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特開2024-172574流体用容器および水素発生用水分解装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172574
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】流体用容器および水素発生用水分解装置
(51)【国際特許分類】
   C01B 3/04 20060101AFI20241205BHJP
   B01J 35/39 20240101ALI20241205BHJP
【FI】
C01B3/04 A
B01J35/02 J
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090369
(22)【出願日】2023-05-31
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和3年度、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合開発機構、「グリーンイノベーション基金事業/CO2等を用いたプラスチック原料製造技術開発/アルコール類からの化学品製造技術の開発/グリーン水素(人工光合成)等からの化学原料製造技術の開発・実証」に係る委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(71)【出願人】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】513056835
【氏名又は名称】人工光合成化学プロセス技術研究組合
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】赤井 日出子
(72)【発明者】
【氏名】柳原 英人
(72)【発明者】
【氏名】仮屋 伸子
(72)【発明者】
【氏名】日高(若林) 優子
(72)【発明者】
【氏名】金田 健志
(72)【発明者】
【氏名】堤内 出
【テーマコード(参考)】
4G169
【Fターム(参考)】
4G169AA03
4G169BA22A
4G169BA48A
4G169BC69A
4G169BC75A
4G169CB81
4G169CC33
4G169DA06
4G169EA08
4G169EB15X
4G169HA01
4G169HB01
4G169HB06
4G169HC27
4G169HE09
4G169HF02
(57)【要約】
【課題】設置、交換などの作業が容易であり、且つ大型化が容易な、水素発生用水分解装置を実現する。
【解決手段】本発明の一態様に係る流体用容器(10)は、光触媒を内部に有し、光透過性を有する高分子フィルムで構成された、流体を収容可能な袋部(11)を備え、袋部(11)は、少なくとも1つの第1の開口(12)と、少なくとも1つの第2の開口(13)と、を備える。
【選択図】図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
光触媒を内部に有する流体用容器であり、
光透過性を有する高分子フィルムで構成された、流体を収容可能な袋部を備え、
前記袋部は、流体を内部に導入するための、少なくとも1つの第1の開口と、
前記光触媒により前記流体から生成されたガスを前記袋部から取り出すための、少なくとも1つの第2の開口と、
を備える、流体用容器。
【請求項2】
前記流体が水を含む液体である、請求項1に記載の流体用容器。
【請求項3】
前記光触媒は、基材上に担持されている、請求項1記載の流体用容器。
【請求項4】
前記基材は、シート状部材である、請求項3に記載の流体用容器。
【請求項5】
前記袋部を構成する前記高分子フィルムの厚みが、1μm以上、1mm以下である、請求項1に記載の流体用容器。
【請求項6】
前記袋部は、平面視において略長方形形状であり、当該略長方形形状の短辺の長さが10cm以上である、請求項1に記載の流体用容器。
【請求項7】
前記略長方形形状の長辺の長さが1m以上、300m以下である、請求項6に記載の流体用容器。
【請求項8】
前記袋部を構成する前記高分子フィルムは、引張弾性率が10MPa以上、1000MPa以下である、請求項1に記載の流体用容器。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の流体用容器と、
当該流体用容器を保持する枠部材と、
を備える、水素発生用水分解装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流体用容器、および当該流体用容器を備える水素発生用水分解装置に関する。
【背景技術】
【0002】
再生可能エネルギーとして太陽エネルギーを利用した高性能な光エネルギー変換システムの開発は、地球温暖化の抑制、および枯渇しつつある化石資源依存からの脱却を目指す観点から、近年になって急激にその重要性が増している。中でも、太陽エネルギーを用いて水を分解し水素を製造する技術は、現行の石油精製、アンモニア、メタノールの原料供給技術としてのみならず、燃料電池のエネルギーキャリアとして活用できる技術となり、その技術開発に対する社会的要請が益々高まっている。
【0003】
光触媒粒子上での酸性水溶液中における水の分解反応は、次のように推定されている(非特許文献1)。水の分解反応によって生成される水素は高エネルギー物質であり、エネルギー源として注目されている。
2HO+4h→O+4H (1)
4H+4e→2H (2)
【0004】
このような光触媒を用いて水を分解する水素発生用水分解装置は、実用化時には10km×10kmレベルの広大な敷地に装置を設置して水素を製造することになる。現在、人工光合成装置は、最も大きいものでも、モジュールの一辺が1m程度である。また、賦形されたモジュールが用いられることが一般的である(例えば、非特許文献2)。また、水分解用のプラントとしては、このようなモジュールが複数連結されたものをさらに繋げて、例えば1辺が100mほどになるプラントが試作建設されている。例えば非特許文献3には、25cm角のモジュールを繋げて、100mサイズのプラントとしたことが記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Blaise A. Pinaud et.al., Energy & Environmental Science 6, 1983-2002(2013)
【非特許文献2】Goto et al., Joule, 2, 509-520(2018)
【非特許文献3】Nishiyama et al., Nature Vol 598, 304-307(2021)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、広大な敷地での実用化のために、一辺が1m程度のモジュールを無数に製造して、広大な敷地に敷設するのは非効率である。また、上述のような方形などに賦形されたモジュールを用いる場合、数を減らそうとしてモジュールのサイズを大きくすると、今度は設置作業や、損傷したりした場合の交換作業の際に、大変な労力を要する。また、これらの作業のための作業者用通路を確保する必要があり、その分、モジュールを設置できる面積が減るなどの問題を生じる。
