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特開2024-173095磁性材料用スパッタリングターゲット、磁性材料用スパッタリングターゲット組立品及び磁性材料用スパッタリングターゲットの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173095
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】磁性材料用スパッタリングターゲット、磁性材料用スパッタリングターゲット組立品及び磁性材料用スパッタリングターゲットの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/34 20060101AFI20241205BHJP
【FI】
C23C14/34 B
C23C14/34 A
【審査請求】有
【請求項の数】16
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091240
(22)【出願日】2023-06-01
(71)【出願人】
【識別番号】502362758
【氏名又は名称】JX金属株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 瑶輔
(72)【発明者】
【氏名】岩淵 靖幸
(72)【発明者】
【氏名】杉本 圭次郎
(72)【発明者】
【氏名】本田 和也
【テーマコード(参考)】
4K029
【Fターム(参考)】
4K029BA02
4K029BA03
4K029BA06
4K029BA07
4K029BA13
4K029BA17
4K029BA33
4K029BA34
4K029BA35
4K029BD11
4K029CA05
4K029DC04
4K029DC05
4K029DC07
4K029DC09
4K029DC12
4K029DC21
(57)【要約】
【課題】リデポ膜剥離を良好に抑制することが可能な磁性材料用スパッタリングターゲット、磁性材料用スパッタリングターゲット組立品及び磁性材料用スパッタリングターゲットの製造方法を提供する。
【解決手段】スパッタ領域と非スパッタ領域とを有し、磁性材料用であるスパッタリングターゲットであって、非スパッタ領域は、複数配列した溝部と、複数の溝部で区画された被区画部と、溝部と、被区画部との境界に設けられた盛上り部と、を有する、磁性材料用スパッタリングターゲット。
【選択図】図2
【特許請求の範囲】
【請求項1】
スパッタ領域と非スパッタ領域とを有し、磁性材料用であるスパッタリングターゲットであって、
前記非スパッタ領域は、
複数配列した溝部と、
前記複数の溝部で区画された被区画部と、
前記溝部と、前記被区画部との境界に設けられた盛上り部と、
を有する、磁性材料用スパッタリングターゲット。
【請求項2】
前記盛上り部は、前記溝部と前記被区画部との境界に沿って伸びるように設けられ、頂部領域に複数の粒状部を有する、請求項1に記載の磁性材料用スパッタリングターゲット。
【請求項3】
前記溝部の表面に前記粒状部が設けられている、請求項2に記載の磁性材料用スパッタリングターゲット。
【請求項4】
前記被区画部の表面に前記粒状部が設けられている、請求項2に記載の磁性材料用スパッタリングターゲット。
【請求項5】
前記非スパッタ領域中の所定領域の投影面積を分母とし、前記所定領域の表面積を分子としたときの比が、1.4以上である、請求項1から4のいずれか一項に記載の磁性材料用スパッタリングターゲット。
【請求項6】
走査型電子顕微鏡によって、倍率100倍で、前記非スパッタ領域を観察することで取得された前記非スパッタ領域のSEM写真において、最長径が5μm以上の粒状部を有する、請求項1から4のいずれか一項に記載の磁性材料用スパッタリングターゲット。
【請求項7】
前記非スパッタ領域の面粗さSaが2~35μmである、請求項1から4のいずれか一項に記載の磁性材料用スパッタリングターゲット。
【請求項8】
前記非スパッタ領域の最大高さSzが20~300μmである、請求項1から4のいずれか一項に記載の磁性材料用スパッタリングターゲット。
【請求項9】
前記非スパッタ領域の二乗平均平方根高さSqが2~40μmである、請求項1から4のいずれか一項に記載の磁性材料用スパッタリングターゲット。
【請求項10】
前記複数配列され、かつ、隣り合う前記溝部同士の間隔が50~300μmである、請求項1から4のいずれか一項に記載の磁性材料用スパッタリングターゲット。
【請求項11】
前記溝部の幅が10~200μmである、請求項1から4のいずれか一項に記載の磁性材料用スパッタリングターゲット。
【請求項12】
前記被区画部は略多角形である、請求項1から4のいずれか一項に記載の磁性材料用スパッタリングターゲット。
【請求項13】
前記非スパッタ領域における前記被区画部の個数密度が10~200個/mm2である、請求項1から4のいずれか一項に記載の磁性材料用スパッタリングターゲット。
【請求項14】
組成にCo、Pt、Fe、Ru、Cr、Ti、Si、Zr、B、C、N、Al、Oを含む、請求項1から4のいずれか一項に記載の磁性材料用スパッタリングターゲット。
【請求項15】
請求項1から4のいずれか一項に記載の磁性材料用スパッタリングターゲットと、
前記磁性材料用スパッタリングターゲットに接合されたバッキングプレートと、
を備えた、磁性材料用スパッタリングターゲット組立品。
【請求項16】
スパッタ領域と非スパッタ領域とを有する磁性材料用スパッタリングターゲットの製造方法であって、
前記非スパッタ領域に、
複数配列した溝部と、
前記複数の溝部で区画された被区画部と、
前記溝部と、前記被区画部との境界に設けられた盛上り部と、
を形成する工程を含む、磁性材料用スパッタリングターゲットの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は磁性材料用スパッタリングターゲット、磁性材料用スパッタリングターゲット組立品及び磁性材料用スパッタリングターゲットの製造方法に関するものであり、主に、HDDの膜の製造向けのスパッタリングターゲットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
