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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173135
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】分光測定装置およびその調整方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/47 20060101AFI20241205BHJP
   G01N 21/3577 20140101ALI20241205BHJP
【FI】
G01N21/47 Z
G01N21/3577
【審査請求】未請求
【請求項の数】8
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091350
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】山川 市朗
(72)【発明者】
【氏名】加賀 祐介
(72)【発明者】
【氏名】野島 彰紘
(72)【発明者】
【氏名】堀込 純
(72)【発明者】
【氏名】丸山 魁
【テーマコード(参考)】
2G059
【Fターム(参考)】
2G059AA05
2G059BB06
2G059EE01
2G059EE02
2G059EE11
2G059GG01
2G059GG02
2G059GG09
2G059JJ01
2G059JJ17
2G059LL01
(57)【要約】
【課題】
医薬品、食品、化学分野などで扱われる懸濁液体について、配管内から取り出すことなく分光測定する装置において、様々な形状、材質の配管に取り付けた場合でも精度良く測定可能な装置および測定条件調整方法を提供する。
【解決手段】
窓材が設けられた配管内を流れる液体の光学スペクトルを測定する測定装置であって、光照射部と受光部とを有する測定プローブと,測定プローブを移動させる移動機構を有し、測定プローブの移動方向は、プローブの向きを変える回転角および、配管の軸方向とは異なる方向を含む。注目波長での測定値のS/N比および強度の両方もしくはいずれかを用いて測定プローブの位置を調整する。
【選択図】図1A
【特許請求の範囲】
【請求項1】
懸濁液体を光学的に確認できる窓部を有する配管に取り付けて用いる分光測定装置であって、
前記窓部を介して前記配管中の懸濁液体に光を照射する光照射部と、
前記光照射部からの光が前記懸濁液体に照射されることにより該懸濁液体から放射された光を受光するための光受光部と、
を備えた分光装置であって、
前記光照射部から前記窓部に照射する光の角度、照射位置の少なくともいずれかを変えることのできる可変機構を備えたことを特徴とする分光測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の分光測定装置において、
前記光照射部と前記光受光部の配置は固定であり、前記可変機構は該光照射部と該光受光部の両方をその位置関係を保ったまま、変える機構であることを特徴とする分光測定装置。
【請求項3】
請求項1記載の分光測定装置において、
前記光照射部と前記光受光部はそれぞれその一部を光ファイバにより構成し、該光ファイバを束ねたプローブを構成していることを特徴とする分光測定装置。
【請求項4】
請求項1記載の分光測定装置において、
前記可変機構は、前記光照射部から前記窓部に照射する光の照射位置を前記配管の軸方向とは異なる方向に可変する機構であることを特徴とする分光測定装置。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の分光測定装置の調整方法であって、
前記可変機構により前記光照射部から前記窓部に照射する光の角度、照射位置の少なくともいずれかを変えて測定値を取得し、
前記測定値に基づき最も好適な光の角度、照射位置を求めることを特徴とする分光測定装置の調整方法。
【請求項6】
請求項5記載の分光測定装置の調整方法において、
更に、前記光照射部から照射する光の波長を変えて最適な測定条件を求めることを特徴とする分光測定装置の調整方法。
【請求項7】
請求項5記載の分光測定装置の調整方法において、
前記測定値は、
前記光受光部で測定する光エネルギ、光子数、出力値、反射率、吸光度、の少なくともいずれか、