【0007】
そこで本発明者らは、水素発生用水分解装置における流体を収容するための容器として、もともと賦形されたモジュールを用いる代わりに、高分子フィルムで構成された袋状のモジュールを使用することにより、袋をたたんで所望の場所に運び、そこで袋を展開して設置した後に、そこで袋内に水等を入れることにより、モジュールの設置、交換等の作業が容易になること、これらの作業を行なう作業員用の通路を別途設ける必要がなくなるために、その分モジュールを大型化できることに着目し、本発明に到達した。
【0008】
本発明の一態様は、設置、交換等の作業が容易であり、且つ大型化が容易な、水素発生用水分解装置を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
すなわち、本発明の一態様は以下である。
【0010】
[1]光触媒を内部に有する流体用容器であり、
光透過性を有する高分子フィルムで構成された、流体を収容可能な袋部を備え、
前記袋部は、
流体を内部に導入するための、少なくとも1つの第1の開口と、
前記光触媒により前記流体から生成されたガスを前記袋部から取り出すための、少なくとも1つの第2の開口と、
を備える、流体用容器。
【0011】
[2]前記流体が水を含む液体である、[1]に記載の流体用容器。
【0012】
[3]前記光触媒は、基材上に担持されている、[1]に記載の流体用容器。
【0013】
[4]前記基材は、シート状部材である、[3]に記載の流体用容器。
【0014】
[5]前記袋部を構成する前記高分子フィルムの厚みが、1μm以上、1mm以下である、[1]に記載の流体用容器。
【0015】
[6]前記袋部は、平面視において略長方形形状であり、当該略長方形形状の短辺の長さが10cm以上である、[1]に記載の流体用容器。
【0016】
[7]前記略長方形形状の長辺の長さが1m以上、300m以下である、[6]に記載の流体用容器。
【0017】
[8]前記袋部を構成する前記高分子フィルムは、引張弾性率が10MPa以上、1000MPa以下である、[1]に記載の流体用容器。
【0018】
[9][1]~[8]のいずれか1つに記載の流体用容器と、
当該流体用容器を保持する枠部材と、
を備える、水素発生用水分解装置。
【発明の効果】
【0019】
本発明の一態様によれば、設置、交換等の作業が容易であり、且つ大型化が容易な、水素発生用水分解装置を実現することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の実施の形態に係る流体用容器を備える水素発生用水分解装置の構成を模式的に示す図である。
図2図1に示される流体用容器をA-A線で切断した断面を模式的に示すA-A線矢視断面図である。
図3図1に示される流体用容器の第2の開口の構成を模式的に示す分解図である。
図4】変形例1に係る流体用容器の構成を模式的に示す図である。
図5】変形例2に係る流体用容器の構成を模式的に示す図である。
図6図5に示される流体用容器をB-B線で切断した断面を模式的に示すB-B線矢視断面図である。
図7】変形例3に係る流体用容器の断面形状を示す図である。
図8】変形例4に係る流体用容器の構成を模式的に示す図である。
図9】変形例5に係る流体用容器の構成を模式的に示す図である。
図10図1に示される流体用容器における光触媒の設置および交換方法の一例を説明する図である。
図11図1に示される流体用容器における光触媒の設置および交換方法の別の一例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
〔1.流体用容器〕
以下、本発明の一実施形態について、図を参照して詳細に説明する。なお、図面には、XYZ系の三次元座標を併せて示しており、XY平面は水平面を規定し、Z軸は鉛直方向(Z軸負方向が重力方向)を規定している。本実施形態では、本発明の一実施形態に係る流体用容器を、水素発生用水分解装置用の流体用容器として適用させた態様について説明する。流体用容器を備える水素発生用水分解装置は、モジュールに相当する。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、水素発生用水分解装置以外にも、光触媒による光化学反応によって流体からガスを生成する目的で使用されるあらゆる装置において、流体を収容し、且つ光触媒による光化学反応が行われる流体用容器として適用することができる。特に、当該流体用容器は、従来の方形等に賦形されたモジュールを用いる場合と比較して、低コスト、軽量、且つ大型化が容易であることから、広大な敷地を利用して設置される大規模な水素発生用水分解装置に適用する流体用容器として好適である。
【0022】
図1は、本発明の実施の形態に係る流体用容器10を備える水素発生用水分解装置1の構成を模式的に示す図である。図1に示すとおり、水素発生用水分解装置1において、流体用容器10は、枠部材20(架台21および抑え部材22)によって保持されている。これにより、流体用容器10の主面を、水平面に対して長手方向に傾斜させてもよい。水素発生用水分解装置1の具体的構成については後述する。
【0023】
流体用容器10は、内部に光触媒を有する流体用容器であり、光透過性を有する高分子フィルムで構成された、流体を収容可能な袋部11を備えている。袋部11は、流体を導入するための第1の開口12と、前記光触媒により前記流体から生成されたガスを袋部11から取り出すための第2の開口13と、を備える。第1の開口12および第2の開口13には、それぞれ、配管31、32が接続されている。第2の開口13の位置は、ガスが排出されやすくするため、袋部11のより高い位置にあることが望ましい。そのために、第2の開口13の位置が高くなるようサポートしたり、流体用容器10の主面が、水平面に対して長手方向に傾斜するように配置することができる。
【0024】
図2は、図1に示される流体用容器10をA-A線で切断した断面を模式的に示すA-A線矢視断面図である。図2に示すとおり、袋部11の内部には流体が収容される。なお、本実施形態では、流体の一例として水を用いる例を説明するが、流体の種類はこれに限定されない。流体は、水を含む液体であってよい。水を含む液体としては、例えば、水;電解質水溶液;アルコール等の水溶性有機物を含有する水溶液等を挙げることができる。また光触媒やその助触媒などを構成する元素のうち、比較的水に溶けやすい元素を添加してもよい。また、光取入れ効率を下げてしまうような雑菌などの繁殖を防ぐために抗菌剤等を混合した水もメンテナンスの手間を減らすためには好ましい。また、海の近くに設置するならば、海水をろ過して使用することも可能である。その一方で、水を入れ替えたりする際の水の廃棄の手間や、水以外のものは容器内に残存してしまうことを考えると、脱イオン水も好ましい。
【0025】
水は、配管31を通って第1の開口12から袋部11の内部に導入される。水は、袋部11内部の上部に空間Sが形成されるような量が供給される。空間Sの体積または袋部11内の水位は、光化学反応によって生成されるガスの量に対し、袋部11内の水が飛沫として同伴しない条件から選ばれる。
【0026】