垂直磁気記録方式を採用するハードディスクの層には、例えば、強磁性金属であるCo、Fe、Niをベースとした材料が用いられており、記録層には、CoやFeを主成分とするCo-Cr系、Co-Pt系、Co-Cr-Pt系、Fe-Pt系などの強磁性合金と非磁性の無機材料からなる複合材料が多く用いられている。このようなハードディスクなどの磁気記録媒体の薄膜は、生産性の高さから、上記の材料を成分とするスパッタリングターゲットをスパッタリングして作製されることが多い。
【0003】
スパッタリングは、スパッタリング源となるスパッタリングターゲットの表面を加速されたアルゴンイオンによってスパッタし、スパッタリングターゲットから粒子(スパッタ粒子)を放出させて、あらかじめ対向する位置に配置した基板の表面にスパッタ粒子を堆積させることで、基板の表面に薄膜を形成する手法である。
【0004】
スパッタ粒子の一部はスパッタリングターゲットの所定箇所に再付着して積層体(リデポ膜とも呼ぶ)となることがある。このリデポ膜がスパッタリングターゲットから剥離すると、スパッタ中のアーキング(異常放電)発生の原因となる、スパッタ中のパーティクルが増加し、薄膜中に混入するなどの不都合が生じ、製品率を落とす原因となる。
【0005】
このような問題に対し、特許文献1には、スパッタリングターゲットのリデポ膜が形成される領域に、ガラスビーズを用いたブラスト処理によって表面粗化することが開示されている。また、これにより、粗化された表面からリデポ膜の剥離を抑制することができることが開示されている。特許文献2にも、スパッタリングターゲットに粗化処理を行うことが開示されている。また、特許文献2には、粗化処理を行う領域として、スパッタリングターゲットの外周(0%)から中心方向に2~13%の位置までの範囲内、及び/又は、中心(0%)から外周方向に12~33%の位置までの範囲内であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平4-301074号公報
【特許文献2】特開2018-141202号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1及び2のいずれにおいても、算術平均粗さRaを制御することが述べられているだけであり、リデポ膜剥離抑制の観点からは改善の余地がある。
【0008】
そこで、本発明の実施形態は、リデポ膜剥離を良好に抑制することが可能な磁性材料用スパッタリングターゲット、磁性材料用スパッタリングターゲット組立品及び磁性材料用スパッタリングターゲットの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題は、以下のように特定される本発明によって解決される。
(1)スパッタ領域と非スパッタ領域とを有し、磁性材料用であるスパッタリングターゲットであって、
前記非スパッタ領域は、
複数配列した溝部と、
前記複数の溝部で区画された被区画部と、
前記溝部と、前記被区画部との境界に設けられた盛上り部と、
を有する、磁性材料用スパッタリングターゲット。
(2)前記盛上り部は、前記溝部と前記被区画部との境界に沿って伸びるように設けられ、頂部領域に複数の粒状部を有する、(1)に記載の磁性材料用スパッタリングターゲット。
(3)前記溝部の表面に前記粒状部が設けられている、(2)に記載の磁性材料用スパッタリングターゲット。
(4)前記被区画部の表面に前記粒状部が設けられている、(2)に記載の磁性材料用スパッタリングターゲット。
(5)前記非スパッタ領域中の所定領域の投影面積を分母とし、前記所定領域の表面積を分子としたときの比が、1.4以上である、(1)から(4)のいずれかに記載の磁性材料用スパッタリングターゲット。
(6)走査型電子顕微鏡によって、倍率100倍で、前記非スパッタ領域を観察することで取得された前記非スパッタ領域のSEM写真において、最長径が5μm以上の粒状部を有する、(1)から(5)のいずれかに記載の磁性材料用スパッタリングターゲット。
(7)前記非スパッタ領域の面粗さSaが2~35μmである、(1)から(6)のいずれかに記載の磁性材料用スパッタリングターゲット。
(8)前記非スパッタ領域の最大高さSzが20~300μmである、(1)から(7)のいずれかに記載の磁性材料用スパッタリングターゲット。
(9)前記非スパッタ領域の二乗平均平方根高さSqが2~40μmである、(1)から(8)のいずれかに記載の磁性材料用スパッタリングターゲット。
(10)前記複数配列され、かつ、隣り合う前記溝部同士の間隔が50~300μmである、(1)から(9)のいずれかに記載の磁性材料用スパッタリングターゲット。
(11)前記溝部の幅が10~200μmである、(1)から(10)のいずれかに記載の磁性材料用スパッタリングターゲット。
(12)前記被区画部は略多角形である、(1)から(11)のいずれかに記載の磁性材料用スパッタリングターゲット。
(13)前記非スパッタ領域における前記被区画部の個数密度が10~200個/mm2である、(1)から(12)のいずれかに記載の磁性材料用スパッタリングターゲット。
(14)組成にCo、Pt、Fe、Ru、Cr、Ti、Si、Zr、B、C、N、Al、Oを含む、(1)から(13)のいずれかに記載の磁性材料用スパッタリングターゲット。
(15)(1)から(14)のいずれかに記載の磁性材料用スパッタリングターゲットと、
前記磁性材料用スパッタリングターゲットに接合されたバッキングプレートと、
を備えた、磁性材料用スパッタリングターゲット組立品。
(16)スパッタ領域と非スパッタ領域とを有する磁性材料用スパッタリングターゲットの製造方法であって、
前記非スパッタ領域に、
複数配列した溝部と、
前記複数の溝部で区画された被区画部と、
前記溝部と、前記被区画部との境界に設けられた盛上り部と、
を形成する工程を含む、磁性材料用スパッタリングターゲットの製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明の実施形態によれば、リデポ膜剥離を良好に抑制することが可能な磁性材料用スパッタリングターゲット、磁性材料用スパッタリングターゲット組立品及び磁性材料用スパッタリングターゲットの製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1(A)及び図1(B)は、それぞれ円盤状に形成されたスパッタリングターゲットを模式的に示した平面図である。
図2図1(A)で示したスパッタリングターゲットの表面の周縁部に形成された非スパッタ領域の一部を拡大した平面模式図である。
