(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172827
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】脂質組成物および医薬組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/7105 20060101AFI20241205BHJP
A61P 35/00 20060101ALI20241205BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20241205BHJP
A61K 9/127 20060101ALI20241205BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20241205BHJP
C12N 15/113 20100101ALN20241205BHJP
【FI】
A61K31/7105 ZNA
A61P35/00
A61K48/00
A61K9/127
A61K47/18
C12N15/113 130Z
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023090825
(22)【出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】306037311
【氏名又は名称】富士フイルム株式会社
(71)【出願人】
【識別番号】504136993
【氏名又は名称】独立行政法人国立病院機構
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】山浦 剛
(72)【発明者】
【氏名】田代 裕尊
(72)【発明者】
【氏名】田澤 宏文
【テーマコード(参考)】
4C076
4C084
4C086
【Fターム(参考)】
4C076AA19
4C076AA95
4C076BB13
4C076BB15
4C076BB16
4C076CC27
4C076DD09F
4C076DD46
4C076DD49
4C076DD50
4C076DD70
4C076EE23F
4C076FF16
4C084AA13
4C084NA13
4C084ZB26
4C086AA01
4C086EA16
4C086MA03
4C086MA05
4C086MA24
4C086NA13
4C086ZB26
(57)【要約】 (修正有)
【課題】配列Aで表される塩基配列からなる人工siRNAを含む、核酸送達に優れた脂質組成物および医薬組成物を提供する。
【解決手段】TMPRSS4タンパクの発現を抑制する人工siRNA、式(1)で表される化合物又はその塩である脂質、リン脂質、コレステロール、及びポリエチレングリコール構造を有する脂質を含む、脂質組成物であって、上記人工siRNAが、配列Aで表される塩基配列からなる核酸分子および配列Bで表される塩基配列からなる核酸分子を含む、脂質組成物。(配列A)5’-AGUAGUGUGGGAAAGUUCC「dT」「dT」-3’(配列B)5’-GGAACUUUCCCACACUACU「dT」「dT」-3’(式中、dTは、3’末端に付加されたデオキシチミンを示す。)
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
TMPRSS4タンパクの発現を抑制する人工siRNA、下記式(1)で表される化合物又はその塩である脂質、リン脂質、コレステロール、及びポリエチレングリコール構造を有する脂質を含む、脂質組成物であって、前記人工siRNAが、下記配列Aで表される塩基配列からなる核酸分子および下記配列Bで表される塩基配列からなる核酸分子を含む、脂質組成物。
(配列A)
5’-AGUAGUGUGGGAAAGUUCC「dT」「dT」-3’
(配列B)
5’-GGAACUUUCCCACACUACU「dT」「dT」-3’
式中、dTは、3’末端に付加されたデオキシチミンを示す。
【化1】
【請求項2】
ポリエチレングリコール構造を有する脂質が、ジアシルグリセロール構造とポリエチレングリコール構造とを有する脂質である、請求項1に記載の脂質組成物。
【請求項3】
脂質組成物中に含まれる全脂質の合計量に対する式(1)で表される化合物又はその塩である脂質の含有率が30~60モル%である、請求項1に記載の脂質組成物。
【請求項4】
脂質組成物中に含まれる全脂質の合計量に対するコレステロールの含有率が25~60モル%である、請求項1に記載の脂質組成物。
【請求項5】
脂質組成物中に含まれる全脂質の合計量に対するポリエチレングリコール構造を有する脂質の含有率が0.5~5モル%である、請求項1に記載の脂質組成物。
【請求項6】
脂質組成物中に含まれる全脂質の合計量に対するTMPRSS4タンパクの発現を抑制する人工siRNAの含有率が1~25質量%である、請求項1に記載の脂質組成物。
【請求項7】
請求項1から6の何れか一項に記載の脂質組成物を含有する、医薬組成物。
【請求項8】
胃、肺、大腸、膵および前立腺から選択される少なくとも1つの臓器に生じる腫瘍、又は前記腫瘍から派生する疾患の処置剤である、請求項7に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人工siRNAと脂質を含む脂質組成物、及び医薬組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
