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特開2024-172400潤滑油添加剤、粘度指数向上剤、潤滑油
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172400
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】潤滑油添加剤、粘度指数向上剤、潤滑油
(51)【国際特許分類】
   C10M 145/14 20060101AFI20241205BHJP
   C10N 20/04 20060101ALN20241205BHJP
   C10N 30/02 20060101ALN20241205BHJP
   C10N 40/08 20060101ALN20241205BHJP
   C10N 40/04 20060101ALN20241205BHJP
   C10N 40/25 20060101ALN20241205BHJP
【FI】
C10M145/14
C10N20:04
C10N30:02
C10N40:08
C10N40:04
C10N40:25
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090098
(22)【出願日】2023-05-31
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 恵里子
(72)【発明者】
【氏名】青木 豊
【テーマコード(参考)】
4H104
【Fターム(参考)】
4H104CB08C
4H104EA03C
4H104LA01
4H104PA02
4H104PA05
4H104PA41
(57)【要約】
【課題】従来の潤滑油添加剤よりも更に優れた粘度指数向上能を発現する潤滑油添加剤を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される水酸基含有メタクリレートに由来する構成単位(a)を含む重合体を含有する潤滑油添加剤。前記重合体の全構成単位の合計100mol%中の前記構成単位(a)の含有量は0.1~35mol%であることが好ましい。
(式(1)中、Rは炭素数2~4のアルキレン基であり、nは3~20の整数である。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される水酸基含有メタクリレートに由来する構成単位(a)を含む重合体を含有する潤滑油添加剤。
【化1】
(式(1)中、Rは炭素数2~4のアルキレン基であり、nは3~20の整数である。)
【請求項2】
前記重合体の全構成単位の合計100mol%中の前記構成単位(a)の含有量が0.1~35mol%である、請求項1に記載の潤滑油添加剤。
【請求項3】
前記重合体の重量平均分子量が5000~50万である、請求項1に記載の潤滑油添加剤。
【請求項4】
前記重合体は、さらに前記水酸基含有メタクリレートとは異なる(メタ)アクリロイル基含有化合物に由来する構成単位(b)を含む、請求項1に記載の潤滑油添加剤。
【請求項5】
前記(メタ)アクリロイル基含有化合物が、炭素数が3~65の(メタ)アクリル酸アルキルエステルである、請求項4に記載の潤滑油添加剤。
【請求項6】
さらに溶媒を含む、請求項1~5のいずれか一項に記載の潤滑油添加剤。
【請求項7】
請求項6に記載の潤滑油添加剤を含む、粘度指数向上剤。
【請求項8】
請求項6に記載の潤滑油添加剤を含む、潤滑油。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、潤滑油添加剤に関する。本発明はまた、この潤滑油添加剤を含む粘度指数向上剤及び潤滑油に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、内燃機関や自動変速機、その他機械装置には、その作動を円滑にするために潤滑油が用いられている。近年、地球環境保護の観点から、潤滑油に求められる省燃費性能が益々高くなっており、その指標の一つとなる粘度指数の更なる向上が求められており、この目的で、粘度指数の向上のための潤滑油添加剤を潤滑油に添加することが行われている。
【0003】