流体用容器10は、袋部11の内部に光触媒15を有している。光触媒15は、シート状の基材16上に担持されている。光触媒15は、光の存在下で、光化学反応によって水から水素および酸素を含むガスを生成する。これらを含んだ気泡が袋部11内を第2の開口13が設けられた端部に向って上昇し、空間Sにおいて水から分離する。水から分離したガスは、自圧によって第2の開口13から流体用容器10の外に取り出される。
【0027】
(袋部11)
袋部11は、長尺の袋状部材であり、光透過性を有する高分子フィルムで構成される。高分子フィルムは、光触媒による光化学反応に用いられる光(赤外光および紫外光を含む)、特に光反応が最も効率よく行われると考えられる光触媒の吸収波長を十分に透過できるように、光透過性を有するものが採用される。本明細書において「光透過性」とは、可視光透過率を指標として評価される性質である。光反応に使用される光は、特に限定されないが、通常は太陽光である。高分子フィルムは、太陽光のうち光反応に使用される波長の光、特に可視光を透過する材料が好適である。十分な透光性を実現する観点から、高分子フィルムは、可視光透過率が高いものを採用することが好ましい。例えば、可視光透過率が80%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましい。可視光透過率の上限は限定されないが、所期の効果が十分に得られる観点から、可視光透過率が95%以下であればよい。本明細書において、可視光透過率は、分光光度計(例えば日立ハイテクサイエンス製UH4150)を用いて測定した値である。
【0028】
袋部11を構成する高分子フィルムの種類は特に限定されないが、例えば、ポリエチレン(PE;L-LDPE、LDPE、HDPE等)、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル(軟質、硬質等)、ポリカーボネート、ポリエチレンテレフタレート、トリアセチルセルロース、ポリスチレン(PS)、シクロオレフィンコポリマ、ポリエチレンナフタレート(PEN)、エチレン-ビニルアルコール共重合樹脂(EVOH)、ポリ-4-メチルペンテン-1、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、アクリロニトリル、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)、アクリロニトリル・スチレン樹脂、アクリルニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、ポリアミド(PA)、ポリアミドイミド、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、アイオノマ、ポリスルホン樹脂及び4-フッ化エチレン樹脂(TFE)、ポリ乳酸(PLA)等の合成樹脂フィルムを挙げることができる。中でも、透明性、柔軟性、耐候性の理由から、PEフィルム、ポリ塩化ビニルフィルムが好ましく、特にL-LDPEフィルム、LDPEフィルム等が採用される。また、上記の材料に添加剤を加えたり、積層体としても構わない。また、耐久性等を付与するために表面コート等を行っても構わない。
【0029】
前記高分子フィルムは、柔軟性を有していることが好ましい。袋部11が柔軟性を有する高分子フィルムで構成されることにより、袋部11を必要に応じてたたむことが可能となる。袋部11をたたむことで大きさを小さくすることができれば、設置、交換等の作業における取扱い性が向上し、これらの作業が容易になる。高分子フィルムの柔軟性は、フィルムを構成する樹脂の種類、フィルムの厚み等を変更することによって調節できる。袋部11をたたむことができるように、高分子フィルムは、柔軟性が高いものを採用することが好ましい。ここで、本明細書において「柔軟性」とは、引張弾性率を指標として評価される性質である。引張弾性率が1000MPa以下であれば、高分子フィルムは、柔軟性があると考えられる。従って、前記高分子フィルムは、引張弾性率が1000MPa以下であることが好ましく、800MPa以下であることがより好ましい。高分子フィルムの柔軟性の観点から引張弾性率の下限は限定されないが、耐圧性や強度の観点から、引張弾性率が10MPa以上であればよい。本明細書において、引張弾性率は、JIS K7161:2014に基づいて測定した値である。
【0030】
前記高分子フィルムの厚みは、フィルムの強度、柔軟性、光透過性、許容圧力等を考慮して適宜設定することができる。引張弾性率、許容圧力の観点から、前記高分子フィルムの厚みが1μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましい。また、柔軟性、光透過性の観点から、前記高分子フィルムの厚みが1mm以下であることが好ましく、0.8mm以下であることがより好ましい。
【0031】
また、前記高分子フィルムは、袋部11内部の流体およびガスの圧力に耐えられるように、前記高分子フィルムの引張強度が10MPa以上であることが好ましく、20MPa以上であることがより好ましい。また、柔軟性の観点から、前記高分子フィルムの引張強度が200MPa以下であることが好ましく、150MPa以下であることがより好ましい。本明細書において、引張強度は、JIS K7161:2014に基づいて測定した値である。
【0032】
図1に示すように、袋部11は、平面視において略長方形形状の、両端が閉じた袋状の形状である。袋部11の大きさは限定されないが、経済性の観点から、当該略長方形形状の短辺の長さが10cm以上であることが好ましく、30cm以上であることがより好ましい。また、当該略長方形形状の短辺の長さの上限は特に限定されないが、製造上の観点から、10m以下であることが好ましく、5m以下であることがより好ましい。
【0033】
また、経済性の観点から、当該略長方形形状の長辺の長さが1m以上であることが好ましく、2m以上であることがより好ましい。また、当該略長方形形状の長辺の長さの上限は特に限定されないが、製造上の観点から、300m以下であることが好ましく、250m以下であることがより好ましい。袋部11は、当該略長方形形状の短辺のみまたは長辺のみを上述した範囲の長さとしてもよく、短辺および長辺を上述した範囲の長さとしてもよい。
【0034】
ここで、本明細書において、上記で特定する略長方形形状の短辺および長辺の長さは、袋部11内部に流体が収容されていないときの袋部11の平面視における長さである。また、略長方形形状の短辺の長さは、互いに対向する1組の長辺間の距離を複数箇所(例えば、2箇所)測定した平均値であり、略長方形形状の長辺の長さは、互いに対向する1組の短辺間の距離を複数箇所(例えば、2箇所)測定した平均値である。
【0035】
袋部11は、平面視において四角形形状であってもよい。四角形としては、正方形、略正方形、長方形、略長方形、平行四辺形などを挙げることができる。中でも、強度の理由から、図1に示すような長方形または略長方形の形状を有することが好ましい。
【0036】
図1に示すように、袋部11は、袋の上面と下面とが接着した接着部111を有していることが好ましい。接着部111は、図1において破線で示す部分である。接着部111は、袋部11の上面と下面とを熱融着させるまたは接着剤によって接着させることによって形成することができる。袋部11が接着部111を有することによって、袋部11内部に収容された水の移動による袋部11の変形が生じにくくなる。その結果、袋の水による負荷減少や発生したガスが抜けやすくなる、という効果を奏する。