siRNA(small interfering RNA)は、タンパク質の発現を抑制する核酸分子として知られている。siRNAは以下のようなプロセスを経て、遺伝子がコードするタンパク質翻訳を抑制することが知られている。まず、siRNAは、細胞質内においてRNA-induced silencing complex(RISC)と呼ばれるタンパク質複合体によって取り込まれる。RISC複合体を形成後、siRNAの二本鎖のうち分解されずに残るアンチセンス鎖が標的配列を見つけるガイドとして機能し、そのアンチセンス鎖と相補的な遺伝子配列をもつ標的mRNAに結合する。結合後、ヌクレアーゼ活性により標的mRNAが切断され、結果としてタンパク質翻訳が阻害される。
【0003】
mRNAは、分化、細胞増殖又はアポトーシス等の生命現象、およびウイルス感染症又は癌等の多くの疾患に深く関与していることが明らかになっており、それらの疾患に関わるmRNAのタンパク質翻訳を阻害可能なsiRNAは、核酸医薬品への応用が期待されている。例えば、非特許文献1には、TMPRSS4(Transmembrane Protease Serine 4)を標的としたsiRNA処置によりin vitro実験でのがん細胞の増殖・浸潤能の抑制が確認されたことが記載されている。
【0004】
一方、核酸を細胞に送達できる技術が開発されてきたことから、核酸医薬品の開発が活発に行われている。核酸の送達技術の一つとして、核酸を粒子(リポソームまたは脂質粒子)に内包した核酸含有粒子を投与する方法が知られている。この技術においては、アミノ基などを有し低pHでカチオンとなる脂質を用いて核酸含有粒子を調製しているが、粒子に適切な電荷を付与することにより核酸の送達を実現している。例えば、脂質粒子に含有させる化合物として、特許文献1には、脂肪族基とアミノ基とを繋ぐ連結基としてエステル基、アセタール基などを有する化合物が開示されている。特許文献2には、脂肪族基とアミノ基とを繋ぐ連結基としてビニルオキシ基やアミド基、オキシム基などを有する化合物が開示されている。なお、本明細書中では、アミノ基などを有し低pHでカチオンとなる脂質のことを、カチオン性脂質と呼ぶことがある。
【0005】
さらに核酸含有粒子を製造する際に使用する脂質化合物の種類及び組成比を変更することについても検討されている。特許文献3には、(a)核酸;(b)粒子中に存在する総脂質の約50mol%~約85mol%を構成するカチオン性脂質;(c)粒子中に存在する総脂質の約13mol%~約49.5mol%を構成する非カチオン性脂質;及び(d)粒子中に存在する総脂質の約0.5mol%~約2mol%を構成する、粒子の凝集を阻害する複合化脂質、を含む核酸-脂質粒子が記載されている。特許文献4には、40~65%の特定の構造のカチオン性脂質、5~10%の中性脂質、25~40%のステロール、及び0.5~10%のPEGまたはPEG修飾脂質を含む脂質製剤が記載されている。
【0006】
特許文献5には、高い核酸内包率および優れた核酸送達を実現できる脂質粒子を構成するための化合物としてのカチオン性脂質が記載されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Journal of Gastrointestinal Surgery(2022)26:305-313
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】国際公開公報2010/054401号パンフレット
【特許文献2】国際公開公報2010/054405号パンフレット
【特許文献3】国際公開公報2009/127060号パンフレット
【特許文献4】国際公開公報2010/144740号パンフレット
【特許文献5】国際公開公報2019/235635号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
アミノ基を有する脂質による核酸の送達技術はまだ十分ではなく、核酸をさらに効率的に送達できる技術が求められている。
【0010】
一方、下記配列Aで表される塩基配列からなる核酸(siRNA)はがん細胞の増殖・浸潤能を抑制することが知られているものの標的となるがん細胞への送達法Drug delivery system(DDS)に乏しく臨床応用への課題となっている。
【0011】
本発明は、下記配列Aで表される塩基配列からなる人工siRNAを含む、核酸送達に優れた脂質組成物および医薬組成物を提供することを解決すべき課題とする。
(配列A)5’-AGUAGUGUGGGAAAGUUCC「dT」「dT」-3’
式中、「dT」は3’末端に付加されたデオキシチミンを示す。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、式(1)で示される化合物またはその塩と、配列Aで表される塩基配列からなる人工siRNAとを用いて調製した脂質組成物が、インビボにおいて優れた薬効を示すことを確認し、本発明を完成するに至った。本発明によれば、以下の発明が提供される。
【0013】
<1> TMPRSS4タンパクの発現を抑制する人工siRNA、下記式(1)で表される化合物又はその塩である脂質、リン脂質、コレステロール、及びポリエチレングリコール構造を有する脂質を含む、脂質組成物であって、上記人工siRNAが、下記配列Aで表される塩基配列からなる核酸分子および下記配列Bで表される塩基配列からなる核酸分子を含む、脂質組成物。
(配列A)
5’-AGUAGUGUGGGAAAGUUCC「dT」「dT」-3’
(配列B)
5’-GGAACUUUCCCACACUACU「dT」「dT」-3’
式中、dTは、3’末端に付加されたデオキシチミンを示す。