図3図2における非スパッタ領域のL-L線に対応する断面模式図である。
図4図3とは別形態に係る、図2における非スパッタ領域のL-L線に対応する断面模式図である。
図5図5は、粒状部の最長径の測定の考え方について説明するための図である。
図6図6(A)及び(B)は、それぞれキーエンス製VK-X3000の操作画面である。
図7】実施例1の非スパッタ領域のSEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
次に本発明を実施するための形態を、図面を参照しながら詳細に説明する。本発明は以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、適宜設計の変更、改良等が加えられることが理解されるべきである。
【0013】
<磁性材用スパッタリングターゲット>
本発明の実施形態に係る磁性材用スパッタリングターゲットの形状としては特に限定されないが、平板状(円盤状や矩形板状を含む)、円筒状であってもよく、その他、任意の形状であってもよい。なお、本明細書において、磁性材用スパッタリングターゲットを単にスパッタリングターゲットと称することもある。
【0014】
本実施形態に係るスパッタリングターゲットは、例えば、HDDの磁化記録層と薄膜作成を用途とする。本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲットの材料としては特に限定されないが、組成にCo、Pt、Fe、Ru、Cr、Ti、Si、Zr、B、C、N、Al、Oを含んでもよく、または、Co、Pt、Fe、Ru、Cr、Ti、Si、Zr、B、C、N、Alの少なくとも一種を含有する合金を含んでもよい。また、スパッタリングターゲットの材料は、合金粒子相と、非磁性材料とを含む材料であってもよい。当該非磁性材料は炭素、酸化物、窒化物、及び炭化物から選択される1種又は2種以上が挙げられる。
【0015】
本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲットは、主に、表面、裏面、及び側面を有する。表面は、後述する粗化処理がなされる。よって、表面は、スパッタ領域と非スパッタ領域とを有する。スパッタ領域は、スパッタリングターゲットの表面において、加速されたアルゴンイオンをぶつけてスパッタする領域であり、非スパッタ領域は、スパッタリングターゲットの表面におけるスパッタ領域以外の領域である。この非スパッタ領域は、スパッタ粒子の一部が再付着してリデポ膜を形成する領域であり、当該リデポ膜の剥離を良好に抑制するために本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲットでは非常に特徴的な粗化処理が行われている。
【0016】
本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲットのスパッタ領域と非スパッタ領域の具体例を図1(A)及び図1(B)に示す。図1(A)及び図1(B)は、それぞれ円盤状に形成されたスパッタリングターゲット10a、10bを模式的に示した平面図である。なお、本実施形態では、右手系である直交座標系(X,Y,Z)を使用して説明する。以下の説明で、スパッタリングターゲットの厚さ方向に平行で、かつ、裏面から表面に向かう方向をZ軸正方向、表面から裏面に向かう方向をZ軸負方向と称す。また、Z軸に垂直かつ互いに平行な2つの軸をそれぞれX軸及びY軸と称し、右手系に基づいてX軸正方向、X軸負方向、Y軸正方向、Y軸負方向がそれぞれ設定されている。また、表面状態において説明する際に、「高い位置」、「低い位置」及び「高低差」という用語を用いることがある。高い位置とは、Z軸方向において、相対的に正側に存在する位置のことであり、低い位置とは、Z軸方向において、相対的に負側に存在する位置のことである。「高低差」とは、所定の位置同士のZ軸方向における位置の差のことである。
【0017】
図1(A)のスパッタリングターゲット10aは、リデポ膜が形成される、スパッタリングターゲット10aの表面の周縁部のみが非スパッタ領域12aとなっており、中央部を含むその他の領域がスパッタ領域11aとなっている。周縁部の非スパッタ領域12aはスパッタリングターゲット10aの表面の周方向に沿って所定の大きさの均一な幅で形成されていることが好ましい。周縁部の非スパッタ領域12aの面積率は、少なくともリデポ膜が形成される位置をカバーしていれば特に限定されない。また、スパッタリングターゲット10aは、上述のような表面の周縁部だけでなく、側面の全面または一部が粗化処理された非スパッタ領域を構成していてもよい。その場合にも、側面の全面または一部の非スパッタ領域は、後述する非スパッタ領域と同様の特徴を有する。
【0018】
図1(B)のスパッタリングターゲット10bは、リデポ膜が形成される、スパッタリングターゲット10bの表面の周縁部が非スパッタ領域12bとなっており、また、表面の中央部も非スパッタ領域13bとなっており、これら非スパッタ領域12b、13b以外の領域がスパッタ領域11bとなっている。周縁部の非スパッタ領域12bはスパッタリングターゲット10bの表面の周方向に沿って所定の大きさの均一な幅で形成されていることが好ましい。中央部の非スパッタ領域13b、及び、周縁部の非スパッタ領域12bの面積率は、少なくともリデポ膜が形成される位置をカバーしていれば特に限定されない。また、スパッタリングターゲット10bは、その表面の中央部のみが粗化処理されていてもよい。また、スパッタリングターゲット10bは、上述のような表面の周縁部及び中央部だけでなく、側面の全面または一部が粗化処理された非スパッタ領域を構成していてもよい。その場合にも、側面の全面または一部の非スパッタ領域は、後述する非スパッタ領域と同様の特徴を有する。
【0019】
本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲットの非スパッタ領域は、複数配列した溝部と、複数の溝部で区画された被区画部と、溝部と、被区画部との境界に設けられた盛上り部とを有する。このような構成によれば、ある程度周期的な凹凸を形成することができ、また、盛上り部を有するため表面積を確保することができる。このため、非スパッタ領域に形成されたリデポ膜の密着性が向上し、リデポ膜の剥離を良好に抑制することが可能となる。その結果、スパッタ中のパーティクルの混入が抑制され、製品率を向上させることができる。
