(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】公開特許公報(A)
(11)【公開番号】P2024173205
(43)【公開日】2024-12-12
(54)【発明の名称】電池状態の診断方法、電池診断装置、および、電池診断システム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/392 20190101AFI20241205BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20241205BHJP
H01M 10/42 20060101ALI20241205BHJP
G01R 31/367 20190101ALI20241205BHJP
G01R 31/382 20190101ALI20241205BHJP
G01R 31/385 20190101ALI20241205BHJP
G01R 31/389 20190101ALI20241205BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20241205BHJP
H02J 7/10 20060101ALI20241205BHJP
H02J 7/04 20060101ALI20241205BHJP
【FI】
G01R31/392
H01M10/48 P
H01M10/48 301
H01M10/42 P
G01R31/367
G01R31/382
G01R31/385
G01R31/389
H02J7/00 Q
H02J7/10 L
H02J7/04 L
H02J7/10 C
H02J7/00 X
【審査請求】未請求
【請求項の数】9
【出願形態】OL
(21)【出願番号】P 2023091458
(22)【出願日】2023-06-02
(71)【出願人】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】小西 宏明
(72)【発明者】
【氏名】井上 健士
(72)【発明者】
【氏名】上田 克
(72)【発明者】
【氏名】堀越 伸也
(72)【発明者】
【氏名】米元 雅浩
(72)【発明者】
【氏名】望月 誠仁
(72)【発明者】
【氏名】澄川 陽介
【テーマコード(参考)】
2G216
5G503
5H030
【Fターム(参考)】
2G216AB01
2G216BA01
2G216BA21
2G216BA41
2G216BA51
5G503BB02
5G503CA01
5G503CA08
5G503CA11
5G503CB11
5G503EA05
5G503EA09
5G503FA06
5G503GD03
5G503GD06
5H030AA01
5H030AS20
5H030FF22
5H030FF42
5H030FF43
5H030FF44
(57)【要約】
【課題】 正極にLiFePO
4系の活物質を用いた電池系のように、充電状態の変化に伴う電圧変化の乏しい電池系を診断対象とする場合に、電池容量の劣化診断を高精度に行うことができる、電池状態の診断方法、および、電池状態の診断装置を提供する。
【解決手段】 機器に搭載した二次電池の劣化状態を診断する電池状態の診断方法であって、運用中の前記機器から前記二次電池の電圧データ、電流データ、温度データを取得するデータ取得ステップと、取得したデータに基づいて前記二次電池の容量劣化率と抵抗劣化率のテーブルを作成するテーブル作成ステップと、作成したテーブルを用いて、前記二次電池の劣化状態を診断する診断ステップと、を有する電池状態の診断方法。
【選択図】
図1
【特許請求の範囲】
【請求項1】
機器に搭載した二次電池の劣化状態を診断する電池状態の診断方法であって、
運用中の前記機器から前記二次電池の電圧データ、電流データ、温度データを取得するデータ取得ステップと、
取得したデータに基づいて前記二次電池の容量劣化率と抵抗劣化率のテーブルを作成するテーブル作成ステップと、
作成したテーブルを用いて、前記二次電池の劣化状態を診断する診断ステップと、
を有することを特徴とする電池状態の診断方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電池状態の診断方法において、
前記テーブル作成ステップでは、さらに、
前記二次電池の充電率と開回路電圧のテーブルと、
前記二次電池の充電率と充電抵抗のテーブルと、
前記二次電池の温度と抵抗の温度換算係数のテーブルと、
を作成することを特徴とする電池状態の診断方法。
【請求項3】
請求項1に記載の電池状態の診断方法において、
前記テーブル作成ステップでは、充電開始時の充電率が特定の閾値以下であった前記二次電池のデータのみを用いて前記テーブルを作成することを特徴とする電池状態の診断方法。