【化1】
<2> ポリエチレングリコール構造を有する脂質が、ジアシルグリセロール構造とポリエチレングリコール構造とを有する脂質である、<1>に記載の脂質組成物。
<3> 脂質組成物中に含まれる全脂質の合計量に対する式(1)で表される化合物又はその塩である脂質の含有率が30~60モル%である、<1>又は<2>に記載の脂質組成物。
<4> 脂質組成物中に含まれる全脂質の合計量に対するコレステロールの含有率が25~60モル%である、<1>~<3>の何れか一に記載の脂質組成物。
<5> 脂質組成物中に含まれる全脂質の合計量に対するポリエチレングリコール構造を有する脂質の含有率が0.5~5モル%である、<1>~<4>の何れか一に記載の脂質組成物。
<6> 脂質組成物中に含まれる全脂質の合計量に対するTMPRSS4タンパクの発現を抑制する人工siRNAの含有率が1~25質量%ある、<1>~<5>の何れか一に記載の脂質組成物。
<7> <1>~<6>の何れか一に記載の脂質組成物を含有する、医薬組成物。
<8> 胃、肺、大腸、膵および前立腺から選択される少なくとも1つの臓器に生じる腫瘍、又は上記腫瘍から派生する疾患の処置剤である、<7>に記載の医薬組成物。
【発明の効果】
【0014】
本発明の脂質組成物は、配列Aで表される塩基配列からなる人工siRNAを効率的に送達することができ、タンパク質の翻訳抑制効果に優れる。そのため、本発明の脂質組成物は、医薬組成物として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、In vitroでのTMPRSS4-siRNA-LNP によるTMPRSS4-mRNAの抑制効果を試験した結果を示す。
【
図2】
図2は、TMPRSS4-siRNA-LNPの抗腫瘍効果を試験した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
本明細書において「~」は、その前後に記載される数値をそれぞれ最小値及び最大値として含む範囲を示す。
【0017】
本発明の脂質組成物は、TMPRSS4タンパクの発現を抑制する人工siRNA、下記式(1)で表される化合物又はその塩である脂質、リン脂質、コレステロール、及びポリエチレングリコール構造を有する脂質を含む。上記人工siRNAは、下記配列Aで表される塩基配列からなる核酸分子および下記配列Bで表される塩基配列からなる核酸分子を含む。
(配列A)
5’-AGUAGUGUGGGAAAGUUCC「dT」「dT」-3’
(配列B)
5’-GGAACUUUCCCACACUACU「dT」「dT」-3’
式中、dTは、3’末端に付加されたデオキシチミンを示す。ここで、配列Aがアンチセンス鎖であることが好ましく、配列Bがセンス鎖であることが好ましい。
【化2】
【0018】
<人工siRNA>
本発明の脂質組成物は、TMPRSS4タンパクの発現を抑制する人工siRNAを含む。TMPRSS4(Transmembrane protease serine 4)タンパクは、II型膜タンパク(Type II transmembrane serine protease: TTSP)のセリンプロテアーゼである。胃、肺、大腸、膵および前立腺がんでは、TMPRSS4の発現とその予後が相関することが報告され、さらにがん細胞を用いた研究ではTMPRSS4の強発現によりERK1/2、AKT、FAKの細胞内経路を介して、integrin-a5やurokinase-type plasminogen activatorの発現を増強し細胞浸潤能を亢進させ、またRNA干渉でのTMPRSS4発現の抑制によりがん細胞の増殖・浸潤能は低下することが報告されている。よって、本発明の脂質組成物によるTMPRSS4の発現抑制により抗腫瘍効果が期待される。
【0019】
本発明の脂質組成物は、人工siRNAを含む。人工siRNAは、下記配列Aで表される塩基配列からなる核酸分子および下記配列Bで表される塩基配列からなる核酸分子を含む。
配列A:5’-AGUAGUGUGGGAAAGUUCC「dT」「dT」-3’
配列B:5’-GGAACUUUCCCACACUACU「dT」「dT」-3’
式中、「dT」は3’末端に付加されたデオキシチミンを示す。
【0020】
配列Aで表される塩基配列からなる核酸分子は、ホスホロアミダイト法に基づき、市販の核酸合成機により合成することができる。RNAアミダイトとしては、例えば、EMMアミダイト(国際公開第2013/027843号)を用いることができ、アミダイトの脱保護は、定法により行うことができる。
【0021】
本発明の脂質組成物において、脂質組成物中に含まれる全脂質の合計量に対するTMPRSS4タンパクの発現を抑制する人工siRNAの含有率は、1質量%~25質量%であることが好ましく、2質量%~15質量%であることがさらに好ましい。
【0022】
本発明の脂質組成物は、式(1)で表される化合物又はその塩である脂質を含む。
【化3】
【0023】
式(1)で表される化合物は、2-ブチルオクチル3-エチル-12-ヘキシル-6-(2-(オクタノイルオキシ)エチル)-10-オキソ-9,11-ジオキサ-3,6-ジアザヘニコサン-21-オエートである。
【0024】
式(1)で表される化合物又はその塩の製造方法は、公知の方法を組み合わせることにより製造することができるが、例えば、国際公開WO2019/235635に記載されている製造法に従い、製造することができる。具体的には、式(1)で表される化合物は、国際公開WO2019/235635の実施例88に記載した方法により製造することができる。