【0020】
図2に、図1(A)で示したスパッタリングターゲット10aの表面の周縁部に形成された非スパッタ領域12aの一部を拡大した平面模式図を示す。非スパッタ領域12aは、図2に示すように、溝部30が縦横に複数配列して交差する格子状パターンを形成している。被区画部31は溝部30で矩形状に区画されている。また、盛上り部32が溝部30と被区画部31との境界に設けられている。盛上り部32は溝部30と被区画部31との境界の一部に設けられていればよいが、より非スパッタ領域12aの粗度を高めてリデポ膜の密着性を向上させるために、当該境界の全てに設けられているのがより好ましい。
【0021】
図2では、非スパッタ領域12aに溝部30が縦横に複数配列して交差する格子状パターンを形成しているが、非スパッタ領域12aの構成パターンはこれに限られず、その他の多角形からなるパターンであってもよい。例えば、非スパッタ領域12aにおいて、3本の溝部30により三角形の被区画部31に区画されるパターンが構成されてもよく、非スパッタ領域12aにおいて5本以上の溝部30により五角形以上の多角形の被区画部31が区画されるパターンが構成されてもよい。特に8本の溝部30により八角形の被区画部31が区画されるパターンが構成されてもよい。また、溝部30で区画された複数の被区画部31は、互いに同一の大きさを有していてもよく、互いに異なる大きさを有していてもよい。なお、非スパッタ領域12aの構成パターンは上述のように多角形であってもよいが、この多角形は角部の少なくとも1つがつぶれて丸みを帯びた形状(略多角形とも呼ぶ)を有していてもよい。すなわち、被区画部31は非スパッタ領域12aの法線方向に沿ってみたときに略多角形であってもよい。
【0022】
非スパッタ領域12aは、その一部領域に上述の多角形のパターンを有していてもよいが、より非スパッタ領域12aの粗度を高めてリデポ膜の密着性を向上させるために、非スパッタ領域12aの全領域に上述の多角形のパターンを有しているのが好ましい。
【0023】
図3に、図2における非スパッタ領域12aのL-L線に対応する断面模式図を示す。複数配列する溝部30は、被区画部31よりも低い位置に設けられている。溝部30と被区画部31との境界に設けられている盛上り部32は、溝部30と被区画部31との境界に沿って伸びるように設けられ、頂部領域に複数の粒状部34を有する。すなわち、図3に示す実施形態では、非スパッタ領域12aの盛上り部32は、頂部領域に設けられた複数の粒状部34が溝部30と被区画部31との境界を構成している。この場合、複数の粒状部34が一列に配置されて溝部30と被区画部31との境界を構成してもよく、二列以上に配置されて溝部30と被区画部31との境界を構成してもよく、複数の粒状部34がランダムに配置されて溝部30と被区画部31との境界を構成してもよい。複数の粒状部34は、互いに同程度の大きさを有していてもよく、互いに異なる大きさを有していてもよい。盛上り部32の頂部領域に複数の粒状部34を有することで、より表面積が増加する。さらに、粒状部34と被区画部31との間に隙間ができる。その隙間にリデポ膜が入り込むことで、粒状部34が引っかかり部として機能するため、リデポ膜の剥離をより良好に抑制することが可能となる。
【0024】
盛上り部32は、被区画部31の表面位置を底面位置として頂部領域へ伸びて粒状部34を支持するように構成された土台部33を有している。土台部33の形状は特に限定されず、断面が矩形等の多角形状、円状、楕円状などであってもよい。また、上述の複数の粒状部34と同様に、土台部33も複数が連なって溝部30と被区画部31との境界を構成していてもよい。また、盛上り部32は土台部33が無く粒状部34のみで構成されていてもよい。
【0025】
図4に、図3とは別形態に係る、図2における非スパッタ領域12aのL-L線に対応する断面模式図を示す。図4に示す形態では、溝部30の表面に粒状部35が設けられている。このような構成によれば、より非スパッタ領域12aの粗度が高まり、リデポ膜の密着性を向上させることができる。また、溝部30を深く形成することなく非スパッタ領域12aの表面積を増加させることができるため、溝部30をより深く形成する場合と比べてスパッタリングターゲットの強度を維持しつつ、リデポ膜の密着性を向上させることができる。粒状部35は複数が溝部30の表面に互いに離間して設けられていてもよく、互いに密着して設けられていてもよい。走査型電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製S-3700N)によって、倍率100倍で、非スパッタ領域12aを観察することで取得された非スパッタ領域12aのSEM写真において、最長径が5μm以上である粒状部が存在することが好ましい。最長径は、SEM写真上で、粒状部35に直線を引いた場合に、粒状部35を通る長さが最も長い直線における、粒状部35上の長さと定義できる。このSEM写真は、相対的にZ軸正方向側からスパッタリングターゲットの表面の非スパッタ領域12aを観察することで取得されるものを想定する。もし、スパッタリングターゲットの側面の非スパッタ領域のSEM写真を得る場合、Z軸から離れた位置からZ軸に向かうように側面の非スパッタ領域を観察する。なお、走査型電子顕微鏡で測定する際、像が明瞭に見えるように加速電圧や電流値(照射電流値)、明るさやコントラストを調整することができる。このような構成によれば、粒状部と土台部との接触面積が大きくなるため、粒状部が土台部により強固に接続され、粒状部が土台部から剥がれにくくなると推測される。よって、リデポ膜は、非スパッタ領域に対する接触面積が大きくなる。したがって、リデポ膜と粒状部の密着が確保され、よりリデポ膜をスパッタリングターゲットの表面に保持できるという効果を有する。走査型電子顕微鏡によって、倍率100倍で、非スパッタ領域12aを観察することで取得された非スパッタ領域12aのSEM写真において、最長径が10μm以上である粒状部が存在することがより好ましい。なお、粒状部35が独立しているが重なって二重円に見えるときは、SEM写真において、最も外側の輪郭で最長径を測定し、粒状部35が互いに接触している場合は、その境界で分けてからそれぞれ最長径を測定する。複数の粒状部35は、互いに同程度の大きさを有していてもよく、互いに異なる大きさを有していてもよい。粒状部35は、溝部30と別に形成されていてもよいが、強度や製造効率の観点から溝部30と一体形成されているのがより好ましい。
