IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 栗田工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024172953
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】金属部材の防食方法
(51)【国際特許分類】
   C23F 11/14 20060101AFI20241205BHJP
   C23F 11/18 20060101ALI20241205BHJP
   C23F 11/167 20060101ALI20241205BHJP
   C02F 5/00 20230101ALI20241205BHJP
   C02F 5/10 20230101ALI20241205BHJP
【FI】
C23F11/14 101
C23F11/18
C23F11/18 102
C23F11/167
C02F5/00 610G
C02F5/10 620B
【審査請求】有
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091035
(22)【出願日】2023-06-01
(11)【特許番号】
(45)【特許公報発行日】2024-09-03
(71)【出願人】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】柏木 章吾
(72)【発明者】
【氏名】森 信太郎
(72)【発明者】
【氏名】藤田 和久
【テーマコード(参考)】
4K062
【Fターム(参考)】
4K062AA03
4K062BA05
4K062BA08
4K062BB12
4K062BB25
4K062FA05
4K062FA06
(57)【要約】
【課題】蒸気と冷却水とが交互に接する金属部材を十分に防食することができる金属部材の防食方法を提供する。
【解決手段】冷却水と蒸気とが交互に接する金属部材の防食方法であって、冷却水にリン化合物及び/又は亜鉛化合物を添加し、蒸気に防食皮膜形成物質を添加することを特徴とする金属部材の防食方法。リン化合物は、ヘキサメタリン酸、トリポリリン酸、オルソリン酸、ホスホノブタントリカルボン酸、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸(HEDP)、及びアミノトリメチルホスホン酸の少なくとも1種である。
【選択図】なし
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷却水と蒸気とが交互に接する金属部材の防食方法であって、
冷却水にリン化合物及び/又は亜鉛化合物を添加し、蒸気に防食皮膜形成物質を添加することを特徴とする金属部材の防食方法。
【請求項2】
前記金属部材が鋼製の反応釜または成形機であることを特徴とする請求項1に記載の金属部材の防食方法。
【請求項3】
前記リン化合物が、ヘキサメタリン酸、トリポリリン酸、オルソリン酸、ホスホノブタントリカルボン酸、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸(HEDP)、及びアミノトリメチルホスホン酸の少なくとも1種である請求項1に記載の金属部材の防食方法。
【請求項4】
前記防食皮膜形成物質がアノーディックインヒビターであることを特徴とする請求項1に記載の金属部材の防食方法。
【請求項5】
前記防食皮膜形成物質が、下記の式で表されるポリアミンであることを特徴とする請求項1に記載の金属部材の防食方法。
-[NH-(CH-NH …(1)
(式中、Rは炭素数10~22の飽和又は不飽和炭化水素基を示し、mは1~8の整数であり、nは1~7の整数である。nが2以上の場合、複数のNH-(CHは同一でも異なっていてもよい。)
【請求項6】
前記冷却水にさらにスケール防止剤として(メタ)アクリル酸系ポリマーを添加することを特徴とする請求項1~5のいずれか1項に記載の金属部材の防食方法。
【請求項7】