特許文献1には、特定のアルキル(メタ)アクリレート(A)に由来する構成単位(a)と、特定の水酸基含有(メタ)アクリレート(B)に由来する構成単位(b)と、特定のリン含有(メタ)アクリレート(C)に由来する構成単位(c)とを含むポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)を含有する潤滑油用添加剤組成物が提案されている。この特許文献1に記載されるポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の構成単位(b)は、水酸基含有(メタ)アクリレート(B)に由来するとされているが、特許文献1の[0024]段落には、「ポリ(メタ)アクリレート系共重合体(X)の分子量を調整しやすくする観点から、Rb1は、水素原子であることが好ましい。すなわち、水酸基含有(メタ)アクリレート(B)は、重合性官能基として、アクリロイル基を有することが好ましい。」と記載され、特許文献1の実施例では、水酸基含有(メタ)アクリレート(B)として、2-ヒドロキシエチレンオキシアクリレート(特許文献1では「2-ヒドロキシエチルアクリレート」と記載)のみを使用しており、水酸基含有メタクリレートを使用した具体例はない。
【0004】
特許文献2には、炭素数24~75の分岐アルキル基を有する(メタ)アクリル酸アルキル由来の構成単位(a)及び特定の構造で表される構成単位(b)を含む共重合体(B)を含む潤滑油組成物が記載され、共重合体(B)を構成する他の構成単位として、特許文献2の実施例には、水酸基含有アクリレート由来の構成単位の例示もなされているが、水酸基含有メタクリレートの例示はない。
【0005】
特許文献3には、水酸基含有アクリレート由来の構成単位を含有するアクリレート系共重合体からなる摩擦抑制剤が記載されているが、この共重合体に含まれる構成単位として、水酸基含有メタクリレートに由来する構成単位の開示はなされていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2022-104642号公報
【特許文献2】特開2021-8540号公報
【特許文献3】国際公開第2020/246445号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の潤滑油添加剤によれば、一応の粘度指数の向上効果は得られるが、前述の通り、近年、潤滑油に要求される省燃費性能は益々高くなっており、潤滑油には、更なる粘度指数の向上が求められている。
【0008】
本発明は、従来の潤滑油添加剤よりも更に優れた粘度指数向上能を発現する潤滑油添加剤と、この潤滑油添加剤を用いた粘度指数向上剤及び潤滑油を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明は、以下の態様を包含する。
【0010】
〔1〕:下記式(1)で表される水酸基含有メタクリレートに由来する構成単位(a)を含む重合体を含有する潤滑油添加剤。
【0011】
【化1】
【0012】
(式(1)中、Rは炭素数2~4のアルキレン基であり、nは3~20の整数である。)
【0013】
〔2〕:前記重合体の全構成単位の合計100mol%中の前記構成単位(a)の含有量が0.1~35mol%である、〔1〕に記載の潤滑油添加剤。
【0014】
〔3〕:前記重合体の重量平均分子量が5000~50万である、〔1〕又は〔2〕に記載の潤滑油添加剤。
【0015】
〔4〕:前記重合体は、さらに前記水酸基含有メタクリレートとは異なる(メタ)アクリロイル基含有化合物に由来する構成単位(b)を含む、〔1〕~〔3〕のいずれかに記載の潤滑油添加剤。
【0016】
〔5〕:前記(メタ)アクリロイル基含有化合物が、炭素数が3~65の(メタ)アクリル酸アルキルエステルである、〔4〕に記載の潤滑油添加剤。
【0017】
〔6〕:さらに溶媒を含む、〔1〕~〔5〕のいずれかに記載の潤滑油添加剤。
【0018】
〔7〕:〔6〕に記載の潤滑油添加剤を含む、粘度指数向上剤。
【0019】
〔8〕:〔6〕に記載の潤滑油添加剤を含む、潤滑油。
【発明の効果】
【0020】
本発明の潤滑油添加剤は、潤滑油に添加した際、優れた粘度指数の向上効果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の実施形態の一例であり、本発明はこれらの内容に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0022】
[用語の説明]
本明細書においては、以下の用語の定義を採用する。
「構成単位」とは、単量体に由来する重合体を構成する単位、すなわち単量体が重合することによって形成された構成単位、または重合体を変性処理することによって構成単位の一部が別の構造に変換された構成単位を意味する。