なお、非スパッタ領域12aのSEM写真を観察したときに、複数個の粒状部34が独立しているが互いに重なる位置にあるため複数の輪郭が見えるときは、これらのうち最も外側の輪郭で最長径を測定する。また、複数個の粒状部35が互いに接触している場合は、その境界で分けてからそれぞれ独立した粒状部と見なして最長径を測定する。
以下、粒状部34の最長径の測定の考え方について図5(A)~(C)を用いて詳しく説明する。図5(A)は、非スパッタ領域12aのSEM写真の一例である。図5(B)は、図5(A)のSEM写真のF1部分の粒状部34の最長径の測定の考え方を説明する模式図である。図5(A)のF1部分には、図5(B)に示されているように、1つの粒状部34に対して外側の輪郭341と内側の輪郭342が存在するように見える。もしくは、複数の粒状部34が重なっているようにも見える。この場合、1つの粒状部34が存在するとみなし、かつ、当該粒状部34の輪郭として、輪郭341を採用し、輪郭341を基準に最長径を測定する。図5(A)のSEM写真のF2部分には、図5(C)に示されているように、互いに接触した2つの粒状部34が存在しているように見える。また、2つの粒状部34の接触部分に境界線が存在するように見える。図5(C)の破線は、粒状部34同士の境界線を示す。この場合、境界線で分けてからそれぞれ独立した2つの粒状部34と見なして、それぞれの粒状部34の最長径を測定する。なお、図示されていないが、互いに接触した3つの粒状部34が存在する場合も同様、各境界線で分けてからそれぞれ独立した3つの粒状部34と見なして、それぞれの粒状部34の最長径を測定する。
【0026】
また、図4に示す形態では、被区画部31の表面に粒状部36が設けられている。このように、被区画部31の表面に粒状部36が設けられてもよい。このような構成によれば、より非スパッタ領域12aの粗度が高まり、また、より非スパッタ領域12aの表面積を増加させることができるため、リデポ膜の密着性をより向上させることができる。粒状部36は複数が被区画部31の表面に互いに離間して設けられていてもよく、互いに密着して設けられていてもよい。複数の粒状部36は、互いに同程度の大きさを有していてもよく、互いに異なる大きさを有していてもよい。粒状部36は、被区画部31と別に形成されていてもよいが、強度や製造効率の観点から被区画部31と一体形成されているのがより好ましい。
【0027】
非スパッタ領域12aにおける被区画部31の個数密度は、10~200個/mm2であるのが好ましい。非スパッタ領域12aにおける被区画部31の個数密度が10個/mm2以上であると、非スパッタ領域12aにおける盛上り部32が占める比率を高めることができるため、リデポ膜に接する非スパッタ領域12aの表面積を大きくすることができ、リデポ膜の密着性を向上させることができる。非スパッタ領域12aにおける被区画部31の個数密度を200個/mm2よりも多くしようとすると、被区画部31が小さくなりすぎ、結果として被区画部31が形成できなくなる。よって、非スパッタ領域12aにおける被区画部31の個数密度を200個/mm2以下にすることで、非スパッタ領域12aに被区画部31を確実に形成できるので、ある程度周期的な凹凸を形成できる。非スパッタ領域12aにおける被区画部31の個数密度は、20~100個/mm2であるのがより好ましい。
【0028】
複数配列した溝部30において、互いに略平行に延在し、かつ、隣り合う溝部30同士の間隔は50~300μmであるのが好ましい。隣り合う溝部30同士の間隔が50μm以上であると、十分な大きさの盛上り部32を形成することができる。隣り合う溝部30同士の間隔が300μmを超えると、非スパッタ領域12aにおける盛上り部32の比率が小さくなりすぎて、非スパッタ領域の表面積が一定以上確保されず、リデポ膜の密着性が低下するおそれがある。複数配列した溝部30において、隣り合う溝部30同士の間隔は100~200μmであるのがより好ましい。
【0029】
溝部30の幅は、10~200μmであるのが好ましい。溝部30の幅が10μm未満であると、リデポ膜が溝部30に入り込み難くなり、リデポ膜が確保され難くなるおそれがある。溝部30の幅が200μmを超えると、非スパッタ領域12aにおける盛上り部32の比率が小さくなりすぎて、リデポ膜の密着性が低下するおそれがある。また、相対的に単位面積当たりの溝部の数、つまり、溝部の密度の減少を招く。溝部は、リデポ膜を保持する役目を持つため、溝部の密度の減少により、リデポ膜の密着性が低下するおそれがある。溝部30の幅は、リデポ膜の確保、及び、リデポ膜との密着性を高めるためには、30~100μmであるのがより好ましい。
【0030】
非スパッタ領域12aにおいて、非スパッタ領域12a中の所定領域の投影面積を分母とし、所定領域の表面積Sを分子としたときの比(以下、「表面積比」と称す。)が、1.4以上であるのが好ましい。ここで、「非スパッタ領域12a中の所定領域の投影面積」は当該所定領域における二次元表面積を示し、「所定領域の表面積S」は三次元表面積を示す。すなわち、表面積比とは、非スパッタ領域12aの所定領域の投影面積(二次元表面積)に対する、表面積S(三次元表面積)の比を示す。非スパッタ領域12aにおいて、表面積比が、1.4以上であると、より非スパッタ領域12aの粗度が高まり、リデポ膜の密着性を向上させることができる。所定領域の投影面積は、レーザー顕微鏡での測定の際に所定の範囲指定操作により決定され、測定データとともに出力される領域面積のことである。非スパッタ領域12aにおいて、表面積比が、1.6以上であるのがより好ましい。非スパッタ領域12aにおいて、表面積比の上限は特に限定されないが、3.0以下であってもよく、2.5以下であってもよい。
【0031】