【請求項4】
請求項3に記載の電池状態の診断方法において、
特定の閾値として、充電率が0から40%の間において、充電率に対する開回路電圧の変化が最も小さくなる充電率を設定することを特徴とする電池状態の診断方法。
【請求項5】
請求項1に記載の電池状態の診断方法において、
前記テーブル作成ステップでは、充電終了時の充電率が特定の閾値以上であった前記二次電池のデータのみを用いて前記テーブルを作成することを特徴とする電池状態の診断方法。
【請求項6】
請求項5に記載の電池状態の診断方法において、
特定の閾値として、充電率が90%以上であることを特徴とする電池状態の診断方法。
【請求項7】
請求項5に記載の電池状態の診断方法において、
特定の閾値として、充電電圧が3.5V以上であることを特徴とする電池状態の診断方法。
【請求項8】
機器に搭載した二次電池の劣化状態を診断する電池診断装置であって、
運用中の前記機器から前記二次電池の電圧データ、電流データ、温度データを取得する受信部と、
取得したデータに基づいて前記二次電池の容量劣化率と抵抗劣化率のテーブルを作成する演算部と、
作成したテーブルを用いて、前記二次電池の劣化状態を診断する診断部と、
を有することを特徴とする電池診断装置。
【請求項9】
請求項8の電池診断装置と、
前記電池診断装置で診断した前記二次電池の劣化状態を顧客へ通知する通知装置と、
を有することを特徴とする電池診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、蓄電池の容量劣化を推定する方法、電池状態の診断方法、電池診断装置、および、電池診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
蓄電池の一種であるリチウム二次電池は、電気自動車から携帯機器まで大小様々な機器の電源として利用される。リチウム二次電池を繰り返し利用すると、電池から取り出せるエネルギーが徐々に低下するため、電池の容量劣化の診断技術が求められている。特に、電気自動車においては、駆動モータの電源である電池パックのエネルギー容量が航続距離と密接にかかわるため、電池パックの容量劣化を正確に把握する技術が求められている。
【0003】
蓄電池の容量劣化を推定する技術として、特許文献1が知られている。例えば、同文献の要約には、「複数のセルが直列に接続された構成を有する電池パックの電流及び温度並びにそれぞれのセルの電圧を含む検出データを得るシステムを用いて電池パックを診断する方法であって、電流及び温度並びにそれぞれのセルの電圧、OCVのSOC関数及び抵抗テーブルを用いて、それぞれのセルの電荷容量及びSOCを算出し、電池パックを満充電にした場合におけるそれぞれのセルのSOCの推定値であるアンバランス量及び抵抗を算出する工程と、電荷容量、アンバランス量及び抵抗を用いて、電池パックのエネルギー容量を算出する工程と、を含む。これにより、アンバランス状態であっても、正確に電池パックのエネルギー容量を算出することができる。」と記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
これまでのリチウム二次電池は、正極にLi(Ni,Mn,Co)O2系の活物質を用い、負極に黒鉛系の活物質を用いる電池系が主流であった。この電池系は、充電状態の変化に伴い電圧が大きく変化するため、その性質を電池劣化診断に利用した特許文献1の診断技術が有効であった。
【0006】
一方、近年シェアを増やしている、正極にLiFePO4系の活物質を用いた電池系では、前述の電池系と異なり、充電状態の変化に伴う電圧の変化が小さいため、特許文献1の技術を使用して電池劣化を診断することができなかった。
【0007】
そこで、本発明では、正極にLiFePO4系の活物質を用いた電池系のように、充電状態の変化に伴う電圧変化の乏しい電池系を診断対象とする場合に、電池容量の劣化診断を高精度に行うことができる、電池状態の診断方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
機器に搭載した二次電池の劣化状態を診断する電池状態の診断方法であって、運用中の前記機器から前記二次電池の電圧データ、電流データ、温度データを取得するデータ取得ステップと、取得したデータに基づいて前記二次電池の容量劣化率と抵抗劣化率のテーブルを作成するテーブル作成ステップと、作成したテーブルを用いて、前記二次電池の劣化状態を診断する診断ステップと、を有する電池状態の診断方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、充電状態の変化に伴う電圧変化の乏しい電池系を診断対象とする場合も、電池容量の劣化診断を高精度に実施することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】一実施例の電池診断システムを示す概略構成図。