前記スケール防止剤の添加量Aと前記防食皮膜形成物質の添加量Bとの比A/Bが6以下となるようにすることを特徴とする請求項6に記載の金属部材の防食方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属部材の防食方法に係り、特に蒸気と冷却水とが交互に接する反応釜や成形機などの金属部材の防食方法に関する。
【背景技術】
【0002】
開放循環冷却水系の炭素鋼製の熱交換器や配管の腐食を抑制するために、オルトリン酸塩、ヘキサメタリン酸塩、ヒドロキシエチリデンホスホン酸塩、ホスホノブタントリカルボン酸塩等のリン化合物や、亜鉛塩又は重クロム酸塩などを単独で又は併用して冷却水に添加する場合がある(特許文献1)。
【0003】
蒸気と冷却水とが交互に接する反応釜のような金属部材の防食のために、上記のような腐食防止剤を冷却水に添加した場合、冷却水が蒸気により希釈され、防食剤濃度が低下するため、金属の腐食を十分に抑制することができない。
【0004】
特許文献1には、低濃度のリン酸塩と亜鉛塩(各1mg/L以下)とMアルカリ度成分とを水系に添加し、30℃におけるランゲリア指数を1.2以上とする水系の金属腐食抑制方法が開示されている。しかし、蒸気と冷却水とが交互に接する反応釜などにあっては、蒸気によって冷却水が希釈されるため、Mアルカリ度成分の濃度が低くなるので、十分に防食することは困難である。なお、反応釜が蒸気によって加熱されたときには、反応釜が高温となり、冷却水系防食剤の仕様温度を超えるため、十分に防食できない。
【0005】
炭素鋼の腐食抑制には、皮膜形成物質の一つである長鎖脂肪族アミンを用いる方法もある(特許文献2)。長鎖脂肪族アミンによる防食のメカニズムは、長鎖脂肪族アミンが金属の表面にアミノ基を介して吸着して単分子又は多分子層の緻密な皮膜を形成することにより金属と水の接触を防止し、金属の腐食を抑制するというものである。
【0006】
長鎖脂肪族アミンを用いる防食方法では、連続的に長鎖脂肪族アミンを水系に添加し続けなければ吸着被膜が剥離してしまう。そのため、長鎖脂肪族アミンを用いる防食方法は、冷却水と蒸気が交互に接する金属部材の防食に適用しても、十分な防食効果は得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-299161号公報
【特許文献2】特開2011-033301号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来の金属部材の防食方法では、蒸気と冷却水とが交互に接する金属部材の腐食を十分に抑制することができないため、長期間の使用に伴い腐食生成物が金属表面に堆積して伝熱阻害を引き起こし、生産量の低下や反応時間の長時間化が発生していた。また、定期的な洗浄が必要であった。
【0009】
本発明は、蒸気と冷却水とが交互に接する金属部材を十分に防食することができる金属部材の防食方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の金属部材の防食方法は、冷却水と蒸気とが交互に接する金属部材の防食方法であって、冷却水にリン化合物及び/又は亜鉛化合物を添加し、蒸気に防食皮膜形成物質を添加することを特徴とする。
【0011】
本発明の一態様では、前記金属部材が鋼製の反応釜または成形機である。
【0012】
本発明の一態様では、前記リン化合物が、ヘキサメタリン酸、トリポリリン酸、オルソリン酸、ホスホノブタントリカルボン酸、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸(HEDP)、及びアミノトリメチルホスホン酸の少なくとも1種である。
【0013】
本発明の一態様では、前記防食皮膜形成物質がアノーディックインヒビターである。
【0014】
本発明の一態様では、前記防食皮膜形成物質が、下記の式で表されるポリアミンである。
【0015】
-[NH-(CH-NH …(1)
(式中、Rは炭素数10~22の飽和又は不飽和炭化水素基を示し、mは1~8の整数であり、nは1~7の整数である。nが2以上の場合、複数のNH-(CHは同一でも異なっていてもよい。)
【0016】
本発明の一態様では、前記冷却水にさらにスケール防止剤として(メタ)アクリル酸系ポリマーを添加する。