非スパッタ領域12aの面粗さSaは、2~35μmであるのが好ましい。非スパッタ領域12aの面粗さSaが2μm以上であると、より非スパッタ領域12aの粗度が高まり、リデポ膜の密着性を向上させることができる。非スパッタ領域12aの面粗さSaが35μmを超えると、スパッタリングターゲットの表面から離れる方向に出っ張る部位である出っ張り部が多くなりすぎることを意味する。出っ張り部が増えることにより、アーキングを誘発するおそれがある。非スパッタ領域12aの面粗さSaは、4~30μmであるのがより好ましい。非スパッタ領域12aの面粗さSaは、ISO-25178に準拠して、レーザー顕微鏡を用いて測定することができる。また、「線」で表面の平均粗さRaを評価するのに対し、面粗さSaは「面」で評価する。平均粗さRaではどの部分を測定対象として設定するかによって測定結果が変わってしまう。例えば、溝部30に沿うように測定対象を設定してRaを測定すると、被区画部を横切るように測定対象を設定してRaを測定する場合と比べて、Raが小さくなる。そこで、面粗さSaを用いることで、測定対象の設定位置によるSaのばらつきが小さくなるため、スパッタリングターゲットの表面形状の制御の精度が向上する。この結果、スパッタリングターゲットの品質安定性を向上させることができる。
【0032】
非スパッタ領域12aの最大高さSzは、20~300μmであるのが好ましい。非スパッタ領域12aの最大高さSzが20μm以上であると、非スパッタ領域12aの高低差が大きくなり、リデポ膜が非スパッタ領域12aに形成されたときに、非スパッタ領域12aが高い位置と低い位置とでリデポ膜を確保しやすくなる。よって、リデポ膜が非スパッタ領域からはがれにくくなる。非スパッタ領域12aの最大高さSzが300μmを超えると、出っ張り部が多くなりすぎることを意味する。よって、出っ張り部の頂部がはがれ、結果として、最大高さSzが小さくなってしまうおそれがある。非スパッタ領域12aの最大高さSzは、25~250μmであるのがより好ましい。非スパッタ領域12aの最大高さSzは、ISO-25178に準拠して、レーザー顕微鏡を用いて測定することができる。
【0033】
非スパッタ領域12aの二乗平均平方根高さSqは、2~40μmであるのが好ましい。非スパッタ領域12aの二乗平均平方根高さSqが2μm以上であると、平均面から高い部位と低い部位がばらけていることとなり、非スパッタ領域12aの高低差が大きくなり、リデポ膜が非スパッタ領域12aに形成されたときに、非スパッタ領域12aが高い位置と低い位置とでリデポ膜を確保しやすくなる。よって、リデポ膜が非スパッタ領域からはがれにくくなる。非スパッタ領域12aの二乗平均平方根高さSqが40μmを超えると、表面の高さばらつきが大きいことを示すため、特異的に高い位置が存在しやすくなる。このため、アーキングが発生する可能性が高まる。非スパッタ領域12aの二乗平均平方根高さSqは、5~36μmであるのがより好ましい。非スパッタ領域の12a二乗平均平方根高さSqは、ISO-25178に準拠して、レーザー顕微鏡を用いて測定することができる。
【0034】
なお、上述の表面積S、Sa、Sz、Sqはレーザー顕微鏡(キーエンス製VK-X3000)によって測定することができる。以下に手順を示す。
VK-X3000の場合では、対物レンズを10倍のものとし、デジタルズーム1.5倍、画面倍率24倍で測定することで、360倍(10倍×1.5倍×24倍)の画像を取得することができる。解析ソフトとしてVK-X3000付属のマルチファイル解析アプリケーションver.3.3.1.85を用いる。
まず、測定モードとして、面粗さ計測を選択し、所望の粗さパラメータおよび領域面積を選択する。領域面積の選択のとき、取得した画像(360倍の画像)から(896μm×672μm)を範囲指定する。なお、レーザー顕微鏡でこの範囲指定操作を行うことにより、上述の領域面積が決定される。次いで、フィルター設定を以下の条件とし、解析を実施する。面形状補正の設定の際は、「平面傾き補正」を使用する。なお、スパッタリングターゲットの表面及び側面のうちのいずれの非スパッタ領域を測定対象とする場合も、「平面傾き補正」を使用する。
<フィルター設定>
フィルター種別:ガウシアン
S-フィルター:なし
F-オペレーション:有効
L-フィルター:なし
終端効果の補正:チェック
なお、表面積は、体積面積計測という機能を用いて、以下の条件で測定する。
<表面積測定条件>
計測モード:凸部
高さ閾値の設定:測定視野のすべての凹凸が計測に含まれるように設定する。キーエンス製VK-X3000の操作画面の1つである図6(A)の高さしきい値の設定ボタンを選択することで、図6(B)の画面が表示される。その画面上のバーを上方にドラッグし、黒色で示されているスペクトルをすべて覆うようにすることで、測定視野のすべての凹凸が計測に含まれるように設定することができる。
微小な凹凸を無視:なし(図6(A)の「微小な凹凸を無視」のチェックボックスにチェックを入れない)
微小領域を無視:有効(図6(A)の「微小領域を無視」のチェックボックスにチェックを入れる)
表面積の計算に上下面を含む:なし(図6(A)の「表面積の計算に上下面を含む」のチェックボックスにチェックを入れない)
なお、上述の画像取得の後の範囲指定操作により決定され、測定データとともに出力される領域面積A(「所定領域の投影面積」に対応)で、測定された表面積Sを除算することで、表面積比(S/A)を求めることができる。
【0035】
上述の非スパッタ領域の構成は、図1(A)で示したスパッタリングターゲット10aの非スパッタ領域12aについて説明したが、これに限定されず、図1(B)で示したスパッタリングターゲット10bの非スパッタ領域12b、13bが有していてもよく、その他の本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲットの非スパッタ領域が有していてもよい。
【0036】
<スパッタリングターゲット組立品>
本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲットは、必要に応じて、バッキングプレートと接合させて、スパッタリングターゲット組立品としてもよい。当該スパッタリングターゲット組立品はスパッタリング装置に装着して使用することができる。ロウ材としては、インジウムやインジウムスズを用いることができる。なお、バッキングプレートを使用せず、本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲットをそのままスパッタリング装置に装着して使用してもよい。バッキングプレートの材料は特に限定されず、Cu、Ti、Mo、及びこれらの少なくとも一種を含有する合金(例えば、Cu-Ni-Si合金(例えば、C18000など)、CuZn合金、CuCr合金)等が挙げられる。バッキングプレートの材料は、熱伝導率が高いことが好ましく、この観点から、Cuが好適である。
