(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172767
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】窒化物半導体基板の製造方法、ハイブリッドICの製造方法及び窒化物半導体基板
(51)【国際特許分類】
H01L 21/205 20060101AFI20241205BHJP
H01L 21/20 20060101ALI20241205BHJP
C30B 29/38 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
H01L21/205
H01L21/20
C30B29/38 D
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090721
(22)【出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【弁理士】
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 俊弘
(74)【代理人】
【識別番号】100215142
【弁理士】
【氏名又は名称】大塚 徹
(72)【発明者】
【氏名】萩本 和徳
(72)【発明者】
【氏名】土屋 慶太郎
(72)【発明者】
【氏名】菅原 孝世
【テーマコード(参考)】
4G077
5F045
5F152
【Fターム(参考)】
4G077AA03
4G077BE15
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4G077HA06
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5F152NP09
5F152NP21
5F152NQ09
5F152NQ11
(57)【要約】
【課題】
Si{110}基板を用い、表面モフォロジーに優れた窒化ガリウムエピタキシャル層を備えた窒化物半導体基板及びその製造方法、並びに、表面モフォロジーに優れた窒化ガリウムエピタキシャル層を含むIII族窒化物系デバイスとシリコン系デバイスとを備えたハイブリッドICの製造方法を提供する。
【解決手段】
Si基板上にIII族窒化物下地層と窒化ガリウムエピタキシャル層とを含むIII族窒化物層を備えた窒化物半導体基板の製造方法であって、Si{110}基板を用い、1000℃以上に加熱したSi基板上に、Al原料を含み窒素原料を含まないガスを供給するプリフロー工程と、III族原料及び窒素原料を含むガスを供給してSi基板上にIII族窒化物下地層を形成する下地層形成工程と、Ga原料及び窒素原料を含むガスを供給して窒化ガリウムエピタキシャル層を形成するエピタキシャル層形成工程を含む窒化物半導体基板の製造方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン基板上にIII族窒化物下地層と窒化ガリウムエピタキシャル層とを含むIII族窒化物層を備えた窒化物半導体基板の製造方法であって、
主面の面方位が{110}であるシリコン基板を用い、
1000℃以上に加熱した前記シリコン基板上に、アルミニウム原料を含み窒素原料を含まないガスを供給するプリフロー工程と、
III族原料及び窒素原料を含むガスを供給して前記シリコン基板上にIII族窒化物下地層を形成する下地層形成工程と、
ガリウム原料及び窒素原料を含むガスを供給して窒化ガリウムエピタキシャル層を形成するエピタキシャル層形成工程とを含むことを特徴とする窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項2】
前記アルミニウム原料として有機アルミニウム化合物を用いることを特徴とする請求項1に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項3】
前記プリフロー工程における前記シリコン基板の加熱温度を1200℃以下とすることを特徴とする請求項1又は2に記載の窒化物半導体基板の製造方法。
【請求項4】
同一のシリコン基板上にシリコン系デバイスとIII族窒化物系デバイスが共存するハイブリッドICの製造方法であって、