であることを特徴とする分光測定装置の調整方法。
【請求項8】
請求項7に記載の分光測定装置の調整方法において、
前記光エネルギ、光子数、出力値、反射率、吸光度、の少なくともいずれかに基づいて最適な測定条件を求めることを特徴とする分光測定装置の調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、懸濁液体および乳濁液体中の成分を分光学的に測定するための分光測定装置およびその調整方法に係り、特に高精度な分光測定を行うのに好適な分光測定装置およびその光学系調整方法に関する。
【0002】
なお、懸濁液体は、一般的に固体粒子が液体中に分散した液体を指す。一方で乳濁液体は、一般的には乳化作用などにより生じた液体粒子が液体中に分散した液体を指す。本明細書では、用語として、特に懸濁液体と乳濁液体を区別せずに懸濁液体と呼ぶこととする。
【背景技術】
【0003】
分光的に液体中の成分を測定する手法は、測定対象に対して、非侵襲、サンプリングレスで測定可能なことから、測定対象を変質させることなく、また、連続的な測定が可能になるため、医薬品、食品、化学分野での適用ニーズがある。
【0004】
さらに、これらの分野において、例えば医薬品では、細胞培養により得られる懸濁液体を測定するニーズや、食品分野における醸造製品、乳製品など懸濁液体を測定するニーズなどが高まっている。
【0005】
液体中の成分を分光学的に測定するための方法として、例えば、特許文献1に記載されているように、光を液体中に導入し、その透過光を分光測定する方法が知られている。この方法では、特定の波長の光の吸収量に基づき液体中の成分濃度を算出する。
【0006】
液体が透明な場合は、上記方法で透過光の分光測定を用いることができる。一方で、液体中に成分が懸濁している場合、懸濁成分で光が散乱されるため、透過光強度が弱くなり、透過光の測定が困難になったり、液体中の成分濃度の算出が困難な場合がある。
【0007】
特許文献1では、懸濁液体で散乱した光を、入射光と同じ側の向きで測定する、拡散反射光測定により、上記問題を解決している。
【0008】
また、測定部分(測定プローブ)を液体に浸漬しないで測定する方法が特許文献2に開示されている。この方法では、プローブを測定対象の液体が入った容器の透明窓材部分に取り付けることにより、容器内の液体の拡散反射光を測定することが可能である。この方法では、液体中にプローブを浸漬しないため、プローブへの懸濁液体の付着による測定への影響がない。
【0009】
さらに、特許文献2では、プローブの窓材と光ファイバの軸に角度をつけることにより、窓材で反射した照射光が再びプローブで測定されることを防止している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2000-9638号公報
【特許文献2】特開平9-89657号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
特許文献1記載の方法では、懸濁液体に対して、拡散反射光を測定することが可能である一方で、測定対象の液体中に測定部分を浸漬しており、測定部分が入り組んだ構造をしているため、測定部分に懸濁液体が付着し、汚染することにより、測定が困難になる懸念があった。
【0012】
また、特許文献2記載の方法について発明者らが、詳細に検討したところ、高精度な分光測定を行うためには、窓材表面で反射した照射光の影響以外にも、窓材と液体が接触する側の表面での反射光や、窓材中を透過する際の距離に応じて生じる窓材による光吸収も考慮する必要があることが判明した。
【0013】
窓材と液体が接触する側の表面の反射率は、窓材の材料と液体の屈折率の差に起因する。また、光が窓材中を通過する際の光吸収は窓材の厚さや曲率などの構造や、光を入射、受光する角度により変化する。
【0014】
一方で、様々な分野での製造ラインには、様々な形状、材質の配管が使われている。これらの様々な形状、材質の配管に対して、事前にプローブ構造を設計し、製造すると、期間、コストがかかってしまう懸念があった。
【0015】
さらに、懸濁液体は、液体中の粒子のサイズにより、光散乱の方向分布が異なり、同一形状、同一材質の配管を用いた場合でも、懸濁液体の種類が変化した場合には、好適な光学系条件が変わってしまい、プローブ構造の変更が必要となってしまう。
【0016】
本発明の目的は、様々な形状、材質の配管が使われている様々な分野での製造ラインに対しても適用可能な分光測定装置、および光学系調整方法を提供することにある。
また、懸濁液体中の懸濁物の粒子のサイズ、懸濁液体の種類が変化した場合であっても適用可能な分光測定装置、および光学調整方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記課題を解決するための本発明の構成は以下の通りである。
【0018】
懸濁液体を光学的に確認できる窓部を有する配管に取り付けて用いる分光測定装置であって、前記窓部を介して前記配管中の懸濁液体に光を照射する光照射部と、光照射部から光が前記懸濁液体に照射されることにより該懸濁液体から放射された光を受光するための光受光部と、を備えた分光測定装置であって、前記光照射部から前記窓部に照射する光の角度、照射位置の少なくともいずれかを変えることのできる可変機構を備えた分光測定装置。また、当該分光測定装置の調整方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、様々な形状、材質の配管が使われている様々な分野での製造ラインに対しても適用可能な分光測定装置、および光学系調整方法を提供することができる。
【0020】
また、懸濁液体中の懸濁物の粒子のサイズ、懸濁液体の種類が変化した場合であっても適用可能な分光測定装置、および光学調整方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1A】本発明の実施例に係る分光測定装置の配管の長手方向に垂直に切った断面図
図1B】本発明の実施例に係る分光測定装置の配管の長手方向に沿った方向で見た図
図2】分光測定装置を用いて光学系調整を行った際に測定された一結果を示す図
図3】分光測定装置を用いて光学系調整を行った際に測定された一結果を示す図
図4】分光測定装置を用いて光学系調整を行った際に測定された一結果を示す図
図5】分光測定装置を用いて光学系調整を行った際に測定された一結果を示す図
図6】光学系調整の一例を示すフローチャート
図7】光学系調整の一例を示すフローチャート
図8A】検量線による定量方法を示す概念図(従来技術での測定結果)
図8B】検量線による定量方法を示す概念図(本発明技術での測定結果)
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面等を用いて、本発明の実施形態について説明する。以下の説明は本発明の内容の具体例を示すものであり、本発明がこれらの説明に限定されるものではなく、本明細書に開示される技術的思想の範囲内において当業者による様々な変更および修正が可能である。また、本発明を説明するための全図において、同一の機能を有するものは、同一の符号を付け、その繰り返しの説明は省略する場合がある。
【実施例0023】
図1A図1Bは、分光測定装置の一例について、窓材を有する配管に取り付けた状態を示す概念図である。図1Aは配管の長手方向に垂直な方向に切った断面図、図1Bは長手方向に沿って見た図面である。以下、図1A図1Bを纏めて図1と表現する。
【0024】
図1において、分光測定装置は、分光装置100と、プローブ治具120と、測定プローブ141と、照射用光ファイバ142と、受光用光ファイバ143と、を含み、配管160に取り付けられている。
【0025】
分光装置100は、ダブルビーム型分光光度計であり、光源102、分光器103、検出器104を含み、照射用光ファイバ142と、受光用光ファイバ143が接続されている。
【0026】
光源102から放出された光は、分光器103により単色化され、照射用光ファイバ142に導入される。照射用光ファイバ142からの光は、窓材161を介して配管内の懸濁液体162に照射され、懸濁液体162からの拡散反射光の一部が再び窓材161を介して受光用ファイバ143に入射する。受光用ファイバ143に入射する光は、懸濁液体162からの拡散反射光の他に、照射用光ファイバ142からの光が窓材の表面で反射もしくは散乱した光も含まれる。ここでの窓材の表面での反射、散乱は、外側表側(測定プローブが接近する側)および内側表面(懸濁液体が接する側)の両方で生じる。
【0027】