【0037】
袋部11内部に収容された水の移動による袋部11の変形が生じにくくする観点から、接着部111は、袋部11の内部を複数の領域に区画化するように設けられていることが好ましい。例えば、本実施形態の袋部11は、接着部111によって内部が5つの領域に区画化されている。しかし、接着部111を設ける位置および接着部111の数はこれに限定されず、袋部11の形状、大きさ等に応じて適宜設定することができる。接着部111は、袋部11の長手方向または幅方向に沿って、一定間隔で設けられてもよく、異なる間隔で設けられてもよい。袋部11の内部を複数の領域に区画化する場合、各区画における袋部11の幅方向の長さが所定範囲(例えば、3m以下)になるように接着部111を設ける位置を調節することが好ましい。各区画における袋部11の幅方向の長さが長くなりすぎないように制限することで、水の移動による袋部11の変形を防止する効果が高まる。
【0038】
袋部11は、耐候性、雹、砂塵の影響、耐切傷性等、耐久性を高める目的で、外面にハードコート処理が施されてもよい。袋部11のハードコート処理は、公知の方法によって行うことができ、例えば、多層押出、コーティング、蒸着等の公知の方法によって袋部11の外面にハードコート層を設けることができる。
【0039】
また、ガスリーク、水漏れ等に対する袋部11の強度を高める観点から、袋部11における接続部の数が少ないことが好ましい。例えば、接続部の数を減少させるために、所望の大きさの袋部11を、1枚の連続するフィルムから形成すればよい。そのようなフィルムとしては、公知のインフレーション法によって成形したインフレーションフィルムを好ましく採用することができる。
【0040】
(第1の開口12および第2の開口13)
第1の開口12は、流体を袋部11内に導入するための開口である。第2の開口13は、光触媒により水から生成されたガスを袋部11から取り出すための開口である。第1の開口12および第2の開口13には、それぞれ、配管31、32が接続されている。
【0041】
図3を参照して、第2の開口13の構成を説明する。図3は、第2の開口13の構成を模式的に示す分解図である。図3に示すように、1組の雌雄型成型体131および132で、袋部11に開けられた孔を挟むことで、第2の開口13を設けることができる。雌型成型体131は、雄型成型体132の凸部を受容可能な凹部を有する。雄型成型体132は、雌型成型体131の凹部に圧入されることで当該凹部との係合状態の維持を可能とする凸部を有する。かかる構成とすることで、袋部11の任意の面に、第2の開口13を設けることができる。第1の開口12についても、第2の開口13と同様の構造を有していてもよい。
【0042】
生成されたガスの回収容易性の観点から、第2の開口13は、袋部11の最も高い位置に配置されることが好ましい。例えば、流体用容器10の場合は、長手方向に傾斜配置することで、袋部11の短辺側の端部に高低差が生じる。他方の端部に対して上位となる端部側に第2の開口13が配置され、それと反対側の端部側に第1の開口12が配置される。袋部11の最も高い位置であれば、第2の開口13が配置される位置は端部に限定されない。第2の開口13を、袋部11の中央に配置することも可能である。これに対して、流体の注入のしやすさの観点から、第1の開口12は、袋部11の最も低い位置に配置されることが好ましい。
【0043】
なお、本実施形態では、第1の開口12および第2の開口13を1つずつ備える構成を例示したが、本発明はこれに限定されない。第1の開口12および第2の開口13を、それぞれ複数個備えていてもよく、いずれか一方のみを1個以上備えていてもよい。また、1つの開口が第1の開口12および第2の開口13の両方の機能を兼ねていてもよく、そのような2つの機能を兼ね備えた開口を1個以上備えていてもよい。
【0044】
(光触媒)
図2に示すように、光触媒15は基材16上に担持されている。基材16としては、触媒を担持する目的で使用される一般的な基材を用いることができ、例えば、基材16として、シート状部材、織物・編物状部材等を採用することができる。
【0045】
図2では、基材16がシート状部材である例を挙げて説明する。袋部11内への触媒の設置、および袋部11の交換の際には、シート状部材16上に担持された光触媒15をシート状部材16ごと袋部11内に出し入れすればよい。このため、流体用容器10の設置および交換が容易になる。また、シート状部材16上の全面にわたって光触媒15の層が形成されるので、光触媒15と水との接触面積を大きくすることができ、その結果、光触媒15による光化学反応を効率良く行わせることができる。また、シート状部材16が内部から袋部11の形状を支持するので、袋部11の変形を防ぐ効果が高まる。
【0046】
シート状部材16としては、ポリエチレンテレフタレート等の合成樹脂製のシート;多孔質シート、吸水性樹脂シート等の吸水性を有するシート;ポリアクリル酸ナトリウム等を用いることができる。中でも、シート状部材16が吸水性を有するシートである場合は、袋部11内部での水の移動による袋部11の変形を防ぐ効果が高まる。シート状部材16の大きさは、袋部11の大きさに応じて適宜決定することができる。袋部11の変形の観点から、シート状部材16の大きさは、袋部11の平面視面積の50~95%の面積であることが好ましい。
【0047】
なお、本実施形態では、基材上に光触媒が担持される例を示したが、本発明はこれに限定されない。基材上に担持されていない光触媒を用いることも可能である。
【0048】
光触媒15は、助触媒を含んでいてもよい。光触媒および助触媒の好適例は後述の通りである。光触媒は、袋部11内に供給される液体から、光の存在下で高エネルギー物質を生成する成分である。高エネルギー物質とは、そのもの、あるいはそれを原料とする合成物がエネルギー源となり得る物質であり、その例には水素、炭水化物およびアンモニアが含まれる。例えば、本実施形態では、袋部11内に供給される液体は水であり、光触媒15は水分解反応用光触媒である。水分解反応用光触媒は、水から水素および酸素を含むガスを生成する。本実施形態で生成される高エネルギー物質は水素である。
【0049】