主面の面方位が{110}であるシリコン基板を用い、該シリコン基板上の前記III族窒化物系デバイスを設ける領域に第1の開口部を有するマスクを形成し、
1000℃以上に加熱した前記シリコン基板上に、アルミニウム原料を含み窒素原料を含まないガスを供給するプリフロー工程と、
III族原料及び窒素原料を含むガスを供給して前記シリコン基板上にIII族窒化物下地層を形成する下地層形成工程と、
ガリウム原料及び窒素原料を含むガスを供給して窒化ガリウムエピタキシャル層を形成するエピタキシャル層形成工程を行い、前記第1の開口部に前記III族窒化物系デバイスを設け、
その後、前記シリコン系デバイスを設ける領域の前記マスクを除去して第2の開口部を形成し、該第2の開口部に前記シリコン系デバイスを設けることを特徴とするハイブリッドICの製造方法。
【請求項5】
前記アルミニウム原料として有機アルミニウム化合物を用いることを特徴とする請求項4に記載のハイブリッドICの製造方法。
【請求項6】
前記プリフロー工程における前記シリコン基板の加熱温度を1200℃以下とすることを特徴とする請求項4又は5に記載のハイブリッドICの製造方法。
【請求項7】
シリコン基板上にIII族窒化物層を備えた窒化物半導体基板であって、
前記シリコン基板の主面の面方位は{110}であり、
前記シリコン基板上の前記III族窒化物層は、III族窒化物下地層と、該III族窒化物下地層上の窒化ガリウムエピタキシャル層とを備えるものであり、
前記窒化ガリウムエピタキシャル層の表面の粗さRaは2.00nm以下であることを特徴とする窒化物半導体基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、窒化物半導体基板の製造方法、ハイブリッドICの製造方法及び窒化物半導体基板に関する。
【背景技術】
【0002】
シリコン(Si)の最先端デバイスでは、正孔の移動度の上がるSi(110)基板上にFinFET(Fin Field-Effect Transistor)やGAA(Gate-All-Around)を作製し、デバイスを作製している。一方、Si基板上へのGaNの成膜(GaN on Si)では、一般に、結晶構造が一致し格子ミスマッチが小さいSi(111)基板上に窒化ガリウム(GaN)のエピタキシャル成長を行い、パワーデバイス、発光デバイスを作製している。
【0003】
特許文献1には、窒化物半導体ウェーハ及び窒化物半導体ウェーハの製造方法に係る発明が記載されている。特許文献1の中では、高抵抗低酸素のCZシリコン単結晶基板の主面の面方位に関して、(100)、(110)、(111)等とすることができることが記載されている。実施例としては、軸方位<111>のシリコン単結晶基板上に窒化物半導体のエピタキシャル成長を行ったことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明者らが実際にSi(110)基板上への窒化ガリウムエピタキシャル成長を検討したところ、Si(110)基板上に初期AlN層、歪緩和層、GaN層をエピタキシャル成長すると、表面に凹凸が形成されてしまいモフォロジーが悪くデバイス作製には適さないものとなることがわかった。Si(110)基板を用いると、Si(111)基板上に成長したときと比べて、窒化ガリウムエピタキシャル層の表面モフォロジー(平坦性又は粗さ)が悪化することを見出した。GaN on Si基板を用いたデバイスの作製において、主面の面方位が{110}であるシリコン基板を用いた場合でも、エピタキシャル層表面の凹凸を改善し、表面モフォロジーに優れた窒化ガリウムエピタキシャル層を備えた窒化物半導体基板(GaN on Si(110))及びその製造方法が必要である。
【0006】
また、上記のようにシリコン基板上にIII族窒化物系デバイスを製作する場合には、GaN(III族窒化物)層の品質の観点からSi(111)基板上にエピタキシャル成長することが好ましい。一方、シリコン基板上に最先端Siデバイス(FinFETやGAA)を作製するには、Si(110)基板を用いることが好ましい。しかしながら、同一のシリコン基板上にシリコン系デバイスとIII族窒化物系デバイスが共存するハイブリッドICを製作する場合には、シリコン系デバイスとIII族窒化物系デバイスとを同じ面方位のシリコン基板上に形成することとなる。
【0007】