【0025】
式(1)で表される化合物は塩を形成していてもよい。
塩基性基における塩としては、たとえば、塩酸、臭化水素酸、硝酸および硫酸などの鉱酸との塩;ギ酸、酢酸、クエン酸、シュウ酸、フマル酸、マレイン酸、コハク酸、リンゴ酸、酒石酸、アスパラギン酸、トリクロロ酢酸およびトリフルオロ酢酸などの有機カルボン酸との塩;ならびにメタンスルホン酸、ベンゼンスルホン酸、p-トルエンスルホン酸、メシチレンスルホン酸およびナフタレンスルホン酸などのスルホン酸との塩が挙げられる。
【0026】
本発明の脂質組成物において、脂質組成物中に含まれる全脂質の合計量に対する式(1)で表される化合物又はその塩である脂質の含有率は30~60モル%が好ましく、35~55モル%がより好ましく、40~50モル%がさらに好ましい。
【0027】
なお、脂質組成物が、脂質として、式(1)で表される化合物又はその塩である脂質、リン脂質、コレステロール、及びポリエチレングリコール構造を有する脂質を含む場合には、脂質組成物に含まれる全脂質の合計量とは、式(1)で表される化合物又はその塩である脂質、リン脂質、コレステロール、及びポリエチレングリコール構造を有する脂質の合計量を意味する。
【0028】
本発明の脂質組成物は、コレステロールを含む。コレステロールを含むことで、膜流動性を低下させ、脂質粒子の安定化効果を得ることができる。
【0029】
本発明の脂質組成物において、脂質組成物中に含まれる全脂質の合計量に対するコレステロールの含有率は25~60モル%が好ましく、30~55モル%がより好ましく、40~50モル%がさらに好ましい。
【0030】
本発明の脂質組成物は、リン脂質を含む。リン脂質としては、特に限定されないが、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、スフィンゴミエリンなどが挙げられ、ホスファチジルコリン及びホスファチジルエタノールアミンが好ましい。
【0031】
ホスファチジルコリンとしては、特に限定されないが、大豆レシチン(SPC)、水添大豆レシチン(HSPC)、卵黄レシチン(EPC)、水添卵黄レシチン(EPC)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスフォコリン(DMPC)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスフォコリン(DPPC)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスフォコリン(DSPC)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスフォコリン(POPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスフォコリン(DOPC)などが挙げられる。なかでも、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスフォコリン(DPPC)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスフォコリン(DMPC)が好ましい。
【0032】
ホスファチジルエタノールアミンとしては特に限定されないが、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン(DMPE)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン(DPPE)、1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン(DSPE)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン(DOPE)、1,2-ジリノレオイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン(DLoPE)、1,2-ジフィタノイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン(D(Phy)PE)、1-パルミトイル-2-オレオイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン(POPE)、1,2-ジテトラデシル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン、1,2-ジヘキサデシル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン、1,2-ジオクタデシル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン、1,2-ジフィタニル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミンなどが挙げられる。
【0033】
これらリン脂質のなかでも、ジステアロイルホスファチジルコリン(DSPC)、1,2-ジパルミトイル-sn-グリセロ-3-ホスフォコリン(DPPC)、1,2-ジミリストイル-sn-グリセロ-3-ホスフォコリン(DMPC)、1,2-ジオレオイル-sn-グリセロ-3-ホスフォエタノールアミン(DOPE)がより好ましい。
【0034】
本発明の脂質組成物において、リン脂質の含有率は、脂質組成物に含まれる脂質の総量に対して1~20モル%が好ましく、2~18モル%がより好ましく、5~15モル%がさらに好ましい。
【0035】