また、照射用光ファイバ142からの光および受光用ファイバ143に入射する光が窓材161内を通過する際に、窓材材料による光吸収により減弱する。
【0028】
受光用光ファイバ143に入射した光は、測定光として検出器104で検出される。
また、図示されていないが、分光器103から出力される光について、照射用光ファイバ142および受光用光ファイバ143を介さずに検出器104に入射する、いわゆる参照光を検出するための光路を有する。
【0029】
光源102は、連続スペクトルを有する白色光源であることが好ましい。白熱電球、ハロゲンランプ、キセノンランプ、白色発光ダイオード、波長可変レーザー等を用いることができるが、これ以外でも複数波長の光を発光できる光源であればどのようなものでも良い。
【0030】
分光器103は、回折格子を用いた分光器であることが好ましいが、プリズムを用いた分光器、光学フィルターを用いた分光器でも良い。
【0031】
検出器104は光電子増倍管もしくはPbSやCdSなどの光導電素子であることが好ましいが、フォトダイオード、PINダイオード、パイロメータなどの光検出器でも良い。
【0032】
分光装置100は、測定値として、検出器104で測定された光エネルギや、前述の測定光と参照光について測定された光エネルギの比率である反射率、反射率の逆数の常用対数値である吸光度を出力することができる。
【0033】
照射用光ファイバ142と受光用光ファイバ143は、分光装置100の他端側に付けられた測定プローブ141で束ねられている。
【0034】
プローブ治具120は、直線移動機構121と、回転移動機構122と、固定部123を含み、回転移動機構122に測定プローブ141が固定され、固定部123により配管160に固定されている。
【0035】
直線移動機構121は、直動ステージを用いることができる。
【0036】
直線移動機構121は、移動方向が、配管160の軸方向163に概ね直交する向きとなるように設置されるのが好ましい。
【0037】
回転移動機構122は、回転ステージを用いることができる。
【0038】
回転移動機構122の回転軸の方向は、直動ステージの移動方向に概ね一致するのが好ましい。
【0039】
直線移動機構121および、回転移動機構122のガイド構造として、例えば、アリ溝方式、ボールガイド方式、クロスローラガイド方式を適宜用いることができる。
【0040】
また、直線移動機構121および、回転移動機構122の移動方式として、手動方式、回転モータやリニアモータを用いた電動方式を適宜用いることができる。
【0041】
プローブ治具120および、固定部123の材料は、例えば、金属、樹脂材料を適宜用いることができる。
【0042】
ただし、懸濁液体162が高温である場合は、配管160を通して熱が伝わり、樹脂材料が変形することがあるので、金属が好ましく、ステンレスもしくは鉄もしくはアルミが最も好ましい。
【0043】
配管160は、円筒形の窓材161と、フランジ164と固定ロッド165とを含み、内部に懸濁液体162が流れている。
【0044】
窓材161は両側のフランジ164に挟まれている。両側のフランジ164が4本の固定用ロッド165で固定されることにより、窓材161は配管160に固定されている。
【0045】
窓材161の材質は、光透過性を有する材料であれば、例えば、ガラス、石英、サファイアなどの他、透明な樹脂材料を適宜用いることができる。
【0046】
窓材161以外の配管160の材料(フランジ164,固定ロッド165を含む)は、例えば、金属、樹脂材料を適宜用いることができる。
【0047】
ただし、懸濁液体162が高温であったり、高圧状態で流れる場合は、高温により樹脂材料が変形することがあるので、窓材161の材料としては、ガラスや強化ガラスが好ましい。また、同様の理由で、窓材161以外の配管160の材料(フランジ164,固定ロッド165を含む)は、ステンレスもしくは鉄などの金属が好ましい。
【0048】
分光装置100から照射用光ファイバ142に導入された単色化光は、測定プローブ141を通して窓材161に照射される。その光の一部は、窓材161の外側表面から屈折光して進入し、さらにその一部が窓材161の内側表面より懸濁液体162の内部に屈折光して進入する。
【0049】