このため、Si(110)基板上に高品質の窒化ガリウムエピタキシャル層を成長させる技術(GaN on Si(110))が確立できれば、同一のSi(110)基板上にIII族窒化物系デバイスや、FinFETやGAA等のシリコン系デバイスを作製し、ハイブリッドICを作製できる。このように、主面の面方位が{110}であるシリコン基板(Si{110}基板)を用いつつ、表面モフォロジーに優れた窒化ガリウムエピタキシャル層を含むIII族窒化物系デバイスとシリコン系デバイスとを備えたハイブリッドICの製造方法が求められている。
【0008】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、主面の面方位が{110}であるシリコン基板を用い、表面モフォロジーに優れた窒化ガリウムエピタキシャル層を備えた窒化物半導体基板及びその製造方法、並びに、主面の面方位が{110}であるシリコン基板を用い、表面モフォロジーに優れた窒化ガリウムエピタキシャル層を含むIII族窒化物系デバイスとシリコン系デバイスとを備えたハイブリッドICの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、シリコン基板上にIII族窒化物下地層と窒化ガリウムエピタキシャル層とを含むIII族窒化物層を備えた窒化物半導体基板の製造方法であって、主面の面方位が{110}であるシリコン基板を用い、1000℃以上に加熱した前記シリコン基板上に、アルミニウム原料を含み窒素原料を含まないガスを供給するプリフロー工程と、III族原料及び窒素原料を含むガスを供給して前記シリコン基板上にIII族窒化物下地層を形成する下地層形成工程と、ガリウム原料及び窒素原料を含むガスを供給して窒化ガリウムエピタキシャル層を形成するエピタキシャル層形成工程とを含む窒化物半導体基板の製造方法を提供する。
【0010】
このような窒化物半導体基板の製造方法によれば、主面の面方位が{110}であるシリコン基板を用いながら、表面モフォロジーに優れた窒化ガリウムエピタキシャル層を備えた窒化物半導体基板を製造することができる。
【0011】
このとき、前記アルミニウム原料として有機アルミニウム化合物を用いる窒化物半導体基板の製造方法とすることができる。
【0012】
これにより、より低コストの窒化物半導体基板の製造方法とすることができる。
【0013】
このとき、前記プリフロー工程における前記シリコン基板の加熱温度を1200℃以下とする窒化物半導体基板の製造方法とすることができる。
【0014】
これにより、より安定したプリフロー工程を行うことができる。
【0015】
本発明は、また、同一のシリコン基板上にシリコン系デバイスとIII族窒化物系デバイスが共存するハイブリッドICの製造方法であって、主面の面方位が{110}であるシリコン基板を用い、該シリコン基板上の前記III族窒化物系デバイスを設ける領域に第1の開口部を有するマスクを形成し、1000℃以上に加熱した前記シリコン基板上に、アルミニウム原料を含み窒素原料を含まないガスを供給するプリフロー工程と、III族原料及び窒素原料を含むガスを供給して前記シリコン基板上にIII族窒化物下地層を形成する下地層形成工程と、ガリウム原料及び窒素原料を含むガスを供給して窒化ガリウムエピタキシャル層を形成するエピタキシャル層形成工程を行い、前記第1の開口部に前記III族窒化物系デバイスを設け、その後、前記シリコン系デバイスを設ける領域の前記マスクを除去して第2の開口部を形成し、該第2の開口部に前記シリコン系デバイスを設けるハイブリッドICの製造方法を提供する。
【0016】
このようなハイブリッドICの製造方法によれば、主面の面方位が{110}であるシリコン基板を用いながら、表面モフォロジーに優れた窒化ガリウムエピタキシャル層を含むIII族窒化物系デバイスとシリコン系デバイスとを備えたハイブリッドICを製造することができる。
【0017】
このとき、前記アルミニウム原料として有機アルミニウム化合物を用いるハイブリッドICの製造方法とすることができる。
【0018】
これにより、より低コストのハイブリッドICの製造方法とすることができる。
【0019】
このとき、前記プリフロー工程における前記シリコン基板の加熱温度を1200℃以下とするハイブリッドICの製造方法とすることができる。