【0037】
<スパッタリングターゲットの製造方法>
以下、本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲットの製造方法について詳述する。本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲットの製造方法としては、まず、焼結体を構成する原材料を準備する。焼結体の原材料としては、Co、Pt、Fe、Ru、Cr、Ti、Si、Zr、B、C、N、Al、Oを含む粉末であってもよく、または、Co、Pt、Fe、Ru、Cr、Ti、Si、Zr、B、C、N、Al、Oの少なくとも一種を含有する合金あるいはセラミックスを含む粉末であってもよい。また、焼結体の原材料は、合金粒子相と、非磁性材料とを含む粉末であってもよい。これらの原材料の純度は、通常2N(99質量%)以上、好ましくは3N(99.9質量%)以上、さらに好ましくは4N(99.99質量%)以上であるとよい。純度が2Nより低いと焼結体に不純物が多く含まれてしまうため、所望の物性を得られなくなる(例えば、形成した薄膜の透過率の減少、抵抗値の増加、アーキングに伴うパーティクルの発生)という問題が生じ得る。これらの原材料は、所望の焼結体の組成及び純度から適宜調製することができる。
【0038】
次に、これら原材料の粉末を粉砕し混合する。原材料の粉末の粉砕混合処理は、セラミックス製のボールを用いたボールミルを使用したりすることができる。
【0039】
次に、上述のようにして混合、粉砕されて得られた混合物をホットプレスすることにより焼結体を得る。焼結条件は焼結体の組成によって適宜選択することができる。
【0040】
次に、焼結体を旋盤により加工し、所定の形状のターゲットを得る。なお、旋盤加工後の表面粗さは、レーザー加工に影響を与えないよう、表面粗さRaを1μm以下にするのが好ましい。
【0041】
次に、大気圧下で、焼結体の非スパッタ領域に、レーザー加工によって、複数配列した溝部、複数の溝部で区画された被区画部、及び、溝部と被区画部との境界に盛上り部を形成する。非スパッタ領域の所望の構成パターンに基づき、レーザー光を走査させて照射することによって非スパッタ領域に複数の溝部を形成して配列させる。このとき、溝部を縦横に交差して形成することで、矩形状の被区画部が溝部で区画されて生じる。また、3本の溝部を交差させて被区画部を区画することで、三角形の被区画部が生じる。このようにして、レーザー光を走査させて照射することによって適宜溝部をパターン形成することで、非スパッタ領域に所望の構成パターンを形成することができる。また、レーザー照射の出力によって、溝部と被区画部との境界に盛上り部を形成することができる。
【0042】
また、上述の盛上り部の形状や大きさ、溝部の幅、溝部の粒状部の形状や大きさ、被区画部の形状や大きさは、レーザー照射の出力、レーザー光の走査速度、及び、同一箇所の複数回走査等によって適宜調整することができる。より具体的には、以下のレーザー加工条件において各条件を適宜調整することで、本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲットの非スパッタ領域の複数配列した溝部、複数の溝部で区画された被区画部、及び、溝部と被区画部との境界に盛上り部を所望する構成に制御することができる。
【0043】
なお、本実施形態では、粗化処理中(レーザー照射中)、別の加熱装置を用いて焼結体を加熱することはしない。大気圧下で粗化処理を行うため、加熱すると、スパッタリングターゲットの酸化が進みやすくなるからである。また、特段、粗化処理の前後、または、粗化処理中に、スパッタリングターゲットの残留応力を除去するための処理をすることは想定しない。また、スパッタリングターゲットの裏面には粗化処理をしない。裏面にまで粗化処理を行うと、スパッタリングターゲットの強度が低下するおそれがあるからである。
【0044】
(レーザー加工条件)
・レーザー加工の出力:3~25W
・走査速度:100~2000mm/s
・同一箇所の走査回:1~10回走査
・周波数:40~200kHz
・走査ピッチ:100~400μm
以上のようにして、本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲットを製造することができるが、基本的に上記条件はターゲット組成によるため(熱伝導や融点が異なるため)、当該組成において試行錯誤して条件を見出す必要がある。
【0045】
なお、本実施形態では、非スパッタ領域を粗化処理した後、その非スパッタ領域をさらに別の方法で粗すことは想定しない。例えば、ビーズブラストなどの物理的に粗す手段や、化学的エッチングなどの化学的に粗す手段は想定しない。例えば、非スパッタ領域を粗化処理した後に、当該非スパッタ領域をさらに、ビーズブラストをすると、ブラストメディアが残ってしまうからである。なお、目的の表面状態が実現できれば、レーザー照射に限らず、他の手段で、非スパッタ領域に粗化処理を行ってもよい。ただし、レーザー照射により非スパッタ領域を粗化処理することで、ZrO2及びSiCが存在しない非スパッタ領域12aの表面を実現できる。非スパッタ領域12aの表面に、ZrO2及びSiCが存在することは、例えば、ブラストメディアの元素が非スパッタ領域12aの表面に存在することを意味する。非スパッタ領域12aの表面に、ZrO2及びSiCが存在しないことで、ブラストメディアの元素の薄膜への混入を防止できるとともに、スパッタ中のアーキングを抑制することができる。また、スパッタリングターゲットの組成にAl23が含まれない場合、Al23が存在しない。スパッタリングターゲットの組成にAl23が含まれないにもかかわらず、非スパッタ領域12aの表面に、Al23が存在することは、例えば、ブラストメディアの元素が非スパッタ領域12aの表面に存在することを意味する。非スパッタ領域12aの表面に、Al23が存在しないことで、ブラストメディアの元素の薄膜への混入を防止できるとともに、スパッタ中のアーキングを抑制することができる。
【0046】
<スパッタリングターゲットを用いた成膜方法>
