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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173041
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】積層体
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/18 20060101AFI20241205BHJP
   B32B 27/32 20060101ALI20241205BHJP
   C09K 21/04 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
B32B27/18 B
B32B27/32 Z
C09K21/04
【審査請求】未請求
【請求項の数】7
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091159
(22)【出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】000173784
【氏名又は名称】公益財団法人鉄道総合技術研究所
(71)【出願人】
【識別番号】000000387
【氏名又は名称】株式会社ADEKA
(74)【代理人】
【識別番号】100104064
【弁理士】
【氏名又は名称】大熊 岳人
(72)【発明者】
【氏名】豊原 匡志
(72)【発明者】
【氏名】山中 翔
(72)【発明者】
【氏名】間々田 祥吾
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 幹彌
(72)【発明者】
【氏名】櫻井 久史
(72)【発明者】
【氏名】酒井 敦史
(72)【発明者】
【氏名】山本 雄大
【テーマコード(参考)】
4F100
4H028
【Fターム(参考)】
4F100AA04B
4F100AK03A
4F100AK03C
4F100AK07B
4F100AK36A
4F100AK36C
4F100AK41A
4F100AK41C
4F100AK51A
4F100AK51C
4F100AK52A
4F100AK52C
4F100AK53
4F100BA03
4F100BA06
4F100BA10A
4F100BA10C
4F100CA06B
4F100CA08B
4F100CB00
4F100DG01A
4F100DG01C
4F100DJ01A
4F100DJ01C
4F100EH36
4F100GB31
4F100JA06
4F100JA13
4F100JB16B
4F100JJ07B
4F100JK11A
4F100JK11C
4F100JL11
4H028AA07
(57)【要約】
【課題】鉄道車両等の腰掛の詰物として、簡易な構造を有する詰物を使用することができ、火災が発生した場合でも、腰掛が燃焼する際に発生する火炎が拡大することを抑制できる積層体を提供する。
【解決手段】積層体10は、第1樹脂11aを含有する第1樹脂体11と、第1樹脂体11の上面の少なくとも一部を覆い、且つ、第2樹脂12a及びリン酸塩含有難燃剤12bを含有する第2樹脂体12と、第2樹脂体12を覆うように積層され、且つ、第3樹脂13aを含有する第3樹脂体13と、を有する。第1樹脂11a及び第3樹脂13aは、いずれも、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂及びポリオレフィン樹脂からなる群から選択された1種以上よりなり、第2樹脂12aは、熱可塑性樹脂よりなる。
【選択図】図1

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1樹脂を含有する第1樹脂体と、
前記第1樹脂体の上面の少なくとも一部を覆い、且つ、第2樹脂及びリン酸塩含有難燃剤を含有する第2樹脂体と、
前記第2樹脂体を覆うように積層され、且つ、第3樹脂を含有する第3樹脂体と、
を有し、
前記第1樹脂及び前記第3樹脂は、いずれも、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂及びポリオレフィン樹脂からなる群から選択された1種以上よりなり、
前記第2樹脂は、熱可塑性樹脂よりなり、
前記リン酸塩含有難燃剤は、下記一般式(1)で表されるリン酸塩化合物及び下記一般式(3)で表されるリン酸塩化合物の少なくともいずれか一方よりなる、積層体。
【化1】
(一般式(1)中、nは1~100の数を表し、Xはアンモニア又は下記一般式(2)で表されるトリアジン誘導体を表し、pは0<p≦n+2を満たす数を表す。)
【化2】
(一般式(2)中、Z及びZは、それぞれ独立に、-NR基、水酸基、メルカプト基、炭素原子数1~10の直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素原子数1~10の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基、フェニル基及びビニル基からなる群より選択されるいずれかの基を表し、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~6の直鎖若しくは分岐のアルキル基又はメチロール基を表す。)
【化3】
(一般式(3)中、rは1~100の数を表し、Yは〔RN(CHNR〕、ピペラジン、又はピペラジン環を含むジアミンを表し、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐のアルキル基を表し、mは1~10の整数であり、qは0<q≦r+2を満たす数を表す。)
【請求項2】
請求項1に記載の積層体において、
前記第1樹脂体における前記第1樹脂の含有量と前記第3樹脂体における前記第3樹脂の含有量との合計を100質量部としたとき、前記第2樹脂体における前記リン酸塩含有難燃剤の含有量が6.8~67.3質量部である、積層体。
【請求項3】
請求項2に記載の積層体において、
前記第3樹脂体は、前記第1樹脂体の全体及び前記第2樹脂体の全体を覆うように積層され、
平面視において、前記第3樹脂体の面積に対する、前記第2樹脂体の面積の比は、0.25~1である、積層体。
【請求項4】
請求項1に記載の積層体において、
ISO5660-1に準拠し、加熱強度50kW/mにて実施された発熱性試験において、加熱開始時点から600秒が経過するまでの最大発熱速度が208~416kW/mである、積層体。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の積層体において、
前記リン酸塩含有難燃剤は、
前記一般式(1)におけるXがメラミンであるリン酸塩化合物と、
前記一般式(3)におけるYがピペラジンであるリン酸塩化合物と、
を含有する、積層体。
【請求項6】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の積層体において、
前記リン酸塩含有難燃剤は、
前記一般式(1)におけるnが2であるリン酸塩化合物と、
前記一般式(3)におけるrが2であるリン酸塩化合物と、
を含有する、積層体。
【請求項7】
請求項1乃至4のいずれか一項に記載の積層体において、
前記熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン樹脂である、積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鉄道車両等の腰掛のシートクッションとして使用される積層体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
鉄道車両等において火災が拡大することを抑制するため、難燃性を高めた座席シートが提案されている。
【0003】
特開2009-153564号公報(特許文献1)には、シートクッションにおいて、メラミンを含むポリウレタンフォームからなる下部クッション層の表面に、メラミンを含むポリウレタンフォームの上下面を加熱して圧縮塑性変形させた上部クッション層を積層接着してなる技術が開示されている。
【0004】
一方、カバー部材又は積層体等において、難燃剤としてリン酸塩含有難燃剤を含有することで難燃性を高めたカバー部材及び積層体が提案されている。
【0005】
特開2012-179792号公報(特許文献2)には、天然繊維又は合成繊維からなる表材と、発泡樹脂であるパッド材と、裏基布をこの順で積層してなるカバー部材において、裏基布が、レーヨン等の難燃性繊維を有する布帛に対して、リン及び窒素を有する難燃剤を付与してなる部材である技術が開示されている。また、上記特許文献2には、裏基布は、布帛と、非デカブロ難燃剤を有し、リン成分が、リン酸塩の形で非デカブロ難燃剤に存在する技術が開示されている。
【0006】
また、特開2022-191955号公報(特許文献3)には、(A)樹脂板と、2枚の(B)金属板とを、(B)-(A)-(B)の順に積層させた構造を有する積層体において、(A)樹脂板は、(A1)熱可塑性樹脂および(A2)リン酸塩系難燃剤を含有し、(A2)リン酸塩系難燃剤は、リン酸塩化合物を含有する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2009-153564号公報
【特許文献2】特開2012-179792号公報
【特許文献3】特開2022-191955号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
鉄道車両等の腰掛の詰物としては、難燃性を確保しつつ、薄く、クッション性が良好であることが望ましい。しかしながら、従来の鉄道車両等の腰掛の詰物には、簡易な構造を有する詰物では難燃性を十分に確保することができず、複雑な構造を有する詰物を使用しなければならない、という問題がある。また、従来の鉄道車両等の腰掛の詰物には、火災が発生した場合に、腰掛が燃焼する際に発生する火炎が拡大しやすく、隣接する腰掛に延焼しやすく、車両鋼体のうち天井等、腰掛よりも上方の部分に与えられる熱負荷が大きい、という問題がある。そのため、従来の鉄道車両等の腰掛の詰物では、難燃性を確保しつつ、薄く、クッション性が良好な詰物を得ることが困難である。
【0009】
本発明は、上述のような従来技術の問題点を解決すべくなされたものであって、鉄道車両等の腰掛の詰物として、簡易な構造を有する詰物を使用することができ、火災が発生した場合でも、腰掛が燃焼する際に発生する火炎が拡大することを抑制でき、隣接する腰掛に延焼することを抑制でき、車両鋼体のうち天井等、腰掛よりも上方の部分に与えられる熱負荷を抑制できる積層体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本願において開示される発明のうち、代表的なものの概要を簡単に説明すれば、次のとおりである。
【0011】
本発明の一態様としての積層体は、第1樹脂を含有する第1樹脂体と、第1樹脂体の上面の少なくとも一部を覆い、且つ、第2樹脂及びリン酸塩含有難燃剤を含有する第2樹脂体と、第2樹脂体を覆うように積層され、且つ、第3樹脂を含有する第3樹脂体と、を有する。第1樹脂及び第3樹脂は、いずれも、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂及びポリオレフィン樹脂からなる群から選択された1種以上よりなり、第2樹脂は、熱可塑性樹脂よりなり、リン酸塩含有難燃剤は、下記一般式(1)で表されるリン酸塩化合物及び下記一般式(3)で表されるリン酸塩化合物の少なくともいずれか一方よりなる。
【化1】
(一般式(1)中、nは1~100の数を表し、Xはアンモニア又は下記一般式(2)で表されるトリアジン誘導体を表し、pは0<p≦n+2を満たす数を表す。)