【0020】
これにより、より安定したプリフロー工程を行うことができる。
【0021】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、シリコン基板上にIII族窒化物層を備えた窒化物半導体基板であって、前記シリコン基板の主面の面方位は{110}であり、前記シリコン基板上の前記III族窒化物層は、III族窒化物下地層と、該III族窒化物下地層上の窒化ガリウムエピタキシャル層とを備えるものであり、前記窒化ガリウムエピタキシャル層の表面の粗さRaは2.00nm以下である窒化物半導体基板を提供する。
【0022】
このような窒化物半導体基板によれば、主面の面方位が{110}であるシリコン基板を用いながら、表面モフォロジーに優れ、III族窒化物系デバイスに適した窒化物半導体基板となる。
【発明の効果】
【0023】
以上のように、本発明の窒化物半導体基板の製造方法によれば、主面の面方位が(110)であるシリコン基板を用いながら、表面モフォロジーに優れた窒化ガリウムエピタキシャル層を備えた窒化物半導体基板を製造することが可能となる。本発明のハイブリッドICの製造方法によれば、主面の面方位が{110}であるシリコン基板を用いながら、表面モフォロジーに優れた窒化ガリウムエピタキシャル層を含むIII族窒化物系デバイスとシリコン系デバイスとを備えたハイブリッドICを製造することが可能となる。本発明の窒化物半導体基板によれば、主面の面方位が{110}であるシリコン基板を用いながら、表面モフォロジーに優れ、III族窒化物系デバイスに適した窒化物半導体基板となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明に係る窒化物半導体基板の具体例を示す。
【
図2】本発明に係る窒化物半導体基板の製造方法及びハイブリッドICの製造方法のフローを示す。
【
図3】実施例及び比較例における窒化物半導体基板における窒化ガリウムエピタキシャル層の表面モフォロジーの比較を示す。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0026】
上述のように、主面の面方位が{110}であるシリコン基板を用い、表面モフォロジーに優れた窒化ガリウムエピタキシャル層を備えた窒化物半導体基板及びその製造方法、並びに、主面の面方位が{110}であるシリコン基板を用い、表面モフォロジーに優れた窒化ガリウムエピタキシャル層を含むIII族窒化物系デバイスとシリコン系デバイスとを備えたハイブリッドICの製造方法が求められていた。
【0027】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、シリコン基板上にIII族窒化物下地層と窒化ガリウムエピタキシャル層とを含むIII族窒化物層を備えた窒化物半導体基板の製造方法であって、主面の面方位が{110}であるシリコン基板を用い、1000℃以上に加熱した前記シリコン基板上に、アルミニウム原料を含み窒素原料を含まないガスを供給するプリフロー工程と、III族原料及び窒素原料を含むガスを供給して前記シリコン基板上にIII族窒化物下地層を形成する下地層形成工程と、ガリウム原料及び窒素原料を含むガスを供給して窒化ガリウムエピタキシャル層を形成するエピタキシャル層形成工程とを含む窒化物半導体基板の製造方法により、主面の面方位が{110}であるシリコン基板を用いながら、表面モフォロジーに優れた窒化ガリウムエピタキシャル層を備えた窒化物半導体基板を製造することが可能となることを見出し、本発明を完成した。
【0028】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、同一のシリコン基板上にシリコン系デバイスとIII族窒化物系デバイスが共存するハイブリッドICの製造方法であって、主面の面方位が{110}であるシリコン基板を用い、該シリコン基板上の前記III族窒化物系デバイスを設ける領域に第1の開口部を有するマスクを形成し、1000℃以上に加熱した前記シリコン基板上に、アルミニウム原料を含み窒素原料を含まないガスを供給するプリフロー工程と、III族原料及び窒素原料を含むガスを供給して前記シリコン基板上にIII族窒化物下地層を形成する下地層形成工程と、ガリウム原料及び窒素原料を含むガスを供給して窒化ガリウムエピタキシャル層を形成するエピタキシャル層形成工程を行い、前記第1の開口部に前記III族窒化物系デバイスを設け、その後、前記シリコン系デバイスを設ける領域の前記マスクを除去して第2の開口部を形成し、該第2の開口部に前記シリコン系デバイスを設けるハイブリッドICの製造方法により、主面の面方位が{110}であるシリコン基板を用いながら、表面モフォロジーに優れた窒化ガリウムエピタキシャル層を含むIII族窒化物系デバイスとシリコン系デバイスとを備えたハイブリッドICを製造することが可能となることを見出し、本発明を完成した。
【0029】
本発明者らは、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、シリコン基板上にIII族窒化物層を備えた窒化物半導体基板であって、前記シリコン基板の主面の面方位は{110}であり、前記シリコン基板上の前記III族窒化物層は、III族窒化物下地層と、該III族窒化物下地層上の窒化ガリウムエピタキシャル層とを備えるものであり、前記窒化ガリウムエピタキシャル層の表面の粗さRaは2.00nm以下である窒化物半導体基板により、主面の面方位が{110}であるシリコン基板を用いながら、表面モフォロジーに優れ、III族窒化物系デバイスに適した窒化物半導体基板となることを見出し、本発明を完成した。
【0030】
以下、図面を参照して説明する。
【0031】
[窒化物半導体基板]
本発明に係る窒化物半導体基板について
図1を参照しながら説明する。本発明に係る窒化物半導体基板100は、シリコン基板1と、シリコン基板1上にIII族窒化物層2を備えるものである。
【0032】
シリコン基板1の主面の面方位は{110}である。シリコン基板1は、主面の面方位が{110}であれば特に限定されない。形状(円形、矩形等)、大きさ(厚さ、直径等)、酸素濃度、抵抗率(ドーパント濃度)、シリコン基板の製造方法(CZ、FZ)等は特に限定されず、最終的なIII族窒化物系デバイスの設計に応じて、適宜設定することが可能である。なお、本明細書において、面方位{110}には(110)と等価な面を含む。また、「主面の面方位が{110}である」とは、主面の面方位が{110}から傾斜のないもの(オフアングル=0°)以外に、{110}からのオフアングルが±8°以内の範囲のものを含む。
【0033】
シリコン基板1上のIII族窒化物層2は、III族窒化物下地層3と、III族窒化物下地層3上の窒化ガリウムエピタキシャル層4とを備えるものである。そして、窒化ガリウムエピタキシャル層4の表面4aの粗さRaは2.00nm以下である。なお、窒化ガリウムエピタキシャル層4は、ドーパントの種類や濃度が異なる複数層の窒化ガリウムエピタキシャル層であってもよい。また、窒化ガリウムエピタキシャル層4の膜厚は特に限定されないが、例えば0.8μm以上、10μm以下とすることができる。このような範囲であれば、安定して表面の粗さRaが2.00nm以下の窒化ガリウムエピタキシャル層を得ることができる。
【0034】
III族窒化物下地層3は、さらに、例えばシリコン基板1の表面上のAlNなどの初期層5や、傾斜組成層、超格子層などのバッファ層6を含んでいてもよい。
【0035】
このような本発明に係る窒化物半導体基板は、主面の面方位が{110}であるシリコン基板1を用いながらも、窒化ガリウムエピタキシャル層4の表面4aの粗さRaが2.00nm以下と平坦な表面モフォロジーに優れたものであるため、III族窒化物系デバイスに適した窒化物半導体基板である。
【0036】
[窒化物半導体基板の製造方法]
次に、本発明に係る窒化物半導体基板の製造方法について
図2(A)を参照しながら説明する。本発明に係る窒化物半導体基板の製造方法は、シリコン基板1上にIII族窒化物下地層3と窒化ガリウムエピタキシャル層4とを含むIII族窒化物層2を備えた窒化物半導体基板100の製造方法である。
【0037】
本発明に係る窒化物半導体基板の製造方法は、主面の面方位が{110}のシリコン基板1を用い、1000℃以上に加熱したシリコン基板1上に、アルミニウム原料を含み窒素原料を含まないガスを供給するプリフロー工程と、III族原料及び窒素原料を含むガスを供給してシリコン基板1上にIII族窒化物下地層3を形成する下地層形成工程と、ガリウム原料及び窒素原料を含むガスを供給して窒化ガリウムエピタキシャル層4を形成するエピタキシャル層形成工程とを含む。以下、各工程について説明する。
