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特開2024-172573タマネギ種植物における鱗茎の縦横径比率の程度を判定する方法、縦長性のタマネギ種植物を製造する製造方法、タマネギ種植物における鱗茎の縦横径比率に関する分子マーカー、及び縦長性のタマネギ種植物を判定するための判定キット
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  • 特開-タマネギ種植物における鱗茎の縦横径比率の程度を判定する方法、縦長性のタマネギ種植物を製造する製造方法、タマネギ種植物における鱗茎の縦横径比率に関する分子マーカー、及び縦長性のタマネギ種植物を判定するための判定キット 図1
  • 特開-タマネギ種植物における鱗茎の縦横径比率の程度を判定する方法、縦長性のタマネギ種植物を製造する製造方法、タマネギ種植物における鱗茎の縦横径比率に関する分子マーカー、及び縦長性のタマネギ種植物を判定するための判定キット 図2
  • 特開-タマネギ種植物における鱗茎の縦横径比率の程度を判定する方法、縦長性のタマネギ種植物を製造する製造方法、タマネギ種植物における鱗茎の縦横径比率に関する分子マーカー、及び縦長性のタマネギ種植物を判定するための判定キット 図3
  • 特開-タマネギ種植物における鱗茎の縦横径比率の程度を判定する方法、縦長性のタマネギ種植物を製造する製造方法、タマネギ種植物における鱗茎の縦横径比率に関する分子マーカー、及び縦長性のタマネギ種植物を判定するための判定キット 図4
  • 特開-タマネギ種植物における鱗茎の縦横径比率の程度を判定する方法、縦長性のタマネギ種植物を製造する製造方法、タマネギ種植物における鱗茎の縦横径比率に関する分子マーカー、及び縦長性のタマネギ種植物を判定するための判定キット 図5
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172573
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】タマネギ種植物における鱗茎の縦横径比率の程度を判定する方法、縦長性のタマネギ種植物を製造する製造方法、タマネギ種植物における鱗茎の縦横径比率に関する分子マーカー、及び縦長性のタマネギ種植物を判定するための判定キット
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6895 20180101AFI20241205BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20241205BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20241205BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20241205BHJP
   A01H 6/04 20180101ALI20241205BHJP
【FI】
C12Q1/6895 Z ZNA
C12N15/11 Z
C12Q1/686 Z
C12Q1/6869 Z
A01H6/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090367
(22)【出願日】2023-05-31
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構、戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)「スマートバイオ産業・農業基盤技術」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】関根 大輔
(72)【発明者】
【氏名】塚▲崎▼ 光
(72)【発明者】
【氏名】奥 聡史
【テーマコード(参考)】
2B030
4B063
【Fターム(参考)】
2B030AA02
2B030AB03
2B030AD20
2B030CA04
4B063QA20
4B063QQ04
4B063QQ42
4B063QQ52
4B063QR08
4B063QR62
4B063QS24
4B063QS34
4B063QX02
(57)【要約】      (修正有)
【課題】縦長性のタマネギ個体を選別するための技術を提供する。
【解決手段】タマネギ種植物における鱗茎の縦横径比率の程度を判定する方法は、タマネギ種植物において、特定の配列のいずれかの塩基に相当する塩基から5cM以内の遺伝距離にある塩基の少なくとも1つ、又は、当該塩基を含む連続したポリヌクレオチドを、タマネギ種植物における鱗茎の縦横径比率に関する分子マーカーとして判定する工程を含む。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
タマネギ種植物における鱗茎の縦横径比率の程度を判定する方法であって、
タマネギ種植物において、下記(a)~(g)のいずれかの塩基に相当する塩基から5cM以内の遺伝距離にある塩基の少なくとも1つ、又は、当該塩基を含む連続したポリヌクレオチドを、タマネギ種植物における鱗茎の縦横径比率に関する分子マーカーとして判定する工程を含む、方法:
(a)配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの52番目の塩基;
(b)配列番号2に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの94番目の塩基;
(c)配列番号3に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの87番目の塩基;
(d)配列番号4に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの44番目の塩基;
(e)配列番号5に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの116番目の塩基;
(f)配列番号6に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの61番目の塩基;
(g)配列番号7に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの26番目の塩基。
【請求項2】
前記分子マーカーは、前記(a)~(g)のいずれかの塩基に相当する塩基から10kbの範囲内にある塩基の少なくとも1つ、又は、当該塩基を含む連続したポリヌクレオチドである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記分子マーカーは、前記(a)~(g)のいずれかの塩基に相当する塩基、又は、当該塩基を含む連続したポリヌクレオチドである、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記判定する工程において、前記分子マーカーを含む領域を増幅するプライマーを用いて、前記タマネギ種植物のDNAにおける前記領域を増幅する、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項5】
鱗茎における横径に対する縦径の比が1より大きい縦長の形質を有する縦長性のタマネギ種植物を製造する製造方法であって、
タマネギ種植物において、請求項1又は2に記載された方法によって、縦長性のタマネギ種植物を選抜する選抜工程
を含む、製造方法。
【請求項6】
前記選抜工程において選抜された縦長性のタマネギ種植物の後代において、前記選抜工程を1又は複数回繰り返し行う、請求項5に記載の製造方法。
【請求項7】
タマネギ種植物における鱗茎の縦横径比率に関する分子マーカーであって、
下記(a)~(g)のいずれかの塩基に相当する塩基から5cM以内の遺伝距離にある塩基の少なくとも1つ、又は、当該塩基を含む連続したポリヌクレオチドを含む、分子マーカー:
(a)配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの52番目の塩基;
(b)配列番号2に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの94番目の塩基;
(c)配列番号3に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの87番目の塩基;
(d)配列番号4に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの44番目の塩基;
(e)配列番号5に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの116番目の塩基;