懸濁液体162内部に侵入した光の一部は、懸濁液体162内部の粒子、分子などで散乱することにより進行方向が変わり、一部は窓材161の内側表面より再び窓材161に屈折光として侵入し、さらに窓材161の外側表面から大気に屈折光として侵入し、その一部が測定プローブ141で束ねられている受光用光ファイバ143に入射する。受光用光ファイバ143に入射した光は、分光装置100の光検出器でその強度が検出される。
【0050】
受光用光ファイバ143に入射する光は、懸濁液体162の内部を進行する際に内部の分子や粒子による光吸収を受ける。そのため、受光用光ファイバ143に入射した光を分光装置100で測定することにより懸濁液体162の成分による光吸収の影響を調べることができる。
【0051】
上記構成によると、測定プローブ141は、回転移動機構122を介して、直線移動機構121ともつながっており、さらに、直線移動機構121は、プローブ治具120本体および固定部123を介して配管160につながっている。そのため、直線移動機構121を用いて、窓材161に対する測定プローブ141の位置を変えることができる。また、回転移動機構122を用いて、窓材161に対する測定プローブ141の角度を変えることができる。
【0052】
窓材161に対する測定プローブ141の位置を調整することが可能なため、照射光が窓材161の外側表面および内側表面で反射、散乱した光の検出を抑制しつつ、窓材材料の光吸収による光の減弱も抑制する測定条件に調整することにより、高精度に分光測定することが可能になる。
【0053】
上記実施例1では、分光装置100としてダブルビーム型の波長分散型分光光度計を用いた場合について説明しているが、その方式は上記に限定されるものでなく、例えば、シングルビーム型の波長分散型分光光度計でも良いし、フーリエ変換型分光光度計でも良い。
【0054】
これらの分光光度計により得られる測定値は、上記の光エネルギ、反射率、吸光度の他に、光エネルギ、光子数、検出器の出力電圧や出力電流でも良い。
【0055】
また、分光装置100は、分光光度計に限定されるものではなく、例えば、蛍光分光光度計を用いても良い。この場合は、測定値として例えば、蛍光強度を用いることができる。
【0056】
また、ラマン分光装置を用いても良く、その場合は、ラマン散乱強度を測定値として用いることができる。
【0057】
また、上記実施例では、プローブ治具120に含まれる移動機構として、直線移動機構121と、回転移動機構122とを説明したが、この2つ以外の移動機構を有していても良い。
【実施例0058】
以下、本発明の光学系調整方法の一例について説明する。
本実施例で用いる分光測定装置は、前述の実施例1における分光測定装置であり、配管160内を流れる懸濁液体162の吸光度を測定する。
【0059】
懸濁液体162には、乳化剤を用いて水中に植物油脂を分散させた液体を用いた。
【0060】
本実施例では、反射率の測定により、直線移動機構121により調整可能な測定プローブ141の位置について、好適な位置に調整する方法について説明する。
【0061】
各工程の実施順序は、図6に示すとおりであり、具体的には以下に記載のとおりとなる。
【0062】
最初の工程(a)601では、分光装置100の測定条件を次の通り設定する。
【0063】
波長掃引範囲を1700nmから1200nm、波長掃引速度を1200nm/分の条件で5nm間隔で反射率を測定するように測定する。
【0064】
波長1460nm付近で懸濁液体中の水分による光吸収帯が観測されることと、その波長帯から外れて水分による光吸収の影響がない領域も含めて測定するために、上記の波長掃引範囲を選択した。
【0065】
懸濁液体中の水分以外の成分を定量する場合には、別の波長範囲を選択しても良い。例えば、植物油脂の成分を定量する場合は、波長1200nm付近の光吸収帯が測定できるように波長範囲を選択しても良い。
【0066】
次の工程(b)602では、光学系状態すなわち測定プローブ141の位置を直線移動機構121を用いて移動させる。移動位置Xを+3.5mmとする。
【0067】
次の工程(c)603では、工程(a)601で設定した条件で分光装置100の測定を実施し、波長1700nmから1200nmまでの反射率をスペクトルとして測定する。
【0068】
図2の下方に、移動位置Xが+3.5mmでの測定された反射率スペクトルを示す。