【0038】
(プリフロー工程)
この工程は、後続の下地層形成工程やエピタキシャル層形成工程を行う成膜装置内で行うことができる。主面の面方位が{110}のシリコン基板1を1000℃以上に加熱し、アルミニウム原料を含み窒素原料を含まないガスを供給する。窒素原料を含んでいると、AlNが成膜してしまう恐れがあり、アルミニウム原料によるシリコン基板1の下地層形成前の表面処理とはならず、窒化ガリウムエピタキシャル層4の表面の平坦化効果がない。
【0039】
シリコン基板1を加熱する温度は1000℃以上であればよく、技術的な上限としてはシリコン基板1の融点未満であるが、1200℃以下とすることが好ましい。温度を高くし過ぎてもプリフロー工程による効果は大きく変わらない一方で、Si基板や成膜装置の部材のダメージがより安定して抑制できるため、プリフロー処理の安定性や生産性等を考慮すると、1200℃以下でよい。
【0040】
アルミニウム原料を含み窒素原料を含まないガスを供給する時間は特に限定されない。下限値は、例えば、1秒以上、好ましくは3秒以上、より好ましくは5秒以上とすることができる。上限値は、例えば、60秒以下、好ましくは30秒以下、より好ましくは15秒以下とすることができる。このような範囲であれば、より安定して窒化ガリウムエピタキシャル層4の表面の平坦化効果が得られる。
【0041】
プリフロー工程で用いるアルミニウム原料を含み窒素原料を含まないガスは、特に限定されない。アルミニウム原料として例えば有機アルミニウム化合物を用いることが好ましい。有機アルミニウム化合物の具体例としては、例えば、トリメチルアルミニウム(TMA)やトリエチルアルミニウム(TEA)などが挙げられる。これらはIII族窒化物の成膜原料として使用されるものであり、次に続く下地層形成工程等で有機アルミニウム化合物を用いる場合などには同じガスを使用することができるため、コスト的にも基板や成長装置の汚染防止のためにも適している。また、キャリアガスとして水素(H2)ガスを用いることができる。
【0042】
本発明者は、このようなプリフロー工程を行うことにより、窒化ガリウムエピタキシャル層の表面の表面粗さRaを2.00nm以下とし、鏡面とできる原因について検討した。しかしながら、プリフロー工程直後の基板の分析を行おうとしても極薄く形成されたと思われるAl層は分析前に変質してしまうと考えられ、また、窒化物半導体基板製造後にあっては、プリフロー工程より後の工程の熱処理等によりプリフロー工程の影響を受けた構造が変化してしまうと考えられ、プリフロー工程の有無によるシリコン基板表面の構造の違いを明確にすることはできなかった。このように、プリフロー工程を行うことにより、窒化ガリウムエピタキシャル層の表面を粗さRaが2.00nm以下の鏡面とできる理由は不明であるが、プリフロー工程により数オングストローム程度の極薄いAl層が形成され、Siとの共晶反応で表面に微細な凸凹が形成されることで{111}面が現れ、GaNなどのIII族窒化物層の横方向成長を促進している可能性が挙げられる。いずれにしても、本発明に係るプリフロー工程を行うことにより、窒化ガリウムエピタキシャル層の表面の表面粗さRaを2.00nm以下とし、鏡面とすることができる。
【0043】
なお、プリフロー工程に先立って、水素(H2)ガス雰囲気でベイク(熱処理)を行ってシリコン基板表面の清浄化を行うことが好ましいが、シリコン基板表面が清浄な状態であれば、必ずしも行う必要はない。
【0044】
(下地層形成工程)
次に、下地層形成工程について説明する。上述のプリフロー工程の後、III族原料及び窒素原料を含むガスを供給して、シリコン基板1上にIII族窒化物層2の一部であるIII族窒化物下地層3を形成する。III族窒化物下地層3としては、AlNなどの初期層5や、傾斜組成層、超格子層などのバッファ層6を形成することができる。III族窒化物下地層3の形成条件は特に限定されない。
【0045】
(エピタキシャル層形成工程)