(f)配列番号6に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの61番目の塩基;
(g)配列番号7に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの26番目の塩基。
【請求項8】
鱗茎における横径に対する縦径の比が1より大きい縦長の形質を有する縦長性のタマネギ種植物を判定するための判定キットであって、
タマネギ種植物において、下記(a)~(g)のいずれかの塩基に相当する塩基から5cM以内の遺伝距離にある塩基の少なくとも1つ、又は、当該塩基を含む連続したポリヌクレオチドを含む領域を増幅するプライマーを含む、判定キット:
(a)配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの52番目の塩基;
(b)配列番号2に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの94番目の塩基;
(c)配列番号3に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの87番目の塩基;
(d)配列番号4に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの44番目の塩基;
(e)配列番号5に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの116番目の塩基;
(f)配列番号6に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの61番目の塩基;及び
(g)配列番号7に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの26番目の塩基。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タマネギ種植物における鱗茎の縦横径比率の程度を判定する方法、縦長性のタマネギ種植物を製造する製造方法、タマネギ種植物における鱗茎の縦横径比率に関する分子マーカー、及び縦長性のタマネギ種植物を判定するための判定キットに関する。
【背景技術】
【0002】
国産および輸入タマネギのうち、約6割が業務加工用に利用されており、加工業務向けのタマネギの需要は極めて高い。近年、コロナ禍による海外サプライチェーンの混乱により、輸入が減少し、タマネギの価格高騰の一因となったため、国内での業務加工用タマネギの増産が期待されている。タマネギは加工時に上下部分をカットするが、縦長のタマネギは、カットされる体積が少なく、一般的な丸型のタマネギに比べて6%程度加工歩留まりが高いため、加工適性に優れている。そのため、縦長の形質を有する縦長性のタマネギ品種の開発が求められている。非特許文献1~3には、縦長性のタマネギ品種が記載されている。
【0003】
従来、タマネギの育種方法として、実際にタマネギを栽培し、収穫したタマネギの形質に基づいて所望の形質を有する個体を選抜することで系統化して品種育成する方法が用いられている。また、タマネギの育種方法としては、特許文献1に記載された、分子マーカーを利用した辛み及び催涙性のないタマネギの育種方法が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2019-058087号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】たまねぎ「OPP-6」, https://www.affrc.maff.go.jp/docs/research_result/norin_number/pdf/h26_onion_16.pdf
【非特許文献2】杉山ら 2022,「縦長形状で乾物率が高い加工用タマネギ‘すらりっぷ’の育成」園学研, vol.21, no.2, 237-246
【非特許文献3】農研機構2013年の成果情報「剥皮加工歩留りの高い縦長形F1タマネギ新品種「カロエワン」」, https://www.naro.go.jp/project/results/laboratory/harc/2013/harc13_s01.html#:~:text=「カロエワン」は縦長形の,高く、作業性も良い。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従来のタマネギの育種方法では、タマネギの栽培、収穫、形質測定等に多くの時間と労力を要する。特に、タマネギは2年生作物であることから、従来の形質評価に基づいた育種選抜では開発に10年以上の長い年月を要する。また、タマネギの生育は栽培環境の影響を強く受けるため、ある年に選抜した所望の形質を有する個体の後代が別の年では当該形質を有さないことも多く、所望の形質を有するポテンシャルが高い個体を正確に選抜することが難しい。
【0007】
さらに、非特許文献1~3に記載されている縦長性のタマネギ品種は、栽培に適した地域が限られており、当該地域以外での栽培に適した縦長性のタマネギ品種が求められている。また、特許文献1に記載されているような分子マーカーを利用した、縦長性のタマネギの育種方法は知られていない。
【0008】
本発明の一態様は、上述した問題を解決するためになされたものであり、縦長性のタマネギ個体を選別するための技術を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一態様に係る判定する方法は、タマネギ種植物における鱗茎の縦横径比率の程度を判定する方法であって、タマネギ種植物において、下記(a)~(g)のいずれかの塩基に相当する塩基から5cM以内の遺伝距離にある塩基の少なくとも1つ、又は、当該塩基を含む連続したポリヌクレオチドを、タマネギ種植物における鱗茎の縦横径比率に関する分子マーカーとして判定する工程を含む:
(a)配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの52番目の塩基;
(b)配列番号2に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの94番目の塩基;
(c)配列番号3に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの87番目の塩基;
(d)配列番号4に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの44番目の塩基;
(e)配列番号5に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの116番目の塩基;
(f)配列番号6に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの61番目の塩基;
(g)配列番号7に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの26番目の塩基。
【0010】
本発明の一態様に係る製造方法は、鱗茎における横径に対する縦径の比が1より大きい縦長の形質を有する縦長性のタマネギ種植物を製造する製造方法であって、タマネギ種植物において、本発明の一態様に係る判定する方法によって、縦長性のタマネギ種植物を選抜する選抜工程を含む。
【0011】
本発明の一態様に係る分子マーカーは、タマネギ種植物における鱗茎の縦横径比率に関する分子マーカーであって、下記(a)~(g)のいずれかの塩基に相当する塩基から5cM以内の遺伝距離にある塩基の少なくとも1つ、又は、当該塩基を含む連続したポリヌクレオチドを含む:
(a)配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの52番目の塩基;
(b)配列番号2に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの94番目の塩基;
(c)配列番号3に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの87番目の塩基;
(d)配列番号4に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの44番目の塩基;
(e)配列番号5に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの116番目の塩基;
(f)配列番号6に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの61番目の塩基;
(g)配列番号7に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの26番目の塩基。
【0012】