【化2】
(一般式(2)中、Z及びZは、それぞれ独立に、-NR基、水酸基、メルカプト基、炭素原子数1~10の直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素原子数1~10の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基、フェニル基及びビニル基からなる群より選択されるいずれかの基を表し、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~6の直鎖若しくは分岐のアルキル基又はメチロール基を表す。)
【化3】
(一般式(3)中、rは1~100の数を表し、Yは〔RN(CHNR〕、ピペラジン、又はピペラジン環を含むジアミンを表し、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐のアルキル基を表し、mは1~10の整数であり、qは0<q≦r+2を満たす数を表す。)
【0012】
また、他の一態様として、第1樹脂体における第1樹脂の含有量と第3樹脂体における第3樹脂の含有量との合計を100質量部としたとき、第2樹脂体におけるリン酸塩含有難燃剤の含有量が6.8~67.3質量部であってもよい。
【0013】
また、他の一態様として、第3樹脂体は、第1樹脂体の全体及び第2樹脂体の全体を覆うように積層され、平面視において、第3樹脂体の面積に対する、第2樹脂体の面積の比は、0.25~1であってもよい。
【0014】
また、他の一態様として、ISO5660-1に準拠し、加熱強度50kW/mにて実施された発熱性試験において、加熱開始時点から600秒が経過するまでの最大発熱速度が208~416kW/mであってもよい。
【0015】
また、他の一態様として、リン酸塩含有難燃剤は、一般式(1)におけるXがメラミンであるリン酸塩化合物と、一般式(3)におけるYがピペラジンであるリン酸塩化合物と、を含有してもよい。
【0016】
また、他の一態様として、リン酸塩含有難燃剤は、一般式(1)におけるnが2であるリン酸塩化合物と、一般式(3)におけるrが2であるリン酸塩化合物と、を含有してもよい。
【0017】
また、他の一態様として、熱可塑性樹脂は、ポリオレフィン樹脂であってもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明の一態様を適用することで、鉄道車両等の腰掛の詰物として、簡易な構造を有する詰物を使用することができ、火災が発生した場合でも、腰掛が燃焼する際に発生する火炎が拡大することを抑制でき、隣接する腰掛に延焼することを抑制でき、車両鋼体のうち天井等、腰掛よりも上方の部分に与えられる熱負荷を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施の形態の積層体を模式的に示す断面図である。
図2】実施の形態の積層体を模式的に示す分解斜視図である。
図3】CCM燃焼試験の概要を模式的に示す図である。
図4】試験体の外観を示す写真である。
図5】条件Bの積層体を模式的に示す分解斜視図である。
図6】比較例1及び実施例1乃至実施例3の積層体の燃焼試験の試験結果を示すグラフである。
図7】比較例3乃至比較例7及び実施例8乃至実施例12の積層体の燃焼試験の試験結果を示すグラフである。
図8】比較例3、比較例5乃至比較例7及び実施例8乃至実施例12の積層体の発熱速度の経時変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の各実施の形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0021】
なお、開示はあくまで一例にすぎず、当業者において、発明の主旨を保っての適宜変更について容易に想到し得るものについては、当然に本発明の範囲に含有されるものである。また、図面は説明をより明確にするため、実施の態様に比べ、各部の幅、厚さ、形状等について模式的に表される場合があるが、あくまで一例であって、本発明の解釈を限定するものではない。
【0022】
また本明細書と各図において、既出の図に関して前述したものと同様の要素には、同一の符号を付して、詳細な説明を適宜省略することがある。
【0023】
更に、実施の形態で用いる図面においては、断面図であっても図面を見やすくするためにハッチング(網掛け)を省略する場合もある。また、平面図であっても図面を見やすくするためにハッチングを付す場合もある。
【0024】
なお、以下の実施の形態においてA~Bとして範囲を示す場合には、特に明示した場合を除き、A以上B以下を示すものとする。また、以下では、%と表記した場合には、特に明示した場合を除き、重量%を示すものとする。
【0025】
(実施の形態)
<積層体>
初めに、図1及び図2を参照し、本発明の一実施形態である実施の形態の積層体について説明する。図1は、実施の形態の積層体を模式的に示す断面図である。図2は、実施の形態の積層体を模式的に示す分解斜視図である。図2(a)は、第2樹脂体12が第1樹脂体11の上面の一部を覆う場合を示し、図2(b)は、第2樹脂体12が第1樹脂体11の全体を覆う場合を示している。なお、図2は、後述する実施例における条件Aの積層体を示している。
【0026】
図1及び図2に示すように、本実施の形態の積層体10は、第1樹脂体(クッション体)11と、第2樹脂体(樹脂板)12と、第3樹脂体(クッション体)13と、を有する。第1樹脂体11は、第1樹脂11aを含有する。第2樹脂体12は、第1樹脂体11の上面の少なくとも一部を覆い、且つ、第2樹脂12a及びリン酸塩含有難燃剤12bを含有する。第3樹脂体13は、第1樹脂体11及び第2樹脂体12の全体を覆うように積層され、且つ、第3樹脂13aを含有する。なお、第3樹脂体13は、少なくとも第2樹脂体12の全体を覆うように積層されればよい。
【0027】
言い換えれば、第2樹脂体12は、第1樹脂体11上に積層され、且つ、第2樹脂12a及びリン酸塩含有難燃剤12bを含有し、第3樹脂体13は、第2樹脂体12上に積層され、且つ、第3樹脂13aを含有する。更に言い換えれば、本実施の形態の積層体10は、第2樹脂12a及びリン酸塩含有難燃剤12bを含有する第2樹脂体12と、第2樹脂体12を上下から挟持する第1樹脂体11及び第3樹脂体13と、を有し、第1樹脂体11は、第1樹脂11aを含有し、第3樹脂体13は、第3樹脂13aを含有する。
【0028】
第1樹脂11a及び第3樹脂13aは、いずれも、発泡ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、発泡メラミン樹脂、発泡シリコーン樹脂及び発泡ポリオレフィン樹脂からなる群から選択された1種以上よりなる。このような場合、本実施の形態の積層体10を、例えば鉄道車両の腰掛に使用される詰物として使用することができる。また、本実施の形態の積層体10を、腰掛即ちシートに使用される詰物として使用する場合には、第1樹脂体11及び第3樹脂体13は、いずれもクッション体であり、本実施の形態の積層体10は、腰掛即ちシートの座面又は背もたれとして用いられるシートクッションである。
【0029】
なお、第1樹脂11a及び第3樹脂13aとして、発泡ポリウレタン樹脂以外のポリウレタン樹脂、発泡メラミン樹脂以外のメラミン樹脂、発泡シリコーン樹脂以外のシリコーン樹脂、発泡ポリオレフィン樹脂以外のポリオレフィン樹脂を用いることもできる。即ち、第1樹脂11a及び第3樹脂13aは、いずれも、ポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、メラミン樹脂、シリコーン樹脂及びポリオレフィン樹脂からなる群から選択された1種以上よりなるものでもよい。
【0030】
第2樹脂12aは、熱可塑性樹脂よりなる。即ち、第2樹脂12aは、熱可塑性樹脂を含有する。
【0031】
第2樹脂12aに含有される熱可塑性樹脂としては、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレン、架橋ポリエチレン、超高分子量ポリエチレン、ポリブテン-1、ポリ-3-メチルペンテン、ポリ-4-メチルペンテン等のα-オレフィン重合体又はエチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-エチルアクリレート共重合体、エチレン-プロピレン共重合体等のポリオレフィン系樹脂即ちポリオレフィン樹脂及びこれらの共重合体;ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリエチレン、塩素化ポリプロピレン、ポリフッ化ビニリデン、塩化ゴム、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-エチレン共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン-酢酸ビニル三元共重合体、塩化ビニル-アクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル-マレイン酸エステル共重合体、塩化ビニル-シクロヘキシルマレイミド共重合体等の含ハロゲン樹脂;石油樹脂、クマロン樹脂、ポリスチレン、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂、スチレン及び/又はα-メチルスチレンと他の単量体(例えば、無水マレイン酸、フェニルマレイミド、メタクリル酸メチル、ブタジエン、アクリロニトリル等)との共重合体(例えば、AS樹脂、ABS(アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体)樹脂、ACS樹脂、SBS樹脂、MBS樹脂、耐熱ABS樹脂、MABS樹脂等);ポリメチルメタクリレート、ポリビニルアルコール、ポリビニルホルマール、ポリビニルブチラール;ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリシクロヘキサンジメチレンテレフタレート等のポリアルキレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンナフタレート等のポリアルキレンナフタレート等の芳香族ポリエステル及びポリテトラメチレンテレフタレート等の直鎖ポリエステル;ポリヒドロキシブチレート、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリエチレンサクシネート、ポリ乳酸、ポリリンゴ酸、ポリグリコール酸、ポリジオキサン、ポリ(2-オキセタノン)等の分解性脂肪族ポリエステル;ポリフェニレンオキサイド、ポリカプロラクタム及びポリヘキサメチレンアジパミド等のポリアミド、ポリカーボネート、ポリカーボネート/ABS樹脂、分岐ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンサルファイド、ポリウレタン、繊維素系樹脂、ポリイミド樹脂、ポリサルフォン、ポリフェニレンエーテル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、液晶ポリマー等の熱可塑性樹脂及びこれらのブレンド物を使用することができる。また、第2樹脂12aに含有される熱可塑性樹脂として、イソプレンゴム、ブタジエンゴム、アクリロニトリル-ブタジエン共重合ゴム、スチレン-ブタジエン共重合ゴム、フッ素ゴム、シリコーンゴム、ポリオレフィン系熱可塑性エラストマー、スチレン系熱可塑性エラストマー、ポリエステル系熱可塑性エラストマー、ニトリル系熱可塑性エラストマー、ナイロン系熱可塑性エラストマー、塩化ビニル系熱可塑性エラストマー、ポリアミド系熱可塑性エラストマー、ポリウレタン系熱可塑性エラストマー等のエラストマーを使用することもできる。また、第2樹脂12aに含有される熱可塑性樹脂として、上記した熱可塑性樹脂を単独で使用してもよく、上記した熱可塑性樹脂のうち2種以上を併せて使用してもよい。また、第2樹脂12aに含有される熱可塑性樹脂として、アロイ化されたものを使用してもよい。