下地層形成工程の後、ガリウム原料及び窒素原料を含むガスを供給して窒化ガリウムエピタキシャル層4を形成するエピタキシャル層形成工程を行う。窒化ガリウムエピタキシャル層4の形成条件は特に限定されない。例えばMOCVD法やHVPE法などにより、窒化ガリウムエピタキシャル層4を形成すればよい。ガリウム原料としては、トリメチルガリウム(TMG)やトリエチルガリウム(TEG)などの有機ガリウム化合物を使用することができる。なお、窒化ガリウムエピタキシャル層4として、ドーパントの種類や濃度を変えて複数層の窒化ガリウムエピタキシャル層を形成してもよい。
【0046】
[ハイブリッドICの製造方法]
次に、本発明に係るハイブリッドICの製造方法について
図2(B)を参照しながら説明する。本発明に係るハイブリッドICの製造方法では、主面の面方位が{110}であるシリコン基板を用いる。そして、このシリコン基板上に第1の開口部を有するマスクを形成し、第1の開口部に電子デバイスや発光デバイスなどのIII族窒化物系デバイスを設ける。その後、シリコン系デバイスを設ける領域のマスクを除去して第2の開口部を形成し、この第2の開口部にシリコン系デバイスを設ける。これにより、正孔の移動度の上がる<110>シリコン基板上に、表面モフォロジーが良好な鏡面を有する窒化ガリウムエピタキシャル層を備えたIII族窒化物系デバイスと、FinFET(Fin Field-Effect Transistor)やGAA(Gate-All-Around)などのシリコン系デバイスとが共存したハイブリッドICを製造することができる。
【0047】
(III族窒化物系デバイスの形成)
本発明に係るハイブリッドICの製造方法におけるIII族窒化物系デバイスの形成では、第1の開口部にIII族窒化物系デバイスを形成する。そして、このIII族窒化物系デバイスの形成では、窒化物半導体基板の製造方法で説明した「プリフロー工程」、「下地層形成工程」、「エピタキシャル層形成工程」を行う。これらの工程の詳細についての説明は、窒化物半導体基板の製造方法と同様であるので割愛する。
【0048】
(シリコン系デバイスの形成)
本発明に係るハイブリッドICの製造方法におけるシリコン系デバイスの形成では、第2の開口部にシリコン系デバイスを形成する。シリコン系デバイスとしては特に限定されないが、Si{110}基板を用いる利点を活かすため、FinFETやGAAを作製することが好ましい。
【0049】
このようにしてシリコン系デバイスとIII族窒化物系デバイスが共存するハイブリッドICを作製することができる。
【0050】
(第1の実施形態)
以下に、第1の実施形態として、本発明に係る窒化物半導体基板の製造方法の具体例を挙げる。まず、Si(110)基板を準備する。成長温度までSi基板を昇温する途中から水素(H2)ベイクによる基板表面のクリーニングを行う。そして、初期層AlNの成長を開始する前にTMAのプリフローを例えば60秒以内で行う。その後、初期層AlN、AlxGa1-xN(x≧0)層であるバッファ層を形成し、アイランド状のSiN層を形成してからGaN層を積層する。電子デバイス用にはGaN層の上にAlGaN層を形成しHEMT構造とできる。発光デバイスでは、AlxGa1-xN(x≧0)層であるバッファ層の上にGaN/InGaNのMQW構造を作製し、p-GaNを形成して発光デバイスとすることができる。なお上記バッファ層は、傾斜的に組成変化したり、異なる組成の複数層からなってもよく、例えば、階段組成AlGaN層、超格子AlGaN/GaN、超格子AlN/GaN、間欠超格子構造としても良い。
【0051】
さらに具体的な例と共に製造条件を示す。成長温度(1000~1200℃)までSi基板を昇温する途中に窒素(N2)ガスを水素(H2)ガスに切り替え、昇温しつつ水素(H2)ベイクによる基板表面のクリーニングを行う。その後1000~1200℃にてTMAを供給してプリフロー工程を行う。次に、TMA+NH3ガスを供給して厚さ100~200nmの初期層AlN、TMA+TMG(トリメチルガリウム)+NH3ガスを供給して厚さ100~200nmのAlGaN層のバッファ層を形成する。TMA、TMG供給を中断し、SiH4+NH3を供給してアイランド状のSiN層を形成する。モノシランガスの供給を停止し、TMGを流してGaN層を15~50nm成長させる。次に、15~25ペアのAlN/GaNの超格子(SLs)バッファ層を形成する。その後、厚さ800~900nm程度のGaN層を形成し、窒化物半導体基板を得る。