本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲットを用いて、主に、磁気記録媒体を構成する薄膜を形成することができる。具体的には、スパッタ装置を用いてスパッタリングターゲットの表面を加速されたアルゴンイオンによってスパッタし、スパッタリングターゲットから粒子(スパッタ粒子)を放出させて、あらかじめ対向する位置に配置した基板の表面にスパッタ粒子を堆積させることで、基板の表面に薄膜を形成することができる。スパッタリング条件は、所望する膜厚や組成などによって、適宜設定することができる。
【0047】
スパッタ粒子の一部はスパッタリングターゲットの非スパッタ領域に再付着してリデポ膜となる。本発明の実施形態に係るスパッタリングターゲットは、非スパッタ領域が上述のように複数配列した溝部、複数の溝部で区画された被区画部、及び、溝部と被区画部との境界に盛上り部を有しているため、非スパッタ領域に形成されたリデポ膜の密着性が向上しており、リデポ膜の剥離が良好に抑制される。
【実施例0048】
以下に本発明の実施例を示すが、これらの実施例は本発明及びその利点をよりよく理解するために提供するものであり、発明が限定されることを意図するものではない。
【0049】
<実施例1~6>
・スパッタリングターゲットの製造
以下の製造方法によって、実施例1~6に係るスパッタリングターゲットをそれぞれ製造した。
まず、焼結体を構成する原材料を準備した。焼結体の原材料としては、Co、Cr、Siを含む粉末(実施例1~4)、Co、Fe、B、Nを含む粉末(実施例5)、Co、Pt、B、Ti、Siを含む粉末(実施例6)とした。これらの原材料の純度は、それぞれ3N(99.9質量%)であった。
次に、これら原材料の粉末を、ビーズを用いたメディア撹拌式ミルによって粉砕し、混合して得られた混合物をホットプレスすることにより焼結体を得た。
次に、焼結体を旋盤により加工し、円盤状のターゲットを得た。
次に、大気圧下で、焼結体の非スパッタ領域に、レーザー加工によって、複数配列した溝部、複数の溝部で区画された被区画部、及び、溝部と被区画部との境界に盛上り部を形成した。非スパッタ領域の所望の構成パターンに基づき、レーザー光を走査させて照射することによって非スパッタ領域に複数の溝部を形成して配列させた。
レーザー加工により、実施例1~2は非スパッタ領域に複数の溝部が互いに90°に交差して格子を形成するパターン(90°格子パターン)を形成した。例えば、X軸に沿って複数の溝部を形成した後、Y軸に沿って複数の溝部を形成することで、90°格子パターンが形成できる。また、実施例3は非スパッタ領域に複数の溝部が互いに60°に交差して格子を形成するパターン(60°格子パターン)を形成した。例えば、X軸に沿って複数の溝部を形成した後、X軸から60°傾く方向に沿って複数の溝部を形成し、次いで、さらに60°(X軸から120°)傾く方向に沿って複数の溝部を形成することで、60°格子パターンが形成される。また、実施例4~6は、非スパッタ領域に複数の溝部が45°に交差して格子を形成するパターン(45°格子パターン)を形成した。例えば、X軸に沿って複数の溝部を形成し、Y軸に沿って複数の溝部を形成し、X軸から45°傾く方向に沿って複数の溝部を形成し、次いで、Y軸から45°傾く方向に沿って複数の溝部を形成することで、45°格子パターンが形成される。
このときのレーザー加工条件を以下に示す。また、表1に各実施例におけるレーザー加工条件を示す。
(レーザー加工条件)
・レーザー加工の出力:4.8~20W
・走査速度:100~1000mm/s
・同一箇所の走査回数:1~6回
・周波数:50~140kHz
・走査ピッチ:200μm
【0050】
・SEM写真
実施例1~6の非スパッタ領域についてSEM写真を取得した。図7に実施例1に係るSEM写真(倍率:100倍)を示す。図7のSEM写真の取得の際、加速電圧は、15kV、電流値(照射電流値)は、84000nAにそれぞれ設定していた。なお、図7によれば、実施例1では、個数密度が25個/mm2であることが概算値として推測できる。
・溝部、盛上り部、被区画部、粒状部
得られたSEM写真により、実施例1~6の非スパッタ領域にそれぞれ溝部、盛上り部、被区画部が生じていることを確認した。盛上り部の頂部には、粒状部が生じていることを確認した。さらに、一部の被区画部、及び、一部の溝部にも粒状部が生じていることを確認した。また、図7の矢印で示されている粒状部の最長径は5μm以上であることがわかる。
【0051】
・表面積S、Sa、Sz、Sq
非スパッタ領域の表面積S、面粗さSa、最大高さSz、二乗平均平方根高さSqはレーザー顕微鏡(キーエンス製VK-X3000)によって測定した。測定手順は上述した通りである。
【0052】
・非スパッタ領域中の所定領域の投影面積、表面積S
非スパッタ領域において、スパッタリングターゲットの厚さ方向に垂直な面に対する非スパッタ領域中の所定領域の投影面積(レーザー顕微鏡測定の際に所定の範囲指定操作により決定され、測定データとともに出力される領域面積A)を分母とし、所定領域の表面積(その指定された領域の表面積S)を分子としたときの比(S/A)を算出した。
【0053】
・溝部の幅
レーザー顕微鏡の3D像から計測した。なお、レーザー顕微鏡(VK-X3000)を用いて、対物レンズを10倍のものとし、デジタルズーム1.5倍、画面倍率24倍で測定することで、360倍(10倍×1.5倍×24倍)の画像を取得するとき、3D像も取得できる。
なお、3D像に基づくと、実施例1~6の個数密度の概算値として、それぞれ25個/mm2、25個/mm2、50個/mm2、60個/mm2、80個/mm2、80個/mm2が求められた。
【0054】
【表1】
【0055】
<考察>
実施例1~6のスパッタリングターゲットは、いずれも、非スパッタ領域が複数配列した溝部と、複数の溝部で区画された被区画部と、溝部と、被区画部との境界に設けられた盛上り部とを有していた。このため、ある程度周期的な凹凸を形成することができ、また、盛上り部を有するため表面積を確保することができるため、非スパッタ領域に形成されたリデポ膜の密着性が向上し、リデポ膜の剥離を良好に抑制することができると考えられる。
【符号の説明】
【0056】
10a、10b スパッタリングターゲット
11a、11b スパッタ領域
12a、12b、13b 非スパッタ領域
30 溝部
31 被区画部
32 盛上り部
33 土台部
34、35、36 粒状部
341、342 輪郭
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7