本発明に係る「重合体」とは、後述の式(1)で表される水酸基含有メタクリレートに由来する構成単位(a)(以下、単に「構成単位(a)」と称す場合がある。)を含有するものであり、好ましくは更に(メタ)アクリロイル基含有化合物(この(メタ)アクリロイル基含有化合物には、式(1)で表される水酸基含有メタクリレートは含まれない。)に由来する構成単位(b)(以下、単に「構成単位(b)」と称す場合がある。)を含む。
ここで、「(メタ)アクリロイル基」は、アクリロイル基及びメタクリロイル基の一方又は双方を意味する。「(メタ)アクリレート」は、アクリレート及びメタクリレートの一方又は双方を意味する。「(メタ)アクリル」についても同様である。
【0023】
本発明に係る「(メタ)アクリロイル基」とは、下記式(2A)で表されるアルキルメタアクリレート又は下記式(2B)で表されるアルキルアクリレートの「R」部以外の部分を意味する。
【0024】
【化2】
【0025】
本明細書において「重量平均分子量」、「数平均分子量」はゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定された標準ポリスチレン換算の重量平均分子量、数平均分子量を意味する。
【0026】
「鉱油」とは、原油から精製して製造させる基油のことであり、パラフィン油、ナフテン油を意味する。
「化学合成油」とは、PAO(ポリ-α-オレフィン)、ポリブテン、エチレンプロピレン共重合体(EPO)、脂肪族エステル、GTL(Gas To Liquid)、アルキルベンゼン、シリコーンオイル、ポリアルキレングリコール(PAG)を意味する。
【0027】
「溶解」または「可溶」とは、前記重合体を含む溶液を25℃で1日静置したとき、目視で不溶分の析出や溶液の白濁が確認されないことを意味する。
【0028】
本発明の潤滑油添加剤は、構成単位(a)を含む重合体(以下、「本発明の重合体」と称す場合がある。)を含有する潤滑油添加剤である。
【0029】
本発明の重合体は、構成単位(a)を必須の構成単位として含むものであるが、好ましくは更に(メタ)アクリロイル基含有化合物(この(メタ)アクリロイル基含有化合物には、式(1)で表される水酸基含有メタクリレートは含まれない。)に由来する構成単位(b)を含むものであり、構成単位(a)及び構成単位(b)以外の他の構成単位(以下、「その他の構成単位(c)」と称す場合がある。)を更に含むものであってもよい。
【0030】
〔本発明の重合体〕
[重合体の構成単位]
以下、本発明の重合体を構成する構成単位(a)、構成単位(b)及びその他の構成単位(c)について詳細に説明する。
【0031】
<構成単位(a)>
本発明の重合体は、下記式(1)で表される水酸基含有メタクリレートに由来する構成単位(a)を含む。
【0032】
【化3】
【0033】
(式(1)中、Rは炭素数2~4のアルキレン基であり、nは3~20の整数である。)
【0034】
本発明の重合体が、構成単位(a)として水酸基含有アクリレートではなく、水酸基含有メタクリレートに由来する構成単位を含有することは、極めて重要な構成要件であり、構成単位(a)が水酸基含有メタクリレートに由来することから、水酸基含有アクリレートに由来する構成単位を含有する従来の潤滑油添加剤用重合体に比べて溶媒溶解性に優れる上、優れた粘度指数の向上効果を得ることができる。
【0035】
式(1)中、Rは炭素数2~4のアルキレン基、即ち、エチレン基、プロピレン基(n-プロピレン基であってもよく、1-メチルエチレン基又は2-メチルエチレン基であってもよい。)、ブチレン基(n-ブチレン基、i-ブチレン基、t-ブチレン基のいずれであってもよい。)である。
は溶媒溶解性の観点から、炭素数3のアルキレン基であることが好ましく、特に2-メチルエチレン基であることが好ましい。
【0036】
式(1)中、nは3~20の整数である。nが3以上であることにより優れた溶媒溶解性と粘度指数向上効果を得ることができる。一方、nが20以下であることにより優れた溶媒溶解性を有する。nは、好ましくは3~18、より好ましくは4~16の整数である。
【0037】
本発明の重合体に含まれる構成単位(a)は、上記式(1)で表される水酸基含有メタクリレートの1種のみで構成されるものであってもよく、式(1)中のRやnが異なる2種以上の水酸基含有メタクリレートで構成されるものであってもよい。
【0038】