【0069】
スペクトル形状は、1460nm付近で配管内を流れる懸濁液体中の水分による吸収に起因して反射率が低下する特徴を有している。
【0070】
次の工程(d)604では、工程(c)603で得られたスペクトルのうち、波長1280nmにおける反射率を評価値の一部として得る。
【0071】
ここで、波長1280nmを選択した理由は、配管内の懸濁液体中の水分による吸収が生じる1460nm付近の波長を選択した場合、配管内の懸濁液体中の水分量の変化による影響を受けないようにするためである。ここでは、1280nmを選択したが、水分による吸収の影響を受けない波長であれば別の波長でも良い。例えば、1650nmを選択しても良い。
【0072】
次に、工程(a)601から工程(c)603を繰り返す。この時、工程(a)601の測定条件を上記の通り設定し、工程(b)602の移動位置Xは、繰り返しごとに0.5mmずつ負方向に移動させる。移動位置が-3.5mmになるまで工程(a)601から工程(c)603を繰り返し、移動位置Xとそれに対応する反射率の組を評価値として得る。
【0073】
図2に、移動位置Xが1.0mm、0mmの場合に測定された反射スペクトルを示す。
【0074】
移動位置Xにより、反射スペクトルが変化する様子が分かる。図2に示したスペクトルにおける評価値すなわち移動位置Xと波長1280nmにおける反射率の組は、(3.5mm,1.09%)、(1.0mm,3.82%)、(0mm,5.77%)となる。
【0075】
次に、工程(e)605では、工程(a)601から工程(c)603を繰り返して得られた評価値から好適値を算出する。図3に、移動位置Xに対する波長1280nmにおける反射率を示す。移動位置Xの変化範囲(-3.5から+3.5mmまで)において、Xが0mmの場合に反射率が極大となっており、この位置が好適値となる。
【0076】
次の工程(f)606では、光学系状態すなわち測定プローブ141の位置を工程(e)605で得られた好適値(X=0mm)に設定する。
【0077】
ここまでの一連の工程により、光学系の状態すなわち測定プローブ141のX方向の位置を好適な状態に調整することができる。
【0078】
上記実施例2では、工程(c)603で測定する測定値は測定光と参照光について測定された光エネルギの比率である反射率を用いているが、相対反射率、すなわち、懸濁液体について測定した測定光の光エネルギを、あらかじめ標準サンプルを用いて測定しておいた測定光の光エネルギで除した値、を用いても良い。
【0079】
上記の光エネルギは、一般に光強度とも呼ばれる。また、測定値として別の値、例えば、光量に応じた値である光子数や、検出器からの出力値例えば電圧値、電流値などでも良い。また、それらの値について、あらかじめ測定された基準となる測定値を用いて算出される値でも良い。
【0080】
また、上記実施例2では、分光装置100として分光光度計を用いた場合について説明しているが、これに限定されるものではなく、例えば、蛍光分光光度計を用いても良い。
【0081】
この場合は、測定値として例えば、励起光の光エネルギを用いることができる。また、ラマン分光装置を用いても良く、その場合も、励起光の光エネルギを測定値として用いることができる。
【実施例0082】
以下、本発明の光学系調整方法の別の一例について説明する。
【0083】
本実施例では、回転移動機構122により調整可能な測定プローブ141の位置を好適な位置に調整する方法について説明する。
【0084】
本調整方法で用いる分光測定装置は、前述の実施例2で述べた分光測定装置、配管、懸濁液体と同一のものであり、測定プローブ141のX方向の位置は、前述の実施例2の方法で好適な状態(X=0mm)に調整されているものとする。
【0085】
各工程の実施順序は、図6に示すとおりであり、具体的には以下に記載のとおりとなる。
【0086】
最初の工程(a)601では、分光装置100の測定条件を次の通り設定する。
【0087】
波長掃引範囲を1700nmから1200nm、波長掃引速度を1200nm/分の条件で5nm間隔で吸光度を測定するように測定する。
【0088】
上記の波長掃引範囲を選択した理由は、実施例2に記載した理由と同じである。
【0089】
次の工程(b)602では、光学系状態すなわち測定プローブ141の位置を回転移動機構122を用いて移動させる。移動位置θを0°とする。