本発明の一態様に係る判定キットは、鱗茎における横径に対する縦径の比が1より大きい縦長の形質を有する縦長性のタマネギ種植物を判定するための判定キットであって、タマネギ種植物において、下記(a)~(g)のいずれかの塩基に相当する塩基から5cM以内の遺伝距離にある塩基の少なくとも1つ、又は、当該塩基を含む連続したポリヌクレオチドを含む領域を増幅するプライマーを含む:
(a)配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの52番目の塩基;
(b)配列番号2に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの94番目の塩基;
(c)配列番号3に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの87番目の塩基;
(d)配列番号4に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの44番目の塩基;
(e)配列番号5に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの116番目の塩基;
(f)配列番号6に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの61番目の塩基;及び
(g)配列番号7に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの26番目の塩基。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、縦長性のタマネギ個体を選別するための技術を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】実施例において、鱗茎の縦横比のQTL解析結果を示す図である。
図2】実施例において、QTL解析により検出された分子マーカーの連鎖地図を示す図である。
図3】実施例において測定した、各マーカーの遺伝子型とタマネギ鱗茎の縦横比との関係を示す図である。
図4】実施例において測定した、各マーカーの遺伝子型とタマネギ鱗茎の縦横比との関係を示す図である。
図5】実施例において測定した、各マーカーの遺伝子型とタマネギ鱗茎の縦横比との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。なお、本明細書中に記載された文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。また、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上(Aを含みかつAより大きい)、B以下(Bを含みかつBより小さい)」を意味する。
【0016】
本明細書中で使用される場合、用語「ポリヌクレオチド」は、「核酸」又は「核酸分子」と交換可能に使用され、ヌクレオチドの重合体が意図される。ここで、核酸は、DNAの形態(例えば、cDNA若しくはゲノムDNA)、又は、RNA(例えば、mRNA)の形態にて存在し得る。DNA又はRNAは、二本鎖であっても、一本鎖であってもよい。一本鎖DNA又はRNAは、コード鎖(センス鎖)であっても、非コード鎖(アンチセンス鎖)であってもよい。本明細書において使用される場合、塩基の表記は、適宜IUPAC及びIUBの定める1文字表記を使用する。
【0017】
本発明の一態様において、タマネギ種植物には、タマネギ(Allium cepa)及びタマネギの変種であるシャロットが含まれる。タマネギの品種は、一例として、「カロエワン」、「すらりっぷ」等が挙げられる。
【0018】
タマネギ種植物は、育種素材の候補植物であるか、育種のプロセスで得られた植物であり得る。育種素材の候補植物としては、例えば、交配に用いる親植物、及び、遺伝子組換え技術を利用した分子育種に用いられる植物が含まれる。また、育種のプロセスで得られた植物としては、例えば、タマネギ種植物の上述したような品種に属する植物を種内交雑した植物、及びこれらの後代系統である。また、タマネギ種植物は、ある品種に属するタマネギ種植物と他の品種に属するタマネギ種植物との交雑植物のように種間交雑した植物、及びその後代系統であってもよい。さらに、タマネギ種植物は、縦長性であることが分かっている品種同士を種間交雑した植物、及びその後代系統であってもよい。また、タマネギ種植物は、縦長性であることが分かっている個体同士を種内交雑した植物、及びその後代系統であってもよい。さらに、タマネギ種植物は、縦長性であることが分かっている品種と縦長性ではない品種とを種間交雑した植物、縦長性ではない品種同士を種間交雑した植物、及びそれらの後代系統であってもよい。
【0019】
本明細書において、植物とは、植物体の一部又は全部であってもよい。植物体の一部としては、例えば、繁殖素材(種子、鱗茎等)、鱗葉、花、根等が挙げられる。
【0020】
本明細書において、タマネギ種植物が縦長性であるとは、タマネギ種植物における鱗茎の縦径が、当該縦径に直交する横径よりも長いことが意図される。縦径は、根と、根に対向する首とを結ぶ縦方向に鱗茎を切断した断面において、根と首とを結ぶ線分の長さであることが意図される。また、横径は、上述した断面において、当該縦径に直交する線分のうち最大のものの長さが意図される。鱗茎における横径に対する縦径の比が1より大きい場合、当該タマネギ種植物は縦長の形質を有する縦長性のタマネギ種植物であると言える。縦長性のタマネギ種植物においては、縦径が長径であり、横径が短径である。タマネギ種植物が縦長性であるか否かは、鱗茎の縦径と横径との比率を表す縦横径比率(縦横比)の程度により判断することができる。
【0021】
〔タマネギ種植物における鱗茎の縦横径比率に関する分子マーカー〕
本発明の一態様に係る分子マーカーは、タマネギ種植物における鱗茎の縦横径比率に関する分子マーカーである。分子マーカーは、縦長性のタマネギ種植物を選抜可能な分子マーカーであり、縦長性を有するタマネギ種植物を選抜可能な一塩基多型(SNP)のアレルを検出するための分子マーカーである。
【0022】
分子マーカーは、下記(a)~(g)のいずれかの塩基に相当する塩基から5cM以内の遺伝距離にある塩基の少なくとも1つ、又は、当該塩基を含む連続したポリヌクレオチドを含む:
(a)配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの52番目の塩基;
(b)配列番号2に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの94番目の塩基;
(c)配列番号3に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの87番目の塩基;
(d)配列番号4に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの44番目の塩基;
(e)配列番号5に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの116番目の塩基;
(f)配列番号6に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの61番目の塩基;及び
(g)配列番号7に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの26番目の塩基。
【0023】
本発明の一態様に係る分子マーカーは、タマネギ種植物の第5染色体上の鱗茎の縦横径比率に関する遺伝子座を特定するために用いることができる。鱗茎の縦横径比率に関する遺伝子座とは、鱗茎の縦横径比率に影響する量的形質遺伝子座又は遺伝子領域を意味する。前記量的形質遺伝子座(Quantitative Trait Loci;QTL)は、一般に、量的形質の発現に関与する染色体領域を意味する。QTLは、染色体上の特定の座を示す分子マーカーを使用して規定できる。前記分子マーカーを使用してQTLを規定する技術は、当該技術分野において周知である。
【0024】
本発明の一態様に係る分子マーカーは、一例として、SNPマーカー、AFLP(分子増幅断片長多型)マーカー、RFLPマーカー、マイクロサテライトマーカー、SCARマーカー、CAPSマーカー等である。
【0025】
上記(a)~(g)のいずれかの塩基に相当する塩基から5cM以内の遺伝距離にある塩基の少なくとも1つ、又は当該塩基を含む連続したポリヌクレオチドは、一例として、本実施例に記載されたSNPマーカー又はこれと同一視できるSNPマーカーである。本実施例に記載されたSNPマーカーと同一視できるSNPマーカーは、本実施例に記載されたSNPマーカーから5cM以内の遺伝距離にあるSNPマーカーである。
【0026】