本発明の重合体において、重合体を構成する全構成単位の合計100mol%中の構成単位(a)の含有量は0.1~35mol%であることが好ましく、0.2~30mol%であることがより好ましく、0.3~25mol%であることが更に好ましい。
構成単位(a)の含有量が上記下限以上であれば、構成単位(a)を含有することによる粘度指数向上効果を有効に得ることができる。構成単位(a)の含有量が上記上限以下であれば、後述の構成単位(b)等の他の構成単位を含有することによる溶媒溶解性を向上させる等の効果を有効に得ることができる。
【0039】
本発明の重合体の全構成単位の合計100mol%に対する構成単位(a)の割合は、本発明の重合体の原料単量体として、構成単位(a)を導入するための前記式(1)で表される水酸基含有メタクリレートの仕込み量から計算により求めることができる。
【0040】
<構成単位(b)>
本発明の重合体は、構成単位(a)と共に、(メタ)アクリロイル基含有化合物に(この(メタ)アクリロイル基含有化合物には、式(1)で表される水酸基含有メタクリレートは含まれない。)由来する構成単位(b)を含むことが好ましい。本発明の重合体が構成単位(b)を含有することで溶媒溶解性を向上させることができる。
【0041】
構成単位(b)を構成する(メタ)アクリロイル基含有化合物としては、(メタ)アクリル酸アルキルエステル(即ちアルキル(メタ)アクリレート)、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリルアミド、ポリアルキレングリコール(メタ)アクリレート、ヒドロキシアルキル(メタ)アクリレート、アルキルシリルオキシ(メタ)アクリレート、アルコキシシリルアルキル(メタ)アクリレート、アルケニル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、フルオロアルキル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリロイルアルキルアシッドホスフェート等、各種の(メタ)アクリロイル基含有化合物が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0042】
(メタ)アクリロイル基含有化合物としては、例えば、エチル(メタ)アクリレート、ブチル(メタ)アクリレート、プロピル(メタ)アクリレート、ヘキシル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、ドデシル(メタ)アクリレート、トリデシル(メタ)アクリレート等の直鎖又は分岐のアルキルアルコールの(メタ)アクリル酸アルキルエステル類;シクロヘキシル(メタ)アクリレート等の環式アルキルアルコールの(メタ)アクリル酸アルキルエステル類;ポリエチレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールモノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-プロピレングリコール-モノ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコール-テトラメチレングリコール-モノ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコール-ポリブチレングリコール-モノ(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコールモノメタクリレート、メトキシポリプロピルグリコールモノメタクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の末端にヒドロキシ基および/またはエーテル基を含む(メタ)アクリレート類;2-(トリメチルシリルオキシ)(メタ)アクリレート、3-(メチルジメトキシシリル)プロピル(メタ)アクリレート、3-(メトキシシリル)プロピル(メタ)アクリレート、3-(トリエトキシシリル)プロピル(メタ)アクリレート、3-(トリメトキシシリル)プロピル(メタ)アクリレート等のシリルオキシ基を含む(メタ)アクリレート類;アリル(メタ)アクリレート等のビニル基を含む(メタ)アクリレート類;1,3-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート等のジ(メタ)アクリレート類;(メタ)アクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル、ジエチルアクリルアミド等のアミノ基を含む(