【0017】
本発明の一態様では、前記スケール防止剤の添加量Aと前記防食皮膜形成物質の添加量Bとの比A/Bが6以下となるようにする。
【発明の効果】
【0018】
本発明の金属部材の防食方法では、冷却水にはリン化合物及び/又は亜鉛塩を添加し、蒸気にはポリアミン及び/又はサルコシン類などの防食皮膜形成物質を添加する。
【0019】
これにより、反応釜等の、蒸気と冷却水とが交互に接する金属部材に対しても優れた防食効果が得られる。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明の金属部材の防食方法は、冷却水と蒸気とが交互に接する金属部材の防食方法であって、冷却水にリン化合物及び/又は亜鉛化合物を添加し、蒸気に防食皮膜形成物質を添加する。
【0021】
金属部材としては、蒸気と冷却水とが交互に接触する鋼製部材が好適であり、反応釜や加熱・冷却型成形機などが例示される。金属部材は、炭素鋼製部材、ステンレス鋼製部材などであってよい。蒸気の温度は150~200℃程度が好適であり、冷却水の温度は10~40℃程度が好適である。
【0022】
冷却水に添加されるリン化合物としては、リン酸又はリン酸塩が好適であり、具体的には、無機リン酸(正リン酸、重合リン酸)やその塩、有機リン酸やその塩あるいはそのエステル、各種ホスホン酸が挙げられ、これらを単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。塩としてはナトリウム塩、カリウム塩などが好適である。
【0023】
リン酸、リン酸塩としては、ヘキサメタリン酸、トリポリリン酸、オルソリン酸、ホスホノブタントリカルボン酸(PBTC)、ヒドロキシエチリデンジホスホン酸(HEDP)、アミノトリメチルホスホン酸等、又はこれらの塩が好適である。
【0024】
リン化合物の添加量はPOとして、2.0~12.0mg/L、特に5.0~7.0mg/L程度が好ましい。
【0025】
冷却水に添加される亜鉛塩は、塩化亜鉛、硫酸亜鉛、硝酸亜鉛、酢酸亜鉛、リンゴ酸亜鉛、クエン酸亜鉛等が好適であり、これらを単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。亜鉛塩の添加量は、0.5~5.0mg/L、特に1.0~3.0mg/L程度が好ましい。
【0026】
防食皮膜形成物質は、蒸気に直接に添加されることが好ましいが、ボイラ用水等に添加されてもよい。
【0027】
防食皮膜形成物質としては、アノーディックインヒビターが好適であり、具体的にはポリアミン又はサルコシン類、特にポリアミンが好適である。
【0028】
好ましいポリアミンは、下記一般式(1)で表されるものである。
【0029】
-[NH-(CH-NH …(1)
(式中、Rは炭素数10~22の飽和又は不飽和炭化水素基を示し、mは1~8の整数であり、nは1~7の整数である。nが2以上の場合、複数のNH-(CHは同一でも異なっていてもよい。)
【0030】
の飽和又は不飽和炭化水素基としては、直鎖状であってもよく、分岐を有してもよく、また環状であってもよく、アルキル基、アルケニル基、アルカジエニル基、アルキニル基等が挙げられるが、好ましくは、直鎖アルキル基、直鎖アルケニル基であり、Rの炭素数は好ましくは15~22である。
【0031】
mは1~8の整数であり、腐食抑制の観点から好ましくは2~6の整数である。(CH基としては、メチレン基、エチレン基(ジメチレン基)、プロピレン基(トリメチレン基)又はブチレン基(テトラメチレン基)が挙げられるが、好ましくはプロピレン基である。
【0032】
また、nは腐食抑制の観点から好ましくは1~3の整数である。
【0033】
このようなポリアミンの具体例としては、ドデシルアミノメチレンアミン、ドデシルアミノジメチレンアミン、ドデシルアミノトリメチレンアミン(N-ステアリル-1,3-プロパンジアミン)や、これらのポリアミンに対応するテトラデシル、ヘキサデシル及びオクタデシル化合物、オクタデセニルアミノトリメチレンアミン、オクタデセニルアミノジ-(トリメチルアミノ)-トリメチレンアミン、パルミチルアミノトリメチレンアミン等が挙げられるが、十分な純度で容易に入手可能であるN-オレイル-1,3-プロパンジアミン(即ち、N-オクタデセニルプロパン-3-ジアミン)が好ましい。