【0032】
また、第2樹脂12aに含有される熱可塑性樹脂として、上記した熱可塑性樹脂を、分子量、重合度、密度、軟化点、溶媒への不溶分の割合、立体規則性の程度、触媒残渣の有無、原料となるモノマーの種類や配合比率、重合触媒の種類(例えば、チーグラー触媒、メタロセン触媒等)等に関わらず、使用することができる。
【0033】
第2樹脂12aに含有される熱可塑性樹脂としては、第2樹脂12aに含有されるリン酸塩含有難燃剤との併用により優れた難燃性を付与できる点から、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂及びそれらの共重合体からなる群から選ばれる1種以上が好ましく、ポリオレフィン樹脂がより好ましく、ポリプロピレン、高密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖低密度ポリエチレンが更により好ましく、それらと熱可塑性エラストマーを併用する場合も好ましい。
【0034】
リン酸塩含有難燃剤は、上記一般式(1)で表されるリン酸塩化合物及び上記一般式(3)で表されるリン酸塩化合物の少なくともいずれか一方よりなる。
【0035】
上記一般式(1)中、nは1~100の数を表し、Xはアンモニア又は上記一般式(2)で表されるトリアジン誘導体を表し、pは0<p≦n+2を満たす数を表す。
【0036】
上記一般式(2)中、Z及びZは、それぞれ独立に、-NR基、水酸基、メルカプト基、炭素原子数1~10の直鎖若しくは分岐のアルキル基、炭素原子数1~10の直鎖若しくは分岐のアルコキシ基、フェニル基及びビニル基からなる群より選択されるいずれかの基を表し、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、炭素原子数1~6の直鎖若しくは分岐のアルキル基又はメチロール基を表す。
【0037】
上記一般式(3)中、rは1~100の数を表し、Yは〔RN(CHNR〕、ピペラジン、又はピペラジン環を含むジアミンを表し、R、R、R及びRは、それぞれ独立に、水素原子、又は炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐のアルキル基を表し、mは1~10の整数であり、qは0<q≦r+2を満たす数を表す。
【0038】
上記一般式(2)におけるZ及びZで表される炭素原子数1~10の直鎖又は分岐のアルキル基としては、メチル、エチル、プロピル、イソプロピル、ブチル、第二ブチル、第三ブチル、イソブチル、ペンチル、イソペンチル、第三ペンチル、ネオペンチル、ヘキシル、シクロヘキシル、ヘプチル、イソヘプチル、第三ヘプチル、n-オクチル、イソオクチル、第三オクチル、2-エチルヘキシル、ノニル、デシル等が挙げられ、炭素原子数1~10の直鎖又は分岐のアルコキシ基としては、これらアルキル基から誘導される基が挙げられる。また、Z及びZがとり得る-NR基におけるR及びRで表される炭素原子数1~6の直鎖又は分岐のアルキル基としては、上記アルキル基のうちの炭素原子数1~6のものが挙げられる。
【0039】
上記一般式(2)で表されるトリアジン誘導体の具体的な例としては、メラミン、アセトグアナミン、ベンゾグアナミン、アクリルグアナミン、2,4-ジアミノ-6-ノニル-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-ハイドロキシ-1,3,5-トリアジン、2-アミノ-4,6-ジハイドロキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-メトキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-エトキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-プロポキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-イソプロポキシ-1,3,5-トリアジン、2,4-ジアミノ-6-メルカプト-1,3,5-トリアジン、2-アミノ-4,6-ジメルカプト-1,3,5-トリアジン等が挙げられる。
【0040】
上記一般式(1)で表されるリン酸塩化合物は、単一の化合物でもよく、縮合度又は塩の種類が異なる2種以上の混合物でもよい。また、上記一般式(1)で表されるリン酸塩化合物は、上記一般式(1)におけるXがメラミンであるリン酸塩化合物を含むことが好ましい。また、上記一般式(1)で表されるリン酸塩化合物は、上記一般式(1)におけるnが2であるピロリン酸塩を含むことが好ましい。混合物で使用する場合は、nが2であるピロリン酸塩の含有割合が高いほど好ましい。これにより、安定的に耐熱性を向上できる。
【0041】
上記一般式(3)中、Yで表される化合物は、〔RN(CHNR〕、ピペラジン又はピペラジン環を含むジアミン等が挙げられる。R~Rは同一でも異なってもよく、炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐のアルキル基を表す。
【0042】
~Rで表される炭素原子数1~5の直鎖若しくは分岐のアルキル基としては、例えば、Z及びZで表されるアルキル基の具体例として挙げたもののうちの炭素原子数1~5のものが挙げられる。
【0043】
ピペラジン環を含むジアミンとしては、例えば、ピペラジンの2、3、5、6位の1箇所以上をアルキル基(好ましくは炭素原子数1~5のもの)で置換した化合物;ピペラジンの1位及び/又は4位のアミノ基をアルキル基(好ましくは炭素原子数1~5のもの)で置換した化合物が挙げられる。
【0044】
上記一般式(3)におけるYで表される化合物としては、具体的には、N,N,N’,N’-テトラメチルジアミノメタン、エチレンジアミン、N,N’-ジメチルエチレンジアミン、N,N’-ジエチルエチレンジアミン、N,N-ジメチルエチレンジアミン、N,N-ジエチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-テトラメチルエチレンジアミン、N,N,N’,N’-ジエチルエチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,3-プロパンジアミン、テトラメチレンジアミン、ペンタメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、1、7-ジアミノへプタン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、ピペラジン、trans-2,5-ジメチルピペラジン、1,4-ビス(2-アミノエチル)ピペラジン、1,4-ビス(3-アミノプロピル)ピペラジン等が挙げられる。
【0045】
上記一般式(3)で表されるリン酸塩化合物は、単一の化合物でもよく、縮合度又は塩の種類が異なる2種以上の混合物でもよい。上記一般式(3)で表されるリン酸塩化合物は、上記一般式(3)におけるYがピペラジンであるリン酸塩化合物を含むことが好ましい。また、上記一般式(3)で表されるリン酸塩化合物は、上記一般式(3)におけるrが2であるピロリン酸塩を含むことが好ましい。混合物で使用する場合は、rが2であるピロリン酸塩の含有割合が高いほど好ましい。これにより、安定的に耐熱性を向上できる。
【0046】
リン酸塩化合物の製造方法としては、例えばピロリン酸メラミンのようなリン酸類とメラミンとの塩は、ピロリン酸ナトリウムとメラミンとを任意の比率で混合した後、塩酸を加えて反応させ、水酸化ナトリウムで中和して得ることができる。また、例えばリン酸類とピペラジンの塩は、リン酸類とピペラジンとを任意の比率で水中又はメタノール水溶液中で反応させることにより、水難溶性の沈殿として容易に得ることができる。このとき、原料のリン酸類の構成は、特に限定されない。また、上記一般式(1)又は(3)中のn又はrが2以上のリン酸塩化合物は、n又はrが1であるオルトリン酸塩を加熱縮合して得てもよい。
【0047】
本実施の形態の積層体10によれば、それぞれクッション体である第1樹脂体11及び第3樹脂体13の間に、リン酸塩含有難燃剤を含有する樹脂板である第2樹脂体12を挿入することにより、鉄道車両等の腰掛の詰物として、簡易な構造を有する詰物を使用することができる。
【0048】
また、本実施の形態の積層体10によれば、後述する実施例を用いて説明するように、リン酸塩含有難燃剤が、上記一般式(1)で表されるリン酸塩化合物及び上記一般式(3)で表されるリン酸塩化合物の少なくとも一方を含有することにより、発熱速度で評価したときに、燃焼(燃焼挙動)を抑制することができる。その結果、火災が発生した場合でも、腰掛が燃焼する際に発生する火炎が拡大することを抑制でき、隣接する腰掛に延焼することを抑制でき、鉄道車両の車両鋼体のうち天井等、腰掛よりも上方の部分に与えられる熱負荷を抑制できる。
【0049】
好適には、第1樹脂体11における第1樹脂11aの含有量と第3樹脂体13における第3樹脂13aの含有量との合計を100質量部としたとき、第2樹脂体12におけるリン酸塩含有難燃剤12bの含有量が6.8~67.3質量部である。
【0050】
第1樹脂体11における第1樹脂11aの含有量と第3樹脂体13における第3樹脂13aの含有量との合計を100質量部(22g)とする。このような場合において、第2樹脂体12におけるリン酸塩含有難燃剤12bの含有量が6.8質量部(1.5g)以上のとき、第2樹脂体12におけるリン酸塩含有難燃剤12bの含有量が6.8質量部(1.5g)未満のときに比べて、燃焼を抑制することができる。また、第2樹脂体12におけるリン酸塩含有難燃剤12bの含有量が67.3質量部(14.8g)以下のとき、第2樹脂体12におけるリン酸塩含有難燃剤12bの含有量が67.3質量部(14.8g)を超えるときに比べて、樹脂体(樹脂板)を容易に射出成形することができる。
【0051】
好適には、第3樹脂体13は、第1樹脂体11の全体及び第2樹脂体12の全体を覆うように積層され、平面視において、第3樹脂体13の面積に対する、第2樹脂体12の面積の比は、0.25~1である。
【0052】
このような場合、第1樹脂体(クッション体)11及び第3樹脂体(クッション体)13の大きさを100mm角としたとき、第2樹脂体(樹脂板)12の大きさを50~100mm角とすることができる。そのため、後述する表4を用いて説明するように、第2樹脂体(樹脂板)12全体を100質量部としたときに、リン酸塩含有難燃剤12bの含有量が30~60質量部の範囲で、第2樹脂体(樹脂板)12を挿入しない場合に比べて確実に燃焼を抑制することができる。
【0053】
好適には、第1樹脂体11の厚さ及び第3樹脂体13の厚さの総和に対する、第2樹脂体12の厚さの比は、0.025~0.075である。
【0054】
このような場合、後述する表4を用いて説明するように、第1樹脂体(クッション体)11及び第3樹脂体(クッション体)の厚さを20mmとしたとき、第2樹脂体(樹脂板)12の厚さを1~3mm厚とすることができる。そのため、第2樹脂体(樹脂板)12全体を100質量部としたときに、リン酸塩含有難燃剤12bの含有量が30~60質量部の範囲で、第2樹脂体(樹脂板)12を挿入しない場合に比べて確実に燃焼を抑制することができる。
【0055】
第2樹脂体(樹脂板)12は、熱可塑性樹脂よりなる第2樹脂12a及びリン酸塩含有難燃剤12bの他に、助剤を含有してもよい。
【0056】
助剤としては、難燃助剤、ドリップ防止助剤、加工性助剤等が挙げられる。