メタ)アクリレート類、(メタ)アクリル酸等のカルボン酸基を含む(メタ)アクリレート類、グリシジル(メタ)アクリレート等のエポキシ基を含む(メタ)アクリレート類、2,2,2-トリフルオロエチル(メタ)アクリレート、2,2,3,3-テトラフルオロプロピル(メタ)アクリレート、1H,1H,5H-オクタフルオロペンチル(メタ)アクリレート、1H,1H,2H,2H-トリデカフルオロオクチルアクリレート、2,2,2-トリフルオロエチル等のフルオロアルキル基を含む(メタ)アクリレート類;2-メタクロイロキシエチルアシッドホスフェート、2-メタクロイロキシエチルアシッドホスフェート等のリン酸基を含む(メタ)アクリレート類などを挙げることができる。
【0043】
これらのうち、構成単位(b)を構成する(メタ)アクリロイル基含有化合物は、粘度指数の向上効果の観点から(メタ)アクリル酸アルキルエステルが好ましく、中でも、炭素数が65以下、特に炭素数が60以下の(メタ)アクリロイル基含有化合物が好ましい。一方、潤滑油への溶解性の観点から(メタ)アクリロイル基含有化合物の炭素数の下限値は3以上又は4以上であることが好ましい。
【0044】
また、粘度指数を向上させる観点から、(メタ)アクリロイル基含有化合物は、アルキル基、ヒドロキシル基、シリルオキシ基、ビニル基、エーテル基、アミノ基、カルボン酸基、エポキシ基、フッ素原子、リン酸基のうちの少なくとも一つの官能基を有することが好ましく、中でも、アルキル基、ヒドロキシル基、シリルオキシ基、ビニル基、エーテル基、アミノ基、カルボン酸基、フッ素原子、リン酸基のうちの少なくとも一つの官能基を有することが好ましい。
(メタ)アクリロイル基含有化合物のうち、(メタ)アクリル酸アルキルエステル又は上記のヒドロキシ基等の官能基を有する(メタ)アクリル酸アルキルエステル(ただし、式(1)で表される水酸基含有メタクリレートを除く)の場合、(メタ)アクリル酸アルキルエステルに含有されるアルキル基の炭素数は1~60、特に2~55の範囲であることが好ましい。
「アルキル基」とは、C(2p+1)-で表すことができる官能基であり、pは好ましくは1~60の範囲の整数である。中でも潤滑油への溶解性の観点から、より好ましくはpは2~60の範囲の整数である。
【0045】
本発明の重合体には、これらの(メタ)アクリロイル基含有化合物に由来する構成単位(b)の1種のみが含まれていてもよく、2種以上が含まれていてもよい。
【0046】
本発明の重合体において、重合体を構成する全構成単位の合計100mol%中の構成単位(b)の含有量は0.1~99.9mol%であることが好ましく、65~99.8mol%であることがより好ましく、75~99.7mol%であることが更に好ましい。
構成単位(b)の含有量が上記下限以上であれば、構成単位(b)を含有することによる前述の効果を有効に得ることができる。構成単位(b)の含有量が上記上限以下であれば、構成単位(a)の含有量を確保して構成単位(a)による粘度指数向上効果を有効に得ることができる。
【0047】
本発明の重合体の全構成単位の合計100mol%に対する構成単位(b)の割合は、本発明の重合体の原料単量体として、構成単位(b)を導入するための(メタ)アクリロイル基含有化合物の仕込み量から計算により求めることができる。
【0048】
<その他の構成単位(c)>
その他の構成単位(c)は、上記構成単位(a)及び構成単位(b)以外の構成単位である。
【0049】
本発明の重合体にその他の構成単位(c)を導入するために用いられるその他の原料単量体としては、例えば、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル単量体;ビニルメチルエーテル、ビニルエチルエーテル等のビニルエーテル系単量体;酢酸ビニル、酪酸ビニル等のカルボン酸系ビニル単量体;エチレン、プロピレン、イソブチレン等のオレフィン系単量体;塩化ビニル、塩化ビニリデン等のハロゲン化ビニル単量体;マレイミド、N-フェニルマレイミド、N-シクロヘキシルマレイミド、N-メチルマレイミド等のマレイミド系単量体等が挙げられる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0050】
その他の構成単位(c)の含有量は、本発明の重合体を構成する全構成単位の合計100mol%に対して、90mol%以下であることが好ましく、65mol%以下であることがより好ましい。その他の構成単位(c)の含有量が上記上限以下であることにより、潤滑油に添加した際の潤滑油への溶解性が向上するためである。