本発明の一態様において、分子マーカーは、上記(a)~(g)のいずれかの塩基に相当する塩基から5cM以内の遺伝距離にある塩基である。上述したように、上記(a)~(g)の塩基に相当する塩基の近傍に、鱗茎の縦横径比率に関わる遺伝子が存在すると予測できる。したがって、上記(a)~(g)のいずれかの塩基に相当する塩基から5cM以内の遺伝距離にある塩基は、上記(a)~(g)の塩基に相当する塩基と同様に、鱗茎の縦横径比率に関する分子マーカーとして使用可能である。後述する実施例に示すように、上記(a)~(g)の塩基に相当する塩基は、それぞれ5cM以内の遺伝距離にある。分子マーカーは、上記(a)~(g)のいずれかの塩基に相当する塩基からの3cM以内の遺伝距離にある塩基であることが好ましく、より好ましく2cM以内の遺伝距離にある塩基である。
【0027】
本発明の他の態様において、分子マーカーは、上記(a)~(g)のいずれかの塩基に相当する塩基から10kbの範囲内にある塩基である。後述する実施例に示すように、上記(a)~(g)の塩基に相当する塩基はそれぞれ、同じ連鎖群上に位置しており、それらの近傍に強いQTLが検出されている。したがって、上記(a)~(g)の塩基に相当する塩基の近傍に、鱗茎の縦横径比率に関わる遺伝子が存在すると予測できる。すなわち、上記(a)~(g)のいずれかの塩基に相当する塩基から10kbの範囲内にある塩基は、上記(a)~(g)の塩基に相当する塩基と同様に、鱗茎の縦横径比率に関する分子マーカーとして使用可能である。分子マーカーは、上記(a)~(g)のいずれかの塩基に相当する塩基から、好ましくは8kbの範囲内にある塩基であり、より好ましくは5kbの範囲内にある塩基である。
【0028】
本発明のさらに他の態様において、分子マーカーは、上記(a)の塩基に相当する塩基から5cM以内の遺伝距離にあり、かつ、上記(g)の塩基に相当する塩基から5cM以内の遺伝距離にある塩基である。また、分子マーカーは、上記(a)の塩基に相当する塩基から3cM、2cM、又は1cM以内の遺伝距離にあり、かつ、上記(g)の塩基に相当する塩基から3cM、2cM、又は1cM以内の遺伝距離にある塩基である。
【0029】
なお、本発明の一態様において、分子マーカーは、上記(a)~(g)のいずれかの塩基に相当する塩基と連鎖不平衡である塩基であってもよい。「連鎖不平衡」とは、2つの対立遺伝子がそれぞれ独立に遺伝する場合よりも大きな頻度で互いに連鎖して遺伝することをいう。本発明の一態様において、分子マーカーは、上記(a)~(g)のいずれかの塩基に相当する塩基と連鎖不平衡である塩基であり、好ましくは、上記(a)~(g)のいずれかの塩基に相当する塩基と連鎖不平衡係数r2≧0.9の関係にある塩基である。
【0030】
また、上記(a)~(g)のいずれかの塩基に相当する塩基と連鎖不平衡である塩基は、より好ましくは、上記(a)~(g)のいずれかの塩基に相当する塩基と連鎖不平衡係数r2≧0.95の関係にある塩基である。また、上記(a)~(g)のいずれかの塩基に相当する塩基と連鎖不平衡である塩基は、さらに好ましくは、上記(a)~(g)のいずれかの塩基に相当する塩基と連鎖不平衡係数r2≧1の関係にある塩基である。上記(a)~(g)のいずれかの塩基と連鎖不平衡である塩基は、一例として、複数のタマネギ種植物から採取したDNAをシークエンサーにて配列解析し、連鎖不平衡にある塩基を探索することにより同定することができる。
【0031】
SNPマーカーは、(i)SNPに相当する塩基自体、(ii)SNPを含む連続したポリヌクレオチド、又は、(iii)2以上のSNPを含む連続したポリヌクレオチドであり得る。
【0032】
(i:SNPマーカー)
本発明の一態様に係る分子マーカーを用いれば、タマネギ種植物における鱗茎の縦横径比率の程度を判定することができる。
【0033】
ここで、SNPは、DNAの塩基配列中のある特定の領域内に一塩基の変異が見られるDNA多型を意味している。SNPマーカーにおいて、SNPは、タマネギ(Allium cepa)のゲノム配列を基準とした一塩基多型である。基準植物であるタマネギのゲノム配列(Onion genome sequence v1.2)は、ゲノムデータベース(https://www.oniongenome.wur.nl)に公表されている。
【0034】
「(a)~(g)の塩基」とは、本実施例に記載されたSNPマーカーである。「(a)~(g)の塩基に相当する塩基」とは、本実施例に記載されたSNPマーカーと同一視できるSNPマーカーである。「(a)~(g)の塩基」は、第5染色体上の鱗茎の縦横径比率に関する遺伝子領域上の変異である。第5染色体上の鱗茎の縦横径比率に関する遺伝子座は、基準となるタマネギ種植物由来の塩基配列からなる。他のタマネギ種植物においては、基準となる塩基配列に対してSNP以外の部分でも塩基配列が異なる部分が含まれ得る。このSNPマーカーが位置するゲノム上の領域は、多数のタマネギ種植物間で保存されているため、ホモロジー検索等の手法によって、このSNPマーカーを特定することができる。
【0035】
すなわち、他のタマネギ種植物において、第5染色体上の鱗茎の縦横径比率に関する遺伝子座(すなわち植物間で高度に保存されている遺伝子座)が存在する場合、「(a)~(g)のいずれかの塩基に相当する塩基」とは、ホモロジー検索等の手法によって、(a)~(g)のいずれかの塩基に相当するとされた第5染色体上の鱗茎の縦横径比率に関する遺伝子座上の塩基を指す。例えば、後述する(a2)~(g2)に記載のポリヌクレオチドや、(a3)~(g3)に記載のポリヌクレオチドが、第5染色体上の鱗茎の縦横径比率に関する遺伝子座の一例である。
【0036】
本発明の一態様に係る分子マーカーは、上記の(a)~(g)のSNPを含むSNPマーカーである。このSNPマーカーは、本発明者らが同定したSNPマーカーであり、当業者は、このSNPマーカーのそれぞれのSNPを表す塩基配列に基づき、当該SNPマーカーのゲノム上の位置を特定することができる。
【0037】
(a)のSNP(以下、SNP(a)ともいう)は、配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの52番目の塩基又はこれに相当する塩基の多型を示している。また、(b)のSNP(以下、SNP(b)ともいう)は、配列番号2に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの94番目の塩基又はこれに相当する塩基の多型を示している。さらに、(c)のSNP(以下、SNP(c)ともいう)は、配列番号3に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの87番目の塩基又はこれに相当する塩基の多型を示している。また、(d)のSNP(以下、SNP(d)ともいう)は、配列番号4に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの44番目の塩基又はこれに相当する塩基の多型を示している。さらに、(e)のSNP(以下、SNP(e)ともいう)は、配列番号5に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの116番目の塩基又はこれに相当する塩基の多型を示している。また、(f)のSNP(以下、SNP(f)ともいう)は、配列番号6に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの61番目の塩基又はこれに相当する塩基の多型を示している。さらに、(g)のSNP(以下、SNP(g)ともいう)は、配列番号7に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの26番目の塩基又はこれに相当する塩基の多型を示している。なお、SNP(a)~SNP(g)は、それぞれ、後述する実施例におけるC41897166_1926、s1414041_1531、s1068243_3857、s1389323_3497、s635909_4851、s794299_11355、及びs1360847_16861に対応している。
【0038】
本発明の一態様に係る分子マーカーは、SNP(a)に相当する塩基のアレルが、Cのホモ接合型又はC/Aのヘテロ接合型であるとき、当該タマネギ種植物は縦長性であると判定することができる。また、SNP(b)に相当する塩基のアレルが、Tのホモ接合型又はT/Cのヘテロ接合型であるとき、当該タマネギ種植物は縦長性であると判定することができる。さらに、SNP(c)に相当する塩基のアレルが、Aのホモ接合型又はA/Gのヘテロ接合型であるとき、当該タマネギ種植物は縦長性であると判定することができる。また、SNP(d)に相当する塩基のアレルが、Gのホモ接合型又はG/Tのヘテロ接合型であるとき、当該タマネギ種植物は縦長性であると判定することができる。さらに、SNP(e)に相当する塩基のアレルが、Gのホモ接合型又はA/Gのヘテロ接合型であるとき、当該タマネギ種植物は縦長性であると判定することができる。また、SNP(f)に相当する塩基のアレルが、Cのホモ接合型又はC/Tのヘテロ接合型であるとき、当該タマネギ種植物は縦長性であると判定することができる。さらに、SNP(g)に相当する塩基のアレルが、Aのホモ接合型又はA/Gのヘテロ接合型であるとき、当該タマネギ種植物は縦長性であると判定することができる。また、分子マーカーは、SNP(a)~(g)の少なくとも2つをハプロタイプブロックとして解析することにより、タマネギ種植物における鱗茎の縦横径比率の程度、又は、タマネギ種植物が縦長性を有するか否かを判定してもよい。