【0057】
難燃助剤は、金属酸化物や多価アルコール化合物を含むことができる。これにより、樹脂の難燃性を向上できる。
【0058】
金属酸化物としては、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化カルシウム、酸化マグネシウム、酸化ジルコニウム、酸化バリウム、二酸化錫、二酸化鉛、酸化アンチモン、酸化モリブデン、酸化カドミウム等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。これにより、樹脂の難燃性を向上できる。また、粉粒状の難燃剤組成物中において凝集が発生することを抑制できる。なお、難燃性の観点から、酸化亜鉛が好ましい。
【0059】
酸化亜鉛は、表面処理されていてもよく、表面処理されていなくてもよい。
【0060】
酸化亜鉛としては、例えば、酸化亜鉛1種(三井金属工業(株)製)、部分被膜型酸化亜鉛(三井金属工業(株)製)、ナノファイン50(平均粒径0.02μmの超微粒子酸化亜鉛:堺化学工業(株)製)、ナノファインK(平均粒径0.02μmの珪酸亜鉛被膜した超微粒子酸化亜鉛:堺化学工業(株)製)等の市販品を使用してもよい。
【0061】
多価アルコールとしては、複数のヒドロキシ基が結合している化合物であり、例えば、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ポリペンタエリスリトール、ネオペンチルグリコール、トリメチロールプロパン、ジトリメチロールプロパン、1,3,5-トリス(2-ヒドロキシエチル)イソシアヌレート(THEIC)、ポリエチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、マンニトール、マルチトール、ラクチトール、ソルビトール、エリスリトール、キシリトール、キシロース、スクロース(シュクロース)、トレハロース、イノシトール、フルクトース、マルトース、ラクトース等が挙げられる。これら多価アルコール化合物のうち、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、トリペンタエリスリトール、ポリペンタエリスリトール等の、ペンタエリスリトール、ペンタエリスリトールの縮合物の群から選ばれる一種以上が好ましく、ジペンタエリスリトール、ペンタエリスリトールの縮合物が特に好ましく、ジペンタエリスリトールが最も好ましい。また、THEIC及びソルビトールも好適に使用できる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0062】
ドリップ防止助剤としては、層状ケイ酸塩、フッ素系ドリップ防止助剤、及びシリコーンゴム類が挙げられる。これにより、樹脂の燃焼時におけるドリップを抑制できる。
【0063】
層状ケイ酸塩は、層状のケイ酸塩鉱物であり、天然又は合成のいずれでもよく、特に限定されるものではない。
【0064】
層状ケイ酸塩として、例えば、モンモリロナイト、サポナイト、ヘクトライト、バイデライト、スティブンサイト、ノントロナイト等のスメクタイト系粘土鉱物や、バーミキュライト、ハロイサイト、膨潤性マイカ、タルク等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0065】
ドリップ防止の観点から、これらの中でもサポナイト又はタルクが好ましく、価格等の経済性の観点から、特にタルクが好ましい。
【0066】
層状のケイ酸塩は、層間にカチオンを有していてもよい。カチオンは、金属イオンであってもよいし、その一部又は全部が、有機カチオン、(第4級)アンモニウムカチオン、ホスホニウムカチオン等の、金属イオン以外のカチオンであってもよい。
【0067】
金属イオンとして、例えば、ナトリウムイオン、カリウムイオン、カルシウムイオン、マグネシウムイオン、リチウムイオン、ニッケルイオン、銅イオン、亜鉛イオン等が挙げられる。
【0068】
有機カチオン又は第4級アンモニウムカチオンとして、例えば、ラウリルトリメチルアンモニウムカチオン、ステアリルトリメチルアンモニウムカチオン、トリオクチルメチルアンモニウムカチオン、ジステアリルジメチルアンモニウムカチオン、ジ硬化牛脂ジメチルアンモニウムカチオン、ジステアリルジベンジルアンモニウムカチオン等が挙げられる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0069】
フッ素系ドリップ防止助剤の具体例としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリヘキサフルオロプロピレン等のフッ素系樹脂やパーフルオロメタンスルホン酸ナトリウム塩、パーフルオロ-n-ブタンスルホン酸カリウム塩、パーフルオロ-t-ブタンスルホン酸カリウム塩、パーフルオロオクタンスルホン酸ナトリウム塩、パーフルオロ-2-エチルヘキサンスルホン酸カルシウム塩等のパーフルオロアルカンスルホン酸アルカリ金属塩化合物又はパーフルオロアルカンスルホン酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。中でも、ドリップ防止性の点から、ポリテトラフルオロエチレンが好ましい。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
加工助剤としては、公知の加工助剤の中から適宜選択することができるが、アクリル酸系加工助剤を含んでもよい。
【0071】
アクリル酸系加工助剤としては、例えばメチルメタクリレート、エチルメタクリレート、ブチルメタクリレート等のアルキルメタクリレートの単独重合体又は共重合体;上記アルキルメタクリレートと、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート等のアルキルアクリレートとの共重合体;上記アルキルメタクリレートと、スチレン、α-メチルスチレン、ビニルトルエン等の芳香族ビニル化合物との共重合体;上記アルキルメタクリレートと、アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のビニルシアン化合物等との共重合体等を挙げることができる。これらを単独で用いても2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0072】
助剤を第2樹脂体(樹脂板)12に添加するタイミングは特に限定されず、第2樹脂体12を製造する際に添加されてもよく、予め熱可塑性樹脂よりなる第2樹脂12a又はリン酸塩含有難燃剤12bに含有されていてもよい。
【0073】
第2樹脂体(樹脂板)12は、必要に応じて更に、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤、紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系光安定剤等を含有することが好ましい。
【0074】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6-ジ-第三ブチル-p-クレゾール、2,6-ジフェニル-4-オクタデシロキシフェノール、ジステアリル(3,5-ジ-第三ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ホスホネート、1,6-ヘキサメチレンビス〔(3,5-ジ-第三ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオン酸アミド〕、4,4’-チオビス(6-第三ブチル-m-クレゾール)、2,2’-メチレンビス(4-メチル-6-第三ブチルフェノール)、2,2’-メチレンビス(4-エチル-6-第三ブチルフェノール)、4,4’-ブチリデンビス(6-第三ブチル-m-クレゾール)、2,2’-エチリデンビス(4,6―ジ-第三ブチルフェノール)、2,2’-エチリデンビス(4-第二ブチル-6-第三ブチルフェノール)、1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-第三ブチルフェニル)ブタン、1,3,5-トリス(2,6-ジメチル-3-ヒドロキシ-4-第三ブチルベンジル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス(3,5-ジ-第三ブチル-4-ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5-トリス(3,5-ジ-第三ブチル-4-ヒドロキシベンジル)-2,4,6-トリメチルベンゼン、2-第三ブチル-4-メチル-6-(2-アクリロイルオキシ-3-第三ブチル-5-メチルベンジル)フェノール、ステアリル(3,5-ジ-第三ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、ペンタエリスリトールテトラキス〔3-(3,5-ジ-第三ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、チオジエチレングリコールビス〔(3,5-ジ-第三ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、1,6-ヘキサメチレンビス〔(3,5-ジ-第三ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕、ビス〔3,3-ビス(4-ヒドロキシ-3-第三ブチルフェニル)ブチリックアシッド〕グリコールエステル、ビス〔2-第三ブチル-4-メチル-6-(2-ヒドロキシ-3-第三ブチル-5-メチルベンジル)フェニル〕テレフタレート、1,3,5-トリス〔(3,5-ジ-第三ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシエチル〕イソシアヌレート、3,9-ビス〔1,1-ジメチル-2-{(3-第三ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオニルオキシ}エチル〕-2,4,8,10-テトラオキサスピロ〔5,5〕ウンデカン、トリエチレングリコールビス〔(3-第三ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)プロピオネート〕等が挙げられる。これらのフェノール系酸化防止剤の使用量は、熱可塑性樹脂よりなる第2樹脂12aが100質量部であるのに対して、0.001~10質量部であることが好ましく、0.05~5質量部であることがより好ましい。
【0075】
リン系酸化防止剤としては、例えば、トリス(2,4-ジ-第三ブチルフェニル)ホスファイト、トリスノニルフェニルホスファイト、トリス〔2-第三ブチル-4-(3-第三ブチル-4-ヒドロキシ-5-メチルフェニルチオ)-5-メチルフェニル〕ホスファイト、トリデシルホスファイト、オクチルジフェニルホスファイト、ジデシルモノフェニルホスファイト、ビス(トリデシル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジ-第三ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6-ジ-第三ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4,6-トリ-第三ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4-ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、テトラキス(トリデシル)イソプロピリデンジフェノールジホスファイト、テトラキス(トリデシル)-4,4’-n-ブチリデンビス(2-第三ブチル-5-メチルフェノール)ジホスファイト、ヘキサキス(トリデシル)-1,1,3-トリス(2-メチル-4-ヒドロキシ-5-第三ブチルフェニル)ブタントリホスファイト、テトラキス(2,4-ジ-第三ブチルフェニル)ビフェニレンジホスホナイト、9,10-ジヒドロ-9-オキサ-10-ホスファフェナンスレン-10-オキサイド、2,2’-メチレンビス(4,6-第三ブチルフェニル)-2-エチルヘキシルホスファイト、2,2’-メチレンビス(4,6-第三ブチルフェニル)-オクタデシルホスファイト、2,2’-エチリデンビス(4,6-ジ-第三ブチルフェニル)フルオロホスファイト、トリス(2-〔(2,4,8,10-テトラキス-第三ブチルジベンゾ〔d,f〕〔1,3,2〕ジオキサホスフェピン-6-イル)オキシ〕エチル)アミン、2-エチル-2-ブチルプロピレングリコールと2,4,6-トリ-第三ブチルフェノールのホスファイト等が挙げられる。これらのリン系酸化防止剤の使用量は、熱可塑性樹脂よりなる第2樹脂12aが100質量部であるのに対して、0.001~10質量部であることが好ましく、0.05~5質量部であることがより好ましい。
【0076】
チオエーテル系酸化防止剤としては、例えば、チオジプロピオン酸ジラウリル、チオジプロピオン酸ジミリスチル、チオジプロピオン酸ジステアリル等のジアルキルチオジプロピオネート類、及びペンタエリスリトールテトラキス(β-アルキルメルカプトプロピオネート類が挙げられる。これらのチオエーテル系酸化防止剤の使用量は、熱可塑性樹脂よりなる第2樹脂12aが100質量部であるのに対して、0.001~10質量部であることが好ましく、0.05~5質量部であることがより好ましい。
【0077】
紫外線吸収剤としては、例えば、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-オクトキシベンゾフェノン、5,5’-メチレンビス(2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン)等の2-ヒドロキシベンゾフェノン類;2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジ-第三ブチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾ-ル、2-(2’-ヒドロキシ-3’-第三ブチル-5’-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾ-ル、2-(2’-ヒドロキシ-5’-第三オクチルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2-(2’-ヒドロキシ-3’,5’-ジクミルフェニル)ベンゾトリアゾ-ル、2,2’-メチレンビス(4-第三オクチル-6-(ベンゾトリアゾリル)フェノール)、2-(2’-ヒドロキシ-3’-第三ブチル-5’-カルボキシフェニル)ベンゾトリアゾール等の2-(2’-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール類;フェニルサリシレート、レゾルシノールモノベンゾエート、2,4-ジ-第三ブチルフェニル-3,5-ジ-第三ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート、2,4-ジ-第三アミルフェニル-3,5-ジ-第三ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート、ヘキサデシル-3,5-ジ-第三ブチル-4-ヒドロキシベンゾエート等のベンゾエート類;2-エチル-2’-エトキシオキザニリド、2-エトキシ-4’-ドデシルオキザニリド等の置換オキザニリド類;エチル-α-シアノ-β、β-ジフェニルアクリレート、メチル-2-シアノ-3-メチル-3-(p-メトキシフェニル)アクリレート等のシアノアクリレート類;2-(2-ヒドロキシ-4-オクトキシフェニル)-4,6-ビス(2,4-ジ-第三ブチルフェニル)-s-トリアジン、2-(2-ヒドロキシ-4-メトキシフェニル)-4,6-ジフェニル-s-トリアジン、2-(2-ヒドロキシ-4-プロポキシ-5-メチルフェニル)-4,6-ビス(2,4-ジ-第三ブチルフェニル)-s-トリアジン等のトリアリールトリアジン類が挙げられる。これらの紫外線吸収剤の使用量は、熱可塑性樹脂よりなる第2樹脂12aが100質量部であるのに対して、0.001~30質量部であることが好ましく、0.05~10質量部であることがより好ましい。
【0078】
ヒンダードアミン系光安定剤としては、例えば、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルステアレート、1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジルステアレート、2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルベンゾエート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)セバケート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)セバケート、テトラキス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、テトラキス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)・ビス(トリデシル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)・ビス(トリデシル)-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレート、ビス(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)-2-ブチル-2-(3,5-ジ-第三ブチル-4-ヒドロキシベンジル)マロネート、1-(2-ヒドロキシエチル)-2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジノ-ル/コハク酸ジエチル重縮合物、1,6-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4-ジクロロ-6-モルホリノ-s-トリアジン重縮合物、1,6-ビス(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジルアミノ)ヘキサン/2,4-ジクロロ-6-第三オクチルアミノ-s-トリアジン重縮合物、1,5,8,12-テトラキス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)アミノ)-s-トリアジン-6-イル〕-1,5,8,12-テトラアザドデカン、1,5,8,12-テトラキス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)アミノ)-s-トリアジン-6-イル〕-1,5,8-12-テトラアザドデカン、1,6,11-トリス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(2,2,6,6-テトラメチル-4-ピペリジル)アミノ)-s-トリアジン-6-イル〕アミノウンデカン、1,6,11-トリス〔2,4-ビス(N-ブチル-N-(1,2,2,6,6-ペンタメチル-4-ピペリジル)アミノ)-s-トリアジン-6-イル〕アミノウンデカン、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-オクチルオキシ-4-ピペリジル)デカンジオアート、ビス(2,2,6,6-テトラメチル-1-ウンデシルオキシピペリジン-4-イル)カーボネート、BASF社製TINUVIN NOR 371等が挙げられる。これらのヒンダードアミン系光安定剤の使用量は、熱可塑性樹脂よりなる第2樹脂12aが100質量部であるのに対して、0.001~30質量部であることが好ましく、0.05~10質量部であることがより好ましい。
【0079】
第2樹脂体12に含有される熱可塑性樹脂よりなる第2樹脂12aとしてポリオレフィン系樹脂即ちポリオレフィン樹脂を使用する場合は、ポリオレフィン系樹脂中の触媒残渣を中和するために、本発明の効果を損なわない範囲で、公知の中和剤を含有することが好ましい。中和剤としては、例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸リチウム、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸マグネシウム等の脂肪酸金属塩、エチレンビス(ステアリン酸アミド)、エチレンビス(12-ヒドロキシステアリン酸アミド)、ステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド化合物、又は、ハイドロタルサイト等の無機化合物が挙げられ、これら中和剤は混合して用いてもよい。これらの中和剤の使用量は、熱可塑性樹脂よりなる第2樹脂12aが100質量部であるのに対して、0.001~3質量部であることが好ましく、0.01~1質量部であることがより好ましい。
【0080】
第2樹脂体(樹脂板)12は、本発明の効果を著しく損なわない範囲で、任意成分として、充填剤を含有してもよい。
【0081】
充填剤としては、例えば、タルク、マイカ、炭酸カルシウム、酸化カルシウム、水酸化カルシウム、炭酸マグネシウム、水酸化マグネシウム、酸化マグネシウム、硫酸マグネシウム、水酸化アルミニウム、硫酸バリウム、ガラス粉末、ガラス繊維、クレー、ドロマイト、シリカ、アルミナ、チタン酸カリウムウィスカー、ワラステナイト、繊維状マグネシウムオキシサルフェート及びハイドロタルサイト等を挙げることができ、粒子径(繊維状においては繊維径や繊維長及びアスペクト比)を適宜選択して用いることができる。これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用して用いてもよい。また、充填剤は、必要に応じて表面処理したものを用いることができる。
【0082】
充填剤を配合する場合の配合量は、熱可塑性樹脂よりなる第2樹脂12aが100質量部であるのに対して、1~100質量部であることが好ましく、3~80質量部であることがより好ましく、5~50質量部であることがさらにより好ましい。
【0083】
第2樹脂体(樹脂板)12には、必要に応じて更に、通常合成樹脂に使用される添加剤、例えば、架橋剤、帯電防止剤、防曇剤、プレートアウト防止剤、表面処理剤、可塑剤、滑剤、強化材、上記以外の難燃剤、蛍光剤、防黴剤、殺菌剤、発泡剤、金属不活性剤、離型剤、顔料、シリコーンオイル、シランカップリング剤等を、本発明の効果を損なわない範囲で、配合することができる。
【0084】
第2樹脂体(樹脂板)12は、熱可塑性樹脂よりなる第2樹脂12a、リン酸塩含有難燃剤12b及びその他の任意成分を公知の方法によって成形することにより、得ることができる。成形方法は特に限定されるものではなく、押し出し加工、カレンダー加工、射出成形、ロール成形、圧縮成形、ブロー成形等を適宜使用することができる。
【0085】
第2樹脂体(樹脂板)12の厚さは、強度、軽量性及び難燃性の観点から、1~3mmであることが好ましい。また、第2樹脂体(樹脂板)12の密度は、軽量性の観点から、0.5~1.6g/cmであることが好ましい。なお、本願明細書において、密度はJIS Z 8807(液中ひょう量法)に準拠して測定されたものをいう。
【0086】
本実施の形態の積層体10は、鉄道車両等の腰掛のシートクッションとして好適に用いることができる。