【0051】
本発明の重合体の全構成単位の合計100mol%に対するその他の構成単位の割合は、本発明の重合体の原料単量体として、その他の構成単位(c)を導入するためのその他の単量体の仕込み量から計算により求めることができる。
【0052】
[重合体の重量平均分子量(Mw)]
本発明の重合体の重量平均分子量の下限値は、粘度指数向上効果の観点から、好ましくは5000以上であり、6000以上であることがより好ましく、7000以上であることが更に好ましい。一方、本発明の重合体の重量平均分子量の上限値は、潤滑油への溶解性の観点から、好ましくは50万以下であり、30万以下であることがより好ましく、25万以下であることが更に好ましい。
【0053】
[重合体の数平均分子量(Mn)]
本発明の重合体の数平均分子量の下限値は、粘度指数向上の観点から、5000以上であることが好ましく、6000以上であることがより好ましい。一方、本発明の重合体の数平均分子量の上限値は、潤滑油への溶解性の観点から、30万以下であることが好ましく、25万以下であることがより好ましい。
【0054】
[重合体の溶媒溶解性]
本発明の重合体は、溶媒に対して可溶であることが好ましい。
ここで、溶媒としては特に制限はないが、後述の本発明の潤滑油添加剤に用いられる鉱油または合成化学油等が挙げられる。
【0055】
[重合体の製造方法]
本発明の重合体を製造する方法としては特に制限はなく、原料単量体として構成単位(a)を導入するための前記式(1)で表される水酸基含有メタクリレートと、好ましくは更に構成単位(b)を導入するための(メタ)アクリロイル基含有化合物と、必要に応じてその他の構成単位(c)を導入するためのその他の単量体を、前述の好適割合で用いて、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法等の公知の重合方法により重合することで製造することができる。
【0056】
これらの方法のうち、本発明の重合体と溶媒とを含む本発明の潤滑油添加剤を製造するには、後述の通り、溶媒を用いる溶液重合法を採用することが好ましい。
【0057】
〔潤滑油添加剤〕
本発明の潤滑油添加剤は、本発明の重合体を含むものであり、好ましくは本発明の重合体と溶媒とを含むものである。
【0058】
本発明の潤滑油添加剤は、本発明の重合体の1種のみを含むものであってもよく、構成単位の種類や組成等の異なる重合体の2種以上を含むものであってもよい。
【0059】
本発明の潤滑油添加剤に含まれる溶媒としては、基油(ベースオイル)としての、パラフィン系、ナフテン系、芳香族系、PAO(ポリ-α-オレフィン)、ポリブテン、エチレンプロピレン共重合体(EPO)、脂肪族エステル、GTL(Gas To Liquid)、アルキルベンゼン、シリコーンオイル、ポリアルキレングリコール(PAG)等の油成分の1種又は2種以上が挙げられる。
【0060】
特に、本発明の潤滑油添加剤は、本発明の重合体が溶媒としての基油(ベースオイル)に溶解して存在していることが分散性の観点から好ましい。この場合において、溶媒としての基油(ベースオイル)は、パラフィン油、ナフテン油の鉱油、並びにPAO(ポリ-α-オレフィン)、ポリブテン、エチレンプロピレン共重合体(EPO)、脂肪族エステル、GTL(Gas To Liquid)、アルキルベンゼン、シリコーンオイル、ポリアルキレングリコール(PAG)の化学合成油の1種又は2種以上を含むことが好ましい。
本発明の潤滑油添加剤は、パラフィン油を基油100質量%中に10質量%以上、特に15質量%以上、とりわけ20~100質量%含有することが好ましい。
【0061】
本発明の潤滑油添加剤は、本発明の重合体及び溶媒以外に各種添加剤を含有してもよい。
該各種添加剤としては、清浄剤、分散剤、酸化防止剤、油性向上剤、摩擦摩耗調整剤、極圧剤、消泡剤、抗乳化剤、腐食防止剤等が挙げられる。
【0062】
本発明の潤滑油添加剤に占める本発明の重合体の割合は、潤滑油添加剤の全構成成分の合計100質量%に対して、好ましくは0.1~100質量%である。また、本発明の潤滑油添加剤は、基油としての溶媒100質量部に対して、本発明の重合体を0.1~90質量部含むことが好ましい。
【0063】
本発明の潤滑油添加剤は、増ちょう剤を含有したグリースであってもよい。増ちょう剤としては、例えば、石けん系(リチウム石けん、カルシウム石けん、ナトリウム石けん、アルミニウム石けん等)や、無機物系(ベントナイト、シリカゲル等)、有機物系(ポリウレア、ポリウレタン等)等が挙げられる。