本発明の脂質組成物は、ポリエチレングリコール構造を有する脂質を含む。ポリエチレングリコール構造を有する脂質を含むことで、脂質粒子の分散安定化効果を得ることができる。
【0036】
ポリエチレングリコール構造を有する脂質としては、特に限定されないが、PEG修飾ホスホエタノールアミン、ジアシルグリセロールPEG誘導体、ジアルキルグリセロールPEG誘導体、コレステロールPEG誘導体、セラミドPEG誘導体などが挙げられる。これらの中でも、ジアシルグリセロールPEGが好ましい。すなわち、ポリエチレングリコール構造を有する脂質としては、ジアシルグリセロール構造とポリエチレングリコール構造とを有する脂質であることが好ましく、ジアシルグリセロール構造のアシル基が炭素数12~22であるアシル基であることがより好ましい。
【0037】
上記ポリエチレングリコール誘導体のPEG鎖の重量平均分子量は、500~5000が好ましく、750~3000がより好ましい。
【0038】
本発明の脂質組成物において、脂質組成物中に含まれる全脂質の合計量に対するポリエチレングリコール構造を有する脂質の含有率は0.5~5モル%が好ましく、0.5~3モル%がより好ましく、1.0~2.0モル%がさらに好ましい。
【0039】
<脂質組成物の製造方法>
本発明の脂質組成物の製造方法について説明する。
脂質組成物の製造方法は限定されないが、式(1)で表される化合物又はその塩である脂質、リン脂質、コレステロール、及びポリエチレングリコール構造を有する脂質など、脂質に分類される成分全てまたは一部の油溶性成分を有機溶媒等に溶解させ油相とし、人工siRNAなどの水溶性成分を水に溶解させ水相とし、油相と水相を混合して製造することができる。混合にはマイクロミキサーを使用してもよく、ホモジナイザー等の乳化機、超音波乳化機、高圧噴射乳化機等により乳化してもよい。
【0040】
あるいは、脂質を含む溶液をエバポレータなどによる減圧乾固または噴霧乾燥機などによる噴霧乾燥などにより脂質を含む乾燥した混合物を調製し、この混合物を水系溶媒に添加し、さらに前述の乳化機などで乳化することで製造することもできる。
【0041】
脂質組成物の製造方法の一例としては、
式(1)で表される化合物又はその塩である脂質、リン脂質、コレステロール、及びポリエチレングリコール構造を有する脂質など、脂質に分類される成分を有機溶媒に溶解して油相を得る工程(a);
工程(a)で得た油相と、人工siRNAなどの水溶性成分を含む水相と、を混合する工程(b);
工程(b)で得た油相及び水相を含む混合液を希釈して、脂質粒子の分散液を得る工程(c);
工程(c)で得られた脂質粒子の分散液から上記有機溶媒を除去する工程(d);及び
工程(d)で得られた脂質粒子の分散液の濃度を調節する工程(e);
を含む方法が挙げられる。
【0042】
工程(a)においては、脂質に分類される構成成分を、有機溶媒(エタノールなどのアルコール、またはエステルなど)に溶解させることを含む。有機溶媒に溶解させた後の総脂質濃度は特に限定されないが、一般的には1mmol/L~100mmol/Lであり、好ましくは5mmol/L~50mmol/Lであり、より好ましくは10mmol/L~30mmol/Lである。
【0043】
工程(b)において、水相は、人工siRNAを、水または緩衝液に溶解することで得ることができる。人工siRNAの濃度は特に限定されないが、1~1000μg/mLが好ましく、10~500μg/mLがより好ましい。必要に応じてpH調整のための緩衝成分や酸化防止剤などの成分を添加することができる。水相のpHは2.0~7.0であることが好ましく、3.0~6.0であることがより好ましい。上記pHに調整するために緩衝成分として酢酸、クエン酸、リンゴ酸、リン酸、MES、HEPESなどが好ましく用いられ、必要に応じて塩強度を調整することを目的に、塩化ナトリウム、塩化カリウムなどの塩や、浸透圧を調整することを目的に、スクロース、トレハロース、マンニトールなどの糖や糖アルコールを添加してもよい。
【0044】
工程(b)において、油相と水相は任意の方法で混合してよく、バッチ式でも流路デバイスを用いたインライン方式でもよい。インライン方式としてはマイクロ流路デバイスを用いることが好ましく、用いるマイクロ流路デバイスとしては、Y字ミキサー、T字ミキサー、ヘリンボーンミキサー、リングマイクロミキサー、インピンジメントジェットミキサーなどを用いることができる。水相と油相を混合する比率(体積比)は、5:1~1:1が好ましく、4:1~2:1がより好ましい。
【0045】
工程(c)において、脂質粒子の分散液を希釈溶液と混合することにより、有機溶媒の含有率を下げ、脂質粒子を安定化することができる。希釈溶液は、水でもよいが、pHや塩強度を調整することを含んでもよい。希釈溶液に含まれる成分は目的に応じて任意に選択することができる。例えば、pHを調整する目的で、緩衝液(例えばクエン酸緩衝液、クエン酸緩衝生理食塩水、酢酸緩衝液、酢酸緩衝生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水、トリス緩衝液、MES緩衝液、HEPES緩衝液など)を用いてもよい。また、塩強度や浸透圧を調整することを目的として塩化ナトリウム、塩化カリウム、スクロース、トレハロース、フルクトースまたはマンニトールなどを含んでもよく、上記緩衝液にこれらの添加剤をさらに添加したものも使用できる。
【0046】