【0039】
(ii:SNPを含むポリヌクレオチド)
本発明の一態様に係る分子マーカーは、SNP(a)を含む連続したポリヌクレオチド(以下、ポリヌクレオチド(a)ともいう)、SNP(b)を含む連続したポリヌクレオチド(以下、ポリヌクレオチド(b)ともいう)、SNP(c)を含む連続したポリヌクレオチド(以下、ポリヌクレオチド(c)ともいう)、SNP(d)を含む連続したポリヌクレオチド(以下、ポリヌクレオチド(d)ともいう)、SNP(e)を含む連続したポリヌクレオチド(以下、ポリヌクレオチド(e)ともいう)、SNP(f)を含む連続したポリヌクレオチド(以下、ポリヌクレオチド(f)ともいう)、または、SNP(g)を含む連続したポリヌクレオチド(以下、ポリヌクレオチド(g)ともいう)であってもよい。
【0040】
ポリヌクレオチド(a)は、(a1)配列番号1に示す塩基配列において、SNP(a)を含む領域の塩基配列からなるポリヌクレオチド、(a2)(a1)のポリヌクレオチドの塩基配列において、SNP(a)以外の塩基配列に対して、1又は数個の塩基が置換、欠失、付加又は挿入された塩基配列からなり、タマネギ種植物が縦長性を有するか否かを判定する機能を有するポリヌクレオチド、又は、(a3)(a1)のポリヌクレオチドの塩基配列において、SNP(a)以外の塩基配列に対して、90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、タマネギ種植物が縦長性を有するか否かを判定する機能を有するポリヌクレオチドである。
【0041】
ポリヌクレオチド(b)は、(b1)配列番号2に示す塩基配列において、SNP(b)を含む領域の塩基配列からなるポリヌクレオチド、(b2)(b1)のポリヌクレオチドの塩基配列において、SNP(b)以外の塩基配列に対して、1又は数個の塩基が置換、欠失、付加又は挿入された塩基配列からなり、タマネギ種植物が縦長性を有するか否かを判定する機能を有するポリヌクレオチド、又は、(b3)(b1)のポリヌクレオチドの塩基配列において、SNP(b)以外の塩基配列に対して、90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、タマネギ種植物が縦長性を有するか否かを判定する機能を有するポリヌクレオチドである。
【0042】
ポリヌクレオチド(c)は、(c1)配列番号3に示す塩基配列において、SNP(c)を含む領域の塩基配列からなるポリヌクレオチド、(c2)(c1)のポリヌクレオチドの塩基配列において、SNP(c)以外の塩基配列に対して、1又は数個の塩基が置換、欠失、付加又は挿入された塩基配列からなり、タマネギ種植物が縦長性を有するか否かを判定する機能を有するポリヌクレオチド、又は、(c3)(c1)のポリヌクレオチドの塩基配列において、SNP(c)以外の塩基配列に対して、90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、タマネギ種植物が縦長性を有するか否かを判定する機能を有するポリヌクレオチドである。
【0043】
ポリヌクレオチド(d)は、(d1)配列番号4に示す塩基配列において、SNP(d)を含む領域の塩基配列からなるポリヌクレオチド、(d2)(d1)のポリヌクレオチドの塩基配列において、SNP(d)以外の塩基配列に対して、1又は数個の塩基が置換、欠失、付加又は挿入された塩基配列からなり、タマネギ種植物が縦長性を有するか否かを判定する機能を有するポリヌクレオチド、又は、(d3)(d1)のポリヌクレオチドの塩基配列において、SNP(d)以外の塩基配列に対して、90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、タマネギ種植物が縦長性を有するか否かを判定する機能を有するポリヌクレオチドである。
【0044】
ポリヌクレオチド(e)は、(e1)配列番号4に示す塩基配列において、SNP(e)を含む領域の塩基配列からなるポリヌクレオチド、(e2)(e1)のポリヌクレオチドの塩基配列において、SNP(e)以外の塩基配列に対して、1又は数個の塩基が置換、欠失、付加又は挿入された塩基配列からなり、タマネギ種植物が縦長性を有するか否かを判定する機能を有するポリヌクレオチド、又は、(e3)(e1)のポリヌクレオチドの塩基配列において、SNP(e)以外の塩基配列に対して、90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、タマネギ種植物が縦長性を有するか否かを判定する機能を有するポリヌクレオチドである。
【0045】
ポリヌクレオチド(f)は、(f1)配列番号4に示す塩基配列において、SNP(f)を含む領域の塩基配列からなるポリヌクレオチド、(f2)(f1)のポリヌクレオチドの塩基配列において、SNP(f)以外の塩基配列に対して、1又は数個の塩基が置換、欠失、付加又は挿入された塩基配列からなり、タマネギ種植物が縦長性を有するか否かを判定する機能を有するポリヌクレオチド、又は、(f3)(f1)のポリヌクレオチドの塩基配列において、SNP(f)以外の塩基配列に対して、90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、タマネギ種植物が縦長性を有するか否かを判定する機能を有するポリヌクレオチドである。
【0046】
ポリヌクレオチド(g)は、(g1)配列番号4に示す塩基配列において、SNP(g)を含む領域の塩基配列からなるポリヌクレオチド、(g2)(g1)のポリヌクレオチドの塩基配列において、SNP(g)以外の塩基配列に対して、1又は数個の塩基が置換、欠失、付加又は挿入された塩基配列からなり、タマネギ種植物が縦長性を有するか否かを判定する機能を有するポリヌクレオチド、又は、(g3)(g1)のポリヌクレオチドの塩基配列において、SNP(g)以外の塩基配列に対して、90%以上の同一性を有する塩基配列からなり、タマネギ種植物が縦長性を有するか否かを判定する機能を有するポリヌクレオチドである。
【0047】
(a1)~(g1)のポリヌクレオチドは、例えば、第5染色体上の鱗茎の縦横径比率に関する遺伝子座の塩基配列に基づき、縦長性のタマネギ種植物から得ることができる。
【0048】
(a2)~(g2)のポリヌクレオチドは、(a1)~(g1)のポリヌクレオチドの塩基配列において、SNP(a)~(g)に相当する塩基は保存され、それ以外の塩基配列に、数個(例えば1~10個、好ましくは1~5個、より好ましくは1、2又は3個)の塩基の修飾(置換、欠失、挿入又は付加)を含むものであり得る。このようなポリヌクレオチドの塩基配列は、当該技術分野における当業者にとって明らかであり、上述したタマネギのゲノム配列を参照することにより、又は、縦長性のタマネギ種植物のゲノム上におけるSNPの近傍領域の塩基配列を解読することにより、決定することができる。
【0049】
(a3)~(g3)のポリヌクレオチドは、(a1)~(g1)のポリヌクレオチドの塩基配列において、SNP(a)~(g)に相当する塩基は保存され、それ以外の塩基配列に対して、例えば、90%以上、95%以上、96%以上、97%以上、98%以上、又は99%以上の同一性を有するものであり得る。このような塩基配列の同一性は、例えば、BLAST、FASTA等の解析ソフトウェアを用いて、2つの塩基配列をアライメントとすることによって決定することができる。
【0050】
ポリヌクレオチド(a)におけるSNP(a)に相当する塩基のアレルが、Cのホモ接合型又はC/Aのヘテロ接合型であるとき、当該タマネギ種植物は縦長性であると判定することができる。ポリヌクレオチド(b)におけるSNP(b)に相当する塩基のアレルが、Tのホモ接合型又はT/Cのヘテロ接合型であるとき、当該タマネギ種植物は縦長性であると判定することができる。ポリヌクレオチド(c)におけるSNP(c)に相当する塩基のアレルが、Aのホモ接合型又はA/Gのヘテロ接合型であるとき、当該タマネギ種植物は縦長性であると判定することができる。ポリヌクレオチド(d)におけるSNP(d)に相当する塩基のアレルが、Gのホモ接合型又はG/Tのヘテロ接合型であるとき、当該タマネギ種植物は縦長性であると判定することができる。さらに、ポリヌクレオチド(e)におけるSNP(e)に相当する塩基のアレルが、Gのホモ接合型又はA/Gのヘテロ接合型であるとき、当該タマネギ種植物は縦長性であると判定することができる。また、ポリヌクレオチド(f)におけるSNP(f)に相当する塩基のアレルが、Cのホモ接合型又はC/Tのヘテロ接合型であるとき、当該タマネギ種植物は縦長性であると判定することができる。さらに、ポリヌクレオチド(g)におけるSNP(g)に相当する塩基のアレルが、Aのホモ接合型又はA/Gのヘテロ接合型であるとき、当該タマネギ種植物は縦長性であると判定することができる。また、分子マーカーは、ポリヌクレオチド(a)~(g)の少なくとも2つをハプロタイプブロックとして解析することにより、タマネギ種植物が縦長性であるか否かを判定することができる。