【実施例0087】
以下、実施例に基づいて本実施の形態をさらに詳細に説明する。なお、本発明は以下の
実施例によって限定されるものではない。
【0088】
[クッション体の準備]
実施例に用いたクッション体(第1樹脂体11及び第3樹脂体13)を準備した。クッション体として、現行腰掛詰物である、発泡ポリウレタン(PUF)(商品名:UEM55、株式会社イノアック製)、及び、ポリエステル繊維(PEs)(株式会社住江織物製)を使用した。クッション体の密度は、55kg/mであった。
【0089】
[リン酸塩含有難燃剤の製造]
実施例に用いたリン酸塩含有難燃剤成分を、以下の製造例の方法で製造した。
【0090】
(製造例1)
第1のリン酸塩含有難燃剤:メラミン塩
第1のリン酸塩含有難燃剤として、オルトリン酸メラミンを220℃で6時間、固相状態で加熱縮合反応させて、ピロリン酸メラミンを主成分とするメラミン塩を製造した。メラミン塩は精製せずにそのまま用いた。メラミン塩中のピロリン酸メラミンの純度は、98.5%だった。純度は、イオンクロマトグラフ測定装置ICS-2100(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)、Dionex IonPac AS-19カラム(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)、電気伝導度検出器を用いて測定した。
【0091】
(製造例2)
第2のリン酸塩含有難燃剤:ピペラジン塩
第2のリン酸塩含有難燃剤として、二リン酸ピペラジンを250℃で1時間、固相状態で加熱縮合反応させて、ピロリン酸ピペラジンを主成分とするピペラジン塩を製造した。ピペラジン塩は精製せずにそのまま用いた。ピペラジン塩中のピロリン酸ピペラジンの純度は、99.0%だった。純度は、イオンクロマトグラフ測定装置ICS-2100(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)、Dionex IonPac AS-19カラム(サーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社)、電気伝導度検出器を用いて測定した。
【0092】
[樹脂板の作製]
実施例に用いた樹脂板(第2樹脂体12)を作製した。組成物全体の合計量が100質量部となるように調整された量のポリプロピレン樹脂に対し、リン酸塩含有難燃剤の含有量が8質量部、15質量部、30質量部、40質量部及び60質量部となるように、リン酸塩含有難燃剤を添加し、混合した。また、混合された各材料は、以下の通りである。
第2樹脂:ポリプロピレン樹脂(商品名プライムポリプロJ754HP(プライムポリマー社製、メルトフローレート=14g/10min(JIS K7210、温度230℃、荷重2.16kg)))
第1のリン酸塩含有難燃剤:メラミン塩(製造例1で製造したもの)
第2のリン酸塩含有難燃剤:ピペラジン塩(製造例2で製造したもの)
フェノール系酸化防止剤:テトラキス[3-(3,5-ジ-tert-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオニルオキシメチル]メタン、商品名アデカスタブAO-60、(株式会社ADEKA製)
リン系酸化防止剤:トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、商品名アデカスタブ2112(株式会社ADEKA製)
中和剤:ステアリン酸カルシウム、商品名CS-1(淡南化学工業株式会社製)
【0093】
このようにして混合された組成物について、二軸押出機(装置:株式会社日本製鋼所製TEX30α)を用いて、押出温度220℃、スクリュー回転速度150rpmの条件で溶融混練し、ペレットを作製した。また、得られたペレットを、射出成形機(日精樹脂工業社製;NEX80-9E)を用いてスクリュー設定温度190~210℃、金型温度40℃の条件で射出成形を行い、長さ100mm、幅100mm、厚さ2mmの樹脂板を得た。
【0094】
なお、組成物全体の合計量が100質量部であるときに、リン酸塩含有難燃剤の含有量が60質量部を超える場合、リン酸塩含有難燃剤の含有量が60質量部以下の場合に比べ、ポリプロピレン樹脂等、リン酸塩含有難燃剤以外の材料の含有量が少なすぎるため、射出成形が困難であり、樹脂板を得ることができなかった。
【0095】
[積層体の作製]
作製された樹脂板を、長さ100mm、幅100mm、厚さ20mmのクッション体と、長さ100mm、幅100mm、厚さ20mmのクッション体により挟み込み、エポキシ系接着剤で接着し、試験体(試験片)としての積層体を作製した。なお、燃焼試験に適した積層体の構造については、後述する。
【0096】
[燃焼試験の試験方法]
得られた試験体に対し、ISO5660-1:2015に準拠し、コーンカロリメータ(CCM)燃焼試験を行った。具体的には、CCM試験装置((株)東洋精機製作所製CONE C4)を用いて、発熱性試験を行い、輻射熱量(加熱強度)50kW/mにて、発熱速度(Heat Release Rate:HRR)の最大値である最大発熱速度(HRRmax)及び総発熱量(Total Heat Release:THR)の評価を行った。この試験では、最大発熱速度の値が小さいほど、また総発熱量の値が小さいほど難燃性が高いと評価される。
【0097】
図3は、CCM燃焼試験の概要を模式的に示す図である。図3に示すように、CCM燃焼試験においては、レーザー式煙濃度計21及び酸素濃度計22を備えた排煙ダクト23下に円錐型ヒータ24及びセパレータ25を介して積層体10としての試験体26を配置し、円錐型ヒータ24で試験体26に輻射熱を加え、更に点火器(図示は省略)によりスパークを発生させることにより試験体26に着火する。そして、着火された試験体26が燃焼する際の熱発生量及び煙の生成量等を、レーザー式煙濃度計21及び酸素濃度計22により測定した。
【0098】
具体的には、試験体26をステンレスホルダー(図示は省略)に固定し、図3に示すように、円錐型ヒータ24直下25mmの位置に設置した。試験開始とともに、円錐型ヒータ24と試験体26の間に設置された円錐型ヒータ24の熱を遮断するセパレータ25が移動し、試験体26への加熱が始まる。
【0099】
同時に、試験体26から上方10mmの位置で点火器(図示は省略)により電気火花を発生させ、加熱によって試験体から生じる可燃ガスに引火させた。試験時間は加熱開始後10分以上とし、試験体26の消火まで試験を継続した。試験は3回以上実施し、その結果の平均値を測定結果とした。
【0100】
試験の際、試験体に負荷させる輻射熱量は、大火源を想定し、詰物が激しく燃焼している際の燃焼性を把握するため、50kW/mとした。
【0101】
CCM燃焼試験における評価項目は、測定結果から着火時間、最大発熱速度(HRRmax)、総発熱量(THR)及び煙生成速度(S’’max)とした。後述する図8(a)乃至図8(c)に示すような発熱速度の測定結果から、着火時間、最大発熱速度(HRRmax)及び総発熱量(THR)を求めた。また、600秒までの値で評価した。
【0102】
また、発熱速度は、酸素濃度計22を用いた酸素消費法により求めた。これは、燃焼によって物質の重量当たりの発熱量が物質ごとに大きく異なるのに対して、燃焼により消費される酸素量を基準とすると、物質の種類に依存せず、酸素1kg当たり13.1MJとほぼ一定の値を示すことを利用したものである。
【0103】
また、煙生成速度(S’’max)は、発熱速度と同時に測定することが可能であり、試験体26の燃焼に伴って生じる煙(微粒子)が排気ダクト内を通過する際にレーザー式煙濃度計21を用いて測定されるレーザー光の透過度変化から、煙の発生量を算出した。
【0104】
[積層体の種類]
試験体26としての積層体10の種類について詳細に説明する。
【0105】
前述したように、試験体26としての積層体10については、以下の条件A乃至条件Cの3条件で、上下2枚のクッション体(第1樹脂体11及び第3樹脂体13)の間に、樹脂板(第2樹脂体12)を挿入したものを、積層体10として作成した。クッション体の厚さは10mmであり、試験体26としての積層体10においては、4枚のクッション体を積層させ、クッション体の厚さの総和が40mmとなるような試験体とした。実際に使用される際の詰物の厚さは車両により異なるが、数10mm程度である。一方、今回の試験では、CCM燃焼試験の試験体の厚さが規格において50mm以下と規定されているため、図2(a)及び図2(b)に示すように、厚さ2mmの樹脂板を挿入した場合でも全体の厚さを50mm以下とするため、クッション体の厚さの総和を40mmとした。以下、条件A乃至条件Cについて説明する。
【0106】
<条件A(樹脂の大きさ)>
条件Aにおいて、2枚のクッション体の間に挿入される樹脂板については、リン酸塩含有難燃剤の含有量を、前述したように、樹脂板全体を100質量部としたときに、8質量部、15質量部、30質量部、40質量部及び60質量部のうち、鉄道車両用材料燃焼性試験(以下、「車材燃試」とも称する)などの結果から最も難燃性が高いと想定される60質量部とした。挿入される樹脂板の寸法については、厚さを2mmとし、大きさを、100mm角に加え、50mm角、33mm角とした。異なる大きさで試験を実施した理由として、CCM燃焼試験では、100mm角で同じように設定することとされているものの、同材料を実際に詰物に適用する際には、全面に配置するだけでなく、一部場所への重点的に配置することも考えられる。そのため、挿入量による影響も評価した。条件Aに対応した試験体の外観を図4の写真に示す。また、挿入される樹脂板の大きさを33mm、50mm、100mmとしたものを、実施例1乃至実施例3の積層体とし、樹脂板が挿入されない積層体を、比較例1(条件X)の積層体とした。
【0107】
<条件B(樹脂の挿入位置)>
図5は、条件Bの積層体を模式的に示す分解斜視図である。図5(a)は、樹脂板(第2樹脂体12)をクッション体(第1樹脂体11及び第3樹脂体13)の厚さ方向の中間に挿入する場合を示し、図5(b)は、樹脂板(第2樹脂体12)をクッション体(第1樹脂体11及び第3樹脂体13)の底面に配置する場合を示している。
【0108】
条件Bでは、樹脂板を挿入する位置による影響を評価するため、厚さ40mmのクッション体の厚さ方向の中間に挿入する条件と、クッション体の底面に配置する条件と、の2条件で燃焼挙動を比較した。挿入又は配置する樹脂板については、樹脂板全体を100質量部としたときに、リン酸塩含有難燃剤の含有量を60質量部とし、厚さを2mmとし、大きさを、100mm角と50mm角とした。条件Bの積層体を、実施例4乃至実施例7の積層体とし、樹脂板が挿入されない積層体を、比較例2(条件X)の積層体とした。
【0109】
<条件C(樹脂の難燃剤の種類)>
条件Cでは、条件A及び条件Bの結果に基づいて、挿入又は配置される樹脂板の厚さを2mmとし、大きさを50mm角とし、厚さ40mmのクッション体の厚さ方向の中間に樹脂板が挿入されるものとし、樹脂板の樹脂に配合される難燃剤の種類及び配合量による影響を評価した。
【0110】
具体的には、従来の汎用的な難燃剤であるマグネシウム含有難燃剤(Mg含有難燃剤)及び臭素含有難燃剤(Br含有難燃剤)を含有する樹脂板が挿入される場合における試験体としての積層体を作製した。樹脂板に含有される難燃剤の種類及び難燃剤の含有量を変えたこと以外は、前述した実施例2の積層体と同様にして、比較例5及び比較例6の積層体を作製した。また、比較のために難燃剤を含有しない樹脂板が挿入される場合における試験体としての積層体(0%)も、比較例4の積層体として作製し、樹脂板が挿入されない積層体(比較例1と同様)を、比較例3(条件X)の積層体とした。比較例5の積層体における樹脂板中のMg含有難燃剤の含有量は、樹脂板全体を100質量部としたときに、60質量部(Mg60%)であり、比較例6の積層体における樹脂板中のBr含有難燃剤の含有量は、20質量部(Br20%)であった。