脂質粒子の分散液と希釈溶液は任意の方法で混合してよく、バッチ式でも流路デバイスを用いたインライン方式でもよい。混合時に用いる流路デバイスは、Y字ミキサー、T字ミキサーなどを用いることができる。また、油相と水相を混合してから希釈溶液を混合するまでの時間は特に限定されないが、油相及び水相を混合してから30秒以内に希釈を実施することが好ましく、10秒以内に希釈を実施することがより好ましい。
脂質粒子の分散液と希釈溶液を混合する比率(液量比)は、1:0.5~1:10が好ましく、1:1~1:5がより好ましい。
【0047】
いくつかの実施形態では、工程(c)において脂質粒子の分散液は目的に応じて複数回希釈溶液と混合してもよい。また用いる希釈溶液は同一であっても異なっていてもよい。脂質粒子の分散液では、pHによって脂質粒子の粒径が変化することがあり、分散液のpH調整は重要となる。そのため、例えば希釈溶液との混合後の脂質粒子の分散液のpHを調整するために、それに適した濃度およびpHを有する緩衝液や、さらに他の成分を含む緩衝液を用いてもよい。
【0048】
さらに、複数の希釈工程は連続的に実施してもよく、希釈工程と次の希釈工程の間隔を任意に設定することができ、例えば、その間隔は10秒、30秒、1分、5分、10分、30分、1時間、2時間、3時間、4時間、6時間、12時間または24時間であってもよい。
また、工程(c)を行った後の脂質粒子の分散液のpHはpH3.0~10.0が好ましく、pH3.5~pH9.0がより好ましく、pH4.0~pH8.5が特に好ましい。
【0049】
脂質組成物には、必要に応じてサイジングを施すことができる。サイジングの方法は、特に限定されないが、エクストルーダーなどを用いて粒子径を小さくすることができる。
また、本発明の脂質組成物を含む分散液には、一般的な方法により、凍結や凍結乾燥を施すことができる。
【0050】
工程(d)において、脂質粒子の分散液から有機溶媒を除去する方法としては、特に限定されず、一般的な手法を使用することができる。例えば、透析液としてリン酸緩衝生理食塩水、トリス緩衝液などのpH緩衝液を用いて透析を行うことにより有機溶媒を除去することができる。必要に応じて浸透圧の調整や凍結からの保護を目的として任意の塩や糖などの添加剤を加えることができる。
【0051】
工程(e)において、工程(d)で得られた分散液の濃度を調整することができる。希釈する場合は、リン酸緩衝生理食塩水、生理食塩水もしくはトリス塩酸緩衝液、などを希釈液として用いて適切な濃度に希釈することができる。濃縮する場合は、工程(d)で得られた分散液を限外ろ過膜を用いた限外ろ過などにより濃縮することができる。濃縮した分散液をそのまま用いても好ましく、濃縮した後に上記希釈液を用いて所望の濃度に調整しても好ましい。
【0052】
また、いくつかの実施形態では、接線流ろ過(TFF)を用いて有機溶媒除去工程(工程(d))、濃度調整工程(工程(e))を連続的に行うことができる。本工程において有機溶媒除去工程と濃度調整工程を任意の順番で実施してもよい。必要に応じて有機溶媒除去工程と濃度調整工程をそれぞれ複数回ずつ実施してもよい。
【0053】
工程(d)における透析や、工程(e)における希釈において用いることのできる溶液には、賦形剤、凍結保護剤、緩衝剤や酸化防止剤を添加してもよい。賦形剤や凍結保護剤としては、特に限定されないが、糖類や糖アルコール類が挙げられる。糖類としては、例えばスクロース、トレハロース、マルトース、グルコース、ラクトース、フルクトースなどが、糖アルコール類としては、例えばマンニトール、ソルビトール、イノシトール、キシリトールなどが挙げられる。緩衝剤としては、特に限定されないが、例えば、ACES、BES、Bicine、CAPS、CHES、DIPSO、EPPS、HEPES、HEPPSO、MES、MOPS、MOPSO、TAPS、TAPSO、TES、Tricine、トリス、リン酸、酢酸、クエン酸などが挙げられる。酸化防止剤としては、EDTA、アスコルビン酸、トコフェロールなどが挙げられる。
【0054】
本発明の脂質組成物の分散液を医薬組成物とするために、無菌ろ過を行うことが好ましい。ろ過の方法としては、中空糸膜、逆浸透膜、メンブレンフィルターなどを用いて、脂質組成物の分散液から不要なものを除去することができる。本発明では、特に限定されないが、滅菌できる孔径を有するフィルター(好ましくは0.2μmのろ過滅菌フィルター)によってろ過することが好ましい。また、無菌ろ過を行うのは、工程(c)もしくは工程(d)または工程(e)の後が好ましい。
さらに必要に応じて本発明の脂質組成物の分散液を、凍結または凍結乾燥を施すことができる。
【0055】
<脂質組成物について>
本発明の脂質組成物は、脂質粒子を含むことが好ましい。脂質粒子は、脂質に分類される成分から構成される粒子を意味する。脂質粒子の構造としては、脂質が凝集している脂質凝集体、ミセル、リポソーム、脂質ナノ粒子(LNP)から選択されるいずれかの構造が考えられるが、これに限定されない。
また、人工siRNAは脂質粒子に内包されることが好ましい。
【0056】
脂質粒子の形態は、電子顕微鏡観察またはエックス線を用いた構造解析などにより確認できる。例えば、Cryo透過型電子顕微鏡観察(CryoTEM法)を用いた方法により、リポソームのように脂質粒子が脂質二分子膜構造(ラメラ構造)及び内水層を持つ構造であるか、粒子内部に電子密度が高いコアを持ち、脂質をはじめとする構成成分が詰まった構造を有しているか、などが確認できる。エックス線小角散乱(SAXS)測定によっても、脂質粒子についての脂質二分子膜構造(ラメラ構造)の有無を確認できる。
【0057】
脂質粒子の粒子径は特に限定されないが、好ましくは10~1000nmであり、より好ましくは30~500nmであり、さらに好ましくは50~250nmである。脂質粒子の粒子径は、一般的な方法(例えば、動的光散乱法、レーザー回折法など)により測定することができる。