次に、光触媒の種類、助触媒等の好適例を例示する。光触媒が光半導体よりなる場合、光触媒は、好ましくはdまたはd10電子配置の金属イオンとなり得る金属元素(半金属元素を含む)を含む化合物であり、より好ましくはdまたはd10の遷移金属を含む化合物である。d電子配置の金属イオンとなり得る金属元素としては、Ti、Zr、Nb、Ta、V、W、Laが挙げられる。また、d10電子配置の金属イオンとなり得る金属元素としては、Zn、Ga、Ge、In、Sn、Sb、Pb、Biが挙げられる。好ましくは、Ti、V、Ga、Zn、Bi、NbおよびTaからなる群から選ばれる1種以上の元素を含む、酸化物、窒化物、酸窒化物、カルコゲン化物、または、オキシカルコゲン化物が挙げられる。具体的には、TiO、CaTiO、SrTiO、AlドープSrTiO、SrTi、SrTi、KLaTi10、RbLaTi10、CsLaTi10、CsLaTiNbO10,LaTiO、LaTi、LaTi、LaTi:Ba、KaLaZr0.3Ti0.7、LaCaTi、KTiNbO、NaTi13、BaTi、GdTi、YTi、NaTi、KTi、KTi、CsTi、H-CsTi(H-CsはCsがHでイオン交換されていることを示す。以下同様)、CsTi11、CsTi13、H-CsTiNbO、H-CsTiNbO、SiO-pillared KTi、SiO-pillared KTi2.7Mn0.3、BaTiO、BaTi、AgLi1/3Ti2/3等のチタン含有酸化物;LaTiON等のチタン含有酸窒化物;LaTiCuS、LaTiAgS、LaTi(Cu,Ag)S、SmTi、YTi2、GdTi等のチタン含有(オキシ)カルコゲナイド;GaN、GaN:ZnO(ガリウム含有窒化物のZnO固溶体)等のガリウム含有窒化物;ZnGeN:ZnO(ゲルマニウム含有窒化物のZnO固溶体)等のゲルマニウム含有窒化物;BiVO、AgVO等のバナジウム含有酸化物; KNb17、RbNb17、CaNb、SrNb、BaNb15、NaCaNb10、ZnNb、CsNb11、LaNbO、H-KLaNb、H-RbLaNb、H-CsLaNb、H-KCaNb10、SiO-pillared KCaNb10(Chem.Mater.1996,8,2534.)、H-RbCaNb10、H-CsCaNb10、H-KSrNb10、H-KCaNaNb13)、PbBiNb9、SnNb等のニオブ含有酸化物;CaNbON、BaNbON、SrNbON、LaNbON等のニオブ含有酸窒化物;Ta、KPrTa15、KTaSi13、KTa12、LiTaO、NaTaO、KTaO、AgTaO、KTaO:Zr、NaTaO:La、NaTaO:Sr、NaTa、KTa(pyrochlore)、CaTa、SrTa、BaTa、NiTa、RbTa17、HLa2/3Ta、KSr1.5Ta10、LiCaTa10、KBaTa10、SrTa15、BaTa15、H1.8Sr0.81Bi0.19Ta、Mg-Ta oxide(Chem.Mater.2004 16,4304-4310)、LaTaO、LaTaO等のタンタル含有酸化物;Ta等のタンタル含有窒化物;CaTaON、SrTaON、BaTaON、LaTaON、YTa、TaON等のタンタル含有酸窒化物等が用いられる。さらに上記化合物に異なる金属をドーパントとして有してもよい。例えばAl等をドープしたSrTaON、SnNb、BiVO等があげられる。
【0050】
太陽光を利用した光水分解反応をより効率的に生じさせる観点からは、上記各種光半導体のうち、可視光応答型の光半導体を用いることが好ましい。具体的には、BaNbON、TaON、Ta、LaTiON、SrTaON、GaN:ZnO、BaTaON、LaTiCuS、LaTiAgS、LaTi(Cu,Ag)S7、Ti、SmTi、GdTi、Al等をドープしたSrTiO、SnNb、BiVOが好ましく、この中でも特に、Ta、LaTiON、SrTaON、GaN:ZnO、BaTaON、LaTiAgS、YTi、SmTi、GdTi、Al等をドープしたSrTiO、SnNbが好ましい。なお、これら化合物がドープ元素によって一部置換されていてもよい。上記の各種光半導体は、固相法、溶液法等の公知の合成方法によって容易に合成可能である。
【0051】
複数種類の光半導体から複合光触媒を製造する場合に、光半導体の種類の選択方法は特に制限されないが、吸収域が極端に異なるような2種以上の光半導体を選択することが好ましい。これは、光半導体の吸収域がそれぞれ異なると、得られる複合光触媒の吸収幅が広がり、より多くのフォトンを利用可能であることによる。また、吸収域が異なることにより助触媒および/または導電体とのエネルギー障壁が小さくなって、電荷移動がスムーズとなるため好ましい。
【0052】
例えば2種類の光半導体選択する場合には、一方の光半導体の吸収端が350nm~550nmであって、他方の光半導体の吸収端が500~750nmであることが好ましい。3種類以上の光半導体を選択する場合には、少なくともそのうちの2種が上述の吸収端を有することが好ましい。なお、本明細書において特記しない限り、数値範囲を表す「A~B」は、「A以上、B以下」を意図する。
【0053】
また、用いる複数種類の光半導体のうち2種類の光半導体の吸収端を比較した場合に、吸収端の差が25nm以上である光半導体を含むことが好ましい。吸収端の差は、より好ましくは50nm以上であって、好ましくは250nm以下である。3種類以上の光半導体を選択する場合には、少なくとも2種類の光半導体が上記の関係であることが好ましく、全ての光半導体が互いに上記の関係であることがより好ましい。
【0054】
光半導体の好ましい組合せの例としては、GaNとLaTiON、GaNとBaTaON、TaONとLaTiON、BiVOとLaTiON、TaONとBaTaON、TaONとTa、BiVOとBaTaON等が挙げられる。
【0055】
光半導体の形態(形状)については、以下に説明する助触媒を担持して光触媒として機能し得るような形態であれば特に限定されるものではない。水分解反応用光触媒は、粒子状の光半導体の表面に後述の助触媒を担持することが好ましい。この場合、光半導体の粒子径の下限が好ましくは20nm以上であり、上限が好ましくは500μm以下である。
【0056】
なお、この「粒子径」とは、定方向接線径(フェレ径)の平均値(平均粒子径)を意味し、XRD、TEM、SEM法等の公知の手段によって測定することができる。
【0057】
助触媒源には、液中で光半導体とともに加熱することによって助触媒となり得るもの(成分、元素、イオン)が用いられる。例えば、光半導体にCoを含む助触媒(酸素発生用助触媒であるCoO等)を担持させる場合は、Coを含む化合物を助触媒源として用いることができる。Coを含む化合物の例としては、Coを含む塩が好ましく、具体的にはCo(NO、Co(NHCl、Co(OAc)等である。さらにリン酸ナトリウムまたはホウ酸ナトリウムを添加し、CoPi、CoBiとして担持することも可能である。なお、酸素発生用助触媒はCoOに限定されるものではなく、本発明の一態様においては酸素発生用助触媒としてCr、Sb、Nb、Th、Mn、Fe、Co、Ni、Ru、Rh、Irの金属、これらの酸化物、硫化物、または複合酸化物等を担持させることもでき、なかでも酸化に対して安定であることからこれらの酸化物が好ましい。これらを担持させる場合は、助触媒源として、例えば、これら元素を含む塩を用いることができる。
【0058】
光半導体に水素発生用助触媒を担持することもできる。例えば、光半導体に水素発生用助触媒としてPtを担持させる場合は、Pt単体またはPtを含む化合物を助触媒源として用いることができる。Ptを含む化合物の例としては、Ptを含む塩が好ましくHPtCl等である。なお、水素発生用助触媒はPtに限定されるものではなく、本発明の一態様においては水素発生用助触媒としてPd、Rh、Ru、Ni、Au、Fe、Ru-Ir、Pt-Ir、NiO、RuO、IrO、Rh、Cr-Rh複合酸化物、これらの金属に硫黄、チオウレアを添加した硫化物等を担持させることもでき、なかでも還元能力があることから金属、もしくは酸化可能な貴金属酸化物が好ましい。これらを担持させる場合は、助触媒源として、例えば、これら元素を含む塩を用いることができる。
【0059】