【0111】
また、リン酸塩含有難燃剤を含有する樹脂板が挿入される場合において、樹脂板に含有されるリン酸塩含有難燃剤の含有量を変えたこと以外は、前述した実施例2の積層体と同様にして、実施例8乃至実施例12の積層体を作製した。実施例8乃至実施例12の積層体における樹脂板中のリン酸塩含有難燃剤の含有量は、樹脂板全体を100質量部としたときに、8質量部(IFR8%)、15質量部(IFR15%)、30質量部(IFR30%)、40質量部(IFR40%)及び60質量部(IFR60%)であった。
【0112】
なお、Mg含有難燃剤は、難燃剤由来の有毒ガスが発生しないが、難燃剤を多量に添加する必要があるため樹脂としての物性低下や比重が増加する。Br含有難燃剤は、発熱を抑制できるが、燃焼時に煙や有毒ガスが多量に発生する。一方、リン酸塩含有難燃剤は、樹脂の燃焼時に難燃剤が炭化層を形成し、それが発泡膨張することで、断熱効果及びガスの拡散を防止し、燃焼を抑制する特徴がある。
【0113】
[燃焼試験の試験結果]
<条件A(樹脂の大きさ)>
条件Aの積層体、即ち比較例1及び実施例1乃至実施例3の積層体の燃焼試験の試験結果を、表1に示す。
【0114】
【表1】
【0115】
図6は、比較例1及び実施例1乃至実施例3の積層体の燃焼試験の試験結果を示すグラフである。図6は、比較例1(条件X)、実施例1(Y33IFR60%)、実施例2(Y50IFR60%)及び実施例3(Y100IFR60%)の積層体の各々の最大発熱速度(HRRmax)を示している。
【0116】
表1に示すように、比較例1及び実施例1乃至実施例3の積層体のいずれにおいても、着火時間は5~6秒であり、互いに同程度であった。これは、円錐型ヒータ近くのクッション体が最初に着火したためであり、挿入された樹脂板の影響ではなく、燃焼がほぼ同じタイミングで始まったためと考えられる。
【0117】
また、樹脂板を挿入しない場合即ち条件X(比較例1)の積層体の場合、最大発熱速度(HRRmax)が490kW/mであるのに対して、33mm角の樹脂板を挿入した積層体の場合(実施例1)、最大発熱速度(HRRmax)は483kW/mであり、条件X(比較例1)と略同程度であった。一方、50mm角(実施例2)及び100mm角(実施例3)の樹脂板を挿入した場合、最大発熱速度(HRRmax)はそれぞれ288kW/m、208kW/mとなり、条件X(比較例1)よりも大幅に低減した。
【0118】
一方、比較例1及び実施例1乃至実施例3の積層体のいずれにおいても、最大煙生成速度(S’’max)は条件X(比較例1)と同程度であった。これは、積層体の燃焼時に一定の煙が発生し、リン酸塩含有難燃剤を含有する樹脂板により燃焼を抑制することはできたものの、最大値としての煙生成速度である最大煙生成速度(S’’max)を低減できなかったためと考えられる。
【0119】
また、総発熱量(THR)は、樹脂板の大きさが大きくなるにつれて増加する傾向もみられた。これは、樹脂板が、樹脂板全体を100質量部としたときに、40質量部の樹脂と、60質量部のリン酸塩含有難燃剤と、を含有することから、樹脂板の大きさが大きくなるにつれて、可燃物である樹脂の量が増加したためと考えられる。
【0120】
<条件B(樹脂の挿入位置)>
条件Bの積層体、即ち比較例2及び実施例4乃至実施例7の積層体の燃焼試験の試験結果を、表2に示す。なお、表2の比較例2、実施例4、実施例6は、表1の比較例1、実施例2、実施例3に相当する。
【0121】
【表2】
【0122】
表2に示すように、比較例2及び実施例4乃至実施例7の積層体のいずれにおいても、即ちいずれの樹脂条件、挿入位置でも、条件Aと同様に、着火時間は5~6秒であり、互いに同程度であった。これは、条件Aと同様に、円錐型ヒータ近くのクッション体が最初に着火したためであり、挿入した樹脂板又は挿入した位置の影響ではなく、燃焼がほぼ同じタイミングで始まったためと考えられる。
【0123】
また、樹脂板を挿入しない場合即ち条件X(比較例2)の積層体の場合、最大発熱速度(HRRmax)が490kW/mであり、条件B(比較例2及び実施例4乃至実施例7)の積層体の中で最も高かった。一方、樹脂板全体を100質量部としたときに、リン酸塩含有難燃剤の含有量を60質量部とし、大きさを50mm角とした樹脂板を中間に挿入した場合(実施例4)、最大発熱速度(HRRmax)は条件X(比較例2)に対して40%程度減少した。また、樹脂板全体を100質量部としたときに、リン酸塩含有難燃剤の含有量を60質量部とし、大きさを50mm角とした樹脂板を底面に配置した場合(実施例5)、最大発熱速度(HRRmax)は条件X(比較例2)に対して20%程度減少した。更に、樹脂板全体を100質量部としたときに、リン酸塩含有難燃剤の含有量を60質量部とし、大きさを100mm角とした樹脂板を中間に挿入した場合(実施例6)、最大発熱速度(HRRmax)は条件X(比較例2)に対して60%程度減少した。また、樹脂板全体を100質量部としたときに、リン酸塩含有難燃剤の含有量を60質量部とし、大きさを100mm角とした樹脂板を底面に配置した場合(実施例7)、最大発熱速度(HRRmax)は条件X(比較例2)に対して40%程度減少した。
【0124】
また、樹脂板全体を100質量部としたときに、リン酸塩含有難燃剤の含有量を60質量部とし、樹脂板の大きさを50mm角としたとき、総発熱量(THR)は、樹脂板の挿入位置が中間の場合(実施例4)と底面の場合(実施例5)との間で、同程度であった。一方、樹脂板の大きさを100mm角としたとき、総発熱量(THR)は、樹脂板の挿入位置が中間の場合(実施例6)の方が、樹脂板の挿入位置が底面の場合(実施例7)よりも小さかった。樹脂板の大きさが50mm角のとき、可燃物であるクッション体の重量と樹脂板の重量とが互いに同程度であり、すべての可燃物が燃焼した結果、同程度の値となったと考えられる。一方、樹脂板の大きさが100mm角のとき、評価対象時間の600秒以内に消火せず、燃焼が継続したため、樹脂板の挿入位置が中間の場合の方が、樹脂板の挿入位置が底面の場合に比べて、燃焼が遅延し、総発熱量(THR)が減少したと考えられる。
【0125】
また、最大煙生成速度(S’’max)は、樹脂板の挿入位置が中間の場合と底面の場合との間で、互いに同程度であった。これは、積層体の燃焼時に一定の煙が発生し、リン酸塩含有難燃剤を含有する樹脂板により燃焼を抑制することはできたものの、最大値としての煙生成速度である最大煙生成速度(S’’max)を低減できなかったためと考えられる。
【0126】
以上の試験結果において、最大発熱速度(HRRmax)に着目すると、リン酸塩含有難燃剤を含有する樹脂板を底面よりも中間に挿入した方が、底面に挿入するよりも難燃性の効果が高くなることが示された。
【0127】
<条件C(樹脂の難燃剤の種類)>
条件Cの積層体、即ち比較例3乃至比較例6及び実施例8乃至実施例12の積層体の燃焼試験の試験結果を、表3に示す。なお、表3の比較例3、実施例12は、表1の比較例1、実施例2に相当する。
【0128】
【表3】
【0129】
図7は、比較例3乃至比較例7及び実施例8乃至実施例12の積層体の燃焼試験の試験結果を示すグラフである。図7は、比較例3(条件X)、比較例4(N0%)、比較例5(Mg60%)、比較例6(Br20%)、実施例8(IFR8%)、実施例9(IFR15%)、実施例10(IFR30%)、実施例11(IFR40%)及び実施例12(IFR60%)の積層体の最大発熱速度(HRRmax)に加えて、樹脂板に代えてアルミニウム(Al)板を挿入した比較例7(Al)の積層体の最大発熱速度(HRRmax)を示している。
【0130】
表3に示すように、比較例3乃至比較例6及び実施例8乃至実施例12の積層体のいずれにおいても、条件A及び条件Bと同様に、着火時間は5~6秒であり、中間に挿入した樹脂板の種類によらず互いに同程度であった。条件Cにおいても、上層のクッション体が着火時間に影響したためと考えられる。
【0131】
また、樹脂板を挿入しない場合即ち条件X(比較例3)の積層体の場合、最大発熱速度(HRRmax)は、490kW/mであり、樹脂板全体を100質量部としたときに、マグネシウム含有難燃剤(Mg含有難燃剤)の含有量が60質量部となるように、Mg含有難燃剤が添加された樹脂板を挿入した場合(比較例5)と同程度であった。一方、難燃剤を含有しない樹脂板を挿入した場合(比較例4)、及び、樹脂板全体を100質量部としたときに、臭素含有難燃剤(Br含有難燃剤)の含有量が20質量部となるように、Br含有難燃剤が添加された樹脂板を挿入した場合(比較例6)は、最大発熱速度(HRRmax)は、条件X(比較例3)よりも高かった。リン酸塩含有難燃剤を含有する樹脂板を挿入した場合、樹脂板全体を100質量部としたときに、リン酸塩含有難燃剤の含有量が8質量部(実施例8)のときは、最大発熱速度(HRRmax)は条件X(比較例3)のときと同程度であったが、リン酸塩含有難燃剤の含有量が15~60質量部(実施例9乃至実施例12)のときは、リン酸塩含有難燃剤の含有量の増加に伴って、最大発熱速度(HRRmax)は減少した。特に、樹脂板全体を100質量部としたときに、リン酸塩含有難燃剤の含有量が60質量部(実施例12)のときは、条件X(比較例3)と比較して、最大発熱速度(HRRmax)が40%程度減少し、大幅に減少した。
【0132】
また、条件X(比較例3)では、総発熱量(THR)が61MJm-2であったのに対し、リン酸塩含有難燃剤を含有する樹脂板を挿入した場合(実施例8乃至実施例12)は、いずれの場合でも、総発熱量(THR)が72~81MJm-2となり増加した。これは、挿入された樹脂板がリン酸塩含有難燃剤と樹脂とを含有するものであり、樹脂部分が燃焼したために、総発熱量(THR)が大きくなったと考えられる。
【0133】
また、条件X(比較例3)では、最大煙生成速度(S’’max)が4m-2-1であったのに対して、Br含有難燃剤が添加された樹脂板を挿入した場合(比較例6)には、最大煙生成速度(S’’max)は13m-2-1に増加した。これは、Br含有難燃剤の特性によるものと考えられる。また、その他の積層体についても、樹脂板全体を100質量部としたときに、リン酸塩含有難燃剤の含有量が60質量部(実施例12)の場合を除き、条件X(比較例3)に対し、最大煙生成速度(S’’max)が若干増加した。
【0134】
図8は、比較例3、比較例5乃至比較例7及び実施例8乃至実施例12の積層体の発熱速度の経時変化を示すグラフである。図8(a)は、比較例3及び比較例7の積層体の発熱速度の経時変化を示し、図8(b)は、比較例3、比較例5及び比較例6の積層体の発熱速度の経時変化を示し、図8(c)は、比較例3及び実施例8乃至実施例12の積層体の発熱速度の経時変化を示している。
【0135】
図8(b)に示すように、樹脂板全体を100質量部としたときに、Mg含有難燃剤の含有量が60質量部となるように、Mg含有難燃剤が添加された樹脂板を挿入した場合(比較例5)、燃焼をわずかに遅延できる効果があったものの、全体的な燃焼挙動としてはほとんど変化が見られなかった。また、樹脂板全体を100質量部としたときに、Br含有難燃剤の含有量が20質量部となるように、Br含有難燃剤が添加された樹脂板を挿入した場合(比較例6)、初期の燃焼を若干遅延できる効果があるものの、後半の燃焼では条件X(比較例3)より激しく燃焼した。これは、Br含有難燃剤が消費された後、クッション体、及び、挿入された樹脂板のうち残りの部分が激しく燃焼したと考えられる。
【0136】