【0058】
<脂質組成物の利用>
本発明の脂質組成物の利用の一例としては、脂質組成物を細胞に導入することによって、TMPRSS4タンパクの発現を抑制する人工siRNAを細胞に導入することができる。また、本発明の脂質組成物は、医薬組成物として生体に投与することができる。即ち、本発明によれば、本発明の脂質組成物を含有する、医薬組成物が提供される。
【0059】
本発明の医薬組成物は、胃、肺、大腸、膵および前立腺から選択される少なくとも1つの臓器に生じる腫瘍、又は上記腫瘍から派生する疾患の処置剤として用いることができる。
【0060】
本発明によれば、本発明の医薬組成物を、対象に投与することを含む、胃、肺、大腸、膵および前立腺などの臓器に生じる腫瘍もしくは上記腫瘍から派生する疾患を処置する方法が提供される。
【0061】
本発明によれば、胃、肺、大腸、膵および前立腺などの臓器に生じる腫瘍もしくは上記腫瘍から派生する疾患の処置において使用するための、本発明の医薬組成物が提供される。
【0062】
本発明によれば、胃、肺、大腸、膵および前立腺などの臓器に生じる腫瘍もしくは上記腫瘍から派生する疾患の処置剤の製造のための、本発明の医薬組成物の使用が提供される。
【0063】
本発明における腫瘍としては、良性腫瘍、悪性腫瘍(がん)、又は前がん状態を包含するものとする。腫瘍から派生する疾患としては、転移腫瘍、悪液質などが挙げられるが、特に限定されない。
【0064】
処置の対象は、ヒト及びヒト以外の哺乳動物を含む。ヒト以外の哺乳動物として、例えば、サル、イヌ、ネコ、ウシ、ウマ、マウス、ラット等が挙げられる。
処置は、所望の治療効果、例えば、状態の進行の阻害または遅延が実現される任意の処置及び療法であってよく、進行の速度の低下、進行の速度の休止、状態の好転、状態の治癒もしくは寛解(部分的なものであるか完全なものであるかにかかわらず)、状態の1つもしくは複数の症状及び/もしくは徴候の予防、遅延、軽減もしくは停止、または対象もしくは対象の生存が処置の不在下で予測されるものよりも延長されることを含む。
処置は予防も含む。例えば、胃、肺、大腸、膵および前立腺などの臓器に生じる腫瘍もしくは上記腫瘍から派生する疾患の発症または再発症しやすいまたはそのリスクがある対象を処置することにより、対象における胃、肺、大腸、膵および前立腺などの臓器に生じる腫瘍もしくは上記腫瘍から派生する疾患の発症または再発症が予防され得るまたは遅延し得る。
【0065】
処置剤の対象疾患としては、胃、肺、大腸、膵および前立腺などの臓器に生じる腫瘍(即ち、胃がん、肺がん、大腸がん、膵がんおよび前立腺がん)、および上記腫瘍から派生する疾患(例えば、上記のがんから生じる転移性腫瘍など)が挙げられる。
【0066】
本発明の脂質組成物を医薬組成物として使用する場合には、本発明の脂質組成物は単独でまたは薬学的に許容される投与媒体(例えば、生理食塩水またはリン酸緩衝液)と混合して、生体に投与することができる。
【0067】
薬学的に許容される投与媒体との混合物中における脂質組成物の濃度は、特に限定されず、一般的には0.05質量%から90質量%とすることができる。また、本発明の脂質組成物を含む医薬組成物には、他の添加物質(例えば、塩、保存剤、pH調整緩衝剤、浸透圧調整剤など)を添加してもよい。
【0068】
本発明の医薬組成物を投与する際の投与経路は、特に限定されず、任意の方法で投与することができる。投与方法としては、経口投与、非経口投与(関節内投与、静脈内投与、動脈内投与、皮下投与、皮内投与、硝子体内投与、腹腔内投与、筋肉内投与、膣内投与、膀胱内投与、髄腔内投与、肺投与、直腸投与、結腸投与、頬投与、鼻投与、大槽内投与、吸入など)が挙げられるが、非経口投与が好ましい。非経口投与方法としては、静脈注射、皮下注射、皮内注射、腹腔内注射または筋肉内注射が好ましい。
【0069】
投与量としては、例えば、一回の投与につき対象の体重1kgあたり医薬組成物に含まれるsiRNA量として10μgから100μgの範囲で投与量が選択できる。
【0070】
次に本発明について実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例0071】
<化合物の合成>
下記の式(1)で表される脂質を国際公報2019/235635の実施例88に記載の方法で合成した。
【化4】
【0072】
<人工siRNAの作製>
下記配列AおよびBで表わされる核酸分子を、ホスホロアミダイト法に基づき、株式会社FASMACにて合成し、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により精製した。
(配列A)
5’-AGUAGUGUGGGAAAGUUCC「dT」「dT」-3’(配列番号1)
(配列B)
5’-GGAACUUUCCCACACUACU「dT」「dT」-3’ (配列番号2)
式中、「dT」は3’末端に付加されたデオキシチミンを示す。
【0073】
<核酸分子内包脂質粒子の調製>
<化合物の合成>で製造した脂質((式)1)を、カチオン性脂質として使用した。
上記のカチオン性脂質、リン脂質としてDSPC(1,2-ジステアロイル-sn-グリセロ-3-ホスフォコリン(1,2-Distearoyl-sn-glycero-3-phosphocholine)、製品名:COATSOME MC-8080;NOF corporation)、コレステロール(製品名:Cholesterol HP;日本精化株式会社)、PEG脂質としてDMG-PEG2000(製品名:SUNBRIGHT GM-020;NOF corporation)を、表1に記載のモル比で、総脂質濃度が12.5mmol/Lとなるようにエタノールに溶解させ、油相を得た。