【0090】
次の工程(c)603では、工程(a)601で設定した条件で分光装置100の測定を実施し、波長1700nmから1200nmまでの吸光度をスペクトルとして測定する。
【0091】
図4に、移動位置θが0°、4°、10°で測定された吸光度スペクトルの一例を示す。
【0092】
移動位置θにより、吸光度スペクトルが変化する様子が分かる。1460nm付近に見られるピークは、懸濁液体162中の水分による光吸収帯を示す。
【0093】
次の工程(d)604では、工程(c)603で得られたスペクトルのうち、波長1280nm付近における吸光度のばらつきをノイズ成分、1460nmにおける吸光度と1280nmにおける吸光度の差分すなわち、懸濁液体162中の水分による光吸収の実効値をシグナル成分として、(シグナル成分)÷(ノイズ成分)の計算式により得られる吸光度のS/N比を評価値の一部として得る。
【0094】
ただし、吸光度のばらつきは、吸光度の注目波長(1280nm)のデータを含む、前後5点の計11点の吸光度データについての最大値と最小値の差分で計算する。
吸光度のばらつきを波長1280nmで算出している理由は、スペクトル形状が平坦な波長領域であるためである。スペクトル形状が傾斜していたり、ピークトップの形状の部分では、最大値、最小値に、その影響が出る。
【0095】
次に、工程(a)601から工程(c)603を繰り返す。この時、工程(a)601の測定条件を上記の通り設定し、工程(b)602の移動位置θは、繰り返しごとに2°ずつ正方向に移動させる。移動位置が18°になるまで工程(a)601から工程(c)603を繰り返し、移動位置θとそれに対応するS/N比の組を評価値として得る。
【0096】
図4に示したスペクトルにおける評価値すなわち移動位置θと上記の方法で算出したS/N比の組は、(0°,10.2)、(4°,13.9)、(10°,24.2)となる。
【0097】
次に、工程(e)605では、上記の工程で得られた、評価値すなわち移動位置θとそれに対応する吸光度のS/N比の組から好適値を算出する。図5に、移動位置θに対する吸光度のS/N比を示す。θが10°においてS/N比は極大となっており、この位置が好適値となる。
【0098】
次の工程(f)606では、光学系状態すなわち測定プローブ141の位置を工程(e)605で得られた好適値(θ=10mm)に設定する。
【0099】
ここまでの一連の工程により、光学系の状態すなわち測定プローブ141の位置を好適な状態に調整することができる。
【0100】
本実施例に記載の調整により、光学系をより好適な状態に調整することができる。
【0101】
この理由は、実施例2の光学系調整を行うことで、実施例3で調整する回転移動機構122による測定プローブの回転面を、配管160の中心軸を含む平面内に一致させることができるためである。
【0102】
回転移動機構122による測定プローブ141の回転面が配管160の中心軸からずれている場合、測定光からの照射光が窓材161を通過する距離および懸濁液体162から測定プローブ141に向かう反射光が窓材161を通過する距離が長くなってしまい、窓材161による光吸収の影響を強く受けてしまう。
【0103】
回転移動機構122による測定プローブ141の回転面が、配管160の中心軸を含む平面内に一致することにより、窓材161による光吸収の影響を最小限にすることができる。
【0104】
懸濁液体162を成分濃度が既知の懸濁液体として、その吸光度の測定することにより、検量線を作成すると、懸濁液体162の成分濃度が未知場合にその成分を定量可能になる。
本実施例に記載の調整を実施すると、吸光度の測定精度が向上するため、検量線の精度が向上する。
【0105】
このことを図を用いて説明する。図8Aの白丸点は、吸光度の測定精度が低い場合に、複数の既知の成分を持つサンプルの吸光度を測定した結果(S/N比=9)を示しており、点線は、測定点に基づく検量線(決定係数=0.835)を示す。
【0106】
図8Bの黒丸点と実線は、本発明の方法などにより、吸光度の測定精度を向上させた場合の、既知成分を持つサンプルの吸光度(S/N比=25)と検量線(決定係数=0.996)を示す。
【0107】