【0051】
(iii:3つのSNPを含むポリヌクレオチド)
本発明の一態様に係る分子マーカーは、SNP(a)~SNP(g)の少なくとも2つを含む連続したポリヌクレオチド(以下、ポリヌクレオチド(h)ともいう)であってもよい。ポリヌクレオチド(h)は、SNP(a)~SNP(g)の少なくとも2つの部位間の領域を、SNP(a)~SNP(g)の少なくとも2つの部位と共に含んでいる。ポリヌクレオチド(h)は、例えば、縦長性のタマネギ種植物における対応するSNP(a)~SNP(g)の少なくとも2つの部位間の領域を参照することで得られる。ポリヌクレオチド(h)の塩基配列は、縦長性のタマネギ種植物の塩基配列と少なくとも部分的に一致する。
【0052】
本発明の一態様に係る分子マーカーを用いて、タマネギ種植物における鱗茎の縦横径比率の程度を判定する方法、及び、タマネギ種植物が縦長性を有するか否かを判定する方法としては特に限定されず、例えば、SNPを検出する公知のSNP分析方法を用いることができる。このような公知のSNP分析方法には、タマネギ種植物の被検体のPCR増幅断片中のSNPを検出することによりSNP分析する方法が含まれる。タマネギ種植物の被検体は、幼苗の葉、茎、根等であり得、また、鱗茎であってもよい。また、本発明の一態様に係る分子マーカーを用いて、タマネギ種植物における鱗茎の縦横径比率の程度を判定する方法、及び、タマネギ種植物が縦長性を有するか否かを判定する方法の一態様は、後述する本発明の一態様に係るタマネギ種植物における鱗茎の縦横径比率の程度を判定する方法である。
【0053】
〔縦長性のタマネギ種植物〕
本発明の一態様に係る縦長性のタマネギ種植物は、後述する製造方法によって得られる植物である。縦長性のタマネギ種植物は、上述した分子マーカーで特定される上述したSNPを有し、鱗茎の縦径が横径よりも長いタマネギ種植物である。
【0054】
本発明の一態様に係る縦長性のタマネギ種植物は、後述する製造方法に示すように、タマネギ種植物同士を交雑して得られた植物及びその後代系統、又は、タマネギ種植物の自殖後代から、上述した分子マーカーを用いて縦長性のタマネギ種植物を判別することで得られる。なお、上述したSNPを有するように遺伝子工学的に改変した縦長性のタマネギ種植物についても、本発明の範疇に含まれる。
【0055】
〔タマネギ種植物における鱗茎の縦横径比率の程度を判定する方法〕
本発明の一態様に係るタマネギ種植物における鱗茎の縦横径比率の程度を判定する方法(判定方法)は、タマネギ種植物において、下記(a)~(g)のいずれかの塩基に相当する塩基から5cM以内の遺伝距離にある塩基の少なくとも1つ、又は、当該塩基を含む連続したポリヌクレオチドを、タマネギ種植物における鱗茎の縦横径比率に関する分子マーカーとして判定する工程を含む:
(a)配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの52番目の塩基;
(b)配列番号2に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの94番目の塩基;
(c)配列番号3に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの87番目の塩基;
(d)配列番号4に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの44番目の塩基;
(e)配列番号5に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの116番目の塩基;
(f)配列番号6に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの61番目の塩基;及び
(g)配列番号7に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの26番目の塩基。
【0056】
本発明の一態様に係る判定方法は、上述した本発明の一態様に係る分子マーカーを用いて、タマネギ種植物の被検体において、鱗茎の縦横径比率の程度を判定する。本発明の一態様に係る判定方法は、タマネギ種植物の被検体のゲノム上において、SNP(a)~SNP(g)から5cM以内の遺伝距離にあるSNPのいずれかを特定することで、被験タマネギ種植物が、縦長性を有するか否かを判定する。
【0057】
本発明の一態様に係る判定方法において、被検体であるタマネギ種植物は、育種素材の候補植物であるか、育種のプロセスで得られた植物である。被検体であるタマネギ種植物は、例えば、縦長性のタマネギ種植物と縦長性のタマネギ種植物との交雑植物、縦長性のタマネギ種植物と球形または横長性のタマネギ種植物との交雑植物、又は、球形または横長性のタマネギ種植物と球形または横長性のタマネギ種植物との交雑植物、及び、これらの後代系統であり得る。また、被検体であるタマネギ種植物は、鱗茎の縦横径比率が既知のタマネギ種植物と鱗茎の縦横径比率が不明なタマネギ種植物との交雑植物、又は、鱗茎の縦横径比率が不明なタマネギ種植物同士を交雑した交雑植物、及び、それらの後代系統であり得る。さらに、被検体であるタマネギ種植物は、縦長性のタマネギ種植物の自殖後代であり得る。タマネギ種植物の被検体は、葉、茎、根等であり得、また、鱗茎であってもよい。
【0058】
本発明の一態様に係る判定方法は、(a’)配列番号1に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの52番目の塩基のアレルが、Cのホモ接合型又はC/Aのヘテロ接合型であるとき、当該タマネギ種植物は縦長性であると判定する。また、判定方法は、(b’)配列番号2に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの94番目の塩基のアレルが、Tのホモ接合型又はT/Cのヘテロ接合型であるとき、当該タマネギ種植物は縦長性であると判定する。さらに、判定方法は、(c’)配列番号3に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの87番目の塩基のアレルが、Aのホモ接合型又はA/Gのヘテロ接合型であるとき、当該タマネギ種植物は縦長性であると判定する。また、判定方法は、(d’)配列番号4に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの44番目の塩基のアレルが、Gのホモ接合型又はG/Tのヘテロ接合型であるとき、当該タマネギ種植物は縦長性であると判定する。さらに、判定方法は、(e’)配列番号5に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの116番目の塩基のアレルが、Gのホモ接合型又はA/Gのヘテロ接合型であるとき、当該タマネギ種植物は縦長性であると判定する。また、判定方法は、(f’)配列番号6に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの61番目の塩基のアレルが、Cのホモ接合型又はC/Tのヘテロ接合型であるとき、当該タマネギ種植物は縦長性であると判定する。さらに、判定方法は、(g’)配列番号7に示す塩基配列からなるポリヌクレオチドの26番目の塩基のアレルが、Aのホモ接合型又はA/Gのヘテロ接合型であるとき、当該タマネギ種植物は縦長性であると判定する。
【0059】
本発明の一態様に係る判定方法において用いる分子マーカーの詳細については、上述した本発明の一態様に係る分子マーカーの説明を援用する。
【0060】
本発明の一態様に係る判定方法において、分子マーカーを用いてタマネギ種植物における鱗茎の縦横径比率の程度を検査する方法としては特に限定されず、公知のSNP分析方法を用いることができ、例えば、タマネギ種植物の被検体のPCR増幅断片中のSNPを検出することによりSNP分析する方法が挙げられる。本発明の一態様に係る判定方法は、前記分子マーカーを含む領域を増幅するプライマーを用いて、前記タマネギ種植物のDNAにおける前記領域を増幅してもよい。このようなプライマーは、一例として、SNP(a)~SNP(g)のいずれかを含む領域を増幅するプライマーである。すなわち、SNP(a)~SNP(g)のいずれかを含む領域を増幅するプライマーは、本発明の一態様に係る縦長性のタマネギ種植物を判定するための判定キットであり得る。