【0074】
<人工siRNAの作製>で作製した核酸分子6.555mg(配列Aと配列Bの1:1混合物)を滅菌水6.555mLに溶解し、pH4の50mmol/Lクエン酸バッファーで核酸濃度が0.163mg/mLになるように希釈して水相を得た。続いて水相と油相の体積比が水相:油相=3:1となるようにシリンジポンプを用いてマイクロミキサー(Precision NanoSystems社製NanoAssemblr Benchtop)で混合し、混合液をリン酸緩衝生理食塩水(PBS)で2倍希釈した(混合時の全脂質に対する核酸分子の質量比を表1に記載した。)。さらにトリス塩酸緩衝液を用いて透析を行いエタノールを除去して核酸内包脂質粒子の分散物を得た。得られた分散物を0.2μmのフィルター(ザルトリウス社 Minisart S6534-FMOSK)でろ過後、限外ろ過膜をもつ遠心式フィルターユニット(Merck社 Amicon Ultra-15 100kDa)を用いて濃縮した。
【0075】
【0076】
<粒子径と核酸分子内包率の測定>
<粒子径の測定>
核酸分子内包脂質粒子の粒子径は、核酸内包脂質粒子分散液について、粒径測定システムELS-Z2(大塚電子)を用いて、PBSで30倍希釈した後測定した。
【0077】
<核酸分子の内包率の測定>
核酸分子の内包率は、以下の方法にて測定した。
(総核酸濃度定量)
10倍希釈した核酸内包脂質粒子分散液50μLに、メタノール450μLを加え混合し、吸光度計Multiskan GO(ThermoFisher Scientific)にて波長:260nmの吸光度を測定することで核酸内包脂質粒子分散液の総核酸濃度を定量した。
【0078】
(外水相における核酸濃度の定量)
Quant-iT RiboGreen RNA Assay Kit(Thermo Fisher Scientific)を用い、プロトコルに従って定量した。まず、上述のキットに含まれる20×TEバッファーを水で希釈し、1×TEバッファーとした。なお、TEは、Tris/EDTA(エチレンジアミン四酢酸)を示す。外水相の核酸のみを定量するため、核酸内包脂質粒子分散液を1×TEバッファーで250倍に希釈した。
【0079】
250倍に希釈した核酸内包脂質粒子分散液100μLを、96ウェルプレートに入れ、つづいて1×TEバッファーで200倍に希釈したRiboGreen試薬(上記したQuanti-iT Ribogreen RNA Assay Kitに含まれている試薬)100μLをサンプルに加え、プレートリーダーInfinit EF200(TECAN)を用いて蛍光(励起波長:485nm、蛍光波長:535nm)を測定することで、外水相における核酸濃度を定量した。
【0080】
(内包率の算出)
上述の定量で得られた総核酸濃度及び外水相における核酸濃度を用いて、下記式に従って、核酸内包脂質粒子の核酸内包率を算出した。
核酸内包率(%)=(総核酸濃度-外水相における核酸濃度)÷総核酸濃度×100
【0081】
上記の測定の結果、粒子径は97nmであり、核酸内包率は93%であった、
【0082】
上記において調製した核酸分子内包脂質粒子(以下、TMPRSS4-siRNA-LNPとも称する)を用いて、以下の薬効試験を行った。
【0083】
<薬効試験>
(1)In vitroでのTMPRSS4-siRNA-LNP によるTMPRSS4-mRNAの抑制効果
胃がんNUGC-3細胞を用いて、TMPRSS4-siRNA-LNP(10nM、72時間トランスフェクション)のmRNA抑制効果をQuantitative real-time PCR法を用いて検討した。
図1において、LNP/NC#1は、control-siRNA-LNP(siRNA 10nmol/L){control-siRNAはMISSON-siRNA Universal Negative Control (Sigma-Aldrich)を用いた}の結果を示し、LNP/TMPRSS4#2は、TMPRSS4-siRNA-LNPの結果を示す。
図1のように、TMPRSS4-siRNA-LNP(siRNA 10nmol/L)は、コントロールsiRNA-LNPに比較しTMPRSS4-mRNAの発現レベルを有意に抑制した。
【0084】
(2)TMPRSS4-siRNA-LNPの抗腫瘍効果
7週齢雄Balb/c-nu/nu マウス の背中に0.2×10
7個のSUIT-2膵がん細胞株を0.2mlのRPMI1640溶液で皮下注し,腫瘍径が約5mm(約14日後)になってから5-FU(20mg/kg,腹腔内)を週3回投与し3週間行った。TMPRSS4-siRNA-LNP(17μg/kg)(n=6)またはcontrol-siRNA-LNP(17μg/kg){control-siRNAはMISSON-siRNA Universal Negative Control(Sigma-Aldrich)を用いた}(n=6)も5-FUと同様に腫瘍径5mm(約14日後)になってから0.2mlの容量で尾静脈注射を週2回、3週間投与を行う。投与3週間は毎日腫瘍径を測定し、投与開始後3週後に安楽死させる。
図2のNCは、control-siRNA-LNP投与群を示し、siRNAは、TMPRSS4-siRNA-LNP投与群を示す。結果は、
図2に示す通り、23日目と33日目で有意に、TMPRSS4-siRNA-LNP投与群で、腫瘍が抑制されていた。