【
図3A】二次電池の充電状態と開回路電圧からなるテーブルの一例。
【
図3B】二次電池の充電状態と抵抗からなるテーブルの一例。
【
図3C】二次電池の温度と抵抗の温度換算係数からなるテーブルの一例。
【
図3D】二次電池の容量劣化率と抵抗劣化率からなるテーブルの一例。
【
図4】
図3Aのテーブルを作成するフローチャート。
【
図6】
図3Dのテーブルを作成するフローチャート。
【
図7】各テーブルを用いて二次電池の劣化状態を診断するフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下では、電気自動車EVに搭載した電池パックのデータをサーバーに送信し、サーバーにて電池パックのエネルギー容量を診断する状況を例に、本発明の電池状態の診断方法について説明する。なお、本発明は、以下の実施例の形態に限定されることなく、本発明の技術的な概念の中で種々の変形例や応用例をもその範囲に含むものである。例えば、HEMS(Home energy management systems)用電池、BEMS(Building energy management systems)用電池、FEMS(Factory energy management systems)用電池、鉄道用電池、または、建設機械用電池などの各種電池の劣化状態の診断にも、本発明の電池状態の診断方法を適用することができる。
【0012】
図1は、本発明の一実施例に係る電池診断システム100を示す概略構成図である。この電池診断システム100は、携帯電話通信網等の公衆無線通信網を介して、運用中の電気自動車EVと通信可能に接続された電池診断装置1と、電池診断装置1による診断結果を顧客に通知する液晶ディスプレイ等の通知装置2を有するシステムである。なお、
図1では、充電中の電気自動車EV1からのデータD1と、停車中の電気自動車EV2からのデータD2と、走行中の電気自動車EV3からのデータD3が、電池診断装置1に送信される状況を例示しているが、他の運用中の電気自動車EVからのデータDも電池診断装置1に送信されても良い。なお、各電気自動車には、セルの正極にLiFePO
4系の活物質を用いた電池パックが搭載されているものとする。
【0013】
図1に示すように、本実施例の電池診断装置1は、電気自動車EVから車両や電池に関するデータDを受信する受信部11と、データDに基づいて電池劣化診断に必要なパラメータ群を作成するパラメータ演算部12と、作成したパラメータ群をテーブル形式で記憶する記憶部13と、データDと各テーブルを用いて電池劣化状態を診断する診断部14より構成される。なお、電池診断装置1は、CPU等の演算装置、半導体メモリ等の主記憶装置、ハードディスク等の補助記憶装置、および、通信装置などのハードウェアを備えた、いわゆるサーバーであり、演算装置が所定のプログラムを実行することで、上記したパラメータ演算部12等を実現するが、以下では、このような周知技術を適宜省略しながら各部の詳細を説明する。
【0014】
<受信部11の詳細>
図2は、受信部11が受信したデータDの一例として、充電中の電気自動車EV1から受信したデータD1を例示したものである。なお、ここではNo.1~119の各行データについて3列分のデータ値が登録されたデータD1を例示しているが、データDの行数や列数はこの例に限定されない。以下、データDの各行のデータ値の詳細を順次説明する。
【0015】
No.1のデータ値は、データDを送信した電気自動車EVの識別IDを示す。
【0016】
No.2のデータ値は、電気自動車EVが、電池パックの電流、電圧、温度を計測した時刻を示す。従って、
図2の各データ列は、2023年1月1日の12時10分20秒、12時10分25秒、12時10分30秒の各時刻に計測されたデータのデータ列である。
【0017】
No.3のデータ値は、電気自動車EVの状態を示すフラグである。このフラグは、例えば、「充電中」、「停車中」、「走行中」などであり、電気自動車EV1からのデータD1の直近のデータ列には「充電中」のフラグが登録されている。また、電気自動車EV2からのデータD2の直近のデータ列には「停車中」のフラグが登録されており、電気自動車EV3からのデータD3の直近のデータ列には「走行中」のフラグが登録されている。
【0018】
No.4のデータ値は、No.2の各時刻に計測された、電池パックの入出力の電流値であり、充電を「+」、放電を「-」で示している。従って、
図2のデータD1は、電気自動車EVの電池パックが10Aで充電されていることを示している。
【0019】
No.5のデータ値は、電気自動車EVの電池パックの充電率SOC(state of charge)を示す。従って、