【0061】
タマネギ種植物の被検体のDNAにおける前記領域の増幅は、一例として、タマネギ種植物の被検体から抽出したDNAを鋳型にして、SNPを含む領域を増幅するプライマーセットを用いて、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)により行うことができる。そして、得られた増幅断片におけるSNPの塩基(遺伝子型)を決定し、決定された塩基(遺伝子型)とタマネギ種植物における鱗茎の縦横径比率の程度との関係を示すデータに基づいて、タマネギ種植物における鱗茎の縦横径比率の程度を判定する。増幅断片における遺伝子型の決定方法については、従来公知の方法を用いることができ、一例として、DNAシーケンス解析、アガロースゲル電気泳動を利用する方法、リアルタイムPCRを用いたTaqMan解析等である。
【0062】
PCRにおいて用いるプライマーセットは、標的のSNPを含む領域のDNA断片を増幅することができるものである限り、特に限定されず、増幅断片の長さが短くなるようにプライマーセットを設計してもよい。例えば、プライマー増幅断片の長さが、好ましくは、200塩基対(bp)以下、160bp以下、150bp以下、140bp以下、130bp以下、120bp以下、又は100bp以下となるようにプライマーセットを設計する。プライマーセットは、フォワードプライマーと、リバースプライマーとが含まれる。これらのプライマーの長さは、例えば、15bp以上、16bp以上、17bp以上、18bp以上、19bp以上、20bp以上、又は25bp以上であってもよく、50塩基bp以下、40bp以下、又は30bp以下であってもよい。
【0063】
以下に示すようなSNP(a)~SNP(g)の少なくとも1つを含む領域を増幅するプライマーセットは、本発明の一態様に係る縦長性のタマネギ種植物を判定するための判定キットであり得る。
【0064】
SNP(a)を含む領域を増幅するプライマーセット(I)は、一例として、配列番号8に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含む第1のプライマーと、配列番号9に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含む第2のプライマーとからなるプライマーセットである。上記(I)のプライマーセットを用いることで、縦長性のタマネギ種植物においては配列番号1に示す塩基配列の52番目の塩基がCであるPCR増幅産物が得られ、SNP(a)に相当する塩基を検出することができる。
【0065】
SNP(b)を含む領域を増幅するプライマーセット(II)は、例えば、配列番号10に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含む第3のプライマーと、配列番号11に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含む第4のプライマーとからなる、プライマーセットである。このプライマーセットを用いることで、縦長性のタマネギ種植物においては、配列番号2に示す塩基配列の94番目の塩基がTであるPCR増幅産物が得られ、SNP(b)に相当する塩基を検出することができる。
【0066】
SNP(c)を含む領域を増幅するプライマーセット(III)は、例えば、配列番号12に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含む第5のプライマーと、配列番号13に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含む第6のプライマーとからなる、プライマーセットである。このプライマーセットを用いることで、縦長性のタマネギ種植物においては配列番号3に示す塩基配列の87番目の塩基がAであるPCR増幅産物が得られ、SNP(c)に相当する塩基を検出することができる。
【0067】
SNP(d)を含む領域を増幅するプライマーセット(IV)は、例えば、配列番号14に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含む第7のプライマーと、配列番号15に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含む第8のプライマーとからなる、プライマーセットである。このプライマーセットを用いることで、縦長性のタマネギ種植物においては配列番号4に示す塩基配列の44番目の塩基がGであるPCR増幅産物が得られ、SNP(d)に相当する塩基を検出することができる。
【0068】
SNP(e)を含む領域を増幅するプライマーセット(V)は、例えば、配列番号16に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含む第9のプライマーと、配列番号17に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含む第10のプライマーとからなる、プライマーセットである。このプライマーセットを用いることで、縦長性のタマネギ種植物においては配列番号5に示す塩基配列の116番目の塩基がGであるPCR増幅産物が得られ、SNP(e)に相当する塩基を検出することができる。
【0069】
SNP(f)を含む領域を増幅するプライマーセット(VI)は、例えば、配列番号18に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含む第11のプライマーと、配列番号19に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含む第12のプライマーとからなる、プライマーセットである。このプライマーセットを用いることで、縦長性のタマネギ種植物においては配列番号6に示す塩基配列の61番目の塩基がCであるPCR増幅産物が得られ、SNP(f)に相当する塩基を検出することができる。
【0070】
SNP(g)を含む領域を増幅するプライマーセット(VII)は、例えば、配列番号20に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含む第13のプライマーと、配列番号21に示される塩基配列における15以上の連続する塩基を含む第14のプライマーとからなる、プライマーセットである。このプライマーセットを用いることで、縦長性のタマネギ種植物においては配列番号7に示す塩基配列の26番目の塩基がAであるPCR増幅産物が得られ、SNP(g)に相当する塩基を検出することができる。
【0071】
また、プライマーセットは、(a)~(g)のいずれかの塩基に相当する塩基から5cM以内の遺伝距離にある塩基を検出するための以下のプライマーセットであってもよい。
【0072】
SNP分析におけるPCRは、単独のプライマーセットを含む反応系でDNA断片を増幅するシングルプレックスPCR、又は、複数のプライマーセットを含む反応系で遺伝子増幅するマルチプレックスPCR、のいずれであってもよい。マルチプレックスPCRの場合は、異なる波長を有する蛍光物質(例えば、NED、6-FAM、VIC、PET、HEX)により標識したプライマーセットを混合してもよい。
【0073】
PCRの反応条件は、用いるDNAポリメラーゼ及びPCR装置の種類、増幅断片の長さ等に応じて適宜に設定され得る。サイクル条件としては、変性工程、アニーリング工程及び伸長工程の3工程を1サイクルとする3ステップPCR法、及び、変性工程とアニーリング及び伸長工程との2工程を1サイクルとする2ステップPCR法を適用することができる。3ステップPCRにおける反応条件の一例としては、90~100℃で40~60秒(例えば、94℃で30秒)の変性工程、10~60秒(例えば、30秒)のアニーリング工程、及び65~80℃で10~90秒(例えば、72℃で60秒)の伸長工程を、10~40サイクル(例えば15サイクル)行う。アニーリング温度は、一例として、55~70℃(例えば、60℃)の初期アニーリング温度から40~60℃(例えば、45℃)の最終アニーリング温度まで、所定サイクル毎に段階的に低下させる条件(例えば、1サイクル毎に1℃低下)が挙げられる。鋳型となるDNAの状態に応じて、SNPを安定的に検出するために、PCR反応条件を調整してもよい。
【0074】
SNP分析におけるPCRとして、PCRによる増幅及びSNPマーカーの特定を行うTaqMan(登録商標)-PCR法のようなリアルタイムPCRを用いてもよい。すなわち、プライマーセットを用いて増幅した増幅断片に含まれるSNPを検出するTaqMan(登録商標)プローブをさらに用いてもよい。リアルタイムPCR法を用いることにより、高処理能力の判別方法を提供することができる。なお、PCRにより増幅した増幅断片においてSNPを特定する方法としては、自動DNAシークエンサー等を用いて増幅断片の塩基配列を決定することにより、解析してもよい。