また、図8(c)に示すように、リン酸塩含有難燃剤を含有し、樹脂板全体を100質量部としたときに、リン酸塩含有難燃剤の含有量が8質量部である樹脂板を挿入した場合(実施例8)、条件X(比較例3)と比較して燃焼を遅延できる効果があったものの、その後の燃焼挙動は条件X(比較例3)と同程度であった。その一方で、リン酸塩含有難燃剤の含有量が増加するにつれて、最大発熱速度(HRRmax)は減少し、全体的な燃焼を抑制できることが分かった。これは、挿入された樹脂板に含有されているリン酸塩含有難燃剤が炭化層を形成、それが発泡膨張し、樹脂板及び燃焼中のクッション体を覆うことで、酸素又は輻射熱を遮断し、燃焼を抑制できたものと考えられる。また、条件X(比較例3)と比較して、クッション体が急激に燃焼せず、徐々に燃焼していることから、リン酸塩含有難燃剤を含有する樹脂板を挿入することにより、クッション体の全体の燃焼拡大を抑制できる可能性があると考えられる。
【0137】
以上、条件Cの結果より、クッション体の燃焼を抑制するためには、樹脂板がクッション体に挿入されること自体、及び、挿入される樹脂板に難燃剤が含有されること自体が有効なわけではなく、リン酸塩含有難燃剤が燃焼時に発泡することでクッション体全体に負荷される輻射熱量が抑制されることが有効であることが分かった。但し、着火時間については、いずれの場合においても試験開始から30秒程度までに着火した。これは、いずれの条件(積層体)においても、厚さの総和が40mmであるクッション体のうち、20mmの厚さを有する上層のクッション体(第3樹脂体13)は、同じ構成を有する詰物としてのクッション体であり、上層のクッション体が最初に燃焼したために、いずれの試験条件においても同様の結果が得られたものと考えられる。
【0138】
<リン酸塩含有難燃剤の重量>
実施例1乃至実施例12の積層体のうちより好適な積層体である実施例1、実施例3及び実施例10乃至実施例12その他の実施例の積層体におけるリン酸塩含有難燃剤の含有量と難燃性との関係を整理した。その結果を、表4に示す。なお、上下2枚のクッション体の重量の総和は、各クッション体の大きさが100mm×100mm×20mmであり、前述したようにクッション体の密度が55kg/mであるため、22gであった。
【0139】
【表4】
【0140】
表4に示すように、樹脂板の大きさを33mm角としたときは、リン酸塩含有難燃剤の含有量が60%(60質量部)であっても、最大発熱速度(HRRmax)は、条件X(比較例1)におけるHRRmaxと略同程度であった。即ち、樹脂板の大きさを33mm角としたときは、樹脂板全体を100質量部としたときに、リン酸塩含有難燃剤の含有量が60%(60質量部)であっても、条件X(比較例1)に比べて燃焼を抑制することができなかった。
【0141】
一方、樹脂板の大きさを50mm角としたときは、リン酸塩含有難燃剤の含有量が30~60%(30~60質量部)の範囲で、HRRmaxは、条件X(比較例1)に比べて小さくなった。即ち、樹脂板の大きさを50mm角としたときは、樹脂板全体を100質量部としたときに、リン酸塩含有難燃剤の含有量が30~60質量部の範囲で、条件X(比較例1)に比べて燃焼を抑制することができた。
【0142】
また、樹脂板の大きさを100mm角としたときは、リン酸塩含有難燃剤の含有量が30%(30質量部)であっても、HRRmaxは、条件X(比較例1)に比べて小さくなった。即ち、樹脂板の大きさを100mm角としたときは、樹脂板全体を100質量部としたときに、リン酸塩含有難燃剤の含有量が30%(30質量部)であっても、条件X(比較例1)に比べて燃焼を抑制することができた。
【0143】
ここで、表4に示すように、樹脂板の大きさが33mm角であって、且つ、樹脂板全体を100質量部としたときに、リン酸塩含有難燃剤の含有量が60%(60質量部)の場合を、リン酸塩含有難燃剤の重量に換算すると、リン酸塩含有難燃剤の重量は1.6gであった。また、樹脂板の大きさが50mm角であって、且つ、樹脂板全体を100質量部としたときに、リン酸塩含有難燃剤の含有量が30~60%(30~60質量部)の範囲を、リン酸塩含有難燃剤の重量に換算すると、1.5~3.7gであった。また、樹脂板の大きさが100mm角であって、且つ、樹脂板全体を100質量部としたときに、リン酸塩含有難燃剤の含有量が30~60%(30~60質量部)の範囲を、リン酸塩含有難燃剤の重量に換算すると、6.0~14.8gであった。そのため、条件X(比較例1)に比べて燃焼を抑制することができるリン酸塩含有難燃剤の含有量は、1.5~14.8gであった。
【0144】
ここで、上下2枚のクッション体の重量の総和は、22g程度であった。また、第2樹脂体(樹脂板)12におけるリン酸塩含有難燃剤12bの含有量を、第1樹脂体(クッション体)11における第1樹脂11aの含有量と第3樹脂体(クッション体)13における第3樹脂13aの含有量との合計で規格化した場合においても、積層体の燃焼を抑制する効果については、表4に示す結果と同様に評価することが可能と考えられる。従って、好適には、第1樹脂体(クッション体)11における第1樹脂11aの含有量と第3樹脂体(クッション体)13における第3樹脂13aの含有量との合計を100質量部としたとき、又は、第1樹脂体(クッション体)11の重量と第3樹脂体(クッション体)13の重量との合計を100質量部としたとき、第2樹脂体(樹脂板)12におけるリン酸塩含有難燃剤12bの含有量が6.8~67.3質量部である。
【0145】
第2樹脂体12におけるリン酸塩含有難燃剤12bの含有量が6.8質量部(1.5g)以上のとき、第2樹脂体12におけるリン酸塩含有難燃剤12bの含有量が6.8質量部(1.5g)未満の場合に比べて、条件X(比較例1)に比べて燃焼を抑制することができる。また、第2樹脂体12におけるリン酸塩含有難燃剤12bの含有量が67.3質量部(14.8g)以下のとき、第2樹脂体12におけるリン酸塩含有難燃剤12bの含有量が67.3質量部(14.8g)を超える場合に比べて、樹脂板を容易に射出成形することができる。
【0146】
また、第2樹脂体12の面積を、第1樹脂体11及び第3樹脂体13の面積で規格化した場合においても、積層体の燃焼を抑制する効果について、表4に示す結果と同様に評価することが可能と考えられる。従って、好適には、第3樹脂体13は、第1樹脂体11の全体及び第2樹脂体12の全体を覆うように積層され、平面視において、第3樹脂体13の面積に対する、第2樹脂体12の面積の比は、0.25~1である。
【0147】
このような場合、第1樹脂体(クッション体)11及び第3樹脂体(クッション体)13の大きさを100mm角としたとき、第2樹脂体(樹脂板)12の大きさを50~100mm角とすることができるので、表4に示すように、樹脂板全体を100質量部としたときに、リン酸塩含有難燃剤12bの含有量が30~60質量部の範囲で、条件X(比較例1)に比べて確実に燃焼を抑制することができる。
【0148】
また、第2樹脂体12の厚さを、第1樹脂体11及び第3樹脂体13の厚さの総和で規格化した場合においても、積層体の燃焼を抑制する効果について、表4に示す結果と同様に評価することが可能と考えられる。従って、好適には、第1樹脂体11の厚さ及び第3樹脂体13の厚さの総和に対する、第2樹脂体12の厚さの比は、0.025~0.075である。
【0149】
このような場合、第1樹脂体(クッション体)11及び第3樹脂体(クッション体)13の各々の厚さを20mmとしたとき、第2樹脂体(樹脂板)12の厚さを1~3mm厚とすることができるので、表4に示すように、樹脂板全体を100質量部としたときに、リン酸塩含有難燃剤12bの含有量が30~60質量部の範囲で、条件X(比較例1)に比べて確実に燃焼を抑制することができる。
【0150】
また、条件X(比較例1)に比べて燃焼を確実に抑制することができるのは、実施例2(実施例4及び実施例12に相当)、実施例3(実施例6に相当)及び実施例10乃至実施例12であった。従って、好適には、ISO5660-1に準拠し、加熱強度50kW/mにて実施された発熱性試験において、加熱開始時点から600秒が経過するまでの最大発熱速度が208~416kW/mである。このような場合、樹脂板全体を100質量部としたときに、第2樹脂体(樹脂板)12におけるリン酸塩含有難燃剤12bの含有量が30~60質量部の範囲で、条件X(比較例1)に比べて確実に燃焼を抑制することができる。
【0151】
<燃焼試験の試験結果のまとめ>
腰掛材料である詰物に難燃剤を含有する樹脂板を挿入した試験体についてCCM試験を行うことにより、燃焼特性を評価した。CCM試験では、比較のため各種の難燃剤を含有する(配合した)樹脂板を詰物としてのクッション体に挿入したものを試験体とし、樹脂板の大きさ、クッション体への挿入位置、難燃剤の含有量(配合量)をパラメータとして試験を実施した。その結果、下記(1)乃至(3)が分かった。
(1)リン酸塩含有難燃剤を含有する樹脂板は、汎用的な臭素含有難燃剤又はマグネシウム含有難燃剤を含有する樹脂板よりも優れた難燃性を示すことを確認した。
(2)詰物としてのクッション体に挿入するリン酸塩含有難燃剤を含有する樹脂板の大きさによる影響を評価した結果、50mm角程度でも燃焼を抑制できるものの、100mm角など寸法が大きい方が抑制効果も大きいことが分かった。また、挿入位置は、詰物としてのクッション体の底面よりも厚さ方向における中間に配置する方が燃焼を抑制する効果が高いことが分かった。
(3)難燃剤の種類による影響を評価した結果、リン酸塩含有難燃剤を含有する樹脂板を用いた場合、樹脂板を挿入しない場合、或いは、汎用的な難燃剤を含有する(配合した)樹脂板を用いた場合と比べて、燃焼を抑制する効果が高いことが分かった。これは、リン酸塩含有難燃剤の特徴によるものであるが、着火時に難燃剤が発泡することで、積層体のうち樹脂板の周囲の部分の燃焼が抑制されたためと考えられる。
【0152】
即ち、本発明者らは、CCM試験の結果、着火時間は試験条件によらず同程度である一方、HRRmaxで評価すると、第1樹脂体(クッション体)11と第3樹脂体(クッション体)13との間にリン酸塩含有難燃剤12bを含有する第2樹脂体(樹脂板)12を挿入することで、腰掛材料に使用される詰物としての積層体の燃焼を抑制できることを見出した。また、本発明者らは、挿入される第2樹脂体(樹脂板)12の寸法を大きくし、第2樹脂体(樹脂板)12を挿入する位置は積層体の厚さ方向における中間とし、リン酸塩含有難燃剤12bの含有量(配合量)を増やすことにより、燃焼を抑制する効果が高まることを見出した。
【0153】
以上、本発明者によってなされた発明をその実施の形態に基づき具体的に説明したが、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能であることは言うまでもない。
【0154】
本発明の思想の範疇において、当業者であれば、各種の変更例及び修正例に想到し得るものであり、それら変更例及び修正例についても本発明の範囲に属するものと了解される。
【0155】
例えば、前述の各実施の形態に対して、当業者が適宜、構成要素の追加、削除若しくは設計変更を行ったもの、又は、工程の追加、省略若しくは条件変更を行ったものも、本発明の要旨を備えている限り、本発明の範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0156】
本発明は、鉄道車両等の腰掛のシートクッションとして使用される積層体に適用して有効である。
【符号の説明】
【0157】
10 積層体
11 第1樹脂体
11a 第1樹脂
12 第2樹脂体
12a 第2樹脂
12b リン酸塩含有難燃剤
13 第3樹脂体
13a 第3樹脂
21 レーザー式煙濃度計
22 酸素濃度計
23 排煙ダクト
24 円錐型ヒータ
25 セパレータ
26 試験体

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8