図2のデータD1は、時間経過に伴いSOCが30%から逓増している様子を示している。
【0020】
No.6のデータ値は、電気自動車EV1の電池パック内のセルの直列数Nであり、本例では100である。
【0021】
No.7のデータ値は、電気自動車EV1の電池パック内の温度センサの数Mであり、本例では10である。
【0022】
No.8のデータ値は、セルの初期Ah容量×並列数Lで計算される、電池パックの初期Ah容量の値を示し、本例では40Ahである。
【0023】
No.9のデータ値は、セルの初期エネルギー容量×直列数N×並列数Lで計算される、電気自動車EV1の電池パック初期エネルギー容量の値を示し、本例では30Whである。
【0024】
No.10~109のデータ値は、電池パックの第1電池から第100電池の電圧を示す。なお、各電池は、並列数Lのセルで構成された電池である。
【0025】
No.110~119のデータ値は、第1温度センサから第10温度センサの検出温度を示す。
【0026】
なお、データDは、電池パックの仕様に関するデータ行(No.6~9)を持たないデータであっても良い。その場合は、電池パックの仕様を電池診断装置1の記憶部13に予め登録しておけば良い。
【0027】
<パラメータ演算部12の詳細>
次に、
図3A~
図3Dと
図4~
図6を用いて、パラメータ演算部12による各種パラメータの演算方法と、電池の劣化状態診断に必要な4つのテーブルT1~T4の作成方法について説明する。
【0028】
<<第1テーブルT1>>
図3Aは、電池パックの充電率SOCと開回路電圧OCV(open circuit voltage)のパラメータ群からなる第1テーブルT1の一例である。また、
図4は、
図3Aに示した第1テーブルT1を作成するフローチャートの一例である。以下、
図4の各工程を順次説明する。
【0029】
工程S41:パラメータ演算部12は、受信部11が受信したデータD(
図2参照)を読み込む。
【0030】
工程S42:パラメータ演算部12は、読み込んだデータDから、No.3(車両状態フラグ)が「停車中」であるデータ列の、No.5(SOC)のデータと、No.10~109(第1電池から第100電池の電圧)のデータを抽出する。従って、車両状態フラグが「停車中」であるデータ列が複数あれば、各々のSOCについて、第1電池から第100電池の電圧のデータを抽出することができる。
【0031】
工程S43:パラメータ演算部12は、工程S42で抽出した電圧データから、外れ値と判定される電圧データを取り除く。外れ値の判定には、スミルノフグラブス検定(竹内啓ほか「統計学辞典」,東洋経済新報社)又はディクソンの検定法(G.K.カンジ「逆引き統計学」,講談社2015年8月20日第3刷)などを用いることができる。
【0032】
工程S44:パラメータ演算部12は、各SOCにおける電圧を平均化して、平均化したものを各SOCにおけるOCVとする。なお、工程S42でデータが得られなかったSOC範囲については、スプライン又は区分線形で補間し、SOCとOCVのパラメータ群を作成する。そして、このパラメータ群OCVmap(SOC)を第1テーブルT1として記憶部13に記憶する。
【0033】
なお、本テーブルの作成時に利用するSOCや電圧のデータは、必ずしも1台の電気自動車EVのデータDから抽出したデータである必要は無く、同仕様の電池パックを搭載した他電気自動車から受信したデータDを併用して本テーブルを作成しても良い。
【0034】
<<第2テーブルT2、第3テーブルT3>>
図3Bは、電池パックの充電に用いる各Cレートにおける充電率SOCと充電抵抗Rのパラメータ群からなる第2テーブルT2の一例であり、
図3Cは、電池パックの各温度における抵抗の温度換算係数K
Tのパラメータ群からなる第3テーブルT3の一例である。また、
図5は、
図3Bに示した第2テーブルT2と
図3Cに示した第3テーブルT3を作成するフローチャートの一例である。以下、
図5の各工程を順次説明する。
【0035】
工程S51:パラメータ演算部12は、受信部11が受信したデータD(
図2参照)を読み込む。
【0036】
工程S52:パラメータ演算部12は、読み込んだデータDから、No.3(車両状態フラグ)が「充電中」であるデータ列の、No.4(パック電流)のデータと、No.10~109(第1電池から第100電池の電圧)のデータと、No.110~119(第1温度センサから第10温度センサの計測温度)のデータを抽出する。
【0037】
工程S53:パラメータ演算部12は、工程S52で抽出した各データから、外れ値と判定されるデータを取り除く。外れ値の判定は工程S43に示すような方法を用いる。
【0038】
工程S54:パラメータ演算部12は、各SOCにおける、充電抵抗Rを下記の式より計算する。
