の実施形態の動作は、以下のソフトおよび/またはシステムを用いて行うことも可能である。例えば、システム(研磨装置100)は、全体を制御するメインコントローラ(研磨装置制御部140)と、各部(駆動部112、118、保持部116、検出信号処理回路220)の動作をそれぞれ制御する複数のサブコントローラとを有する。メインコントローラおよびサブコントローラは、それぞれ、CPU,メモリ、記録媒体と、各部を動作させるために記録媒体に格納されたソフトウェア(プログラム)を有する。
【0077】
以上、本発明の実施形態の例について説明してきたが、上記した発明の実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定するものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく、変更、改良され得るとともに、本発明には、その均等物が含まれることはもちろんである。また、上述した課題の少なくとも一部を解決できる範囲、または、効果の少なくとも一部を奏する範囲において、特許請求の範囲および明細書に記載された各構成要素の任意の組み合わせ、または、省略が可能である。
【符号の説明】
【0078】
34…検出コイル
100…研磨装置
102…研磨対象物
108…研磨パッド
110…研磨テーブル
116…トップリング
122…アナログデジタル変換器
124…インピーダンス変換器
150…膜厚データ
154…磁性体
156…底部
158…第1柱部
162…外壁部
164…励磁コイル
166…補正コイル
186…第2柱部
188…第3柱部
194、196…磁場
200、204、206…差分
210…渦電流センサ
220…検出信号処理回路
240…終点検出部
図1
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