【0064】
前述の通り、本発明の重合体を溶液重合法により製造することにより、本発明の潤滑油添加剤を製造することができる。
以下、溶液重合法により本発明の潤滑油添加剤を製造する方法について詳細に説明する。
溶液重合法では、原料単量体として構成単位(a)を導入するための前記式(1)で表される水酸基含有メタクリレートと、構成単位(b)を導入するための(メタ)アクリロイル基含有化合物と、必要に応じてその他の構成単位(c)を導入するためのその他の単量体を、前述の好適割合で用いて、反応溶媒(重合溶媒)中、重合開始剤の存在下に重合させる。
溶液重合法によれば、本発明の重合体を製造すると同時に本発明の潤滑油添加剤を製造することができる。
【0065】
<重合開始剤>
本発明の潤滑油添加剤を製造するにあたっては、公知のラジカル重合開始剤を用いて、公知の方法で製造を行えばよい。
ラジカル重合開始剤としては、有機過酸化物やアゾ化合物等が挙げられる。ラジカル重合開始剤は、1種を単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0066】
ラジカル重合開始剤として用いられる好適な有機過酸化物の具体例としては、t-ブチルパーオキシピバレート、o-メチルベンゾイルパーオキサイド、ビス-3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、オクタノイルパーオキサイド、シクロヘキサノンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、t-ブチルハイドロパーオキサイド、ジ-t-ブチルパーオキサイド、t-ブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート等が挙げられる。
アゾ化合物の具体例としては、2,2’-アゾビスイソブチロニトリル、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、2,2’-アゾビス(2,4-ジメチル-4-メトキシバレロニトリル)等が挙げられる。
これらの中でも、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート等が好ましい。
【0067】
<重合溶媒>
本発明の潤滑油添加剤を製造するにあたっては、重合溶媒に一般の有機溶媒を使用することができる。
潤滑油添加剤への適合性の観点から、重合溶媒としては、鉱油及び合成化学油のうちの少なくとも一つを用いることが好ましく、中でもパラフィン油を使用するのが好ましい。この場合、重合溶媒として用いた鉱油及び/又は合成化学油、好ましくはパラフィン油と生成した重合体を含む反応生成物を本発明の潤滑油添加剤として用いることができる。
【0068】
重合溶媒は、その全量100質量%中に、パラフィン油を10質量%以上含むことが重合制御の観点から好ましく、特にパラフィン油の含有量は15質量%以上、とりわけ20~100質量%であることが好ましい。
【0069】
〔粘度指数向上剤〕
本発明の粘度指数向上剤は、本発明の重合体と鉱油または合成化学油等の溶媒とを含む本発明の潤滑油添加剤を含むものであり、潤滑油に添加して粘度指数を向上させることができる。
【0070】
本発明の潤滑油添加剤を、粘度指数向上剤として、駆動系潤滑油、自動変速機油、作動油、エンジン油等の各種潤滑油に用いる場合、後掲の実施例の項に記載の方法で測定される粘度指数(VI)が180よりも大きいことが好ましく、190以上となることがより好ましい。この粘度指数(VI)の上限には特に制限はないが、通常250以下である。
【0071】
〔潤滑油〕
本発明の潤滑油は、本発明の潤滑油添加剤(本発明の粘度指数向上剤でもある。)を含むものであり、その具体例としては、駆動系潤滑油、自動変速機油、作動油、エンジン油等の各種潤滑油が挙げられる。
【0072】
これらの潤滑油における本発明の潤滑油添加剤(本発明の粘度指数向上剤)の含有量については特に制限はないが、潤滑油中の本発明の重合体の含有量として0.01質量%以上、特に0.1質量%以上で、50質量%以下、特に40質量%以下となるような含有量であることが、その粘度指数向上効果を有効に得る上で好ましい。
【実施例0073】
以下、実施例及び比較例によって本発明を詳細に説明する。本発明は以下の記載によって限定されるものではない。
【0074】
<構成単位の割合>