【0039】
充電抵抗R=(電圧V-OCV(各SOC))÷充電電流I
工程S55:パラメータ演算部12は、各SOCの充電抵抗R、電流I、温度Tのデータより、下記の式を用いて、各電流における25℃換算した抵抗、および温度換算係数KTを計算する。ここで、温度換算係数KTとは、基準温度(25℃)の抵抗に対する、電池温度(T)における抵抗の割合を示すものである。(25℃では1となる。)
各電流(Cレート(CA))としては、0.1CA相当、0.3CA相当、0.5CA相当、1.0CA相当などが挙げられる。ここでCレート(CA)とは、電流値Iを電池パックの初期Ah容量Qratedで除算した値である。
【0040】
下記の式より得られた各電流(CA)におけるSOCと充電抵抗Rのパラメータ群Rcharge,map(SOC,Crate)を作成し、これを第2テーブルT2として記憶部13に記憶する。また、温度と抵抗の温度換算係数KTのパラメータ群KT,map(T)を作成し、これを第3テーブルT3として記憶部13に記憶する。なお、C、I0はそれぞれ任意の定数である。
【0041】
充電抵抗R=C×exp[K
T/(T+273.15)-K
T/(25+273.15)]×asinh(I/2I
0)/I
<<第4テーブルT4>>
図3Dは、電池パックの容量劣化率SOHQ(state of health capacity)と抵抗劣化率SOHR(state of health resistance)のパラメータ群からなる第4テーブルT4の一例である。また、
図6は、
図3Dに示した第4テーブルT4を作成するフローチャートの一例である。以下、
図6の各工程を順次説明する。
【0042】
工程S61:パラメータ演算部12は、受信部11が受信したデータD(
図2参照)を読み込む。
【0043】
工程S62:パラメータ演算部12は、読み込んだデータDから、No.3(車両状態フラグ)が「充電中」であるデータ列の、No.4(パック電流)のデータと、No.10~109(第1電池から第100電池の電圧)のデータと、No.110~119(第1温度センサから第10温度センサの計測温度)データを抽出する。
【0044】
なお、本工程では、全ての充電データを抽出しても良いが、より好ましくは使用する充電データにおける開始SOCおよび終了SOCにそれぞれ閾値を設定し、特定の充電データのみを使用する。開始SOCの閾値としては、充電率が0から40%の間において、充電率による開回路電圧の変化が大きい低充電率の領域を含むことが好ましいため、その条件として充電率に対する開回路電圧の変化が最も小さくなる充電率を設定し、それ以下のデータを使用することとする。
【0045】
また終了SOCとしては、充電率に対する開回路電圧の関係において、変化が大きくみられる領域を含むことが好ましい。本領域としては充電率が90%以上、または電圧3.5V以上の領域である。
【0046】
ここで示した充電率は、充電データの開始電圧と終了電圧を、
図3Aと比較して用いて求める。
【0047】
工程S63:パラメータ演算部12は、工程S62で抽出した各データから、外れ値と判定されるデータを取り除く。外れ値の判定はS43に示すような方法を用いる。
【0048】
工程S64:パラメータ演算部12は、抽出したデータより下記の式を用いて、各充電データ取得時の容量劣化率SOHQを計算する。
【0049】
SOHQ=[∫Idt÷(充電終了SOC-充電開始SOC)×100]÷セルの初期Ah容量×100
工程S65:パラメータ演算部12は、SOHQとSOHRのパラメータ群を作成する。具体的には、複数の充電に対し、工程S54で計算した充電抵抗RとSOHQの近似曲線を引き、近似式よりSOHQ=100の時点の充電抵抗Rを計算する。近似式の形状は直線、べき乗などが挙げられる。
【0050】
例えば、SOHR=S54で計算した充電抵抗÷SOHQ100の時点の充電抵抗
の式よりSOHRを計算する。
【0051】
上記の手順により、SOHQとSOHRの近似曲線を引き、SOHQとSOHRのパラメータ群SOHQmap(SOHR)を作成し、これを第4テーブルT4として記憶部13に記憶する。
【0052】
<診断部14の詳細>
次に、
図7のフローチャートを用いて、診断部14にて、記憶部13に記憶した各テーブルと、受信部11で受信したデータDを用いて、電池の劣化診断をする工程を説明する。
【0053】
工程S71:診断部14は、受信部11が受信したデータD(
図2参照)を読み込む。
【0054】
工程S72:診断部14は、読み込んだデータDから、No.3(車両状態フラグ)が「充電中」であるデータ列の、No.4(パック電流)のデータと、No.10~109(第1電池から第100電池の電圧)のデータと、No.110~119(第1温度センサから第10温度センサの計測温度)データを抽出する。