【0075】
タマネギ種植物の被検体から、PCRにより増幅するDNAを抽出する方法としては、特に限定されず、公知のDNA抽出方法を用いることができる。また、市販のDNA抽出キットを用いて、DNAを抽出してもよい。被検体の種類及び夾雑物の量等に応じて、DNA抽出工程の前に、適宜に前処理を行ってもよい。また、被検体から抽出されたDNAは、PCR反応において鋳型として用いるために、必要に応じて洗浄又は精製してもよい。さらに、被検体から抽出されたDNAを2種類の制限酵素で消化した制限酵素切断断片をPCRにより増幅してもよい。
【0076】
また、本発明の一態様に係る判定方法においては、SNP(a)~SNP(g)と連鎖不平衡状態にある遺伝子多型を分析し、SNP(a)~SNP(g)を同定してもよい。上記連鎖不平衡状態は、一例として、連鎖不平衡係数が0.9以上の連鎖不平衡状態である。
【0077】
本発明の一態様に係る判定方法によれば、分子マーカーにより、被験タマネギ種植物が、縦長性であるか否かを判定することができる。したがって、判定結果に基づき縦長性のタマネギ種植物及びその後代系統を選抜することができる。
【0078】
本発明の一態様に係る判定方法によれば、幼苗の段階で縦長性のタマネギ種植物を選抜することが可能であり、育種選抜のための期間を大幅に短縮することができる。また、幼苗の段階で選抜された縦長性の幼苗のみを栽植して生育することで、圃場の利用効率を向上させることができる。
【0079】
〔縦長性のタマネギ種植物を製造する製造方法〕
本発明の一態様に係る製造方法は、縦長性のタマネギ種植物を製造する方法であって、タマネギ種植物において、本発明の一態様に係る判定方法によって、縦長性のタマネギ種植物を選抜する選抜工程を含む。また、製造方法は、前記選抜工程において選抜された縦長性のタマネギ種植物の後代において、前記選抜工程を1又は複数回繰り返し行ってもよい。
【0080】
また、製造方法は、選抜工程の前に、タマネギ種植物同士を交雑する交雑工程を包含し、選抜工程において、前記交雑工程により得られたタマネギ種植物又はその他殖後代のタマネギ種植物から、本発明の一態様に係る判定方法によって、縦長性のタマネギ種植物を選抜してもよい。
【0081】
さらに、製造方法は、選抜工程の前に、縦長性のタマネギ種植物の自殖後代を取得する工程を包含し、選抜工程において、取得された縦長性のタマネギ種植物の自殖後代から、本発明の一態様に係る判定方法によって、縦長性のタマネギ種植物を選抜してもよい。
【0082】
したがって、本発明の一態様に係る分子マーカー、縦長性のタマネギ種植物、及び判定方法に関する説明を、縦長性のタマネギ種植物を製造する方法の説明に援用する。
【0083】
交雑工程において、親植物として使用するタマネギ種植物は、例えば、縦長性のタマネギ種植物、球形または横長性のタマネギ種植物、鱗茎の縦横径比率の程度が不明なタマネギ種植物、並びにこれらの後代系統であり得る。
【0084】
また、交雑工程において、親植物として使用するタマネギ種植物は、本発明の一態様に係る縦長性のタマネギ種植物であってもよい。また、交雑工程において用いるタマネギ種植物は、本発明の一態様に係る判定方法により選抜された縦長性のタマネギ種植物であってもよい。すなわち、本発明の一態様に係る製造方法は、前記交雑工程の前に、本発明の一態様に係る判定方法により、被験タマネギ種植物から縦長性のタマネギ種植物を判別する判別工程をさらに含み得る。
【0085】
判別工程は、本発明の一態様に係る判定方法により、交雑工程により得られたタマネギ種植物又はその後代系統のタマネギ種植物から、縦長性のタマネギ種植物を判別する。
【0086】
本発明の一態様に係る製造方法によれば、分子マーカーによりタマネギ種植物が縦長性を有するか否かを判定し、判定結果に基づき選抜した縦長性のタマネギ種植物を製造することができる。
【0087】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例0088】
農研系統(OPP-6)と市販品種(もみじ3号、七宝(株))との交配により育成した3つのタマネギ集団(A集団、B集団、およびC集団)について、国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構 東北農業研究センター内の圃場(盛岡)において栽培した。A集団(245個体)およびB集団(204個体)は2019年に栽培し、C集団(192個体)は2020年に栽培した。収穫した各個体の鱗茎の縦幅(縦径)、横幅(横径)、および、鱗茎重を測定した。縦幅を横幅で除した縦横比(縦横径比率、縦幅/横幅)を縦長性の指標とした。
【0089】
解析材料の各個体について、441の分子マーカーの遺伝子型を取得した。441の分子マーカーのそれぞれに対するプライマーセットを10つに分割し(1プライマープレックスあたり約44プライマーセット)、プライマープレックスごとにマルチプレックスPCRを行った(1st PCR)。1st PCRの組成を表1に示し、PCR条件を表2に示す。
【0090】
【表1】
【0091】
【表2】
【0092】
1st PCR産物は、AMPure XP Reagentにより精製した。精製したテンプレートを100倍希釈して、2nd PCRに用いた。2nd PCRでは、1st PCR産物に次世代シーケンサーでの解析用のアダプター配列及び個体識別用のバーコード配列を添加した。2nd PCRの組成を表3に示し、PCR条件を表4に示す。
【0093】
【表3】
【0094】
【表4】
【0095】
作製したPCR産物について、A集団(計245検体)の192検体分を1つにまとめたライブラリー1、B集団(計204検体)の192検体分を1つにまとめたライブラリー2、ならびに、A集団の残りの検体(53検体)およびB集団の残りの検体(14検体)を1つにまとめたライブラリー3を作製した。また、C集団(計192検体)の192検体分を1つにまとめたライブラリー4を作製した。
【0096】
作製したライブラリー毎に次世代シーケンサー(Thermo Fisher Scientific社Ion Torrent Proton system)により解析した。ソフトウェアTorrent Suite ver. 5(Thermo Fisher Scientific社)を用いて、得られた配列データを検体ごとに分けた後、各検体の配列データをリファレンス配列にマッピングした。ソフトウェアTorrent Variant Callerを用いて、各増幅領域内の多型情報(マーカー遺伝子型)を抽出した。
【0097】
A集団(242個体)およびB集団(197個体)について、鱗茎の縦長比と遺伝子型のデータをQTL解析に用いた。なお、鱗茎重が100g以下の個体は、生育不良として除いて解析した。
【0098】
A集団およびB集団について、composite interval mapping(CIM)によるQTL解析を行った。QTL解析には、R package [qtl]を使用した。A集団およびB集団のQTL解析結果を図1に示す。図1は、鱗茎の縦横比のQTL解析結果を示す図である。図1に示すように、A集団およびB集団において、第5染色体65cM付近のLOD値が30程度で最も高かった。
【0099】
また、A集団およびB集団において、QTLが検出された第5染色体の分子マーカー間の距離を示した連鎖地図を、図2に示す。図2に示すように、QTLピークの位置の前後5cMの範囲のマーカーを縦長性のマーカーとして選抜した。選抜した縦長性マーカーの詳細を表5に示し、各マーカーのプライマー配列および増幅産物の配列を表6に示す。
【0100】
【表5】
【0101】
【表6】
【0102】
第1マーカーから第7マーカーのそれぞれについて、解析材料の各遺伝子型と縦横比の分布を比較し、スティール・ドゥワス(Steel-Dwass)の方法による多重検定を行なった。A集団についての結果を図3に示し、B集団についての結果を図4に示し、C集団(190個体)についての結果を図5に示す。図3~5は、実施例において測定した、各マーカーの遺伝子型と鱗茎の縦横比との関係を示す図である。図3~5に示すように、A集団、B集団、およびC集団のすべてにおいて、表5に示す縦長アレルのホモ接合型およびヘテロ接合型である個体が、丸型アレルのホモ接合型の個体と比較して、有意に縦横比の値が高く、縦長性であった。
【産業上の利用可能性】
【0103】
本発明は、農業分野、植物育種分野等に利用することができる。
図1
図2
図3
図4
図5
【配列表】
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