【0052】
(第2の実施形態)
以下に、第2の実施形態として、本発明に係るハイブリッドICの製造方法の具体例を挙げる。まず、Si(110)基板を準備する。Si基板表面に熱酸化膜を100nm程度形成しSiデバイスを作製する部分にフォトリソを使用してマスクを形成し、ドライエッチングにて窒化ガリウムエピタキシャル層を成長させる部分の酸化膜を削除して、III族窒化物系デバイスを作製する部分のみSi基板を露出させておく(第1の開口部)。この後のIII族窒化物系デバイスの製造は、第1の実施形態と同様である。
【0053】
III族窒化物系デバイスを作製したら、III族窒化物系(GaN)デバイス部分を保護し、シリコン系デバイスを作製する部分の酸化膜上にポリ成長したGaN膜をドライエッチングにて除去する。ポリGaN膜を除去して酸化膜層を露出させたら、HF液に浸漬させて酸化膜層を除去し、Si基板を露出させる(第2の開口部)。露出したSi基板上にシリコン系デバイスを作製する。
【実施例0054】
以下、実施例を挙げて本発明について具体的に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【0055】
(実施例)
GaN on Siのエピタキシャル成長用基板として、直径150mmのp型(ボロン濃度6×1014atoms/cm3以下)、酸素濃度7×1017atoms/cm3のSi(110)基板を準備した。Si(110)基板をMOCVD装置に搬入して、キャリアガスを水素とし、エピタキシャル成長温度の1150℃に達したらTMA(トリメチルアルミニウム)のプリフローを6秒間行った。その後、窒素源であるアンモニアガスを流し、初期層AlNを150nm、その後TMG(トリメチルガリウム)も流してAlGaN層を160nm形成した。TMA、TMG供給を中断し、モノシランガスを流して、アイランド状にSiN層を1nm成長させてから、モノシランガスの供給を停止し、TMGを流してGaN層を25nm成長させた。その上に4.2nmのAlN/25nmのGaN層が23ペアのSLs構造の厚さ400nmのバッファ層を形成した。その上に820nmのGaN層を成長し、窒化ガリウムエピタキシャル層を形成した。
【0056】
(比較例)
TMAを用いたプリフローを行わなかったこと以外は実施例と同じ工程、条件で窒化ガリウムエピタキシャル層を形成した。
【0057】
(評価)
まず、窒化ガリウムエピタキシャル層の表面モフォロジーの評価を行った。具体的には、目視による集光灯観察での曇りの有無の評価及び微分干渉顕微鏡による観察を行った。集光灯観察の結果、比較例の窒化ガリウムエピタキシャル層表面には曇りが観察されたのに対し、実施例の窒化ガリウムエピタキシャル層表面には曇りは観察されず、鏡面であることがわかった。また、微分干渉顕微鏡による観察の結果、
図3に示すように、比較例の窒化ガリウムエピタキシャル層表面には凹凸が観察されたのに対し、実施例の窒化ガリウムエピタキシャル層表面は平滑であることがわかった。さらに、窒化ガリウムエピタキシャル層表面の表面粗さを、触針式プロファイラー(KLA-Tencor社製、P-15)を用いて測定したところ、実施例ではRa1.86nm、比較例ではRa12.5nmとなった。本願の実施例によれば、Ra2.00nm以下の表面粗さで、鏡面の窒化ガリウムエピタキシャル層を得ることができた。
【0058】
また、結晶性の評価としてXRD評価を行ったところ、実施例、比較例ともに窒化ガリウムエピタキシャル層には(002)、(004)の回折ピークのみが検出され、面法線方向に(001)面が揃っていることがわかった。また、GaN(002)のロッキングカーブの半値幅は実施例で197arcsec、比較例で211arcsecであった。実施例、比較例ともに同等の結晶性を有する窒化ガリウムエピタキシャル層が得られていることがわかった。
【0059】
以上のとおり、本発明の実施例によれば、窒化ガリウムエピタキシャル層の表面の粗さRaが2.00nm以下である表面が平坦で良好な表面モフォロジーを有する窒化ガリウムエピタキシャル層を備えた窒化物半導体基板を製造することができた。
【0060】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。