光触媒の好ましい使用量は、袋部11の大きさ、収容する水の量等に応じて適宜決定することができる。例えば、光触媒を存在させる平面視面積に対して0.1g/m以上であることが好ましく、100g/m以下であることがより好ましい。光触媒を存在させる平面視面積とは、光触媒を基板上に担持させる場合は、基板の平面視面積に対しての値であり、担持させない場合は、袋部に存在する水の平面視面積に対しての値を意味する。
【0060】
以下に、流体用容器10の変形例について説明する。なお、各変形例に係る流体用容器において、流体用容器10との相違点として挙げた構成以外の構成は、流体用容器10が備える各構成と同様であるので、ここでは説明を省略する。
【0061】
(変形例1)
変形例1に係る流体用容器10aの構成を、図4に示す。流体用容器10aでは、第1の開口12aが、袋部11の短辺側の端部ではなく、長辺側の端部に設けられている点が、少なくとも流体用容器10と相違する。
【0062】
詳細は後述するが、光触媒を新規設置または交換する際に、袋部11の短辺側の端部から光触媒を出し入れする場合がある。このような場合に、第1の開口12aが、袋部11の長辺側の端部に設けられていることにより、光触媒の新規設置または交換が容易になる。
【0063】
(変形例2)
変形例2に係る流体用容器10bの構成を、図5および図6に示す。図5は、変形例2に係る流体用容器10bの構成を模式的に示す図である。なお、図5に示す流体用容器10bは、袋部11が生成されたガス等によって膨張した状態を表している。図6は、図5に示される流体用容器をB-B線で切断した断面を模式的に示すB-B線矢視断面図である。
【0064】
流体用容器10bでは、三角形に成形したワイヤ17の間隙に、袋部11を長手方向に挿入することで、膨張後の袋部11を賦形している点が、少なくとも流体用容器10と相違する。これにより、生成されたガス等によって袋部11が膨らむと、袋部11の立体形状がワイヤ17の間隙の形状に追随するように賦形されて、図5に示すような三角柱形状となる。このときの袋部11のB-B線断面の形状は、図6に示すように、ワイヤ17の間隙の形状とおなじ三角形となる。
【0065】
袋部11が三角柱形状に賦形されることにより、袋部11を水素発生用水分解装置1(図1)に設置する際に、枠部材20(図1)によって水平面に対して傾斜させて保持せずとも、袋部11に緩やかな傾斜を持たせることができる。これにより、袋部11が膨張した後の立体形状の最も高い位置に、ガスの流路となる空間Sが形成される。
【0066】
図5および図6に示すように、第2の開口13は、袋部11が膨張した後の立体形状における最も高い位置に対応する位置に設けることが好ましい。光触媒による光化学反応によって生成したガスは、袋部11の三角柱の最も高い位置に向かって上昇し、空間Sにおいて水から分離する。このため、第2の開口13を、袋部11が膨張した後の立体形状の最も高い位置に設けることで、ガスの回収が容易になる。
【0067】
なお、図5では、ワイヤ17を2本用いて袋部11を賦形する例を示したが、本発明はこれに限定されない。ワイヤ17の数は、袋部11の大きさに応じて適宜決定することができる。
【0068】
(変形例3)
変形例3に係る流体用容器10cの構成を、図7に示す。流体用容器10cでは、半円型に成形したワイヤ17aを用いて袋部11を賦形している点が、少なくとも変形例2に係る流体用容器10bと相違する。袋部11を半円柱形状に賦形することによる効果は、変形例2で袋部11を三角柱形状に賦形することによる効果と同じである。
【0069】
変形例2のワイヤ17や、本変形例のワイヤ17aを用いて、膨張後の袋部11の立体形状を賦形することには、次の利点がある。まず、ワイヤの形状を変更することで、袋部11の立体形状を容易に変更することができる。また、後述する変形例4に示すような立体形状に成形した袋部を製造する場合と比較して、袋部の製造が容易である。
【0070】
なお、変形例2および3では、ワイヤを用いて袋部の立体形状を賦形する例を示したが、本発明はこれに限定されない。賦形部材としては、袋部11の外周面に接することで、膨張後の袋部11の立体形状を賦形することができるものであれば、ワイヤに限定されない。例えば、樹脂製のガイド等を賦形部材として用いることが可能である。
【0071】
膨張後の袋部11の立体形状は、上述したものに限定されない。賦形部材の形状を適宜変更することによって、膨張後の袋部11の立体形状を任意の形状に賦形することが可能である。
【0072】
(変形例4)
変形例4に係る流体用容器10dの構成を、図8に示す。流体用容器10dでは、袋部11aが四面体形状を有している点、および第2の開口13が、袋部11aが四面体の最も高い位置に設けられている点が、少なくとも流体用容器10と相違する。なお、流体用容器10dは、第1の開口12を備えているが、簡略化のため、図示は省略する。
【0073】
袋部11aが四面体形状であることにより、袋部11a水素発生用水分解装置1(図1)に設置する際に、枠部材20(図1)によって水平面に対して傾斜させて保持せずとも、袋部11aに緩やかな傾斜を持たせることができる。これにより、袋部11aの四面体の最も高い位置に、ガスの流路となる空間が形成される。光触媒による光化学反応によって生成したガスは、袋部11aの四面体の最も高い頂点に向かって上昇し、当該空間において水から分離する。このため、第2の開口13を、袋部11aの四面体の最も高い位置に設けることで、ガスの回収が容易になる。
【0074】
(変形例5)
変形例5に係る流体用容器10eの構成を、図9に示す。流体用容器10eでは、光触媒15が袋部11の内面112に設けられている点が、少なくとも流体用容器10と相違する。なお、流体用容器10eは、第1の開口12および第2の開口13を備えているが、簡略化のため、これらの図示は省略する。
【0075】
ここで、「袋部11の内面112に設けられている」とは、袋部11の内面112に光触媒15が直接接するように設けられていてもよく、袋部11の内面112に別の部材を介して光触媒15が間接的に設けられていてもよいことを意味する。光触媒15を袋部11の内面112に設けることにより、モジュール部材の削減、光触媒シート挿入工程の省略が可能等の効果を奏する。なお、変形例5に係る流体用容器10eは、流体用容器10のように、シート状部材16に担持させた光触媒15をさらに備えていてもよい。これにより、光触媒15の設置面積を増加させたり、光触媒量を増大させることができる。
【0076】
本発明の一態様に係る流体用容器は、袋部の内部に流体を収容可能な形状であれば、上述した形状に限定されない。
【0077】
(光触媒の設置および交換方法)
流体用容器10における光触媒15の設置および交換方法の一例を、図10を参照して説明する。なお、図10では、簡略化のため、第1の開口12および第2の開口13の図示は省略する。また、以下の説明では、説明の便宜上、光触媒15を担持したシート状部材16を、光触媒担持シート16と呼ぶこととする。
【0078】
図10に示すように、袋部11の短辺側の端部から、袋部11内に、光触媒担持シート16を挿入し、端部を接着または融着することによって、流体用容器10に光触媒15を設置することができる。光触媒15の交換時には、袋部11の短辺側の端部を切断し、光触媒担持シート16を取り出した後に、新しい光触媒担持シート16を挿入し、端部を接着または融着することによって、流体用容器10内の光触媒15を交換することができる。