【0055】
工程S73:診断部14は、工程S72で抽出した各データから、外れ値と判定されるデータを取り除く。外れ値の判定はS43に示すような方法を用いる。
【0056】
工程S74:診断部14は、記憶部13に記憶されたテーブルT1~T4を読み出す。
【0057】
工程S75:診断部14は、工程S74で読み出した各テーブルに基づいて、SOHQを求める。具体的には、診断部14は、下記の式1~4の連立方程式を解き、SOHQを演算する。
【0058】
【0059】
【0060】
【0061】
【0062】
式1は、充電開始時の電流、電圧、温度、第1テーブルT1=OCVmap(SOC)、第2テーブルT2=Rcharge,map(SOC,Crate)、第3テーブルT3=KT,map(T)を用いて、充電開始時のSOHRを求める数式である。
【0063】
なお、式1において、右辺の分子は実際の抵抗値、右辺の分母は未劣化電池における基準抵抗値をそれぞれ計算している。また、CCVstartは、充電開始時の閉回路電圧CCV(Closed Circuit Voltage)を示す。OCVmap(SOCstart)は、充電開始時のSOCにおけるOCV(OCVmap(SOC)パラメータ群参照)である。Istartは、充電開始時の電流である。但し、充電開始時充電率SOCstartは、充電開始時には未知の値である。充電開始時充電レートCrate,startは充電開始時の充電レートである。Qratedは電池のSOHQ=100%の基準となる容量(初期Ah容量など)である。基準抵抗値Rcharge,map(SOC,Crate,start)は、電池の未劣化時の基準温度における充電抵抗Rであり、充電開始時充電レートCrate,startに対応する値である。充電開始温度Tstartは充電開始時における電池温度Tである。温度換算係数KT,map(Tstart)は前述した温度と温度換算係数KTのパラメータ群を用いて求まる温度換算係数である。
【0064】
式2は、充電終了時の電流、電圧、温度、第1テーブルT1=OCVmap(SOC)、第2テーブルT2=Rcharge,map(SOC,Crate)、第3テーブルT3=KT,map(T)を用いて、充電終了時のSOHRを求める数式である。
【0065】
なお、式2において、右辺の分子は充電終了時の実際の抵抗値、右辺の分母は充電終了時の未劣化電池における基準抵抗値をそれぞれ計算している。CCVend、SOCend、Crate,endおよびTendは、それぞれ、充電終了時の閉回路電圧、充電率、充電レートおよび電池温度である。この中でSOCendが未知変数になる。
【0066】
式3は、充電開始時のSOCstartやSOHQを用いて充電終了時充電率SOCendを求める数式である。
【0067】
なお、式3の右辺第2項において、tstartは充電開始時の時刻、tendは充電終了時の時刻であり、両者間の電流の積分結果を充電電気量と呼ぶ。
【0068】
式4は、SOHRと、第4テーブルT4=SOHQmap(SOHR)パラメータ群を用いてSOHQを求める数式である。第4のテーブルは、常時計算可能な抵抗と容量の関係をテーブル化して、状態診断に用いることで、車両データからSOHQを頻繁に計算できない電池系においても、電池の状態診断を可能とするものである。
【0069】
式1から式4の中にある4つの未知数(SOCstart、SOCend、SOHR、SOHQ)を求めるために、式1から式4の連立方程式を数値的に解く。これにより求めた容量劣化率SOHQを電池劣化状態を示す情報として出力する。電池診断装置1が出力したSOHQは、個々の電気自動車EVが備える通知装置2や、複数の電気自動車EVを管理する管理センターに設置された通知装置2等を介して顧客に通知されるため、蓄電池の劣化状態を逐次把握することができる。
【0070】
<本実施例の効果>
以上で説明した本実施例によれば、正極にLiFePO4系の活物質を用いた電池系のように充電状態の変化に伴う電圧変化の乏しい電池系を診断対象とする場合も、電池容量の劣化診断を高精度に実施することが可能となる。
【0071】
また、本実施例によれば、電池劣化の診断に必要な各種テーブルを、運用中の電気自動車から取得したデータに基づいて自動的に作成でき、各種テーブルを作成するためだけのデータ取集作業を要しないため、電池劣化診断作業を簡素化することができる。
【符号の説明】
【0072】
EV:電気自動車
100:電池診断システム
1:電池診断装置
11:受信部
12:パラメータ演算部
13:記憶部
14:診断部
2:通知装置
SOC:充電率
OCV:開回路電圧
CCV:閉回路電圧
R:充電抵抗
KT:抵抗の温度換算係数
SOHQ:容量劣化率
SOHR:抵抗劣化率