【0034】
これらのポリアミンは、メタノール、エタノール、イソプロパノール等の溶媒に溶解させて蒸気又は給水に添加してもよいが水性エマルジョンとし、これを蒸気又はボイラ給水に添加するのが好ましい。
【0035】
ポリアミンは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0036】
また、詰まりが発生しない範囲でオクタデシルアミン、オレイルアミン等の長鎖脂肪族アミンを併用してもよい。
【0037】
上記のポリアミンは、蒸気量に対して0.01~10ppm、特に0.1~1ppmの割合で存在させることが好ましい。この範囲よりもポリアミン量が少な過ぎるとポリアミンによる凝縮水膜形成抑制効果、加熱効率向上効果を十分に得ることができず、多過ぎると系内に粘着性の付着物が生じるおそれがある。
【0038】
なお、「ppm」とは、蒸気量に対応する水に対するポリアミンの重量の割合であり、「mg/L-水」に該当する。
【0039】
サルコシン類としては、不飽和および飽和C6~C24アルキルサルコシン、特にオレイルサルコシン、牛脂サルコシンおよびそれらの混合物を用いることができる。
【0040】
本発明では、冷却水にスケール防止剤を添加してもよい。スケール防止剤としては(メタ)アクリル酸系ポリマーが好適である。(メタ)アクリル酸系ポリマーは、(メタ)アクリル酸とスルホン酸基を有する不飽和モノマーとを含む共重合体またはその塩が望ましい。当該ポリマーは、スルホン基を有するAA/AMPS(アクリル酸/2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸共重合体)系ポリマー、AA/HAPS(アクリル酸/ヒドロキシアリロキシプロパンスルホン酸共重合体)系ポリマーが望ましい。分子量は4,000~30,000が望ましく、5,000~20,000がより望ましい。AA/AMPS比、AA/HAPS比は、いずれも、60~95:40~5が望ましく、75~90:25~10がより望ましい。
【0041】
本発明では、冷却水にスケール防止剤のトレーサー物質をさらに添加してもよい。
【0042】
なお、本発明方法は、金属部材の昇温速度が10℃/時間以上である場合に適用するのに好適である。
【0043】
本発明では、金属部材の錆を除去した後に、上記防食方法を開始することが好ましい。このようにすると、金属表面に防食皮膜が形成されやすく、防食効果を向上できる。
【0044】
この場合、錆を除去した後、防食方法を開始する前に、金属部材と接する水に、高濃度のリンまたは亜鉛(例えば、全リン酸濃度70~120mgPO/L、亜鉛濃度10~30mgZn/L)を添加するようにしてもよい。このようにすると、あらかじめ金属表面に強固な防食皮膜を形成でき、高い防食効果が長期間維持されやすい。さらに、防食方法を開始する前に、上記防食皮膜形成物質を添加することであらかじめ防食皮膜を形成してもよい。
【0045】
なお、防食方法を開始する前における金属部材の錆の除去、高濃度のリンまたは亜鉛の添加、および防食皮膜形成物質の添加は、これらを実施する順序を入れ替えてもよいし、それぞれ実施しなくてもよい。
【0046】
本発明では、冷却水中の上記防食皮膜形成物質の濃度を、冷却水が通水される熱交換器内ないし熱交換器出口における冷却水の温度、電気伝導率、pH、分散剤濃度、トレーサー物質濃度、およびランゲリア指数のいずれか1つ以上に対して比例制御するようにしてもよい。
【0047】
本発明では、冷却塔補給水のカルシウム硬度及び電気伝導率と、熱交換器内冷却水の電気伝導率から、熱交換器内冷却水のカルシウム硬度を計算し、カルシウム硬度が所定濃度以下(例えば、30mg/L以下)のときに、熱交換器内冷却水中の皮膜形成物質の濃度が所定濃度以上(例えば、0.1mg/L以上)となるように制御してもよい。冷却水において、防食効果を有するカルシウム硬度が低くて防食効果が低下する場合、残留する皮膜形成物質濃度を高くすることで、防食効果を向上できる。