【0079】
流体用容器10における光触媒15の設置および交換方法の別の一例を、図11を参照して説明する。なお、図11では、簡略化のため、第1の開口12および第2の開口13の図示は省略する。図11に示すように、袋部11の短辺側の端部から袋部11内に光触媒担持シート16を挿入する際に、光触媒担持シート16を支持部材19と一緒に挿入してもよい。支持部材19は、光触媒担持シート16を下から支持する。また、支持部材19は、メッシュ部材18を介して光触媒担持シート16を支持することが好ましい。
【0080】
光触媒15の交換時には、袋部11の短辺側の端部を切断し、支持部材19を袋部11内に残したままで、メッシュ部材18および光触媒担持シート16を取り出した後に、新しい光触媒担持シート16をメッシュ部材18上に載置した状態で、袋部11内に挿入する。新しい光触媒担持シート16をメッシュ部材18上に載置した状態で支持部材19上に載置される。新しい光触媒担持シート16を挿入後に端部を接着または融着することによって、流体用容器10内の光触媒15を交換することができる。
【0081】
光触媒担持シート16を支持部材19上に載置することには、形状維持および交換容易化等の利点がある。また、メッシュ部材18を介して光触媒担持シート16を支持部材19上に載置することには、光触媒担持シートの保護と軽量化等の利点がある。
【0082】
なお、図11では、支持部材19として、H型の部材を用いる例を示したが、光触媒担持シート16を下から支持可能であれば、支持部材19の形状はこれに限定されない。光触媒シートの交換時の操作性の観点から、支持部材19としては、光触媒担持シート16を面で支持するタイプよりも、線または点で支持するタイプであることが好ましい。
【0083】
図10および図11では、光触媒15の交換の際に袋部11を再利用する例を示したが、袋部11ごと光触媒15を交換してもよい。また、上記の変形例5に示すような、袋部11の内面112に光触媒15が設けられているような場合も、袋部11ごと光触媒15を交換すればよい。
【0084】
(水供給方法)
流体用容器10における水の供給方法の一例を、図1を参照して説明する。流体用容器10には、配管31を通って第1の開口12から袋部11の内部に水が供給される。水の供給は、袋部11の全区画に水を行き渡らせることができ、且つガス排出時に水が同伴しない条件下で行なうことが好ましい。
【0085】
かかる目的のために、例えば、第1の開口12の口径の好ましい範囲が規定される。例えば、第1の開口12の好ましい口径は20mm程度である。また、第1の開口12の位置および形状の好ましい条件が規定される。例えば、仕切り等の形状が複雑で大きな袋部の場合、開口部から袋内部に複数個穴のあいた誘導管を挿入し、全体に水を行きわたらせることができる。この場合、誘導管の先端ほど大きな穴をあけておくと、奥まで均一に早く水をいきわたらせることができる。また、第1の開口12は、袋部11の最も低い位置(例えば、長辺側の端部または底面)に設けることが好ましい。
【0086】
常圧の場合、水は、水が貯留されているタンクよりの自重によって、水を供給することができるが、本発明はこれに限定されない。ポンプを用いて水を供給してもよい。また、給水の制御は水位計を取り付けたり、高所に設けた気液分離部に液還流部を設け、水を還流部までオーバーフローさせて水位を制御するオーバーフロー方式等が選ばれる。設備の簡略化の観点から、オーバーフロー方式が好ましい。
【0087】
生成する酸水素ガスに空気が混入することを防止する観点から、水の供給時に混入するエアを排出させるためのエア抜き口を、第1の開口12および第2の開口13とは別に、袋部11に設けてもよい。また、袋部11内の水位は、袋部11内に液面センサや圧力センサを設けることで、監視および制御することができる。袋部11内の水位は、袋部11内に形成される空間Sの体積に影響する。袋部11内の水位は、光化学反応によって生成されるガスの量に対し、袋部11内の水が飛沫として同伴しない条件から選ばれる。袋部11内の水が飛沫として同伴した場合は、還流させて袋部11内に戻してもよい。
【0088】
(生成ガス移送方法)
流体用容器10における生成ガスの移送方法の一例を、図1を参照して説明する。生成ガスは、第2の開口13から配管32を通って袋部11の外に取り出される。生成ガスの移送は、ガス移送管である配管32にガスが移送され、且つ袋部11内にガスが留まらない条件下で行なうことが好ましい。
【0089】
かかる目的のために、例えば、配管32の径の好ましい範囲が規定される。例えば、配管32の好ましい径は10~50mm程度である。また、第2の開口13の位置および形状の好ましい条件が規定される。例えば、第2の開口13は、袋部11の最も高い位置に設けることが好ましい。
【0090】
常圧の場合、生成ガスは、自圧によって、第2の開口13から流体用容器10の外に移送されるが、本発明はこれに限定されない。ポンプ等で、袋部11の内部と外部との間に圧力差をつけてもよい。具体的には、ガス移送側を陰圧にする等が挙げられる。
【0091】
また、第2の開口13に生成ガスが自動的に溜まるように、袋部11の上面に傾斜を持たせることが好ましい。この目的のために、第2の開口13側の端部が最も高い位置になるように、流体用容器10全体を傾斜配置してもよく、3次元加工によって、袋部11の形状を上面に傾斜を持たせる形状に加工してもよく、膨張時に袋部11の立体形状が賦形されるような手段を用いて、袋部11の形状を上面に傾斜を持たせる形状に賦形してもよい。
【0092】
〔2.水素発生用水分解装置〕
以下、図1を参照して、流体用容器10を備えた水素発生用水分解装置1の構成を説明する。水素発生用水分解装置1は、流体用容器10と、流体用容器10を保持する枠部材20と、を備える構成である。本発明の一態様に係る水素発生用水分解装置における本発明の一態様に係る流体用容器については、既に説明したとおりであるのでここでは説明を繰り返さない。
【0093】
(枠部材20)
枠部材20は、流体用容器10の形状維持の観点から、流体用容器10を下から保持する第1の枠部材21を少なくとも備えることが好ましく、流体用容器10の変形抑制の観点から、流体用容器10を下から保持する第1の枠部材21と、流体用容器10を上から保持する第2の枠部材22と、を備えることがより好ましい。
【0094】
第1の枠部材21としては、図1に示すような、箱形の受け皿形状を有する架台を採用することができるが、これに限定されない。第1の枠部材21としては、流体用容器10を保持し易いように、箱形の受け皿形状を有していることが好ましいい。例えば、バット、すのこ、ウッドデッキ、アルミ材等の、流体用容器10を面で保持可能な部材を好ましく用いることができる。
【0095】
第2の枠部材22としては、図1に示すような、メッシュ部材を採用することができるが、これに限定されない。第2の枠部材22としては、袋部11の任意の位置で、少なくとも1箇所、好ましくは複数箇所について、袋部11の上面を下面に向かって押圧することができるものであればよい。例えば、格子状、棒状、丸型等の任意の形状を有する重石を第2の枠部材22として採用することができる。第2の枠部材22を用いることによる効果は、袋部11に接着部111を設けることによる効果と同様である。袋部11に接着部111を設けると共に、第2の枠部材22を用いることによって、流体用容器10の変形抑制効果を高めることができる。