光学系の状態を好適な状態に調整し、吸光度の測定精度が向上することにより検量線の決定係数が向上し、検量精度が向上することが分かる。
【0108】
本実施例では、実施例2の方法でX方向を好適な位置に調整した後、θ方向を好適な位置に調整しているが、分光測定装置において、測定プローブのX方向の位置調整機構を有さず、θ方向の回転面が、概略配管の中心軸に一致している場合でも適用可能である。
【0109】
また、この場合、窓材161の形状は円筒形である必要はなく、例えば、板状の形状でも良い。
【実施例0110】
以下、本発明の光学系調整方法の別の一例について説明する。
【0111】
本実施例では、回転移動機構122により調整可能な測定プローブ141の位置を好適な位置に調整する方法について、実施例3とは別の方法を説明する。
【0112】
本調整方法で用いる分光測定装置は、前述の実施例2で述べた分光測定装置、配管、懸濁液体と同一のものであり、測定プローブ141のX方向の位置は、前述の実施例2の方法で好適な状態(X=0mm)に調整されているものとする。
【0113】
各工程の実施順序は、図7に示すとおりであり、具体的には以下に記載のとおりとなる。
【0114】
最初の工程(a)701では、分光装置100の測定条件を次の通り設定する。
【0115】
波長1280nmおよび1460nmにおいて吸光度を0.5秒間隔で5秒間測定するように測定する。すなわち、それぞれの波長において、吸光度を10点ずつ測定する。
【0116】
次の工程(b)702では、光学系状態すなわち測定プローブ141の位置を回転移動機構122を用いて移動させる。移動位置θを0°とする。
【0117】
次の工程(c)703では、分光装置100で測定し、波長1280nmでの吸光度の複数のデータおよび波長1460nmでの吸光度の複数のデータを測定する。ここで、複数のデータの数は、上記の通り10点である。
【0118】
次の工程(d)704では、工程(c)703で得られた複数のデータを用いて、波長1280nm付近における吸光度のばらつき(10点のデータについての最大値と最小値の差分)をノイズ成分、1460nmにおける吸光度の平均値と1280nmにおける吸光度平均値の差分をシグナル成分として、(シグナル成分)÷(ノイズ成分)の計算式により得られる吸光度のS/N比を評価値の一部して得る。
【0119】
次に、工程(e)705では、上記の工程で得られた、評価値が、事前に取得した評価値と同じかそれ以上である場合に、その時点での移動位置θを好適値として算出する。
【0120】
工程(e)705において好適値が算出できなかった場合には、工程(a)701から工程(e)705を繰り返す。この時、工程(a)701の測定条件を上記の通り設定し、工程(b)702の移動位置θは、繰り返しごとに2°ずつ正方向に移動させる。移動位置が14°になるまで工程(a)701から工程(e)705を繰り返す。
【0121】
ここまでの一連の工程により、工程(a)701から工程(e)705の繰り返しで測定するデータ数が実施例3の場合に比べ少なくできるため、調整にかかる時間を短縮できる。
【0122】
例えば、プローブ治具120を配管160から取り外して再度取り付けなおした場合に、光学系の状態すなわち測定プローブ141の位置を好適な状態へ迅速に調整することができる。
【0123】
本発明は上記の実施例に限定されるものではなく、様々な変形例が含まれる。例えば、上記した実施例は本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されるものではない。また、ある実施例の構成の一部を他の実施例の構成に置き換えることが可能であり、また、ある実施例の構成に他の実施例の構成を加えることも可能である。また、各実施例の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0124】
100 分光装置
102 光源
103 分光器
104 光検出器
120 プローブ治具
121 直線移動機構
122 回転移動機構
123 配管への固定部
141 測定用プローブ
142 照射用光ファイバ
143 受光用光ファイバ
160 配管
161 窓材
162 懸濁液体
163 配管の軸方向
164 フランジ
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B