重合体中の各構成単位の割合は、単量体の仕込み量から計算した。重合体の全構成単位の合計100質量%に対する水酸基含有メタクリレート単位の割合は、水酸基含有メタクリレートの仕込み量から計算した。重合体の全構成単位の合計100質量%に対する(メタ)アクリロイル基含有化合物単位の割合は、(メタ)アクリロイル基含有化合物の仕込み量から計算した。
【0075】
<重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)>
重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子(Mn)は、潤滑油ベースオイル(SKルブリカンツ(株)製、商品名:YUBASE4)に対して溶解したものについてのみ、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)により標準ポリスチレン換算の分子量で求めた。測定装置及び条件は、以下の通りである。
・装置:HLC-8420GPC 東ソー(株)製
・分離カラム:TSK-GEL SUPER HM-H(排除限界分子量=4×10
6.0mmφ×150mm
・検出器:RI(示差屈折計)、UV
・溶離液:テトラヒドロフラン(THF)
・流速:0.600mL/min
・サンプル濃度:0.02g/10mL
・カラム温度:40℃
【0076】
<粘度指数(VI)>
ASTM D7279(D445)法に準拠し、動粘度計(Anton Paar社製、商品名:SVM 3001)を用いて評価を実施した。
実施例及び比較例で得られた重合溶液を、潤滑油ベースオイル(SKルブリカンツ(株)製、商品名:YUBASE4)で希釈した溶液について、100℃における動粘度(VK100)を測定し、VK100=6.5±0.5となる重合体希釈溶液の濃度で、40℃における動粘度(VK40)を測定し、得られた「VK100」および「VK40」を用い、JIS K2283(1993)の方法で粘度指数(VI)を算出した。
ここで、潤滑油ベースオイルに溶解しない場合は、粘度指数(VI)の測定は不可能であるので、測定は実施しなかった。
【0077】
<溶解性>
上記粘度指数(VI)の測定のために調製した溶液について、重合体の溶解性を調べ、下記基準で評価した。
○:潤滑油ベースオイルに溶解した。
×:潤滑油ベースオイルに不溶であった。
【0078】
〔実施例1〕
乾燥させたシュレンク管に、潤滑油ベースオイル(SKルブリカンツ(株)製、商品名:YUBASE4)233質量部と、表1に示す原料単量体を表1に示すモル比で用い、原料単量体の合計が100質量部となるように仕込み、シュレンク管内を窒素で十分に置換した後、100℃に昇温した。次いで、重合開始剤として、1,1,3,3-テトラメチルブチルパーオキシ-2-エチルヘキサノエート(日油(株)製、商品名:パーオクタO)を3.8質量部添加し、10時間反応させた。得られた重合溶液を潤滑油添加剤として前述の各種評価を実施した。結果を表1に示す。
【0079】
なお、表1中、原料単量体の略号は以下の通りである。
【0080】
ブレンマーPP-800:ポリプロピレングリコール-モノメタクリレート(日油(株)製、下記式(3)で表される化合物)
【化4】
【0081】
ブレンマーPP-1000:ポリプロピレングリコール-モノメタクリレート(日油(株)製、下記式(4)で表される化合物)
【化5】
【0082】
HEMA:エチレングリコールメタクリレート(三菱ケミカル(株)製、下記式(5)で表される化合物)
【0083】
【化6】
【0084】
NKエステルAM-130G:ポリエチレングリコール-モノメタクリレ―ト(新中村化学工業(株)製、下記式(6)で表される化合物)
【化7】
【0085】
SLMA:アルキル基の炭素数が12のアルキルメタクリレートとアルキル基の炭素数が13のアルキルメタクリレートとの混合物(三菱ケミカル(株)製 アクリエステルSL)
【0086】
【表1】
【0087】
表1より次のことが分かる。
本発明の重合体を用いた実施例1~4では、いずれも粘度指数(VI)が大きく、粘度指数向上効果に優れることが分かる。
これに対して、水酸基含有メタクリレートに由来する構成単位(a)を含まず、水酸基非含有のメタクリレートを用いた比較例1では、粘度指数(VI)が劣る。また、比較例2では、溶解性に劣る。
比較例3は、水酸基含有メタクリレートに由来する構成単位を含むが、式(1)におけるnが1の水酸基含有メタクリレートであり、溶解性に劣る。
比較例4は、溶解性を得ることができるが、粘度指数の向上効果において、本発明の重合体よりも劣る。