【0096】
第1の枠部材21による流体用容器10の保持方法を説明する。第1の枠部材21は、生成されたガスの回収容易性の観点から、流体用容器10の袋部11の上面に勾配を持たせるように、流体用容器10を保持することが好ましい。一例として、例えば、図1に示したように、第2の開口13が配置された側の端部が、他方の端部よりも高い位置になるように、流体用容器10を長手方向に傾斜させて保持してもよい。また、別の例として、例えば、三角屋根型の第1の枠部材21を用いて流体用容器10を設置することで、流体用容器10の中央部が端部よりも高い位置になるように、流体用容器10を傾斜させて保持してもよい。袋部11の上面の水平面に対する傾斜角度は、生成ガスの回収容易性の観点から、1°以上であることが好ましく、5°以上であることがより好ましい。また、変形防止の観点から、30°以下であることが好ましく、25°以下であることがより好ましい。また袋の長手方向の略中心(例えば長手方向中心から±1m以内)が一番低い位置にあり、袋の長手方向両端に発生した気体を取り出す開口部を設け、最下部にあたる中心付近に水などの供給、排出が可能になる開口部を設けてもよい。水の供給だけを考えるのであれば、一番低い位置にする必要はないが、水の排出の手間を考えると一番低い位置にすることが好ましい。逆に袋の長手方向の略中心を一番高い位置とし、一番高い部分に発生した気体を取り出すための開口部を設け、それ以外の部分に水の供給と排出のための開口部を設けてもよい。このような構造にする場合、袋の長手方向が東西方向におよそ一致(例えば東西方向に対して長手方向が20度以下の角度と)するように設置することにより、太陽が出ている間、安定して気体を発生させることができる。もちろん季節によって必ず夕方に雨が来るような状況であれば、それに合わせて日光をより効率的に受けられるように設置方向を変更してもよい。水素発生用水分解装置1が太陽光照射下で使用される場合には、気泡が流動する範囲の傾斜角で設置される土地の緯度等に応じて日射量を最大化する設置角を日射シミュレーション等で求めてもよい。なお、流体用容器が大型化するほど、所望の傾斜角度を有するように流体用容器全体を傾斜させて保持することは容易ではない。そこで、袋部の長手方向の長さが所定値以上(例えば、5m以上)となるような大型の流体用容器においては、「1.流体用容器」の項で変形例2および3に示したような、膨張時に袋部の上面に勾配を持たせるように袋部の立体形状を賦形可能な構成を採用することが好ましい。
【0097】
水素発生用水分解装置1は、上述した以外の構成を備えていてもよい。例えば、袋部11の上側に発光体が配置され、下側に反射板が配置されてもよい。反射板は拡散反射板であることが好ましい。発光体は、袋部11に設けられている光触媒15が触媒能を発揮する光を放出する光源であればよい。発光体は、例えば、LED(light emitting diode)等の照明装置であり得る。袋部11に設けられている光触媒が太陽光(自然光)によっても触媒能を発揮する場合では、流体用容器10は、袋部11に太陽光が照射されるように屋外に設置され得る。あるいは、流体用容器10は、太陽光を導くミラーおよび光ファイバなどの導光部材とともに屋内に設置され得る。
【0098】
また、袋部11に圧力センサを付け、袋が破れた場合にそれを検知できるようにしておくことも好ましい態様である。太陽光を利用したこの設備は、実用化した際には、かなり広大な面積を占めることになるため、一つの袋は大きく見えても、全体としては小さな割合になるため、目視で袋の異常に気が付きにくく、また気体の発生量などで異常を検知することも難しいため、圧力センサにて異常を検知することは役に立つ。
【0099】
〔まとめ〕
本発明の態様1に係る流体用容器は、内部に光触媒を有する流体用容器であり、光透過性を有する高分子フィルムで構成された、流体を収容可能な袋部を備え、前記袋部は、流体を導入するための、少なくとも1つの第1の開口と、前記光触媒により前記流体から生成されたガスを前記袋部から取り出すための、少なくとも1つの第2の開口と、を備える。このような流体用容器を水素発生用水分解装置に適用することにより、設置、交換などの作業が容易であり、且つ大型化が容易な、水素発生用水分解装置を実現することができる。
【0100】
本発明の態様2に係る流体用容器は、上記の態様1において、前記流体が水を含む液体であってよい。これにより、光触媒による光化学反応によって、水から水素を含むガスを生成することができる。
【0101】
本発明の態様3に係る流体用容器は、上記の態様1または2において、前記光触媒は、基材上に担持されていることが好ましい。これにより、光触媒の設置および交換が容易になる。
【0102】
本発明の態様4に係る流体用容器は、上記の態様3において、前記基材は、シート状部材であることが好ましい。これにより、光触媒の設置および交換が容易になる。
【0103】
本発明の態様5に係る流体用容器は、上記の態様1~4のいずれか1つにおいて、前記袋部を構成する前記高分子フィルムの厚みが、1μm以上、1mm以下であることが好ましい。高分子フィルムの厚みを上述の範囲とすることで、流体用容器の耐久性を高めることができる。
【0104】
本発明の態様6に係る流体用容器は、上記の態様1~5のいずれか1つにおいて、前記袋部は、平面視において略長方形形状であり、当該略長方形形状の短辺の長さが10cm以上であることが好ましい。これにより、流体用容器の耐久性を高めることができる。
【0105】
本発明の態様7に係る流体用容器は、上記の態様6において、前記略長方形形状の長辺の長さが1m以上、300m以下であることが好ましい。これにより、流体用容器の耐久性をより高めることができる。
【0106】
本発明の態様8に係る流体用容器は、上記の態様1~7のいずれか1つにおいて、前記袋部を構成する前記高分子フィルムは、引張弾性率が10MPa以上、1000MPa以下であることが好ましい。これにより、袋部が柔軟性を有するため、袋部をたたむことで大きさを小さくすることができ、その結果、設置、交換等の作業における取扱い性が向上し、これらの作業が容易になる。
【0107】
本発明の態様9に係る水素発生用水分解装置は、上記の態様1~8のいずれか1つに記載の流体用容器と、当該流体用容器を保持する枠部材と、を備える。水素発生用水分解装置が上述の流体用容器を備えることで、設置、交換などの作業が容易であり、且つ大型化が容易な、水素発生用水分解装置を実現することができる。
【0108】
本発明は上述した各実施形態に限定されるものではなく、請求項に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0109】
1 水素発生用水分解装置
10、10a、10b、10c、10d、10e 流体用容器
11、11a 袋部
12、12a 第1の開口
13 第2の開口
15 光触媒
16 光触媒担持シート(基材、シート状部材)
20 枠部材
21 架台(第1の枠部材)
22 抑え部材(第2の枠部材)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11