【0048】
本発明では、冷却水にさらに防食皮膜形成物質をバッチで投入してもよい。冷却水において、蒸気由来で残留した皮膜形成物質に加えて、さらに皮膜形成物質を添加することで、防食効果を向上できる。
【0049】
また、本発明では、金属部材の昇温工程の開始直前に、金属部材直前の配管の冷却水に、バッチで皮膜形成物質を投入してもよい。
【0050】
また、本発明では、系内の配管が炭素鋼製である場合、配管から熱交換器への持ち込み鉄の堆積を低減でき、熱交換器の伝熱阻害を低減できる。
【実施例0051】
[腐食防止評価試験1~3(実施例を模擬)]
<実験条件>
≪試験水1の調製≫
1Lのガラスビーカーに純水(30℃)を入れ、重炭酸ナトリウム溶液、および塩化カルシウム溶液を用いてカルシウム硬度、酸消費量(pH4.8)をそれぞれ150mgCaCO/Lに調整した。防食剤として、表2のリン化合物を6mgPO/L、亜鉛化合物として塩化亜鉛を3mgZn/L添加し、スケール抑制剤としてAA/AMPS系ポリマー(モノマー比率80:20、重量平均分子量20,000)を固形分として10mg/L添加した(表1の試験水1:冷却水)。
【0052】
≪試験水2の調製≫
同様の薬剤を用いて各成分濃度を1/5とするように希釈した試験水(温度80℃)を作成した(表1の試験水2:蒸気系)。試験水2については、スケール抑制剤の添加後に皮膜形成物質であるポリアミンとしてN-オクタデセニルプロパン-1,3-ジアミン(OLDA)を0.3mg/L添加した。
【0053】
≪試験片≫
試験片としてSPCC(50mm×30mm×1mm)を使用した。
【0054】
≪試験手順≫
上記試験片を塩化ビニルで被覆した銅線に吊るして上記試験水1に浸漬させた。試験水1のビーカー1を30℃に設定した恒温槽に設置し、マグネチックスターラーにより250rpmで撹拌子を回転させながら20時間撹拌した。
【0055】
その後、この試験片をビーカー1から取り出し、80℃に設定した恒温槽中に設置した試験水2のビーカー2に試験片を移し替え、マグネチックスターラーにより250rpmで5時間撹拌した。
【0056】
試験終了後、ビーカー2から試験片を引き上げ、試験片の表面に付着した腐食生成物を酸で洗い流した後、乾燥し、重量を測定した。試験片の試験後の乾燥重量と試験前重量の差から腐食減量を算出した。結果を表2に示す。
【0057】
[試験例4~6(比較例を模擬)]
試験水1、2のリン化合物および亜鉛化合物の含有の有無及び種類と、試験水2のポリアミンの含有の有無を表2の通りとしたこと以外は試験例1~3と同様にして試験を行い、腐食減量を算出した。結果を表2に示す。
【0058】
【表1】
【0059】
【表2】
【0060】
<結果・考察>
表2の通り、リン化合物、亜鉛塩及びポリアミンを併用した試験例1~3では、低防食剤濃度、高温環境下においても十分な腐食抑制効果が得られ、熱交換器の伝熱効率の維持や設備保全に寄与できることがわかる。
【0061】
[防食皮膜形成物質とスケール防止剤併用時の防食皮膜形成物質の残留性評価テスト]
1Lのガラスビーカーに常温の純水1000mLを入れ、防食皮膜形成物質としてN-オクタデセニルプロパン-1,3-ジアミン(OLDA)を0.3mg/L添加し、スケール防止剤としてAA/AMPSポリマー(モノマー比率80:20、重量平均分子量20,000)を表3に記載の濃度となるように添加し、30min撹拌してテスト水1~6を調製した。
【0062】
各テスト水1~6を30min静置した後、上澄水中の残留OLDA濃度を測定した。OLDA濃度の分析は、Power Plant Chemistry 2015, 17(1)に記載のベンガルローズ法により行った。結果を表3に示す。
【0063】
【表3】
【0064】
<結果・考察>
表3の通り、OLDAとAA/AMPSポリマーとを併用した場合、OLDAとAA/AMPSポリマーとが共沈して、OLDA濃度が減少する。[AA/AMPS]/[OLDA]値を6以下、特に3以下とすることにより、冷却水中に残留するOLDA濃度が高くなり、防食効果が向上することが推察された。